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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/09/26 23:12:16 -
作戦相談卓
最終発言2018/09/27 17:51:00 -
質問卓
最終発言2018/09/27 18:07:46
オープニング
●独善の始まり
「おい、何を考えている!」
「僕が正義である以上こいつらは絶対悪だ。悪は徹底的にこらしめてやるべきだ」
「そいつらは何もしていないぞ!」
「今何もしていなくても、この後ずっと悪事をしないわけがない。犯罪予防ってやつさ。それで人が死んだなら、その人間にそれだけの罪があったのさ」
それが過激思想派の始まり。
●落日
今や『シュドゥント・エジクタンス(ある筈のない存在達。以下SEと略)』の呼称が定着した、過激思想派の大半がエージェント達の手で撃破され、軒並み逮捕された。
逮捕されたSE達は、その時対面した元『グライヴァ―・チルドレン(愚神の子供達。以下GCと略)』冷泉(れいぜい)愛結(あゆ)に暴言の数々を浴びせた。
「ふっざけんな! なんでGC(汚物)が生き残ってんだよォ!?」
「GC(ゴミ)ならGC(ゴミ)らしくみじめに死んどけよ!」
「GC(吐瀉物)は生きてても不幸に地面を這いつくばっとけよおぉっ!」
「なんでGC(屑)ごときが笑って、俺達が苦しまなくちゃならねえんだよ! そんなの許されるわけねえだろうがァッ!」
それ以上の言葉は愛結を警護していた情報部が止めさせ、SE達は連行されていく。
裁判はこれからだが、既に確保できた証拠と新たに得た現行犯での所行と彼らの悪行を証明するものは揃っているので、彼らが日の目を見る事はないだろう。
そしてSEへの尋問の結果判明したSE首領の存在を情報部が追跡し、調査結果がH.O.P.E.にもたらされたとき、事態は動き出す。
●もはや独善ですらなく
とある支部で、冷泉(れいぜい)愛結(あゆ)は、渡された資料を見つめたまま沈黙している。
「否定はできません。そこに書かれているのは現実です」
ポルタ クエント(az0060)の言葉に、愛結は手元の資料を握りつぶした。
資料に添付されていた画像に映っていたのは、射撃の的のような塗料を塗られ、全身を銃弾に射抜かれ絶命した子供達が蠢いている姿だった。
情報部によると、SE首領は虐殺した子供達の遺体を従魔化したらしい。そうなるとその近くに愚神がいる可能性が高い。
「……私が、終わらせます」
絞り出すような声で、愛結は出撃の意志を示す。
「ですが、貴方はリンカーではありません。どうされるおつもりですか?」
「私にループスを憑依させます。それでこの子達を終わらせます」
ループスとは、元々愚神集団として認知されていたSEに属する愚神の1体の名だ。
マニブスと言う愚神と同様、討伐の優先順位が低いので今は放置の状態だが、恐らく今も愛結の周囲に潜んでいると情報部は見ている。
愛結にとって資料に映る子供達は共に生きてきた大事な仲間であり、家族だ。その遺体が利用され敵の手駒にされていることに怒りをおさえきれない。
だからこそ自分の手で終わらせたかった。
「何のために私達がいると思っているんです? 貴方のこれまでの境遇からすれば難しいでしょうが、貴方はもう少し他人を頼る事を覚えた方がいい」
ポルタは思う。
冷泉愛結をこれ以上一人で戦わせ続けてはいけない。このまま一人で戦わせたら、自分達の掲げる大切な何かを――希望を終わらせてしまうと。
そして今の愛結は一人ではない。
多くのエージェント達が彼女とGCに貶められ殺された人々の長い因縁に終止符を打つために、未来に繋げるためにSEと戦い、彼女たちを救ってきたのだから。
『とっくにこいつは始末したと思っていたよ。こいつは世界の醜い部分ばかり集めた醜悪だと思わないか?』
