本部

【いつか】酔っ払いのためのRPG 十年後

落花生

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~10人
英雄
8人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2019/03/11 07:18

掲示板

オープニング

●十年後の飲み会
『エステルが……エステルが』
「面倒くさいから、もう泣かんといて」
 ぼろぼろと涙をこぼしながら酒を煽るアルメイヤに、正義はため息をついた。
 激しい戦いから、もう十年が経とうとしていた。まだ不穏な空気こそ流れていたが、一時期の激しさに比べれば穏やかな日々が続いている。アルメイヤはそんな日々がずっと続くと思っていた。そんな矢先に、エステルがこういったのだ。
「アルメイヤ……私、一人暮らしをします」
 もう二十歳も超えた、エステル。
 一人暮らしをするのは、法律的に何の問題もない。仕事もあり、収入も比較的安定している。だからこそ、アルメイヤはわかったのだ。これはエステルの巣立ちであり、もう自分のところには戻ってこないのだと。
『なんでだぁ!! なんで、巣立っちゃうんだ!!』
 酒屋で大号泣のアルメイヤ。
 おそらくはエステルは、いまだにアルメイヤが未婚なのは自分のせいではないだろうかと思ったのだろう。子供のような存在の自分が近くにいれば、アルメイヤは自分の幸せを一番には考えられない。そう考えて、自立を目指したのだ。
「……この人が結婚しないのは、単にモテないだけやと思うんだけどなぁ」
 未だに独り身の正義をアルメイヤはぎろりとにらむ。
『人のことをとやかく言えるか、筋肉ダルマ!」
「僕、先月は三通もラブレターもらったで。全部、男やったけど」
 この年で独り身なのは、出会いがないからです。
 決して、そっちの世界の住人ではありません。
 正義はラブレターをもらうたびに必死に弁解しているのだが、なかなか誤解は解けない。
「まっ、今日はエステルの独り暮らし祝いや。楽しく飲もうや」
『私は……ぜんぜん、たのしくないぃ』

●十年後の悩み
『むー、正義のやつ未だに彼女の一人もいないんですぅ。別に彼氏でも小鳥は全然気にしないのにですぅ』
「アルメイヤも美人なのに……浮いた噂がなくて」
 居酒屋の廊下で、エステルと小鳥は立ち話をしていた。
「アルメイヤはずっと私がいたし……それでお付き合いの話をことわっていたのかも」
 エステルはそんな心配をするが、たいていの場合はアルメイヤの「エステル、ラブ!!」の奇行に恐れをなして男が逃げて行っていただけである。
『正義のやつもせっかく告白されても『君にはもっといい人がいる』ことわるんですぅ。もったいない』
 女性には小鳥がいるからという理由で恋愛対象にはされず、男性と付き合う趣味はないために穏便に断っていただけだのだが、正義もひどい言われようである。
「せっかくの飲み会ですから、これを期にいい人が見つかってくれればいいんですけど」
『そうですぅ。小鳥たちもせっかくだから飲むですぅ』

解説

※注意
このシナリオは、リンクブレイブ世界の未来を扱うシナリオです。
シナリオにおける展開は実際にこの世界の未来に存在する出来事として扱われます。
参加するPCはシナリオで設定された年代相応の年齢として描写されます。

※子孫の登場
このシナリオでは、PCの子孫(実子または養子、孫など)を一人だけ追加で登場させることができます。
追加で登場するキャラクターは、PCとして登録されていないキャラクターに限定されます。
子孫の設定は、必ずプレイング内で完結する形で記載してください。

恐竜居酒屋(18:00)……チェーン店の大衆居酒屋。スワナリアが発見された年にオープンした店で、恐竜の被り物をした店員が接客してくれる。たいていのつまみはあり、卵焼きや茶わん蒸しといった卵系のおつまみがおすすめ。酒はビールからウィスキーまで何でもあるが、濃いめにお酒を作ってくれる店なので注意が必要。常連客がたくさんおり、にぎわっている。また、店内にはスワナリアで取られた恐竜の写真が飾られている。本日は店の十周年記念中。十年後の自分たちに向かってメッセージや願い事を書き、店がタイムカプセルに入れて保存してくれるサービスを行なっている。

