本部

【異界逼迫】連動シナリオ

【界逼】帝都復興ボランティア

一 一

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~15人
英雄
6人 / 0~15人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2019/01/27 22:47

掲示板

オープニング

●在(あ)りし故郷を取り戻す
 雲一つない晴天に恵まれたこの日。
 地中海に浮かぶ帝都ドームに、拡声器を通した女性の声が響きわたった。
『――皆さん! 本日はお集まりいただきありがとうございます!』
 ところどころ破壊の痕跡が見られる神殿を背に、大勢の人へ呼びかけているのはガリアナ帝国女帝・ヨイ。
 整列して彼女へ視線を返すのはH.O.P.E.エージェントと、褐色肌に現代の服装をまとう帝国民たち。
『すでに承知の通り、犯罪組織・マガツヒの2度にわたる襲撃で帝都は甚大な被害をこうむりました』
 ヨイの声音が若干くもり、帝国民の表情にも苦い感情が浮かぶ。
 エージェントの活躍により帝都崩壊の危機こそ免れたが、すべての破壊をくい止められたわけではない。
 加えて2度の侵攻が短い期間で行われたこともあり、未だ襲撃の爪痕は目に見える形で残っていた。
『しかし、我々帝国民はH.O.P.E.と呼ばれる組織に属する勇敢な人々の助けにより、再び出会えました』
 とはいえ、暗い雰囲気はすぐにヨイの言葉で霧散する。
 つい先日まで水晶内で眠っていた帝国民だが、奇跡的に死者は出なかった。
 それがエージェントの功績だともすでに知らされており、帝国民は笑顔で彼らを見つめる。
『そして今もまた、我らが願った故郷の復興のために、こうして多くの方が支援のために集まってくださいました。ガリアナ帝国の女帝として、何より一帝国民として、多大なる尽力への感謝を伝えさせてください。
 ――本当に、ありがとうございます』
 そう深々とエージェントへ頭を下げたヨイに続き、その場にいた帝国民からも拍手喝采が送られた。
 謙遜したり手を振り返したりと様々な反応を見せた後、エージェントたちは再びヨイへ視線を集める。
『それでは、当面の作業について説明します。
 帝国民が目覚めてからの帝都は現状、どこがどこまで破壊されているのかすら分かっていない状態です。H.O.P.E.の方々が我々の生活基盤を整えることを優先してくださったこともそうですが、マガツヒが事実上の崩壊を迎えたことによる諸問題への対応に追われたこともあり、今日まで手つかずのままになっています』
 オーパーツ製造国という最重要施設のため警備は厳重なままでも、それ以外の人員を割く余裕はなかった。
 よって、帝都はマガツヒの首領が死んだ日の状態そのままで放置されていたことになる。
『そこで今後の復興計画を固めるためにも、各作業と並行して帝都の現状調査も行いたいと思っています。『王』という脅威が迫っている世界情勢からして、いつまでも多くのエージェントを拘束し続けることもできません。なので作業効率を上げられるよう、互いに声をかけるなど協力して取り組みましょう』
 ヨイの言葉に帝国民が大きく頷き、さらに続ける。
『私は監督役として全体指揮を行いますので、補佐として上位神官の数名は残ってください。『天蓋の世界樹』の祭壇に異常が残っていないかなど、帝都に組み込まれた各種オーパーツの点検や調整も必要ですから』
 その言葉に年輩の神官が自ら手を挙げ、前へ出てきた。
『こうして多くのエージェントから助力を請える期間は数日ほどです。彼らの厚意を無碍にしないためにも迅速な復興という形で応え、次はよき友人として彼らを帝都へ迎え入れましょう!』
『はい!!』
 ヨイの宣言に帝国民がやる気をみなぎらせ、帝都復興へと散っていった。

解説

●目標
 帝都の復興支援

●登場
・ヨイ
 ガリアナ帝国の女帝
 マガツヒとの戦闘で被害が広がった帝都警備・修復作業・瓦礫処理・破損状況の調査など、
 復興事業全般における責任者兼監督役として現地で指揮

・帝国民&神官
 ガリアナ帝国民の有志ボランティア
 現在は元セラエノの隠れ家で生活しているが、イギリスから駆けつけた
 再び帝都で暮らすことを強く望んでおり、ヨイの指示で雑用を中心に行っている
 ただし神官はかつてオーパーツ生産に携わったことから、技術屋に近い側面で助言を行う

