本部

【白刃】従魔と暴走カーチェイス

中臣 悠月

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/11/13 21:45

掲示板

オープニング

●白き刃へ抗う為に
「総員、準備はよろしいですか?」
 映像で、音声で、出撃し往くエージェント達にオペレーター綾羽璃歌が声をかける。
「H.O.P.E.東京海上支部としては初の大規模作戦。それに伴い、今回皆様には別働隊として動いて頂きます」

 展開されたドロップゾーン。
 そこから溢れ出す従魔、呼び寄せられる愚神。
 別働隊はそれらを叩き、これ以上のゾーン拡大を防がねばならない。

「大規模作戦の成功……アンゼルム撃破の為にも、皆様の任務遂行が必須となります。
 ――どうか皆様、御武運を!」

●峠にまつわる怪しい噂
 H.O.P.E.の車輌を先頭に、エージェントたちがそれぞれ運転する車やバイクは、一路現場へと向かった。
 生駒山方面へと向かう山道を走っていた車輌たちは、峠の中腹、トンネルの前で停まった。生駒山までまだ距離があるとはいえ、この先には大量のドロップゾーンが作られている可能性がある。そのため、この道路自体が一般市民は立ち入り禁止、麓から封鎖されている。
「この辺りですね。皆さん、いったんこちらの車輌に集まってください」
 無線で指示を受け取ったエージェントたちは、次々とH.O.P.E.の車輌に乗り込んでくる。全員揃ったのを確認し、H.O.P.E.職員は説明を始めた。
「このトンネルの周辺が、現在ネットで噂になっている心霊スポットです」
しかし、エージェントであるヴィクター・ライト(az0022)は、
「……心霊ではない、……従魔だろう……。幽霊など非科学的なもの……この世に存在しない……」
と、淡々と呟くようにいきなり反論を述べる。
「まあ、確かに、クリエイティブイヤー以降、心霊現象というものはなくなりましたから、従魔スポットと呼ぶべきなのでしょうが……」
と、うろたえるH.O.P.E.職員に追い打ちをかけるように、
「……その前から……そんな非科学的なものは、存在しない……」
と、まだ反駁するヴィクターをなだめようと、英雄の青柳沙羅(az0022hero001)が口を挟む。
「まったく、ヴィクターちゃんは相変わらず頭が堅すぎる」
 先ほどからシャッフルしていたタロットカードのデッキから1枚のカードを取り出し、絵が描かれた方をヴィクターに向ける。
「大アルカナの『女教皇』。目に見えているもののさらに先を見るように心がけた方がよいぞ。これは、ヴィクターちゃんへのアドバイス。そして、それとは別に、今は秘密が少しずつ明らかにされる時でもある、か。……いったい従魔たちは幽霊の真似などして何をしたいんだか?」
 沙羅は、紫の瞳を向け、H.O.P.E.職員に作戦の先を促す。

●まるで都市伝説のような
「今回の依頼内容ですが、結論からいえば峠を暴走する従魔たちを車やバイクで追いかけて倒して欲しいのです」
 H.O.P.E.職員はここで一呼吸置いてから、依頼の詳細について話し始めた。
「この辺りに現れる従魔は、首無しライダー、車より速い老婆、幽霊自動車の3パターンです。まず首無しライダーですが、後ろから追い抜きをかけてくるバイクがいるので見てみると、首がない。車より速い老婆は、その名前のままです。白髪の老婆が四つん這いになって車の後を追いかけ、さらに追い抜いて行ってしまう。幽霊自動車は対向車線に現れます。シルバーの軽自動車でカップルが乗っているのですが、すれ違ったと思うと車ごと消えてしまう。そして、それらを見た者はみな事故を起こしてしまうというのが共通点です」
「安っぽい都市伝説だなぁ」
「自分たちに、カーチェイスをやれって言うのか……」
と呆れたように言うエージェントもいる。
「確かに安っぽい都市伝説です。そして、峠というカーブの多い見通しの悪い場所で暴走する従魔とのカーチェイスという危険なお願いをしているのは重々承知しています。しかし、問題は……、そんな安っぽい都市伝説を見ようと、命の危険も省みず肝試しに訪れる若者が後を絶たず、結果として従魔にライヴスを奪われてしまっていること。そのため、この近辺に巣くう従魔たちはますます力を蓄えて、ドロップゾーンの範囲をさらに広げる可能性もある、ということなのです」
 要するに、都市伝説の真似をしている従魔たちは、活きの良い若者たちのライヴスを集めるための撒き餌なのだ。いくら立ち入り禁止と看板を出そうとも、若者たちはそれを押しのけて、夜中に心霊スポットと呼ばれる場所を訪れては、ついでに峠も攻めてみる。どちらも命を張った危険な行為。しかし、若者の好奇心、怖い物見たさはいつの時代も変わらないものだ。クリエイティブイヤー以前と何も変わりはしない。
 これは、そういった人間の好奇心をうまく利用した従魔たちの作戦なのである。とはいえ、知性や自我はないとされる従魔ごときが、単独でそこまで複雑な戦略を考えることは難しいだろうから、後ろで操っている存在がいる可能性も否定できない。
 が、真相はさておき、今はまずドロップゾーンの拡大をくい止めることが何よりも肝要だ。
 そのため、一刻も早くライヴスを収集している従魔たちを倒すことが、この班に与えられた使命である。

