本部

狂ったフリークスショウ

影絵 企我

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/06/07 11:45

掲示板

オープニング

●暗殺者の信条
 シカゴ。人口だけならニューヨーク、ロサンゼルスに次ぐ第三の都市といえるが、その一方でヴィランの巣窟という一面も抱えていた。禁酒法の敷かれた1920年代、シカゴを賑わわせた伝説的なヴィランの名は、最早知らぬ者の方が少ないだろう。彼も今や過去の人物であるが、彼が率いたヴィラングループは分裂を続けていき、今や数百の大小さまざまなグループにまでなったと伝えられている。
 だから、シカゴの夜を無警戒に観光客が出歩くのはいけない。あっという間にナイフに銃を突きつけられる。

 屈強な男に腕を掴まれた一人の少女が、路地に無理矢理投げ出される。よろめきながら起き上がった少女の首筋に、ナイフが突きつけられた。
「お前、日本人か?」
 Tシャツの胸元を泥で汚した、黒髪のショートカットの少女。彼女は透き通るような蒼い眼で三人の男を見渡し、小さく頷く。一人の男はニヤリと笑うと、さらに少女へ詰め寄る。
「なら金持ってんだろ。全部出せ」
「金なら出しますよ。でもその前に少し聞きたい事があるんですが」
 流暢な英語で少女は応える。冷静そのものの声色で、ナイフを握る手をそっと押さえて少女は立ち上がった。男三人を前に一切怯える様子を見せない少女に、男達は一瞬ぽかんとなる。
「“アイアンレッド”について、何か知ってます?」
 アイアンレッド。その名前を聞いた瞬間、男達はさざ波のように揺れた。
「黙っとけ、このメスガキ!」
 その揺らぎを隠すように、男は唸って少女へ襲い掛かろうとする。しかし、少女は素早い身のこなしで男を地面に捻り倒すと、空手の構えを取って男三人に向かい合う。
「ったく。あんたらの為にもなるってのに……やっぱり最初っから締め上げた方が良いか」
 少女――澪河 青藍(az0063)は可愛げのない口調で男三人を挑発する。少女にしか見えない彼女に煽られた男三人は、眼を剥いて青藍に飛び掛かる。
「ぶっ殺してや――」
 刹那、その声は途絶えた。口からは血の滴るナイフが飛び出している。急所をナイフで貫かれた男三人は、断末魔の言葉も無く倒れた。噴き出した血が、青藍のシャツをさらに汚す。彼女の目の前には、外套に身を包んだ一人の男が立っていた。その顔は、半分が鉄の仮面に覆われている。
「お……おい。何してんだお前!」
 青藍は殺人鬼の只ならぬ雰囲気を見て思わず幻想蝶を手に取る。突然中から白いフレームのガイノイド――テラス(az0063hero002)が飛び出し、殺人鬼を指差した。
『青藍。こいつからライヴスを感じる!』
「……もしかしてお前がアイアンレッドか」
 青藍に尋ねられると、殺人鬼は踵を返して路地の奥へと駆け出した。青藍とテラスは慌てて共鳴すると、その後を追いかける。
「待てよ!」
 漆黒のプロテクターに身を包んだ青藍は、殺人鬼の消えた路地の角を曲がる。しかし、その時には既に影も形も無くなっていた。

