本部

【愚神共宴】連動シナリオ

【共宴】Theocracy

影絵 企我

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
12人 / 4~12人
英雄
11人 / 0~12人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/04/28 10:45

掲示板

オープニング

●“神”を目指した男
 リオ・ベルデの内紛は様々な思惑を呑み込みながら終結した。アルター社所属のヘイシズはアルター社警備部隊長とAGW開発室主任を兼任していたケイゴ・ラングフォードが一連の事件を手引きしていた事を明らかにした。リオ・ベルデでRGW開発を行わせ、それをアマゾンへと持ち込み運用実験を行ったのも、リオ・ベルデの内紛を扇動したのも、設計思想の異なる試作品RGWを実地の運用での実験を試みる為だったらしい。
 H.O.P.E.のジャスティン・バートレット会長はヘイシズの発表とほぼ同時に、今回のH.O.P.E.の介入はリオ・ベルデへのRGWの流入疑惑の調査と、それに巻き込まれた「被害者」である反政府組織の救援が目的であったと表明。互いの主張の裏付けを確かなものとした。
 また、今回の事件についてリオ・ベルデの元首であるハワード大佐は暴動に関わった市民の“大赦”を発表、レジスタンスの中核メンバーを除いて、市民を罪に問わない事とした。工場から発見されたRGWドライブ、消失した資料など、数々の疑惑を残しながらも強引に今回の事件の幕引きを図った形である。
 テキサス州当局に引き渡されたケイゴ・ラングフォードは、私戦予備罪を始めとする数々の罪に関する厳しい取り調べを受けていた。いずれの罪科においても黙秘を貫いているケイゴであったが、遠からず全ての罪は白日の下に晒され、一連の事件は一応の終息を迎えるはず――

「――これで終わるわけがない!」
 独房の中、ケイゴは眼を剥いて叫んだ。暗闇の中、爛々と目を輝かせて起き上がると、己の親指に犬歯を突き立てた。肉が裂け、血が溢れだす。
「私は今、最も神に近しい男だ。……そして今、私は満を持して神となる!」
 狂ったように喚きながら、ケイゴは己の血で幾何学模様や数式を書き連ねる。最後には己の口へと指を突っ込み、一本奥歯を引き抜いた。その歯を手の内で割ると、中からは霊石が現れる。ケイゴは牙を剥き出して笑うと、その霊石を血塗られた壁に叩きつけた。
 刹那、ライヴスの眩い光が独房全体を包む。光が消える頃には、一体の愚神が彼の目の前に立っていた。道化のような姿をした愚神はケラケラ嗤ってケイゴを見下ろしていたが、彼の歪んだ眼光を見た瞬間に黙り込む。
「さあ……愚神よ。新たなる神の贄となるがいい!」
「な、何だこいつ」
 ゆらりと立ち上がった彼と入れ替わるように、思わず愚神はその場に崩れ落ちる。ケイゴは倒れ込むように愚神へ飛び掛かると、その頭を右手で掴む。愚神は払い除けようとしたが、接着剤で止められたかのように張り付き、その手は離れようとしない。愚神の身体は光を放ち、苦悶の声を上げ始めた。
「ふざけるな、お前はただの――」
「お前もただの人間だっただろう? 私は全て知っている! 知っているのさぁっはははは!」
「止めろ。ヤメロ、ヤメ……」
 愚神の身体はケイゴへと吸い込まれていく。その瞬間、ケイゴの身体は燐炎に包まれた。彼は高笑いを続けながら、独房の壁を殴りつける。壁は砕け、外の冷たい空気が流れ込んで来た。警報が鳴り響き、警察官が銃を引き抜き慌ただしく駆け寄ってくる。振り向いたケイゴは、激しく舌なめずりしながら嗤う。
「さあ愚かなる人類ども。喜ぶがいい。新たなる“神”がこの世界から生まれたぞ!」
 ケイゴは燃え盛る右手を激しく振るった。空間が裂け、中から何かが飛び出す。警察は慌てて銃の引き金を引いたが、反対に放たれた無数のライヴス弾を前に蜂の巣となった。ケイゴは揚々と拘置所の外へ飛び出す。
「ヘイシズ……H.O.P.E.……この私が、この私を貶めた罰を、与えようじゃないか……!」

●“王”を仰ぐ男
「アルター社のヘイシズから救援の要請が来ました。愚神化したケイゴ・ラングフォードが拘置所を脱走、アルター社を目指し進撃しているため、増援をお願いしたいとの事です」
 オペレーターが説明を続ける間に、モニターにはアルター社周辺の地図が構築されていく。
「一時間前、一人のプリセンサーも似たような情報を予知しており、現在その状況も実際に確認できたところです。このままいけば、ヘイシズ及び数名の愚神と、ケイゴがアルター社のプラント付近で激突することになります。皆さんには、ヘイシズ側の援護をしていただく事になります」
 君達の中から、トリブヌス級のヘイシズはケイゴを支配できるのではないか、という疑問が上がる。オペレーターは頷いた。
「それでも今回救援を要請してきた、という点が問題です。恐らく、ヘイシズ一人で処理できない問題があるのだと考えられます。今回の戦局ではその理由を探る貴重な機会となりうるため、支援を決定しました」
 地図にいくつかの点が現れる。ヘイシズ勢と、ケイゴのものらしい。
「また、ケイゴは自らをRGWと思われる武装で強化している模様です。また、自らが切り拓いた小型のドロップゾーンから現れる従魔を次々に喰らって自らを強化しているため、急速に脅威度も上昇しています」
 防犯カメラに映ったケイゴの姿が拡大される。無数のケーブルや機材に繋がれた彼は、化け物そのものだった。
「善性愚神との関係決裂も視野に入ってきた現状、彼の実力を探る機会でもあります。複雑な戦局ではありますが、皆さんならば乗り越えて頂けると思います……」

