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【愚神共宴】連動シナリオ

【共宴】Propaganda

影絵 企我

形態
ショートEX
難易度
難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/04/08 17:01

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掲示板

オープニング

●快進撃の果て
 現地のヴィランズ、アルター社警備部隊の後ろ盾を得て、また新型兵器を受け取った反政府組織は意気揚々と進軍した。勝ち馬に乗れとばかりに、大なり小なり、各地方でレジスタンスが蜂起し始めた。こうなると、都市部にも混乱が起きてくる。捗捗しくない動向に業を煮やしたハワード大佐は、虎の子であるリンカー特殊部隊を反政府組織本隊へと差し向ける事に決める。親衛隊に首都中枢の守備を任せると、ハワード大佐自身は自ら戦車に乗り込み、特殊部隊を率いて出立したのであった。
 この報を聞いた反政府組織は浮足立った。元々反ハワードという一点で集まった存在であり、利害さえも別のところにあったのだ。しかし、今更反乱を無かったことには出来ない。堂々巡りの議論の中、反政府組織の一人、フィオナは信じていた。時代を駆け抜ける英雄達が、必ずや自分達を救うだろう、と。

●汝正義なりや
「……アルター社のケイゴ・ラングフォードという者からの依頼です」
 オペレーターは重々しい顔をして君達に話を切り出す。君達もここに集まった時点で気付いていた。今回の依頼が、ここ二、三年で最も難しい立場に立たされる依頼になるだろうことを。
「簡潔に内容を申しますと、リオ・ベルデで決起した反政府組織の護衛を頼みたい、との事です。ハワード大佐率いるリンカー特殊部隊が出撃の準備を固めているので、反政府組織の本隊に合流し、これを迎え撃ってほしい、と」
 画面に映し出された地図には、本隊が拠点としている工場とリオ・ベルデの首都サン・ニコラス、特殊部隊の予測される進軍ルートが描かれている。
「私達はこれまで、リオ・ベルデの戦局に対しては不干渉を貫いてきました。二、三年前の大規模な武力衝突にせよ、ここ最近まで散発的に起きてきたテロ行為にせよ、動くのは非能力者で構成された兵であり、H.O.P.E.に介入の余地は無かったからです」
 画面は切り替わり、リオ・ベルデでの実際の戦局が映し出される。地上から攻め寄せる兵士達に対し、工場の上階の窓からレジスタンスは次々に銃弾を撃ち込む。白い光が空を裂き、兵士の脚や腕を貫く。装甲車のタイヤを穿ち、無理矢理停止させる。圧倒的な威力だ。
「ですが、今回は能力者集団である特殊部隊が直接出撃する事態となったため、依頼主は我々に白羽の矢を立ててきたというわけです」
 オペレーターは一旦言葉を切り、君達を見渡す。
「前回の潜入調査によって、前以って依頼主と接触する事が出来ましたが、彼の言動……いえ、そもそも、アルター社の意志が信用できるものではありません。依頼主の説明ではRGWは反融和派によってデータが持ち出されたことになっていますが、一方でタオ・リーツェンによる報告では、アルター社が積極的にラグナロクへ介入していた嫌疑が浮かんでいます。依頼主の言葉とリーツェンの報告は上手く噛み合いません」
 円卓の上にアタッシェケースを引っ張り出すと、カードキーを滑らせて開錠する。
「……また、これも一概に信用できるものではありませんが……」
 オペレーターが取り出したのは、一台の小さなボイスレコーダーだった。

●神算の報せ
――君達の仲間がケイゴ・ラングフォードと接触したそうだな。彼は私の契約者だ。私は下級従魔を狩りつつ、彼にライヴスを分け与えてもらう事でこの世界に存在し続けてきた。私には、彼には返し切れない大恩があるというわけだ。
 しかし、であるが故に、今の彼の行動は見過ごすわけにいかない。私と共にアルター社内で勢力を拡大しているうちに、君達と我々を折り合わせるという大望以上のものを、彼は抱き始めているようだ。
 私の知ることが出来た範囲では、レジスタンスに対してケイゴは支援と称して新型のAGWを彼らに支給したそうだ。霊石を用いて限定的ながら非能力者にも能力者や愚神従魔に対する攻撃能力を与える事の出来る性能を与える、という触れ込みでケイゴが開発している武器だが……試験段階では上手くいっていない。霊石の容量があまりに少なく、一発撃つのが限度なのだ。これではミーレス級すら退治できない。
 リオ・ベルデの戦場では、レジスタンスたちがそんな武器を用いて下っ端のリンカー兵を工場から叩き出し、今も立てこもる工場に全く寄せ付けないという。怪しいと思わないか。機会があれば調べて欲しい。なければ私が作ろう。
 何故、アルター社を売るような真似をするのか、か。売るわけではない。アルター社も一枚岩ではないのだ。彼には恩があるが、我々の共存の妨げとなるから、掣肘するのだ。

 ボイスレコーダーから流れる、落ち着き払った語調の言葉。オペレーターは君達に解説する。
「これは、先日ヘイシズからもたらされた報告です。彼の思惑はわかりませんが……依頼主の動向が不審であるという事実は揺るぎません。……注意すべきでしょう」
 君達の一人にレコーダーが手渡される。照明の下で、レコーダーは歪な光を放っていた。
「最後になりますが、今回は専守防衛が大前提となります。彼らが大義名分として掲げる“ハワード大佐の罪”が確証されていない現状、積極的に特殊部隊を叩くのはH.O.P.E.による過剰な政治介入とも見なされかねません」

「任務は、“レジスタンスに所属する非能力者を能力者の手から守る事”です。……為すべき事を、見失わないようにしてください」

●戦禍の沼へ
「来ていただけると、思っていました」
 君達を少女が出迎える。その身の丈にあわぬ巨大なライフルを担ぎ、彼女は君達を工場の中へと招き入れた。休憩所を議場代わりにしていたケイゴは、君達を見るなりにこやかな顔になる。
「大丈夫でしたか。コンテナに押し込めたり、トラックの荷台に詰めたり、余りいい旅路とは言えないものだったと思いますが……」
 適当な雑談に応えている暇も無い。君達は少女の担ぐライフルを注意深く観察する。そして見つけた。銃床部分に青白い霊石が二つ並んで輝いている。君達の視線に気づいたフィオナは説明する。
「ケイゴさんが用意してくださったんです。……これのお陰で、ここまでは辿りつけたのですが……」
 その時、外から工場全てを震わす爆音が響いた。飛び上がった彼女は、慌てて上階へと駆け登る。後に従い、窓の外を見ると、一台の戦車が目に入る。周囲に共鳴した兵士達を従え、ハッチの上に立った男はメガホンで呼びかける。
『これが最後の警告だ。直ちに降伏するのなら、君達の身柄は保証しよう』
「降伏? 勘違いするな。我々はお前の罪を裁くのだ! 人命を私物化する貴様に与えるファスケスなど、存在しない!」
 少女は仲間からメガホンを受け取ると、窓を開け放ち、物怖じせずに朗々と叫ぶ。その姿には、一抹の危うさが漂っていた。


