本部

【異界逼迫】連動シナリオ

【界逼】ジンサイ

雪虫

形態
ショートEX
難易度
難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
12人 / 9~12人
英雄
12人 / 0~12人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2019/01/29 16:26

掲示板

オープニング


「どうしても行くの?」
 真人の問い掛けにパンドラは「はい」と答えた。コンビ二に買い物に行くような、それぐらいの気安さで。真人の心情など全く考えてもいないような声色で。
 知っている。真人の存在なんて、パンドラにとってはその辺に転がっている『お友達』と変わりはしない。「行かないで」なんて言った所で、下手をすれば虫けらのように殺される可能性の方が高い。
 それもいいかもなあ、と真人が口を開きかけると、「じゃあステージくん、『それ』お願いしますね」とパンドラは言ってきた。エージェント達から貰ったという写真とかスマホとかそういうの。真人としては捨てたくて仕方のない品々だが、「お願い」なんて言われたら応えない訳にはいかない。
「いってらしゃい」
 真人は平坦に聞こえるよう努めて声を絞り出した。声が震えていた所で、パンドラが気付いてくれる訳がないとは分かっていたが。自分一人だけになった廃墟。真人は膝を抱え込む。顔を完全に覆い隠して、届きはしない言葉を呟く。
「さよなら、兄ちゃん」


 ステージ……逆萩真人が姿を消して一か月が経とうとしていた。マガツヒの首魁であった比良坂清十郎は討伐され、マガツヒは事実上瓦解したと言っていいだろう。
 だがステージの行方が知れない。一か月前、エージェント達はステージと……従魔を手足に憑けた状態の逆萩真人と対峙した。ステージは自分が死ねば手足に憑けた従魔が自分を愚神化させると言い、エージェント達はそれを、止められなかった。元人間の愚神一体とは言え、何処でどのような被害を出すか分からない。故にH.O.P.E.もその行方を探してはいるのだが、今は『王』との決戦が最優先事項となっている。時間的にも人員的にも、人間一人、愚神一体に割いている余裕はない。そんなある日の事だった。その電話が突然H.O.P.E.へと掛かってきたのは。
「どォもホープさん? ステーじでェす」
 電話を取ったオペレーターは最初、なんと言っているのか分からなかった。獣の声を無理矢理人語に当てはめているような声だった。電話の主はオペレーターの反応がないのを気には止めず、録音テープに端的にこのような言葉を残した。
「今かラ言う住所ノ、廃工場に来テくれヨ……別に来なくテもいいケど、来たけレば来れバぃい……住所ハ」


 廃工場と言うに相応しく、そこはとうの昔に荒れ果てた、廃れきった工場だった。人の気配はなく、閑散としていて、妙な生臭さが漂ってくる。罠の可能性は十分あるが、それでも、行くしかない。
 廃墟に足を踏み入れ、そのまましばらく歩くと「こッチィ」と声がした。ステージの声に似ているが、妙に濁っている。録音テープの声と同じく。愚神化した事による影響だろうか。それとも。
 エージェント達が声のした方向へと進んでいくと、パーカーを来た少年が、一等開けた部屋の壁際でこちらに背を向け立っていた。その手には写真立てが握られていた。何の写真が入っているのか、少年の影になってエージェント達からは見えないが、少年は写真立てを大事そうに床に下ろした。そして振り返り、エージェント達にドス黒く濁り切った目を向ける。
「ヨう、よク来たナ」
「どうした、その声」
 永平が尋ねると、ステージはせせら笑った。指をこめかみに押し当てて、痛みと嘲りの中間のような歪んだ顔を披露する。
「パンドラの細胞ノ影響ダよ……めちゃクちゃ頭痛ぇ……コりゃあト少しデ正気失ゥナ……」
「パンドラは人間の意識を残したまま、愚神にする方法を研究していたんじゃないのか」
「誰ガ成功しタなんテ言った? まァ俺も詳細全部知っテる訳じゃねェけド、完全に成功しテはいネェよ。そんナのパンドラが連れてタ従魔共ヲ見レば分かるだろゥ。あれ、パンドラが壊造しタ元人間の残骸なんだゼ? そんデここがそノ現場。妙に生臭ィだロ?」
 言ってステージはゲラゲラ笑った。正気を失うなどと言いつつ、エージェント達にぶつける悪意は変わらない。そしてステージの言葉はもう一つの事実を告げていた。ステージの、逆萩真人の意識が、人格が消失する事を理解した上で、この少年は愚神になる道を選んだのだ。
「俺ノ新しィ能力だケド」
 出し抜けに、ステージはそんな事を言い出した。構えるエージェント達とは対照的に、ステージは隙だらけの姿勢のままにやにや笑う。
「お前らノ使っタすキルと武器ヲそのまマ複製出来ル。十秒にそれゾれ一個だけどナ。ツまりお前らが強い装備やスキるを使えバ、それだケ俺はパワーあっプするっテ事だ。そしテこの能力ハ、俺ノ人格が完全に消失すルと使えナクなル」
 ステージの発言は、エージェント達を戸惑わせるのに十分だった。「新しい能力」というのは、愚神化して新たに獲得した能力だと思われるが、何故それを自ら明かす?
「ダッてフェアじゃなィだろゥ? 今かラ殺し合ィをするノに、お前ラには俺ノ能力が分からなィなんテ。まァ俺が嘘吐いテる可能性もあるカら、別に信ジなくテもいいケど」
「殺し合い?」
「そうサ。今かラ、俺ト、お前らとデ。殺し合ゥんダ。とは言っテも俺が一方的に殺されルに決まっテいるけドな。正義ハ勝ツ。悪はシぬ。当然の帰結ッテヤツだロゥ?
 ああそうソウ、行動の全部ガ従魔の仕業だったか否かにツいてだけド、教ェねえよ。だっテお前ら、俺ノ言う事が本当だなんテ微塵モ思っテないんだロウ? だったラ俺が『実は逆萩真人ノ仕業でシタ』って言った所デ、全然当テにならなィじゃねェか。まさか他ノ事は信じなィけド自分達に都合ノィイ発言だケは信じまス、なんテ調子イい事言わねェよなァ?」
 ステージの目から、ぼたぼたと緑色の液体が零れ落ちた。手足に憑けていた従魔と同じ色をしたそれは、まるで涙のようだったが、ステージは黒い面をつけてそれを隠す。
「さあ今回ノ攻略法ダ。俺ノ人格が消失するマでタダ逃げロ。そしテ俺が完全にただノ化け物になっタら、殺セ。そうスれば俺はパワーアッぷ出来なィかラ、比較的楽に殺せル。ラスボスとノ決戦前に、こんナ雑魚相手に怪我すルとか嫌だロう? 世界ト人類を救うたメに、ゴミ一匹見捨てるノは当然の事だろゥ?
 あァ。俺ヲ助けルとカ救ゥとか、そんな台詞は吐かなクていィぜ? そうィう綺麗事ヲ並べる時間ハ。
 もゥとっくノ昔ニ、終わっチまッテるんダかラ」

●戦闘区域
 廃工場
 縦20×横40sq。戦闘開始時の配置は以下。PCの後ろの入口を出ると同じような空間がある。ステージは5R終了までは現在いる部屋から出ない(5R終了後、人格消失後はその限りではない)

□□□□□□□□□□□
□    ★    □  □:壁
□         □  ☆:PC、NPC
□         □  ★:ステージ       
□    ☆    □
□□□□   □□□□

解説

●目標
 愚神撃破
 希望時:逆萩真人の救出(この目標はPCの希望時のみ成功度判定基準に追加します。希望される場合プレイング冒頭に【希】と記載して下さい。過半数に達した場合のみ成功度判定基準に追加します)