 アルターリソース・エンタープライズ本社。プラントに囲われた城に向かって、機械に呑み込まれた異形と化したケイゴは、赤く染まった眼をぎらつかせて叫ぶ。
「ヘイシズゥッ! 私がどんな人間か忘れたか。貴様と私が、共に何をしてきたか忘れたかァッ!」
「片時も忘れた事は無い。……だが哀れだな。自ら愚神に身を堕とすか」
 ヘイシズは眼を金色に輝かせると、背のブースターを噴かせながら飛び掛かってきたケイゴに指を向ける。しかし、ケイゴはそのまま銃を構えてヘイシズに突貫した。
「私は貴様らを研究し尽くした! ……貴様らの上下支配の間隙を縫う方法が幾つあると思っている!」
 引き金を引いた瞬間、巨大なエネルギー弾がヘイシズに叩き込まれた。ヘイシズは仰け反り、一歩二歩と後退りする。ヘイシズの部下達は、武器を構えて彼を素早く囲う。ケイゴはそれを見渡してゲラゲラ笑うと、腰に取り付けられたブレードを手に取った。炎を帯びたブレードを振るって時空を裂き、中から次々従魔を溢れさせる。生き物に機械が纏わりついたようなそれらもまたヘイシズには従おうとせず、部下達と激突した。

 そんな中、君達は戦場へと駆けつけた。それに気づいたケイゴは、歪んだ笑みを浮かべて銃を構える。
「役者が揃った……始めようじゃないか、祝祭を!」

解説

メイン ケイゴの撃破
サブ ヘイシズやその部下に重傷を負わせない

ENEMY
ケイゴ
 愚神を強引に乗っ取った狂気の人間。密かに開発していた愚神用の強化スーツを身に付け、愚神としての能力を最大限強化した。己を神と放言している。
脅威度
 ケントゥリオ級からトリブヌス級へ向けてさらに上昇中
ステータス予測
 攻撃・機動力偏重、防御低め
スキル
・Gブレード…激しい熱と共に空間を引き裂き、不安定なDZを発生させる[ミーレス級従魔1D6体召喚]
・Gライフル…愚神のライヴスを込めて銃撃。単純に威力が高い。[スキル使用時、物攻+100]
・Gリライブ…ライヴスを溜め込み、生命力に転換。[本来の生命力に+200する]
・Gブースタ…機械の補助を受け、目にも止まらぬ速度で動く。[メインフェイズを二回行う]
性向
・執拗…防御の低いPCを集中的に攻撃する

ジャンク×20
 研究の末にケイゴが見出したのは愚神・従魔召喚技術だった。機械と生物を寄せ集めたような姿の従魔を召喚し、彼は意のままに操る。
脅威度
 ミーレス級~デクリオ級(強いほど見た目がごつい)
ステータス予測
 生命力・防御偏重、攻撃低め
スキル
・スクラム……数体で身体を結び付け、防御力を高める。[発動時移動力0、両防御+100]

NPC
ヘイシズ
 善性愚神を名乗るグループの首魁。彼の言動からは悪意は窺えないが、常に油断ならない雰囲気を醸している。
脅威度
 トリブヌス級
ステータスおよびスキル
 不明

ヘイシズの部下
 ヘイシズに付き従う獣人達。
脅威度
 デクリオ級

FIELD
50×25(sq)の駐車場。アスファルトで舗装されており、車がまばらに停まっている。

TIPS(PL情報)
ケイゴは戦闘の中で、
・反融和派の思考を代弁する
・それを下支えする知識を開陳する
また、「成功」以上で
☆ヘイシズがケイゴに対し、「この世界は愚神が統治しなければならない」と言っていた事を暴露する

