本部

特殊AGW実戦試験 ~遠征ver.~

一 一

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
4人 / 4~10人
英雄
4人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2019/03/04 20:46

掲示板

オープニング

●珍しくおでかけ中
 バァン!
「目標従魔の消失を確認。残弾5、操作性良好、暴走の兆候なし」
「――うむ。弱小とはいえ敵性存在の排除が可能ならば、ほぼ成功と評価してもよかろう」
 関東のとある山の中、改造エアガンを構えた男の背後にいたグラサンが頷く。
「ついに、ついに我々の開発したAGWが人の役に立つ時代がきたのですね!?」
「長かった……! 本当に長い道のりだった!!」
「うそだ、しんじられない……わたしたちのAGWがばくはつしないなんて!!」
 さらに背後には、大量の荷物を背負った大勢の男女が口々に歓喜の声を上げている。
 その様子を振り返ったグラサンもまた、感慨深げな微笑を浮かべる。
『特殊状況下を想定した特化型AGW開発部(略称『特開部』)』はこの日、試作機の運用試験で遠出中。
 今まではH.O.P.E.に依頼するのが常であったが、今回は予算をケチって職員だけで行っている。
 まあ、H.O.P.E.からこれまでの試験内容にさんざん苦言を寄せられたり。
 上司から『お前らの解体が世界の平和だ!』と言われた意地もあったり。
 最近研究室にこもりきりで職員の運動不足が深刻だったりしたことも、要因ではあるのだが。
「安心しろ、これは現実だ。とはいえ、諸君らの信じられない気持ちもわかる」
 職員たちが感動に打ち振るえていると、グラサン主任が腕を組んで頷く。
「AGW開発は、失敗と爆発を繰り返す危険な仕事だ。『正常』に動くことこそ、我々の『異常』ともいえる」
 本当に残して大丈夫か、ここの部署?
「故に、まだ安心するのは早い……この『エアショット』が爆発しない原因を探るまではな」
 グラサンを押し上げキメ顔の主任に、職員たちははっと表情を改めた。
「『正常』に稼働するなどという『異常』を見逃すのは、開発者としては二流だぞ」
『主任……』
「十分なデータは取れたが、帰った後も仕事は山積みだ……検査・解析で爆発することを祈ろう」
『――はいっ!!』
 この人たちの『正常』と『異常』は狂いすぎじゃなかろうか?
「――ん?」
 ともあれ、全員が帰り支度を始めたその時。
 1人の職員が『異常』に気づく。
「どうした?」
「主任、何か、聞こえませんか?」
 耳をすませると、確かに周囲の木々からざわめく音が――どんどん大きくなっている。
「……なっ!?」
 直後、茂みから大量の『何か』が主任たちの前に現れた。

●人望という敵
「みなさーん! SOSの連絡が入りましたー!!」
 H.O.P.E.東京海上支部にいた職員・小雪の大声で、その場にいたエージェントが一斉に反応する。
「場所はここからも近い山の中なんですけど、依頼者たちは大量の敵に襲われて絶賛逃走中だそうです!」
 現在進行形の事件と言うこともあり、詳細を確かめようとした何人かが立ち上がり――
「なお、襲われているのはグロリア社の『特開部』さんだそうです!」
 ――名前を聞いたとたんほとんどのエージェントが座り直した。
「話によれば、試作したAGWの運用試験を名目に職員全員でハイキングに出かけたところ、従魔やイントルージョナーらしき大量の小動物型の敵と遭遇したそうです! 種類はネズミ・ムカデ・クモを確認済みで、とにかくうじゃうじゃいるのだとか! 現在試作品で迎撃しながら逃げてる最中で……あれ? どうしました?」
 情報をほぼ伝え終えたところで、小雪はエージェントの『こっち見んな』という雰囲気に気づく。
『特開部』の悪名はかなり広がっており、関わりたくない者が大半のようだ。
 後は……話を持ってきたのが自称・ドジっ子職員だったことも一因かもしれない。
「あのー! お仕事でーす! 内容は簡単な害獣駆除と一般人の保護ですよー! もしもーし!!」
 が、小雪がしぶとく粘ったおかげで、渋々ながらエージェントが集まってきた。
 この状況はほぼ自業自得なのだが、見殺しにするわけにもいかない。
「はーい、じゃあコレが現場の状況です! それじゃあ、行ってらっしゃい!!」
 そうして、エージェントたちは軽い調子の小雪に促されて現場に向かった。

