本部

花のお祭り~爛漫~

形態
ショートEX
難易度
易しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2018/07/10 20:57

掲示板

オープニング

●咲き誇る
 眼前に広がるのは、一つ一つは小さな花。
 それを図案通りに敷き詰めて、出来上がったのは花の絨毯。
 鎮魂の意味も含めた、フラワーカーペット。
「…………」
 図案の作成から手伝いをしていた竜見玉兎(az0044)が思わず息を飲めば、その小さな頭にぽんと手が置かれる。
「呆けてないで行くぞ」
 少女の第一英雄であるユウ(az0044hero001)が手を引いて会場の中へと入っていく。
 第二英雄も行きたい行きたいと最後まで駄々をこねていたが、どうやらじゃんけん勝負の結果ユウに軍配が上がったようだ。

 見渡す限り、花、花、花。
 どのような絵になっているか分かるよう展望台も設置されているそうだが、ただ歩いているだけでも。
「……これ」
 玉兎が指さしたのは植えられている花の名前や説明が書かれた案内板だ。
 至る所に設置された板には花言葉なども書かれており、展望台からでは見れないものの一つだろう。
 それにイベント会場の外では屋台も出ているし、エージェント達の日常写真を集めた展示場やクイズ大会なんかもやっているらしい。
 きっとそこには、考えられる以上の思惑があるのだろう。
 ただ、今は楽しもう。
 咲き誇る花に恥じないように、めいっぱい。

解説

■目的
 花のお祭りを楽しむ!

■NPC
・竜見玉兎
・ユウ
 二人で会場内をうろうろしている。

■場所
・フラワーカーペット
 今イベントの目玉。
  鎮魂の花であるシオンを一輪抱いたきぼうさ
  希望の花言葉を持つ花で作られた花束を抱くきぼうさ
  よろしくね!と挨拶するきぼうさ
 大きく分けてこの三つが作成されている。
 フラワーカーペット付近には花についての案内板が多く設置され、座って見られるように椅子も設置されている。

・展望台
 少し高めの場所に作られた展望台。
 フラワーカーペット全体を見る事が出来る。

・展示場
 『彼らの日常』と題された写真展が開催されている。
 飾られているのはエージェント達の日常風景。

・催し会場
 H.O.P.E.の歴史などが貼り付けられた会場内で『クイズ大会』が開催されている。
 内容はH.O.P.E.に関わるものが主なようだが……?
 Q1.対愚神兵器の略称はどれ?
   1.PGO 2.HOPE 3.AGW
 Q2.そもそも『H.O.P.E.』って何の略称?
   1.Hero's Organization for Peacemaking the Earth.
   2.Hero's Organization for Poketmaking the Earth.
   3.Hero's Organization for Peacemaking the Eat.
 Q3.H.O.P.E.の会長であるジャスティン・バートレット氏の誕生日はいつ?
   1.三月三日 2.五月五日 3.一月一日
 Q4.H.O.P.E.のマスコットの名前は?
   1.HOPEまん 2.きぼうさ 3.ホープマン
 Q5.英雄と誓約を交わした際に現れる不思議な宝石は何と呼ばれている?
   1.幻想蝶 2.幻影蝶 3.誓約石 

・献花場
 イベント会場から離れた静かな場所にそっと設置され、献花台は綺麗に整えられている。

リプレイ

●花開く
「花の祭り……漸くフラワーカーペット、完全完成じゃの」
『うむ。見られてこそ輝く花も在るじゃろうて』
 そう言って会場内を歩くのはアクチュエル(aa4966)とアヴニール(aa4966hero001)の二人だ。
 どちらもフラワーカーペットの図案作成から関わっており、完成した花の絨毯を見て満足げに頷き合う。
 さて、それでは何処へ行こうか。
 このまま絨毯の周りをぐるりと見てみるのもいいかもしれないし、外には屋台があるようだ。見晴らしの良さそうな展望台もあるしクイズなんかも開催されている。
『迷うが、展示場かの。唯一準備に参加出来なかったしの』
「皆が日々送っている常の、表も裏も見られるやも知れんしの」
 飾られているのは『彼らの日常』。そこにどんな表情があるのかと、フラワーカーペットから離れて二人、展示場へと向かう。

 たくさんの写真が飾られた展示場へ、魂置 薙(aa1688)とエル・ル・アヴィシニア(aa1688hero001)の二人は足を運んでいた。
 壁いっぱいの写真、その多くが笑顔で溢れている。
『これが気になっておったのだ』
 一つ一つを眺めてはゆっくりと目を細め、エルは写真を見ていく。
 彼女自身写真を撮る事が多く、撮影が好きというよりは今を残したいからという思いが強い。
 忘れてしまった過去があるからこそ、今を大事にしたい。だから写真という形で留めておきたい。
 どことなく嬉しそうなエルと共に、魂置も写真を眺めていく。
 『彼らの日常』と題された写真。魂置が守りたいのもここにあるような日常だ。
 誰かと食事を楽しんだり、学校帰りに遊びに行ったり、悩んで苦しむ事があってもそれを覆うくらい笑顔がある。そんな日常を守りたくて戦っている。
「あ」
 左から右へ眺めていく内に、ふと目に留まった写真。そこに写っているのは魂置の大切な友人だ。居眠りの写真や、ゲームの筐体に突っ伏して項垂れている写真。普段見ない姿ばかりで、とても新鮮に見える。それから、笑顔の可愛い小さな友人がピースしている写真も。
「そういえば、前に手伝ったって、言ってた」
 別の依頼と重なってしまって行けないけれど、楽しんで来て、と。
 その時の笑顔のまま、楽しんでいる様子がこちらにまで伝わってくるようだ。
『どれも良い写真だの』
 中央に飾られ、他のものよりも大きめに印刷されている、参加者が写った集合写真。
 エルと同じく魂置もその写真を見て、そっと目を細めた。
 きらきらと眩しくて、楽しそうで。
「うん、素敵な、写真」

