本部

【異界逼迫】連動シナリオ

【界逼】海を紅に染めるなかれ

絢月滴

形態
ショートEX
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
13人 / 4~15人
英雄
13人 / 0~15人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2018/08/12 20:28

掲示板

オープニング

●顕現
 アフリカ西部。濃い青空をセイキチョウが飛んでいく。
 空よりも更に青いその鳥はゆっくりと降下し始めた。鳥の目に移るのは、先刻浮上した古代都市。
 その大きさはおよそ直径二十八キロメートル。
 高さ五十メートルの城壁で囲まれた内部の建物は立派と形容して良いものであり、その装飾はギリシャ風であった。継ぎ目のない真っ白な特殊なセメントで作られた建物。ほとんどの建物は高さがそろっているものの、ところどころに高層の建物が存在している。
 道は整備されておらず、土が剥き出しであった。もしこの道路が現代の都会にあったのならば、片側二車線の計四車線という幅広のものだろう。
 生活感は全く、人の姿もない。
 セイキチョウが都市の中央にある城のような大きな建物に近づく。
 刹那、鳥は透明な何かに弾かれた。
 降りられないと判断したのか、鳥は古代都市から飛び去る。
 
 この都市の名はスワナリア。
 マガツヒが――比良坂清十郎が狙う場所。
 
 

●原始の海に迫る黒
(……ああ)
 水の振動を感じて、海の主たる古代クジラ――ルオンノタルはゆっくりと目を開けた。
 周りで海竜たちが騒いでいる。何か外の世界で大事があったのだろう。
 水がルオンノタルに囁く。
 侵入者だ、侵入者だ、侵入者だ。彼らは、彼らは、彼らは――。
(それは大変だ。……皆に伝達しないと)
 ルオンノタルは胸びれと尾びれを大きく動し、細い体をしなやかにくねらせながら、海中を進んでいった。



 ふふーん、と黒崎由乃(くろさき・ゆの)は海への入口を見つめていた。
 彼女の周りには十人近くのマガツヒ構成員が居る。しかし由乃の部下、という訳ではないようだ。皆、それぞれ思い思いに準備をしている。
「あそこに居る生き物を捕まえて、清十郎ちゃんのところに連れて帰ればいいのね!」
「由乃。清十郎様は死体、または海竜の部位を持ってこいとのご命令を下されたのだ。別に捕獲しろとは」
「何言ってるの!」
 がん! と由乃は持っていた傘を地面にたたきつけた。
 彼女に話しかけた男性が一歩下がる。
「生け捕りにした方が清十郎ちゃんが褒めてくれるでしょ!」
 全くもう、と由乃は彼から視線を逸らした。もうこれ以上関わりたくない、と言った風に男性が離れていく。
「前回は失敗したけど……今回は絶対、由乃ちゃんが勝つんだから!」
 鳥かごの中、あふれんばかりの宝石。
 由乃は叫んだ。
「前みたいにはいかないんだから!」
 
 

●緊急指令
 スワナリアの調査に向かっていたエージェントから緊急の連絡が入ったのは、太陽が空の一番高いところを通過した直後のことだった。
『既にマガツヒが侵入している』
『南門。そこから広がる水路の向こう。不思議な海でそこに住む生物たち(以下海竜)を狩猟している』
『殺された海竜はまだ居ないが、時間の問題だ』
『早急に応援を頼む』

解説

マガツヒによる海竜狩りを阻止することが今回の目的です。
以下の事柄に注意しながら、目的を達成して下さい。

◆スワナリア基本情報
 ・スワナリア内部へは東西南北に存在する門から入ることができます
 ・スワナリアの周りは小山(おそらく埋まっていた頃に積もっていた土層)に囲まれています。
  ただし、四つの門の周辺に小山はありません。
 ・一番大きい門は東門ですが、マガツヒが既に占領しています。
 
◆指令に関する基本情報
 ・スワナリアへは南門からの侵入となります。
 ・南門から入ると非常に広い水路(深さは膝程度)があり、その水路は地下に繋がっています。
 ・地下には広大な海が広がっています。ただし、海面は出られません。昼夜の概念があります。
 ・基本的には浮上すれば明るく、潜れば暗くなります。
 ・海底があるかどうかは分かっていません。
 ・障害物として、岩や崩壊した建設物が幾つかあります。
 ・海竜の数・生態は不明です。

◆黒崎由乃(前回の交戦記録より)
 ・由乃自身に戦う能力はない。
 ・宝石を核とした戦士(前回は泥人形とヒュドラ)を作り出す
 ・戦士はどのような姿になっても由乃の命令を実行し続ける。
 ・戦士を止める方法は以下のどちらか。
   1:核となっている宝石を壊す
   2:由乃の傘を破壊する

※※※以下PL情報※※※

◆敵情報(由乃以外)
 ・マガツヒ構成員十名。
  内訳
   ブレイブナイト    ×2
   ドレッドノート    ×2
   ソフィスビショップ  ×1
   バトルメディック   ×2
   ジャックポット    ×1
   カオティックブレイド ×1
   ブラックボックス   ×1

◆その他
 ・水路の近くには竜の像を象ったオーパーツが存在します
 ・そのオーパーツに触れると、脳内に直接言葉が響き、海中に入っても呼吸が出来ることが説明されます。

リプレイ

●スワナリアへ
『黒崎由乃……』
 エージェントからの情報にナラカ(aa0098hero001)は何処か目を輝かせていた。前回の交戦記録にもあった彼女の台詞――清十郎ちゃんに褒めてもらうため――に好奇心を強く刺激されている。そこまで強い意志を由乃が如何な意志の輝きを瞬かせるのか。是非会って確かめたい。そう興奮する彼女に対して八朔 カゲリ(aa0098)は一つ、呟いた。
「行こう。時間がもったいない」
『そうさなあ。行こうか』
 八朔 カゲリ(aa0098)がナラカ(aa0098hero001)と共鳴する。瞳が黒から真紅へと代わり、その髪は銀に染まり腰まで伸びた。



「スワナリア……無造作にオーパーツが設置されているとは実に興味深いですね」
 構築の魔女(aa0281hero001)はそう呟いた。彼女の誓約者たる辺是 落児(aa0281)はぼんやりと、明後日の方向を向いている。
「それでは、行きましょう」
 構築の魔女は落児と共鳴する。纏う赤が一層艶めいた。



