本部

金切り声の鳥妖

長男

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/03/27 19:14

掲示板

オープニング

●駆り立てる風切り羽
「あっ、みて! とり!」
 大通りの真ん中で子どもは空を指さした。白い腹と長い脚に大きな翼を生やした生き物が摩天楼の隙間を縫うように飛んでいた。
 その鳥は人混みめがけて急降下し引き裂く声を上げた。猛禽の羽と蹴爪、しかし長身の胴体と頭は人間、鳥妖の従魔だった。
 往来に大混乱が弾けた。人々が引き返すと、従魔がもう一匹、路上に止まっていた車を踏みつけて待ち構えていた。十字路の中心で前と後ろから逃げようとした人々がぶつかって転び、左右の道へ逃れようとした人々は更なる悲鳴を上げた。どちらの道にも従魔がいた。十字路は囲まれていた。
「みんな、逃げろ!」
「どこへ!?」
 従魔の群れはそれぞれの方向から人の波を追い立て、押し留め、それらを十字路の内側へと閉じ込めていった。恐ろしい叫び声が響くたびに窓ガラスが割られ、彼らは本能的な恐怖に押されて背を向けて走らずにいられなかった。
 そして、音と爪で作った籠の中にめいっぱい餌を詰め込んだ従魔たちは食事を始めた。1匹が常に上空から叫んで獲物の耳を壊して跪かせ、3匹が思うまま貪り、全員が食べ尽くすまで交代で行われた。
 なすすべなどなにもなかった。動くものがいなくなると、8枚の翼が一斉に羽ばたき、それらは次の狩り場を目指した。

●包囲からの救出
「大都市の大通りに4匹の従魔が現れ、路上の人々を攻撃する事件が予知されました」
 この残酷な襲撃は、その規模の大きさからプリセンサーに感知されることとなった。
「ビル群の中央にある十字路です。いわゆるスクランブル交差点で、終日歩行者で溢れています。戦闘と並行して避難も進める必要があるかと思われます」
 隠れる場所は少ないが、道を塞ぐ障害物もほとんどない道路である。ひとたび包囲を抜ければ、追いかけられない限り脱出は容易だ。何らかの誘導があればより素早く避難が終わるだろう。
「従魔の能力ですが、飛行するほかは特殊な能力もなく、攻撃手段も肉体によるもののみと単純で、攻撃が届けば単体ではそれほど驚異となる相手ではありません。ですが群れの場合、特に3体以上の連携攻撃は危険です。知能も高く、弱っている仲間は狙われるでしょう。早期決着に向けた作戦を推奨します」
 奇しくも街は一足早いバレンタインに活気づいているところで、夫婦や恋人たちで賑わっていた。エージェントたちが不覚をとれば、この街もまた多くの愛を失うだろう。彼らの日常は、超常の英雄たちに託されたのである。

解説

●目的
 従魔の撃破
 市民の避難

●現場
 大都市の道路上。
 ビル群と十字路のスクランブル交差点からなる大通りで、大勢の一般人が従魔に十字路の四方を塞がれ追い詰められている。
 ビルや街路樹、まばらに路上駐車された自動車の他は、障害物となりえるものはいずれの道路にも存在しない。
 事前に待機しておくことで、エージェントたちは十字路の中からでも外からでもシナリオや戦闘に参加できる。

●従魔
 デクリオ級。
 細く鋭い牙の生えた頭と尾羽の生えた胴体は人型、手足の代わりに猛禽類の翼とかぎ爪を生やした、2メートル前後の鳥人の従魔。
 飛行能力を持つ。
 この従魔はカバーリングを行えない。
 4体の群れで行動し、空中からの一撃離脱を得意とする。驚異の排除に積極的で、戦闘が始まれば一般人よりエージェントを優先して攻撃する。戦闘に参加している従魔が3体以上なら、いずれか1体は高確率で金切り声を使用する。
 ・金切り声
  長射程範囲物理攻撃。ダメージなし。範囲内の対象にBS:衝撃を付与する。
 ・急降下攻撃
  近接単体物理攻撃。命中判定を2回行い、いずれかが成功していれば命中となる。
 ・旋回滑空攻撃
  近接範囲物理攻撃。飛行状態でない対象にのみ攻撃を行う。