 徐々に賑わってきた展示場内。アクチュエルとアヴニールの二人も友人の写真を見つけては楽しそうに言葉を交わす。
「お、これはリリィとカノンじゃな」
『リリィは写真の中でもリリィじゃのう』
 白百合と向き合う少女。それからクレープを食べている姿や眠ってしまっている姿も。
「カノンも居るの。やはり華の如しじゃな」
『うむ。然し一緒に映っているモノが一番良い顔じゃの』
 慌てているような、照れているような。
 撮影した時の会話まで聞こえてきそうな、生き生きとした二人。どれも素敵だけれど、二人で共に居るのが一番楽しそうだ。
 それから、それから。
 ご飯の写真や笑顔の写真。近所の人たちと一緒に撮ったのか、賑やかな写真もある。
 古いアパート、古書、公園やケーキ。
 様々な日常が溢れていて、少女たちは想像を膨らませながら写真を見ていく。
 知り合いの知らなかった顔。見慣れた表情。
(どの写真も、其々に良い。普段、戦っている事が嘘の様じゃ……)
 写真の中の誰もが、戦場となれば武器を手に駆けてゆく。人々を護るために、大切な誰かのために。
 もしも、嘘であれば。
(そう。嘘であれば真嬉しき事であるのじゃ……嘘で、あれば……)
 ほんの一瞬。視線を落としたアクチュエルの様子を見るまでもなく受け取って、アヴニールは少女の腕を引く。
『次は献花場に行くのじゃ』

●まずは花より
 キース=ロロッカ(aa3593)と匂坂 紙姫(aa3593hero001)、桜小路 國光(aa4046)とメテオバイザー(aa4046hero001)。
 四人はまずは屋台で買い物と洒落こんでいた。
『気合たっぷり、お小遣いもたっぷり! さあ、お菓子を食べに行くよっ!』
 きりっとキメる紙姫は純白のワンピースに白い帽子の清楚なお嬢様スタイルである。佇んでいれば可愛らしい服装ではあるが、早速買い込まれた屋台の袋がいいアクセントになっているような、いないような。
「目的違う……」
 思わずぼやくキースは白いワイシャツにジーンズという動きやすい服装だ。晴れた空に時折吹く風が心地よく、天候も幸いしてか会場内だけでなく屋台側にも人が増え始めている。
 あちらへこちらへと歩く紙姫についていきながら、桜小路達はどこだろうと視線を巡らせれば。
「まだ買うの?」
『イチゴ飴は絶対買わないと』
 呆れ声の桜小路にこくこく頷きながら、イチゴ飴と共にべっ甲飴も追加購入するメテオバイザーである。
 一通り屋台も楽しんだところで、たくさんの買い物袋を手に四人揃って会場の中へ。
 ひとまず近くにあったベンチに腰かけるやいなや、紙姫はメデオバイザーにずずいっと綿あめを差し出し。
『ほらメテオちゃん、あーん!』
 真っ白でふわふわな綿あめは、一口食べればその甘さが口いっぱいに広がってとても美味しい。緑やピンクなんて色もあったが、やはり綿あめが白がスタンダードである。
『紙姫ちゃんも、あ~ん』
 メテオバイザーはお返しにとかき氷の最初の一口目を掬って、紙姫は嬉しそうにぱくり。
『美味しいー!』
『美味しいのです~』
 揃って頬に手を当て、笑い合う英雄二人。今度はたこ焼きの食べ比べと和気藹々な少女達を見て、キースがぽつり。
「しかし、こう見ると互いの英雄は本当の姉妹みたいですよね……」
 隣の桜小路へ話を向ければ同意の頷きが返ってきて、それに気づいたメテオバイザーが『サクラコもどうですか?』とかき氷を掬ってくれる。
「ありがとう」
 一口貰えば、しゃりしゃりした食感と甘みが喉を滑り落ちていくのが分かる。これからどんどん暑くなる季節、重宝されるものであるし。
『美味しいですよね』
 もしも英雄の顔を見ていれば思わなかったことなのかもしれないが、桜小路の視線はシロップの原液にあったわけで。
『どうしたんですか?』
「いや……人間の味覚は過去に食べた物の経験も合わせて味を認識しているところがあるんだけど……」
 唐突に始まった理系話。エージェントであるが大学院生でもある桜小路の言葉に、メテオバイザー。
『……え?』
 そう返すのがやっとである。片手にはまだ半分ほど残っているかき氷。困惑したままの英雄を置いて桜小路の話は続く。
「かき氷のシロップの多くが糖度の強弱だけで味そのものはついてないのに……』
 一部には有名な話であるが、イチゴやレモンなど違いは香料や着色料だけで味は同じ。鼻を摘まんで食べてみればどれも一緒である。
 が、しかし。
『……?!』
 まるで誓約解除を宣告されたような、絶望的な目をするメテオバイザーを前に、桜小路もこれは言いすぎたと気づく。
「あ、ごめん。多分、夢、壊した」
 世の中知らなくていいこともある。知らないからこそ楽しめることもあるのである。

 しょんぼりするメテオバイザーに『でも美味しいのは変わらないよ!』と紙姫が声を掛けながら英雄達の話題は食べ物からファッションの話題へ。
 お淑やかな服装の多いメテオバイザーと可愛らしい服装の多い紙姫。
 服装を交換することは出来ないが、お互いに好きな服装を見にショッピングもいいかもと話が弾む。
「このお祭り、キミ達も立案を担当したんですよね?」
 案内をお願いできないかと真面目なキースに桜小路は二つ返事で頷き、三つそれぞれのフラワーカーペットを巡るべく歩く。
 そんな能力者達の話題と言えば。
「そういえば、サクラコの方は単位どうですか?」
 なんとも固く、現実的な会話が繰り広げられていた。
「単位よりも、ラボの発表順が回ってきた時の方が恐ろしい……」
 キースは法学が専攻で桜小路は薬学部の大学院生である。年齢や学部は違えど共に学ぶ者同士、理解し合えるところも多いようで。
「博士課程に誘われたんだよね……声をかけられたのは素直に嬉しいし、勉強はしたいけど……」
「そうですね。講義の最中に召集が掛けられるということもありそうですし」
 学生とリンカー。情勢が落ち着けばどちらも共に目指せる道だが、今この状況では選ぶのも難しい。
 学べる機会がすぐそこにあるというのに。
「でもこういう風に」
 キースが会場を見渡せば、世界に争いなんてないかのような平和な光景が広がっている。
 手を繋ぐ親子、笑い合う学生たち。知り合いと思しきエージェントも来ていたようで、目礼を返しながら。
 いつかこれが世界に広がると、争いは終わると信じて今は積み上げていくしかない。
「なかなか骨が折れるかもしれませんが」
 冗談めかしたキースの言葉に、桜小路の顔にも微笑が浮かぶ。
 そうして歩いていればフラワーカーペットは目前だった。
『ふおお! すっごいキレー!』
 ぴょんっと後ろからキースに抱き着いてきた紙姫を受け止めつつ、その感想には同意して頷き。
「これがフラワーカーペット。実物は初めて見ます」
『見てください! あのカーペット、メテオ達もアイディア出したのです』
 メテオバイザーが指さしたのは希望の花言葉を持つ花束を抱いたきぼうさのカーペット。
 全体像は見えないものの、完成図が縮小された看板を見れば確かに色とりどりの花束をきぼうさが持っているのが分かる。
『ねね、キース君。写真撮ろうよ!』
 腕を引く紙姫と共にカーペットの前に並べば、どこか観光にでも来たような風景だ。
『花束のお花はサクラコが調べてくれたんですよ』
 二人の様子に嬉しそうな英雄はふふっと能力者を見るが、桜小路は撮影するのに忙しい様子。返答は沈黙である。ちなみに撮影しているカメラは紙姫のものだから、あとでデータを貰うのかもしれない。
 英雄二人で、能力者達で。たくさん写真を撮った最後に。
「サクラコ達も入ってくれませんか? こういうものは記憶にも、記録にも残しておくべきですよ。さあさあ」
 桜小路をぐいぐいカーペット前に押して、通りかかった人に撮影をお願いする。
 いつかまた、こうして穏やかに楽しめる日が来た時に。
 あの時は大変だったけど楽しかったと、思い返せるように。

