本部

【終極】連動シナリオ

【終極】ポラリスの讃歌

一 一

形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/10/07 21:04

掲示板

オープニング

●来る『王』へ『聖母』は捧ぐ
 地中海の水底深く。
 エージェントとの戦闘で大きく力を失ったステラ・マリス(az0123)は膝をつき休息をとっていた。
「――っ!!」
 しかし、北極で起こった変化を敏感に感じ取り、すぐさまそちらへ振り向き表情をほころばせた。
「……あぁ、ついに、この世界へ顕現なされるのですね――『王』よ」
 心からの畏敬と歓喜を込め、常に結ばれた両手をきつく握って熱心に祈るステラ。
 そのまましばらく動かずにいたが、不意に立ち上がると足を海底から離した。
「もはや『海の星の聖母』と名乗れるだけの力は、私(わたくし)に存在しているかはわかりません。ですが、『王』の来訪に微力を添えさせていただくことならば可能でしょう」
 そのまま海面へと上昇していくステラに追随するように、スディレもまた浮き上がる。
「参りますよ、スディレ……私のライヴスから分岐し増殖した『海の星の子』らよ」
 やがて海上へ姿を現したステラは一歩一歩確かめるように波の上を歩き。
 空中を飛び回る複数のスディレは『聖母』を照らすように明滅を繰り返す。
「『王』のために献上しましょう。私たちの、命(ライヴス)を……」
 ヴェールをたなびかせながら前と『死』に向かうステラの顔は、殉教者のように晴れやかだった。

●『海の星』を落とせ
 数時間後、北極付近で見られる異世界化現象がイスラエル近海の地中海でも発生した。
 しかし、H.O.P.E.の調査によりこれは偶発的なものではなく意図的な現象だと結論づけられた。
 発生地点の中心にいたステラ・マリスの存在と、かなりの速度で進む異界化の拡大がその証拠。
 エージェントは愚神の侵攻を止めるべく、異界化の影響で黒い結晶と化した地中海を走る。
「……やはり、貴方様方は最後まで立ちふさがるのですね」
 昼夜がなくなり真っ白に染まった空と、結晶で覆われた真っ黒な大地の狭間。
 北極の方角へ視線を飛ばしていたステラは、エージェントの接近に静かな声で迎えた。
「私はもはや『海の星』を……同胞の導(しるべ)たる『北極星(ポラリス)』を自称することさえかなわぬ身。ならばこそ、『聖母』の名に恥じぬような最期だけは示さねばなりません」
 瞬間、紺色のライヴス――『オルトゥ・ステラ』がステラの周囲に発生しスディレを包み込む。
「努めましょう、私の子ら。『聖歌』の恩恵を宿し、私とともに戦うのです」
 さらに、ライヴスを込めた歌声――『アヴェ・マリス・ステラ』がステラたちのライヴスを活性化させた。
「さあ、ともに歓迎しましょう」
 そして、ステラの指示とともに体から黒い結晶を生やしたスディレが、エージェントを包囲する。
「『王』の来訪の糧となれる、栄誉を――」
 善意も悪意もない純粋かつ透明なステラの微笑が、戦端を開く合図となった。

解説

●目標
 ステラの早期討伐

●登場
 ステラ・マリス…地中海を中心に活動していたケントゥリオ級愚神。度重なる戦闘で力を大きく消耗しながら、『王』の気配を感じ取り地中海上の一部を異世界化した。

 能力…特殊抵抗↑↑↑、防御・命中↑↑、生命力・攻撃↓、回避・移動・イニシアチブ↓↓↓

 スキル
・マヌス・プルンバム…射程1~20、単体強化、生命力を除く能力値×1.5、1D6ラウンド持続

・オルトゥ・ステラ…射程1~15・範5、範囲強化、生命力を除く能力値×1.2、2D6ラウンド持続

・マヌス・サニタテム…射程1~20、単体回復、生命力+30、BS1つ解除

・アヴェ・マリス・ステラ…射程1~15・範5、範囲回復、クリンナップフェイズに味方生命力+1D6、10ラウンド持続

・エティン・クレメントゥム…自身のライヴス1割を消費し分身を1体作成、分身体は1点以上のダメージor1度のスキル使用で消滅、分身体の防御成功→分裂し1体増加(最大5体まで)