不意に何者かの声が前触れもなく部屋に響くと共に、ポルタや愛結の足元から血のような赤い液体が溢れ出し周囲に広がる。
「危ない!」
とっさに愛結がポルタを突き飛ばすのと、愛結の足元に広がった血だまりから異形の腕が現れたのはほぼ同時だった。
愛結に庇われ難を逃れたポルタの眼前で、異形の腕はそのまま愛結を掴み血だまりの中に愛結を引きずり込むと、再び血だまりの中へと沈む。
――僕こそは正義。
――偉大にして至高なる僕と正義よ永遠なれ。
そんな言葉が愛結を呑みこんだ血だまりを震わせ、血だまりはさらに広がっていく。。
やがて全身に的のマークが施され、顔や体の至る所に銃痕が見える子供達が血だまりから続々と這い上がってくる。
共鳴したポルタが周囲を見渡すと、見慣れた部屋の光景が、薄暗い霧のベールに包まれた広い空間へと入れ替わっていた。
いつの間にか支部内にドロップゾーンを展開されたらしい。
やがて血の水面を割って1体の大柄な武者めいた異形が現れた。
こんな悪趣味な従魔を従える敵を、ポルタは1体しか知らない。
「貴方がSEの首領ですね。愛結さんを返しなさい」
ポルタがそう訴えると、武者――SE首領は抜き放った刀の切っ先をポルタに突きつけることで、答えとした。
●あるのは邪悪
首領は愛結を取り込んだことを感謝しろと吼える。
「いいか? 僕はいつだって正しい。美しく、穢れを知らない絶対なる存在。それが僕だ。その正しい僕の言うことが聞けない奴、従えない奴はクズだ。生きてる価値なんかない。そんな連中に僕の手足となって奉仕する役目を与えてやってるのだから感謝しろ」
既にその姿は人から外れ、死した後も使役される子供達の姿をした従魔達を周囲にはべらせ、自分やその行いは正義だと叫ぶ。
「僕は誰もが正しく生きられる世界を常に追い求めている。こいつや貴様らはこの世にいてはならない存在だ。こいつや貴様らのような穢れた存在は、今すぐにこの世から消えてなくなったほうがいい。それが世界を美しいものへと変える。この世界には、僕と僕に選ばれた者のみが存在を許されるべきだ」
いかに崇高な思想があろうが愚神となり人の域を外れた時点で、もはや独善ですらない。
既にその理想は傲慢に腐り、残るはその骸。従わせるのも犠牲を強いた子供達の骸ばかり。
ここにいるのはSEという自分の為だけに罪もない人々を踏みにじり続けて、嘲笑ってきた邪悪だ。
今こそ『あなたたち』の手で、この邪悪と因縁に終止符を。
解説
●目標
過激思想派首領の撃破
冷泉愛結の救出
●登場
首領
過激思想派の長。自分達を英雄とする為にSEという敵を作り、GCをでっち上げ悪行を重ねてきた元凶。主なメンバーが逮捕され、情報部に追い詰められた。
力と独善を求めた結果、愚神となった。既に人の身を捨てているので人には戻れない。推定でケントゥリオ級相当。
身長2mの古風な鎧で身を固めた武者姿で、刀を振るう。2回行動。
愚神は『絶零』で登場したコシチュイに似た性質らしく、目に見える体は破壊されても数ターン後復活する。本体が撃破されれば消滅する。
以下は首領の能力。
控えおろう
意訳:ジャックポットのフラッシュバン。
裁きの鉄槌である
意訳:ソフィスビショップのサンダーランス。
頭が高い
意訳:ドレットノートの疾風怒濤。
出合え
叫ぶごとに足元の血だまりより下記従魔が4体出現する。
子屍×30
推定ミーレス級従魔。GCに貶められ殺された子供達の遺体に憑依し首領の指示で動く。射程35sqの突撃銃や刀で武装。
PL情報。この中に「首領」の本体が憑依し紛れている。
ポルタ クエント
唯一の増援。現在首領の攻勢を食い止めている。使用スキルはケアレイ、クリアレイ、ケアレイン。
冷泉(れいぜい)愛結(あゆ)
元GCの一般人。首領の身の中に取り込まれた。ライヴス収奪の糧にされているが、首領を撃破すれば救出できる。
状況
