本部

レッツ・ハロウィン!

絢月滴

形態
イベントショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2018/10/21 21:31

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掲示板

オープニング

●ハロウィンパーティー!
「ねぇ、純くん!」
 突然話かけられ、西原 純(az0122)はレポートを書く手を止めた。振り向いて声の主――ノルン・ペオース(az0121)を見る。またこいつは何か予知したのか。
「ハロウィンパーティーしよ!」
 想定外の言葉に、純はすぐ反応できなかった。ハロウィン? パーティー? ……ああ。
「予知じゃないのか」
「そうだよ! 思いつきだよ!」
 ノルンが笑う。
「支部周辺の皆さんにも協力してもらってさ、皆でトリックオアトリート! いいでしょ?」
「ノルン」
 純は少し低い声を出した。ん? とノルンが首を傾げる。
「そんなことしてる場合じゃないだろ。この前の――ヘイマエイ島の事件、お前も聞いてるはずだ」
 ”王”の目覚めによる、二度目の世界蝕――。
 これから、人類はいったいどうなってしまうのか、全く分からないというのに。
 眉間に皺を寄せる純に、ノルンはまた笑った。屈託のない、純粋、という言葉が良く似合う表情。
「こんな時だからだよ! こんな時だから明るくいかなきゃ! 暗くしてると、暗いものを引き寄せちゃうんだよ!」
「……プリセンサーのお前が言うと、真実味があるな……」
 けれど一理ある、と純は思った。純の表情の変化にノルンはよし! と手を打った。
「じゃあ支部長に色々と相談してくる! あ! 純くんも声かけよろしく!」
「は? 俺は別に声かける相手なんて」
「いるでしょ!」



 友達とか、お世話になった人とか、お世話した人とか!



●さあ、楽しもう!
 パーティー当日。
 童話に出てくるようなエプロンドレスの少女の恰好をしたノルンが、集まったエージェント達に告げる。
「トリックオアトリート! お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ!」

解説

ノルン主催のハロウィンパーティーの詳細は以下の通りです。
思い思いに楽しんで下さい。



◆H.O.P.E.サンクトペテルブルク支部及びその周辺の街がハロウィンパーティーの会場となります。

◆今日は子供でなくても”お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ”が成立します。支部内で言うのも良し、町の人々に了承はとっているので、彼らに言うのもよし。

◆支部内の一番大きい会議室に飲食物(お酒もあります。でも未成年はジュースです)があります。屋台も出ています。飲み食いにお金はかかりません。

◆お菓子を作りたい! という人は製菓学校がキッチンを解放しています。

◆仮装をしたい! という人は町の衣装屋が協力してくれます。大抵のもの(魔女/フランケン/狼男など)は揃っています。オリジナルの衣装を作って着たい! という方は服飾学校が材料と製作スペースを提供してくれています。

◆純が以下の人たちをパーティーに招待しています。絡むのはご自由に。また、下記に挙げられていない人とハロウィンを楽しみたい場合、純に言えば招待してくれます。もちろん、純とノルンへの絡みもご自由に。
 デースケ・トルストイ警部補(会場内を警備中です)
 アニタとハルドル(仮装して会場を回っています)
 イノセンスブルーのメンバー(仮装をして、ミニライヴをする予定です)
 ニーナ・ルセフ(製菓学校でお菓子を作っています)

◆会場内に幾つか写真撮影スポットが設けられています。

◆ノルンの友人が『占いコーナー(タロット占い)』を設けています。占ってもらえる回数は一人一回(能力者と英雄は別カウント)。料金は一回200Gです。

◆”パーティーを盛り上げてくれてありがとう!”の名目で、ちょっとだけ報酬が出ます。

リプレイ

●街は華やぐ、ハロウィンの夜に
 構築の魔女(aa0281hero001)は辺是 落児(aa0281)と一緒に、サンクトペテルブルクの街へと繰り出していた。今、世界は急激に変化している。きっとこれから更に忙しくなり、こんな風に街の風景を楽しむこともできなくなる。
(今日はのんびりとさせてもらいましょうか)
 既に構築の魔女も落児も仮装を済ませていた。構築の魔女はねじくれた角を持ち、魔女の三角帽子、黒色のローブをまとい、薬草の匂いを漂わせていた。落児はヴァンパイアの恰好。
「まぁ、奇を衒わないのも良いものですよね」
「ロロ」
「魔女が魔女の恰好をするのが『仮装』になるかはあれですけど」
「……ロロ」
「それは言ってはいけない? そうですね。……ふと気が付けばサイズは違いますけど仮装内容が去年と似通ってしまいましたか……」
 適度に持ち、二人は街中を歩く。街灯は蝙蝠や蜘蛛の巣など、ハロウィンを連想させる装飾が施されていた。道行く人はミイラ男にフランケンシュタイン、死神など思い思いの恰好をしている。並ぶ屋台はがっつり食事系というよりは、お菓子などの軽食。それは飲み物にも言えて、お酒というよりかはジュースが多い印象を受けた。
「お姉ちゃん! お兄ちゃん! トリックオアトリート!」
 二人の足元に、仮装をした子供たちが駆け寄ってくる。構築の魔女は持っていたお菓子を彼らに渡した。ありがとー! と弾けた声。
「何時までも気を張っておけるものではありませんから、楽しみましょう」
「ロロ」