リプレイ

●Evolution
 始まっている戦い。次々に溢れる従魔を率いてヘイシズへ襲い掛かるケイゴ。アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)は、氷鏡 六花(aa4969)に囁く。
『(気を付けて。バーストは、あくまで最後の手段よ)』
 こくりと頷き、六花は直ぐに駆け出した。ヘイシズの傍へ向かいつつ、六花はケイゴに向かって叫ぶ。
「そんなに能力者が羨ましかった? そうよね。貴方みたいな性根の歪んだ人と誓約したい英雄なんているはずないもの」
「羨ましい? 単一宇宙にしがみつく哀れな存在など、此方から願い下げだ!」
 ケイゴは地上に降り立つと、ぐるりと六花へ振り返る。歯を剥き出したケイゴは、右手のブレードに火を灯した。
「だが、今の私は神だ! 君がそうまで私に斬られたいなら、叶えてやる」
 背中のブースタに火を灯し、ケイゴは剣を振り薙ぐ。六花は後ろへ飛び退き躱したが、時空の裂け目からわらわらと機械化した獣が這い出してくる。
「そう簡単にはやらせないであります!」
 そこへ、サーラ・アートネット(aa4973)が飛び込んできた。凧型の盾を振るって獣の頭を叩き落した。そのまま、サーラは刀を抜いてアスファルトを引っ掻き、線を引いた。
「貴様らが下手に動き回るとかえって護りにくいのであります。自分としても守り易くするためにも、内側で待機してるであります」
 感情を押し殺し、淡々と言い放つ。ヘイシズは小さく頷いた。
「承知した」
 背中に視線を感じる。探るような視線だ。サーラは再び盾を取り、歯を剥き出した。
「……貴様に背を向けるなど、腹立たしいにも程があるであります。だが、致し方ない。二度も拝ませはしないから、今のうちに目に焼き付けておくであります」
「君達の力だけで私には勝てるとでも言いたげだな!」
 ケイゴは左手の銃を六花へと向ける。しかし、その瞬間に潮の香が漂う黒い暴風がケイゴへ襲い掛かった。海神 藍(aa2518)の放った一撃である。ケイゴは反射的に銃口を藍へ向けた。
 しかし、クロード(aa3803hero001)が素早く駆け付ける。放たれた巨大なライヴスの塊。彼は両足を踏ん張り、どうにか盾で受け止めた。その力は、降って湧いた愚神とも遜色ない。
「独房の中で愚神化なんて……そんなピンポイントに愚神が湧くのは変じゃない?」
『自分の下に愚神を呼び寄せるカラクリがありそうですね……』
 世良 霧人(aa3803)とクロードは、揃って彼を訝る。途端、ケイゴは得意げな顔を向けた。
「私の才能がそれを可能にしたのさ! 愚神も貴様らも……全ては私の思うがまま!」
 ケイゴは喚き、それに呼応して従魔は吼える。それらが道路を蠢く様を見て、禮(aa2518hero001)は苦々しく呟く。
『この世界でも愚神を喚ぶ術が見つかるなんて……』
「不味い事になった。その手法が知れ渡れば……世界は終わる」
 自称善性愚神に皆が不可思議に好意を寄せている現状、愚神が喚べるとなればこぞって召喚したりしかねない。想像するだけでざわついた。
『それに愚神用の強化スーツなんて、誰が使うつもりだったんでしょうか?』
「決まってるだろう! 全て私の計画の内。この時の為に予め用意していた!」
 耳ざとく聞きつけたケイゴは、全身のスーツを見せつけるようにして叫ぶ。スーツのパーツは、半ばその身体と融け合っている。
『うるせえなぁ! 自称“神”は聞き飽きてんだよ!』
 大剣を鋭く唸らせ、カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)が従魔の群れを薙ぎ払う。そのまま、ケイゴの懐まで踏み込んだ。
『過去の協力者を真っ先に襲う……蜥蜴の尻尾切りに逆ギレしたか!』
「私を君達と同列に扱うな!」
 ケイゴはブレードの腹で刃を受け止め、弾き返す。カイは咄嗟に飛び退き、大剣を中段に構え直して様子見を窺う。
『……ったく、どういう事だ。人間が愚神を喰うだと?』
「あの人……何でああなっちゃったんだろ?」
 御童 紗希(aa0339)が呟く。自己顕示欲の権化、と言ってしまえばそれまでだが、紗希はどうしても気になった。カイは苛立ちまぎれに首を振る。
『知るか! カメラは回ってるよな?』
「う、うん」
 頭部装甲に取りつけたカメラは、ケイゴの姿を捉える。人間が急激な愚神化を遂げるとどうなるか。その記録を残しておこうと。雪ノ下・正太郎(aa0297)もまた、スーツに隠したスマートフォンでケイゴの言葉を録音し続けていた。
「懺悔してもらおうか。お前が苦しめた人々に対して!」
 正太郎は深紅の総髪を振り乱し、大剣の衝撃波を飛ばす。ケイゴがブレードを振るうと、周囲の従魔が寄り集まって小さな壁を作り上げ、衝撃波をその身を挺して受け止めた。
「懺悔する事など何もない。私はいつか来る進化を速めたに過ぎないんだ」
「何が進化だ。そんなのは認められねえな」
 地球は人類の世界。愚神はそれを蝕む害悪であり、滅ぼすべき敵。それが信条。愚神を根絶して世界を奪還するためにも、正太郎はここを正念場とみていた。
 GーYA(aa2289)は大剣を脇に構え、身を低くして一気に戦場へ躍り出る。その場で深く踏み込むと、立て続けに連なる従魔を斬りつけた。血と粘液が溢れ、従魔はぐらりと傾いでその場に倒れる。
「人間が愚神の力を手にしたからって、神になれるわけない」
