本部

夏の灯は来たり、されど惜しまれるは

若草幸路

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
5人 / 4~8人
英雄
5人 / 0~8人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2018/07/28 09:47

掲示板

オープニング

●灯をかかげよ、祭りが始まる
 一ヶ月前よりほんの少し、しかし確実に早くなった夜の訪れが待ちきれないとでも言うように、頭上の提灯が明るく光る。各所に据え付けられたスピーカーからはおだやかに囃子が始まり、祭り櫓で行われた開会の挨拶もそこそこに威勢のいい呼び込みが始まった。

 ――旧盆よりは早く、しかし七夕よりは遅い、つつましくも艶やかな街の祭り。

●日々を送る端唄よ
 もう半年を過ぎたのか、とオペレーターの青年は嘆息する。誰もが避けて通る炎天下での仕事を終えた体にラムネが優しく語りかけてくるが、あとひと月足らずでまた歳を取るのか、という時の無常さへの思いを打ち消すには至らない。ぐっと炭酸のきいた甘味を飲み干し、ぐるりと回りを見渡す。祭り囃子と呼び込み、そして祭りにひかれて集まってきた人たちの笑いさざめく声。
 リンカーと共に歩む仕事について久しいが、世の中は相変わらず危なっかしいし騒がしい。こういう賑やかさばかりになればいいな、と視線の先に捉えた祭り櫓を神社代わりにして、青年は心密かに祈った。

解説

●シナリオの目的
 街の夏祭り、そこに集った人たちの行動を活写するシナリオです。

●何をするかの一例
 ・祭り櫓のまわりで踊る。(櫓の上には太鼓とマイクがあるので歌もアリ。その他音源を流したい場合はそばの本部へ申し込みましょう)
 ※著作権にひっかかるものはとてもあやふやにぼかされます。
 ・出店を回る。たいていのものはありますが、景品交換系は祭りの運営が直営している射的場しかないのでご注意を。(スーパーボールすくいなど、最低保障があるものは普通の出店の中にあります)
 ・ちょっと離れた飲食スペースで、にぎわいを遠くからながめる。
 などなど、それぞれの「街のお祭り」を楽しみましょう。

●ワンポイント
 ・同行者がいる場合、ID(aa○○○○、aa○○○○hero○○○)に加えて相手をどう呼んでいるかや関係性などを明記しておくと、描写の違和感が少なくなるかと思います。よろしくお願いいたします。
 ・同行者が複数の場合、【】で囲んだ班タグを使うとよいでしょう。この場合、字数に余裕のある方がIDを明記したメンバーリストを記載しておくと、それ以外のメンバーの字数が節約できます。

リプレイ

●夕闇、暮れきらぬころ
「そういえば」
 残照が消えかかる時刻に幻想蝶から姿を現したマイヤ サーア(aa1445hero001)が、ふと気づいたという風に呟く。
「二人だけの夏は初めてね」
「そうだな、つきっきりでマイヤをエスコートできるね」
 迫間 央(aa1445)が、マイヤのかたわらでふっと微笑む。上着もネクタイも脱ぎ去って鞄と共に抱えたラフなスーツスタイルは、彼が仕事帰りの祭りを楽しみにしていた一介の好青年であることを証している。
「央ったら」
 くすくすと笑い返すマイヤの姿は、常のウェディングドレス姿ではなく、当世流行のラインで仕立てられたサマードレスだ。透け感のあるオーガンジーの重ねがひらひらと舞うその姿は、美しい肌をそのヴェールの奥に包む美を持ちながら、さっぱりと清らかに存在している。
「どこから回る?」
「まずは央の行きたいところへ。あの『はしまき』なんか気になってるんでしょう?」
 すっと腕に腕をからめてきたマイヤに、央はほんの少しだけ驚く。彼女は飲み食いしないのが常である。だが、今夜は祭りという特別な時間を共にしてくれるつもりらしい。
「そうだな、まずは腹ごしらえといこうか」

