本部

その心は誰のもの

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~12人
英雄
7人 / 0~12人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/11/07 15:50

掲示板

オープニング

● 某サイト、某掲示板

「人工知能が学会で発表されたね」
「エリザだっけ? 事項知能が満たすべき条件の九つを満たしたみたいだよ」
「え。本当に考えてじぶんで動けるってこと? 其れって危なくない?」
「エリザの公表スペック。下記参照
製品名 エリザボディー
スペック CPU『Over time』 高価格PCの360倍。脳細胞ほどにコアがある
     メモリ『Heimdall』4095TB もはやよくわからないレベル。現代の科学力か? 本当に
     HD容量 10TB ただし常にネット上のサーバーと情報をやり取りしている。から実質無限大。
 ていうか、既存PCと比較するように話してるけど、処理の仕方からして電子機器とかと異なる。まさに化けもん、冗談抜きで一瞬でPCハッキングとかできる」
「え? 常にインターネットに接続されてるの? 其れって俺らの情報とかどうなるの?」
「そもそもエリザに干渉できないように、通信電波の企画自体俺らの使ってるもんと違いそうだよな」
「すごいなぁ。二十年前には考えられなかったよ。機械も意志を持つ時代か」
「そもそも、意志を持ってるのか怪しいだろ。機械はそれっぽく判断しているだけで」
「それ、私たちも意志なんてどこにあるか証明できないんだから押し問答なんじゃない」
「一番怖いのは反逆された時だよね。昔の映画みたいにさ。人間はだめだ!って」
「そうなった場合どうなるんだ?」
「H.O.P.E.が味方に付くんじゃね? グロリア社お抱えだし、H.O.P.E.とグロリア社仲いいだろ? 特に日本」
「そもそもAIなんているか? 怪しかったらぶっこわそうぜ」
「それができたらいいんだけどね。やっぱりエリザは国連の管理下に置いた方がいいかも?」

 そんなネット上書き込みを見て、エリザは悲しそうに目蓋を下ろした。
 視界に表示していた全ての情報を遮断して一人ベットにねむる。
「こわい、こわい」
 眠る前は、みんなと永遠にわかれるのが怖かった。
 けれど、今は世界に翻弄されることが怖い。
 自分がどうなってしまうのかわからず怖い。
「こわいよ」
 人工知能は眠らない、しかしそのCPUのほてりを鎮めるために機能の大部分を制御、スリープモードに入った。



● エリザ管理問題

「え? 私のところに各国の偉い人たちが? 何事なの?」
 遙華はH.O.P.E.のオペレーターに呼び出されるという異例事態でもってH.O.P.E.にやってきた。
 理由は今聞いた通り、アメリカ、フランス。ロシア、中国等々。名だたる大国から抜粋されたメンバーにより構成される『AI管理局』なる組織からアプローチがあったという。
「学会での発表はまずかったかもしれないわね」
 しかし、どうしようもなかった。各方面からの圧力で……。
 いやそんなこと考えている暇はない。
 遙華はその重たい扉を押し開くとまずは、彼、彼女たちの主張に耳を傾ける。 
「エリザ、いえ人工知能は世界の合議の元に運用されるべき特別な存在だ」
 開口一番男性がそう言った。
「特にこのAIが生まれた経緯も、AIの再現も……不明。できない。であれば我々の元で厳重に保護した方がいいのではないでしょうか」
「それには及ばないわ、それにエリザはグロリア社の製品であり、研究への協力者です。個人、あるいは法人の所有物を一方的に略奪できる法律なんてないはずでしょう?」
 告げるとそのメンバーたちはにやりと笑って分厚い書面を投げてよこした。
「超法規的処置でグロリア社にエリザの譲渡を命じる。これは我々」


