本部

獣竜の叫ぶ山

ケーフェイ

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/02/16 20:20

掲示板

オープニング

●噴煙を上げる山

 火山から噴き上がる白煙は、今日も麓に影を落とすほど濃密だ。男は汗の滴る額を拭って空を見上げる。
 コンゴ民主共和国の西端に位置するニーラゴンゴ山は、巨大な溶岩湖で有名だ。それを見るために山頂まで登る観光客相手にガイドとして日に数度往復することもある。
 今日も朝から五人組の観光客を伴って歩いている。遮るもののない日差しを浴びながら、皆は景色を楽しみながら山頂へ近づいていく。
「この山って、活火山なんですよね。前はいつごろ噴火したんですか?」
 観光客の一人が訊ねるので、ガイドの男は淀みなく答えた。
「大きいものだと2002年ですね。市街地や空港まで溶岩が流れたそうです。村もいくつか飲み込まれましてね」
「十年以上前ですか。大丈夫なんですか?」
「いや、規模は小さいですが一昨年も噴火してるんですよ。危険なのはいつもです。それでも山頂からの一望は絶景ですよ」
 正直に言わさてもらえばこの山に登ろうという気が知れない。ガイドとして眺望を味わい尽くしたということもあるが、摂氏1000度近い湖に近づくというのは根源的な恐怖を呼び起こす。物珍しさが薄れれば自然にありがたみも減る。
 とはいえそんなことはおくびにも出さない。お客様にへそを曲げられては要らぬトラブルの元となる。それにもう山頂が近い。
 赤々と煮えたぎる溶岩の泉と、そこから立ちのぼる噴煙はいつも通りの熱気だ。
 観光客たちは写真やビデオの撮影に忙しい。こういう姿を見れば少しは仕事の苦労も報われる。
 とりあえず山頂をぐるりと巡って、下山を始めるのは昼過ぎになるだろう。観光客の残りの体力を考えると気を付けなければならないかもしれない。帰り支度の算段をつけ、食料や水の残りを確かめる。
 そのとき、山ごと震わせるような轟音が響き渡った。
 思わず身を竦ませる。しかしガイドの男は混乱していた。てっきり噴火かと思ったが、それに伴うはずの地震が起きていない。溶岩湖にも動きはない。
 噴火ではない。一体何が――
 ともかく異常事態であるため、観光客に下山するよう呼びかける。
 山頂から離れる間際、ガイドの男は見た。噴煙の向こうで吼え猛る、獣竜の威容を。


●頂上の獣竜

「現場はコンゴ民主共和国西端、ニーラゴンゴ山。ガイドとその一行は山頂にて愚神と思われる怪物と遭遇。H.O.P.E.へ通報し下山。そして今に至る」
 3DCADデータによる現場近くのマップデータが映し出され、オペレーターがてきぱきと操作していく。
「ちなみに通報してくれたガイドはニャンガ族という少数民族の出でね。その部族にはキリムという怪物の話が伝わっている。七つの頭にそれぞれ七つの眼。鷲の尾羽を生やした竜だそうだ」
 キリムと呼ばれる伝説上の龍の情報が表示される。勿体ぶった様子のオペレーターがゆっくりと笑う。
「少し脱線してしまったが、ガイドからの情報を鑑みるに今回現れた愚神は、その怪物キリムに酷似している。ときに愚神や従魔は伝承上の存在そのもののような姿で現れるが、今回もそのようだ」
 航空写真のような俯瞰によってニーラゴンゴ山の山頂がスクリーンに映し出される。そこには七つの頭を持った巨大な竜がいた。全長は推定で三十メートルほどもある。
「敵は現在、山頂に留まっている。とはいえ麓に降りられれば被害が出る。山の中で決着をつけてもらいたい。全員を乗せた垂直離陸機で山頂へ移動し、そこで敵を撃破してほしい」
 すり鉢状の山頂の中に閉じ込められ、巨大な竜と闘う。まるでコロッセオだなとオペレーターが冗談で言ったが、場は静かなままだった。
「……現場は溶岩湖のある活火山だ。今のところ沈静化しているとはいえ軽く溶岩が噴き上がったり、噴煙がたちこめることはある。戦闘の際には留意するように」
 では作戦開始だ。スクリーンを畳んでオペレーターが言う。既に外では暖気した垂直離陸機のプロペラが唸りを上げていた。

