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暗夜に染まる外なる森
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最終発言2018/11/16 10:47:25 -
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最終発言2018/08/14 11:10:47
オープニング
●汚染された大地
数週間前、宇宙から飛来した隕石が地球地表に突き刺さった。
その隕石は直径100Mほどなのにもかかわらず、地表がえぐれるだけですみ、大した被害は出ずに済んだ。
しかしだ。
その宇宙は膨大な霊力の塊で霊石の外郭に包まれたそれは愚神の箱舟であることが判明した。
なぜわかったか。
中身がなかったからだ。
その隕石はまるで卵の殻のように外角のみ霊石で構成されており。中がすっぽり空洞となっていた。
そう、空洞。
発見された直後から殻の中には何もなかった。
何も。
中に愚神が、おそらく愚神が。
……入っていたはずなのに、なぜ。
その結果はすぐに得られることになる。
事幸いにして、それは町や、村と言った人里を襲ったものではなかった。
ただ、それは生命多き森に牙をむけた。
森が変異する、外来種により汚染される。
先ず最初に気が付いたのは現地人だった。
ライフルを背にかけ、ガンベルトには弾丸を沢山。新鮮なシカ肉を食べたいがための行動だった。ここの鹿は元気な分赤みが引き締まっていて美味しい、余った肉は燻製にして。
そう取ったシカ肉を解体した後の事を考えながら草木をかき分け進んでいるとさっそく獲物を発見した。
まだ小鹿。母親とはぐれてしまったのだろうか。
その男はいったんあたりを見渡すと思い直す。
母親がいたとしても、心配して駆けつけてきたところを撃ち殺せばいい。
そう舌なめずりしてライフルを構えたとたん。猟師はプロにあるまじき行いをしてしまった。
踏みしめた足が、木の葉の下の枝を踏み砕いてしまった。
森に響く異音に異変を感じ取って耳をピンっとたてて警戒する小鹿。
あたりを見渡すとやがて猟師に気が付いたのかその一点を凝視する。
ばれた、そう猟師は内心慌てつつ、この失敗をリカバリするためにゆっくりと弾丸を装填。サイトを覗く。
その銃口を眉間に合わせる、しかしその時新たな違和感を猟師が襲うのである。
一向に小鹿は逃げるそぶりを見せない。
それどころかこちらを見て。口角を釣り上げている。
鹿が、笑った?
次の瞬間鹿の頭が真っ二つに裂けた。その裂けた頭の奥にぎらつく片眼と大きな口。
まるで金属をこすり合わせるような奇声をあげそれは男に襲いかかった。
悲鳴が、骨の砕ける音が、肉のさける音が、長く、長く響いていた。
それが発覚したのはその猟師が肩につけていたカメラの録画映像から。
森の生物の異形化は、やはり近くに落ちた隕石の……愚神の影響だろう。
そして子の異形化は森全体に広がっていると思われる。
それはなぜか。
このデータを回収する際に警察が出動したのだが、その警官たちが見たのだ。
哀れ犠牲となった猟師、その食い散らかされた体に無数の目が浮かんでいたこと。
その目を中心に人型の何かが、こう、浮かび上がってくるような、生み出されるような、とにかく突出した物体がわらわ等と、産声のような悲鳴のような声をあげながら、猟師の男。その肉体から湧き出ていたからだ。
H.O.P.E.はこれを受けて森を閉鎖。リンカーたちの出動を要請した。
● しかし状況は悪い
今回の任務、森を封鎖したはいいが、状況があまりに危険なために事前調査が行えなかった。
なので、現状この森全体を焼却する以外に手はないと思われている。
実際H.O.P.E.もこれ以上犠牲が出るくらいであれば焼却してしまった方がいいと判断した、ミサイル兵器による爆撃、それを行おうとした矢先H.O.P.E.に一つの報告が飛び込むことになる。
森に少女が入ったという報告だった。
