本部

【森蝕】連動シナリオ

【森蝕】リオ・ベルデへ

影絵 企我

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/03/09 18:15

掲示板

オープニング

●ファーラの手記
 もし、H.O.P.E.に所属する者がこの文面に目を通しているとするならば、我々は戦いに敗北したということになるだろう。故に、まずは我々を打ち破った事に対する賛辞の言葉を述べておきたい。素晴らしい。世界の正義を担うに相応しい力を備えていると言えるだろう。

 よって、私は以下に私達からの依頼を述べておきたいと思う。別に我らを弔えということではない。我々は罪人となる。喩え肉が雨晒しの鳥葬となっても悔いはない。
 私達の依頼は、私達の因縁を詳らかとすることだ。
 かつてダスティン――君達はトールとしてその名前を知っているだろう――は民間軍事会社の一員としてリオ・ベルデの内戦に参加していた。その最中で私とダスティンは出会い、盟約を結ぶ運びとなった。
 内戦があった事くらいは皆知っていると思うが、かの戦線はリンカーが前線に出てこないため、君達の関わる余地はこれまで無かっただろう。だが、私の予測では、そろそろリオ・ベルデがきな臭さを増してくる頃だと思う。土地が近いから、ある程度の噂が洩れ聞こえてくるのだ。
 故にだ。我々の物語が幕を開けた舞台である、リオ・ベルデを訪ねては貰えないだろうか。そしてその眼で、その国がどうなっているのかをその眼で確かめて欲しい。
 伝手はある。メレディス――君達はシアルヴィとしてその名を知るだろう――は元々リオ・ベルデの人間だった。彼を知る者の名前と予想される居住地を以下に記す。多少は変わりあるかもしれないが、その辺りは君達でどうにかして欲しい。幼馴染だったというから、メレディスの名を出せば何らかの反応はあるだろう……

●雷公最期の挑戦状
「御覧の通りです。これは戦後に発見されたラグナロクの本拠地の内部で見つかりました。これと一緒に」
 ギアナ支部の会議室で、オペレーターが君達に向かって報告を続けていた。彼女はテーブルの上に古臭いパッケージのタバコとジッポライターを乗せる。ジッポライターは軽く煤け、使い込まれた跡が見える。トール――ダスティンの遺留品であった。
「リオ・ベルデはH.O.P.E.としての連絡が限定されるため、少なからず危機が伴います」
 プロジェクターで映し出される映像が地図に移り変わる。米墨からリオ・ベルデへ伸びる矢印にバツ印が刻まれ、渡航禁止の旨を表していた。オペレーターはそれを指揮棒で指し示す。
「H.O.P.E.としては、この依頼を受ける必要は必ずしもないと考えています。ただ……」
 ふと、オペレーターは顔を曇らせた。
「彼らが、我々の側からは決して見えないものを見てきたのは事実です。此処で彼女の意志に応える事で、新たな視座を得る事は決して無意味ではないとも思います。“善性愚神”を名乗る勢力が現れ、世情が混乱しつつあるのは事実ですからね」
 
「なので、こちらからは無理に任務を履行せよとは申しません。何かあった場合、出来る限りのサポートはしたいと考えていますが、少なからぬ危険に身を晒す覚悟を持った上で、この任務には参加してください」

●いざ、リオ・ベルデへ
 そして君達は、この任務に挑むことを決めた。単なる未知への興味からかもしれない。あるいは、トール達の意向を汲むことで、死者への手向けとしようと考えたのかもしれない。いずれにしても、君達はコロンビア発の飛行機に乗り、リオ・ベルデ共和国へ今まさに向かっていた。
「これを取れ。もう向こうの入管には賄賂を渡してあるが、下手に喋るなよ」
 同席する男から手渡されたのは偽造のパスポート。どれも、リオ・ベルデが国境を封鎖していない国のものだ。虎穴に入らずんば虎子を得ず。正義のヒーローらしからぬが、闇が無くては光は輝けない。
「お前等はフリーのジャーナリストって設定だ。決してH.O.P.E.の人間だってことを明かすな。何をされるかわからんからな」

