本部
恭佳のニューウエポン
掲示板
-
作戦相談室【B】
最終発言2018/04/06 12:25:07 -
作戦相談室【A】
最終発言2018/04/07 17:17:57 -
実証実験・相談所
最終発言2018/04/07 15:00:15 -
質問卓
最終発言2018/04/07 12:12:49 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/04/05 22:54:16
オープニング
●ある日の風景
「姉さん、ゲームばっかしてたら駄目なんやで! だから一生モテないんやでえ!」
「うるせえ!」
とある日の澪河家。パソコンに向かってひたすら4Xゲームに打ち込んでいた澪河 青藍(az0063)は、いきなり恭佳に絡まれた。マウスを動かす手を止めると、背後で何かをガチャガチャ鳴らしている仁科 恭佳(az0091)に向かって吠えた。
「何さ! いいでしょずっと忙しかったんだから! せっかく買ったのに一度もプレイ出来てなかったの!」
青藍の文句を聞き流し、恭佳は右手に持った機械を掲げる。機械の中では二つの霊石がぶつかり合い、淡い光を放っている。
「つーか、何さそれ。さっきからカチカチカチカチうっさいんだけど」
「これ? ああ、これは試作型の新型AGWドライブ。二つ分のドライブを並列的に接続したんだ」
「……ふうん。恭佳にしてはまともな物を開発したんだ」
青藍が頬を緩めると、恭佳は反対に眉をしかめる。
「私だってたまには真面目にやるって。こんな状況だし。ふざけてる暇なんかないじゃん? まあ、せっかく作ったもんは試してみたいよねってわけ。だから姉さん呼び込み掛けてくれない?」
「はいはい。やる気な恭佳を止める理由はないしね」
彼女は頷くと、静かに立ち上がった。
●常に兜の緒を締めよ
「……という事で、一部の愚神の能力を再現したAGWを恭佳が作ってみたよという事なので、皆さん協力して頂けるとありがたいです」
ブリーフィングルームにて、オペレーターの代わりに青藍が説明する。テーブルの上には鍔元に二つのAGWが取り付けられた大太刀、銃身がやたらとメカメカしい擲弾銃、鏡のように磨き上げられた白い円状の盾が並べられていた。恭佳は一つ一つ武器を取り上げて説明を始める。
「この刀はルナールが行使していた改造AGWを再現したものです。大剣用のSWと刀用のSW、どちらも使えるという戦略の拡張性がウリですね。また、この銃はタナトスの能力を再現したものですね。少し性能がピーキーなんで、使う時は気を付けてください。でもってこれがムラサキカガミの能力を再現したものです。皆さんの防御力を直接は強化しませんが、相手の攻撃をある程度吸収して防御力に転化するようになっています。チームに一つずつ貸与するので、うまく使ってください」
彼女にしては珍しく真面目に説明を終えると、青藍が再び説明を引き継ぐ。
「という事で今回は支部内のスペースを借りて模擬戦を行います。一応戦力は均等かつランダムになるように振っていきます。最終的なバランスは私と恭佳の参加で調整しますね」
『あ、私が出るかウォルターが出るかは青藍が参加するチームのみんなで決めてね!』
最近青藍の仲間となったテラスは君達に向かって手を振る。いつの間にか仲間に加わっていた彼女は、いつも通り最初から其処に居たかのように振る舞っている。そんな彼女を横目に、青藍は再び口を開いた。
「善性愚神がどうの、悪性愚神がどうのと、組織としては難しい局面が続いていますが、結局は人類に降りかかる火の粉を払うのがエージェントの仕事です」
「いつ何が起きても良いように、私達は訓練を欠かさないようにしておきましょう」
解説
メイン 模擬戦をしよう
サブ 模擬戦で恭佳開発の武器を使用する
