本部

サメがツらナる浜辺の防衛

一 一

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/04/30 19:49

掲示板

オープニング

●海より迫る鋭利な背びれは……
 フランス南部、プロヴァンス地方。
 朝方のシス=フール=レ=プラージュから1艘の小型船が地中海へ出た。
「この時期だとまだ海は冷たいだろうに、あんたら物好きだね?」
「はは、急にダイビングに行きたくなるくらいには物好きかな?」
 沖へと進む船内では、船の操縦者と数名の若者が話をしていた。
 季節は4月、まだ地中海の水温は冷たくダイビングにはやや不向きだ。が、若者たちは寒い時期のダイビング経験があるのか笑いながら準備をしている。
「まあいいけどよ、今日は風が強いから気をつけなよ?」
「わかってるって……何だ、あれ?」
 普段と比べて高めの波を見て注意する操縦者に軽い返事をした若者だったが、ふと目を凝らしだす。
「海面に……背びれ?」
「おいおい、サメかよ。結構いるぞ?」
 全員がそちらへ注視すると、遠くからでも分かるほど大きな背びれのシルエットが波間から覗いていた。それも1つや2つではなく、群れをなして泳いでいるように見える。
「しょうがねぇ、迂回するか?」
「う~ん、そうしてもらうかな――」
「お、おい! あれ!!」
 操縦者の提案に1人が返事をしたところ、別の若者が声を張り上げた。

 ――ざっぱ~ん!

『はぁ!?』
 彼らが見たのは、朝日を反射する金属のようなひれが目立つ巨大なマグロが、あり得ない高さまで飛び上がった姿だった。
「滞空時間おかしくなかったか!?」
「それに、あんなサーベルみたいなひれを持つ魚なんていないって!」
「ってか、あのひれ全部マグロ!?」
 驚愕する若者たちを置き去りに、その後も海上を飛び跳ねる物騒なマグロたち。
 思わず写真を撮った者もいたが、あまりに現実離れした光景は彼らの不安も煽(あお)る。
「きっと従魔だ! 逃げるぞ! 誰か、H.O.P.E.に通報してくれ!」
 迅速な判断を下した操縦者が叫び、船体が大きく旋回してどんどん海岸へ引き返していく。
「通報って、どう言えばいいんだよ!?」
「見たままを言えばいい! 明らかにおかしい状況なんだから、それで伝わるはずだ!」
 混乱する若者に活を入れる操縦者の言葉に従って、若者はあわてて電話を耳に当てた。
「あ! もしもし!? 実は――」

●美味しいマグロが食べたいかーっ!?
「南フランスの地中海沖で、サメのようなマグロがトビウオのようにイルカショーをしていたそうです」
 何それ楽しそう。
 碓氷 静香(az0081)の説明で初っぱなから生物の名前が4つも出てきたが、倒す敵はマグロらしい。
「目撃されたのは現地時間の朝、ダイビングのため船での移動中に遭遇したそうです。これがその時撮影された、従魔と思われる生物の写真です」
 プロジェクターがデカデカと映し出したのは、各ひれが鋭利な刃物のように異常発達したマグロ。
 朝日を照り返す水しぶきを上げながら、絶妙な角度で体をくねらせる様はまるで魚市のポスターだ。
 美味しそう。
「通報者はすぐさま海岸へと転身しましたが、後を追うように従魔も同方向へ移動したようです。徐々に浜辺へ近づいていると、偵察中の地元エージェントから報告を受けています」
 スライドショーが次々と新鮮なマグロの画像を映し出しているが、何故か全部写真映えがいい。
 よく見ればマグロが毎回カメラ目線をしていることに気づくだろう。
 サービス精神も旺盛なようだ。
「跳躍力と滞空時間から、おそらく従魔は飛行能力を備えていると思われ、町へ近づかれれば大きな被害が出る危険があります」
 真顔で説明する静香は、数名のエージェントが片手で腹を押さえたことに気づかない。
「皆さんにはこれから現地へ移動し、従魔を討伐してもらいます。マグロ型の推定移動速度を懸念し、海岸から一定の距離に最終防衛ラインを設けましたので、それ以上は近づかせないでください。海岸線には地元エージェントも防衛に控えていますが、強引に突破される可能性が高いため早急に討伐してください」
 最後に映ったマグロがフレームに側面全体を収め、『黒いダイヤ』の別名を自ら証明していた。
 昼食にはまだ早いが、ここまで食欲を刺激される映像を見れば腹も空く。
 ああ、新鮮なマグロボディがまぶしい。
「なお、周辺海域の警戒に多くの船を利用しているため、皆さんに貸し出しできるのは小型船が2艘までです。申し訳ありませんが、そちらで対応をお願いします。……あ。それと、討伐した従魔の処遇はお任せします。形が残るようであれば、そのまま食べていただいても構いませんが――」
 ガタッ!!(椅子から立ち上がる音)
 バタンッ!!(扉が開かれる音)
「――食中(あた)りなどは自己責任でお願いします」
『静香、もうみんないなくなってるって』
 誰もいなくなった後も説明を続けた静香の耳に、呆れたレティ(az0081hero001)の声が届く。
『私は普段ご飯を食べないからわかんないけど、マグロってそんなにいいの?』
「…………」
『……静香?』
 エージェントの反応に首を傾げていたレティだが、無言で片づけをする静香にも疑問を抱く。
「……いえ」
 無表情のまま、無感動な声で、静香はぽつりと不安をこぼした。
「思い過ごしであれば、いいのですが……」