 君達は頷く。農村と現代的な工場がモザイクの様に入り混じる不思議な国へ、飛行機は徐々に高度を落として近づいていた。



★リオ・ベルデ共和国について
 リオグランデ河流域に存在する共和制国家。肥沃な土地を生かした綿花栽培及び軽工業を中心として発展してきた。世界蝕以降は、領内で採掘された霊石により飛躍的な発展を遂げつつあったが、2014年にハワード・クレイ大佐によるクーデターが発生。精鋭能力者特殊部隊を含む首都防衛隊が大統領府を襲撃しこれを掌握。軍事力を背景に地方の反抗も鎮圧し、現在では事実上の元首の地位にある。
 内戦時に政府側に立った勢力に対して支援を行っていたアメリカやメキシコに対しては敵対姿勢を強めており、一度はライヴス鉱山の奪取を目論んだとみられるリオ・ベルデ軍の領土侵犯が発生した。現在でも国境封鎖を続けるなど睨み合いが続いている。なお、領土侵犯行為の具体的な詳細は不明となっている。
 H.O.P.E.は、内戦に投入されている戦力が主に非リンカーであったことから内戦時には介入できず(非リンカーの戦闘に対しては原則介入不可)、政治的中立の維持の必要性(世界連盟と協調関係にある事から)より、領土侵犯により米墨本国VSリオ・ベルデ共和国という構図が完成してからもまた不干渉を貫かざるを得ない状況が続いていた。

★リオベルデの風景
1.農村
工業化のあおりを受けて農地が徴発されている。軍警察の姿がちらほら見える。軍勢力は少ないが、反乱軍のアジトと成りやすく、警戒されているため目立つ行動は控えるように。
2.第二都市
海沿いに工場が並ぶ小規模の都市。軍警察の詰所があり、パトロールも盛んに行われている。しかし、隠れる場所も多く、案外動きやすい。路地裏に暮らす貧民は何かと国をよく見ている。
3.首都
ハワード・クレイのいる大統領府など、政府の中枢が集まっている。議会や研究所など、政府に所属する施設の周囲2kmは関係者以外は立ち入れない規則となっている。近づこうものなら問答無用で逮捕される。事実上の立ち入り禁止区域。
4.工場
土地に関わらず建っている工場。軍が警備に当たっており、物々しい雰囲気を見せている。入るのは危険。

解説

目標 リオ・ベルデの内情を知る

情報調査(PL情報)
[一定の行為に基づいて情報ポイントを獲得出来ます。このポイントが10以上で目標は達成されます]

1.ファーラの手記を読み込む(最大2点)
ファーラの遺言だけではなく、トールが能力者となった頃の話も書いてある。トール達が何を思って行動していたかがわかる。

2.リオ・ベルデの街並みを撮影する(最大3点)
クーデター当時は軽工業と農業が中心だったが、この3年で急速に工業化が進んでいることがわかる。無闇にカメラを向けて官憲に睨まれないように注意。

3.リオ・ベルデの人々から話を聞く(最大3点)
生活にライヴス技術が流入しているものの、農地の減少で自給自足が難しくなり、食糧不足に陥りつつある事がわかる。素性を明かさないよう注意。

4.メレディス(シアルヴィ)の幼馴染に接触する(最大5点)
ファーラの手記に記されていた情報を元に、幼馴染の住んでいる寒村を訪れる。メレディスが元リオ・ベルデの少年兵だった事が確定する。また、話の中で彼女の信頼を勝ち得る事が出来れば、彼女が反政府レジスタンスの一員である事が発覚する。

TIPS
フリージャーナリストの一団として、コロンビア経由でリオ・ベルデに入国している。H.O.P.E.である事を明かすとがっつりマークされるため注意。場合によっては難癖をつけられ逮捕される可能性もある。(そうなった場合、事実上の拘束期間として重体とします。)
幼馴染はメレディスの行方が杳として知れなくなってしまった事を心配し続けていたようだ。
逮捕という事態は今後にも関わる為、避ける事が望ましい。
困った時は賄賂を払えば何とかなるかもしれない。(ならない奴らが来る前にやろう)

リプレイ

●彼の想い
――メキシコ軍に追い出されてから、我々はコロンビアに渡った。この地では霊石利権を巡って内戦が再燃している。此処なら仕事があるに違いないと思っていたが……結局私達以外は放逐されそうになり、断念した