 お前達の正義は、この難局を解決できるはずだ。どうする。


 野蛮で狡猾な笑みを浮かべ、地獄からの男は君達に尋ねていた。

解説

目標 レジスタンスに所属する非能力者を能力者の手から守る

状況
リオ・ベルデ勢
…反乱を鎮圧するためハワード大佐自ら特殊部隊を率いて出撃。人体実験に手を染めた嫌疑がある。
レジスタンス勢
…人体実験の罪を喧伝する事で世論の支持を集めて勢力を拡大。新型AGWを用いて兵士に対峙している。
アルター社勢
…レジスタンスの支援を掲げている。しかし、ケイゴの言葉には大きな疑いがある。
H.O.P.E.
…レジスタンスの人命保護を目的に介入。特殊部隊がレジスタンスに攻撃した時点で反撃を行う予定。

主要NPC
ケイゴ・ラングフォード
 レジスタンスに支援を行う、アルター社警備部隊隊長。ヘイシズからは疑念を向けられている。 

ヘイシズ配下×2
 獣人の姿をしたデクリオ級愚神。RGW研究に晒された人を救出してきたという。

フィオナ
 レジスタンスの中核を担う一人。幼馴染に学んだ射撃技術で戦っている。罪を暴いたケイゴを信頼している。

主要敵
ハワード・クレイ
 リオグランデをクーデターで制圧した張本人。その実態は謎に包まれている。
(以下PL情報)
ステータス
 攻撃ジャクポ(80/55)
スキル
 トリオ、テレポートショット、フラッシュバン
性向
 国益を重視。無闇な消耗は好まない。

特殊部隊×20
 ハワード大佐の虎の子。第二英雄も積極的に取り入れ、効率的な運用を可能としている。
(以下PL情報)
ステータス
 命中ジャクポ(60/30)
スキル
 トリオ、テレポートショット、フラッシュバン

フィールド
・工場
 複雑に入り組んだ工場。外からの攻撃には強いが、内部に侵入されると危険。
・平地
 囲まれる危険があるが、平地にエージェントがいる限りは工場に敵は進入しない。
・敵配置
 工場から150sqほど離れた位置に大佐以下が配置、対峙している。

リプレイ

●絶望
「……大した練度だ。戦闘前からよく統制が取れている」
 戦列を組み、ロングバレルを取り付けたライフルを構えて微動だにしない兵士。クレア・マクミラン(aa1631)はそれを窓から見つめて呟いた。一方、アルラヤ・ミーヤナークス(aa1631hero002)は背後へと眼を向ける。真壁 久朗(aa0032)が、レジスタンスを牽引する者達を管理室へと集めているところだった。
『とはいえ、我々も鴉の長の前で無様は出来ぬ』
 押し殺したような声で呟く。フリーランスとして各地を駆け巡る彼らだったが、今日は小隊員としての誼で、H.O.P.E.に残る彼の下へと駆けつけたのである。
「この戦場、何としても抑えなければな」

 管理室へと集められた、フィオナを含むレジスタンスの中核メンバー。腕に無数の入れ墨を入れたカモッラの長も混じっていた。プルミエ クルール(aa1660hero001)と共鳴したCERISIER 白花(aa1660)は、工場のラインに向けてカメラを固定し、それからメンバーへと振り返る。
「さて、皆々様はハワード大佐殿の陣営が工場内に攻めてくるまではこちらでじっと耐えていただきたく。世論が皆様側に傾いているとはいえ、遺憾ではございましょうが未だ国家としての主権はアチラ」
 その言葉にカモッラの長は反応しかけたが、白花は長へと手を差し伸べてその言葉を制する。古龍幇絡みで、その筋の手合いには慣れていた。
「あちらの大佐殿から国家を皆様の手に“取り戻した”後、国として建て直す為には、この国の民である皆様の手が一つでも多く必要でございましょう? 私共は銃弾程度では左程死にませんから、この場は私達にお任せくださいませ」
 死にたくはないでしょう。言外に警告を忍ばせる。フィオナ達は頷くしかなかった。榊 守(aa0045hero001)も、テーブルの上に広げた地図を見下ろし、ミニチュアの戦車を平野の中心へ載せる。
『ハワード大佐が直接この場に現れたのは、チャンスとも言えます。フィオナ様が直接ハワード大佐に訴える事で、改めてレジスタンスの正当性を主張するのが宜しいでしょう』
「フィオナさんは、杏樹が守るから、信じて欲しいの。ケイゴさんも危険だから、御一緒に」
 泉 杏樹(aa0045)は自分と同い年くらいの少女をじっと見つめる。その真剣な眼差しに、フィオナは微笑みを以て応える。
「わかりました。……頑張ります」
 録画カメラを回しつつ、カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)は居心地が悪そうに顔を顰める。
『なんか政治利用されようとしてる気がしてならねーんだけど……』
「でもフィオナって人凄いね。あたしと同じくらいの年に見えるのに」
『そうか? 逆にあの容姿に皆騙されてるような気もする……』
 素直に感心している御童 紗希(aa0339)と共にぼそぼそとやり取りを交わしたカイは、一歩デスクの方へと乗り出しレジスタンスの面子に尋ねる。
『……一つ聞くが、お前達は皆同等の立場なのか? それとも一応トップはいるのか?』
「一応、私がレジスタンス全体の行動の統括を行っている。だが、基本的に私達の間で上下は無いという事にしているよ」
 眼鏡を掛けた小太りな、この場で最も冴えない容姿の男がおずおずと手を挙げる。カイは彼とフィオナを見比べた。
『(……確かに、こいつを前に押すよりはジャンヌ・ダルクを作った方が良いよな)』
 フィオナの立ち位置は広告塔。それを確かめたカイは、仏頂面のまま一歩退く。代わりに、共鳴した日暮仙寿(aa4519)は、真剣そのものの顔で周囲を睥睨した。
《白花も言ったが、お前達が先に攻撃をすれば、相手に反撃の大義名分を与える事になる。そうなれば俺達がこの戦いに介入する余地はない。その点は覚えておくんだな》
 この難局で政治利用され、H.O.P.E.にさらなる不利を押し付ける事は避ける。その一念で彼は優しさを押し殺していた。彼は踵を返すと、管理室の扉に手を掛ける。
《隊員達の様子を見たい。一旦失礼する》
 そう言い残し、つかつかとその場を歩き去った。それを見送り、久朗はカモッラの長へと眼を向ける。
「しっかりと舎弟の手綱は取っておけよ。この局面を乗り切りたいと思うならな」
 男は鼻で笑う。久朗はそれに動じず、さらに一歩、長へと向かって踏み込んだ。
「もし余所者の指図は受けないと異議を唱える者がいたら……」
 久朗は男が持っていた新型AGWのバレルを掴み、自分の心臓へと銃口を押し付ける。彼の放つ気迫に、思わず男は仰け反った。
「今すぐ俺を殺しに来いと伝えろ。零距離で喰らっても死なない自信はある。トリブヌス級の愚神に腹を貫かれようとも膝をついた事は無い。……これから戦うのは、そういう相手だ」
『……地獄極楽はこの世にあり。絶望、そして希望も』
 セラフィナ(aa0032hero001)はレジスタンスと仲間達を見渡す。
『行きましょう』
 それを合図に、レジスタンスもエージェント達もおもむろに動き始める。それを部屋の隅で部下と共に眺めていたケイゴも、透かしたような笑みを浮かべて動き出そうとする。
「さてさて、私は――」
「杏樹と、一緒です」
 彼の聞こえよがしな呟きを遮り、守と共鳴した杏樹はケイゴの前に立ちはだかる。ケイゴは首を傾げて、口角を持ち上げる。
「いやいや、我々も微力ながらお力添えしたいところなんですがね」
 其処へアークトゥルス(aa4682hero001)もやってきた。既に君島 耿太郎(aa4682)と共鳴した彼は、刃の付いた盾を取り出しケイゴの前に立ちはだかる。
『貴殿も承知の通り、状況が複雑で我等も余裕が無い。貴殿の部下と共に、ここは安全な工場内で控えて頂きたい。その方が我々にとっては助かるのだが』
「やれやれ。そんな怖い眼で見るのは止めていただきたいのですがね」
『そもそも、何故前線に来られた。貴殿の立場ならば後に報告を受けるだけで十分だろうに』
 アークはケイゴへとじりじりと迫る。ケイゴは肩を竦めると、肩に担いだ銃を見せつける。
「私はヘイシズさんのように安楽椅子で安穏としているタイプではないのでね。私達の開発したAGWがどう活躍するか、きちんと見届けたいのですよ」
 もっともらしい事を言い放つと、ケイゴはおとなしく杏樹に連れられ管理室を出ていく。それを見送った迫間 央(aa1445)は、小さく肩を竦めた。
「どう活躍するか……か」
 隣に寄り添うマイヤ サーア(aa1445hero001)の横顔には、照明の加減か仄暗い影が差している。彼女の脳裏には、アジトで初めて出会った時のやり取りが思い浮かべられていた。
『それに……この前といいすっかり彼らの正義を押し付けられた気がするわ』
「正義なんてモノは“振り翳した時点で大義を失ってしまう”もの。誰もが心に大切に持っていなければならないけれど……それを乱用してはならない」
『……少し嫌な予感がするわね』
 二人は共鳴すると、影に紛れるように管理室を出た。