 その人波にまぎれて、からころからころと下駄の音が響いた。光を放つような真白に鮮やかに描かれた朝顔の浴衣(ゆかた)の、睦月(aa5630)と、夜よりも深く思える藍色に浮かぶ青海波と千鳥の浴衣を身につけた弥生(aa5630hero002)。見ようによっては兄弟姉妹ともとれる二人がそぞろ歩く。
「やっぱり、着物とちごうて楽やわぁ」
「普段のもそうだけど、それも良く似合ってる」
「おおきに。弥生はんもよう似合(にお)てはりますよ」
 弥生の言葉に、睦月がやわらかく桜色の瞳を細めて笑う。そんなふうにしてとりとめもなく祭り囃子を聴きながら、からころからころと出店を見て歩いている。と、
「あ、あれなんかどない?」
 そう言って睦月が道の先を指差した。弥生が視線を動かすと、赤い看板が目に入る。
「林檎飴か」
 悪くないな、と睦月は顔をかすかにほころばせ、弥生に手をひかれてお目当ての店へと向かう。からころからころと、下駄の音が楽しげに響き続ける。

 そんなうつくしい響きの中で、頭ひとつふたつ抜きんでた背丈と鏡像のように似た容姿がひときわ目立つ二人の男が立っている。目立つのは容姿だけのせいではない。祭りにやってきたのに、どこか沈痛な面持ちなのだ。
「このどこか幻想的な景色……私達が捜している宝物が、見付かるやもしれませんね」
 レオン(aa5719)の言葉に、リアン(aa5719hero001)が決然と視線を祭りのにぎわいに向け、口を開いた。
「もし可能性が少しでもあるのならば、きっと捜し出してみせます」
 レオンがええ、と相槌を打つ。なんの運命か宿命か、互いに生き別れ最愛の存在を捜す身。この時期で一番人の集まる催しにならあるいは、という漠然とした予感が、ここにやってくる最中にも感じられている。
「ええ、リアンさんのお仕えしている方も、……私の大切な妹も、きっと」
 そう言ってレオンも目線を居並ぶ出店と提灯の明かりに向け、まぶしそうに眼を細めた。求めている輝きが、まばゆい光を放っている気がして。

●宵はこれから、祭りもたけなわ
 その輝きたちは、祭りの中心に立っている。初めて出会う祭り、祭り櫓、祭り囃子、そして祭り囃子に合わせて踊る人々。つつしまやかな規模とはいえ、鮮やかな異文化の祝祭に、アクチュエル(aa4966)  とアヴニール(aa4966hero001)はその青と赤の瞳を輝かせた。
「のう、あれは何かの儀式かの?」
「あれは……」
 アヴニールの問いに、アクチュエルが蒼い両の瞳で櫓に集う人々を凝視し、熟考する。そうじゃの、と留保つきの前置きがあった。
「……儀式かもしれんのう」
「何か召喚出来るのかの?」
「いや、さすがにそれは違うと言い切れるのじゃ」
 さすがに違う、違うのだが、なんなのかはわからない。うんうん頭を抱えて唸り出したアクチュエルは、しかしすぐにきっぱりと視線を上げた。
「見ていても仕方ない。一緒に輪に入り、踊るのじゃ! みんな楽しそうなのじゃ!」
 その高らかな宣言に、アヴニールもそうとも! と大きく同意する。
「きっと楽しいのじゃ!!」
 二人揃ってさっと輪の中に並んで入り、目の前の誰かの背を見ながら真似て踊る。きらきらと輝く愛らしい姿が、祭りの賑わいに花火のようにきらきらと咲いていた。

 そこからほど近い出店の並びを、軽く食事を終えたマイヤと央は覗き込んでいた。
「こんな薄紙で金魚を掬うの?」
「マイヤなら、要領が分かればすぐできるんじゃないかな?」
 うながされるままにポイを持たされたマイヤが、おそるおそる、しかし確かな手つきで金魚を追う。十何秒としないうちに、とぽん、と椀の中に小ぶりな紅色がいくつか舞った。もう一匹、とポイの中央に大ぶりなものを乗せて引き上げようとするが、いかんせん水につけたままの薄紙である。
「あ」
 あっけなくポイが破れた。ぽちゃん、と尾びれを振って、狙った獲物がふたたび水槽を泳ぎ出す。惜しかったねえ、と日に灼けた顔の店主が後ろの書き付けを指差した。
「……ふうん、一匹もらえるんですって。どう?」
「水槽がないしなあ」
 悩む央に、常温のミネラルウォーターを買って洗面器に張るといい、と店主が言う。それなら水槽とエアーポンプを明日揃えるまで保つだろう、と。央は少し思案して、財布を再び探る。
「俺も一回やって、一匹もらおう」
「央?」
「1匹じゃ、たいていの水槽だと寂しいだろう?」
 そう言って央は笑う。そうね、とマイヤも、優しく笑い返した。