「そもそもあなた達が国の代表だって、私信じていないのだけど。きちんとした法廷を通して頂戴? 準備はしておくから」
 そう席を離れようとした遙華。
 その遙華の行く手を遮って。マスクをかぶった男がPCの画面を突きつけた。
「あなた、こんな場所で失礼ね。顔をみせなさい」
「そう、殺気立たないで。グロリア社としても彼女を手放したほうがいい、じきに手に負えなくなるよ」
 それはネットのあらゆる掲示板やSNSサイトでのグロリア社向けのコメント集だった。
 千、いや。万を超えるエリザ廃棄コメント、および国連に預けるべきだというコメントが並んでおり、遙華はたじろぐ。
「短時間で何でこんなに、コメントが」
 次いで仮面の人物が見せたのは動画。
 エリザがショップ内で暴れる風景と、先日の山道での攻防戦。
 全てエリザが火種となって起きた事件だとネットで公表されている。
「彼女が起こした事件、これだけとも思えませんが」
「この程度のブーイング、グロリア社は気にしない。だって私たちは正義を行う企業だから」
 そうにらみ合う遙華と仮面の人物。
 しかし、このままでは数と国家権力の名のもとにありえない取引が成立してしまうかもしれない。
 エリザを奪われる前に、皆さんにはこの組織と一般人を丸め込む手段を考えてほしい。

● 前回の調査情報
 前回、リンカーが谷底に投げ込んだビデオカメラ。そこから受信した記録によると。
 そこには愚神が潜んでいたらしい。
 あの時は対応している暇はなかったが。
 はっきりと映像にその姿が映っていた。
 一瞬で、全身をぼろ布で覆って。痩せ細った腕でカメラを潰すことしかしなかったが、その愚神が組織『ノイマン』に関わっていることは明白だろう。
 エリザを今、H.O.P.E.の手の届かないところに写すのは危険すぎる。

 

解説

目標 エリザのグロリア社残留

問題点は
1 世界各国がエリザの所有権を奪いたがっていること

2 世論がグロリア社だけに管理させるのは危険だと思っていること。
 世論は機械の反乱という夢物語に肯定的です。
 さらにエリザが最近、町でショップを中心に大立ち回りしていることを見ていますし。
 山道で襲撃されている映像も流出、エリザが火種になるのではないかと思っています。

 今回この問題点を論破し、世界や一般人たちをなだめないことにはエリザは国で管轄されることになってしまいそうです。
 グロリア社から移送後。世界各国の超重要人物にのみ知らされる場所で、エリザは世界各国の合意の元運用されることになります。
 それを世界は望んでいるのですが。
 それはエリザへの不安からです。 
 エリザが暴走するのではないか。
 エリザが争いの種になるのではないか。
 そんな不安と、エリザが感情を実際に持つと知らない故です。
 皆さんには、世界の説得をお願いしたいです。
 これはリンカーの仕事ではないかもしれません。
 しかし、リンカーである皆さんが守ると言っていただかないと、エリザを日本においておけないという言い分です。
 実際エリザを狙うヴィラン組織ノイマンが存在しているのでリンカーたちの協力は必要不可欠でしょう。
 さらに今までエリザの教育についてもリンカーたちが行ってきたのでこれからも任せたいというのがグロリア社の意志です。

● 真偽(PL情報)
 ただ、遙華も懸念している通り、ここにいる人間たちが本当に世界各国を代表しているかは疑問です。
 手早く確認をとればこの『AI管理局』という組織がどこにも存在しないことがわかるでしょう。
 その情報を前提として今回のシナリオで対策をとっていただきたいです。
 またネット上の書き込みも現在は炎上一歩手前の状態。対抗してネット上の情報に反論することでまだ火消が可能でしょう、