●敵NPC
 ステージ
 トリブヌス級愚神。生命力はS、それ以外はF(トリブヌス級のFはケントゥリオ級のC~Dに相当)
 5R終了までに撃破出来れば逆萩真人を救出出来るかもしれない。5R終了時点でその機会は逆萩真人の人格と共に消失する。
・孕兆:跳
 アクティブ。細胞を飛ばし植え付け体内を破壊。【減退(1d6)】付与。射程15sq。このスキルは重複する(例:減退1負荷中に減退2を喰らうと重複して減退3になる)BS回復スキル以外回復不可
・永続的暴走
 パッシブ。最初から【暴走】状態であり、暴走以外のBSはクリンナップフェーズで解除される。【暴走】を解除したとしても次R開始時に【暴走】する(【暴走】が解除されている間、暴走以外のBS解除効果も消失)
・禍の凶持
 パッシブ。1Rで4回メインアクション可
・壊造:模倣
 パッシブ。クリンナップフェーズで、そのRでPC・NPCが使用した武器及びアクティブスキルを各一つ複製する。以降複製された武器のステータスがステージのステータスに加算され、ステージは複製した武器とスキルを使用出来る(武器・スキルの特性も完全に模倣される/複製したスキルの使用回数上限はない/同じ武器を何度も複製可能)このスキルは5R終了後、逆萩真人の人格消失と共に使用不可能になる

●NPC
 李永平&花陣
 ドレッドノート。PCの指示があれば従う。PCの生存を優先させる
 武器:釘バット「我道」
 スキル:今回のみ指定可能。代表者一名、永平に持たせたいスキルを最大三つ記載して下さい。記載が複数あった場合は指定の多いものを優先させます。記載がなかった場合スキルは使用しません

リプレイ


 ステージが述べたのは確かに今回の『攻略法』だった。ステージの言葉が真実であるとすればだが、ステージの人格が消失するまで待ちさえすれば、ステージは生命力が高いだけのケントゥリオ級でしかない。孕兆は跳ばしてくるだろうがここには一般人はいないので、回避しても問題ない。向こうの攻撃はひたすら躱し、人格が消失してから総攻撃を加えて撃破。それでこの任務は終わる。無用な怪我を負う事もなく。
「(それでも)」
 それでも、卸 蘿蔔(aa0405)は思う。
「(それでも、初めて会った時助けてって……あなたが言ったから)」
 それが挑発が目的だとしても。
『(勝って、救おう……望まれてなくても、ここまで戦ってきたんだから)』
 レオンハルト(aa0405hero001)の言葉に頷き、蘿蔔はミョルニルを出現させた。共鳴する事により若干鋭さを増した目付きで、倒すべき敵を、救いたい相手を、正面から睨み据える。
「何があなたをここまでさせるのか私には分からないけど。
 私達にも意地があるのです。あなたと同じで、築き上げてきた想いがあるのです」
 そして蘿蔔はミョルニルにストライクを乗せ、ダメージ覚悟で投げ打った。轟音が鳴り、紫電がステージに叩きつけられたと同時に、日暮仙寿(aa4519)が共鳴し、ステージ目掛けて走り出す。
「おっト、今回もヤる気ってワけか?」
 二人の行動をステージはせせら笑った。面の為表情は分からないが、今まで見せてきたのと同じ顔をしているのだろう。
≪へらず口と悪意は健在のようだな。いいだろう、最後までお前に付き合おう≫
『私達は誰かを救う刃だから。何があっても“強さを目指し続ける”よ。貴方の事も絶対に諦めない。
 貴方を助けられたら、ステージって名前の由来とその写真立てについて聞かせてもらうから』
 不知火あけび(aa4519hero001)がステージへ告げ、仙寿はライヴスソウルを取り出す。あけびと同じ先を見据え、全てを賭し刃となる。宝石に籠めた誓いごと、握り締め、解放する。
≪逆萩真人。お前がいるのは此岸の縁。であるならば――引き摺り戻す!」
 成長した姿から仙寿本来の姿へ戻り、さらにジェミニストライクで己を増やし白夜丸で斬り掛かった。愚神化の影響なのかステージは暴走しており、仙寿の攻撃を防ごうとも避けようともしない。出来ない。