解説

●目標
 従魔の討伐・侵攻阻止

●登場
 トンルカン×10…デクリオ級従魔。背びれ・胸びれ・尾びれが刃のように巨大・硬質化した、全長約6m(=3sq)ほどの地中海産クロマグロ。海面近くで泳ぐ時に突き出す背びれはサメのように見える。体内を循環するライヴスにより旬を過ぎても脂が乗り、ついでに飛行可能。なおBSなどで肉質が落ち、フカヒレはとれない。

 能力…物攻↑↑、回避・移動↑、防御↓、特殊抵抗↓↓

 スキル
・ポナルディ…射程1~2、範囲物理、命中-20、物攻+30、各ヒレの刃で周囲を切り裂く移動攻撃、対抗判定(命中vs回避)勝利→BS減退(1)付与
・トルピーユ…射程1~10、直線単体物理、物攻+50、全力捨て身の突進攻撃、命中→被ダメージ1D10+特殊BS肉質低下小(解除不可)
・イーヴェル…単体魔法、物攻+50%、旨みを犠牲に次の攻撃力UP、1D6=奇数→BS劣化(防御-20/∞)被付与+特殊BS肉質低下大(解除不可)

●場所
 フランス南部プロヴァンス地方のコミューン・シス=フール=レ=プラージュ
 自然豊かな地域で、沿岸部ではダイビングなどウォータースポーツが盛ん
 気温・水温が上がり始めた頃のため、観光シーズンにはまだ早い時期
 天気は曇り、風は強めで海の波が大きく水温は冷たい

●状況
 朝方、ダイビング目的の若者たちが船で沖合に出たところ従魔と遭遇
 異様な形態と暴れ方の魚を見てH.O.P.E.など各種機関に通報
 船の帰還後、従魔も海岸へと近づいてきたため警察が周辺一帯の立ち入りを禁止
 地元エージェントは周辺海域の哨戒探索や海岸防衛を担当

 PC到着は昼前
 海岸からまだ遠く、かろうじて海上を跳ねる姿が見える
 モーターボートの貸し出しは2艘まで可能(冷凍設備なし)
 倒した従魔は幻想蝶に収納可能
 海岸から10sqまで接近→PCを無視し、人の多い場所へ全力で突っ込む