エステル……独り暮らしを始めるため、うきうきしている。酒の席は初めてのためカシスオレンジなどの軽いお酒をちびちび飲んでいる。強いお酒や苦いお酒は苦手。

アルメイヤ……エステルの近くから動こうとしない。すでに出来上がっており、ワインを飲みながら泣いている。

正義……アルメイヤの近くで、世話を焼いている苦労人。ビールのみつつ、アルメイヤに水を飲ませようとして失敗している。

小鳥……カルーアミルクを飲んでいる。

※本来リンカーや英雄は酔っ払いませんが、楽しい雰囲気の酔っています。未青年の方にはジュースをお出しします。

リプレイ

 スワナリアをモチーフにして作られた居酒屋に飾ってあるティラノサウルスの写真に、レイオン(aa4200hero001)は「なつかしい」と思わず声を漏らした。
『あの時は、濡れてしまって困ったね』
 昨日のことのように感じるが、スワナリアが発見されてからもう随分と年月は経っている。時よりニュースやテレビでスワナリアのことは報道されるが、その度にレイオンはスワナリアで出会った恐竜たちのことを思い出してしまう。
「ツアーの時だねっ。うちはそれより、走って行ったレイオンに吃驚したよ」
 春月(aa4200)は、感慨深く頷いた。
 あれから十年の月日が経った。当時は十九歳だった春月も今では二十九歳だ。見た目だけなら、落ち着きのある大人の女性である。
「そういえば昔、水割りを水と勘違いしてたよ」
 未青年って面白いよね、と笑いながら春月は色々な銘柄の酒を注文していた。なお、酒の種類もあまり選んでいない。そんなめちゃくちゃな飲み方でもあまり酔っていないのは、生来の肝臓の強さゆえだろう。
「今日は飲むよー!」
 藤咲 仁菜(aa3237)は、ジョッキのビールをかかげる。
 その姿は日ごろの鬱憤を晴らしたい主婦そのものである。
『子供はどうした?』
 二児の母親になったはずの仁菜に、九重 依(aa3237hero002)は尋ねる。仁菜は朗らかな笑顔で「夫に任せてきた!」と言い放つ。仁菜の子供は二歳と零歳。まだまだ手のかかる年頃で、いくら可愛いといっても母親の仁菜はストレスが溜まる。今日は、そのストレスを思いっきり解消させに来たのだ。
「普段理屈の通じない生き物を相手にしてるから! 可愛いよ! 可愛いんだけど! ちゃんと人と話をしないと私言語を忘れちゃうよー!」
 梅酒の炭酸割りを飲みながら、仁菜は依に絡み出す。まだグラスの半分も飲んでいないはずなのに、仁菜すでに出来上がっていた。
『酒回るの早いな?』
「夜泣きが酷くて3日くらい寝れてないの……。1人寝かしつけるともう1人が起きちゃうんだよ……。お昼寝すらそうなの……。同時に寝てよぉ……!」
 泣きそうになりながら飲む仁菜に、依は『子育ては大変だな……』と内心考えていた。そして、今は彼女の夫がその大変さを味わっていると思うと同情してしまう。
 子育ての苦労話をしていた仁菜の目が、突然輝いた。
 日暮仙寿(aa4519)と不知火あけび(aa4519hero001)の愛娘日暮さくらを見つけたからである。母親あけびに似た美貌の五歳児に仁菜は駆け寄った。
「わぁー大きくなったね! さくらちゃんはすでに美人のオーラ! さすが仙寿さんとあけびさんの子!」
 下の子たちも将来が楽しみね、と言いつつ仁菜はさくらにメロメロであった。
「おひさしぶりです」
 さくらの丁寧な挨拶に、仁菜はきゅんとする。しかも、今日のさくらのお召し物は白軍服風のワンピース。まるでキッズモデルのように完璧に着こなしている。この服のメーカーを後であけびに聞こう。仁菜はそう決意した。
「父上、ここにお水を置いておきます」
 さくらはやってきた自分の苺ジュースと水を受け取り、水のほうを父仙寿に渡した。
「ありがとな。さくらは本当に気が利く子だ」
 仙寿の手には苺のカクテル。かつて、これで恋人と記念日を祝った思い出の味だ。ただし、やはりまだ酒には強くはないのでチェイサーも必要なのである。
『さくら、何か食べたいものはある?』
 あけびがメニューを開いて、さくらと共に晩御飯となるメニューを選ぶ。
「ええと……鮭のおにぎりが良いです」
『あ、まだどんな料理かよく分からないかな?』
 居酒屋は楽しいが、家庭では作らないようなメニューもたくさんある。きっと馴染み深い料理がおにぎりしかなかったのだろう。
「はい。デザートは後ですよね?」
 それでも甘いものの名前は分かったらしく、さくらは父親のほうを見る。
「そうだな、まずは料理で……子供が好きそうなメニューも頼むか。唐揚げ、ポテト……だし巻き卵といったところか」
 すみません、と仙寿は娘のために注文を追加する。