『ラグナロクの惨劇は知っているのでしょう?』
 まほらま(aa2289hero001)もケイゴの顔を見据えて問う。その顔の半分ほどが機械に取りつかれていた。
「この世界にもう人間なんて必要ない。この世界にもう旧人はいないだろう?」
 ケイゴは銃をジーヤへ向けると、早口で彼に問いかける。
「そもそも、お前達にとって美味すぎる話だと思わないか? 此処でそいつが“下りる”利点はどこにある。棒立ちで突っ立っていても愚神は際限なくこの世界に来るんだ。わざわざ人類と手を組む理由なんか無いだろう?」
 ケイゴがぺらぺら話すのを、日暮仙寿(aa4519)は不知火あけび(aa4519hero001)と共に聞いていた。投げやりな語り口だが、その意見は随分的を射ている。
『(……ケイゴから真っ当な意見を聞くなんて)』
《(だが、其処から導かれた結論は、余りにも……)》
 仙寿は物陰に身を隠しながら、素早くヘイシズの下へと駆け寄る。刀は鞘に納めたまま、彼は愚神達の影に身を潜めた。
《要請通り、援護しにきた》
『リオ・ベルデで貴方達に恩が出来たのは事実だからね。恩はちゃんと返すよ』
 仙寿が見上げると、ヘイシズはほんの僅かに振り向く。相変わらず仄暗い眼をしていた。
《お前達は通常のヒエラルキーから外れていると言っていたが、ケイゴもなのか? 他に懸念事項でも?》
「彼はここで私と戦う事が王の為になると信じている。それ故私の命令には従わないという選択が出来る。……あのスーツも原因の一つだろう」
 ケイゴはヘイシズを見遣ってけらけらと笑う。その口からはだらだらと血が零れていた。
「従魔や悪性の愚神を狩れば何とでもなる? 存在の為にライヴスを消費し続ける限り、それは戦力が目減りするという事だ。他ならぬ王自身が、それを容認すると思うか」
 ケイゴが叫ぶと、従魔は群れを成して愚神集団へと襲い掛かる。泉 杏樹(aa0045)は薙刀を構えて飛び出すと、従魔の振るう爪を長い柄で受け止めた。そのまま柄を返すと、従魔を脇へ受け流す。
「愚神の技術を利用した、新型AGWの開発、実験を行ったのは、本当に反融和派ですか?」
 杏樹が尋ねると、ケイゴはへらへら笑って答える。
「嘘に決まっているだろう! アンシャンレジームにしがみつくクズ共は、三年前に全部私がギアナ支部に向かわせてやった! 実験の素体が必要だと言っていたからな!」
『(ギアナ支部……? そう言えば、過去ギアナ支部に所属していた人間が、ラグナロクの研究に関わっていたという疑惑がありましたね……)』
 榊 守(aa0045hero001)は事前に目を通していた報告書を思い出す。森蝕事件と、今回の事件がいよいよ一つの線で繋がろうとしていた。逢見仙也(aa4472)はボイスレコーダーを向けつつ、ヘイシズを取り囲むように押し寄せる従魔に矢の雨を浴びせて追い返す。
『(いかにも小物だな。行動に一貫性が無く、場当たり的に過ぎる)』
「まー、神とか言っちゃうような奴だし」
 ディオハルク(aa4472hero001)の呟きに反応しつつ、仙也はケイゴの様子を窺う。愚神を召喚したり愚神化を促進するような武器を開発できるような男だ。エネミーとの戦いでは邪英化したリンカーも出たという。馬鹿そのものの有様でも油断は出来なかった。
「(バーストは切らないようにしてほしいかね)」
「そもそも、何故民衆共はこいつらの存在を訝らない? 愚神はこれまで人間に害ばかり齎してきたんだぞ? それを皆が素直に受け入れるわけないだろう?」
 ケイゴは従魔を引き連れ進軍しながら、再び剣に炎を灯らせる。陽炎が浮かび、空間が捩れていく。剣を握りしめ、周囲を振り薙ごうとする。
 しかしその瞬間、蒼い閃光が駆け抜けた。稲妻のように従魔の隙を駆け抜け、抜き放った叢雲の刃をケイゴの左肩にむかって叩きつける。全体重を乗せ、弾丸のように突っ込んだ一撃。ケイゴは思わずよろめいた。
「俺に隙を見せるなら、今の一撃を何度でもくれてやる……あまりシャドウルーカーを甘く見るなよ」
「ふんっ。死ななければ問題は無い!」
 迫間 央(aa1445)は倒れかけたケイゴを見据える。ケイゴは歯を剥き出すと、一瞬で体勢を立て直し、銃口を央へ向けてライヴス弾を放った。軽々と躱したが、マイヤ サーア(aa1445hero001)はその佇まいに危機感を覚える。
『(立ち直りが早いわ。……今も強化されているのかも)』
「(……あまり時間はかけられんか)」
 央は叢雲を収め、素早く駆け出す。その後から、フィー(aa4205)が斧を担いで敵の群れへと殴り込む。長柄の斧を大きく振るい、遠心力を載せて敵を薙ぎ払っていく。
「ったく。一応前の件もあって来たものの……こんな小物の相手とはねぇ」
『まあ、こんな奴に期待するだけ無駄だろうな』
 ヒルフェ(aa4205hero001)と共に、フィーは呆れ切った眼差しをケイゴへ向ける。先の戦いでも薄々わかっていた事だったが。
「執念だけは評価しますが、それ以外は下らないの一言ですな」
「貴様、私を愚弄したな!」
 ケイゴは反射的に剣を振るう。ハルバードの穂先で受け止め、彼女は溜め息をついた。力に振り回されて付け上がった、矮小な存在だ。
「そういうとこなんすよねえ」
 斧を振るって距離を取り直すと、彼女はちらりとヘイシズを見遣る。彼は杏樹や六花の背後で、得物さえ手にせず戦況を眺めていた。
「もう少し守り緩めでも良かったかもしれんすねぇ……」