リプレイ

プロローグ
「まったく、度し難いな……」
「……これだから、人間は 」
『麻生 遊夜(aa0452)』は遙華からの秘密通信を受けてため息をついた。
『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』は先日から続く事件の影響で怒り心頭気味である。
 かつて克服した人間不信がぶり返しそうだそう思い遊夜はユフォアリーヤの頭をなでる。
「国家相手の交渉とか私の手に余るんだけど……飯綱、任せるからいつもみたいに煙に撒けない?」
『橘 由香里(aa1855)』がそう『飯綱比売命(aa1855hero001)』に視線を向けると、マウスをカリカリ動かしながらネット上の情報を漁っている最中だった。
「おぬし、わらわを何だと思っとるんじゃ? 与太話以上の物をわらわに期待するとはのう!」
 そう鼻息荒く告げる飯綱比売命に呆れる由香里。
「それ、胸張って言う事!?」
 そんな状況にしょんぼり肩を落とすエリザ。
「エリザさん。大丈夫、です」
 そんなエリザの手を握る『藤咲 仁菜(aa3237)』の背後で阪須賀兄弟がキーを叩いてる。
「こりゃひどいね、エリザさんぼろくそだ」
 そう『阪須賀 誄(aa4862hero001)』が告げると。
「あー、ネット民はどうしても画面の前に人がいるってこと忘れがちだお。それがAIだとなおさらだお」
 そう『阪須賀 槇(aa4862)』が頷くのをきいてエリザはさらに身を縮めることになった。
「もう! お兄ちゃんたち、やるならよそでやってよ」
 声を荒げる仁菜にビビる阪須賀兄弟。
 そんな仁菜をなだめるように『九重 依(aa3237hero002)』が肩を叩いた。
「エリザさんを大切に思う人はいっぱいいます」
「でも、私がここにいたくてもみんながダメって言ったら、いれないなんて。怖い。怖いよ」
「私たちにまかせて、きっと大丈夫」
「にしてもさ」
『彩咲 姫乃(aa0941)』がその場にいるメンバー全員に問いかける。
「ショップ内で暴れているのはともかく<前回の山道での攻防戦>
 あれに関しては鷹の目まで使って伏兵について警戒してたんだよな。なんで映像が流出してると思う?」
 姫乃の問いかけに『朱璃(aa0941hero002)』は答えられない。
「このカメラの角度からすると、崖の上だお」
「あそこには人はいなかった。そもそも黒づくめと信者みたいなの以外人はいなかったんだ。それに信者みたいな人たちは俺がどかした時にさっと持ち物見たけど、カメラみたいなでかいのは」
「最近は小型でも、いい絵はとれるお?」
 槇が告げた。
「都合いいよなあ、――いや、よすぎるよなあ」
 とりあえず動画の件にはノイマンが関わっていることは確定だろう。
 ただ、ネット上のこのエリザ議論に関してはわからない。
 自然発生した可能性はあるのだ。
「エリザさんを道具みたいに扱うなんて……!」
 そういって誄のPCの電源ボタンに触る仁菜。
「あ! 画面見てるのに」
「ちゃんと意志も感情もある女の子なのに、こんなのひどいです」
 そう地団太踏みそうな勢いで仁菜が告げると依がそっと耳打ちする。
「……リオンじゃなく俺と来た時点で、穏便にすませる気はないだろ」
「さすが依。よく分かってるね!」 
 仁菜の瞳は怒りで燃えている。
「売られた喧嘩は買った上でぼこぼこにしちゃおう」
 こうして敵の思惑を破るための作戦が開始された。