解説

●目的
 従魔・イントルージョナーの撃退
『特開部』の救出(迷惑行為の阻止)

●登場
・ネズミ型、ムカデ型、クモ型(数不明)
 すべてミーレス級相当
 単体の強さは脅威ではないが、とにかくわらわら~っと襲ってくる
 イントルージョナーの攻撃もライヴスを伴うため、油断はできない

・グロリア社の『特殊状況下を想定した特化型AGW開発部(略称『特開部』)』の主任及び職員
 全員開発プロジェクトに携わっている技術者で優秀
 基本的に研究・開発に没頭しており常識に疎く、頭のネジが外れている

●試作AGW
・汎用自衛型AGW「エアショット」
 以前開発していた空気銃(仮)を実用段階までこぎ着けた試作機
 いまだ上司に成果報告をしていないため、違法改造機に代わりはない

 AGWに新たなライヴス蓄積機能を加え、事前供給でも従来より高密度かつ長時間の独立運用に成功
 使用時は大気中のライヴスも利用するため使用者への負担が少なく、一般人の自衛用として活躍が期待
 課題だった出力系もやや改善されたが、ライヴス蓄積技術が不完全で継戦能力の低さが現状の問題点

 性能
・命中=生命力-3(ダメージ固定)
・総弾数=10発(蓄積ライヴス量の限界)

●状況
 場所は関東某所の山の中
 前回のハロウィンサバゲーから改良を重ねた試作機の実戦試験のため特開部が遠征
 探索中、1体のミーレス級従魔を倒したことをきっかけに敵集団と遭遇し撤退を決断
 救援要請を受けたPCと合流する頃には、あり得ない数を引き連れてくる

(PL情報
 合流後も『特開部』は基本大人しく守られてくれず、好奇心のままに動き回る可能性が高い
 一応護衛対象ではあるが、最悪の場合殴ってもいい)

リプレイ

●またあいつらか……
「あそこの部署って成功例があったのか!?」
「拓海。さすがにそれは……失礼、よ?」
 愕然とした荒木 拓海(aa1049)をたしなめるメリッサ インガルズ(aa1049hero001)の歯切れは悪い。
 数度ながら試験に参加した経験から、心より嬉しく――いや、安堵がある。
 同時に膨らむ、謎の不安感は無視しよう……。
「……ま、何にせよ助けんわけにはいかんか」
「……ん、色々あったけど……頑張ってはいるから、ね」
 麻生 遊夜(aa0452)とユフォアリーヤ(aa0452hero001)も、奥歯に物が挟まったように頷く。
 たぶん、自分を納得させるための暗示だろう。
「それに……アレがどういう出来になったか、前の試験に関わった者としての興味もある」
「……ん、コンセプトは、悪くなかった」
「おそらく、皆もその辺は同じだろう……『特開部』と聞いて来た以上は」
「……ん、ネームバリューは、悪かった」
 前回の試験を思い出しながら、遊夜とユフォアリーヤは救出の準備を進める。
 ちょいちょい悩ましげな表情なのは仕方ない。
「また、『特開部』かぁ……」
 当然、高野信実(aa4655)のように名前だけで若干尻込みする者もいた。
「いや、例えどんな人でも、見過ごして良い命なんてありません! そう、どんな人でも!!」
「いずれにせよ、程々に頼みます。君の実直さは、時に自らの立場を危うくしかねない位なのですからねぇ」
 人命救助を強調し自分を鼓舞する信実に、福田 シゲオ (aa4655hero002)は引率の先生さながらなだめた。
 正義感が強い信実をして、ここまで躊躇させる『特開部』は相当大物だ。
「いや~、あの時の改造銃が完成したんですね~。良かったです~」
「……だけど、そのテストで襲われるのは駄目だろ……」
 ポン、と手を合わせた兎川 結衣 (aa5567hero001)の傍らで、古明地 利博(aa5567)は天を仰いだ。
『特開部』とは割と縁が太い2人だが、彼らの意外性には毎回閉口させられている。
「あれ~? こーちゃん、どこ行くんですか~?」
「準備だよ。保護対象をふんじばるのに必要だろ?」
「あ~、そうですね~」
『保護対象を縛るのか?』という疑問もなく、結衣は利博の言葉にあっさり納得した。
 これが『特開部』クオリティ。

