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新春!支部対抗バトルロイヤル!!
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【相談卓】
最終発言2018/01/21 17:19:12 -
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最終発言2018/01/18 02:06:39
オープニング
●前代未聞のお遊び
H.O.P.E.東京海上支部。
今日のために特設された室内には、次々と搬入された大型の機材が所狭しと並べられ、その間を慌ただしく人々が行き交っている。
その光景に圧倒されながら"あなた"が辺りを見渡すと、周囲には数十人のH.O.P.E.職員や研究員、またはグロリア社やアルター社の技術者、さらには超巨大放送局ワールドネットリンクとH.O.P.E.芸能課などのスタッフたちの姿まで見つけられた。
喧騒には笑い声が紛れ、空気を通して全員の昂揚感が伝わってくる。まるでお祭りのようだ。
自然と頬をゆるませた"あなた"とは対照的に、緊張した面持ちで近づいてきたのは『VBSシステム』の調整テストを行っていた若い職員だった。
「そろそろ時間ですね。……準備はいいですか?」
平然とうなずいた"あなた"の様子を見て、心なしか職員の緊張も和らいだようだが、いまだその表情には硬さが残っている。
建前上ただの訓練とはいえ、これから始まろうとしているのは、H.O.P.E.においても前代未聞の大規模演習なのだ。必要以上に力が入ってしまうのも無理はないだろう。
今回行われるのは、世界各国に存在する十大支部が参加する試験的な演習である。
仮想戦場内各支部合同試験演習。それが正式名称だ。
文字通り舞台となるのは『VBSシステム』が生成した仮想空間。
そこへ各支部を代表して、複数人のリンカーと英雄たちによる精鋭チームが送り込まれ、ちょっとした"お遊び"をやろうというわけだ。
まだあくまでも試験的な段階ではあるが、仮想空間内は十大支部に設置された各VBSシステムと特殊なネットワークにより連結されている。これによりシステムに接続されたすべてのリンカーたちの意識と通信データはほぼ完全に同調することとなる。
俗っぽい言い方をしてしまえば、オンラインゲームみたいなものだ。
もちろん、ただのゲームとは違って能力者としての『現実』が反映されるわけだが。
この演習の背景にある思惑は一つではない。
対愚神大規模戦闘に備えた訓練的な意味合いや、革新的な技術に役立たせるためのデータ収集やフィードバックといった目的だけでなく、そこには――もしかするとそれが本命だったかもしれない――ある一つの『意地』があった。
「東京海上支部の代表として頑張ってくださいね! 東京海上支部の代表として! 皆さんの活躍を期待してます! 東京海上支部の代表として!」
――なるほど。つまりはそういうことか。
鼻息を荒くする職員に気圧されながらも"あなた"は内心で苦笑しながら理解した。
今回の演習が支部『合同』などではなく支部『対抗』になるだろうということを。
●演習マニュアル
・概要
参加するリンカーたちは敵チームの『すべてのリンカーを排除』することを目的とする。もちろん手段は問わない。
リンカーは『戦闘不能』となった時点で脱落。すべてのリンカーが脱落したら、そのチームは『失格』となる。
最後まで生き残ったリンカーの所属するチームが優勝。優勝した支部とチームメンバーには『栄誉』が与えられる。
・ルール
開始前に戦場となるマップのデータを各自に配布する。
このマップデータによって『戦場の全容』『大まかな座標』『自分の現在地』『味方チームメンバーの現在地』が把握できる。
演習開始地点は自由。『30分ごと』に戦場となる仮想空間は外周部から崩壊していき侵入不可能になるため『戦場は狭くなっていく』。
開始時刻は仮想空間内における『12時』。もしも『18時』までに決着がつかなければ、その時点で演習は終了となる。
戦場にはアクシデントが付き物。『不測の事態』が起きても冷静に対応できるよう各自心がけるべし。
解説
●目標
・チーム戦バトルロイヤルで優勝する
●状況
・合同演習と称した『チーム戦バトルロイヤル』に東京海上支部代表チームとして参加します。