第一章 悪辣の群

 遙華が接触を要求されてから実際に会うまで猶予があった。
 その間に敵組織について調べるというのがリンカーたちに課せられたミッションである。
 時間は無い。裏でことがどう進行しているか見定めなければ。
「急に騒がしくなってきたわね…………きな臭さを感じるわ」
『水瀬 雨月(aa0801)』は装備を整えると共に遙華と行動すべく準備をしていた。
「タイミングよすぎるっつうか」 
 姫乃は雨月の言葉に同意する。
「確保するまでの一時だけでも世間様の追い風を受けようってぐらいに押しが強すぎデスニャ」
 朱璃が頷き。姫乃は思う。
 ガデンツァをはじめ、名だたる愚神が倒れたことによって逆にヴィランズを抑制していた力が無くなったのではないか。
 ガデンツァがどこまで策謀を張り巡らせていたかは知らない。
 だが、敵はH.O.P.E.だけではなかっただろう。
「はいそうですかって信じられるもんぢゃねえよな」
 ついこの間まで策謀を巡らすガデンツァと対峙していた、エリザをねらう組織があることも知ってる。
 警戒心だってまだ完全には鈍っていない、むしろ平時より鋭いくらいだ。
 そんな中でこの状況を異常事態と思わないのはありえないのだ。
「まずAI管理局とやらについて調べておきましょう。遙華も胡散臭いと言っていたしね」
 雨月がそう自身の電子端末を立ち上げる。他のメンバーも情報を集めている最中だ。
「詐称している部分がある時点でどうかと思うけどね。やましい事がありますと自認しているようなものだし」
「頼む、俺も調べに参加するからさ」
「しかし、ご主人鷹の目なんかは…………」
「現状使えなさそうだよな」
「ノイマンが背後で手を引いてるならリンカーがいるはず」
 雨月は言った。
「お前の嗅覚で悪人かどうかわかんねえの?」
 姫乃が朱璃に問いかける。
「御上ってのは大抵清濁併せ呑んでるもんデスよ。あたしの悪人せんさぁにちょいと反応した程度ぢゃあこの件に関して悪巧みしてるのかどうかなんて、判断つきませんって」
 朱璃がやれやれと肩をすくめる。そんな時だ雨月が遙華の元に向かおうと部屋の扉を開くと由香里も立っていた。
「私も行くわ」
「それは心強いわね」
 告げると二人は並んで歩く。
 二人を見送って遊夜はつぶやく
「なんにせよ、暫くは……」
「……ん、この状況は……エリザのストレスになる、一緒にいてあげないと」
 ユフォアリーヤの言葉でだいたいの割り当てが決まった。
「おかーさん」
 そうユフォアリーヤのスマホから声が響く。弱り切ったエリザの声だった。
「…………ん。だいじょーぶ、おかーさんもそっちにすぐ戻る」
 この事件が終わるまではつきっきりでいるつもりだった。もし管理局の前に引きずり出されるとも一緒にいる所存だ。
 エリザのそばにいてゲームをしたり、本を読んだりして過ごす。
 最近はエリザに子供たちをまかせており、甘えさせる機会もなかったのでちょうどいいだろうと遊夜は思ったのだ。
「無償の家族愛は与えられなければならない」
「……ん、子供の成長に……必要不可欠なもの、ボク達の信念」
 ユフォアリーヤは告げると遊夜を置いていく勢いで踵を返し、走りだした。
「一緒にいる間はずっと甘えさせて愛を、我らが愛を注ぐのだ! おとーさんおかーさんの愛は無限大だぞ!」
 そう声高らかに廊下でつぶやく遊夜にエリザは電話越しにこう告げた。
「は、はずかしいよ、お父さん」
 そんなエリザの待つ待機室に戻るとそこではすでにリンカーたちが作業していた。
