本部

特殊AGW運用試験 ~節分ver.~

一 一

形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 6~15人
英雄
6人 / 0~15人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/02/14 18:45

掲示板

オープニング

●進捗状況
「では、報告を聞こう」
 書類や書籍の山がいくつもそびえる『特殊状況下を想定した特化型AGW開発部(略称・特開部)』にて。
 サングラスの厳つい顔でおなじみの主任が、デスクに両ひじをついて思わせぶりなポーズを取る。
 彼の視線の先には、くたびれた白衣を着た男女が1組、資料らしき紙束を手に持ち直立している。
「はい、主任。上から新たに開発を命じられた『年少者の情操教育に配慮した非殺傷型AGW』、そのプロトタイプが先日完成しました。こちらがその資料です」
 男女が差し出す資料を受け取り、主任は細かい文字群へ視線を落とす。
 ……あっ、書類の山脈が揺れて――落ちそうで落ちない、っ!
「……ふむ、今回は正式な依頼ということもあり、開発費が下りたのが大きかったな。開発経過は終始順調だったと言えよう」
「…………しかし、いまだ納得いたしかねます。我々特開部の意義は名の通り、『特殊状況下』を想定したAGWの開発。ショー目的のオモチャを作れ、などという命令は――」
「僭越(せんえつ)ながら、私も同意見です。確かに、AGW開発には変わりありません。未来のエージェント足りうる人材育成の観点でも、その重要性は理解しています。ですが、これはあまりにも――」
「『特開部(われわれ)』をバカにしている――か?」
『…………』
 室内にいる3人の声音は、非常に重い。
 今まではえげつない低予算の中で好き勝手やらかしてきたが、今回ばかりは無茶ができない。
 最終的には子どもの前で運用するのだから、いつも通りのヤベェブツなど出せないだろう。
 が、この部署の研究者たちはいろいろと自由だ。制限の多い仕事は不平不満も出てくる。
 百発百中、トンデモAGWを創出する彼らだが、どこまでも真剣に誇りを持って研究・開発に着手している。
 遊びじゃないのだ。
 だからこそタチも悪いのだが。
「君たちの意見もわかる。我々が見据えてきたのは、常に実際の戦場。1人でも多くのエージェントを陰から助け、守るために武具開発を行ってきた。歯がゆい思いは、私も同じだ」
 シリアスなところ悪いが、アンタたちの貢献度は限りなくゼロだ。
「しかし、だ。訓練用のAGW開発の過程すべてが無駄にはなるまい。殺傷能力を抑え、安全性を確保するため試行錯誤に費やした経験が、いつか我々の力となるときがくる。必ず、な」
『主任……』
 資料を机に置き、主任は至極真面目に持論を説き、笑みを浮かべた。
 主任の思いを聞き、部下たちも感極まっている。
「フッ――運用試験が終われば、改良版に制御機構(リミッター)を積むこと、忘れるなよ?」
『――承知しております!』
 おい待てそもそも何故今ついていない?
 やめろ、今回も悪い予感しかしないぞ。
「最終的に非殺傷とはいえAGWです。性能テストとデータ収集はきちんと行いたいですからね」
「リアルなデータはリアルな戦場から得られる。……主任の信条まで、変えるつもりはありませんから」
 続けて男女2人は、交互にそう口にした。
 主任に気ぃ遣う配慮があるなら、エージェントにも気ぃ遣えよ。
「……ならば、外からの協力を依頼しよう」
 微笑みを小さくこぼし、部下の意見を聞き終えた主任は立ち上がった。
「準備に移るぞ」
『はいっ!』
 威勢のいい返事を残し、主任たちは雑多な書類だらけの部屋を後にした。
 そして、扉が閉まると同時にぐらぐら揺れていた山が一気に崩れ落ちた。
 ……この部署、なんで潰れないんだろう?