 子連れでやってきたのは、仙寿たちだけではなかった。
「今日は初めて一緒に飲む日なわけだが……、緊張とかしてねえか?」
 フラン・アイナット(aa4719)のどこか不安そうな声に、レイリック・ハウバーン(aa4719hero002)は『心配しすぎだよ』と呟く。
『ふふっ、皆と会うの楽しみですね……』
 だが、娘の凛は緊張して店内をきょろきょろと見回していた。
「他にどんな人が……、緊張するなー……」
 フランとCODENAME-S(aa5043hero001)の養女である凛は、ジントニックをちびちびと飲む。
『そんなに緊張しなくてもいいですよ』
 母親のSは「お酒を飲むならば、胃に何かいれてくださいね」と夫と子供にサラダを取り分けていた。
「……遅くなった。ちょっと用があって……」
 遅れて現れたのは、御剣 正宗(aa5043)だった。
 Sとは能力者と英雄という関係だが、それぞれの結婚相手を見つけた彼らは現在は離れて生活している。
「俺、正宗おじさんのこと憧れていたんですよ!」
 Sの隣に座っていた澪は、目をきらきらさせながら正宗のスマホの画面を見せた。映し出されたのは動画再生サイトであり、正宗と妻が仲良く歌をうたっている映像がながれていた。それを見たSは、目を白黒させる。
『これは……どういうことなんでしょうか?』
 困惑するSに、正宗は若干恥ずかしそうに答えた。
「今は……妻と一緒に生放送や動画投稿をしている。最初は上手くいかないこともあったが、最近は再生数も最近は結構伸びてきてて……」
「すっごい、人気ですよ!」
 正宗の言葉に、澪は生放送のアーカイブを再生し始める。投降し始めのころの映像も澪は見ているようで、どうやらかなり熱の入ったファンらしい。
『正宗さん、今の生活はどうですか? 奥様に迷惑をかけてはいませんでしょうか?』
 動画に夢中になっている幼い息子の目を盗むように、Sはひっそりと正宗に尋ねる。本当に心配なのだ。自分の夫とは違う意味でのパートナーである、正宗のことが。
「迷惑もかけずにしっかりと幸せにできている」
 正宗は、はっきりと断言した。
 Sは、それに少しばかりほっとした。
『正宗さん、これからも幸せでいてくださいね』
「ありがとう、えすちゃん……」
 どこか、くすぐった。
 けれども、真摯な言葉であった。
 そんな二人の間に、澪が飛び込む。
「お母さんは、俺の憧れのアイドルをしてるんですよ。アイドルって、歌ったり踊ったりできて凄いですよね!!」
 目をキラキラさせる、澪。
 自分の母親が、憧れの職業の付いていることが誇らしくてたまらないという顔であった。
「なら、今度はそのコスプレをしたり、Sのアイドルの曲を嫁と一緒にカバーしてみようか?」
 正宗の言葉に、澪は「是非見てみたいです!」力強く頷いていた。すっかり意気投合して一緒に動画投降をしそうになっている二人から少しはなれ、Sは夫のフランの元へと戻った。娘と一緒に飲んでいるフランは、いつの間にか自分たち夫婦がどうやって出会ったのかを語っているようだった。酒の効果もあるのだろうが、その顔はいつもよりも嬉しそうだ。もしかしたら、愛娘が聞いていてくれるおかげかもしれない。
『あんまり昔のことは、話さないでくださいね。恥ずかしいですよ』
「恥ずかしいことなんてないじゃんか。俺たちが出会って、結婚して、凛と出会って、澪も生まれて、どこにでもあるようでない――俺たちだけの家族の話しだぜ」
 陽気なフランに、Sはくすりと笑った。
『そうですね。気がつけば、澪も凛も随分と大きくなって……』
「もう少ししたら、夫婦水入らずの時間も増えるのかもな」
『寂しいような気もしますけど、一緒にいれる時間は増えるのはいいですね』
 フランとSの間に、凛が「えい」と割り込んだ。
「まだ……しばらく二人の娘でいさせてね」
 凛の言葉に、フランは微笑んだ。
「当たり前だぜ。お嫁にいったりしても、遠くの国に行ったりしても、独り立ちをしても、凛は俺たちの可愛い娘だ」
 父の言葉に、凛は微笑む。
 そんな様子をレイリックは微笑みながら見守っていた。
「こんな時間は貴重だよね」
 そんなほのぼのとしか空間を見ながら、レオンハルト(aa0405hero001)はため息をついた。今はプロジューサーとして働いているレオンハルトだが、悩みのようなものがある。
『……なんというかさ。この10年、いやもう12年か。変わってないよな、生活が』
「私はちょこちょこ変わりましましたけどね」
 卸 蘿蔔(aa0405)はウィスキーをちびちび飲みながら呟く。以前は歌い手として活動していたが、今は後輩の育成をしていた。だが、その生活はレオンハルト同様に長くなり始めている。そういう意味では変らないというべきなのかもしれない。