●状況
 マガツヒとの戦闘による破壊の爪痕が、帝都には未だ多く残っている
 水晶から目覚めた帝都民は帰郷の念が強く、生活に余裕が出始めた頃から帝都復興の要望が高まった
 ヨイから相談を受けたH.O.P.E.はすぐさまエージェント派遣と復興支援を決定した

●主な仕事内容
・帝都警備
 マガツヒ残党やガリアナ帝国の技術力を狙うヴィラン組織の警戒および撃退
 想定では帝都で発見されたオーパーツの強奪や、帝国民ボランティアの誘拐などが懸念される
(H.O.P.E.からの正式依頼であるため唯一報酬が発生するが、別作業との兼任は基本NG)

・修復作業
 主にマガツヒが破壊した民家・神殿・オーパーツ工房など、帝都の全体的な修復補助
 帝国の建築家の指示で専用のオーパーツを利用した修繕を行い、PCは雑用含む実作業員として参加

・瓦礫撤去
 戦闘により破壊された建物の残骸を撤去する力作業
 通路幅の狭さなどの安全面から重機は使えず、残骸破壊後の運搬も必要なため共鳴マンパワーが主力

・被害調査
 2度にわたるマガツヒの襲撃により、被害の範囲や程度など不明点が多い
 作業の優先度を定めるため帝都各場所の詳細な損害状況を調査し、作業員への連絡役も担当

リプレイ

●意気込み
「……さぁ、復興頑張ろー!」
「うむ、帰る場所ってのは大事だからな。数日しか滞在できないし、手早く終われるようにせねば」
 おー、と手を上へ掲げたユフォアリーヤ(aa0452hero001)に、麻生 遊夜(aa0452)が笑みを浮かべて頷く。
 帝都の凄惨たる光景を感じさせない帝国民の活気は、見ているだけで元気が湧くようだ。
「……壊しまくったなぁ」
「……仕方ないで済ませる訳には、行かない感じね」
 そんな中、荒木 拓海(aa1049)はメリッサ インガルズ(aa1049hero001)と顔を見合わせ苦笑した。
 余裕がなかった帝都での戦いを思い返して浮かぶ心当たりの数々に、もはや笑うしかない。
「だが、再生出来る状況になった事は僥倖だ」
「――そうね。前向きに考えましょう」
 とはいえ、過去に幾度か別の場所で復興を手伝い、おおよその段取りは把握している。
 すでに活動的な服に着替えている拓海とメリッサのやる気は高い。
「うちは、役に立ってるかなぁ」
 反面、同じく戦場の帝都を知る春月(aa4200)からは普段の快活さが見えない。
 周囲を見渡し崩れた建物が視界に入ると、より表情がこわばった。
「……やっぱり、戦いは嫌だなぁ」
「戦う場に行かなくても、出来ることはたくさんあるよ」
 もやもやとした思いにレイオン(aa4200hero001)が気づき、春月の頭をそっとなでる。
「ぶちこわ! なのね! ハバキにお任せなのね!」
「大丈夫かな……?」
 すると、仁王立ちで気合十分な破魔鬼(aa4756hero002)と不安げな小宮 雅春(aa4756)の声が聞こえた。
「――あ! ハバキちゃん、雅春さん、よろしくねえ!」
 仲の良い友人に気づき、笑顔で突っ込んでいった春月からようやく影がとれる。
「……空元気じゃないといいけど」
 レイオンはその背中に、心配そうな視線を向けていた。
「これは、人手が足りないわけだ」
「……私にも、何か出来ることはないかしら」
 また久兼 征人(aa1690)は、壊れた建物をぼんやり眺めるミーシャ(aa1690hero001)に肩を竦める。
「何かも何も、共鳴するからミーシャも一緒だぞ?」
「それは、そうよね。……うん、今は警備に集中しましょう」
 一度閉じた目を再び帝都を向けたミーシャと共鳴し、征人は背中のモスケールを抱えなおした。

●エージェントの奮闘
「では、俺とリーヤは被害調査に回るとしよう。わかったことがあれば随時、各所へデータを送る」
「……ん、皆が効率良く動く為、情報は必要」
 遊夜は借りた帝都の地図をノートパソコンにデータ化して取り込み、他の端末へデータを送る。
 その間にユフォアリーヤがヨイや担当者との通信状況を確認し、共鳴してジャングルランナーを起動。
「――っと! まずは神殿近く、物資や倉庫が近いところから始めるか」
『……ん、作業してる間に……次の所を、だね』
 マーカーを設置した建物の壁を蹴って屋上へ上り、遊夜は方角を確認しながら助走をつける。
 首肯の代わりにピコピコと狼耳を動かすユフォアリーヤとともに、次の屋上へ跳躍した。