リプレイ

 週末の交差点は人混みにあふれ、真横に腕を伸ばせば届く距離には常に別の人間がいた。買い物を手にし、話し相手と並び、飲み物や簡単な食事をつまむ、何人もの日常がひしめきあって歩いていた。
「こんな往来で襲撃なんざ、シャレにならないな」
 久兼 征人(aa1690)は交差点の外れでそのときが来るのを待っていた。これらがみな犠牲者になるとしたら、ほうっておけば何人死ぬ?
『その為に私達がいるのよ』
「……そうだな。守りきるぞ」
 ミーシャ(aa1690hero001)に言われるまでもなかった。征人は上を向き、雲やビルの隙間に飛ぶものを探した。
 征人が見つけるよりも早く、別の曲がり角から悲鳴が上がった。次いで咆哮。耳を殴られたような衝撃とガラスの割れる音。征人はミーシャを見て、ミーシャもまた理解に頷いた。

 海神 藍(aa2518)はスキットルに満たした蒸留酒を鋭く呷った。体の芯に火が灯り、頭の奥も熱を帯びていく。
「さて、来たか」
 藍の隣で禮(aa2518hero001)が宝冠の位置を正した。金属に伝わる振動は重く、彼らに求められる結果もまた冠の銀よりはるかに重かった。
『行きましょう。わたしたちの制約と、この冠に懸けて』
 すぐ近くで別の金切り声がふたりをつんざいた。彼らは耳を塞いで硬く目をつぶり、立ち直るまでに数秒を要した。
 藍は咆え猛る敵へ振り向いた。針めいた牙をむきだして笑う醜い女性の顔をした、痩せた胴体に翼と蹴爪のついた従魔が、電球の破壊された路上の電光掲示板に止まっていた。従魔は再びがなりたてた。エージェントさえ苦しめられる攻撃に一般市民が耐えられるはずもない。追い立てられる魚のように、人の波が十字路の中心へ集められていった。

