本部

もしもの時の英雄譚

鳴海

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2018/08/06 22:31

掲示板

オープニング

● 共鳴ってどんな感じなんだろうなぁ

 シミュレート技術とは、現実ではありえない、起こりえないことであろうとも計算して、その場で起こった想定にすることができる技術。
 たとえば仮想空間で、例えばVBSを用いて。
 そして今回たとえばを引き起こすのは、最近目覚めたグロリア社の新たな人材。
 エリザである。
 エリザは大量のリンカーたちの戦闘データを眺めながら思っていた。
「共鳴って私にもできないのかな」
 無理である。
 エリザにこんなことを直接言えば泣いてしまうかもしれないが。
 AGWに英雄を宿すようなものである。現実的に考えて不可能。
 であれば、エリザはどう考えるのか。
「共鳴してみたいな。シュミレートできない……かなぁ」
 そうその指は複数のキーボードを行ったり来たりしながら打鍵する。エリザ自身ネットワークに直結されているのでキーボードでうつよりも早く画面には文字が浮かんでは消えるのだが。
 最近エリザはこうやってアナログな手法をとりたがった。
「でも、英雄の皆さんはどうしようかな、借りる? 貸してもらえるもの?」
 エリザが組み上げているプログラムは、英雄の特徴を細分化して抽出、自身のテクスチャに合成する技術。
 その状態で戦闘のシミュレーションを行うためには、どうすればいいか。
「英雄、英雄……英雄って何だろう。そもそも」
 エリザは英雄と認識して英雄と接したことが無い。
「話してみたいなみんなと」
 告げるとエリザは遙華直通の受話器を取った。
 一つお願いがあると、グロリア社令嬢のコネクションを頼る。

● 英雄について深く知ろう
 今回のシナリオの主題は英雄について深く知ろう。です。
 なので英雄の皆さんにエリザから質問があります。
1 この世界に来た経緯は?
2 この世界に来てどんなことが一番戸惑った?
3 能力者はあなたにとってどんな人?
4 こちらの文化で気にいったことは?
5 共鳴すると具体的にどうなるの?

 話したくないこと、記憶にないことについては回答しなくて構いません。
 多くのお話をエリザはお待ちしております。

● 英雄を取り換えてみよう
 今回はBVSの機能を使ってエリザが共鳴状態になります。
 厳密に言うとシミュレートなので実際の共鳴状態になるわけではありませんが。
 その中で皆さんにはエリザと戦闘を繰り広げていただきます。
 戦闘のスタイルは三種類。
1 個人戦
2 団体戦
3 詰将棋戦

 個人戦はエリザと誰かが戦います。シンプルです。
 団体戦は、リンカーの皆さんでチームを組んでいただきます。
 其れとは別に、英雄を貸してもいいよという方は立候補してください。
 そのリンカーチームと等しい人数にエリザが分身し、エリザが貸された英雄と共鳴して戦います。
「バーチャル上だったら、こういうこともできるから」
 そう気軽に分身するエリザですが。VBS上なのでけがをする心配もさせる心配もありません。
 たとえばリンカーチームが三人だった場合は。エリザABCと分身し。
 それぞれに英雄が必要です。
 英雄が足りない場合は。シャドウルーカーの疑似英雄を使用します。
 縫止を使用しますが、それ以外のスキルはない模様。

 この二つはエリザの戦闘相手がリンカーのため立候補が必要となります。
 戦闘役を決めてください。あらかじめ公開可能であれば。エリザに協力してくれるリンカーのアドバイスの助けとなれるでしょう。
 
 さらに詰将棋戦ですが。
 これは一組のリンカーが、能力者を出題者。エリザと英雄が回答者となって。従魔を使った戦闘をします。
 障害物の配置、敵の種類。部屋の広さとシチュエーション。全て能力者が決定し。
 英雄はエリザをサポート、ゲームクリアに導いてください。

 エリザは基本的に皆さんの装備のコピー。もしくは貸出品を使用しますが初期装備もあります。
 それが指先に内蔵されたビーム兵器。
 眼球に内蔵されたビーム兵器。
 膝に内蔵された散弾二発です。
 奇襲性が高いので注意してください。