●帰ってきたモニター募集!
 東京海上支部の廊下で、男女2人の職員がなにやら作業をしていた。
「……で、『特開部』がグロリア社の正式依頼で開発した新型AGWのデータ集めに必要なモニターを募集した、ってわけか」
「何でも、子どもを対象にしたH.O.P.E.所属エージェントの広報活動で使う、デモンストレーション用AGWを頼んだんだって。近々、幼稚園とか小学校のイベントとかで必要らしいよ?」
「イベント? なんでまた?」
「えっと、確か……ちょっと前にネットで流れたDZ内で撮影された『ある動画』が原因で、エージェント出動案件に対する一般人の危機意識の低さが問題になって、子どもの時からちゃんと教育しよう! って流れになった……とかなんとか」
「あ~、あの嘘みたいな子どもアニメ風実写戦闘な。ありゃさすがにレアケースだけど、愚神や従魔に近づきすぎて現場のエージェントは何度も注意を飛ばしてたっけ」
「そうそう。それでちょうど、『節分』が近いから『豆まき』を題材にしたAGWを使って、交流会もかねた注意喚起をしていくんだって」
「なるほど、それなら『特開部』でもそう無茶な代物は出してこねぇだろうな。よかったよかった」
「そうね~。『鬼なりきりセット』はともかく『RSG』は大問題だけどね~」
「……心底聞きたくねぇけど、『RSG』ってのは何だ?」
「正式名称は『Roast Soybeans Gatling gun』――日本語だとたぶん『炒り大豆ガトリング砲』かな? 彼ら曰く『拠点防衛用掃射型固定砲台』らしいわよ? 大豆(たま)を供給すればライヴスが武装内部で炒り大豆を作って、6つの銃身から毎分6.000発の射撃が可能なんだってさ」
「それのどこが『非殺傷型』なんだ、おい!? 『豆まき』要素が『大豆』しかねぇだろうが!? イベント会場で戦争でもする気か、アイツらは!?」
「彼らの『豆まき』の解釈によると、鬼を『愚神や従魔』、実施場所を『最終防衛ライン』、炒り大豆を『迎撃用銃火器』に見立てた『拠点防衛訓練』だそうよ。ちなみに、モニター用のAGWはリミッターがないらしいから、現時点じゃ立派な凶器ね」
「本気で戦争する気だったんかい!? っつか最初からリミッター作れよ、無駄な犠牲が出るだろうが!!」
「データ収集は全力で、がモットーらしいわよ? ほら、まだいっぱいあるんだから、さっさと次に行きましょう」
『特開部』の被害に顔を青くする男性職員と、冷静な女性職員が去った後。
 壁には依頼者である『特開部』が自作した、『モニター募集』の張り紙が残されていた。
 ……デフォルメ主任、ふきだしで『Go to hell.(地獄で会おうぜ)』は確信犯だよ。

解説

●登場
 グロリア社の『特殊状況下を想定した特化型AGW開発部(略称『特開部』)』の主任及び職員
 全員開発プロジェクトに携わっている技術者で優秀
 基本的に研究・開発に没頭しており常識に疎く、頭のネジが外れている

●状況
 場所はH.O.P.E.東京海上支部の屋内演習場
 13:00集合(イベント実施予定時刻)
 体育館のように広く遮蔽物がない空間で、観客人形がたくさん配置

 主任が司会進行と参加者たちへの解説を兼任
 その他職員の数名が書記、データ解析を担当

 事前に資料等は配付されない
『鬼一式』装備PCは『敵』役
『AGW』装備PCは『エージェント』役
 鬼は入り口・AGWは建物奥からスタート

 終了条件
・『鬼/エージェント』の全滅
・『AGW』の破壊

●新型AGW(PL情報)
・鬼なりきりセット
 武器を含め全身を統一した複数のAGWセット
 一式すべてを装備することで本来の力を発揮する
 赤・青・黄など、色の種類も豊富

 セット内訳
 武器・トゲ付き金棒(射程1・大剣・物/魔切り替え可)
 頭・アフロ角
 顔・鬼のお面
 体・鬼のタイツ
 足・鬼の草履
 アクセサリ・鬼のピアス×2
 補助防具・鬼の下着(タンクトップ+短パンの上下セット)

 特殊効果
・一式を装備→基礎攻撃力常時×2
・豆系武器被弾→基礎防御力×1/2
・敵が渡辺姓→全ステータス基礎値×1/2

・RSG-0
 拠点防衛用掃射型固定砲台AGW
 本来は非殺傷で種別は『銃』
 射程1~50+範囲1
 ライヴスで大豆(たま)を炒り、弾丸として6つの銃身から毎分6.000発の射撃が可能
 先着3名の人数制限あり

 特殊効果
・移動力→0
・攻撃対象が鬼系→基礎物理攻撃力×1.5+BS衝撃(50)付与
・攻撃後3R→弾切れ
・弾補充→ロングアクション1R消費

●その他
 能力値はプレ提出時の第1装備を基準にマスタリング
 生じるリスクはすべて自己責任(重体判定アリ)