解説

・目的
 愚神の討伐。

・敵
 愚神:獣竜キリム。七つの頭にそれぞれ七つの眼。鷲の尾羽を生やした竜。全長三十メートルほど。

・場所
 ニーラゴンゴ山頂上。

・状況
 活火山であるため溶岩湖が形成されており、溶岩が噴き出す、噴煙が立ち込めるなど、戦闘の際に障害となる場合がある。

リプレイ

●ニーラゴンゴ山へ

 天頂を少しく過ぎた陽光を遮るように、機体は山頂に影を落としつつ近づいていく。それを待ち構えるように眺めているのは、七つの頭にそれぞれ七つの眼球を備えた四足の竜。
「ゴアアアアアアアッ!」
 愚神、獣竜キリムが威嚇の声を低く放つ。垂直離陸機のパイロットは進行方向とキリムとを油断なく見ながら旋回して火口付近へ降りていく。
 想詞 結(aa1461)は揺れの激しい機内でも、特に気にすることなく本を読んでいる。
「火山、ドラゴン、ヒーロー、絵本にしやすいかもです? 良く見ないと……」
『そのものは既にありそうね。アイデアの一つってとこかしら?』
 サラ・テュール(aa1461hero002)はどこか浮ついた様子でいる。炎に縁が深い彼女にとって火山での戦闘は望むところだった。
「題材としては良くある感じなんですよね。でも、どこかで使えるかもしれないですし、ドラゴン絵とか猫さんの冒険シリーズで出番あるかもです」
 窓から獣竜の姿を見ていた志賀谷 京子(aa0150)が感心したような声を上げる。
「尻尾が鷲とかさ、てっきり羽毛恐竜みたいな姿だね」
『最近の学説なのでしたか? 人間が生きた時代に残った恐竜が神話になったのかもしれませんね』
 アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)は冗談とも本気とも取れない声音で言った。
「夢のある話だね。眼の前に居るとただの脅威だけどさ」
 餅 望月(aa0843)も窓からキリムの姿を確認する。
「災害級の愚神だね、愚神と言われるだけあって、地域信仰の可能性もあるのかな」
『解決したら悪い神様を退治した天使として崇められちゃうかもね』
 明るい口調で百薬(aa0843hero001)が言う。
「百薬は相変わらず能天気だね」
 えへへーと百薬が少し恥ずかしがる。敵に気圧されて深刻になられるよりもいい傾向だ。
 御童 紗希(aa0339)とカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)も山頂をうろつく愚神の姿を認め、深く息を吐いた。
「キリムって怪獣、ホントに伝承が残ってたんだね。あたしニャンガ族って初めて聞いた」
『俺だって初めてだよ。しかしこのバカデカい愚神をどう退治するか……』
 まだかなり高度があるが、その大きさは十分に把握できる。巨体であるというだけでも面倒なのに、今回は地形にも問題がある。
『活火山で足場も悪い。いつ噴火が起こっても不思議じゃない場所で……溶岩に近付きでもしたらあっという間に火達磨だ』
 山頂の中心辺りには赤く滾る溶岩湖が確認できる。ニーラゴンゴ山観光の目玉だが、リンカーたちには景観を楽しむ余裕はない。
 鬼灯 佐千子(aa2526)は目を細めて火口を眇める。
「一昨年にも噴火を記録している休火山、ね」
『……大規模な攻撃を行うと火山にも刺激を与えかねませんね』
「そうね」
 ノーニ・ノエル・ノース・ノース(aa2526hero002)が心配そうに言うのに、鬼灯は素直に同意した。火山への刺激は最小限に留めなければならない。となればグレネードやロケット弾は論外、大口径の火砲も使わない方が良いかもしれない。今回は経験の不足しているノーニとの共鳴が試せるか。鬼灯の心算はそのようなところで落ち着いた。幸い、周りは頼もしい方々ばかりである。
 そのとき、一際大きく機体が揺れた。地表に近づくにつれて気流が乱れているのだ。そしてキリムはそんな機体のほうへのっそりと歩を進めてくる。
「強行着陸します。揺れますがご容赦を!」
 威勢のいいパイロットの進言に反駁するものなどいない。敵の状況を確認しなければならない以上、こちらも相手に捕捉されるのは想定済みだ。あとは急ぎ戦力を投入し、速やかに離脱する。
 展開したランディングギアが荒々しく地面とぶつかり、山の斜面に轍を作る。すぐさまドアを開くと、リンカーたちが降り始め、暖気したままのローターが回転を増す中、最後の一人が飛び出した。
 着陸から離脱まで僅か十二秒。仕事を終えたパイロットは帽子のつばを触れる敬礼だけ残して再び空へ舞い上がった。
 機内から降りるなり、雪室 チルル(aa5177)は叫びだした。
「まだ2月なのに凄い暑い! むしろ熱い!」
『赤道すぐ近くだし、火山真っ只中だからそりゃ熱いでしょ』
 スネグラチカ(aa5177hero001)が冷静に突っ込みを入れる。とはいえ彼女も雪多い世界の出身なので、この暑さには辟易していた。
「さっさと倒してひんやりしたアイス食べたい!」
『あ、それは同感。こんなところで長居はしたくないしね』
 氷鏡 六花(aa4969)は所持品かき氷入り大瓶で涼みつつ、額に汗を浮かべている
「……ん。ここからでも……すごい……熱気……」
 まだ火口も見えないが、近づくにつれ否が応にも熱は伝わってくる。ペンギンの獣人である彼女には堪える暑さだった。
 アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)もまた大瓶の冷気で涼み、半透明の羽衣をさらに緩めて肌を露わにする。
『ええ、堪らないわね……溶けちゃいそう……』
 すり鉢状の頂上の縁に立つと、すでにキリムがこちらに向かってくるのが見えた。
『あの大きいのが愚神みたいね。キリム……“ムウィンド叙事詩”にも出てくる七頭の龍よ。伝承では森に棲んでいたみたいだけど……よりによって火口に現れるなんて……』
「……ん。暑いけど……周りに人もいないし……好都合……なの。ここで……仕留めちゃおう……」
 アルヴィナは頷き、六花の頭の青リボンに付いた氷結晶に触れると、雪の結晶のようなライヴスが舞い散ると、共鳴は完了する。
 ハーメル(aa0958)と葵(aa0958hero002)も頂上に立ち、景観を眺める。煮えたぎる火口。立ち込める噴煙。七つ首の竜。愚神を退治するという任務はあるものの、その光景には滾るものがある。
「よしっ! 人狩り行こう!」
『おーっ!』
 ハーメルの掛け声に葵が元気よく返事した。他の皆もリンクを開始した。