「……斯様な巨大な遺跡が地下に眠っていたとはな」
『世界蝕以前から……この世界には不思議なものがたくさんあったのですね』
 獅堂 一刀斎(aa5698)と比佐理(aa5698hero001)は遠くからスワナリアを見ながら言った。あそこで暴れているであろう敵の事が頭に浮かぶ。
 黒崎由乃。
 今回はどのような【人形】を作り出してくるのか――。
「比佐理」
 一刀斎が差し出した手を比佐理が握る。瞳の色が紫に染まり、彼の姿は黒豹そのものとなった。



「やれやれ、こんなに壮大でロマン溢れる場所だってのに……」
 麻生 遊夜(aa0452)の言葉にユフォアリーヤ(aa0452hero001)がこくこく、と頷く。
『……ん、無粋だねぇ……何を考えてるんだろう? ……でも、悪い事には違いないから……お仕置き』
「そうだな」
 遊夜の義眼にユフォアリーヤが触れる。次の瞬間、遊夜の姿が変化した。若干若返り、頭には狼耳。そしてふさふさの尻尾が生えた。



「マガツヒの黒崎由乃……。これまでのレポートを見るに、比良坂清十郎に心酔していると思われますが……」
 月鏡 由利菜(aa0873)は前回の交戦記録を見て、眉根を寄せた。一方、ウィリディス(aa0873hero002)は心底怒っている、というような顔をして。
『マガツヒの連中もしつこいねー。遺跡調査くらいのんびりやらせてよ! ね、ユリナ!』
「そうですね。その為にも――海に平穏をもたらしましょう」
『うん!』
 由利菜とウィリディスが共鳴する。幻想蝶が緑の翠玉『レスト・エメラルド』に変化し、聖女の姿となった由利菜の胸部に収まった。



「あっちのフットワークが軽いのか、どうしても後手後手に回ってるなぁ」
 うーん、と九字原 昂(aa0919)は首の後ろをこすった。それを見ていたベルフ(aa0919hero001)が口を開く。
『俺達の仕事の性質上、受け身に回るのは仕方ない。そこからどう巻き返すかが重要だ』
「まぁ、このまま好き勝手されるつもりは、さらさら無いしね」
 当然だ、とベルフは返答する。そして二人は共鳴する。外見に変化はないものの、その顔からは一切の柔らかな色が消えた。



「水中戦か。黒鱗の人魚の出番だね」
 海神 藍(aa2518)が禮(aa2518hero001)に話かける。禮は大きく頷いた。
『ええ、任せてください!』
「うん、頼りにしてるよ、禮」
 幻想蝶に触れ合い、藍はその姿を変えた。 青紫の瞳に長い黒髪、海軍の礼装風の黒っぽい衣装で頭に小さな冠を載せた女性の姿。普段は藍が握る主導権は今回は禮が受け持った。
『足で水をかくのって、非合理ですよね』
 そう言いながら、禮はフィンスイミング用の足ヒレをブーツに取り付ける。そう? という藍の突っ込みは彼女には聞こえていなかった。



「マガツヒ……どんな手を使ってくるか分からない」
 でも! と藤咲 仁菜(aa3237)は空を見上げた。
「絶対守りぬく!」
 力強い彼女の宣言にリオン クロフォード(aa3237hero001)は悪戯っぽく笑った。
『そうだ。どんな状況でも諦めない!』
 幻想蝶に手を重ね、二人は共鳴した。先の方だけ茜色が残る、茶色の髪。瞳は橙色になって、白い鎧を身にまとう。
 それは、「守る」意志を体現するように。



『密漁……う~ん。なんかイメージと違うなあ』
 匂坂 紙姫(aa3593hero001)は頬を掻いた。
「資金源……? いや、ここで考えていても詮無いことか」
 そう言いつつも、キース=ロロッカ(aa3593)は考えることを止めなかった。マガツヒが行うことに理由がないとは思えなかったから。もし敵を拘束できたら、その理由が分かるだろうか。
「ひとまず、行きましょう」
『うん!』
 キースと紙姫、二人の姿が混ざり合う。白色だったキースの髪が黒に染まった。イメージプロジェクターを使い、周囲の外見に溶け込む。
 皆が行ってから、最後に水路に侵入しよう。キースはそう思った。
「ボク達は伏兵として、この局面を支配していきましょう」



「海竜って……クジラみたいなもんっす? 王さん見た事は?」
 君島 耿太郎(aa4682)はアークトゥルス(aa4682hero001)に尋ねた。
『今の俺には覚えはないな……。とにかく、敵の目論見も分からん以上見過ごすわけにはいかない。行こうか耿太郎』
「弱きを守る!」
 誓いを口にし、耿太郎とアークトゥルスが共鳴する。青の目。銀の髪。鎧とさーコートを纏い、青いマントを翻す姿はまさしく騎士のそれだった。



「マガツヒだそうだ、アオイ。阻止せねばならないね」
 狐杜(aa4909)の言葉にレポートを見ていた蒼(aa4909hero001)が呟く。
『……これは水中戦になるか』
「用心せねばな」
 狐杜は蒼と共鳴した。狐耳に和装姿。いつも身に着けているサングラスは、外した。



『ふむ……なんとも懐かしき気配がする。まるで原初の海のような……』
 オールギン・マルケス(aa4969hero002)は豊かな顎髭を撫でた。彼の肩に乗る氷鏡 六花(aa4969)は一点をじ……と見つめている。そして、絶対的な意志を持って、口を開いた。
「……ん。いこう、オールギン。海も、生命も……一緒に護ろう」
 六花がオールギンに話しかける。その黒の瞳に宿るのは氷を思わせる確かな戦いへの意志。オールギンは笑い、そして深く頷いた。次の瞬間、彼の姿はライヴスの粒子――まるで氷結晶混じりの海水のような――となり、六花へと憑依する。彼女の長く艶やかな髪は白雪色に、丸く大きな愛らしい瞳は極光の如き玉虫色に変わり、纏う衣装は白と蒼を基調としたバトルドレスの如く変化した。