・10人以下で結成されたチームが各支部から参加するので、参加人数はおおよそ100人くらいになるでしょう。
・仮想空間内では現実世界と同様に行動できます。装備やアイテムの持ち込みにも特に制限はありません。
・チーム戦にはなりますが各自の戦略や行動は自由です。チームが勝利する為にはときに単独行動も必要になるかもしれません。
PL情報
・このシナリオはバトルロイヤルです。プレイング内容や敵チームとの戦闘結果によっては、途中でPCが『脱落する』可能性もありますのでご了承ください。
・消耗品を使用しても実際に消費はしませんし、戦闘でダメージを負っても現実には影響しませんが、装備品のコストオーバーやあまりにも非現実的な行動にはペナルティが課せられるので注意してください。
●場所
・仮想空間内の絶海に浮かぶ孤島。周囲には果てしない海が広がっている。
・戦場は大まかに五つのエリアに分かれている。エリア同士は遮蔽物のない平野で繋がっている。
『北東エリア』
大量の物資やコンテナが積まれた倉庫街。大きな建物が多い。
『北西エリア』
見晴らしの良い丘陵地帯。
身を隠すところは少ないが高所から戦場を見渡せる。
『南東エリア』
小さな学校や民家が密集している。敵と遭遇すれば確実に白兵戦となるだろう。
『南西エリア』
背の高い草や木々が生い茂る。視界は悪い。罠、奇襲などに最適。
北西エリアと跨るように大きな川が海へと流れ込んでいる。
『中央エリア』
小規模な市街地。小さな建物が立ち並ぶ。
戦場は外周部から崩壊していくので、最終的にはこの場所で決着がつくはずだ。
リプレイ
●戦場降下
足下が失われるような浮遊感と共に、周囲の風景は瞬く間に一変していた。
視界は薄暗い。所々に穴の空いた石壁で囲まれた部屋には、雑然と家具が散らばっている。
「……予定通り、建物内に転移できたみたいですね」
『蕾菜、まずは索敵を』
即座に状況を理解した零月 蕾菜(aa0058)は、十三月 風架(aa0058hero001)の提案にうなずくと、壁際に素早く移動して辺りの気配を伺う。
姿勢を低くして耳をそばだてる。周囲は無音だ。
生物らしき気配も感じられない。少なくとも、近くに敵はいないらしい。
「お二人はどこでしょう」
身体の感覚を確かめながら、蕾菜はマップデータを見ると少し離れた場所に味方を意味する青い光の点が二つ確認できた。
位置から察するにどうやら同行する予定だった二人はすでに合流しているらしい。
『転移場所には多少の誤差があるみたいですね』
「そこまで離れた場所じゃなくてよかった。とにかく合流、ですね」
二人と合流できそうな地点までのルートにあたりをつけると、蕾菜は幻想蝶を取り出した。
『できるだけ感覚は放棄して意識だけ保っていてください』
穏やかな声色。
だが、風架の目は真剣だった。
『今回はつぶすだけじゃ間に合わない可能性が高い』
建前上は訓練。しかし、今回の相手は愚神や従魔でなく、同じリンカーである。
バーチャルとはいえ、蕾菜にはまだ人間を殺す『感触』は覚えてほしくない。
それは風架なりの気遣いであった。
「……行きましょう」
『あぁ』
淡い輝き。蕾菜と風架を包み込むようにライヴスの風が吹いた。
灰色の空の下。
鉄筋がむき出しになった壁に身を隠しながら、リーヴスラシル(aa0873hero001)が鋭い声を発した。
『――ユリナ。敵だ』
「っ! リンカー……多い、ですね」
月鏡 由利菜(aa0873)の視線の先。
ほとんど廃墟と化した学校に複数人のリンカーたちが駆け込んでいくのが見えた。
「もう接敵? ちょっと早くない?」
『あっちはすでに数も揃っているようじゃし、ツイてないのう』
飯綱比売命(aa1855hero001)と共鳴した橘 由香里(aa1855)が、由利菜の後ろで辺りを警戒している。
敵リンカーたちは気が逸っているのか、後方にはあまり気を配っていないようだ。
「……幸いこちらには気付いていないようですね」
「それも見せかけで罠って可能性もあるけど。……とりあえず一旦離れましょう。この状況で戦闘になるのはまずいわ。まだ零月さんとも合流できてないし」
蕾菜がこちらへ向かっていることは確認済みだ。
近くには身を隠せそうな建物も多い。まずは仲間との合流を最優先にすべきだろう。由香里はそう判断していた。
「はい。では、私が先行致します」
「よろしくね。後ろは任せて」
由利菜と由香里は気配を殺し、静かに動き出す。