 スディレ×10…岩のような表皮を持つ1mほどのミーレス級ヒトデ従魔。異世界化の影響で肉体に黒い刃状の結晶を纏い、飛行しながらの攻撃でステラを援護。

 能力…攻撃・命中↑↑、防御↑、回避・移動↓

 スキル
・マヌス・スタルフィシャ…魔攻+50、特殊抵抗判定勝利→減退(2)付与

●状況
 場所は地中海のイスラエル近海
 北極の異変に気づき海上に現れたステラが己を中心に異世界化
 範囲内では空は白く染まり、海面は黒い結晶状の平原に近い陸地に変化
 徐々に範囲が広がり陸地まで浸食しようとしている

 PCは結晶の陸地へ乗り込み中心地点へ急行
 人の居住地まで浸食される前(およそ20ラウンド以内)に元凶たるステラを討伐する
 戦闘直前の『オルトゥ・ステラ』と『アヴェ・マリス・ステラ』でステラ含む全員が強化状態にある

リプレイ

●白黒の地中海
「ステラ・マリス……『王』のためにここまでするとは」
「どこの王様か知らねーが、ここまで尽くすたぁね。早く倒しちまおうぜ」
 すでに異世界化した海面を眺め、東江 刀護(aa3503)はステラの覚悟を推し量りため息をもらした。
 隣の大和 那智(aa3503hero002)は大気を伝わる強敵の気配に期待を込めて不敵に笑う。
「主、愚神の討伐が『王』の降臨、ひいては世界への影響を強めたようですが――」
「それが事実でも、私が戦う理由が消えたわけではない」
 また、アウグストゥス(aa0790hero001)の控えめな進言に黛 香月(aa0790)はいっさい迷いなく返答する。
「いずれその『王』とやらも、私が息の根を止める……『復讐の女神の名を借りて、我らが怨敵を葬らん』」
 どんな理由があれ、香月にとっての愚神が不倶戴天の宿敵であることに変わりはない。
 見えてきた結晶の平原を前に香月は共鳴し、『餓狼』を唸らせ殺気を噴出させた。
「ここからは走っていくしかないな」
『ここで終わらせる』
 そうして結晶の大地へ接岸し、船から飛び降りた久兼 征人(aa1690)が薙刀「焔」を手に走り出した。
 共鳴したミーシャ(aa1690hero001)からも決意がうかがえ、『全力移動』で異世界化の中心地へ向かう。
「俺はステラを集中攻撃するぜ。初めて相手にする敵だが、相当な強さの愚神だってのは気配でわかる」
 すでに広大な範囲が異世界化した影響で、到着までに時間がある。
 移動中、那智と共鳴した刀護は手にしたメルカバを掲げ作戦や戦法などを確認していく。
「決着をつけるぞ、比佐理」
『はい、一刀斎様』
 その後、獅堂 一刀斎(aa5698)は共鳴した比佐理(aa5698hero001)の声の後に『潜伏』を発動。
 己の気配をライヴスで隠し、仲間へひとつ頷いて他のメンバーから離れていった。
「…………」
『――どうかした、フィアナ?』
 一方、遠くを見つめるフィアナ(aa4210)に共鳴したルー(aa4210hero001)が声をかけた。
「【狂宴】のことを思い出していたのよ。ステラ・マリスの威勢は止めないといけない、けど愚神の真意からして、果たして討って良いのか――」
 フィアナはすでに、愚神が人間に討たれることの意味を知っている。
 ならば、今後も愚神を倒すことで愚神を、ひいては『王』を補助することになるのでは――
「なんて、ね」
 そこまで考えたフィアナは、即座に笑って切り捨てる。
 考える事に意味はあっても、惑う事に価値はない。
 少なくとも《フィアナ》にとっては。
『いずれにせよ、ステラが侵食を進める原因なのは変わらないよ』
「うん。彼女が何を思っていようと、この世界を侵すのであれば私は止める」
 たとえその先にどんな脅威が待っていても、やるべきことは変わらない。
 ルーの言葉を肯定し、フィアナはニッと笑って見せた。
「負けたらこの薄ら寒い鈍色に覆われるのか……嫌だな」
『そうなる前に食い止めましょう』
 同じく、荒木 拓海(aa1049)も異世界化で一変した海上を眺め眉間にしわを寄せていた。
 共鳴したメリッサ インガルズ(aa1049hero001)を聞き、視線を前へ戻してウコンバサラを握りしめる。
「やっと出てきたな。これまでの因縁もこれで最後だ」
 しばらく走った後。
 長くステラ関連の事件に関わってきた月影 飛翔(aa0224)は、黒結晶の地平線で動く影を睨む。
『防御支援型愚神に防御従魔複数。時間も制限があると考えれば、中々の条件ですね』
「向こうも準備万端らしい。確実に素早く周囲を殲滅し、攻撃を集中して撃破するぞ」
 共鳴したルビナス フローリア(aa0224hero001)の状況分析に頷き、飛翔は異変の中心地を目指す。
「以前よりステラの気配が弱い……なるほど、無制限に使える技ではありませんでしたか」
『――ロ』
 肌で感じるライヴスの圧力から、構築の魔女(aa0281hero001)はおおよその事情を理解した。
 共鳴した辺是 落児(aa0281)からの肯定を聞き、『ノイズキャンセラー』で遠い彼方を見やる。
「さて、十全奮わせていただきましょうか!」
 そうして、構築の魔女は急速にこちらに迫るスディレへメルカバを持ち上げる。
『弾道思考』で延長した射程と着弾タイミングの誤差を踏まえた『回避予測』で挙動を先読み。
 白と黒の距離感が狂った世界でも『精神統一』が照準を修正し、精密な砲撃が先頭の敵を捉えた。
 ――地中海に混乱をもたらした愚神との、最後の戦いが始まった。