『メキシコ軍に追い出された……』
 不知火あけび(aa4519hero001)は表情を曇らせた。ファーラの細やかな筆致を読み通した彼女は、英雄にさえどうにも出来ない理不尽に直面した、ファーラの諦念を見ていた。
「内戦の主戦力が非リンカーな以上、能力者になった奴は使えない……という事か」
 日暮仙寿(aa4519)は煤けたライターを握りしめる。彼がラグナロクへと渡ってしまった理由が何となく見えた気がした。
「行くぞ。あいつが何を見てきたのか、知るんだ」

――H.O.P.E.のギアナ支部を目指してみる事になった。我々のようなものでも受け容れてくれるのだろうか。また同じような事にならなければよいが

「こういうのを、運命の悪戯っていうのかな」
 GーYA(aa2289)はぽつりと呟く。まほらま(aa2289hero001)も腕組みをして、どこか寂しげに微笑む。
『迷子になってしまったのかしらね。そこへ向かうまでに』
「俺も、自分の命なんかどうでもいいと思ってた。……今も思ってるかも。だから、何となくわかる気がするよ」
 心を取り戻した仲間と共に戦い、果てたトールを想う。
「トールにしたら、H.O.P.E.もラグナロクも同じだったんだ」

――人を殺した。向こうから襲ってきたのではあるが。ダスティンは気にした風も無かった。メレディス達が無事ならそれで十分と言った

「……ん。本当に、トールは、仲間の事が大事だった……んだね」
 氷鏡 六花(aa4969)は眼を閉じ、手を組んで祈る。手記には、密林での数多の襲撃と、己の知恵を振るってそれを辛うじて潜り抜け続けたトールの姿が事細かに記されていた。
『仲間の為なら何でも出来る。それが彼の強さでもあり、弱さでもあった。……彼は正義を問うていたけど、それは自分に向けた言葉でもあったかもしれないわね』
 アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)はふっと溜め息をつく。
『私達も、心に留めておかなければいけないわね』

――バルドルという男に逢った。彼は能力者達を纏め新たな正義を実現するため活動しているらしい。ダスティンは彼と取引した。仲間の世話もすると彼が約束したからだ。事実我らは今、久方振りにパンを食べ屋内で眠れている

『忠義だな』
 アークトゥルス(aa4682hero001)は呟く。折に触れて文句を言いながらも、彼を見限る事はけして無かったとファーラは記していた。君島 耿太郎(aa4682)は首を傾げる。
「仲間を助けてもらったから、トールもバルドルの事を見限らなかったんすかね……」
『バルドルも、彼の意志に見合うだけの器の持ち主であればよかったのだがな』
 タブレットに落とし込んだファーラの手記を読み返しながら、アークは呟く。耿太郎は眼を伏して呟く。
「トール達の事、胸に留めておかなきゃならないっすね」
『そうだな。正義の味方の宿命というやつだ』

――彼を見ていると悲しくなる。彼は聡明で徳性をわきまえている。なのに彼は、わざと破滅の道を辿っている。彼は傭兵にならずとも生きて行けたのだ! この世界の何が、彼をこんな風にしてしまったのだろう?

 狒村 緋十郎(aa3678)は飛行機の窓からカリブ海を見下ろす。雪娘が今そこに居るとなると、居ても立ってもいられない。しかし今は調査に全力を挙げねばならない。彼にそう思わせるだけの苦悩が手記には込められていた。
「アルター社……」
 彼にしてみれば胡散臭いの一言。ラグナロクへの技術流出についても疑っていた。それどころか、アルター社を介して、この国が愚神の勢力下におかれているのではないか、とも。
『全く。しかめっ面で思い詰めて』
 アウトドアファッションに身を包んだレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)は、呆れかえった顔をする。これでは記者というより密航者だ。
『仕方ないわね。貴方は余計な事を喋らず、わたしの隣にいなさい。いいわね?』
 緋十郎は一も二もなく頷いた。

――試作型のAGWが渡された。彼は使わないようだ。アルター社製の武器と仕様が似ているのが気に食わないらしい。聞けば、内戦ではどちらもアルター社製の武器を使っていたらしい

「ふむ……」
 手記を受け取ったヴァイオレット メタボリック(aa0584)は、文面とひたすらにらめっこをしていた。隠語や暗号が無いか。斜め読みも試した。ノエル メタボリック(aa0584hero001)は隣でやれやれと肩を竦める。
『そんな仕込みをするとは思えんがのぅ。誘導ミスはしたくないじゃろ』
「やってみなければわからん」
 今日のヴィオはわざわざ体重まで落として、筋張った老女になっている。それだけ、今回の依頼には思う所があったのだ。