ルール
・最大5対5のチーム戦
・生命力が3割を一度でも切った時点で、そのPCは戦線離脱と見做す
・相手を全員離脱させた側が勝利(降参も可能)、模擬戦終了
NPC
澪河青藍
何かと貧乏籤を引きまくりのエージェント。それでも一応数百年の歴史を持つ古い神社の生まれ。今回は駆け出しが多い方のチームのサポートに回る。
クラス
回避ブレ(65/35)or回避カオ(65/30)のどちらかを指定
スキル
指定可能
仁科恭佳
何かと貧乏籤を引かせまくりの研究者。英雄と人間のハイブリッドであり、ライヴスの扱いに関して天性の才能を発揮している。今回は熟練者の背中を見て勉強。
クラス
命中ジャ(40/25)
スキル
弱点攻撃、トリオ、フラッシュバン、ブルズアイ
WEAPONS
ソハヤノツルキ…一チーム一振りずつ
騒速の能力を元に開発した大太刀。AGWドライブを二つ積む事で、その能力を一部再現した。
[大剣。補正無し。この武器の装備中、【SW(刀)】の効果も発動する]
ヒュプノス…一チーム一丁ずつ
タナトスの能力を元に開発した擲弾銃。AGWドライブを二つ積む事でピーキーな性能になった。
[銃。物攻、魔攻‐100。命中時、3Rの間相手の攻防命中回避を1割減少させる。重ね掛け可能。]
ホワイトクリスタル…一チーム一つずつ
ムラサキカガミの能力を元に開発した盾。AGWドライブを二つ積み、他の盾とは異なる防御システムを実現。
[盾。補正無し。防御成功時、最終ダメージを半減する。]
TIPS
・上から1,3,5,7番目の参加者と2,4,6,8番目の参加者でチームに分かれる。
・能力者レベルの合計値が高い方に恭佳が加わる。(計算してくださいすみません……)
・重体を負わせてしまわないよう細心の注意を払うこと。
・フィールドは30×30の広い空間。
・戦闘時の試作型AGWは煩くないのでご安心を。
リプレイ
●バトル!
『よーい、スタート!』
テラスがブザーを鳴らす。その瞬間、逢見仙也(aa4472)と日暮仙寿(aa4519)が真っ先に動き出した。仙也は大型のライフルを、仙寿はソハヤノツルキを抜き放ち、戦場を駆ける。彼が仲間へと向かっていくのを見た仙也は、銃を構えながら叫んだ。
「仙寿! お前は今特別な女性と一つになってるけど、改めて考えるとどんな気分? 共同作業はどんな感覚?」
仙寿は涼しい顔だ。刀を構え、モーリス チェスターフィールド(aa5159)へと突っ込む。
《ふむ。言葉で俺を揺らすつもりか。そうは――》
『ちょっとっ! そ、そういう言い方ってさぁ!』
しかし、不知火あけび(aa4519hero001)がテンパった。仙寿の足が僅かに縺れる。
《あけび、動揺するな!》
仙寿の歩みが緩んだ隙を突いて、モーリスはAGWドライブがギラつく銃を構えた。
「全力で当たらせてもらう。宜しく頼むよ」
引き金を引いた瞬間、どす黒いライヴスの弾丸が三つ、次々に青藍組のエージェントへと飛んでいく。仙寿はその場で素早く跳び上がって躱した。身の丈並の大太刀を構え直すと、その姿を二つに分かつ。
《そう簡単にやられるわけにはいかないな》
『やっべー、なんかもう強者のオーラみたいなのが見える……』
ルカ ロッシ(aa5159hero001)は僅かに声を震わせる。
「そうはさせない!」
青藍は刀を振るい、ヒュプノスの弾丸を叩き落した。しかし、そんな彼女へも魔の囁きが。
「今日は軍服コスなんだ。サイバーコスじゃないんだ」
「うるせっ! コスって言うな!」
赤面し、思わず青藍は叫ぶ。その瞬間、頭上に刃の雨が浮き上がり、彼女達に向かって降り注いだ。すっかり動揺していた青藍は、慌ててエリズバーク・ウェンジェンス(aa5611hero001)を庇う。盾も構えてエリーの事は守ったが、勢いに負けて彼女はよろけた。
