本部

【愚神狂宴】連動シナリオ

【狂宴】其の花は人の心を動かす

紅玉

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/06/13 20:47

掲示板

オープニング

●宴は狂う花畑で
 エージェント達が依頼で手にした生花等は、ギアナ支部長のM・Aによって微量ではあるがアルノルディイのライヴスパターンが検出された。
 そして、その生花は何処にあるのか?
 どうやって、その花の成分をアルター社はが加工したのか?
 簡単な事だ、アルノルディイの花を育てる場所があれば、それをそこで育てて使っているのだ。
 では、何故その花を育てる場所を誰も知り得ないのか?
 その答えは、M・Aを含むギアナ支部が既に調査済みであった。
「仕方がない。双子の姉様達だけでは心許ないね」
 白い日傘をくるり、と回しながら愚神『向日葵』は花畑に足を着けた。
「『向日葵。実験は大丈夫?』」
 双子の愚神『彼岸』が声をハモらせながら、妹である向日葵を見上げた。
「だって、女王様直々の命令だよ? 姉様達が居なくなると、後々面倒になるからね」
 と、ウィンクしながら向日葵は笑顔で言った。
「……そう、終わったのなら、問題ないです。少し前に、変な能力者が来たので、此処は襲われるでしょう」
 赤い髪飾りの彼岸が、風に吹かれれば消えそうな声色で呟いた。
「まぁ、姉様達はー特別? だからね! でもね、月下姉様達の声が聞こえる。痛いのはイヤだよ……でも、“選ばれた”からにはこの“盾”を使う覚悟は出来たよ」
「……そう、ならば、後は、待つばかりです」
 青い髪飾りの彼岸は、花畑の花を1本手折る。
「あ、そうそう! お土産も用意したんだよ?」
 向日葵は太陽の様な瞳を細めると、手の内からポロポロと種を生み出した。
 種は地面に落ちると、土の中に潜り込み向日葵が土にライヴスを放つと、パンドラの箱に似た植物が勢いよく土の中から飛び出した。
「嫌な、実験の成果、です」
 赤い髪飾りの彼岸は、少しムッとした表情でソレを見つめた。
「まぁまぁ、アルター社がボク用に改良したオーパーツなんだよ? ちょっと、デザインは悪いけど性能はバッチリだよ!」
 無邪気な笑み向けながら向日葵は、ドロップゾーンを生成する。
「仕方がありません。それならば、私の毒を1つだけ貸しましょう」
 青い髪飾りの彼岸が、着物の袖を振って黒い揚羽蝶を飛ばす。
 植えられた植物に蝶が接触すると、だらりと口から垂れた涎に当たった虫はコロリと地面に落ちた。
「流石! 姉様達! ボクも負けてられないね!」
「『そろそろ、来る、頃でしょう』」
 向日葵がはしゃぐ隣で、彼岸は花畑内に入ってきたエージェント達に視線を向けた。

●H.O.P.E.
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。今回の依頼はギアナ支部の調査で判明した、花を統べる女王『アルノルディイ』の花畑に関してです」
 アナタ達を真剣な眼差しで見つめるのは、ティリア・マーティス(az0053)だ。
「ギアナ支部長のM・Aさんの報国によると、イギリス周辺の離島にアルノルディイが作った花畑が発見されました。しかし、愚神『彼岸』の双子によって守られておりましたが……今朝、プリセンサーが新たな愚神の関与を感知しました。愚神『向日葵』と謎の植物……従魔が、増援されて私達を待っているそうです」
 ティリアが、アナタ達の端末に詳細情報が載った資料を送る。
「アルター社が黒と決まった今、一般人の皆さんを守れるのは皆さんしかいません。どうか、花畑に咲いている花の処分をお願いします」
 と、言ってティリアはアナタ達に恭しく一礼した。