●下記PL情報
今回の任務は変異してしまった森に入り少女を連れ帰っていただくという内容です。
ただ、この状況少しおかしいです。
H.O.P.E.があたりを封鎖しているのに少女が森の中に入ることなどあるのでしょうか。
その少女とはどこから来たのでしょうか。
そう疑問を抱く方も少なくないと思います。
ただ無視するわけにもいかないので少女を見つけてください。
少女は森の中心にいます。
森の中心には異形の光景が広がっているようです。
その光景はご自身の目で確かめてください。
ただ森の中心まで行くとケントゥリオ級愚神が出現します。
その愚神は完全魔法特化型で、物理攻撃が弱点です。
攻撃は周囲にエネルギー球を自由自在に飛ばすことですが。その威力と命中精度は高いので、魔法防御職が居なければパーティの損害はすさまじいことになるでしょう。
この愚神は森の爆撃で死亡することはありません。
解説
目標 少女を見つける
今回は少女の捜索が皆さんの任務です。
ただ、森は魔窟でどこから攻撃を受けるか分かりません。
さらに少女は必ずしも連れ帰る必要はありませんし、敵は必ずしも倒さなければならないわけではありません。
・変異動物従魔
森にすむ動物たちが変異して襲い掛かってきます。
共通するのは捕食前は通常の見た目。しかし捕食する際には体が真っ二つに裂け単眼と牙が露出されます。
従魔自体の戦闘力は高くないのですが隠密性が高く、鹿やイノシシと言った陸上生物はまだいいのですが。
フクロウやリスと言った小型の生物の接近は気付きにくいでしょう。
この動物たちに出血するほどに攻撃されると托卵状態になります。
・托卵状態
変異従魔に攻撃されると一定確率で托卵状態になります。
卵は一時間程度でみなさんの肌の上で孵化し、皆さんの霊力を吸い上げながら成長します。
托卵部分を切除するか、クリアレイ等のバッドステータス回復で対処可能です。
・ディバイダー
この森の中に人型の個体が複数確認されています。
ディバイダーは人型ですが、頭が異様に小さく、体中に目がある生物です。
このディバイダーは接近戦攻撃を仕掛けてくるのですが、直接肌に攻撃を受けると托卵状態にされます。
物理防御力が高く魔法防御力は低いです。
その体は2メートル前後で、肌色なので森の中では目立ちますし、移動に気を使える知能も無いので接近には気付きやすいでしょう。
リプレイ
プロローグ
その森は必要以上の闇を纏っているように見えた。
『麻生 遊夜(aa0452)』と『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』は寄り添ってその森から吹きだす腐臭にも似た香りを肌で感じている。
「何ともゾッとする話だな、ホラー系の映画かゲームのようだ」
思わずそう、遊夜がつぶやくとユフォアリーヤは身を震わせる。
「……ん、事前調査無し……森の中、寄生体、謎の少女……わぁこわいこわい」
そう謎の少女。
大人でも恐怖心を感じる暗い森に少女が一人で入って行ったのだ。
「こんな所に少女……ね。あからさまに怪しさを感じるのだけど」
そう『水瀬 雨月(aa0801)』はいつもの無表情で告げる『アムブロシア(aa0801hero001)』とはすでに共鳴済みだ。
「実際に発見しない事には何とも言えないかしら」
「少女の特徴についてお伺いしたいのですが」
そう『小宮 雅春(aa4756)』は目撃情報をきいて歩いた。
少女の特徴、様子などやがて一枚の絵に起こすと全員にそれをくばる。
「しかし森に少女が入ったという報告、いったいどこから入った? 付近は封鎖していた筈……主要通路を避けて通ったことになる」
そう紙を眺めながらいぶかしむ遊夜。
「……ん、今の森は魔窟……入ってすぐで、生きていないか……操られて、敵の中心か……もしくは元凶の、愚神本体?」
少女自身が愚神である可能性は高い、そう判断する一行。
原因は十中八九空から落ちてきた愚神。
「……ん。隕石でやって来た愚神……見つけ出して、殺す……。愚神は、ぜんぶ、殺す……の」