『……なあ』
 カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)は傍らに居るパートナー、御童 紗希(aa0339)に声をかけた。
「何?」
『お前が赤ずきんなのはいいとして、なんで俺が熊なんだよ? 赤ずきんとペアなら狼だろ?』
 カイは両手を上げた。傍からみれば、”赤ずきんを襲おうとしている熊”に見えるだろう。
「あれ? 知らない? カイ一部で熊さんって呼ばれてる事」
『何だよ。俺影で熊なんて言われてるのかよ』
「まあ、行きましょうよ」
 衣装屋から二人は外に出た。街灯につけられた飾りが、煉瓦の道に影を落としている。かぼちゃ、幽霊、死神。まるで本当に彼らが”あの世”からやってきたかのような。がおー、と適当な声を出しながら、カイは道行く人を脅す。その度に、人々は笑って紗希が持つ籠の中にお菓子を入れていくのだった。
『……なあ……俺がお菓子もらってもしょうがなくね?』
「じゃあ何が欲しいのよ?」
『酒』
 間髪入れずに答えたパートナーに紗希は眉を顰める。今日はハロウィンだ。酔うのであれば、雰囲気に酔えばいい。
「なんでこんなとこまで来てお酒なのよ? それに仮装してお酒貰うとき何て言うのよ?」
『……トリックオアSake?』
「英語っぽいイントネーションで言ったけど……それ絶対違うよね?」
『なら現役JKさん教えてくださいよ』
「トリックオア……Whisky?」
『ウィスキーって酒の種類じゃねーか。お前こそ民度の低い回答すんじゃねーよ』
「何ですってっ?」
 紗希のその言葉が合図だったかのように、二人は口喧嘩を開始する。熊と対等に渡り合う赤ずきんの構図。酒か、それとも雰囲気か。とにかく何かに”酔った”男達がいいぞもっとやれ赤ずきん! なんてはやし立てるものだから、カイも少し意地になった。けれど、それもすぐ終わる。紗希がカイの腹に一撃を喰らわせたのだ。
『ハゥ!?』
 カイの小さな呻きは紗希の耳にだけ届いていた。



 H.O.P.E.サンクトペテルブルク支部内、大会議室。
 十影夕(aa0890)は白ウサギの仮装をしていた。何故そんな恰好をしているかと言えば、パートナーであるシキ(aa0890hero001)の仮装がアリス風のエプロンドレスだからだ。シキは”きょうもわたしはかんぺきにかわいいな”と胸を張っている。そんな二人に同じく仮装を終えた浅水 優乃(aa3983)とベルリオーズ・V・R(aa3983hero001)が近づいてくる。優乃は黒いワンピースを纏い、その手に箒を持った魔女の姿。ベルリオーズは猫耳と尻尾で黒猫だ。
「おお、ユノとベル。ふたりとも、かわいらしいじゃないか」
「シキもふりふり、可愛いね」
 ベルリオーズの言葉に、シキはそうだろう、そうだろうと何度も頷く。
「夕君も可愛いよ」
「そうかな? なんかシュールじゃない?
 夕は何となく、耳を触った。シキはベルリオーズの仮装をじっくりと見ている。
「ベルはネコかい。わたしはネコがスキだよ」
「ありがとう。髪を黒くするかどうか、悩んだんだ」
「いや、そのままがよいよ。……さあ、うたげのはじまりだ。きょうのわたしたちは、パリピだよ」
「パリピ……ウェーイってやるやつ?」
 うぇーい、とベルリオーズが両手を上げる。シキはベルリオーズの尻尾を引っ張った。お菓子を貰いに行こうというのだろう。行ってきますとベルリオーズは夕と優乃に告げた。
「二人とも気を付けてね……!」
 見送った後、優乃は近くの椅子に座った。クッキーと紅茶を夕が持ってくる。
「浅水と遊ぶの久しぶりだね。なんか会えてほっとした」
 夕の言葉に優乃は同意した。クッキーを口に運ぶ優乃を見て、夕は自分の頬が緩むのが分かった。
 春、夏と何だかんだ忙しく、考えること悩むことも多くて――気晴らしに友人を遊びに誘うという余力もなかった。
「夏休みどっか行った?」
「ベルとオーケストラを見に行ったよ、夕君の方は?」
「シキたちとは旅行とかプール行ったよ。あとは……アフリカでオウラノサウルス見た」
「凄いね!」
「後で写真見せる。……あ、コンサートとかまだしないの?」
「わ、私っ? そんなっ、コンサートなんてまだ全優乃然だよ……! 夏季課題の作詞でも大変だったもん」
 お菓子を食べながら二人は近況報告に花を咲かせた。



