本部

Shooting Star

影絵 企我

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/11/11 15:47

掲示板

オープニング

●機甲襲来
 アルター社、CEO室。ロバート・アーウィンは最早顔馴染みとなったエージェント、澪河青藍といつものようにやり取りしていた。
「……ふむ。確認した。輸送任務ご苦労だ」
「はい。まあ何事もなく済んだんで良かったです」
 秘書に書類を渡すと、ロバートは穏やかな表情で青藍を見上げる。左目に埋め込まれた義眼、横顔に刻まれた傷は、今も痛々しい。
「訓練の状況は良好らしいし、もう少しで、君達H.O.P.E.の手を煩わせる事も無くなるだろうね」
「お願いしますよ。この前みたいな事は勘弁ですからね」
「気を付けるさ」
 背もたれに身を預けて溜め息を吐くと、彼は秘書へとちらりと眼を向けた。秘書は頷くと、そっとタブレットをデスクの上に乗せる。アルター社との契約書類が映されていた。
「どうだい? これからもアルター社の為に色々と手を尽くしてくれればこちらとしても嬉しいのだけど」
 じっと中身を見つめていた青藍。年俸を見て思わず目を丸くしたが、やがてタブレットを突き返して首を振る。
「……今の所はノーで。身軽でいたい気分ですから」
「身軽に?」
「ええ。“王”との戦いが終わったら、探偵名乗ってフリーでやろうかな、なんて。何と言うか、最近そんなんばかりで、そういうやり方に慣れちゃいましたしね。……勿論、依頼としてお二人に手を貸すなら喜んでやりますよ」
「ああ。そう言ってくれると力強いね」
 二人が微笑んでいると、不意に険しい顔をした秘書が会話に割り込んでくる。
「H.O.P.E.から連絡です。プリセンサーが、百号プラントに対する従魔の襲撃を察知したとの事です」
「……狙いはAGW、か」
 ロバートは苦い顔をした。秘書はタブレットを拾い上げ、二人に見せる。そこには、プラントの彼方に立って巨大なライフルを構える、一機のロボットの姿があった。
「これが、プリセンサーの予知を再現した映像、との事ですが……」
『あーーーーーっ!』
 突然幻想蝶からアンドロイドの少女――テラスが飛び出してくる。口元に両手を当てたりしながら、慌てた調子で呟く。
『これ、私が前いた世界で乗ってたヤツ……』
「はぁ?」
『何となく覚えてる……最後の方に、向こうの世界で従魔に乗っ取られちゃってたんだよ。どうしよー……』
「……という事は、あの従魔がどんな戦い方をするかは大体わかるわけだな?」
 ロバートに尋ねられると、テラスはこくりと頷く。
『うん。まあ……』
「なら話は早い。急行してくれ!」

●其は流れ星の如く
 君達は緊急招集に応じ、アルター社のAGW製造プラントに駆けつけた。会議室で待ち構えていた青藍は、君達に向かってぺこりと頭を下げる。
「来てくださってありがとうございます。……今回はよろしくお願いします」
 青藍は頭を下げる。君達が揃ったのを確かめると、スクリーンのそばに構えていたオペレーターが説明を始めた。
「今回の目標は、十分後に襲撃してくる予定のケントゥリオ級従魔を撃退する事です。ケントゥリオ級と言っても、その能力そのものはトリブヌス級にも迫る勢いと考えられます。くれぐれも無理はしないでください」
『敵の名前はエクスシア。私が前いた世界で、愚神と戦う為に使ってた巨大なAGW、みたいなものかなー。私は殆ど持ち場を離れられなかったから、その分長大な射程のビームライフルで前線に立つ仲間の火力支援をしてた感じの機体だよ』
 テラスが脇に立って説明を付け足す。オペレーターは彼女を見下ろして頷くと、横長のケースをテーブルに載せ、鍵を外す。
「また、そうした性質を鑑みて、H.O.P.E.研究班から一台の試作AGWが提供されています」
 中から取り出されたのは、白く輝く一丁の狙撃銃。ごてごてとメカニックな装備が取り付けられていた。
「名前はシューティングスター。小型のAGWを射出し攻撃する、超長距離対応用のライフルです。最大射程距離は3000m以上。弾丸は敵のライヴスを吸収して炸裂するようになっており、開発段階からネックになり続けた威力の問題をある程度解決しています」
「ただ、この銃弾の生産には非常に時間がかかります。今回も用意できたのは三発だけです。くれぐれも外す事の無いように気を付けてください」

