本部

猪、爆走中

花梨 七菜

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/01/29 20:21

掲示板

オープニング

●竹林を散歩
 A市は、寺社仏閣が多く観光客がたくさん訪れる地方都市である。
 その事件が起こった休日も、たくさんの観光客が市内を散策していた。
 有名な寺院と寺院をつなぐ遊歩道は、竹林の中を通っており、冬でも青々とした竹が観光客の目を楽しませていた。この竹林自体も観光名所として有名であった。
 ドッドッドッドッドッ!
 突然、竹林に何かが駆ける音が響いた。
 竹林の中の道を歩いていた男性は、音のするほうを振り向くと、慌てて道の端に逃げた。
 男性の目の前を黒い影がものすごいスピードで走り抜けていった。
「きゃぁ!」
 黒い影は、男性の前を歩いていた女性を弾き飛ばして、そのままスピードを緩めることなく走り去った。
「だ、大丈夫ですか」
 男性は、倒れた女性に駆け寄った。
 女性のダウンジャケットの脇腹の部分が引き裂かれ、白いセーターに血がにじんでいた。
「どうしよう……ここでは救急車もタクシーも呼べないし。立てますか」
 男性は、女性に肩を貸して立ち上がらせた。
「おんぶしましょうか」
「いえ。ゆっくり歩けば大丈夫ですから」
 そう女性は言ったものの、歩くのが辛そうだった。男性は、女性に付き添って一緒に歩くことにした。
 しばらくすると。
 ドッドッドッドッドッ!
 黒い影が現れた方向から再び足音が聞こえた。二人は道の端に避難して竹に背中を押しつけた。
 先程の生き物とよく似た生き物が、二人の前を駆けていった。
「このまま進むより、戻ったほうがいいかもしれませんね」
「そうですね」
 男性と女性は、目指していたお寺のほうに行くのはやめて、来た道を引き返すことにした。
 しばらく二人が歩いていると、また背後から足音がドッドッドッドッドッ!
 さっきの生き物がUターンして戻ってきたのだった。

●猪退治
 H.O.P.E.敷地内のブリーフィングルームで、職員が説明を始めた。
「A市に猪の姿をした従魔が二体出現しました。従魔は竹林の中の道を猛スピードで往復しています。道にいた観光客は現在避難している最中ですが、怪我人が数人いて、避難が遅れているようです。観光客の安全を確保し、従魔の討伐をお願いします。A市からは、人命最優先ですが、竹林は観光名所なので、できるだけ竹林の竹を傷つけないようにしてほしいと言われていますので、よろしくお願いします」

解説

●目標
 従魔の討伐

●登場
 ミーレス級従魔 × 2体。
 猪型の従魔。
 体長約1m50cm。
 走る速さは時速60km。
 鋭い牙で攻撃する。
 体当たりで攻撃する。

●状況
 晴天。午前11時頃。
 A市の竹林。
 竹林の中の道は、幅1.5m、長さ2km。
 竹林と道の境には、高さ30cmくらいの低い竹垣がある。
 従魔は、竹林の中の道を猛スピードで行ったり来たりしている。
 怪我人が数人いて、逃げ遅れている。
 A市から、できるだけ竹林の竹を傷つけないようにしてほしいという要望がある。

●補足事項
 戦闘後、猪を食べてもOKです。

リプレイ

●竹林に到着
「猪の従魔か。普通でも生身の人間には恐ろしい動物なのに、従魔が取り付くなんて……」
 紀伊 龍華(aa5198)は呟いた。龍華は一刻も早く一般人の救助と従魔の対処をしたいと思っていた。ただでさえ猪の被害なんて世界中で聞くものなのに、従魔の形をしているとなればもっと悲惨なことになるからだ。その恐怖はきっと伝播する。今のうちに根を取り除かねば、と。
『障害物をものともせずに我が道を突き進んでる点では好感を持てるですね』
 英雄のノア ノット ハウンド(aa5198hero001)は、おっとりと言った。
「……あの、被害者が出てるんだからあまりそういうことは……」
『もう、害を出してるのはそれを加味しても、マイナスポイントに決まってるじゃないですか。これだからボンクラはー』
 龍華がたしなめると、ノアはからかい気味に言いかえした。龍華は、しょぼんとうなだれた。
 ノアは、言葉通り一点だけ従魔を評価はしているが、後のすべてはダメだということで討伐に乗り気だった。自由に走るのはいいが害を及ぼすのを黙って見てはいられない。