●聞き込み
「……ん。仙寿、さん。何だか、ちぐはぐな景色ですね」
 インスタントカメラをバスの外に向けて、六花は呟く。地平線の彼方まで広がる畑の中に、工場がぽつりぽつりと建っている。仙寿も双眼鏡で彼方を見つめる。
《後で工場も確認しないとならないな》
 仙寿は言葉を切ると、六花を振り返る。
《あと、“さん”づけでは他人行儀だ。此処では兄呼びか呼び捨てでいい》

「思った以上に都会ですね……」
 ハーメル(aa0958)は車窓の彼方に見える街並みを眺めた。煙った視界の先に、ビルが林立している。今もクレーンが幾つも動き回り、新たなビルの建設を進めていた。空港から着いてくるガイドはにこやかに笑った。
「ここ数年でサンニコラスは急速に発展しています。ライヴス鉱石及びその加工品の輸出で外貨を獲得し、最新鋭の技術や設備を中国から導入しているのです」
「前もって確認しておきたいんですけど、入ってはいけない場所とかって、あります?」
 尋ねてみると、ガイドは頷き地図を広げる。首都の中心部に紅い斜線が引かれていた。
「政府関係施設の集中している中央管区には決して入らないようにしてください。リオ・ベルデ国籍を持たない人間は一切立ち入り禁止ですから」
「わかりました……」
 怪しいぞと言われたようなものだ。ガイドが余所見をした隙に、ハーメルは懐から幻想蝶を取り出して耳元に当てる。
『ここは……素直に従っておく方が良い』
 墓守(aa0958hero001)は幻想蝶越しにハーメルへ囁いた。
「そうだね。此処で何かあったらマズいし……」

『よくわからない?』
 貧民街を訪れたレミアは、酒に酔って地べたに座り込んでいる男に話を聞いていた。
「そうだ。ハワード大佐の顔を見た奴は多分俺達の中にゃいない。いつだって出てくるのは大佐と誓約を結んだ英雄の方だからな。メッセンジャーだそうだ」
 レミアは眉を寄せ、顎に手を当てる。誰に聞いてもこの調子だ。ハワード大佐が何者であるか、ろくに知らない。レミアは切り口を変えてみる。
『クーデターが起きてから、生活はどうなったのかしら』
「忙しくなったよ。工場がポンポン建って、どこも二十四時間稼働してる。俺もこうして飲んでるが、夜には工場で働かにゃならん。キツイったら無いぜ」
 男は酒臭いげっぷをする。レミアは顔を顰めつつ、淡々と尋ねた。
「工場では何を作ってるの?」
「知らねえ。俺のところはパーツ工場だからな。俺の生活にゃ関わりないのは確かだがな」
 レミアは上着のポケットに手を突っ込むと、男にアルター社のエンブレムを突き出す。
『これ、見た事ある?』
「……いやー? ねえなあ」
 男は間抜けた調子で首を傾げる。とぼけているようにも見えなかった。
『そう。ありがとう』

『……御用聞きみたいな連中ばかりだな』
「(今この国が豊かじゃないのは、アメリカが農業国として縛り付けていたから……っすか)」
 リオ・ベルデ一の新聞社から出てきたアークは顔を顰める。新聞出版所から当たりを付けて聞き込みを繰り返していたが、彼らは口を揃えてハワード大佐のクーデターを英断と評価するばかりだった。
『一理はある。今まで工業が成り立っていなかったのは、この街並みが語っているからな』
 アークは遠くの工場が吐き出す白煙を見つめる。その煙突は随分と真新しく見えた。ここに来るまでに見たどの工場も、似たようなものだ。
「(ハワード大佐は、大国に対する不満を上手く汲み上げて支持を獲得している……という事っすか。何だか、聞いたような話っすね)」
『よくある手口だ。どの国の政治屋も似たような事をする』
 寂れた建物の前で足を止める。ペンキを塗り直す金も無いのか、白があちこち剥げて材木が剥き出しになっている。
『ここが最後か……』
 アークは唇を結び、そっと扉をノックする。するやいなや、いきなり扉がぱっと開いた。
「やぁ同志。さっきから随分こそこそしてるらしいじゃないか」
 現れた髭面の男は声を潜め、アークの肩をぽんと叩いた。

