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雪像対決 in Tokyo!
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正々堂々と雪遊び!【相談板】
最終発言2018/12/15 20:48:38 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/12/15 00:26:14
オープニング
●そうだ、遊ぼう!
この日、東京海上支部にいたエージェントたちは大量に集まった雪を一心不乱に固めていた。
発端は先日から日本全国に大雪をもたらした、強烈な寒波である。
数日降り続いた雪は街を真っ白に染め上げており、H.O.P.E.支部も例外ではない。
で、雪かき募集で集まったエージェントたちは、午前中を使い集めた雪でいくつもの雪山を形成した。
仕事は一段落ついたが、いまだちらつく雪の様子から午後にもう一度くらい雪かきが必要になるだろう。
とはいえ、昼食後に集まっても作業に戻れるほど雪がたまっていない。
『雪を捨てる』という案も出たが、天気予報だと明日以降から気温の高い日が続くらしい。
邪魔にならない場所であれば放置でも問題なさそうなので、たぶん徒労に終わりそうだ。
そのとき、誰かが『もったいない』と言い出した。
雪国出身者にはわからない感覚だろうが、雪とは無縁な地域の出身者にとって積雪は一大イベントである。
【絶零】のように緊急事態で寒冷地へ行くことはあれど、日常生活で出会わない者もいる。
特に子どもは早速雪だるま作りに精を出し、楽しそうにはしゃいでいた。
……少しくらい、息抜きもいいか。
エージェントからそうした空気が流れたのも、自然のことだったのだろう。
しばらくレクリエーションとして雪遊びに興じていたが、またしても誰かがこんな提案をし出した。
――みんなで雪像作ってみない? 雪祭りみたいなやつ!
場の勢いに飲まれた彼らに、反対する者はいなかった。
ぶっちゃけ暇だから、次の作業まで時間をつぶせれば何でもよかった。
『これより、H.O.P.E.東京雪祭りを開催します! 司会は私、書類仕事をトチった罰で雪かきに回された公認ドジっ子職員・小雪が行います! なお、音響機材を上司に無断でパクってきたのはここだけの秘密だぞ☆』
結果、なんやかんやでこうなった。
『ルールは簡単! 1組ずつ大量に余った雪で立体物を作り、なんかふわっと採点して1位を決めるだけ! 審査員はそこらで暇してた人を適当に10人集めてきました! 持ち点は1人1点で最大10点! 審査基準は審査員の感性と気まぐれ次第なので、私もどんなの作ればいいのかわかりません!
制限時間は2時間! お題は自由! 個人参加も道具使用もオッケー! ただし、妨害行為や迷惑行為はH.O.P.E.っぽくないので基本禁止です! 何となくビビっときたデザインで個性を爆発させつつ、マナーを守って楽しく作りましょう!
