本部

【終極】連動シナリオ

【終極/機抗】作戦コード「茨の冠」

影絵 企我

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/11/28 15:22

掲示板

オープニング

●Changeling
「よう。三年ぶりだなぁ」
 そう言って、トールは彼女に向かって不敵に笑う。一方の彼女は、にこりともせぬまま近くの椅子に腰かけた。トールもどっかりと座り込むと、彼女と正面から向かい合った。
「慰問にでも来たつもりか?」
「……そうだな。そんなところだろう」
 不完全なままに最終兵器を起動したラグナロク。その戦況が思わしくない事は明らかだった。
「戦闘データはお前のところに行ってんだろ?何のつもりかは知らねえが……まあ上手くやれや。同じ戦場に立った者同士だ。応援しとくぜ」
「ああ」
 二人は同時にタバコを取り出す。片や紙巻き、片やヴェポライザー。トールはライターを取りながら笑う。
「相変わらずハイカラなもん使いやがって」
「慣れたら楽だぞ」
 適当なやり取りをしつつ、二人はとっくりと煙を吸い込む。しんとした沈黙が漂った。
「目が変わったな」
 煙を気怠げに吐き、彼女はトールの目を窺う。
「あ?」
「お前の目は白色矮星のようだったんだがな」
 トールは鼻で笑う。
「そりゃあそうだ。いいもん見れてるからな」
「お前もじきに見られるぜ。俺と違って特等席じゃあねえだろうがな」
「そうでなくては困る」
 彼女はタバコをケースに収めて立ち上がる。踵を返して歩き出しかけたが、途中で彼女は足を止めた。
「そういえば、だ」
 振り返ると、彼女は伏し目がちに尋ねる。
「……君も、私と同じだったのか?」
 出し抜けの問いかけに、トールの目は宙を泳ぐ。しかしそれも一瞬の事。すぐにトールは不遜な顔をしてみせた。
『さあなあ。もうこうなっちまったらどっちがどっちだなんて関係ねえ。……そうだろ?』
 トールは携帯灰皿に吸い殻を押し込めつつ、念押しするように彼女の目を見据えた。彼女はそれを見届けると、溜め息まじりに今度こそ歩き出す。
「そうだな。そうに違いない」

●荒廃した都市へ

「敵部隊をデトロイトにて確認」
「進撃する。全軍に出撃準備をさせろ」
「志願兵として数カ国からそれぞれ10人ほど集まっています」
「それぞれの適性を確認しろ。不適格ならそのまま、適格なら適合手術を行え」
「あと……H.O.P.E.からエージェントが一人派遣されております」
「……通せ」

 次々と舞い込んでくる部下からの通信。電子タバコを吸いながら受け答えていたイザベラの前に、天幕を開いて三人組のエージェントが姿を見せた。黒いスーツを着込んだ少女は、にこりともせずに頭を下げる。
「H.O.P.E.東京海上支部所属、澪河青藍です」
『ウォルター・ドルイット』
『テラス』
「短い間でしょうが、お見知り置きを」
 日本人の少女、半吸血鬼、アンドロイドの寄り合い所帯をぐるりと見渡し、イザベラは溜め息を吐く。
「監視のつもりか?」
「そういうわけではないです。言うなれば観戦武官のようなものでしょうか。そちらの戦況を把握出来ないと、こちらの動きも決めかねるので」
「そうか。……まあ勝手にしろ。我々の態度は以前君の仲間に表明した通りだ。食事その他を自前で用意するなら、こちらから特に言うことは無い」
『ええ。そちらの手を煩わせるつもりはありませんから』
 ウォルターが頷いてみせる。
「……いいだろう。ではこちらからも一つ聞かせてもらおう。これから我々はデトロイトの戦線へ向かう予定だが、H.O.P.E.は来るのか?」
『行きますよ。出現エリアがあまりに広いですし。貴方達だけには任せていられないでしょう?』
「まあ、道理ではある。ならば伝えておけ。くれぐれも我々の邪魔はしてくれるなと。そんな暇は無いと、君達自身よくわかっている事だろうがな」

●希絶混淆
 H.O.P.E.所有の巨大なトレーラーに乗り込んだ君達は、デトロイトへと急行していた。荷台の奥に設けられたモニターに、オペレーターの顔が映し出されている。
「今回のミッションは、エリー湖を一大ドロップゾーンとして出現した大量の愚神、従魔の群れを討伐する事です。デトロイトを失陥する事になれば、アメリカ、カナダ双方の大都市の多くが危険にさらされる事になります。失敗は許されません」
 モニターは切り替わり、湖から次々と甲殻類とも昆虫ともつかない姿の異形が這い出す様を映し出す。その数は一個大隊にも迫ろうかという程だ。
「勢力はミーレス級従魔がおよそ500、それを束ねるデクリオ級従魔が30、ケントゥリオ級の愚神が2体、これを纏めているようです」
 今度は地図が映される。赤い矢印が幾つも伸び、敵の進軍ルートを露わにしていく。
「皆さんには遊撃役に回って頂きます。後方支援役の部隊で地域住民の保護及びミーレス級従魔の掃討を行うので、デクリオ級以上の戦力を優先的に処理してください」
 さらに、地図の北西部から緑色の矢印も伸びてきた。
「また、今回の戦場にはGLAIVEを名乗るリンカー特殊部隊も出撃しています。彼らは種々の犯罪行為から、現在ヴィランズとして認定されておりますが、……デトロイトを守り切るには、我々だけでは戦力が足りないのも事実です」