「待って、死ぬ死ぬ!」
『(……大丈夫か、こいつ)』
ディオハルク(aa4472hero001)は呆れて呟く。仙也はうっすら口端に笑みを浮かべ、銃を構えて距離を取り直した。
「ま、この人には効くんだろーなって思ってた」
モーリスは盾を取り出すと、銃を脇へと放り投げた。その瞬間、残像も作りながら仙寿がモーリスへと向かって斬りかかる。その剣閃は陽炎のように朧気だ。
『避け……られるわけないよな!』
「守りの姿勢で受ける方がマシだね……!」
盾を取ったモーリスは、辛うじて刃を受け止めた。ライヴスが盾を通して流れ込み、全身が鉛のように重くなる。しかし、ギリギリ耐えた。モーリスは傍の恭佳へ目配せする。
「今だよ!」
「りょーかいっす」
恭佳は素早く銃を構えると、空へ向かって閃光弾を放った。戦場の真ん中まで飛んだ一発は、青藍チームの目の前で弾ける。白い水晶の盾を構えていたカナメ(aa4344hero002)は、視界を塞ぎ切れずに光をまともに受けてしまった。
『眩しいな……』
「やばいんだが!」
一気に追い込まれ、青藍は相変わらずテンパっている。杏子(aa4344)は溜め息をつくと、青藍に向かってケアレイを放った。
「しっかりしておくれよ、青藍」
「……すんません」
霊符も貼り付けつつ、青藍は小さく頷く。そんな彼女の前に、ナイチンゲール(aa4840)がソハヤノツルキを構えて立ちはだかる。その身にライヴスを纏わせ、剣先を軽く動かして挑発する。
「ブレイブナイト同士、ちょっと手合わせしてみない?」
「ふーん。負けませんよ? ……掠っただけで終わりそうだけど」
青藍は刀を抜いて構えると、自分もライヴスを纏わせ飛び出した。小夜と青藍は共に間合いへ踏み込み、刃を交える。火花が激しく散り、二人の顔を照らした。小夜は大太刀を振り上げて刀を弾くと、身を翻して袈裟に刃を振り下ろす。
『させるか!』
そこへカナメが割り込み、水晶の盾を構えて刃を受け止めた。表面に一瞬罅が入るが、すぐに修復されていく。杏子は背後の仲間に叫んだ。
「さあ、今のうちだよ!」
「うん!」
氷鏡 六花(aa4969)は素早く魔導書を捲る。その手の内に魔力を込めると、少女の周囲を冷気が取り囲む。その脳裏をちらと過ぎるのは、怪我をさせてはいけないという気持ち。さりとて手加減するのは相手に失礼な気もする。そんな六花に、アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)は囁く。
『相手に重い怪我をさせないのも実力の一つよ。ただ全力を出す以上に難しい事だもの』
「……わかった!」
彼女を取り囲む冷気は巨大な一本の氷柱となり、ヒュプノスを構えていた恭佳へと降り注いだ。虚を突かれた恭佳は、一歩躱すのが遅れてしまう。
「やっば……」
しかしその瞬間、滑るように駆け寄ってきたノエル メタボリック(aa0584hero001)が水晶の盾を構えた。降った氷は砕けて恭佳とノエルを襲うが、盾を構えたノエルはそれを受け止める。攻撃を受ける度、盾の表面に紫色の星が浮かび上がる。
「よいぞよ六花、エリスよ。一泡吹かせてやるわい」
ヴァイオレット メタボリック(aa0584)は高らかに笑いながら二人の後衛に向かって目を輝かせる。彼女は皆の熱意に応えているつもりであったが、その実、誰よりも歓喜の思いに震えていた。
「(美佐様、貴方の計らいは……いえ、これは私の思いですね)」
白い水晶の盾から師の想いが伝わってくるようで、思わず彼女達は涙を流す。
『(師のようには戦えませぬが、我らなりに戦ってみせます)』
振り返ると、ノエルは青藍達を顎でしゃくる。恭佳は頷くと、改めて銃を構えた。
「覚悟しやがれ!」
