本部

ありふれた戦い

ガンマ

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
4日
完成日
2019/01/16 19:09

掲示板

オープニング

●一月某日
「新年早々、大忙しだねぇ……ああ、言い遅れていてすまない。あけましておめでとう、今年もよろしく頼むよ」
 と、H.O.P.E.会長ジャスティン・バートレットは君達に微笑んだ。
 新年ぐらいゆっくりできればよかったのだが――現在、H.O.P.E.はかつてない激務に包まれていた。愚神の『王』の出現、そして未来を勝ち取る為の戦い。明日は不確定で、ここが正念場で。
 しかし、エージェントらはそういった戦闘面を主に担当しているが、会長はそうもいかないらしい。各国のトップや国際組織との連携、メディアや世間への説明やらに、大規模作戦の取りまとめ、エトセトラ、エトセトラ。もちろん分担可能な部分は手分けしているとはいえ、世界の未曽有の危機に、我らが会長もかつてないスケジュールのようである。

 さて、そんなジャスティンが、君達に新年の挨拶を述べた経緯について話を戻そう。

 今日も彼は、そういった“会長としての仕事”があった。会長は“会長”だ、H.O.P.E.のトップだ、最重要人物だ、立場上なにかと恨みの矛先を向けられやすい人物だ。ゆえに護衛が幾人が伴われている。君達はその護衛として、ジャスティンに随伴していたのだ。状況が状況ゆえに警備レベルは高い。
 そして会長の仕事の一つも滞りなく終わり、君達は彼と共に大きなビルの立派なホールから外に出て……冒頭に戻る、というワケなのである。
 周囲の風景は、いかにもハイソサエティな……といった趣だ。一張羅のスーツを着た者らが、生真面目な足音と刻んでいる。ありふれた都会の風景。冬の寒さに葉の落ちた街路樹が、空っ風に枝を揺らした。
 さてと、と会長が君達を見渡す。
「後はH.O.P.E.東京海上支部に戻って――」
「ジャスティン、非常事態だ」
 会長の声を遮ったのは、彼の第一英雄アマデウス・ヴィシャスだ。
「……このすぐ近くに従魔が発生する、とプリセンサーからの連絡が。詳細な場所と時間は――」
 英雄の報告に、ジャスティンは眉根を寄せた。
 今からエージェントを出動させては初動が遅れる。初動が遅れれば被害が出る。そしてここには戦える者がちょうど一定数。ならばどうすれば一番合理的か――会長の判断は早かった。
「諸君、出撃だ。今この場において、この事態に立ち向かえるのは我々だ」
「……ジャスティン、お前も行くのか?」
「そうだね。これでもH.O.P.E.のリンカーなんだから。それに、ちょっと体を動かさないと肩こりがしんどくてね!」



●とある、
 ありふれた日。
 ありふれた戦い。
 状況はシンプル。現れた従魔を撃退せよ。一般人避難済。戦闘専念可能。
 思えばリンカーとして最も基本的で原始的な行為だろう。

 無人の交差点に、巨大な従魔。
 立ち向かうのは、たった数人。

 英雄と結んだ誓約、そして絆によって共鳴を果たした君達は、手に手に武器を構えることだろう。
 それは長く使ってきた武器だろうか。最近手に入れたばかりの新品だろうか。
 英雄も、長くを共にした者だろうか。まだ出会って数年ほどの者だろうか。
 いずれにせよ――多くの日々を足場にして、今君達はここにいる。

「さぁ行こう『正義の味方』諸君――」
 共鳴によって若き日の姿になったジャスティンが、兜の影から微笑んだ。その姿はアマデウスがまとう騎士鎧。手には騎士槍と大盾を構え、君達と足並みを揃える。そして彼は、彼方を見やった。

