本部

二輪の白百合

gene

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
5人 / 4~8人
英雄
5人 / 0~8人
報酬
多め
相談期間
8日
完成日
2019/01/11 20:10

掲示板

オープニング

●相性のいい二人
 十二月二十五日、キリスト教圏では正月以上に盛り上がる一日だが、日本では昨日の盛り上がりから一転、街中はクリスマスの華やかな飾りなどを取っ払い、一気に和風正月の装いとなる。
 しかし、日本の中でもここ、聖マリア学園では違う。キリスト教のこの学園は、二十五日にキリストの聖誕祭を祝う儀式が行われる。そのため、十二月二十二日から冬休みに入っている学園は、二十五日は登校日となる。
 朝八時、多くの生徒が登校する中、一際人目を引く生徒がいた。
「百合亜様だわ!」
「今日も素敵ね!」
 腰まである長い髪は黒く、肌は白く、凛と歩く姿はまさに百合の花のようで、その清楚な姿は女生徒の憧れの的だった。
「百合亜様! これ、受け取ってください」
 ひとりの男子生徒が百合亜に手紙を差し出す。
「僕からは花を!」
 他の男子生徒が白百合の花束を差し出した。
 さらに数名の生徒が百合亜に贈り物を差し出す。
 百合亜は優雅に微笑んだ。
「ありがとう。でも、そんなにたくさん持つことはできませんから」
 すべての贈り物をそう断った百合亜の頭の中で声が響く。
『百合亜、どうして受け取らないの? 私なら、全部余すことなく受け取るわ』
「リリアは巨大蜘蛛が持ってくれるからでしょう?」
 百合亜は小声で言う。
「それに、リリアが本当に欲しいのは物じゃない」
『そうね。ライヴス……それに、私のドロップゾーンに飾るのにふさわしい美しい男』
「いま、慎重に値踏み中よ」
『百合亜は慎重すぎるのよ』
「ガラクタはいらないでしょう?」
『ガラクタだってわかったら、捨てればいいのよ』
「そんな方法、ドラマチックじゃないわ」
 ふふふっとリリアが笑う。
『百合亜は面白い子ね。こんなに気に入った女の子は貴女がはじめてよ』
 百合亜もふふっとリリアのように笑う。
「それは、光栄だわ」

●神隠し
「あー、頭いてぇ〜」
 昨夜、クリスマス・イヴにも関わらず本部に来ていたヴィクターと九条を捕まえて、沼津は居酒屋に行った。そこで日頃の愚痴などを言いながら、酔い潰れるまで飲んだのだ。
「沼田さん!」
 扉を勢いよく開けた後輩は、今月に入ってからずっと、沼津を沼田と呼んでいる。
「お前、その呼び方、もうやめろ。俺の改名の噂が広がってんだよ」
「これは先輩が今年中に有馬の正体を暴くって賭けに対する罰ゲームなんですから、やめるわけにはいきません」
「今年中だろ? まだ可能性はあるだろうが?」
「ここまでなんの動きもなかったんだから、今年はもう接触することさえ無理ですよ。諦めてください」
 沼津が言葉に詰まると、「そんなことより」と、後輩がいま入った事件の情報について話し出した。
「本日、聖マリア学園で神隠しがありました」
「神隠し?」と、沼津は眉間に深いシワを寄せる。
「行方不明ってことか?」
「まぁ、そうとも言いますが、朝礼の時に、大勢の目の前で忽然と姿を消したんです。まさに、神隠しのように」
「被害者は?」
「神崎セト、十七歳。学園の理事長の息子で、生徒会長。文武両道、眉目秀麗の人格者とのことです」
「それで、その神崎セトがどうやって消えたって?」
「どうやってかはまだわかりませんが、本日はクリスマスですから、キリスト教の学校としては重要な日のようで、祝いの儀式なる集会があったそうです。当然、生徒会長の挨拶もあり、神崎セトは壇上に上がった。その時、ひとりの女生徒が蜘蛛に驚いて悲鳴をあげ、その場にいた全員が彼女に視線を移した一瞬の間に消えたそうです」
「つまり、誰も神崎が消える瞬間を見てないのか?」
 沼津は顎を撫で、資料に目を通す。
「奇妙な事件だな。確かに、HOPE案件のようだ。エージェントたちを集めてくれ」