《少し聞きたい事がある。そのAGWはもう何度も使っていると思うが、性能はどうだ》
 ラインに降りた仙寿は、ライフルを抱いて地べたに座っていた男達に尋ねる。彼らは仙寿を見上げると、朗らかな顔で応えた。
「最高だぜ、最高。一発ぶち込んだだけで、兵士共が泡食って逃げちまったよ」
《つまり威力はまともというわけか……》
 だが、これまではリンカーにしかまともに使えなかったような代物だ。何か裏があるに違いない。仙寿は渋い顔のままで更に尋ねた。
《使っている時の体調はどうだ。苦しくなったりはしないのか》
「いやぁ。ないない。むしろ最高な気分になるぜ。身体も普段以上に動くんだ。何だか、この銃を握ってると、力が湧いてくるっていうか……」
 男達は口々に銃を絶賛している。仙寿の中でそれを聞いていた不知火あけび(aa4519hero001)は、そっと仙寿に耳打ちする。
『(……おかしいよ、絶対)』
《(そうだな。少なくとも、ただのAGWではなさそうだ)》

「何やってんだよファンの奴らはよぉ。これがあればあの特殊部隊だって何とかなるだろ? こんなところに引きこもってないで、さっさと追っ払いにかかればいいだろ」
 工場の窓際に位置取ったレジスタンス達は、妙に静まり返った工場の空気に耐え切れず、ぼやき始める。フィー(aa4205)はそんな彼らを横目に、へらへらと笑う。
「やめといたほうがいいんじゃねーんですかねー。あっち側はこっちが籠ってるだけで手出しせざるを得なくなんですから。相手が何を言おうとこっちは待ってりゃいいんですよ、待ってりゃ」
「……ちっ。何で今更こそこそしなきゃいけねえんだ」
 男は不満たらたらだ。フィーは対愚神ライフルの整備を進めながら、肩を竦める。
「……若いねぇ、全く」
『(確実に利用されてるな)』
 ヒルフェ(aa4205hero001)は軽やかな調子で呟く。フィーは懐から新聞のスクラップを取り出す。任務の前に配られた、リオ・ベルデでばら撒かれたというタブロイドの一部だ。そこには、今はアメリカの方に亡命しているという四肢欠損の男が映っている。
「この分じゃ、掲げてる大義名分の方もどーだか」
 下らない。と思うが、仕事は仕事だ。フィーは幻想蝶からライヴスゴーグルを取り出すと、顔にそっとあてがった。

「リンカーではない人間相手にリンカー部隊まで出すほどに腰抜けなのか!」
 杏樹を傍に置き、フィオナはメガホンを取って再び叫ぶ。守が指示した挑発の文言だ。特殊部隊は、下で銃を構えたまま、微動だにせず聞いている。
「こちらにはアルター社の支援で新型のAGWもある! 国民に非道な人体実験を行ったお前達に、私達は屈したりしない!」
『AGWがあるというのなら、それを扱えるというのなら、君達は既に能力者と変わりは無い。故に我々はリンカーの犯罪人と同様に君達を遇する事に決定した。それだけだ。あと十分だけ待とう。その間に、投降か、反逆か選べ』
 巨大なスピーカーから大佐の声が響く。盾を脇に置き、バリケードの傍に陣取ったアークは呟いた。
『……この点は、同意せざるを得ないな』
 その新型AGWが本物ならば、まさしく世界を変える力。能力者と非能力者の垣根はなくなり、これまで存在した弱者と強者の区別はなくなる。こうなれば、H.O.P.E.の存在理念は違う意味で崩れ去る。ただ、アークはその存在を信じ切れない。
『あくまで本物ならば……だが』
 隣で様子を撮影していた央も、渋面作って頷く。
「まあ、そんなものが在ったら苦労しないだろうな」

「少し、貸してもらっても、いいですか?」
 アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)と共鳴した氷鏡 六花(aa4969)は、新型AGWを抱える少年に尋ねる。この空間に漂う緊張感からか、その振る舞いは普段の六花に少し近い。
「お願いします。何だか、嫌な気配がして……」
 少年は怪訝そうな顔をして、いかにも嫌そうに銃を抱え込む。しかし、六花の真剣な眼差しに耐え切れなくなり、ようやく銃を差し出した。六花は銃を丁重に受け取ると、静かにライヴスを流し込む。AGWドライブが起動し、霊石が薄らと光を放つ。流し込むライヴスの量を少しずつ増やしていく中で、六花は不穏な感覚に襲われた。
『(変よ。この銃そのものが、何だか生きているような気がするわ)』
「(……うん。六花のライヴスが、流れてるっていうより、食べられてる……?)」

「なーる。それなら確かに、“非能力者”でも自由に使えますわなあ」
 ライヴスゴーグルで具にAGWを観察していたフィーは、一人合点して呟く。その意味深げな呟きに、横の男は不満げな顔をして詰め寄った。
「どういう意味だよ?」
「そいつはいよいよ使わない方が良いんじゃねーんですかね。まだ間に合う、って奴っすな」
『命に代えてもあの大佐の罪を暴きたいなら、止めはしないけどな』
 ヒルフェが追い打ちのように煽り立てる。二人のやり取りに不気味な空気を感じた男は、思わず自分の手にしたライフルを見つめる。二つの霊石が歪な光を放っていた。
「とんだ茶番劇でしたな、こりゃ」

《……従魔が憑いているかもしれない、だと?》
 仙寿は六花の言葉を聞いて眉間に皺を寄せる。仙寿は咄嗟に周囲のレジスタンス達を見渡した。そして違和感に気付く。誰もが銃を抱えたまま、片時も手放そうとしない。もちろん戦いの場だから当たり前なのだが、文字通り肌身離そうとしないのだ。
《すぐにその銃を出せ》
 鞘ごと刀を抜き、仙寿は目の前の少女に厳しく言い放つ。ぎょっとしてしまった少女は、反射的に銃を目の前に突き出す。仙寿は刀の柄を銃の横っ腹に叩きつけた。銃は突如金切り声を上げ、激しい火花を散らせる。何かが抜け出したかと思うと、ライヴスの光となって霧散する。呆気に取られていた少女は、その場に腰を抜かしてへたり込んだ。あけびは息を呑む。
『そんな……!』
《やはりアイツはクロだ!》