その銃口が向くは、エリーの方向。アトルラーゼ・ウェンジェンス(aa5611)は、彼女を眺めて呟いた。
「アレが有名な恭佳様ですか? 母様」
『らしいですね……良い武器を作れるからといって、良い武器を使いこなせるとは限らないという事、その身でじっくりと教えてあげないと』
エリーは杏子の影に立って、薄らと口端に笑みを浮かべる。銃を構えると、六花に目配せを送った。六花は頷くと、身を翻して氷の風を放った。仙也、モーリス、恭佳は一斉に飛び退いた。そのまま恭佳は引き金を引く。
飛んだ三つの弾丸。エリーへ飛んだ一発は杏子が受け、青藍へ飛んだ弾丸は彼女自身が躱したが、六花は躱し切れずに一発貰ってしまった。
「くっ……でも!」
六花は武器を構え直す。自信ありげなその姿に恭佳は首を傾げた。その瞬間、杏子の影から黒い弾丸が飛んだ。ノエルはどしんと構えて銃弾を受け止める。しかし、広がったライヴスが盾を通じて二人を侵食した。
『ふむ……死神には関わってこなかったが、これは難儀な力ぢゃな』
視界の端から仙寿が駆け込んでくる。ノエルはその行く手を塞ごうとしたが、動きが鈍った状態では彼に追いつかない。横を摺り抜けられてしまった。
《お前の罪科はよく聞いている。……お仕置きだ》
仙寿は大太刀を恭佳に向かって振り抜く。恭佳は咄嗟にモーリスへと銃を放り投げると、左腕のプロテクターで太刀を受けた。
「あうっ」
恭佳は横ざまに斬り倒される。彼女は咄嗟に身を翻し、銃を突き出して身構える。仙寿はなおも容赦せずに止めの一撃を振り下ろそうとする。
その一瞬の隙を突いて、仙也が仙寿の背中へと向けて引き金を引いた。乾いた銃声に気付いた仙寿だったが、正確無比な一撃は躱し切れず、肩口に銃弾が突き刺さった。
「そう簡単に脱落させたりしないって。一人でも欠けたらキツいし」
《さすがだな。……何だかんだと言って、お前は戦場をよく見ている》
背中にぴたりと銃口を向けられたままでは、仙寿も攻撃を続けられない。再び戦場を軽やかに駆け始めた。影に日向に入り、その姿を眩ませていく。
《しかし、俺の剣をそう簡単に押さえられるわけにはいかない》
「やはり、彼を捉えきるのは難しいね……」
モーリスは駆け回る仙寿を目で追う。その視界の端で、戦場中央まで押してきたエリーがその手を天に掲げた。天井高くに刃の雨が浮かび上がる。
『うわわわっ! ヤバいって!』
「そう焦るものじゃない。当たらなければ、どうという事は無いのだよ!」
慌てるルカをよそに、モーリスは素早い横っ飛びで刃の雨を躱した。そのまま銃を構え直し、エリーに向かって黒い弾丸を放つ。カナメが咄嗟に飛盾を飛ばし、その弾丸を受け止めた。
『じーさんのも防がれてるぞ!』
『越えてみろ。私が立っている限り、後ろの奴らには指一本触れさせない!』
そのまま治癒の雨を降らし、カナメはモーリスに向かって啖呵を切る。モーリスは眉を上げると、彼女の佇まいをじっと見つめる。杏子やカナメを年頃にしたような容姿だ。
「元気な御嬢様方だ。終わったら、お茶にでも誘いたいところだね。終わったら」
『またそれかよ!』
二人がそんなやり取りをしているうちに、模擬戦場の端から端へと行き来していた小夜と青藍が二人の目の前を横切る。
「どうしたの? もっと打ちかかって来てよ?」
「やだよ。戦犯になりたくないもん」
小夜の挑発に青藍は応じようとしない。一騎打ちに乗りはしたものの、彼女は結局勝負に及び腰だ。小夜は強気に笑うと、ソハヤを地面へと突き立てた。
「じゃあ、好きなようにやらせてもらおっかな」
ソハヤを手放し、小夜は青藍の目の前を横切るように走り出す。カナメはそれに反応し、小夜へと向き直る。その手には、何本もの鋭い剃刀が握られた。
『こっちに来るつもりか? それなら……!』