●従魔とカーチェイス?
「具体的に私たちは何から始めればいいのですか?」
と、一人のエージェントが尋ねる。
「従魔たちは、車で見物に来る若者たちをターゲットにしているようなので、皆さんには車かバイクを使って囮になり、まずは従魔をおびき出してもらいたいのです」
「……囮か」
 エージェントたちから溜息が漏れる。
「今回、出動するにあたって乗り慣れている車かバイクでいらしてくださいとお願いしたのはそのためです。免許をお持ちでない方は、私が運転する車に乗るか、他のエージェントに同乗させてもらうか、お好きな方を選んでください。そして、従魔が現れるまでこの辺りを適当に流します。従魔らしきものが現れたら、速やかに討伐をお願いします。従魔は、3体とは限りません。また、万が一、危険を冒して肝試しにやって来る若者がいたら、保護してくださいね。よろしくお願いします!」
 H.O.P.E.職員に対し、エージェントたちはみな力強く頷いた。

解説

●目標
 従魔の殲滅

●乗り物
 PCが免許を持てる年齢設定で、自分で運転する場合は、どんな乗り物に乗るかプレイングに書いてください。具体的な車種やメーカー名は出せないため「黄色の2人乗りオープンカー」「50ccのスクーター」といった描写をお願いします。H.O.P.E.職員は運転に徹し、戦闘には不参加です。

●登場
どの従魔も、物理的に攻撃を仕掛けたという報告はないので、何らかの精神系BSを付与し事故を起こさせていると予想される。

デクリオ級従魔 首無しライダー
 うち捨てられたバイクを依り代にした従魔。自分の首を傍らに抱えてバイクを運転している。
 追い抜かれると事故に遭い、ライヴスを奪われ、死に至ることもある。

ミーレス級従魔 ジェットババア×5
 四つん這いの姿勢で、車より速く走ることができる白髪の老婆。何らかの四つ足動物を依り代にしていると思われる。
 追い抜かれると事故に遭いライヴスを奪われ死に至ることもある。長い爪を持つという目撃情報もあるため、物理攻撃にも注意。

ミーレス級従魔 銀の幽霊自動車×5
 青白い顔のカップルが乗っているシルバーの軽自動車。対向車線から現れ、すれ違いざまに車ごと消える。見た者は事故に遭いライヴスを奪われ死に至ることもある。自動車を依り代にしていると考えられるので、轢かれれば怪我をする危険性も。

●時間
 夜中。

●場所
 生駒山方面に向かう山道。従魔目撃情報の多い峠のトンネルの手前。
 なだらかな坂道が麓から約3km続くが、現場近くになるにつれ急勾配のつづら折りの道となる。かつては、走り屋が攻める峠だった。道幅はトラックでは厳しいが普通乗用車同士であれば対向車が来ても問題なく通れる幅。きついヘアピンカーブを5回過ぎるとトンネル。トンネルは直線で約300m、道幅はここまでと同じ。

●その他
 道は封鎖してあるが、ゲートを壊し入って来る若者が後を絶たないことは留意しておきたい。

リプレイ

●リンカー集合!
 弥刀 一二三(aa1048)は、出動を前に自宅ガレージに並ぶご自慢の愛車を眺めていた。長めの赤いウルフヘアにエクステ。その外見に似合わぬ京都弁が口からこぼれる。
「急なヘアピンカーブもある峠やいうことどすし、やっぱ、これやろか?」
 選んだのは、赤と黒に塗装されたレーサー仕様の1000ccバイク。レーサーレプリカではなく完全な競技用である。
 キリル ブラックモア(aa1048hero001)は、一二三と誓約する際、美味しいケーキを毎日食べさせることを条件にしている。しかし、当の一二三は常に「金がないんどす」とこぼすのだ。
「私との誓約で金がない、というのは嘘のようだな」
 キリルは腕を組んだまま、銀色の瞳で一二三を睨み付けた。