『まだ人が残ってるんだって!』
 英雄のピピ・ストレッロ(aa0778hero002)は、言った。ピピは、背中に小さな蝙蝠の羽がついたかわいらしい子である。
「被害が拡大する前に何とかしないとだね」
 皆月 若葉(aa0778)は、一般人の安全を最優先に考えていた。

「どうやらあの竹林は、奴の縄張りなんだろうな」
 御神 恭也(aa0127)は、呟いた。
『イノシシ肉かぁ……食べた事が無いんだよね』
 英雄の伊邪那美(aa0127hero001)は、未知の味に思いを馳せた。伊邪那美は、神世七代の一柱と自分で言っているが、見た目は無邪気な少女にしか見えなかった。

 猪の肉に興味津々の人達がここにもいた。
「全く、派手に暴れられぬ場所に出るとは。気の利かぬ猪じゃの」
 狐耳の少女、天城 初春(aa5268)は、ぼやいた。腰まである銀髪は首の後ろで束ねてしっぽ状にしている。
『お初、怪我人を出しておる従魔じゃぞ、早急に討ち取るとしようぞ、そして食うぞ』
 英雄の辰宮 稲荷姫(aa5268hero002)は、言った。稲荷姫も狐耳であり、自分と似た容姿の初春のことを我が子のように思っていた。
 二人にとって従魔の討伐……はついでであり、目標は猪の肉とそれを使った料理を食べることであった。
「猪の肉なぞ、めったに手に入らぬからの。楽しみじゃ」
 初春は、ウキウキと言った。

『まーた食材従魔が相手とは、食い意地の張っているわしらにはぴったりじゃのう!』
 英雄のランページ クラッチマン(aa5374hero001)は、豪快に言った。ランページは筋骨隆々の大男で、赤いジャケットがトレードマークである。
 前回の依頼では小豆を落とす従魔が相手であった。今回は猪で、料理が得意なランページにとっては、討伐後の調理が腕の見せ所である。
「ち、違っ!? そんな理由じゃないですよ……!?」
 ミュート ステイラン(aa5374)は頬を赤らめながら、周りの仲間に弁明した。ミュートは、背中に触手を持った獣人である。
「おいしい物が……待っていると……頑張れますよね…………」
 秋姫・フローズン(aa0501)は、微笑んで言った。秋姫は、根っからの「メイド気質」なので、気配りが上手だった。秋姫は、討伐後を考えて大型の鉄鍋と野菜等の具を用意していた。
『まずは……猪を……倒さんことには……な……』
 英雄の修羅姫(aa0501hero001)は言った。修羅姫は、髪の色以外は秋姫と同じ容姿で、「絶対零度の氷の女王」の性格であった。

 若葉は、通信機で仲間と情報共有するように調整した。
 エージェント達は、それぞれ行動を開始した。
 ピピと共鳴して背中に蝙蝠の翼がついた若葉は、モスケールを使用して索敵しつつ竹林の中の道を進んだ。しばらく歩くと、足をひきずりながら歩いている男性を見つけた。
「もう大丈夫です、安心して」
 若葉は、男性に声をかけて、足の怪我の応急処置を始めた。
 龍華は、ノアと手分けして怪我人の捜索を行っていたが、若葉からの連絡を受けて、ノアとともに若葉のもとに駆けつけた。
「もう大丈夫です、安心してください。あの従魔達は俺達が止めますから」
『なんなら大船に乗ったつもりでいてもいいです』
 龍華とノアは男性に声をかけて安心させた。
 龍華はノアと共鳴して女性の姿となり、若葉が治療をしている間、近くに従魔がいないか警戒を続けた。
 治療が終わると、龍華は男性を避難場所まで送り届けた。その間、男性に声をかけたり、盾を動かして護衛するアピールをしたりして、男性が従魔の恐怖を払拭できるように気を配った。
 再び道を進み始めた若葉は、モスケールの反応に気づいて、仲間に連絡した。
「西の方角に従魔一体の反応がありました。これからそちらに向かいます。もう一体の反応はないのですが……二体が離れているとしたら二手に別れた方が効率的かもしれませんね。何人かこちらの援護をお願いします。他の人は引き続き怪我人の避難をお願いします」
 エージェント達はくちぐちに了解の返答をした。