リプレイ

●ナルシスト風マグロを見たコメント
「今度の敵は空飛ぶマグロみたいだね。どうする百薬?」
「ちゃんと捕獲できたらきっと美味しいよ」
「うん、今ならいい鮮度で捕獲できそうだし、期待できるかな。早期の通報に感謝だね」
 空と海の中間で鱗を光らせるマグロを眺めた餅 望月(aa0843)に、親指を突き立てた百薬(aa0843hero001)は目をキラン☆と光らせた。両者、がっつり食う模様。
「流石は高級魚、皆のやる気がまるで違う」
「マグロが……十匹ですか。私達だけでは食べきれませんね」
 スクリーンに従魔が映る度に上昇する望月たちを横目に見た御神 恭也(aa0127)の隣では、不破 雫(aa0127hero002)が食材を吟味する目で数を数えていた。
「……欧州の従魔は海産物に取り付くのが流行っているのでしょうか?」
「ロ……?」
 ただ、先日スペインでクラゲ従魔を駆除したばかりの構築の魔女(aa0281hero001)は謎の海洋生物フィーバーに大きく首を傾げ、辺是 落児(aa0281)もわずかに疑問の声を上げる。
「正確には知能ではなかったはずですが、これは理解した上での目線なのでしょうか……?」
 ついでに、構築の魔女は明らかに狙ってる写真の数々にも頭を悩ませた。奇妙な習性もあったものである。
「妙にカメラ目線で飛び跳ねてるけど、敵でなければ水族館にでも置いておきたい相手にゃね……」
 同じ疑問を抱いた猫柳 千佳(aa3177hero001)も、多芸なマグロに感心と呆れをため息に込める。『イルカショー』という通報にも納得だ。
「海岸に辿り着かれる前に迎撃しなきゃね。ALブーツを準備して、っと」
「うーんしかし、今回は珍妙な敵だね。マグロかい? トビウオかい?」
 その横で、水中戦を避けようとセレン・シュナイド(aa1012)が装備を確かめ、AT(aa1012hero001)は通報もあって憑依(よりしろ)の種類を判別しかねている。巨大化した魚類の見た目は大差ない。
「どこか気が抜けるが、一般の人には脅威だ。迅速に排除して――いや、おろそうか」
「まさか、解体するの?」
「食べれるかもしれないのだろう? なら、私も調理できるのか興味がある」
 結局、魚類には違いないと納得したATはおろし方に思考を切り替える。彼女の趣味が料理と知るセレンだが、サイズがサイズだけに少し困惑していた。