●Multiversum
「私の才能が、こんなところで潰えて良いわけがない……!」
 ケイゴは周囲の従魔へ立て続けに剣を突き立て、そのライヴスを吸収していく。その度に、その背中に埋め込まれた円筒型のパーツが歪な光を放った。それを見たフィーは、拳銃を抜いて引き金を引く。銃弾はパーツから伸びるケーブルに突き刺さり、激しい火花を放った。
「貴様!」
 一瞬ぐらついたケイゴは、目を剥いて口角泡を飛ばす。急所なのがバレバレだ。フィーは央やカイと軽く目配せすると、正面切ってケイゴへと踏み込んだ。ケイゴがライフルの銃口をフィーへと向けた隙に、央は二振りの短剣を取ってその身を二つに分かつ。身を低くして、一息で間合いへと踏み込んだ。ケイゴの振るう剣の下をくぐると、身を翻してナイフを擲つ。柄に括られたワイヤーがケイゴの脚を絡め取り、その姿勢を僅かに崩した。更にカイがヘパイストスの銃撃を浴びせ、ケイゴの脚を縺れさせる。
「今だ!」
 カイが叫ぶ。六花は頷くと、手の内に込めた吹雪の光をケイゴに向かって放った。霰に雹も混じった吹雪はスクラムを組んだ従魔の群れを薙ぎ払い、ケイゴの背中のタンクに直撃する。凍りついたパーツは機能不全を起こし、激しい火花を散らして燃え上がった。
「何だと……?」
 ケイゴが呟いた瞬間、幾つものケーブルが爆ぜた。力無く崩れ、その場に膝をつく。
「よくも私のスーツを!」
 六花に向かって吼えると、ライフルを彼女へ向けた。そこへクロードが再び走り込み、弧を描くように盾を振るって、放たれた弾丸を彼方へと逸らす。
『やはり研究者といったところですか。戦いに関してはかなりの素人っぷりが窺えますね』
「AGWのカタログスペックを見る分には、才能自体は相当なものだったんだろうけど……」
 霧人はケイゴの様子を見守る。どうにか起き上がったケイゴは、むやみやたらに従魔を呼び出していくが、仲間達の激しい攻勢には追いつかない。
「合体しているなら、纏めて体勢を崩せるはず……!」
 ジーヤは壁のように連なる従魔に向かって突っ込み、大剣を一体の従魔の脚に突き立てる。要となっていた従魔が崩れた瞬間、ケーブルで互いを結び付けていた従魔達は次々に倒れた。立て続けにジーヤは剣を振り上げ、従魔の脳天に向かって重い刃を叩きつける。
『一体一体は大した事ないけれど……こうも数が多いと疲れてくるわね』
「スタミナ負けしないためにも、ここは短期決戦で決めきらないとな」
 一方、ヘイシズを囲うように押し寄せる従魔も未だに多く残っていた。薙刀で寄り集まる敵を往なしつつ、杏樹は滑腔銃を抜いてサーラへと銃口を向ける。
「癒しの光、受け取って、なの」
 放たれたライヴス弾は、藤色の光へ変わってサーラを照らす。盾で攻撃を受け、刀で敵を切り返していたサーラの生傷を、光はすぐさま塞いでいく。
「感謝するであります」
 従魔の横っ面を盾の縁で切り裂き、サーラは応える。攻めも交えた守りによって、徐々に敵の数は減りつつあった。後ろで待機していたヘイシズは、立ち尽くしたまま彼に尋ねる。
「そろそろ我々も攻勢に移るべき時と思うが」
「お断りであります。貴様達の手など信用できないであります」
「そうか」
 ヘイシズの淡々とした声色を聞きながら、シルクハット伯爵(aa4973hero001)は呟く。
『(何だか体よく扱われている気がするな)』
「元々期待なんてしていないであります」
 サーラは銃を抜くと、這い寄る従魔の眉間に銃弾を撃ち込んだ。さらに、仙也は畳み掛けるように爆ぜ散る矢の嵐を従魔の群れへと叩き込んでいく。横目にヘイシズの姿を捉えながら。
「あのライオン、さっきからケイゴよりも俺達の事を見てるなー」
『それが俺達を呼んだ理由じゃないのか。あの小物にそもそも遅れなど取るまい。それでも、俺達に敢えて戦わせることでその実力を測っているのではないか?』
「……なるほど。まあ、仲良くする気は最初からなさそうだったし?」
 ヘイシズの曇った金色の瞳が薄ら光を放つ。一瞬視線を感じた気がしたが、仙也はひとまず戦場へと目を戻した。徐々に従魔の囲いが緩くなっている。同じく戦場を眺めていた禮は藍に耳打ちした。
『このまま押し切ってしまいましょう』
「そうだね。何か奥の手を隠しているかもしれないし……」
 藍が素早く呪文を唱えると、彼の足元から燃え上がった青白い炎が波のように従魔へと押し寄せる。炎は従魔に組み込まれた銅線のケーブルをあっという間に溶かし、剥き出しの基板を焼き尽くしていく。ケイゴは血塗れの歯を剥き出すと、銃を構えて藍に狙いを定めた。仙寿は従魔の隙間を縫って飛び出し、射線の前へ飛び出す。
《こっちだ》
 ケイゴが引き金を引こうとした瞬間、素早く切り上げ銃口を逸らす。甲高い銃声が轟き、近くの車が爆音と共に吹き飛んだ。それを合図に、カイはスーツと大剣にライヴスを込め始める。
『そろそろ仕留めておかねーとな……』
 カイは纏うスーツの性能を限界まで高めると、目にも止まらぬ速さでケイゴの懐まで飛び込んだ。ライヴスを限界まで溜め込んだ刃は、地獄の番犬のように叫ぶ。
『決めに行くみたいだぞ』
「なら、こっちも乗っときましょーか」