「――世界の明日を護る為に」
 

解説

●目標
従魔の討伐

●登場
上位デクリオ級従魔『執着の蛇』
 頭部が手になっている巨大な蛇。ムカデのように体中に腕が生えている。
 巨体に任せた物理的・広範囲の攻撃を行う。
 生命と特殊抵抗が高く、物理面の能力も優れているが、魔法面と回避面は脆弱。
・祝福されし呪詛
 パッシブ。
 執着の蛇に付与されるバッドステータスは、付与自体は可能だが、効果が発揮されない。
・渇望による喝采
 パッシブ。
 クリンナップフェーズにて、生命を3d10回復する。
 この効果は、バッドステータスが付与されている場合は発動しない。

ジャスティン・バートレット
 味方。アマデウスと共鳴中。
 防御適正×ブレイブナイト。立場相応に強く、戦局判断能力も高い。
 主に防御行動によってPC達の支援を行う。
 PCからの指示や作戦があれば柔軟に対応する。

●状況
 某町、日中。
 広い交差点。所々に乗り捨てられた車がある。
 一般人避難済。迷い込む・逃げ遅れナシ。戦闘専念可能。
 建物への侵入は許可されているが、物的被害ができるだけ発生しないことが望ましい。
 従魔と相対したところからリプレイ開始。事前準備や罠の設置などは不可能。

リプレイ

●無題 01

 従魔が出たので、それを倒す。
 エッセンスは以上だ。
 H.O.P.E.エージェントとして当たり前で、日常的な仕事である。

 まあ同行者がH.O.P.E.会長というのはなかなか非日常的要素ではあるが――と、ソーニャ・デグチャレフ(aa4829)は紳士を見やる。彼の娘について言いたいことがあるが、まあ、彼の娘も成人済、自己責任が発生する年齢。幼児でもあるまいし……そう結論付けることにして。
「ソーニャ・デグチャレフである。此度はよろしく頼む」
 踵を揃えて挨拶の後、彼女はラストシルバーバタリオン(aa4829hero002)と共鳴を果たした。

 対照的に神経を尖らせているのはGーYA(aa2289)だ。護衛任務に就いた時からずっとである。
「会長に何かあったら世界が揺らぐ、警戒を怠るなまほらま」
『肩に力が入りすぎよ、みんな精鋭揃いだし会長もリンカーなんだから……』
 手が白むほど武器を握り締める相棒に、まほらま(aa2289hero001)はライヴス内でそっと言葉をかけることしかできない。
(今のジーヤに、気休めの『大丈夫』は言えない……)

 迫る戦いの気配に、ファリン(aa3137)もヤン・シーズィ(aa3137hero001)と共鳴を。それから、自嘲のようにそっと呟いた。
「後世の歴史家が我々をどう記そうと、わたくしの正義はこの胸の中に」
『君を真に理解しているのは俺だけであるのを、些かうれしく感じる』

 ――想いは様々、なれど、すべきことは共通。

「従魔との戦い……これもまたある意味、日常でしたね」
 辺是 落児(aa0281)と共鳴した構築の魔女(aa0281hero001)が言う。
(ふと思えば、従魔がいない世界を全く知らない世代もいるのですね。この世界は)
 そう思って見渡した――視界には、まだうら若き者ら。なれど彼女らが一騎当千であることを、ここにいる誰もが知っている。

「新年早々街で暴れるとか従魔も暇だなぁ」
「従魔にうちらの都合は関係あらへんやろからな」
 そう交わしたのはアンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)と八十島 文菜(aa0121hero002)だ。
 それはアーテル・V・ノクス(aa0061hero001)も同じで、「全くだな」と木陰 黎夜(aa0061)を見やる。
『尤も“新年”など、従魔には関係ないが』
「ん……大きいのが一体」

 ――行こう。

 その声は、ニクノイーサ(aa0476hero001)に対する大宮 朝霞(aa0476)も時を同じくして。
「いくわよ、ニック。新春! あけまして変身よ!」
「……余裕あるな、朝霞。この程度の従魔じゃ全く動じなくなった」
「ニックも、変身ポーズを要求されても動じなくなったわよね」
「あぁ、さすがにもう慣れたさ」
 遠い目をするニクノイーサ。想いを馳せる幾つもの日々。「それじゃ改めて!」と朝霞は間合いを取る。
「変身! ミラクル☆トランスフォーム!!」
 ビシッとキメて、聖霊紫帝闘士ウラワンダーに変身だ。