「カナメ、気を付けろ!」
間合いを詰めようとしたカナメを、杏子は慌てて制する。足元に閃く細い糸に気付いたのだ。カナメは慌てて足を止め、小夜へ向かって手にした剃刀を投げつけた。鋭く飛んだ剃刀は、外套の裾から覗く二の腕をさっくりと切り裂く。血が噴き出て、彼女の白い外套を紅く染めていく。それでも小夜は笑みを崩さず、手にした糸を振るって青藍達の動きを牽制する。その背後から透き通った光が当てられ、彼女の傷は癒されていった。ノエルが小夜へと手を翳し、困ったように言い含める。
『あまり無理をするでないぞぉ、ナイチンゲールよ。人数差は勝敗に直に繋がってしまうのぢゃ』
「わかってるよ。って事で……!」
張られた糸のせいで間合いに踏み込めない二人に向かって、小夜が逆に鋭く踏み込んだ。糸を放り捨て、愛用の剣を抜いて周囲を一気に薙ぎ払う。青藍は咄嗟に飛び退いたが、カナメは構えた盾で受け止めるしかなかった。
「これでどう!」
二発も眠りの弾丸を喰らい、思考の空白を己で認識するレベルになっていたカナメ。叩きつけられたジークレフの一撃に耐え切れず、思わず床に倒れ込んでしまった。その瞬間、腕に留めていたバッジが生命力の低下を感知して甲高い音を立てる。
『レッドゾーン! カナメさんは撤退してね!』
場外からテラスが手を振る。立ち上がったカナメは、盾を幻想蝶に仕舞いながら場外へと駆け抜けていく。
『さすがに回復が追い付かなかったか……』
「さあ、まだまだやれる?」
剣を構え直し、小夜は尋ねる。青藍は咄嗟に一歩退き、刀を下段に降ろした。
「……当たり前!」
恭佳はそんな彼女達を見ると、銃口を青藍の方へと向ける。しかし、次の瞬間にはその頭上に武器の雨が浮かび上がっていた。気付いた恭佳は素早く撤退しようとするが、土砂降りのように降り注いだ鉄の雨は恭佳をあっという間に打ちのめす。
「やられまひた」
恭佳はその場でふらりと倒れ込む。その姿を、くすりと笑いながらエリーは見下ろす。
『ふふ……私達はいわば新米。戦いの最中でも成長していくのですよ』
本当は培ってきた戦闘経験を徐々に解き放っているだけなのだが。痛がっている恭佳を見下ろし、エリーはその眼にうっすらと愉悦の色を浮かべた。
『人は従魔と違い考える。故に騙し討ちはとても有効ですね……』
「やれやれ。やってくれたの」
そこへ、滑るように動きながらノエルがやってくる。口だけ借りたヴィオは、白い水晶を掲げつつ、エリーに向かって啖呵を切った。
「老いはしたが、その分の経験がある。老獪に戦ってやろうぞ。覚悟するが良い、エリズよ」
『……挑戦されて、黙っているわけにはいきませんね?』
エリーは銃を構えると、ノエルに向かって引き金を引いた。放たれた黒い弾丸が、ノエルの盾に突き刺さる。ノエルは静かに受け止めると、盾の隙間からスマートフォンを取り出しエリーの眼に向かってフラッシュを焚いた。眩い光に、エリーは一瞬気を取られた。
『何を……?』
『今だ!』
「ふむ……そうだな」
モーリスは対物ライフルを取ってエリーへ狙いを定め、引き金を引く。ノエルの方に目が向いていたエリーは、一瞬反応が遅れてしまった。半身になって躱そうとするが、その腰に弾丸が直撃した。
『(このまま負けるものですか……)』
エリーは素早くクラッカーを取り出し、ノエルの前で弾けさせた。同時に衝撃を受けたエリーは吹き飛び、そのまま共鳴は解けてアトルとエリーへ分かれて地面へ投げ出される。その肩に留めていた電子ベルがピリピリと鳴り響いた。
『はーい! すぐに撤退して!』
「……やられてしまいましたね」
アトルは肩を落とす。エリーはそんなアトルの頭を撫で、彼の腕を抱えて抱き上げる。
『問題ないわ。ただで死ぬつもりはないもの』
『むう……やってくれたべ』