 警備本部がある神殿内にて。
「で、現状ってどうなってるっすか?」
 征人の質問を受け、ヨイが帝都の地図を順番に指さしていく。
「沿岸部には周辺海域の哨戒および監視役。仮設ゲート付近には入港手続きや身元確認を行うスタッフの護衛役。帝都内には規定したルートを回る巡回役。重要施設である神殿やオーパーツの一時保管場所などには、持ち回りで24時間体制の警護役をそれぞれ配置してます」
「なら、俺ら追加人員は基本的に監視・護衛・巡回のどこかで、重要施設は巡回ルートに入れるだけのお任せでいいっすか? そっちは下手に割り込めば、逆に警備体制や連携を崩しそうっすから」
 そうして一通りヨイとの相談が終わった後、征人たち警備隊は連絡手段と色分けされた腕章を確認する。
「デザインは統一していますが、配色は日替わりですので注意をお願いします」
「簡易のなりすまし対策っすね。了解っす」
 右腕の腕章を位置調整し、征人たちは一斉に担当場所へ向かった。

 さて、一番重労働な瓦礫撤去班では。
「手分けしても一緒にでも、チームワークが必要だからね、ちゃんと連絡を取ってやっていこう」
「順番間違えると、もっと壊れちゃうもんね」
「粉塵がすごそうだから、口も覆わないとダメだよ」
「はーい」
 レイオンが責任者と瓦礫の置き場や残骸を取り除く順番などを確認し、横から春月も相づちを打つ。
「なるほど、わかったのね! 手当たり次第に全部ぶちこわ! で解決なのね!!」
「ぜんぜん違うよ!? 作業の邪魔にならないように瓦礫を集めて運ぶのが正解だからね!」
「? 邪魔な物はぶちこわ! すればきれいになるのね??」
「うん、あのね、更地にするんじゃないんだ……」
 一方、鬼の子の性か、壊すことにはことさらやる気の破魔鬼に、雅春はもう一度内容を説明する。
 おそらく、話の中で『楽しそうなこと』だけ覚えた結果が『ぶちこわ!』理論のようだ。
「ダンスで鍛えた体幹で、うちにお任せだよっ。運ぶよー!」
『僕で運んでもいいんだけど――』
「嫌だね! うちがやるね! 共鳴しちゃえば男も女も関係ないよっ」
 気を取り直した春月は力こぶを作り、共鳴したレイオンの控えめな意見を食い気味で一蹴。
 瓦礫の山を前に鼻息荒く気合いを入れる。
 こうして運搬作業がスタートしたが、各現場の瓦礫には大きなサイズの物が多かった。
「そぉい!」
 なので最初は粉砕作業が主となり、破魔鬼と共鳴した雅春が盤古の斧を思い切り振り下ろす。
「破魔鬼さんじゃ! ないけど! これ! 案外! 楽しい! かも!!」
 周囲の安全確認をしながら、雅春は次々と巨大な岩塊を破砕していく。
 共鳴で破魔鬼の意思に引っ張られているらしく、どんどんテンションが上がっていた。
「うちも! マグロで……たたk」
 雅春に負けじと、春月は両手に握った『マグロ』を巨大な瓦礫へ振り下ろそうとした。
『春月、ストップ!!』
「うわっ!? ど、どしたのレイオン?」
 しかし、レイオンに止められ春月は慌てて寸止め。
『それ、両方普通のマグロだよ』
「……え?」
 改めて『マグロ』へライヴスを流すも反応なし。
 春月の双剣『カジキ/マグロ』は『本物そっくりな外見と質感が売り』なジョークグッズ系AGWだ。
 たまたま幻想蝶にあった『マグロ』2匹と間違えるのも、無理はない……のか?
「こ、こほん。今度こそ叩くよ! えいやー!!」
 小さな咳で仕切り直し、春月は本物の双剣で瓦礫をクラッシュ!
 一撃に気合を入れながらも、破片が周りに飛ばないよう気をつけ細かくしていく。
「ふぅ、そろそろ休憩にする!?」
 しばらく作業を続け、額の汗を拭った雅春が周囲へ呼びかけた。
 まだ余裕のあるエージェントは別として、帝国民の疲労度は高いのか賛同の声がちらほら上がる。
「ボクたちに構わず、疲れた人はちゃんと休んでね!」
 そうして適度に休憩を促しつつ、雅春たちはどんどん体を動かしていった。