解説

●目標
・神崎セトの救出

●登場
・愚神:リリア ケントゥリオ級
・巨大蜘蛛の従魔を意のままに操ることができる

●場所と時間
・聖マリア学園
・日中

●状況
・神崎セトが神隠しにあった。
・全教員、全生徒が体育館に集められている。

※オープニングの前半及び以下はPL情報となります。
・リリアは百合亜に憑依中だが、かつてはイエローサンタを名乗っていたエーリクに力を貸していた。
・リリアは戦闘よりも捕獲と逃走が得意。
・あなたたちが学園に着いた時、神崎セトはまだ学園内のどこかにいます。

リプレイ

●さぁ、聖域の敵陣へ(由)
 空に白い雲がいくつか浮いている。清廉潔白な青に穏やかさを補う。爽やかな空の下、荘厳な教会のような純白の建物を見上げて、リーヴスラシル(aa0873hero001)は言った。
「テール・プロミーズと同じ、キリスト教系の学園か」
「私たちの学園はプロテスタント系ですけれどね」と月鏡 由利菜(aa0873)が返す。
「日本のキリスト教はカトリック系が圧倒的多数ですから、この聖マリア学園もカトリック系と思われます」
 由利菜たちからすこし離れたところに立ち、レイ(aa0632)も学園を見上げる。
「現代の神隠し……か」
「隠さなくたっていいのにね~」
 カール シェーンハイド(aa0632hero001)の視線は学園を通り越して、自身の真上、この世界の半分を見つめる太陽を見上げる。その眩しさに、カールは目を細める。
「……そうだな。必要があるから隠しているのだろう」
「理由、かぁ……何だろ?」
 二人が神隠しの理由を考えている頃、木霊・C・リュカ(aa0068)とオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)、紫 征四郎(aa0076)とガルー・A・A(aa0076hero001)は学園の正面玄関を通り、体育館へ向かっていた。
「人を一瞬で壇上から誘拐する手口ねぇ……プリン○ステ〇コー?」
 真剣な顔で首を傾げたリュカをオリヴィエが軽く膝で蹴る。
「すぐに探し出さなければ、ですね」
 征四郎はまっすぐな眼差しを相棒のガルーに向ける。
「ああ。どうにもキナ臭ぇな……」
 廊下の先に見えてきた体育館の扉をガルーは睨む。
 それは、確かに体育館の扉のはずだったが、まるでゲームに出てくる神殿の扉のようだった。その扉の前にはヴィクターと沙羅、そして、メリッサ インガルズ(aa1049hero001)と、見るからに落ち込んでいる荒木 拓海(aa1049)がいた。
 ヴィクターが挨拶のために口を開いた瞬間、リュカが「ヴィーっちゃん久しぶりー!」とタックルをかましてきた。
「……目が見えないのに、いつも何故わかるんだ?」
「ヴィーちゃん、沼津さんと飲みに行ったんでしょー!? なんで、おにいさんのことも誘ってくれないの〜!」
 ヴィクターに抱きついて拗ねだしたリュカの肩をガルーがつついた。
「おい、リュカ。あっちにも気を使ってやれ」
「ん?」とリュカが振り返ると、リュカたち四人、そして追いついてきたレイとカール、由利菜とリーブスラシルに向かって、拓海が深く頭を下げた。
「世話をかける……すまん!」
 大戦で深手を負った拓海は、全力で戦うことができない体となった自分を責めていた。そんな拓海に対し、リュカは「たくみんくらーい!」と拓海の背中を叩いた。
「っ!!?」
 痛みに呼吸さえ忘れ、拓海は涙目になる。
「まぁ、そう落ち込みなさんな?」
 ガルーが拓海を慰める。
「明日は我が身……かもしれないし?」
 カールも明るく笑う。
「拓海がいてくれるだけで、助かるし、な……」
 ヴィクターが珍しく、その目をすこし細める。
「み、みんなぁ……」
 感涙で拓海は瞳を潤ませた。
「それでは、行きましょう」
 由利菜がマリアのような慈悲深い微笑みで、扉を開いた。