とあるH.O.P.E.支部に出現したドロップゾーン。縦横およそ各50mほどの空間の周囲を霧が包み、足元は血のような色の水面が広がっている。空間の外からの攻撃は通じない、一度中に入ると首領を撃破するまで出られない、空間の端より先には行けず、端に留まると霧が絡みつき時々【拘束】が付与されるルールが設定されている。
無線貸与済み。支部内にいる人達は避難済み。装備・携帯品にあるもののみ使用可能。
リプレイ
●邂逅
ドロップゾーンに呑まれたH.O.P.E.支部は、深い霧と血の海に包まれていた。
これを成したのは過激派首領。
今では己を英雄とする為でっちあげた敵、シュドゥント・エジクタンス(ある筈のない存在達。以下SEと略)の名で呼称され、愚神と化した。
「虫けら以下だな。正義だの何だのと抜かし、救世主を気取ろうなどあの馬鹿には到底無理だったのだ」
黛 香月(aa0790)からすれば、首領の掲げる正義は見聞にも値しない愚劣なものだ。
「香月様。首領とやらはやはり逮捕ではなく討滅ですか?」
アウグストゥス(aa0790hero001)の伺う声に香月は淡々と応じる。
「既に討伐命令も出ている。愚神に堕ちた以上、奴には破滅あるのみだ」
香月にしてみればSE首領など『ただの馬鹿』だ。
自分の主張を押し通すために醜悪な差別思想を剥き出しにして、人をグライヴァーチルドレン(愚神の子供達。以降『GC』と略)に貶めて虐殺し続けた。
その結果自分自身も愚神化してしまうのだから救いようがないが、救うつもりもない。
アウグストゥスと共鳴した香月は決意する。
あの首領には馬鹿に相応しい、どこまでも無惨で屈辱的な末路を贈るのみだ、と。
その一方でエスティア ヘレスティス(aa0780hero001)と共鳴した晴海 嘉久也(aa0780)は、首領に憐憫を感じていた。
「 かつて『首領』と呼ばれていたモノは己すら見失い、血の池に溺れ無為にあがき続ける……」
『もっと別の結末があったはずです。これが望んだ結果なら、やりきれません』
嘉久也の言葉にエスティアも言い添え、同意する。
「ならば、ここで終わらせてあげるのがせめてもの救いであり慈悲ですね」
嘉久也はそう決意し先へと進む。
「……ん。冷泉さん……待ってて。今、必ず、助けてあげる……から」
アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)と共鳴した氷鏡 六花(aa4969)も先を急ぐ。
「ここで、終わりになんて……絶対に、させない……」
『首領はここで終わらせるわよ。話を聞く限り首領を逃がしたら罪のない人々が犠牲になる筈よ』
女神としてのアルヴィナの『裁定』に、六花も頷いた。
「……あー……こないだの嬢ちゃん、だっけ?」
既に共鳴を終えたツラナミ(aa1426)は、冷泉(れいぜい)愛結(あゆ)のことを覚えていた。
GC研究所でSEや『監察』との三つ巴の戦いにツラナミも参加し、愛結の『救出』とSE逮捕に貢献している。
「まあ、いいや……さっさと終わらせばそれで良い」
気だるげな様子でそう呟くと、常と変わらぬ様子で首領達のいる空間へと軽い身ごなしで進む。
リーヴスラシル(aa0873hero001)と共鳴した月鏡 由利菜(aa0873)もまた、愛結救出に動いていた。
「冷泉愛結さん……それが、私達が助けるべき人の名……」
『SEの首魁の居場所……遂に突き止めたな』
リーヴスラシルの言葉通り、情報部に追い詰められた結果、今回首領は支部襲撃を決行し、自ら居場所を示した。
「ええ。ですが……話を聞く限り正面から向かってくるようには思えないので、どこかに隠れていたり、姿を変えているかも……」
由利菜は今回情報にあった武者姿の存在が、SE首領ではないという可能性を示唆する。
メリッサ インガルズ(aa1049hero001)と共鳴した荒木 拓海(aa1049)は、アサルトユニット「ゲシュペンスト」+5を駆使して、血のような水面上を滑るように移動する。