解説



目標   エリザと英雄を共鳴させてあげる。
サブ目標 エリザに自衛手段を叩き込む。

 今回は英雄にクローズアップした内容になっています。
 エリザは英雄と話したがりますし。英雄とのコミュニケーションを主とします。
 彼女が求めるのは英雄がなにを考えているかということを知る事。
 そして、共鳴とはどのような状態なのかということです。

 全体を通して、エリザは誰かの英雄と疑似的に共鳴状態になっていますが、その場合エリザ自身の戦闘の経験値が薄いので、戦い方は英雄に習う形になります。
 また武装も、その英雄の使い慣れたものを借り受ける形になります。
 普段から何を意識して戦っているのか。対戦相手が決まっているなら対戦相手への対策を教えるのも有効でしょう。
 今回は自発的にエリザが、英雄を知りたいと思い行動を起こした形ですが、エリザに護身術を身に着けてもらうに絶好の機会です。
 相変らずエリザはガデンツァに狙われているはずですので。戦闘に関する知識をもたらすのはよいことです。
 もしかすると今後皆さんの助けになるかもしれませんし。

 あとは、英雄という存在を堀深める機会でもあるので利用してみてください。
 
 また、考えることは多いのですが失敗することはないミッションなので、やや易しいの難易度です。
 グロリア社から多少の報酬が出ます。

リプレイ

プロローグ

グロリア社会議室。
 イスと机が並べられたその清潔な空間に、少女の後ろ姿。
 自分も早めに集合したのに、もっと早くエリザがこの場にいたことに『柳生 楓(aa3403)』は驚いた。
「早いんですね、エリザ」
 振り返ると穏やかに微笑み腰を上げるエリザ。
「なんだか緊張しちゃって」
「共鳴実験はいやかな?」
『氷室 詩乃(aa3403hero001)』が問いかけるとエリザは逆に首を振った。
「逆かな、楽しそうで、わくわくして、緊張してる」
 その言葉に詩乃は微笑む。
「そうだね、エリザとの共鳴…………うん、楽しそう」
「詩乃が私以外と共鳴してるのを見るのは少し不思議な感覚ですね」
 そう二人の共鳴姿を想像して楽しむ楓、まぁ実際に共鳴するわけではなくシミュレーションプログラムなのだが。
「でも、確かに少し不安もあるかしれないわ、だって、自分でなくなるみたいな感覚なんでしょう?」
 そう興奮を抑えきれないという様子で頬を赤らめ。エリザが告げる、そんなエリザの背後から猫のように忍び寄る黒い影。
『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』が後ろからエリザを抱き留めた。
「……ん、ふふ……おかーさんに、お任せ!」
「他ならぬエリザの為だ、出来る限りの力になろう」
「おかーさん、おとーさん」
『麻生 遊夜(aa0452)』の姿を見つけると、エリザはしたったらずにそう言った。
 今日参加するリンカーも続々と集まってきたようだ。
 見れば『GーYA(aa2289)』と『まほらま(aa2289hero001)』が話をしていた。
「エリザは『この世界』の要になりうる存在だよな」
 この世界が生んだ、新しい知的生命体。そう捕えても差し支えない出来栄えだ。
「ガデンツァは『前の世界』の要だったようだし。ガデンツァを駒とした『王』ならエリザにも利用価値を見出す可能性があるか」
「そう、ガデンツァも私とおんなじ、命なき命」
 そう告げるとエリザは部屋の中央に躍り出た。
「今日は私との共鳴、よろしくお願いします」
 そんなエリザと共鳴できるユフォアリーヤをうらやましく思いつつ、徹するおとーさん遊夜。
「流石に変われんし、自衛手段の復習しとくか」
「……ん、何でも聞いて……いいよ?」
「うん、その前に共鳴状態、英雄について知っておきたいな」
 エリザが告げると『晴海 嘉久也(aa0780)』が答える。
「インタビューに答えよう……エスティア」
『エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)』が頷く。
「今回は……ここにいるわたしか把握していて、かつ、お話しできる範囲に限られますが……。よろしければ聞いて行ってくださいね」
 そしてエスティアはゆっくり話しだす。
「その出会いは偶然ではなかったのです。当方の特殊な占術により『契約者』を探知し、彼を支援する為に『端末』を投入した……という事ですわね」
 その話を聞きながらG-YAは思う。
(能力者が死んで復讐のために邪英化し愚神になった英雄を知っている)
 英雄と愚神、王の関係。
(俺が絶望し英雄が負の感情を共有してしまったらまほらまも邪英化し愚神に? なら俺は希望を持ち続けよう、まほらまがずっと俺の英雄であるように)