●獣竜との対峙

 ハーメルは走りながら狼の牙のようなアクセサリーを振りかざし、冷魔『フロストウルフ』を召喚する。冷気によって構成された疑似生命として、溶岩や熱気への対策にもなる。更に念の為、人工知能を搭載した剣『グロリアス・バルムンク』の軌道予測機能をONにする。これを使えば自身の回避行動に加え、人工知能による敵の攻撃予測も参考に出来る。
 相手との体格差が圧倒的である以上、真っ向勝負というわけにはいかない。こちらは持ち前の機動力と小回りで回避しながら、長所を生かした戦い方で攻めねばならない。
 鬼灯も戦いの準備をすべくノーニとリンクし、その手から幻想蝶を展開し――突然、目の前で爆発が起きた。
「ちょっとノーニ……?! 蝶の幻影が現れたと思ったらイキナリ爆発したわよ……!?」
『……魔力制御は得意ですが、魔力変換や物質化は苦手なので』
 不機嫌そうに言うノーニ。仕方ないとばかりに大剣『ツヴァイハンダー・アスガル』を引き抜く鬼灯。こうなれば接近戦を展開するしかない。
 六花は激しい冷気を纏いながら走り寄る。そこから飛び上がり、羽衣をたなびかせながら氷雪の混じったライヴスの突風『ゴーストウィンド』を叩きつける。それはキリムの首の一つに命中し、相手はずらりと並んだ七つの目をパチクリさせるが、それほど堪えた様子はない。よほど強力な攻撃でなければあの首は落とせないだろう。
「グワガアアアアアアッ!!」
 噴煙を裂いて七つの首全てが現れる。自在に巡る七つの首と、計四十九個の眼球が、ばらけるリンカーを一人たりとも見逃さない。
「さてと、本格的に始めるとしましょうか」
 カイとリンクした御童がロケットアンカー砲を放つ。首の一つに命中したそれを急激に巻き取り、御童の体が舞い上がる。巨大な口を開けて違う首が彼女を飲み込もうとするが、機を見てアンカーを収納すると体が大きな放物線を描き、キリムの首を超えてその背中に着地した。
 そしてすかさずガトリング砲『ヘパイストス』を担ぎ、キリムの尾羽を撃ち抜いた。万が一それによって飛翔したり、噴煙を巻き上げたりされては厄介であるため、真っ先にそれを潰した形だ。
 京子も既にアリッサと共鳴し、アンチ・グライヴァー・カノン『メルカバ』を照準する。
『射撃に特化した我らの強みを見せるところですね』
「一芸があるなら使わなきゃ損だしね」
 『メルカバ』の照星を差し向ける。狙うのは一つの首に七つもある眼球。シャープポジショニングによって絶好の攻撃一から放たれたライヴス砲弾が吸い込まれるようにキリムの頭に命中した。
「ギグウウウウウッ!」
 軋るような悲鳴。ライヴス砲弾はキリムの首の一つ、その頭半分を吹き飛ばしていった。獣竜の血が溶岩湖に落ちて蒸発し、何とも言えない生臭さを周囲に放つ。
「よしっ!」
 京子が思わずガッツポーズする。ともかく首の一つは仕留められた。
「そういえば、あいつがどうか知らないけど、伝承だと丸呑みするらしいよ。胃袋の中からの攻撃が弱点だって」
『へえ、やりたいんなら止めませんよ』
「さすがに嫌だな。砲弾を口の中に叩き込むくらいにしておこうっと」
 再び京子が狙いを定めるが、ここでキリムは予想外の行動に出た。傷ついた頭が付いている首を根本から噛み千切り、溶岩湖に投げ入れたのだ。
 首はたちまち燃え上がり、炎と煙を朦々と放ちながら沈んでいく。おかげでリンカーたちは生臭い煙に巻かれることとなった。
「あいつ、自分の首を……」
 鬼灯は言い知れぬ不安を感じる。用済みになった自分の首を即座に利用してみせる切り替えの早さは、気味が悪いほど合理的だ。おかげで接近戦を行なおうとしていたリンカー同士が分断される形となった。ここからさらに合理的に行くとすれば――