●花の意味
 面倒だと顔に貼り付けながら歩くバルタサール・デル・レイ(aa4199)の隣を歩きながら、紫苑(aa4199hero001)は右へ左へと視線を動かす。
『すごいたくさんの花だねえ』
 のんびりと歩くのはフラワーカーペット脇に設置された散歩道。一休み出来るように所々にベンチも置かれ、家族連れも多く見に来ているようだ。
『これだけの花を集めて鮮度を管理するのも大変だったろうね』
 紫苑の言葉に、「だな」と心のこもっていない言葉を返すバルタサール。面倒だと言ったのに強引に連れてきたのは隣の英雄だ。返事があるだけマシというものだろう。
 と、自由気ままな英雄は入口で貰ったパンフレットを広げて。
『鎮魂のための花かあ』
 口元には笑み。端麗な容姿と花は似合いすぎるほど似合っているが。
『花にも命はあるけどね。人の満足のために、咲き誇って散る』
 いずれ枯れる儚い命。咲かせるのは美しいと愛でる人の為。
 魂を慰める為に別の命を使って。
「……」
 紫苑の声音に毒は無く、だからこそ相変わらず性格が悪いなとバルタサールは思う。
 なら何故わざわざこんなところまで足を運んだのかと思わなくもないが、理解するつもりも無いのだからひとまず思考を終えて。
『シオンの花言葉は、追憶だって。僕の名前と同じだよ』
「そうかい」
 右から聞こえる言葉を左に流して、ただ歩いていく。
 あの花にはこんな花言葉。花言葉にはあんな逸話。
 パンフレットに書いてあるのか、それとも紫苑の知識なのか。
 どちらでもいいかとまた受け流そうとするバルタサールに、紫苑はくすりと笑みを深める。
『復讐の花言葉を持つのはシロツメクサだって。きみにはシオンよりクローバーが相応しいのかもしれないね』
 幸運・約束と明るい意味合いの裏側の花言葉。
 何故そのような花言葉になったのかは諸説あるものの、バルタサールにとってはどうでもいい。
 ただ、自分の事に触れられるのは不愉快だと紫苑を見る。聡い英雄は手をひらひらと振ってバルタサールの視線を受け流して。
『この前の、あの子。いめ。きみなら気持ちを分かってあげられるんじゃない?』
 復讐という単純で分かりやすい、自分の為の行動を。
「さてな」
 これ以上会話を続けるにも広げるにもバルタサールの返答は面倒そうで、紫苑はやれやれとパンフレットを閉じた。
『ま、あんまりきみをいじめすぎても不機嫌になっちゃうしね。じゃ、次は屋台に行ってみようか』
 来る途中、様々な屋台が出ていたし。
 食べるにも遊ぶにも困らなそうだが、足を向けつつも内心溜め息を吐いているだろうバルタサールに『それとも、』と譲渡案を。
『献花場に行ってみる?』
 紫苑の言葉にちらりと視線をやるバルタサールだが、その目は再び出口へ――その先の屋台群へと向けられる。
「魂とやらがあるとすれば、俺らみたいなのには来てもらいたくないだろう」
 散々すれ違った意見がようやく一致して、英雄は『だよねえ』と微笑を零した。
『僕らには似つかわしくない場所だ』
 二人の言葉を聞く者は誰もいない。明るく賑やかな祭りの中、人の波に逆らうように能力者と英雄は出口を目指す。