●サメっぽいマグロの舞い踊り
 早速向かった現地は、あいにくの曇り空だった。
「――ぬぅ、食材を獲らねばならぬ食べ放題とは聞いておらぬのじゃ……」
「まあまあ、倒せばたくさん食べられるし頑張って倒すにゃ♪」
 説明時は不在で『マグロ食べ放題』とだけ聞いていた音無 桜狐(aa3177)のテンションは一気に落ち、連れ出した側の千佳は楽しそうにパチン☆とウインク。
「食料確保、よろしくなのじゃ……」
「あ、やっぱり倒すのは僕にゃね」
 で、騙された仕返しかジト目の桜狐に丸投げを食らった千佳、ずっこけながら苦笑い。
「それと、海ってだけで水着は少し早まった気がするのにゃ……温度的に」
「ついでで着させられたわしの身にもなってほしいのじゃ……」
 なお、白ビキニな千佳と褌(ふんどし)&サラシな桜狐は曇天の風を素肌で受け止め、同時に己を抱きしめ身震いした。千佳はノリで、桜狐は水着必須と騙された形である。ドンマイ!
「ちょっぴり肌寒い? でも桜狐さんと千佳さんは水着なんだね――ATも」
「ちょっと早いが、夏の予行練習ってことで試着も兼ねてるのだよ。ちなみに、他の候補はツイストスリングだ」
 露出度高めの少女2人に気後れするセレンの隣、同じくビキニ姿で肌を出すATが幻想蝶からこれまた刺激的な水着を出して見せる。
「居心地と目のやり場に困る僕は変じゃないよね……?」
「安心したまえ。マグロ狩りは真面目にやるからさ」
 傍目からはバカンス気分全開のため、視線も心も落ち着かないセレンに対するATの返答はフォローになっていなかった。
「全く……寒いのは嫌いなんだよ、私は」
「早く終わらせて帰ろう、アリス」
 モーターボートに吹き抜ける潮風が体感温度を下げ、不機嫌そうにアリス(aa1651)がつぶやく。どうやらAlice(aa1651hero001)も意見は同じらしく、炎を体現した共鳴を果たす。
「……これでやるしかないか」
 また愛用する装備はメンテナンス中で手元になく、アリスは幻想蝶からケリュケイオンを取り出した。
「わー!! お魚いっぱーい!! ガブガブするー!!」
『ピピちゃん、ちゃんと先にみんなの分を取ってからだよ』
「にゅー? 分かったー!」
 海へ出てすぐ『鷹の目』を使用し、上空からマグロを確認して大興奮なピピ・浦島・インベイド(aa3862)は、共鳴した音姫(aa3862hero001)の注意に元気よく頷いた。……返事の仕方に若干の不安がよぎる。
「あんな巨大な魚が街に突撃したら……いこう!」
『水上戦だからね、陸地とはまた感じが違うだろうから十分気をつけるんだよ』
 食い気に走り気味なメンバーの中で、共鳴により黒鎧姿の恋條 紅音(aa5141)は従魔の危険性を真剣に考えていた。ヴィクター・M・メルキオール(aa5141hero001)のアドバイスを聞きつつ、この戦闘で自分に何ができるのかを考える。
「見えましたね。浦島さんの偵察通り、数は10体で横1列に接近中ですので各自散開、従魔の進行を妨害し排除しましょう」
 構築の魔女が船から敵影を捉えると同時、エージェントたちが乗っていたボートから一斉に飛び出し、各々ALブーツやアサルトユニットで海上を滑るように駆ける。
「接近限界は、この辺りかな」
 ただ1人、アリスだけはボートを操作したまま静香が説明した『最終防衛ライン』付近に陣取った。武器同様アサルトユニットの整備中に加え、戦闘中のマグロ確保のため誰かはボートに残るべき! という多数意見に従った形だ。
「標的をこちらに移します!」
「食材確保にゃーっ!」
「ATお願い――行くよ!」
 迎撃側も隊列展開を終え、後衛中央でメルカバを構えた構築の魔女は『ノイズキャンセラー』で海中の従魔――トンルカンへの照準を微調整。『トリオ』で左右と中央を吹き飛ばし、遠ざかる桜狐とセレンの背中を送り出す。
「マグロだろうがミサイルだろうが、受け止めてみせる! 街にはいかせないっ!!」
 左手側で先行するのは紅音。とにかく、敵の前に立ちはだかる壁となろうと決め、鎧から黒いライヴスを漏らし始める。
『まぁ、適材適所だね。戦いがヘタクソなりに頑張り給えよ、紅音』
「当然! 他の誰かが怪我をしないようにできれば……!」
 メルキオールがお手並み拝見と見守る姿勢を感じつつ、紅音は『守るべき誓い』の威圧をトンルカンへぶつけた。
「あ、動きを完全に止めたら、そのまま死んじゃわないかな? ……マグロだし」
『多少興味はあるが、我々があの巨体を止めるのは難しいよ。防御に専念した方が良いだろうね』
 数体のトンルカンを集めることに成功し、思いつきを口にした紅音へメルキオールの軌道修正が入りつつ接敵に備える。
『確か、マグロは泳ぎ続けないと死んでしまうんでしたっけ』
「エラに海水を通し続けないと、呼吸困難に陥るらしいからな」
 紅音の後ろには、同じ疑問に行き着いた雫と共鳴した恭也が続く。
『エラの所を縄かワイヤーで締め上げれば、窒息死させられるのでは?』
「高速で移動している上、全身に刃がついて従魔化した状態だ……難しいと思うぞ」
 一般の回遊魚を基準にした討伐法を提案した雫だが、そもそも普通の魚と従魔は区別すべきと考える恭也は天叢雲剣を抜いて加速する。
「安全第一だから、できるだけ沖で戦うよ!」
 そして右手側、望月が『全力移動』で前へ出ると一番近いトンルカンへ向けて『ブラッドオペレート』を放つ。急所に当たれば出血(血抜き)も期待できて一石二鳥、と考えたのだ。
「わ、早っ!?」
 しかし、弾丸のように回転しながら空中へ飛んだトンルカンは刃を回避したばかりか、すれ違いざま背びれによる『ポナルディ』で逆襲。とっさに望月が聖槍で弾けば、また海中へ潜ってしまう。