「……なので、対応は皆さんに一任します。戦場で最も最適と思える決断を下してください」

 つまり、彼らと手を組もうが、争おうが、君達の決断に非は唱えられないという事。しかし裏を返せば、君達の双肩にデトロイトの命運がかかっているという事でもあった。
 トレーラーが停車し、荷台の扉が開く。銘々の得物を手に取った君達は、素早く市街へと飛び出す。従魔達の叫び、矢継ぎ早に放たれる銃声が入り混じり、北の荒廃したゴーストシティは今まさに火に包まれようとしていた。

解説

目標 デクリオ級従魔及びケントゥリオ級愚神の撃破

ENEMY
☆ケントゥリオ級愚神キャンサー×2
 蟹の身体から甲羅に包まれた人間の上半身が生えたような異形の怪物。
●ステータス
 移動力及び防御力高、近接戦闘に優れる
●スキル
・スラッシュ
 二対の鋏で攻撃。[前方に範囲攻撃。命中した場合BS減退(1)を付与]
・ピンチ
 鋏で敵を拘束する。[近接物理。命中した場合BS拘束を付与し、さらにダメージを与える]

☆デクリオ級従魔シュリーピオン×30
 サソリとエビを合体させたような従魔。毒に注意。
●ステータス
 攻撃力高、移動力は遅い
・バックスタブ
 長い尻尾を使い、背後から攻撃。
・ポイズン
 尻尾の先から毒液を噴射する。
 [遠隔魔法。命中した場合BS減退(1)を付与]

☆ミーレス級従魔インヴェイド×500
 昔々のゲームに出てきたような容貌の従魔。ただしグロテスクさは100倍増し。
※殴れば死ぬ。無双要員。

NPC
☆イザベラ&セオドラ
 GLAIVEを束ねる指揮官。一種のカリスマが周囲の士気を最大限高めている。
●ステータス 命中ジャ(80/50)
●スキル
・ドーラ(範囲5になったアハトアハト)
・イチイバル(最大5体狙えるトリオ)
・フラガラッハ(必中するテレポートショット)

☆GLAIVEエリート×10
 グレイブの中核となっている、元リオベルデの精鋭兵。RGWの技術は彼らを命の危機と隣り合わせにしているが、それすらも戦意に代えて戦っている。
●ステータス 命中ジャ(75/40)
●スキル
※イザベラと同じ

☆澪河青藍
 グレイブの行動を観測しているエージェント。グレイブの位置情報等は彼女から得られる。
●ステータス 回避ブレ(70/38)

FIELD
・デトロイト
→嘗ての大都市。空テナントばかりのビルが障害物となりやすい。
→天気は曇り。そろそろ雨が降るかもしれない。
→昔の名残で道路は割と広い。敵は道路を伝って進軍してくる。

リプレイ

●意志
 デトロイトの地に降り立った泉 杏樹(aa0045)は、鉄扇を開いて押し寄せる従魔の群れを睨みつける。普段はカバーへ回る彼女も、今日ばかりは話が別だ。
「杏樹達が頑張って、イザベラさん達の負担、減らす、です」
『ダスティンがリオ・ベルデを示唆したのは、その負担を軽くする為だったかもしれない』
 榊 守(aa0045hero001)も今日は執事モードを投げ捨てている。“彼女”にも本音でぶつかっていくつもりだった。
『アイツは救えなかったが、この戦場は、まだ間に合う。その可能性に賭けないとな』
「……はい」
 杏樹は駆け出す。扇を胸元で構え、群れる水底からの侵略者へと飛び掛かっていった。扇の骨で膨れ上がったクラゲのような異形を叩きのめした。肉が弾け、温んだ水が周囲に飛び散る。赤城 龍哉(aa0090)がそこへ構わず踏み込み、黄金に輝く雷槌を振り回して次々にクラゲを潰しながら戦場の中心を目指して突き進んでいく。
「愚神退治に支障がない限りは……」
『相手の邪魔はしない、というところですわね』
 ヴァルトラウテ(aa0090hero001)と共に耳を澄ませば、遠くで銃声が微かに反響している。既に激しい交戦が続いているらしい。厄介だが、今は放置しておく他にない。彼方に見える甲殻に包まれた異形の人型に的を絞り、龍哉は隣のカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)へ眼を向ける。
「予定通りに分担だ。向こうの蟹人間は頼むぜ」
『わかってる。精々足引っ張んねーようにするさ』
 アンカー砲を取り出すと、近くの建物の屋上へ向かって一発放つ。そのまま鎖を伝ってよじ登ると、カイは重機関銃を取り出し屋根の縁に載せた。道路を埋め尽くさんばかりの群れを見渡し、御童 紗希(aa0339)は息を呑んだ。
「こうして見るとすごい群れ……今まで見た事無いくらい」
『なら纏めてぶっ潰すだけだ!』
 銃口を階下に向けると、引き金を絞って銃弾の雨を降らす。次々に従魔の身体が弾け、粘液をばら撒いていく。
 カイ達の足下で、刃に黒い焔を纏わせ八朔 カゲリ(aa0098)が堂々と進軍する。寄せ来るクラゲを斬り伏せる度、焔は徐々に強さを増していく。暖炉に薪をくべるが如く、彼はいつものようにナラカ(aa0098hero001)との絆を刃に注いでいるのだ。
『ふむ、良いな。これは良い』
 いつになくナラカは満足げだった。この場にいて、様々な者達の奮起を感じるからだ。従魔を打倒せんと、住民を守り抜かんと奮起している者達が居る。この難局に立ち上がったのは“ほおぷ”の者ばかりでない。そう思えば、奮戦するつもりにもなれた。