 生臭い白煙の奥が、僅かに揺らめいたように見えた。
『舞え、幻影蝶!』
 ノーニの高速詠唱でライヴスによる蝶の群が形成されると、そこにちょうど口を開けたキリムが突っ込んできた。その口の中で、幻影蝶が迸るように爆裂した。
 顎も頭も丸ごと吹き飛ばされ、歪な喉の断面を晒すキリム。鬼灯は熱さによるものではない、冷や汗のようなものを背中に感じた。やはり即座に確固撃破を狙うキリムもそうだが、即座に爆裂する幻影蝶を展開したノーニの反応も凄まじい。
「また爆発……、まるで成形炸薬弾ね……」
『……』
 リンクしている体の中で、ノーニが声も出さずに不機嫌さを醸し出す。当然、鬼灯には全て伝わっている。
「……、えっと。ま、まあ、ちゃんと当たっているのだから十分よ。ええ」
 若干どもりながらも取り繕う鬼灯。実際、首の一つを落としたのだから十分な戦果と言える。
 白煙が撒かれた他のリンカーも、キリムとの戦闘を継続していた。
 結はそのような目くらましなどお構いなしに突進する。炎を好む英雄であるサラとリンクしているからか、熱気による不快さとは無縁になった。
『狩り慣れた敵、火山というホーム、久々に楽しくなりそうね!』
「調子に乗って被害を増やしちゃダメですよ」
 結がサラを諌めていると、煙を裂いて目の前にキリムの首が現れる。口を開けて向かい来るそれを見ても動揺することなく、結はベルトに手を掛けた。
 瞬間、結の姿は掻き消え、噛みつこうとしていたキリムの目が驚いたように周囲を窺う。その頭上にかかる光が、僅かに陰る。
「やああっ!」
 気合いの声がキリムの頭に降りかかる。火焔を纏った大剣を振りかざす結の体がキリムに向かって落下する。キリムが勘づくが既に遅く、落下の威力を加えた振り下ろしが愚神の首を綺麗に両断した。
「グギャアアアア!」
 断末魔を上げて竜の首が転がっていく。迸る返り血を炎剣『スヴァローグ』で焼き締め、サラは悠々と大剣を幻想蝶に修めた。
 事前にジャングルライナーで空中をマーキングし、敵の攻撃と同時に作動。回避しつつ頭上に位置取り、一気に首を狩る。こういった手合いに慣れたサラにとっては造作もない仕儀であった。
『火山の猛威は噴火だけで十分。他の災厄はいらないのよ』
「悪い怪物は退治されるのが定めです」
 結はさらに前進する。キリムの首は複数ある。恐らく全て潰さなければ決着とはならないだろう。
 そのとき、前方の白煙が俄かに晴れる。百薬とリンクした望月が巨大な旗を振り回し、それによって煙がどんどん撹拌されているのだ。聖旗『ジャンヌ』の形成するフィールドが光を伴って煙を押しのけていく。
 そこへ振り下ろすようにキリムが首を差し向ける。鋭い牙がずらりと並ぶ口が望月に振りかかるが、聖旗が放つ光のフィールドに遮られて届かない。
 竜と対峙し、一歩とて退くことのない天使のような姿の女の子。どこか一幅の絵画のような光景に結は思わず見入ってしまう。
 望月がゆっくりと槍を構える。それに気が付いたキリムが首を引くより早く、青白い火焔を伴った刺突がその頭を串刺しにし、根こそぎ焼き払ってしまった。
 蒼炎槍『ノルディックオーデン』を背に収める。結の視線に気づいた百薬がさっと旗を振って残りの煙を払うと、大げさにウィンクして言った。
『ワタシ、まさに天使だったでしょ』
 結はにっこり笑ってそれに同意した。竜と天使、なかなか良さそうな題材をもらえて彼女としても満足だった。
「はい! なんだかとっても素敵だったのです」
『あはは、ありがと。さあ、残りの首をぜーんぶ刈り取っちゃお!』
 