 リンカー達に相対するのは巨大な従魔である。
 その不気味な“手”に、リンクを果たしたアンジェリカは眉根を寄せる。
「ていうか蛇か百足か何だか解らないけど気持ち悪い姿してるなぁ……あれは早々に退治しないと精神衛生上よくないよ、うん」
 というわけで、スナイパーライフルを構えるのだ。

「まるで王の執着が形になったみたい……」
「……祓わなくてはなりませんね」
 一方で、ナイチンゲール(aa4840)と善知鳥(aa4840hero002)はそう交わす。しからば共鳴を――と、ナイチンゲールはその体の主体が英雄にあることに気付いた。
『善知鳥……?』
「そう、恐らく彼の異形は王の呪詛。ならば生半な覚悟で調伏せしめることなど叶いません。特に、此の段に在って尚、貴女は優し過ぎるから」
『でも』
「わたくしに任せてくださいな」
 薔薇十字章を手に、善知鳥は聖母のように微笑んだ。
(――そして優しければこそ、善き心を以てこの力を学び取りなさい)



●無題 02
「百足ではなく百手であるな。センチピードではなくヘカトンケイルと言うべきか」
 ラストシルバーバタリオンに“搭乗”したソーニャは、泰然とした唇でジョークを紡いだ。
「人型戦車ラストシルバーバタリオン、発進である」
 言うや、鋼の巨躯が無人の道路を駆けた。最前線、ソーニャらの巨躯よりなお巨大な怪物に臆することなく、肩の三連対愚神砲バッヘルベル・カノンを向けた。見極めの眼は精密に、撃つべきタイミングを逃さない。
「主砲、撃ェッ」
 あどけない声とは裏腹に、霊力の火薬が雷と吼える。砲撃の余波が一月の大気を震わせた。
 構築の魔女にとっては聞き慣れた音だ。
「さて、ジャスティン会長と共に戦えるのは喜ばしいですね」
「こちらこそ。前は抑える、火力支援頼むよ」
「もちろんです」
 地を蹴った騎士を信頼と共に見送って、構築の魔女は爆煙をくすぶらせる従魔へ魔導銃「アナーヒター」を向けた。事前にプリセンサーが物理面は堅固だと送ってきたデータ通り、ソーニャの一射によって執着の蛇はわずかに体を揺らしたのみ。とはいえ無傷ではないので物理で押し切ることも不可能ではない――が。
「再生するということは、あまり時間をかけるのは得策ではありませんね」
 この世の真理はタイムイズマネーだ。引き金を引く。冷たい水弾は魔的な力を帯びて、従魔の頭部……と思しき掌の、手首に当たる部分に突き刺さる。弱点看破によって、命中したのは最も効率的に“千切ることができそうな”部分だ。頭なんだか手なんだか首なんだか、形容に困る場所。
 この従魔は魔法面の能力は脆弱だ。構築の魔女による一撃は大きなものになる。が、それが悲鳴を上げるようなことも、痛みに悶絶するような様子も見せることはない。傷口からは血の代わりに、黒いヘドロのようなモノが伝うのみだ。生き物らしさが実に希薄で、生理的な嫌悪感を醸し出す。
 構築の魔女は溜息のように呟いた。
「王がこの世界にしがみついている状況で、この従魔ですか……」
「あの腕のような姿……王の一部のように見えますわね」
 ファリンも同感だった。黎夜も仲間の言葉にコクリと頷く。
「手ばっかり生えてるの見ると、『王』のことを思い出す、な……」
 王とこの従魔は全くの無関係ではないのだろう。追放されつつある王の具現の欠片か、はたまた……。
「に、しても自己再生するのか。厄介だなぁ」
『ぼやいても始まりまへんえ。回復量より多くのダメージを与えればええんや』
 アンジェリカの言葉に対し、ライヴス内の文菜が勇ましく言う。「それもそうか」と後衛の乙女はスナイパーライフルのスコープを覗き込んだ。弱点看破――狙うべきは、先ほど構築の魔女が穿った傷口だ。
『スナイパーのプライドにかけて外しまへん!』
 気合は十分。放たれた弾丸は物理法則を超越し、文字通りの“転移”をして、妄執の蛇の傷口にめり込んだ。
「プリセンサーからの情報によると……苦手なんだよね、こういうの?」
 事前に送られてきたデータによると、かの従魔はバッドステータスに冒されると再生能力を制限される。ふふん、とアンジェリカは口角を吊り、再度の弾丸の為に銃を構えた。
 レティクルの向こう側――H.O.P.E.インカ支部謹製ジャングルランナーによって、従魔の巨体へ跳びかかったのはジーヤだ。
「……やっつけるッ!」