●ブルーアイズ・ジャパニーズ
「……という事で、ヴィランを夜な夜な殺して回る殺人鬼がうろついてるから、何とかしようって事になったんです」
 君達と共に任務に帯同した青藍は、彼女の“取材した”という事を手短に話す。彼女は倉庫に先回りすると、中をそっと覗き込んだ。君達も続いて覗くと、ヴィランズ二組が、何かの箱と金をやり取りしている。箱から取り出されたのはAGWだ。
「強盗するわ、女の子は襲うわ、もう何でもありな奴らですけど、それでも殺されるのを黙って良しとするわけには行きません。とっ捕まえて、司法の手に委ねてやらないと。……初撃は私が止めるので、後は打ち合わせの通りにお願いします」
 そう言うと、青藍は背中に担いだアマツカゼの柄に手を掛ける。君達も次々に共鳴を終え、武器を構える。
「行きましょう。……3、2、1――」
 刹那、青藍は倉庫の中へと突っ込んだ。同時に、天井から血塗られた外套を纏ったサイボーグ殺人鬼が降ってくる。青藍は咄嗟の出来事に反応できないヴィランの頭を踏みつけ、殺人鬼の繰り出したナイフを刀で受け止める。
「……どけ。全てのヴィランは、俺が殺す」
「そんなわけにいかないんだよ、これが!」
 青藍は殺人鬼を斬り払うと、飛び退いて間合いを切る。フードがずれ、鉄仮面が露わになる。
「なーんか、見た事あるよね、その改造っぷりは……」
 二人がメンチを切っている間に、ヴィランズは我に返る。彼等にとっておぞましい化け物が、“二人”もいる。
「アイアンレッドだぁ!」
「ブルーアイズジャパニーズもいるぞ!」
 蜘蛛の子を散らすように、ヴィランズは逃げ出そうとする。倉庫になだれ込む君達と入れ替わるように、青藍はその背中を追いかけた。

「止めろってんだよその綽名ァッ!」

解説

メイン アイアンレッドを捕縛する
サブ ヴィランズも捕縛する

BOSS
アイアンレッド
 全身の5~6割を機械化されたと思しき人間。ヴィランズに強い敵意があるらしく、通り魔的に夜な夜な殺傷を繰り返していた。
・脅威度
 デクリオ級相当(接敵時)
・ステータス
 物防、回避高め。魔防低め
・スキル
 ダウンロード
 →物攻の値をPC内の最大値に固定する。シナリオ開始時に発動する。
 キャプチャー
 →近接(物理)、単体対象。命中時一人を拘束状態とし、その間受けたダメージを拘束したPCにも与える。
 ナイフ
 →近接(物理)、単体対象。命中時減退(1)を付与。
 ハンドガン
 →遠隔(物理)、3体まで対象。
・性質
 無口
 →基本的に喋らない。

NPC
澪河青藍withテラス
 こっそりアルター社の動静を追っていたエージェント。アイアンレッドの見た目には見覚えがある様子。
・ステータス
 回避カオブレ(65/30)
・スキル
 インタラプトシールド、ロストモーメント、ウエポンズレイン、零距離回避、エマージェンシー

ヴィランズ×10
 アイアンレッドの襲撃で逃げ惑っているヴィランズ。放置している間は攻撃してこないが、捕縛しようとすると攻撃してくる。
・ステータス
 一撃で倒せる(倒せなくてもいい)
・スキル
 くらう事はまずない(くらってもいい)

フィールド
・廃倉庫
 暗く、そのままではアイアンレッドの姿を視認しにくい。広さは15sq×10sq。
・コンテナ
 あちこちにコンテナがうずたかく積まれ、直線行動を阻んでくる。
・開始状況
 倉庫に足を踏み入れたタイミング。潜伏も二、三人なら可能。

TIPS
・青藍の行動方針は自由。アイアンレッドにぶつけてもいいし、ヴィランズ捕縛に回してもいい。
・オーバーキルに注意。機械が破壊されるとアイアンレッドの生存は極めて困難になる。
・青藍はヴィランズに何度も“軽いインタビュー”を敢行しているが、君達には黙っている。