『氷鏡 六花(aa4969)』はそう憎しみを押し殺すことなく噛みしめる。
「森を焼いたところで、ライヴスを介さないただの炎では愚神は倒せないわ。気は進まないけれど、行ってみるしかないわね。あの不気味な森に……」
『アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)』がリンカー全員にそう告げた。
「それに、本当に迷い込んだ可能性もある。もし本当に一般人なら早く救出せねばならない」
おとーさんおかーさんの意地にかけて。
そう拳を握りしめる遊夜。全員の意志が固まった、これから全員で森に潜ることになる。
六花はマナチェイサーを発動、ノクトビジョンを起動して警戒度を高める。
そんな中だ。
がたいのいい男に突き動かされて『無明 威月(aa3532)』が先頭を歩かされる。
「っ~」
盾を構え身をすくませながらも男の声に突き動かされるように前に。
その光景に『青槻 火伏静(aa3532hero001)』はある意味いつも通りだ。
そう思うのだった。
第一章 イントゥ・ザ・ウッズ
森では索敵範囲を広げるためにリンカーたちはバラバラに散っての探索に乗り出した。
一人、あるいは二人で一組を作り不測の事態に備える。
そんな中、二人一組というよりは、一人と一人といった感じでチームワークの欠片も見込めないようなペアが誕生している。
それが『火蛾魅 塵(aa5095)』と威月である。
「オラァ~早く歩けってンだよォ?」
そう背後で草の根をがさがさとやられるたびに威月は言葉にならない悲鳴をあげる。
ヒンヒンと鼻をすすりながら涙をぬぐっては暗がりの奥を覗き震えあがっていた。
「とまるんじゃねぇ」
「ひっ……」
そんな威月の背中を膝で押すように蹴ると威月は前のめりに歩みを進め、またひんひん言いながら道を切り開くのだった。
そんな塵へと何かが飛びかかってくる。それを空中でキャッチする塵。
「……!」
――どうしたんですか? だとよ。
火伏静がそう通訳し、威月は塵に歩み寄る、その手にはじたばたともがくリスが掴まれていた。
「……あ」
――リスさんがかわいそうだとよ。
「ほう、これでも同じこと言えんのか?」
告げると塵はリスを威月の目の前に差し出す。
そのリスは一瞬脱力したかと思うと全身からワームのような触手を伸ばし奇声を発した。
「ひっ!」
後ずさる威月、次いでその触手が塵の肌を食い破る前に、塵はそのリスを霊力の炎で燃やした。
もがき苦しむリス型従魔。
断末魔の悲鳴を背中で聞きながら威月は膝を抱えて涙をこらえる。
怖いの、ダメ。グロいの、ダメ。
「うう。…………」
――隊長、隊長、なぜ隊長はいないんですか…………。だとよ。
変なところまで翻訳されてあたふたする威月。
それを興味なさ気に見送りつつ、塵は歩きだした。
「おいここにもなんかあるぞ」
そう嬉々として告げる塵、そこに横たわっていたのは、まるでかじり取られたように原型が分からなくなっているが人型の、おそらく犠牲者だ。
その死体の懐に手を突っ込む塵を見て。威月は今世紀最大の嫌な顔をした。
「ひぃ…………」
過呼吸寸前にまで陥る威月だったが。
「おう、仏さんに失礼だろうが、イヒヒヒ」
そう芝居がかった口調で血にまみれた拳をにちゃにちゃさせながら言った。
威月が背後でよろめく音を聞きながら塵は素手を魔術加工し手際よく死体を裂いていく。
「かじられたのは死後だな。餌になるたぁぶざまだねぇ。しかし直接の死因は体内の膨張。特に首、頭らへんか? 何かが巣食ってた感じがするぜ。空洞がある。綺麗に食いちぎられてんな」
その時、きちぃと何か粘液質な音が聞こえる、鋭い痛み。
見れば塵の手の平からうねるワームのようなものが体に潜り込もうとしていた。
「ああ…………塵さま!!」
鋭く叫ぶ威月、こういう場合どう対処したらいいのだ、わからない。
そうこうしている間に塵は素早くナイフを抜くと自分の手の平に突き刺した。