●四人で
 穏やかな風に花の香り。暑さよりも爽やかさが勝る天気のもと、集まった四人の姿がある。
「この度はお誘いありがとうございます。バンさん。兄様」
 丁寧に礼をするのはアクレヴィア(aa4696hero001)だ。続いて彼女の能力者である智貞 乾二(aa4696)もありがとうございますと礼を。
 まずはフラワーカーペットを見ようかと四人纏まって歩き始めれば。
「レヴィア見て! これ、すごいね、かわいい」
『そうですね、あっちもすごいですよトモサダ』
 智貞が屈みながら花を見つめれば、その様子を微笑ましく見守るアクレヴィアが次の看板へと誘導する。
 するとそこにもまた素敵なものがあって。
「わ、ほんとだ! 伴くんもお兄さんも見てみて」
 振り返って呼びかけた相手は伴 日々輝(aa4591)とグワルウェン(aa4591hero001)の二人。グワルウェンはアクレヴィアの実の兄であり、同じ世界の出身である。伴と智貞は英雄がきっかけで知り合った仲だ。
「春先を過ぎてもこんなに咲いてるもんなんだね」
 智貞と並び、穏やかに花を見る伴の言葉に首を傾げたのはアクレヴィア……ではなくグワルウェンだった。
『そうか? 夏場に元気な花ってのも結構あるぜ。切り花はともかく植えてあるなら尚更な』
 何を隠そうグワルウェン、花屋でバイトをしているのである。内心(ホント人って見かけによらないな…)と思ったりしている伴には気付かないまま、グワルウェンは花にまつわるエトセトラを愛しい妹に話している最中だ。
「お兄さん、詳しいんですね」
 どことなく目をきらきらさせながら熱心に頷く智貞。アクレヴィアからも賛辞を受ければグワルウェンの知識は更に広がっていく。彼が馴染み深いのはハーブなのだが……そこはまあ、同じ植物である。
 アクレヴィアやグワルウェンが楽しそうなのは勿論だが、普段ビクビクしている印象のある智貞も楽しそうで。
 誘ってよかったと一安心する伴だったが、たった今安心されたばかりの智貞がはたと気付く。
(あっ、でもお兄さんって僕が呼ぶのはダメかな……?)
 つい呼んでしまったけれど。アクレヴィアのお兄さんでもあるわけだし、そこには親しみしか無いのだけれど。
 不安が加速するまま、智貞はあわあわと、
「あ、ご、ごめんなさい! えと、ぐ、グワルウェンさん!」
 思わず噛み噛みになってしまって更にあわあわしてしまうが、そこを穏やかに微笑むアクレヴィアが受け取る。
「いいですよ「お兄さん」で。いいですよね、兄様?」
 有無を言わせない妹の笑顔と、「ほ、本当、ですか……?」とおどおど様子を見てくる智貞の視線。
 更に、そんな会話が楽しくなってしまった伴が。
「急にまた兄弟が増えたね、グワルウェン「兄さん」?」
 ここはノっといたほうが面白い気がするというノリでお兄さんの会話に参加したものだから、グワルウェンは頬を掻く。
 元より可愛い妹の有無を言わせない笑顔になんか勝てるはずがないのである。
『トモサダが義弟か……6番目の末っ子でいいか?』
 でけえ弟だぜ、と笑って付け加えられた一言にぱあっと顔を輝かせた智貞へ、アクレヴィアが良かったですねと声を掛ける。
 年齢的に言えば智貞がアクレヴィアの兄になるのだろうが、二人の様子を見てみるとまるで智貞がアクレヴィアの弟のようだ。
 ともあれ、一行はフラワーカーペットへ。
「フラワーカーペットですか……花冠なら見たことはありますが、花だけで作られた道は初めてです」
 よくドジをする契約者が花に倒れ込まないか注意を払いつつ、アクレヴィアもゆったりと花の絨毯を眺めながら歩く。
『こりゃまたキレーに咲かせたもんだ!』
 彼女とは対照的に花を見慣れているグワルウェンではあるが、並べて絵になっているとなると話は別である。
『見ろよトモサダ。あの花な、育てるの結構難しいんだぜ……プロの仕事ってすげぇよな』
 様々な色の花が枯れないように、綺麗に咲くように。
 注意を払って、一本一本手入れをされているのだろう。どの花を見ても鮮やかに咲き誇っていて、それこそプロの世界の話だ。
 感嘆し、尊敬を向け、素直にすごいと言う青年。懐っこく智貞に絡んでいたグワルウェンだったが、見目だけならば幼い妹へ手を差し出す。
 折角のいい天気。並んで歩く家族連れも多い。
『なあレヴィア、兄ちゃんと手つなぐか?』
 笑顔の手に、しかし返されるのは憮然とした表情である。きっぱり拒否されないだけいいのか悪いのか。兄貴の愛情は深く、故にか弱い生き物でもあった。まぁ、仕方ない。
 しょぼんとした英雄を慰めながら看板を眺めていた伴は、見慣れた花にしゃがみ込む。
「こっちの花、花壇とかでよく見たけど。こんな色もあるんだね」
 示したのはペチュニアの花だ。色は豊富で模様も多くあり、伴の言う通り花壇でよく見かけられる花でもある。
 残念ながら触れることは出来ないが、可憐な花は見るだけで楽しませてくれる。
「こちらの世界の花々も美しく力強いと感じます」
 少女の素直な感想に喜ぶように、ふわりと風が舞った。

●墓標
 ナイチンゲール(aa4840)と墓場鳥(aa4840hero001)がまず訪れたのは献花場だ。
 アセビとオルリアの花を寄り添わせる様に献花台へ捧げれば、黙したままだった墓場鳥が口を開いた。
『……妙なものだな』
 独り言のような小ささだったが献花場内に人はおらず、離れた距離にいたわけでもないナイチンゲールが首を傾げて「何が?」と先を促す。
『何故人は死者に花を手向ける』
 それは英雄であるからこその問いなのだろうか。
 献花台の上に飾られた花は、鎮魂の為だろうが墓場鳥には違って見える。
『斯くも華やかに、いっそ祝わしいほどに』
 何故だと献花台を見つめながら問う英雄に、思わず笑みを零すと花へ向けられていた瞳と視線が合って。
『……なんだ』
「だって、珍しいから」
『そうか』
「そうだよ。いつもは教える側なのに」
 声音に笑みを滲ませたまま、ナイチンゲールは自分なりの答えを探す。
『花を知ってはいても目にしたのは此方に来てからのこと故』
 なれば尚更。花に秘められた言葉も、そこに秘められた想いも、知る由もない。
 そもそも、あの世界に生きた存在など。
「……お祝いっていうのも間違ってないんじゃないかな」
『死したることをか』
「ある意味では、ね」
 次の人の為に場所を空け、献花台から離れたところで二人並べば声を大きくしなくとも聞こえる位置。
 ナイチンゲールの言葉は続く。
「送別会なんかでも花束の贈呈するけど、あれって惜別と、慰労と、感謝と、新たな門出の祝福を兼ねてるんだ」
 少女の視線は献花台へ、捧げた花へ。
「死んじゃった後も同じ。天国への道行きを祝福してるんだと思うの」
『生命に死の先などない』
 にべもなく言葉を落とした墓守へ「そうかも知れないけど……」と再度言葉を探す少女に、ちらりと視線を向けて。
『だが無価値だとは思わない』
 それは――信仰は、遺された者の心を救済する為にこそ機能する。
 墓標と同じように。
「……うん」
 安らかに。達者で。
 どうか死した者が、健やかでありますように。
 そう想うことは生者にしか出来ないのだから。