「……この国において教会は今どのような立場にあるのぢゃ?」
 老人やら、隻腕の男や脚を引きずった少女がテーブルへ一堂に会し、パンを分け合って食べている。ヴィオは手早くメモを取りながら、同じく老いたシスターに尋ねていた。
「いつも同じですよ。私達は他教区からの支援を受けながら、こうして救貧院を営んでいます。この国のセーフティネットはクーデターの前から崩壊しておりまして……自ら働く事の出来ない方には、こうして手を差し伸べなければならないのです」
 老人は眼が見えていないのか、ぽっかりと口をあけ放ち、少女にスープを飲ませて貰っている。そんな姿を見ていると、ヴィオは思わず塗り潰した過去を思い出しそうになる。
「おい、ババァ! 今日も持ってきてやったぞ!」
 ドアが開き、イカつい身なりの若者たちが段ボールを担いで続々と屋内に入り込んでくる。威圧に特化した姿は、堅気の者とは見えない。
「ヴィランか?」
 シスターはこくりと頷く。二人のやり取りを聞いていたのか、老人は振戦しながらヴィオの方を見る。
「いつだって、頼れるのはこの方達だけじゃ。大統領も、ハワードなんちゃらも、変わらん」

●立ち入り
「新しい工場が沢山ありますね。私の国では工場は海沿いによくあるものなんですが……」
 迫間 央(aa1445)は浅薄な声色を作って尋ねる。ガイドもまたへらへらして頷いた。
「扱っているのはリオ・ベルデ各地で採掘される霊石が主です。採掘地点の傍に立ててしまうのが最も効率良いんですよ」
『(霊石……)』
 幻想蝶の中で、マイヤ サーア(aa1445hero001)は呟く。央はガイドと別れながら、小さく顔を顰めた。どの工場も、軍が警備に当たっている。
『軍が国を掌握している時に必要になるのは……お金、武器……』
「武器か。……ラグナロクで運用されていたRGWと繋がりはあるだろうか」
 マイヤの言葉を聞き、央は工場を真っ直ぐに見据える。機械が低い唸り声をあげていた。
「……調べる価値はあるな」

「政治家の考える事はよくわからん。働き手を持っていかれたら仕事にならんわ」
 ジーヤの前で綿花農家の老人はくどくどと文句を言う。家族は高額の給金につられて工場へと吸い込まれていき、家業をろくに手伝わなくなってしまったらしい。ジーヤはボイスレコーダーを向けながら彼の話を聞いていた。
『随分と強引に改革を進めていらっしゃるようねえ』
「わしらはただ食うもんが食えればそれでいい。お上なんざどうでもいいんだ」
 まほらまの言葉に乗せられ、老人はぺっとつばを吐き捨てた。
「(どちらかと言うと……無関心、かな)」

『(……すごく厳重だね)』
 工場を見つめてあけびは呟く。物陰に立った仙寿は、工場に人が出入りする様子をじっと見つめていた。銃を構えた兵士が、一片の油断も無く周囲を見張っている。
《無理は出来ないな……》
 仙寿は鷹を呼び出すと、小型カメラを括りつけて空へと飛ばす。
《込み入った調査は、“彼”に任せよう》

「これは……AGWドライブか?」
 トラックの荷台に忍び込んだ央は、小さな箱に詰め込まれた掌サイズのパーツを手に取る。エージェントの彼にとっては見慣れたものだった。央はそれを幻想蝶に一つ押し込め荷台を降りる。
『(……この小国で、こんなにAGWを用意する必要があるとは思えないわね。それに、このドライブ、ライヴスの流れ方が変な気がするわ)』
 マイヤの呟きを聞いて、央は顔を顰める。
「……もしかして、RGWのドライブか?」
『(どうやら、とことん調べる必要がありそうね)』
 物陰に潜むようにして工場を離れながら、央は伝え聞いたトールの言葉に思いを馳せる。
「これが……俺達に“光”を望んだ理由か。これも含めて、今の世界には闇が多すぎる」
『彼を焼いた光として……照らさずにはいかないというわけね』