リプレイ

「たった一人が踊るフリークスショウ」
『或いはたった一人の為のフリークスショウ』
「狂ってるのは」
『彼か、それとも』

 ――この世界か。

●青い瞳
『照明は……我らの位置を敵に伝える事にもなりかねぬ。昏き深海をも見通す我が力……暫し貴公らに貸し与えよう』
 氷鏡 六花(aa4969)の英雄オールギン・マルケス(aa4969hero002)は、水底から語り掛けるような低い声で周囲の仲間に語り掛ける。六花は仲間達に右手を翳すと、その掌を輝かせた。その光は眼に宿り、猫の目のように輝く。
 それを受けて、青藍は真っ先に倉庫へと飛び込んでいった。殺人鬼との一瞬の斬り合いと共に、騒ぎが巻き起こる。アイアンレッドだの、ブルーアイズだの、倉庫内が一気に喧しくなる。禮(aa2518hero001)と共鳴した海神 藍(aa2518)は、倉庫の中へと駆け込みながら深紅の殺人鬼を見遣る。その右手は、軽く蒸気が噴いていた。
「もしや、あの四肢はRGWか何かか?」
『得体が知れませんね……でも大丈夫です。今の私達には海の加護があります』
「は?」
 急に声を弾ませた禮に、藍は思わず首を傾げる。
『何だか氷鏡さんから海の気配がするんですよ。あの英雄のヒト、きっと神様か何かです!』
「(よくわからないな、人魚としてはそういうものなのか……?)……まあ、いいか」
 隣では喧しい音が響き、一人の男が青藍に片腕を捻り上げられていた。
「大人しくしろ。ライセンス抜きで武器を取引すんのは違法だぞ」
「ひい……」
 男は幽霊にでも出くわしたかのような怯えようだ。その光景を目にして、禮は少々訝る。
『ブルーアイズジャパニーズ……?』
「何故恐れられているのか……」
 冷ややかな眼で暫し見た。振り向いた彼女はバツが悪そうな顔で肩を竦める。
「まあいいか……そっちは任せたよ、ブルーアイズジャパニーズ」
 藍は溜め息を吐くと、武器を構えてアイアンレッドと対峙した。

「ヴィラン殺しとはまた穏やかじゃねぇなぁ」
『恨みによるのか、破壊衝動の類なのかは捕まえてみれば判りますわ』
 コンテナの影からよじ登り、ヴァルトラウテ(aa0090hero001)と共鳴した赤城 龍哉(aa0090)はアイアンレッドが藍の放つライヴスの波を躱す姿を見つめる。フードの影に隠れた眼は、一切の戦意を隠していない。
「違いねぇ。やるぞ、ヴァル!」
 龍哉はコンテナから身を乗り出し、戦場へと飛び降りる。藍へ飛び掛かろうとした殺人鬼の前に降り立つと、拳銃を握った拳で裏拳を見舞う。よろめいた殺人鬼だったが、すぐに体勢を立て直し、その眼を輝かせた。光を龍哉の全身にくまなく当て、ライヴスのパターンを読み取っていく。
「すまんな。今持ってるのは豆鉄砲だ」
 銃を構えたまま、龍哉は不敵に笑う。事前の情報で、敵が自分の能力をコピーしてくる事は知っていた。敢えて弱い装備を持ってきて、リミッターを掛けたのもそのためだ。
 しかし、殺人鬼は構わず腰の拳銃を抜く。その異様な殺気に気付いた龍哉は、咄嗟に身を躱した。放たれた弾丸は、背後の錆びたコンテナを一撃でぶち砕く。それを見た龍哉は苦笑するしかなかった。
「なるほど、見た相手に合わせて来るとはこういう事か……少し鍛え過ぎたかもな」

 その様子を見ていたのは龍哉だけではない。メテオバイザー(aa4046hero001)と共鳴した桜小路 國光(aa4046)も、顰めた面して殺人鬼の一挙手一投足を観察していた。共に見つめていたメテオも、その戦い方にはどことなく見覚えがあった。
『(あれは……どうしたんですか?)』
 國光に尋ねようとしたが、その前にふっつりと湧きあがる一つの想いを感じた。國光は拳を固めると、足音を潜めて駆け出した。
「知的財産権侵害だな……」
 ストラに刻まれた紋様がうっすらと光る。放たれたライヴスに反応し、殺人鬼は國光に振り返った。國光は右手の平にライヴスを集めると、一気に間合いを詰めて殺人鬼の懐に潜り込む。
 殺人鬼の繰り出したナイフを左手で受け流すと、ライヴスを溜めた右手をアイアンレッドの胸元近くへ押し当てる。研ぎ澄ませた感覚で、殺人鬼の拍動や体温、未改造の部分を確かめていく。
「そのアイアンパンクのパーツ、どこで手に入れた?」
 声を低くして尋ねる。殺人鬼は口を閉ざしたまま、身を捻って國光を突き飛ばした。明確な“拒絶”の態度。プログラムされた反応とは見えない。
『(あの時とは違う……)』
「そうだ。この人は、間違いなく生きている」