●戦闘開始
 若葉が連絡した地点に最初に到着したのは、稲荷姫と共鳴した初春だった。初春があたりの様子を警戒しながらうかがっていると、すぐに足音が聞こえて道の先から猪が姿を現した。
「来たでござるな!」
 初春は戦闘態勢に入り、白目の部分も赤く染まった。髪は逆立って、獰猛な性格に変化した。
 初春は、突撃してくる猪をギリギリでかわすと、猪の足をめがけて弓で矢を放った。
 猪は走り続ける。
「おうい! そっちに行ったでござる!」
 初春は、大声で叫んで仲間に警告した。そこにいたのは、ミュートとランページ。
 怪我人の周囲を中心に猪を警戒していたミュートも、ちょうどその場に到着したところだった。
『さあ、本番じゃあ!』
 ランページが豪快に叫び、ミュートはランページと共鳴した。
「……!!」
 ミュートの背中の触手と器官が大きく変化した。ミュートの顔から怯えが消えて、急激に雰囲気が変わっていく。ミュートは、目を見開いて猪に対峙した。威嚇するように触手が揺れた。
 ミュートにとって、本格的な戦闘依頼は初めてだが、ランページの指示の元これまで自分なりに準備してきたものをぶつけていく。そこに迷いはなかった。
 ミュートは、守るべき誓いを発動した。
 猪は、真っすぐミュートのところに突進してきた。
 ミュートは、猪の攻撃を完全に受け止めず盾でいなし、すれ違いざまにガーディアン・エンジェルで猪の足を攻撃した。
(そうじゃミューちゃん、敵の強みに付き合うな!)
「……流れて」
 正面から倒すのはミュートでは厳しい。自身の被害を減らし相手の行動を阻害する戦い方を心がけるように、ランページは助言し、ミュートはそれに従った。
 猪はミュートの横を通り過ぎて走り続ける。
 ミュートは、黒羽手裏剣を投げた。手裏剣は猪の背中に刺さり、猪は徐々にスピードを緩めて、ミュートのほうを振り向いた。
 猪は、ミュートめがけて走り出した。
 現場に到着した若葉は、「ミューちゃん!」と叫んで、ミュートにライヴスミラーを使用した。ミュートの周囲にライヴスで出来た反射鏡が形成され、ミュートに突進した猪は反射鏡に激突した。
「一気に畳み掛けましょう」
 若葉は、仲間に声をかけてから、猪に大剣を振るった。
 初春は、再度、猪の足めがけて弓を射った。初春は、猪の胴体だけは攻撃をしないように気を付けていた。うっかり内臓を傷つけてしまったら、食べる時の処理が大変だからである。
 ミュートは猪に攻撃を加えた。ミュートは、自分に意識を向けさせることで味方が攻撃する隙を作ろうとしていた。
(戦えとるぞ! どんどんギアを上げて行けい!)
 ランページは、ミュートを励ました。
「クァァァア……!!」
 ミュートは気合いを入れて、剣を構えた。背中の触手が揺れる。
 猪は、蹄で地面を数回ひっかいてからミュートに突進した。
 若葉は、ミュートに突進する猪に横から攻撃した。
「その勢いで転んだら痛そうですよ……ねっ!」
 突進の勢いと猪の体重を鑑みて効果的と判断し、若葉は猪の足を狙って大剣を薙ぎ払った。猪は転倒した。
 ミュートは、猪の足に剣で斬りつけた。
 起き上がった猪は、今度は初春の方へ向かった。
 初春は、紅炎に持ち替え、猪の後ろ脚を狙って攻撃した。胴体は絶対に狙わない。猪が竹林に逃げ込むそぶりを見せると、それを阻むように太刀を振るい、道の上だけでの戦闘になるように心掛けた。
 こちらからは逃げられないと判断したのだろう。猪は向きを変えて、走り出した。猪が狙いをつけたのは、若葉であった。
 若葉は、猪が竹林に向かわぬように注意しながら、猪の動きをよく見極めて猪を回避した。通過した猪の足を狙い白鷺で追撃した。
 猪は、振り向きざま鋭い牙で若葉を攻撃した。猪は若葉を押しのけると、再び初春のほうへと走り出した。
「行かないで……?」
 ミュートは呟き、ハイカバーリングを使用した。
「わたしが、いるよ……!」
 ミュートは、自身を盾にして猪の攻撃を止めた。
「ミューちゃんナイスガード、ですね!」
 若葉は、ぐっとサムズアップしてミュートに微笑んだ。
「そろそろ走るのも疲れてきたでござろう?」
 初春は、機動力をそぎおとすために猪の足への攻撃を続けた。
 猪は、鋭い牙で初春に反撃した。若葉は初春にケアレイを放った。
 ミュートは、前衛で立ち回り猪の注意を引きつけながら、猪の足に斬りつけた。
 若葉は、前衛の補助を行っていたが、モスケールに別の従魔の反応が出たのに気付き、素早く仲間に連絡した。
「従魔が一体東の方へ向かっています、気を付けて。こちらは現在、もう一体と」
 若葉は、襲いかかってくる猪の牙を槍で防いで続けた。
「戦闘中、です!」
 若葉は、槍で猪を押しやった。
 ミュートは、すかさず猪の足を攻撃した。
 猪は反撃した。若葉は、ミュートにエマージェンシーケアを使用した。
 猪の動きが鈍ってきた。
「これで止めでござる!」
 初春はそう叫ぶと、紅炎を振りかぶり、猪の頭部に振り下ろした。猪の頭がごろりと道に転がった。

