本部

【時空戦】時の宝石・赤

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2018/06/22 20:07

掲示板

オープニング

●タイムジュエリー
 夜。
 ロンドン塔の一室にエージェントたちは集められた。
 室内にはヨーマン・ウォーダーズと呼ばれるロンドン塔の衛兵たちによく似た服装の者たちが居た。
 彼らは鴉に似た使い魔フェイクフェザーを使役する『夜警(ウォッチマン)』。
 フェイクフェザーが鴉に混じって過ごすように、衛兵たちに混じって過ごす、魔術師と関わりの深い倫敦の守り人たちだ。
「夜分遅くに申し訳ない。集まってくれたことに心から感謝する」
 口を開いたのは銀のような白髪を持つ、一見穏やかそうな初老の男だ。
「我はパラダイム・クロウを代表する、城金 ロウジと言う」
 日本名であったが東洋人とは思えない男だった。纏う荘厳な雰囲気は他者とは一線を画していた
「お主たちの力を借りたい」
 ロウジの後ろからイラついた中年の男がエージェントたちを睨みつける。
「……私はパラダイム・クロウ社取締役のアーロン・メイシー。
 知っているか知らんが、弊社の職員……魔術師、灰墨信義の上司にあたる」
 パラダイム・クロウ社は世界蝕(ワールド・エクリプス)発現後に現れた新技術を研究する企業と世間には認識されている。
 だが、実際は昔から続く小規模の魔術結社であり、その事はH.O.P.E.でも知る者も多い。
 そして、パラダイム・クロウは、科学者と魔術師たちの大同盟によって成立した急進的秘密結社『セラエノ』に対抗すべく日々研鑽を積み独自にオーパーツを追う組織でもある。
 灰墨信義はこのパラダイム・クロウに所属する職員『魔術師』で、セラエノやオーパーツ絡みで今まで何度かH.O.P.E.のエージェントと関りを持っていた。
「依頼の目的から言う。セラエノの実力者、H.O.P.E.ロンドン支部指名手配犯アイテールから、我らパラダイム・クロウの一員である灰墨信義を取り返してくれ」
 ソファーに腰を下ろしたロウジに代わり、アーロンが前に進み出て説明を引き継ぐ。
「弊社はずっと陰ながらヴィランズ『セラエノ』からオーパーツを守ることを使命として来た。
 灰墨もそんな職員の一人だが、彼は特別な事情が一つある」
 アーロンの説明では、リンカーになる前からパラダイム・クロウに所属していた信義はセラエノからとあるオーパーツを取り返すミッションで瀕死の重傷を負ったのだと言う。
「そこであいつの英雄が現れて、灰墨がセラエノから奪い返したオーパーツを奴の身体に埋め込んだ。その時、彼は死にかけていたからオーパーツを守り奴を生かす為には必要だったのだと思うが。
 ……そうやってリンカーになった奴の身体には二つのオーパーツが眠っている」
 一つは、『ヴィクトリアの螺旋』。ライヴスを常に奪う代わりに強固な結界を作り出す。
 そして、もう一つは──。
「緋色のタイムジュエリー、通称として『レッドTJ』とも呼ばれる」
 見事な口髭を蓄えた夜警の一人が口を開いた。
「タイムジュエリーについては私が説明しましょう」
 それは小石ほどの大きさのオーパーツである。色は様々で物によっては宝飾品として使われていることもあると言う。
「タイムジュエリーは一つにつき一つの決められた過去の決められた場所へ……いえ、過去を模した世界と言えばいいのでしょうか。そこへ跳ぶことができます」
 ただ、これによって何ができるのかは詳しくわかっていない、と彼は言葉を濁した。
「ですが、タイムジュエリーは強力なオーパーツです。これをセラエノが集めているのは何か理由があるはずです」
 そして、夜警は躊躇った後、アーロンに尋ねた。
「最近、カイロのテロにセラエノが現れたと聞きましたが、それも関係するのでしょうか」
 だが、アーロンは頭を振った。
「……どうでしょう。私たちは現場に居合わせた灰墨から事件のデータを受け取りました。検証しましたが、タイムジュエリーとあの事件は直接の関係はないのではと……現時点ではですが、我々は判断しています」
 口髭の夜警は礼を述べると少し安心したように下がった。
「勿論、あの事件で信義がアイテールに目を付けられた可能性はある。
 だが、我々は幸いにも『ヴィクトリアの螺旋』の波長を介して灰墨を追うことができる──本人が生きている間だけだが」
 アーロンの額に皺が寄り、ロウジが重々しく口を開いた。
「──オーパーツをセラエノに与えることは阻止しなくてはならない。彼らが興味を持ち、集めているものなら尚更だ」
 そして、ロウジは念を押す。
「依頼しよう、持ち帰るのは彼の肉体すべてだ。彼自身の生死は問わない」
 苦虫を噛み潰したようなアーロンが付け加えた。
「私たちは勿論、職員の生命を尊重している。だが、これはそういう問題ではないのだ。あれはセラエノに渡してはならない」