解説

【目標】
・花を全て処分する
・愚神のどちらかを討伐

【場所】
離島(昼間)
ドロップゾーンに覆われています
大きな障害物はありません

【一般人】
ドロップゾーンが展開されているので居ません

【敵】
愚神『彼岸』
髪と着物は黒く赤、青の彼岸花を髪に付けている双子
デグリオ級
黒い揚羽蝶を操っています
BS攻撃が得意、赤は幻、青は毒を主体に使用
弱点は無く、同時に倒さない限り、アルノルディイの手によって修復されます
同時に撃破するチャンスは1度となっております

愚神『向日葵』
太陽の様な瞳、金の短髪、白いワンピースを着た少女
デグリオ級
物理防御での強化が得意、白い日傘は盾にもなり、ライヴスの種を放てます。
弱点は『四肢』の切断
月下美人程ではありませんが、防御力が高くて体に改良されたオーバーツを埋め込められています

従魔『ボックス・改』20体
パンドラの箱を模した全長2m程の植物
ミーレス級
愚神『彼岸』の青い方によって、麻痺する体液を保有
攻撃方法は、噛み付く、縛る、液体を吐くの3つ

【NPC】
指示が無ければ、ティリア(トリスorアラル)が援護してくれます。
冥人は同行のお願いがない限りは不参加となります。

【PL情報】
『●宴は狂う花畑で』の愚神達の会話は知り得ません。
※PC情報に落としこむ事は不可

『オーパーツ』
形状:不明(破片にして向日葵の体に埋められたので、原型は留めておりません)
名前:不明(アルター社によって改良されてしまった為に分かってない)
発動:日光が当たる場所
説明:様々な種を生み出す(改良されたので、ライヴス量によってヤバイ植物の種が生成可能に)
※愚神『向日葵』を倒すと消えてしまいます

リプレイ

●根源
 空と海が永遠に繋がっているかの様に錯覚する水平線に、ドロップゾーンに覆われた孤島が異質に感じた。

 そこに

 何が“あって”

 “誰”が待っているのか

 プリセンサーの感知によって、知らされているエージェント達は島に足を踏み入れた。
 ドームの“向こう側”は、花が咲き乱れており“天国”という単語が脳裏に浮かぶ。
 しかし、この花は愚神『アルノルディイ』によって作られた花で、名前に付けられた言葉の通りに“夢現”で人々を操る。
『花に罪は無い……刎ねるのは少々心苦しいですが』
 足元で咲く花に視線を向け、竜胆の様な青い瞳を細め凛道(aa0068hero002)が呟いた。
「変な罪を被せられる前にって考えもできる」
 人は花に関する逸話を良くも、悪くも、その花に印象付けする。
 重度の弱視である木霊・C・リュカ(aa0068)は、牡丹の様な赤い瞳ではなく手で足元の花を優しく撫でる。
「綺麗な花畑、ですね……」
 思わず息を漏らし、そのスイセンの様な金色の瞳で紫 征四郎(aa0076)は花畑を見渡す。
『それだけじゃねぇさ。毒花ってのは、概ね綺麗なもんだからな』
 アネモネ、トリカブト等の花を思い浮かべながら、桜の様に薄桃色の瞳を細めたガルー・A・A(aa0076hero001)が訝しげに言った。
『何だりんりん。引きこもってたらしいが、もう大丈夫なんだな』
 と、軽口でガルーが言う、と。
『……心配をかけたなら、ちょっとだけ謝ります』
 バツの悪そうな表情で凛道は答えた。