 夜城 黒塚(aa4625)とエクトル(aa4625hero001)は小さな友人達との待ち合わせ場所に向かっていた。人々の明るい声とは正反対に黒塚は苦い表情をしていた。その理由は――仮装の内容。
「ったく……なんで俺まで……」
 紫のねこみみとしっぽ、ドレスシャツにロココスタイルのスーツ。そうチェシャ猫の姿。
「ねこみみかわいーよ、クロ♪」
 そう言うエクトルは”帽子屋”のイメージした衣装を着ていた。ワッペンやバッジで飾ったシルクハットを被り、燕尾服のような派手めのジャケットとスーツ。
「チェシャ猫なんだから笑ってーー」
「何もねーのにへらへらできるかっての……」
「ほらー」
 エクトルは飛び上がって、黒塚の頬を両側から引っ張る。
「引っ張るんじゃねえって」
「あ! 蛍ちゃんとシルフィちゃん!」
「……聞いてねえし」
 エクトルは時鳥 蛍(aa1371)とシルフィード=キサナドゥ(aa1371hero002)に駆け寄った。蛍はハートの女王の仮装をしたシルフィードの影に隠れている。そんな彼女にシルフィードは大声で言った。
「蛍っ! もっと堂々としてくださいまし!」
 言われた蛍は恐る恐る大通りへと踏み出す。彼女はアリスの仮装をしていた。髪を飾るリボンが、まるでウサギの耳のようになっている。
「二人共すっごい可愛いよー!」
 エクトルに言われ、蛍は赤くなっていた顔をますます赤くした。
「ほら、かわいいし似合ってますの!」
 シルフィードは胸を張った。自慢の友達の、可愛い所なのだ。誇らしく思わない訳がない。――けれど無理は、させない。
 蛍は黒塚を見上げる。
『似合ってます』
「似合ってますわ!」
「……マジかよ……」
 黒塚は肩をすくめ、照れ隠しに視線を逸らした。
「蛍ちゃん、シルフィちゃん!」
 エクトルが蛍とシルフィに可愛らしくラッピングされた袋を渡す。
「親愛なるアリスとハートの女王に、贈り物、だよっ♪ はっぴーはろうぃん!」
『開けていいですか』
「もちろん!」
 蛍は袋を開けた。中に入っていたのは可愛いおばけやパンプキン、それにコウモリを象ったクッキー。蛍は微笑み、丁寧に袋をもう一度閉じた。
「じゃあ行こう! 街の皆にトリックオアトリートだ☆」