●前途多難嫉妬混入調査開始、なのです!(征)
「痛む?」
 メリッサが青白い拓海の顔を覗き込むと、「まぁ、ちょっとね……」と、止むことのない痛みを拓海は強がる。
「でも、共鳴すれば大丈夫」
 そう拓海が伸ばしてきた手からメリッサは笑顔で目をそらす。
「ちょっと、なら大丈夫ね! 二手に別れたほうが効率いいし、このまま行きましょう?」
「ああ〜、嘘つきました! ごめんなさい! 痛いです! 割と、だいぶ、痛いです!!」
 慌てる拓海の姿にメリッサはふふふと笑い、拓海の手を握り共鳴した。

 オリヴィエと共鳴したリュカはモスケールを装着して、体育館を歩く。
 学園長からエージェントに関する説明があったものの、生徒たちの興味津々の眼差しと緊張感を和らげることはできない。
 緊張しながらもリュカをちらちらと盗み見て頬を染める少女に、リュカはにっこりと笑い、話しかけた。
「すこし聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「は、はい!」
 リュカは少女の手を取ると、「こっち!」と、体育館隅へ誘導する。
「……」
 そんなリュカの様子を複雑な思いで見つめていたのはガルーと共鳴した征四郎だ。
(あ〜……あいつはあれだ、天然タラシであって、意図してるわけじゃないから……)
 ガルーの慰めの言葉に、「そうですよね」と、征四郎は呟くように返す。
「ガルーとは違ってあれが自然体だから……みんな、好きになっちゃうんですよね……」
(あああ〜……ちょっと変われ!)
 ガルーは共鳴の主人格を征四郎から奪うと、リュカの元へと駆け寄った。
 女生徒が怖がらないようにガルーは明るく笑う。
「お嬢さん、可愛いね! ご協力、ありがとう!」
 ガルーはリュカの耳元に顔を近づける。
「リュカ、征四郎も一緒に聞き込みするから」
「ほんと〜? 助かるよ〜!」
 リュカの満面の笑顔に征四郎の気分がすぐに高揚したのが、ガルーに伝わる。
(マジ、天然、怖い……)
「あ、ガルーちゃん、オリヴィエから伝言」
(ん?)
「『仕事中にナンパしてんじゃねーよ』……だって」
 リュカの満面の笑顔のままのオリヴィエの非難……。
(……マジ、怖い)

 その頃、共鳴したレイと由利菜は教員から全校生徒の名簿と教員名簿をもらい、手分けして生徒と教員の全員が体育館にいるのかを確認していた。
「レイさん、私のほうは全員いました」
「俺のほうもだ。聞き込みは拓海たちに任せて、俺たちは探索を開始しよう」
 二人は由利菜が用意した学園内マップを見ながら、お互いに担当する場所を決め、また二手に別れた。