「結局、前回の対話は時間稼ぎでしかなかったようですね……」
 胸元で手を握り締めると、薔薇の様に赤い瞳を伏せた月鏡 由利菜(aa0873)が震える声で呟いた。
 あの時、話す場を設けた事は愚神『アルノルディイ』の策略なんだと、裏切られた様な虚しさが心を冷やしていく。
『……やはり、愚神とは相容れん運命だな。奴らにはもう加減はせん』
 少し間を置いて、空に溶け込みそうな青い髪を靡かせながらリーヴスラシル(aa0873hero001)は、そっと由利菜の手を重ねた。
『こんなに落ち着かない花畑は初めてだわ』
 白百合の様に白い髪を押さえたミーシャ(aa1690hero001)は、眉をひそめながら花畑を見据えた。
「人の心をどうこうするもんだと思うとゾッとするな」
 黒曜石の様な瞳で花を一瞥すると久兼 征人(aa1690)は、くしゃりと花を踏み潰した。
「とっとと片付けるぞ」
 と、ミーシャに言うと、共鳴した征人は歩き出す。
「綺麗な程に毒って有るんだな……」
 花畑を翡翠の様な瞳に映す、荒木 拓海(aa1049)がぽつりと呟いた。
『毒は程々なら薬=魅力よね。……綺麗な子だからって見惚れてちゃダメよ?』
 森を閉じ込めた様な瞳でメリッサ インガルズ(aa1049hero001)は、じっと拓海を見つめながら言った。
「……嫁以外は見ません」
 間髪入れずに拓海はハッキリと答えた。

「『ようこそ、花畑へ』」
 愚神『彼岸』が声をハモらせながら言った。
「いらっしゃい。お兄様も居るなんて、エージェントって意外と気が利く?」
 愛らしく首を傾げた愚神『向日葵』は、絵画からそのまま飛び出したかの様だ。
『……お久しぶりですね狐花の子。ニッタの事、覚えていますか?』
 瑠璃の様な青い瞳で彼岸を見つめたまま、新爲(aa44い96hero002)が前に出る。
「……あぁ」
 赤い彼岸が抑揚の無い声で言いながら頷いた。
(彼岸……前に一度会ったか……あの後、新爲がえらく不機嫌だったな……本来あいつを戦わせたくはないんだが)
 コートの裾を口元まで上げながら黒鳶 颯佐(aa4496)は、前に立つ新爲に視線を向けた。
『絶対ニッタがやりますので!』
 視線に気が付いた新爲は、颯佐に背を向けたまま声を上げた。
「……そうか」
 何を言ってもダメだと知ってる颯佐は、諦めた様子で答えた。
「久しいな。屋島寺での戦い以来か。よもや礼を尽くして名乗った男を忘れた訳ではあるまい?」
 琥珀の様な金色の瞳で青い彼岸に視線を向け、日暮仙寿(aa4519)は静かに言った。
「……覚えてます。邪魔されて、とても、嫌いなエージェント」
 抑揚の無い声で青い彼岸は答えた。
『私はあけび。不知火あけび……花の名前を冠した少女に暴れられると困るんだよね。風評被害だよ……毒も幻も消してあげる』
 すっと、緋色の瞳を細めて不知火あけび(aa4519hero001)は戦う意思を見せる。
『はっはー、広域殲滅作戦なら俺にまかしときなー』
 と、吠える様に言うのは戦闘用アンドロイドであるR.A.Y(aa4136hero002)だ。
「うふふー、珍しくRAYちゃんが乗り気なのであります。このままいったれー」
 ビー玉の様に大きく青い瞳に闘志を宿しながら美空(aa4136)は、隣で元気よく声を上げた。

 眼下に広がる花畑に、花の名を冠する姉妹が佇んでいる姿をただ見つめていた。
 もしかしたら、共存出来るのではないか? と、儚い幻想を抱いていた花邑 咲(aa2346)は、それは甘い考えだと解っていた。
 だけど、何時かはと願い諦めきれなかった。
 そんな咲の心境に気が付いてるブラッドリー・クォーツ(aa2346hero001)は、嘆息すると彼女の想いと願いは届かないまま敵対してしまったのなら、倒すしかない。
 ブラッドリーは共鳴すると、金と深紅のオッドアイで向日葵を睨んだ。