「敵襲が始まります。準備を開始してください」



 翼を広げた人型の機体が、丘陵の頂上へと静かに舞い降りる。腰にマウントしていた巨大なライフルを取り出すと、静かにプラントへ狙いを定めるのだった。

解説

メイン エクスシアの撤退(生命70%まで減少)及びエンジェルの全滅
サブ アルター社のプラントが無傷のままメインを達成する。

ENEMY
☆ケントゥリオ級従魔エクスシア
 元の世界ではテラスが用いていた対愚神用の装甲。
●ステータス
 生命、物攻、物防S その他A。体長5m、飛行可能。
●スキル
・ロンギヌス
 超長距離ライフル。アルター社のAGWプラントを破壊するべく、付近の丘陵から狙いを定めている。
 [最大射程1200。カバー不可。攻撃前に、メインアクションを10R分消費してチャージを行う。]
・インヴィディア
 ナイフ。と言っても大剣AGW並みのサイズはある。
 [通常の近接物理攻撃]

☆デクリオ級従魔エンジェル×10
 エクスシアをカバーする小型の自律機械。
●ステータス
 エクスシアの半分。
●スキル
・クラックショット
 ライフル。障害物を貫通し、ターゲットのみ攻撃する。
 [最大射程20。カバー不可]
・スタンランス
 ライヴスを纏ったブレード。斬りつけられると、流し込まれたライヴスにより暫く動けなくなる。
 [近接。命中判定に勝利した場合、BS気絶(1)付与]

FIELD
・丘陵
→ゲーム開始地点からの距離は1000スクエア。
→高所に敵が陣取っており、敵から発見されやすい。
→茂みが生えており、上へ登るにあたって障害物になっている。
→日当たりは良く、照明の心配はない。

ITEM
☆シューティングスター
 恭佳が開発したスカバードレールガンの最終形態。威力不足を特製の銃弾で解決したが、銃弾の量産が利かないためいざという時にしか使えない。
[最大射程(使用者の命中/2)。威力は敵の物攻の半分。シナリオ中3回しか攻撃を行えない。]

TIPS
・サブを達成する場合はシューティングスターを有効に活用する事。
・纏まって移動すると狙い撃ちされる可能性があるので注意。
・ロンギヌスのチャージ中にシューティングスターの弾丸を当てると……?

リプレイ

●流星の如く
 予定の時間が訪れた。宙を切り裂いて現れた純白の機甲が、静かに降りて来た。丘陵の頂上に着地すると、右腕に溜め込んだライヴスを地面に叩きつけ、空間を歪めて十体の小型の機体を次々に呼び出す。手持ちの望遠鏡を片手に、善知鳥(aa4840hero002)はナイチンゲール(aa4840)と共にその姿を見上げていた。
『あれは……兆し』
 善知鳥は眉間に皺を寄せる。
『(世の終末にして尚……否、終末なればこそ舞い降りたか)』
「だから、“私達”が見過ごす訳にはいかないの」
 二人は見つめあうと、その手を取って共鳴する。義手に埋め込んだ歯車を撫でると、ナイチンゲール達は静かに踏み出す。
『ええ、参りましょう』
 彼女は隣を見る。白いアーマーに身を包んだテラスが、ブルパップの手入れを済ませていた。青藍の姿を借りた彼女は、物憂げに、しかし懐かしげに機体を見つめていた。
「二人も、よろしく」
『……はい。宜しくお願いいたします』

 ユフォアリーヤ(aa0452hero001)と共鳴した麻生 遊夜(aa0452)は、プラントの屋上でマットに塗られた機械的な白い銃身を撫でる。彼にとって、この銃を触るのは二度目であった。
「そうか、遂に完成したんだな……」
『……ん、感慨深い……残弾3発、一点物……ロマンだねぇ』
 遊夜はライフルのレバーを引き、複雑な幾何学模様がびっしりと描かれた弾丸を銃身に込める。それから彼は鋼鉄の足場に伏せると、フェンスの隙間へ銃身を押し込んだ。スコープで覗いた景色の中に立っているのは、丘陵の頂上で同じく狙撃銃を構えた一体の人体型機甲。それは直線距離にして2kmを優に超える。狙撃の世界記録にも楽々と並ぶ距離だ。
「何処までも手が届くこの感覚……俺達も成長したもんだな」
『ん、ふふ……ボク達の眼から、弾からは……誰も逃げられないの』
 ジャックポットの頂点へ上り詰めた彼らは、今や自信に満ち溢れていた。