『全てのヴィランは俺が殺す……かあ、カッコいいねえ』
 紫苑(aa4199hero001)はさらりと言う。バルタサール・デル・レイ(aa4199)の眼を通して倉庫の一帯を見渡した彼は、今日も戦場に渦巻く感情を愉しんでいた。
「他人の恨みつらみなんかにゃ興味ないな」
 一方のバルタサールは今日も聞く耳を持たない。魔導銃を抜くと、遊底を引いて構える。彼はメキシコ麻薬カルテルの元幹部――広義のヴィランの一員だった男だ。今更他人の感情を慮ってあれこれ思う気など無かった。
『そう? ヴィランズを夜な夜な殺害していくなんて、闇堕ちヒーローっぽくて、面白いじゃない』
 紫苑にしても、殺人鬼の境遇に同情するつもりなど無かったが。バルタサールは目の前を逃げ去ろうとするヴィランズの脚を撃ち抜き、地面に転がす。
「そうかい。勝手に楽しんでくれや」
『相変わらず、つれない男だね。青藍とかいう子がアイアンレッドを追っていたのも何か意味があるのかな? ……まあ、どうせ興味ないんでしょ』
 ウレタン噴射機を取り出すと、バルタサールはヴィランズの膝辺りをウレタンで固めて倉庫の隅に蹴り転がす。それが今日与えられた任務。それ以上の感情も感慨も無かった。
「御名答」

「邪魔すんな! どけよ! あいつが来る!」
 ヴィランは武器を抜き、泡食いながらナイチンゲール(aa4840)へと押し寄せる。ナイチンゲールはファイティングポーズを取ると、ヴィランの顔面にハイキックを叩き込む。予期せぬ反撃を喰らったヴィランは成す術無く吹き飛びぶっ倒れる。セフィロトを抜き取って切り交ぜながら、ナイチンゲールは逃げ惑うヴィランズを追っかけ走る青藍をちらりと見る。
『(随分と恐れられているようだな)』
 墓場鳥(aa4840hero001)はぽつりと呟く。タトゥーも入れた大の男が一回りも二回りも小柄な少女に怯える様は滑稽ですらある。
「何したんだか……」
 セフィロトの一枚を投げると、魔術師の幻影が現れて男達の足元に光球を放つ。男達はまごつき、彼女の前で足を止めた。拳銃を抜いていた殺人鬼は、そんな男達に銃口を向ける。
「伏せとけ!」
 青藍は叫ぶと、男達の前に盾を飛ばして銃弾を弾き飛ばす。その動きは鮮やかだ。取り出した盾で丁寧に気絶させながら、ナイチンゲールは肩を竦める。
「少なくとも、息は合ってるみたいだけど」

『冬の女神には及ばぬが……氷もまた我の司る領域。六花、常の通りで構わぬ。我が霊力……存分に振るえ』
「……ん。わかった」
 オールギンは六花にゆったりと語り掛ける。六花は頷くと、右手に魔導書を取ってべーじを捲る。氷の槍を作り出すと、鏡で分裂させながら固まっているヴィランの足下を狙って撃ち込んだ。
 足元を掬われた男達は、その場ですっ転ぶ。起き上がった男達は、年端も行かない少女の姿を目にする。二人の化け物を目の前にして潰れかけていたプライドが目を覚ましたか、ヴィラン達は歯を剥いて地面に転がる銃を取る。
「この!」
 次々に引き金を引く。六花は右脚を引くと、ドレスの裾を流しながら、舞うようにその攻撃を躱していく。
『右手を翳せ。かの麗しき冬の女神には為し得ぬ業……もう一つお目に掛けよう』
 六花はオールギンに言われるがまま、素早く眼前に手を翳す。刹那、その手からは海に漂う濃霧のように、ライヴスが放たれる。仲間達に小突き倒されていたヴィランズは、睡魔を齎す霧をしこたま吸い込み、そのまま気を失ってしまった。
『海の静寂に抱かれて……眠れ』