『戦車及び敵指揮官確認。ふむ、虎の子が攻めあぐねれば、撃ち込んでくるであろう』
 共鳴を済ませたアルラヤとクレアは、工場の屋根の上からライフルのスコープを覗く。壮年の男が無線機を手に工場を見据えていた。戦車の砲身も、真っ直ぐ工場へ狙いを定めている。
「或いは、バリケードはあれで吹き飛ばしてくる可能性もある。……いずれにせよ、レジスタンスを殺すには十分な破壊力だ。鷹の眼としてアレも見なければな」
 そばの部隊にも眼を向ける。持っているのは皆一様にライフル。事前の情報に誤りはなかった。かくして着々と準備を進めているクレアだったが、どうにも下が騒がしい。
「下では一体何が起きている……」

「ちょっと、ちょっと……荒っぽい事は止めて頂けませんかねえ……」
 警備部隊が止めようとするのも構わず、久朗はケイゴを壁へと追い込んでいく。央もケイゴの隣へと迫ると、その手を捻り上げた。
「この戦いにおける正義なんか、俺にとってはどうでもいい。だが、従魔を市民に取りつかせようとしていたとなれば話は別だ」
「何を言ってるんです。従魔?」
 あくまでケイゴはすっとぼけようとする。アークはレジスタンスから取り上げた銃をケイゴの目の前に放り出すと、盾の先端を思い切り叩きつけた。銃は悲鳴を上げ、煙のような従魔が噴きあがり、消滅した。
『今、日暮殿や六花嬢が武器を検査しているが、今のところ全てに従魔が憑りついている。……これは、元々そういう前提で作ったものではないのか?』
 ケイゴの顔が歪む。限界まで口角を持ち上げ、狂ったような笑みを浮かべた。
「……ああ、そうさ。従魔の扶助があれば、ただの人間も手っ取り早くリンカーと同じ境地に立てるじゃないか」
「こいつ、おかしいっすよ……!」
 耿太郎はケイゴを見て思わず呟く。刹那、警備部隊が動き出そうとした。央とアークは目配せし、素早い身のこなしで部隊に拳打を叩き込んで沈黙させる。そのまま、二人はハイエナの愚神へも目を向ける。彼らは慌てて諸手を掲げた。
「違う。俺達は何も関わってねえ。よく調べなかったのは悪かったけど! 俺達はヘイシズ宰相に言われてこいつの様子を監視しに来ただけだ!」
「……」
 久朗はじっと愚神を見据える。部屋の隅で様子を恐々と見守っていた六花だったが、其処へそろそろと歩み寄る。
「六花は……貴方達を、信じたいと思います。一緒に、戦いたい……です。誰も、殺さずに……六花のこと……護って、くれますか?」
 ハイエナは互いに顔を見合わせる。やがて、六花の眼の高さまで腰を落として頷いた。
「俺達を信じるってんなら、いくらでもやってやるさ」
『どうすんだ! 止めるんなら止めた方が良いぞ!』
 カイが通信機から叫ぶ。新型AGWが全て使い物にならないとなれば、状況は丸きり変わってくる。H.O.P.E.と愚神二体だけが、単純に倍近い戦力とぶつかる羽目になるのだ。次にはクレアが通信を飛ばしてきた。
「ひとまず配置に付いた方が良い。我々はその戦力を敵に対して示してしまった。今から開戦を避けるのは困難だろう」
「そうだな。……せめて、彼らを守らねば」
 久朗は央や六花達と頷き合うと、手早くケイゴ達を縛り上げ、工場の入口へ向けて駆け出した。入れ替わるように、杏樹がフィオナを連れて作業場へと駆け込んでくる。
「……大丈夫、です。皆さんは、杏樹がお守り、するの」
 縛られ、地面に転がされながら、ケイゴはへらへらと笑い始める。血走った目をかっと見開いた彼は、杏樹をじっと見上げていた。その異様な顔は、二人に緊張感を抱かせるに十分だった。
『(御嬢様。……嫌な予感が致します)』

『時間だ。鎮圧を開始する』

 戦車の砲門が吼える。次の瞬間には、激しい白光が工場の入口で炸裂していた。

●防戦
 工場の入り口で激しい火柱が上がる。濛々と立ち込める黒煙に紛れて、数名のエージェントが一斉に飛び出した。六花はメガホンを手に取り、兵士達に向かって呼びかけた。
[こちらはH.O.P.E.です。H.O.P.E.は、“能力者による非能力者への攻撃”を……認めません。一方的な虐殺を防ぐため、この戦いに介入します。攻撃を続けるなら……撤退の意志無しと見做し――]
 言い終わらぬうちに敵の銃が火を噴く。仙寿とカイは並んで駆け出し、戦車へと向かって突っ込んだ。
《止まれ! これは非能力者に対する一方的な攻撃だ!》
『先刻申し上げた通りだ。能力者への攻撃手段を持つ存在を非能力者とは認められない』
 戦車のスピーカーから冷然とした声が響く。二人の目の前で特殊部隊は大きく散開した。そのまま銃口を二人へと定め、次々に引き金を引く。仙寿は白羽根を広げて攻撃を自らに引き寄せながら、必死に大佐へと叫んだ。
《そうじゃない! レジスタンスは偽物のAGWを掴まされ――ぐっ……!》
 一発の弾丸が脇腹を掠める。仙寿は身を捻り、刀を抜きながら地面へと降り立った。
『信用できないな。アルター社の警備部隊が身分を偽っているのではないか?』
 冷然とした反論。あけびは必死に叫んだ。
『違う! 下がってよ。貴方だって、部下の人を消耗させたいわけじゃないでしょ!』
 その隙に、カイは白刃の大剣を担いで戦車へと突撃する。その耳に、クレアからの通信が飛んでくる。
[急いでくれ。あの戦車砲、恐らくメルカバだ]
『戦車砲をガチの戦車に乗っけたってわけかよ!』
 言う間にも、砲門がライヴスの光を帯びる。その照準は、入り口の方で構える久朗達へと向いていた。カイは歯を剥き出すと、懐へと潜り込む。
『させねえよ!』

「……ったく、どこもかしこも汚水だらけ、これじゃ腐んのも時間の問題ですわなぁ」
 薄ら笑いを浮かべたまま、フィーは何かを憂うように呟く。バイポッドを取り付けた対愚神ライフルを構え、戦場のど真ん中へと狙いを定める。スコープを覗き込むと、カイへ銃口を向ける一人の兵士に向かって爆雷を撃ち込んだ。爆音と共に激しい土柱が噴き上がり、その兵士は成す術もなく吹き飛ばされていった。
「ただ眺めてんじゃねーですよ」
 そのまま、フィーは震えあがっている傍のレジスタンスに眼を向ける。
「主戦場じゃなく両翼側を監視! 万が一の事があったらいけねーんでね。あんたらだって死にたかないからその武器を手放したんでしょーよ」
「は、はい……」
 戦場のど真ん中で丸腰になってしまったレジスタンス。借りてきた猫のようにおとなしくなり、すごすごと持ち場に付いた。