「皆さん子供がいるのですね……ふふふ、可愛いですよね子供って。素直で……うん。ほんと素直。その素直さが時に残酷なんですよね。何気ない一言に傷ついてさ、それだけ慕われているのだと自分に言い聞かせるんですよぉ」
 乾いた笑いを漏らす、蘿蔔。
 なんとなく幸せオーラ溢れる人々の隣にはいたくなくって、小鳥たちの側に近づく。小鳥たちは相変わらず「パートナーの恋人が出来ない問題」について悩んでいた。
『まぁでも二人の気持ち少し分かるかな』
 レオンハルトは、ハイボールを注文しながら考える。
 ――自分よりも幸せになってほしいと思う人がいると、そっちばかりになってしまう。エステルと小鳥に恋人できた方が、逆に早く作れそうな気もするが、そのために作っても良いことはないだろうし――
 言っても心配なのでレオンハルトは、ハイボールで言葉を飲み込んだ。
「……婚活パーティーみたいなのに行ってみるとか? そういえば、以前HOPE主催でしたこともありましたよね。またしてくれたら良いのに。能力者同士だからこそ分かり合えることもありますし、お二人にはその方があってるのかなって」
 だが、蘿蔔は積極的に小鳥たちに話しかけていた。
 同じ独り者同士、なにか通じるものがあったのかもしれない。
「良い方見つかるといいですね。応援してます!」
 何かが変るといいですね、と蘿蔔はにこにことしていた。
「それにしても……他の方はこの十年で色々と変ってしまって。一番びっくりだったのは、征四郎さんですよ。今、何ヶ月ですか?」
 話題を振られた紫 征四郎(aa0076)は、膨らんだお腹をさすりながら微笑む。現在妊娠中のためのアルコールは控え、暖かいお茶を飲んでいる。かつては幼かった少女も今では一児の母の準備をしているところであった。
「旦那さんとは、どうです? ラブラブ?」
 きゃきゃとはしゃぎながら蘿蔔は、征四郎に尋ねてみる。
 征四郎は、微笑みながら答えた。
「そうです、リュカはああ見えますがとても優しくて、きっと良い父様になってくれます。今は、古本屋さんを手伝っているんですが……色々と優しく教えてもらっています」
 やっぱり任務のほうがお休みなんだね、と蘿蔔はどこか寂しそうであった。
「しかたがないです。でも、古本屋さんのお仕事をしっかり覚えるいい機会です」
 生まれたら親子三人で経営していく店である。
 仕事はしっかりと覚えたいし、いつか子供にも教えてあげたい。
「今は、俺が店にいれないからな。征四郎には感謝している」
 身重なのに、とオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は呟く。ガルー・A・A(aa0076hero001)と結婚したオリヴィエは、今はアパレルショップの店員とリンカーを掛け持ちしている。忙しさゆえに古書権のほうにはあまり顔をだせていない。
「こちらこそ、ガルーの面倒をみてもらって助かってます」
 そんなとき、店に二人組みが現れた。
『というわけで久しぶりに行くぜリュカちゃん! プリプリ☆スターライツ!』
「OK、ガルーちゃん! めたもるふぉーーーーーぜ!!!」
 明らかに女児用の変身ヒロインの衣装を身に纏った二人組みが、懐かしいキメポーズをとった。
「白き煌き、プリホワイト・スター参上!」
『黒き栄光、プリブラック・ムーン登場!』
 二人は手を取り合って、笑顔を振りまく。
「二人は、プリプリ!」
 地獄だった。
 プリホワイトこと木霊・C・リュカ(aa0068)は、白いリボンとレースをふんだんに使ったミニスカートを纏っていた。しかも、一体誰が得をするのか分からないが、スカートの生地は透けている。本当に、一体誰が得をするのだろうか。
「プリプリの新シリーズの衣装を買っちゃったよ。まだまだ、似合うよね?」
 「きゃ」と言いながら、リュカはアニメの必殺技のポーズを取る。
『やっぱり、俺たちは生涯現役だよな』
 豪快に笑うガルー・A・A(aa0076hero001)のスカートは、ぎょっとするほど短い。ちなみにスカートには睡蓮の刺繍が施されていたが、鍛え上げられた太腿のほうにどうしても視線がいってしまう。そんな男二人のプリプリ姿に、パートナー二人は声を上げた。その声に驚いたのは、リュカとガルーである。
「えっえ、せ、せーちゃん??」
『オリヴィエもなんで……それでも宴会芸としてやらねばならねえ時もある。なあ、リュカちゃん!』
 もう一度ポーズを取るのだ、とガルーはリュカを促す。
 だが、すでにリュカは征四郎に正座させられていた。
「いや、ほら、この飲み会シリーズにでるなら、お約束というものが……ですね……」