●鉄の赤
 かくしてヴィランズの制圧がてきぱきと進められる中、龍哉は國光と挟撃するような形で殺人鬼と対峙していた。相手の攻撃を捌きながら、龍哉は外套から時折覗く機械に目を遣る。
「こうしてみると、また随分とメカメカしい奴だな」
『おそらく改造部位は全身の骨格に及んでいますわ。……とすれば、アイアンパンクの限界とされている範疇を超えますわね』
 殺人鬼は走り寄ると、龍哉に掴みかかろうとする。ネビロスの糸で足を引っかけながら、両手を掴んで地面に捻り落とす。殺人鬼は片手で地面を突いて跳ね起きると、身を捻って飛び退き、武器を構える。普通の人間が出来る動きではなかった。
「魔改造の類かよ……もう既にアルター社絡みにしか思えんのだが」
 龍哉の呟きを耳にした國光は、唇を結んで白と黒の双剣を抜く。二振りの剣をリズミカルに繰り出しながら、殺人鬼の身のこなしを確かめていく。機械化された双眸が、國光をじっと見つめ返す。
「どうしてヴィランを殺そうとする!」
「それが俺に与えられた任務だ」
 剣を切り返し、殺人鬼は逆手に持ち替えたナイフを國光へ振り下ろそうとする。その身のこなしは確かだ。國光は刃を払い除け、一歩飛び退く。
『(意識は明確にあるように見えるのです)』
「任務……」
 二振りの剣を構え直し、國光は殺人鬼と対峙する。殺人鬼は拳銃を引き抜いた。國光は身を低くしながら、一気に懐へ向かって飛び込んでいく。

『速いですね。このままだと苦労しそうです』
「なら、その動きを鈍らせよう。……星よ、縛れ」
 開いた魔導書に手の平を叩きつける。その瞬間、海の幻影が倉庫の天井から降り注ぎ、その場にいた殺人鬼と仲間達を纏めて押し潰す。ナイフを手に取り跳び上がろうとした殺人鬼は、つんのめって地面に倒れ込む。
「多少の圧は我慢してくれ」
『今のうちに無力化を進めましょう!』
 起き上がった殺人鬼は、拳を固めて腹の底から唸りを上げる。四肢や背中がライヴスの輝きを放った。その姿は、龍哉の身に纏う神経接合スーツの【超過駆動】モードにも似ている。それを見た龍哉は、銃を収めて愛用の剣を抜き放った。
「本気モードってとこか? ならどこまで持つか、試してみるか!」
 重圧空間をものともせずに殺人鬼の間合いへ踏み込むと、渾身の当身を叩き込む。殺人鬼が倒れ込んだところへ、さらに龍哉はその腕を狙って剣を振り下ろす。殺人鬼は床を転がり、その一撃を躱した。刃はコンクリートの床をバターのように切り裂く。
『やり過ぎ注意ですわよ』
 思わず本気になってしまった相方を、ヴァルは小さな声で窘める。
「……そうだったな」
 殺人鬼は上半身を起こすと、拳銃を寝かせたまま構え、床に転がるヴィランに狙いを定めた。しかし、その視界の端で銃声が轟き、殺人鬼は咄嗟に銃を引く。
「そうだな。おまえの任務は俺達に勝つ事ではなく、ヴィランを殺る事だ」
 遊底を改めて引き、バルタサールは金の眼をサングラスの奥で閃かせる。遊びと仕事の区別がつかない下っ端ヴィランとは比べ物にならない、本物の気迫を覗かせる。
「悪いが、俺達の任務はそれを邪魔する事なんでな」