●赤
 夜、古城の広間。
 洒落た装飾の頑強な椅子に共鳴した灰墨信義は縛り付けられていた。
「ずっと探していたのよ、泥棒猫さん」
 歌うように囁くのは可憐な姿の女性……セラエノの魔女、アイテールだ。
 彼女は何事かを呟きながら、鋭い手術用のメスのように尖ったナイフを動かした。
「困るわね、ヴィクトリアの螺旋は固いわ」
 刃を落としていないアイテールの儀礼用アサメイが何度も信義の身体を貫き、室内に悲鳴が響いた。
「ハイズミの英雄さん、彼を離さないであげてね。もし、共鳴が解けたら彼は死ぬわ」
 その時、慌てた様子で一人の女が部屋に飛び込んだ。
「アイテール様! H.O.P.E.のエージェントです!」
 可憐な少女を模したアイテールの顔が歪んだ。
「ふぅん──どうやってここを知ったのかしら……ね!」
 信義が悲鳴を上げた。
 焔を刻んだアサメイが信義の肉に柄まで埋まり赤い血が溢れた。
「残念、今回は双方残念なことになったわ、ねえ!?
 でも、泥棒猫さん。わたくしにもTJレッドの所有権はあるの。いい? 次こそ返して貰うわ」
 肉の中にアサメイを完全に埋め込むとアイテールは部下たちに微笑んだ。
「折角来てくださった皆様にご挨拶も無しなんていけないわ。いい? 死んでも止めてくださいね」
「了解致しました」
 水晶の首輪をはめて仮面を被ったアイテールの部下が頷く。

解説

●プレイング
ゲームのスタートは大広間突入前後からですが
OP「●タイムジュエリー」項での会話などをプレイングに盛り込むことも可能です
(すべて反映できるとは確約できませんが、PC側が不利になるマスタリングはしません)


●ステージ:城の大広間(窓は無く、天井は高い)
奥に椅子があり縛られて瀕死の信義、その前にコマンド
コマンドの前にドレッドノート×3
部屋の奥両角にジャックポット×2
入口前にはシャドウルーカー×3

──


    ド  シ
信 コ ド  シ  入口
    ド  シ


──

※アイコン説明(呼称は敵項目を参照)
信:信義
コ:コマンド
ド:ドレッドノート
シ:シャドウルーカー


●敵
・セラエノ:シャドウルーカー×3、ジャックポット×2名、ドレッドノート×3名
・コマンド:指揮官。仮面を被った女リンカー。彼女を倒した時点で部隊は撤退。首に隊員への通信を可能にする水晶の輪を嵌めている。ただし、彼女が負けた時点で輪は砕け散る。クラス不明。信義の前に陣取る
※今回に関してはヴィラン達を殺してしまっても情状酌量により罪に問われない

・アイテール(az0124)
ヴィランズ「セラエノ」の実力者。多くの部下を持つ幹部のような立ち位置の残虐な女ヴィラン。
※アイテールはPC達の顔を見た後、すぐに戦線離脱


●PL情報
タイムジュエリーには時間案内人がいます
コマンドを討伐後、PCたちの前には信義の英雄ライラにそっくりな案内人が現れますが
すぐに消えてリプレイは終わります