●七頭全て堕つ

 煙が晴れると、既に趨勢は決しているように思われた。残るキリムの首はたったの三つ。それが残りのリンカーたちを睨みつけるが、体は徐々に退き下がっていった。
 ここへきて逃がす手などない。六花は魔導書をめくり、背に魔法陣を展開しながら敵の様子を窺う。
 そのとき、キリムが一際強く足を踏み下ろした。衝撃は頂上全体に広がり、中心にある溶岩湖もまた震える。
「まずいよ、あれ」
 ハーメルが顔を青くして呟く。そして溶岩湖がにわかに泡立つと、それが激しく噴き上がった。
 全員に緊張が走る。噴火というほどの規模でもなく、噴石のような質量のあるものではないが、降り注ぐ高温の液体は十分に脅威だ。
「……アルヴィナ!」
『いつでもいいわ……六花』
 檄を受けたアルヴィナは魔導書『終焉之書絶零断章』にありったけのライヴスを注ぎ込む。急激に高まる冷気が稲妻のように大気を走り、六花がそれに方向を与える。
「凍えよ――絶零!」
 限界まで凝らせた冷気が空に向かって放たれる。それは吹雪のような風を伴って荒れ狂い、降り注ぐ溶岩の飛沫を即座に冷まし、急激な温度差によって生じた突風で吹き飛ばしてしまった。
 獣竜が残った三つの首を竦ませる。もはや六花にはキリムの怯えまで手に取って見えるようであった。どうやらあれが最後の一手だったらしい。それを不発に終わらせたなら、あとはとどめを刺すだけ。ただの一手でも攻勢を実らせるつもりはない。
 手も足も出ず、何も為せないまま、異世界へお帰り願うだけだ。
「行って! 狼くん!」
 ハーメルが手掌で素早く指示すると、フロストウルフが飛び上がってキリムの首元へ噛みついた。その噛み傷から冷気を浸透させ、肉を凍り付かせていく。 
「いっただきぃ!」
 そこへすかさずチルルが飛び込む。大剣『ウルスラグナ』ごと体当たりをかますように切り込んだ。凍結して靭性を失った首の肉が砕け散るようにして斬り落とされる。
「ギキイイイイッ!」
 残り二本の首が悲鳴を上げる。首を巡らせた背後には、最初に背中に移動していた御童の姿があった。
『俺たちも忘れてもらっちゃ困るぜ』
 大剣『ヘルハウンド』が唸りを上げる。後方からの猛烈な薙ぎ払いが、最後に残ったキリムの首二本を豪快に斬り飛ばした。