「ハワード大佐さまさまっす。畑に入れとかうるさいこと言われなくて済むんで」
 酒場に入ったハーメルは、酒で景気付いた若者の話に付き合っていた。工場で毎日長いこと働いているらしいが、彼はそれで満足らしい。
「工場で働いてると、ただでメシを出してくれるんすよ! その分こうして酒が飲める!」
「……今日は僕持ちですけどね」
 ハーメルはぼそりとツッコむが、彼は聞きやしない。大声で新しい酒を頼んでいる。
『(……頭がどんな奴だろうと、気にしない奴は気にしない)』
「(そうか……ここでもそうなんだね……)」

『……』
 そんな姿をアークは遠くで見つめる。すっかり出来上がった酔っ払いが、その肩を掴む。
「おい、聞いてんのか? ……最悪だよ。何かなあ、最近地下から嫌な音がすんだよ他の奴らは知らねえっていうけど、絶対聞こえた!」
『そ、そうか』
 適当に相槌を打つ。しかし、数時間前に聞いた言葉が耳を離れない。
――国民たちの目を覚まさせるんだ。この特ダネを読めば、呑気な馬鹿もひっくり返る――
 アークは胸の奥が冷えるのを感じた。
『(火薬庫……という喩えも生温いか。この国は)』

「別に何もしてないですよ。病院の子達にビデオレターを作ろうと思って」
 その頃、ジーヤは絡んできた軍人相手に猫のぬいぐるみを見せていた。しかし、軍人は構わずジーヤへ突っかかってくる。
「ならパリにでも行け。どうしてこんな国に来た?」
「まあまあ、そんな事言わずに。此処の街並み、結構綺麗だと思ったんです」
 ジーヤはそう言いながら、軍人の手元にクレジットを押し付ける。すると彼らは顔を見合わせ、肩を竦めながら去っていった。その背中を見送り、ジーヤは胸を撫で下ろす。
「ちょっと、危ない橋だったかな」
『……ファーラの気持ちが判る気がするわぁ』
 まほらまは呟く。
「さて、もう少し続けようか……」

『変ね。……随分と愚神にお目溢しを貰ってるみたい』
 レミアはポラロイドで港の様子を写しつつ呟く。緋十郎も難しい顔で頷いた。聞けば聞くほど、奇怪な情報ばかりが集まった。
「霊石も豊富に取れる……なら、何故他国の鉱山に攻撃を仕掛けた……?」
 写真が吐き出される。映り具合を確かめつつ、レミアは海の彼方にも眼を向けた。
『あの雪娘の一件も含めて……随分と根深く何かが隠れていそうね』

●寒村にて
《……寒村と言っても、一応機械化は進んでいるらしいな》
 仙寿は六花と共に村の入り口に立ち、畑の様子を見つめていた。耕耘機のディーゼルエンジンが煤煙を上げ、ガタガタと耳障りな音を立てている。六花はロータリーが土を耕していく様子をしげしげと眺めていたが、運転席に目を向けた途端にはっとなる。
「仙寿さん、運転してるの……六花と、同じくらい……」
 仙寿も眼を向ける。肉付きの悪い少年が、器用に耕耘機を転がしていた。
《日本でもままある光景だ。……だが》
 彼は眉をひそめて周囲を見渡す。どこを見渡しても、いるのは少年少女やら、老人ばかりだ。飢えた雰囲気は無いが、皆痩せている。
《大人がいない》
 見ていると、トラクターを畑の畦道に引き上げた一人の少年が、運転席からぴょんと飛び降りる。六花は咄嗟に駆け出した。仙寿も追いかける。少年はそんな二人に気付くと、軽く飛び上がった。
「……ん、お仕事、お疲れ様……です」
「な、何だよお前ら」
 少年が怪訝そうな顔をしたのも束の間、六花は鞄からパック詰めされたおでんを取り出す。
「日本の料理です。良かったら、食べませんか……」
「ジャパニーズフード? ……何これ?」
 見慣れない食べ物を差し出されて少年は益々怪訝な顔をしていたが、中に玉ねぎや肉が入っている事に気付く。
「……」

《と、いう事だ》
 六花が村人達を集めてモツおでんを振る舞っているのを横目に、央とジーヤ、仙寿は今まで集めた情報の擦り合わせをしていた。
「どこでも大人は工場へ徴発されてるらしいな……」
 央は頷く。積み荷も合わせると、いよいよ怪しさが増してくる。二人が難しい顔をしていると、六花が仙寿へそっと歩み寄る。
「あの……お兄さん、写真……」
 六花は仙寿にカメラを差し出す。腹が満たされて気も緩んだか、村人の表情も和らいでいた。
《ああ、わか――》
「すみません。……何をなさっているんですか」
 仙寿はカメラを受け取ろうとしたが、ふと背後から声を掛けられる。慌てて振り返ると、お下げ髪の少女が不安そうな顔で仙寿を見上げていた。