 そんな会話の後ろをすっと通り過ぎていくのは、レオンとリアンだ。二人ともその体躯に似合わず、きょろきょろとせわしなく辺りを見回している。
「おお、これは……」
「あれはなんでしょう?」
 居並ぶ出店を見回しながら、二人の心に驚きと好奇心があふれ、祭りの雰囲気に染まり始めていた。遠くからではわからなかった、知識だけでは味わうことのない光と音の洪水に、現実感が目減りしていく。
「ああ、なんて不思議な世界なんでしょう」
 リアンがどこか夢見心地なふうに感嘆の言葉を漏らす。ええ、とレオンは短く同意し、少し遠い目をした。
「……もし、ここで私達の大切な宝物に出会っても、夢だと思ってしまいそうですね」
 その言葉に、リアンが驚愕に目を軽く見開く。
「レオン様も、そんなお考えでしたか」
 同じことを考えておりました、と苦笑するリアン。レオンが苦笑を返そうとしたその瞬間――ふっと視界の端に輝くものがあった。
 美しくたなびく、地上にある生きた光のような、金の髪。
「「……今のは」」
 重なった声の響く一瞬、金髪は揺れてふっと失せる。だが幻と片付けるには、あまりにも鮮烈すぎる光が、確かにあった。
「レオン様、ひょっとして」
「……ええ」
 視線を合わせて頷きをひとつ交わし、分かれて歩み出す。――あの輝きと、再会するために。

 そんな出来事とすれ違うように人波に乗って進むのは、背丈のコントラストが印象的な二人だ。
「そういえば、二人でお祭りって珍しいです」
 先を歩む紫 征四郎(aa0076) が、右手に林檎飴、左手にチョコバナナを持ってガルー・A・A(aa0076hero001)の方へ振り返る。
「そうか?」
「そうですよ。あ、次はあのわたあめを所望します」
「……俺が持つのか?」
「『欲しいものがあったら言えよ』と言ったのはガルーですよ?」
「はいはい、今日はお祝いですもんね。仰せのままに、レディ」
 今日の祭り見物は、征四郎の10歳の誕生日祝いも兼ねていた。背を向けて少し先を楽しそうに歩く彼女の浴衣は今年の新作である洒落た帯と柄行きで、背中心のある本裁ちである。
 ――少女は、大きくなった。背も、力も、背負うものも。
 ガルーは五年前の出会いをを思い出し、ふっと内心で嘆息した。かつては、この幼い存在が、せめて心だけでも自分に並ぶほどに強くあれと願っていた。だが。
「(……きっと、征四郎の強さは俺とは違うものだ)」
 救えるものを少しでも増やすために、時に何かを切り捨てることもできる自分。
 大も小もなく全てに手を差し伸べ、そして零してしまったものに涙し、それでも立ち上がる彼女。
 ガルーは再びため息をつく。二人の強さは違うもので、そしておそらく、交わらないものだ。ああ、ああ、と思考が巡る。
「……この先も、相棒が俺で大丈夫なのか……」
「? 何か言いましたか?」
「いや、何も。そろそろ座って食おうぜ」
 我知らず口が動いていたらしい。はぐれるなよ、とごまかし半分心配半分で足を速め、隣に並んで歩く。とにもかくにも、征四郎メインの共鳴を阻む彼女の精神的課題になんらかの答えか折り合いを見つけるまでは支えなくてはと、ガルーは内心のさらに奥に決意を秘めることにした。