 フィーもそれに合わせて間合いへ踏み込んだ。二人が呼吸を合わせて放った疾風怒濤の三連撃が、ケイゴのブレードを断ち、ライフルを砕き、ブースターを引っぺがす。全身から火花を散らせて、ケイゴは呻いた。
「……私の強化速度を上回っただと。計算上は、強化が終わるまで耐えきれたはずだ……!」
「とどのつまり、悪ノリが過ぎたんだよ神気取りがッ!」
 ケイゴが狼狽えた隙を突いて、大剣を掲げた正太郎が跳び上がる。マスクに刻まれた隈取り状のラインが紅く輝く。
「愚神も従魔もこの世にゃいらねえ! 世界は全部人類の手に取り戻す!」
 高めたリンクを載せたライヴスブローの一撃がケイゴの肩口に叩きつけられる。両腕に力を込めた正太郎は、そのまま刃を振り抜きケイゴの身体を叩き切った。
「――!」
 ケイゴが声にならぬ断末魔を上げる。ライヴスが鮮血のように溢れた。機械もバラバラと剥がれ落ち、半ば化け物と化していたケイゴの姿は人間のそれへと戻っていく。全ての力を奪われたケイゴは、その場にがっくりと膝をつく。肩で息をして、彼は己の手を見つめる。
「そうか。それが私に対する答えか」
 その身体は既に消滅を始めていた。ケイゴは薄れゆくその姿を暫し茫然と見つめていたが、やがてその顔を歪ませる。陰鬱な笑みを浮かべて、彼はヘイシズを見据える。
「……ヘイシズ。君は言ったな。この世界は愚神が統治しなければならないと」
 ケイゴがはっきりと言い放った瞬間、杏樹や六花達の眼がヘイシズへと注がれる。それを見渡したケイゴは会心の笑みを浮かべ、口から血を垂らしながらさらに叫ぶ。
「君以上に王の降臨を“望んでいる”者はいない。王の為ならば、君は如何なる罪をも被るだろう。王の為ならば、君はどんなに歪んだ台本でも書き上げるだろう」
 そこまで言い切ったケイゴは、身を反らすようにエージェント達へ振り返る。
「思い知れH.O.P.E.。私を討った罪の重みが、如何に重いものかを――」
 刹那、その身体は細かい七色の粒子となって消滅する。黙って立ち尽くすヘイシズ。カイは剣を握り直すと、不意にヘイシズへ向かって踏み込もうとした。
「待ってよ!」
 紗希は咄嗟に叫ぶと、共鳴を解いて幻想蝶をカイの身体に押し付ける。カイの身体は消え去り、幻想蝶の中から激昂の叫びが吐き出されてくる。
『何でだマリ! どうして止める!』
「待って。まだ、本当の話だと決まったわけじゃないでしょ!」
 六花はヘイシズへ振り返る。歪に輝く金色の瞳を見上げて、掠れた声で尋ねる。
「今の話……本当なの?」
 復讐心を抑え込んだ氷が解けかけ、ぐらつく。それでも、六花は必死にこらえた。
「貴方のその考え、雪娘は、知ってるの? 雪娘も……六花たちを騙してたの?」
 そうではないと信じたい。そんな彼女の想いを、ヘイシズは淡々と打ち砕く。
「それは彼女に訊きたまえ。君の望んだ答えを汲み取り、綺麗に応えてくれるだろう。彼女は今、そういう“ゲーム”をしているのだから」
 六花はその言葉に息を詰まらせる。ただでさえ色白な顔を真っ白にして、ふらつく。咄嗟に仙寿が駆け付け、倒れた彼女を支えた。サーラが代わりに振り返り、刀を抜いて切っ先を突きつける。
「動くな! 貴様の護衛は終了した! たった今から、貴様はただ一人の愚神に戻ったに過ぎない。貴様のこの後の行動一つ一つが判断材料になると思え」
 ヘイシズの取り巻きもまた武器を構えようとしたが、ヘイシズはそれを手で制して下がらせる。サーラは銃にも手を掛けながら、さらに詰め寄る。
「そんなのはお見通しだった。何が手を取りあえるだ。貴様らが握っているのは我々を脅すナイフ以外の何でもない!」
「確かに君達に対しては脅すような真似をしてしまったかもしれないな。だが人類を脅したつもりはない。抜き身のナイフをぶら下げて市井を行き来している君達ほどには」
「何だと……?」
 サーラは眉間に皺を寄せる。藍は武器を収めると、仏頂面でヘイシズと相対した。
「……とりあえず、私からは遺憾の意を示しておこうか。残念だ」
 元々そんな気もしていた藍だったが、ヘイシズの顔色は具に窺う。
「我らを謀るのはいいが……善性愚神に賛同した愚神はどうする気だ?」
「彼らも最初から承知の上だ。だから私に納得して付いてくる」
 ヘイシズは何を当たり前の事を、と言わんばかりだ。杏樹と守は共鳴を解き、二人並び立ってヘイシズに語り掛ける。
『都合の悪い事実を隠す事の無いようにと以前申し上げました』
「時計の針は戻せません。疑い続けたまま、協力は続けられないの」
 彼女の言葉に、ヘイシズは仏頂面を作る。杏樹はヘイシズの眼をじっと見上げ、静かに歩み寄っていく。
「疑心暗鬼で、H.O.P.E.と善性愚神の協力、出来ないの。皆の疑念、晴らしたいです。今言葉にして伝えないと、誤解で、共存、壊れます」
 杏樹は懐からボイスレコーダーを取り出す。マイクをヘイシズの方に突き出し、彼女は続けた。
「この会話は記録して、H.O.P.E.内部で公開、します。貴方が、H.O.P.E.と本気で共存する気なら、アイドルとして、広報で手伝います。だから、真実を、話してください」
「……真実か。君達にとって不都合でなければいいがな」