はい、よーいスタート!!』
不意打ちの開始宣言を受け、参加エージェントたちは慌てて動きだし今に至る。
現場からは以上です。
解説
●目標
全力で雪像を作る
全力で雪遊びをする
●場所・状況
H.O.P.E.東京海上支部敷地内
例年にない寒波の影響から大雪が発生し、屋外演習場や施設の屋根に雪がこんもり
天気予報によると、この日は夜まで雪が降り続き材料(雪)が切れる心配はない
翌日以降は気温が上がるため、作成した雪像などは数日でなくなる模様
正式な依頼からエージェント(PC)が雪かきに励み、集めた雪の使い道に悩んだ末に決行
PCたちが遊べる場所は実質貸し切り状態である屋外演習場(雪かき済み)
一部、雪中訓練として利用中の屋外演習場もあるが、特に影響などはない
●雪像対決ルール
制限時間は2時間
お題はフリー(ただし、人類には早すぎる系芸術は判定が困難な場合がある)
審査員は暇してるエージェントおよび職員
参加者はお互いに一定以上の距離を離し、互いの作品を極力みないよう心がける
共鳴、道具使用、AGWなどでデコレーション可
妨害行為全般(破壊・恐喝・賄賂・色仕掛けなど)禁止
※非参加者は不慮の事故で参加者の作品を壊さないよう注意すること
喧嘩しても当方は一切の責任を負いかねるのであしからず
リプレイ
●雪って素敵
「雪だー! ――つぅっ!」
雪へダイブした荒木 拓海(aa1049)は、かき集めて塊となった雪に額をぶつけた痛みに涙目となる。
「ゆき……! っ! ……いたい」
「ぁ!」
だが、続けてレミア・フォン・W(aa1049hero002)が隣へ倒れ込むと慌てて起こした。
「痛いと言ったのに……」
「同じことが……したかったの」
おでこをさすって笑うレミアは可愛らしいが、保護者としては苦言も漏れる。
「最近、不味いと判ってしようとするよな?」
「するよ? ……ためしたい……もん」
「……責任重大だな、オレがしっかりしないと」
屈託のない答えを受け、拓海の頭にマジでキレる5秒前な家族の顔が浮かんだ。
「――雪!」
「これ、薙まで真似をしてどうする」
それを見た魂置 薙(aa1688)も試みたが、エル・ル・アヴィシニア(aa1688hero001)に服を掴まれ止まる。
「……ん。東京は……この程度の雪で……大雪、なんだ、ね」
全く動じないのは生まれも育ちも北海道、現在は南極在住の猛者たる氷鏡 六花(aa4969)と。
「そうね。私達には、ちょっと理解できない感覚だわ」
元々が『氷雪』を司る冬の女神たるアルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)くらい。
ぶっちゃけ今でも『暖かい』と感じるため、首を傾げてさえいる。
「――でも」
「――うん」
とはいえ、皆が雪に喜ぶ光景にはアルヴィナと六花の表情も自然と緩んだ。
さて、雪祭りの言い出しっぺは南米育ちのヴァイオレット メタボリック(aa0584)だった。
「雪像づくりはどうだベか? 能力も使ってのぉ」
純粋に雪への物珍しさもあるが、一番の理由は傍らにいる孫娘のような少女だろう。
「雪祭りなんて言われちゃったら――」
「――ん。六花たちの……誓約。【寒さを、厭わぬこと。雪を……愛でること】」
MC小雪のあおりを聞き、アルヴィナと六花は見つめ合って笑みを深める。
「……行こう、アルヴィナ」
「ええ。ふふ、六花がやる気になってくれて、良かったわ」
「せっかくだで、楽しむだぁ。六花や、良い物を作るべ」
「もちろん、おらも手伝うベ。何でも言っとくれ」
意欲的な態度に、ヴァイオレットとノエル メタボリック(aa0584hero001)もまた微笑んだ。
「雪まつり! 楽しそうなんだよ♪」
「そうだね、何を作ろっか」