リプレイ


●古城にて
 深夜。
 『ヴィクトリアの螺旋』の波長を追って古城の中に潜入したエージェントたち。
「誰も、出て来ないよね」
『そうだね、可笑しいよね』
 見張りすら出てこない状況を訝しむアリス(aa1651)とAlice(aa1651hero001)。
「オーパーツによって追跡できることを知らず、我々の来訪に戸惑っているのかもしれません」
 警戒は緩めずにキース=ロロッカ(aa3593)は見当をつける。
 無論、このまま歓迎してくれるはずはない。
 周囲に気を配りながらも、パラダイム・クロウ社からの依頼を思い出して表情を曇らせる海神 藍(aa2518)。
 ──彼自身の生死は問わない、か。……だとしても。
『どうしますか、兄さん』
 彼と共鳴した禮(aa2518hero001)は兄と呼ぶ藍へ呼びかけた。
「決まっている……彼には娘がいる。妹も。その平穏は、私たちの守るべき日常だろう?」
 日常の小さな平穏を誓いとした妹のような相棒へ、彼はきっぱりと言った。
『……ええ、それでこそ、です。気を引き締めていきましょう』
 二人の脳裏に【神月】の作戦が過った。セラエノは油断できる相手ではない。
 晴海 嘉久也(aa0780)もまたセラエノに対して危惧を抱いていた。
「過去へ跳ぶ時の宝石か」
『気になりますか』
 エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)の問いに共鳴した嘉久也は断じた。
「確かに気にはなるが、今回は彼の救出とセラエノの確保が仕事だ」
 対策は講じるつもりだ、と炎の瞳が行く先を見据えた。
「確かに仕事だ。魔術結社同士の争い事には興味はない。小官に必要なのはマニーだよ、マニー」
 ソーニャ・デグチャレフ(aa4829)が嘯く。
「祖国奪還戦に備えて、一人でも優秀なリンカーを雇うためには莫大な戦費がいるのだよ」
 愛らしい少女から発せられる強欲で卑しい台詞。しかし、それはソーニャの偽らざる気持ちである。
 愚神に食われた祖国を奪還するため、一分一秒でも早く絶望に打ちひしがれた国民たちを救うため、大金を稼ぐ為に彼女はH.O.P.E.に身を置いているのだ。
 友人の覚悟を聞きながら不知火あけび(aa4519hero001)は彼女の師の言葉を思い起こしていた。
 ──士道とはそれをして己を捨て、人を生かす道だ。ゆえに……。
「誰かを救う刃となれ。誰かを救う刃であれ、だな」
 察した日暮仙寿(aa4519)がそれを復唱した。
 これはあけびの師の言葉であると同時に、今の二人の誓いでもある。
「仙寿様」
「ああ、助けよう」
 頷き合う、あけびと仙寿。口にした誓約を通してふたりの絆が強まった気がした。


「そういうことか」
 城の奥、重厚な扉を前にしてソーニャは不敵な笑みを漏らす。その向こうからはあからさまな殺気が感じられた。
「入口が一つの大広間。待ち伏せならばこれは相手が圧倒的に有利だ。打ち崩すには機先を制する必要があるな。
 とは言え、潜入には向こうも気づいている様子。ならば……いっそ派手に、だな」
 彼女はにやりと笑って三砲身のリボルバー式に改造したメルカバを手の甲で叩く。
 作戦を理解した木霊・C・リュカ(aa0068)がソーニャの後ろへ下がる。
「……おけ、囚われの信義姫の救出劇だ!」
 その言葉に反射的に憤然とする信義の顔が浮かんでキースと藍が小さく笑った。
「助けよう、彼の物語はまだ続くべきだ」
 エージェントたちは頷き合う。
 ラストシルバーバタリオン(aa4829hero002)のコックピットに乗り込み共鳴したソーニャは、「バッヘルベル・カノン」の狙いを扉に定めた。
「諸君、時計を合わせろ。──突撃だ」