 従魔の体に着地し、のたうつその上で姿勢を保ちつつ、聖剣「ブレイブリンカー」を握り締め――銀の刃に充填するのは、蒼く輝くライヴスだ。大上段に振りかぶるそれを、暴君の名を冠した剣技を以て叩き付ける。いかに物理に堅牢と言えど、それすら圧砕する攻撃の前には塵芥。従魔の体が大きく抉れる。
「でっかいわね。どこが弱点なのかしら?」
 その様を見上げる朝霞は眉根を寄せた。
『ありがちな話として、頭部、あとは心臓にあたる器官が体のどこかにあるんじゃないか?』
「……頭には届かないし、心臓はどこにあるかわからないし、とりあえず届く場所を思いっきり攻撃するしかないわね」
 ニクノイーサに答えつつ、朝霞はマジカルなウラワンダー・ゴーグルで従魔のライヴスを観察した。だが、これといって妙な流れはない。となれば現状で最も効率的なのは、弱点看破をしたアンジェリカが傷口を狙ったように、負傷した部位だろう。
「思いっきりぶっ叩けばOKよね。くらえ! ウラワンダー☆アタック!!」
 殴れるならば理論上は倒せるのだ。白いマントをなびかせて、間合いを詰めて――思いっきり振り被られたウラワンダーのマジカルなステッキが、キラキラ輝きながら従魔の体を打ち据える。見た目は全力で物理だが、これでも立派な魔法攻撃である。
 ならばと従魔が反撃に出た。移動を放棄して翻弄を捨て去ると、周囲にいる前線の面々――朝霞、ジーヤ、ソーニャ、ジャスティンを狙う。
「「会長!」」
 朝霞とソーニャが声を揃える。二人共物理防御に関しては自信があった。ゆえに己を庇う優先度は低くていい。その意を込めた言葉に、ジャスティンは「任せたまえ!」とニッと笑った。
 直後、質量をそのまま武器にした従魔の巨体が、数多の腕が、暴れ狂う。地面を叩けばアスファルトが割れ、尾が掠った信号機がひしゃげ折れる。
 朝霞とソーニャはまさに不動とそれを耐え切り、巨躯の上から弾き飛ばされたジーヤについては会長が護った。
「あっ……すいません会長」
「いいってことさ。君が剣を得意としているように、私は防御が得意だからねぇ」
 さあこの調子で頑張ろうか、とジャスティンはジーヤに微笑んだ。
 そこへ、ファリンが会長へ声をかける。
「貴方の存在そのものがプロパガンダです。こんな時だからこそ雄々しくあられますよう」
『妹はこのような言い方であるが……貴方に勇気づけられる者もいる。頼られているからこそ、批判という形で無茶な要求もされよう』
 言葉と共にケアレイをソーニャへと注ぐ。それはライヴスで作り出した銀の鍼で経絡秘孔を突き、気脈を整えるという代物だ。一見物騒だが、効果はバッチリ。そんな部下の言葉に対し、会長は。
「私は、ずっとヒーローに憧れているのさ」
 そう言って、どこか少年のように笑った。小難しい言葉は並べず、それだけを簡潔に。
 ファリンは穏やかな笑みを会釈としつつ――その目はどこまでも冷静に冷徹に戦況を見澄ましている。冬の空風に花の羽衣がふわりと揺蕩う。柔らかな美貌を凛と引き締めた横顔は、魔性めいて美しい。
 ――ちょうど、妄執の蛇がいるのは交差点のど真ん中。この調子で足止めをしていれば、アスファルトはともかく建物などに被害は出まい。
 従魔の攻撃範囲や射程についても、後衛位置にいれば当たらないだろう。そして前衛の面々を無視して逃亡する気配も見当たらず。妄執の蛇の知能がどれほどかは不明だが、従魔である以上は、人間のような高度な戦略を取ることもあるまい。周囲にあれを指揮しているような存在もいない。
 とはいえ何かの拍子で後衛を狙って突っ込んでくる可能性も十二分にある。その際に建物に被害が出ないようにと、ファリンは道路の真ん中に立つ。戦場を広く見渡しつつ、個々を把握する。
 善知鳥も同様、彼我の距離感を見極め、従魔の射程外ギリギリの位置にて相手の正面に立つ。
「よく見ておきなさいグィネヴィア」
『……』
 かざされる掌。力場の突風は見えざる鞭となって、かの巨体を赤子の手を捻るように横転させる。これはバッドステータスではない、ただの転倒。よって、かの従魔はそれを無効化することはできない。
「かの従魔に居は再生能力があります。従魔なれど油断なく……“完全に消滅させる”まで気張りましょうか」
「ん。ブルームフレア、撃つ……!」
 善知鳥の言葉に呼応したのは黎夜だ。転倒状態ならば回避能力もいっそう落ちているはず。ブルームフレアで、より確実に着火させられるはずだ。