次の瞬間、死体が起き上がる、ろくに口も顔もない状態で塵に襲い掛かろうと腕を伸ばす。しかし。
「鬱陶しいぜ。さっさと行くぞオラァ!」
空いた左手に獄炎を宿しての正拳突き、その後えぐれた手の平から血を抜く。
血の中に白い固形物が見えた。油ではないだろう。卵だろうか。
「だだだだだだ」
――大丈夫ですか? だとよ。
塵は素早くヒールアンプルを使用。包帯をあっという間に巻いてしまうと手を振って歩きだす。
「大丈夫に見えんのかよ、どんくさ女」
「……………………!」
――おいて行かないでくださいだとよ。
それにしても、と火伏静は思う。
(帰ったら、座ってるタイチョーの首にしがみついて、意識が飛ぶまで猛烈に喋りながら締め上げるな、こいつぁよう)
「トオイよ感じるか?」
『人造天使壱拾壱号(aa5095hero001)』が塵の中で頷いた。
「くせぇな。見えるぜ。俺ちゃんと同じによ、正気を失った誰かのオーラがよ」
リスの残骸を地面に捨て、それでも右手に炎を纏い明るくする。
敵はまだ出ない。
追いついてきた威月の背中を蹴りまた戦闘に立たせた。
そんな二人の騒がしさは森の静寂でも抑えきることができないようで、雨月は木の葉のざわめきの中に二人のバカ騒ぎを聞いていた。
「始まったみたいね」
雨月は改めて警戒を強める。
野生動物ならこちらに向かってくることはない。人に対して警戒の方が強いはずだからだ。
しかしこちらに向かってくる動物は従魔だと睨んでいた。
突如、鳥の鳴き声。
フクロウがどこかの木に止まっているのだろう。
こちらを見ている? そんなバカな。
しかし周囲に獣の気配が増えていく。雑な気配の消し方。
消す必要など無いのだろう。
だって今日の獲物は雨月だ。
突如飛来する無数の従魔を雨月は空を覆うような爆炎で防ぐ、次いで雨月は全員に無線機を介して警告を発する。
「どうやらここからが本番みたいね」
雨月は警戒して、地面ごと行く手を遮る木々を吹き飛ばす。蛇や小動物がちりとなって霊力に帰る。
草の根をかき分けて直進してくるリスや野生化した猫と言った小動物たちは、自身を中心としたゴーストウインドで吹き飛ばす。
この程度の敵ならば攻撃があたりさえすれば怖くない。
範囲攻撃は得意だ、遅れをとることはないだろう。ただ。
「りっちゃんは大丈夫かしら」
そう背後から迫る敵に追いつかれまいと走りながら雨月は彼女の事を思う。
六花は襲われていた。それは頭が異様に小さく、体中に目がある……これが噂のディバイダーだろう。
その拳は太く、腕は長い、追いつかれた六花はその拳を叩き込まれそうになるが転がって回避。
そのまま泥まみれになるのも構わずにディバイダーの足元をすり抜け背後に。
終焉之書絶零断章を広げ、ありったけの霊力をその背に叩き込んだ。
のけぞるディバイダー。その全身から細い触手のようなものが伸びるも引っ込み。
ディバイダーは振り返って六花を殴りつけた。
だがそれは氷の鏡に映った虚像。
本当の六花はすでに背後に回っていて。
「これで!」
氷塊が刃となってディバイダーの心臓を切り裂いた。
六花は感慨もなくそのもがく死体を見つめている。
体からあふれ出すうねうねとした触手。
それがおぞましくて六花は地面ごとそれらを凍結させる。
「森全体から殺意を感じるな」
そんな六花のインカムを震わせたのは遊夜の声。
森全体がヤバいとなると進行速度より索敵を重視すべきだと提案した。
「囲まれて足止めされちゃ意味はないからな」
――……ん、慎重に……そして早く、先に進むの。
遊夜はカメラとモスケールを起動、状況保存と自分達以外の反応を把握する。
「森の動物は基本やられてると見て良い、大きいのも厄介だが小さい方が危険だ」
――……ん、大きいのは……分かりやすいけど、小さいのは……音も少ないし、見つけ辛い。
すでに何体か屠っている状態ではあったがそれでも森から敵の気配は消えない。
「あのイノシシ挙動がおかしいな」
野生では絶対にありえない、棒立ち、そして周囲を警戒するように視線をあたりにむかせる。
イノシシは目が悪い、鼻と振動で気配を察知する生き物だ。