●箱の従魔
『相手は防衛が目的弱点を攻めさせて頂きましょう』
 構築の魔女(aa0281hero001)が辺是 落児(aa0281)に視線を向けると、共鳴姿になった構築の魔女はカチューシャMRLを幻想蝶から取り出した。
「遅いよ?」
 向日葵がダンっと地面を蹴ると、花の間からパンドラの箱に似た植物が一斉に顔を出す。
『ポルードニツァ、草刈りなら貴女の得意分野ですね。頑張りましょう』
 凛道が前に出て、ポルードニツァの加護を受けた草刈り鎌『ポルードニツァ・シックル』で、従魔と花をざっくりと凪ぎ払う。
『おっと、お嬢さんの相手は俺様だ。余所見をしてくれるなよ』
 と、従魔の群れを駆け抜けて向日葵の前に出たのはガルーだ。
「君の勇敢は認めるよ。でも、無謀とも呼べる」
 向日葵がくるりと回ると、金色の花弁が視界を覆うほどに舞う。
 目眩ましか? と、ガルーは警戒するが……。
「“此処”はボクの“領域”だよ」
 金色の花弁は半透明になり、全ての従魔と彼岸達……そして向日葵自身の体を覆うように張り付いた。
『無尽蔵に作られるようであれば短期決戦を選ばないといけませんが……』
 向日葵の行動を見た構築の魔女は、カチューシャMRLを彼岸達に向ける。
「こんなもん育ててどうするつもりなんだか」
 赤熱の様に赤いブレイジングランスで従魔を貫いた征人は、植物がだらりと口から出す体液を怪訝そうな顔で見つめながら言った。
『数が多いわね』
 視界に嫌という程に入る従魔を見て、ミーシャは呟いた。
「だな。けど……前に比べりゃマシだ!」
 ブレイジングランスから従魔の死骸が砂の様に消えると、征人は引き付ける為にパンドラの箱に似た植物の群れの前に立つ。
「簡単な事なのです。攻撃の手数を増やせば、こんな従魔はあっという間に倒せるのです」
 美空がそう言うと、R.A.Yが嬉々としてカチューシャMRLをウェポンディプロイで増やす。
 その分、時間が掛かるのは致し方ない。
『……全て、凪ぎ払いなさい』
 凛道の周囲に武器が召喚され、彼の合図と共に雨の様に無差別攻撃が武器から放たれた。
 しかし、向日葵の力を甘く見てはいないが……予想外だった。
 戦いの場数を踏んでいる凛道にも感じられる程に。
『従魔を花の盾代わりにしてくれるならそれも御の字ですね』
 構築の魔女の背中に展開されたカチューシャMRLは、役目を果たしてパージすると地面に落ちる重たく鈍い音が響いた。
『まだ、別の手が』
 減らない従魔、彼岸と戦っている仲間が苦戦している姿が視界に入る。
 ふと、構築の魔女は向日葵が言っていた言葉を思い出した。

 “此処”はボクの“領域”だよ

『まさか……そんなハズはないでしょう』
 ドロップゾーンは向日葵のモノであれば、否そこまで力が強いハズはないだろうと思い構築の魔女は首を振った。
「前言撤回……数が前より無いけど、硬すぎないか!?」
 と、叫ぶ征人。
『デグリオ級よ? そこまで強い援護は出来ないよ』
 ミーシャが落ち着いた声色で答えた。
『ええ、ポルードニツァだとあっさり斬れますが……これは草刈り鎌なので、従魔が植物だからかもしれません』
 凛道はポルードニツァ・シックルで従魔を凪ぎ払う。
 後方からトリス・ファタ・モルガナが、ブルームフレアで従魔を焼き払ってくれていた。
『多磨ぁとったらぁ』
「とんだ弾違いなのであります、にんにん」
 やる気満々のR.A.Yと美空は歌いながら、せっせとカチューシャMRLをウェポンディプロイで増やしていた。
『足止めしている皆さんの為に、早く従魔を倒してしまいましょう』
 深く考えるのを止めた構築の魔女は、首を横に振ると『愚か者』の名を冠した2丁銃『Pride of fools』を手に取ると、銃口を従魔の方に向けた。
『同意よ』
「ちゃっちゃと片付けるしかないんだろう?」
 ミーシャが頷くと、征人はブレイジングランスをくるりと回した。
『そうですが、体液は相変わらず危険なので気を付けて下さい』
「ま、俺は愚神と戦っているヤツに使いたいしな」
 真面目に言う凛道に対し、征人が少し冷めた瞳で言葉を返した。
『うしっ! これで4回も撃てるぞ! 美空』
「これならいけるです。後は強化してどーんと撃つのです」
 R.A.Yの背中に1つのカチューシャMRLを翼の様に展開すると、美空は司令官の様に指示を出す。
 メタリックなパワードスーツ状のサイボーグが咆哮すると、カオティックソウルを発動して攻撃力を高めた。
「発射!」
『おらぁぁぁぁぁ!』
 美空の合図と共にR.A.Yは、カチューシャMRLを従魔達に向かって16連装の細身のロケットが轟音と共に次々と連続射出された。
「美空なんだかおはぎが食べたくなってきたのでありますよ」
 焼き払われる従魔を眺めながら、美空の胃から空腹を知らせる音が響いた。
『美空は食いしん坊だなぁ、しゃーねえから報酬で買えよ』
 直ぐに使用済みのがパージされると、R.A.Yは複製したカチューシャMRLを装着した。
『それは紛れもなく俺さぁ~♪』
 左腕を上げてポーズを取りながら歌うR.A.Y。
「きゃあ、RAYちゃんかっこいいのであります」
 ぱちぱちと拍手をしながら美空は、歓喜の声を上げた。
 パンドラの箱を模した植物を全て倒して終えると、息が出来なくなるほどの何かが起きた。