目を輝かせたピピ・ストレッロ(aa0778hero002)に頷き、皆月 若葉(aa0778)は一緒に案を考える。
「まあ、何もしないよりは有意義に過ごせるか」
「皆はしゃいでて、楽しそうね」
迫間 央(aa1445)とマイヤ サーア(aa1445hero001)はその様子を微笑ましげに眺めていた。
……何故か央がまるごとゆきだるま、マイヤがペンギンドライヴの着ぐるみ装備で。
「うわぁ、ペンギンと雪だるまっ!」
真っ先にピピが気づき、マイヤペンギンへぽすっと抱きつく。
「あれ? お二人とも、さっきまでいつもの格好でしたよね?」
「着の身着のままで来たから、最初はそのまま雪かきしてたのよ? だけど……」
「流石にスーツやドレスだと辛くてね。着替えを探したら、幻想蝶にはこれしかなくて……」
「2人とも、すっごくかわいいよ!」
不思議そうな若葉にマイヤと央が交互に説明し、ピピがヒサシダルマにもくっついた。
これがマスコットとして好評で、さらに場が盛り上がる。
「ふむ、お食事券1週間分か――やるしかあるまい」
「……ん、デザイン……ビビッと、個性爆発」
孤児や我が子を含め、30人以上の大家族を支える麻生 遊夜(aa0452)とユフォアリーヤ(aa0452hero001)。
当初は静観の姿勢を見せていたが、家計を圧迫する『食費』の軽減が見込めるとなれば目の色も変わる。
おそらく誰よりも真剣な仲良し夫婦は、戦闘を控えた戦士の表情でデザインをむむむ、と悩んでいた。
「モチーフは兄様一択! これで勝てないわけがないんだよ!」
逆に、イメージが即行で固まった琥烏堂 晴久(aa5425)は、黒猫召喚用麻袋の口を握りしめる。
「寝転んでオヴィンニクと戯れる共鳴姿の兄様を作るよ!」
「オヴィンニクだけで良くないか?」
「そっちはオマケ! 兄様は必須!!」
琥烏堂 為久(aa5425hero001)がやんわり提言するも、幻の炎を背負う晴久には届かなかった。
●チーム兄様
「まずは雪がないと始まらないっ!」
『小さ目にしておきなさい。作り切れるサイズにしよう』
「兄様を目線の高さで眺めるから……台はこのくらいかな」
早速、晴久が主体の共鳴で雪をガサーっと集めて土台作り。
晴久の遊ぶ時間を考慮した為久のアドバイスもあり、高さは晴久基準でやや低めかつ横長にモリモリ。
その上へ雪を積み大まかにかたどった後、オヴィンニクを召喚した。
「にゃ♪」
「ああ、キミは動いちゃダメ!」
が、黒猫が為ひs――乙女の心を転がす玉遊びに夢中となり作業が遅延。
雪像に置いたオーブにじゃれている風のポーズがなかなか作れない。
「くっ――さすが兄様の心、オヴィンニクもメロメロなんだよ!」
『それ初耳だけど?』
困惑する為久をよそに、晴久の作業はついに本命へ。
「表情は天使の微笑み……体のライン取りも重要だね!」
時に黒猫の炎で溶かし、時に呪符・白冷の冷気で固め、成形には温度調節に細心の注意を払う。
「ふふふ、兄様なら見なくても細部まで分かるんだよ!!」
『ハル、落ち着いてくれ。審査員の目が痛い』
周囲の目も為久の注意もお構いなしで、晴久は鼻息荒く熱心にくびれを作っていた。
●チーム麻生夫妻
「――ん、そうだ! ……これがあった!」
開始宣言直後、ユフォアリーヤに天啓が舞い降り幻想蝶を探る。
ムフーと、誇らしげな手には嫁さんお気に入りのジャスティン会長黄金仕様――とカメラ。
「……あー、そういや気に入ってたなそれ」
「ん! 制作過程も撮影する……きっと、喜んでくれるはず!」
題材が確定すれば遊夜はユフォアリーヤと共鳴し、雪をこんもり集めて固める。
「次は大雑把に成形だな」
周囲の安全を確認し、ヘパイストスを構えた遊夜はまず『バレットストーム』で余剰分を吹き飛ばす。
「ふむ、大体こんなもんか?」
『……ん、この辺が、もうちょっと?』