 愚神アンゼルムは、生駒山を中心に巨大なドロップゾーンを展開しつつあり、そこから大量の愚神や従魔が呼び寄せられていた。生駒山方面に向かう峠には、高速で走る従魔たちが夜な夜な現れるという。都市伝説のような話だが、そんな従魔を殲滅する目的で集められたのが今回の別働隊だ。H.O.P.E.は峠の麓に大型の倉庫を借り、そこを準備拠点とした。

「凄いね。都市伝説を倒しに行くなんて!」
 弱視のため英雄のオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)に誘導してもらいながら、木霊・C・リュカ(aa0068)は倉庫にたどり着いた。瞳はサングラスで見えないが、口元はほころんでいる。
 ほぼ同時刻。英雄のヴァルトラウテ(aa0090hero001)を伴って、赤城 龍哉(aa0090)も到着する。
「今回の敵は幽霊のようですわよ?」
 古流武術・赤城波濤流の師範代。愚神相手なら何も恐れることなく突っ込んで行く龍哉だが、ひとつだけ恐れるものがある。それが、幽霊だ。ヴァルトラウテはそのことを懸念して尋ねた。
「幽霊だったら拳が突き抜けちまうから、戦いようがねぇ。でも、従魔だ。直接殴れるんだ。何を恐れる必要がある?」
 龍哉は豪快に笑った。

 鈴原 絵音(aa0874)は、弾丸型のサイドカーに英雄の信長(aa0874hero001)を乗せ、ガレージに到着した。バイクの色は濃紺。スタンダードなネイキッドタイプだが、1100ccという排気量を持つ大型二輪は、日本では珍しい。争い事が苦手で任務に積極的とは言えない絵音だが、今回は運転に徹するだけでよいと聞き出動を決めた。ふだんは信長を乗せているサイドカーに今夜は龍哉を乗せ、攻撃に専念してもらう手はずになっている。
 そのとき、ガレージの外から、まるで地響きのような重低音が聞こえて来た。最高出力750馬力というモンスター4輪バイクにまたがった剛田 永寿(aa0322)が、後部座席に英雄の夜刀神 シン(aa0322hero001)を乗せ、倉庫に滑り込んできたのだ。パッと見、強面オヤジの永寿に、目に包帯を巻いた銀髪のシン。バイクだけではなく、彼らの外見も他のエージェントたちの注目を浴びている。
 今夜の戦いに向け4WDの白のオープンスポーツカーを改造していた荒木 拓海(aa1049)も、興味深そうに車体の下から顔をひょっこり出した。
 そのモンスターバイクに、シウ ベルアート(aa0722hero001)が、モンキーレンチを片手に咥え煙草で近寄って行く。シウを英雄とする桜木 黒絵(aa0722)も、その後を追う。
「カーチェイスに備え、皆のマシンを究極まで改造……」
 そこに、リュカが割って入る。
「ごめんね、俺はそのバイクの後部座席に乗せてもらうことになっているんだけど、昼のうちに道を確認しておきたくて。今から出発の予定なんだよ」
「おう、今から出るか? あとは、そのヘッドライトを付けりゃいいんだな?」
 シウは諦め、次は拓海のオープンカーへと近付いていく。
「拓海さん、ペアを組む予定の黒絵さんの英雄さんが……」
 拓海の英雄、メリッサ インガルズ(aa1049hero001)が、車体の下の拓海に声をかけた。
「実はヨーロッパから取り寄せた、とっておきのパーツが……」
「もうエンジンはパワーアップしちゃったんだよね。あとは、横G対策にグリップのいいタイヤに交換すれば完了なんだ」
 シウを遮るように拓海は答える。
 おろおろとするシウを心配そうに見上げる黒絵に、
「いや、あのスポーツカーは凄い改造を施し、究極のマシンに仕上げる予定だったんだよ。あのバイクも、後輪の前のごちゃごちゃした所に凄い改造を……」
と、シウはよくわからない講釈をたれる。案の定、
「シウお兄さん、全然分からないから!」
と、黒絵にツッコまれて終わった。