[今の所は変化ありません。敵の数はクラゲ型の従魔が200、エビサソリ型が4といったところでしょうか]
「了解。……澪河さんも気をつけて」
[わかってますよ。ヘマなんかしません]
 青藍からの連絡を受け取りつつ、桜小路 國光(aa4046)は戦場を走る。何としてもこの場は素早く収めなければならなかった。彼女から点々と知らされてくる彼らの戦況を思い起こしながら、彼は溜め息を吐く。
「あまり“失望”させないで欲しいね」
『先導者ではなく扇動者ですね……大衆がすぐに飽きないといいですが』
 メテオバイザー(aa4046hero001)もぽつりと呟いた。クラゲの群れの彼方に這い回る異形の蟲が見えると、彼らは刃の柄に手を掛け、一気に間合いを詰めていった。
 リンクレートを高めつつ、アークトゥルス(aa4682hero001)は後詰気味にその後を追いかける。街の彼方まで目を配りながら、彼はライヴスと化す従魔の屍を乗り越え進む。
『常に希望の味方であると決めた』
「……その為に、何をしないといけないのかずっと考えてきたっす」
 君島 耿太郎(aa4682)も呟く。突如戦いに名乗りを上げた、己の墓標(GRAVE)に向けて突き進む集団。今の二人にとって、彼らは最早見過ごす事の出来ぬ存在だった。
『GLAIVE。お前達に世界を救う英雄の座を譲る事は出来ない』
 彼らもまた救わねばならぬ者であるが故に。

「そっちから蟹型の敵は見えるか?」
 屋内から窓外への射撃を続けつつ、バルタサール・デル・レイ(aa4199)が青藍に尋ねる。
[……いえ。今はまだ。先行して偵察を行ってみます]
「任せた」
 ライフルを窓から引っ込め、彼はビルの窓から別のビルへと飛び移る。掃討は味方に任せ、早々に蟹型愚神と接敵してしまうつもりなのだ。
『(……それにしても、残念だったね。自己的な君とは違って、清い心を持つ人達だったみたいだね)』
 紫苑(aa4199hero001)はこっそり囁く。彼らと初めて出会った時、どんな壮大な陰謀を企てているのかと、バルタサールにしては珍しく他人に興味を持った。しかし、イザベラの明け透けなアジテーションを聞いた時、彼には彼女の肚が全て見えてしまった。
 単なる自己犠牲精神。拍子抜け、ガッカリ。バルタサールの感想としてはそんなところである。紫苑はクスリと笑う。
『(君は何を期待していたのかな?)』
「……さてな」

[蟹型を発見しました。そちらからは二時の方角です]
「御苦労。了解した」
 ラストシルバーバタリオン(aa4829hero002)と乗り込む形で一体化、ソーニャ・デグチャレフ(aa4829)は進軍する。身を伏せ、多脚戦車形態でボスの居る方角へ真っ直ぐに。
「でかぶつを真っ先に叩く。ボスクラスさえおとしてしまえば残りは烏合の衆に過ぎん」
 世界中が終末の様相を呈し始める中、彼女の祖国解放戦争も佳境に迫っていた。油を売っている余裕は無かったが、率いる兵士の給与は彼女達の稼ぎからも出ているのだ。贅沢は言って居られない。ついでに失敗も許されないのだ。
「行くぞ」
『Roger』
 ソーニャが呟くと、どこからともなく兵隊の掛け声が響き渡る。戦車は路地へと回り込むと、本陣を目指して軽快に突っ走った。
「迫間P、其方の様子はどうだ」
 彼女は迫間 央(aa1445)に通信を送る。彼はクラゲの群れをすり抜けながら、彼方にちらりと見えたエビサソリの懐を目指して突っ走っていた。通信機のスイッチに指をあてがい、彼は応える。
「問題無い。そろそろ接敵する」
 叢雲を抜き放ち、サソリの脇から飛び込む。そのまま甲殻の隙間に剣の切っ先を捻じ込んだ。澱んだ体液が噴き出し、道路を汚す。央は飛び退き、背後から飛んで来たサソリの尾を素早く躱した。
[では、今日は自分の攻撃を最大限に生かせるようなプロデュースを頼む]
「了解した。まあ任せておけ」
『これだけの数……分断されることが無いようにだけは気を付けないといけないわね』
 マイヤ サーア(aa1445hero001)は目に映るクラゲを数えようとするが、とても間に合わない。触手の攻撃は避けなくても当たらない程だが、走り回るには邪魔だ。
「敵は所詮有象無象だが……戦いは常に数だからな」