●彼岸よりも遠く、空よりも近く
 双子の花の名を冠する愚神は、ぴくりとも表情を変えずに見据える。
 彼岸は、互いを思うあまりに茎と花が一緒になったと話がある花。
 彼女達は手を繋ぐと、ふわりと黒い揚羽蝶が空に向かって舞い上がった。
(一人だけの火力が突出してもよい状況ではありませんが……そもそも大前提として、確実に倒せなければ意味がありません)
 自然とフロッティを握る手に力が入る由利菜。
「ラシル……結局、彼女達との対話は無駄だったのでしょうか……? それとも……」
 消え入りそうな声で由利菜は呟いた。
『……少なくとも、今回の愚神達にはもう無駄だ。そう、「今回の」はな……』
 と、花を統べる女王と会話した彼女の気持ちを考えたリーヴスラシルは、言葉を選んで静かに返した。
『行きましょう』
 メリッサが落ち着いた声色で拓海に言う。
「そうだね」
 ミョルニルを手に拓海は駆け出した。
 勿論、狙うのは青い彼岸に向かって。
『同士だなんて、ニッタは絶対認めませんからっ!』
 べーと舌を出しながら新爲が声を上げた。
『個人的に気に喰わないんです!』
 新爲は、赤い彼岸に向かって猛爪『オルトロス』 を降り下ろした。
(『時間を掛け過ぎるとまた蝶になって逃げるかも』)
 あけびは四国での戦いを思い出しながら、心の中で呟いた。
(「逃がしはしない。ここで必ず仕留める」)
 仙寿が素早く青い彼岸に接近すると、守護刀「小烏丸」を抜刀し横一閃に斬りつけた。

 青い彼岸の振り袖を、だがーー

 ぼとりと落ちた振り袖から、黒い揚羽蝶の群れが仙寿に向かって真っ直ぐに飛んできた。
「……っ! 薮蛇か」
 受け身を取る仙寿は、苦虫を噛んだような表情で低く呻き声を出す。
 ぐらつく視界、体の力が頭上から足先へ逃げていく様な感覚が襲うが、征人がクリアレイで異常を取り除く。
「振り袖は関係ない様だな」
 青い彼岸の周りから黒い揚羽蝶が出るのを見て、仙寿は呟くと直ぐに距離を縮めた。
 拓海の要請に従い来たものの、少し戸惑いを見せる圓 冥人は全てを真神 壱夜に任せた。
『君達だけでも、充分な気がするのですけど』
「うん、でも……不安だからね」
 壱夜の問いに、拓海は青い彼岸を睨んだまま答えた。
『そう……』
 と、呟くと壱夜は、狼の様に跳躍すると躊躇わずに青い彼岸に剣を斬りつけた。
「体が重い……こんな程度のにやられる? ……情け無い」
 ガクッと地面に膝を着けると拓海は、苦しそうに呻きながら項垂れる。
 しかし、青い彼岸は一瞥をくれるだけで興味無さそうに仙寿の方へ顔を向けた。