●戦い終えて

 首を全て落とされたキリムの体はほどなくライヴスとなって分解され、跡形もなく消え去ってしまった。それを見たカイがつまらなそうに鼻を鳴らす。
『伝承によるとキリムってバケモンは1000人もの生きた人間を食らってたらしいな。アイツの腹を開けてたら、今まで食った人間や動物が出てきたかもな』
「…………あんまり想像したくない絵面ですね」
 怪物の腹の中から人間がぞろぞろ出てくる様を想像し、御童は少し顔をしかめた。
「へえ~、そんな怖い怪物だったんだ。なにはともあれ、倒せてよかったよかった」
 水筒に入れた氷水をおいしそうに飲みながらチルルが感想を漏らす。この暑い中、仕事を終えて飲む冷たい水は格別のおいしさだった。
「戦いが終わったらまずは水風呂! 水風呂で体を冷やそう! そしてアイスを食べてひんやりモードよ!」
『赤道真っ只中でこんな夏みたいな気分で大丈夫なの? 本部に戻ったら凄い寒い思いしそうだけど…………』
 今しがた氷水を平らげておいてまだ冷たいものを欲するのかと、スネグラチカは若干呆れてしまった。とはいえ戦いは終わったのだから、早く休みたいことには同意見だった。
「討伐完了! みんな、お疲れさま!」
 何故か妙にご機嫌な様子のハーメル。大勢で協力してドラゴンを狩る作戦は、彼のゲーム的な欲求を十分に満足させ得るものだった。
『やっと帰れるね。溶岩の近くはすごい暑かったし、もうクタクタだよ』
 葵がパタパタと手で仰ぎ、氷水を呷るチルルを羨ましそうに眺める。
「早く帰るのも勿体ないかもよ。せっかくだから景色見ながら帰ろうよ」
 ハーメルが指差した先を見て、葵は思わず感嘆の声を上げた。アフリカの地平線に降りていく赤い太陽が一望できるのだ。任務とはいえ、こういった景色を味わうことが出来るのは世界中に派遣されるリンカーならではの贅沢と言える。
 ニーラゴンゴ山を照らす夕日を浴びながら、リンカーたちは戦いの地を後にした。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969

重体一覧

参加者

  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 神月の智将
    ハーメルaa0958
    人間|16才|男性|防御
  • 惰眠晴らす必殺の一手!
    aa0958hero002
    英雄|18才|女性|ブレ
  • ひとひらの想い
    想詞 結aa1461
    人間|15才|女性|攻撃
  • 払暁に希望を掴む
    サラ・テュールaa1461hero002
    英雄|16才|女性|ドレ
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 魔女っ娘
    ノーニ・ノエル・ノース・ノースaa2526hero002
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • さいきょーガール
    雪室 チルルaa5177
    人間|12才|女性|攻撃
  • 冬になれ!
    スネグラチカaa5177hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
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