●想いを馳せる
 リリィ(aa4924)とカノン(aa4924hero001)の二人は展望台に上っていた。
 フラワーカーペットの図案作成にも関わった二人だから、自分達で考えたフラワーカーペットをよく見る為にはきっとここが一番だろうと。
 風に髪を揺らしながら、リリィは広がる花の絨毯を見つめて微笑を零す。
「……カノンねーさま。フラワーカーペット……綺麗ですの」
『そうね、綺麗で優しくて……何処か儚くて……素敵、ね』
「でも……綺麗とか見目だけではなくて……その、えっと……」
 どう表したらいいのか、少し考えたリリィはやがて微笑んで。
「一緒に作った皆様の色んな想いが籠ってるのですわ」
 三つそれぞれ、籠められている想いが同じだとは思わない。
 鎮魂、希望、親しみやすさ。
 図案を考えていたあの場では聞けなかった想いも籠められているのかもしれない。
『リリィは……』
 微笑むリリィの横顔を見つめながら、
『どんな想いでフラワーカーペットの図案、考えていたの?』
 囁くようなカノンの声に、リリィは視線を合わせてからいたずらっ子のように微笑して。
「……秘密、ですの!」
 落ち着いた色合いの、鎮魂の意味を込めたフラワーカーペット。
 誰もが安らかに、静かに眠れるように。
 争いの騒がしさに、起きてしまわないように。
 故人に哀しい想いをさせないように。
 そして何よりも今を生きる人々が幸せに暮らせるように。
 そんな想いを籠めた、花の絨毯。
「行きましょう、カノンねーさま」
 二人が奏でるレクイエムのように、想いも響いて行けばいい。
 それが鎮魂になると信じて。

●悩みつつ
 魂置とエルが次に足を向けたのは、『クイズ大会』会場だ。
 問題文を見ながら解答用紙を片手に魂置は鉛筆で丸を付けていく。
 Q1、対愚神兵器の略称は?
「これは、簡単! 3番、だね」
 AGWにぐるりと大きな丸を書く。
 Q2、『H.O.P.E.』の略称は?
「英語……」
 どこか英語に苦手意識のある魂置だが、悩んだ末小さな丸を。
「1番……だと、思う……」
『(勘で答えおったの)』
 Q3、会長の誕生日は?
『これは私も知らぬな』
 ふむ、と頬に手を当てるエル。
「ええっと、えっと……3番!」
 ぐるっと丸をつけて、Q4、H.O.P.E.のマスコットの名前は?
「きぼうさ……だと思ってたけど、この答えの並び……」
 ひっかけ問題のように、何故か並ぶHOPEまんとホープマン。
「ほーぷまんの、可能性も……?」
 本気で首を傾げる魂置の様子に呆れたように、
『さっきまで何を見ておったのだ』
 エルの言葉に背中を押されて、きぼうさに丸をぐるり。
 そして最後のQ5。
 英雄と誓約を交わした際に現れる不思議な宝石の名前は?
『これは……』
 思い出してくすりと微笑むエルに、魂置は少し拗ねた様子で幻想蝶に丸をつける。
「もう、間違えない」
 まだ新人エージェントだった頃、幻想蝶と幻影蝶の区別がついていない時があった。
 しかも幻影蝶は攻撃手段だったものだから、攻撃って幻想蝶を投げつける、のかな?と勘違いをしてしまい、試そうとする能力者にエルが慌てたという微笑ましい事件があった。
『懐かしいの』
 今ではこんなに逞しく、成長した。それがエルにとって何よりも嬉しいこと。
 解答用紙をスタッフへ渡すと赤ペンで丸がつけられて、「全問正解ですね!」と笑顔と共に差し出される二つのチケット。外の屋台での買い物券だそうで。
「後で、行ってみようか」
 もう一つだけ行くところがあるから、その後に。

●見つめる先
 フラワーカーペットをぐるりと巡り、クイズに苦戦している様子の魂置を見かけたりキースや桜小路に目礼しながら。
 ナイチンゲールと墓場鳥は二人、展望台を目指して歩く。
 その途中。
「あ」
 声をあげたナイチンゲールの視線の先には、暇そうに看板を眺めるユウと、竜見玉兎の姿。
 そういえばこの会場がどのようにして出来上がったのか知らなかったと。展望台へ上る前に知っておくべきではと考えて。
 開催までのあれこれや由来についてを尋ねれば、拙いながら一生懸命な説明を玉兎が。補足を隣のユウが行い、話の流れでか『展望台からならよく見えると思うぞ』と英雄。
 どうやらこの二人もまだ展望台には行っていないようで、暇そうにしていたこともあるし。
「あ……もし宜しければご一緒にどうですか……?」
 どことなく遠慮がちな同伴の誘いに、きらっと瞳を輝かせたのは能力者の玉兎である。言葉は無いまま行きたい行きたいアピールをユウに向ければ、何やら声にならない声を漏らした英雄は諦めたように『よろこんで』という返答を。聞けば玉兎がはしゃいで危ないから高いところはあんまりだとか、それをお願いするのもどうかと思っただとか云々。
 一方玉兎はナイチンゲールに手を差し出して、ナイチンゲールもまた戸惑いつつも手を握り返す。命を守るための手段は、備えている。
 当然展望台への道も安全で、着いたところでまた今度と別れてフラワーカーペットへ目を向ける。
 一面に広がる花の絨毯。
 迫り来るものはあるが、かといって押し潰すような圧迫感は感じない。 
 まるで包み込むような、癒すような。
「優しい、ね」
『グィネヴィア』
「私はね、墓場鳥」
 言葉は前を向いたまま。花の絨毯を見つめたまま。
「出来るだけ沢山の、生きてる人に花を贈りたいんだ」
 たくさんの経験があった。
 出会いも別れも、喜びも嘆きも。
 ほんの数か月、されど数か月。詰め込まれたような日々を生きてきた。
『ならば今少し己の身を案じろ』
 だからこそ墓場鳥も言葉を紡ぐ。
『人は本来、自ら労り、慰め、寿ぐ術に長けている。なればこそ他者へも優しくなれるというもの』
 自身が不足している状態で他者へ優しくなれというのは難しいものだろう。
 満ち足りている状態とはいかずとも、他者への供給ばかり続けていては身がもたなくなる。
『だが、お前は自分を切り売りしているに過ぎない』
「うん、ごめん」
 返す言葉に迷う間も、気を付けるの言葉さえ無く。
 そんな能力者の身を尚案じながら、しかし墓場鳥も何も言わず。
 隣に並び、咲き誇る花を今はただ見つめるばかり。