「く、っ! せめて1匹は早く倒して、最高の状態で捕獲したい!」
『意外と余裕あるね?』
 その後、3体に囲まれて集中攻撃を受ける望月は、巧みな槍捌きで攻撃をやり過ごす。ただ、防戦一方よりもマグロの鮮度を気にする辺り、百薬の言葉通り危機的状況ではないのだろう。
「見た目と状況に騙されますが、かなり危険な従魔ですよね……?」
 食い気が勝る望月の叫びが届いたかは知らないが、まず討伐を優先する構築の魔女はこぼした不安を支援砲撃の音でかき消した。後方から見てもトンルカンの能力は高く、あまり楽観視はできないと警戒を緩めない。
「釣ったよー!」
 その時、砲撃による従魔の消滅で憑依から解放されたマグロを、ピピが浦島のつりざおでフィッシュオン。AGWの頑丈さを活かし、ぐいぐいと後方へ引きずっていく。
「はい、みんなの分ー!」
 そのままアリスが操縦するボートまで引き返すと、ピピは今すぐかぶりつきたい欲求を抑えながらマグロを献上した……よだれよだれ。
『縄を準備してきたので、モータボートに括り付けておいてください。まだ生きているのならなおさら、海水に入れておいた方が鮮度は下がらないですからね』
『……まだ、戦闘中なのだがな』
「……了解」
 すると、タイミング良く通信機から雫と恭也の声が響き、アリスはため息を抑えながら縄で船とマグロを繋いだ。ボートには水槽はおろか冷凍設備もないため、戦闘の邪魔にならず鮮度も保持する方法としては有効だ……本来の目的を見失いかけることを除けば、だが。
「っ! 2体がすり抜けました! 来ます!」
 そこで、前衛を振り切ったトンルカンを確認した構築の魔女がアリスに警告。攻撃動作の前に叩くため、海面が反射する光や屈折率など射撃に必要な計算を瞬時に算出――『ダンシングバレット』で1体を怯ませる。
「魚である以上、後退は出来ないはず……!」
 さらに、もう1体が正面から迫る姿を確認し『シャープポジショニング』の構えで急接近。海面へ浮上した直後のトンルカンの眉間にウヴィーツァを突き立て、敵の体当たりはアサルトユニットの出力を上げて躱した。
「通すな、ってオーダーだからね。悪いけど――ここで倒れてもらおうか」
 そのまま空中でもがくトンルカンは、アリスが向ける杖の先端と目が合う。
 刹那、凝縮されたライヴスが『銀の魔弾』を形成、海面を割る波が軌跡を描いて従魔に着弾した。
「……じゅる」
『ピピちゃん、もうちょっと我慢しようね?』
 すぐ後に海中で『狼狽』していた従魔も倒され、2体のマグロを釣ったピピは音姫の声でギリギリの理性を保ちつつ、口からあふれる唾液の軌跡を残しながら海上を走りボートへ運搬する。
「――っ!? 何だ!?」
 前衛では『ポナルディ』の避けざま、恭也がトンルカンの側面を刀で切り裂き消滅させると、順調に思えた戦闘の空気が急に変わった。
「にゃにゃっ!?」
「千佳さん! ――くっ!?」
 トンルカンが海上へ飛び出した瞬間に合わせ、拳でストレートやアッパーを繰り出しダメージを重ねつつ注意を引いていた千佳が、『零距離回避』をすり抜けた『ポナルディ』に切り裂かれてしまう。
 千佳と一緒に従魔を迎撃していたセレンは金髪を振り乱しながらカバーに入り、ライオンハートで『ヘヴィアタック』を叩き込むが固い感触に思わず顔をしかめた。
「な、んで!? 急に、動きが――ぐぅっ!?」
『――ほう? 面白い変化だね?』
 また、装備や『クロスガード』で防御に専念していた紅音は、誰よりもはっきりと従魔の変化に気づかされた。最初は踏ん張れた突進攻撃に体勢が崩され、目で追えた動きが捉えづらい。それはメルキオールも確認したのか、紅音の劣勢を理解しながら楽しそうに声を弾ませる。
「それでもっ! 行かせるかぁあああああ!!」
 出血(『減退』)で鈍る体を『ヒールアンプル』でごまかし、ピュリフィケイトソードに持ち替えた紅音は眼前に迫る『トルピーユ』へ全力の『ライブスリッパー』を叩き込む。
「ごほっ!?」
 が、結果は紅音の力負け。激突の勢いのまま海面を何度も跳ねながら、後方へと吹き飛ばされた。
『今の紅音では、ここが限界か――』
『戦闘不能』の寸前、ぽつりと響いたメルキオールの声は紅音には届かなかった。
「海岸には、行かせない! ――っ、ああっ!?」
 さらに、千佳の敵を引き受けたセレンも『オーガドライブ』の直後、『ポナルディ』に切り刻まれて『戦闘不能』に陥る。
「くっ! ――猫柳さんは2人を離脱させてくれ!」
「ここはワタシたちに任せて、早く!」
「わ、わかったにゃ!」
 ほぼ同時に2人が倒れると、恭也が叫びながら『ターゲットドロウ』でトンルカンを引きつけ、望月が『クリアレイ』と『ケアレイ』で千佳の傷をふさぎながら追跡を阻む。その間に千佳は紅音とセレンを回収し、『全力移動』でボートまで後退した。
「――はあっ!」
 仲間が抜けた穴を埋めるべく、攻撃のさなか『デスマーク』をつけたトンルカンへ狙いを定めた恭也。
『影渡』で1体目の攻撃をすり抜けると海面に対し刀を水平に構え、続けて正面から飛び出した敵へ踏み込み刺突。相手の突進力をも利用した突きは刃を奥へ押し込み、従魔のライヴスは『デスマーク』ごと弾けて消えた。
「ぐあっ!?」
「御神君!」
 しかし、動きが止まった恭也への攻撃は止まらず、『トルピーユ』の直撃を受けて大きく後退。望月の『ケアレイ』が間に合い倒れこそしなかったが、あと一撃でも食らえば恭也も危ない。
 自然と望月が前へと出る形となるが、前衛が1人ではすべてをカバーしきれないことは明白で、浮かんだ冷や汗が肌を伝う。