クラッカーから噴き出した無数の花弁が、ノエルの顔に纏わりつく。咄嗟に治癒の雨を降らしながら、花弁を振り払おうとしたノエル。そんな彼女に向かって、六花が極光の輝きを向ける。
「そこだね……!」
『六花ぁ、おらを仕留められるもんなら仕留めてみるだぁ』
ノエルは素早く後背へ退くと、盾の代わりに槍を取って放り投げる。回転を加えられた刃は、しかし狙いが逸れる。代わりに、六花の放った深紅に染まった氷の槍が盾に直撃した。刹那、その背中に留めていたブザーが鳴り響く。
『撤退てったーい!』
「……やられてしまったか」
ヴィオは半ば呆けたように呟く。手にした白い水晶には、相変わらず傷一つついていない。その眼は、戦場の隅で大人しくしているエリーへと注がれていた。
『ふむ……ただの新米と思っておったのになぁ。まさか、イタチの最後っ屁のような事をしてくるとは』
撤退する老婆達を尻目に掛け、小夜はなおも青藍と向かい合う。切っ先を擦り合い、間合いを慎重に盗み合う戦いを繰り広げた二人は、そろそろ息も上がり始めていた。
「これで二人ずつ落ちたってわけか……なら、次は!」
叫びつつ、小夜はいきなり大きく横へと飛び出した。その先に立っていたのは、モーリスへ狙いを定めようとしていた六花。
「な、なに――」
青藍と六花が反応する前に、小夜はいきなり六花を小脇に抱えてしまった。六花は顔を赤くしてじたばたする。
「ちょっとナイチンゲール! なにするの!」
「盾にする気か? おう卑怯な真似すんなよ」
刀を振りながら、青藍は小夜を煽る。しかし小夜はさらりと受け流し、剣を構え直した。
「……えー。大事な妹のこと、盾にするわけないじゃん。ただ、魔封じと貴方へのプレッシャーを兼ねただけだもん」
『要するに人質なんじゃ……?』
ウォルターがぼそりと呟いても知らん顔、軽くステップを踏みながら小夜は強気に間合いを盗もうとする。
「ふーん。いいもん」
しかし、六花は諦めていなかった。その手を突き出すと、ライヴスを練って手元に氷の箒を作り出す。六花がそれを手に取った瞬間、六花の身体は弾丸のように飛び出した。
「あ、ちょっと――」
小夜は慌てて六花を抱えようとするが、箒の推進力に負けてすっ転ぶ。そのまま箒に跨った六花は、あっという間に小夜と青藍の下から離れていった。
「やるねぇ、六花ちゃん」
「……まさかそんな隠し玉があったなんて、ね」
小夜は立ち上がると、剣を構えて青藍と向かい合う。そのまま飛び出すと、二人同時に渾身の一撃を振り抜いた。
二つのブザーが同時に鳴り響く。そして、二人はその場にくたりと崩れた。
『ちょっと待って! 俺達が残るのはヤバいって!』
「こうなっては仕方ないよ。やられる前に、やれるだけの事を……」
低空を箒で飛び回る六花。攻撃を受けないように間合いを最大限に引き離していたが、いよいよ六花はモーリスへと狙いを定めて詰め寄ってくる。モーリスは銃口を少女へと向けた。
《そうはさせない》
しかし、素早く駆け込んできた仙寿がモーリスの前に立ちはだかる。モーリスは咄嗟に引き金を引いてしまった。仙寿は大太刀を構えたまま、素早く半身になってその弾丸を躱した。
六花は急上昇して仙寿の頭上を越えると、モーリスに向かって光る手を翳した。
『怖い怖い怖い、何これ!』
「ふふ……やはり、強いねぇ……!」
一際冷たい凍気が吹きすさぶ。ぼんやりする聴覚の向こうでブザーの音を聞きながら、モーリスはその場で大の字に倒れ込んだ。
「ゲームオーバー。だね」
『強すぎるって……』
「あーあ、こうなっちゃったか。ちょっと新米詐欺の人もいたっぽいからなー」
銃をくるりと回し、仙也は周囲を見渡す。氷の箒から飛び降り、六花は仙寿の隣に立つ。仙也の攻勢を前に二人ともあちこちに細かい傷を作っていたが、なおも戦意を高めて仙也と対峙していた。仙也は銃のマガジンを取り換えながら、二人をちらりと見渡す。