 衣装も新シリーズのがでたし、とリュカは小さくなっていく声でぼそぼそと呟く。
「オリヴィエに大事な時期だから……ってせーちゃんを預けてきたはずなのに」
 なんで、彼女は目の前で怒っているのだろうか。
「まさか裏切りに合うなんて……!」
 よよよ、と泣きまねをするが妻には通じなかったようである。「リュカ!! ちゃんと聞いてください!」と怒られる。
「はい……ごめんなさい………」
 結婚と妊娠を経て、征四郎はなんだか強くなっているような気がする。
 頼もしい、と思ってしまうのはリュカが頼りないからなのか。それとも征四郎が強すぎるからなのか。
 一方で、ガルーも正座していた。
 目の前で仁王立ちになっているのは、オリヴィエである。
『そんな義務どこにも発生してない、帰ったら衣装全部燃やすからな』
 絶対に着ると思って準備していたら、思ったとおりである。十年前からまるで成長していない。そういえば、リュカもガルーも十年前からすでに大人だった。三つ子の魂百までと言うが、彼らは死ぬまでこうなのだろうか。ああ、嫌過ぎる。
『とりあえず、俺は実家に帰る。親孝行もたまには必要だから』
 帰ったら荷物をまとめるからな、とオリヴィエは言う。
『実家ってどこ!? まさか、あの人のとこ?! 駄目だ。絶対扉開けてくれないじゃねーか帰らないでぇ……!』
 まるで棄てられる男のようにガルーは、オリヴィエに縋りついた。
 どんな場面なんだろう、と他の客は二人をみた。ガルーのコスプレがあまりに謎すぎるためである。アニメのコスプレをした中年男性が青年に縋りつく光景など、理由がまったく見当たらなくて当然である。
「頭あがらないんやな」
 正義に笑われるとガルーは、幸せそうに笑った。
『いやもうほんと可愛いし綺麗で……仕事に送り出すと不安で……学生時代も相当モテてたからな……こんな年齢差あって大丈夫なのかなぁ』
「年齢差があるとやっぱり不安だよねー」
 俺のところもだよ、とリュカは笑う。
 だが、すぐ征四郎に「リュカ!」と怒られた。
 彼らは精神年齢がちょうどつりあっているのではないだろうか、と正義は思った。
『それにしても……今更な話してるな』
 小鳥とエステルのほうを見て、オリヴィエは小さく呟いた。生涯独り身の人間だって珍しくないので、放っておけばいいのにと思う。だが、まだ独り身のアルメイヤをガルーが口説かないことは嬉しく思ったりもする。
「皆さん、タイムカプセルにつめるメッセージはもうお書きになりましたか?」
 店員の言葉に、全員が「あっ」と声を上げた。
 忘れていたが、そんなサービスもあったはずだ。
『10年後か……何も変わってなさそうだしメッセージ書いてもなぁ』
 レオンハルトはペンを回しながら、難しい顔をしていた。
 自分へのメッセージがなにも思いつかないらしい。
 そんなレオンハルトを蘿蔔はにらんでいた。
「年取らないのずっこいです! 私は……どうなるかなぁ。ちょっと、不安です」
 今の仕事を続けているのだろうか。
 レッスンを受け持っている子たちは有名になるのだろうか。
 考えれば考えるほどに、不安は積み重なっていく。なんだか、十年後は少し恐いなと思うほどに。だって、今でさえ十年前に願った日常とは大きくかけはなれているというのに。
「……きっと大丈夫、ですよね。これからも」
 自分に言い聞かせて蘿蔔は「幸せですか?」とメッセージを書いた。
 これを呼んだ十年後の自分が「若い私って、馬鹿馬鹿しいことを考えたな」と思えるほどに、自分も周囲も幸せであることを願って。
「私も何を書いたらいいかわらないの。十年後だったら子供たちは小学生ぐらいなんだけど……ああ、そうだ。依が恋していますか、とかはどう?」
 仁菜の言葉に、依が「やめろ」と呟く。
「なら、いまはどうなの? 恋してる?」
 興味津々の仁菜に、依はため息をついた。
『これだけ愚痴を聞かしておいてそれを聞くか? そんな面倒なことわざわざしない。仁菜とリオンの恋愛相談にさんざん付き合わされて、面倒くさすぎて俺には無理って悟った』
「もーまたそんな事言って! 恋はいいよぉ! ときめき大事だよ! リオンは今でもかっこいいし私の王子様だからね!」
『その惚気は耳にタコが出来るほど聞いた』
 はぁ、とことさら大きなため息を依はつく。
 ――多分俺は、恋なんて特別な感情……持たないだろうな。
 依は、もう10年以上前の誓約した日を思い出す。
 一度死んで、この世界に流れ着いた時に最初に見たもの。それは、まっすぐに伸ばされた少女の白い手だった。忌み子の象徴である自分の目をまっすぐ見てくれた、少女。あの瞬間の彼女を依は一生忘れることはないだろう。