 交差点の中心はひどい有様だった。ありったけ詰め込まれた人間たちが逃げ場を求めてひしめき合い、互いにぶつかってよろけた。誰かが踏み出そうとするたびに従魔はけたたましく咆えてそれらを転ばせた。脱出を試みるだけで新たなけが人が増えるようでさえあった。
『耳障りな声ね……品性を感じないわ』
 マイヤ サーア(aa1445hero001)は混雑に揉まれながらうんざりと呟いた。彼女のすぐそばで迫間 央(aa1445)も人の波に潰されぬよう踏ん張っていた。央は素早く周囲の状況を確認した。敵の位置、ここからの距離、信号や掲示板などの高い建造物。
「ハーピィは、伝承によっては神々の失敗作として扱われるからな。従魔が化けるモチーフとしては身の程をわきまえた選択と言えるかもしれん」
 人混みは次第に密度を増し、やがて恐怖と騒音で正方形の檻が出来上がった。従魔は狩りの愉悦を表情に浮かべ、今にも襲いかかろうとしていた。
『……そろそろ、いいんじゃない?』
 マイヤが央の肩に手を乗せ、央はその上に自分の指を重ねた。
「そうだな……始めるとしよう」
 ふたりは共鳴し、一瞬確保された人間ひとり分開いた空間に踏ん張って跳んだ。人の壁を飛び越え、脚にライヴスが流れるのを感じ、交差点の信号を駆け上がって空中の敵に躍り込んだ。
 頭上をとられることそのものが従魔は信じられないようだった。驚愕の表情を尻目に剣を抜いて下突きを見舞う。痛みと重量に耐えかねて、たちまち従魔は墜落した。
「――お待たせっ!」
 別の道で、ルー(aa4210hero001)と共鳴したフィアナ(aa4210)が弓の弦を高く鳴らした。彼女は一般人に聞こえるように凛々しく声を張り上げ微笑んだ。従魔は仲間が攻撃されていることに気づいていたが、目の前の新たな敵から目をそらそうとはしなかった。
「大丈夫よ、これ以上、あなたたちを傷つけさせない! もうすぐ避難誘導が始まるから、待ってて」
 反対の道で銃声が響き、逆向きの流れ星のような一閃が別の従魔の羽を散らした。麻生 遊夜(aa0452)がマグナムの銃口に息を吹いて紫煙を吹き飛ばし、恨めしく振り返る従魔をユフォアリーヤ(aa0452hero001)がいたずらっぽく見つめていた。
「これからって時に無粋な奴らだな」
『……ん、悪い子達は……オシオキ、だよ』
 十字路の最後の一方に共鳴した藍が立ち塞がり、従魔たちは突然に――彼らにとっては計画通りに――驚異に相対した。成長した禮の姿で、藍が民衆に呼びかけた。
「HOPEです! 従魔が出現しました! この黒鱗の人魚が護ります。焦らずに指示に従ってください!」
 この攻撃的な障害を排除しようと従魔は怒り狂って唸りを上げた。藍に面した従魔が金切り声を上げ、藍と近くの一般人が耳を塞いで悶えた。央に組み付かれた従魔はかぎ爪で応戦し、それぞれの道でフィアナと遊夜にも従魔が飛びかかった。
「さて、飛ぶ鳥女落とすとしますか」
『届けばな? 剣振り回して当たるうちに仕留めろよ』
 央のいる十字路の外側から現れた逢見仙也(aa4472)は、ディオハルク(aa4472hero001)と共鳴し無数の剣の複製を従魔へ浴びせかけた。刃の飛礫を浴びながらも従魔は空中へ逃げたがっていたが、ふと頭を上げたところで遠くから発射された銃弾にぶつけられた。
『飛び道具も有効そうだし、復帰戦には手頃じゃなぁい?』
 蒲牢(aa0290hero001)が気だるい声で話しかけても、鯨間 睦(aa0290)は睨み返すだけであった。蒲牢は眉ひとつ動かさずに肩をすくめて答えた。
『……そうやって無言で文句言われる感じも本当久しぶり。それじゃあ、むっちゃんのかっこいいところ見せて頂戴ね』
 睦は共鳴を終えても無言だった。言われるまでもない。彼は引き金に手をかけた。
「初めての戦闘……ドキドキですの……クリスでもお役にたってみせますの!」
 それぞれの戦場で作戦が始まるなか、クリスティン・エヴァンス(aa5558)は群衆の内側にいた。彼女の目からみた先輩たちの動きは電撃的で、目的のために洗練されていた。
『そうね。でも、あたし達にはあたし達に出来る事をするまでよ』
「はいですの」
 砺波 レイナ(aa5558hero001)に促され、クリスは耳を塞ぐ藍に清浄なライヴスを飛ばした。藍はたちまち集中を取り戻し、法典を開いて呪文を唱え、反撃した。
『何としても皆を護ってみせるわ』
「やっぱりレイナねーさまは優しいですの」
『そ、そんな事ないわよっ! 行くわよクリス……!』
 ふたりの背後で切り裂く声が響いた。仙也と睦の追撃を振り払って従魔が羽ばたくと、低く飛んだところで征人の薙刀が斬りつけた。
「失せろ」
 傷口からとめどなく血を流して従魔はのたうった。こちら側の決着は速いように思えた。