「子供達が射撃の的にされた場に急行して助けられなかった事が悔しくてたまらない……」
『沢山の事件が起きてて、私達に出来る事は限られてる……せめてこれ以上弄ばせず眠らせましょう』
拓海とメリッサは過去にSE所属の愚神エンヌの事件に関わったことがある。
あれもまた自らを正義と誇示するSEの策とすれば、やりきれない。
「調査が本格的に進んだら、更にエグイ話が出るのだろうな」
『それでも、何があったか最後まで見届けましょう』
メリッサの意志に、拓海も『そうだね』と応じ、水面上を疾走する。
やがてエージェント達は大部屋があったはずの広い空間に飛び込む。
マイヤ サーア(aa1445hero001)と共鳴した迫間 央(aa1445)は、ライヴス通信機「遠雷」を介して仲間達と連絡を取り合える環境を整えていた。
だが首領らしき武者と子供の姿をした従魔(以下子屍と略)達が、満身創痍のポルタ クエント(az0060)を攻撃する光景を見るなり状況を理解する。
ポルタ1人でケントゥリオ級愚神と従魔達の攻勢を凌ぐには、無理があったようだ。
それを見抜いた央は、血だまりを蹴って立ち塞がる子屍の懐に飛び込み、次の瞬間子屍の喉を央の天叢雲剣+5が裂いていた。
塵を噴いて消える子屍を突破し、央はポルタのもとへ辿り着く。
「メディックのスキルが必要になるかもしれん。消耗は避けろ」
『央。ポルタさん自身も回復スキルで治療する必要があるわ』
央はマイヤからの指摘を受け若干方針を変える。
「追い詰められた首領が愛結を傷付けるかもしれん。回復して備えてくれ」
央はそうポルタに指示して後方に下がらせると、武者姿の首領の指示で子屍達が一斉にエージェント達へと走り寄り、突撃銃と白刃の輪を敷いた。
そこへ菜葱(aa5545hero001)と共鳴した畳 木枯丸(aa5545)が、アサルトユニット「ゲシュペンスト」を駆使して血水面を滑り、子屍達へと突っ込んだ。
『なぁ坊、今回は剣客勝負じゃ。と言うことは』
「刀持ってる敵は皆殺しぃぃい♪」
菜葱と愉しげに言い交す木枯丸に子屍達の白刃の林が迫り、無数の飛沫をあげて散開したエージェント達を焦点に、首領や子屍達が渦を描いて左右に馳せる。
子屍達の突撃銃より、乾いた銃声が断続して響き渡った。
●不滅?
子屍達の一斉射撃がエージェント達に殺到するが、射線の前に由利菜が強引に割り込み、リーヴスラシルの手で改良されたアイギスの盾+3を掲げた。
ライヴスの光の羽が舞い、アイギスの盾は子屍の銃撃をことごとく弾き飛ばす。
『ユリナ…今回はメディックがいない。首魁の目星が着くまで、全体の被害軽減を優先しろ』
「あの子もいてくれると心強いのですが、ラシルと一緒には連れて行けませんからね……」
リーヴスラシルの助言に由利菜は頷き、つかの間自身の第二英雄のことを思い浮かべながら守るべき誓いを発動する。
由利菜より放たれたライヴスが子屍達の意識を誘導し、子屍達が由利菜に集中攻撃を加えていく。
銃声が沸きあがり、無数の火線が由利菜を捉えるが、リーヴスラシルの加護を受けた由利菜は子屍達の攻撃を通さない。
ここでツラナミが動く。
旋風のごとき体捌きで四方から打ちかかる子屍達の攻撃を躱し、あるいは受け流してきたツラナミは、子屍達の敷く武器の輪の中で女郎蜘蛛を発動した。
蜘蛛の巣のようなライヴスの網が空間に張り巡らされ、ツラナミの女郎蜘蛛に絡め取られた子屍達の自由な動きを許さない。
「うるさいのは黙らせた。後の始末は任せる」
ライヴス通信機「雫」を介し、ツラナミが仲間に報せると嘉久也と香月が呼応する。
「まずは……先手を取る為にカチューシャで子屍の一掃を狙いますね」
嘉久也の宣告と共に取り出したカチューシャMRLが火を噴いた。
炎の尾を曳いたロケット弾状ライヴスが矢継ぎ早に放たれる。
大気を裂く飛翔音を撒き散らしてロケット弾状ライヴスが子屍達のもとへと着弾すると、無数の爆焔が吹き上がる。