 丘陵に降り立った機甲を見上げ、赤城 龍哉(aa0090)は呆気に取られたように呟く。半年以上前に似たような敵が出たのは知っていたが、実際に目にするのは初めてだった。
「ロボット……本物かよ」
『あれが現実で活躍する世界もあるのですわね。ロマンですわ』
 最近人気のロボットアニメをチェック済みのヴァルトラウテ(aa0090hero001)が呟く。大剣“烈華”を担ぎながら、彼は溜め息を吐いた。
「言ってる場合か。今回の敵はそのロマンだぜ」
 エクスシアの背後からわらわらと湧いてきた機械の天使が、次々丘陵を下ってくる。龍哉は全速力で駆け出した。
「テラス! 奴の翼をぶっ壊すとしたら、どこを狙えばいい!」
[翼の先端! 姿勢制御が出来なくなって、飛行したままの行動は出来なくなるよ!]
「了解だ!」
 その背中に続くようにして、弩を構えたフローラ メタボリック(aa0584hero002)が坂道を駆け登っていく。近頃激太りを経験した彼女だったが、共鳴した姿は相変わらず痩せている。
『あーぁ、シューティングスター使いたかった。あの子の力を引き出せる相手がいるなら仕方ないかぁ』
 ちらりと背後を振り返る。プラントの屋上は遥か彼方、最高の狙撃手がどこで狙いを定めているかはもう見えない。狙撃手だった人間として、自分も同じように構えてみたいと思ったが、銃は生憎一丁しかなかった。
「言いそびれただ、やるべきことするだよ」
 ヴァイオレット メタボリック(aa0584)が宥めすかすように言う。フローラは弩を構えると、強気に笑みを浮かべた。
『姉さんの上司の家族サービスに水差せないもんね』
 背中のバーニアを噴かせながら近づいてくる敵を見据え、彼女はその足に赤紫の光を走らせるのだった。

 プリンセス☆エデン(aa4913)は灌木の中に潜み、丘陵の全体をじっと見つめていた。5メートルあるらしいが、2kmも離れればその姿は随分と小さく見える。Ezra(aa4913hero001)は小声で溜め息を吐いた。
『レガトゥス級にも一矢報いる威力となれば……私達がその攻撃を受けると最早どうなるかわかりませんね』
「もちろん。だからあたしだってアレに喧嘩は売らないよー。あたしが狙うのはあいつの足下にいるエンジェルの方だね」
 エデンは細々と動き回るロボットの方を指差す。テラスにその名を“エンジェル”と聞かされたが、それがエデンには気にくわない。
「プリティなエンジェルってのは、あたしみたいなキュートなアイドルにこそふさわしい名前なんだよ!」
『はぁ』
「というわけで、一気に走るよー!」
 エデンは戸惑うエズラを放ったまま、ジャングルホッパーの力を借りて華麗に走り出す。使わなくても特に労せず移動できる気はするが、それはそれだ。
 一方、イメージプロジェクターで紅いドレスをギリースーツに変化させ、斜面に溶け込みながら世良 杏奈(aa3447)はエクスシアへと迫っていた。切羽詰まった状況ではあるが、ゲームにでも出てきそうな外見を見るとどうしてもわくわくしてしまう。
「テラスちゃんがいた世界ってこんなのを作れるんだ! すごくテクノロジーが進歩してるのね!」
『こういうので愚神と戦ってたのね。なんかロボット漫画みたい』
 ルナ(aa3447hero001)は呟く。知り合いからかのドロップゾーンの地下で対峙したモノの話は聞いていたが、改めて見ると新鮮だった。
「この世界でこれを開発するためにはどれくらいかかるのかしらね……」
 エンジェルが他の仲間へ眼を向けた隙に、杏奈は一気に斜面を駆け登る。生命力に自信はあったが、何発も貰ってはいられない。
 二人がエクスシアを見上げると、それはいよいよ巨大なライフルをプラントへ向けていた。