『だから、いい加減に弱って下さいっ!』
「向日葵の影響でしょうか?」
 新爲と由利菜が避ける隙の無い攻撃を赤い彼岸にするものの、息が上がっているのは二人の方だ。
「……うん、私達より、愚かな人間です」
 赤い彼岸が、黒い揚羽蝶達を新爲と由利菜に向かって飛ばす。
『その手は、1度見ているから無理です!』
 攻撃から素早く身を反らすと、新爲は猛爪『オルトロス』で切り裂く。
「今だ―」
 仙寿が繚乱を放つと、薔薇では無く羽が舞い上がる。
「ラシル……! ディバイン・キャリバーを!」
 由利菜が声を上げた。
「ミッドガルドの神の業、我が肉体で再現せん……!」
 リーヴスラシルが声を上げると、神経接合『EL』シリーズのAIがリミッターを外し【超過駆動】が発動する。
 絆を力とし、由利菜は白銀に煌めく美しい剣『フロッティ』で赤い彼岸を貫いた。
 拓海は【SW(斧)】アックスチャージャー に貯めたライヴスを、ミョルニルに纏わせると息も吐かせぬ連続攻撃で、青い彼岸を斬り刻む。
 あの時の黒い揚羽蝶ではなく、彼岸達は砂の様に粒子と化して消えた。
 立っていた場所には、青と赤の彼岸花が寄り添うように草の間で風に揺れていた。
『嫌な予感がします……』
 壱夜が向日葵の方に視線を向けた。

●太陽の花は一途な想いを向ける
「いらっしゃい。ボクは戦うのは苦手なんだけどね」
 愚神『向日葵』は無邪気な笑みで、ガルーとブラッドリーに視線を向ける。
『なら、こちらが有利だな』
 ガルーがデストロイヤーを振るうと、槍に組み込まれた炉のエネルギーが放出されて向日葵を巻き込むように、周囲が爆ぜると土と草が宙を舞う。
「野蛮だね。でも、嫌いじゃないよ」
 素早く傘を差すと、向日葵は楽しげに笑いながらクルクルと傘を回す。
(明確に敵対の意思を表したのなら、容赦はしない)
 一呼吸置いて、ブラッドリーは向日葵に視線を向けた。
『こんにちは、小さな向日葵のお嬢さん』
「こんにちは、白銀の君」
 ブラッドリーの挨拶に、向日葵が答えると小銃「S-01」の銃口を向けて素早くトリガーを引く。
 向日葵が反応するより早く、正確に撃たれた弾丸は肩を貫いた。
 会話での時間稼ぎは出来ない、とこれまでの経験から知ってるブラッドリーは、攻撃をして足止めするしかないと思った。
『相手は一人じゃないんだけどな』
 と、吠えるとガルーは、デストロイヤーを向日葵の四肢に向かって突く。
「あーあ、花が……綺麗なのになー……」
 と、向日葵がぼやくと。
『人の心配より自分の心配をするんだ、な!』
 わざと砂煙を上げるように戦うガルーは、デストロイヤーを何度も突く。
「もう、ボクの太陽は女王様だけなんだよ?」
 視界が悪く、一瞬だとはいえ陽光を遮る事に成功はしているが、向日葵自身はあまり気にしていない。
『っふ!』
 ブラッドリーは風魔の小太刀に持ち変えると、向日葵に素早く接近して体の一部を切り取ろうと試みる。
 しかし、向日葵を倒してしまえば消えるという事を思い出し、斬りつける手に少し躊躇いを感じた。
「ふふ、ボクはちょっと硬いよ?」
『しかし、月下美人という愚神よりは弱いんだろう? 勝機はそこにあるんだ』
 向日葵の笑みを見て、ガルーが頬をかする程度にデストロイヤーを突いた。
「どうだろうね?」
『試せば良いのです』
 向日葵が首を傾げると、ブラッドリーが彼女の手首を掴み肩を風魔の小太刀で断ち切ろうとする、が。
 硬い。
 完全では無いが、半分ほど刃が食い込んだものの切り落とせなかった。
「このっ……! 折角のワンピースが!」
 向日葵が笑みから冷やかな表情に変わると、傘でブラッドリーの腹部に当てて吹き飛ばした。
『それが本性、か』
「馬鹿じゃないの? 好きなモノを壊されたら嫌だよ?」
 と、破けた肩の部分を見て向日葵は、冷たい瞳でガルーに視線を向けた。
『征四郎!!!』
「いきます!」
 大剣『ツヴァイハンダー・アスガル』に持ち変えた征四郎は、【SW(大剣)】終一閃でチャージしたライヴスを解放しブラッドリーが付けた傷口に向かって直前貫通攻撃をすると、向日葵の細い腕が宙を舞った。
『悪いけど、もらいます』
 落ちてくる腕を掴むと、ブラッドリーは向日葵に向かって言った。
「そう……ちょっと、遅かったんじゃないかな?」
 向日葵がニコッと笑みを浮かべながら言った。