●滅ぶ『海の星』
『私はこのまま距離を置き、スディレの撃破を中心に制圧射撃にて支援を』
 離れていく仲間へ通信機で告げ、構築の魔女はステラとの距離を一定に保持。
 射線を固定しないよう移動しつつ、『シャープポジショニング』から追撃を放ちスディレの動きを止めた。
「さぁ、始めましょう!」
 接近するスディレの前へ出たフィアナは敵の意識を自身に集めようと、『守るべき誓い』を発動。
 こちらへ迫るスディレへ威圧を発し、ライラプスの槍を腰だめに構えた。
「それじゃ、鬱陶しいのから片付けて行きますか」
 次に突出した征人は、早速フィアナに吸い寄せられたスディレへ切り払い。
 薙刀は黒結晶の刃と衝突するも、すぐに体を回転させていなされた。
『勝つまで私たちが倒れることは許さないわよ、征人』
「わかってる――メディックの戦いは仲間を生かすことにこそある、だろ?」
 今度はこちらへ突撃してきた敵を前にしたミーシャに、バックステップで躱して頷く征人。
 立ち位置は常に仲間へ回復スキルが届く距離。
 スディレ撃破に時間はかけられないが、本来の役割を忘れるわけにはいかない。
『まずは道を開きましょう。ダメージを負った個体を優先に』
「強化と回復支援は厄介だ……が、回復する前に潰せばいい」
 続けて、ルビナスの声でフリーガーファウストG3を構え、飛翔はロケット弾を射出。
 前衛2人へ迫ったスディレを狙うも、素早い動きで躱された。
『あの刃、どう見ても攻撃用よね』
「後付けの武装なら、隙間はある!」
 散開後に接近するスディレの刃を観察するメリッサに目を細めた拓海。
 結果は果たして、本体と黒結晶の接合部を見極め攻撃し真っ二つに両断した。
「はっ! ――づっ!?」
 とはいえ、エージェントの前衛組とスディレでは後者の数がやや多い。
 注意を引きつけたフィアナは4体に囲まれ、内1体の『マヌス・スタルフィシャ』に被弾。
 赤紫のライヴスがまとわりつくと、『減退』によるダメージで表情がゆがむ。
「邪魔だ!」
 そこへ『餓狼』を振りかぶった香月が『烈風波』を飛ばす。
 より強力なライヴスが宿る衝撃波は、フィアナへの攻撃で速度が緩んだスディレをしとめた。
「この、程度でっ!」
 やや防戦に陥る中、フィアナは動きが鈍りつつも緩急をつけた槍で突きを放つ。
 切っ先は構築の魔女が砲撃したスディレへ食い込み、さらに1体を消滅させた。
「フィアナさん、大丈夫っすか!?」
 ただ、やはり明らかに動きが鈍いフィアナを案じ、征人が『クリアレイ』で治療する。
『状態異常……しかも、かなり消耗が大きいみたいね』
「ったく、時間をかけられない理由が増えても嬉しくないんだけどな、っ!」
 癒し手としての経験からミーシャが類推した『減退』の効果は、決して軽くはない。
 ため息を吐く征人へスディレ2体が飛来し、『攻撃予測』で1体を対処する間にもう1体の攻撃に被弾する。
「征人! ――うぐっ!?」
 さらにフィアナも黒刃を弾いた後に別のスディレに攻撃を受け、またしても『減退』を受けてしまった。
「スディレが攻撃スキルか」
『毒……あるいは、呪いの一種でしょうか』
 一歩引いた位置の飛翔が援護射撃でスディレを引き離し、ルビナスと敵の動きや能力を分析する。
「1体ずつ誘い出せれば、楽なはずだけどっ!」
『見事に避けられてるわね、拓海?』
 上空の敵を追い、跳躍した拓海は斧を叩きつけて着地と同時に粉砕。
 顔を上げると、メリッサが仲間へ集中するスディレの動きを伝えた。
「っ! ――何だ、その大仰な刃は飾りか?」
 しかし、香月はスディレへ仕掛けた『一気呵成』を寸前で回避されて反撃を受けて後退。
 決して傷は浅くないが浮かべた冷笑に余裕を乗せ、ステラから注意をそらそうとスディレを挑発する。
「能力強化もあって相変わらずの防御力ですが、押し込んでみせます」
 そこへ再び、構築の魔女が『シャープポジショニング』から無傷のスディレへ砲撃を命中させた。
「こちらを妨害する動きはなさそうですし、このまま攻撃に集中して結晶装甲ごと削っていきましょう。鋭いということは、それだけ負担も掛かりますからね」
 また射撃位置の変更で移動しつつ、構築の魔女はスディレの行動や外見の変化を観察。
 接近されれば迎撃できるよう構えつつ、攻撃用の刃への攻撃で脆弱な部分が見えないか反応を見極める。