 一方、破壊を免れたとある工房では、複数の神官が魔法陣に祈りを捧げていた。
 すると粘土質の土がうごめき、次々とブロック状に成形された補修用建材になっていく。
「こんな能力を持つのもあるのか……」
「煉瓦……みたいなものかしら? 成形過程はまるで粘土遊びね」
 建築家の先導で訪れた拓海とメリッサは、入り口付近で一瞬呆気に取られる。
「それで、この懐中電灯みたいな物が――」
「建材の接地面を融合化して接合するオーパーツですね。感覚的には溶接に近いでしょうか」
「すごい、これなら修復は早く終わりそうだ」
 手渡されたオーパーツに感心する拓海だが、説明した神官は首を緩く振る。
「魔法陣の損傷や建物の崩落で、半分以上の工房は使えない状態なんです。加えて、魔法陣の劣化で一部機能が制限されH.O.P.E.提供の土木建築用資材で作成していますから、資材が尽きれば生産も止まるでしょう」
「3Dプリンターみたいに現地で建材を作れるだけでも幸運よ」
 メリッサが幻想蝶に建材を入れながら微笑み、共鳴して台車にも限界まで積み上げたところで工房を出た。
(古代のオーパーツも、現代の技術とそう変わらないんだな)
『時代は変化しても、生活に求める利便性は似てくる物よ。有用になる程、戦いへ転用される流れもね』
(ダイナマイトや核と同じ、か。戦争利用で作った訳じゃなかったろうに)
『ナイフ1本でも調理と殺人に使えるわ。せめてこれからは、残された技術の良い使い方を模索しましょう』
 移動中、拓海とメリッサは意識内でオーパーツの考察を行い、ガリアナ帝国の今後へも思考を巡らせる。
「っ! ――本当に、人の営みは変らないな。これぞ共生、か」
『壮観ね~。不審な船や飛行機を寄せないために手伝ってもらってるんでしょ?』
 すると、拓海は己に落ちた影に一瞬頭上を見上げ、空を舞う飛竜を見つけてメリッサと微笑む。
 他にも海竜が接岸部に集まっており、瓦礫や資材の運搬に一役買っていた。
「破壊してしまう戦いより、ずっと充足感があるな」
『何かを形にする事は飽きないものね。私達も頑張りましょう』
 慣れれば愛嬌すら覚える飛竜の姿を見送り、拓海たちは再び足を動かした。

 その頃、ゲートスタッフの護衛だった征人が海面から浮上した。
『セーフティガス』で眠るヴィランを抱えた状態で。
「ぶはっ! ったく、この忙しい時に仕事増やしやがって! H.O.P.E.に引き渡すから覚悟しとけ!」
 数分前、入港手続きでライヴス反応や挙動不審な様子からヴィランと疑い、声をかけた男が逃げ出した。
 追跡した船内には複数のヴィランが待ちかまえ、戦闘に発展したあげく数人がなんと海へと逃走。
 結果、征人は海中の捕縛劇まで演じる羽目になり、悪態混じりに仲間へ引き渡したのだった。

「神殿周辺はひどいな、指示を仰ぐか」
 屋根伝いに移動して障害物を避けながら移動した遊夜は、眼下に広がる崩壊跡をスマホに収める。
『……ん、優先順位は……監督に聞かないと、ね』
「ここは特に損壊が酷そうだから、早めに送っておくか」
 ユフォアリーヤに促されてパソコンを広げ、すでに撮影していた写真と地図データを照合。
 被害箇所にピン立てと写真を添え、状況を詳細にまとめたメモを追加して各所へ更新データを転送した。
「ん? ――手を貸しましょうかぁ!?」
 すると、遊夜は大きい瓦礫を前に立ち往生をしているボランティアを発見。
 大きく手を振り注意してから、アルター・カラバン.44マグナムで破壊した。
「よし、次は物資の保管先だった場所を回るか」
『――んっ!』
 感謝を告げて作業に戻った人々を見送り、遊夜はマーカーを射出し尻尾を揺らしながら宙へ躍り出た。