 同時刻、カトレヤ シェーン(aa0218)とその英雄である王 紅花(aa0218hero001)は、H.O.P.E.車輌の前でH.O.P.E.職員と打ち合わせをしていた。今回のH.O.P.E.車輌は、きついカーブと大型車では対向車とすれ違えない道幅に備え、比較的小型だ。車幅は普通乗用車程度のコンパクトさだが、いざとなればエージェントと英雄を全員乗せることができるマイクロバスのような車輌である。エージェントが現場で飛び降りやすいよう、後部のハッチは開閉自在だ。
 カトレヤは、時折漂ってくる煙草の煙に顔をしかめながら、H.O.P.E.職員に語りかける。
「今回は俺を乗せ隊列の中央辺りを走ってもらいたいんだ。侵入してくる一般人がいれば、スピードを緩めて一般車両の前に付けてもらえるか? それと、前方から未確認物体が現れたらすぐに教えてほしい。俺は後方を注意する」
 カトレヤの言葉に、H.O.P.E.職員は指示を記録しつつ頷いている。カトレヤは金髪のグラマラスな美女だ。機械となった右目に眼帯、右腕にはロンググローブといった格好をしているが、それを差し引いても人目を引く容貌である。一方、紅花が人目を引くのはその容色に加え、派手な装束による部分も大きいだろう。
「おぬしは依頼の主旨を忘れて、峠を攻めそうじゃのう」
と、紅花が横から口を挟む。
「だから、今回俺は運転を控えたんだよ」
と、カトレヤは振り返り紅花を軽く睨んで見せてから周囲を見回し、無表情な赤い髪の青年、ヴィクター・ライト(az0022)を見つけると言葉を続けた。
「おまえは、H.O.P.E.車輌の後方について守ってくれるか? あと、一般車両を俺たちが止めたらそこに横付けしてほしいんだ」
 カトレヤの言葉に、ヴィクターはまったく表情を変えずに頷く。
「……了解だ」
「頼りにしてるぜ」
 その横に立つ、英雄の青柳沙羅(az0022hero001)は、相変わらず機械のような心のヴィクターにそっと溜息をついた。

●峠に向けて出発!
 エージェントたちは夜が更けるのを待って、出発することにした。
 出発前に、H.O.P.E.職員はリュカと一二三から依頼されていた無線通信機とインカムを全員に手渡す。
「今回は山の中ですから携帯電話の電波が届きにくい場所もあるでしょう。こちらは随時、全員と繋がるように設定してあります」
 通信機器を受け取ったエージェントたちは、一二三と絵音以外全員、共鳴状態になり各車輌に乗り込んだ。
 リンクを終えた龍哉の前髪は、一房だけ銀が混じり左の瞳だけ蒼い。絵音のバイクのサイドカーに乗り込みながら、龍哉は絵音に尋ねる。
「おまえはリンクしないんだ?」
「僕は今回運転だけですし、相方の信長先輩は別行動です」
 リンカーたちは共鳴することで、爆発でも死なない強靱な肉体に変化する。つまり、リンクしてさえいれば、カーチェイスの途中で事故に遭ったとしても死ぬことはないのだ。
「赤城さん、大丈夫です。確かに側車付きバイクを乗りこなすのはコツがいります。でも、僕は信長先輩をよく乗せていましたから。相当、運転のテクニックは鍛えられましたよ」
「じゃあ事故の心配はないんだな?」
「はい、何度も事故りましたが。今は大丈夫ですよ。では僕たちは先頭を行きましょう」
「は!?」
 サイドカーに座る龍哉の心配をよそに、絵音の操るバイクは倉庫から滑り出して行った。

 それに続くのは、永寿の運転するモンスター4輪バイクだ。永寿はリンクにより髪も瞳も銀色の英雄の姿に変わっている。シンの姿と異なるのは、その目を覆う包帯がはずれ強気な雰囲気を漂わせている点だろうか。
「ヘアピンカーブにトンネルか……ワクワクするな」
 その豪快な発言は、姿は変わってもやはり永寿のものに他ならない。
 モンスターバイクの後部には重厚な背もたれが据えられ、リュカはそれを基軸に前向きにも後向きにも即座に対応できるような体勢を取っている。リンクによって、肌の色はオリヴィエのような褐色、髪も深緑色に変化しているが、一番大きな変化はその瞳だろう。オリヴィエの視力を使って、今ははっきりと物を見ることができるようになっている。
 リュカは、脇に固定した懐中電灯を確認。バッドステータスに対抗するため痛いほど強いミントのタブレットを口の奥に含み来たるべき戦闘に備えた。