●セラエノとの戦い
 大広間の扉は砲撃によって吹き飛んだ。
 銃口を向けて待ち構えていたジャックポットを始めとしたセラエノのヴィランたちは、素早く体勢を整える。
 落下する木片の向こうから多脚戦車の形態となったソーニャがゆっくりと姿を現した。
「わお。また会ったね、おっかない魔女さん! 双子座を堕とした後は宝石強盗?」
 ソーニャの陰から顔を出すリュカ。おどけながらスマートフォンのカメラをアイテールに向けてシャッターを切った。
 軽いシャッター音に顔を顰め、アイテールは冷たいまなざしをリュカへ向けた。
「あら……知ってるわ、貴方。どういうことかしら? H.O.P.E.のエージェントだなんて。わたくしと彼らを騙したの?」
「騙したのは貴女だよね。ただの人間(ひと)でありたいと歌っていた彼らを、君が人から堕としたのは忘れていないよ」
「ふふっ、酷い解釈だわ!」
 リュカの金の瞳に宿った鋭い光を見つけてアイテールは楽しそうに笑い声を上げた。
『アイテール……』
 共鳴した紫 征四郎(aa0076)も怒りを滲ませる。
「落ち着け、征四郎。……キナ臭さしかねぇが、一体何をしようとしているのやら」
 ガルー・A・A(aa0076hero001)は信義の状態に目を走らせた。
 ──出血が酷いな。だが、共鳴状態、か? 殺されることは無さそうではあるが、連れてかれる可能性は十分にあるわな。
 キースもまた状況を読む。
「数の上では不利な様子……ふむ」
『こういう場合は、指揮系統を壊すのがセオリー!』
 元気な匂坂 紙姫(aa3593hero001)の上げた声にキースは少し微笑む。
「同意見です。それなら必要なものと手段は……」
 キースの視線がアイテールとコマンド、そして、ジャックポットたちへと移動する。
 ひとしきり笑った後、アイテールは黒炭のような小さな石を摘まみ上げてそれを小さな香水瓶へと落とした。
 あっ、とあけびが小さく叫んだが、仙寿は警戒したまま動かない。
 アリスたちは黙って彼女をじっと見守る。
「ビーチで待っているわ。──生きていられたら、いらっしゃい」
 エージェントたちの姿を目に焼き付けるように見回すと、魔女の姿は掻き消えた。
 アイテールが姿を消したのが合図だったのか、セラエノのジャックポットたちが引鉄に指をかけた。
 ──その、僅かな差。
 兜の上から頭巾を着けた嘉久也の背で、一瞬早くカチューシャMRLが翼のように広がった。
 轟音。
 次々と射出される十六連装の細身のロケットが部屋の中を焼き払う。
 次いでエージェントたちが顔を伏せるとキースがフラッシュバンを放つ。粉塵が収まった室内が光で焼かれた。
 閃光弾の直視を避けながら、光の中をアリスは駆けた。
「まだ生きてる?」
『まだ生きてる』
「そう、良かった」
 ──灰墨さんが生きてて良かったよ。生きたまま持ち帰るって目標だからね。
『生死問わずとは言っていたけどね』
「目標だから」
 コマンドを撃つための射線へ移動するアリスはドレッドノートたちの攻撃をぎりぎりで避ける。
『兄様!』
 アリスと同時に藍もスキルを発動させた。
「すぐ助ける。しっかり息して待ってろよ」
 ──どうか、無事で!
 ガルーの中で征四郎は祈った。
「さあ、行くとしようか! ここは我らが守るべき地ではないけれど、いずれ続く我らが守るべき誓いの為に!」
 少女軍人の朗々とした声に四十七名の同志の魂は応え、《守るべき誓い》が発動する。
『早い、シャドウルーカー来ます!』
「構うな、弾雨を降らせ!」
 毒刃が装甲の隙間を狙って差し込まれた。
 だが、号砲一閃。ソーニャのフリーガーファウストG3が周囲を焼き払う。
『我々の装甲を貫くとは』
『ジャックポットたちの銃口がこちらを狙っております!』
「耐えよ! さすれば小官より優秀な日暮殿ら──仲間たちがなんとでもするはずだ!」
 ラストシルバーバタリオンを一喝するソーニャを激しい衝撃が襲った。
 一対多数の乱戦の中、懸命に陽動を務めるソーニャだったが、アイテールの部下たちはそれを理解しているのか執拗に食いついてくる。
 ── 一瞬でいい、敵の耳目さえ集めてしまえばここは突破できよう。
 最後に走り抜けたガルーを視界の隅に捕らえたソーニャは立ち回りながら二足歩行へ変形した。そして、両手に持ち替えたファルシャを軽く後ろに引くと──次の瞬間渾身の力を込めて振り上げた。すくい上げるような一撃に敵の身体が吹き飛ぶ。
 追撃をしようとした彼女へラストシルバーバタリオンが警告を発した。
『次、ドレッドノート来ます!』
「くっ!」
 ダメージを堪えつつ振り返った視界にふわりと影が差した。
 はしる光の軌跡、守護刀「小烏丸」。
 ライヴスジェットブーツで飛んだ仙寿が着地したのだ。
『……小烏丸は両刃』
「ああ──攻め抜く事で守る刀だろう」
『うん、私たちは誰も死なせないよ』
「……無論、小官たちも死ぬつもりは毛頭ないが、礼を言う。それは任せるぞ」
 友人へそう返したソーニャはシャドウルーカーへの追撃へと戻った。それを追おうとする敵に仙寿が再び刀を向けた。
 仙寿の《ターゲットドロウ》が害意を奪った。目標を変えたドレッドノートの力強い一撃は、しかし、仙寿の影すら捕らえることは出来ない。
「容赦はしない。信義の命が懸かっているからな」
『即片付けるよ!』