 遅かった?

 何が?
 
 疑問が頭の中で

 ぐるぐると回る

「彼岸は死んだ。そして、ボクは成るんだよ。これは、女王様が君達を信じてした……計画」
 と、向日葵が言うと、ブラッドリーとガルーの通信機から彼岸の討伐完了の知らせが入った。
「どいう事なのでしょうか?」
 征四郎が訝しげに言った。
『分からない。彼岸が倒される事が計画?』
 低く唸りながらガルーは、向日葵から視線を反らさない。
「さようなら……」
 向日葵が自身の首を落とすと、地面から別の頭を取り出すとソレを首に乗せた。
「そして、こんにちは」
 傘を放り投げると、地面から生えた盾を手にした。
『うそ……でしょ』
 構築の魔女は目を見開いた。
 向日葵だった愚神が、倒したハズの月下美人に変わったからだ。
「残念ながら、私は月下美人でも向日葵でも……カリステギアでもありません」
 白い愚神は、儚い笑みを向けると優しい声色で言った。
「では、誰なんだ?」
「夏君(なつのきみ)と、お呼び下さい」
 仙寿の問いに、夏君が微笑みながら答えた。
(『弱点はあるのでしょうか?』)
(「分からない……あんな事になるなんて、俺は初耳だよ」)
 構築の魔女が小声で問うと、冥人は少し戸惑いの表情を見せながら答えた。

●夏君
「未知数の敵ですか……」
『ユリナ、少しでも相手を知るために戦う!』
 由利菜がフロッティを手にしたまま呟くと、リーヴスラシルが声を上げた。
「……後は、任せたよ」
 と、冥人が構築の魔女に伝えると、誰よりも早く夏君の元へ駆け寄った。
「お兄様、おいたが酷すぎます」
 夏君が盾で地面にダンッと叩くと、足元から剣山の様にツルが生えた。
 それは、島全体に生えて10組のエージェントを襲う。
『おい……りんりん……大丈夫、か……?』
『ええ、何とか……』
 ガルーの問いに、凛道は息をあらげながらも答える。
『突然だったけど、回避はギリギリ出来て助かったね』
「本当に、だよ」
 メリッサは安堵のため息を吐くと、拓海は賢者の破片をガリッと噛み砕いた。
「連中の考えることなんざ禄でもないと思うが……」
 同じくどうにか回避した征人は、仲間の傷を癒しながら呟いた。
『あまり、無茶……しないでください』
 咲の意思を感じたブラッドリーは、アイアンメイデンの中に入れられるより酷い状態になる前に、冥人を助けていた。
「ごめん、これで少しは情報になったかな?」
『ええ、攻撃方法の1つでも出せた感じです』
 冥人の言葉に、構築の魔女は表情を1つも変えずに答えた。
「さようなら、お兄様」
 少し、悲しそうな表情を見せると、夏君がその場から消えると同時にドロプゾーンも消失した。