 リュカと征四郎は生徒への聞き込みを進める。
「セトくんが消えた時、誰かが悲鳴をあげたって聞いたんだけど」
 聞き込み三人目の生徒にもその前の二人と同じ質問をしてみる。
「あ、百合亜様です」
 三人とも同じ答えで、三人とも『様』をつけていた。
「みんなの憧れなんです」 
 この回答も同じ。
「百合亜様は綺麗で、頭も良くて、運動もできて、みんなに優しくて……完璧なんです!」
「その百合亜様は、どうして悲鳴をあげたの?」
「蜘蛛がいたそうです。いつも落ち着いている方があんな風に悲鳴をあげるなんて……みんな驚いて百合亜様を見ました」
 ガルーは征四郎に言った。
(蜘蛛くらいで、体育館中に響くような大声出したりするかね)
「きっとびっくりしたのです。征四郎も出してしまう……」
 ガルーに返した言葉だったが、ガルーの声が聞こえない女生徒は征四郎に微笑んだ。
「そうですよね。蜘蛛が腕にくっついていたら、誰だってびっくりしますよね」
「腕についてたんですか!?」
 征四郎はもし自分の腕に蜘蛛がついていたらと想像してゾッとした。
「百合亜様と親しい友達は誰かな?」
 女生徒はすこし考えるそぶりを見せ、「いません」と答えた。前の二人と同じ答えだ。
「百合亜様はみんなに平等に優しいので、特別に親しい人はいませんでした」
「……そっか。ありがとね」
 自分の列に戻る女生徒の背中に手を振りながら、リュカは征四郎に言った。
「みんなに優しい百合亜様……せーちゃん、どう思う?」
「優しいのに、親しい友達がいないなんて、変なのです」
「だよね……次は神崎くんの担任に話聞いてみようかな」
「征四郎は神崎のクラスメイトにお話、聞いてみるのです」

●敵を欺くには味方から(レイ)
(平然としている生徒や教師はいないか?)
「いまのところは、そういう人たちは見えないわね。強がって見えても、緊張している様子が伺えるわ」
 拓海はメリッサと主人格を交代して聞き込みを行っていた。
「ねぇ、セトくんの写真とか……無い?」
 不安そうに身を寄せ合っていた四人組の女生徒たちに話しかけると、彼女たちはポケットからスマホを出して隠し撮り写真を見せてくれた。
「わぁ〜! モテそうね。心配して泣いてる子も多いのじゃない? セトくんは、行方不明になった時、どこで何をしてたのかしら?」
 四人はメリッサの問いかけに無意識に壇上を見る。
「神崎先輩は登壇して」
「挨拶を始めたところでした」
「途中で悲鳴が聞こえたのよね?」
 メリッサの質問に、一人の女生徒が「百合亜様です」と答えた。
「綺麗な声だから、すぐに百合亜様ってわかって」
「百合亜様の大きな声なんて初めて聞いたから」
「みんなびっくりしたよね」
 メリッサは彼女たちにお礼を言って、その場を離れた。
「征ちゃんからの報告通りだわ」

「セトくんの担任の先生ですか?」
 リュカが話しかけた初老の教師は軽く会釈を返した。
「セト少年の最近の様子についてお聞きしたいんですが。変わった様子はありませんでしたか?」
「いや、特になかったよ。彼はいつも落ち着いていて、実に優秀な生徒だ」
「最近よく話していた人や、話題にあげている人はいませんでしたか?」
「彼が話をするのは、生徒会のメンバーだが……それ以外の親しい人物は、私にはわからないね」
「気になることがあったら、どんな小さいことでもいいから教えてください」
「そうだな……神崎くんとは関係ないけど、教員のパソコンがハッキングされ、試験問題が盗まれる事件があった」
「ハッキング……」
 セトのクラスメイトへ話を聞きに来ていた征四郎も、ハッキングの話を聞いていた。
「ハッキング……ですか」
 エージェントを間近で見ようと、数人の男子生徒が征四郎を取り囲む。
「まだ犯人はわかってないみたいだけどな」
「でも、神崎くんを先頭に生徒会が調べてたから、見つかるのも時間の問題だろ」
「生徒が調べてるんですか? 警察とか、先生でなく?」
「もちろん、外部の人間の可能性を考えて、警察にも協力をお願いしてるみたいだけど」
 征四郎の疑問に一人答えると、付随の回答を別の生徒が話してくれる。
「学期末テストの問題なんて生徒しか必要としないから、きっと生徒の誰かだろうってもっぱらの噂」
「それで、神崎くんが生徒のことは生徒で正していきたいって先生を説得したんだ」
「眉目秀麗、文武両道で、正義感まで強いなんて、カンペキすぎるよなー」
「そういえば、この事件をきっかけに百合亜様ともよく話すようになったよな」
「百合亜と? どうしてですか?」
「百合亜様自ら、犯人探しを手伝うって言ってきたらしいですよ」
「……そうなのですか」
 征四郎は彼らと別れ、二年生の列へと向かった。
(これだけの人の目が集まる場所で事を起こすんだ。隠れてやるタイプではない)
 ガルーの声に、征四郎は頷く。
(憑依する人間も、人気者であったり、目を惹く人間である可能性は高いかもな)
「拓海からメッセージです」
ーーー これから『百合亜様』に接触する
「征四郎たちも行きましょう!」
 すぐに、今度は由利菜のアドレスからメッセージが入ったが、それを書いているのはレイだとわかる文面だった。
ーーー セトが見つかった。