「狙うか…………」
ユフォアリーヤがその言葉に頷くと、一発弾丸を放つ。
サイレンサーで音を消した魔弾は眉間に命中。イノシシは全身からうねうねと何かを生やしそのまま倒れた。
そのまま木から降りると進軍。
横たわったイノシシにショットガンの銃口を向けると、そのイノシシは憎々しげに顔だけ持ち上げ遊夜を見た。
打ち抜いた眉間から何か管が生えてきて、それは目のように花開く。
「デカ物は一気に吹き飛ばした方が早い」
そのまま銃弾を叩き込む、ショットシェルは多数の玉を内包し、従魔をあっという間にひき肉に変えた。
――……ん、小さいのは……姿を見る前に、面で攻める。
前方から銃声を聞きつけて何かくる。
ディバイダーだろう。
遊夜はにやりと笑ってマグナムに持ち替えた。
戦闘が激化する最中一番森の奥地に近場所まで潜っていたのは『彩咲 姫乃(aa0941)』だった。
姫乃は姿をかくしイメージプロジェクターで迷彩まで施している。
「しっかし少女か、――普通のだって思ってもいいのかね」
――疑り深くなってますニャーご主人。
そう『朱璃(aa0941hero002)』が軽やかに告げた。
「情が移った後に実は愚神でしたなんて漫画でもよくある話だからな」
――そうでないことを祈ってるわけデスかニャ。
「微妙にナイア連想するシチュエーションだしな」
告げながら木々の隙間、森の狭間を移動し続ける。
その時だ視界に人影が入った。
今まで見送っていたディバイダーではない。
あれは。
――噂の少女、ですにゃ。
朱璃の言葉に頷くと姫乃はより一層深く気配を遮断する。
少女は何かから逃げ惑っていた。森の奥に入るように、それを追っているのはディバイダー。
「追ってる? 愚神の仲間じゃないのか?」
ただ、だまし討ちには懲りている最後まで疑いの念は残したまま姫乃はディバイダーの上空を取り。そして。
「ちょっととまれ」
上から落下するように背後をとってその首を斬り飛ばした。
血のかわりに傷口からうねうねと何かが飛び出す。
それを姫乃はドン引きした様子で見守っていたがその巨体が倒れる。
――ヘンテコな物の怪未満が蔓延しているようですがニャ、ご主人平気デスニャ?」
「あー? これは厳しいな、でもまぁ。怖がってたら仕事にならないからな。」
ディバイダーからあふれ出した物を眺めて姫乃はそう告げた。
――ご主人特殊とはいえ一応女子なのだしもう少しか弱さあぴぃるしても罰は当たんねーデスよ。
「特殊で一応でしかないからな。あと性別に関係なくこういうグロいのは駄目な奴は駄目だろ」
告げると姫乃は少女に向き直る。
「大丈夫か?」
そう問いかけると少女はにっこりと笑って言った。
「僕を助けに来てくれたのだね。ありがとう」
告げると少女は手を差し伸べる。ただ。
「ただ、僕はもう感染してる。手遅れだ」
その指先から爪がはがれ、血しぶきと共に顔を出したのはディバイダーからあふれ出した物と同一のもの。
「自分で自分は殺せない。だから君たちにお願いしたいんだ」
僕を殺して。
そう少女は告げた。
第二章 地球への前線基地
雅春は自分が屠った従魔の足跡を眺めていた。
森の中央から真っ直ぐこちらに伸びている。
この従魔たちは何を思って使わされたのだろう。
それを考えていた。
調査が終わればイメージプロジェクターを再起動。
再び森に紛れる。
オートマトンを走らせ先行。
さらに森の奥を目指した。
オートマトンの役割は迎撃ではない。むしろ目立つように動くことでの陽動。実際オートマトンのおかげで雅春自身は敵と接触することなく先に進むことができた。
オートマトンが引っかかれば、オートマトンを幻想蝶に仕舞いもう一度出せばよかったし。
その人形が感知したのだが。
その人形を凝視している何者かがいた。
それは少女。
雅春は思う、通報にあった少女なのではないかと。
「怖がらないで」
そう人形を差し向けると少女は肩を跳ねさせた。
「僕がわかるの?」
首を傾げる少女。
時同じくして六花も少女と接触していた。