ほとんど瞬時に着弾地点にいた子屍達の多くが砕け散り、拡散した衝撃波によって周囲の子屍達も引き裂かれ塵と化す。
『武者を狙わなかったのは何故ですか?』
「私の役目は武者による損害を減らす為の削りを行いつつ、首領本体や『冷泉』を探す事になりますからね」
エスティアの疑問に嘉久也はそう答えたが、仲間達には自分の考えを押し付ける真似はしていない。
「貴様が如何に正義を唱えようと、もはや誰一人貴様に賛同する者などいない。所詮貴様は誇大妄想に囚われた、ただの無能なクソガキだ。貴様にあるのは地獄以上の絶望だけだ」
香月が嫌いな相手に向ける口調で首領の『正義』を断ずると、カチューシャMRLの引き金を引き、炎の群れを解き放った。
飛翔音を奏で、無数のロケット弾状ライヴスが一斉に子屍達へと降り注ぐ。
着弾するごとにその威力が遺憾なくぶちまけられ、範囲内にいた子屍達は弾着の爆発で飛沫と共に吹き飛ばされ、宙で塵と化し消えていく。
「あー……。じゃあ、こっちも始末しておくか」
それを見届けたツラナミは玻璃「ニーエ・シュトゥルナ」を展開して、耳鳴りのような音を響かせ子屍達に淡く輝く光線を放ち、討ち漏らしを始末していく。
「うわぁ~い、剣客勝負だ~」
別の場所では、木枯丸が敵の間を駆け抜けながら、菜葱が打ち直した白夜丸+3の斬撃で子屍達を翻弄していた。
涅色(くりいろ)の刀身が翻るたびに、振りかぶった子屍は関節を斬られ、突きに入った子屍が刀を持つ手首を断たれ、頭部への斬撃と思わせた木枯丸の一刀が、一転して足元を狙う騙し討ちに変化する。
『坊、そろそろ敵も程よく集まった様じゃ』
「じゃあボクの刀をもっと紹介するねぇ~」
菜葱の言葉に従い、木枯丸は子屍達へ楽しげな声をかけると、頭上に刀剣の群れを顕現する。
「じゃじゃぁ~ん」
木枯丸のウェポンズレインだ。
「あたり一面剣山にするのぉ~」
木枯丸の宣言と共に、無数の刀剣が文字通り雨の如く子屍達に降り注ぐ。
木枯丸のウェポンズレインに全身を貫かれた子屍達は塵を噴いて倒れ、消えていく。
「もうすぐ終わらせる……助けられず、すまなかった」
殺された後も従魔として使役される子供達に詫びながら、拓海は木枯丸のウェポンズレインで討ち漏らした子屍に向け、ミョルニル+5を投擲する。
落雷のごとき轟音が響き、直撃を受けた子屍の体は微塵に砕けた。
『ここにいる敵『全て』退治するわよ。それこそがあの子達の安らぎとなり、鎮魂となるはずよ』
生き方も死に方も自分で決める権利を奪われ、殺された子供達をこれ以上穢してはならない。
メリッサはそう訴えていた。
「そのつもりだ。そしてこの子達ができなかった分も含め、借りは返させてもらう」
メリッサの意向に拓海も賛意を示し、次の子屍に再びミョルニルを投擲し、子屍の体を粉砕する。
「役立たずどもが。所詮GCなどゴミ以上にはならんか」
この時武者は央と切り結び、子屍達の状況に失望の声をあげるが、その言葉を聞いた央の目が険しさを増す。
「貴様とて元はリンカーだろう。自分の英雄はどうした?」
憤りを自制した央の追及に、武者は尊大に構えて言う。
「英雄? それは僕のことだ」
言い放った武者が央に鋭く斬り込んだ。
央の胴めがけて振りだされた刀を、央の天叢雲剣が迎え撃ち、火花をあげて撥ね返す。
『英雄がいなくなったから、愚神になってその娘を取り込みでもしなければ戦えもしなかった。という事かしら?』
マイヤは首領が愚神になった経緯をそう分析するが、確かな事はわからない。
「1つ言えるとすれば、かわいそうな子供達を道具に使ってる時点でこいつは邪悪だ」
そう結論付けた央がジェミニストライクを発動すると、央の姿は2つに割れて1対の天叢雲剣が武者の身に斬撃を刻む。
「世界が僕を正しいと認めているとまだわからないのか。『控えおろう』」
央のジェミニストライクを受けても首領が状態異常にかかった形跡は見られず、武者より鮮烈な光が放たれた。