リプレイ

●試験当日
 張り紙が支部内に掲示されてしばらく。
「AGWのモニターか……楽しそうだな」
 エージェントとなって日が浅い古明地 利博(aa5567)が興味を示す。
「怪しそうな依頼ですよ~?」
 ただ、兎川 結衣(aa5567hero001)はあまり乗り気ではなさそう。
「参加してみないか?」
「う~ん……これも経験ですし、こーちゃん一人じゃ心配だから、私も参加しましょうかね~」
 結局、利博の好奇心に押されて結衣が付き合うことになった。
 ……後に利博は、この選択を後悔する。

「よく集まってくれた」
 モニター当日。
 集合したエージェントたちへ、主任は挨拶と試験の概要説明を行った。
「……また、すごいものを作りましたね?」
「……ロ」
 2種のAGWを見た構築の魔女(aa0281hero001)はコメントに困る。
 辺是 落児(aa0281)の目も、心なしか遠い。
「豆撒き、とは……」
「チャレンジ精神は嫌いじゃないよ」
 他にも琥烏堂 為久(aa5425hero001)がRSGに絶句。
 琥烏堂 晴久(aa5425)はやや好意的だが、深く考えていないだけかもしれない。
「……はぁ、バカじゃないの? なんでままごと遊びを全力でやることになってんのよ。どうせ私達を見世物にして笑いたいんでしょ。あぁ、妬ましい妬ましい妬ましい……」
「お前だって実戦経験が欲しいって言ってたじゃねーか。ものほんの鬼の力、存分に見せつけたろーぜ!」
「……お気楽、そのポジティブさが妬ましい……」
 びろーん、とタイツをつまむ宇治橋憐厳姫薄緑(aa2431hero002)からは不平不満がポロポロと。
 浅葱 吏子(aa2431)が豪快に笑ってなだめるが、薄緑の憂いは消えない。
「……つか、なんでわざわざ金棒にするのよ。電柱の方があんたは絵になるでしょ。妬ましい」
「そーいうなって。案外やってみると楽しいもんだと思うぞ。こーゆーのは楽しんだもん勝ちだって!」
 終いには薄緑の標的が武器にも飛び火。
 吏子に肩をバシバシ叩かれ、薄緑のジト目が余計に深まる。
「遊びとは言うが、別の側面もあるのだ」
 そこで主任はタブレット端末で『ある動画』を見せ、小児向けの交流会についても補足した。
「あの動画が役に立ったみたいだね」
「うんうん、兄様頑張ってたものね。この調子で、注意喚起が広まるといいな」
 当事者の1人だった為久は、自分の登場シーンに苦笑しつつも満足そう。
 晴久も笑顔で同意し、愛想を振りまく動画の兄へ熱い視線を注ぐ。
「戦場の近くに居る事がどれ程危険かアピールするためにも、今回の試験映像をイベントで流せないか? それで、より現実味を出すために観客人形に配慮せず――寧ろ巻き込みたい」
「データ収集は(拓海が)全力で協力します。子供にキツ過ぎる部分は、編集して欲しいですけど」
 すると、同じく動画出演者だった荒木 拓海(aa1049)から提案が。
 メリッサ インガルズ(aa1049hero001)も副音声付きで後押しする。
 動画には気恥ずかしさで頭抱えた拓海だが、一般人に戦闘の危険性を広く伝える機会と工夫が必要と感じていたためだ。
「あれはイベント本番で用いる、観客のRSG防御用クッションと同じ素材のダミーだ。今回は鬼役の弾除けの用途も含むが、扱いは君たちに任せよう」
 主任の許可をもらった拓海たちは鬼役で集まり、人形の扱いも相談していく。
「あ、ちょいカメラさん、ええどすか?」
「? 何をしている?」
 その頃。
 映像が宣伝にも使われると聞いた弥刀 一二三(aa1048)はカメラ持ち職員へ近づいた。
 背後にはお菓子をモグモグ頬張るキリル ブラックモア(aa1048hero001)が立つ。
「どうも、良い子の皆はん、おこんにちは。駆け出しエージェント、弥刀一二三どす」
「何年、駆け出しの、つもりだ?」
 画面の向こうへニッコリ笑顔な自称駆け出しへ、咀嚼混じりのツッコミが飛ぶ。
「今回は、従魔や愚神の脅威を分かりやすう、豆撒きでお教えしますんで、よう見とっておくれやす」
「何故、貴様が、司会を……?」
 一二三は身振りを、キリルはツッコミを交えて軽快にオープニングトークをこなす。
「特に、あの一見爽やかイケメン風の鬼、見た目で騙されたらあきまへんえ! おっそろしい力、持っとるんどす!」
「拓海殿に、謝れ」
 ノリのいい職員は即座に拓海の横顔をズーム。
 それ以上にノリノリな一二三は、キリルからの冷たい視線をスルー。
「見た目で判断出来んのが、従魔や愚神の脅威どす! ほな、生きとったらまた会いまひょ」
「……恐らく、会えんだろうな」
 コメントをきっちり締め、一二三は手をヒラヒラ振って画面からフェードアウト。
 お菓子をパクつき呆れるキリルも横切っていった。