●For the HOPE
「……詐欺師」
 戦場の中、六花はその手の内にライヴスソウルを転がしながら呟く。その傍にはH.O.P.E.もいなければ、GLAIVEの兵士さえいない。結局、少女は孤独を選んだのである。

――一時間前――
「君が連絡を寄越した氷鏡六花か」
 天幕の中、タブレットを見つめていたイザベラは氷鏡 六花(aa4969)をちらりと一瞥する。六花はぺこりと頭を下げた。
「……ん。これから、宜しく……お願いします。愚神を、ぜんぶ、殺す……その為の、駒として、使ってもらえるなら、望むところ……です」
 彼女は見張りの任務を受けたが、実の狙いはH.O.P.E.からの離脱。“復讐”を果たす為だ。
「……駒か」
「その代わり、一体でも多く、殺せるように……六花の、氷雪の力、活用……してください。六花の、ディープフリーズなら、百体以上、ぜんぶまとめて、殺せ……ます」
 六花は薄らと微笑む。しかしその眼は氷のようだ。イザベラは電子タバコを取り出す。
「良かろう。だが、一つ確認しておく」
 少女は首を傾げた。
「我々の最終目標は、H.O.P.E.が王と万全の状態で戦える下地を作る事だ。その点については確認しておいてくれ」
 イザベラがそう言った途端、六花の表情が強張る。拳を固めて少女は尋ねる。
「じゃあ、あの演説は……」
「我々は罪深い身だ。英雄のように見なされるのは本意ではない。ついでに、市民にH.O.P.E.と我々が結託したと見做されては将来に不安を残す恐れもある」
「……嘘、だったんですか」
 少女は悟る。彼らもかの希望を信じ、守ろうとしている者達だった。
「嘘ではない。名誉など得られずとも、従魔や愚神を討てるならそれでいい……私が求めているのはそのような者達だからな」
「……ん。残念、です。そういう事なら、もう、あなた達に……用は無いです」
「む?」
 イザベラは眉間に皺を寄せる。眼鏡がずり落ちかけた隙に、六花は踵を返して天幕を飛び出す。背後から何か声が聞こえた気がしたが、最早聞く気は無かった。

『……六花』
 アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)は不安げに声を掛けるが、六花は薄ら笑みを浮かべたままその手でライヴスソウルを砕く。黒蒼のドレスを纏い、少女は初冬の戦場を走り出す。
「行こう、アルヴィナ」
 無防備に飛び出してきた少女に、従魔の群れが集まってくる。魔導書を開いて、その背中に氷の翼を生やした六花は、その手を天に掲げた。
 少女の周囲から湧きあがった激しい冷気。周囲の従魔は一瞬にして凍り付いた。

 戦場をひた走る杏樹の前に、エビサソリの従魔が立ち塞がる。両腕の小さな鋏を振るいながら、鞭のようにしなる尻尾を振り回して杏樹へと襲い掛かる。薙刀を手に取り、杏樹はその場で身構えた。
 背後から飛んでくる一筋の光。喰らったサソリはその場で怯んだ。双剣を構えた國光が駆けつけ、杏樹とサソリの間に割って入る。
「先に行ってください!」
「……ありがとう、ございます!」
 走る杏樹を見送ると、國光はサソリと向かい合った。もう一体も脇から走り寄ってきている。
『囲まれてしまいそうなのです』
「探す手間が省けた……とも言えるかな」
 國光は左手の刃を逆手に構えると、腰を落として構え、一息に周囲を薙ぎ払う。小さな前腕が千切れ飛び、サソリはその場でもがいた。飛び退いて間合いを取りつつ、彼は通信機のスイッチを入れる。
「澪河さん、其方の様子は?」
[今の所はテレポートショットをちょっと使ったくらいで、粛々とサソリやクラゲを叩いています。強力なスキルは温存しているようですね]
「ありがとうございます。引き続き何かあったら教えてください」
[了解です]
『……それなら、このままスキルを使わせないうちに勝負を決してしまうのです』
 國光は頷く。剣を構え直すと、群がる敵に向かって再び一閃を見舞った。
「そうだな。……厄介な人達だよ、全く」

 影俐も通りすがるクラゲを次々斬り伏せながら、目についたサソリに向かって突き進む。サソリは長い尻尾で地面を叩いて背後へ飛び退くと、さらに尻尾を鞭のように唸らせ影俐を狙った。剣を構えて直撃だけは避けると、さらにもう一歩踏み込み切っ先を頭と胸の付け根に突き立てた。肩口に血を滲ませながらも、その動きには一切の澱みが無い。
『(奮起を見せられればこちらも負けてはいられまいな、覚者よ)』
 ナラカは呟く。何を前にしようと、彼の意志は一切折れる事を知らない。彼女が知る限り、影俐は最も強い意志の焔を持ち得る者だった。
「……」
 無言のまま、影俐は刃に黒い焔を纏わせ、サソリの鋏に刃の切っ先を捻じ込む。敵がもがき苦しむのも構わず、刃を貫き通してその鋏を焼き切った。ついでにその顔面を真っ二つに叩き斬り、サソリを容赦なく沈黙させるのだった。