第一章 対話

「うさみみだ」
 そうエリザは最近たびたび見るシルエットに胸をときめかせる。
『藤咲 仁菜(aa3237)』がその、獲物を狙うような視線に居心地の悪さを感じ始めた頃『九重 依(aa3237hero002)』は淡々とエリザの質問に答えていた。
「ねぇ、仁菜さんってあなたにとってどんな人?」
 依は考える間もなく、口から言葉が先に出る。
「人の話を聞かない頑固者で、全部守りたいなんて夢物語を言う馬鹿」
「な!」
 驚く仁菜、耳がぴょこぴょこしていて可愛い。
「でも……一緒にいるとそんな夢物語も悪くない、って思えてくる」
「依……」
(だから俺もあいつも誓約で仁菜に願いを託した)
 そこまでは調子に乗られたくないから依は黙っていることにした。隣を見ればホクホク顔の仁菜である。
 それを見てエリザは癒されていた。
「エスティアさんは?」
「契約者……ですわね」
「ん?」
「詳しい内容に関してはまだお話はできませんが、リンク後の姿もまた『彼自身』ですわね」
「そんなこともあるの?」
 そうエリザが隣の遊夜に問いかけると遊夜は頷く。
「個人差が大きいみたいだな、うちは」
 そうユフォアリーヤに視線を向けると頷きユフォアリーヤが話し始める。
「……んー、ユーヤと1つに……ドロドロに、溶け合って……考え方も感じ方も、何でも一緒だけど……傍にユーヤがいる、2人で1つな感じ?」
「大きくなりますよ!」
 仁菜が告げる。
「あとやたら強気になるな」
 依が呆れ顔で告げた。
「詳しい事は言えませんが、わたしの制御下に『別の彼』が召喚されて彼と入れ替わり、その操縦を彼が、私が制御を担当して動かすことになりますわね」
 エスティアが自分の共鳴体験を告げる。
「ただ、他人の体を竹馬に乗って着ぐるみの様に着ている状態なので……彼も当初は身動き一つとれませんでしたし、今でも連続して行動すると……くたくたになってしまいますわね」
「疲れるんだ、それはみんな同じなの? それともエスティアさんだけ? でも共鳴の印象が人によってだいぶ違うみたい」
 感心したように告げるエリザ。
「たぶん……もといた世界の影響を受けているんでしょう」
 そう穏やかに告げたのは『禮(aa2518hero001)』
 『海神 藍(aa2518)』の膝の上で紅茶を一口含んだ。
「わたしは、人魚の戦士。攻め寄せた愚神から皆を逃がす中、愚神を止めるために一人向かって行って、そして気が付いたらこの世界に居ました」
「人魚がいる世界なんて、とても楽しそう」
「楽しいですよ」
「こちらの世界はどう?」
「戸惑ったことと言えばやっぱり足でしょうか? 元の世界でも短時間なら魔法で変身したり出来ましたけど、四六時中となると」
「そう言えば、禮さんは藍さんの事お兄さんと呼ぶけど、血は繋がってないのよね?」
「兄さんですか? わたしの”兄”です。…………人魚は妖精の類なので、神様を父母、同族を兄弟姉妹と称するんです。人魚にとっては兄弟というのは家族のように親しい人という意味が大きいんですよ」
「なるほど」
 興味深げに頷くエリザ。
 その時、会議室に新しいお茶と、御茶菓子が運ばれてきた。タルトとケーキ。
 それを目にして、一瞬禮の瞳が輝くも、咳払いをして落ち着きを取り戻しケーキを受け取った。
「文化と言えばケーキです。この世界のそれは多様で素敵です。ケーキは至上にして至高、平等であるべきもの……」
 長々とケーキの魅力を語り始める禮、その脇で仁菜も恍惚の表情を浮かべていた。
 見れば依も黙々と食べている。
「ケーキはお好き?」
 エリザの問いかけに視線をそらす依。
「この世界は食べ物が旨い」
「特にケーキ」
 噛みしめるように仁菜はケーキをもう一口。
「先日行った店の生クリームの甘さが絶妙で……違う、食べ物全般だ。やめろ」