●猪、爆走中
 恭也は、竹林内の猪の足跡を調べた。縦横無尽に走っているのか決まった経路で走っているのか見極めるためである。
 足跡はいろいろな場所にあったが、特に道の傍のある地点に集中していた。猪が竹林から道に出る時に、よく使っている場所なのだろう。
 恭也は、竹林の持ち主に許可を貰ってから、なぎ倒された竹を材料にスパイクボールや竹槍を作成した。土を掘って落とし穴を作り、穴の底にスパイクボールや竹槍を仕込む。
「此奴で倒せるとは思ってはいないが、足止め位にはなる筈だ」
『こんな短時間で良く作るね……』
 淡々と作業する恭也を見ながら、伊邪那美が言った。
「材料が竹だからな、しなりが有って加工もし易い」
 落とし穴が完成した。恭也は、猪の捜索を始めた。

 秋姫は、逃げ遅れた怪我人の捜索を行った。
「大丈夫……ですか…………?」
 秋姫は、道の端に座り込んでいる女性と男性を発見して声をかけた。男性は元気だったが、女性のほうは脇腹に怪我を負っていた。
「処置します…………修羅姫……警戒を……お願いします」
 秋姫は、用意しておいた応急処置用の器具を取り出しながら修羅姫に言った。
『承知した…………手早く……確実に……な……』
 修羅姫は応えた。
「勿論です…………」
 秋姫は、的確に必要な処置をこなしつつ言った。秋姫は、女性の怪我を止血し包帯を巻いた。
「ありがとうございます」
「いいえ…………さあ……安全な場所へ……行きましょう」
 秋姫は、従魔を警戒しながら、女性と男性を安全な場所まで護衛した。