 ブレイブナイトの二人が有象無象の従魔と相対している隙に、残りのエージェントは次々と蟹型の愚神へと殺到していた。クラゲを周囲に浮かべていた蟹は、近寄る彼らをその眼に捕らえると、八本の足を器用に動かし騎兵隊のような速さでエージェント達に殺到してきた。
「さてその甲羅、果たしてどの程度のもんか見せて貰おうか」
 先陣を切ったのは龍哉。豪壮な金槌を振り回し、一息に愚神の間合いへと踏み込む。
『堅牢さを頼りとするなら尚の事。砕いてそこから突き崩しますわ』
「こういう時は、刃物より鈍器ってな!」
 金槌を振り上げると、蟹が鋏を繰り出すより早く、その甲殻に叩きつけた。表面の棘が幾つか剥がれ落ちたが、目立ったダメージは見えない。
「成程。……もう一つ工夫が要るな」
 突き出された鋏を払い除け、龍哉は一歩背後へ退く。代わりに央が間合いへ踏み込んでいった。剣に加えて、腰に差した刀も抜き放つ。
「貴様が二刀流なら、こちらも刃を二本取るだけだ」
 AGWは起動していないから、左手の刀は只の鈍ら。それでも、敵の鋏を少し逸らすくらいの役には立つ。央は手首を返すと、伸びてきた鋏を刃の上に走らせ直撃を避けた。そのまま彼はその姿を二つに分かち、一斉に跳び上がって甲殻に覆われた顔面へと突っ込む。蟹は棍棒のような上腕で闇雲に殴り掛かったが、腕の棘が彼に触れた瞬間その姿は霞となって消えた。
「こっちだ」
 殴りを躱した央は、切っ先を関節の隙間に捻じ込む。内側に守られた筋が断たれ、愚神はくぐもった悲鳴を上げる。央は背中に回り込んでしがみつき、周囲を見渡し叫んだ。
「今だ!」
 ビルの屋上から飛び出し、シルバーバタリオンの車体が戦場の中へと着陸する。土煙を上げながら、戦車は折りたたんでいた主砲を展開する。
「……ふむ。上等であるな。流石はプロデューサー」
 弾頭を装填して狙いを定める。ライヴスを炸薬代わりに詰め込むと、巨大な鋏の付け根を狙ってぶっ放した。目にも止まらぬ速さで弾頭は肉に突き刺さり、体液をだらりと溢れさせた。着弾を確認したソーニャはさらに主砲へライヴスを込めると、砲口を天空へと向ける。
「諸兄ら、此度の戦いは電光のように素早く進める事が肝要だ。敵に反撃の隙を与えるな」
 激励代わりの言葉と共に、天へ向かってライヴスの塊を放った。炸裂したライヴスは仲間達に降り注ぎ、その身に力を与える。
 蟹は甲高い叫びを上げ、腰元から伸びる一対の鋏を振り回しながらエージェント達へと這い寄った。バルタサールは廃ビルの窓を叩き割り、ライフルの銃口を鋏に向けた。龍哉へと突き出した鋏は、央の横槍を受けて空を切る。
 その刹那に引き金を引いた。放たれた真鍮の弾丸は、ソーニャが抉った鋏の付け根に突き刺さり、さらにその肉を抉る。痛みに唸った愚神は、バルタサールへその指を向けた。クラゲが数体ふわりと浮かび、彼へ向かって直行する。
『来てるみたいだよ?』
「特に問題は無いな」
 素早く走って位置を変えたバルタサールは、その感覚を研ぎ澄ませてライフルを構える。敢えてスコープは覗かず、射手としての感覚を頼りに愚神の眼へ狙いを定めた。
 次の瞬間、乾いた銃声と共に甲殻の兜の向こうから黄色い体液が溢れた。蟹は悲鳴を上げ、八つ足でたたらを踏む。
「さて、こいつで貫けるかどうか……」
『狙い撃ちますわ!』
 ライヴスを鎚に溜められるだけ溜め込んだ龍哉が、蟹の間合いへと一気に踏み込む。負けじと蟹も巨大な鋏で龍哉を掴み上げようとした。
「させるかよ!」
 鋏の付け根に向かって、鎚を真っ向勝負で振り下ろす。甲殻が砕け散り、鋏は真っ二つに裂けて垂れ下がった。蟹は怯み、その場で縮こまる。その隙を突いて、さらに龍哉は脳天を狙って飛び上がった。
「こいつで、砕く!」
 気合と共に、龍哉はその鎚を振り下ろした。