意識内で相談しつつ、『トリオ』で時間短縮し雪山を粗削りな人型に。
さらに可変式シャベルへ持ち替え、『弱点看破』で見つけた脆い部分を補強。
逆に固い箇所はチェーンソーで形を整え、コンタクトビームで表面を滑らかにしていく。
「む、ここは難しいな」
「……ん、細い部分は……補強して、ゆっくり」
残る細かい作業は共鳴を解除し、ひたすらやすりで雪像を磨く。
おやつのチャルケセットをもぐもぐしつつ、顔・目・口・髪の毛などの細部まで完全再現を目指した。
●チーム祖母孫
「オラたちはキリスト像を作るつもりだぁ。シスターぢゃから、必然じゃな」
ノートパソコンで雪像をデザインするヴァイオレットの横で、共鳴した六花が白雪の髪をなびかせた。
「……ん。六花は、大きなペンギン……作る」
『どうせだから、数階建てのビル位の高さは欲しいわね』
薄衣と羽衣をふわりと舞わせ、アルヴィナと話しつつ雪だるまの要領で大量の雪を集めていく。
「私たちは雪像作りのプロではありませんし、六花さんの足を引っ張らないようにしましょう」
程なく、設計を終えたヴァイオレットと共鳴したノエルも雪集めに参加。
どんどん雪を積み上げ、すぐに2体分の基礎ができた。
「背中に……階段、……頭は、登れる展望台、なの」
『ふふ、楽しみね』
無邪気にデザインを語って雪を削る六花を、アルヴィナは微笑ましげに見守る。
「…………」
逆にノエルは、先に逝ってしまった者達の鎮魂とこれからの者達への安寧を願いつつ、作業に心を込める。
「……ん、いきます」
助けがいる部分はお互い協力し、おおよその完成を見た段階で六花が終焉之書絶零断章の凍気を解放。
雪像の外側のみ凍結させ、氷のコーティングで強度を高めた。
「さて、仕上げに細かい部分を削っていきましょうか」
最後は半分氷像と化した雪像の彫刻。
ノエルの作業は顔や手などのパーツだけで比較的早く終わったが、六花の作業量が単純に多い。
それから時間いっぱいまで、祖母孫は仲むつまじくペンギン像を作り上げていった。
●チーム仲良しオクテット
「巨大な『きぼうさ兎の雪像』はどうだ? 入り口から見える場所に作れば、H.O.P.E.の宣伝にもなる」
「きぼうさに登れるの? すごーい♪」
「拓海に若葉君に魂置さん、馴染みのメンツが揃ったのも何かの縁だね」
拓海の案にピピはさらに瞳を輝かせ、央も同意する。
「じゃあ、大きいの作ろう!」
『おー!』
1人1人視線を合わせた後、若葉の音頭で全員が大物作りの気合いを拳に乗せて突き上げた。
「私は応援に回るとしよう」
……あ、エルさん1人だけちゃっかりカメラ係に回ってた。
「まずは雪が必要だよね」
「いっぱい持ってこなきゃ!」
制作風景が撮影される中、若葉が早速ソリを用意しピピを乗せる。
「ふふー、らくちん♪」
紐を引いて移動すれば、ピピの声が上機嫌に弾む。
「よし、じゃあ押してー!」
「は~い!」
若葉は可変式シャベルで雪をソリに積むと同時に、幻想蝶にも限界まで詰めこむ。
作業に飽きないよう、復路はピピに後ろからソリを押してもらい遊び感覚で運んだ。
「楽しそうだね」
隣でスパーンシールドをソリ代わりに使う拓海も、自然と頬を緩ませる。
「雪、重い……!」
ただ、張り切った薙は雪の山を動かすのに大苦戦。
「エルルも、手伝って!」
「労働はせぬ!」
「せめて、共鳴して!」
たまらず自称カメラ係を呼び、渋るエルと何とか共鳴した。
『運ぶ道だけ凍らせておくか』
面倒な仕事を避ける知恵か、エルの助言でハイパークールタオルを用いた氷のレールを敷く。
そこへソリを走らせると、一気に運ぶ速度が上昇した。
放置したままは危ないため、作業後は斧で砕いて壊すのも忘れない。
「次は雪像の基礎作りだな」
「ピピちゃんもレミアちゃんも大きいのを期待していたし、頑張りましょうか」