●Rechtserde
「愚神が統治しなければいけない、何か理由が、あるのですか?」
 杏樹が尋ねると、ヘイシズは淡々と答え始めた。
「そもそも、私は“この世界の秩序と平穏”を求めると、最初から言っている」
 ヘイシズは礼服の懐に手を差し入れる。そして取り出したのは、一冊の本。表には“Code civil des Francais”の文字。杏樹はその文字に目を凝らす。
「フランス、民法典……?」
「私達が君達を脅かさなかったところで、生命の本性たる悪が拭われるわけではない。私の目的は生命の悪を正し、己で決めた秩序に己で従えるようにすること。そのためになら、私は“何でもする”。君達が為せば人類の罪となるような事でも、我等なら出来る」
『それが……貴方にとって一体何のメリットがあるのです』
 クロードが尋ねる。ヘイシズは感情の無い眼差しを彼へ向けた。
「利益など無い。最期の日までに、王の恩寵を得るに相応しい精神を涵養する事は私の使命だ。私の世界のように、全て滅びてから救済されるなどという結末には決して至らせない」
 震える六花の肩を支えながら、仙寿はヘイシズを見上げる。
《ヘイシズ、それがお前の本当の矜持なのか? それがお前の信じる共存なのか?》
『……私達をどうするつもり?』
 彼は懐中時計を取り出し、蓋を開いた。刻々と、淡々と時計は動き続けている。
「この時計の歯車のように整然とした秩序が完成した時、自ずと共存も完成する。そのための協力を私は君達に求め続ける。君達英雄には、本来そうする責任があるはずだ。王の大願を果たす為、君達もこの世界に送られてきたのだろう」
《もし仮に、あけびがそうだったとしても、喩え俺の本質が悪だとしても、俺は守りたいものを守る。……聞く限り、お前の秩序は、俺の守りたい物ではなさそうだ》
 仙寿は押し殺した声で言い返した。守護刀の鞘を握りしめ、眉間へ皺も寄せる。その背後に立って、ジーヤはヘイシズにそっと会釈した。
「……英雄のまほらまには一度会っていると思いますが、初めまして。ジーヤです」
 ヘイシズの眼光がジーヤを刺す。身を襲う危機感から一瞬武器に手を掛けそうになったが、どうにか落ち着き払った態度を保った。
「一つ質問させてください。異なる種族が同じ世界で共に歩むのに必要なものって、何だと思いますか」
「相手を理解する事だ。私の目の前にいる存在がどんなルーツを辿って私の目の前に立っているのか。それを知れば、自ずと相手の為に何を為すべきかも見える」
 その眼の光は氷のように冷たい。それでも、ジーヤは目を逸らさずに応えた。
「……確かにそうですが、俺は、貴方のそれは、少し違うと思います。リンカーと英雄のように、相手を尊重し絆を繋いでいく事が大切じゃないんですか」
「それが本当に可能ならば同意するよ」
 そんなものは不可能とでも言いたげだ。央は刀を納めると、ヘイシズを静かに睨みつける。
「今はお前の立場を表明したに過ぎないから、お前に向ける刃は無い。だが……今お前には嫌疑が掛かっている」
『それが事実だと明らかになった時は……覚悟しておきなさい』
 マイヤも怒りを滲ませる。元々募らせていた憎悪が、央の周囲に蒼い気として滲んでいる。
「お前達を信じたお人好しを失望させたツケは、重いぞ」
「そうか。私は君達の問いに適切と思われる返答をしただけだがね」
 ヘイシズは肩を竦める。一瞬漂う沈黙。それを縫って、杏樹は再びヘイシズに尋ねた。
「王は複数の世界を繋げ、全ての世界を、一つにしたい? 世界蝕も、そのきっかけ?」
「その問いの形なら、是と答えておこう」
「ケイゴさんは人間を愚神に、ヘイシズさんは、愚神を人間にしたい?」
「愚神は王の手足となって王の宿願を果たし虚空へ還る。それは王によって私達に与えられた罰だと私は考えている。それは逃れられないと思っているし、こんな罰を、君達にまで受けさせるつもりはない」
 ヘイシズは民法典を懐に戻すと、ゆったりと踵を返した。
「……これ以上はまた今度だ。君達にもやらねばならないことがあるだろう」
 正太郎はボイスレコーダーを握りしめたまま、その背中に向かって一歩にじり寄る。此処で刃を突き立てるのは簡単だったが、今ではないと自分に言い聞かせた。
「舐めるなよ。この世界はお前の思い通りにはならねえ。俺が絶対にさせねえ。この世界は、俺達人間のものだ」
「そうか。……若かった頃を思い出すよ」
 一瞬振り返るヘイシズ。その眼には仄暗い悲しみの色があった。しかしすぐにそれを掻き消すと、おもむろに歩き出す。
「……あなたの神算に続くものが、“はかりごと”ではないと願っているよ。……今となっては、希望的な観測なのだろうが」
「それを決めるのは君達自身だ」
 藍とヘイシズは擦れ違いざまに言葉を交わす。彼は門の前で待つ仲間と共に、大股で社へと帰っていった。藍はそれを見送ると、素早くメールを打ち始める。