うわぁ、とマオ・キムリック(aa3951)は感嘆の声を上げた。
「街の雰囲気がいつもと全然違うよ!」
 目を輝かせるマオにレイルース(aa3951hero001)はそうだね、と同意した。
『街全体が会場なんてすごいよね』
「えっと、お菓子貰ったりあげたりするお祭りだっけ?」
『みたいだね』
 マオもレイルースもハロウィンパーティに参加するのは初めてだ。だからこそ、このパーティを心から楽しみたい。
『お菓子作りに、製菓学校が開放されてるって話だったよね』
 二人は近くの製菓学校へと向かった。受付に座る女性にH.O.P.E.の者ですと話をすると、二階の教室をお使い下さい、と朗らかな声で言われた。その指示に従い、二人は階段を上がる。がらりとドアを開ければ、あまり人は居なかった。購入する人の方が多いのだろうか。
『さて……何を作ろうか』
 用意された材料を見て、レイルースは考える。クッキー、ケーキ、シュークリームなども作れそうだ。そんなレイルースにマオはある提案をした。
「折角だから別々に作ってみようよ♪」
『……大丈夫?』
 レイルースは不安そうにマオを見た。マオは慌てて頷く。
「前に二人で作ったのだし、大丈夫っ! えーと、まず材料は!」
 以前作った時のことを思い出しながら、マオは材料をそろえていく。レイルースも同じように。
「えっと、たしかまず――」
 工程を思い出しつつ、マオは調理を進める。まずはチョコレートを溶かして――。
「で、ここに卵――あ、その前に、粉! 粉ふるわなきゃ!」
 一方レイルースは順調に菓子作りを進めていた。バターをクリーム状になるまでよく練ってから、粉砂糖と塩を加える。ほぐした卵を入れて混ぜ、そして薄力粉を。出来た生地を平たく整えて、冷蔵庫へ。三十分は休ませないといけない。その間は、型抜きの吟味をしよう。どうせなら、ハロウィンにちなんだものがいい。
 手順を間違えそうになりながらも、マオは何とか工程を進めていた。薄力粉をふるって。溶けたチョコに卵を。そして上白糖と薄力粉。ゴムべらで軽く混ぜて、クルミを。そこで流し入れる型を用意していなくて、慌てて取りにいった。そしてオーブンを温めて――。
 四十分後。
「……できた!」
『こっちも出来たよ』
 二人は同時に声を上げた。マオが作ったのは少しいびつなチョコブラウニー。レイルースは、カボチャやお化けの形をしたクッキー。お互いがお互いの菓子を味見する。
「……サクサクしてておいしい♪」
『マオが作ったのも、美味しいよ』
「よかった、じゃああとは包装だね!」



「今年の目標はね、イベント事に参加する! にしようと思って」
 春月(aa4200)はそう言って笑った。
『楽しそうな目標だとは思うけれど、今は10月だよ』
 彼女の英雄たるレイオン(aa4200hero001)はごくごく当たり前の返答をした。そうだよね、と春月は言った。こんなことを言い出すことになったのは、二度目の世界蝕に王の出現と、”英雄との生活”を揺るがしかねないことが立て続けに起こったからで。
(……出会ってからまだ二年くらいしかたってないけど、いなくなることなんて考えられないし。……でもどうなるか分からないし……)
 そう考えた結果、”やらない後悔よりやる後悔”の意気込みで思い出作りに走ったのだ。
(言うつもりはないけど、どうせバレてんだろうなー)
 一瞬だけ、春月はレイオンを見た。レイオンは何も言わずに微笑む。
(春月が望むなら、いつも通りの日常を)
「よおーし! じゃあまずは仮装!」
 春月はレイオンを引っ張って衣装屋に飛び込んだ。ハロウィンということもあり、そこは大変混雑していた。人の波を掻き分け、春月は衣装を見る。狼男、フランケンシュタイン、吸血鬼、ミイラ男、ピエロ、ゾンビ、得体のしれない怪物。
「凄い、こんなにも種類があるんだね! ねえねえ、レイオンの仮装も選んでいいかい?」
『もちろん』
 春月は真剣な表情で衣装の品定めを開始する。フランケンシュタイン? 吸血鬼? いやいやそんなのはありきたりだ。
「お、これ……とこれ! いいねぇ!」
 春月はレイオンに二つの衣装を示した。恐竜の着ぐるみと、シーツを被るだけのお化け。
「どっちがいい? レイオンはでっかいからなー。恐竜だと怖いかなあ。……あ、忘れてた!」
 不意に、春月はお菓子を取り出した。それをレイオンのあらゆるポケットにつめていく。
『何してるの』
「ハロウィンはお菓子をもらったりあげたりするパーティだもんねっ」
『僕が全部持つ必要は』
「着ぐるみだと、お菓子がすかさず出せないよねえ……決めた! レイオンはお化け! きぐるみはうちっ!」
 それぞれ衣装を纏い、二人は街へと出た。道行く人にトリックオアトリート、同じセリフを言われれば、レイオンがすぐにその人にお菓子を差し出す。春月が何か言った。しかし着ぐるみのせいでレイオンは聞き取りづらい。コミュニケーションをとろうと、春月は必死でジェスチャーをする。その動きはまるでパフォーマーだ。”恐竜が踊ってる!”とゾンビの仮装をした女性が声を上げた。その言葉につられ、春月はダンスステップを踏む。ますます彼女に注目する人々が増えた。レイオンは色々と諦めることにした。
 春月が楽しいのならば、それでいい。