 乱戦を抜けた男は靴を鳴らして足を止め、LSR-M110を構えた。
「……ここか」
 リュカに代わって共鳴の主体を担ったオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)だ。
「行け」
 軽い指の動きで《バレットストーム》が発動する。必中のオリヴィエが放った弾幕は、彼を中心として流星のように敵を撃ち抜く。
 声を殺した悲鳴と共に転がる、ヴィランたち。
 しかし、オーバーフロウした狙撃銃を下ろして淡々とオリヴィエは呟いた。
「……ブレイブナイトか」
 倒れた隊員たちの向こうで、《心眼》でドレッドノート二名を守ったコマンドが無言で剣を構え直す。
 コマンドの後ろで態勢を整えたドレッドノートたちがオリヴィエに走りかけ、すぐに反転した。
 新たなターゲットは嘉久也だ。
 カチューシャを格納した彼は怒涛乱舞で次々に敵をなぎ倒し、向かってきたドレッドノートたちの攻撃をクロスカウンターで潰す。
「与し易いと思われたのなら、心外です」
 一度止まりふっと息を吐くと、嘉久也はグランブレード「NAGATO」を振り抜いた。
 連撃を喰らった敵が崩れ落ちた。


 アサルトライフル「Artemis」を手に戦況を観察するキース。
『……あの水晶が通信機器みたいだね』
 紙姫が指摘した水晶とはコマンドが嵌めた首輪だ。
 反射的に走り出した隊員たちへ、咄嗟にコマンドが水晶に触れてターゲット変更の指示を与えたのだ。
「それならさっさと破壊しましょう。統率の取れた部隊と烏合の衆では難易度が大きく異なりますし」
 おそらく、ジャックポットに攻撃を当てるより確実な線を狙うように指示したのだろうとキースは読み、ライヴス通信機「遠雷」で仲間達へ伝える。
「特別な術でもない限り心眼は一度きりのはず。こちらからもあの水晶を狙ってみようと思います──彼を救出した後に」
 仲間の次の一手に備えてArtemisの引鉄を引く。
 その襲撃に気付いたのはシャドウルーカーたちだ。彼らからの警告を受け取ったコマンドは後方へ飛び退ったが無駄だった。
『沈め、昏き水底に眠れ』
 朗々とした声と共に呪力の篭った闇が口を開ける。藍のリーサルダークだ。
 仲間たちが作った隙にマジックブルームで飛び上がった藍は密かにコマンドの頭上まで移動していたのだ。
 不意を突かれたコマンドが膝からガクリと昏倒する。
『兄さん、やりました!』
 だが、降下した彼の足元をシャドウルーカーが刃で斬りかかる。
 腿を裂かれた藍は武器ごと敵を蹴り飛ばす。その直後にライヴスの火炎が藍と敵の間で弾けた。アリスのブルームフレアだ。
 思わず顔を庇った敵に背を向けて、藍は椅子に縛り付けられた信義の下へ駆けた。
「やあ灰墨さん。まだ生きてるかい?」
 小さな呻き。それを返事と取って藍は彼の口へ賢者の欠片を差し入れた。
「……死ぬなよ、信義。お前の無事を祈る者が居る」
 藍は厳しい顔でマジックブルームの箒を掴む。ジャックポットたちは目標を藍に定めた。このままなら動けない信義も巻き込むだろう。
「撃ち合いでも遅れは取らないつもりだが、付き合ってやるのも癪だ」
 ──妹も、幼い娘も彼を待っているはずだ。
「私のそれは一度喪われたが……それは、大切な物なんだ」
 聞き慣れない厳しい声。うっすらと開けた信義の目にジャックポットへと向かう藍の後姿が映った。
 乱戦の中、ソーニャに合わせて魔剣「カラミティエンド」を振るっていたガルーは足を止めた。
「ここならいけるか」
 目測、そしてライヴスを集中すると彼はケアレインを放った。
 案に違わず、治癒に満ちた空間は信義とソーニャ、藍を癒す。
「次が来たか」
 避け損ねたシャドウルーカーの刃が彼の身体を裂いた。
 ──留まるのは難しいが、場所を変えながらなら。
 彼は次の一撃を避けると白衣を翻した。次の治癒を施すために。