「もーいーよねー! うー、我慢出来なーい!!」
『えぇっ!? ピピちゃん、武器は!?』

 すると、つりざおでマグロの回収をしていたピピがいきなり後方から飛び出した。
『ターゲットドロウ』でトンルカンへ急速に接近すると、音姫の驚く声を置き去りに攻撃を躱した後、鋭い歯で噛みつき肉を食いちぎった!
「うみゃー! うみゃーだよー!」
 そのままピピはシャチのワイルドブラッドらしい捕食者の表情で、奪った肉片をガブガブ食べる。
『良かったね、ピピちゃん。けど、一応みんなの目も気にしてね?』
「うゅー? みんなも一緒に食べるー?」
『一緒には無理だと思うなぁ……』
 コメントに困る行動で注目が集まり音姫がやんわり注意するも、ピピの見当はずれな言葉が脱力を誘う。
「わっ!?」
 直後、まるで怒ったような『ポナルディ』が連続でピピに襲いかかった。
「――すごーい! まだまだ元気だねー!」
『えっと……単純にAGWじゃない攻撃が効いてないだけじゃないかな?』
 それらをすべて避けたピピは嬉しそうにはしゃぐが、音姫の冷静なつっこみは聞こえない。
「待て待てー!」
『ピピちゃん、待ってー!』
 そして、食欲の権化と化したピピは制止する音姫の声を引き連れ、傾斜姿勢から加速した勢いそのままに海中のトンルカンを追って海へ潜っていった。
「……わ~、まさに弱肉強食だね~」
『今のうちに体勢を整えようよ』
 自然の厳しさを目の当たりにした望月は百薬の言葉で我に返り、他のメンバーと従魔の追撃に備える。
「――みんなーたいへーん! お魚がまずくなったー!」
「……重要度からして、今そっちは確実にどうでもいい情報だと思うよ」
 間もなく、再度海上に現れ大事件のように声を張り上げたピピに、アリスが冷めた声音を出しながら目を細める。本当の問題は、ピピの背後についたトンルカンたちのライヴスが明らかに高まったことだ。
「浦島さん、こちらへ!」
『イーヴェル』――力をためた状態だと察した構築の魔女はピピへ後退を促し、『ダンシングバレット』で海面に上がった1体を吹き飛ばした。
「はぁ……もう十分確保しただろうから――後は燃やしても良いよね?」
 さらに、戦闘中はほぼマグロを縛り上げて泳がせていたアリスが、色々な思いを乗せたため息とともにライヴスを解放。ピピがボートの横を駆け抜けたと同時に爆発した『ブルームフレア』が、不用意に近づいた2体のトンルカンを焼滅させる。
「やあっ! ――う、わっと!?」
 だが、炎から逃れた後続が望月へ突撃。迎撃のため振るった聖槍はトンルカンの肉体を捉えるも、全く勢いが止まる様子はない。とっさに聖槍を翻(ひるがえ)して防御に回すも、ガードを抜けてくる衝撃に望月は目を丸くする。
「餅さん! ――っ!?」
 すかさず構築の魔女が援護砲撃で倒すも、ラスト1体が『トルピーユ』で急襲。回避が間に合わず、構築の魔女はとっさにメルカバを盾にした。
「――これで、オーダークリアだね」
 が、従魔の反撃はここまで。
 激突の衝撃で構築の魔女がトンルカンから離れた瞬間、アリスの『銀の魔弾』が胴体を貫通。従魔のライヴスが消し飛び、海は平穏を取り戻した。