《こっちだ!》
 ハッチから上半身を覗かせた壮年の男――大佐の気を引くように、仙寿は素早く駆け回る。大佐は冷徹にライフルを構えると、仙寿に向かって一発撃ち込む。躱し切れず、肩を銃弾が掠めた。仙寿は歯を食いしばりながら訴える。
《今回は機を改めるべきだ。状況が変わったんだ》
『そうだ。退がらねえってんなら、力づくでも退がってもらう!』
 ライヴスを溜め込み、刃紋を炎のように輝かせたカイは、目にも止まらぬ三連撃を戦車砲に叩き込んだ。ライヴスを噴出しながらその一撃を耐えていた砲台も、最後の一撃で真っ二つに折れる。大佐は咄嗟にカイへ向かってライフルを向けたが、彼方から飛んできた二発目の爆雷が戦車の履帯に突き刺さる。
 爆発。その隙にカイと仙寿は共に戦場のど真ん中から離れていく。振り返ると、煙の中から大佐が飛び出し、兵士と並んで二人を見据えていた。
「あの目……」
 ふと、紗希は違和感を覚える。見た目こそは肉体に衰えを知らぬ壮年といった趣だが、空中から地上へ降り立つときのしなやかな挙動、二人を見据える目つきはその印象とは違って見えた。
「何だか、女の人みたい……?」
『バカ言うな。どっからどう見ても男だろ!』
 大佐は二人へと向けてライフルを構える。そこへ、分身を作り上げた央が素早く割り込んでいく。叢雲の剣を抜き、薄曇りのオーラを纏いながら戦場の中心へと躍り込んでいく。
「こっちだ、大佐」
 鋭い声で挑発する。大佐はライフルを彼へと向けると、素早く引き金を引いた。眩い光を曳きながら飛んだ一発は、身構えた央の前で消滅する。そのまま時空を跳び越え、半身になって銃弾を躱そうとした央の脇腹を掠める。スーツが擦り切れ、ワイシャツが血に染まる。マイヤは思わず呟いた。
『(……単純に攻撃を当てられたのは、久しぶりかもしれないわね)』
 央へまともに攻撃を当てられる者は、H.O.P.E.の中でも片手で数えるほどしかいない。その者達に並ぶ男を前に、央は剣を構え直した。
「アメリカとメキシコを敵に回して生きているだけの事はあるな。……だが、俺達にもH.O.P.E.として欠かす事の出来ない矜持はある」
『……何だ』
 左右から次々に飛んでくる弾を俊敏に躱し、央は大佐のライフルめがけて斬りかかっていく。刃と銃身が触れ合い、火花が散った。
「俺は市民を守る。それは目の前で脅威に苦しめられている存在だけじゃない。社会での分を守って生きている、善良なリンカーや英雄の社会的立場も守るという事だ」
 再び銃声が轟き、央は間合いを切って大佐と向かい合う。
「どちらが正義なんてのはどうでもいい。ただ、俺が守りたい矜持の為に……非能力者をこうして脅すような真似はご遠慮願いたいって事だ」
『成程。……お前達がH.O.P.E.というのは、もしかすると嘘ではないのかもしれんな』
 大佐は右手を掲げる。十人の兵士が、一斉にライフルを構えた。
『……ならばその実力を示してみせろ。ロシアのレガトゥスを攻め滅ぼしたという実力を。それを以て、私はお前達の存在証明にしよう』
 ライフルは一斉に轟音を響かせる。放たれた三十発の弾丸が、徐々に前線へと向かっていた久朗とアークに次々突き刺さる。盾で凌いでも、十数発もまとめて叩き込まれては堪らない。二人はその場でよろめいた。
「ぐっ……」
 久朗は咄嗟に気付けを自らに叩き込み、どうにか耐え忍ぶ。それでも目の前が霞んだ。隣のアークも、賢者の欠片を口に放り込んで何とか意識を保つ。
『やはり一筋縄ではいかないか』
 リンクによって高められたライヴスは、どれほど守りを固めてもエージェントを蝕む。久朗は盾を取り直しながら、背後の六花を振り返る。
「大丈夫か」
「……はい」
 六花は頷くと、吹雪を兵士に向かって巻き起こす。散開状態で構える兵士二人が、氷風に包まれ足元を崩された。それでも、多くの兵士は未だに無傷で銃を構えている。アルヴィナは苦々しげに呟く。
『広く構えて面攻撃を弱体化させる……少し彼らの事を侮っていたかもしれないわね』
 六花が必死に兵士へ攻撃を見舞っている隙に、カイは再び前線へと突進する。その背中にクロアゲハの翼を広げ、兵士へ狙いを定める。
『そっちだけじゃねえぞ!』
 兵士は無言で銃を向ける。その脇から央が突っ込み、素早く蹴りを入れて怯ませた。
「させるか」
『喰らいやがれ!』
 次の瞬間、翼から一斉に小型のミサイルが放たれ、数名の兵士に向かって降り注ぐ。兵士達は咄嗟に身を丸め、爆風から最大限に身を守った。再び賢者の欠片を口に含み、その隙にアークは盾を構えて一歩前へ踏み出した。
『止まれ。AGWを行使した事が能力者と等価である事の証明だというのなら、彼らはもうそうではない。彼らはもう貴殿と戦う能力はない!』
『そうして我等を騙すつもりか?』
 再び十人が一斉に銃を構える。放たれた弾丸を次々に打ち払いながら、アークは叫んだ。
『このような手に出ても、己の無実の証明にはならない。速やかに銃を下ろせ!』

「させ……ません」
 その頃、工場内部では全身を傷つけられながらも杏樹が警備部隊の前に立ちはだかっていた。ゴーグルの奥で目を爛々と輝かせ、AGWを構えた彼らは、まるで機械のように杏樹へ襲い掛かる。
「どうした。守っているだけでは死ぬだけだぞ」
 すっかり本性を現したケイゴは、にたにたと笑いながら杏樹の苦しむ様を見つめていた。
『貴方の罪は全てわたくしたちのカメラが収めておりますのよ? このような真似は、貴方の心証を悪くするだけではなくて?』
 プルミエは警備部隊から距離を取りながら、レーザー銃を何度も撃ち込んでいく。隊服は焦がされ燃え尽きていくが、内側から現れたプロテクターには全く傷がつかない。ケイゴはへらへらと笑う。
「どうでもいい。これは罰だ。私の実験を妨げた貴様達への」
 逆に警備部隊は拳銃を構え、プルミエに向かって撃ち返す。
 レジスタンス達の悲鳴が響き渡る中、杏樹が咄嗟に身を乗り出し、その攻撃も受け止めた。くらりと足が縺れたが、何とか踏み止まって振り返る。
「……大丈夫、です?」
「助かりました。……しかし、この様子だと、この方達も何やらいかがわしい処理を施されているのかもしれませんわね」
 警備部隊は相変わらず言葉を発しない。マスクの奥で不穏に呼吸し、銃を二人へと向けてくる。その動作には最早人間らしい意志が感じられない。プルミエは咄嗟に撃ち返しながら、顔を顰めた。
『上位者は下位にある人間に対して思うが儘に実験を施す。よくある話ですわ』
「悪しざまに言ってくれる。私の実験の崇高な意義が理解できていないくせに」
『崇高な意義ですって? よくもまあ、しゃあしゃあと仰いますわね。全く気に入りませんわ、その様な態度は』
 隊員に向かってアンカー砲を撃ち出す。足元に直撃した錨は、男を蹴躓かせた。照準が逸れ、放たれた銃弾は工場のパイプラインを傷つける。それを事も無げに眺め、ケイゴは肩を竦めた。
「君の快不快など、知った事ではない。多元宇宙へ漕ぎ出でる権利人となったこの世界の住人は、それに相応しい力を手にしなければならないのだ」
 眼を剥いた彼は、歯を剥き出して二人に問いかけた。
「それとも怖いのかい? 人類の進化が。君達が特別な存在で無くなることが怖いのか?」
「……そんな事、無いです。貴方の、やり方は……ただの、間違い、です」
 杏樹は首を振る。守もケイゴに向かって問いかけた。
『アルター社の情報が持ち出されてRGWは作られたと聞きましたが、結局は全てRGWを用いた人体実験。……アルター社内の内部分裂の原因も貴方では?』
「っははははぁ――」
 堰を切ったように嗤いだす。しかし、その哄笑は不意に途切れた。ぐるりと白目を剥き、ケイゴはその場に倒れ込む。手刀を構えたフィーが、戦斧を肩に載せてうんざりしたように呟く。
「ったく。何か騒がしいと思ったら……外もやべーんですから、面倒増やさないでくれないっすかね?」
『開き直るのが早すぎるな』
 突如足を踏み込んできたフィーに、警備部隊は咄嗟に銃を彼女へ向けた。しかし、次の瞬間にはフィーが大きく間合いへ踏み込み、斧の一閃で一人を地面へと捻じ伏せた。続けざまに傍の男へ石突の一撃を叩き込みながら、フィーは小さく縮こまっているフィオナへ向かって肩を竦めてみせた。
「ま、ウマい話は信じすぎねえ方がいいですぜ? 所詮他人なんですからさ」

