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【相談卓】
最終発言2018/05/25 08:45:43 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/05/25 08:44:31
オープニング
●転換
愚神はふと顔を上げた。
悲鳴、破壊される音、ああそうか、始まったのだと思う。
「それならいめも、行かなければいけないのですよ」
椅子から立ち上がり、真っ赤なドレスを直して。
自身を閉じ込めるにはあまりにも脆い鉄格子を破壊して。
少女は――いめは廊下へと歩み出た。
「止まれ!」
そうして音を聞きつけてやってきたリンカーに、舌なめずりするかのように微笑みかける。
「ちょうどお腹が空いていたのですよ」
●敵
駆けつけた時、見慣れたはずの廊下は血で溢れかえっていた。
血溜まりの中に沈む人の陰が、1、2……胴体と手足が引き離されていなければ、恐らく5。
その彼らを踏みつけるようにして、返り血で身を染めた少女は立っていた。
ケントゥリオ級――『善性』愚神、いめ。
「ふふ、こんにちわ、なのです」
にっこりと笑むその表情は以前も今も変わりない。
彼女もまた、操られているわけでも、洗脳されているわけでもない。
今まで通り彼女はただ、愚神であるだけ。
「いめはここからお暇するですよ」
優雅に一礼して立ち去ろうとする少女を護るように、血溜まりに沈んでいた者達が動き出す。
その目は虚ろ。
立ち上がり、構えた武器を向ける相手は愚神ではなく……目の前にいる、駆けつけた味方。
「いめを追うのは自由ですけれど……放っておいたら愚神になってしまうかもですよ?」
邪英化させたのだと誰もが理解した瞬間、構えられた剣は振り下ろされた。
●ゆめ
幸せな夢を見ていた。
楽しくて、笑っていて、温かくて、暖かくて、安らいで。
でもそこに、貴方だけがいなかった。
何も変わっていない。この世界は不条理だ。
だから、それ故に。どれだけ無意味でも、決めたのだ。
私は必ず復讐する。
他の誰が許しても私だけは絶対に許さない。
彼を、名執蓮を、殺した報いを受けさせてやると。
ただ一つ、それだけを、誓ったのだ。
解説
●目的
邪英化リンカーの捕縛・救助
●登場
・ケントゥリオ級愚神『いめ』
白髪に赤眼、外見年齢は7歳ほど。真っ赤なドレスを着た少女の外見をしている
≪積み重なった記憶≫
パッシブ。
対象がリンカーの場合のみ効果を発動
対象がクラスに応じた攻撃を仕掛けてくる際、自身の回避能力に大幅な修正を加える
(例:ブレイブナイトによる剣を使用した物理攻撃、ソフィスビショップによる魔法攻撃)
※他にも攻撃スキルがいくつか存在するが、彼女は今回逃げに徹する
・邪英リンカー5人
それぞれ『ブレイブナイト』『ソフィスビショップ』『シャドウルーカー』『ドレッドノート』『バトルメディック』
邪英化している為かある程度の連携を取るが、仲間意識は無い
自身が危険と分かれば容赦なく盾にし、必要ならばライヴスを喰らう
他者のライヴスを喰らいつくした場合、喰らったリンカーは愚神となる
●場所
H.O.P.E.内廊下
血溜まりのため足元は悪い
●状況
・初期配置
← ブ シ →
廊 ソ いめ 廊
下 バ ド 下
【A】 【B】
各リンカーはいめを護るように移動
いめは逃走優先で移動する
リプレイ
●数刻前
いめが逃亡した。
知らせを受けたエージェント達は、いめが目撃されたという場所へと向かっていた。
「結局、愚神は愚神ってことだったな」
バルタサール・デル・レイ(aa4199)が言うのを聞きながら、紫苑(aa4199hero001)は自身の口元に指を当てる。
『人間を殺すってところは共通しているけど、理由は快楽だったり、本能だったり、色々とあるみたいだけど……』
知性もありそうだし、含みのある言動も多い。ならば、彼女にとっての理由はなんだろうか?