●新たなる力
 ナイチンゲール(aa4840)は門の前で迷っていた。
 作戦の人手不足を憂慮して参加したものの、不慮の事態でパートナーである墓場鳥は到着が遅れている。一緒に来た仲間達は一足先にスワナリアの中に入っていった。
 共鳴できない自分が行ってもいいのだろうか。
 足手まといにならないだろうか。
 ああ、力が……力が、欲しい。
 そんなナイチンゲールの後ろからふわりと真っ白なライヴスの蝶の群れが徐に現れる。何事かとナイチンゲールは警戒した。
 しかし蝶の群れは彼女に危害を加えることなく。
 やがて見知らぬ小柄な女が――たった今、舞い降りたような姿で――現れた。
「誰っ?」
 声を荒げるナイチンゲールに女はくすくすと笑う。
『あなた次第でしょう』
「……え?」
『戦へ往くも留まるも。この海を守るも紅く染めるも。わたくしを定義付けるも。凡ては聖心のままに。此方にわたくしを招いたのは、あなたなのですから』
「私が……?」
 驚きつつもナイチンゲールは納得していた。確かに力への意志を強く抱いた。
 女はナイチンゲールに手を差し伸べる。
『さ、わたくしに示しなさい。善き選択を――あなたという【徴】を』
 ナイチンゲールは深く息を吸って、吐いた。
 今は一刻を争う。是非もない。
 ナイチンゲールは女の手を取った。
「この“戦いに終焉を”!」
 それは新たな誓約。
 女は笑った。
 ナイチンゲールの髪が赤黒く染まり、その頬からはそばかすが消える。誓約を結んだ彼女の名を呼ぼうとして、聞いていないことに気づいた。
「あの」
『この戦いが終わったら、名を教えましょう。……それまでは』
 unknown(aa4840hero002)、と。



●水路
「……静かですね」
 スワナリアの南門をくぐり、構築の魔女は呟いた。幅広い水路の周りには真っ白な柱が等間隔で立っている。ギリシャ風の彫刻が施されたそれらは、どれも頑丈そうでちょっとやそっとじゃ壊れることはなさそうだ。
「逆に恐ろしくもあるね。警戒は解かない方が良い」
 戦屍の腕輪を見ながら、狐杜は言った。今のところ、何も反応はない。
 膝までの深さがある水路を皆が進んでいく。激しい水音は出さないように注意するも、やはり完全消音は無理だった。ちゃぷん……ちゃぷん、とどうしても音が響く。
「確かに。東門はすでに奴らの手に落ちている、離れてるとは言え油断は出来んな」
 グリュックハーネスにいつでも手をかけられるようにしながら、遊夜は言った。
 ――ん、急ぐのも大事……クリアリングも大事。
 周りを用心しながら、皆が進んでいく。昴は遺跡自体に罠がないか、調査をしていた。
「侵入を防ぐため、何かあると思ったけれど」
 ――もし入られても、この先の海で排除する自信があるってことかもしれない。
 ライヴスの中で、ベルフが意見を述べる。アークトゥルスもまた、センサーやカメラがないかどうかを確認していた。
 ――昔は人も住んでたんっすかね……?
『多分な』
 ――それにしては人工物がないっす。ここは通路だったとか……。
『他の区画も調査中だ。それと合わせれば、何かが分かるかもしれないな」
 ――あ、あれ。あれ、すんごい人工物っぽいっす!
 耿太郎のその言葉とほぼ同時に、一刀斎が立ち止まった。彼の体から半透明の霊体のような姿をした比佐理が現れる。
『一刀斎様、あの像……ライヴスを感じます。オーパーツでしょうか』
 ――俺も、俺もそう思うっす!
 比佐理が指さした方向には、竜を象った像があった。ひびが入り、表面が何カ所か剥がれ落ちている。少し古びた像だ。一刀斎はそれに触ろうと近づく。何かあった時のためにと、皆が緊張を高めた。
『罠かもしれん。気を付けろ』
「ああ」
 アークトゥルスの警告に一つ頷き、一刀斎は像に触れた。
 
【この先は原始の海】

「む、声が」
「……ん。声? ……六花、何も聞こえなかった……」
 昴は周りを見渡した。
「僕たち以外、誰も居ませんね」
「ほお?」
 興味津々に狐杜もまた竜の像に触れる。

【この先は原始の海。酸素に満ちているの命の源。全てを海に委ねよ】

「頭の中に声が響いてきたよ。この先の海は酸素に満ちている、と。どうやら、この先の海では呼吸が出来るようだね」
「どうなってんだここは。頭に声が響いたり、海中でも呼吸ができたりとか……」
 遊夜が頭を掻く。
 ――…ん、何でもありだねぇ……摩訶不思議。
「皆さん!」
 不意に響いた声に、皆一斉に後ろを振り向く。
 肩を激しく上下させたナイチンゲールが立っていた。
「ナイチンゲール。おまえ、英雄は」
 カゲリは言いかけて、すぐに口をつぐんだ。
 彼女の赤黒い髪から、何かと誓約を結び共鳴したことは分かったから。それは他の者たちも同じだった。
『よし、皆集まれ! ……ライトアイ!』
 リオンが暗闇でも不自由がないよう、皆の目に特殊なライヴスを纏わせる。これでこの先が暗闇であっても、何の支障もない。
 狐杜はそっと、竜の像を見つめた。
(情報に感謝するよ。わたし達はマガツヒという敵の愚行を止める。しばし騒がしくなるが、許して欲しい)