 続いて自由気ままに走り回っているのは、リンクせずキリルを後ろに乗せた一二三のレーサーバイクである。バイクを自在に転がす一二三は、どんどんスピードを上げていった。
「ほんまに楽しおすなぁ~!」
 心から楽しそうに一二三は叫ぶ。

 隊列中央はH.O.P.E.車輌。運転はH.O.P.E.職員で、リンクしたカトレヤが乗り込んでいる。併走するのはリンクしたヴィクターだ。
 選んだバイクは、アドベンチャーツアラータイプの800cc。液晶パネルでシフトアップ&ダウンが可能な点は、自身がすべて機械でできているかのようなヴィクターに向いているのだろう。6速で40km/h近くまで落としても走れる粘りがあるこの車体なら、減速して一般車両に対応することが可能だ。
 H.O.P.E.車輌内では、カトレヤが左右の窓、さらに後部ハッチも開いて、全方向に対応できるよう準備を進めていた。ライトアイも使用済みなので、暗闇対策も万全だ。リンクしたカトレヤの右目は赤く、右腕の肘から先は、紅花の肌の色に変わっていた。

 最後尾を走るのは、メリッサとリンクを済ませた拓海の運転するオープンスポーツカーである。ハンドルを握る拓海は、白銀の髪に緑の瞳、メリッサが大人びたような容貌に変じている。
「ドロップゾーン拡大で峠フリークが泣いています。必ず従魔を仕留め、彼らの思惑を阻止しましょう」
 ステアリングを器用に操りながら、拓海は隣に座る黒絵に話しかける。
「何か言いましたか!?」
 耳を塞ぎたいほどの大声で答える黒絵に驚き、拓海はミラー越しに黒絵の様子を窺った。黒絵の外見はリンク前と変化がない。ただ、黒絵の耳にはヘッドフォンが見える。黒絵は、精神系BS対策として、ポータブルプレーヤーでハードな音楽を聴いていた。ボリュームはもちろんMAXだ。
 他の仲間からの無線を傍受したら、ヘッドフォンを引き抜き耳元で叫んで伝えるしかないか、と拓海は考えた。

 そして、同時刻。絵音の英雄である信長は、ただ一人夜の峠を、灯台を探して走り回っていた。

●従魔とカーチェイス
 バックミラーに、四つ足の黒い影が映り込むのを拓海は発見した。はるか遠く、小さく映り込んでいたその影は、みるみるうちに大きくなる。ボサボサの白髪頭にゾンビのようなどす黒い肌。枯れ木のような手足だがそのスピードは想像を絶する。これでは公道向けの一般車両ではすぐ追い抜かれてしまうはずだ。
「後方にジェット・ババア発見! 全員スピードを上げて下さい!」
 インカムを使って全員に伝達しつつ、拓海もアクセルを踏み込む。さらに、センターラインを跨いで道を塞ぐように車を走らせた。ヘアピンカーブに入るまでに何とかしたい、と拓海は黒絵のヘッドフォンを引き抜くと同時に、「後ろ、迎撃お願いします!」と叫んだ。
 黒絵は、黒い銃身のオートマチックを構える。
 スピードメーターは現在、150km/hを示している。それでも、あっという間に近付かれるということは、200km/h以上の速度で走っているということだ。チーターでさえ70km/hほどのスピードで、しかも持久力はない。ジェット・ババアの持久力はどうなのか。拓海は、「つづら折りあり」の標識がまだ出てこないことを祈りながら、追い抜かれないよう運転に集中する。
 ジェット・ババアが拓海の車体まで2~3mと近付いたところで、黒絵は威嚇射撃を試みた。ひるんだところを、投擲斧であるレッド・フンガ・ムンガを投げる。それは、正確にジェット・ババアの前足を傷つけたあと、黒絵の手元に戻って来た。ジェット・ババアは体勢を崩し、よろよろとした足取りに変わり速度も落ちる。拓海も、距離が開かないようスピードを落とした。
「これで、終わりよ!」
 黒絵は、ブルームフレアでとどめをさそうとする。
 しかし、そのとき。はるか後方から猛烈なスピードで四つ足の従魔が2体近付いて来ていた。
「後方より、再びジェット・ババアが2体接近中!」
 拓海は応援を要請した。