●空を目指して
 広がるフラワーカーペットを眺めるのは勿論だが、それよりも高いところが気になったのか。
 会場のパンフレットを片手に、プリンセス☆エデン(aa4913)はきらきらした視線をEzra(aa4913hero001)に向けて。
「展望台あるんだ! 上ろ!」
 言いながらも早速走り出しそうなエデンに、Ezraは晴れ渡った空を見上げながら答える。
『上空は風が気持ち良さそうですね』
 会場内なのだから迷子になるとは思わないが、見失わないよう執事然とした英雄は能力者の後を追って展望台へ向かう。

 そこから見える景色は、絶景の一言だった。
 広がる花の絨毯。人の流れも考慮された道に、展望台からの眺めを邪魔しないよう設置された展示会場など。
 色々な所に工夫が凝らされていて、どこを見ても飽きない。
 しかし、手すりに体を預けたエデンは会場内の端にある小部屋を見つけて、思い返す。
 先日の花のお祭り。
 まだ愚神と人々が手を取り合えると思われていた日々。
 あの時はここにもいめが居た。けれど、今はもう居ない。
 ここだけでなく各地で愚神が動いていて、暗躍していて、エージェントも真意を見極めようと飛び回っていた。
 エデンもその一人。いめが去る時は他の戦場に行っていて、会えなかった。
 報告書には目を通したけれど。
「いめは、友達になろうって言ったあたしの言葉を、内心でどう思ってたんだろう」
『……』
 いつになく沈んだ独り言のような声に、Ezraは答えない。
「いめって、英雄のときから、あんな性格だったのかなあ」
『どうでしょうね』
 英雄から愚神になった際のデータ、そんなものは現在公開されていない。
 どれほど変質してしまうのか、リンカーが邪英化した際のデータは残されているから推測は出来るだろうがあくまで推測。
 性格もきっと、変わる者もいれば変わらない者もいる、のだろう。
「目的のために、ひとの命を奪っているだけで、人間すべてを憎んでるわけじゃなさそうだけど」
 エデンの言葉に、『そうかもしれません』と返すEzra。
 目的は復讐、ひとの命を奪うのは手段。
 人間すべてを憎むのなら、今までの行為と矛盾してしまう。
 それに。
「自分の能力者の兄弟は大切みたいだし……」
『……』
 二条芙蓉。彼を助けた。能力者の大切な弟だと言っていた。邪英化なんてさせられないと。
「復讐したら、いめは満足するのかな。復讐が終わったら、いめはどうするつもりのかな」
『……』
「エージェントとしては、もちろん殺人行為は止めなきゃなんだけど。アイドル☆として、できることはないのかなあ」
 真意がどうであれ、見過ごすことは出来ない。ただ、それでも、何か。何か出来ることはないのだろうか。
 悩む少女に、Ezraは考えてから首を横に振る。
『難しいですね。愚神には人の法律は通りませんし、彼女の願いを阻むのがエージェントの仕事です』
 復讐は悪い事だと、やめようと言ってすぐにやめてくれるようなら苦労はしない。
 どうであれ、愚神は倒すべき敵で。
「あたしのお上品サイズのおつむでは……!」
 ぐぬぬと悔し気なエデンから視線を外して、Ezraは外を見る。
 一つ一つは小さな花で、集まればここまで見事な絵となる。そしてどの花も、希望やそれにちなんだ花言葉がつけられたもの。
 エデンもEzraの視線の先を見て、茶会での会話を思い出す。
「そういえば、いめは、カミツレが好きって言ってたね。花自体が好きなのかな。それとも能力者に関係があるのかな」
『花言葉は、逆境に耐える、だそうですよ』
 加密列。カモミール。近くに生えている植物を健康にすると言われる花。
 何を思ってその花が好きだと言ったのか、今は分からない。
「いめが逆境から解き放たれるのは、復讐が終わった時なんだろうね」
『人の世とは儘ならないものです。せっかくのイベントですし、楽しみましょう。お嬢様には笑顔がお似合いですよ』
「……そうだね」
 今は、楽しいお祭りをめいっぱい楽しもう。
 何しろ、プリンセス☆エデンはアイドルなのだから。
 すぐにばちっと切り替えるのは難しくとも、まずは行動してみることから。
 風になびいた髪を押さえながらも、大きく息を吸って深呼吸。
「そうだ。あれだけ色んな花があるんだし、カミツレもあったりしないかな?」
 もしもまた、いめに会えた時、何かのきっかけになるように。
『そうですね。探してみましょうか』
 見つからなければスタッフに聞いてみるのもいい。
 善は急げとばかりに走り出しそうな主を追いながら、Ezraは微笑する。
 やはり彼女には、笑顔が似合う。