 “雪娘から離れるな”、と。

●Leviathan
「何を今更、って感じですな」
 ヘイシズの言葉、各調査での結果などがH.O.P.E.の本部に一つ一つ知らされていく。共存派は冷や水を浴びせられた顔をしているし、逆に否定派は色めき立っている。フィーは回収したケイゴのスーツの断片から得られたデータに目を通しつつ、そんな光景を遠巻きに眺める。
「子供の夢をわざわざ壊す程アレが狭量じゃなかったってだけの話ですな。そろそろ夢だけ見るのを止めて現実を見る時が来ただけって事でしょーよ」
『マア、アンナニ狂ッテタノハ俺モ予想外ダッタケドナ』
「少しくらいは戦いの様子を見たかったところですなあ……」
 目覚めた獅子が掲げたのはあくまで善意。愚神と立った舞台は狂奔の時を迎えていた。

「いやー、頼んでみるもんだね。H.O.P.E.にいて良かったわ」
 仁科 恭佳(az0091)の前で、仙也はへらりと言う。後日、ケイゴの研究資料が欲しいと探してみたら、当局の家宅捜査でハードディスクごと押収され、警察に保管されていたのだ。H.O.P.E.の伝手で、彼はそれを何とか回収したのである。
「で、何かわかった事とかあんの? 研究者さん」
 彼女は睨みつけるように研究論文や資料へ眼を通していたが、やがて溜息をつきながらそれらをデスクへ投げ出した。
「わかんねえ! まさか天才たる私の理解が追い付かないなんて。これを実用化にまで持ってくのは大変そうですが……でも、多分異世界にワープくらい出来そうです」
「ほー。他にはなんか無い?」
 自身を強化するための技術に飢えていた仙也は、自分も資料を覗き込む。
「……まあ、ちょっと待っててくださいよ。何かわかったら報告しますから」
 複雑怪奇な理論の羅列にすぐ飽きた仙也は、デスクから離れて研究室の外を見る。H.O.P.E.の職員もエージェントも慌ただしい雰囲気だ。
「それにしてもねー。統治したがってるなんて、そんなの初めから態度で示してただろうに」

「ようやくだ。……ようやくふざけた時間が終わる」
 自室に帰った正太郎は、集めたデータを仲間の為に纏めていた。反撃の時が来たと思うと、心が滾る。己の正義をようやく果たすことが出来る。愚神の為にどれだけの人間が蝕まれてきたか。それを忘れた連中を見ているだけでも苛立ちは抑えられないでいた。
「どんな言葉を弄しても、無駄だ。牙無き人の牙が、お前を必ず噛み砕く」
 狂った黒獅子に向けて、正太郎は一人挑戦状を叩きつけるのだった。

「……壁は粉々、か」
『証拠隠滅といいますか。自分の技術を誰かに利用されたくなかったのでしょう』
 拘置所の外で、霧人は溜め息をついた。独房に来たはいいものの、わかったのは独房でケイゴが何やら出血したという事くらいだった。死神の縁で付いてきた数名の仲間達は渋い顔をする。
「最後の最後まで迷惑をかけてくれたな、ケイゴは」
 仙寿の呟きを聞きながら、霧人は何となく携帯を取り出す。その画面には、SNSの通知が流れていた。相変わらず、善性愚神への好意的な意見ばかりだ。
「ネットは普通、賛否両論が溢れてるものだと思うんだけど……。愚神の手で甚大な被害を受けた地域も少なくないのに。皆は、不自然だと思わない?」
『つまり?』
 あけびが尋ねると、霧人はさらに続ける。
「アルター社が、その規模を活かして一般人の意識を操作したりしてるんじゃないかな、って。人間ならタダの陰謀論だけど、其処にヘイシズ達が絡んでるなら、出来ない事じゃないでしょう?」
 調査と共に深まる疑惑も併せた、霧人の分析。カイはいかにも不機嫌な面で付け足す。
『それだけじゃない。フィオナ達の亡命の手際の良さからして、妙に話が早かったのがおかしかったんだ。亡命なんぞ簡単に出来るもんじゃない』
「つまりどういう事?」
『ヘイシズには米国のトップを動かせる力を持つ、あるいはそれに近い人物と面識があるって事だ。米国では奴が政治介入できる立場にあるんだよ』
 カイの言葉が、皆に重くのしかかる。鉛を胃に押し込まれた気分だ。
『愚神がこの世界を統べる……これがルナールの言っていた“人類に対する試練”なのか?』
 苛立ち紛れにカイは呟いたが、紗希は首を振る。狐の残した言葉を思い出しながら。
「……違うよ。それは手段。人が自分の脚で本当に立てるのかが、試されてるんだと思う」

 To be continued in the “Millenarianism”.

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
  • 心優しき教師
    世良 霧人aa3803
  • 悪食?
    逢見仙也aa4472

重体一覧

参加者

  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
    人間|18才|女性|生命
  • Black coat
    榊 守aa0045hero001
    英雄|38才|男性|バト
  • 敏腕スカウトマン
    雪ノ下・正太郎aa0297
    人間|16才|男性|攻撃



  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 白い渚のローレライ
    aa2518hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • 心優しき教師
    世良 霧人aa3803
    人間|30才|男性|防御
  • 献身のテンペランス
    クロードaa3803hero001
    英雄|6才|男性|ブレ
  • Dirty
    フィーaa4205
    人間|20才|女性|攻撃
  • ボランティア亡霊
    ヒルフェaa4205hero001
    英雄|14才|?|ドレ
  • 悪食?
    逢見仙也aa4472
    人間|18才|男性|攻撃
  • 死の意味を問う者
    ディオハルクaa4472hero001
    英雄|18才|男性|カオ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • さーイエロー
    サーラ・アートネットaa4973
    機械|16才|女性|攻撃
  • 共に春光の下へ辿り着く
    シルクハット伯爵aa4973hero001
    英雄|22才|?|ブレ
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