「すみません。今食糧がほとんど無くて」
 少女――フィオナはカップに井戸水を注いで仙寿達に手渡す。ジーヤは深々と頭を下げてカップを受け取った。
「お気持ちだけで十分です。……食糧が無いって……?」
「一年前から食糧は配給制になっているんです」
 仙寿は眉間に皺を寄せる。大戦に時が巻き戻ったかのようだ。フィオナはエプロンで手を拭うと、三人の前に座った。
「それで、メリーは……どうなったのですか?」
 落ち着き払った口調で、フィオナは尋ねる。メレディスの名を出した瞬間には困惑していたが、今は背筋も伸ばして真っ直ぐに三人と向かい合っていた。
《隊長と共にギアナ方面に流れた後、愚神との戦いで命を落とした》
 フィオナは肩を落とす。眼を伏せ、十字を切ってぼそぼそと何かを呟いた。やがて眼を開くと、彼女は小さく語った。
「メリーは小さな頃から鴨撃ちが上手くて、クーデター前は首都の学校で射撃競技の選手になっていたくらいだったんです。でも、米墨との衝突が始まると、彼はその腕を買われて軍役に就く事になりました。……私達の無事を保証するために」
 ジーヤが首を傾げると、フィオナは小声で続ける。
「この村は最後まで旧政府組織が抵抗していた土地です。私は人質みたいなものでした」
 フィオナは懐からドッグタグを取り出す。そこにはメレディスの名前が刻まれていた。
「メキシコの作戦で国境が攻撃を受けた時、所属していた部隊は全滅したと聞いていました。……少しでも、生き延びていてくれたんですね」
 六花は椅子を降りると、フィオナの傍へと歩み寄る。
「食べる物にも困るくらい畑を減らして、工場を沢山建てて……ハワード大佐は、それでもアメリカやメキシコと戦い続けたいのでしょうか……?」
 彼女は顔を曇らせる。どこを見渡しても、彼女の小さな胸は痛んだ。
「六花には、この先、この国が幸せになれるようには……思えません」
「大佐は真剣にこの国を考えています。アメリカの畑をやめる……それが大佐の理念です」
 フィオナは言う。しかし央はその言葉が建前だと気づいた。その眼は低く伏せられ、とても苦い顔をしていた。仙寿もそれに気づくと、そっと立ち上がり、共鳴を解いた。
「あ、あなた達は……」
『そう、私達はリンカーなんです。そして……ごまかしたりしてごめんなさい』
 あけびは語る。メレディスはヴィラン組織に加入した事。そこで愚神になった事。そして最後に、自分達H.O.P.E.によって――
「ま、待って……!」
 H.O.P.E.の名を聞いた途端、フィオナは弾かれたように立ち上がる。