●試し撃ち無限湧き
 結局、共鳴した救出部隊は4組のみで『特開部』を探していた。
「そういえば、小雪さん発信の依頼なんだよなぁ……」
『判って来た時点で拓海の負けよ』
「『エアショット』成功を祝いたかったんだ」
 道すがら、拓海は抱える胸のもやもや感からか、頭に悪い要素(?)が浮かんでは消える。
 メリッサからもっともな至言を食らいつつ、拓海は眉尻を下げて斜面を駆けた。
「っ! 山林でも、補助がついて、助かったな、っと!」
『……ん、その分、隠れる場所も多い』
 続いて遊夜がフォレストホッパーを駆使し、時折樹木を足場代わりに蹴りながら進む。
 ただユフォアリーヤが言うように、鬱蒼とした木々は敵の姿を誤魔化してしまいそうだ。
「いざとなれば、まとめて切り捨てる。山が多少禿(は)げようが、人命優先だ」
 すると、眼光鋭い新緑色の瞳で前方を睨む信実が、割と過激な対処法を口にする。
 普段と比べてかなり無愛想だが、優先順位の頂点に人命救助を据えるからこその考えなのだろう。
「そりゃ勇ましくて結構だがな……間違っても背中から斬ってくれるなよ?」
「誤って味方を斬るようなヘマはしない……邪魔立てするなら話は別だが」
 そのすぐ後ろにいた利博が半分本気の軽口を叩けば、信実からガチもマジな目つきで返された。
「……なら、間違っても救出対象を斬るなよ?」
 利博は真っ先に『特開部』が斬られる映像が浮かび、念のため忠告を重ねる。