「初めましてだな『聖母』様。手加減は一切しねぇが、そのつもりでお相手願おうか!」
 そんなスディレ対処組の仲間から離れ、刀護は掲げた砲身へ『エクストラバラージ』を発動。
「遠距離攻撃は性に合わねぇが、仲間に近づかせないようにしねぇと――な!」
 遠いステラへ照準を合わせ『レプリケイショット』で複製・展開、全砲門から一斉に砲弾を射出した。
「防御型っつう話だが、どんだけ頑丈か……っ!?」
 スキルで強化や回復をさせないよう、ステラの妨害もかねた攻撃の行方を追った刀護は息をのむ。
「……おいおい、すでに強化済みってか!?」
 ヴェールの『腕』がステラの全身を包み、爆発の余波が晴れるとステラは泰然とたたずんでいた。
(……っ!?)
 さらに、奇襲のため黒豹の俊足でステラの側面へ回り込んでいた一刀斎に悪寒が走る。
 うつむき加減の顔から、確かに感じるステラの視線に『潜伏』を見破られたと悟る。
(だが、まだ機会が完全に潰えたわけではない!)
 しかし一刀斎は一瞬でもステラの視線を切るように加速すると、再度『潜伏』を施して接近する。
(他に意識が向かないよう、できるだけ俺達に引きつけるぞ!)
『(俺、派手に接近攻撃したいんだけど……しゃーねぇ、我慢してやるよ)』
「スディレを攻撃してる仲間の邪魔はさせねぇ! 俺に集中しろ!」
 その間に刀護は意識内で那智と会話をしつつ、スディレの撃破状況を横目に確認。
 再度『エクストラバラージ』と『レプリケイショット』の制圧攻撃を行った。
「――立ちなさい、私(わたくし)の子」
 しかし、砲弾のすべてを『腕』で受け止めたステラは平然と歩き出し、『マヌス・サニタテム』を発動。
 満身創痍だったスディレ1体が力を取り戻し、動きに力強さが戻る。
(背後を取った!)
 その瞬間、一刀斎がステラへ距離を詰め『黒糸』を振るわんと構える。
『っ! 上です!』
 だが、比佐理からの警告で両腕に漆黒のライヴスを纏い、防御に移った。
「歓迎の挨拶はお気に召しましたか?」
 自身の護衛らしき2体のスディレをけしかけ、ステラは振り返り微笑を見せる。
「今まで暗躍に徹してきたお前が真っ向勝負とはな。『王』の顕現でいよいよお前も正念場に……いや、それだけではあるまい。俺の見立てだとお前はもう……長くない。違うか、ステラ?」
 刻まれた創傷と『減退』に顔をしかめる一刀斎に、しかしステラは笑みを崩さない。
「否定もしないか。お前の衰弱速度は他の愚神より早い。愚神とは捕食者のはずだ」
「以前にも申したはずです。私は『祈り』を捧げる『導く者』であり、『収奪に頓着する我欲などない』と」
「……他の愚神や従魔にライヴスを――『祈り』を与えるのみで、自らは喰らわない。それが、『ライヴスの解放』を謳(うた)うお前の矜持か……分かった。ならば最早、問答は無用」
 スディレへの警戒は緩めず、一刀斎は決然とステラと視線を交えた。
「改めて、名乗らせて貰う。俺は、一刀斎。獅堂、一刀斎だ」
「では、私も獅堂様に礼節と敬意を。私はステラ・マリス……『海の星の聖母』に不相応な死に行く者です」
「推して参る……決着を着けよう、ステラ!」
 直後、スディレ2体と一刀斎が弾けるように動き出した。