「Target marked……」
 機甲はライフルの引き金を絞る。グリップ近くの巨大なAGWドライブが、禍々しい輝きを放つ。屋上からスコープで眺めていた遊夜は、静かに人差し指をトリガーへ掛けた。
「来たか、予定通りだな」
『……ん、こちらに向けて……チャージしたら最後、カウンターで、ドカン、だよ』
 最大チャージに掛かる時間は100秒ジャスト。その間にドライブの中でライヴスが増幅されていく。テラスから機体の情報はしっかり聞き込んでいた。
「(この銃の砲口初速は1000m毎秒。着弾まではおよそ3秒掛かるかどうか……)」
 狙うは臨界ギリギリ。スコープを覗かない方の目で、リーヤが時計を見つめていた。
『(10、9、8……)』
 ロンギヌスの銃口へ標的を定める。
『(3、2、1……!)』
 人差し指へ力を込めた。放たれた銃弾が、碧い輝きを曳きながらロンギヌスの銃口に突き刺さった。その瞬間、弾けた閃光が機甲へと襲い掛かった。機甲は仰け反り、たたらを踏む。
「どうした、暴発かね?」
『……ん、ふふ……自分の溜めた力を、喰らった気分は……どう?』
 全身から火花を散らせながらも、機甲は再びライフルを構える。多少警戒しているのか、立ち撃ちから膝撃ちへ姿勢を変えている。
「流石に硬い、が……」
『特別製……量産出来ない、貴重な3発……存分に堪能して、ね』

 エクスシアが再びライヴスの充填を始めた足下で、エージェントとエンジェルは徐々にその距離を詰めていく。黛 香月(aa0790)は対物ライフルをハイレディに構えてエクスシアへ迫っていく。
「随分と仰々しい玩具を用意してくれたもんだ。だがそんな玩具を振りかざして粋がるのは今のうちだけだ」
 愚神死すべし、慈悲は無い。それこそが、愚神に捕らえられて改造されたその日から、彼女を彼女たらしめる信念であった。
『頭上から来ます、香月様』
 アウグストゥス(aa0790hero001)が敵の気配を察する。ライフルを持ち直した香月は、身を翻してライヴスを纏わせたストックを振り抜く。横っ面に叩きつけ、そのまま斜面へ突き飛ばした。
「私の邪魔だてなど出来んぞ」
 斜面を滑り落ちていくエンジェルを見下ろし、香月は吐き捨てた。

『(ふむ、ふむ)』
 殿を務めて走る八朔 カゲリ(aa0098)の眼の奥で、ナラカ(aa0098hero001)は“子等”の背中をじっと見つめていた。10体の機体と対峙しながら、彼らは丘陵の頂上を目指している。
『(はてさて、この試練を如何にして踏破するものかな)』
 彼女が常々求めているのは生命が見せる意志の輝きであった。そこに善悪の区別は無く、ただ其れと見定めた境地へ向かって勇往邁進する姿をこそ彼女は見たいと願っていた。
 故に目の前に立ち塞がる11体の機甲には興味など無かった。それらは機械に憑りついた従魔でしかなく、外見に違わぬ“操り人形”に過ぎないからである。
『(それについては、覚者も同様ではあるがな)』
「問題は無い。最大の懸念は既にあの狙撃手によって除かれている。ならばあの敵を討ち果たすために進むだけだ」
 彼の中に一切の感慨はない。目の前に在るのは暴走した機械以上のものではない。行って、全て破壊する。それだけだ。

●天使を落とせ
 灌木の陰を切り開きながら、龍哉は頂上に立つエクスシアへと迫っていく。頭上に立ったエンジェルが銃口を向けてくる。宙で弾ける炎を右へ左へ躱しながら、一気に天使の懐へ肉薄した。
「邪魔をするなら叩き斬るだけだ」
 身を翻し、大剣を袈裟懸けに叩きつける。肩の装甲が拉げ、関節が砕けて腕が地面へ落ちる。火花を散らして仰け反った天使を、龍哉は素早く蹴倒す。ライヴスと化して消滅していく機体を見下ろし、ヴァルトラウテはぽつりと呟く。
『今となっては堕ちて名前負け、ですわね』
 立場は違えど、彼女もまた天の御使い。その名を冠する機械兵の行く末には思うところがあった。
 しかし、足を止めてはいられない。見れば、影俐は脇目も振らずエクスシア目掛けて斜面を駆け登っていた。
「俺達も立ち止まっちゃいられねえな」