「春月さ~ん、ちょっとこっち持って!」
「はいは~い!」
 ある程度の粉砕が終われば、雅春に呼ばれて春月も瓦礫の運搬作業に勤しむことに。
「こっち~? 合ってる~?」
「あ、そこ左に曲がるよ~!」
「……何かスイカ割りしてる気分だよ」
 後ろ向きで進む春月が進行方向を雅春の誘導で確認しながら、視界が塞がれるほど巨大な瓦礫を運ぶ。
 瓦礫置き場に到着後は他のスタッフから誘導を受け、指定の場所でゆっくりと下ろした。
「神殿の一部はさすがに砕けないか~」
「文化遺産みたいなものだし、仕方ないよ」
 春月と雅春が見上げたのは、崩落した後も損傷が少なかった神殿の一部。
 神殿には魔術的な意味もある装飾も組み込まれており、なるべく保存が望ましいらしい。
「壊せなくて大きな物は、手近にある丸太みたいな筒状のものに乗せて転がそうか?」
「ちょいとスタッフさんに聞いてくるよ!」
 背伸びをする雅春の提案に、春月は元気に突撃していった。

●繊細な問題
「初日で各所の修理・撤去に必要な物資や人手を確認したから、次はどうする?」
「……ん、建物内、は? 貴重品とか、大事そうな思い出の品とか……残ってる、かも?」
 他の調査員と協力し、大まかな被害状況をあぶり出した遊夜はなるほどと頷く。
 ユフォアリーヤのおかーさん目線での指摘を受け、比較的安全な建物内の調査を行うことに。
「……ん、おかーさんの嗅覚に……お任せ!」
『頼りにしてるぞ』
 普段から孤児院でよく紛失する子供のおもちゃの探索など、ユフォアリーヤの実績は豊富だ。
 フンス! と共鳴の主体で十分な気合いを感じた遊夜も思わず微笑む。
 おかーさんからは逃れられない、隠し事は出来ないのだ!
「建物の中には、ガリアナ帝国の人達の暮らしの跡や、思い出の欠片が残っているかもしれないからね」
 雅春もまた、瓦礫運びの合間に書物・アクセサリー・骨董品など置き去りになった物品の回収を行う。
「というわけで破魔鬼さん、今度は力を抜くことを覚えてみようか」
 手分けして作業しようと、共鳴を解除した破魔鬼に練習用の小石を差し出す。
「アリさんを摘むように、優しく扱おうね」
「摘むのね!」
 バキィッ!!(小石が砕ける音)
「……お箸で豆腐を摘むように、優しく、扱おうね?」
「? お箸はこの前折れちゃったのね」
 基本スーパーフルパワーな破魔鬼が『力加減』など知るはずもない。
 瓦礫を扱う分には良いが常にその調子では困る、と思った雅春の提案は相当な難題だったようだ。

「――っと。どうだ、上手いもんだろう?」
 こちらでは、建築家から接合用オーパーツを借りて拓海たちも修復作業を行っていた。
 懐中電灯から淡い光が漏れ、建材の境が消えていく様は不思議で楽しい。
「思ったよりやるみたいだが、見てな」
 拓海の出来映えに感心する建築家が仕上げを引き継げば、わずかに残っていた継ぎ目も完全に消えた。
「継ぎ目を消せてからが半人前だ。まだまだ仕事が甘いぜ?」
「手厳しいな……」
「ま、本職の見栄だがな。こんだけできりゃ十分だよ」
 カラカラと笑う建築家に苦笑を返し、拓海たちは修復作業を進めていく。
「――お嬢さん、荷物持ちましょうか?」
 その近くでは、巡回中の征人が帝国民の女性へにこやかに話しかけていた。
『……こんな時にナンパ?』
(誘拐の心配もあるんだろ? 『狙われやすそうな人』に声をかけて、不審行為の予防も兼ねるんだよ)
『――ふーん。じゃあ、『狙いやすそうな女の子』にすぐ近づいた征人も不審者でいいの?』
(いや、誤解ですよミーシャさん!?)
 荷物を引き受けチャラく雑談する裏で、征人はどんどん冷えていくミーシャの声に冷や汗を流す。
 ちなみに、『狙いやすそうな女の子』の判別は元ホストの直感が働くだけで下心はない……本当だよ?
「ありがとうございました」
「――そうだ。これどうぞ」
 別れ際、征人は女性へ1枚の紙――自分の連絡先を渡す。
『現行犯?』
(いやいや、違うんだって! H.O.P.E.のエージェントと連絡取れたら安心だろ!?)
『…………ふ~ん?』
 ミーシャの静かな圧力を受け、女性を見送る征人の笑顔はひきつっていた。