 同時刻。前方には、銀の幽霊自動車が現れていた。
「これは一般車じゃないんだよな?」
 先頭を走る絵音のサイドカーに乗った龍哉は、誤射しないよう念のため確認をする。
「あのような青白い顔色の人間、見たことがありませんわ」
というヴァルトラウテの言葉に龍哉は頷き、無線を通じて拓海に答えた。
「了解! だが、こっちも幽霊自動車が現れた!」
 絵音の後に続くモンスターバイクの後部座席に座るリュカも、口中のタブレットを噛みつぶしてから、
「悪いが俺も前方なんで幽霊自動車の迎撃に加わる」
と答えた。戦闘に向け、リュカの中でオリヴィエの意識が主導権を握る。
「わかった、俺が後方の攻撃の援護に入る」
 カトレヤがインカムを使って答えながら、後方のハッチに近付き、スナイパーライフルを構えた。そして、ジェット・ババアの足を狙い撃ちする。
 合計3体のジェット・ババアが倒れ込んだところに、さらにまた2体、ジェット・ババアが凄まじい形相で近付いて来る。
「チッ、キリがないな」
と、カトレヤが再び新たなジェット・ババアに標準を定めたそのとき。前方を縦横無尽に走り回っていただけの一二三のレーシングバイクがUターンして来た。先ほどまでと大きく違うのは、その姿が一二三ともキリルとも似つかぬピンクの髪をツインテールに結った美少女に変わっていること。身長は小さくステップに足が届かないためか、厚底ブーツを履いている。
「見た目は13歳でも中身は20歳!」
 リンクバリアで魔法防御に備えてからジェット・ババアに自ら近付いて行き、爪による攻撃を受けないギリギリのところで急ブレーキをかけると、
「あたしがいれば大丈夫よ!! 魔法少女フミリル、愛と勇気を携えて、あなたを折檻しちゃうわよ☆」
と左手を上に、右手は眼前のジェット・ババアを指差すキメポーズ。
 皆が唖然とする中、フミリルもとい一二三はオートマチックを構えてジェット・ババア2体の足を射貫いた。
 都合、5体。黒絵の目の前に、足を痛めたジェット・ババアが転がった状態で、黒絵はブルームフレアを2発お見舞いする。ライヴスの火炎に包まれながら、ジェット・ババアたちは断末魔の悲鳴を上げた。

 隊列前方では、幽霊自動車との戦いが始まっていた。リュカは、射手の矜恃により命中率を高めた後、スナイパーライフルで運転席の青白い顔をした人型に狙いを定め、弾を放った。
 命中。
 確かに、当たったはずだ。しかし、何事もなかったかのように車は先頭の絵音のバイクに近付いて行く。
「間もなくすれ違いますわね。しかし、一意専心、一撃必殺を狙えば良いのですわ」
 ヴァルトラウテの言葉に龍哉は頷きながら、グレートボウを構える。
「是非ともそう行きたいところだぜ」
 龍哉は前方のエンジンが搭載されている辺りを狙い矢を放つ。今度は動きが止まった。
「やはり、こいつの依り代は車か」
と、車体を狙い撃ちしようとしたところで、さらにもう1台、銀の自動車が近付いて来る。リュカが無線で
「後続車は俺が」
と答え、今度は最初からタイヤを狙った。タイヤはパンクし大きくスリップする。そして、くるくる回転しながら絵音のバイクへと突っ込んで行った。
「何してくれてるんじゃぁぁワレぇぇ!!」
 急に人格が変わったように絵音は叫ぶと、ハンドルを切る。馬力があるのが幸いし、急なハンドル操作にも車体はぶれず、幽霊自動車を無事避けることができた。幽霊自動車はそのままガードレールを壊し崖下へと落ちて行く。
 そろそろ、「つづら折りあり」の標識が道の端に見え始めた。そして、この最悪のタイミングで拓海の車より後方からバイクの爆音が聞こえて来る。