「木陰黎夜。アーテル・ウェスペル・ノクスと共に、お前を討ち落とす」

 長年使ってきた魔法書、黒の猟兵を手に。そして、長年の相方と共に。培ってきたものの中には苦いものもある、それでも乙女は前を向く。強い意志を湛えた双眸は敵を見据え、かざした掌の先に漆黒の焔を咲かせてみせた。火焔は異形にまとわりつき、その身を慈悲なく焼いてゆく――これで妄執の腕の再生能力は発揮されない。
「たとえ回復されても……それを上回るダメージを与えれば、問題ねー、よな。慢心とか傲慢は、よくねーけど……」
 言いつつ、再び術を行使する為に黎夜は魔力を練り上げ始める。その言葉には朝霞もニクノイーサと共にウンウンと頷いた。
『単騎でのこのこ現れて何ができると思ったが、回復能力とはなぁ』
「上等よ! 回復量以上の攻撃を叩き込めばいいのよ!」
『満場一致みたいだな』

「核などはないようですね」
 続く戦い、先ほどと同様に容赦なしの魔弾を撃ち込む構築の魔女は、相変わらずの涼やかな顔で敵の挙動を観察している。
「もともと、視覚に頼っていそうではありませんが、攻撃するなら狙いを定めるとは思うのですよね。……何か感覚器があれば、その破壊が一番ですが」
「一応は頭部らしき部位が“前”のようですわね。強いて感覚器があるのではと予測するならば、そこでしょうが」
 ファリンが言うように、頭部らしき部位は見ての通り手だ。目も耳も鼻もない。かの知覚能力は、推測するならばレーダーユニット「モスケール」のようなライヴス感知だろうか?
「多足の蛇? 頭が手って、右手と左手どっちよ」
『視覚はあるんだろうか。蛇なら周囲の温度を感知してこちらの位置を特定してくるかもしれないな』
 片眉を上げる朝霞に対し、ニクノイーサが蛇のピット器官を例に挙げる。
「まあ、いずれにせよ、叩き潰せば解決である」
 謎めく生態の従魔に対し、ソーニャの回答はシンプルだ。