●消える『聖母』
『これ以上、ステラにスキルを使用させないでください!』
 スディレへの支援を始めたステラに警告を発したのはルビナス。
 すぐさま飛翔はダーインスレイヴを握り、『トップギア』でライヴスを蓄積させる。
「――ちっ!」
 直後、スディレが『マヌス・スタルフィシャ』を突き刺し、舌打ちを漏らす飛翔は『減退』に抵抗する。
「まるで羽虫だ、鬱陶しい」
 また香月は二度目の『一気呵成』を躱され、苛立ち混じりの悪態をつきスディレの反撃を『餓狼』で防ぐ。
『やれるかい?』
「まだ……平気なのよ!」
 ルーが冷や汗を流すフィアナに問うと、返事はまだまだ力強い。
 迫るスディレに対して体を回転して躱し、離れゆく背後へカウンターを放ち肉体を削る。
「今まで何回相手をしたと思っている?」
 フィアナに続き、前衛へ躍り出た飛翔が地面を蹴った瞬間にその場から消えた。
「強化された処で、戦い方自体が変わるわけじゃない――なら対応方法はある!」
 遅れて空間が次々と爆発し、スディレ3体が破砕音とともに四散。
 経験則から回避の癖を見切った『怒濤乱舞』は、それぞれの中心点を穿ち一撃で葬った。
「体力が本当にキツくなったら言ってくださいっす!」
 そこへ征人が『クリアレイ』をフィアナへ飛ばしながら、周囲の仲間の様子も観察。
 強化スディレの攻撃と『減退』は、思った以上にこちらのライヴスを消耗させている。
 幸い、スディレの撃破速度から攻撃の手は足りており、征人が回復に専念しても問題はなさそうだった。
「っ、おおっ!」
 一方、一刀斎は自身を攻撃するスディレを無視し『蛇糸』をステラへ伸ばした。
『器用な方ですね』
 無軌道にうねる捕縛糸は空を切り、『エティン・クレメントゥム』にて2人となったステラは微笑。
「ご、はっ!」
 逆に、片方の『腕』が伸ばした反撃は一刀斎を捉え、強制的に吐息が飛び出す。
「獅堂さん!」
 単独行動の代償か、疲弊した様子を見て取った征人が『クリアレイ』を発動。
『減退』を体内から除去すると同時に、『エマージェンシーケア』で失ったライヴスも補充させる。
「――おイタはダメよ?」
 その征人の背後を狙ったスディレもいたが、とっさに割り込んできたフィアナの槍が阻んだ。
「分身体は放置できませんね……可能性への攻撃、操作の真髄をお見せしましょう!」
 今までの交戦経験から分身の厄介さを理解する構築の魔女はすぐに反応。
 一刀斎への援護も含めた『トリオ』を放ち、その内2発はスディレ1体とステラの動きを鈍らせた。
「……っ」
 しかし、最後の1発は分身へ直撃するも消滅間際に分裂し、構築の魔女から思わず嘆息が漏れる。
「早くぶっ倒さねぇと、無駄に時間を食っちまう!」
 分身の分裂を直接見ていた刀護は、分身を特定できる内に消滅させようと砲弾を撃ち出す。
「……あぁ~、くそ! また増えやがった!」
 命中こそしたものの、分身は弾けた後にまた復元し、ステラの分身は3体にまで増殖した
「おめでたいを通り越して哀れだな」
 3体となった分身を脅威と判断した香月は、『烈風波』の標的をステラへ変更し放つ。
「っ!?」
「敬愛する『王』とやらのために、貴様の命を含むすべてを捧げてまで忠誠を誓う――さしずめ殉教者か? 貴様はさぞ誇らしい気分だろうが、己のアイデンティティを捨てた生き方に何の意味がある?」
「……貴方様が『個』の確立に固執しているように、『王』へ身命を捧げる在(あ)り方が私の曲げられない信念なのです」