「後方よりバイク音!」
 拓海が全員に無線で注意を呼びかけ、すべての車輌がスピードを上げる。
「あれは……チッ、ふざけんな」
 カトレヤが舌打ちをする。
「ヒャッホォウ~」
 従魔とは思えぬ嬌声を上げながら近付いて来るのは、明らかに人間だ。しかも、50ccの単車に2ケツ状態で。
 H.O.P.E.職員は事前のカトレヤの指示通り減速し、そのバイクを塞ぐよう前に付いた。ヴィクターもすぐ横を併走する。その間に、隊列最後尾を走る拓海がH.O.P.E.車輌を追い抜いて行く。
 カトレヤは、
「ここは進入禁止だ! 止まりな!」
と、声を張り上げた。
 50ccの単車は素直に停車したものの、カトレヤの美貌を前に都市伝説ではない方向に欲望が向かったらしい。
「お姉さん、超美人じゃね? 胸でかっ!」
「マジやべぇ~よ、俺らと一緒に遊んじゃわね?」
 カトレヤが呆れつつも拳を握りしめ、ヴィクターが一歩踏み出したとき、はるか後方から再び轟音が聞こえてきた。一般人なのか、首無しライダーなのかはわからない。しかし、常に最悪の事態を想定して動くに限る。
 カトレヤはセーフティガスで無謀な若者たちを眠らせ、
「後でみっちりしぼってやる」
と、車輌内に二人を物のように放り込んだ。カトレヤ自身も急いで車輌に乗り込み発信の指示を出す。
「後方警戒注意、バイク接近!」
「了解だ、こっちはもう間もなく片付きそうだ。まったく愉快なツーリングだぜ」
 つづら折り地帯に入っても、その見事な運転技術でモンスターバイクを自在に操る永寿は答えた。
 前方からは、
「魔法少女フミリル!」
と、先ほどと同じキメ台詞も聞こえて来る。
 前方は任せて大丈夫だろう、と、カトレヤは後方から近付いて来るバイクに注意を向けた。

●首無しライダーとの闘い
 スピードを上げるH.O.P.E.車輌内で、カトレヤは後方に目をこらした。ライトアイは切らさぬよう注意しつつ使用しているため、夜目はきく。
「あやつ、首がないようじゃ」
 紅花が意識の中でカトレヤに語りかける。カトレヤは渋面を浮かべ、
「後方、首無しライダー出現、抜かれないよう全員警戒!」
とインカムに叫んだ。
 しかし、ヴィクターのバイクは、減速しても倒れないことを優先して選んだため、他の車輌のようにスピードが出ない。あっという間に、首無しライダーに追い抜かれたヴィクターはよろよろ蛇行し始める。
「危ない!」
 カトレヤは、ヴィクターにクリアレイを使用し、バッドステータス状態を解除した。
 しかし、スピードが出ないのは、H.O.P.E.車輌も同じだ。H.O.P.E.車輌を追い抜いて行くライダーの姿をカトレヤは悔しそうに見送る。報告の通り、自らの首を抱えたまま運転をしている。片手運転だが、カーブに入っても多少減速するだけで安定した速度を保つ。先ほどのジェット・ババアよりも速いのではないだろうか。
 追い抜かれたと同時に、H.O.P.E.職員もまた意識を失った。前方に注意を向けたカトレヤの目に映ったのは、車輌の目の前にグングンと近付いて来るガードレールだった。
 急カーブだ。しかも、アクセルを踏み込んだままで。
 カトレヤは運転席まで跳躍し、一か八かブレーキを踏み山側にハンドルを切る。車体は激しく回転しながら舗装道路から林に乗り上げ、大木にぶつかりようやく停車した。
 まずは職員にクリアレイ、そして一般人にも手当が必要だろう。カトレヤは無線で
「後は頼んだ」
と、仲間たちに告げた。

 首無しライダーと最初に戦闘に入ったのは、拓海と黒絵だった。拓海も念のため、併走した場合に迎撃できるようハンズ・オブ・グローリーを装備する。黒絵は、ライダーが近付く前に、素早く銀の魔弾を撃ち込んだ。その衝撃で、一瞬ライダーはひるむ。が、少し減速しただけで、再び速度を上げていく。車体と一体となったコーナリングは美しく、首がないことを差し引けば、プロのレーサーの走りを見ているようだ。
「これもバイクが本体だな。永寿なら、多少無茶な運転もできるだろう?」
 リュカの問いに永寿は、
「任せてくれ」
と頼もしく答える。リュカの指示は、Uターンしてすれ違いざまに攻撃することだった。
 隊列は既に5度のヘアピンカーブを越え、まもなくトンネルというところまで迫っていた。つまり、下りながら再び5回のヘアピンカーブに臨まなければならない。それも、戦闘しながらだ。
 そんな難しい要求にも、永寿は軽く請け合う。そして、時速200km/hを保ったまま、力任せにUターンした。アスファルトとタイヤが激しく摩擦し、焦げた臭いが漂う。
 永寿は下り坂でも、トップギアを保ちスピードを上げていく。反対車線から同じような高速で首無しライダーが近付いて来た。
 お互い、時速200km/h超。すれ違うのはほんの一瞬である。
 その一瞬を狙って、リュカは首無しライダーのタイヤに狙いを定める。永寿もハンドルから片手を離し銃弾をぶち込んだ。
 その反動で、ライダーのバイクは谷側へと滑る。しかし、敵もしぶとくなんとか態勢を立て直そうと、後輪に荷重をかけ粘った。