「その話詳しく!」
 そう身を乗り出す禮。
 依と禮の情報交換が始まった。ケーキ店限定の話でよくここまで白熱できるものだと、感心するエリザ。
「……ごめんね、禮はケーキの話になるといつもこうだ」
 そう禮のティーカップに紅茶を注ぎながら藍は言った。
「さあ、ケーキを崇めるのです。 ところで兄さん、今日のケーキは」
「禮教官、あとにしましょう」
「ふふふ、素敵ね、この世界を気に入ってくれてありがとう。ところでみんな前の世界について覚えてるものなの?」
「それも個人差が激しいようですよ」
 楓が告げた。
「現に詩乃は」
「よく覚えてない」
 肩をすくめてみせる詩乃。
「何かが終わったのよ。心に哀しい痛みが残っているけど願いは叶った。
そして気がついたらこの世界にいた感じ?」
 そう告げたのはまほらま。彼女も詳しくは覚えていないようだった。
「何かが終わる?」
 今でも覚えている、唐突にまるで、この世界に生まれ落ちたような感覚。
 まほらまは告げる。
「彼の微かな希望の火を知った時叶えたいと思ってしまった。
 そしたら霊力持っていかれて共鳴してたわ。
 その後心臓の手術で蘇生したけど、面会謝絶でずっと会えなかったのよ。
 心細かったなんてもんじゃないわ」
 G-YAはそんなこともあったかなと苦笑いを浮かべた。
「この世界にきて最初驚いたのは」
 詩乃がその時の光景を思い出しながら告げる。
「自分のいた世界とは違う世界に記憶を欠落した状態で来たこと。知ってる人もおらず、今いる場所がどこかさえわからない」
 そう苦々しげにつぶやく詩乃はとても小さく見えた。
「そんなときに楓と出会ったんだ」
 そう詩乃は笑顔で楓を振り返った。
「妹のような存在だよ」
「私が姉ではないんですか?」
「それはないかな」
 そう二人は悪戯っぽく声音をあげて、そう言葉を重ねる。
「今は何事にも諦めず前へと進む強い意志を持つけど……」
 しかし詩乃は知っている。
 楓は、傷つきやすく折れやすい人だ。
「うん……この子は強い。それは間違ってないよ。でもそれと同時にもろいんだ、物凄く。だからボクは支える…………本当はボクが全て背負ってあげたいんだけどね」
 だから支えて手助けする。英雄の自分ではそれしか出来ないから。
 そこまで言って詩乃は言葉を淀ませる。
(そして愛している)
 その言葉だけは飲み込んだ。
「この世界で気に入ったことは?」
「楓と出会えたこと」
 そう挑戦的に微笑む詩乃。
「楓お姉ちゃんと共鳴したときはどんな感じなの?」
 それは、一つの体を二人で共有する感じだという。五感や痛覚を共有し、能力者に力を貸す。
「ボクは楓を支えるだけだよ。あの子が成し遂げたいことのために、望むがままにね。それがボクの共鳴」
 そして肉体と精神を支える。基本的に体の主導者は楓で。
「ボクはサポートだね。二人の力を合わせる。簡単に見えそうだけど難しいよ。お互いが理解しあわないと出来ない芸当だとボクは思ってる」
「人によって、全然違う」
 そのことに驚きながら最後にエスティアに問いかけた。
「そう言えばまだ聞いてなかった、エスティアさんのこと。この世界にきて驚いたことはある?」
「そうですね……わたし達の世界では考古学博物館にある様なモノが現役で使われているのを見てので、色々と困惑しましたわね……。
 洗濯機なんて辺境の星か博物館に並んでいるものですからね。
 ただ、社会制度や文学・芸術といった分野には根本的には余り差がないので助かってますけどね」
「気に入ったことは?」
「人類として……純粋で、まだこの様な優しい場所があったのかと感じていますわ」
 その言葉にエリザは笑顔を向ける。
「みんなこの世界が好きみたいね。安心した」
 そうエリザは紅茶を飲み干した。