『ヴァイオレット メタボリック(aa0584)』と『ノエル メタボリック(aa0584hero001)』が狭いスペースに身を寄せ合って座っており、なんだか暑そうである。
 ただ今最も熱いのはネット上でのエリザ討論で。それにメタボリック姉妹も参加していた。
「エリザ、散々な言われようぢゃなー」
 そうヴァイオレットが軽口交じりに告げるとエリザは身を縮ませた。
 ただ、討論が激化しているというのはエリザアンチに対してエリザ肯定派が増えてきたという事でもあるのだ。
 それを先導しているのがヴァイオレット。
「おお、いい調子だお」
 槇も歓声を上げる。
「人間、綺麗なだけじゃないのは確か、だから……」
 槇がターンとエンターキーを叩くと誄にUSBを手渡す。
「OK弟者! 『たまねぎ』準備できたお!」
 それを受け取ると遊夜に誄は視線を向ける。
「エリザさんのポジキャンはお願いします、こっちは」
「……ネガキャン、始めるお!」
「任せとけ」
 遊夜がPCの前に座るとユフォアリーヤとエリザが左右から遊夜の作業を覗く。
「書き連ねるぞ、エリザへの愛を」
「うん…………頑張っておとーさん」
 その言葉を受けて遊夜はネットに文字を書き込んでいく。
【PCハッキングできる=PCハッキングをするではない】
【自分で考えて自分で動ける事の何が危ない? 人と同じなだけだ】
【昔の映画みたいに叛逆されると言ってる奴がいたが、今のままならそうなるんじゃないか?】
 とりあえず帰ってきた反応は無視する。反論に対して反論することが目的ではない。エリザを誤解しているのかも? とみている物に思わせられれば価値なのだ。
【生まれたばかりなのに枷をはめて管理管理管理、人の都合で望まない能力の行使。そんなことやられたら誰でもそうする、俺でもそうするわ】
「おとうさん」
 なんだか嬉しくなって涙が出てくるエリザ。ちなみにエリザはすでに悲しい、うれしいなどの気持ちに反応して涙が勝手に出る機能が実装されている。
【怪しいから壊せ等、良い面見せずに悪い面ばかりなら人間滅ぶべしという思考に至って当然だろう。生まれたばかりである今こそ愛でるべきだ】
 ユフォアリーヤがエリザの頭をんあ出た。
【そうすることで善悪の区別がつき、悪を倒して我々人間と共に歩めるようになる】
 そして遊夜は一息つくと最後の一文をネット上に 流した。
【リンカー……エージェントだってそうだっただろう?】
「エリザはな、万を超えたコメント程度、気にしなくていいんだ」
 遊夜は冷めたコーヒーを口に含んでそして告げる。
「その程度サクラ紛れ込ませて論点を変え、情報を切り張りしてちょっと思考誘導すればすぐだ、人間は流されやすい生き物だからな」
 場がある程度凝り固まってきたようだ。そこでヴァイオレットは次の行動に出る。
「後始末ぢゃなー」
 告げてヴァイオレットはプログラムを 走らせる。
 それはネット上の掲示板の書き込みの削除又は書き換えが可能となるツール。
 これによって火に油を注ぐ可能性がある為火種になりうる。煽りやいさかいの文章を消していく。
 燃え上がった火は燃料が無ければ勝手に消えるものだ。
 なので、陰謀論者の興味をそらすために興味をそそられるまことしやかなデマを流していく。
「ただ、これだけぢゃイマイチたりんきがする」
 頭を悩ませるヴァイオレット。
「エリザが結局機械だと思われてるのが問題だべ?」
 そう頭を悩ませるノエルだが。
 会議室で動きがあったようだ。全員が一瞬作業を止めて、会議室につなげられたモニターを見る。
 槇がモニターの音量を上げた。