 一方、藍のバックアップとコマンドの攻撃を担っていたアリスは苦戦していた。リーサルダークで膝をついた相手を狙うなら今だ。だが、それを忌避して彼女を追うセラエノたち。
「シャドウルーカーは請け負います」
 目の前の三人がキースの《トリオ》を受けて怯む。彼からの援護があってアリスはようやくその場を振り切ることに成功した。
 当初の予定通り、コマンドを狙うが残念ながら彼女は意識を取り戻したようだった。
「遅かったみたいだよ。ブレイブナイトなら物理寄りよね……」
『狙うんだよね』
「場所を考えないと。このまま灰墨さんに当たった、とか、笑えないし。ジャックポットも面倒だけど……そっちは他の人に任せるよ」
 攻撃を避けながらアリスは鏡映しの英雄へ答える。
 シャドウルーカーとジャックポットは厄介だった。実力では負けていないと思う。だが、ヴィランたちは装備で能力に下駄を履くことができるしスキルも使う。
 そうだ、立場が違うだけでヴィランは同じリンカーなのだ。
 ──ヴィランも殺さない様にって方針だから、そのつもりで動くけど。殺す事に躊躇は無いからしつこくしないで欲しいよ。
 おもむろに「全てを灰塵に」と表紙に記された本をめくる。溢れ出す地獄の業火。
「そうだな、足……いや、腕かな。腕を狙おうか。当てにくいなら肩から落とそう。面倒事……自死なんて選ばれたら困るんだ」


『キース君……、大丈夫?』
「こういう場所では、ジャックポット同士の撃ち合いに不毛さを感じます」
 障害物の無い広間で逃げながら賢者の欠片で傷を癒すキースは苦笑した。シャドウルーカーたちの攻撃を《シャープポジショニング》ですり抜けて、《トリオ》を返しダメージを稼いでいたがスキルも底をついた。だが、敵方も限界は近いはず。
 再び迫るシャドウルーカー。
 キースは後ろ手に持ったソレを握り直す。
「少し、派手かもしれません!」
 キースが叫ぶ。彼の合図に気付いた仲間たちは身構え、異変に気付いたセラエノたちは後退った。
 彼の手を離れたそれが床をバウンドする。
『どっかーん!』
 紙姫の声を掻き消す爆音。
「いや、これ爆弾じゃないですから。ただの目覚まし時計ですからね!」
 目覚まし時計「デスソニック」の騒音は撤退するキースの声も飲み込んだ。
 キースの代わりにその場に滑り込んだのは羽織袴の仙寿だ。
 あけびが叫ぶ。
『義によって助太刀致す! ってね!』
 ガルーが何かに気付いて《クリーンエリア》を張る。
 清冽な空気の変化に気付いた仙寿が自分に続いて乱戦に雪崩込んだソーニャに声をかけた。
「ソーニャ、頼んだぞ」
 得心したソーニャがファルシャを構えた。
「技を修めたのが貴公らだけだと、奢ってはいないだろうな!」
 ソーニャの心眼がジャックポットたちの攻撃を弾き、仙寿の《女郎蜘蛛》がシャドウルーカーを補足する。
「同じ技なら極めたのは俺の方だったようだな」
 ひゅんと軽い音がしてドレッドノートが呻いた。
 浦島のつりざおで敵を引き倒したオリヴィエが視線で先を促し、何かを投げた。
 にやりと笑ってこじ開けた道を駆けるガルーはオリヴィエが投げた賢者の欠片を掴み取った。
「魔女はもてなせ、と言われた。まだ足りぬ」
 初めて口を開いたコマンドが彼を討つべく剣先に力を込める。
 覚悟を決めたガルーの下からの剣がコマンドの剣と火花を散らした。
「一体てめえら何考えてやがる。正直、こんなのはもうマトモじゃねぇぞ」
 仮面の女は答えず剣に力を込める。
「首謀者はアイテールなのか、それとも別の誰かなのか──」
 答えの代わりにコマンドはガルーの剣を押し切った。血飛沫が上がる。
「ガルー!」
 気付いたオリヴィエが叫ぶ。
 同じく浦島のつりざおを掴んだ嘉久也がそれを振るう。
 ──日本の誇る古きタイムファンタジー『浦島太郎』と時の宝石……。
「こんな物騒な際会は遠慮したかったが!」
 叫びと共に彼はそれを叩き付けた。
 弾き飛ばされるコマンド。
 解放されたガルーは敵を抜けて椅子ごと信義のロープを叩き切った。衝撃を受けた椅子が倒れた拍子に壊れる。
『名前の持つ因縁のお陰でしょうか』
 つりざおの成果をエスティアが満足そうに喜んだ。
「悪いが背負うぞ──?」
 床に転がった信義の肩を掴んだガルーはすぐに異変に気付いた。ライヴスで回復したはずの彼の身体に癒えない傷がある。
 一瞬の逡巡の後、ガルーは舌打ちして魔剣を構えて信義の前に立った。
「無事、じゃあねぇと思うが。伝えたいことがあれば簡潔に言ってくれ」
「……あいつらを、倒して、石を」
 征四郎が悲痛な声を上げた。
『だめ、です。あなたが死んだら、ココロも悲しむ、か、ら!』
 突然の妹の名に意表を突かれる信義。
「征四郎の言う通りだ」
 コマンドとの間に再びLSR-M110を手にしたオリヴィエが立った。