紫苑の言葉をバルタサールはいつものように「さてね、興味はないな」と切り捨てるが、愉しそうな彼の言葉は止まらない。
『僕は興味あるよ、君は相変わらず他人に興味を持たないんだね』
「敵のことを知ったところで、何にもならないだろう」
所詮は殺す対象だ。凍てついたままの心は動かないが、つれない能力者に英雄は。
『その方が、愉しいじゃない』
どこまでも笑顔の紫苑に、会話は終わりだとばかりに溜息を吐いて共鳴をする。
フラッシュバンの合図だけはしっかりと味方に伝えて。
――平穏な日常とは程遠い血溜まりへ辿り着く。
●開始
刃と刃がぶつかり合う音。液体を跳ね上げる音に滴り落ちる音。
普段エージェントが行き交うH.O.P.E.の廊下とは思えぬほど汚れたその場所。
『これ、いめが? あの方向はヴァルヴァラのいる部屋よね』
惨状に絶句するGーYA(aa2289)の代わりに、まほらま(aa2289hero001)はいめへと問いかける。
合流するつもりなのか、それとも。
「いめは帰るだけなのですよ」
だから邪魔をするなと言わんばかりに再び振り下ろされるブレイブナイトの剣を、シロガネ(aa1195hero002)と共鳴した百目木 亮(aa1195)の飛盾が受け止めた。
「茶会の次は死闘……の前に、いめ」
散る火花と共に押し返し、愚神を見据え。
「喰ったライヴスの味は飴玉よりも美味かったか?」
返答は、微笑のみ。答えるつもりは無いという意思。
「……そうかい」
苦笑にも似た表情を浮かべ、バトルメディックの槍を盾で受け流す百目木の背後から小さな影が躍り出た。
菜葱(aa5545hero001)と共鳴し、頭に木の葉を乗せた畳 木枯丸(aa5545)。体躯の倍はあろうかという白夜丸を抜き放ち、視界に収めたいめ目掛けて多数の刀を召喚する。
「いいね~狭い空間はボクね~、強いよ~」
いめを狙えば周囲の邪英リンカーが盾になるだろう。故に、いめを倒すつもりはなくとも標的はいめただ一人。
おっとりとした口調とは裏腹に、思考は理性的で論理的だ。
それもこれも全て、刀を携えたシャドウルーカーと戦う為。
「じゃあ斬り合おうか~」
いめの横を通り過ぎ、畳は白夜丸を振りかぶる。
乱戦。
逃げ場を潰すべく、廊下の反対側から駆けつけた藤岡 桜(aa4608)もミルノ(aa4608hero001)と共鳴し、漆黒の大鎌をドレッドノートへ向ける。
後衛を位置取るアリス(aa1651)もAlice(aa1651hero001)と共鳴し、邪英化したリンカー達の動きを冷静に観察する。
いめを護るような動き、その割には個々がただ適当に戦っているようで連携というにはあまりにお粗末だ。
(まぁなんにせよ)
狙うのは回復やカバーリングを担う事の多いバトルメディックとブレイブナイト。
同じく後衛に位置するバルタサールの合図を受け、瞬きよりも長く目を閉じれば――眩んだ『獲物』は射程内だ。
慌てたバトルメディックが結界を張ろうとするがそれよりも速く、鮮やかな紅の蝶が視界を遮り、体に纏わりついては邪英リンカーの力を奪っていく。
ちらりと見た愚神はやはり涼しい顔で立っているが、想定内だと飲み込んでアリスは次の攻撃へと備える。
フラッシュバンの間にバルタサールもトリオで前衛三人の脚を狙い、見事に膝を撃ち抜いたが……内心、面倒だと溜息が漏れた。
殺害であれば頭を狙えただろうに。
「わぁ~やられたぁ~」
攻撃をしっかりと躱していながらもわざと当たったように見せ、両手を上げて隙を見せる畳。相手が邪英だろうが愚神だろうが、狙ってくる場所が分かっているのなら避ける事も、迎え撃つ事も容易い。
「なぁんちゃって~」