「(人格が消えるギリギリのタイミングで現れるなんて、まるでエージェントに殺されたいみたいじゃないか。
 心臓が止まる前に愚神に殺されようとした俺みたいに)」
 GーYA(aa2289)は想う。絶望に閉ざされていたかつての自分自身の事を。そして殺せと叫び続ける目の前の少年の事を。
「(真人、君を『救う』という決意の言葉は叶えられず”嘘”になった。
 俺に優しい嘘を吐き続けた医師達の”嘘“も本当は……“そう”だったのかもしれない。
 その先を生きる事で感じた事や見つけたものがあるんだ。
 だからお前にも見せてやりたい、未来を)」
「この命を賭ける……いいよな? まほらま」
 GーYAの言葉にまほらま(aa2289hero001)は小さく笑みを漏らした。常と変わらぬおっとりとした、そして楽し気な声を返す。
『ジーヤらしいわね。でも真人とのその先も見たいわ、あたし』
「ああ、見せるよ。必ず。それが俺達の希望――思いに答えろ! ライヴス!!」
 強い決意が究極共鳴を引き起こし、限界にまで上げた共鳴がその先を呼び寄せる。仙寿のジェミニストライクでステージが狼狽した隙に、GーYAが床を蹴って飛び込みブレイブリンカーを叩き付けた。限界突破により、バースト時のGーYAの攻撃力はさらに増す。あまりの重さにステージの脚が後ろに崩れ、足下のコンクリートにヒビがビシリと四方に走る。
『フむ……』
「……」
 シルミルテ(aa0340hero001)はしばらくそれを眺め、佐倉 樹(aa0340)は黙していた。シルミルテとしては、『魔女の子』としては、ステージを……逆萩真人を積極的に救出しようという意志は”ない“。ここは敢えて殺してあげたほうが対象の望みとしても、自分の後々の<食事>としても良いのではないだろうか? とは思う。
 しかし、今までそれなりには付き合いのあるヒト達はどうやら救いたいようだから。
『(付き合ッテあげルのモ)』
「(一興?)」
『(ダね!)』
 ダッテワタシは『魔女の子』ダもん、とシルミルテは笑みを浮かべ、幻影蝶を召喚し、ステージへ向けて解き放った。蝶の形をした光はステージに纏わりつき、しかし途中で消え失せた。無効化された訳ではない。ダメージは通っているようだが、封印などの状態異常の付与には至らなかったのだ。ステージの魔法防御力、もしくは特殊抵抗値はその程度には高いらしい。
 木陰 黎夜(aa0061)は共鳴する事で伸びた髪を後ろに流した。黒の猟兵を開き、ぽつりと小さく声を落とす。
「正真正銘の最後のチャンス、だな……希望の語りか、騙りか……全ては結果次第、だ」
『ああ、行くぞ、黎夜。――逆萩真人の救出。最後の機会を決して逃してなるものか』
 アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)の声と共に黎夜はライヴスを収束させ、霧で作った猛獣を一斉にステージに飛び掛からせた。ここまでステージはエージェント達の全攻撃を受けており、ダメージも通っているようだが、未だ倒れる様子はない。
「俺ノ番? ソれじゃァとりあエズ行かせテもらゥか」
 ステージは笑い声を漏らし、黎夜に掌を、孕兆を向け、放とうとした。だがその時影が踊り、ステージは思わずそちらの方に孕兆を撃った。
 無月(aa1531)はターゲットドロウでステージの意識を己に引き付け、同時に孕兆を回避した。出来るだけ真人の攻撃を引き受けたい。攻撃を自分に集中させ、仲間が攻撃をするのを助けたい。仲間達と離れているのはその為だ。
『いわゆるタンクって奴だね。まあボク達はそんなに頑丈じゃないんだけど』
「これが最後のチャンスか……私も命を賭す覚悟を決めなくてはならないか」
『そうしなければもう彼は救えない。だから、ボク達は引く訳には行かないんだ』
 ジェネッサ・ルディス(aa1531hero001)の言葉に無月はクッと顎を引き、ステージの姿を確と見据える。ステージは無月を見つめ返し、掌を別の方向へ向ける。
「オ姉さんにハ悪ィけど、俺はアと二回攻撃出来るンだゼ」
 言って蘿蔔を狙おうとしたステージの前に、今度は虎噛 千颯(aa0123)が飛盾「陰陽玉」と共に滑り込んだ。真っ向から引き受けた為、孕兆は飛盾の、千颯のライヴスに潜り込む。だが千颯は苦痛は見せず、決意の表情をステージに見せる。
「言い訳も屁理屈ももういらねぇ……俺が俺である為にお前を救う。知ってるだろ、ヒーローはエゴイストなんだぜ」
 若干距離が空いていた為、リフレックスの効果は届かなかったようであるが、ステージの方でもしてやったり、という訳ではない。プリベントデクラインを持つ千颯と孕兆の相性は最悪だ。次の一手をどうするか、とステージが迷ったその隙に、バルタサール・デル・レイ(aa4199)が弾丸を撃ち出した。弱点看破とシャープポジショニングを併用しての高精度射撃。SSVD-13Us「ドラグノフ・アゾフ」はステージの面と、その奥に隠れた目を狙い、弾丸は過たず狙い通りの場所に当たる。
「ぐっ!」
 面の一部分が砕け落ち、緑の体液を流し続けるステージの右目が露わになった。そこに永平が仕掛け、プリンセス☆エデン(aa4913)はライヴスに「浸透する」効果を付与する。
 使うスキルはリーサルダーク。模倣される危険もあるが、今回持ってきたスキルの中では最も攻撃力が高い。霊力浸透も使うのであれば、ステージの強化が為されていない今使うのが最も効果的だ。
 闇がステージを覆い尽くし、カクン、とステージの頭が垂れた。温羅 五十鈴(aa5521)は共鳴していないまま、ステージに踏み出そうとする。
 真人の救出は希望する。
 ただし。“救う”と言う気は、ない。
 貴方の望みを知らないのに、“救う”なんて言葉は使えない。
 手を伸ばそうとしたその時、光景がフラッシュバックした。掴みたかった手を掴めなかった、あの時の光景が。
 な、んで
 どうして、
 網膜を過去の映像が焼き、五十鈴の身体が僅かにふらつく。その腕を沙治 栗花落(aa5521hero001)は掴み、半ば無理矢理共鳴した。
『(此奴の事だ、すぐに持ち直すだろう。それにしても態々此方を呼び出すとは。流石兄弟と言うべきか)』
 栗花落も過去を僅かばかり思い返し、即座に後ろに脚を下げて九陽神弓を引き絞った。暴走状態である以上防御行動は不可の筈。であれば攻撃か、場合により回復を使ってくると思われる、が。
 とりあえず今は可能な限り距離を取り、ストライクを撃ち放つ。神弓の矢は真っ直ぐに飛び、面白い程あっさりとステージの肩を貫いた。ステージは一瞬肉に刺さった矢に目をやり、それから露わになった右目を厭らしく細めてみせる。
「アぁー、ヤっぱヒーろーだわ。ガチでヤったら絶対勝てねェワ」
 などと称賛めいた事を言いながら、ステージは右腕をずるずると変形させた。そして勾玉のような盾を一対生み出した。二枚一対となった白と黒の盾、千颯の持つ飛盾「陰陽玉」。それを目にした瞬間、模倣された当人はわざとらしく声を上げた。
「あれれ~? ステージちゃんはさっきなんて言ってたかなあ~? 殺し合うんじゃないのか! 守りに入って助けて貰うのビビってんのか?」
 今までの意趣返しと言わんばかりに、わざとらしく、千颯はここぞとばかりに減らず口を叩き付けた。ステージの眉がぐっと歪み、その隙に再度仙寿がジェミニストライクで斬り掛かる。
 蘿蔔は魔銃「らぶらぶ・ズッキュン」に換装した。そして狼狽しているステージの左目を狙い、ストライクを乗せ撃ち放つ。視界を奪えば模倣を阻害出来るかもしれない。目を貫くには至らなかったが、左目部分の面には当たり粉々に打ち砕いた。左目を押さえるステージに、蘿蔔は魔銃を可愛らしく頬に添えて問い掛ける。
「ところでこの武器、私が考えたのですが……皆さん使ってくださらないのです。ステージさんどうですか?」
「……ドゥも……こうモ……」
 ステージが顔を上げ掛けた所で永平が「我道」で殴り付け、間を置かずシルミルテはライヴスで魔力の弾を形成。先程エデンが使った為、リーサルダークは既に模倣されている可能性もあるが、ここは一応様子を見て銀の魔弾の方を選択。樹の「人ならば……」という仮定の元、左脚を狙撃する。たとえ失っても延命さえ間に合えばなんとか替えは効くはずだ。
 シルミルテの魔弾が左脚に当たったと同時に、黎夜もまた銀の魔弾をステージへと叩き付けた。
 その間に琥烏堂 晴久(aa5425)が、ウィザードセンスで活性化させたライヴスで魔弾を生成。極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』によってテンションはハイになっており、頬の傷部分を覆うように着用したダブルフェイスマスクによって喜楽の表情を見せている。
「やぁ、面と向かっては初めましてだね! ボクは琥烏堂晴久。キミの事はなんて呼んだらいいのかな?!
 この宝典面白いでしょ! 使ってみる?!」
 などとハイテンションで述べながら銀の魔弾を射出する。ステージは魔弾を正面から受け止め、両目で晴久の顔を見た。両目から体液をだらだらと零しながら、至極嫌そうな目付きをして晴久の言葉に声を返す。
「ドゥとデも好きに呼べヨ。これから殺ス相手に、呼び方が必要って言ゥならナ」
『貴方は相変わらずお喋りですねぇ』
 ここまで沈黙を保っていたエリズバーク・ウェンジェンス(aa5611hero001)が口を開いた。今までと同じように、アトルラーゼ・ウェンジェンス(aa5611)の影響による可憐な少女の姿をして、しかし魔女の顔をしてクスクスと笑みを零す。
『まず貴方を救うつもりの……そちらの方々を殺してから粋がって頂けます?』
 顔に出やすい真っ直ぐな者を一通り指差しながら、エリズバークはレプリケイショットを使用、背後に魔導銃50AEを計四挺侍らせた。イノセンスブレイドとカオティックソウルによって威力はより凶悪に。
 武器としての純然たる、剥き出しの魂と本能を込めての一斉掃射。弾雨がステージを撃ち叩き、壁を蹴り付けたGーYAがブレイブリンカーごと突撃する。エデンが霊力浸透を乗せた銀の魔弾を撃ち放ち、さらに栗花落が弓を引き、ストライクを命中させる。
「いィね、ィイネ! 殺シ合いはコウでなクっちゃ!」
 ステージは頭から緑の体液を流しながら、今度はGーYAに狙いを定めた。孕兆であればリンクバーストしたGーYAに影響を及ぼさないが、ステージが何のスキルを模倣したか分からない。
 無月が再度ターゲットドロウで自分に引き付け、そのまま回避しようとしたが、放たれた攻撃は孕兆であり、そして無月の身に潜った。複製した飛盾の効果だろう、先程よりステージの命中力が増している。
 ステージはそのまま無月に再度孕兆を撃とうとしたが、千颯が前に立ち塞がり、代わりに孕兆をその身に受けた。前回は自分の考えの甘さに打ちのめされた。だから今回は最初から全力。一切の手を抜かない。手を抜いて助けれる相手では無いから、味方が全力を出せる様にフォローする。
 千颯を前にしてステージは片眉を上げ、掌を千颯に合わせ続けた。千颯相手では孕兆の効果は半減するが、ダメージがない訳ではない。また千颯はここにいる中で唯一のバトルメディック。回復手を先に潰すのは常識。効果が半減しようとも、千颯に攻撃を集中させよう、と考えた所でなんら不思議な事はない。
 だがステージが放ったのは孕兆ではなかった。呪力を込めたライヴスの闇、エデンの使用したリーサルダーク。どうやらダメージを与えてではなく、気絶させて動けなくしようという腹積もりらしい。
 バルタサールがシャープポジショニングを使用してステージを狙撃するが、それだけで攻撃行動を妨害するのは難しい。ステージは腕に弾丸を受けながらも両目だけでニッと笑い、リーサルダークを解き放って千颯を闇に閉じ込める。
 が。
「……チッ」
 千颯は気絶しなかった。ダメージも一切なかった。千颯の魔法防御力は、ステージの魔法攻撃力よりいまだ高いという事だ。
 ステージはちらりとエージェント達を眺め回す。恐らく次に模倣する武器とスキルを吟味しているのだろう。飛盾をコピーされてもまだダメージは通っているが、これ以上複製されたらどうなるかは分からない。千颯とエリズバークの挑発に、ステージが伸るか、反るかだ。
 ステージは目を細め、今度は左腕をぐずぐずと変形させた。そして生成されたのは飛盾……ではない。
「分かッタよ。お前ラの挑発に乗ってヤるよ。確かニ粋がるなラ、まずハお前らをブッ殺しテからだヨなぁ」
 言ってステージが握ったのは、バルタサールのセミオート狙撃銃、SSVD-13Us「ドラグノフ・アゾフ」。ステージとバルタサールの距離は部屋の対極程だと言うのに、外見までも寸分違わず複製されている。
「ヒュウ。カッコいい。これトどんなスキルがイィかなァ」
 考える暇は与えない、と言わんばかりに仙寿が飛び込む。本気で死んでも良い、俺達を苦しめたいだけだと思っているのなら、高攻撃力の装備・攻撃スキルの模倣か、高防御の装備・回復スキルの模倣をすると仙寿は予想していた。