 香月もまた細い枝が密集する灌木を大剣で薙ぎ倒しながら一直線に斜面を駆け登っていた。エンジェルは香月を狙って次々に爆発を引き起こすが、全速前進する彼女を捉えることは出来ない。成す術も無く懐に潜り込まれた。
「貴様も邪魔だ」
 低い声で言い放つと、“餓狼”のモーターを起動させる。震える刃は甲高く鳴き、稲妻を纏う。足を止めた香月は、エンジェルの腰を渾身の一撃で叩き斬った。
 支えを失った上半身が、消滅しながら坂道を転げていく。ナイチンゲールは咄嗟に機体を跳び越え、そのまま腰のベルトから茂みに向かってマーカーを飛ばす。そのまま頂点へ向かってすっ飛ぶと、茂みを越えて足を止めずに走り続けた。反応したエンジェルが一体、バーニアを噴かせて跳び上がり、ナイチンゲールの前面へ回り込む。
「わざわざお迎えに来てくれるなんて、ね」
 零竜を取り付けると、そのまま右手に嵌めた籠手を突き出す。放たれた銀色の光が、エンジェルの肩口を射抜く。バランスを崩し、機械はその場で仰け反った。
『テラスちゃん!』
『Roger that』
 機械的にテラスは応え、テラスはブルパップを構えてエンジェルの膝を素早く撃ち抜いてみせた。更にエデンがそこへ駆け込み、素早く魔導書を捲っていく。
「こいつもくーらえっ!」
 さらに寄ってきた二体のエンジェルも纏めて、解き放った深紅の炎で包み込む。二体は素早く炎の外へと飛び出したが、膝を砕かれていたもう一体はそのまま焼き尽くされてライヴスの中へと消え去った。エデンはガッツポーズを固める。
「よしっ! このまま全部倒しちゃうからね!」
『お見事です』
 テラスは銃口を上げて胸元に手を当てる。その形ばった動きを見て、エズラはふと尋ねた。
『それにしても、以前お会いした時とは振る舞いが変わっていらっしゃいますね』
『……今はロボットでいたいのです』
 彼女が見上げると、青空の中を再び流れ星が飛ぶ。再びロンギヌスは暴発し、彼女の機甲は爆炎に包まれていた。

 ブレードを構えたエンジェルが、バーニアを噴かせて丘の上から突っ込んでくる。灌木の陰に隠れて突撃をやり過ごしたフローラは、素早く身を乗り出して背後のバーニアを狙い撃つ。鏃が鋭く突き刺さり、背中から激しい火花が散った。
『命中! まあこの距離なら外せないね』
「ぺらぺら喋っとる場合じゃねえだよ」
 ヴィオの言った瞬間、別のエンジェルが銃口を向ける。咄嗟にフローラは坂道に伏せた。頭上でライヴスの光が弾け、背中を軽く焦がす。
『熱っ! 壁を素通しできる弾丸なんてずるくない?』
 文句を言うフローラの背中を、杏奈が追い抜いていく。動く茂みと化したその姿に、一体のエンジェルが気付く。杏奈は素早く右腕を振るうと、ライヴスの風を素早く纏った。
「問題無し! 直撃を狙ってくるなら走り抜ければ当たらない!」
 エンジェルは刃を抜いて飛び掛かってくる。杏奈は身に纏う風で突き出された刃を紙一重で逸らすと、そのままエンジェルの背後へ回り込んで駆け抜けた。エンジェルはその背中へ向かって銃を構えるが、再び彼女は茂みの中に紛れていなくなっていた。

 エクスシアと彼らの間は最早2、300mまで狭まっている。遠距離武器はそろそろ射程圏内だ。火花が激しく散る主砲を構えてチャージを続けていたエクスシアは、足元まで迫っている影俐の姿に気付いた。咄嗟に構えを変え、近づく影俐へ狙いを定める。
 影俐は咄嗟に目の前へライヴスの盾を展開する。エクスシアも引き金を絞ろうとしたが、それよりも早く飛び抜けた3つ目の流星が主砲に突き刺さり、遂に銃身を青い光の爆発と共に吹き飛ばした。飛んで来た巨大な鋼の破片が、盾に当たって跳ね返る。
『(ふむ……まあ杞憂であったか)』
 信じられないとでも言いたげに、しばし機甲は壊れた愛銃を見つめていた。