天井へ向けた掌はそのままに大量の武器を召喚して、振り下ろす。
味方さえも巻き込みかねない攻撃だが、畳はただひたすらこの状況を楽しんでいた。剣客と刃を交える、この瞬間を。
『坊、剣客と闘えて幸せそうじゃのう』
内の菜葱に楽しいと答え、まだ立ち上がる相手に爛々と輝く目で刀を走らせる。
畳への回復を念頭に置きつつも、武器を大鎌から刀へ持ち換えた藤岡はいめへと接敵していた。
余裕が無ければ諦めようと思っていた問いを。
あの『茶会』でいめが言った事。そしてこの現状。ならば『今』のいめがしたい事は何なのか。それは敵対しなければ出来ない事なのか。愚神の冷ややかな視線を受けながら、彼女は必死に言葉を紡ぐ。
「……どうしても……敵対するしか……ないの……?」
愚神も英雄も人も笑いあえる世界。
藤岡の根幹であり、目指す世界の為に彼女はずっと、善性愚神を信用しようと関わってきた。
だが結果はどうだ。やはり、無理なのか。
「……打算なんか……なく……分かり合うのは……ともに歩むのは……できないの……?」
いめが逃走していると知り、問いかける為に彼女はここにやってきた。一縷の望みをかけていた。
以前怒られた事もある行動を、『自身の身体を明け渡しての契約』も、彼女は諦めていなかった。
夢が叶うならと。
しかし愚神は、嗤うのだ。
「滑稽なのですよ。狼と羊が手を取り合えると思っているのです?」
我々は喰う側だと、お前たちは喰われる側だと、嗤う。
「餌は餌らしく、大人しく喰われればいいのです。活きが良すぎても料理が面倒なのですよ」
どうしようも無かった。愚神は取り繕う事もせず、小さな少女に現実を突きつける。
目の前の生物は、敵なのだと。
「……なら……私は……守るために……戦う……」
刀を構え直し、いめに切りかかる藤岡の刃を邪英が受け止め、反対方向へと突き飛ばす。藤岡も咄嗟に受け身を取り、すぐに体勢を整えて使い慣れた大鎌に転換。再度斬り合いながら、見極める。
何をするにしても、目の前の邪英をどうにかしなければ。
邪英の炎が、焼いていく。
強制的に共鳴し、童話「ワンダーランド」を手に戦うジーヤは目を細めた。
視線の先は、愚神。
「いめも邪英化されて愚神になってしまったんだよな、全部食べたってのは能力者の事だろ?」
後悔しているように見えた。交わした言葉は多くなくても、人間らしい思いも見えた。
だから、惹かれて、知りたかった。愚神の事を何も知らないから、英雄が何であるかも分からないから。
だから、接触してきた愚神に興味を持って。
けれどいめは、愚神は、リンカーを邪英化させた。
何故、どうして。
冷静に思考しているようでいて、静かに怒りを秘めて武器を振るうジーヤを内のまほろまはただ見守る。
全て彼の意思のままに。
自分の目で見る事も、何かを感じて行動する自由も、彼は手に入れたのだから。
行動の結果が、己の死だとしても。
『ケントゥリオ級、リンカーのライヴスを喰べて進化したようね、それも計算だったのかしらぁ?』
銀の魔弾を寸での所で回避しつつ、ソフィスビショップへ接敵して一気呵成のボディブローを叩き込む。足元の滑りやバルタサールの追撃も受けて邪英は血の海に背を付け、ジーヤの一撃を浴びてとうとう動かなくなった。
幻想蝶へと英雄を保護し、能力者は少しでも戦いの場から遠ざける。
それから、次に。未だ能力に不明点の多い愚神へ。
「いっぱい喰べたのですよ。従魔も、そこのリンカーも」
H.O.P.E.に来た時から彼女は既にケントゥリオ級として認知されていたようだ。ならば推定が間違っていたか、捕らえられた時の戦闘でか。
どちらにせよ、少しでも能力を暴いておかなければ。