●不要の花
 献花場の中は静まり返っていた。
 台の上にはたくさんの花が捧げられている、ちょうど今人が途切れたのだろう。
『やはり献花も多いの……』
「そうじゃの……花の数だけ、何かが在るのじゃろう」
 ぽつり、呟くアクチュエルとアヴニール。
 人々の想いが、嘆きが、苦しみが。悲しみに暮れるばかりではないだろうが、そういったものが含まれている可能性もある。
 たくさんの想いを抱いて捧げられた花も然るべき場所に送られ、やがて散って、種を産みだすのだろうか。
 そうして再び芽吹いて、咲いて。まるで永遠のような。
("永遠"は、繰り返し。何時までも已む事無き悪夢……)
 そういうモノなのかも知れない、と。
 会場の隅、二人で佇んでいればまた人がやってくる。これもまたそういうものなのか、二人に軽く礼をして花を捧げ黙祷をして帰っていく。
 長く黙祷をしている人も、短い人も、たくさんの花を捧げる人もいれば一本だけの人もいる。
 そんな様子を眺めながら、アヴニールは隣の少女にだけ聞こえるように呟く。
『我に花は要らぬ』
 アクチュエルの視線が向いた事に気付くが、それでも献花台を見つめたまま。
『我は散らぬ』
「……そうじゃの……我も花は要らぬ」
 共に献花台を見て、互いに何も言わないまま足を踏み出す。
 いつまでもここで待っているわけにはいかない。時間は永遠ではなく有限で、未だ、動ける。
 たとえ力が足りなくても、出来る事は在る。ならば、動かなくては。
 動かなければ何も出来はしないのだから、と。
 献花場から出ようとした二人に、
「アクチュエルさま! アヴニールさま!」
 かけられた声は聞き覚えのあるもので。
 もしやと視線を向ければ、手を振るリリィとカノンの二人がこちらへやってくるところだった。
「二人も来ておったのか」
 図案作成に関わった者同士、来ているかもしれないと思ってはいたがばったり会えるとは思わなかった。
 ただ、日がのびてきたとはいえ時間も時間、もう少しすれば夜の時間がやってくるだろう。
 リリィとカノンもこれから献花を捧げるところで、せっかく出会えたとはいえどこか回る時間があるかどうか。
 だからこそ。
「せっかくですし、」
 一緒に帰りませんか?と。
 せめて帰る時間は共にしたいという提案に、カノンが『どうかしら?』と後押しを。
 良く似た二人も、帰り道寄る予定の場所も無い。
『構わぬぞ』
 笑顔で了承を返すと、リリィはぱっと花が咲いたように微笑んで献花台へ。
 黙祷して個人へ想いを馳せ、これからの未来を誓いながら献花を。
『ゆっくりと……眠れると良いわね』 
「その為にもリリィ達に出来ることを……」
『ええ、そうね』
 開いた瞳が見据えるのは未来。
 続く戦闘が早く終わるように。
『あたし達は……今を生きる人達は……』
 傷つく人が減るように。
 故人のことを思い出しながら、忘れないようにしながら。
『それぞれが出来ることを出来る限り精一杯して……そうして……』
 前を向いて。
『……生きていく』
 静かな献花場に、染み入る様にカノンの声が響く。
「はい、なのです」
 並び立つ少女も声に頷いて、親愛なる英雄へ微笑を。
『故人に恥じない自分達で在りたいわね』
 もしかしたら、気高く生き抜くことが一番の鎮魂なのかもしれないと想いを馳せる。
 故人は見ていてくれるのだろうか。
 いつでも静かに、いつでも近くで、いつでも自分達を。
 ……いや、きっと見ていてくれるだろう。
 カノンの言う通り、恥じない自分達で在る限り。
『……』
 献花台から去る間際、スカートを摘まんで礼をするリリィと同じく短い黙祷の後にカノンも会釈をして。
 待つ二人の友人の元へと歩いていく。
 故人に優しい眠りを与えたい。同時に、誇りを持って生きたい。
 そんな誓いを胸に秘めて。
「そろそろ陽が落ちてきたの」
『そうじゃな。では行こうぞ』
 夕暮れ、楽しい花の祭りもそろそろ終わりの時だろう。
 今は前だけを見つめて。
 互いにだけ聞こえるように、囁くほどの声で。
『"我ら"を取り戻す為に』
「"全て"を取り戻す為に」
 今こそ、真に共に歩む為に。
 固く結ばれた誓いは、切れる事はないだろう。
「アクチュエルさまとアヴニールさまは、どこへ行かれましたの?」
 リリィの声に、アクチュエルとアヴニールの二人は楽しそうに笑って。
 写真の事に気付いた白百合の少女が可愛らしい悲鳴を上げるのを、英雄は微笑みながら見守っている。
 そんな帰り道、少女たちの奏でる声は会場から離れた後も長く響いていた。

●次の約束を
 二つ目のフラワーカーペットに差し掛かる頃、グワルウェンはふと思いついて自身のスマホを取り出した。
 起動させたのはカメラのアプリ。シャッターを向けるのは可愛い妹や契約者たちである。
 表情を撮るべく手を振ったり声を掛けたりとしてみたが、特に智貞は声を掛けずに撮った方がいい表情をするような気がして途中から隠し撮りに移行する。ちゃんと写真を撮りたいと伝えてあるし、後で再度許可は得るつもりでいる。が。
「兄様」
 しっかり者の妹もといアクレヴィアに隠し撮りしているのが見つかり、じっと見上げられる。身長こそ差はあるが、いかんせん妹に弱いという弱点のあるグワルウェンである。
 意図についてはきちんと説明した上で。
『いいじゃねーかレヴィア。兄ちゃん今日ちょっと浮かれてんだ……』
 空を見上げる。
 照る太陽に吹き抜ける風。
 太陽のような男は、快活に声をあげる。
『なんせ、春だからなあ!』
 心地いい空気に思い切り笑えば、アクレヴィアは仕方無さそうに苦笑して。
「確かに春に似合いの祭りですね。気温は夏ですけど」

 フラワーカーペットの周りをぐるりと一周した頃には、日も傾き始めていた。
 看板をじっくりと眺めたり、時々座りながらグワルウェンの解説を聞いたりと穏やかな時間を過ごしたがそろそろ会場も閉まる頃合いだろう。
「え、えと、伴くんとおに……グワルウェンさん」
 最後に二人へ、勇気を振り絞って。
「き、今日みたいに、また、どこか一緒に行きましょう」
 穏やかな日に、またどこかへ。
 次の約束を。
「伴くんも、な、仲良くしてくれると嬉しいな」
 臆病で口下手な智貞の精一杯の申し出に、伴は「もちろん」と答える。
 淡々としてはいるが穏やかに、優しく。
「……というか。英雄同士ばっかり仲良いのもズルいと思うんだよね俺」
 グワルウェンとアクレヴィアだけではない。英雄の縁で知り合った能力者は他にもいるが、どちらかと比べるならやはり世界で関係のあった英雄同士の方が仲は深い。
 だから、と伴は智貞に微笑む。
「次は他の皆も誘ってさ、契約者組でどっか行こうよ。きっと楽しい」
 今日のように、また楽しもう。
 次の今度は皆で。