 準備は整った。
 いざ、原始の海へ。



●海を紅に染めるなかれ vsマガツヒ構成員
 ――なんか、本当に海の中にいるみたい……。
 ぽつりと呟いた紙姫に、キースは同意する。見上げれば、太陽と思わしき光源が見える。しかしそれに近づこうといくら泳いでも、海面に出ることは出来なかった。
「光の濃淡も本物とほぼ同一ですね。呼吸ができるのがむしろ不思議な位です」
 入口にあったオーパーツといい、ここは一体何なのだろう。
 ――キース君っ。
 紙姫の声にキースは我に返った。
 ――まず、マガツヒをどうにかしよう!
「そうでしたね」
 キースはゆっくりと目を閉じ、そして開いた。その動作から彼が気合を入れ直したことが分かった。
 ――よし! さて、行こうかっ!
 キースは海の深く深くまで潜る。崩れかけた岩の物陰に隠れた。
 キースから少し遅れて、六花もまた、青の羽衣を靡かせ、深くまで潜る。
 不意に彼女の上に影が落ちた。イッカクと良く似た生物。あれが海竜だろう。よくよく目を凝らせば、蛇に似た生物も確認できる。あれもおそらく海竜だ。
「……ん。一種類じゃない、ね」
 ――豊かな海よ。
「……ん。だからこそ、許せない」
 六花がそう呟いたその時。
 頭上に居るイッカク型海竜が暴れ出した。こちらに近づいてくる敵影を六花は視認する。大型の武器。攻撃的な気配。間違いない。ドレッドノートの英雄と共鳴したマガツヒだ。向こうは六花に気づいていないようだった。すぅ、と息を吸って六花は終焉之書絶零断章を開いた。絶対零度の冷気が、彼女の手によって紡がれる。その冷気はあっという間に鋭い槍となった。
「……ん。氷槍……貫け」
 凄まじい勢いで槍が敵影に向かっていく。
 彼が六花の攻撃に気づいたのは、その攻撃を腹に受けてからだった。めきめき、と音を立てて周囲の海水が凍っていく。敵が単独行動をしていたことを、六花は残念に思った。複数人だったら絶対巻き込めたのに。けれど確実に勝利へ近づくことも大切だ。
「……ん。まずは、一人。……!」
 唐突に腕に痛みが走り、六花は振り返った。今の攻撃は下からだ。ということは、自分より深いところに、敵が居る。
 ――魔法、というよりは銃弾のようだ。
「……ん。ジャックポット。……倒す」
 六花はそちらに向かって泳ぎを進めた。近づくにつれ、海の底が見えてきた。
 ――海底があったとは。おや、あれは。
 巨大な亀の姿を六花は目撃する。普通の亀ではなく、首が長い。これもまた、海竜か。
 三人の敵。銃を向けている者。その後ろに立つ者。そしてもう一人。黒い杖が特徴的だ。
「……ん。三対一……ちょっと、分が悪い……でも、ここからなら」
 六花は再び氷槍を生成した。周囲を巻き込めば、三人でも大丈夫。そう思っていた。
 敵の黒い杖が輝く。周りの海水が物凄い勢いで回転し、渦を作った。渦と氷槍がぶつかる。相殺。
「……ん。あれは……ブラックボックス。ちょっと、やっかい」



 その頃、ダイビング用のライトを灯したアークトゥルスを先頭に皆は海面近くを進んでいた。その光に海竜が寄ってくることはなく、この海に居るはずのマガツヒも反応を見せなかった。
『もしかしたら海竜は光が苦手なのかもな』
 そんな感想をアークトゥルスは抱く。皆、警戒しながらも海中での動きに慣れようと動きを調整し、水中でも通信が可能であること確認していた。マガツヒは一体何処で暴れているのか。
『あれ……?』
 突然、禮が声を出した。
「マガツヒですか」
 昴の問いに禮は首を振る。
『大きな海の気配がします。とうさまに似た存在がいるような……?』
 ――海竜とは違うのかい?
 藍の問いにもまた、首を振り。
『うーん……いえ、それは後です。いまは急いで古の海の同胞を守らないと!』
 ぎゅ、と禮はトリアイナを握った。
 と、目の前に巨大な影が現れた。イッカク型の海竜が血を流しながら、こちらに近づいてくる。その角は折れ、鱗は何枚かが剥がれていた。それを追うように、六人の敵が姿を現す。昴は素早く、味方から離れ、敵の側面に回り込む。と、後ろからこちらを見ている別のイッカク型海竜に気づいた。
「ここは危ないよ。向こうへ」
 通じるかどうかは分からない。
 昴は言葉に想いを込めた。
 通じたのか、海竜が音を立てず離れていく。
 傷ついた海竜とマガツヒの間にリオンは割り込んだ。リオンを敵と思ったのか、海竜が鋭い目つきで彼女を睨む。
『大丈夫、俺達は敵じゃない。守らせて、君達を』
 傷ついた海竜に、リオンはケアレイを発動させた。その姿に敵はリオンが回復役だと認識したようだった。細身の剣を振りかざし、一人の男はリオンに突進する。海竜は小さく鳴き、海竜はリオンから離れ、崩れた建物の上にとどまった。
 ――やっぱり回復職から潰しにくるよね……!
 慌てる仁菜に、リオンは笑う。
『俺達を狙ってくるならカバーリングの手間が省けてラッキーだろ?』
 アークトゥルスは敵を観察する。長年の戦いの経験から分かる。今、突進したあの男。彼はブレイブナイトだ。武器を強く握り、ライヴスブローを放つ。敵は回避ではなく、防御を選択したようだ。おそらくクロスガードを発動済みなのだろう。ライヴスブローを真正面で喰らい、彼は何メートルか後ろに後退する。その表情から、アークトゥルスはその防御力を推し量ろうとした。彼の表情はそんなに歪んでいない。むしろ、笑っているように見えた。彼に白の杖を持った少年が近づく。ケアレイを発動させた。少年はバトルメディックだ。
『ある程度、防御力はあるようだ』
 ――面倒っす。
「来たかH.O.P.E.。邪魔はさせない!」
 叫ぶ女性の周りに、無数のダガーが浮かぶ。次の瞬間、それらはアークトゥルス達に襲い掛かった。皆が致命傷は避けたものの、怪我を負った。間髪入れずに、ライヴスを凝縮した玉が、昴とナイチンゲールの間で破裂した。両手でやっと扱えるくらいの大剣がアークトゥルスに振り下ろされる。回避が無理だと判断し、アークトゥルスはその攻撃を受けた。
『っ……』
 ――王さんっ。
『この程度、話にならん』
「そこ、がら空きです」
 昴が急激に距離を詰め、ハングドマンを投げた。バトルメディックの少年にハングドマンの鋼線が絡みつく。と、狐杜のライヴス通信機が着信を告げた。
「氷鏡殿」
【……ん。こっち、深いところに……三人、居た。ジャックポット、ブラックボックス、バトルメディック……。一人だと、防がれる……】
「分かった。向かおう。……ここは頼んだ」
 狐杜が深く潜る。徐々に暗くなっていく海の底。しかしライトアイのおかげで、不便はない。
「行かせるか!」
 マガツヒの少女が叫ぶ。彼女は狐杜を追いかけようとした。
『こっちだって同じだよ』
 リオンが少女の行く手を阻む。
「回復職風情が!」
『そんな簡単に潰される回復職じゃないんだよなぁ』
 自信たっぷりにリオンが笑う。
「感謝する。イオン殿」
 狐杜は海深くへと潜っていった。これではいずれライトアイの効力が切れるかもしれない、と用心のためウェポンライトを腕に装着した。
 先程アークトゥルスに吹き飛ばさたブレイブナイトが再度彼へと向かう。武器と武器がぶつかり、激しい音を立てた。
『さて、どちらがより優れた使い手か。力比べといこうか』
 一対一に持ち込もうと、アークトゥルスが相手を押し込む。二人は、集団から離れた。と、敵のカオティックブレイドが動く。
「海竜ごと滅びろ!」
 先程と同じ攻撃を彼女は繰り出した。リオンは海竜をカバーリングする。
「ふん、もう一度耐えられるか……ぐあっ!」
 不意に彼女が呻く。少し離れたところに禮が居た。その手にトリアイナを握り、海竜を攻撃する彼女を真っすぐ見つめている。トリアイナの刃に水に変化したライヴスを纏わせ、攻撃したのだ。その水はよく目を凝らしても見えない。おそらく避けることはよほどの回避力を持たなければ不可能だ。
「っ、お前か!」
『水中で人魚を相手取ることの意味、その身に刻みなさい』
 禮はトリアイナを振おうとした。止めの意味を込めたその攻撃に割り込むように、ドレッドノートが禮に体当たりをする。
「禮!」
 ナイチンゲールはロザリオを強く握り、森羅の寵児を発動させた。青の舌も使って、ドレッドノートの動きを止める。ロザリアから紡ぎ出された無数の花びらがドレッドノートに攻撃を仕掛ける。それはブレイブナイトの少女によってカバーリングされた。
「見たか、ブレイブナイトの防御力!」
 少女が胸を張る。その少女を見て、unknownがナイチンゲールのライヴスの中、口を開いた。
 ――戦禍を齎し海を穢す者共よ、身を以て悔い改めなさい。
 瞬間。ナイチンゲールの脳内にunknownの感情が流れ込む。
 これは第一英雄にはなかった感情。
 そう、これは……。
(恨み? 何に対しての……戦への)
「もらった!」
 unknownの方に気を取られたナイチンゲールにドレッドノートが迫る。まずい、とナイチンゲールは防御の姿勢を取った。が。
「戦いに余所見は禁物ですよ」
 昴がスカパードを構え、ドレッドノートに接近する。急所に一撃を叩き込んだ。
「くっ」
「回復も逃亡も許しません」
 昴は絡新婦を発動させた。そのままドレッドノートを拘束する。仲間が一人捕まったことに、マガツヒの間に少ないながらも動揺が走った。