冷静になれと自分に言い聞かせ、接近して攻撃を誘うがいめは微笑むだけで何の攻撃もしてこない。
ならばと仕掛けるジーヤの武器は得意とする大剣でも斧でも無い。
しかし、攻撃は掌に受け止められた。
「ふふ、考えたのです?」
さすがに躱しきれないのですよと余裕を見せる愚神にジーヤは体重を乗せて攻撃を押し込もうとするが、音に気付いて咄嗟に身を引く。
飛びのくように距離を取れば、今までジーヤが立っていた場所にはドレッドノートの大剣が突き立っていた。
相手をしていた藤岡の攻撃を受けようと無視し、いめを護りに来たのだろう。背中の部分は破け、血がどろりと流れている。
それでもリンカーは倒れない。痛みに苦痛の声を上げもしない。
連携の取れない邪英リンカーであろうと、愚神の命令は絶対。倒れ伏すその時まで、彼らは忠実な下僕と成り果てる。
「じゃじゃ~ん『悪滅』ぅ~」
ただただ切り合う畳は次なる攻撃として武器を持ち換える。銘を呼ばれた煌く刃はどろりと溶け、血だまりから産みだされるのは多量の刀。
持ち得るライヴスと引き換えに自身の能力の限界を破る、マテリアルシナスタジア。
『ほー? 今夜は大判振る舞いじゃな』
「もちろんだよぉ~こんなに闘うのは久々だよぉ~」
笑う獣の身体も無傷ではない。擦り切れた服から覗く肌は傷だらけで血も流れている。しかし眼光は少しも錆びていない。
「いっくよぉ~」
悪い足場は良くしてしまえばいい。足場が無いのなら、そこに作ってしまえばいい。
一つ二つと刀を床に突き刺して、その上を軽業のように渡っていく。畳の思うままに出来上がる足場の先には楽しい楽しい切り合う相手。
いつでも来いと言わんばかりの相手の構えに、にぃっと笑って。
畳は飛びつくようにして相手の前へ、白夜丸を振り上げて、振り下ろす。止めようとした邪英の刀に、自身の体重全てを乗せて。パキンと小気味よく響く何かが折れる音。驚愕に見開かれる目。ああ楽しかったと畳が思う頃には、シャドウルーカーは折れた刀の柄を握り締めて気を失っていた。
「行くの?」
アリスの声が聞こえたのか、愚神が振り向く。何も答えない、それが雄弁な答え。
『ふぅん、そうなんだ』
言葉以上のものはなく、それ以下でもない。
元が何であろうとどうでもいい。
強いて言えるものがあるのなら……邪英がいなくなった時にでも。
挟み撃ちのようなこの状態からそうすぐに逃げ出せるとも思えない、窓はあるけれど悠々と逃げられもしないだろう。
どうやって逃げるのか、方法が新しい能力ならまずは観察を。
アリスは残る前衛の足元をブルームフレアで焼き払いながら、目標をこちらへ定めたブレイブナイトの剣先を追う。
避けきれるか。否、相手の踏み込みの方が僅かに早い。
ならば多少の痛みを耐えてでもと魔導書を開き、指を滑らせるアリスの正面に割り込む影がある。
白と黒の勾玉。百目木が向けた浮遊する盾、陰陽玉。
それがガキンと音を鳴らして邪英の攻撃を防ぎ、持ち主もすぐに追いついて反撃を試みる。
弾き、受け止め、流し。幾度も振り下ろされる剣をそのたびに抑えるがふと気配を感じて、百目木は敢えて攻撃を受けた反動のまま横へと飛んだ。すかさず受け身を取り邪英を見れば、思った通り視線はこちらに。
真紅の少女が邪英へと目標を定めていることも知らないまま。
――ほんの瞬き。
吹き荒れるのは不浄の風。ゴーストウィンドはブレイブナイトを囲み、風が治まる頃には全てが終わっていた。
気を失い、共鳴の解けた英雄を幻想蝶へ押し込んで、次の敵へ。
計六発。邪英化したバトルメディックの脚にバルタサールが撃ち込んだ弾丸は、確実に相手の機動性を奪っていた。
まだ愚神を護ろうと盾を構えているものの、ふらふらした両足では立っているのがやっとだろう。血溜まりにいたままでは足元も覚束ないだろうに、そこから動こうとしないのがいい証拠だ。