「似合っているよ、ハネズ。ふふ、たまには洋装も良いね」
『ありがとうございますわ、コト。ほんのすこし、へんなかんじですが、にあっているのでしたら、あんしんですわ』
 狐杜(aa4909)と朱華(aa4909hero002)は支部内を歩いていた。狐杜は猟師の恰好、朱華は赤ずきん。狐杜は手に銃ではなく、赤ずきんの籠を持っていた。その中は折り紙で作った花で満たされていた。と、そこへ今回のパーティの主催者であるノルンが通りかかる。
『あの』
「わあ、可愛い赤ずきんちゃん!」
『とりっくおあとりーと、ですわ』
 言いながら、朱華はノルンに手を出した。ノルンはエプロンドレスのポケットからクッキーを取り出し、朱華に手渡す。
「はい、お菓子!」
 朱華は貰ったお菓子を狐杜が持つ籠の中に入れた。
『ありがとう、ですわ。これ、よろしければどうぞ』
 朱華はノルンに折り紙の花を手渡した。これ、折り紙って言うんだよね。前に純くんに教えてもらった! とノルンは笑顔でお礼を言った。
「じゃあ、楽しんでね!」
 去るノルンに軽くお辞儀をして、二人は更に支部内を回る。お菓子をくれれば、先程と同じように花を、くれなければ”いたずらをする”の名目で折り紙の花をその人に飾り付ける。
『コト、つぎはあちらへ、いきたいですわ』
 そう言って朱華が示したのは、玄関だった。支部の外を見てみたいということだろう。
「いいとも。一緒に行こうね」
 二人は外に出た。
 朱華が紫色の瞳を輝かせる。歩きながら、辺りをきょろきょろと見渡した。
 今回が初めての外国。
 だから街並みも、文化も、人も、風景も、全てが新鮮。あ、と朱華が声を出した。少年たちがモンスターの恰好をして、騒ぎながら歩いている。朱華は彼らをじぃっと見つめ、好奇心が満たされたのか、唐突に視線を逸らした。普段の朱華にはない落着きのなさを狐杜は感じていた。それは恰好のせいもあるだろう。
 二人は屋台が並ぶ通りへと出た。クレープの屋台に立つ女性に、朱華は近づいた。
『とりっくおあとりーと、ですわ』
「まあ、可愛らしい赤ずきん、はい、どうぞ」
 女性はにっこりと笑って、朱華にクレープを渡した。どう食べるのか分からない朱華に狐杜は食べ方を教える。朱華が一口食べた。あまりの甘さにほっぺたが落ちそうになる。
「おいしい」
「それは良かった」



 獅堂 一刀斎(aa5698)は一人”境界”に居た。その腕にはあのオーパーツ――チョールニィ・マリオニェトゥカ――”黒い人形”を真似て作った人形が抱かれていた。
 ”黒い人形”たる黒崎由乃がH.O.P.E.ロンドン支部に保管されてから、数日。
 一刀斎はどうしても、彼女を再起動させることを諦められなかった。一時はロンドン支部から彼女を盗むことも考えた。しかし盗み出せたとしても、由乃が負ったあの傷を修理できないのは分かっているし、万が一のことがあったら――と思い、断念した。代わりとして一刀斎は御神木を素材とし、新たな人形を作った。記憶の中にある黒崎由乃の姿を思い浮かべ、彼女の全てを再現した。肌を美しく塗り上げ、顔には薄化粧。そして三日三晩ライヴスを注ぎ続けた。
 ――が、何も、起こらなかった。
「傀儡師などと言ったところで……所詮俺は……木を削り人の姿に似せて造ることしかできん。人形に……比佐理に命を宿すことができたのは……それこそ、奇蹟」
 一刀斎は懐から幻想の欠片を取り出し、人形の胸に置いた。もう思いつく手段がこれしかない。由乃の声を思い出す。黒ネコ、と。もう一度呼ばれたら。人形を抱いたまま、一刀斎はその場に正座した。空間の歪みをじ……と見つめ、祈る。
「ハロウィンの夜には現世と霊界が繋がるという。頼む……もう一度だけでいい。どうかこの無力な俺に……あの麗しくも哀しき“黒い人形”に……奇蹟を……。霊界に在る黒崎由乃の魂を……この人形に宿らせてくれ……」