「(まず飛盾を選んだって事は、高防御で時間切れを狙うつもりだったらしいな。それを止められたのは千颯とエリーの挑発勝ちか)」
 もっとも高攻撃力の装備・攻撃スキルの模倣も厄介である事に変わりはない。「こちらの攻撃が通らず時間切れ」の可能性は低くなるが、「こちらが全滅して時間切れ」の可能性は高くなる。高火力・高命中力・高射程のドラグノフ・アゾフを模倣したという事は、つまりそういう事だろう。また一人を集中攻撃してくる可能性も高い。前回使った超高範囲攻撃を隠している可能性もないではない。
 その時、あけびとの繋がりがふっと遠退き、同時に肩に傷が走った。リンクバーストの代償が発生したらしい。リンクバーストは強力な切り札だが、その分リスクも大きくなる。
 だが省みている余裕はない。真人が高火力で押し込もうと言うのなら、狼狽させて手数を減らす。その為に三度目のジェミニストライクで斬り掛かる。
「チッ、馬鹿の一ツ覚えみてェニ」
 ステージは悪態をついたが、悪態をつくという事は厄介だという事だ。その隙に蘿蔔がミョルニルを回収し、三度目のストライクを撃った。ステージは正面からその攻撃を受け止めると、左手のドラグノフ・アゾフを構えた。複製した武器二つの恩恵だろうか、動きが大分早くなっている。だがエージェント達を最も驚かせたのは、ステージの次の行動だった。
「レプリケイショット」
 ステージの言葉と共に、ドラグノフ・アゾフが複製されさらに二挺追加された。レプリケイショット。カオティックブレイドのスキルであり、エリズバークが先程使用したものである。攻撃力は多少目減りするものの、運が良ければ最大六回攻撃出来る、このスキルの強力さを知らぬ者はいないだろう。それを敵が使った場合、どれ程に脅威かも。
 無月が真っ先に動き、絆を代償にターゲットドロウを回復して使用する。先程の孕兆も回避出来なかったのだ。ドラグノフ・アゾフの命中力まで加算されてしまったとなれば、避けるのは難しいだろう。
 けれど、それも承知の上。彼の怒りを、恨みを、苦しみを、全てを受け止め
「あァ、マずはアンタからダ」
 無月の身体を弾丸が叩き撃ち、無月は一瞬にしてコンクリートの上に崩れた。重体に陥った無月を見て、千颯が即座にカバーに走る。次にステージの攻撃を受けたら死んでしまう。
「そうだナ、次はアンタだヨお兄サン!」
 今度のレプリケイショットは五つ。五挺の狙撃銃が宙に浮き、千颯へと一斉に弾丸を叩き付けた。
 が、今のステージの攻撃力は、まだ千颯の防御力には及ばぬらしい。弾丸は強かに千颯を撃ち叩いたが、千颯にかすり傷一つ負わせるにも至らない。
「ちっ。ヤっぱ頑丈だわァンタ」
 舌打ちしたステージを、バルタサールはサングラスの奥から冷めた瞳で観察した。バルタサールはステージの……逆萩真人の救出には一切の興味がない。
「(ステージの言う通りに戦えば効率的なんだがな……、まったく物好きなことだ)」
 というのが本心だ。
 が、内心ではそう思いつつ、多数決には従って動く。大多数の意見に逆らって動くのもまた非効率であるからだ。そんな事をするぐらいなら、全体方針に添った、かつ最も効率的な方法を突き詰めた方がいい。そんな思いでバルタサールは敵の言動を吟味する。
 ステージは「この能力ハ、俺ノ人格が完全に消失すルと使えナクなル」と言っていた。
 人格=知能、と仮定してみるならば、エージェントの攻撃観察に集中させず、どの武器やスキルの模倣が有利かを考えさせないようにすればよいだろうか。飛盾やドラグノフ・アゾフを選んだ事、先程のこちらを眺めまわした様子からしても、ステージはきちんと「考えて」模倣していると推察出来る。
 ステージの内面に興味はないが、効率的に勝つためならば、精神へ揺さぶりをかけるのも吝かではない。
 言葉で挑発して集中力を乱せるか試してみよう、とバルタサールは大きく声を響かせた。
「なあ、お前はキレイゴトが大嫌いだよな」
 低い声はよく通った。バルタサールは決しておしゃべりなタチではないが、声が出せない訳ではないし、こういう時どういう喋り方が最も効果的かは心得ている。ステージの思考を抉る為、声音も、口調も、最適なものを選んで放つ。
「俺の本心としては、お前の心情なんてどうでもいいし、本当ならお前の言う通り、お前の人格が消えてから楽に戦いたかったのが本音だ。
 お前の幼稚な復讐に付き合う義理もないしな。
 そのわざとらしく持ち込んだ写真立ても『正義の味方』からの構われ待ちか?」
 ステージの目が変わった。目以外はまだ面に隠れているので顔色までは分からないが、それだけで十分だった。一方のバルタサールは一切表情を変える事なく、淡々と、弾丸のように言葉を吐く。
「お前はまだ子供だから、動揺が顔に出る。
 だから仮面で隠す。
 家庭でもずっと仮面を被ってきたんだろう。
 兄への本音を隠し続けた。
 兄が人間でなくなってから本音を出せるようになった。
 本当なら生きている時に、兄ちゃん大好きって伝えたかったのにな。残念だったな」
「お前に何ガ分かル」
 ステージが言った。厭らしい笑みは消え失せ、代わりに憤怒が目と声を染め上げていた。ステージの両手が震え、次の瞬間には狙撃銃を持ち上げる。そしてレプリケイショットでその数を一気に増やす。
「オ前に何が分カるって言うンだ!」
 集中力を乱す為、精神を揺さぶる為の挑発、という観点で見るならば間違いなく成功だった。ついでに言えば無月から意識を逸らさせる事にも成功した。露わになった目には動揺が色濃く浮かび、そこにはバルタサールの姿しか映っていない。
 だが挑発は危険と隣り合わせである。今ステージの手にある武器はバルタサールのドラグノフ・アゾフ。二人の射程距離は同じ。
 バルタサールの弾がステージに届くように、ステージの弾もまた、バルタサールの下まで届く。
 バルタサールが先に動いた。ストライクが垂直に飛び、ステージの右目を貫く。右目からだらだらと緑の液体を零しながら、ステージは銃声と共に吠える。
「死ね、死ネ! 死んジまェっ!」
 立ち並んだドラグノフ・アゾフが、バルタサールの手足に、胴に、一斉に穴を開けた。祈りの御守りが、そして奇蹟のメダルが砕け、戦闘不能を回避する事には成功した。
 だが立っているのがやっとという程の重傷には変わりない。晴久が銀の魔弾を放ち、エリズバークがカオティックソウルで火力を上げ、レプリケイショットで複製した魔導銃を炸裂させる。弾丸の中に黎夜が飛び込み、霊力浸透を乗せたリーサルダークでステージを取り囲んだ。闇が晴れる前に、GーYAが再度壁を蹴ってブレイブリンカーごと激突し、シルミルテもリーサルダークをステージへ解き放つ。もう模倣されているのだから黎夜に合わせる必要はないが、もう模倣されているのだから、また防御力を上げられる前に、少しでもダメージが通る内に使った方がいいだろう。
 ステージは気絶しなかった。傷を負い、息を荒げ、緑色の液体を至る所から流しながらも、憎悪だけを込めた瞳でエージェント達を睨んでいた。バルタサールの言葉は、ステージの最も脆い所を的確に撃ち抜いたらしい。
「ねえ、前回、お兄さんのこと突っ込んでみたら、すごい怒ったよね」
 唐突に、エデンが口を開いた。その口調は普段の天真爛漫な彼女となんら変わる所はない。
 バルタサールと打ち合わせをした訳ではないが、エデンが考えている事はバルタサールとほぼ同じだった。「俺ノ人格が完全に消失すルと使えナクなル」って言ってたけど……能力は思考に依存しているのかな?  感情を掻き乱されたら、物理攻撃とか魔法攻撃とか考えないで加算チョイスしちゃわないかな?
「『嫌いだからだよ。助けてやるだのなんだの言ってその癖何も出来やしねえ、口先だけのあいつがな』
『俺が兄ちゃんを好きなのはそんな理由じゃねえ! 力なんてくれなくても、そんなものなくても、俺は、俺は……』
って言ってたよね。そして今も、お兄さんのことを指摘されて怒ってる。
 結局は、パンドラが好きなんじゃなくて、お兄さんの……本当のお兄さんの、良人のことが好きだったんだよね。でも、素直に好きって言えなかった。
 ねえ、本当に欲しかったのは……?
 ただ、さみしいのを分かってほしかった?
 ただ、一緒にいてくれるだけでよかった?
 自分のことを気にかけてくれただけで、本当は嬉しかった?
 本当は、嫌いなのは、素直になれなかった自分自身?」
「……うるせェ」
「『よく知りもしねえくせに』って前回怒ったけど、
 そう、言わないと伝わらないんだよ。
 だから、推測するしかないんだよ。
 ね、写真立ては大切なものなの?
 それを、どうしたいの?」
「うるさい! うるさィうルさいウるさィ!」
 いつもの減らず口はなかった。癇癪を起こした子供のように、うるさいとただ叫ぶだけ。ステージは緑色の液体を、目から流しながら吠え立てる。
「どうシたい? ドうしたィって? ソんな事思っても、何モ……何も変わりヤしねェ!」
 永平が飛び掛かった。同時にエデンが銀の魔弾を、栗花落がストライクを撃ち放ち、三つの攻撃は逸れはせず全てステージに命中する。
 ステージはドラグノフ・アゾフを再模倣した。それが最良の選択だと考えた故なのか、思考を乱された故なのかは分からない。ステージは狙撃銃の銃把二つを握り締め、叫ぶ。
「……ウるせェ、ゥるせェ、うルセェんだヨッ! 勝手ニ、俺の事ヲ知った顔デ語るなァッ!」
 仙寿とあけびとの繋がりがまた一つ遠退いた。ジェミニストライクを使うには、絆を代償に使用回数を回復しなければならないが、それをすればリンクバーストが解ける危険性が上がる。
「(今日は運が良くないらしい。だとしても)」
『(ここで諦める訳にはいかない。だって私達は)』
「(『誰かを救う刃となれ。誰かを救う刃であれ』。そう……誓ったんだから)」
 絆を燃やす。躊躇いなく。四度目のジェミニストライクを仕掛ける。願いを宿した白色の刃をふたつ煌めかせ、仙寿はステージを斬り、告げる。
「俺達は“初手”だ。次の手を呼び込む為のな」
『自由に戦わせてなんかあげないよ。ねぇ、パンドラに最後に会った時、彼は何て言ってたの? 愚神になれって言ったの?』
「ウるセえッテ言ってンだヨ!」
 あけびの言葉にステージは吠えるが、狼狽の為即座に攻撃する事は出来ない。晴久はアルス・ペンタクルを収納した上でリンクバーストし、銀の魔弾を叩きつけた。永平とGーYAが同時に仕掛け、ステージがふらついたと同時にエデンが銀の魔弾を差し向ける。ステージの瞳が、じろりとエデンを向いた。
 蘿蔔は炎弓「チャンドラダヌス」に換装し、弦を限界まで絞った。飛盾によって防御が強化されている為、攻撃に最も適した位置に陣取って、放った。ダンシングバレットを。最初はわざと狙いを外し、壁で跳ね返った矢でステージを背後から突き刺す。ステージは頭を振り、それから蘿蔔に狙いを付ける。
「邪魔すルんじゃネェよ」
 五挺の銃が立ち並び、一斉に弾丸が放たれた。それは蘿蔔に命中、せず、飛盾と共に立ちはだかった千颯へと叩き込まれた。千颯の身体に穴が空き、ダメージに膝が崩れる。ついに千颯にもダメージが通り始めた。模倣した武器による火力上昇もあるだろうが、どうやらカオティックソウルも模倣したらしい。ステージに向けた攻撃が、ステージの力となって今エージェント達を向いている。
 だがこれは決して、模倣された者達が装備やスキルの選択を誤った、という訳ではない。むしろこれはステージの目論見だったと言うべきだろう。逆萩真人を救出しようと思うなら、真人の人格が消える前に撃破しなければならず、その為にはどうしても高威力の武器とスキルが必要になる。反撃を恐れて威力の低い武器とスキルばかりを選べば、撃破する前に真人の人格は消え失せていた事だろう。
 しかし高威力の武器とスキルを選べば当然、それがそっくりそのまま自分達に跳ね返る。今回の戦いは、つまりこういう事なのだ。救うなどと宣うのならそのリスクを受け入れろ。綺麗事を通そうとするなら命ぐらいは賭けてみせろ。
 いつもなら、ステージはそう言っていた事だろう。だが今のステージにそれを言う余裕はない。バルタサールの、そしてエデンの言葉はそれ程に的確だった。ステージはもう一度、複製した銃口全てをエデンへと向けようとする。
『「貴方の、その、悪意は
 誰に、いえ、何に 向けられたものですか」』
 栗花落が言った。五十鈴の言葉を。「(つーくん。ステージさんに、聞いてくれますか)」と、五十鈴が持ち直してから言った言葉を。もっとも、五十鈴が頼んでからそれなりに時間が経っているが、栗花落がそれを選んだのだ。『タイミングは俺に任せろ』と。
『俺の能力者からの言葉だ。そのまま伝える。
 「こんにちは、ステージさん。
 あれからずっと、貴方に問いかける言葉を探しています。
 今もまだ、見つかっていないけど、それでも。
 貴方の、その、悪意は、誰に、いえ、何に向けられたものですか。
 あの日の復讐ではないのでしょう。
 だって、貴方、来なかったもの。
 ずっと、誰か、マガツヒ、来るんじゃないかって
 思ってたけど。