 遊夜の銃弾が敵の目の前で消え、顔面ではなく喉へと突き刺さった。従魔はえづき、咳き込んだ。少し浅い。喉を壊すにはもっと攻撃が必要だろう。
「……ま、外しゃしないか。じきに行儀よくさせてやるよ」
 従魔の肩越しに、反対の道でフィアナの矢が別の従魔の翼を射貫くのが見えた。空中の相手を狙うのにはコツがいる、だが敵はどうやら回避運動に長けていないらしかった。リーヤと共鳴した遊夜は若返った頬に余裕の笑みを浮かべた。
 従魔は遊夜を睨み宙に漂った。遊夜は眉をひそめ、素早く従魔にマーカーを飛ばすと、油断なく銃口を向けて様子を伺った。反撃の手が鈍い。何を考えている?
 痛んだ喉で声を上げて従魔は高く飛び上がり、遊夜に背を向けた。
「ちょっと、何を?」
 フィアナも困惑していた。彼女は特に注意を引くようライヴスを発散させていたにもかかわらず、それは攻撃の本能を越える狡知と連携に従ったのだ。
 藍の前からも従魔は飛び立ち、それらは十字路の中央上空に集まった。1匹が咆哮を浴びせかけた。空気の振動で信号機の電灯が砕け、人々は耳を、頭を押さえて苦痛に悶えた。もう2匹が大剣の切っ先ほどもある鉤爪を開いてクリスとレイナに飛びかかった。ふたりは悲鳴を上げた。あまりにも多くの密集した一般人たちが、ふたりといっしょに恐怖に叫んだ。
「傷つけさせないって、言ったわよね!」
「やらせるか、その価値を知らぬ者などに!」
 フィアナと藍は群衆の中へ飛び出し、恐ろしい切れ味のかぎ爪から後輩と無力な民を庇った。ふたりは雑踏のただ中へ放り出され、引き裂かれる痛みに歯を食いしばった。攻撃した従魔は急上昇して空中へ舞い戻り、3匹は旋回して次の瞬間にもあらゆる方向から攻撃してくるかに思われた。
『ちょっ……しっかりしてよ!』
「怪我なんて直ぐ治しますですの!」
 レイナが藍を抱え起こし、クリスはライヴスでフィアナの傷を癒した。勇敢な先輩たちは気丈に礼を言って立ち上がり、力を込めて上空を睥睨した。状況は依然として危険だった、この陣形で、この状況でどれくらいもつ?
 彼らの横から金属音がして、人々の視線がいっせいに下がった。睦のアンカー砲に引き倒された従魔が地面に這いつくばり、征人が力尽きたそれを突き刺して地面に縫い止めていた。注目が集まったことに気がつくと、仙也は電柱を叩いた剣を収めた。
「道が空いたぞ! 避難はこっちへ!」
 征人が花火めいた光を掲げると、閉じ込められていた人々は雪崩を打って走り出した。穴の開いた籠から中身のこぼれ出るように。仙也は共鳴を解いてディオに目配せし、相棒は渋々それに従った。仙也は拡声器を取り出し、避難誘導を始めた。
「はーい、子供踏み潰したりしないように落ち着いて進もうねー? 焦って二次災害とかはこちら対応できないんでね?」
 仙也と征人が道を挟んで拡声器で人津波を押し留め、ディオがもみ合う人々を気迫でおとなしくさせ、ミーシャも彼女なりに悲観の濁流と向き合い子どもやお年寄りの避難を支えていた。
 上空から金切り声が上がった。餌を逃がそうとする邪魔者が誰かを従魔どもは一瞬で判断し、それらの頭上へ体を傾けた。
 従魔の注意が一方向へ絞られ、まったく不意に反撃の瞬間が訪れた。
 まず、央が1体の従魔の視界に割って入り、分身する斬撃を見舞った。また頭上から、しかもありえない角度から同じ顔に出鼻を挫かれ、その従魔は完全な狂乱に閉ざされた。
「避難を急げ! 敵は此方で押さえ込む!」
 別の従魔が央の着地に合わせて助走めいて高度を上げたが、それは突然背中に重量を受けて飛びかかるどころではなかった。マーカーを頼りに遊夜が従魔の背に飛び乗り、翼の付け根に銃口を突きつけていた。
「すまんがじっとしててくれや、今忙しいんでな」
 無慈悲な銃弾が従魔の肩をずたずたにすり潰した。身の毛もよだつ苦痛の叫びがこだました。遊夜は従魔の背中を蹴りつけて飛び降り、それによって従魔はさらに拮抗を崩して不格好に宙を掴みもがいた。