スコップを持ったヒサシダルマとマイヤペンギンが集まった雪を持ち上げ、どんどん盛り固めていく。
ひょこひょこ動く後ろ姿は、完全にゆるキャラのそれ。
「揺れないか?」
「大丈夫よ」
さらに高い部分は土台のヒサシダルマが肩車し、マイヤペンギンがいそいそと作業する。
「ふふ、微笑ましいの。あとで二人にも写真を送るとしよう」
異様に可愛らしい光景をパシャリと撮ったエルの表情も柔らかい。
「あ! きぼうさならボク持ってるんだよ♪」
ベースが完成したところで、ピピがじゃじゃーん! と『きぼうさぬいぐるみ』を取り出し座らせた。
「ポーズは……こんな感じ?」
「もう少し、こうして……」
それからレミアと試行錯誤し、最終的な雪像の見本は笑顔で首を傾げた女の子座りに決定。
そのままレミアが監督、ピピが助監督となって雪像作成班を指揮していく。
「手と、足は……ぺたっ、てして」
「耳はピョコって♪」
「あと、あと――すべりだい!」
「楽しそう! ピューってしたいね♪」
が、監督と助監督の指示は擬音が多く抽象的な上、難易度まで跳ね上がった。
「――時間内でやるだけやろう!」
無茶ブリを前に、拓海は監督たちの期待に添うため共鳴+AGWフル活用を伝えた。
『タクミ、ほっぺはもっと……丸くて目はキラキラ』
「了解です!」
拓海はレミアの指示を受けつつ、借りた大工道具やスコップ、ヘラなどで形や輪郭を整える。
「こんな感じ?」
「……大丈夫だ!」
再共鳴した薙も適宜レミア(拓海)へ確認しつつ、細部の彫刻を担当。
「ここは後で整えると時間かかりそうだ! 削るぞ!」
『刀で切り落としましょう。央の腕前がどれくらい上がったかも確認できるわね』
「こっちは少し多めに盛り固めて――」
再共鳴のヒサシダルマもマイヤの台詞に奮起しつつ、天叢雲剣で雪像を繊細に切削。
逆に補強部分へ雪を盛り足し、細かい部分をハングドマンの鋼線で削って薙の補助も行う。
「滑り台にするなら、マント部分の角度は大事だよね」
「それに加えて滑らかさと固さが命だ。綺麗に固めるなら本来数日は欲しいが……」
「熱が生じるAGWで軽く溶かし、魂置さんのクールタオルで再度固めるを繰り返せば時短できないか?」
「いいと思う。残り時間も少ないし」
残る難所である滑り台作成にあたり、若葉・拓海・央・薙の男4人はほぼ戦闘時の集中力で一致団結!
「シャベルがAGWでよかった!」
若葉は階段部分を担当し、安全性と外観を考慮しながら袖部分から肩の雪を強引に削る。
「熱の放射角度は大丈夫か!?」
「央はそこでキープ! 薙は足場で上から頼む!」
「行きます!」
央は下からタスヒーンシールドで裾を、拓海は『縛られぬ者』で上空からフード内をヒートソードを使用。
そこへ薙が『金の掌』からジャンプで飛び乗り、タオルで上から下へ再凍結して表面を調整する。
「どうやったって手先が冷えるから有り難いな……この盾、今までで一番活躍してる気がする」
地味に央が盾の防寒効果に感心しつつ、急ピッチで滑り台を仕上げていった。
●結果発表
「完成!」
『わぁ~っ!』
薙の達成感に満ちた声につられ、レミアとピピが歓声を上げる。
『ゆきぼうさスライド』は雪像と遊具を両立した大作だ。
滑り台は右袖の階段から肩へ登り、フード部分の前を抜けて左肩からコート裾へ滑り降りる作り。
通路部分のフードを深めに作って落下を防止し、襟から兎の顔横に出られて記念撮影も可能だ。
「作ったからには、滑ってみないと、ね」
「すべってくる……ね♪」
内心わくわくしながらはしゃぐのが恥ずかしいお年頃な薙も、レミアたちが一緒なら抵抗も薄まる。
ピピには若葉が付き添い、4人はすべり台へ向かった。
「これで……どうだ……?」
「お疲れ様じゃ」
「おつかれ……」
一方、拓海たち大人組はエルからの温かい言葉と飲み物の差し入れを受け取り、疲労のため息を漏らした。