 刹那。

 眩い光が海中で炸裂した。

「これは」
『キースさんの閃光弾!』
 岩陰からキースが姿を現す。混乱に乗じて、昴が拘束した敵に猿轡を施してから、キースはピースメイカーを構えた。トリオを使用し、バトルメディックの少年に照準を合わせ、放った。周りに居たソフィスビショップとカオティックブレイドを巻き込む。多少ダメージは通ったようだ。アークトゥルスと対峙していたブレイブナイトが距離を取る。バトルメディックの少年がケアレインを発動させる。ソフィスビショップ、カオティックブレイドの傷が回復した。
「まだまだだ! H.O.P.E.! 清十郎様の邪魔はさせない!」
 カオティックブレイドが周囲に武器を多数展開させる。リオンは側にまだ海竜が居ることに気づいた。先程ケアレイで傷は治したものの、あれを受けたらひとたまりもない。
 リオンは海竜に近づいた。
「ロストモーメント!」
 展開された武器が一斉に襲い掛かってくる。皆が防御してダメージを減らす中、リオンはカバーリングのため、多くダメージを受ける。すかさず自分にケアレイをかけた。
 敵が動く前にキースはシャープポジショニングを発動させる。狙いはもちろん、バトルメディックだ。彼の脇腹を狙う。
「う!」
「当たりました」
 これ以上戦いを続けるのは無理だと判断したのか、バトルメディックの少年が逃走を開始する。ただ逃走するならと、誰も彼を追いかけようとはしなかった。しかし。
「角と鱗は手に入れたんだ! これだけでも清十郎様は!」
 少年の叫びにナイチンゲールが反応する。彼は持っているのだ。海竜の部位を。
「待ちなさい!」
 ナイチンゲールは全力で彼を追いかける。が、今のままでは届きそうにない。ヘプタメロンを紐といた。
「七色の槍よ……敵を貫け!」
 ナイチンゲールの声を合図に、ヘプタメロンが光った。赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。七つの光は一つに収束し、一本の槍のような形となった。
 その槍が少年に襲いかかる。ブレイブナイトの少女が彼をカバーリングしたものの、ナイチンゲールの攻撃は彼らを貫き、その動きを止めた。
 戦況を不利と判断したのか、ソフィスビショップの男性がディープフリーズを発動させた。海が凍る。氷の壁の向こう、マガツヒの構成員達達が逃げていく。
『逃がすか!』
 アークトゥルスは氷の壁に体当たりをした。しかし壊れない。
『くっ……』
 悔しさにアークトゥルスは氷の壁を殴った。一方のナイチンゲールは安堵の息を落としていた。何とか、海竜の部位持ち出しは阻止できたようだ。
『まだ海底のマガツヒが残っています』
 禮の言葉に一同は頷いた。
『加勢に行きましょう』
 リオンはライトアイを皆にかけなおす。
 マガツヒの構成員の捕縛をナイチンゲールと昴に任せ、残りの者は海底へと向かった。