 もう一方の蟹も、紗希と杏樹とアークが取り囲んでいた。紗希は蝶の翼のように改造したカチューシャを展開し、蟹やそれを取り巻くクラゲの群れに狙いを定める。
『一旦下がれ!』
 杏樹とアークが一斉に散開する。入れ替わるように小型のミサイルが幾つも飛び交い、周囲を纏めて薙ぎ払った。爆風の中心地に置かれた蟹は、二つの鋏を構えてその場に足を止める。杏樹は足を転じると、薙刀を上段に構えて一気に踏み込んでいく。
『甲殻はいかにも堅そうだが……それでも蟹なら殻の隙間に刃を捻じ込んでしまえばいい』
「はい……!」
 蟹は鋏で目の前を薙ぎ払う。その切っ先が杏樹の腕を切り裂いたが、杏樹は構わず鋏の付け根に薙刀を捻じ込んだ。更に刃へライヴスを込め、蟹の肉を深くまで抉り抜く。黄色い体液が、だらだらと地面に溢れだした。蟹は唸りながら足元の杏樹を威嚇した。杏樹は咄嗟に数歩間合いを取ると、傍のアークに目配せする。
「アークさん」
『承知している』
 蟹が杏樹へとターゲットを定めたその瞬間、アークは剣を振り上げながら空へと高く跳び上がる。そのまま刃にライヴスを纏わせ、全体重を乗せて脚の付け根に渾身の下突きを見舞った。
「――!」
 薄い甲殻が砕け、肉が一息に断ち切られる。脚が一本地面に転がり、毒々しい体液を垂れ流しながら蟹は呻いた。体勢も崩してその場に屈みこむ。
『カイ殿!』
『わかってる!』
 乱暴に応えると、カイは大剣にライヴスを纏わせ、のろのろと起き上がろうとしている蟹の懐へと潜り込んだ。
『メンドクセエ事になってんだ! てめえらなんかに! 構ってられねえんだよ!』
 昂る感情のままに荒々しく叫び、カイは力任せに三発連続で大剣を蟹の頭蓋に叩き込んだ。刃に刻まれた深い切り込みが、地獄の番犬の如く三度吼える。分厚い兜も怒涛の連続攻撃には耐えられるはずもない。頭をぐちゃぐちゃに砕かれた蟹はその場に力無く崩れ落ちた。
「……やった、のかな?」
 紗希がぽつりと呟く。蟹はぴくりとも動かない。杏樹とアークもすぐさま駆けつける。
『向こうの愚神ももうすぐ片付くそうだ』
「それなら、サソリ型の討伐へ、回りましょう」
『……だな。なるべく俺らで仕留めて回らねえと』
 武器を構え直すと、散開した従魔の群れを目指して三人は駆け出した。

 前線を押し上げているうちに、銃声も大きくなってくる。密集した隊列を組んだGLAIVEの面々が、群れる従魔の群れを次々に撃ち払っていた。その武器に取り付けられたRGWドライブは、今も歪な光を放っている。
『(“ぐれいぶ”なる連中も、矢張り中々)』
 影俐がエビサソリの一撃をひょいと躱すその中で、ナラカは呟く。彼女の眼には、彼らも輝かしく見えていた。喩え悪に属するものであろうとも、命を危機に晒しながら戦意を滾らせるその姿は素晴らしいの一言だ。
 彼女は意志を持つ総ての生命を愛するのである。

 二体のサソリが、クラゲと共に央達へ押し寄せる。央は剣を振るうと、蒼い花びらが寒空の中に舞い散り、サソリ達の視界を塞ぐ。
「今だ」
「よかろう」
 戦車の車体が立ち上がり、フリーガーファウストを展開する。群れの中に狙いを定め、ロケット弾を一発叩き込んだ。爆風に包まれ、クラゲは次々吹き飛び地面に飛び散る。更に國光が飛び込み、双剣で二匹のサソリを次々に切り裂いた。
 敵の頭領は既に討ち、後は掃討戦だ。ソーニャは次弾を装填しつつ、彼方に立つ兵士の隊列を見据えた。
「……あれが噂のGLAIVEか」
 数名ずつの組でリロードの隙を消しながら、間断なく弾丸を従魔の群れへと叩き込んでいく。従魔は大量に押し寄せるが、全く寄せ付けていない。
 近づいたサソリを防御用の斧で叩きのめしながら、ソーニャは唸る。もしもを考えると、その戦いぶりの観察は怠れなかった。

 相変わらず高所に陣取って戦域全体を見渡しながら、バルタサールは点々と動き回るサソリに一発一発丁寧に弾丸を叩き込んでいく。怯んだ隙に、直接戦う仲間達がサソリの頭や尾を叩き潰して沈黙させていった。
 普段からその手並みは淡々としたものだが、今日に限っては尚の事冷静だった。GLAIVEの在り様に見込み違いだったところはあったが、さりとて仕事に影響する事など何もないのだ。
 スコープを覗き込むと、引き金を引く。頭を撃ち抜かれたサソリは、その場で立ち止まり、狂ったように尻尾を振り回す。すかさず傍に居た龍哉が弓を引くと、サソリの脳天を撃ち抜いて今度こそ黙らせた。