第二章 体験会
「いい? 今回は私たち距離を詰めるように頑張るから」
「うん、うん」
「……ん、エリザ緊張してる?」
 グロリア社屋外実験施設、その真ん中でエリザは全身にガードをつけた状態で立ち尽くしていた。
 いよいよ共鳴実験である。
 実際に共鳴しているわけではないが、英雄もエリザも共鳴状態に等しい精神状態となるはずだ。
 そして共鳴相手はユフォアリーヤ、対戦相手は仁菜。
 先ずは個人戦で慣れていこうという発想だった。
 仁菜が距離をとる、共鳴相手は依、すなわちシャドウルーカー。
「正面突破で行こう!」
――了解。
「え、いいの? 突っ込むなーとか怒らなくて」
――仁菜の耐久力は知ってるからな。あの命中の前では生半可な回避じゃ意味がない。防御と生命でのごり押しで行くしかない。
 告げるとエリザが共鳴した。
 銀色の耳と尻尾。狼というより猫のように姿が変わる。
「じゃあ、私たちはエリザの尻尾をつかめたら勝ちってことで」
「にゃああああ!?」
 驚くエリザの声を合図に仁菜は駆けだす。周囲は岩と土に覆われたオーソドックスな地形だが、仁菜は軽やかに地面を跳ね、岩を蹴りエリザへの距離を詰めていく。
「あわわわわ」
―……ん、距離を少しでもあける、エリザ……ばっく。
 ユフォアリーヤの指示に従って後ろに走るエリザ。しかし仁菜から目を放さないバック走。
 そのまま借り受けた『 オートマチック「グラセウールIS000」』の銃口を相手に向けた。
――……最初から急所を狙おうとしない……まずは、足や腕。プレッシャーをかける。
 しかし放たれた弾丸は思うように仁菜に当らない、仁菜は高く飛び落下ざまにエリザの手から銃を叩き落とした。
――それにこれはエリザの訓練だ。自分が攻撃しても怯まず突っ込んでくる敵は怖くていいだろう?
「依は意地悪だね……!?」
 告げながら仁菜は振り向きざまの回し蹴り、エリザはそれを上半身をそらして回避。
 指からビームを放つも、その奇襲は肩をかすめて終わる、仁菜はさらに肉薄する。
 再びビームを放とうとしてもそれは盾で遮られる。
 足に向けられたレーザーも、骨の部分にあたるなら無視した。
「なんで止まらないの!」
 仁菜は盾でエリザの腕を弾きあげると、その首根っこをつかまえる。だが奥の手もまだあった。腕の格納部分からピストルナイフを射出、それを振るって仁菜といったん距離をとる。
 三度の射撃、それでさらに仁菜を後退させる。
――……手を変え、品を変え……警戒を煽って、躊躇させて……時間を稼ぐの。
「はい」
「貴女の体力でガデンツァの攻撃を喰らったらアウト。死ぬ気で避けてね」
「はい」
 そのエリザの返事に、では本気をと言いたげにオルトロスを装備する似んあ。
「避けられないと思ったら防御! 急所を守れば逃げれる確率がぐっと上がる」
 仁菜は左右に小刻みに動きながら接近、その速度に反応できないエリザは背後をとらせてしまう。
 放たれるスキル女郎蜘蛛、完全に動きを縛られ、喉元に爪を突き立てられる。
 一本である。
「ごめんなさい、お母さん、負けちゃった」
――……んーん。エリザ頑張った、えらいえらい。