 若葉から託された怪我人を避難場所に送り届けた龍華は、再び逃げ遅れた一般人の捜索を始めた。怪我人を護衛中の秋姫とすれ違って更に歩いていくと、竹林の中からおじいさんが出てきた。猪を恐れて隠れていたそうだ。おじいさんは、手の平にすり傷があったが、大きな怪我はしていなかった。
 龍華がおじいさんを護衛して歩き出した時、通信機から若葉の声がして、猪が東に向かっていることを知らせた。
 龍華は、気をひきしめた。なぜなら、東の方へ向かっているということは……。
 猪が道を疾走してきた。おじいさんが危ない。龍華は真正面から猪の攻撃を食い止めた。更に、守るべき誓いを使用して、猪の攻撃を引きつけた。
「待たせたな」
 伊邪那美と共鳴した恭也が到着し、そう言って猪を攻撃した。
 龍華は、猪の相手を恭也に任せて、おじいさんの避難誘導をした。だが、おじいさんは恐怖で足がすくんでなかなか動けない。
 猪は、おじいさんめがけて走り出した。
 恭也は、負傷を覚悟で猪の攻撃を正面から受け止めて、猪を捕まえた。その隙に、龍華はおじいさんを背負って走り出した。
 逃げようと暴れる猪の後ろ脚に、矢が刺さった。道の先に現れた初春が放った矢であった。
 猪は、初春のほうに駆け出した。初春は猪の攻撃を回避した。
(しなくちゃいけないのは解るけど、無茶し過ぎ!)
 伊邪那美は、恭也をたしなめた。
「リンカーの俺でさえこのダメージだ。怪我人が受ければ洒落にならん」
 恭也は言った。
「大丈夫ですか?」
 初春に続いて到着した若葉は、恭也にケアレイを放った。
「大丈夫だ。この近くに俺が作った罠があるんだが」
「猪を誘導しましょう」
 若葉はそう言って、恭也とともに猪を落とし穴へと誘導していった。追い込まれた猪は、道の端の竹垣を飛び越えて落とし穴に落ちた。
 恭也は、罠で動きが止まった猪に疾風怒濤を使用して攻撃した。
 猪は、落とし穴から這い出して竹林の奥に逃げこもうとした。猪の行く先には、竹が生い茂っている。
 若葉は、猪の前に回り込むと盾で障壁を展開して猪の攻撃を受け流し、威力を削いで軌道をずらし猪の進行方向を変えて、竹を守った。
 猪は、道に戻った。恭也、若葉、初春、ミュートが猪を取り囲んだ。
 猪は、恭也に向かって突進した。恭也は、猪を寸前で回避し、すれ違い様にスロートスラストを使用した。
 秋姫は、怪我人を避難させて、他に逃げ遅れた人がいないか調べてから、修羅姫と共鳴し戦闘に合流した。秋姫の右目と髪は赤く染まり、右半身に白、左半身に血のような赤で文様のような痣が浮かんで鈍く発光し、背中には二対のオーラの羽が生えた。
「援護します…………!」
 秋姫はそう言って、弓で猪を攻撃し仲間を援護した。
 おじいさんを避難させ終わった龍華も到着し、全員がそろった。
 猪は、龍華に突進した。
「目を……閉じてください…………!」
 秋姫は、仲間に目を閉じるように大声で警告しながら、フラッシュバンを使用した。
 閃光が炸裂し、猪のスピードが落ちた。龍華は、猪を真正面から受け止めて、そのまま上方へと逸らし投げた。猪を投げる時は、仲間の射線やコンビネーションの邪魔にならぬよう細心の注意を払った。
 若葉は、龍華にケアレイを放った。
 地面に落ちた猪の足に、ミュートは剣で攻撃した。
 猪は立ち上がると、秋姫を牙で攻撃した。
 若葉は、秋姫にエマージェンシーケアを使用した。
 恭也は、一気呵成を使用して猪を攻撃した。
 龍華は、仲間へのカバーリングを徹底して動き回った。
 猪は、秋姫に向かって突進した。
「そこ……です…………!」
 秋姫は斧を構え、猪をギリギリまで引き付けて回避してから、「相手の突進のスピードの威力」を利用したフルスイングのカウンターを叩き込んだ。
(ホームラン…………だな…………)
 修羅姫は呟いた。
「いえ……まだです…………ついでに……これも……です……!」
 秋姫は、サマーソルトで猪を宙に打ち上げ、猪が落ちてきたところに、腹部に向かって回し蹴りを叩き込み、そのまま地面に叩きつけた。
「…………絶技・狂独楽(くるいごま)…………覚えたての……技も……オマケです……」
(オーバーキルだな…………)
 猪は、ふらふらと立ち上がって歩き出した。
「悪いけど、ここまでだ。嫌でも止まってもらうよ」
 龍華はそう言って、猪を攻撃した。
 猪は、ゆっくりと地面に倒れた。