正面にいた央はとっさに回避できたが、央の後方にいた六花が強烈な光で眩惑される。
さらに武者から雷の奔流が放たれ、六花の身を穿つ。
「裁きの鉄槌である」
首領の声に喜悦がこもるが、雷光が晴れた先で、無傷のまま終焉之書絶零断章+5を開く六花の姿に絶句する。
『こんなものなの? 裁きの鉄槌とやらは』
六花を護り抜いたアルヴィナは、武者を軽侮の目で見据える。
「……ん。愚神に、なっちゃった……んだ。なら……殺してあげる、ね。愚神は、ぜんぶ……殺す、の」
六花は底冷えのするような声で首領の討滅を宣告し、『氷炎』ブルームフレアを発動する。
六花のライヴスが氷雪を帯びた業火と化し、武者やその周囲に炸裂した。
瞬時に膨れ上がった『氷炎』は武者と子屍を包むと武者の身を焼き、子屍達を消滅させる。
そこへグランブレード「NAGATO」+5に武器を切り替えた嘉久也が、武者に襲いかかる。
「これで白兵攻撃を封じさせてもらいます」
嘉久也は一撃粉砕を発動し、武者の身に衝撃を加えて攻撃力を低下させ、さらにアンチマテリアルライフル+1へと武器を替えた香月が武者を狙撃する。
重い銃声と共に香月の銃弾状ライヴスが武者に命中し、吹き飛ばされるように転倒した武者が塵を上げ、血の海に沈んでいく。
これで終わりかと思えたが、ドロップゾーンでもある霧と血の海は周囲に広がったままだ。
やがて『出合え出合え』と首領の声が響き、血水面を割って新手の子屍達が次々と現れる。
「貴様らが探しているのはこいつかな?」
血の海から浮上し、体を再生させながら現れた武者が刀で示した先には、意識を失い、複数の子屍達に抱えられた冷泉愛結の姿があった。
●応報の時
武者は傲然と胸を反らし言い放つ。
「僕こそ正義。正義は不滅なんだ」
だが首領の言葉などエージェント達は聞いていない。
『記憶の限りだと、愚神は復活再生を繰り返す事で徐々に弱体化する印象があったよね』
「そうだね。だが、変わらないのは本体は別の場に居るからと考えるのが自然だ」
メリッサと拓海は首領の本体が別にあるのでは、と考えていた。
『耳を貸す必要はないわ。六花がいまやっていることが、冷泉さんを救う決定打になるはずよ』
アルヴィナに助言され、六花はマナチェイサーで武者と繋がりのある敵を捜索する。
そして『それ』を探し当てた六花はライヴス通信機「遠雷」を駆使し密かに仲間へ該当する存在を伝えた。
これを受けたツラナミが、六花より連絡があった子屍へと忍び寄り、デスマークを放つ。
マーカー弾と化したツラナミのデスマークがその子屍に着弾し、ツラナミもまた首領本体を掌握した。
「場所はあの辺で特徴はこんな感じだ……ま、後は頑張ってくれ」
ライヴス通信機「雫」を介し、ツラナミも仲間達に首領本体の情報を伝え、六花とツラナミの情報に該当する敵のもとに、央が背後より忍び寄る。
「撹乱しても動揺が薄かった理由はこれだったか」
『央。攻撃を封じるなら本体に直接当てるべきよ』
マイヤの助言に頷くと央は縫止を発動する。ライヴスの針が首領に命中すると、術の行使を阻害した。
そこへ首領との間合を一気に詰めた拓海がストレートブロウを放ち、子屍の姿をした首領は跳ね飛ばされ、血の海を転がる。
それまで武者を食い止めていた由利菜は、ここで攻勢に転じた。
「ラシル、冷泉さんを助け出すチャンスです! 誓約術の真の力を!」
『私の半神としての力……ユリナに貸す! 全力で奴に叩き込め!』
「光の翼、顕現せよ! ディバイン・キャリバー!」
リーヴスラシルと共に由利菜はコンビネーションを発動する。
裂帛の叫びと共に改良されたフロッティ+5が白銀の光芒を縦横無尽に描き、無数の斬撃音と共に武者の体を万遍なく切り刻む。
由利菜のコンビネーションをその身に受けた武者は全身を細断され、塵を噴き四散した。
その隙に木枯丸、嘉久也が愛結の救援に向かう。
『首領とやらはつくづく見下げ果てた奴じゃな』