●本気の豆撒き
 作戦を決めた鬼役はそれぞれAGW一式を装備する。
「頭では分かっていても、恥ずかしいっすね……」
 青いタンクトップの裾を握る高野信実(aa4655)はやや赤面。
 どこかコミカルな意匠は、高校生には羞恥が強い。
「それに、これで人を殴るんっすか……?」
 さらに信実は金棒にも引き気味だった。
「……若干ダサいな」
「でもそれっぽいですよ~?」
 紫色の鬼となった利博もまた、全部着てみた後で本音をポロリ。
 結衣もフォローっぽい感想を述べつつ、ダサいことは否定しなかった。
「ピアス……他の型は無いかな?」
 黄鬼の拓海は外見ではなく、未経験なピアスへの装備に抵抗を見せた。
 すぐにイヤリング型が用意され、全身コーデは無事完成。
「一式、似合うわ……っく!」
 直後、メリッサが口元を手で押さえて拓海から顔を背けた。
 笑いを堪えるも、体の震えは抑え切れていない。
「……共鳴したらリサも一心同体だぞ」
「楽しそうよね☆」
 むっとした拓海だが、メリッサの笑顔は崩れない。
 共鳴は拓海主体と決まったからこその余裕だろう。
「んだよ、おめーだって脱ぎゃあいいじゃねーか」
「あんたのよーな筋肉達磨と一緒にするな! 妬ましい!!」
 他方、吏子は薄緑から断固として全身装備を拒否された。
 最終的に、吏子は緑色の鬼のお面と鬼の草履、そしてトゲ付き金棒のみの装備で落ち着く。
(今日の俺は悪い奴、悪人なんだ……)
 銃の扱いに不慣れだからと赤鬼になった黄昏ひりょ(aa0118)は、1人トイレにいた。
 普段は少しでも被害を最小限に、と考え行動する彼とは真逆の役回りで自信がないらしい。
(俺は鬼……悪い、鬼……っ!)
 だが、模擬戦から愚神達との戦いの危険性を知らせたい思いも強い。
 洗面台の鏡に映る鬼のお面と向き合い、ひりょは自己暗示をかけ続けた。

 一方、RSG組も使い方をレクチャーされる。
「鬼服の兄様も見たかった! でも、セーラー服とガトリング砲の組み合わせには勝てなかったんだよ!!」
「ハル……心の声が漏れてるよ」
 が、晴久の興味はビジュアル性能に集中。
 為久が誰かに向けた晴久の熱弁と、RSGの使用法を聞いて準備する。
「お仕事なら全力を尽くしますが……なんともですね」
 銃器に触れる機会が多い構築の魔女の気になる点は2つ。
 銃弾(大豆)補充の所要時間と、銃身の可動限界範囲だ。
「弾が実物な以上、弾切れは起きるはずですから……射撃の開始をずらしましょう。射撃可能範囲は、実戦で確かめた後で死角を補い合うしかなさそうですね」
 RSGに触れつつ、構築の魔女は『弾道思考』も含めた射程距離を概算。
 大まかな戦術を組み上げ、同じ班の晴久と一二三にも話を通す。
「攻撃2倍?! 聞いとらんで!」
「適当に聞き流しているからだ、愚か者め」
 ついでに鬼側の性能も確認したところ、焦る一二三にキリルは嘆息した。