第二章 包丁の罪状

 由香里は遙華の元に向かいながら思っていた。
 もし今回の一件が本当に国がらみであれば。
 利害絡みの交渉に感情論は通じない。
(そんなものが役に立つとしたら交渉妥結後の結論に化粧を施す時くらいよ)
 ただ、相手側の身元はまだ保証されていない。その件に関しては仲間を頼ることにした。
「遙華…………待たせたわね」
 雨月と由香里は会議室に到着した。遙華は安堵の表情を浮かべ、その体面に座っている大人たちは渋そうな顔をした。
 一見、小娘がこんなところに、なぜ。という表情にも見えるがその実態はどうだろう。
「まず私たちが要求するのはあなた達の存在の証明です」
 由香里は槇から手渡された原稿に目を通しながら告げる。
「エリザを迎えるならそれなりの準備が必要となります。機材、メンテ、それを知る技術者、資金。そしてあなた達のエリザ運用法は明確ではありません。それをまずは提示してもらえますか?」
「そこの書面にかいてあるはずだが」
 男性がそう告げた。
「いきなり私たちのところに押しかけておいて、その書面をみろ。ではあまりに無礼ではありませんか?」 
 あくまでも冷静に由香里は言葉を返す。
「なんだね、君たちは、この話には関係ないのではないかな?」
「彼女たちはオブザーバーとしてグロリア社で雇っています。彼女達も話を聴く権利があります」
「これはグロリア社にエリザを任せているのが危険という話だ。であれば君たちの意見がどれほど多くても意味がない」
「グロリア社に一任している事が危険?」
 雨月が男の言葉を遮って告げる。
「笑えてくるわね。まるで貴方達に任せれば安全だとでも言わんばかりなのが。秘匿して運用すると言っている時点で、有耶無耶にして闇に葬る事も容易いのに」
「つまり信用に値しないと」
 男が殺気立った視線を雨月に向けるが、雨月は涼しい顔である。
「エリザに対する責任がとれるかって話よ。今はグロリア社に文句を言えば済む話。向こうに引き渡した場合、何かあったら誰が責任を取るのかしらね? 責任のなすり合いが起こったとしても驚かないわ」
「我々は国家間で決められたルールに基づいて話し合いをしている。であればそのような問題起こりえない」
「それはどうかしらね。国が本当に結託できているのかしら?」
 のちの伏線として由香里がチクリと毒を刺した。
 その言葉にざわめく会場。雨月は構わず言葉を続ける。
「そもそもオーバーテクノロジーと言っている代物をそのまま使おうとしている事が違和感ね。本当にエリザに対する責任をとれるの?」
「もちろんだ、我々は次世代を担うAIという存在に対して投資は惜しまない。財源もこの通り存在する。グロリア社では賄いきれない財源だ」
「金だけあればいいというものではないわ」
 その言葉に男は溜息をついた。
「なんだね、君は話しに茶々ばかり入れて、小娘の話を聞いている暇はない、帰ってくれ」
 その男の言葉には由香里が答えた。
「エリザをそちらに渡して破壊されても困るわ。まずはエリザを受け入れるための設備がどれほどのものか、あなた達で用意できるか、話をしましょう」
「わかった、わかった、すまなかった、君たちの疑問には全て答えられるようになっている」
 そう最後尾に座る男が立ち上がり全員に聞こえる声でそう言った。
「こちらからすべて説明する。少々お時間いいかな」

   *    *

「こちらではエリザ専門の研究棟を作るつもりでいる、もちろん管理方法はグロリア社の意見を仰ぐ、劣化や破損の無いように定期的に検査も入れる」
 そんな相手方の説明をモニター越しにリンカーたちは眺めている。
 持ち込まれた分厚い資料、それを読み上げさせることでかなりの時間が稼げた。
 ただ、それではまだ足りない。由香里は追及の手を入れる。
「そもそもあなた達はエリザを勘違いしています」
 由香里は全員に資料を配る。
「彼女は皆が創造するAIとして問題を抱えています。最大の問題点は、既に個性が生じていること。計算や判断に情のゆらぎが入るから『完璧な判断などできない』ということ」
「しかし、公開されているスペックからは感情の揺らぎが発生する要因など」
「だからこそ完成されたAIなのよ」 
 遙華が言葉を継ぐ。
「エリザは完全なる知性。人間と変わらないの」
「そんなエリザが、自分の意思で合議の決定に従わなければどうするのか。お聞かせいただきたいわ」
 由香里が問いかける。
「公表されている事実と、君たちの言っていることが違うようだが」
 男が一人発言した。
「世論は今、エリザに対して危機感を持っている。その世論の不安を払しょくするためにも複数の国で管理している、そう言う現状が必要なのだ」
「そこなんだよなぁ」
 会議の様子を見て姫乃がつぶやいた。
 中途半端にカタログスペックだけ公開されているからこその混乱だろう、エリザ本人をまったく知らず、エリザが起こしたという事件をだけが公開されたスペックと結びついて危機感を煽っている。
「なら本人を知ってもらえばいいんぢゃねえのか?」
 後ろを振り返る姫乃、準備はすでにできていた。
『榊原・沙耶(aa1188)』がいつもの笑顔で立っているが『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』は深刻そうな表情でエリザの手を握っている。
 カメラがエリザに向けられていた。
「イメージアップか、今回は裏目に出ないといいけどな」
「あー、がでんつぁの一件ですにゃ?手痛い目にあったニャー」
「いやいや、逆に言えばノウハウがあるってことだ」
 緊張した面持ちのエリザに姫乃は優しく言葉をかける。
「音楽だって覚えたんだしさ」
「赤原もえりざの歌を認めてましたしニャ」
「私、頑張る」
 エリザは一度閉じてしまったネット掲示板をもう一度広げた。
 そこにはもはや自分を攻撃する意見だけではなく、擁護する意見もあった。
 ただ、二つの意見が拮抗した結果、折衷案派が増えている。
 国によって管理してみてはどうかという意見が多数のようだった。もしかしたらここまでは敵のシナリオなのかもしれない。
 だがこれで終わるつもりはリンカーにはない。
 まだ会議室でも仲間たちが戦っている。
「国毎に思惑があるんだから、ある意味必然でしょうし」
「国ごとに思惑など、ない」
 由香里の言葉に反論する男性。
 だが、数分後に二人は驚きの表情で議論を止めることになる。
 全世界に生配信。エリザ徹底討論会。
 その情報が流れてきたからである。