●猪をいただきます
 若葉は、他に従魔がいないか竹林を調べた。討ち漏らした従魔はいなかった。竹林の竹にも被害はなかったので、A市の人は喜んでくれるだろう。竹林を調べ終わると、一般人の避難場所に行き、怪我人の手当をした。
 他の仲間は、猪を回収した。
「さあ、猪料理を作ろうかのう」
 初春は、嬉しそうに言った。
『猪の肉ですかー、いいですねー。初めて食べるので楽しみです!』
 ノアは、にこにこしながら言った。
「えっ、食べるの? ……あ、えと、て、手伝います……ね」
 龍華は、困惑しながらも、調理に参加することにした。
 初春が見つけてきたレストランを借りて、調理開始。
 恭也は、猪を逆さ吊りにして頭を落とし、血抜きをした。初春が討伐した猪は既に頭が斬りおとされているので、恭也が処理するのは残りの一体である。
『うわぁ~、辺り一面血の池地獄に……』
 伊邪那美は、嫌そうな顔をした。
「確りと血を抜かんと肉の臭みになるからな。本当なら暫く置いて熟成させたいんだが」
『……』
「その顔を見る限り、我慢は出来んか……」
 恭也は、血抜きが完了した猪を解体して牡丹鍋、角煮、スペアリブといろいろな料理を作った。
 初春は、猪の肉で猪肉カレーを作った。カレーのいい香りがキッチンに広がった。
 秋姫と修羅姫はメイド服姿に着替えて、手慣れた様子で調理を進めた。事前に準備しておいた野菜等を切って鍋に入れ、牡丹鍋を作った。炊き立ての白米も用意してある。更に、大きめの岩を熱して、その上で猪肉の味噌焼きも作った。
 見た目に反して料理上手のランページも腕をふるった。戦闘ではミュート主体だったが、今度の主役はランページである。最近、洋食のほうがミュートの受けがよいので、作る料理も洋食っぽいものにした。大きな手で器用に食材をきざみ、できあがったのは、猪肉にネギ、人参、セロリ、玉ねぎの入った鍋を、赤ワイン、ローリエ、コンソメ、トマトペーストなどで味付けした洋風牡丹鍋であった。
 エージェント達は完成した料理をテーブルに並べた。若葉もレストランに到着し、竹林の様子や避難場所の怪我人の状態を伝えた。
「被害も大きくならず済んでよかった」
 若葉は呟いた。
『みんな、おつかれさまー!』
 ピピの元気な声で、猪肉パーティーはスタートした。
『完成じゃあ! 食うやつは並べい!』
 ランページは言った。
「……!!」
 バビュン!
 ミュートは無言で真っ先に料理の前に並んだ。
 ランページがお皿によそった洋風牡丹鍋をミュートはもぐもぐ食べた。
「美味しい、お鍋美味しい……!!」
 ミュートは幸せそうに呟くと、また食べ始めた。
『よー頑張ったからの、ご褒美ってやつじゃな!』
 ランページは、豪快にカカカと笑った。
『若葉とピピも、食ってくれい!』
 ランページは言った。若葉とピピは、洋風牡丹鍋を口に運んだ。
「美味しいですよ、ランページさん」
『うん、おいしい』
 若葉とピピが言うと、ランページはまたカカカと笑った。
 初春と稲荷姫は、猪肉カレーを頬張った。
「うまいのじゃ!」
 初春は言った。
『豚肉よりも濃厚な味わいじゃのう』
 稲荷姫は言った。
「鍋……できました…………こちらも……どうぞ…………」
『たらふく……食べるが良い』
 秋姫と修羅姫にすすめられて、初春は秋姫の作った牡丹鍋をぱくり。
「おお、野菜の甘みと肉の旨味が合わさって絶品じゃ」
 初春は感嘆した。
『わしらの作ったカレーもご賞味あれ』
 稲荷姫はそう言って、秋姫に猪肉カレーを差し出した。秋姫はカレーを一口食べて、「……美味しいです…………」と微笑んだ。
『これ、美味しいですぅ。こっちも美味しいですぅ』
 ノアは、料理を次々に口に運んだ。秋姫の作った味噌焼きは、少し焦げた味噌が香ばしくておいしかった。恭也の作った牡丹鍋、角煮、スペアリブは、猪肉のうまさが存分に味わえるものであった。
「……あの、食べ過ぎじゃない? 大丈夫かな……」
 龍華は、心配そうに言った。
 ノアは、『大丈夫ですよー』と応えて、食べる手を止めない。
『猪の肉はかたいかと思っていたのですが、この角煮は柔らかくできてますね~』
 ノアは角煮を食べながら言った。
「圧力鍋を使うのがポイントだ」
 恭也もいろいろな料理をつまみながら言った。
 伊邪那美も料理を夢中になって食べていたが、ふとテーブルの上を眺めて呟いた。
『美味しいけど、ボクらだけじゃ二体分も食べきれないね』
「精がつく物だ、怪我をした人たちにも振る舞えば良いだろう。それでも余る様ならベーコンにでもすれば暫くは持つ」
 恭也は言った。
「……そう……ですね…………避難した……方々にも……料理を……届けてきます……」
 秋姫は、牡丹鍋の入っている鍋を持ち上げて言った。
「俺も手伝うよ」
『ボクも』
 若葉とピピは言った。
 秋姫、修羅姫、若葉、ピピは、避難場所に料理を運んだ。
「はい…………温かい物を……どうぞ……です……」
 秋姫は、救助した人々に皆が作った料理を振る舞った。若葉も料理を配膳するのを手伝った。疲れた顔の人々に、ようやく笑顔が戻った。