●平和へと導く意志
 レイルースとマオはヘンゼルとグレーテルの仮装をして、先程作ったお菓子を持ち、街へと飛び出していた。人々が心から楽しんでいる雰囲気に、マオの人見知りが和らいでいる。彼女の素の表情にレイルースは安堵した。
「えっと、トリックオアトリートって言われたら……」
『お菓子、あげればいいんだよね。おや、早速』
「とりっくおあとりーと! おかしちょーだいっ」
 両手を二人に差し出す、顔にペインティングを施した少女たち。マオは彼女達の手にお菓子を乗せた。ありがとー! と弾ける声。
「……私も、誰かに言ってみようかな。あ!」
 マオは見知った人を見つけた。
「構築の魔女さん! 辺是さんも!」
「あら? マオさんも来ていたのですね。楽しんでおられますか?」
 構築の魔女の問いにマオは大きく頷いた。そうだ、ハロウィンらしい挨拶をしなければ。
「トリックオアトリート、です!」
『……マオ、それ貰う時の』
「あ、そっか!」
 照れ隠しにマオが笑う。レイルースは構築の魔女と落児にお菓子を渡した。落児は僅かに――本当に微かに肯定して、菓子を受け取る。
「ハッピーハロウィン、お菓子もありがとうね。手作りなんて苦労したでしょう?」
「がんばりました!」
 立って話をするのもと、四人は近くにあったベンチへと座る。去年のこと、直近のこと、色々な話をした。ふと、マオが立ち上がる。あの少女――正確に言えば、あの少女と羊――この間の依頼で見かけた気がする。
「ハッピーハロウィン! です。えっと……確かヘイマエイ島にお住まいでしたよね?」
 マオの挨拶に少女――アニタは一瞬だけ固まって、けれどすぐにはいそうです、と返事をした。
『島はその後、問題ない?』
「はい、大丈夫です。あの、ありがとうございました」
「気にしなくていいよ」
『そう。それが俺達の仕事だから』
 レイルースはアニタに向かって微笑んだ。と、アニタが構築の魔女に近づく。
「あの……アンナの事件の時、島に来た方ですよね。ちゃんとお礼を言ってませんでした。ありがとうございます」
 アニタに同調するように、ハルドルがメェ、と鳴いた。構築の魔女が目を細める。
「いえ。貴方が救われたのなら、何よりです」
 まだ街を周るというアニタに、マオはお菓子を渡した。さよならの挨拶をして、四人は何となく一緒に歩きだす。気づけば、街を見渡せる一際高い場所に来ていた。
「お疲れ様、なかなか素敵なお祭りでしたね」
「はい! みんな笑顔で楽しかったです!」
「世界の危機が起きようとも生きていかないといけないのですから日常は大切ですよね」
『そう思います』
 構築の魔女はマオとレイルースを見、そして街をもう一度見渡した。自分達の力は確実に誰かのためになっている。
 王であろうと――終わらせてやるものか。
「さてさて、気分転換も終わりましたし終わってしまわないように頑張るとしましょうか」
「はい!」



●この夜にふさわしき絶叫
「ジェットコースターに乗りたい!」
 突然そう言った紗希にカイは目を丸くした。
『お前突然何言い出すんだよ』
「ここの近くに有名なジェットコースターがあるらしくて……行こうよ!」
『おい、マリ、ちょ……!』
 カイの手を掴み、紗希が速足で歩きだす。彼女が言ったジェットコースターはすぐ近くにあった。仮装をした人々が並んで居る。頭上から降ってくるのは楽しそうな絶叫だ。待ち遠しいといったような顔で紗希は列に並ぶ。対照的にカイは着ぐるみの中、表情を曇らせていた。着ぐるみは乗れないよ! とスタッフに言われるのを期待していたのに。
 やがて二人の順番が来る。何故かコースターの先頭の席に座ることになってしまった。がたん! と大きな音を立てて、コースターが動きだす。
(……いやしかし、ここは英雄の威厳を見せるためにもあまり叫ぶわけにもいかな)
 カイが覚悟を決めかけた、瞬間。
 コースターが猛スピードで落下する。
『ア゛ァァァ~~~~~!!』
 そして急カーブ。
『いや゛ぁぁぁぁぁぁ~~~~~!』
 野太い声がこだまする。カイは意識を半分飛ばした。その中で隣に座る紗希を見る。彼女は両手を大きく上げて、これまで見たことないような笑顔を浮かべていた。
「アハハハハはハハハハはハハハハ!」
(この状況でなんだこの笑顔! この娘一体どんな闇抱えてんだっ?)
 コースターがスタート地点に戻る。カイは自分が若干老けたような感覚を覚えた。紗希を見る。何だかお肌に潤いが……。
「あー楽しかった! ね、もう一回!」
『勘弁してくれ……』