「そういえば、その愚神を模した武器を握ってるって事は、それの思い、力を受け継ごうって事だよ?」
仙也に問われ、六花はちらりと足元に眼を向ける。しゃがみ込むと、彼女は白い水晶の盾を拾い上げた。仙也は六花と仙寿を交互に見ながら、さらに尋ねた。
「残した想いを理解してる? 託された物を十全に振るえてる? 三体とも俺は何もわからないけど、強かったんだろ? 何か願いが在ったりしたんだろ? ……ちゃんと出来てる? 応えられる?」
仙寿は刀を握りしめる。狐の話は人伝てにしか聞いていないが、トールと同じように、己の筋を通して死んでいったという。仙寿は顔を上げると、仙也に向かって口を開きかける。
《仙也、俺は――》
「ま、俺的には知るか! って感じだけどね!」
突如仙也は銃を構えた。周囲に三丁の銃も浮かび上がり、一斉に銃弾が放たれる。仙寿は身を躍らせた。その身を二つに分かち、弾丸を躱す。最後の一発も、白い水晶を構えて飛び出した六花が受け止める。
「うわっ……」
銃弾の威力に六花の華奢な身体は簡単に吹き飛ばされる。仙寿はそれを受け止めつつ、身を翻して仙也へと斬りかかった。仙也はノエルの残した盾を拾い上げ、その一撃を受け止める。その瞬間、仙寿へ向かって刃が飛び出す。
《……俺は、守ってみせる》
腕を切られながらも直撃は避け、仙寿は仙也に向けてライヴスの網を擲つ。仙也を取り巻く刃を絡め取りつつ、網は仙也の腕を絡め取った。彼が飛び退き振り払おうとした隙に、六花が再び魔導書を手に取る。
「“あの人”が望んだように、六花は、皆に、もう悲しい思いをさせない……!」
氷の短剣が鋭く飛び、仙也の肩口に突き刺さる。その瞬間、胸元に付けていたブザーが高らかに鳴り響いた。ワイヤーを振り解くと、仙也はその場に座り込む。
「うーん。流石にこの手は食わないって感じかー」
仙也は頬杖ついて目を上げる。仙寿と六花は、真剣そのものの顔で頷き合っていた。
「ま、自分なりに継ぎ方が見えてんなら、それはそれさね」
●訓練の後は
「お疲れさまー!」
労いの声が、模擬戦場に響いた。
「まあ、惜しいところだったけど……というか作戦は大体いい感じに進んでたんだけど。ちょっと想定外の要素があったなー」
『あの女か』
ディオやモーリスと共に、軽い反省会をしていた仙也。彼は仙寿達に混じって談笑しているエリーへ眼を向けた。彼女はアトルと共にぽやぽやした雰囲気を醸している。その姿が妙に怪しくてならない。
「こうした模擬戦は慣れてない、なんて言ってたけど……それは本当なんかね?」
「いずれにせよ、彼女の的確な立ち回りは頼もしいには違いないね。戦力は十分であるに越したことはないだろうし……何より、美しい彼女が傍にいると心が躍るしね」
『じーさん、そうやってまた適当な事ばっかり』
モーリスとルカもエリーをじっと見つめる。その視線に気付いたのか、彼女はちらりと振り返って微笑む。
その笑顔に、ほんの僅か違和感を覚える。しかし、モーリスは微笑み返すだけだった。
『青藍ありがとう。色々勉強になったよ!』
「うむ。それなら企画した甲斐があったというものだ」
青藍は胸を張っておどけてみせる。仙寿は一頻り二人の様子を見つめた後、くるりと踵を返す。床に座り込み、恭佳がパソコンとAGWを繋いで何かをしていた。そこへ杏子も歩み寄ると、全員を見渡して尋ねる。
「傷の手当ても終わった事だし、皆で食事でもしないかい?」
それを聞いた仙寿は、真っ先に頷く。
「そうだな。……恭佳の奢りでいいんじゃないか」
「はぁん?」
恭佳は怪訝な顔をして仙寿を見上げた。彼は首を傾げる。
「研究者だし……稼いでるんじゃないのか?」