「っ! ……ん、ここも、家具? がいっぱい」
『やはり、壊れてる物が多いか』
 コンタクトビームで壊れた扉を破壊し、ユフォアリーヤは鼻をヒクヒクさせて中へ。
 5軒目の探索のため、すでに遊夜も見慣れた光景だ。
「マガツヒとの戦闘や、海底から浮上した時の衝撃が原因でしょうね」
『あー、確かにあの時の揺れは直下型地震に近かったか』
 付き添いの神官による説明に、遊夜は当時神殿で戦っていた記憶を思い出す。
「……ん、これは?」
 その間にユフォアリーヤが見つけたのは手のひらサイズの壊れた球体。
「子供用の玩具ですね。壊れてなければ、手に乗せるとちょっとだけ浮くんです」
『本当、勘が良いよな』
「……ん!」
 神官の言葉に遊夜は思わず笑い、ユフォアリーヤは誇らしげに尻尾を揺らす。
 その後も助言をもらいつつ、思い入れがありそうな品を優先して回収していった。

「ボランティアの人っすか? スタッフ名簿作ってるんで、名前と所属書いてもらって――っ!」
 あの後も巡回していた征人は、迷わず銃を抜いてきた男の手を薙刀「焔」で打ち付ける。
「手加減出来るほど暇じゃないんで、諦めて帰るなら今のうちっすよ?」
 瞬間、慌てて走り去るヴィランだが、一拍遅れて炎の幻影が逃げる背中に追いついた。
「がはっ!?」
「――なんてな。逃がすかよ」
『(どっちがヴィランだかわからないわ)』
 転倒したヴィランの眼前に刃を突き刺した征人に、ミーシャは若干呆れ気味だったとか。

 夕方。
「ふぅ、綺麗になった。みんな、あるべき人のもとに帰れるといいな……」
 回収した帝国民の私物らしい物の汚れを落としていた雅春は、そっとため息をつく。
 できるだけ補修した後は、帝国民スタッフに渡して心当たりのある人へ返却してもらう予定だった。
「雅春、見るのね!」
 そこへ、空き時間で『小石摘み』を練習していた破魔鬼が、ついに親指と人差し指での小石キープに成功。
 半ば諦めかけていた雅春も、これには興奮を隠しきれない。
「おおっ! やったね、破魔鬼さん!」
「当然なのね! ハバキはやればできる子なのね!」
 バキィッ!!(破砕音)
『あ』
 ――もう少しがんばりましょう。

●復興の兆し
 翌日の朝食にて。
「ごちそうさま! それにしても、広い場所があると踊りたくなるねぇ……」
「所かまわず踊ったらダメだよ」
 一足先に食器を返却した春月の発言にレイオンが釘を刺す。
「……でも、伝統的なダンスとかあれば、教えてもらいたいな」
 渋々引いた春月だが、体はスイッチが入ったようでうずうずしている。
「差し出がましいことを聞きますが、異国での生活からガリアナに取り入れたいと感じた事はないですか?」
 大勢が雑談する中、拓海がふとヨイに尋ねた。
「もちろん帝国文化を尊重するためにも相互理解を深め、仲違いが起きないよう調整は必要ですけど……」
「お気遣い、傷み入ります。調査班の報告から、帝都内の魔術的機構は大半が沈黙しオーパーツ製造も難しいようです。工房の破壊はもとより、長き眠りの中でオーパーツに関する記憶を失った神官も多いですから」
 スプーンを置き、ヨイの視線は遠くの雲を捉える。
 オーパーツ製造には独自の魔法円と神官の祈りが必要不可欠だが、現状はどちらにも欠落がある。
 製造技術の完全再現は困難を極めるそうだ。
「とはいえ帝都で生きる道を選んだ以上、現実を直視せねばなりません。
 今後の目標は生活を現代の水準に慣らすこと。
 そしていずれ、喪失した文明も帝都の遺産から紐解き取り戻してみせますよ――必ず」
 空から視線を下げ、 エージェントと帝国民の談笑を前にしたヨイの表情に悲観はない。
 女帝としての強さを見た拓海に、これ以上かける言葉はなかった。
「――旨いね。どこかで食べたような、何に似てるのかな」
「懐かしい……家庭的な味ね」
 改めて帝国民の作った昼食を口にした拓海とメリッサが舌を巻くと、ヨイが嬉しそうに微笑んだ。
 すると突然、一角で歓声がわき上がる。
「あはははっ♪ みんなも踊らないかい♪」
 声の中心には即興の創作ダンスで周囲を盛り上げる春月の姿が。
「春月……」
 ノリのいい帝国民が何人か乱入してから騒ぎに気づき、レイオンはため息を漏らす。
 すでにダンスバトルのような様相となっており、すぐには収まりそうもない。
(でも、元気になってよかった)
 ただ、周囲と一緒に笑う春月にレイオンも微笑む。