●マグロ祭りじゃあ~!
「当日中に食べる分は血抜きだけで十分ですが、保存用は神経締めが必要ですね」
 帰航の道中、構築の魔女は事前に用意していた血抜き用の道具を使い、マグロの処理を手早く行うと尾を切って内臓も抜き取る。魚を美味しく食べるため、妥協は一切ない。
「……ところで雫、頭や内臓も確保するのか?」
 赤身の土産は醤油でヅケにして……などと考えつつ、活き締めを手伝った恭也はふと隣を見やる。
「おや、キョウは両方とも食べられることを知らないのですか? 鮮度が良いから心臓は刺身で、胃や肝臓なら煮物や炒め物も美味しいですよ」
 手をマグロの血に染めながら嬉しそうに語る雫に、恭也は仏頂面を深める。
「見た目がかなりグロいから、他の皆がどうだろうな。俺は平気だが」
「味が良いのなら、見た目なんて二の次です」
 何ともたくましい雫の主張に、恭也は肩を竦めて作業を進めた。
「頭は兜煮とかかにゃ? ……こ、この大きさを煮れる鍋があるのかにゃ?」
「可食部位だけ切り分ければ、手間を省けるだろう。……しかし、セレンも意外に積極的だね?」
「お、お腹空いちゃったんだもん……」
「調理なら任せろにゃー!」
 他にも千佳が額の汗を拭いながら活き締めに加わり、ATとマグロの調理法を吟味する。目を覚ました後で血抜きを手伝う、腹ペコセレンを2人でからかうのはご愛敬だ。
 そうして下処理しながら海岸へ戻った一行は、マグロを美味しく食べるためさらに準備を進める。
「ああ、私達は気にしないで」
「そもそも食べる気がなかったからね」
 ただし、その間ボートで周囲の安全確認をしていたアリスはマグロ料理に無関心。共鳴を解除したAliceと一声かけた後、2人は各所への連絡や報告書をまとめるから、とその場を離れた。
「あ、桜狐さんも暇? 終わるまで浜辺で散歩しよ?」
「……む。……まあ、お主の誘いなら、行くかのぉ」
 また、セレンも手持ちぶさたな桜狐と一緒に輪から離れ、ゆっくりと砂浜を歩く。
「……ごめんね、迷惑かけちゃって」
「……わしは何もしとらん。礼や詫びなら……千佳や他の者に伝えてやるのじゃな」
 途中、『戦闘不能』を気に病む様子のセレンに、桜狐はさして表情を変えず背中をポンと叩いた。
「――うん」
 少しぶっきらぼうだが伝わる桜狐の優しさに、ようやくセレンの笑みに柔らかさが戻った。