「とりあえず護送車の手配をお願いします。……はい。数が多いので、ちょっと私達だけだと対処できないので……」
 ナイチンゲールは通信機で支部へと手早く連絡を送る。そのまま盾を構え直すと、六花の隣にそっと寄り添う。新たな存在を得た六花の行く末を見定める為に。
「銃弾が飛んできても私がカバーするから。任せといて」
「……ん。はい。宜しくお願い……します」
 六花は、ナイチンゲールの腕と、それから殺人鬼を交互に見遣る。ナイチンゲールも、殺人鬼も同じアイアンパンク。しかし、その有様は全く違っていた。
『……人体の機械化は、限界で四割程度と聞いておったが。彼奴の様子を見る限り……半身か、それ以上』
 全身に走る光の筋を見る限り、脊椎と四肢が機械化されている。両眼や顔の一部にも機械が宛がわれているように見える。
『六花。機械化した部位……特に脊柱部分は壊さずにいた方が良い。生命維持に……関わるやもしれぬ。それに……生身の部位ならば……万一の事があろうと、我の“海雫”で治療が可能故……な』
「……ん。やって、みるね」
 とはいえ、体幹に魔法を直撃させればそれこそ命に関わりかねない。六花は細身の氷槍を作り出すと、コンテナの上から太もも辺りを狙って擲った。槍は鋭く突き刺さり、太ももからじわりと血が滲む。男は思わずよろめいた。
 國光は男の脇に回り込むと、膝を狙って剣を振り抜く。関節のパーツが歪み、男は膝から火花を散らしてよろめいた。
 すかさず藍は魔導書を開き、指先でつづられた文字を撫でる。
「そろそろ……水底に沈む時間だ」
 六花と共に、氷と水の飛沫を男へ飛ばす。男は顔を腕で庇いながら、片脚で無理矢理飛び退く。しかし、着地がおぼつかず、その場でたたらを踏んでしまう。龍哉はそこを見逃さなかった。
「ヴィラン相手とはいえ――」
 鞘に大剣を収めたまま、殺人鬼の肩口と脚を叩きのめし、貫く。ねばついたオイルが迸り、ライヴスと火花が散った。
「無差別に殺し回られたんじゃ迷惑だ。とりあえず大人しくな」
 龍哉は身を捻って背後を振り返る。藍は素早く魔法を唱え終え、殺人鬼の胸元へ手を翳す。
『お休みなさい』
 鉄砲水の黒い幻影が男に襲い掛かり、その意識を奪い去った。殺人鬼の両眼に宿った光は失せ、その場に倒れ込む。
『……六花。“海雫”だ。今こそ、我の力を』
 六花は素早く駆け寄り、倒れた男に向かってケアレイの光を当てた。生身に刻まれた傷が癒えていく。國光がそばに屈み込んで様子を見ると、息も脈拍も一応は正常の範囲を保っていた。
 その様子を遠巻きに見守っていたナイチンゲールは、安堵して盾を床に降ろす。
「とりあえず、これで一件落着……か」

●荘厳な城
 護送車が倉庫街にやってくる。警告灯で周囲が眩しくなる中、エージェント達は倉庫の中でアイアンヘッドやヴィランズの様子を確かめていた。
「……」
 目を覚ましても、男は一言も語ろうとしない。後ろ手に手錠を嵌められたまま、抵抗するでもなく、落ち込むでもなく、淡々とそこにいた。國光はウェポンライトでその身を照らしながら、改造の様子を確かめていく。
「(模様の類は無し……けれどパーツは、間違いなくあの義肢だ)」
 間近で構造を確かめ、國光は確信を深める。過去、機械仕掛けの愚神を追っていた時に目にした義肢と同じものだった。しかし、その形は常人以上に身体機能を研ぎ澄ませるように洗練されている。
 國光は男の義肢を写真に収めながら、青藍に尋ねた。
「殺されたヴィランにも特徴ってあるんでしょうか?」
「特徴……そうですね。狙われているのはシカゴで最大の勢力を誇るヴィラングループの一員ばかりです。この人の言う通りにそれが何者かから与えられた任務だとしたら、ターゲットがそのヴィラングループだったという事でしょう」
『データはまとめてあるので、欲しかったら差し上げます』
 眼を青藍色に光らせたアンドロイドが、落ち着き払った口調で付け足す。
「……貴方がテラスさんですか?」
 テラスはこくりと頷く。噂とは違う振る舞いだが、それには構わず小さく頭だけ下げた。
「宜しくお願いします。これから」