「精々、命を張るがいい。貴様の行動が無駄だったと、いずれ証明される日が来るだろう」
 香月は『自分は自分である』、という絶対的なアイデンティティを固持している。
 そのため『王』への依存に近いステラの言動は、ひどく馬鹿馬鹿しいものに思えてならない。
 故にこそ、香月は強力な一撃にひるむステラへさらに侮蔑を投げつけ否定したのだろう。
「栄誉じゃなくて、実際はただの当て馬だろう!? そうまでして従う理由は何だ!?」
 わずかに敵の攻勢が緩み、拓海はステラに叫びつつアックスチャージャーを起動。
「っ! ――ぅ、ごほっ!?」
 しかし、ライヴスの蓄積で静止した隙を狙われ、懐へ入った『腕』が拓海を殴打する。
「『希望』を掲げる皆様が同胞(にんげん)を守護するように、私は無私から同胞(ぐしん)へ救いの手を差し伸べるのです。それこそが私の本質であり本懐。己が犠牲をおそれて、誰が『聖母』と名乗れましょう?」
 静かな声音にはされど、香月が示した意志と同等の堅固さを乗せ、拓海の体を衝撃で吹き飛ばす。
「立場が違えば、見えるのは変わる……だが、オレ達も自分を信じてるんだ!」
 両足を結晶の大地へ穿ち、『く』の字に曲がった体を止めた拓海は斧から強い輝きを放出した。
『分身2体がスキルを使用! 敵の強化に気をつけてください!』
 直後、紺と青白いライヴスが立ち上り構築の魔女が通信で警告。
『オルトゥ・ステラ』が消えかけた強化を盛り返し、『マヌス・サニタテム』が深手のスディレを癒す。
「ともに行きましょう、獅堂様。『王』の元へ」
 最後の1体は一刀斎を『腕』で地面へ押し潰していた。
「ス、テラ、お前、は……」
 徐々に増す圧力に抗い、一刀斎は声を漏らす。
「全てを『王』に捧げ、最後まで、『海の星の聖母』であろうと、している……ならば、俺も――我が全身全霊を以て、その覚悟に報いよう……!」
 そうしてライヴスソウルを砕いた一刀斎はリンクバーストを発動、『腕』の拘束を強引にふりほどいた。
「強化も一刀斎への攻撃も防げなかった、けれど!」
 そこへ、分身の出現と同時に駆けだしていたフィアナが大きく踏み込む。
 消えゆく2体の分身を悔しそうに見送り、前傾姿勢から『回避予測』と『精神統一』を意識。
 高い機動力で直進した勢いそのまま構えた槍の刺突に乗せた。
「う、く……」
「もう、好き勝手はさせない!」
 背中から槍で貫かれた分身は小さな吐息を漏らして消滅。
 フィアナは素早く身を転じ、ステラを横目で睨みつつ残るスディレへ戻った。
「俺たちも糧になれ、だったか? ――お断りだ」
 分身の消失で決着が近いと判断した征人は、『ケアレイン』を発動。
「無私の精神はご立派だがな、そこに関係ない他人を巻き込もうとするなよ」
『大勢の犠牲を強いるあなたたちの好きになんて、させない』
 スディレとの戦闘で負った仲間の傷が癒えていき、征人とミーシャはステラへ刃と敵意を突きつけた。
『もう分身を作成する暇は与えません』
「重複強化もな」
 分身の消滅と同時に、ルビナスの声に飛翔がステラとの距離を詰めて魔剣を下段から斬り上げた。
「――ぐ、っ!?」
「っ!? くそっ!」
『腕』の防御も構わず連撃を浴びせるも、スディレ2体のステラを守るような急襲にやむなく後退する。
 なおも飛翔へ追いすがるスディレはしかし、追撃を加える前に空中で爆発した。
『――今です!』
 直後、通信機から『ファストショット』の着弾を確認した構築の魔女の声が響いた。
「まだです、私の子――っ!?」
「忠誠心は感心するが、これはやり過ぎだバカ!」