 國光はライヴスを纏わせた双剣を振り抜く。長い尻尾で飛び退こうとした従魔に、ライヴスの塊が襲い掛かった。光弾は顔面にぶち当たり、サソリはひっくり返って墜落した。杏樹は薙刀を構え、摺り足で間合いを詰めていく。サソリは起き上がりざま、その尻尾を振り回した。國光は咄嗟に間合いへ踏み込み、刃を振り抜いてその尻尾を押さえつけた。
「今です」
『承知した!』
 杏樹とアークは肩を並べ、一斉にサソリの尻尾へ向かって刃を振り抜いた。二人に向かって振り下ろされた尻尾は、その切っ先が届く前に斬り飛ばされた。その場で跳ね回ってもがき苦しむサソリの頭を、アークは丁寧に叩き潰す。
 気付けば、周囲にもうサソリの姿も見えなくなっていた。耳元には青藍からの報告も飛び込んでくる。
[ケントゥリオ級、デクリオ級の全敵勢力の撃破を確認しました。任務は完了です]
『ああ。……だが我々の戦いはまだ終わっていない』
 踵を返すと、アークは剣を構え直してクラゲの群れへ突進した。背後から襲い掛かり、次々とその刃で従魔を斬り伏せていく。ケントゥリオ級と戦い抜いた疲れも、今や忘れている。
 耿太郎は黙り続けていたが、アークは感じていた。ままならぬことへの少年の怒りを。変わらず理不尽を強いる世界への怒りを。眉を怒らせ、衰え知らずの気迫で敵陣を切り裂いていく。
『(五人を贄に一を打ち倒さんとする者がいるなら、先にその一を打ち倒すだけの事)』
 “守るべき誓い”を放ち、寄せ集めた敵の群れを一気に薙ぎ払う。
『(より良い未来は譲らん。彼らが光に出会える可能性を奪わせはしない)』
 彼らの気迫はライヴスを高める。星の刃は獅子の咆哮の如き轟音を立て、天の川の如き光の軌跡を放った。その光を浴びて、敵は力無く薙ぎ倒されていく。纏うそのサーコートも、薄らと光を放っていた。
『(やるべき事も変わらん。誓いを胸に、絶望を斬り払うのみ)』

 勇壮に戦場を駆け回るアークトゥルスを、イザベラは遠巻きに見つめていた。ゴーグルの向こう側で、彼女は静かに嘆息する。
「……アレか。君が見たかった輝きというものは」
 目の前に一体の従魔が迫る。イザベラはドラグノフを構え、素早く撃ち抜いた。
「あの輝きをこそ、“奴”に見せつけてやらねばな」
 GLAIVEの兵達も頷き合うと、銃を構えてクラゲの群れへ向かって前進していった。

●Veni, Vidi, Vici
 十分後、ライヴスの結晶と化した無数の従魔の亡骸だけが、荒れ果てた道路に広がっていた。電子タバコを片手にその光景を見つめ、イザベラは脱力した口調で呟く。
「……素直に礼を言っておこう。お前達の活躍は想像以上ではあった」
 多少負傷した様子ではあったが、イザベラ達に欠員は出ていなかった。蟹型愚神に注力する速攻戦術がそれなりに功を奏したようである。龍哉は腕組みし、難しい顔をしたままイザベラを見据える。
「覚悟は大したもんだが、それで暴走した後誰が迷惑を蒙るのかは判ってるんだろうな」
「我々もその為の対策を練らぬ阿呆ではない。この装備は天才の作品だ。いよいよ危なくなれば、我々は残らず“処理”されるようになっている。お前達が気にする必要はない」
『それは即ち、自決するという事でしょうか?』
 ヴァルトラウテが尋ねると、イザベラは肩を竦める。
「端的に言えばな」
「……そんな事、させるわけには行かない、です」
 傍にやってきたのは、相も変わらず真っ直ぐな眼をした杏樹である。
「GLAIVEの皆さんの負担が、少しでも軽くなるように、杏樹も、H.O.P.E.として、戦い続ける、です」
 興味なさげに煙を吐き出すイザベラの正面に回り込み、彼女は辛抱強く訴える。
「一日でも早く、王を倒すために、全力を尽くすの。だから、一日でも長く、生きてください。イザベラさんや、GLAIVEの皆さんを、一人でも救いたいです。可能性が、僅かでもあるなら、諦めないの」
『D.D.はH.O.P.E.が拘束し、実験が行われてる。USの兵士を、元に戻す手段が見つかるだろう。レジスタンスに政権を渡しても、陰で生きられる』
 杏樹の背後を守るように立ちながら、守も静かに語り掛ける。同じように死を背負って戦ってきた兵士として。
『だから死に急ぐな。兵士が長く生きれば、戦力の低下を防ぐ事にもなるだろ?』
「……元よりそのつもりだ」
 イザベラは踵を返す。その横顔を、ビルの柱にもたれ掛かったカイが睨む。
『リオ・ベルデの事情は理解しているつもりだ。あんた達が命懸けで愚神と戦っている事も承知している。しかし、あんた達がここに辿り着くまでに行った事は許されざる事だとも俺は考えている』
 彼女は僅かに足を止めた。カイは柱から離れ、ずんずんと歩み寄っていく。眼鏡が夕日を照り返し、イザベラの眼が隠れた。しかし、構わずカイは続ける。
『今は人間同士が争っている場合じゃない。だからあんた達の行動を今どうこう言うつもりはない』
 彼女の耳元に詰め寄り、カイはこっそりと釘を刺した。H.O.P.E.の一員としてのスタンスを断固として固持する。それが彼らの答えだった。
『だが、事が全て終わればあんた達には然るべき罪は償ってもらうべきだと俺は考えている。邪魔するつもりは無いが、慣れ合うつもりもない』
「……そうだ。それでいい。そう来なくてはな」