「それにしてもブルーアイズか。何かカッコイイな澪河」
 ふと、龍哉が青藍ににやりと笑いかける。青藍は眼を白黒させた。
「粉砕! 玉砕! 大かっさ……違う! カッコよくないでしょう、全然!」
 一瞬乗っかりかけた青藍だったが、顔を顰めて龍哉に突っかかる。ヴァルは腕組みをしたまま、はっきり見開かれた彼女の眼を覗き込んだ。透き通った青藍色だ。
『確かに……日本人で青い眼、というのは珍しいですわね。それこそ、漫画やアニメの中にならよくいますけど』
「生まれつきなんです。私だけそうなんで、よくわかんないですけど」
 共鳴を解いた六花が歩み寄り、青藍をじっと見上げる。
「……ん。青藍さんの、お名前も、そこから……ですか?」
『渾名で呼ばれ親しまれる程に……彼奴等と頻りに会うておるのか。目的は……なんだ?』
 オールギンはそんな彼女をやや不審げに覗き込む。六花の知己とは聞いていたが、初対面の彼にしてみれば、ヴィランと繋がりがあるただの怪しい少女である。藍も、青藍に軽く詰め寄っていく。
「お疲れ様、ブルーアイズジャパニーズさん……で? 何やったんだ? 手前」
 青藍は藍の“おはなし”しようという気迫に震えあがる。その姿はただの女子高生にしか見えない。本当は女子大生なのだが。
「何もしてませんよ……私はただヴィラン狙いの殺人事件の話を聞きたかったのにこいつらが変に絡んでくるから正当防衛として捻り上げただけです。そしたらなんか勝手にビビりだしただけです。……だよな?」
 薄暗い空間の中で、青藍の目が狼のように光る。縛り上げられた男達は慌てて頷くしかなかった。その眼は羊を睨んでいるかのようだ。藍は憮然として彼女の横顔を見つめていたが、ふと余所見をしてぽつりと呟く。
「……上に掛け合ったら調査依頼が出るかもしれないな……」
『あ、楽しそうですね、それ!』
 禮が乗っかってにこにこと笑う。青藍は口を曲げて呻いた。
「だから正当防衛なんですって……ナイフを抜いたり銃を先に向けてきたのはあいつらなんですよぉ。女で日本人でガキだからってバカにしてぇ」
 半ばいじけ気味の青藍に、紫苑がそっと歩み寄る。その背後から回り込むと、彼女にそっと囁きかけた。
『女で日本人でガキだからって油断させて、ナイフを抜かせたり、銃を向けさせたりした、の間違いだったりして。そうすれば捻り上げる大義名分が立つもんねぇ』
「いやいやいや」
 くすりと笑う紫苑に、青藍はげんなりした顔で首を振る。バルタサールは紫煙を吹かしつつ、気さくな調子で窘めた。
「あまり滅多な事はするもんじゃねえぞ。そこそこの任務に参加してそこそこの成果は出してると聞いたが、うっかり蛇の尾を踏んじまったらただじゃすまん。悪ガキの真似事も大概にしておくことだな」
 しかし、サングラスの奥の瞳は凍っている。その気迫に押された青藍は、こくこくとウッドペッカーのように頷く。
「は、はい。気を付けます……」
 そんなこんなで、青藍への追求が一段落しそうになる。しかし、國光はおもむろに立ち上ると、つかつかと青藍へと歩み寄ってきた。
「……澪河さん。あの研究所と街の人達……あれからどうなってるか知ってますか?」
 眉間に半ば皺を寄せ、國光はさらに青藍へ一歩迫った。三十センチ近い身長差。國光は青藍を見下ろす形になる。
「多分……知ってますよね? ブルーアイズジャパニーズ・セーラ」
 國光の気迫に押され、青藍は眼を泳がせた。
「……知っていますが、そこまで不審な事はありません。グロリア社から義手の支給を受けてリハビリを行い、最近は殆どが社会復帰しているそうで……でもそんな事が聞きたいわけじゃないですよね」
 たどたどしい口調。彼女はちらりと見上げてくるが、國光は押し黙っていた。青藍は肩を縮めて目を逸らすと、細い声で答えた。
「まだ確証が取れたわけではありませんが……あの研究所では、愚神による襲撃の後、不足した人員が補充されましたよね。大体は教団の息がかかったメンバーだったわけですが……私が思うに、本当はその中に……」