●写真撮影スポットにて
「なんとも、うつくしいまちなみだ。かわいいわたしたちに、ふさわしい」
 周りを見渡しながら、シキはそう呟いた。既に大量のお菓子を色々な人からもらっている。クッキー、チョコレート、飴細工。茎わかめがなかったのが残念だ。
「あれ、お城かな……?」
 ベルリオーズが指さした建物をシキは見る。
「あれはミハイロフスキーじょう、という。いまは、びじゅつかんのいちぶとして、つかわれているそうだ」
「そうなんだ。大きくてお掃除大変そう、だね」
 換装を口にした後、ベルリオーズは近くで焼き菓子を配っている男性に声をかけた。
「お、可愛い黒猫のお嬢さんだ」
「トリートと……トリート! ……秋はお芋。焼き芋、ある?」
「焼き芋はないが、この菓子はさつまいもを使っている。ほらよ」
「あ、ありがとう……あ、このお菓子初めてみるね……お土産に2つ……4つ、ください」
 ベルリオーズの手に男性は気前よく六つほどその焼き菓子を置いた。それを見たシキがほお、と声を出す。
「これは、かわいいつつみだな。ユウにもってかえってやろう」
 シキもまた、男性からお菓子を貰う。そして、ふと鮮やかな花と巨大なかぼちゃで飾り付けられたステージが目に止まった。あれがノルンが言っていた撮影スポットか。
「かわいいわたしたちのすがたを、ぜひのこしたいというわけだね」
 うきうきしながら、シキはそこに近づく。既に誰かが撮影を開始していた。恐竜の着ぐるみ――春月が、色々なポーズをとっている。カメラを構えているのは、シーツを被っただけのお化け――レイオンだ。恐竜がガッツポーズをとる。そしてお化けの前に指を一本、立ててみせた。あと一か所! という意味だろう。順番を待っているシキに気づいたのか、春月が手を差し出す。とってあげるよ! ということなのだろう。
「うむ。おねがいするとしよう。じどりぼうをわすれてしまっていたのだ。さあ、ベル。ならぶよ」
 持っていたスマホをシキはレイオンに渡す。そしてベルリオーズと並ぶ。何枚も何枚も撮ってもらった。そこへ、夕と優乃がやってくる。どうやら屋台を見て回っていたらしい。占い、という単語を二人が口にしている。
「ユウ、ユノ。ふたりとも、こっちへ」
「一緒に、写ろう?」
「うん、今行くよ」
「ああ」
 四人、撮影スポットに並ぶ。また何枚か撮ってもらった後、シキは春月に話しかけた。
「さつえいスポットは、あとどこにあるのだ?」
 シキの問いに、春月がぶんぶんと腕を振る。どうやら向こうの方にあるようだ。春月に礼を言い、シキはベルリオーズ、夕、優乃と共に去っていく。春月はシキが持つ大量の菓子を注視していた。そういえば、あまり、食べていない。
 がぽ、と春月は着ぐるみの頭をとった。
「ねえ、うち気づいちゃったんだけどさ、着ぐるみだとなんか色々食べれないね」
 春月の発言に、レイオンは今更と思う。彼女の手を引いて衣装屋へと向かった。選んだのは吸血鬼。ただしマントだけ。
「よおーし、これなら色々食べれる! 今度は食べるぞ!」
 再度街へ出る春月の後をレイオンはついていく。
 この夜がまだ、終わらないようにと小さく祈りながら。



●お茶会の始まり
「たくさんもらったね♪」
「ええ、トリックオアトリート! 楽しかったですわ!」
 シルフィードとエクトルは顔を見合わせ、そう言った。既に籠の中はお菓子でいっぱいだ。蛍もまた多くお菓子を貰っていた。二人とは違い、こっそり言う感じで。でも楽しかったという想いは二人と同じだ。
「うーん、多分アーカリオンにはハロウィンの風習は無かったと思いますわ」
「じゃあ、シルフィちゃんが作っちゃえ☆ ……それにしても」
 にやり、とエクトルは黒塚を見る。
「クロのトリックオアトリートはーあやしかったねー」
「あ?」
 確かに、と蛍は密に思った。女性を壁際に追い詰め、腕で逃げられないようにして、低い声で――”トリックオアトリート。お菓子をくれなきゃ……悪戯するぜ?”なんて。
「あ、ここで皆休憩しよ! 紅茶持ってきたんだ」
 公園の片隅、設置してあるテーブルセットに皆を座らせ、エクトルが魔法瓶に淹れてきた紅茶を振舞う。テーブルの上には自作のお菓子と貰ったお菓子。
「帽子屋の名において、お茶会のはじまりはじまりー! アリスと女王様をおもてなしだよ♪」
「まあ、素晴らしいお菓子! これを女子力が高いというのですわ!」
「それほどでも。シルフィちゃんは作ったことないの?」
「りょ、料理は必要がなかったから……できないわけではないですわ!」
 やったことないなんて言えませんわ、とシルフィードは思った。
「あ、クロ、何飲んでるの?」
「これは猫しか飲めねェジュースなんだよ」
「そんなのあるの?」
「ああ」
 実はエールだなんて、言うものか。
 ふと、黒塚は自分を見る蛍に気づいた。どした、と声をかければ、蛍はおずおずとお菓子を差し出した。
『……グラさんとの件、ですが。わたしから決着をつけることにしました。これは、そのお礼です。さっきそこの屋台で買ったものですが……』
 黒塚はほんの少しだけ笑った。それはとても穏やかな笑み。蛍から菓子を受け取り、言う。
「お前さんが決めたことに幸あれかし、だ」
『ありがとうございます』