 互いに視線をぶつけ合うカイとイザベラを、國光とメテオは遠目に眺めていた。イザベラの右手のグローブでは、霊石が歪な光を放っている。メテオは身を縮めた。
『なんか……無理矢理、多重共鳴しているようで気持ち悪いのです……あの道具』
「あれで何か起こった時は、こっちは悪者になってまで向こうの尻拭いするんだぞ」
 大きな溜め息を吐く。彼らの戦い方は國光にとっては痛々しく見えていた。
「(必死に絆を集めてるみたいだ……元ある絆を無下にして)」
 そんな事を考えていると、何故かイザベラは彼の下へとつかつかやってくる。ずり落ちかけた眼鏡を掛け直し、彼女はじっと國光を見据えた。
「ロジェが話していたのは、君か」
 國光は愛想の良い笑みを繕い、静かに頭を下げる。
「演説、拝聴しました。とても魅力的で迫力ある演説から、またお会いしたいと思いまして」
「世辞はよせ。元々あんなのは柄じゃない」
「そうですか? 支持者がそこそこ出ていると聞きましたが」
 とはいえ、國光は信じていた。自分が敵と味方の死骸の山の上、奇声を上げて武器を振り回しているよりも、世界的な賞を取って、最も混み合う晩餐会の料理の話や、窮屈なダンスパーティで英雄か、まだ見ぬ妻と踊った話をする方がいいだろうと。三途の川の向こうで待っている相手も余程嬉しいだろうと。
 彼はイザベラに一目置いていた。彼女自身も本心ではそれに気づいているだろうから。
「あまり、“失望”させないでくださいね?」
「……どうだろうな」
 イザベラは神妙な顔をすると、コートを靡かせ今度こそその場を歩き去った。

 その頃、六花はアルヴィナに負傷の手当てを受けていた。単身で掃討戦を繰り広げた後、どうにか重体もせずに踏み止まったのである。
『これから、どうするの。六花』
「ん……戻るよ。南極支部に。あんなとこより、戻った方が、たくさん殺せそうだから」
 アルヴィナに尋ねられた六花は、いっそ晴れがましい顔で応える。彼女は信じていた。雪娘の言葉を嘘にしたのは、彼女との共存を望まなかったエージェント達の霊力なのだと。世界が愚神との殺し合いを望んでいるからだと。彼女は微笑む。
「……いいよ、とことんまで……殺し尽くしてあげる……から」

 その頃、央は青藍からの連絡に耳を傾けていた。どうしても気にかかる事があったのだ。
[……ええ。そのようです]
「わかりました。ありがとうございます」
 電話を切ると、央は小さく溜め息を吐く。その横顔を眺め、マイヤは小さく肩を竦めた。
『一先ずは、杞憂で済んだというところかしら』
「ああ……一時の迷いであってくれればいいんだけどな」
 最近の“彼女”の危うさには、薄々央も気付いていた。全ての愚神を殺すために躍起になって、身を削るように戦いに投じている。
 央はちらりとマイヤを見つめた。彼女も嘗ては愚神への憎悪を固めていたが、それでも、一部の愚神については、相互不可侵であることを受け容れている。
 彼自身も、リンカーとして必要以上の暴力は行使するわけにいかないと信じていた。暴力の過剰な行使は、力を持たない者に対する示威になってしまうから。そうなれば、沈静しつつある世間の眼も、再び厳しいものとなりかねない。
「(俺は……世間の誹謗中傷から、英雄を、リンカーを……マイヤを守る為に戦う)」
 世界中に向けて大演説をぶち上げた、女の顔が脳裏を過ぎる。
「(その為にも、あんな振る舞いをする者達を放置することは出来ない)」


 その後も、青藍によってエージェント達の耳にGLAIVE側の戦況が続々と伝えられてくる。損傷をまったく恐れず、アメリカ大陸の各地を飛び回って進出してくる従魔愚神を撃破していた。
 彼らの活躍によって、戦況そのものは間違いなく好転している。しかしやはり、彼らの活躍を諸手で歓迎するわけにもいかない。
 人類生存の希望に基づく答えを求められる瞬間は、刻一刻と近づいているのだ。


 Continue to “The Sword of Crusade”.

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
  • 希望の格率
    君島 耿太郎aa4682
  • 我らが守るべき誓い
    ソーニャ・デグチャレフaa4829

重体一覧

参加者

  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
    人間|18才|女性|生命
  • Black coat
    榊 守aa0045hero001
    英雄|38才|男性|バト
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • Aster
    紫苑aa4199hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 希望の格率
    君島 耿太郎aa4682
    人間|17才|男性|防御
  • 革命の意志
    アークトゥルスaa4682hero001
    英雄|22才|男性|ブレ
  • 我らが守るべき誓い
    ソーニャ・デグチャレフaa4829
    獣人|13才|女性|攻撃
  • 我らが守るべき誓い
    ラストシルバーバタリオンaa4829hero002
    英雄|27才|?|ブレ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
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