 龍宮宝典「海帝」で牽制しながら上空からジャックポットへ近づいた藍は三叉の槍「黒鱗」に持ち替えた。
『殺傷の許しまで出てます、手加減はいりません』
 ブルームフレアの炎がジャックポットを包む。
 飛び降り背後を取った藍は黒鱗を閃かせ声を上げた。
「突けば槍、薙げば薙刀、引けば鎌……手足の一、二本は諦めてもらおうか……!」
 ──奴等なら誤射など厭わんだろうと思ったが。
 残念ながら、もう一人の射手は藍の誘いに乗らずにコマンドの援護に回っている。
「仕方ない。禮、目の前の仕事から片付けるぞ」


 信義がガルーに救出されたのを目にしてキースはライヴス通信機で確認する。
「タイムジュエリーは無事なんですか?」
『取り出されてないの? 痛めつけられただけ?』
 キースと紙姫の問いにガルーの通信機を通して本人が苦しげに答えた。
「お前たちのお陰で意識は保っていられる。だが……畜生、呪具を埋め込まれて動けない。欠片も盗られた」
「欠片?」
「……後で話す。『レッドTJ』は無事だ」
 紙姫が眉を顰めた。
『ねえねえ、戦ってる間に言うのもおかしいんだけど……。なんか変だよね?』
「ええ。アイテールの行動は奇妙です」
『ただの愉快犯? それとも目的の上かな?』
「パラダイム・クロウが何も隠してなければいいんですが……」
 敵から視線を逸らさず、それでも、思慮深きジャックポットは疑問のピースを組み上げていく。
 アイテールはどこかで『待っている』と言った。
 『欠片』がアイテールの手にある。
 呪具で信義は動けないが、依然、彼の体内にタイムジュエリーはある。
 ──アイテールは『ヴィクトリアの螺旋』の結界を破れなかった? 代わりに彼の体内になんらかのビーコンを埋め込んだということでしょうか。欠片は……後で詳しく聞く必要があるようですが。
『キース君?』
「ええ。不幸にもというか、幸いにもというべきか。ここを切り抜ければレッドTJを巡った状況はイーブンのようです」


 シャドウルーカーたちを組み伏せた仙寿とソーニャが戦線に加わる。
 アリスの炎が戦場を焼く。ダメージを受けながらもセラエノたちはコマンドを中心に戦場を保つ。
 キースとオリヴィエが狙った首輪への銃撃は成果を生まなかった。
「これ以上狙うのは首への誤射に繋がる」
 渋面のオリヴィエに頷くキース。
 戦場から離れているキースに比べてオリヴィエはすでにだいぶ傷を負っている。その背には信義を回復するガルーがいる。
 ちろちろと床に残る焔を踏んで仙寿がコマンドに飛び掛かった。避けること叶わずに組伏されたコマンドの腹を彼は刺した。
「何故TJレッドを狙う? アイテールに所有権がある、とはどういう意味だ?」
「泥棒猫に聞くんだな!」
 反射的に答えてしまったコマンドは口元を歪め、腹から突き出た刀ごとむんずと仙寿の腕を掴むと逆の手で剣を突き出す。身体を反らした千寿の肩が裂けた。
 舌打ちしたコマンドは唯一自由に動くジャックポットへ叫んだ。
「撃──」
 だが、その号令が終わる前に彼女は再び崩れ落ちた。
「面倒事は困るんだ」
 チェックメイト。リーサルダークを放ったアリスが小さく息を吐いた。