「物理に強い? 結構、物理に強いのであれば物理にて征伐してやるのである。小官が物理戦というものを貴官に教育してやろう」

 ロケット砲の範囲爆撃は前衛面子を巻き込みかねない、よってバッヘルベル・カノンの砲弾を叩き込む。それはもう敵側が音を上げるまでだ。その砲声で我ここに在りと存在を刻む。敵はこちらだと立ち塞がる。
 しからばと、呼応するように従魔は横転から立ち上がって、その巨体を持ち上げた。のしかかるように数多の手で、周囲一切を圧し潰さんと襲いかかる。爆発音じみた衝撃音が響いた。
 次の瞬間、再び従魔は歪む力場に倒れ込む。不可視の鞭を操る善知鳥が人畜無害に笑んでいる。
「そこから動かれますと、建物が壊れてしまうかもしれませんので……」
 その言葉終わりには、従魔の重い一撃を容易いほどに耐え切った前衛面子が、横這いに縫い留められたそれに躍りかかるのだ。
 ウラワンダー・ガントレットで従魔の攻撃をしっかりと防ぎ切った朝霞は、今一度と魔法のステッキを振り被った。

「みんなの生活――みんなの未来を守るために、私達は戦わなきゃ! 従魔と! 愚神と! 王と!」

 決意は気高く、勇気は美しく。煌くハートに夢と希望をいっぱいに、朝霞の一撃が決まる。
 続くのはジーヤだ。なまじ防御が得意な前衛面子に挟まれて、自分がまたもや庇われたことに負い目がないと言えば嘘になる。ジーヤが劣っているからではなく、それが彼らの得意分野ゆえと理解はしていても……焦燥は否めない。護るべき存在と認識している会長から守られているのでことさらだ。
 ……仲間の力を借り、全力で挑みながら、助けられず愚神になってしまった少年がいた。その表情が脳裏を過ぎる。
 次いで蘇るのは、まほらまと出会う前、優しい嘘を吐く医師らに憎悪しながらそれを抑え、微笑み返すしかなかった自分自身。
 少年を「救う」という決意の言葉は、失敗によって“嘘”になった。
 あの医師達の嘘も本当は……“そう”だったのかもしれない。
 その先を生きることで感じた思い、“それ”を少年に与えられなかった無念。ジーヤは唇を噛み締めた。