”これから一緒に生きてる意味を探そう。”

――きっと、あの時以上の光には出会えない。
 そして、それを彼女に明かすこともないかもしれないけれど。
「生きる意味は何かなんて言葉で簡単に言えるものじゃない。ただ……こうやって幸せそうに未来へ進んでいく仁菜とリオンを見て……楽しそうに笑う仲間を見て……この世界に生きてて良かったと感じられたなら、それが俺の答えなんだと思う」
 だから、十年後に自分に託すメッセージはない。
 だって、未来の彼は「生きていてよかった」感じているはずだから。
「レイオン、元の世界に戻りたいよね」
 メッセージを書く手を止めて、春月は悩み出した。
 レイオンは、それに対して微笑んで答える。
『いつかは戻ろうと思っているよ』
 でも、まだ時期ではないとも思っている。
 もう少しだけ、隣の少女を見守っていたいと思ってしまっているのだ。ああ、もう少女という年齢ではなくなってしまっているけれども。
「そうだよね、戻らなくっちゃね。向こうの世界に3人の娘さんがいるんでしょ」
 春月の言葉に『……ん?』とレイオンは首を傾げた。
「こっちには娘さんの結婚資金のために出稼ぎにきたんだよね」
『……誰のはなし?』
 どこかで聞いたことがあるような気もする。もっと正確に言えば、読んだことがあるような……。レイオンはようやく思い出した。春月が買ってきたファンタジー漫画の内容である。
「違ったっけ。「お父さんの入ったお風呂に入りたくない!」って言われてショックでこっちに来たんだっけ。大丈夫、娘さんの思春期過ぎれまた仲良くなれるからっ! 元気出してレイオン!」
『春月酔っているね。僕の過去を捏造していないで水を飲んで』
「よっしゃ、踊ろうっ! 踊れば悲しい気分も吹っ飛ぶよ!」
 何でそうなるの? というレイオンの問いかけも虚しく春月は踊り始める。なんとなく東洋のエキゾチックさを感じるのは、件の漫画の舞台が昔の東洋であるからだろう。
「踊ったらスッキリしたよ。もらい」
 レイオンがのこして酒を飲み干す春月は、言葉通りどこかさっぱりしたような顔をしていた。
『酔ったままあんなに動いて、何で元気なのか不思議だよ』
「こればっかりは、体質だからね。ところで、レイオンが元の世界で魔王討伐に行った時の話なんだけどさ」
『さっきと設定が違うね。たしかそれって、この間映画になった漫画の話しだよね』
 あれーそうだったけ? と春月は笑っていた。
 その向かいで、さくらはデザートのプリンを食べていた。だが、整った眉をすこしだけ寄せて不機嫌そうである。
「父上が作ったプリンの方が美味しいです」
 愛娘にそういわれてしまい仙寿は少し赤くなった。照れ隠しのように、十年後のメッセージを考え始める。
「サムライガールになります」
 さくらは、そう宣言した。
 娘の夢に、仙寿は思わず感心する。
「やっぱりあけびの子だな」
「刀と銃を使って戦います」
『えっ、銃!?』
 これを聞いて驚いたのは、あけびである。
 仙寿は銃を好んだが、あけびは銃より刀を好んだ。遠距離攻撃が必要な際には、弓を使用していた。
『私達の子だねー……まさにハイブリッド?』
「刀も銃も、私の刃です」
 ああ、一体将来どんな子に育ってくれるのか。
 誰かを救う刃であれ。
 両親の信念を受け継いでいる娘だけれども、心配になってしまうのは親心というもの。
「父上と母上は何を書きますか?」
 さくらは、まだ真っ白なメッセージカードをじっと見つめていた。