 ――エージェントは何だかんだ言っても、戦わなくちゃいけない。

 春月がずっと、何となくだが抱いていた思いに、レイオンは気づいていた。
 平和に育ったが故に戦いを――傷つくよりも傷つけることを恐れる心。
 前回は気力で立てたその場所は、結局怖くて毎回避けてしまう。
 肩書きと本心の葛藤に悩み、落ち込み気味な春月を心配したレイオンがここに誘った。
 そして今、いつもの調子を取り戻して再び周囲を魅了するダンスを踊りきった春月へと手を叩く。
「そろそろ作業に行くよ、春月!」
「え? もうそんな時間!?」
 慌てて準備を始める大勢に混じり、レイオンはぼそっと誘いを口にした。
「……落ち着いたら、また来ようか」
「うんっ」
 春月は返事は早く、笑顔にも普段通りの明るさが戻っていた。
『征人、あの子にも連絡先渡す?』
「……一応、声はかけとく」
 ちなみに、エージェントで征人のナンパを受けたのは春月だけだった。

 大まかな調査を終えた遊夜は、想定よりも進んでいる進捗状況に頬がゆるむ。
「流石、皆優秀だな。仕事が早いぜ」
「……ん、あとは……ボク達も瓦礫撤去、手伝おうか?」
「お願いできますか?」
 首をかくり、と倒したユフォアリーヤの提案に担当者が食いつき、まだ瓦礫が多い場所を示された。
「復興までもう少しだ、気合を入れていくぞ!」
 特に崩壊が激しい瓦礫を前に、遊夜は景気よくヘパイストスの弾をばら撒く。
 下手に動かせば崩落しかねない状態だったため、遠距離からの破砕でどんどん細かくしていく。
「よし、まだ何カ所か同じような山があるんだったか?」
『……ん、壊して、回る』
 一言挨拶を残し、遊夜とユフォアリーヤは地図に記載された次のポイントへ向かった。

 夜。
(私にだって、出来ることはあるんだから)
 共鳴の主体となったミーシャは仮眠室から起き上がり、モスケールで漆黒の帝都を巡回する。
(征人は……敵が現れたら起きるかな)
 時折すれ違う夜警担当と情報交換しつつ、一通り見回った後でジャングルランナーで高所へ立った。
「早く元に戻ると良いわね」
 未だ戦いの傷が深く、色濃い闇に沈む帝都に微笑みを向ける。
「……そしたらまた、遊びに来るわ」
 再生のために今は眠るガリアナ帝国の夜明けまで、ミーシャは静かな時間を守り続けた。

 こうしてエージェントの日程が消化され、帝都を離れようとした時。
「ほら見て、あそこにたんぽぽが咲いてるよ」
 雅春が指した物を見た破魔鬼は、表情をぱっと輝かせた。
「持って帰るのね? 今日の晩ごはんは天ぷらなのね~!」
「あ~、待って待って……」
 道端の花を愛でる心を、と思った雅春だが、躊躇なく抜こうとした破魔鬼を慌てて止める。
 花より団子な思考に、それも彼女らしさかと苦笑いをこぼした。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 難局を覆す者
    久兼 征人aa1690
    人間|25才|男性|回避
  • 癒すための手
    ミーシャaa1690hero001
    英雄|19才|女性|バト
  • そうだよ、楽しくやるよ!
    春月aa4200
    人間|19才|女性|生命
  • 変わらない保護者
    レイオンaa4200hero001
    英雄|28才|男性|バト
  • やさしさの光
    小宮 雅春aa4756
    人間|24才|男性|生命
  • 魔を破る鬼
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