 開始直前、鬼組に現れたひりょに少々ざわつく。
「遠慮なくやらせてもらうぜ、へへ」
「ひりょ、だよな?」
「あれは巻き込んでいいんだろ?」
「あ、うん……」
「そりゃいいや」
 普段の彼からかけ離れた言動で、拓海は困惑を隠せない。
 トイレでの自己暗示が効き過ぎたようだ。
「仕事なんで、今は身も心も鬼になります!」
 悪ひりょと同じく悪い鬼役とノリを楽しもうと信実が共鳴。
「鬼に金棒、エージェントに豆ガトリング――お互い手加減は無しだよ」
 黄から赤に染まった目を細め、某野球選手のように金棒を地面に対して垂直に掲げ、肩口をクイッ! と引いた。
「ヒャッハー! 悪い子はいねーかー、ってな!」
 兎の代わりに鬼の面をつけた成人男性姿の利博は緊張気味。
 鬼になりきろうと口調を変えても、初めての戦闘らしい戦闘で金棒も少し震えていた。
「さぁて。暴れるか」
『嫌な予感しかしないのだけど? 本当に妬ましい……』
 共鳴して鬼役……というか鬼そのものな感じの吏子が金棒を肩に担いで不敵に笑む。
 好戦的な様子は頼もしくもあるが、薄緑には不吉な予兆にしか感じない。
「では――AGW試験、始め!」
 そうして全員の共鳴と配置が終わり、主任が開始を宣言した。
「RSG組の弾はこれだ」
「って、弾入ってないんかい!?」
『なんだそれは、聞いてないぞ!?』
 同時に主任から渡された大量の大豆に、一二三とキリルが盛大にツッコむ。
「おら、行くぜ!」
 直後、悪ひりょの号令で鬼たちは散開した。
「おらおらおらおらぁ!! 鬼のお通りだぁあ!!!」
『なんで真っ向から突っ込むのよぉ! これなら私じゃなくてもよかったじゃないの! ねーたーまーしーいー!!』
 最初に突出したのは『リジェネーション』を自らに付与した吏子。
 自前の防御力と生命力を信頼し、続く味方の壁役として先陣を切る。
 薄緑の悲鳴は……吏子の声にかき消えた。
「けけ、こりゃ爽快だぜ! さぁ、どんどん潰すぞ!!」
「ファイト、いっぱーつ!」
 次に悪ひりょが手近な人形を金棒で殴りつつ続き、信実も人形を潰しつつ追いかける。
「近づかれないのが一番ですが、多勢に無勢の上に初動の時間ロスは痛いですね……」
 鬼役3人を正面から見据え、構築の魔女はRSGへ大豆を供給。
 起動後も中で豆を煎っているようで、発射準備が整わない。
「危険性をアピールしつつ、距離を詰める!」
「――拓海か!?」
 中央の構築の魔女から見て右側では、数体の人形を壊して拓海が前進。
 1対1に近い形で迫る様子に、一二三の金と銀の目に焦りが浮かぶ。
「弾除け用なら、遠慮なく利用してやるよ」
 中央を挟んで左側、2列で並ぶ人形の隙間を縫うように走る利博。
 金棒を一時幻想蝶に収納し、『全力移動』でRSGを目指す。
『一般人を巻き込まないように戦うのも訓練だよね』
「なら、古明地さんではなく――」
 正面から人形を盾に近づく利博だが、晴久の一言で為久は黒セーラーのスカートをひらり。
「勢いのある浅葱さんへ、牽制を」
『いっけー!』
 瞬間、RSGのチャージが完了。
 為久は晴久の声で吏子の進路を阻もうと銃身を右へ向け、発射ボタンを押s――

 ズガガガガガッ!!

「おっと!?」
 急停止で回避した吏子は、ふとRSGの性能を試そうと右手をわざと出す。
「元が豆だろ? 威力なんてたかが――」

 ドシュッ!

「――いってぇ!? マジで実弾じゃねーか!?」
『何なのこれ、冗談じゃないわよ! 妬ましい!!』
 が、右手を貫く想定外の痛みで吏子は声を荒らげ、薄緑も憤然と抗議。
「  」
 イベント用の威力じゃないよね? と言葉を失った為久も、視線で主任に訴える。
「っ!」
 直後。
 今度は構築の魔女が、吏子へ『ロングショット』を放つ。
「っ! ――上等だ!!」
 顔を上げた吏子は金棒で急所を守り、防御でしのg――

 ズドドドドドッ!!

 ……ドスン!