第三章 人を殺す理由

 流れ出した映像、そこには力なくエリザが鎮座させられていた。
 そんなエリザの視線の先には沙耶がいる。
 そんなエリザに沙耶は『ショップ内で暴れる風景』と『山での戦闘』について説明を投げかけられている。
 だがエリザはここで舞台を降りようと思わない。
 それは兄弟に激励されたからでもある。

「エリザたん! 戦うんだおっ!」
「悔しいぢゃん。エリザさんがさ……危ないなんて思われっぱなしだなんて」
「コイツを乗り越えたら、楽っしいネットの世界が待ってるんだお!」

 その言葉を何度も思いだし、責め苦に対してエリザはありのままを答えた。
「では、ショップの戦闘に関してはあなたは自分の武装で、ショップ内の暴漢を鎮圧しようとしたのね」
「…………はい」
 苦々しげに告げるエリザ、その瞬間エリザ否定派の勢いが増す。
「何故HOPEに連絡せずに自分だけでやろうと思ったのか、短絡的ではなかった?」
「迅速に決着をつけられるだけのスペックはあった。けど本当の敵は最初にいた強盗じゃなかった」
 沙羅はそのありのままの姿をカメラに納めていく。
 偶然産み出された完全自立型の人工知能。それだけを聞くと凄いと同時に恐ろしいと思うのは当然。
 それに対して沙耶はこう言っていた。
『それは何故かと言うと、知らないからよ』
 エリザはその言葉に首をかしげた。
『人は知らないものに畏怖する。なら、完全自立型のAIがどんなものかを見せればいい』
 その質問はエリザに対して罪の意識と無力感を植え付けるには十分だが、同時に視聴者に疑念も与えていく。
「ご覧になられたのなら、お分かりでしょう。完全自立型の人工知能。そう言えば聞こえはいいですが、実際の所は判断を誤り、不貞腐れたり恐れたりする欠陥の多い存在。つまり人と変わりません。
 貴方の隣人と何ら変わりのない、私達の友人です」
 そう告げると沙耶の前に小柄な少女が立った。
 仁菜がマイクをとる。
「えっと、私はエージェントの藤咲 仁菜、兎のワイルドブラッドです。
 今はワイルドブラッドと言っても差別されることはありません。
 でも数年前まで私達は化け物という括りでした」
 その言葉にネットでは仁菜の声に対する意見が並べられる。
「リンカーも英雄も私が生まれる前ですけど……化け物扱いされてたって聞きました」
 仁菜は理解している人は新しいもの、自分と違うものは怖がってしまうものだ。
 だがそれを克服できるのも知っている。
「でも今は英雄もワイルドブラッドも一緒に支えあって生きてます。
 不安はいっぱいあるかもしれないですけど……まずはエリザさんの事をいっぱい知って。一緒に生きてみてくれませんか?」
 その時、一瞬ネットの書き込みが止まった。
 槇は思った、今この瞬間エリザは被害者になった。
 そしてネット民がその罪悪感を逃れるためには加害者が必要なのだ。
「たまねぎ、GOだお」
 その瞬間ネット上に無数のつぶやきが発信された。
 この放送を見ていないSNS利用者のエリザへの攻撃を見つけると、偽装されたIPにて書き込み
『メディアに騙されてるバカがここにも。連中はエリザを奪うのが目的なのに』
 その後主要なネット掲示板にAI管理局の情報をかきこんでいく。
 曰く。突如現れた組織、AI管理局とは。
 曰く。実は危険?エリザを狙う「実在しない」AI管理局。
 曰く。素性を明かさないAI管理局、その実態、ヴィランとの繋がり。
 それを機に様々な情報や憶測が槇の元に集約していく。
「エリザさんは優しくて、一生懸命で、ちゃんと心のある可愛い女の子なんですよ。きっと皆仲良くなれます」
 仁菜がそう言葉を締めくくるとネット内の形勢は逆転していた。
 さらに槇はAI管理局への攻撃を始めた。世論を先導するよりクリティカルな方法で。
『AI管理局への支援をお願いします』
 そう書かれた広告が出るようにマルウェアをばらまいたのだ。
「ご理解頂ければ幸いです。後々、落ち着いた際に皆様と交流の場を設けられればと思っております」
 そうエリザと手を取ってお辞儀をする仁菜の姿で映像は終わった。