 先頭を走る絵音は、ミラー越しにUターンする永寿を見て一瞬唖然とした。しかし、永寿の運転は安定している。どうやら、追い抜かれなければバッドステータスにならないようだ。それを確認すると、絵音も素早くUターンした。龍哉も、絵音の行動の意を察し、グレートボウを構える。
 その横を赤と黒のレーシングバイクが追い抜いて行く。時速は300km/h近く出ているはずだ。
「魔法少女フミリル!」
 すれ違いざま、一二三は片手だけを使って後輪に狙いを定め、弾丸を放つ。
 再び、ライダーの車体がスリップしそうに揺れる。後輪も狙われたら、荷重をかけ安定させるどころではないだろう。
 続いて、龍哉も前輪に矢を放つ。
「従魔とは言え、バイクがそこを射抜かれてまともに走れるか?」
 前輪への攻撃はこれで3発目。さすがに耐えきれなくなった前輪がパンクした。ライダーは再び谷側に滑って行く。
 拓海も、前のバイクたちが一斉にUターンするのを見て、それに続く。タイヤはグリップの効いたものに交換済みだし、そもそもバイクと違って安定の良い車だ。躊躇なく、激しくアクセルを踏み込み、ライダーとすれ違う直前に減速する。これで攻撃の時間が増えるはずだ、と激しいGを感じながら拓海は考える。
 黒絵は残る銀の魔弾をすべて首無しライダーに撃ち込む。
 ライダーが谷側にスリップする。ガードレールにぶつかった途端、激しい爆発音が轟いた。
 ガソリンに引火したのか、首無しライダーは炎に包まれていた。
 終わったのだ。

 拓海は破損の激しいH.O.P.E.車輌内のカトレヤ、H.O.P.E.職員、一般人2人を自分の車に乗せた。ガレージに戻ったら、皆の愛車をあらためてじっくり見せてもらいたい、と考えながら。

 無事、事件が解決し、ホッとした黒絵は意識の中でシウに話しかける。
「私も免許を取りたいよ!」
「免許は20歳になってから、だよ」
 笑ってごまかすシウに、黒絵は
「免許は18歳で取れるよ!」
とツッコんだ。

 リンクを解いた一二三とキリルは、釈然としない表情を浮かべている。キリルは共鳴時の記憶がほとんどないはずだが、
「これもアンゼルムの仕業なのか? 戦闘狂なら自分の世界でやっておれば良いものを!」
と、知ったかぶりで激怒する。一方、一二三は
「うちは、ただ走りたかっただけやのに……」
と俯く。リンク時の姿を思い出し激しい後悔に襲われるのはいつものことだが、今日はバイクで走ることを楽しみにしていただけにダメージが激しいようだ。

 ところで、信長はどうしたのか。
「鈴原、灯台が見つからないんだよね」
 無線を通じ、信長の声が響く。
 海の多い日本で、灯台は海岸付近に建てられることが多い。県内に海のない奈良県には、灯台はひとつも設置されていなかった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
  • エンプレス・ルージュ
    カトレヤ シェーンaa0218

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • エンプレス・ルージュ
    カトレヤ シェーンaa0218
    機械|27才|女性|生命
  • 暁光の鷹
    王 紅花aa0218hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • エージェント
    剛田 永寿aa0322
    人間|47才|男性|攻撃
  • エージェント
    夜刀神 シンaa0322hero001
    英雄|27才|男性|ブレ
  • 病院送りにしてやるぜ
    桜木 黒絵aa0722
    人間|18才|女性|攻撃
  • 魂のボケ
    シウ ベルアートaa0722hero001
    英雄|28才|男性|ソフィ
  • 豆芝の主人
    鈴原 絵音aa0874
    人間|24才|男性|生命
  • エージェント
    信長aa0874hero001
    英雄|28才|男性|ドレ
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
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