 どうして戻って来たの。
 逃げてほしかったのに、
 なんで、あなたたち、逃げないの。
 どうして、」』
 パンドラの事をつつけば怒り狂うだろうと思った。此方に目を向けさせられれば他への隙となるだろう、と。
 五十鈴の言葉は挑発に使えるだろうと思った。五十鈴にそのような気はない事も、複雑な顔をしそうだという事も分かっていたが。
 まぁ、いい。手段を選ぶつもりはない。栗花落に目的があるとするなら、それは五十鈴の意志と共に行く事。ステージは銃口を、エデンから栗花落へと移した。そして緑の液体を、目から零しながら告げる。
「どうシて戻ッテ来たノかっテ? オ前らを人殺シにシてヤる為だよ。俺ヲ殺した時ニ、ヤっぱり俺を救ウなんテ嘘だったンだ、お前ラハそうやッテ殺すシか能がなィんだッテ、ソう言ってヤるつもりダッたのサ。世界ガ平和になったトしてモ、ソウやって救ィようノナいヤツは、救ゥ事の出来なィヤツは、綺麗事と理屈ヲ付けテ全部殺シていけばィい。そゥヤッてこれカラも『人間を』殺しテいけッテ、ソう言ってヤるつもりダッた。
 俺の悪意は何に向ケられたモノかって? 全部ダよ全部。全部ミんな嫌いナんだ。お前ラも、良人の事モ、俺を置ぃて逝ったパンドラも……俺ノ事も!」
 叫びと共に弾丸が射出される。バルタサールは阻止する為にステージの腕を撃ったが、ステージの攻撃は全て栗花落に叩き込まれた。祈りの御守りが砕けるが、持ち堪えるには足りなかった。栗花落と五十鈴の共鳴が解け、黎夜とシルミルテが同時に銀の魔弾を放つ。ステージはまだ倒れない。傷は増えているのに、まだ。
『貴方は本当にお喋りで、そして馬鹿な子供ですねぇ』
 エリズバークは笑った。床に倒れた者達をちらりと見やった後、ステージの言葉を笑った。
 本当にこの子供は、相変わらず馬鹿だ。
 救われたいと願いながら、どうせ叶わないといじけて、
 これ以上自分の心を傷付けない為に暴言を重ねる。