 一抹の不安を抱えつつ、人の形跡をたどった一行はついに茂みをかき分ける音を聞いた。
「おお! 救援か!」
「良かった無事……じゃねぇ! どんだけ引き連れてんだ!」
 最初に主任を目撃した利博は一瞬安堵し、すぐに後ろから迫る大量の群れにドン引きする。
 ネズミ・ムカデ・クモが木々を侵食するように押し寄せる様は、一個の生命体のようでとても気色悪い。
「よう、迎えに来たぜ?」
『……お待たせ』
 そこへ、カチューシャを展開した遊夜が、『特開部』と敵の間を隔てるように上から着地。
「――ついでに出前の到着だ、盛大に行くぜ!」
『……ん、いっぱい食べて、ね?』
 瞬時に獰猛な笑みを敵へ向け、ユフォアリーヤの笑い声と同時に面制圧のロケットが前方を吹き飛ばした。
「どけ。邪魔だ」
 土煙が晴れぬまま、今度は信実が『特開部』とすれ違い薄氷之太刀「雪華」真打を抜く。
 敵の後続が煙幕から現れた瞬間、雪結晶の刃紋が浮かぶ『ストームエッジ』が炸裂した。
「害獣・害虫どもにゃ、ライヴスよりもいいもん食らわせてやるよ!」
「前に出ないで、オレ達の動きに合せて撤退して!」
 初撃でかなりの数を倒してなお、従魔とイントルージョナーの勢いは止まらない。
 一拍遅れで『特開部』をかばう位置に立った利博はライトマシンガンを、拓海はイグニスをばらまいた。
 そのまま『特開部』の不用意な行動を牽制しつつ、退路以外を囲んで背を向け後退する。
「しっかし、よくもまぁこれだけ数が揃ったもんだな」
『……ん、ネズミ、ムカデ、クモ……いっぱいで、もじゃもじゃだねぇ』
 カチューシャのパージ後、アルター・カラバン.44マグナムを構えた遊夜は『トリオ』の速射を披露。
 地を這う敵を土ごとえぐった穴が、すぐに別の敵で埋まる光景にユフォアリーヤがはふぅ、と嘆息する。
「苦手な人なら卒倒しそうな光景だが、状況が状況だしな!」
 ならばと遊夜は次弾に大量のライヴスを集め、敵の密集場所へ『アハトアハト』を炸裂させた。
「にしても……同士討ちしそうな構成してるが、変な期待はしない方が良いんだろうなぁ」
 素早く弾を再装填し、一撃一撃で確実に敵を粉砕する遊夜は思わずつぶやく。
 従魔とイントルージョナーの混成勢力のはずだが、互いに反発せず人を襲うのは確かに妙だ。
「畜生の思考など知らん……が、おそらく保有霊力の違いだ」
 そこへ縦横無尽に刀を振り回していた信実が、刀身に付着した体液を散らして近づく。
「脆弱な手応えからして、力は低級。オレたちを貪った方が、互いを食い合うより効率的なのだろう」
『……ん、利害の一致? 案外、仲良し?』
「興味がない。畜生と語る言葉は持たない故、真意が別にあろうと構わない」
 信実の推測にユフォアリーヤが疑問をこぼすも、やはり返答は素っ気ない。
「寄らば切る――こちらを害する意思には、それだけで事足りる」
 そして、信実は一斉に飛来した敵の群れを高速の斬撃で歓迎した。
「出会い頭でド派手にぶっ放してくれたおかげか、案外楽な仕事になりそうだな」
 しばらく攻撃と後退をしていると、利博は敵の勢いの衰えを見抜く。
 マシンガンの掃射を止めず、終わりが見えてきた撤退戦に自然と笑みが浮かんだ。
「よし! 我々も、エージェントの援護を――」
「いりません! 実践テストも、本来ならオレ達の仕事ですよ!」
 すると主任以下『特開部』が善意からエアショットを構えたため、すかさず拓海が制止し没収した。
「待て! それは正式な使用法で爆発しない欠陥品だ! 従魔1体を撃破したとて、迂闊に触ると危ない!」
「爆発させてないのが正しいはずだろ!?」
 すると、心から明後日の心配をする主任の発言で、ついに拓海から敬語が抜ける。
『よせ、早まるな! それは我々の試作機だぞ!?』