「ええいちょこまかとうざい! さっさとやられろ!」
 蒼き舌からするりと抜ける狐杜にブラックボックスの少女は苛立ちを隠せなかった。せっかく、海竜の甲羅の欠片を手に入れたのだ。ここでやられる訳にはいかない。
「やれやれ、しつこいよ」
 腕に装着したウェポンライトの光を頼りに、狐杜は少女との距離を測っていた。まだ彼女は戦いに慣れていないようだった。それなら、必ず隙が出来る。
 一方、六花はバトルメディックとジャックポットを相手にしていた。遠距離から氷の槍を打ち込むという戦法は変えていないものの、先程ブラックボックスが作り出した渦に攻撃を阻まれてしまう。あの渦はそんなに長く持たないと思っていたのに、どうも違うようだ。思い切って近寄り、あの渦を回避すればいいのだろう。しかしその戦法は取りたくなかった。
 六花をジャックポットが攻撃する。ライヴスが込められた弾。アハトアハトだ。
「……ん。大丈夫、避けられる」
 ペンギンの本領発揮とばかりに、上下左右三次元的に高速で泳ぎ旋回する。その動きにジャックポットは読めなかった。まるで見当違いの場所に着弾する。そこにあった建造物がガラガラと音を立てた。
「えーいもう! 蒼の王!」
 ライヴスの吹雪が狐杜に襲いかかる。海の中とは思えない猛吹雪。これなら相手も力を失うだろう。少女は勝利を確信した。
 しかし。
「甘いね、娘」
 狐杜は吹雪をぎりぎりで避けていた。
 そして少女の前に姿を現し、薄氷之太刀「雪華」を振るう。
「これで終わい」
 狐杜の一撃を喰らい、がくりと少女は崩れ落ちた。それを見て、相手のバトルメディックが悲鳴を上げる。
「フーフィ! 今、回復してあげる!」
 バトルメディックの女性が少女に駆け寄ろうとする。それは六花に背を向ける行為。ジャックポットもまた狐杜へと向き直った。その武器を彼に向ける。
 瞬間。
 ブラックボックスが作り出した渦が、消えた。
 それを六花は見逃さない。
 長く距離を取り、リンクバーストした。霊力が増大する。先程まで両手で紡ぎ出していた氷槍を片手で生成した。
 それは、二本の槍を作り出したことを意味して。
「……ん。これで最後」



『加勢に来るまでもなかったか?』
 倒れたマガツヒ三人を見て、アークトゥルスは言った。狐杜はブラックボックスの少女から甲羅の欠片を奪い取る。
「これは先刻見たかいるう(海竜)のものだね。全く、酷いことをする」
 あとで霊符を貼りに行こう、と狐杜は思った。



●海を紅に染めるなかれ vs黒埼由乃
「いました、黒崎由乃です」
 構築の魔女の言葉に、一刀斎達は泳ぐのを止めた。海の真ん中、鳥かごと傘を持った黒服の少女――由乃が居る。構築の魔女は駆動音が響くアサルトユニットから阿修羅へと換装する。重さを利用して、ゆっくりと下方向に沈んだ。
 一刀斎は前回の戦いで彼女が作った泥人形を思い出していた。
 彼女はこの戦場で何を作るのだろう。
 わざと気配を消さず、一刀斎は由乃に近づく。その後をカゲリと由利菜は追いかけた。
 構築の魔女と遊夜は息をひそめるようにして、そのままの距離を保つ。
「……また会ったな、黒崎」
「あー!」
 由乃は一刀斎を指さした。
「この前由乃ちゃんの可愛い子たちをいじめた黒ネコ! 今回も由乃ちゃんの邪魔をしにきたの?」
 ぶんぶん、と激しく由乃は傘を動かす。構築の魔女は何とか傘に狙いを定めようとしたが、潮が邪魔をした。これはもう少し計算をする必要がありそうだ。
「これもまた……“清十郎ちゃんに褒めて貰う為”か?」
「それ以外に何があるの!」
 由乃が叫ぶ。
 ――ほう、こやつが黒崎由乃。なんとも固い意志よ。清十郎にそこまで惚れているとはなぁ。
 カゲリの中でナラカが息を吐きだす。面白い、と彼女は感想を口にした。
 一刀斎は由乃の鳥かごを見る。アクロティリ遺跡で戦った時よりもその数は多い。
「随分とたくさん宝石を用意したようだが……今回は何を作るつもりだ。まさか水中で泥人形を作るほど莫迦でもあるまい?」
 一刀斎の問いに由乃はますます気を悪くした。眉根を寄せ、その瞳に怒りを宿す。
「マガツヒで一番可愛い由乃ちゃんがそんなことする訳ないでしょ! 今回はちゃんと、海にあった子達を作るんだから!」
 鳥かごの中から、由乃は宝石をばらまいた。そして海中に傘で魔法陣を描く。
「おいで! マーマン達! 黒ネコたちをやっつけろ!」
 宝石たちが一斉に光る。由乃の周りに無数のマーマン――上半身が男性で下半身が魚――が現れた。宝石は胸の中央に二つ。
「麗しき人魚を作ると思っていたが……これがお前の理想か」
「うるさい! 由乃ちゃんの周りに女の子なんて要らない! ……あ!」
 由乃は下の方向を指さした。そこには煌めくヒレを持った海竜――見た目はリュウグウノツカイ、と呼ばれる魚類に似ている――が居た。
「捕まえる! 清十郎ちゃんに褒めてもらうんだから!」
 由乃はまた宝石をばらまいた。先程とは違う魔法陣を描く。
「タコちゃん! そしてクラゲちゃんもおいで!」
 生まれた巨大タコの頭に由乃は跨る。そうして海竜を一直線に追い始めた。何匹かのクラゲが彼女を守るように壁を作った。
「っ、待ちなさい!」
 由利菜は由乃を追いかける。それに一刀斎、カゲリも続いた。しかし彼らの行く手を大量のマーマンが阻む。一刀斎はディバイドゼロを召喚した。宝石を砕こうと大剣を振るう。一撃で二つの宝石を両方破壊するのは無理だった。二撃を加えて、ようやくマーマンが一匹沈黙した。カゲリもまた天剣でマーマンの駆逐に行う。由利菜はデストロイヤーを振るった。
「っ、数が減らない!」
「いったい、何体居る」
 宝石を砕きながら、カゲリが言った。核を失ったマーマンは砂のように崩れて消える。マーマンは槍を振るい、彼らを攻撃する。三人は腕に軽い傷を負った。
 遊夜はその戦いと由乃を見ながら、考えを巡らせていた。
「相変わらず傘か。前に壊したはずなんだがな」
 ――……ん、オーパーツの……量産品?
「それも由乃を捕えれば分かることだろうな」
 岩の上で構築の魔女は由乃の動きを予測していた。彼女の周りに居るクラゲが邪魔だ。一番、一番効率よく、被害も少なく、目的を達成できる方法は――。
「さて、構築の魔女と謳われた状況操作を奮って見せましょう」
 遊夜と構築の魔女に気づかず、由乃は海竜を追いかけ続ける。タコの足で絡めとろうとしているようだ。
「待て待て! 大人しく由乃ちゃんに捕まりなさい!」
 海竜は泳ぐスピードを上げた。それに由乃は必死で喰らいついていく。
 マーマンを三体同時に薙ぎ払いながら、カゲリは自身にリンクコントロールでレートを引き上げ、天剣の力を解放していく。と、一振りで屠れるマーマンの数が増えた。
 ――それにしてもこの数。意志に比例している。
(楽しんでるな)
 ――ふふ、これほどの輝き……楽しまない方が無理でなぁ。
 一刀斎の懐でライヴス通信機が受信を告げる。マーマンの攻撃をいなしながら、一刀斎は応答した。
「魔女殿」
【一刀斎さん。由乃が海竜との距離を詰め始めています。こちらに、これますか?】
「何とかしよう」
 一刀斎はジェミニストライクを発動させた。一息にマーマンを散らしていく。ぱきんぱきんと、宝石が砕ける音が聞こえた。新たなマーマンが一刀斎の前に立ちはだかる。しかしそれは由利菜とカゲリの同時攻撃で露と消えた。一瞬の隙をついて、一刀斎はマーマンの群れを抜けた。海竜を追いかける由乃を捉える。
「黒崎!」
 わざと、一刀斎は由乃を呼んだ。必死の形相を浮かべた由乃が振り返る。
「黒ネコ! やっちゃえクラゲちゃん!」
 由乃がクラゲを一刀斎に向かわせる。彼女の周りにいくらかの空間が生まれた。構築の魔女はその機会を逃さない。岩の上からトリオを発動させて、由乃を狙い撃つ。それに合わせるようにして、アハトアハトを遊夜は発動した。傘ではなく、鳥かごを狙って。二人の気配にやっと由乃は気づいたようだった。
「ちょ、そんなところから! 二人同時なんてずるい!
「傘を狙うスナイパーが一人だけ、とは言ってないぜ」
 ――…ん、また壊させて貰うね?
「っ、タコちゃん!」
 タコの足で由乃は防御を行った。アハトアハトによる爆発が足を一本吹き飛ばした。宝石が数個入っている鳥かごも、海中へ放り出される。その隙をついて、海竜は逃げ出した。
「あ、ちょっと待ちなさいよ! マーマン! 海竜を追いかけて!」
 由乃の命令に従い、マーマン達がカゲリと由利菜から離れた。
 クラゲはまだ一刀斎の相手をしている。
 やってきたチャンス。
 絶対に逃がさない。
「リディス、超過駆動を起動して!」
 ――了解、いっくよ~! Εξαχνωση(エクサクノシ)! メディックが回復と補助しかできないと思ったら大間違いだよ! なんてったって、共鳴しているのはあたしの親友だからね!
 由利菜は由乃に全速力で近づいた。トリシューラを構え、傘に狙いを定める。由乃の反応を集中させるかと、構築の魔女と遊夜は援護射撃を行う。
「タコちゃん!」
「遅いっ」
 由利菜の攻撃が傘に当たる。ばき、と傘は真ん中で折れた。タコとクラゲ、そして海竜を追っていたマーマンも消滅する。
「っ、こんなはずじゃ……また……また、清十郎ちゃんに怒られる!」
 憤る由乃に由利菜は近づく。
「……あなたもかつての屠宰鶏のように、マガツヒに体のいいように使われているのですか!」
「体のいいように? 何言ってるの!」
 ふん、と由乃は鼻で笑った。
「由乃ちゃんは、由乃ちゃんの意志で、清十郎ちゃんの為に動いてるの! ……由乃ちゃんは道具じゃない!」
 叫び、由乃は海の奥に向かって泳いでいく。その後を構築の魔女と遊夜は追いかけた。しかし海の潮流は由乃に有利に動いた。移動速度はそんなに変わらないはずなのに、どんどん離されていく。
「これでは追いつけませんね」
「諦めるか……おっと」
 上から落ちてきた宝石を幾つか、遊夜は受け止めた。
 ――ん、綺麗。
「こうしてみるとただの宝石だが……何か秘密があるんだろうな」