●力天使
 ブレードを手に、正面切って突っ込んでくるエンジェル。フローラは咄嗟に弩を掲げ、足元に向かって威嚇射撃を放つ。エンジェルは咄嗟に矢を切り落とし、そのまま脇へと逸れていく。
『よしよし、想定通りだね』
 フローラは背後を振り返る。エデンが魔導書を開き、既に攻撃の準備を固めていた。
『って事で、よろしく』
「りょーかい、だよ!」
 深く身を伏せ、パイルバンカーを構えたエデンは交差するようにエンジェルの懐へと潜り込む。そのままエンジェルの右膝に先端を突きつけると、零距離からの直撃を叩き込んで装甲を砕いた。背中のバーニアで何とか姿勢を保つが、反撃で放った一撃は明後日の方向へ飛んでいく。
「よし! こうなったらこっちの物、だよね! 似非エンジェルになんか負けないから!」

 銃身に花が咲いた狙撃銃を放り捨て、エクスシアはナイフを構えて空へ舞い上がった。エージェント達の頭上を越え、プラントへ向かおうとする。
「空を飛んだわ!」
『今こそアタシ達の出番ね!』
 隠れに隠れた杏奈は、遂にその姿を現す。その右手に薔薇の箒を呼び出すと、素早く跨って宙へ舞い上がった。ぴったりと身を伏せてエクスシアの背後に迫ると、右手を突き出しその手を翳す。掌の先の空間が歪み、闇と化したライヴスが集っていく。
「喰らいなさい……リーサルダーク!」
 一条の闇が空を駆け抜け、エクスシアの背中に直撃する。一瞬ぐらついたエクスシアは、素早く身を転じて杏奈と対峙する。構えた刃が、熱を持って白く輝く。杏奈は不敵に笑い、恐れず一直線にエクスシアへと突っ込んだ。
「やってやろうじゃないの!」
 エクスシアが咄嗟に刃を振るう。杏奈はすぐさま高度を下げて刃を躱す。長い髪を僅かに掠め、金色の髪がはらりと落ちていった。