 すると、とっさに回復しようとしたステラの挙動を刀護が見切る。
 スキルを放出される前に撃ち出した砲弾が集中を乱し、発動を阻害した。
「俺の全ライヴス――受け取れ!」
「ぐ、くっ、まだ、『祈り』を!」
 さらに、『黒糸』を高速で操る『ジェミニストライク』で一刀斎はステラへ猛攻。
 加減も後先も考えない攻めに、ステラは己へ『マヌス・プルンバム』を施し耐える。
「はあっ!」
「邪魔だ!」
 瞬間、香月が放った『烈風波』がふらつくスディレを撃ち落とし。
 ステラの盾になるよう進路を阻んだスディレを、拓海の強力な一撃が粉砕する。
「これで、スディレは終わり!」
 さらに湾曲させた槍でスディレの中心を砕いたフィアナは、消滅を確認して声を張り上げた。
「残るはステラだけっす! このまま押し切りましょう!」
 征人の声と同時、再び『ケアレイン』がエージェントたちに降り注いだ。
 治癒の力で回復した力を引き出し、全員でステラへ武器を向ける。
「ようやくお前だけになったな。こっからは全力でお相手するぜ!」
 刀護は今までの鬱憤を晴らすように前進。
 構築の魔女とは別の角度からメルカバの砲弾を射出し、逃げ場を奪うように攻撃を重ねる。
「時間はあまりないか……トドメは任せる、一気に叩くぞ!」
「一刀斎さん、無理はしないで!」
 飛翔は一刀斎のリンクバーストを気にしつつ『トップギア』を発動。
 拓海もアックスチャージャーで火力一点集中に備えた。
『牽制します!』
 2人の隙を埋めるように、構築の魔女がステラへ砲撃支援。
「この距離ならば、分身を作る余裕など与えない!」
 間髪入れずに香月がステラの正面から『疾風怒濤』で切り込む。
「自らの信念に、使命に殉じるお前の姿は、敵ながら『美しい』と俺は思う!」
 一刀斎は連続で『ジェミニストライク』を、そしてステラへの本心をぶつける。
「っ、だが! 勝利は俺たちがもらうぞ!」
『腕』の反撃で吐血するのも構わず、一刀斎はさらに『ジェミニストライク』で切り裂いた。
「はああっ!」
 入れ替わりにフィアナが飛び出し、『ライヴスブロー』でステラの背後から攻撃。
「マリス! お前が貫こうとした正道をオレも否定しない、だが――ッ!」
「っ!?」
 そこへ拓海が踏み抜いた地面を爆発させ、ステラの左側面へ。
 斧に集積した膨大なライヴスへさらに上乗せし、肉薄する。
「オレ達が貫く正道は譲らない!!」
 直後、咆哮した拓海の『タイラント』が轟雷飛び散る大爆発で世界を揺らした。
「ぅ、ぐっ……?!」
 とっさに『腕』を何重にも重ねたステラだが、衝撃の消失で半分以下となったヴェールに顔がゆがむ。
「はあっ!!」
 さらに飛翔が拓海の反対側で地を蹴り、迎撃に迫った『腕』を『疾風怒濤』の一撃で弾く。
 それでもなお進路を阻もうとする『腕』を二撃目で吹き飛ばし、前進。
「――っく!?」
『これで手が塞がりました! 今です!』
 最後に、ステラが『腕』を戻して丸めた円盾へ強力な一撃を叩き込み、ルビナスが叫んだ。
「最期だ、己を捨てた哀れな愚神」
 直後、ステラの眼前まで距離を詰めたのは香月。
 高速振動する『餓狼』が無防備な肉体へ3度走り、『疾風怒濤』の軌跡に電撃が尾を引き弾けた。
「……『王』よ、わたくし、は――」
 ヴェールが切断され、肉体が両断され、首が寸断されたステラは、か細い声を残して消えていく。
「いずれ『王』とやらも殺してやる――私の信念が正しいことを証明するためにな」
 その様を冷淡に見送り、香月は感慨もなく背を向けた。