攻撃することはおろか、アリスの攻撃でぼろぼろになった防具では護り切れるのかも怪しい。
ジーヤの攻撃を受けながらもまだ倒れない辺りさすがの生命力だろうが、ジャングルランナーで移動しながら攻撃し続けるジーヤにはついていけない。
そして、一方だけしか見えない木偶の坊などスナイパーにとっては恰好の的だ。しかもこの距離、目を瞑っていようと外す事は無い。
引鉄に指を掛け、気付いたジーヤが邪英に接近して足止めをした一息の間。
立て続けに響いた音は二つ。響かせたのはバルタサールが構えたセミオート狙撃銃「ドラグノフ・アゾフ」。命中したのは邪英バトルメディックの何発も弾を受けた膝頭。いくら鎧を着こもうが頭を護ろうが、土台が崩れれば意味も無い。ついに膝をついた邪英はまだ盾を掴もうとするが、そこへ追加の銃弾が浴びせられ、とうとう共鳴を解いて動かなくなった。
残されたドレッドノートも他の邪英を片付けたエージェント達による攻撃を受け、共鳴を解いて倒れ伏した。
あとは愚神、いめのみ。
「ふふ、さすがに強いのですよ」
護る者がいなくなったにも関わらず楽しそうないめに、紫苑が。
『ねえねえ、今どんな気持ち? 騙して裏切って、楽しい~って感じ? 人間ってバカだなって思い?』
わざわざここへ、愚神からしてみれば敵の本拠地へ捕まりにきたのだ。無理矢理の共闘を結んでいたとはいえ、危険であることには変わりない。
ならば行動を後押しした動機は?恨み?怒り?それとも。
「ええ、とても、楽しいのですよ。わくわくするのです。やっと、この手で殺せる」
独白のような声は、H.O.P.E.全てへ向けたものではないように感じた。誰か、特定の人物への憎しみ。
「……この世界を混乱させるのが善性愚神の目的なら大成功だ」
百目木が呟いたように、世界は今混乱の真っただ中にある。愚神との共闘戦線。民意の動き。
しかし先程のいめの発言からは、そんなことを考えているとは感じられない。
だから百目木は、踏み込む。
「嬢ちゃん。あんたの能力者のことは好きか?」
「……」
視線がぶつかる。それを語るなと言いたげな愚神を今度は百目木が無視した。
「世界を護ってくれと言われても、飲み込めるかどうかはまた別の話だと思っていてな」
どの世界でも、理不尽なことだらけで納得できないやつもいるからな、と。
続けて言えば愚神からの殺気は確かなものとなった。今までいめから向けられたことの無い、殺気。
「ええ、ええ。大好きだった。大切だったのですよ。それを、そいつらが奪っていった……!」
いめの瞳は百目木ではなく、更に奥へと向けられる。
後方にいたアリスよりも後ろに転がされているリンカー達。彼らを指し示した声に乗るのは、アリスもよく知っている復讐心だ。
世界を護ってほしいと願われた元英雄。それが今は復讐を願っている。
(……まぁ、そんなことはどうだっていい)
いめが何を考えているのか、知っているわけでもない。
勝手に推測されて分かった振りをされるのも腹立たしいだろうし、同じ立場ならアリスもそうだ。
それにもし、いめの考えを知った所でアリスは止めもしないのだろう。
彼女達もまた、復讐者である。復讐の先に待つのが無でも破滅でも必ず遂げると、そう誓った。
だから止める事は無い。ただ、まぁ。強いて上げるのなら。
「名執芙蓉」
戦闘の終わった廊下に、その名前はよく響いた。
「もし彼が貴女の前に立ち塞がった時……彼らと同じ様にするの?」
ちらりとリンカーを見るアリス。
邪魔をするのなら今回のように邪英化させるのか、否か。
愚神は先程までの殺気を無くし、毒気が抜かれたように微笑んだ。