「……とにかく! ここはオレ達が対処しますので!」
 職員が放つ謎の説得力を振り切り、拓海は1丁を残して没収品を幻想蝶に入れた。
「――荒木さん、使っていいなら俺にも1丁貸してくれ」
「どうぞ!」
 そのやりとりを聞いた遊夜も便乗し、拓海から投げ渡されたエアショットに持ち替える。
『……ん、試作品で迎撃……完成は、感慨深い』
「うむ。一体とはいえ、撃破できたのは結構デカい実績だ。ここいらでスコアを積むのも悪くあるまい!」
 ムフー、と満足げなユフォアリーヤに頷き、遊夜は初めて攻勢のため前へ出た。
 足場に不自由を感じさせない動きで飛び回り、敵の残存勢力をさらに減らしていく。
『職員さんの話によれば、内部バッテリーに蓄積したライヴスを最大10発まで弾丸に変換できるらしいわ』
「つまり、適宜自分でライヴスをチャージすれば弾数は気にしなくていいんだな!」
 メリッサのスペック解説を聞きつつ、拓海もエアショットを遠慮なく撃ちまくった。
「……はぁ、ようやく一息つけるかね」
『特開部』周辺から敵が引いたところで、利博は一旦共鳴を解除。
 当面の危機を脱したものの、護衛対象の監視に人手を増やした方がいいと判断したためだ。
「こーちゃん、お疲れさま~。あ、特開部の皆さ~ん! 試作品完成、おめでとうございます~!」
「それ今言う事じゃないだろ!?」
『ありがとう!!』
「お前らもずいぶん余裕だな!?」
 が、早々に油断しまくったやりとりをする結衣と『特開部』を鋭くつっこむ利博。
「またつまらぬものを切ってしまった……それにしても、やかましい連中だ」
 そうこうする内、完全に敵の増殖が途絶えたところで信実が雪華を血振りし体液を散らした。
 その際、騒々しい『特開部』を肩越しに睨んで小さく苦言をこぼす。
「すいません~、私も興味あるので使ってみていいですかね~? データ収集のお手伝いしますよ~」
「……今回は服が破けるみたいな、ふざけた仕様はないよな?」
 すると、ここで結衣も試作AGWのモニターを申し出た。
 一応、『特開部』の許可を得てから拓海に予備を受け取り、利博もおそるおそる引き金を引く。
「高野さんはどうする? ……無理にとは言わないけど」
「……刀以外は持たない主義だが、任務の範疇ならば吝(やぶさ)かではない」
 全弾撃った後、利博はライヴス補充が必要と信実に前置きしてエアショットを示した。
 ダメ元の提案だったが、意外にも信実は銃を受け取り遠くのネズミへ照準を合わせる。
「ふむ、この飛び道具は便利だ。通常の銃器類に比べ、扱いが楽でいい」
 数発撃ったところで、信実はエアショットをそう評価した。
 弾数を常に把握すれば弾切れの隙も作らないため、使い勝手はいい。
「威力は均一っぽいな……どんな強い敵にも確実に一定ダメージなら、数がそろうと無敵じゃないか?」
 這い寄るネズミ・ムカデ・クモがいなくなり、拓海は製品化を真面目に考える。
 単体での爆発力こそないが、先に使用したイグニスと比較してもメリットは十分の武器といえた。
「負担が少なく長時間の独立運用が可能、使用者が一般人想定なら出力は十分だな」
『……ん、あとは……継戦を考えると……蓄積貯蔵式より、マガジン、カートリッジ式?』
「携行性と軽量化を考えればそうだが、蓄積技術が向上するまではお預けだな。ま、繋ぎにはなるだろ」
 さらに、様々な銃器を扱ってきた遊夜とユフォアリーヤもそれぞれ所感を述べる。
 信実の評価はエージェント寄りのため、一般普及を念頭に置くと課題点はやはり多いのだ。
「……おい、あのグラサンどこいった?」
 しかし、そこで利博がちょっと怖い事実に気づく。
「――ぉぃ!」
 慌てて周囲を見渡せば、何故か遠くから主任の声が。
「お~い!」
「――なっ!?」
 利博は反射的に振り向き、すぐに後悔した。