 そんな二人の歩む先、出店の並びが切れ、少し開けた飲食スペースが視界に現れる。

●この場、幻灯のごとくなり
 もとより空調が少し効いている飲食スペースの、さらに涼しい風があるところにガルーと征四郎は陣取った。買ってきたものを長机に置いていくと、綿菓子、焼きそば、最近流行りのスイートなたい焼きなど、どさどさという音が聞こえそうなほどの量が広がり、ガルーも思わず苦笑いになる。
「こんなに食えるのか?」
「大丈夫です! 征四郎は育ち盛りなので!」
 断言して、もぐもぐと美味しそうにそれらを咀嚼する征四郎。元気よく、しかし行儀良く食事をしながら、ふと周囲を見てうんうん、と得心したように首肯し、呟いた。
「お祭りは好きです。楽しいし、みんな楽しそうで、とてもステキ」
 こんな日々があることが、こんな平穏があることが、この世界が守るに値するのだと再確認させてくれる。言葉にこそしないものの、征四郎はそんな実感を噛みしめていた。
「ねぇガルー」
 そして呟きは、問いに変わる。祭りの熱気のせいなのかなんなのか、少し心ここにあらずといった雰囲気の英雄に、征四郎は真剣な目をして問う。
「ガルーは今日、楽しいですか? この世界のこと、好きになってきましたか?」
 記憶の底にある、ガルーの言葉を思い起こす。この世界を救うのはこの世界の人間でなければならない、と言われた。だが、征四郎にとっては、彼とてこの世界に起居する者だ。だから問い、そして願う。
「もし、あなたがこの世界を好きになってくれているなら……それは、とっても嬉しいことです」
 目の前にいる男の表情は相変わらず読みにくいが、それでも否定的な感情がないことは、なんとはなしに感じられた。瞳を覗き込んで少し待つと、穏やかな声が返ってくる。
「ああ、好きだな。ここにきてずいぶん経つし、慣れてきたさ」
「よかった」
 ――ちょっとだけ、心配していましたので。
 そんなふうに続けた言葉に、ガルーは大丈夫大丈夫と鷹揚に手を振ってみせる。その姿は先ほどと比べてずいぶん地に足がついた雰囲気がある。よかった、と征四郎は内心で再び胸をなで下ろした。
「来年も、一緒に来れるといいですね」
「そうだな」
 約束のような願いのような形で交わされる言葉は、祭りの灯りのようにやわく、暖かい。

 そんな声が人々のさざめきに溶ける片隅で、アクチュエルは飲み物を買いに行ったアヴニールを待っている。所在なげに視線をさまよわせる中で、祭りの音はやや遠い。
「留守番も暇じゃのう」
 そう呟きながらぼんやりと、周囲に並ぶ座席を見渡してみる。今しがたやってきた、踊り終えた人々のはやしたてるような会話に、アヴニールの踊りは特におもしろかったの、と、自分も似たようなものだったことは棚に上げ、思い出し笑いをかすかに口の端にのぼせた。そんな思考のかかる視界に、ふ、と何かが通る。その瞬間、意識が一気に覚醒するような気がした。
「! まさか、あの髪色は、」
 見えたのは、兄を思い起こさせる青。そんなはずはない、という思いがよぎる。否、”そう”かもしれないという思いもよぎる。
「ま、待ってほしいのじゃ……!!」
 だが、思考のさなかに突然現れた存在に反応が遅れた。もともとさして背の高くないアクチュエルの視界から、まばたきの間にその姿がかき消えてしまう。当てずっぽうに追いかけることもかなわぬほど、一瞬のことだった。
「……あぁ……」

 共時性とも呼べる奇縁が、金の髪持つもう片方にもやってくる。
「”らむね”」
 歩きながら二つの瓶を交互に提灯の光へ透かし、アヴニールは感心したように微笑んだ。
「かように美しい瓶の飲み物があるとはのう」
 湾曲する薄青い風景を眺めながら、あちらこちらへと頭を動かしていると、ふ、と目が何かを捉える。人、男、上背のある青年、記憶にひっかかる、その後ろ姿。
「……!」
 いつかどこかで会ったことがあるような、ないような、おぼろげな印象。だがその弱々しい意識への刺激とは裏腹に、その背中を捕まえなければという衝動が湧き上がり、少女は雑踏をくぐって駆け出そうとした。
「其処なふたり、ちょっと待、っ、」
 だが、人の流れは無情にもその勢いを増し、その後ろ姿を遠くへ運び去ってしまう。道の狭さも短さも嘘のようにその姿は人々に呑まれ、消え失せた。じっとりと、ラムネを持つ手のひらに汗がにじむ。
「あれは……」
 ただ呆然と、押し流されるように歩くのを再開したが、思いはつきない。幻視と呼ぶには、あまりにも近かった。