「あなたが、百合亜さん、よね?」
 メリッサが百合亜に声をかけると、伏し目がちに床を見つめていた百合亜がその真っ黒な黒目をメリッサに向けた。
 百合亜の口がすこし開かれたその時、スマートフォンが着信を告げ、メリッサはレイからの報告を確認した。
「よかった……見つかったのね……」
 メリッサは安堵の息を漏らしたが、百合亜の表情は一瞬険しくなる。しかし、すぐに百合亜は微笑みを作った。
「すみません。私、具合が悪いので、保健室行ってもいいですか?」
 メリッサは百合亜をまっすぐに見つめ、「わかったわ」と頷いた。
「出入り口は一カ所に制限させてもらったから、あそこから出てね」
 レイの提案により、出入り口を一カ所に制限し、ヴィクターを見張りに立たせていた。
 百合亜の背中を見送ったメリッサは、レイに返信を打った。

●え? 顔が青白いって? 実は……クリスマスケーキを食べすぎたんだよね!(拓)
ーーー レイさんの報告はもしかして、はったり?
 メリッサのメッセージにレイから『悪い』と返事があった。
「メリッサ! 百合亜はどこですか?」
 急いで来た征四郎にメリッサは出入り口を指差した。
「保健室に行ったわ。私たちもこれから行くところ。征ちゃんたちも来る?」
「征四郎は、百合亜の近くにいた人たちに聞きたいことがあるのです」
「それじゃ、先に行ってるわね」
 メリッサと別れ、征四郎は百合亜の隣に立っていた男子生徒に声をかけた。
「百合亜の腕についていたという蜘蛛を見ましたか?」
「いや、俺は見なかったけど」
「蜘蛛が逃げるところも?」
 男子生徒は頷く。
「誰か、蜘蛛を見た人はいませんか?」
 周囲の生徒たちはみんな一様に首を横に振った。
「百合亜以外に見ていない蜘蛛……」
(従魔か?)
「そうかもしれないのです」
(蜘蛛の従魔といえば……いや、まさかな」
 ガルーはオリヴィエが蜘蛛の従魔に捕らえられた時のことを思い出し、心配になった。

「やっぱりいないか……」
 主人格を入れ替わった拓海は深いため息を漏らし、保健室の空のベッドを見る。
「ネビロスの操糸をすり抜けたってことは、一般の生徒なのか……」
「愚神との憑依を解いて行動しているのかもしれませんね」
 そう話しながら保健室に入って来たのはレイと由利菜だ。
「体育館内は倉庫や放送室、天井までくまなく確認したが、セトはいなかった」
 拓海は着信を知らせるスマートフォンを確認した。
ーーー 百合亜以外に蜘蛛を見た人はいませんでした。
ーーー 百合亜のクラスメイトによると、本来、百合亜は虫が平気なようです。
「それじゃ、どうして今回は悲鳴を?」
 由利菜もメッセージを確認し、首をかしげる。
「やはり、百合亜が神隠しに関係していると考えた方が無難だな」
(蜘蛛とイケメンと言えば……スウェーデンで少年や青年が消えた事件があったわよね?)
「スウェーデンで少年が消えた事件……」
 メリッサの言葉で拓海も事件の情報を思い出す。
「それって確か、オリヴィエくんが攫われかけたっていう……」
 オリヴィエのことが心配になった拓海がライヴス通信機で連絡を取ろうとしたその時、オリヴィエから通信が入った。
『蜘蛛の巣を、見つけた』