 ズゾゾゾゾゾッ!!

「誰か! 研究用にイントルジョナーを捕獲してくれ!!」
「先に一声かけて動けドアホがぁ!!」
 先の倍はいるウゾウゾを引き連れてきた主任に、青筋浮かべた利博の罵声が飛んだ。

●おかわり大盛り、敵意マシマシで
「クソっ、本当にどんだけいるんだよ!? キリが無いぞこれ!」
「さっさと逃げた方がいいですね~。多勢に無勢ですよ~……これだけ集めるのは、むしろ才能ですね~」
「感心してる場合か!!」
 とっさにエアショットで牽制した利博と結衣だが、完全な焼け石に水で早くも途方に暮れかける。
 だが諦めて食われてなるものかと、再び共鳴して『女郎蜘蛛』を投擲した。
「さすが主任!」
「その探求心、見習います!」
『我々も協力を!!』
 その間に主任が中心へ戻ると、『特開部』は非難どころか逆に大興奮。
 守られる立場も忘れて、自分から敵へ手を伸ばすバカまで現れた。
「『寄るな!』」
 さすがに危険だと感じ、拓海が『臥謳』で敵とバカを恫喝。
「危ないから下がって! 何かするなら、せめてライヴス補充の協力くらいしろ!」
 動きが止まったところを見計らい、拓海は弾数0の試作AGWを投げ返した。
「あーもう! こんなに人数雇う予算があるなら、護衛報酬増やしてくれ!」
 敵には完全に包囲され、『特開部』の規模的に撤退は不可能。
 愚痴る拓海を含む全員が自前の武器に持ち変える暇もなく、苦肉のバケツリレー方式で撃ちまくる。
「煩い。研究員が戦場にでしゃばるな……三枚におろすぞ」
『おわっ!?』
 同じくエアショットで牽制する信実は、苛立たし気に雪華の柄に手を置きひと睨み。
 こっそり抜け出そうとした職員へ、『ストームエッジ』の切っ先を眼前に突きつけ脅して止める。
「大人しくしてるとは思ってなかったが、っ!」
『……ん、ここで勝手は、困る』
 ある程度の暴走は読めていたが、逆境を自作する手腕には遊夜もユフォアリーヤもうなるしかない。
「だから……こういうの、持ってきた」
 それでも敵へ近づこうとする職員を見て、ユフォアリーヤは共鳴を解除し満面の笑み。
 手には『野戦用ザイル』と『鎖付き首輪』が……。
「私も、こんな事したくないの……でも、安全のためだから……」
 同じく共鳴解除したメリッサもザイルをピシャリと鳴らし、博愛とサドっ気あふれる笑みを向けた。
「はしゃぐ気持ちは! 分からんでもないが! 時と場合を選べ!!」
「……ん、大人しくするか……首輪をつけられるか、ザイルで蓑虫か……選んでいい、よ?」
「オプションで近くの木に吊るしてあげるけど、どうする?」
 遊夜の一喝からユフォアリーヤとメリッサがクスクスと喉を鳴らし、職員へにじり寄る。
「蓑虫で!」
「首輪と亀甲希望!」
「全部盛りっていけますか!?」
「おい!? 縛るのはいいが、さっさと加勢して欲しいんだけど!?」
 直後に上がる手間がかかりそうなリクエストに、エアショットで踏ん張る拓海から悲鳴が上がった。
 というか、この部署変態多いな。
「足りなかったら使え!」
 さらに、利博も用意していた丈夫な荒縄を投げ渡す。
 これだけの拘束具を見ると、『特開部』と面識があれば実力行使が一番楽だと思うらしい。
「……埒(らち)が明かない」
 薄刃の『インタラプトシールド』で職員への攻撃を防ぎ、信実は状況を打開するためあえて前へ出た。
 強引に刀で敵群を突破し、味方からある程度離れたところでエアショットを構える。
「まとめて消え――っ?!」
 鋭い声と同時、『ウェポンズレイン』が生み出した無数の銃身から轟音が鳴り響いた。
「……くっ! おい、まだか!?」
「もう少し! 今、最後の1人を吊るしてるところよ!」
「時間の使い方考えてくれ!!」
 一方、拓海はようやく十数人の蓑虫をさらしあげたメリッサと再び共鳴し、『臥謳』の構えを取る。
「あぁ、くそっ! やってやるよ!!」
 そのタイミングで利博が覚悟を決め、『女郎蜘蛛』を発動してエアショットへライヴスを注入した。
「お誂(あつら)え向きな状況だし、一丁やるか!」
『……ん、全力全開』
 遊夜も再共鳴でユフォアリーヤの存在に調子を取り戻し、2人で笑みを浮かべてライヴスを集中。
 エアショットによる『バレットストーム』で、周囲を一掃する――
「……おい!」
 ――寸前、体がところどころ焦げた信実が帰還し『特開部』へ詰め寄った。
「あの銃、スキルを使うと『爆発』したぞ! どういうことだ!?」
『っ!?!?』
 全員が息をのんだ直後、3人の手にあったエアショットに大量のライヴスが収束した。

 ――ズドオオォン!!