●『祈り』は『王』へ
「もし、違った形で出会えていたら、結末も違ったものになっていたのだろうか……」
 ステラが消えた場所で、一刀斎は俯き哀悼の黙祷を捧げる。
「獅堂さん! っ!?」
 直後、一刀斎はリンクバーストの終了で『重体』となった体を征人に支えられる。
 さらに異世界化した黒結晶の崩壊が始まり、エージェントたちは急いで船へ戻った。
「……自分も含めた『ライヴスの解放』が奴の目的なら、この結果も思惑通りだったのかもな」
『『王』への献身を最後まで貫いたのでしょうけれど、私たちが折れない限り敗北ではありません』
 崩れゆく異世界の浸食を眺め、飛翔とルビナスが小さくつぶやく。
「ふむ……なぜ、愚神は『王』に心酔しているのでしょうね?」
 隣にいた構築の魔女も同じ疑問を覚えたのか、目線を下げて思案にふける。
「雪娘・ヘイシズ――愚神達は何故こうも……やるせない」
『私ね……『王』とのそれが、拓海と私との誓約と『同じ』なら、判る気がするわ』
「オレは……違う……と、思う。だが、マリスがそう望んでたなら、十分な理由なんだろうな」
 拓海とメリッサも、愚神の在り方に憂いと納得を混ぜた嘆息をこぼした。
『でも、誓約が何であれ、私は拓海の為に身は捧げないわよ、生きて生きるの!』
「何を突然……」
『良いの~』
 モスケールで別の存在からの監視などを警戒しつつ、楽しそうに笑うメリッサに拓海も笑みを浮かべる。
 こうして、地中海に混乱をもたらした愚神との戦いが終わった。


結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

  • 黒ネコ・
    獅堂 一刀斎aa5698

参加者

  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
    人間|20才|男性|攻撃
  • 『星』を追う者
    ルビナス フローリアaa0224hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 絶望へ運ぶ一撃
    黛 香月aa0790
    機械|25才|女性|攻撃
  • 偽りの救済を阻む者
    アウグストゥスaa0790hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 難局を覆す者
    久兼 征人aa1690
    人間|25才|男性|回避
  • 癒すための手
    ミーシャaa1690hero001
    英雄|19才|女性|バト
  • その背に【暁】を刻みて
    東江 刀護aa3503
    機械|29才|男性|攻撃
  • 最強新成人・特攻服仕様
    大和 那智aa3503hero002
    英雄|21才|男性|カオ
  • 光旗を掲げて
    フィアナaa4210
    人間|19才|女性|命中
  • 翡翠
    ルーaa4210hero001
    英雄|20才|男性|ブレ
  • 黒ネコ
    獅堂 一刀斎aa5698
    獣人|38才|男性|攻撃
  • おねえちゃん
    比佐理aa5698hero001
    英雄|12才|女性|シャド
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