「くそっ!」
 絶え間なく放たれる銃弾を、ハイエナ二人は盾となって受け止める。その身に纏う軍服が擦り切れ、血のように紅いライヴスが溢れる。六花は賢者の欠片をハイエナに差し出す。
「大丈夫?」
「ああ。愚神なんてのは、しぶといだけが取り柄だ。ほらかませ!」
 ハイエナは六花を顎で促す。六花は頷くと、激しい地吹雪を数人の兵士に向けて走らせた。咄嗟の事で躱す間もなく、後を追うように駆け抜けた稲妻が彼らの足元に喰らい付く。彼らは呻き、地面へと力無く倒れ込む。ハワードは兵士達を見渡し、鋭く叫ぶ。
『怯むな!』
 地面に倒れ込んだ兵士は、素早く身を転じて寝そべり、ライフルを構え直そうとした。しかし、素早く駆け込んできた央がその手からライフルを掠め取り、仲間達の方へと放る。そのまま彼は脚を止めず、再びハワードへと肉薄した。
「撃ってこい」
 ハワードはその挑戦を買った。ライフルを素早く構え、次元を跨ぐ魔弾を放つ。全身に蒼い輝きを纏った央は、紙一重でその一撃を躱し、そのまま苦無をライフルの先端へと向けて投げつけた。
『む……!』
 苦無は破裂し、ライフルの銃身を拉げさせる。武器を失ってしまったハワードは、腿のベルトからサバイバルナイフを抜き放ち、兵士と共に一歩後ろへと退いた。代わりに、満身創痍になりながらも久朗は鳥型の盾を取り回し、機械の眼をぎらつかせながら特殊部隊の面子を見渡す。
「数多の災厄と最前線で渡り合ってきた俺達が、喩え精鋭と言えど人間には負けていられないんだ。……そろそろ、俺達がH.O.P.E.だと信じる気になったか」
『ふむ。確かに、その身のこなしは非常に鍛え抜かれていると言っていい。また、その所作や作戦は、組織的な訓練を余り受けていないようにも見える。このような特徴を併せ持つ組織の人間は……H.O.P.E.以外には有り得ない』
『我々は希望と呼ばれます。その理由、ご理解いただけましたか』
 セラフィナが如何にも少年らしい声で、しかし厳然として言い放つ。ハワードはサバイバルナイフを構えたまま、なおも値踏みするようにエージェント達を見渡した。

「……そろそろか」
 屋根の上から兵士に対する狙撃を淡々と続けていたクレアは、カウンタースナイプを躱しながら戦場を見渡す。数の優位と射程を活かした戦術によって、想定以上に味方への被害は大きかった。しかし戦場は、徐々にH.O.P.E.側の優位を取り戻しつつあった。六花へと銃口を向けた男の脚を撃ち抜いて体勢を崩させると、クレアはフラッシュライトを鞄から取り出す。
 何度も光を明滅させ、クレアは声無き言葉をハワードに向けて送った。大佐はゆっくりと面を上げ、彼女の放つモールス信号を訝しげな顔で見つめていた。
「(能有る指揮官ならば、応ずるはずだ)」
 彼女は無線のチャンネルを指定する。やがて、大佐は手にしていたサバイバルナイフをケースに戻すと、左手で無線を取り、右手で周囲にサインを送った。
[……その申し出に応じよう。一旦工場へと撤退し給え]

 その言葉は大佐の傍のエージェントにも聞こえていた。絶え間なく続いた銃弾の雨に疲弊しきった彼らは、どうにか武器を収めたのだった。

●鬼哭
「初めまして、サー。私の事はお好きなようにお呼びください。今は雇われなので」
 工場内へと戻ったクレアは、窓から大佐達の様子を窺いながら通信を再開する。慎重に言葉を選びながら、彼女は大佐へと問いかける。
「お互い状況は芳しくありません。我々はケイゴ・ラングフォードの陰謀に巻き込まれた非リンカーを守らねばならないし、そちらは体制維持の為負ける訳にはいかない。ですから、ここらで手打ちといたしませんか」
[……確かに、君達の実力は本物だ。武器は奪われてしまったし、このまま戦いを続けるのは不毛という他に無いだろう]
「我々は職務を果たす。そちらは第三勢力と戦闘の末、計画を改めて練り直す。サー、そちらの兵は良い兵です。かかったものは、莫大な時間と予算でしょう。ここで無闇に消耗するのは惜しくはありませんか」
 クレアは称賛の言葉も交えながら、丁寧に訴えかける。その思いが通じたのか、やがて大佐はふっと息を洩らし、応えた。
[君達の言う通りだな。……承知した。今回は君達の顔を立てるとしよう]
「イエスサー。またお会いしましょう」
 通信を切る。大佐達は素早く隊列を整えると、足並みを揃えて撤退していった。それを見送ると、ちらりと久朗へと振り返る。
「ひとまずは任務終了だ。……何ともないか」
 包帯で全身をぐるぐる巻きにした久朗は、やや血の気の無い顔で頷く。
「問題は無い」
『とても危ないところでしたけどね……』
 淡々と答えた彼は、央が無理矢理押収した特殊部隊の武器を手に取る。その武器は、幻想蝶へとすんなり収まった。RGWではないらしい。幻想蝶へ収めることも出来ず、部屋の隅に山積みとなったRGWを見つめ、彼は顔を曇らせる。
「(たとえRGWを開発していても、精鋭に余計なリスクを背負わせはしないか)」
 彼はそのまま管理室の棚を漁った。書類は幾つも出てくるが、その内容は車のパーツがどう、家電のパーツがどうとしか書いていない。クレアは首を傾げる。
「どうした」
「何か痕跡がないかと思ってな。……だがこの通りだ」
 そばに立っていたアークも、クレアと共に書類を覗き込む。その書類や指示書には、武器に関する文言など欠片も出てこなかった。
『慎重に事を進めてきた彼の事だ。もし彼が本当にRGWを開発しているとしたら、この程度の隠蔽やカモフラージュはするだろう。実際にRGWに組み上げるのは、差し詰め首都の工場で、といったところか』
「でも、これからどうすればいいっすかね……」
 一歩離れて大人達の会話を見つめていた耿太郎はぽつりと呟く。アークも眉を寄せる。
『……確かに、状況は深刻かもしれないな』