 ……南無三。

●総評
 その後、必死に戦い敵を退けられたエージェントたち。
「はぁ、はぁ、ゲホッ! 何とか、なったな……」
 ボロボロで息も荒い利博は、大きく咳き込んでようやく安堵した。
「ですね~。あ、改めて試作品の完成おめでとうございます~」
「おいクソ兎! あれのどこが完成だ?!」
 しかし、続けて結衣が木にぶら下がる『特開部』へ発した一言に大きく抗議する。
 切迫した状況と信実の一言が引き金となり、ライヴス操作を誤った拓海と利博の試作機は手元で爆発。
 遊夜も何とか弾を吐き出して難を逃れようとしたが、結局スキル後に爆発したのだ。
 首輪付き逆さ蓑虫の主任曰く、ライヴスを注がれた貯蔵部が許容限界を超えたためらしい。
 臨界点はスキル使用の他、エージェントが通常のAGWで使用するライヴス量でも怪しそうだ。
「かなり良くなったとおもいますけど、持久力がないですね~。1体を複数人で攻撃するなら大丈夫そうですけど、今回のようなケースだと多分息切れして死んじゃいます~」
「なるほど、大いに参考にしよう」
「――じゃないっすよ! 何で無茶しようとしたんすか!」
 そのまま結衣がエアショットを批評し、主任が頷いた時に共鳴を解除した信実がぷんすこ怒り出した。
「それは、学術的興味と、多面的な視点が、開発のヒントに……だめだ、しこうが、ちる」
「とにかく! 危ない事は絶対しないでください! 命あっての研究なんすからね!」
 逆さ吊り状態で頭に血が上ってきた主任に負けず劣らず、顔を真っ赤にした信実は説教を終えた。
「『王』を倒しても、まだまだ仕事があるのね……一人くらいなら、吊るしたままでもいいかしら?」
「いや、ダメだろ……気持ちはわかるけど」
 それから順に蓑虫を解放していく中、メリッサのくすぶるサド心が不意にうずく。
 痛い目にあった拓海は同意しかけるも、ぐっとこらえて縄をほどいた。
「何はともあれ、お疲れ様」
「無事で良かったわ。にしても、隠れ潜む従魔を誘き出す能力が有るなんて凄い事よ。主任さんは相当ね」
「帰る前に、少し休憩を入れましょうかねぇ」
 縄を回収し、改めて無事を喜んだ拓海とメリッサの後で、シゲオが高級ティーセットを取り出す。
 全員にジャスミンティーを淹れて振舞えば、シゲオは無駄と知りつつ『特開部』へ改めて向き直った。
「他人がどうこう言えることではありませんが、貴方達は何故、研究者を目指したのですか?」
「というと?」
「いえ、貴方達が取ってきた行動が、目標達成の為にはあまりに非効率ではと思われたもので」
 教師らしく穏やかに説得を試みたシゲオに、主任はふっと笑みを浮かべた。
「研究開発は数多の失敗と、一握りの偶然が成功の鍵だ。最短ルートも遠回りもないのだよ」
 違う、そうじゃない……研究者っぽいだけの主任の返しに、シゲオ以下全員の思いが一致した。
「そうだ、イントルジョナーのサンプルは確保できたかね?」
「……ムカデでよけりゃ、な」
 さらに要求を重ねた主任に、利博はすごいむしとりあみで捕獲した虫の息のムカデを示した。
 捕獲はしたが、生命力がギリギリでは生体観察は難しそうだ。
「そうだ。よければ、本部にイントルージョナー炙り出し専門の新部隊として推薦するわよ? 今日の強運っぷりなら……うん、きっと大丈夫」
 最後にメリッサが朗らかにした『特開部』への提案で、一同から笑みがこぼれた。
 ……あれ、冗談にしては顔が真剣……?

 後日、主任からエージェントたちに『特開部名誉職員』のネームプレートが送られてきた。
『我が部署製作のAGWによる爆発を経験した者は皆同士』とのこと。
 いらねぇよ。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 特開部名誉職員
    高野信実aa4655
    人間|14才|男性|攻撃
  • エージェント
    福田 シゲオaa4655hero002
    英雄|48才|男性|カオ
  • 特開部名誉職員
    古明地 利博aa5567
    人間|11才|女性|命中
  • 勇敢なる豪鬼
    兎川 結衣aa5567hero001
    英雄|16才|女性|シャド
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