 空気が、凍った。

「――担架ぁっ!!」
 沈黙を切り裂く主任の大声で、『特開部』のリンカーが担架で負傷した吏子たちを運び出す。
「ねた……ましい……」
 治療室へ運ばれる途中。
 薄緑の腕が、担架の縁からパタリと落ちた。
「では、試験続行!」
「ちょ、ちょっと待ってください!?」
 何事もなく再開を促した主任だが、構築の魔女が待ったをかけた。
 発射寸前で吏子の急所から射線を外した結果の惨事は、さすがにスルーできない。
「事前に計測した参考数値ではあるが、本試験のAGW使用による構築の魔女殿の推定攻撃値は『約1400』。対してRSG被弾時における浅葱殿の推定防御値は『約300』。不測の事態ではない」
 しかし、冷静な主任の解説に鬼側は血の気が引く。
 鬼役で防御力も生命力も一番高い吏子が一撃で『重体』は洒落にならない。
「ちなみに、推定攻撃値が最も高いのは荒木殿の『約1800』だ。迎撃側のリスクも同様にある」
 逆にエージェント側も、先ほど一二三が揶揄した『おっそろしい力』にリアルな戦慄を覚えた。
「本試験は『豆撒き』だが『安全』ではない。両者、心して挑むように」

 ――最初から『豆撒き』ですらなかったよ!!

 主任の言葉が、全員の心を1つにした瞬間だった。

(※これは豆撒きです)

●大豆は死の香り
「――あの物騒なのを速攻で潰せぇ! 今の俺達じゃ一発でもやべぇぞ!!」
 すぐさま人形を盾にした鬼たちへ向け、悪ひりょの注意を飛んだ。
「これ確かコメディだよね!? ボク依頼間違った!?」
 信実よ、ここはコメディという名の戦場だ。
「思った以上に兵器ですね……全く笑えません」
 2人を観察する構築の魔女は、銃口を距離が近い悪ひりょへ固定。
 カメラやエージェントとしての立ち回りを意識し、人形ごと射撃はできない。
「人命を守ってこそのH.O.P.E.ですし……弥刀さん! 拓海さんは私の射程外ですので、お願いします!」
「了解や! ――くたばれ、拓海!!」

 ズガガガガガッ!!

「待て、ヒフミ! 殺す気か!?」
 構築の魔女の指示もあり、一二三は迷わずRSGを乱射。
 驚愕しつつ拓海は直線的だった移動を不規則な軌道へ変化し、極力回避に努めて豆を金棒で弾く。
『もはやどっちが鬼か分からんが、殺られる前に殺らねば死ぬぞ、フミ!』
「わかっとる!」
 ただ、キリルと一二三のやりとりからわかるように、撃つ方も必死だ。
 聞かされた拓海の攻撃力は高位愚神並の脅威。
 1発食らえば本気で死ねるため、一二三は拓海への遠慮と一緒に容赦も捨てた。
「聞いてねぇぞ、くそったれ!」
 最も狼狽が強かったのは利博だ。
 共鳴状態で若干は軽減するが、過去の経験から利博は『死』への恐怖心が人一倍強い。
 現状、鬼の中でRSGに一番近い位置にいる利博だが、恐怖ですくむ足は震え人形の陰から出られない。
『早く倒そう、兄様!』
「ハル、だけど……」
 為久至上主義の晴久は兄の身を強く案じるが、冷たい銃口は利博を牽制するのみ。
 元々人形を撃つ気はなく、人に銃を向けることにも気が引けていた為久。
 葛藤の鎖が全身を縛り、引き金にかけた指が……重い。
「はっ、はっ、――やってやる!」
 しばしの膠着状態から、先に覚悟を決めたのは利博。
 浅い呼吸を無理に抑え、人形を盾代わりに抱えて素早く為久の側面へ回り込む。
「っ!?」
 反応が遅れた為久は可動限界に捕まり停止。
 RSGでの迎撃を封じられた。
「お、らぁっ!!」
 さらに利博は為久へ人形を投げつけ、さらに接近。
 そのまま人形を受け止めた為久に、構築の魔女が気づく。
「琥烏堂さん!」
 判断は刹那、幻想蝶から抜いた愚者の双銃で『妨害射撃』を利博へ浴びせた。
『兄様っ!』
「く……っ!」
 動きが鈍った利博を見て、晴久が叱咤。
 為久はRSGから数歩離れ、『銀の魔弾』を放ち――爆発。
「――ハッハァ!」
 しかし、利博の歩みは止まらない。
 激痛が走る体を黙殺し、無理やり跳躍。
「ホームランだぁ!」
 利博は空中で金棒を握って――フルスイング!