「もう満腹なのじゃ」
 初春は、大きく膨らんだお腹を撫でて言った。
『ボクもおなかいっぱいだよ』
 伊邪那美も言った。
 エージェント達は猪料理を満喫して、満腹で動けなくなっていた。一般の人々にも料理を届けたが、まだ猪肉が残っている。
「ベーコンを作るとするか」
 恭也がキッチンに向かおうとすると、伊邪那美が言った。
『ねえ、生ハムって言うのも作ってみようよ』
「……作り方は知っているが、素人には無理だと思うぞ」
 伊邪那美は残念そうに口をとがらせた。
『また別の日に皆で集まって、ベーコンで料理を作りたいのう!』
 ランページが言った。
 他の仲間も賛成し、今度はベーコンを使ったさまざまな料理がテーブルに並ぶことになるのだが、それはまた別のお話である。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 誇り高きメイド
    秋姫・フローズンaa0501

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 誇り高きメイド
    秋姫・フローズンaa0501
    人間|17才|女性|命中
  • 触らぬ姫にたたりなし
    修羅姫aa0501hero001
    英雄|17才|女性|ジャ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 大切がいっぱい
    ピピ・ストレッロaa0778hero002
    英雄|10才|?|バト
  • 閉じたゆりかごの破壊者
    紀伊 龍華aa5198
    人間|20才|男性|防御
  • 一つの漂着点を見た者
    ノア ノット ハウンドaa5198hero001
    英雄|15才|女性|ブレ
  • 鎮魂の巫女
    天城 初春aa5268
    獣人|6才|女性|回避
  • 天より降り立つ龍狐
    辰宮 稲荷姫aa5268hero002
    英雄|9才|女性|シャド
  • 暗夜退ける退魔師
    ミュート ステイランaa5374
    獣人|13才|女性|防御
  • 倫敦監獄囚徒・六参九号
    ランページ クラッチマンaa5374hero001
    英雄|25才|男性|ブレ
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