「……ん。皆さんが、無事で、良かったです」
 六花はほっとして胸を撫で下ろす。トラブルはあったが、プルミエと杏樹、フィーの尽力でレジスタンス達は守られていた。満身創痍の警備隊員は、今度こそ暴れられないよう雁字搦めに拘束されている。ケイゴも哄笑した表情のまま地面に倒れ込んでいた。
 しかし、彼らの表情が晴れる事は無い。
「……終わった」
「ヤバいよ。……俺達、死刑になるかな」
「大佐に逆らってこんな事までしたんだ。もう一生牢屋からは出られないだろうな」
 レジスタンス達がぼそぼそと呟く。不穏な呟きに、杏樹は思わず顔を曇らせた。彼らの命は守る事が出来た筈なのに。とんでもない過誤をしたような不安に襲われる。守は顔を顰め、AGWの残骸に目をやる。
 戦いが終わって冷静になり、彼は気付いていた。無意識のうちに素に返り、彼は呟く。
『そこまで計算していたんだな。お前は』
「その通り。最後に勝つのは……私だ」
 ケイゴは身をよじって起き上がる。舌舐めずりをして、不意に高笑いを始める。それを聞きつけたエージェント達は、傷の手当の手を止めて、部屋へと飛び込んでくる。
 ケイゴは壁を伝って器用に立ち上がると、後ろ手に手を縛られたままエージェントへとよたよたと詰め寄っていく。その眼にはふらふらと小刻みに揺れている。
「ヘイシズが君達の信頼を買う為に、この私を利用する可能性は容易に想像出来た。だから私は、絶対に君達が没収しなければならない武器を用意したのだ! 君達が真実に気づいたが最後、必ずやレジスタンスを崩壊させなければならないように!」
 早口でケイゴはまくし立てる。
「この野郎……」
 仙寿は拳を固め、あけびと共に憎々しげな眼差しをケイゴへと向けた。それを待っていたかのように、ケイゴは満面の笑みで振り向いた。
「さあどうする? 大佐は首都に帰った後、粛々と一般兵を用いて彼らを拘束するだろう。そして……最早君達に介入の余地は欠片もない」
 仙寿と六花は唇を噛む。他のエージェントも、表情は様々なれど押し黙っていた。眉間に皺を寄せた久朗が、重々しく口を開く。
「全て計画の内か。大佐と手を組んでいたな。大佐は体制に不満を持つ者を炙り出して捕らえ、お前は自身の開発したRGWの運用実験が行える。そのために反乱を扇動したのか」
 ケイゴはひきつけを起こしたように笑うと、さらに追い討ちをかける。
「気付いたところでもう遅い。お前達には是非ボロを出していただきたかったのだがね。人類の進化を独占し、道を閉ざしているお前達は消えて貰わなければ困るのだよ」
 ケイゴは悦楽に満ちた表情を浮かべながら、時折喉の締まったような声を出す。カイは腕組みしたまま、低い声で唸る。
『そういう事か。俺はお前がH.O.P.E.を政治の場に引きずり出したいもんだと思っていたが……そういうのが目的じゃなかったんだな』
「目的は、ただ私達を貶める事。大佐に味方すれば人々からの支持を損なう。レジスタンスに味方すれば国家からの支持を損なう。どっちに転がっても、貴方にとっては嬉しい」
 紗希が独り言のように呟くと、ケイゴは背筋を逸らしてぐるりと振り向く。
「そもそもの目的は、君達の力を借りてレジスタンスの快進撃を演出し、彼らにこの武器を使わせ続ける事だったがね。策は二重三重に構えておくものだ。どんな気持ちかな。守りたいと思った志を、自らの手で損なう気持ちは。市民の希望を、知らずの内に奪った気持ちは」
 フィーや央達は無感動、鴉の二組に白花は仏頂面。守やカイ、アークはひたすら眉間に皺を寄せ、仙寿や六花は苦悶の表情を浮かべた。
 ケイゴがへらへらと笑う中、ふらりとフィオナが立ち上がり、一足飛びに飛び掛かってその頬をぶん殴った。ケイゴは一際大きな笑い声をあげて横倒しに床へと倒れ込む。
「いい加減にしろ。……悪いのは、お前じゃないか」
 肩で息をしながら振り返ると、フィオナは丁寧に礼をする。
「守ってくれて、ありがとうございます。皆さんがいなかったら、今頃どうなっていたか」
 顔を上げてフィオナはエージェントを見渡す。その眼には涙が浮かぶ。
「……でも、これからどうしたらいいんでしょう? 私達は、取り返しのつかない事をしてしまった……こんな奴に騙されて、多くの人を巻き込んで、こんな……!」
 かけるべき言葉が見つからない。杏樹や耿太郎が逡巡していると、工場の闇の中から、不意に金色の双眸が輝きを放った。静かに床を踏みしめ、黒いスーツに身を包んだヘイシズが現れる。
「ケイゴ・ラングフォード。いかに言葉を弄しようと、彼らに君は負けたのだ。その事実が今ここで揺らぐことは有り得ない」
「貴様……!」
 ヘイシズを目にした途端、ケイゴは眼を剥く。そんな彼への注目は既に断たれ、エージェント達の視線は彼へと全て注がれていた。
「……ヘイシズさん。どうして、ここに」
 杏樹は尋ねる。ヘイシズは相変わらずの仏頂面で、淡々と応えた。
「愚神にとって、世界の境目などあってないようなものだよ」

●New Deal
 突如として現れたヘイシズの行動は素早かった。レジスタンスの中核を名乗るメンバーをリオ・ベルデ中から集めると、エージェントと共に国外へと離脱させた。目的地はアメリカ。事実上の亡命である。
 その後間もなく、ヘイシズはケイゴのアルター社内での罪科として、危険なAGW――RGWの開発や、RGWをリオ・ベルデで生産していた事、また、根拠のない罪でハワード大佐を糾弾し、民衆を蜂起させていた事などを発表した。これに呼応して、ハワード大佐も今回蜂起したレジスタンスはケイゴの実験の被害者であると発表、一部の中核メンバーを除いて“大赦”すると述べた。
 こうして、H.O.P.E.を取り巻き複雑怪奇な様相を呈していたリオ・ベルデ問題は、一旦終息へと向かう事になったのである。