「剣客勝負に泥塗ったから許さないよ~」
菜葱は呆れ、木枯丸は軽い口調だったが、木枯丸の声には憤りが滲んでいた。
――憎悪と憤怒をもって●斬りぞ。
木枯丸は血の海をアサルトユニット「ゲシュペンスト」で疾走し、懐に飛び込んで飛び去る燕のように駆け抜けた白夜丸の光芒を、斬り飛ばされた子屍の腕が彩った。
木枯丸の斬撃で、腕を断たれた子屍は塵を噴き消えていく。
愛結の拘束が緩んだとみた嘉久也は、浦島のつりざおを駆使して愛結の体を子屍達より引き離し、確保する。
その場に残る子屍達にはツラナミが忍び寄っていた。
「面倒だが、こっちの敵も消しておくか」
ツラナミはそう呟くと玻璃「ニーエ・シュトゥルナ」より光雨のようなライヴスを放つ。
子屍達は続けざまに貫かれて塵を撒き、消えていく。
『大丈夫です。外傷は見られません。首領も形振り構っていませんね』
「冷泉さんは保護しました。手加減する要素は消えましたので、心置きなくどうぞ」
エスティアより愛結の容体を報された嘉久也は、ライヴス通信機を介して仲間達に愛結の無事を伝え、総攻撃を支援する。
首領は子屍達を盾にするが、香月がそれを許さない。
「愚神となった貴様に残された存在価値は一つ、この私の手にかかって滅び去ることだ。私が私であるために、さっさと失せろ!」
香月はそう叫び怒涛乱舞を発動すると、香月の「餓狼」の銘を冠する屠剣「神斬」+1が剣閃の奔流と化し、子屍達へ吹き伸びる。
香月の「餓狼」は子屍達の肩を割り、頭を砕いて子屍達を塵に変え消していく。
子屍を犠牲にして生き延びた首領の前に、由利菜が立ち塞がる。
『……貴様は確実に滅する。そうしなければ、貴様のような小物に弄ばれた者達が救われん』
「……何事も極端に走れば、反対の思想の相手には耳も貸さなくなり、都合のいいもの同士でしか集まらなくなるものです。……だから、身勝手な自己満足に至る」
そんなリーヴスラシルと由利菜に首領は命乞いをする。
「だ、だずげでぐでぇ……」
そんな首領に駆けつけた嘉久也は名を尋ねる。
『名を聞く意味があるのですか?』
「まあ、その『名前』を打倒する事でこの事件を終わらせる事ができるかもしれませんからね……」
エスティアの疑問にそう応じる嘉久也だが、首領は命乞いを止めず試みは不発に終わる。
『ここにきて命乞い? 何をいまさら』
「その言葉……子供達も発してなかったのか?」
メリッサや拓海の声も冷えたものに変わる中、やってきたツラナミが気だるげに呟く。
「あー……因果応報って知ってるか。人を人として扱わない奴は、自身も人として扱われないんだ」
ツラナミは報復に参加するつもりはないが、止めるつもりもない。
救出した愛結を抱えて来た央も首領に告げる。
「……お前のつまらん自己満足に愛結を巻き込むな。この娘はお前達に奪われた人生を取り戻すのに忙しい。一分一秒とてお前に構っている時間はないんだ」
『言うだけ無駄じゃないの?』
マイヤの指摘は正しいが、央は愛結の前なので最低限の人道は配慮するつもりだ。
「はんぜい……じた……がらぁっ……」
『本当に反省した人は、「反省した」なんて言わないわよ』
アルヴィナの視線や口調も、氷雪の女神の名の通り冷ややかだ。
『ほう、反省のう』
菜葱から見れば首領は善悪はともかく、最後まで貫く信念がない。
「ふ~ん、反省したんだ~。だから何なの~?」
木枯丸は軽い口調で、首領の懇願を一蹴する。
首領の瞳に、六花の冷淡な表情が映る。
「……いまさら、命乞い? ……自分がしてきたこと、どれだけの人を苦しめて、悲しい思いをさせてきたのか……きっと分かってないから、命乞いなんて、できる……んだよね」
――なおさら……絶対に、許せない。
六花の終焉之書絶零断章より放たれた絶対零度のライヴスが氷の槍状に変化し、『氷鏡(アイスリフレクトミラー)』の銘を持つ【SW本】リフレクトミラーによって増幅され、放たれる。