 残った従魔が狩りの邪魔よりも群れに混乱をもたらす驚異に意識を向け直したが、遅すぎた。フィアナの矢が従魔に刺さると、矢に吹き込まれたライヴスが従魔のそれを乱し、従魔は目の焦点を失ってふらふらと不規則に飛んだ。
 逆襲の時間は灼熱めいていた。央は常に制空権を握り敵に体勢を整える隙を与えなかった。遊夜は地上から何度も跳弾を繰り出し狼狽と銃弾で縛り付けた。フィアナは立ち直るそばから従魔を気絶させて封じ込めた。合間を縫うように睦の弾丸が敵の喉を貫き、藍の魔術が翼を握り潰して、クリスにも銃を構える余裕が生まれた。完璧だった。
『ほらほら、翼がないと飛べはしないでしょ』
 レイナも笑っていた。頼もしい仲間と作り出した圧倒的な攻勢に。そのために、フィアナが抑えていた従魔がいち早く立ち直ったとき、驚きに身をすくめた。
 それは空中を大きく旋回し、ビルのガラスと、建物の中に陳列されていた商品をばらまきながら、弧を描いて地上のエージェントたちを薙ぎ払った。
 集中攻撃のために密集しがちだった仲間たちは一度に傷つけられた。それは最後にフィアナへ飛びかかった。フィアナは弓を投げ捨て、防御の姿勢をとった。報復に燃える鋭利な爪が入念に肌へ突き立てられた。激しい痛みをこらえ、フィアナは従魔のかぎ爪に鞭を巻きつけた。
「……捕まえたわよ」
 フィアナは相手が抵抗するたび手綱のように乱暴に鞭を引いた。それが簡単に外れないと知ると従魔はフィアナを空中へ連れ去ろうと羽ばたいた。
 だがすぐに青い炎の翼の蝶が殺到し、従魔は焼かれながら再び失墜した。
「もう少しゆっくりしていけよ」
 藍の放った切り札は従魔を再び封じ込めるのに期待通りの活躍をした。フィアナはこの一瞬の間に鞭から手を離して弓を拾い上げた。地面を転がると傷の痛みが思い出したようにフィアナを苛んだ。
「兄さん、なら、もっとスマートにやれるのだけど……まだまだ遠いわね」
 再び弓を構え、そこで急にフィアナは周囲の静けさに気がついた。征人と仙也が共鳴を済ませて無人の道から戻ってきた。
「避難は終わりだ。多少転んですりむいたみたいな軽い怪我人がいるが、直接の被害者はいない。上等だろ」
「あとはこいつらを仕留めてきれいさっぱりおしまいだ。ここからは大技も使うぜ、文句ねえな?」
 もはやエージェントたちは従魔を包囲する格好になった。央がシャドウローズの花弁をばらまき、それを合図に集中砲火が始まった。目にも止まらぬ遊夜の連射を浴びて、まず1匹が脱落して動かなくなった。残りの従魔は銃弾を浴びながら翼を翻して旋回、滑空し、最後の抵抗に彼らを斬りつけた。連携が染みついている従魔は攻撃の後に再びひとところへ集まり、それらはまとめて仙也がばらまいた複製の剣と睦が埋め尽くした弾幕の餌食となった。征人の銃弾と藍の魔術に片方が沈み、最後の1匹もクリスとフィアナに撃ち抜かれてアスファルトに転落した。死にゆく従魔はかすれた声で細く鳴き、体を丸めて沈黙した。
「終わった……? 終わりましたの?」
 銃口を向けたまま、クリスはおそるおそる従魔へ近寄った。フィアナが彼女の肩に触れ、優しい言葉をかけた。
「ええ、私達の勝ち。初めてなんでしょ? よくがんばったわ」
 背後から気配が押し寄せ、エージェント全員を振り向かせた。避難していたはずの市民が集まっていて、勝利の現場を目撃し、写真に納めていた。
 レイナが誇らしげに微笑み、静かに、強く声をかけた。
『敵は殲滅したわ。もう平気よ』
 万雷の喝采が起こった。人々の熱狂は従魔の雄叫びよりも熱く激しく彼らを揺さぶった。取り戻された交差点に人間が詰めかけ、口々に勇者たちを讃えた。
「……避難してろっつったろ」
 征人はため息をついた。ミーシャが共鳴をほどいて隣に立ち、笑っていた。
『いいじゃない。みてよ、みんな嬉しそう。私達が守ったのよ』