「……思ったより高いんだよ!」
「じゃあ一緒に滑ろうか」
見晴らしのいい滑り台の上では、1人だと躊躇するピピをすかさず若葉が前に座らせ滑り降りる。
「わぁ! ――もう一回やりたいっ!!」
「けっこう、スピード出る……! ね、エルルも、やってみて!」
「すごい――よ!」
(楽しかったのだな)
興奮して若葉の手を引くピピに続き、薙もレミアと滑り降りてエルを誘いながら階段を上っていった。
「皆さんも、どうですか?」
よほど気に入ったのか、薙は他のチームや審査員も滑り台に誘う。
「――おわっ!?」
結果、予想以上の速度に一般人からは漏れなく悲鳴が上がった。
「……他の人はどんなだろう?」
気が済むまで滑った後、ピピは若葉と他チームの雪像を見て回ることに。
『ハル、タイムオーバーだ』
「え、もう終わり?! でもあともうちょっと、最後まで作り切るんだよ!」
ただし、為久のスカートから覗く太股の丸みにこだわっていた晴久は審査対象外となった。残念。
「うむ、見比べても遜色なかろう」
「……ん、力作……これ以上はないはず」
麻生夫妻の作品は『雪のジャスティン像 ~クリスマスver.~』。
片手にクリスマス仕様ジャスティン、もう片方にはクリスマス仕様きぼうさの雪像を乗せた遊び心が光る。
徹底的に造形をこだわった結果、本物と見間違うレベルにまで到達している。
満足そうな遊夜と、隣でフンス! とドヤ顔なユフォアリーヤからは自信がうかがえた。
なお、メイキング動画は後に会長本人へ送付されました。
「……ん。コウテイペンギン、なの。六花、コウテイペンギンのワイルドブラッド……だから」
孫による作品『氷雪のコウテイペンギン』は、凍結による光沢がキラキラ輝きどことなく豪華。
背面に回れば上へ続く階段が伸び、両側には手すりを設置して子供の利用にも配慮してある。
柵代わりでもある氷の王冠で囲われた頭部分は展望台の機能を果たし、訓練場を見渡せる。
もちろん、一度に大勢が登っても問題ない強度まで氷結したため、安全確保はばっちりだ。
「……意識してねかっただども、あやつそっくりだべ。神の格としてはオールギンだべか?」
隣には、祖母の手による『鎮魂のキリスト雪像』がたたずむ。
聖職者らしく装飾は廃しながら、六花作の雪像にも劣らない厳かな雰囲気は自然と身が引き締まる。
意図せず面差しが六花の第二英雄に似たが、『六花と英雄』というモチーフの統一性が逆に高評価。
結果、お食事券はチーム祖母孫が勝ち取った。
「ねえ兄様、これ永久保存物だよ。持って帰ろうよ」
「うちの冷蔵庫には入りません。置いて行きなさい」
なお、結果発表後に完成した『慈愛の兄様像』は現実的な理由でテイクアウトを断念した。残念。
●雪で遊べ!
雪像作りは終わったが、雪かきにはまだ時間が早い。
「……ん。ヴァイオレット、さん」
「……ははぁ、わかっただ。ノエル姉者、もう一仕事だで」
すると六花から耳打ちを受け、ヴァイオレットとノエルが雪の上で走ったり四股を踏んだりし始めた。
「これは、良い寒稽古になるだな! 少しはしたないけれども……」
「みんな、危ないから……少し、離れてて……くだ、さい」
綺麗に踏み固めて土台を仕上げると、共鳴した六花が『氷獄(ディープフリーズ)』を発動。
周囲を絶対零度の氷に閉ざしたと思えば、後には直径35mの即席スケートリンクができあがった。
「りっちゃんありがとー!」
「見事なものだな」
ひとしきり雪像の為久を愛でた後、晴久も六花にお礼を述べてリンクへ。
仮面の下で感嘆の微笑を浮かべる為久も続き――
「てい☆」
――何故かカメラを持った職員連れの晴久と共鳴した。
「はい、じゃあ撮りまーす!」
『あああ、スキーストックでキラキラ輝く兄様――まさに氷上に舞い降りた妖精……!』
そして始まる兄様アイスショーに、晴久の興奮度はMAX!