 ――そのように手を伸ばせば届くほどの近さにありながら、しかし運命に翻弄され――レオンとリアンは人波の切れたところで合流し、探索が空しい結果に終わったことを確認しあっていた。
「……何かを、確かに何かを感じたのですが……ああ、でも、分からない、何も……」
 リアンの狼狽を受け止めなだめながら、レオンもうろたえる。掴みかけたものが失われた、何も得てはいないのに喪失感だけがある、そんな心地が魂に突き刺さる。
「夢か、幻か……そんなはずは、確かに、ここで」
 振り向いてみても、ここにあるはずの黄金を見ることは叶わない。確かに感じたはずの存在を掴み損ねた二人は、残り香のような記憶を抱え、祭り囃子を慰めとしてその場を静かに離れていった。

 その傍らを通行人が、みな賑々しく今日の楽しさを語りながら彼らを追い越していく。宴も盛りを過ぎ、ちらほらと家路につく人々の見える頃だった。

●過ぎゆく灯を惜しみ、されど振り返らず
 盛りを過ぎた賑わいの余韻を噛みしめながら、睦月と弥生は最後に祭りをもうひとまわりする。ふ、と弥生が口を開いた。
「睦月、今日はありがとう。……楽しかった」
「ん、弥生はんも楽しめたんなら何よりやわ」
 睦月は常のように、しかし常よりも柔らかく笑んだ。もう残り少ない林檎飴をかりこりとかじりながら、二人は穏やかに言葉を交わす。
「お祭りは賑やかなんがええなぁ。皆楽しそうなん見てるだけで、こっちも楽しゅうなるし」
「そうだな」
 弥生は得心したように大きく頷いた。その表情に険はなく、ただ平穏に満たされた心がある。
「たまにはこんな賑やかな日も、悪くない」
 からころからころと、平穏を祝するように下駄の音が響いた。

 その響きから少し離れて、人が減り始めた道行きでひときわ目立つ二人が、長い沈黙のあとに声を交わす。
「……のう、今日は如何じゃった?」
 ややあってから、アヴニールが言葉を紡ぐ。
「不思議な、日じゃった」
 うむ、とアクチュエルが大きく首を縦に振った。
「また行きたいの」
「”らむね”も美味かったしの」
 くすくすと笑いあう二人は常日頃のようで、しかし、繋いだ手はいつもよりしっかりと握られている。――まぼろしなのか違ったのか、それすら確かめられなかったという物思いを、どうにかしたいというように。

 さらに離れ、もはや声すらもまばらにしか響かない家路。
「……賑やかな時間が過ぎてしまうと、少し寂しいものね」
 肩越しに振り返りながら、マイヤがぽつりとそんなことをこぼす。その言葉に央はふ、と目線をマイヤに投げ、口を開いた。
「マイヤ、」
『?』
「マイヤは、黙っていなくなったりするなよ」
 央の脳裏に、去年までは一緒に過ごしていた人々がほんの少しよぎる。かつて見た夢のかけらのようなかたわらの存在もいつかは、と昏い想像に沈みそうになっているのをマイヤは見て取り、少し拗ねたような口調で答える。
「私たちの誓約、忘れてない? ――ちゃんと央が、私を捕まえていてくれればいいのよ」
「……うん、そうだね」
 央は笑みを作ってみせた。だが、どこか無理をしている気がして、マイヤはその手を取り、しっかりと繋ぐ。
「大丈夫よ。央の言いたいことは、わかっているから」
 互いの確かさを示す言葉に応えるように、骨張ったぬくもりが軽くマイヤの手を握り返してくる。そのまま手を繋いで歩き始める。今日は幻想蝶に戻らずに、一緒に帰ってくれるらしいと央は気付き、くすりと、祭りのさなかに見せていた、心からの笑顔が戻る。
 互いを感じながら、ゆるく涼風の吹く夜道を歩く。ときおり街灯に金魚を透かして、水槽は何がいいかと笑い合う、まだ特別な祭りのひととき。

●惜しみ終われば、明くる日へ
 祝祭の揺れる灯に想いを浮かべ、昨日と今日を惜しむ。そうしてひとしきりたゆたったあとに彼らは、改めて明日へと向かってゆく。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 似て非なる二人の想い
    アクチュエルaa4966
    機械|10才|女性|攻撃
  • 似て非なる二人の想い
    アヴニールaa4966hero001
    英雄|10才|女性|ドレ
  • エージェント
    睦月aa5630
    人間|13才|女性|攻撃
  • エージェント
    弥生aa5630hero002
    英雄|18才|?|ブラ
  • エージェント
    レオンaa5719
    機械|23才|男性|回避
  • エージェント
    リアンaa5719hero001
    英雄|23才|男性|ブラ
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