●戦いの後で
 海から脱出し、あの竜の像の前でリオンと昴は拘束したマガツヒ構成員――閃光弾でひるませ、猿轡をかましたドレッドノート――に対して、尋問を行っていた。他の構成員はいつの間にか毒を飲んで、自害していた。
『海竜を捕まえてどうするつもりなの?』
 構成員は答えない。
「部位を集めていたようでしたが、それだけで貴方達の目的は果たせるのですか?」
 昴の問いかけももちろん無効に終わる。
 ――これは駄目だな。
 ライヴスの中でベルフが溜息をつく。
 それを見ていたリオンは、訊き方を変えることにした。
『……あぁ下っ端だから何にも分かんないか? ごめんなー』
 リオンの挑発に、相手は反応しない。ずっと目を閉じている。
 ――これは何も聞けないね。
『H.O.P.E.本部に引き渡すしかない、か』
「それでも駄目なら、しかるべき諜報機関に」
 ――きちんと護衛もつけて。こいつが殺されないように、な。



 ――ねえ、キース君。ふと、思ったんだけど。
 海の状況を確認する為、再び潜水を開始したキースにライヴスの中から紙姫が話しかける。
 ――あたしたちがあった水路、あれが唯一の出入り口かな?
「……調べてみる価値はありますね。黒崎由乃、でしたか。彼女も別方向へ逃げたと聞きますから」
 キースは周囲を警戒しながら、由乃が逃げた方へと泳ぎを進める。と、別の出入り口が見えてきた。何処に繋がっているのかを確かめるか悩んだけれど、そういえばとあることを思い出して止める。
「マガツヒが東門を占領している、とレポートにありましたね」
 ――ということは、この先は。
「おそらく東門でしょう。危険です。撤退しましょう」