 茂みの陰に身を潜め、香月は対物ライフルを構える。杏奈とエクスシアが苛烈なチェイスを繰り広げる空中へと狙いを定めていた。
「巨大で物騒な物を見せつければ我々が大人しく引いてくれると思っているのなら、計算違いもいいところだ」
 香月はスコープを覗き込む。飛び交う杏奈とエクスシアが、何度もその視界を横切る。風切り音が周囲に鋭く響き渡った。
「私は機械を使って人を支配したり抑圧したりする手合いが一番嫌いでな。さっさと屑鉄に変わるがいい」
 息を詰め、香月は一気に引き金を引く。放たれた弾丸は、射線を横切ったエクスシアの姿勢制御用の小翼を撃ち抜いた。バランスを崩したエクスシアは、そのままぐらついて地面へと墜落する。
『今です』
「いいだろう。お前の全てをしばし借りるぞ」
 銃を放り出し、香月は餓狼を再び抜き放つ。その瞬間に彼女の装いは変質し、昆虫を思わせる甲殻を身に纏った。
 刃が稲妻を纏う。立ち上がったエクスシアの懐に潜り込むと、右脚の膝に向かって刹那の内に三連撃を叩きこんだ。関節を包み込む装甲が砕け、銀色の光沢を放つ漆黒の合金が露わになる。
 エクスシアは唸り、全身にライヴスを纏わせた。僅かに各部の装甲が展開し、うっすらと光を放ち始める。対峙するナイチンゲールは、薔薇十字に封じられた魔導書を取った。
「……まるでRGWだ」
 見えざる鞭を放ち、機甲を重力に巻き込む。しかし5メートルに迫る巨躯を封じ込める事は出来なかった。ナイフを逆手に構えると、頭上から目にも止まらぬ速さで振り下ろしてくる。
『グィネヴィア』
「うん!」
 今度は無重力をその身に纏って飛び上がる。そのまま頭上へ回り込むと、その左手に深紅の光を纏わせる。
『生を妬み地に堕ちようとも、天の異兆は所詮、天の為に過ぎません。天の異兆は所詮、天の為に過ぎません。人にとっての兆しは常に人が生むべきもの』
 素早く身を翻し、機甲は善知鳥を見上げる。見下ろした彼女は、燃える左手を静かに突き出した。
『能であった者よ、退きなさい。理を失くしたお前の居場所は、もう無い』
 指をぱちりと鳴らす。その瞬間、機甲の顔面で爆炎が噴き上がり、機甲を素早く包み込む。咄嗟に飛び退き、火を振り払おうとする機甲。そこへすかさず、影俐が間合いへと踏み込んだ。レーギャルンから天剣を抜き放ち、放った黒焔を再び顔面へと叩きつける。機甲は左手で庇うと、そのまま前のめりに踏み込んでナイフを突き出してくる。半身になりつつ剣を振るって受け流すと、そのまま剥き出しになった膝を狙って斬りつけた。
 合金が弾け、黒いタール状の液体となって飛び散る。一気に体勢を崩したエクスシアは、その場に跪く。
『もう少し頑張ったらどうだね。簡単にやられては私の見たい輝きが見られぬぞ』
 ナラカはエクスシアに問いかける。弾けた合金は再び一つに寄り集まり、どうにかそれは立ち上がる。
「Mission failed, evacuate……」
「逃がすもんかよ!」
 エクスシアが飛び立とうとする中、龍哉は剣を構えて飛び込んだ。機甲は咄嗟にナイフを手に取り直し、腰を落として龍哉を見据える。
「凱謳!」
《Yes, master. Get Ready!》
 刃に込めたAIが叫ぶ。ライヴスを溜め込み、機甲の突きを掠めながらも頭上に大剣を叩きつけた。頭部が真っ二つに砕け、機甲はその場でよろめく。そのまま龍哉は機甲の胸部を薙ぎ払う。装甲が弾け飛び、胸元に埋め込まれた巨大なAGWドライブが露わになる。
「こいつで、止め――」
 崩れて膝をついた機甲の心臓部へ向けて、龍哉は大剣の切っ先を突き出そうとする。刹那、機甲は全身の装甲を展開し、全身を包み込むように大量のライヴスを展開する。空間が歪み、龍哉の刃は逸れて土に突き刺さった。
「何……?」
 見上げると、突如ライヴスが眩い輝きを放つ。龍哉は咄嗟に目を庇った。

 やがて、龍哉は薄らと目を開く。既に機甲はその場から失せている。龍哉は溜め息交じりに大剣を担いだ。仕留めきるつもりだったが、その前に逃げ切られてしまったようだ。
「ただのケントゥリオ級とは違うみてえだな」
『思った以上の能力を持っているようですわね』
 周囲を見渡せば、放り捨てられたロンギヌスの残骸だけが丘陵に取り残されていた。

 エクスシアは撤退、エンジェルは全員撃破。かくして、無事に任務は達成されたのである。

●天使の行方
 天使の消えた丘陵の頂上に立ち、エデンはうんと伸びをする。大きな怪我もなく、彼女は満ち足りた気分で笑みを浮かべていた。
「大勝利! プラントも無事だし、似非エンジェルは全部やっつけたし、言う事無しだね!」
『……任務の予定としてはそうですが、あれを結局逃してしまったのは大きいかもしれませんね……』
 一方のエズラは何処か不安げな表情を崩さない。周囲を捜索しても、エクスシアの姿は影も形も無かった。損傷は大きかったが、それでもそのうち同じように襲撃を仕掛けてくるだろう。龍哉は腕組みしたまま頷く。
「まぁ、次こそは仕留めたいところだな」
『あの厄介な離脱手段の妨害方法も見つけておかないとなりませんわね』
 そこへ、シューティングスターを担いだ遊夜がようやく丘陵へ駆け登ってきた。ふっと息を吐くと、龍哉に眼を向け肩を竦める。
「やれやれ、やはりというべきか……後続に出番は無かったかね」
「5分たっぷり使ってからの進撃じゃあな。まあ十分すぎる位の活躍だったと思うぜ」
「全弾当てる事も出来たからな。最後の一発は急に姿勢を変えてきたから少し危うかったが。……まあ、当たれば良しだな」
『……ん、また出番……ありそうだし、ね』
 リーヤは小さく尻尾を揺らす。消え去った機甲を追うように、彼らは空へと眼を向けるのだった。