●スカーレット
 目を覚ましたコマンドは自分が拘束されているのに気付く。
「終わったか」
 諦めを浮かべた彼女へアリスは《支配者の言葉》を使う。
「それで──タイムジュエリーを狙う理由は、何?」
 回答を得ることはできなかった。
 元々、複雑な回答までは期待できないスキルではあったが、僅かでも情報を得ることができればと思ったのだ。
 しかし、水晶の首輪から赤い雫が流れ落ちてコマンドの瞳から光が消えた。
「気にするな。アイテールは部下に生きたまま捕虜になることを許さない。そう仕組まれたアイテムだ」
「可能性は考えていたから気にしてないよ。……それより、ヴィランたちが足りないよね?」
 冷静なアリスの指摘に、エージェントたちはジャックポットと戦闘不能にしたはずのヴィランが姿を消していることに気付いた。
「信義さん。わたしもセラエノについてはある程度知っています。タイムジュエリーとはどういうものなんでしょうか」
 尋ねて、嘉久也は軽く首を振った。
「はっきり尋ねます。時の宝石の性質を聞いた私はセラエノ達がこの時間に戻って来ることを懸念しています。間違っても自分で自分を殴りに行くような状況だけは避けたい」
 信義はにやりと笑った。
「なるほど……それは考えつかなかったが、その懸念はもっともだ。
 タイムジュエリーは同じ時代、場所、史実に影響しない切りとられた過去へとジャンプする。そういう疑問を抱くことを俺は好ましいと感じるが、今の所その心配はないだろう」
 そう願いたい、と信義は呟いた。
「だいぶ元気になったようだね」
 リュカが言うと嘉久也は幻想蝶から出したストレッチャーを見て「無駄になったでしょうか」と呟く。
「いや、それは利用させて貰いたい。どうやら立つのは無理のようだ」
「……あんた」
 咎めるようなオリヴィエを彼は制した。
「大丈夫だ、愚妹を泣かせるつもりは──っ」
 信義はアサメイが打ち込まれた場所を押えて身体を苦し気に曲げた。
 同時にライヴスの蝶に似た光が舞う。
「あれ……?」
「ライラさん?」
 キースが目を丸くし、紙姫が戸惑いを浮かべた。
 そこに現れたのは信義の英雄ライラだった。
「ライラさ……? 違う。何者ですか?」
 信義の身体にはまだアサメイが打ち込まれている。
 共鳴が解けたのかと焦る禮だが、すぐに現れた女の纏う雰囲気の違いに気付いた。
 女は悪戯っぽく笑った。
「ボクは彼の体内にある緋色の宝石の時間案内人。スカーレットとでも呼びたまえ。キミたちは彼のお仲間かな?」
Aliceとアリスが首を傾げる。
「彼を助けに来たのは事実だけど」
「それを仲間だと言うのならそうだと答えるよ」
 ふんふんと雑に頷く案内人。
「そうすると、ボクの宝石の所有権を主張しているのはキミたちと彼女らか」
 スカーレットは無言で自分を見つめる信義──その身体に埋め込まれたアサメイを指した。
「では、ボクからどちらが時の宝石の所有者に相応しいか、試練を与えよう!」
 驚きを浮かべながらもどこか悠長にリュカが微笑む。
「はは、本当に物語みたい。ね、ね、タイムトラベルとかできるのかな!」
 案内人は笑った。
「その通り! 君たちにはこの宝を争って唯一無二の冒険を──と思ったが、この男のライヴスが尽きてしまいそうだな」
「仙寿様!」
 あけびが叫ぶのと同時に仙寿が信義を支える。
「案内人がどういう立場か知らないが、もし、彼を害するつもりなら俺たちは抗うぞ」
「そうだろうね。こちらとしても、今死なれては困る。ではまた次回か」
 鷹揚に言い放つと案内人は掻き消えた。
「灰墨さん……差し支えなければ、あとで事情を教えてくれないか」
 藍の言葉に信義は苦笑いを浮かべた。
「……ああ。悪いがまた力を借りることになりそうだ」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
  • 我らが守るべき誓い
    ソーニャ・デグチャレフaa4829

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 白い渚のローレライ
    aa2518hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • 天秤を司る者
    キース=ロロッカaa3593
    人間|21才|男性|回避
  • ありのままで
    匂坂 紙姫aa3593hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • 我らが守るべき誓い
    ソーニャ・デグチャレフaa4829
    獣人|13才|女性|攻撃
  • 我らが守るべき誓い
    ラストシルバーバタリオンaa4829hero002
    英雄|27才|?|ブレ
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