 同時に家の扉が蹴破られた。

●燻る火種
 いきなり家に上がり込んできた兵士達は、肩に掛けたライフルを隠そうともしない。肩をいからせ、居丈高に構えて兵士は仙寿達を睨む。
「先程通報があった。見慣れぬ人間がこの村をうろついていると」
 六花は思わず縮こまる。仙寿は彼女を背中に庇いながら兵士達を睥睨した。
「俺達はこの国を取材するために来た記者だ。入管に確認すれば分かると思うが」
 それを聞いた瞬間、兵士の一人が眉間に皺を寄せた。
「今言っただろうが。お前達がH.O.P.E.だってな」
 懐から兵士はボイスレコーダーを取り出す。そのスピーカーから、六花達の先程の発言が次々と再生されていく。あけびが目を見開くと、一人はライフルを構えて仙寿へと突きつけた。
「我々は先程、三人がこの家に入る事を確認していた……しかし今は四人に増えている」
 仙寿とあけびは苦い顔をする。最早言い逃れの術は無い。兵士の警戒レベルもマックスだ。
「大人しく同行しろ。悪いようにはしない」
 これほど信じられない言葉も無い。六花と央は、素早くその幻想蝶へと手を伸ばそうとする。しかし、それよりも早く動いた者がいた。
「このっ!」
 フィオナは突然机の下から何かを投げつけた。兵士の前で破裂し、甲高い音と光、それから粉塵をばらまく。その粉は央たちの喉にも入り込み、思わずむせ返った。
「(胡椒? 唐辛子? 何だ……?)」
 リンカーの彼らはともかく、兵士達は昏倒している。眼を押さえてその場で転げまわっていた。突然の事に六花が茫然としていると、フィオナは彼女の腕を掴んで走り出す。
『待って』
 慌ててあけびも追いかける。フィオナは家の床板を剥がすと、その奥にぽっかりと開いた穴へ六花を引きずり込んだ。迷う間もなく、他の仲間達も後に従う。
「……そういう重要な事を言うのなら、合図の一つや二つ下さいよ」
 床板を戻して、フィオナはぽつりと呟く。彼女は踵を返すと、長い地下道を走り始めた。
「虫が仕掛けられていたのか」
 央が尋ねると、フィオナは先頭に立ったままこくりと頷く。
「……今でもこの村は、現政府がかなり警戒しているんですよ。この村の家には全て盗聴器が仕掛けられています。もちろん外せば抵抗の意志ありと見做される事になります」
「すまなかった。周囲の気配には気を張っていたつもりだったんだが……」
 仙寿は唇を噛む。自分達が見ていない世界をトール達は見てきた。オペレーターが放った言葉の意味が、身に染みて感じられる。
『まさかそんな事までしてるなんて……』
「いいんです。そろそろ頃合いでしたから」
 フィオナの思い詰めたような呟きに、仙寿たちは思わず首を傾げる。央は、フィオナの背中に向かって尋ねた。
「というより、どうして家の地下にこんな通路が在るんだ。この通路はどこに通じてる」
「……私達のアジトです」
 六花は思わずフィオナの横顔を見上げた。彼女は眉間に皺を寄せていた。
「アジト……?」
「私はレジスタンスなんです。リンカーとしての武力を盾にして私達の国を簒奪した、ハワード・クレイの罪を裁くために活動しています」
 エージェント達は顔を見合わせる。やがて、フィオナは突き当たりの扉を押し開いた――

 アークとハーメルは顔を曇らせる。寒村に向かった仲間達からの連絡が帰って来ない。無線機を握りしめ、アークはハーメルの顔色を窺う。
『彼らは大丈夫だろうか』
「大丈夫じゃなかったら、何か連絡があると思います。だから……今は多分大丈夫じゃないかと……」
 二人のやり取りを聞きながら、ハーメルは腕時計にちらりと眼を向ける。仲間が手配してくれた出国用の飛行機がそろそろ着く頃だ。
「けれど困りましたね……このままだと約束の時間に間に合わなくなっちゃいますよ」
「何かあったのには違いないのぉ。奴らが予定を忘れて突っ走るようには思えぬ」
 ヴィオは頷く。住民から掻き集めた情報を見つめながら、ファーラの手記を何度も何度も読み返していた。
『うろたえる必要も無いでしょうし……まあ暫く待ちましょう』
 レミアがそう言うと同時に、彼女の携帯が鳴った。彼女は仲間に目配せすると、無線を手に取る。
『どうしたの?』

「連絡が遅くなってすみません。……今、凄いことになってて……」
 苦い顔してジーヤは呟く。その目の前では、眼鏡を掛けた青年が、口端に透かした笑みを浮かべていた。卸したてでいかにも高価そうなそのスーツの胸元には、アルター社のロゴが刻まれたバッジが留められている。彼はエージェント達を見渡し、ずいと一歩踏み出した。
「どうも。H.O.P.E.のエージェントさん」

「アルター社のケイゴ・ラングフォードです」



 つづく

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
  • 希望の格率
    君島 耿太郎aa4682

重体一覧

参加者

  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中
  • 鏡の司祭
    ノエル メタボリックaa0584hero001
    英雄|52才|女性|バト
  • 神月の智将
    ハーメルaa0958
    人間|16才|男性|防御
  • 一人の為の英雄
    墓守aa0958hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • 希望の格率
    君島 耿太郎aa4682
    人間|17才|男性|防御
  • 革命の意志
    アークトゥルスaa4682hero001
    英雄|22才|男性|ブレ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
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