 ――もっと、もっと俺に力があれば。

 蒼銀の三閃が翻る。
 そこへさらに一条の銀が、妄執の腕に突き刺さった。黎夜による銀の魔弾だ。
「あともう一押しで……落とせそう……」
 アンジェリカのテレポートショットによる翻弄を従魔が移動を捨てて解除したこと、善知鳥の見えざる鞭による転倒、その連携で従魔は移動が完封されている状態だ。このまま押し切れば、従魔を一歩も動かさずに撃破することも可能だろう。そうなれば物的被害も大きく抑えられる。
『このまま押し切るぞ』
「了解……!」
 魔法攻撃とバッドステータスのプロフェッショナルであるソフィスビショップ、黎夜とアーテルは火力の要だ。敵の攻撃を一手に引き受けてくれる前衛面子の為にも、ありったけの想いを魔力に込める。
「どんどん当てていくよ!」
『的が大きいよって、当てやすいどすなぁ』
 従魔の思考ルーチン上、解除できる状態異常は解除を試みるようだ。しからばとその移動を封じるべく、アンジェリカはテレポートショットを撃ち込んでいく。その弾丸の精密さは機械のようだ。従魔の動きを留めているお陰で、当初考えていた乗り捨てられた車を盾にする作戦もやらなくてよさそうだ。車って安くないもんね! と心の中で呟く。
「この調子なら、全て杞憂に終わりそうですね」
 構築の魔女はアンジェリカに合わせて引き金を引きつつ、エージェントらの連携に崩されゆく従魔に対し呟く。 
「とは、いえ。世界の命運を決める戦いの前ですから、いつも以上に慎重かつ迷わずに……ですね」
 集中狙いされた従魔の頭部らしき部位はズタズタになっていた。その損傷具合から長くはないだろう。一方で逃亡の気配は相変わらずない。未知の能力でリンカーを捕捉し、崩れゆく体で攻勢をしかけんとする。
「……かかりましたね」
 なれど既にファリンの術中。女仙の眼差しの先、ソーニャへ巨躯を叩き付けた従魔であるが……その一撃は、そのまま従魔へと跳ね返った。ファリンがソーニャへ施していたライヴスミラーである。物理攻撃力が高いのであれば、それをそっくりそのまま返せばいいだけのこと。
「では、トドメはお任せ致しますわ」
「任せよ――神経接合、リミッター限定解除、超過駆動モード起動!」
 答えたソーニャは武装を破壊斧ファルシャへと持ち替えていた。鋼鉄の脚で大きく従魔へ踏み込むと、全膂力を込めて武装を叩き付けた。過剰なまでの大攻撃に、長い従魔の体がブツリと斬れる。
「なに、百足とは存外しぶといもの。三枚におろしたところで死にはすまいて。ゆえに――」
 間合いを開けつつ善知鳥へアイコンタクトを。艶やかな紅が引かれた魔性の唇を笑ませ、善知鳥が頷いた。
「――焼却がよろしいかと」
 全ては味方の損害を抑える為に。ひいては一切の瘴気を祓い、この世界を浄める為に。
 善知鳥の背には、燃え上がる火のようなオーラが翼めいて揺れていた。その手には、薔薇十字の封を切られた禁忌の書。
「聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな――」
 祈りによってもたらされるのは緋色の声。従魔の正面より直線を奔る紅蓮の炎は、“黒き匣”より出でし“本物”である。
「これで、終わり……!」
 そこに合わせ、黎夜も渾身のブルームフレアを炸裂させた。
 一条の烈火、咲き誇る焔華、交じり合い調和する赤と黒、それは従魔の千切れた上半身も下半身をも巻き込んで――灼き尽くし、浄滅する。



●無題 03
 完勝と言っていいだろう。
 物的被害が従魔が行動した際に割れたアスファルトや、信号機やら標識がひとつふたつ折れた程度で済んだ。これについては従魔を一撃で仕留めねば防げなかったような(つまりは実現不可能な)ことだったので、不可抗力である。
 エージェント側も被害はなし。強いて言うのなら前衛面子のわずかな掠り傷程度(尤もファリンの回復によるダメージコントロールで本当に軽微だが)で、これもバトルメディックの者が治癒術を施せば容易く完治した。
 プリセンサーの予知によればこの個体以外に従魔や愚神は感知されていないとのことだったが、念の為とファリンはその場から離れ、警戒の為に周辺探索を開始する。ソーニャも別方向を手分けして探索することとした。――結果として危険なものはなかったが、それは裏を返せば安全が証明されたということだ。
 撃滅された従魔については黒い泥をわずかに残すのみで、それもまもなくして消滅した。