「花畑はどうするでありますか?」
『燃やしてしまいましょう!』
 美空の疑問に、新爲が答える。
「害がなければ残しておきたいくらいですね」
『確かに。素敵な花畑ですからね』
 咲が花畑を見つめながら呟くと、ブラッドリーが微笑みを向けながら頷いた。
 目にその光景を焼き付けた後に、ブラッドリーが火炎瓶を投げて燃やすがライヴスを保持している花は燃えなかった。
「これから夏だ、きっとすぐ咲くよ」
 凛道が花をポルードニツァ・シックルで刈り取ってると、リュカは少し湿ってきた風を感じながら言った。
「彼女達もまた、彼女達の示す強い思いがある」
 青く透き通った空を見上げた征四郎は、眩しそうに目を細める。
『それでも負けるわけにはいかねぇ、だろ』
 と、言ってガルーはくしゃりと征四郎の頭を撫でる。
『花の女王はオーパーツを好んで使っていた印象がありますよね』
 ライヴスゴーグルで花畑を見回しながら、構築の魔女は何か無いかと探る。
『燃やすことで異常が起きないかも見ておきましょう』
 花も焼く前に、大丈夫なのか? と、トリスのブルームフレア等で焼いて確認する。
「前々から黒い噂が絶えませんでしたが、やはり……」
 と、由利菜が呟いた。
『…そろそろ、アルター社へも直接乗り込みたいと思っていた頃だ。……覚悟…していろよ』
 征人がちゃっかふぁいあーくん1号で燃える花畑を見詰めながら、リーヴスラシルは決意を口にする。
「何だか思ったより静かだな?」
 仙寿はライヴス・コールドボックスに、向日葵の腕や採取した花を入れながら問う。
『これからどうなっていくのかなって思っちゃって』
 と、あけびが瞳を伏せたまま言う。
「……さあな。俺達は守りたいものを守るだけだ 」
 仙寿が肩を竦めると、ライヴス・コールドボックスを肩に掛けて立ち上がる。
『どうぞお先に帰りなさい。もうこっちに来ちゃダメですよ?』
 彼岸を倒した跡に新爲が、普通に咲いていた普通の花を墓標代わりに置くと、優しい声色で言った。
 茎と花よ、仲良く彼岸を見つめてください。
 けして、此方側に来ないで……
 新爲は、届かない声と知ってても二人で1輪の花に、心の中で優しく言った。

 そして、H.O.P.E.本部に提出された花は結果的にアルター社から販売されていたモノと同じライヴスが検出された。
 向日葵の腕からは、ほんの1ミリ程のオーパーツの破片が出てきたが向日葵の腕内部ではないと維持が不可能で、対処したものの詳しくは分からないままライヴス・コールドボックスに腕と共に仕舞われた。
 マデリーネ = ビョルリングによると、『さほど重要なオーパーツでは無いが、どうやって改良したのか検討がつかない』、と悔しそうに言ってた。

「おかえり、そして……誕生おめでとう」
 アルノルディイの視線の先には、夏君とそしてーー……

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
  • 孤高
    黒鳶 颯佐aa4496
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 難局を覆す者
    久兼 征人aa1690
    人間|25才|男性|回避
  • 癒すための手
    ミーシャaa1690hero001
    英雄|19才|女性|バト
  • 幽霊花の想いを託され
    花邑 咲aa2346
    人間|20才|女性|命中
  • 守るのは手の中の宝石
    ブラッドリー・クォーツaa2346hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 譲れぬ意志
    美空aa4136
    人間|10才|女性|防御
  • 悪の暗黒頭巾
    R.A.Yaa4136hero002
    英雄|18才|女性|カオ
  • 孤高
    黒鳶 颯佐aa4496
    人間|21才|男性|生命
  • 端境の護り手
    新爲aa4496hero002
    英雄|13才|女性|バト
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
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