 バキッ!

 RSGの銃身が、一撃でへし折れた。
 瞬間、交差する利博と為久の視線。
『兄様、追撃を!』
「――っ!」
 生存本能から下された晴久の短い指示で、為久は『銀の魔弾』を再び紫鬼へ。
「皆……あとは任せ――」
 視界が光で染まる中、不敵な笑みを残した利博の意識は――闇に沈んだ。
「……すみません」
 自ら手折った紫鬼の倒れ伏す姿に、為久の表情がゆがむ。
 手当てをと伸びた手も途中で止まり、足音は未だ続く戦場へと離れていった。

(※これは豆撒きです)

「――ここだぁ!!」
 一方、『妨害射撃』の直後。
 自身に『パワードーピング』と『リジェネーション』を付与した悪ひりょが駆け出していた。
「な、っ!?」
 構築の魔女の大きな隙からRSGの破壊を確信した悪ひりょは、しかし目を丸くする。
「ごめんなさい、ひりょさん――」
 構築の魔女の流し目と謝罪でこぼれ落ちる、愚者の片割れ。
 代わりに収まるは、RSGの操縦桿。
「片手でっ!?」
 うつむいた銃口が上がり、悪ひりょと相対。
 銃身が高速で回転し、鼻腔をくすぐる大豆の芳香。
 埋め損ねた距離は、およそ3~4m。
 絶望的に近くて、遠い距離。
「ち、くしょうがぁ!!」

 ズドドドドドッ!!

「――ここで死ぬわけには、いかないんです」
 赤鬼の体は地に沈み、魔女の言葉が空に溶けた。

(※これは豆撒きです)

 残る鬼は2人。
『フミ! 弾が!』
「……ちっ!」
 しかし、拓海を追っていたRSGがここで沈黙。
 キリルの声で一度予備大豆へ目をやり、しかし一二三はすぐに視線を切る。
『今よ、拓海!』
「うおおおおおっ!!」
 弾切れを見抜いたメリッサの号令で拓海は加速。
 死の豆を躱して詰めた一二三との距離は短く、補充の暇などない。
「まだや! まだ終わっとらんで!!」
 接近する拓海を見据え、一二三はRSGを見限った。
 幻想蝶から銀色のダガーを取り出し、『ライヴスショット』で牽制する。
「ヒフミ!」
 それでも拓海の進撃は止まらず。
 金棒の有効範囲へ肉薄され、『一気呵成』の反撃が迫る。
「っ! 拓海!」
 致命の一撃を前に、一二三はミラージュシールドで応戦。
 破城槌じみた衝撃を盾もろとも弾き飛ばし、『ライヴスブロー』で切り返した。
「ぐっ!? だが――っ!」
「――通しません!」
 諦めず拓海が一二三へ追撃しようと踏み込む直前。
 構築の魔女が足下の銃を蹴り上げ、両手に戻った双銃を同時に発砲。
「――っぐ!?」
 片方は、人形を盾にしつつこっそり構築の魔女へ近づいていた信実。
 わずかな隙間を抜けた弾丸が、信実だけを撃ち抜く。
「っ、づぅ!?」
 もう片方は、拓海の軸足を貫通。
 2者へと放った『トリオ』は、鬼たちの肉体を精確に射抜いた。
「――往生せいやあ!!」
 グラリと体が傾いだ拓海に一二三は獰猛に笑い。
 軌道が反転した『ライヴスブロー』による銀閃が瞬いた。
「――がはっ!!」
 加減のない斬撃で失うライヴスと弾ける鮮血。
 奮戦するも一歩及ばず、黄鬼はそのまま崩れ落ちた。

(※これは豆撒きです)

「――みんな、ボクもすぐ、そっちへ行くよ……」
 自分以外の鬼が倒れ、信実は諦念に身を任せ天を仰ぐ。
 そして『ケアレイ』と『エマージェンシーケア』で傷を塞ぎ、『パワードーピング』を纏って飛び出した。
『兄様避けて!』
 進む先には、構築の魔女とRSGの護衛に回った為久。
 晴久の警告で、為久は隠神刑部の編笠を構える。
「優しくするから、ごめんね!」
 信実は金棒へこっそり『エマージェンシーケア』を仕込み、為久へ振るう。
「どうぞ、お気遣いなく」
 しかし為久の編笠がふわりと舞って、信実の攻撃は虚空を泳いだ。
「うそっ!?」
 まるで誘導されるような『拒絶の風』にあしらわれ、慌てて体勢を立て直した信実は。
「ひぇっ!?」
 ――フワリと漂う大豆の匂いで、背筋が凍る。
「背中がおろそかですよ?」
 振り返ると、RSG越しに構築の魔女と目が合った。
「や、優しくお願いしm」

 ズドドドドドッ!!