「いや、これハルは楽しいのか?」
『尊さは楽しさを凌駕するんだよ!』
為久秘蔵映像(永久保存物)を得て大満足な晴久だが、共鳴解除後に為久から手を差し伸べられる。
「ほら」
「あぁうぅ……兄様、それはズルい」
照れながらも手を繋ぎ、仲良く一緒に滑りました。
さすが兄様、尊い。
「一緒に、滑ろ」
「うん……!」
薙はここでもレミアを誘い、妹が出来た感覚にちょっと嬉しく思いつつ手を繋いでゆっくり周回。
「――そっか、レミアちゃんて言うんだね。よろしくね!」
途中、晴久もレミアに知り合いの面影を重ね、すぐに別人と気づくと普段通りの挨拶を交わした。
「ちぃとええだか?」
「……かまくら? 手伝うよ♪」
その間、保護者の拓海はヴァイオレットとかまくら作りを手伝う。
「滑らないの?」
「うむ。皆を見ているので充分楽しいからの」
途中、端で眺めるエルを見つけて近寄る薙。
「滑れないの?」
「……滑った事がないだけだ」
視線をそらすエルに、薙は笑顔で手を差し伸べた。
「何事も、チャレンジ」
「むぅ……」
保護者ポジとして不甲斐ない姿を見せるわけにいかず、エルも恐る恐る氷上へ。
「――意外と簡単だったな」
ただし、やってみればすぐに滑れた。これも見稽古かな?
「――わわっ!」
一方、ピピは立つのも難しいのか手足をバタバタさせてから若葉にしがみつく。
「えっ! ちょ、っ!!
すると若葉もバランスを崩し、健闘も虚しくすっ転ぶ。
「――くすくす」
「あはは、っ」
ピピも若葉も何故だかそれが楽しくて、顔を見合わせ笑い合った。
「若葉、大丈夫?」
「ありがとう」
通りかかった薙が若葉の手を掴み、引き上げて互いに微笑むと。
「また派手に転んだの……大事はなさそうだな」
「ありがと、エル!」
エルに抱え上げられ嬉しそうなピピもリンクに立つ。
しばらくするとピピたちも氷に慣れ、皆とスケートを楽しむ余裕ができた。
「いつものクールで綺麗なのも好きだけど、今日はペンギンのせいか、仕草まで可愛らしいな」
別の一角では、央がマイヤをじっと見つめていた。
「(……央がペンギン好きだって言うから……)」
そうして漏れるは、小さな声と乙女心。
(央の好きなペンギンの格好なら、『可愛い』って、言って貰えるかしら……?)
普段から凛とした姿が多く、マイヤ自身も似合わないと思っていた言葉。
期せずしてペンギンとなり、ほのかに期待していた通りの言葉を聞けて嬉しくてたまらない。
――けれど、マイヤはそれを素直に表現する方法を知らなかった。
「~~っ///」
結果、照れ隠しの腹這い移動でキューン!! とリンクを駆け抜け――非共鳴なのに速ぇ!?
「速い! 速いよマイヤさん!!」
慌てて追いかけるが、ヒサシダルマに移動特効はない……頑張れ、公務員!