 由乃が残した宝石を一刀斎は見つめていた。
 前回に引き続き、目の前に現れた彼女。
 自分とは違うものを人形に求める彼女――。
「……今回もまた、弱点が剥き出しの人形だった。……敗戦を糧に改善してくるなら……俺なら宝石を目立たぬよう人形の体の中に隠す。それも、一体ごとに別々の場所へ。でもそうしなかったのは、能力に何か制約があるならなのか、それとも……莫迦か」
 ――莫迦は酷いのではないですか、一刀斎様。
 冷ややかな比佐理の声に、一刀斎は反射的に震えた。
「う……うむ、だが」
 それしか考えられない――と一刀斎は呟く。もう一度きらりと光る宝石に目を落とした。
「また、相まみえるだろうか」
 ――そんな気がします。



『構築の魔女、それに由利菜。今回も素晴らしき意志の輝きであった』
 二人を前にし、ナラカは目を輝かせる。カゲリは適当な柱にもたれていた。海竜の狩猟は阻止できたのだ。ここでこれ以上、自分から動くことはない。
「ありがとうございます」
 構築の魔女は一つ、お辞儀をした。落児は紺色に染まる空の端っこを見つめている。一方、由利菜は複雑な表情をしていた。
『おや、由利菜。どうしたか』
「……黒崎由乃が気になって」
『ああ確かになぁ』
 ナラカは目を細めた。愉悦、と表現してもいい表情を浮かべる。
『あの表情、あの行動、あの言葉――どれをとっても良い。あの子にとっては、私もまた試練なのであろうなぁ』
 くくく、とナラカは喉の奥で笑う。
『……ねえ、ユリナ』
 ウィリディスは由利菜の目を真っすぐ見つめる。
『……あたしはマガツヒには厳しいよ』
「はい」
『だから……もしあたしが由乃を助ける気分になったとしても、相当手荒くなるよ』
 拳を握るウィリディスに由利菜は頷く。
「由乃は――自分は道具ではない、と言い張っていました。でも」
 それは本当なのでしょうか。



 ナイチンゲールはunknownとの共鳴を解いた。修道女の姿をした彼女が目の前に現れる
「……今日の戦いは終わりました」
『そうですね』
 unknownは静かな微笑みを浮かべていた。その微笑みがどういった意味を持つのか、ナイチンゲールは読みあぐねる。しかし今はその意味よりも。
「教えて下さい。貴女の名を」
 ナイチンゲールは彼女に強く問いかけた。逃がさないと、強固な意志を見せる。ここにナラカが居たら、良い、良いと頷くだろう。
『いいでしょう。……私の名は』



●邂逅
 戦闘前に感じた大きな海の気配を探し、禮はまた再び海に潜っていた。彼女の後には六花と、アークトゥルスが続いている。と、三人の前に突如巨大な海竜が現れた。サメに良く似たそれは、禮達を敵と思っているのだろう。その鋭い歯をかちかちと鳴らしている。
『昴が話しかけたら逃げた、と言っていたが……』
 アークトゥルスはサメ型海竜に近づいた。
『我等はH.O.P.E.。貴殿らと争う意思は無い。どうか対話の機会を……』
『アークトゥルスさん、危ないっ』
 攻撃の意志を感じ取り、禮は慌てて彼の腕を引いた。サメ型海竜が大きく口を開く。
 これは海竜と戦うしかないのだろうか。
 三人がそう思ったその時。

『止めよ』

 更に巨大な海竜が、サメ型海竜に体当たりをした。そのまま、サメ型海竜は遠くに吹き飛ばされる。
 ――これは……鯨?
『はい兄さん。古代クジラ、ですね』
 ライヴス内の藍に答えてから、禮は古代クジラにきちんと向き直る
『さっきの気配はあなただったんですね。大きい……この海のかみさまなんですか?』
『……かみ』
 海竜は尾びれを激しく動かした。
『かみ、というのはおこがましい。私はルオンノタル。――ただ、ここの統治を任されているだけ』
「……ん。もう大丈夫……だよ。六花たちは、敵じゃない……から。貴方たちのこと、助けに……来たの」
 六花はルオンノタルに手を伸ばした。
『ああ、分かる。お前たちには、水が騒いでいない』
『あの』
 禮はルオンノタルを見上げた。
『マガツヒ……さっき私たちと敵対していたヒトの群れですけど、彼らが海竜を攻撃する理由に心当たりはありますか?』
 その問いにルオンノタルは首を振った。
『分からん。急にやってきて、海竜たちを攻撃し始めた』
「……ん。質問」
 六花もまた思っていたことをルオンノタルに問う。
「……ん。ここ……スワナリアに人はいないのでしょう、か……」
『人……』
 ルオンノタルはゆっくりと瞬きをした。何かを深く考えているような素振り。その口からどういった言葉が紡がれるのか、六花は緊張して待っていた。
 そして、ルオンノタルは答えた。
『さあ……私が知るのはこの海のことだけ。他は分からん』
『私も質問していいだろうか』
 ルオンノタルはアークトゥルスへ視線を向けた。
『先程、統治を【任された】と言っていたが……誰に?』
 ルオンノタルは目を見開いた。しかしそれは一瞬のこと。
 何かを考えるように海面を見つめ、それからもう一度、三人へ視線を落として。
『――海を守ってくれて感謝する』
 それだけ行ってルオンノタルは海中深く潜っていった。追いかけることは可能だろう。しかしその去る姿からは、明確な拒絶が読み取れて。
「……ん。スワナリアのこと……もう少し、聞きたかった」
『また、機会がありますよ』



結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 花の守護者
    ウィリディスaa0873hero002
    英雄|18才|女性|バト

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 白い渚のローレライ
    aa2518hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • 天秤を司る者
    キース=ロロッカaa3593
    人間|21才|男性|回避
  • ありのままで
    匂坂 紙姫aa3593hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
  • 希望の格率
    君島 耿太郎aa4682
    人間|17才|男性|防御
  • 革命の意志
    アークトゥルスaa4682hero001
    英雄|22才|男性|ブレ
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 明日に希望を
    善知鳥aa4840hero002
    英雄|20才|女性|ブラ
  • 今を歩み、進み出す
    狐杜aa4909
    人間|14才|?|回避
  • 過去から未来への変化
    aa4909hero001
    英雄|20才|男性|ジャ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • 南氷洋の白鯨王
    オールギン・マルケスaa4969hero002
    英雄|72才|男性|バト
  • 黒ネコ
    獅堂 一刀斎aa5698
    獣人|38才|男性|攻撃
  • おねえちゃん
    比佐理aa5698hero001
    英雄|12才|女性|シャド
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