 互いに何度も顔を会わせた。
 今までの私の行動、言動。
 我が身を犠牲にして仲間に託すような、可愛らしい性格には見えなかったでしょう?
 作戦というのは敵に悟らせないから意味がある。

 エリズバークは笑みながらリンクバーストし、そしてここにいる者達との絆を想った。この時の為に、今回の作戦に参加するほとんどの者と絆を繋いだ。無論、今倒れている者達とも。
 私を知る者にはらしくないと嘲笑されるのでしょうね。
 でも私はそうは思いません。
『私はいつでも我儘で傲慢な魔女ですから』
 その言葉を呟いて、エリズバークは前に倒れた。共鳴が解けてアトルラーゼの身体も床に投げ出され、同時にアトルラーゼとエリズバークのライヴスが、絆を繋いだ者達の身へ流れ込む。倒れた者達の傷も即座に全快し、あけびが叫ぶ。
『エリーさん!?』
「……お前達の意志、確かに受け取った。必ずあいつを止める!」
 リンクバーストの代償に裂けた仙寿の肩の傷も癒された。これがエリズバークの切り札、強い決意が可能にしたコネクトウィッシュ。自分が救出を狙っているそぶりは一切見せず、前衛に狙いを集中させ、そして我が身を代償にして仲間を万全の状態に戻して、託す。引けない意志がこの作戦を成功させた。
 ステージは顔を歪めた。これ以上ない程の綺麗事だ。我が身を賭けて、仲間に託して、託す内容は「この馬鹿な子供を救え」、なんて。だがステージの悪意は折れない。愚神は、まだ倒れていない。
「嫌ィだよ。綺麗事なンざ大っ嫌いダ。お前らの事モ大っ嫌いダッ!」
 言ってステージは最後の武器を模倣した。現れたのはGーYAの聖剣「ブレイブリンカー」。今回エージェント達が装備している武器の中では最も攻撃力が高い。
 どうやら攻撃力で押し込む腹積もりらしい。事実、ステージの攻撃力と命中力は、通常のトリブヌス級と同等レベルにまで至った。さらにステージはレプリケイショットを計四回使用出来る。躱す事は至難、当たれば今度こそ誰かが命を落としかねない。
 だがそんな事は今更、怯む理由には成り得ない。
 仙寿が真っ先に躍り出た。俺達は“初手”だと、宣言したその通りに。こちらで回復スキルは一切使っていないので……エリズバークのコネクトウィッシュは模倣出来るか分からないが、模倣する意味はないだろう……ステージには自身の傷を癒す術はないはずだ。
 それでも途中で攻撃され、仲間が倒されてしまえばそれだけこちらの手番は減る。椿の短剣に得物を替え。この攻撃は外せない。外さない。
「大人しくしとけよ、真人」
 全身全霊の牽制攻撃。その気迫にステージは怯む。これでしばらくステージは行動に移れない。
「これで……終わりにしましょう」
 蘿蔔は再び攻撃に最適な位置に陣取り、炎弓「チャンドラダヌス」でダンシングバレットを放った。やはり最初はわざと外し、跳弾によって死角を撃つ。ステージが狼狽したと同時に、コネクトウィッシュで復活した無月が一挙に距離を詰める。
 能力的に、攻撃を喰らう事は承知の上だった。その上で彼の怒りを、恨みを、苦しみを、全てを受け止める覚悟を決めた。
 エリズバークのおかげで、痛みさえも既に消えたが、それでも刻み込まれている。受けた痛みは真人君を救えなかった罰。だが、真人君の、そして彼を救おうとあがく仲間達の魂の苦しみに比べれば、この程度の痛みなど物の数ではない。
 ここには正義の味方も悪の手先もいない。いるのは出口を求め暗い道を彷徨う一人の少年と、彼の進む道に光を灯そうとする人達だけだ。
『君を救おうとしているあの子達をこれ以上悲しませたくないんだ。だから真人君、わがままなのは解っているけど生きて皆に救われてくれないかな』
 ジェネッサが言う。無月は影を薔薇の形に収束させる。最後までやれる事は全力で。そして、彼を救えるのならばここで果てても構わない。その覚悟で行きたい。
「『私は君を救いたい』。これは私の偽らざる想い。そして、その為に私は全力を尽くす。この命に変えても……」
 影で模った薔薇の花弁がステージを覆い隠した。ステージが翻弄されている間に、晴久は術式を高速展開、呪符「白冷」に換装した上で魔血晶を砕き散らせた。
 喜楽の仮面を表にしながらステージを見据える晴久に、琥烏堂 為久(aa5425hero001)は思う。苦しむ弟という存在を、どうやら自分は無下に出来ないらしい。だからこうして誓約を思い、為久は兄として、晴久の戦いを見届ける事を選んだ。
 パンドラ……お前にとって、真人はどういう存在だった?
 十三騎なら人である事を辞めさせるのが救いと考えたか?
 答えはこの廃工場にあるだろうか。
 晴久は思う。もしこの頬にある傷を誰かが「消してあげる」なんて言ったら、余計なお世話だと思うだろう。
 パンドラとの繋がりを示すものは、ボクにはこれしかないから。
 真人さんにとっても似たようなこと?
 パンドラさんはここに大切なものを置いていった。
 そこには真人さんも含まれているとボクは思うんだよ。
 倒した事自体には後悔はない。
 だけど恨みを一身に受ける覚悟はあるんだよ。
「今度一緒に遊びに行こうよ! 遊園地とかいいと思うな! ねえ、どうしてこの場所を選んだの?!」
 アルスマギカ・リ・チューンの効果であるハイテンションで、ステージへと語り掛ける。そして面の後ろで痛ましそうな顔をして、一番言いたい事を告げる。
「ねえ、キミの事もっと教えてよ……!」
 為久との絆を対価に銀の魔弾を回復させ、放った。シルミルテもそれに追従する。二つの魔弾がステージの手足を撃ち抜いたと同時に、永平がチャージラッシュで威力を上げた疾風怒濤を叩き込んだ。最後の一斉攻撃時に叩き込んで欲しいんだよ、それまでは使わないでねという晴久のオーダー通り。
 エデンは真人の救出に、賛同は示さなかった。愚神化するほど人が憎くて、死にたがっている真人。死で解決するのが正しいとは言えないけど、人に戻せたとして、その後の真人はどうなるのかな。施設とかに囚われの身になるのかな。未来のことを考えると、最後まであたしたちが責任をもって面倒をみてあげられるわけじゃないし、諸手を挙げて『救出』したい、とは言えないんだけど……。
 それでも、全体方針には従うと、反対はしなかった。それに未来の事は言えずとも、今の事は言える。絶対負ける訳にはいかない。
「あたしは可愛いアイドルなんだから、こんなとこで負けない! アイドルの強靭なプロ根性を舐めないで!」
 アルスマギカ・リ・チューンで魔法弾を召喚し叩き撃つ。栗花落はステージの死角を狙い九陽神弓を引き放つ。度重なる猛攻にステージの身はボロボロで、だが、まだ立っていた。そしてレプリケイショットを使おうとする。その前に千颯が飛び込んだ。飛盾「陰陽玉」を周囲に舞わせ。
「俺を殺したいなら、お前が逃げないというならお前の全力を撃ってこい! 中途半端な攻撃じゃ俺は倒せないぜ」
 ここで真人を助けたとして、どのような結果になるのか、どのような末路になるのか多少予測はしているが、それでも助ける。そう決めた。
 俺が俺である為にお前を救う、それは偽らざる本心だった。救うという言葉を構成する動機は全てエゴイズム。これは真人の為じゃない。自分はヒーローなんかじゃない。千颯は、それをよく知っている。
 けれど、それでも助けると決めたのだ。例え何程傷付こうが決して諦めない。どんな手を使ってでも助ける気迫は揺るがせない。――伸るか反るかの大博打。
「イィぜ、全力デ撃ってやルよ! お前ラの力でオ前を殺シてやルッ!」
 ステージの背後に六振りのブレイブリンカーが立ち並んだ。初期値はトリブヌス級の最弱でも、陰陽玉、ドラグノフ・アゾフ二挺、ブレイブリンカーのステータスが加算されている。さらにカオティックソウルで火力を上げた、まさしく全力、渾身のレプリケイショット。
「死ネェッ!」
 六振りのブレイブリンカーが一斉に飛び掛かる。千颯であってもこれを全て喰らえば重体は免れないだろう。
 千颯は手を翳した。盾に使うのは陰陽玉ではない。バトルメディックの宝刀、切り札と言うべきライヴスミラー。
「なっ……」
「白虎丸! 力を貸せ、お前が望む未来を掴む為に!」
『無論でござる! 俺たちの全てを賭して挑むでござる!』
 千颯が吠える。白虎丸(aa0123hero001)もまた吠える。この一撃に全てを賭ける。最初で、最後の切り札。
「言っただろう、俺が俺である為にお前を救うって!」
 ライヴスミラーが全てのブレイブリンカーを跳ね返し、六振りの聖剣は全てステージに突き刺さった。複製された剣はすぐに消えたが、ステージの身体に刻み込まれた痕は消えない。床に緑色の血だまりを作りながら、それでもステージは再び、千颯に掌を向けようとする。
「死ね、死ネッ! 死ななィノなラ……俺を殺せェッ!」
 黎夜が千颯の前に滑り込んだ。霊力浸透を付与して銀の魔弾を生成する。
 同時にバルタサールがドラグノフ・アゾフを構える。狙うのは向けている掌。仮に攻撃したとしてもそれを妨害出来るように。
 バルタサールのストライクがステージの右腕を穿ち抜き、黎夜の銀の魔弾が面を粉々に打ち砕いた。ジャングルランナーで天井に飛びついていたGーYAが、足下を蹴ってステージとの距離を一挙に零にする。リンクバーストの限界を突破した上で、ライヴスを充填しさらに破壊力を高める。
 真人を絶望の檻から解放し、希望の未来へ連れ出し、絆を繋ぐ。ここで命を救ったとしても、それだけでは目指す場所には辿り付けないかもしれないが。それでも。
「この剣を模倣した所で絆の力までは模倣できない。この剣はお前を殺す為に持ってきた訳じゃないし、お前に誰かを殺させる為に持ってきた訳でもない。真人と絆を繋ぐ意味を込めて持ってきたんだ」
 だから。GーYAは倒すべき敵を見据える。ライヴスを充填した聖剣に、さらに過剰な程のライヴスを注ぎ込む。
「愚神は倒す。そしてお前を今度こそ救う! その言葉をもう”嘘“にはしない!」
 GーYAの出せる最大火力、タイラントの一撃がステージを床に沈み込ませた。緑色の液体が霧となり、一瞬にして消え失せる。ステージの両腕両脚が床の上にパタリと落ち、同時にリンクバーストが解けた仙寿とGーYAが膝をついた。黎夜は急いでステージへ……真人へと駆け寄って、霊符を取り出し両目へと押し当てる。
「ここまできて……。死ぬなんてこと、しないで……」
 千颯は即座にエマージェンシーケアを真人に掛け、さらにケアレインも注がせた。仙寿と晴久は賢者の欠片を取り出して真人の口にねじ込もうと試みる。
『死なないで。もっと貴方の事を聞かせて』
 あけびが必死に呼び掛ける。晴久も必死だった。死なせない、独りにしない、その想いで仙寿と共にさらに賢者の欠片を追加しようとする。
 が。
「し、死ぬ……逆に死ぬ」
 真人が手を振り、次の瞬間咳き込んで賢者の欠片を吐き出した。賢者の欠片は直径5~30mm程ある。それを一気に口に押し込もうとすれば、当然そうなる。
「やっぱ……俺の事殺す気なんじゃねえの?」
 顔色は悪く、目は霊符で隠れている為見えないが、真人はエージェント達に向けてそんな憎まれ口を叩いた。いち早く千颯が反応し、腰に手を当てふんぞり返る。
「ざまあみろ! 勝ち逃げなんてさせてやらないんだぜ! どんな手を使ってでも絶対に死なせてやらないんだからな!」
 そのまま千颯は盛大に笑い出した。あけびはホッと息を吐き、黎夜は出血などをしていないか確認する。消耗はしていそうだが、特に怪我は見当たらない。攻撃を受けていたのは愚神部分……消失した緑の液体部分だったという事だろうか。
『とりあえず救急車が来るまで様子見だな』
「そうだな……絶対、動かないで……」
 アーテルが救急車を要請し、その間黎夜や晴久や、他のエージェント達も交代で真人を見て回った。蘿蔔やレオンハルトは自害や暗殺を警戒し……マガツヒは事実上壊滅したが、残党の可能性は否定出来ない……真人の事は他に任せて周囲を見に行き、GーYAは真人の様子を見つつ話し掛ける。
「真人の本心が聞きたいな。あと、愚神になってる最中、王をどう感じたか教えて欲しいな。パンドラの事を知ってるエージェントと話せばいいよ。悲しみは共有する事で薄らぐっていうだろ。あと今後の事だけど、戦闘の知識が凄いからそれを活かせる所とか、必要とされる居場所をつくる手伝いとか出来ないかなって思うんだけど」
「俺の本心はさっき話した通りだよ。王サマについては知らねえ。俺は完全に愚神化した訳じゃないからな。俺の処遇については、まずH.O.P.E.に送ってからじゃねえの? そんな甘い事考えない方がいいと思うけど」
 言って真人はGーYAから顔を背けた。まだ心を開いたとは言い難い。だが嘘を吐いている訳でもないらしい。少なくとも「完全に愚神化した訳じゃない」に関しては本当だろう。真人が完全に愚神化していたのなら、こうやって救出する事は不可能だったはずだからだ。
「パンドラさんのこと、大好きなの、ね」
 五十鈴が言った。自分の喉で。パンドラを見送ったその時以降、出せなくなっていた声で。
 ああ、そうかと、唐突に思い至って、真人の傍に座り込む。自分でも久しぶりに聞く声で、真人へと語り掛ける。
「……ちゃん、と……言いたい事は、言いましたか?
 私は、ね、ただ、ただ一緒に、
 一緒にいれたら、それだけで良かったの」
 友達として。五十鈴は言って微笑んだ。真人の目は霊符に覆われ、相変わらず顔を背けているが。
「俺だって」
「……」
「俺だって……」
 シルミルテが唐突に、樹から貰った桜の花びらを一枚真人のおでこに貼った。そして上から真人の顔を覗き込む。
『パンドラちゃんト一緒に来たラ「森」デお茶をゴ馳走シテあげテもいイヨ』
 真人は何か言い掛けたが、しかし一度口を閉ざした。そして聞こえるか聞こえないかの声で呟く。
「そんな日が来るといいのにな」