「……ん、これ……これで行くの」
「……あー、そういや出番なかったもんなぁ」
リンクの縁でも、スペシャル・ペンギンドライヴを両手に瞳をキラッキラさせるユフォアリーヤの姿が。
マイヤさんの華麗な(?)腹這い滑走を見てやらないという選択肢はなく、遊夜は苦笑しつつ共鳴した。
「……ん、ふふ……うふふ、楽しいねぇ」
『ああ、そうだな……っと、前方気を付けろよー?』
主導権を握るユフォアリーヤはクスクスと笑みを漏らし、加速やドリフトで氷上滑走を満喫。
遊夜の事故防止ナビゲートをちょくちょく挟むおかげで、他メンバーとの衝突も起こらない。
「できた! レミアと六花ちゃんもどうぞ~」
他方、拓海が雪で作った大きなカービングストーンを指して手を振った。
2人を乗せて押すが滑りが悪く、軽く水を撒けば自分も滑って動けない。
「――誰か、共鳴して押してくれ!」
「……ん、任せて」
『リーヤ!?』
ちゃっかりレミア・六花と同席した拓海が叫ぶと、共鳴済みリーヤペンギンが衝突した!
「……ん、任務完了」
『荒木さん――無事を祈る』
ドヤ顔のユフォアリーヤから遠ざかる拓海の悲鳴へ、遊夜は静かに敬礼。
少女2人の声が楽しそうなのが救いか――あ、クラッシュした。
「……いっそ開き直って、スライディングでもするか――」
「……えい~」
顔から雪に突っ込んだ拓海がつぶやくと、六花が救出して無事だったレミアが止める間も無く腹滑り。
「ちょ!? リンクに転がるのは危ないから!」
「……いっしょにすべろう?」
服がびしょ濡れになって笑うレミアに、拓海は安易に口に出した失敗を反省する。
「安全確認をして遊ぼう! それなら、オレも一緒に滑るぞ~!」
しかし結局、童心に返ってペンギン滑走もどきを楽しんだ。
しばらくして、かまくらの中にいたヴァイオレットはリンクにいた六花を呼び、目を丸くした。
「レミア……、済まぬ人違い――あぁ、レミアではあるのだな」
一瞬、同名の『彼女』とうり二つの容姿に見間違いと思うも、すぐに『別存在の彼女』と悟る。
「私も、いい……の?」
「もちろん、ゆっくりしていくといいだよ」
雪かきでは別々に作業をしていたため、ヴァイオレットとレミアの会話はこれが最初。
六花と手を繋ぎ、コテンと首を傾げたレミアは笑顔で迎えれられた。
「結構作ってみたけれど、出来栄えはそれなりでまだまだぢゃ。よければ食べて欲しいだよ」
「ありがとう、ございます」
「いただき、ます」
2人が腰を下ろすと、ヴァイオレットは持参したお弁当を進める。
中身は鯖を使ったサンドイッチなど、六花の好きそうなものが詰め込まれており孫バカが透けて見える。
すっかり打ち解けたのか、レミアと顔を見合わせ一緒に食べる様子は嬉しそうで微笑ましい。
寒いだろうと圧力保温ジャーからクラムチャウダーを注ぐと、猫舌の六花はふうふうと冷ましていた。
「六花や。能力者の力はああ言う使い方も有るだ。本当は手を汚す必要なんてねぇだよ」
ふと、ヴァイオレットはかまくらから見える雪像やリンクへ視線を投げていた。
「……欺瞞まみれのオラが言える義理もねぇ、偽善だとは思うがの」
本心を包み隠さず、シスターとしての言葉で、久しい笑顔を見せた六花へ語りかける。
「……リッカ?」
レミアは空気の変化を察するも、六花は無言でぬるいスープに口づけた。
雪遊び終了後。
「時間だね。主催の皆様、ありがとう」
『ありがとう』
拓海たちは小雪たちへ感謝を伝えて雪かきを再開する。
「行くだよ、六花~!」
「――ん!」
そして、ヴァイオレットに呼ばれた六花はキリスト像の前から離れた。
レミアと出会い思い出して捧げた哀悼の祈りは、届いただろうか?
【狂宴】で亡くなり、“雪”を愛していた、あの人に――
ちなみに帰宅後。
服を盛大に雪で汚した拓海は死ぬほど怒られた。
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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