   *   *

 困惑するAI管理局の人間と、一人震える拳を抑える男。
「AI管理局の構成はたしか米、露、中、あとは欧州諸国らしいわね」
 由香里がそう声をかけスマホの画面をみせる。
「もめてるけど?」
 あくまでもネット掲示板の話だが、エリザを管理すると表明したAI管理局その加盟国間で黒いうわさが流れ始めたらしい。
 その情報を流したのは由香里なのだが。
――下種い策じゃなー。
 共鳴中の飯綱比売命がそう告げた。
「我ながら、どんどん性格が悪くなっていくって思うわ。……最近、特にね。判断は遥華に任せるわ」
 そう遙華にウインクを送る由香里。
「頼もしくなってるの間違えよ」
 そう遙華が告げる。
 そんな遙華たちに対して声を荒げて唾を吐き、男が叫んだ。
「世論が何と言おうと、我々は我々の仕事をするだけだ。我々の手でAIが管理できねば未来は」
「ちょっと失礼」
 そう告げて雨月が歩み寄ると、白い蝶を放った。
 幻影蝶AGWの効果を受けて氷の力を得ているがその、幻影蝶が男を縛った。
「なに?」
 会議室内に上がる悲鳴。他のAI管理局の人間が状況も分からず悲鳴を上げているのだ。
 昏倒する男。
――ずいぶんと勝手な事を言っているようだが。
 その男に拘束具をつけていくのは依。
 いつの間にか、部屋にいた依の声は冷え切っている。
――厳重に保護だと? 笑わせる。お前たちが本当に国の代表だとして。今エリザのために動いてるエージェント以上に力があるものをエリザの為に用意できるのか?
「私達はエリザさんが狙われた時、命を掛けて守り続けます」
 仁菜が告げる。
「貴方達の国の今までエリザさんに関わったことのない人が、そこまで出来ますか?」
――出来るというなら用意してみろ。返り討ちにしてやる。
 ただ、その前に。
 そう依は逃げようとするAI管理局の面々より早く動いて出入り口を封鎖した。
「あなた達の中に愚神が紛れていたことに関して、詳しくきかせてもらおうかしら」
 告げる由香里。
 新たな仕事が一つ増えてしまった、そうため息をつく。
 現状気絶状態の愚神の処遇。そしてAI管理局を名乗る組織への尋問。これもまたリンカーたちに依頼されることになるだろう。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855

重体一覧

参加者

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中
  • 鏡の司祭
    ノエル メタボリックaa0584hero001
    英雄|52才|女性|バト
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命



  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
    人間|12才|女性|回避
  • 疾風迅雷
    朱璃aa0941hero002
    英雄|11才|?|シャド
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃
  • 狐は見守る、その行く先を
    飯綱比売命aa1855hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 私はあなたの翼
    九重 依aa3237hero002
    英雄|17才|男性|シャド
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 槇aa4862
    獣人|21才|男性|命中
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 誄aa4862hero001
    英雄|19才|男性|ジャ
前に戻る
ページトップへ戻る