「ああー! 疲れた!」
『お疲れ様ですお嬢様』
 大きく伸びをするエデンにEzra(aa4913hero001)は恭しく頭を下げた。真人は病院に運ばれていき、エージェント達は一時H.O.P.E.へと帰還した。紫苑(aa4199hero001)もまた、こちらはいつもの仏頂面を崩さないバルタサールに声を掛ける。
『お疲れ様。危うく死ぬ所だったね』
「嫌味か」
『まさか。労いだよ労い』
 紫苑はそのまま飄々とした顔で笑う。バルタサールは溜息を吐くと、今回の報酬を受け取る為に受付に向かおうとする。
『そうそう、もう一回聞かせてくれないかな』
「何を」
『「兄ちゃん大好き」って』
「……誰が言うか」
 バルタサールは一瞬だけサングラス奥の険を深めた。一方、エデンは早々に今回の報酬を頂いて、早速その使い道を考える。
「今日は疲れたしプリンとか食べたいなー。ね、エズラいいでしょう?」
『ええ、本日ぐらいは』
 エデンや千颯の考えた通り、そして真人本人が述べた通り、真人の今後は決して甘いものではないだろう。
 だが今日ぐらいは。Ezraはそんな想いで、跳びはねる主に付き従う。
『それでは何処に致しましょう』
「駅前にある……」
『えっあの高い……いえ、参りましょうかお嬢様』