「……ん。ねぇ、こんな所に、一人で……何しに来たの?」
少女に真っ向から問いかける六花。
「僕は警告しに来たんだ」
告げる少女…………らしき人物、声は重く、異質なほどに冷静。
その言葉に雅春は言葉を返した。
「警告? 何を?」
「僕を殺してってことさ」
次の瞬間、六花は目の前の少女に幻影蝶を放ち、雅春は空から飛びかかってきたフクロウ、その盾となるべく体をさしだした。
雅春の顔面を鋭い爪が切り裂き、血がしたたる。
だが傷が、おかしい。
痛いだけではない、まるで心が削られるような冷たさ。
なんだこの感覚は。
雅春は顔面を抑えて左目だけで少女を見た。
「あーあ、おなじになっちゃったか」
少女が何か振り上げている、それは斧。
「切除しないと、切除」
雅春は地面を転がってその一撃をかわす。
雅春の追い込まれている状況は以上だったがそれでも本人の心は冷え切っていた。
自身の心情を介在させない。
いかなる結果であっても人形然として心を乱さぬこと、それを心がけている。
目の前にある事実を知り。仲間の在り方を知り。己の無知を知ること。
だが、今回ばかりは何かを知る前に三枚に下ろされてしまいそうだ。
対して六花の目の前にいる少女は身もだえ苦しんでいた。
愚神で無い場合はダメージが無いそれ。
であれば彼女は愚神か。
それとも。
「邪英か…………」
どちらにせよ。人類に仇なす者であることは変わりはない。
ヴァルリア断章から五つのエネルギーを具現化。それを束ね森が氷りつきかねないほどの一撃をみまう六花。
少女はその冷気の中で凍結動けなくなるはずだったが、違った。
「ははははは、忠告はしたから」
少女は光となって消え去った。
その光は森の中央へ向けて飛び去っていく。
「……ん。愚神は、ぜんぶ……殺すの……」
森の中心部に向かって走る六花。
その中央にいち早くたどり着いた遊夜はその光景に目をむいていた。
「やれやれ、なんて光景だ」
――……うわぁ、これは……すごいね。
そこに広がっていたのは人が知る森ではなく、生命のゆりかごと言ったところだろうか。
木々にぶら下がっている硬質な繭のようなもの、それは一定間隔で脈動し、脈動と同時に光を放っている。
そしてそのエリアには愚神がいた。
人型の巨大な愚神。
「あいつ、どこかで」
遊夜がそうつぶやいた瞬間だ。
少女の幻影が遊夜の目の前に現れた。
「見つけた」
その時強い衝撃波で遊夜は木の上から叩き落とされることになる。
「おいおい、俺達は君を助けに来たんだがな」
そう頭をさすりながら起き上がる遊夜。
その遊夜へと悠々と歩み寄る人型愚神。
その足を止めるため雨月が身を躍らせた。
「とまりなさい」
ギリギリ遊夜を攻撃範囲に含めない位置でのディープフリーズ、それは愚神の動きを止める、ことには成功。
ただ少女はそのまま氷った空間内を悠々と歩いて見せた。
「あなた何者? そしてこいつ。コレクター。よね」
動きを止められているケントゥリオ級愚神をさして雨月は言った。
「あなた宇宙の?」
「僕は、夜の王。本物の安寧を授ける物」
告げると少女は雨月を手も触れずに吹き飛ばすと同時にコレクターと呼称された愚神の拘束を解いた。
「魔法の効きが悪い、物理が効きやすいか?」
――……ん、威力と精度みるに……魔法特化。
遊夜の声を聴きながら。雨月は試算する。今の戦力と敵の戦力。
自分の予感が正しければきっと。
雨月は腹を抑えるふりをして蹲りダメージコンバートをセッティングする。
歩み寄る少女、少女が雨月の髪の毛を引っ張り顔をあげさせる、息がかかるほどの距離、少女の顔立ちは美しかったが息がくさかった、まるで臓物が腐っているかのような。
「君、僕と一つになる? 自我を失って個を失えば苦しみも悲しみもなくなるよ」
「ごめんなさい、そう言う趣味はないの」
押し付けられた白い魔本そこから具現化された氷の柱が少女の腹を食い破る。
少女はそれをきっかけに、笑いながら消えた。
「ははははははは」
「走って」
遊夜に告げる雨月。その背後からコレクターが襲うが。