●占いの館
 ワインレッドのクロスがテーブルの上に敷かれている。その上に散らばるはタロットカード。フードを目深に被った少女は訪れる者を待っていた――。



 カイが尋ねる。
『俺の能力者……マリの精神は健全ですか?』
「何かを創造せんというエネルギーは時として秩序無きものとなります。健全に見えたとしても、一歩間違えば」
『マイナスに転じる、か』
 少女に料金を払い、礼を言ってカイは外に出る。待っていた紗希にどうだったー? と問われたけれど、答えは濁した。
(……気を付けてやらなきゃな)


 夕が尋ねる。
「なんかざっくり、運勢とか」
「今、貴方は自分自身の気持ちを調整しきれてない。近い未来貴方は――何かに誘惑される、または否定される。その時もう一度問うべきかもしれない。貴方が何を為したいのか」
「……そうか、ありがと」



 優乃が尋ねる。
「あの、私の運勢はどうでしょう……?」
「貴方は今、大きな変化を迎えようとしている。どのような道であれば、貴方が貴方自身の意志を持って道を選べば、最良のものとなる」
「わ、分かりました。ありがとうございます」



 春月が尋ねる。
「全体運をお願いします!」
「再出発する時期に来ている。しかしその再出発には痛みが伴うかもしれない」
「痛み……うん、気を付けるよ」



 狐杜が尋ねる。
「今後、第一英雄と私の仲はどうなっていくのだろう?」
「――表面的な関係。けれど、微妙なバランスで成り立っている――このままだとすれば、いずれ崩壊する。崩壊を逃れたいのであれば慎重に、しかし恐れずに――相手に、愛を」
「なるほど。肝に銘じておくよ」



●何時か何処かで
 一刀斎はがっくりと肩を落として、”境界”の外へ出た。精魂込めて作り上げた人形が微動だにせず、先程と変わらず一刀斎の腕の中に居る。
 ――結局、何も起こらなかった。
 ”黒崎由乃は英雄ではない”と解っていても――彼女と、誓約を結びたかった。
 不意に、目の前に菓子包みが差し出される。誰か、と思い一刀斎は顔を上げた。猫耳をつけた純がそこに立っていた。
「……西原殿」
「今日は何も起こらなかった。……でも、あんたは黒崎 由乃(aa5698hero002)を諦めないんだろ?」
 純の問いかけに、一刀斎ははっとして、そしてすぐ頷いた。
 そうだ。すぐ諦める必要はない。
(黒崎……いつか、必ず……)



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結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • エージェント
    十影夕aa0890
    機械|19才|男性|命中
  • エージェント
    シキaa0890hero001
    英雄|7才|?|ジャ
  • 暗夜の蛍火
    時鳥 蛍aa1371
    人間|13才|女性|生命
  • 優しき盾
    シルフィード=キサナドゥaa1371hero002
    英雄|13才|女性|カオ
  • 希望の守り人
    マオ・キムリックaa3951
    獣人|17才|女性|回避
  • 絶望を越えた絆
    レイルースaa3951hero001
    英雄|21才|男性|シャド
  • ひとひらの想い
    浅水 優乃aa3983
    人間|20才|女性|防御
  • つまみ食いツインズ
    ベルリオーズ・V・Raa3983hero001
    英雄|16才|女性|ジャ
  • そうだよ、楽しくやるよ!
    春月aa4200
    人間|19才|女性|生命
  • 変わらない保護者
    レイオンaa4200hero001
    英雄|28才|男性|バト
  • LinkBrave
    夜城 黒塚aa4625
    人間|26才|男性|攻撃
  • 感謝と笑顔を
    エクトルaa4625hero001
    英雄|10才|男性|ドレ
  • 今を歩み、進み出す
    狐杜aa4909
    人間|14才|?|回避
  • エージェント
    朱華aa4909hero002
    英雄|8才|女性|ブラ
  • 黒ネコ
    獅堂 一刀斎aa5698
    獣人|38才|男性|攻撃
  • エージェント
    射干玉aa5698hero002
    英雄|10才|女性|ブラ
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