「どういうつもりだ」
 永平に見下ろされ、シルミルテはにぱっと笑みを浮かべた。なお共鳴はまだ解いてはおらず、シルミルテの左瞼の上では八重桜が咲いては散る。
『バレた?』
「前衛の俺の近くで、後衛のお前がチョロチョロしてればいくら何でも気付くだろう」
『仕方ナイのヨ。樹ノ"一生のお願い"ナンだもノ』
 シルミルテは悪びれずに言い、永平はハアと息を吐く。シルミルテは戦闘中いつでも永平を庇える位置に立っており、永平はそれを咎めに来たのだ。樹からのお願いは、最優先事項は「五体満足で永平を帰還させる」事。
 永平は頭を掻き、それからまた息を吐いた。この男は女子供に甘い。「一生のお願い」などと出されて、強く言い出せないのだろう。
「俺を心配してるのは分かったが、俺だってお前を一応心配してるんだぜ。無理にとは言わないが……次は顔見せろよ」
 永平はシルミルテに、シルミルテの中にいる樹に言って去っていった。シルミルテはその背中を、ただ黙って眺めていた。


 真人自身にこれといった怪我はなかった。攻撃された箇所にも損傷はなく、五感にも異常なし。今は病院のベッドで大人しくしているという。
 エリズバークはそれを、アトルラーゼと共にベッドの上で聞かされた。エリズバークは嘆息し、白い瞼を静かに閉じる。
 私達がまだ生きているのは
 救われたいステージの甘さと……私ごときを守ろうとする仲間の甘さ
 あぁ……気に入らない

 ここで全ての屈辱を晴らし終わらせる
 思い通りに死なせてやるものか
 その泣いてる心を晴らして、未来を掴む
 まずはその為の一手と、エリズバークは瞼を開けた。そして傍らにいるアトルラーゼに問い掛ける。
『アトル、お兄さんは欲しいかしら?』
「あんな性格悪いやつは嫌です!」

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

  • …すでに違えて復讐を歩む・
    アトルラーゼ・ウェンジェンスaa5611

参加者

  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 夜を切り裂く月光
    無月aa1531
    人間|22才|女性|回避
  • 反抗する音色
    ジェネッサ・ルディスaa1531hero001
    英雄|25才|女性|シャド
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • Aster
    紫苑aa4199hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • Peachblossom
    プリンセス☆エデンaa4913
    人間|16才|女性|攻撃
  • Silver lace
    Ezraaa4913hero001
    英雄|27才|男性|ソフィ
  • 奪還屋
    琥烏堂 晴久aa5425
    人間|15才|?|命中
  • 思いは一つ
    琥烏堂 為久aa5425hero001
    英雄|18才|男性|ソフィ
  • 命の守り人
    温羅 五十鈴aa5521
    人間|15才|女性|生命
  • 絶望の檻を壊す者
    沙治 栗花落aa5521hero001
    英雄|17才|男性|ジャ
  • …すでに違えて復讐を歩む
    アトルラーゼ・ウェンジェンスaa5611
    人間|10才|男性|命中
  • 愛する人と描いた未来は…
    エリズバーク・ウェンジェンスaa5611hero001
    英雄|22才|女性|カオ
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