『家族仲良く。そして……さくらや下の子達が元気でいてくれればそれで良いよ』
 あけびは、さくらの頭をなでる。
「お前は力を持って生まれた。きっと将来立派な剣客になるだろう。お前が自分の信じた道を突き進む事が出来るように願っている」
 そして、いつまでも健やかでいてくれますように。
 日暮夫妻は、そう書き残した。
 フランも筆を取る。
「十年後にこれを皆で見るのか……なんだか恥ずかしいじゃねーか」
 照れ隠しで笑いながらフランはSに対する思いをつづる。
 ――Sへ、十年間側にいてくれて、ありがとう。これからも、側にいてくれてありがとう。凛へ、仕事とかが忙しいかもしれないけど無理するんじゃないぜ。澪へ、泣いている人を見つけたとき、その人に手を差し伸べるような男になってくれよ。成長を楽しみにしているぜ――
『僕には、ないんだね』
 フランのメッセージカードをレイリックは後ろから覗き込む。
「おっ、びっくりさせるんじゃねーの」
『気にすることないよ。家族優先なのは当然のことだよね』
 レイリックは、そういうと凛のほうへと向っていった。
 彼にも何か一言書こうかと思ったが、かわりに娘と楽しげに会話しているレイリックの姿を写真に収める。いつか、タイムカプセルを開けるときにレイリックも側に居ることを祈りながら。
「俺も書く!」
 澪は、Sに紙とペンを受け取って「パパとママと一緒に幸せにすごしたい」と書いた。それを見守りながら、Sと正宗は互いに同じメッセージを書く。
 幸せな家族でずっとあり続けたい、と。
「リュカは、なんて書きますか?」
『ガルーはどうするんだ?』
 征四郎とオリヴィエは、自分のパートナーたちに尋ねる。
 幸せな家庭、増える家族、きっとリュカもガルーもそういうものを思いやるようなメッセージを書くと征四郎とオリヴィエは思っていた。
 リュカとガルーは、よく似た笑みを浮かべて息をそろえて答えた。
「十年後も、プリプリのコスプレを継続!」
『プリプリは永久不滅だぜ!』
 居酒屋の気温が、二度ほど下がった。
 後に、その場に居合わせた者は語る。征四郎とオリヴィエが小さな声で「――さようなら」と呟いたのを。一体、彼らが何に「さようなら」をしたのかは、謎につつまれているという。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 私はあなたの翼
    九重 依aa3237hero002
    英雄|17才|男性|シャド
  • そうだよ、楽しくやるよ!
    春月aa4200
    人間|19才|女性|生命
  • 変わらない保護者
    レイオンaa4200hero001
    英雄|28才|男性|バト
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • これからも、ずっと
    フラン・アイナットaa4719
    人間|22才|男性|命中
  • エージェント
    レイリック・ハウバーンaa4719hero002
    英雄|25才|男性|ドレ
  • 愛するべき人の為の灯火
    御剣 正宗aa5043
    人間|22才|?|攻撃
  • 共に進む永久の契り
    CODENAME-Saa5043hero001
    英雄|15才|女性|バト
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