 その数分前、校内を見て回っていたリュカは、二階の廊下で銀色に光る一筋の糸を見つけた。モスケールで、その細い糸には普通の蜘蛛の糸では検知されない強いライヴスがあることがわかった。
 その糸を見て、リュカは深いため息を吐いた。
「これはもしかしてあるんじゃない?」
(……そうだな)
「セト少年の外見の優秀さと蜘蛛っていうのからなんか嫌な予感はしてたけど……」
「ここで会ったが百年目……ってやつだろ?」
 戦闘に備えてオリヴィエはリュカと主人格を交代した。
「今度こそ、逃がしはしない!」
(うちの子、イケメン!!)
 蜘蛛の糸を辿っていくと、糸は美術室の中へと続いていた。
 敵の攻撃に備えて慎重に扉を開けると、美術室の中は幾重にも蜘蛛の糸が張られ、中の様子は確認できなかった。
(う、わ……なにこれ?)
「クサグモの巣、みたいだな」
 巣の迫力にドン引きしてるリュカに答えながら、オリヴィエはライヴス通信機で拓海たちに連絡した。
「蜘蛛の巣を、見つけた」
『わかった。すぐに行くから、無茶しないで待ってて!』
 心配していることがよくわかる拓海の声に、オリヴィエは思わず笑った。
「無茶したのは、拓海の方だろう?」
『うっ』と拓海が言葉に詰まると、レイが言った。
『俺たちも一緒だから、待ってろ』
『征四郎もすぐ合流するのです!』
 オリヴィエは素直に「わかった」と返事を返しながら、モスケールを外骨格式パワードユニット阿修羅に付け替える。
(何しょげてんのよ?)
 拓海のメンタルへのダメージを共鳴しているメリッサは感じ取っていた。
(落ち込んでも、しょうがないでしょう? 無茶した結果、役立たずになったのは本当のことなんだから)
「うっ」
 メリッサの容赦のない言葉に拓海のメンタルはさらに深い傷を負った。