   *   *

 次に行われたのは状況判断能力を鍛える詰将棋戦。

「今回は見学ですわね……」
 エスティアはそうフィールドの端っこで晴海とエリザを見守っている。
「仮に、仮想化しても動かすのは至難の業です。
 それに、もしできたとしても、あの『NAGATO』を振り回すのは無理ですわね」
 そして部屋の真ん中に出現したのは水晶の乙女『ガデンツァ』今回は彼女を仮想敵とするようだ。
「ガデンツァの攻略方法についてお伝えします」
 その試合のあとに少し休憩次は団体戦の予定だった。
 共鳴相手の一人はまほらま。
 彼女はエリザの隣に座るとこう話を切り出した。
「自分の英雄が誰かと共鳴し戦う姿を見れる貴重な経験よねぇ」
「そう言ってもらえると、すごくうれしい」
「エリザがどう戦うのかも興味あるわ」
 首をかしげるエリザ。
「思い切り暴れて邪英化っぽい演出もしてみようかしら?楽しみねぇ、うふふ」
「そ。それは! G-YAさんが心配するんじゃ」
「そうね、本当に心配性。彼はあたしを一人にしないって言ってくれた。その時ずっと心にあった痛みが薄らいだのよ、大切な相棒よ」
 それはエリザが先ほどから皆に来ていた、能力者の印象への答え。
「こっちに来てよかったと思ったことってある?」
「綺麗なものがいっぱいある所ね」
「まほらまさんと共鳴するとどうなるの?」
「ジーヤの意思のままに」
「私もそうなる?」
「どうかしらね」
 立ち上がると、まほらまとエリザは共鳴を開始する。
 同時にフロアへと複数のエリザが出現した。
 まほらまと解け合うエリザへまほらまが告げる。
――英雄の事を知ろうとしてくれて嬉しい。だから思いっきり行くわね。
 隣では詩乃がエリザと共鳴していた。楓の共鳴姿カメリアナイトに酷似しているがところどころの意匠が違う。
 本来のカメリアナイトの防備は最低限であるか、エリザの恐怖心由来か、かつて見た楓の憧れでか、以前の楓の共鳴姿も混ざっているように見受けられた。
 武装は片手剣と盾。
 対する敵は藍と遊夜。
――これは、まるちたすく……!
 分身に驚く禮である。
「流石の処理能力だね」
 戦闘が開始された、まずは詩乃と共鳴したエリザを置いて。まほらまと共鳴したエリザが先行する。
――防御と特殊能力が弱い、だから何?
 禮に突っ込んでいく。
――闘うとき重要なのは、勝つことでは無く負けないことです。
 翻すツヴァイハンダーはすでにその射程距離に禮を捕えた。
 しかし。
――ガデンツァが仕掛けてきた場合……一人で立ち向かってはどう考えても勝てません。味方が来るまで逃げながら時間を稼ぐべきです
「例えば、そう。こんなのとか。」
 眼前に放たれたブルームフレア。
 それに巻き込まれてエリザは悲鳴をあげた。
 いったん距離をとる禮だったが、その背後を詩乃エリザがとった。
 リンクレートをあげ終った様子、その刃の霊力を見るにライブスリッパーが飛んでくる。
 それをやらせるわけにはいかない、そう遊夜は銃弾で剣を弾いた。
「エリザにはお手本を見せてやらないとな」
 そう遊夜がにっと笑った。
「もう! あとちょっとだったのに」
――落ち着いてエリザ。まだチャンスはあるよ。
 詩乃の言葉に頷いて、後退するエリザ。
 対してまほらまエリザは藍と切り結んでいた。
 致命的な部位だけ避け、多少の怪我は覚悟の上。
 その刃の重さにまかせて切り上げ、バランスを崩させ大剣を横薙ぎに振るう。
 それを藍は柄で受けて後退……。
――意表を突くのも良いですね。
 すると見せかけて左パンチ、威力はそうでもないが驚いたエリザはその場に尻もちをついてしまった。
――そして味方にも注意です。
 藍が構えたトリアイナから銀の魔弾が放たれる。
 それを詩乃エリザが盾ではじく。
 だがその隙にまほらまエリザが体勢を立て直した。
 慣性込みで踵に重心を置き、大剣を振り回すように射程内の敵に烈風波を放つ。
「くっ」
 槍での防御も意味をなさない暴風が藍を吹き飛ばす。
「だ、大丈夫ですか?」
 そう心配するエリザ。
――ここで容赦なく行くなら、そうね。指を突きつけるとかかしら。
 そのまほらまの言葉に頷いて、指を五本突き出すと藍は笑っていった。
「ああ、よく頑張ったね降参だ」
――一人でできることには限界があります、一人で立ち向うなんてよほどでなければやってはいけませんよ。
「はい」
 そう頷くエリザ、そんなエリザに話して聞かせた禮の言葉に既視感を抱く藍である。
(ついさっきそんな真似をした人魚の話を聞いたけどね)
――ところでエリザさんは何の為に戦いますか?
「私?」
「闘う理由は重要です。他人の為でも、自分の為でも構いません、ちっぽけな物でも構いませんが……」
「……もう。みんなに」
 エリザは思う、あの日、眠りに落ちなければいけなかったあの日。
 あの日、沢山の悲しい顔を見た。
 あんな表情させたくない。
「もう、みんなに悲しい思いをさせないために」
「あなたは、このせかいを、あいしますか?」
「うん、大好き」
 そう共鳴を解いて微笑んだエリザを全員が温かく祝福した。