「いいえ。そんなこと、出来ないのですよ。私のたった一人の能力者の、大切な弟に。出来るわけがないのです」
「……ふぅん」
言いたいことは言ったとばかりにアリスは口を閉じる。
「最後に一つだけ!」
今まで黙って話を聞いていた。思う所はある。考えていることも、聞きたいことも。
しかしどうしても、これだけはとジーヤが声を上げる。
「『あなたも』って俺の何を見てその言葉が出たんだ!?」
いめと初めて出会った時。『あなたも、奪われているのです?』と少女は言った。
ずっと知りたかった、答え。
「『世界』を奪われたのだろうと、思ったですよ。ジーヤ」
ジーヤがリンカーとなった時の記憶をいめは知っている。見ている。目の前で人が死に、良くも悪くも別のものへと変化した。一般人からリンカーへ。英雄から愚神へ。
だからあの時、ああ言ったのだと愚神は答えた。
再度口を開こうとするジーヤを制止するように遠くで爆音が鳴る。
『お別れする前に、最後に言いたいことは?』
音の間に滑り込ませた紫苑の声で、立ち去ろうとしていたいめはその場に留まった。
無防備に背を向けた状態から振り返り、微笑。
「いめはもっと強くなるですよ。人も従魔もリンカーも喰べて、私の能力者を奪ったやつらに復讐するです」
無邪気に嗤う愚神へ。
「それなら全力でやりな」
守護者の意地と誇りをもって、百目木は応える。
「代わりに何度でも受け止める。俺が折れるかそっちが折れるか、賭けといこうか」
「楽しみにしているですよ、百目木亮」
愚神を阻む者は無く、追うにも気を失ったリンカーを放っておけず、何より英雄を休めるには愚神など異世界の影響から離した方がいい。
故に。
『次はどんな趣向を凝らしたシチュエーションで再会できるか期待しておくよ』
「え~? いめ君帰るの~? ばいば~い」
二人の言葉を最後に聞いて、いめはその場から姿を消した。
●後
いめが消えた後、藤岡は畳の傷をケアレイで癒し、畳は回復されながらも刀の手入れをしていた。特に元に戻った悪滅の手入れは念入りに。丹精込めて手を入れれば入れるほど、応えてくれるものだから。
共鳴を解いたバルタサールは楽し気な紫苑に絡まれつつも鬱陶し気に追い払う。畳の治癒を終えた藤岡はまだ使用できるケアレイを、百目木も持ち込んだ賢者の欠片で倒れたリンカー達の治癒を試みるが……回復の兆しは見えなかった。
そうして遠くの爆音が治まり、やってきた職員達に何が起こったのかとアリスが問いかけると職員は重々しく事態を伝えた。
ヴァルヴァラの撃破。彼女が遺した呪詛のような言葉。
職員はリンカー達を医務室へ運ぶと言い、状態を確認して数日は話せないだろうと首を振った。
英雄の邪英化、引きずられた戦闘行為とそれを治める為の攻撃を受けた事による体力の消耗。
命があっただけでも救いで、何か聞きたい事があるのなら。
「意識が回復したらすぐにお知らせ致しますね」
●彼らの知り得る事実
そして後日。
目を覚ましたリンカー達は御礼と共にその時の事を語った。
いめとの戦闘。いめの持つ特性により当たらず、返されるのは彼らがよく知る攻撃。
他にも幾つか分かった事と――それから。
元はジャックポットだったのだと、彼らは口を揃えて言った。
「俺達五人は昔同じ部隊に所属していて」
いめが仕向けたのかは分からない。だが彼女の狙いは確かに彼らだった。
「あの愚神は――名執蓮という少年の英雄だったんです」
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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