「できたにゃー! 宴会にゃーっ!!」
「大食いの子もいるからね、多めに捌いておいたよ」
 事後処理の後。
 調理係だった千佳とATの号令で、事件解決に動いた人々が任意で集まった慰労会が開かれた。振る舞われたのは当然マグロ料理と、近くの店から仕入れた飲み物(お酒)だ。
「マグロ尽くしじゃの……お腹いっぱい食べるのじゃ。当分食べなくていいくらいに……」
「そ、そんなに?」
 調理しながらビールで乾杯する千佳とATをよそに、大食い特化の桜狐がセレンと一緒に全料理の制覇に意気込む。
「ご相伴にあずかります」
「待ってましたー」
 せっかくのマグロだし、とプロの料理人も呼んでいた望月は百薬とともに料理へ手を伸ばす。
「獲れたての赤身をあぶり焼きで食べてみたかったのよね」
「高級地中海マグロ料理もいい……」
 日本で定番の刺身はもちろん、火入れ調理にソースを添えた現地料理も絶品。口の中に広がる旨みや香り、部位や調理法で表情を変える食感は一口ごとに新鮮で、望月も百薬も箸が止まらない。
「いつもメルキオールが料理してくれるし、たまにはアタシが料理しようかな?」
「オムレツに卵の殻が入ってることが無くなったら、その時に頼むよ。それは紅音が食べるといい」
 家事全般が苦手ながら調理役に混じって自ら鉄火丼を作った紅音に、メルキオールはプロが作った料理を手にやんわり拒否。
「でも、せめて軽く火は通した方が良いんじゃな――」
「いただきまーす」
「ああ、食べちゃった。……まぁ、食中(あた)りしても気合でなんとかするか」
 ついでにメルキオールが鮮魚を生で食べる危険を説こうとして、行動が先に立つ紅音が勢いよく口へかっこむ姿を見送る。結局、紅音の強固な精神力が食中毒を克服すると信じ、加熱済みの料理に舌鼓を打った。
 なお、紅音の気合か従魔のライヴスによる影響か、食中りは起こらなかったようです。
「うみゃー!」
 こちらは荒ぶる捕食者・ピピが標的を刺身に絞って食べまくる。
「さ、さっきあれだけ食べたから、遠慮……」
「うみゃー! うみゃーだよー!」
「ぜ、全然聞いてくれない……」
 積極的に周囲の手伝いをしていた音姫は、寄生虫ごと食いちぎる勢いでがっつくピピを止められない。
「お土産も持って帰って、ガブガブするー!」
「ピピちゃん……自重して?」
 ピピの戦闘は従魔の攪乱やマグロの品質保持に貢献したとはいえ、音姫が見れば独断かつ暴走気味だったことは否めない。その負い目もあり手伝いをしていた音姫は、欲望に忠実なピピに大きく肩を落とした。
「――セレン、これはなかなかに美味じゃぞ。……食べてみるがよい」
「……っあ、これだね!」
 また、半分フードファイターの桜狐は美味いと思った料理の都度、セレンの口へと箸を運ぶ。ただし、セレンは桜狐の唇と箸を往復した視線を彼方へ飛ばし、自分の箸で食べていた。
「うにゃ~? 知らない間に夏かにゃ~?」
「ふふ、さすがに危ないよ千佳ちゃん」
 一方、作った肴のつまみ食いで酒が進み、すっかりできあがった千佳。火照った体を冷まそうと、ビキニに手をかけながら海へと向かう背中を、ATが笑って捕獲した。あわや脱衣入水しかけた千佳に、桜狐もセレンも気づかない。
「最高のバカンス感覚……やはり従魔グルメも侮れないね」
「美味しい依頼を見つけたら、またよろしくね~」
「りょうか~い」
 舌も胃袋も大満足な望月は、ふにゃけた笑みでグルメ依頼を所望する百薬へヒラヒラ手を振り答える。
「ふぅ……いいお土産ができましたね」
「……ロ」
 構築の魔女は日本の友人へ配る用にヅケの中トロや、お土産を望むメンバー用に確保した保冷マグロを幻想蝶に収納し、ひと仕事終えた表情で落児とともにマグロ料理を堪能した。
「さて、俺たちの分は確保できたな。残りは現地の人達に有効利用してもらうとしよう」
「――むむ!? やはり新鮮なマグロは違いますね。キョウもどうぞ」
 ついでにお土産を用意してもらった恭也も幻想蝶へしまうと、雫が作ったマグロの内臓料理を勧められて一口パクリ。
「……美味いな」
「でしょう?」
 独特の臭みはあるものの我慢できるレベルであり、素直な感想を述べた恭也に意外とマグロ知識が豊富だった雫はドヤ顔だった。

●不穏の兆し
「――どう思う、Alice?」
 遠くに聞こえる浜辺の喧噪をBGMに、報告書を書いていたアリスは問う。
「おかしいね。あんな前触れもなく従魔の力が急に強まるなんて――不自然だ」
 Aliceが言及したのは、途中から変化した従魔の身体能力。あっさり2人がやられ、危うく海岸まで押し込まれかけた従魔の強さは、明らかにそれまでとは異なるものだった。
「嵐の前触れなのかな?」
「関係ないよ」
 黒と赤が溶ける夕闇を眺め、他人事のようにつぶやいたAliceにアリスが答える。
「それがオーダーなら、海ごと嵐も焼くだけだから――」
 燃える瞳が闇色の海を包み、報告書の結びに淡々と不審を刻んだ。

『従魔の力が、強まった……?』
「……悪い予感ほど、当たるものですね」
 後日、提出された報告書をレティと精読した静香は、漠然と膨らむ不安にため息をこぼした。
 ――まだ、この騒動は完全に終わってはいないのだと、半ば確信して。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 久遠ヶ原学園の英雄
    不破 雫aa0127hero002
    英雄|13才|女性|シャド
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • マグロうまうま
    セレン・シュナイドaa1012
    人間|14才|男性|回避
  • エージェント
    ATaa1012hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • アステレオンレスキュー
    音無 桜狐aa3177
    獣人|14才|女性|回避
  • むしろ世界が私の服
    猫柳 千佳aa3177hero001
    英雄|16才|女性|シャド
  • お魚ガブガブ噛みまくり
    ピピ・浦島・インベイドaa3862
    獣人|6才|女性|攻撃
  • エージェント
    音姫aa3862hero001
    英雄|6才|女性|シャド
  • エージェント
    恋條 紅音aa5141
    人間|18才|女性|防御
  • エージェント
    ヴィクター・M・メルキオールaa5141hero001
    英雄|27才|男性|ブレ
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