●うちの子自慢するよ〜! しまくるよ〜!(リュカ)
「オリヴィエくん、リュカ兄!」
 美術室前に到着した拓海、レイ、由利菜は、オリヴィエの姿を探す。美術室の中は蜘蛛の糸が無尽蔵に張り巡らされている。
「オリヴィエ? どこだ?」
 レイも美術室の中に声をかける。
 すると、中から声が聞こえた。
「みんな、ごめ〜ん!」
「……リュカさん、ですか?」
 由利菜の言葉に、リュカは返答を返す。
「せいか〜い!」
「どうした? 早く姿を見せろ!」
 レイの言葉に、リュカは再び謝った。
「ごめ〜ん!」
 蜘蛛の糸の奥から現れたリュカの姿に、その場の全員は息を飲んだ。
「また捕まっちゃった〜」
 蜘蛛の糸の奥から出て来たのは、巨大蜘蛛と、その上には真っ赤な唇の角をにっこりと持ち上げた百合亜と蜘蛛の糸にぐるぐる巻きにされたリュカだった。
「だから、待っていろと言っただろ!?」
「だって、リリアに会ったら、どうしてもオリヴィエ自慢がしたくなって!!」
「リリアというのは、百合亜に憑依している愚神か?」
 レイの問いかけに、百合亜が「はい」と返事をする。
「英雄の自慢って……愚神相手になにを……」
「うちの子美人に絶賛成長中だから、『捕まえ損ねて損したかもね!』って、つい……」
「煽ってどうする……」
 レイは頭痛を抑えるようにこめかみに指を当てた。
「そう言われたら、捕まえぬわけにいかぬだろう?」
 真っ赤な唇は今度は百合亜よりももっと低く、妖艶な声を発した。
「それにしても、エージェントというのは、本当に私好みの姿形をしている者が多いわね」
「でも、あなたの好きにはさせません!」
 全速力で走って来た征四郎は乱れた呼吸を整えることもせず、リュカにクリアレイをかけた。
「リーヴィ! 逃げろ!!」
 主人格を征四郎から奪うように代わって、ガルーは叫んだ。
 クリアレイにより拘束が解かれた一瞬に、主人格をリュカと交代したオリヴィエが蜘蛛の糸から抜け出した。しかし、そのまま逃げることはせずに、オリヴィエは阿修羅に搭載されている銃をリリアに放った。
「今度こそ、その笑み、消してやるっ!」
 体を翻したリリアだったが、至近距離からの銃弾はかわしきれず、制服の左上腕部分に血が滲む。
 リリアの口元から笑みが消え、その目が真紅に変化した瞬間、巨大蜘蛛が大きく動き、オリヴィエを振り落とした。
「リーヴィ!」
 危険を顧みずに巨大蜘蛛の足元まで走ったガルーは、振り落とされたオリヴィエを抱きとめた。
 そんな二人に巨大蜘蛛は足を振り下ろそうとした……しかし、その瞬間、レイがオプティカルサイトを取り付けたSVL-16で巨大蜘蛛の頭部と腹部の間に銃弾を打ち込んだ。
 巨大蜘蛛は一瞬動きを止め、次にギギギと奇妙な音を立てながら頭部をレイへ向けた。そして、口を開けると、上顎から糸を吐き出した。
「いや、待て、お前、クサグモじゃねーのかよ!?」
 思わずそう突っ込んだのは、クサグモなど、多くの蜘蛛は腹部後端から糸を出すことを知っていたガルーだ。
「従魔だからな。ご都合主義なんだろ」
 体勢を立て直したオリヴィエが冷静に答える。
 巨大蜘蛛が吐き出した糸をレイはメルトリッパーで切り裂き、再び銃口を巨大蜘蛛に向けたが、銃弾が放たれる前に、巨大蜘蛛は力尽きたように倒れ、塵となって消えた。
 その場にリリアの姿はない。
 巨大蜘蛛が塵となったことによって、張り巡らされた糸も消え、奥に男子生徒が倒れているのがわかった。
「神崎さん!?」
 由利菜がセトを抱き起こすと、彼は微かに声を漏らし、それからゆっくりと目を開いた。

●家に帰るまでが任務!(英雄)
 任務を終えて、学園を後にするエージェントたちの表情は明るくない。
「結局、逃しちゃったわね」
 メリッサの言葉に、「ああ」とオリヴィエは肩を落とす。
「それにしても……」と、ガルーは眉間にしわを寄せる。
「まさか、ハッキングしてたのがセトだったとはな……」
 恐怖の数時間を過ごしたセトは、自分の罪を懺悔した。
「それが百合亜にバレて、標的になったということか」
 リーブスラシルはため息交じりに言った。
 カールが過去の資料の記憶を辿る。
「スウェーデンでもリリアに捕まった者たちはみんな一癖あったことを考えれば、納得……かな」
 征四郎は巨大蜘蛛の上で微笑む百合亜の姿を思い出す。
「百合亜は、やはり、リリアと一緒に行ってしまったのでしょうか……」
「そうだろうな」と、レイが返す。
「でも、きっと、またすぐに姿を現わすような気がするよ」
 そう言ったリュカは「だから」と言葉を続ける。
「その時は、百合亜と、行方不明の少年たちを助けよう」
 そして、リュカたちは真っ青な顔の拓海を見た。
「その時には、回復してるといいわね?」と、メリッサが拓海の背中を叩いた。
 激痛に拓海は呻き声をあげ、その場にしゃがみこむ。
「……帰るまで、共鳴してもらえるか?」
 メリッサは微笑んで、再び拓海の手を握りしめた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • Sound Holic
    レイaa0632
    人間|20才|男性|回避
  • 本領発揮
    カール シェーンハイドaa0632hero001
    英雄|23才|男性|ジャ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
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