●花の後に
『じゃ、何食べよっか』
 花より団子とばかりに紫苑は屋台を物色していく紫苑。祭りに負けず劣らず、屋台も活気があるようで紫苑が足を止めればすかさず声が飛んでくる。
「おっ、別嬪さんだねえ!」
「お兄さん、うちのたこ焼きも食べてって!」
 商売人の得意な褒め言葉。聞き慣れた言葉ではあるが、悪い気はしない。
 それじゃ一つと受け取って、仏頂面のまま離れて待つ能力者に爪楊枝で刺したたこ焼きを『はい』と差し出してみる。
「なんだ」
『あーん』
「やらねえよ」
 鬱陶しいと手で除けられ、たこ焼きは紫苑の口の中に。熱々。うん、美味しい。
 食べつつ物色しつつ。器に盛られたままのたこ焼きを差し出せば仕方なく口へ放り込んだバルタサールを横目で見て、満足げに微笑みながら。
『ところでさ、きぼうさって何だろう?』
「俺に聞くな」
 広義にはH.O.P.E.のマスコットキャラクターだが、紫苑の目的はそういう意味合いではなく。
『グッズとか売ってないのかな。ぬいぐるみとか。きみのベッドに飾ろうよ』
 無骨な男のベッドに並ぶ可愛らしい人形たち。
 想像するだけでおかしくて、笑みを隠そうともしない紫苑を一瞥してバルタサール。
「ゴミを増やすな」
 ざっくり切り捨てられたのがまたツボに入ったのか、笑いながら
『ほら、あそこに屋台もあるよ』
 と指した先には確かにきぼうさが掲げられた屋台。500Gでハズレ無し。
 やってみようよ!といい笑顔を見せる英雄に大きな溜め息を吐いたバルタサールであった。

●光
 献花場への道を歩く魂置に付いて行きながら、エルは彼の表情をそっと窺う。
『(エージェントとして献花に向かうのは分からぬではないが……そういう顔ではないの)』
 黙したまま、魂置は花を一つ選んで献花台に捧げる。
「シオンの花見て、思い出したんだ。家族の墓参り、行ってなかったなって」
 花を捧げる理由はエージェントとしてではなく、魂置薙として。
 家族を愚神に殺され、一人遺った魂置は当時自分の事で精一杯で、何も出来なかった。
 共同墓に眠る家族にも一度会いに行ったきり、受験の機会も逸してしまって学校にも通わずに。
 ただひたすら恨みに突き動かされて、今までずっとエージェント業に専念してきた。
 花を捧げる事も出来ずに。
「あの花束、全部、希望の花言葉だって。あんなに、あるんだね」
 献花場からの帰り道。穏やかに話す魂置の言葉にエルは頷く。
『意図してかせずか……色んな希望があるようで良いの』
 人それぞれの希望。その中の一つを選び取った魂置もまた、希望を、光を抱いている。
 先日、かの獅子将へ「光があると知った」と告げたように。
『(漸く、前を向いたの)』
 確かに希望は根付いている。英雄はそれを嬉しく思いながら、まずは祭りを楽しむ能力者と共に。
 今、この時を楽しもう。

●硝子の花
 時間が過ぎるのは早く、そろそろ日も落ちてくる頃。
 行きたい所があるからと別れる直前、
『紙姫ちゃん、これどうぞ~』
 メテオバイザーから手渡されたイチゴ飴を食べながら、紙姫とキースは二人で展望台へ。
『近くで見るのもキレーだったけど、こうして上から見るのも迫力だね~!』
 夕焼けの色と花の鮮やかさ。また一味違った風景を楽しみながら、キースも頷く。
「荘厳、という言葉がぴったりですよね」
 一人。また一人。展望台に人が少なくなっていく中、口を開いたのはキースだった。
「紙姫」
 名で呼びかければ、『どうしたの?』と声と共にキースの方へ向き直る少女。
「これを」
 取り出したのはガラスの花。
 その花を少女の帽子にそっと飾れば、夕焼けを反射してきらきらと鮮やかに光り輝く。
『わわっ! どうしたのこれ?』
 驚きながらも落とさないようにしっかり押さえた紙姫。その様子が可愛らしくて、喜んでいると分かるのがまた嬉しくて。
「一足早い誕生日プレゼントです」
 微笑むキースと突然の花の意味。
 それは胸がいっぱいになりそうな嬉しさで、紙姫は満面の笑顔でお礼を言って。
『ありがとっ! これからもよろしくね、キース君!』
 互いに手を繋いで、家路を歩いていく。

●戦う理由
 桜小路とメテオバイザーが訪れたのは献花場だった。
 たくさんの花が供えられた献花台へ、桜小路も一つ花を選んで供える。
 それからぽつり、ぽつりと。
 零れ落ちる言葉を聞くのは英雄ただ一人。
「思うんだ……オレが今死んで、三途の川の向こう側に「兄さん」が迎えに来てたとして……今のオレは、胸を張って会えるのかなって……」
 兄と慕った人。姉の大切な英雄だった人。
 彼に、会えたとしたら。
「今の功績を……オレは胸を張って話せない」
 いくつもの依頼を受けて戦い、更なる知識を得る為に英国にまで行っている。しかし桜小路の目標は愚神や従魔を多く倒す事ではない。ならば、このまま剣を握ってて良いのだろうか?
 問いかける声は自分の内から湧いてくるものだ、答えを出すのもまた自分自身なのだろう。
 それでも。
「今はどちらでも、選べば後悔する……そんな気がする」
 まだ、選べない。
 心情の吐露を聞き届けたメテオバイザーはそっと桜小路に寄りそう。
 今はまだ、先が見えなくとも。先が見えたその時に、力となれるように。
 いつか、その時まで。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 共に歩みだす
    魂置 薙aa1688
    機械|18才|男性|生命
  • 温もりはそばに
    エル・ル・アヴィシニアaa1688hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • 天秤を司る者
    キース=ロロッカaa3593
    人間|21才|男性|回避
  • ありのままで
    匂坂 紙姫aa3593hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • Aster
    紫苑aa4199hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • Iris
    伴 日々輝aa4591
    人間|19才|男性|生命
  • Sun flower
    グワルウェンaa4591hero001
    英雄|25才|男性|ドレ
  • Cyclamen
    智貞 乾二aa4696
    人間|29才|男性|回避
  • Enkianthus
    アクレヴィアaa4696hero001
    英雄|12才|女性|シャド
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 【能】となる者
    墓場鳥aa4840hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • Peachblossom
    プリンセス☆エデンaa4913
    人間|16才|女性|攻撃
  • Silver lace
    Ezraaa4913hero001
    英雄|27才|男性|ソフィ
  • Lily
    リリィaa4924
    獣人|11才|女性|攻撃
  • Rose
    カノンaa4924hero001
    英雄|21才|女性|カオ
  • 似て非なる二人の想い
    アクチュエルaa4966
    機械|10才|女性|攻撃
  • 似て非なる二人の想い
    アヴニールaa4966hero001
    英雄|10才|女性|ドレ
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