 アルター社の企業スパイがいた。

 青藍が最後まで言い終わらないうちに、國光は荒々しい足取りで歩き出した。その足は倉庫の外へと向かう。
『サクラコ……?』
 メテオは何度も仲間達を振り返りつつ、その背中を追いかけていった。ナイチンゲールはそれを見送りつつ、アイアンレッドと呼ばれた男へと静かに歩み寄っていく。
「(報告書でマキナ事件の顛末は読んだ……その機械化技術がアルター社に吸収されてたって事か。見た目は違うけど……私も似たように機械化された奴とリオで闘った)」
「まさかとは思うけど……あなたも“デザインされた”クチ? 2人の“D.D.”に」
 そして、ラグナロクの事は心に嫌というほど刻み付けていた。もしディーディーに繋がるのなら、この事件を見過ごす事は出来ない。だが、ナイチンゲールを見上げる男の反応はつれなかった。
「知っていたとして、応えるつもりはない。……だが、それらをそもそも俺は知らない」
 ナイチンゲールは小さく肩を落とす。半分機械化された男の顔は、嘘をついているようには見えなかった。墓場鳥はナイチンゲールの曇った横顔を見遣る。
『……空振りだったか。さあ、お前はどうする。……いや、今はどう見る、というべきか』
「まだ……分かんないよ」
 少なくとも、ナイチンゲールの眼には、この事件が独立のものとは思えなかった。マキナ事件とアルター社が繋がったのなら、RGW回りの事件とも関係しているとしか思えない。
 龍哉は静かに歩み寄ると、彼女の肩を軽く叩いた。
「迷ってんのは、リオ・ベルデの件か? ラグナロクの件か?」
「多分、どっちも」
 ナイチンゲールは応える。
『私達もリオ・ベルデの一件には深く関わった身です。可能な限り、協力致しますわ』
「……ん。六花も、その事件は、見過ごせません」
 ヴァルと六花、ナイチンゲールは互いに見つめ合う。
「うん……そうだね。これがもし……全て繋がるなら……」

『サクラコ』
 廃倉庫の外でようやく追いついたメテオ。國光は足を止めると、静かに天を仰いだ。
「……科学。それは、馬鹿で命知らずの死骸の山の上に築かれた荘厳な城であり、血の川の畔に咲く美しき花園。……よく言ったものだよ」
 しかし、その花園に向かう苦労と喜びは、國光にも理解できてしまうものだった。國光は軽く拳を握って呟く。
「オレも大馬鹿者か……」

 あの日の彼の想いを消したくない。
 誰かを思って作り上げた技術を、無断で誰かに悪用されたくない。
 彼が想った誰かの為にも。
 それ位は自惚れたって良いと思う。

 同じ研究者として。



 狂ったFREAKS’ SHOW 終

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 白い渚のローレライ
    aa2518hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • Aster
    紫苑aa4199hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 【能】となる者
    墓場鳥aa4840hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • 南氷洋の白鯨王
    オールギン・マルケスaa4969hero002
    英雄|72才|男性|バト
前に戻る
ページトップへ戻る