「ふうん。じゃあねぇ、その、何? 特別な人と一体になっている時の感想を教えてくれたら奢ってくれても構いませんよ?」
「なっ……!」
恭佳の思わぬカウンターパンチに仙寿は思わず素っ頓狂な声を上げる。あけびも隣で目をぱちくりやっている。ぎこちなく振り向くと、彼女は尋ねた。
『その……どうなの?』
「どうって何が!」
二人が騒いでいるのを尻目に、アトルは恭佳に尋ねる。
「僕お腹すきました。恭佳様、どこに連れてってくれるのですか?」
「えー。アイアム高校生。どっちかって言うと奢られる側じゃない? って事でこれで勘弁」
恭佳は懐からペロペロキャンディを取り出すとアトルに手渡す。しかしアトルは動じない。飴は飴で舐めながら、なおも恭佳に尋ねた。
「僕、原宿に行ってみたいのです。何か美味しいお店知りませんか?」
「……あのねぇ」
『行くならスイーツの美味しいお店がいい! 私も青藍と共鳴してスイーツ食べるー!』
テラスが恭佳の傍でくるくる回る。能天気丸出しだ。そんな彼女に、ナイチンゲールがそっと歩み寄った。その隣には、墓場鳥(aa4840hero001)も寄り添っている。
「こんにちは」
『こんにちは』
ナイチンゲールが会釈すると、テラスも鸚鵡返しに頭を下げる。墓場鳥は腕組みしたまま、二人の様子を見比べている。ナイチンゲールは笑みを浮かべると、彼女に尋ねた。
「今度、遊ぼう?」
『ええ、喜んで』
テラスはふとその眼を空色から青藍色へ変え、小さく頷く。その透き通った声色を聞いた墓場鳥は、得心して頷いた。
『なるほど。……確かに、“我々”にとっては、妹なのかもしれない』
『……』
カナメはソハヤノツルキを手に取る。長さ六尺、カナメの背丈以上に長い。構えてみると、先の重さに釣られて前につんのめりようになった。
『やっぱり、こんな長い刀は私には扱えないな』
刀を鞘に納めると、カナメはそっと刀を抱きしめた。宙をじっと見つめ、彼女は呟く。
『見ていろよ。お前達が試練なら、絶対に乗り越えてみせる』
「……ムラサキカガミ、さん」
白い水晶の盾を見つめ、六花は静かにその名前を唱える。復讐をしないという決断を下す決意をするまでに六花を変えた、善意を以て人を滅ぼす事しか出来なかった愚神の名を。
彼がいなければ、六花は愚神の善性など端から信じなかったかもしれない。
――貴方を救いたい――
「……ん。六花ね、沢山、仲間が出来たの。皆と笑って、楽しい時間を過ごして……ムラサキカガミさんの言う通り、世界が広がったよ……」
『(六花……)』
白い水晶を撫でる六花を傍で見つめ、アルヴィナは嘆息する。
『見守っていかないといけないわね。彼の分まで』
善性愚神に対する不穏な噂もH.O.P.E.内に広がり始めていた。正しく状況を見極めなければ。アルヴィナはそう決意を新たにするのだった。
『まったく、やっとおらの世話に成るようになったようだべ……』
ヴィオは車椅子に座ったままうつらうつらとしていた。膝にブランケットをかけたノエルは、じっとその寝顔を覗き込む。すっかり枯れ切った老婆のそれだった。
「師よ……六花は、それで……」
彼女はぶつぶつと寝言を呟く。夢の中で、彼女もまたムラサキカガミに思いを馳せているらしい。ノエルも車椅子に腰を下ろすと、ぼんやりと天井を見上げる。
『師よ。おら達は、何とかやってるだ……孤児院も、少しずつ大きくなってるんだあよ……』
こうして、彼らの模擬戦は僅差の勝負で幕を下ろす事になった。この戦いで技を磨き直した彼らは、混迷の続く戦いへと再び身を投じるのだった。
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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