ただし六花はまともに当てずに首領の体を少しずつ削り、そのたびに首領の悲鳴が上がるが、六花は止まらない。
――楽に死なせてやるものか。
考え得る限り惨たらしく、痛めつけて絶望させた後に殺す。
そんな六花の猛攻を終わらせたのは、香月より首領に放たれた一気呵成だった。
香月の「餓狼」が電撃状のライヴスを纏って振り下ろされ、首領の頭部を叩き割る。
何かが割れる音が響き、切断面から塵を噴いて首領は血の海に沈み、消えていく。
それと共に周囲の霧が晴れ、急速に部屋の色を取り戻し、血の海も元の床へと戻っていく。
「復讐は楽しむものではない。終わらせるものだ」
不服そうな六花の視線に動じることなく、香月は汚れ役を引き受けるため、自ら手を下しそう告げる。
ここにSE首領という元人間は、愚神としてドロップゾーンと共に討たれた。
●未来
機能を回復した支部の中で、嘉久也は犠牲となった人達の墓を作って弔うようH.O.P.E.に申請していた。
『彼らの体は全て消えてしまいましたが……』
「彼らが確実に死んだという事が彼らを関わって来た者達への『終わり』であり、『救済』になると思います」
エスティアの懸念に、嘉久也はそれでも弔う意義があると告げる。
救出した愛結に『全員が安らかに眠れるよう弔おう』と提案した拓海も、嘉久也に協力を申し出る。
「本部へ報告書……っと、アイツに何て話そう……。自分で解決したかった……とか言われそうだ」
拓海はこの場にいない友人の挙動を想像し、苦笑する。
『彼も理不尽を見過ごせなかったから……だと思うの。だから大丈夫よ』
メリッサはそう言って微笑し、拓海を手伝う。
「あー……ひとまずこれで終わりだな。……後の事は、任せた」
そう言って帰路につくツラナミを先頭に、他のエージェント達も帰還していく。
『私のような異界の存在にとって、英雄とは便宜上の呼称でしかない。真に英雄たる存在へと昇華するか、底無しの暗闇に墜ちるか……それは心と行動次第だ』
「ふふっ……ラシルは間違いなく『私の英雄』ですよ」
今回の首領の末路に思うところがあったのだろう。リーヴスラシルがそう呟くと、由利菜は笑顔でリーヴスラシルを英雄だと保証する。
『怪物に捕われた女の子を救う戦いに、素戔男尊が負ける道理がないでしょう?』
「ましてや素戔男尊は奇稲田姫の加護を受けているのだから尚の事」
救出された愛結より、感謝の言葉と共に頭を下げられたマイヤと央は愛結にそう応え、愛結の無事を喜んだ。
その愛結はアルヴィナから事情を説明され、六花の前でしゃがむと『ありがとうございます』と告げ、六花の体を抱きしめる。
「……ん。ただの自己満足、だったの。正義感とか、そんな綺麗なものじゃなくて……」
六花は首領への断罪を『自分がそうしたかったから』と話したが、愛結より『貴方がたは私達の代わりに怒って下さいました』と感謝され、戸惑う。
(六花は愛結達を復讐から解放できた。これで少しでも六花の心が安らぐといいけど……)
アルヴィナは密かに、そんなことを願う。
その一方で木枯丸は携帯品にある分も含め、刀の手入れをしていた。
「菜葱さん敵の刀は残ってた~?」
木枯丸は敵の刀の鑑定もしたがったが、菜葱は緩く首を横に振り木枯丸に告げる。
『坊、敵ともども全て塵となって消えたから無理じゃ』
帰路の途上でアウグストゥスは香月に尋ねた。
『香月様。SEとは何だったのでしょうか?』
「あの馬鹿は耳触りのいい言葉で人々を煽った。そして『あいつは攻撃していい奴だ』とGCというレッテルを貼った」
人はそのレッテルを見て相手の事を知ったつもりになる。
それが独善となり虐殺を生んだ。
「SEの根源は無知と我欲の押し付けだ」
香月は今回の一件をそう締めくくった。
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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