「会長、被害状況は――」
 黎夜はまとめた情報をジャスティンに伝える。「ありがとう、お疲れ様」と返されれば「こちらこそです」と一礼し。
「怪我とか、大丈夫、でしたか……?」
「問題ないさ! 重傷者が出なくて本当によかった」
 ジャスティンの回答通り、わずかなかすり傷も既に治療済みだ。疲弊した様子もない。
「木陰君も、怪我がなくてよかったよ。魔法の攻勢、お見事だった! 助かったよ、ありがとう」
「あ、りがとう、ございます……」
 こうも真っ直ぐ褒められるとちょっと照れ臭い。尻すぼみに黎夜は視線を惑わせた。
 横でやり取りを見ていた朝霞は安堵しつつも、会長へと快活に笑みを向けた。
「お疲れ様です、会長。この調子で、王もやっつけちゃいましょう!」
「そうだね! 諸君がいれば百人力さ」
 頼もしい笑みだ。「会長さん、アマデウスさん、防御ありがとう」とアンジェリカも声をかける。それから構築の魔女を始め皆に労いの言葉をかけると、改めてジャスティンに向き直る。
「ご苦労様、会長さん。そういえばヴィルヘルムさんは今日はどうしてるの?」
「支部の方で新人の訓練指導をしているよ」
「そうなんだ。家でのんびりしてるかと」
「あの子は体を動かすことが好きだからねぇ」
 ヴィルヘルムもヴィルヘルムで、できることをやっているようだ。
「お疲れ様でした、ジャスティン卿。ご自愛くださいませ」
 次いで会長に一礼したのは善知鳥だ。そのライヴス内ではナイチンゲールが、北極の“特異点”を想っている。善知鳥は小さく溜息を吐いた。
「森羅万象を司ろうとも、あの子の憑き物は落とせません……か」
「む?」
「ふふ、お気になさらず。それよりも王は、必ずや人の手で討ち取られましょう。どうか貴方様はその後を――明日の希望を、よしなにお取り計らいくださいませね」
 善知鳥は顔を上げて華やかに笑んだ。「任せてくれたまえ」と紳士はしかと頷いた。
 さて、一同とジャスティンとのやりとりを遠巻きに眺めていたのはジーヤだ。労いの会話もひと段落すれば、一同は共鳴を解除し撤収に向かう。その最中、ジーヤはそっと会長に――先程まで若き日の姿で雄々しく戦っていた彼に歩み寄って。
「どうすれば、会長のように強くなれますか」
「君には、私が“強い”と見えているかい?」
「……えっ、」
「私はね、たくさんの友人や部下を失った。救えなかったものは数えきれない」
 あるいは死、あるいは失望。おびただしい数の十字架が背にあることを、ジャスティンは呟いた。
「それでも成したい希望があって、ここまで来たんだ。……立ち止まってしまえば、それこそ全てに対する冒涜になる。何より自分への嘘になる」
「……、」
「ジーヤ君。君の一番成し遂げたい希望は何だい? その夢を、忘れずにね」

「……【屍国】でね、」
 相棒の背を見守りつつ、まほらまはアマデウスに呟いた。
「“リンカーはウイルスに感染しない、だから分からない”って感染した女性に言われて……自ら傷口にウイルスをなすりつける子なのよ。一般人との力の差が与える影響を憂いている一方で、更なる力を求めているの。このままだといずれ心を壊しそうで、どうしたらいいのかしら」
「違うことを同じにすることなど不可能だろう。人間なのだから」
 格差を嘆く気持ちは分からんでもないが、とアマデウスは淡々と言う。
「違いを受け止め、自らを誇るところからではないか? 少なくとも、自己嫌悪にまみれておいて“仲良くしたい”は果たされるとは思えんな」
 変わらずの物言いだが、アマデウスなりの気遣いがあった。「年頃の男子はたらふく飯を食わせておけばよかろう」と肩を竦め付け加える。
「ご飯、ねえ……」
 ふう、と吐いたまほらまの吐息は、一月の空に消えた。ありふれた青空だった。



『了』

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • ぼくの猟犬へ
    八十島 文菜aa0121hero002
    英雄|29才|女性|ジャ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 危急存亡を断つ女神
    ファリンaa3137
    獣人|18才|女性|回避
  • 君がそう望むなら
    ヤン・シーズィaa3137hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • 我らが守るべき誓い
    ソーニャ・デグチャレフaa4829
    獣人|13才|女性|攻撃
  • 我らが守るべき誓い
    ラストシルバーバタリオンaa4829hero002
    英雄|27才|?|ブレ
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 明日に希望を
    善知鳥aa4840hero002
    英雄|20才|女性|ブラ
前に戻る
ページトップへ戻る