 青鬼に刺さった豆に『エマージェンシーケア(やさしさ)』はない。
「この試験には何故、安全装置がなかったのですか――?」
 最後に、参加者全員の疑問を構築の魔女が代弁して戦いは終わった。
 大きな犠牲を払い得た物は少ない、虚しい勝利だった。

(※これは豆撒きです)

●生還を祝して
『――乾杯!』
 数日後。
『地獄』から戻ったエージェントたちは、慰労会で再び集合した。
「食いだめの機会やあ!」
 経費はグロリア社負担のため、提案者の一二三が早速がっつく。
「しかし、オレたちよく生きてたな!」
「あんたはあんたで元気すぎでしょ、妬ましい」
 包帯ぐるぐる巻きの吏子は酒をがぶ飲みするほど元気で、薄緑は呆れるしかない。
「あはは、俺はよく覚えてませんけど」
 気がつけば終わっていたひりょは苦笑い。
「安全にはもっと気を配ってほしかった……」
「RSG-0、でしたっけ~? あれ、リミッターなしだと撃たれた方はトラウマですよ~?」
 利博はAGWを品評するも恐怖がぶり返し、結衣に背中をさすられる。
「他の改善点は……片付けの大変さかな?」
 豆と血液の撤去作業を思い出した晴久は苦笑。
「次は負けないからな、ヒフミ!」
「フッ、拓海もまだまだやな!」
 自棄食いする拓海に、渾身でドヤる一二三。
「こちらも余裕はなかったがな……」
「本当、怖いAGWだったわね……」
 お詫びもかねた大量のお手製ケーキを持ち込んだキリルは呆れ顔。
 ケーキを堪能するメリッサも、拓海の包帯姿に眉尻を下げる。
「――はあぁ。鬼って大変なんすね」
 信実は傷をさすって重いため息。
「……ごめんなさいね」
「ロロ……」
 頭を下げたのは構築の魔女と落児。
 原因の8割がAGW由来でも、負い目は強い。
 結果としてイベントはおおむね成功、編集した映像もあり一般人へ危険性を強く周知できた。
 が、エージェントの大怪我とは別問題で、慰労会にも『特開部』の他に上司も出席し正式に謝罪があった。
「RSGで焼いた豆はどうだ? 美味いぞ」
「食べられるんっすか!?」
「焼き加減の微調整に開発期間の半分を費やした力作だ」
 主任が取り出した豆を一口食べる信実。
 あまりの美味しさに、謎の敗北感さえ覚える。
「豆が出るクレイモア地雷とか、面白そうですよね~」
「――その話、詳しく聞こうか?」
「聞かんでいい!」
 結衣の何気ない一言で主任が前のめりになるが、上司に頭をすぱーん! としばかれる。
 AGWより反省も自重も足りない『特開部』の改善が望ましいが……無理だろうな。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
  • 特開部名誉職員
    古明地 利博aa5567

重体一覧

  • ほつれた愛と絆の結び手・
    黄昏ひりょaa0118
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ・
    荒木 拓海aa1049
  • 我が肉体は鋼の如し・
    浅葱 吏子aa2431
  • 特開部名誉職員・
    高野信実aa4655
  • 特開部名誉職員・
    古明地 利博aa5567

参加者

  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
    人間|18才|男性|回避



  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 我が肉体は鋼の如し
    浅葱 吏子aa2431
    人間|21才|女性|生命
  • ネガティブ鬼娘
    宇治橋憐厳姫薄緑aa2431hero002
    英雄|24才|女性|バト
  • 特開部名誉職員
    高野信実aa4655
    人間|14才|男性|攻撃



  • 奪還屋
    琥烏堂 晴久aa5425
    人間|15才|?|命中
  • 思いは一つ
    琥烏堂 為久aa5425hero001
    英雄|18才|男性|ソフィ
  • 特開部名誉職員
    古明地 利博aa5567
    人間|11才|女性|命中
  • 勇敢なる豪鬼
    兎川 結衣aa5567hero001
    英雄|16才|女性|シャド
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