「くっそ、何だこの状況」
女郎蜘蛛でコレクターの動きを姫乃が縛る。
そのまま木々の間を弾かれるように姫乃が先導。
「こっちだ! あらかた雑魚は倒してある」
遊夜が雨月を抱え起こし殿を務める。
コレクターを牽制しながら走った。
――デケー動物はまだしも小型のは嫌らしいデスニャー。鳥とかもいたら嫌らしいデスニャー。
そう朱璃が悲鳴をあげる。
「どうしたんだよいきなり」
大岩を飛び越えて姫乃は告げる。
――どうしたと言いますかご主人。――あたしらは速度のために装甲なんてそぎ落としているんデスよ、なんちゃらはざぁどの苗床案件デスニャ。
「いや、いやいやいやいや、何おっぞましいこと言ってくれてんですかねうちの猫様は」
――あたしも嫌だから気ーつけてくださいって話デスニャ。森の生き物なんて速く動く事はともかく潜む事に関しては先達たちの宝庫なんデスから。
「ああ、気をつけ――」
――ご主人、精神はともかく体は乙女でアイドルやってんデスからニャ、気をつけねーとデスニャよ。
今そのことを思い出させんじゃねぇ。
そう言ってやりたかったが前方から襲う蝙蝠を真っ二つに切っていて暇がなかった。
「くそ、意外と早い」
遊夜が歯噛みする、迎撃してはいるがコレクターの速度は落ちないのだ。
「私がもう一度足止めを…………」
そう雨月が告げた矢先。
凍てつく光線がコレクターを射止める。
顔をあげればそこには六花がいた。木の枝にちょこんと座り本のページをめくっている。
「りっちゃん」
「雨月さん、走って」
その六花の視界に入ったのは先ほどの少女。
「まだ生きてた」
「りっちゃん、あの子魔法が聞きにくいわ」
その言葉を受け六花は即座に高速詠唱。SW「氷鏡」をSWダメージコンバートに換装し。断章の凍気を凝縮して空に霊力を展開。
それは巨大な氷槍となり、降り注ぐそれで少女の足止めをした。
これなら逃げられる、そう思った矢先。
「あぶない!」
木の後ろから身を躍らせたそれ、ディバイダーが雨月の肩にかじりついた。すぐさま遊夜がリボルバーで頭を射抜いて処理をしたが。
「大丈夫か?」
「ええ、心配ないわ」
雨月の肩にはざっくりと歯形がついていて血がにじみ出ていた。
「体に、何か入ってくる…………」
雨月の肩口、その肌が不自然に盛り上がり縮小しを繰り返している、何者かが体に入り込んでいるのは確実だった。
「切除、が必要かしら」
朦朧とする意識の中氷を凍らせて鋭利な刃を形成。それを首元に突き立てようとしたとき。雅春がその手を止めた。
「クリアレイで治療できる」
雨月の肩を支え、走りながら雅春は回復を。
背後に迫る敵はもはや少女が追いかけてくるのみだが、彼女はどうあがいても振り切れない。
「くそ、誰かが残るしかないか」
そう遊夜が立ち止まろうとしたとき一行は塵とすれ違う。
その隣には威月。
塵は待っていたのだ敵が巣から出てくるときを。
不気味に光る緑の目、次第に青い焔が蛇の如く浮かぶ。
「死ねよ。無様に…………」
告げると塵はその杖から幻影蝶を放つ、魂をむさぼるそれは少女に群がると、少女は悲鳴をあげながらその幻影に取りつかれた。
「大丈夫ですか?」
雨月へと威月が歩み寄る。
症状の進行は早い。威月も治療に参加する。
「しばらく寝てろよ、俺ちゃんきっと帰ってくるぜぇ、お前を殺しになぁ」
告げて塵が振り返ると、もう森の出口はすぐそこ。
リンカーたちは全員が森から脱出することができた。
「焼き尽くせよ。お前等!」
塵の啖呵と共にミサイルが森に放たれる。爆撃洗浄。
数分の後。そこには依然森があったとは思えないクレーター地帯が出来上がっていた。
エピローグ
今回森は焼き払われる結果になったので、詳しい調査はできなかった。
ただ少女は愚神であることと、いくつかの卵を入手できたことは大きかった。
「これ、本当に持って帰るのか?」
そう苦笑いを浮かべる遊夜に雅春は頷きを返す。
自身から切除した卵や森で拾った肉片などをサンプルとして保存する。
これで何かわかればいいのだが。そう雅春はパンドラの箱に封をした。