エピローグ

 戦闘訓練が終了するとエリザにとって最適な戦略が何かという話になった。
「エリザさん用に縫止みたいに敵の足を止める道具や。毒刃みたいに敵を追い詰める道具があるといいかも」
 そうハングドマンを持ちだす仁菜。
 その言葉に感銘を受けてか遊夜が告げる。
「立体機動装置的なものは作れんもんだろうか?」
 その問答の端っこで
 そんな箱庭の端っこで、エリザとユフォアリーヤが寄り添って座っていた。
「……この世界に来たのは、愚神から逃げてる時……家族と逃げて逃げて、皆ボクを守って殺されて……最後にボクも殺された、と思ったら……この世界にいたの」
「それはとても怖い思いをしたのね、お母さん」
「……この世界に来ても、追われたままで……必死で逃げて、追いつめられた時に……ユーヤに出会ったの、カッコ良かった」
 そう頬を赤らめるユフォアリーヤ。
「……ん、そして驚いたのは……人型になった事、かな?……あの時のボクは、服が嫌いだったの……窮屈だったから」
「人じゃなかったの!?」
「……でもユーヤが、どうしてもって……今は慣れたし、意味も分かるけど……最初は戸惑った」
「服は……気持ちは分からなくもないけど、ねぇねぇ、お母さんって狼だったの? なんだったの?」
「一番気に入った文化? は……やっぱりご飯?……色んな味で、お肉がさらに美味しく」
「あ、おかーさん私の事からかってるでしょ、そうなんでしょ?」
「……ん、ふふふ」
 そうエリザの頭をもみくちゃにするユフォアリーヤ。
「おかーさんにとって、おとーさんはどんな存在?」
「……ボクの半身、ボクの全て……だよ」
 その言葉に逆に顔を赤らめるとさらに深くユフォアリーヤにもたれかかった。
 今日は沢山お話をしたし、動いたから疲れた。
 AIがつかれるはずもないのだがそう感じ、エリザは眠りに落ちることにした。



結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 白い渚のローレライ
    aa2518hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 私はあなたの翼
    九重 依aa3237hero002
    英雄|17才|男性|シャド
  • これからも、ずっと
    柳生 楓aa3403
    機械|20才|女性|生命
  • これからも、ずっと
    氷室 詩乃aa3403hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
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