 周囲の見回りを終え、フローラはようやく共鳴を解く。引き締まった体格が弛み、黒い修道服がぱつぱつに突っ張った。顎のパーツを締め直しながら、フローラはぺらぺら話す。
『痩せないとやばかったよ。やっぱりちゃんとダイエットしにかかろうかな。普段からこれくらい動けないとやっぱり困るしさぁ』
 ぷよぷよと自らの腹を小突き回す。杖を突いたヴィオは、ベールの奥からそれを眺めて溜め息を吐く。
「無駄だべ。オラ達はどれだけ努力してもこの体形に戻ってくる定めだ」
『えー? そんなの勘弁なんだけど』
 戦いを終え、どこか呑気な調子の彼らとは裏腹に、アウグストゥスと香月は今もなおピリピリとした空気を崩さずにいた。それが彼女達の当たり前ではあったが。
『どうやら周囲に従魔の反応は無いようです。想像以上に遠くへ逃げたものと思われます』
「不利を見てトンズラとは、少しは頭の回る鉄屑らしいな」
 香月は煙草を取り出し、無造作に火を灯す。煙をとっくり吸い込むと、彼女は眉間を険しくして呟く。
「だが関係は無い。奴の底が見えた以上、地の果てまで追って斬り伏せるだけの事だ」

 一方、杏奈とルナはテラスを挟んで会話を繰り広げていた。
「空を飛ぶだけじゃなくて、ワープの能力まで持ってるなんて……やっぱり高性能なのね」
『そこまでは覚えてなかったよー。ごめんね』
 テラスは申し訳なさそうに目の輝度を落とす。ルナは背伸びして、そんな彼女の肩をそっと叩いた。
『いいのよ。英雄だったら憶えてない事たくさんあるわよね』
『うん。……次は止められるように頑張るよ』
 そんな彼女達の会話を、ナイチンゲールと善知鳥は黙って見つめていた。特にナイチンゲールはどこか物憂げな顔をしている。
『何か気になる事でも?』
 善知鳥はそんなナイチンゲールの顔を覗き込んだが、彼女は静かに首を振った。
「ううん。別に……」
『……でしたら、わたくしから申し上げる事もありませんわ』
「そう? ……そういえば、青藍さん、強くなった?」
 いつもの事ながら曰くありげに呟く彼女に不思議そうな眼を向けつつ、ナイチンゲールは青藍に尋ねる。それを聞いた彼女は困ったように肩を竦める。
「……まあ、先日たっぷり色んな人に絞られましたんでね……」

『もう一息というところだな』
 ふと、ナラカが呟く。丘陵に腰を下ろしていた影俐は、ちらりと相方を見上げる。相変わらずの笑みだが、満足はしていないらしい。
「……足りないか」
『主砲の制圧があっという間に完了してしまったからなぁ。彼らが輝きを見せる程の機会が無かった。操り人形とはいえ、もう少し気張ってもらいたいものだ』
 ナラカは空を見上げる。燦と降り注ぐ光が、雲一つない秋空を貫いていた。
『次の試練では、もっと良い輝きが見られれば良いのだが』



 黒々とした森の中、全身から火花を散らし、機能を喪失したエクスシアが地面に倒れ込んでいた。その身体はライヴスと化し、静かに世界へ融け込もうとしていた。その目の前に、白い影がふと現れる。幽霊のようにおぼろげなその影は、じっと機械を見つめていた。
 ふと、影は機械に手を翳す。途端に機械の身体はどろどろとタール状に融け、影に吸い寄せられていった。

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結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    フローラ メタボリックaa0584hero002
    英雄|22才|女性|ジャ
  • 絶望へ運ぶ一撃
    黛 香月aa0790
    機械|25才|女性|攻撃
  • 偽りの救済を阻む者
    アウグストゥスaa0790hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 魔法少女L・ローズ
    ルナaa3447hero001
    英雄|7才|女性|ソフィ
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 明日に希望を
    善知鳥aa4840hero002
    英雄|20才|女性|ブラ
  • Peachblossom
    プリンセス☆エデンaa4913
    人間|16才|女性|攻撃
  • Silver lace
    Ezraaa4913hero001
    英雄|27才|男性|ソフィ
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