 遊夜とリーヤが無数に質問や感想を浴びせかける幼い子どもたちの握手に応じるのを、睦は無感情な顔で見つめていた。
『惨劇は未然に防がれ、めでたしめでたし。やっぱり人助けって気分がいいわねぇ』
 蒲牢が飄々と視界に割り込んできた。睦はかすかに眉をひそめた。
『白々しいこと言うなって顔ねぇ? でも防げてよかったってのは本当よ? 日常の中での事故死みたいな死に様なんて、ありふれすぎて面白味も何もないもの、ねぇ?』
 睦は鼻でくくり、素っ気なく顔を反らした。濃く甘いにおいがした。従魔が窓ガラスといっしょにばらまいた品物の封が破けて路上に転がっていた。
「バレンタインか……今年は何を作ろうかな……?」
 それを聞いた禮は藍に飛びつくような勢いで振り向いた。
『わたしラムボールっていうのがたべてみたいです!』
「ああ、あのラムレーズンの入った……明日焼けばバレンタインのころにはよく馴染んでおいしいかな……?」
『わあっ、わあっ……! あ、あの!』
「はいはい、材料を揃えに行こうか」
 商店はこの破壊的な戦闘の直後にも関わらず、たくましくも祝勝をうたって臨時の売り込みを行っていた。ふたりは思い描く材料のために店内へ脚を踏み入れた。
「愛だけは失われても良かったと思うんだ」
 街中にむせかえる愛と平和の気配にチョコレートの香りを感じながら食べる中華まんはいやに味気なかった。仙也が道路の縁石に座って一服する間、ディオは目も合わせず呆れた調子で淡々と返事をした。
『チョコレートなら適当にHOPE職員に土下座なり雑用と引き替えに頼んだりして貰うつもりなんだろ?』
「それくらいしかないからなー。お返し面倒いしもっと安上がりな食いもん欲しい」
 食べ終えた紙くずを丸めて、近くのゴミ箱に放り込む。外れた。仕方なく立ち上がって拾い上げ、直接押し込む。少し離れたところで、央がしかめ面で顎をさすっていた。
『どうしたの、そんな顔をして』
「ああ、いや……」
 央は割れたガラス窓や暗いままの信号機を仰ぎ見て、なぜか遠慮がちに答えた。
「これ、この街の役所は後が大変だなあ、と」
 マイヤは央の仕事を思い出し、息を吹いて笑った。あなたは職業病になるような人でもないだろうに。
『あら、あなた、迷子?』
 すぐ横で子どもの泣くのが聞こえた。クリスとレイナが、彼女たちよりもっと小さい少女をなだめていた。
「泣かないで。一緒に探すのを手伝いますですの」
 クリスが少女の手をとり、母親の特徴を尋ねながら人混みの中に視線を泳がせた。すぐに遊夜や、征人や、央と目が合った。彼らはクリスの元へ集まり、戦いの後の平和をも保つべく人の波へ飛び出していった。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
  • 光旗を掲げて
    フィアナaa4210

重体一覧

参加者

  • エージェント
    鯨間 睦aa0290
    人間|20才|男性|命中
  • エージェント
    蒲牢aa0290hero001
    英雄|26才|?|ジャ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 難局を覆す者
    久兼 征人aa1690
    人間|25才|男性|回避
  • 癒すための手
    ミーシャaa1690hero001
    英雄|19才|女性|バト
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 白い渚のローレライ
    aa2518hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • 光旗を掲げて
    フィアナaa4210
    人間|19才|女性|命中
  • 翡翠
    ルーaa4210hero001
    英雄|20才|男性|ブレ
  • 悪食?
    逢見仙也aa4472
    人間|18才|男性|攻撃
  • 死の意味を問う者
    ディオハルクaa4472hero001
    英雄|18才|男性|カオ
  • 春を喜ぶ無邪気な蝶
    クリスティン・エヴァンスaa5558
    人間|10才|女性|防御
  • 山瑠璃草
    砺波 レイナaa5558hero001
    英雄|16才|女性|バト
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