『工場からはRGWのドライブが発見されました。貴方の部下は首都の研究所からあの四肢欠損の男を救い出したといいます。ラグナロクの研究所から出てきた情報から言っても、彼がRGW開発に関わっていないとは思えないのですが』
 アルター社本部。異世界種族融和プロジェクトリーダー室。即ちヘイシズの居室。守はデスクの前に立ち、ヘイシズをじっと見据えて尋ねた。彼は静かに頷く。
「そうかもしれないが、今はケイゴ一人の暴走という事にしておきたまえ。これ以外には、リオ・ベルデの国内不安を沈静し、レジスタンスに対する大赦を大佐から勝ち取る手段は無かった。今のこの状況下で、彼の罪を暴いている暇はない。今は彼に政治をさせておく方がいいのだ」
「貴方がそれを仰いますか、ヘイシズ」
 他人事のような物言いに、白花は呆れて首を振る。ヘイシズはすっとぼけたように肩を竦めると、ちらりと白花やプルミエを見上げる。
「感謝する。君達が丹念に記録を取ってくれたおかげで、彼の罪を詳らかにするのも容易だった。彼は牢屋で黙秘を貫いているが、後の祭りだ」
『動画を切り貼りしての印象操作……余り気持ちのいいものではなかったですわね』
 プルミエは口を尖らせる。任務から帰ってきた二人がH.O.P.E.の職員と共に行ったのは、自らが記録した工場内の様子の編集だった。ケイゴが如何に狂っているかを強調するように動画を組み、インターネットなどを通して公開、今回の結果に対する一定の理解を大衆へ求める事となったのだ。
 そして、それは一定の効果をもたらした。武器を没収し、レジスタンスを頓挫させたH.O.P.E.に対する不満の声は今のところ沈静している。
「ケイゴさんは、一体、何が目的で、あのような事を、したのでしょう……」
「アレは進化を求めている。あらゆる手段を尽くして、全ての人間を愚神のように異世界を渡れる存在へ変えようとしているのだよ。……突き詰めれば、私のしている事も似たようなものだが」
 杏樹がヘイシズに尋ねる。彼は懐から懐中時計を取り出すと、カバーを開いて文字盤に目を落とした。杏樹の渡した時計は、今も刻一刻と時間を刻んでいる。
「私からも一つ、君達に質問をしよう」
 ヘイシズは、おもむろに杏樹達を見上げた。彼らが見たヘイシズの金色の瞳は、相変わらずどこか物憂げで、くすんでいた。
「君達は、この先の未来に希望を抱いているか?」

「行くのか」
 小隊“鴉”の拠点。久朗とセラフィナは、クレア達を見送る為軒先に立っていた。コンパクトにまとめた医療器具や荷物を肩から提げたクレアは、僅かに眉を開いて答える。
「ああ。……また新しい任務だ。フリーに転身してからというもの、出費が酷く増えてしまってな。幾つ任務を受けても足らない」
 彼女の横顔を、セラフィナは柔らかく微笑みながら見上げた。
『聞きましたよ。お酒代も最近削ったって』
「その点についてはやや不本意なのだが……己の信条を貫くためだ。今は諦める他ない」
 クレアはバツが悪そうに肩をすぼめる。しかし、すぐに普段通りの実直な彼女へ戻ると、久朗の仏頂面と向かい合う。
「今回の戦い、まだ完全に終息したとは言えない。また何か起こるだろう」
「そうだな。リオ・ベルデ本国だけじゃない。……あの男も、まだ何かを狙っている」
 拘束され、連行されていくケイゴの姿が脳裏を過ぎる。彼は狂ったように笑みを浮かべながら、護送車に押し込まれていった。その横顔は、敗北した者のそれではなかった。
「支援が必要ならば、いつでも呼んでくれ」
『はい。……いつだって、クレアさん達は鴉の一員ですから』
 セラフィナの言葉に頷くと、クレア達は踵を返して己の道を歩き出した。

「今回はヘイシズに恩を売りつけられる形になったか」
『……気に入らないわね。ケイゴという男以上に、彼の宣伝政策に乗せられた気がするわ』
 エージェントが良く行きつける、とあるカフェテリア。隅っこのテーブルに陣取った央は、マイヤと向かい合いながらコーヒーを飲んでいた。傍のテーブルにたまたま居合わせたフィーは、二人の方へと身を乗り出す。
「仕方ないんじゃないですかね。今回は錯綜した状況の整理に追われた部分もありましたしな。死者無しで済んだんですし、最低限やるべき事はやり遂げたって事で」
 給仕の運んできたブラックコーヒーのカップを手に取ると、フィーはその透き通るような漆黒をじっと見つめた。
「あのライオンの様子を見るにつけ……まだまだふざけた状況は続きそうですしな」
「……そうですね。やはり手際が良すぎる」
 世間の相とは正反対に、黒獅子への疑念はいよいよ強まっていくのだった。フィーの影から這い出し、ヒルフェはくつくつと笑う。
『セメテ、何カ予想外ノ展開ガアレバ面白インダケドナ』

「会長と約束はしたが……中々上手くはいかないな」
『普段会長がどれだけ難しい立場に立たされてるか、思い知らされたね』
 H.O.P.E.東京支部。資料室の一角に座り、仙寿とあけびは浮かない顔をしていた。潜入捜査での失策――実はそれこそがフィオナの信頼を勝ち取ったのだが――を挽回するとも意気込んでいたが、結局あと一歩足りなかった。段ボールいっぱいに抱えた資料を雑に広げながら、カイは応える。
『いつだってどうにもならない事はある。そのどうにもならない事に引っ張られて何もかも台無しにするよかマシだ。あのまま俺達が何も気づかずにAGWを使わせ続けていたら、あいつらは革命に成功しても、従魔になって今度は俺達に狩られる事になっただけだ』
『それだけは避けられて良かったわね。命あっての物種だもの。……今後RGW開発やそれに関しての人体実験への関与が確定すれば、今度こそ、彼女達に皆が手を差し伸べるわ』
 冷たい手で霜付かせないように気を付けながら、アルヴィナは新聞のスクラップをぺらぺらとめくる。その隣で報告書を読み込みながら、六花はアルヴィナに尋ねた。
「……ん。その時には、今度こそ……六花達も、フィオナさんを、助けられるかな」
『そこまでやっていたら、むしろ俺達は黙っているわけにいかない』
 アークは回収したRGWの調査結果に目を通しながら呟く。耿太郎は傍で資料を整理しながら首を傾げる。
「非能力者に対する迫害……って形になるんすよね」
「……戦ってて思ったけどあの人、凄く信頼されているような気がする。そんな人がそんな事に本当に手を染めてたとしたら、それは一体どうしてなんだろう」
 カイと共に彼らのやり取りを聞いていた紗希は、ふと思いついたように呟く。あけびは顎に手を当て、うっすら眉間に皺を寄せる。
『そうしなきゃいけない、何かがあったとか?』
「いずれ真実を掴む。……これ以上、悲劇は起こさせない。それが、俺達の正義だ」
 仙寿は懐から手帳を取り出すと、挟んでいた写真を手に取る。ファーラの手記のカバーの裏に隠されていた文章が写っていた。それを見つめた彼は、唇を真一文字に結ぶ。
「俺達は、“それ”に負けない」


 われわれ一人ひとりの気が狂うことは稀である。
 しかし、集団・政党・国家・時代においては、日常茶飯事なのだ。


 Propaganda 了

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結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631
  • 龍の算命士
    CERISIER 白花aa1660
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
    人間|18才|女性|生命
  • Black coat
    榊 守aa0045hero001
    英雄|38才|男性|バト
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631
    人間|28才|女性|生命
  • 我等は信念
    アルラヤ・ミーヤナークスaa1631hero002
    英雄|30才|?|ジャ
  • 龍の算命士
    CERISIER 白花aa1660
    人間|47才|女性|回避

  • プルミエ クルールaa1660hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • Dirty
    フィーaa4205
    人間|20才|女性|攻撃
  • ボランティア亡霊
    ヒルフェaa4205hero001
    英雄|14才|?|ドレ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • 希望の格率
    君島 耿太郎aa4682
    人間|17才|男性|防御
  • 革命の意志
    アークトゥルスaa4682hero001
    英雄|22才|男性|ブレ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
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