二人の頭上。どこか遠くの空から、戦闘の始まりを告げる不穏な音が響き始めていた。
――同時刻。北西エリア。
広大な丘陵地帯に、激しい剣戟の音が鳴り響く。
漆黒の外套を翻しながら、突然の攻撃に動揺するリンカーを翻弄しているのは、狒村 緋十郎(aa3678)と共鳴したレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)だ。
「く、くそ……ッ!」
「退け! 一旦、退くんだ!」
容赦なく振るわれる魔剣。
禍々しい力を注ぎ込まれた剣閃が、鍛え上げられたリンカーのガードをあっさりと薙ぎ払う。
「こそこそ隠れて生き残っても……そんなのは誇れる勝利とは言えないわよね」
血色の巨刃を担ぎながら、レミアは不敵に嗤った。
「いつも通り、痛みは緋十郎に任せるわ。しっかりわたしを護りなさい。仮想空間なら手加減する必要も無いし……片っ端から皆殺しにしてあげる」
それは転移直後の出来事だった。
戦場に降り立った瞬間――レミアは自身の感覚内に仲間たちの姿を捉えていた。
もちろん、その場所に降り立ったのは仲間だけではない。一瞬で視認しただけでもこの付近には、二十人以上の能力者が転移したらしい。
高所を確保すれば戦況は優位になる。そう考えたリンカーの数はやはり多かったようだ。
――迷えば、不利。
即座にレミアは動き出した。
頂上はそう遠くない。ここは自分が敵を切り崩し、仲間が頂上を確保するための時間を稼ぐ。
「こいつッ!?」
「敵だ! 後衛は下がれ!」
奇襲を受けたのは、ヨハネスブルグ支部代表のリンカーたちだった。
彼らにとって不運だったのは、事前に予想していたポイントと転移場所にズレがあり、後衛が完全に孤立してしまったことにあった。
『六花、私たちは上へ行きましょう!』
「……ん。今のうちに……頂上、確保する」
レミアの動きを見て、氷鏡 六花(aa4969)とアルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)が共鳴する。
まるでその光に呼応するかのように、辺りには次々と共鳴の風が吹き荒れ、戦場は神々しい輝きに包み込まれていく。
ダダダダダッ!
短機関銃の乾いた連射音が響く中、白銀の光が丘を駆け上がる六花の後を追う。
『ありゃま。さっそく始まったか』
ストゥルトゥス(aa1428hero001)が声をあげると、ニウェウス・アーラ(aa1428)は不満気に呟いた。
「敵が、多い。まとめて倒したい……」
ニウェウスの狙いは範囲火力を有効活用し、敵の温存戦力をできるだけ減らすことにある。それ故に敵が散らばっているこの状況はあまり上手くなかった。
『おおっと』
――視界の端に小さな影が浮かぶ。
それを認識した瞬間、地面を滑るような低い軌道の斬撃がニウェウスを襲った。
「……ッ」
かろうじてそれを避けると、ニウェウスは距離を空けるように後方へ飛んだ。
「ちっ!」
絶零断章から放たれた光の線。それを回転するように躱すと、仕掛けてきた痩身の青年は素早く態勢を立て直す。
アイアンパンクだろうか。赤黒い短刀を手にしたそのリンカーは腰を深く落とし、弾道のように飛び出して再び凶刃を振るう。
「おーりゃああああ!」
「なぁっ!?」
――次の瞬間。
横合いから飛び込んできた雪室 チルル(aa5177)の盾が敵リンカーを弾き飛ばした。
「うわあああああっ!?」
「さいきょーの盾! あたい参上!」
完全に視界外からの不意打ちを食らう格好となり、青年はそのまま斜面を転がり落ちていく。
『ナイスタイミングね!』
スネグラチカ(aa5177hero001)の言葉に気分を良くしたチルルは「あたいに敵うやつはいないのかー!」と高らかに叫んでいる。
「……助かった」
突然の出来事に呆気に取られていたニウェウスがようやく礼を言うと、チルルはふふんと笑った。
「防御は任せて! 一気に頂上を目指すわよ!」
「……うん。行こう」
二人は再び気合を入れると、次第に激しさを増す戦場の中を、勢い良く駆け出していった。
――中央エリア南方。木造家屋内。
床に広げたオートマッピングシートとマップデータを眺めながら、辺是 落児(aa0281)と共鳴した構築の魔女(aa0281hero001)は、これまで集めた情報を一通り精査していた。
「現在、敵勢力が潜伏していると思われるのが……ここと、この場所ですね。彼我の戦力差を考えると、どちらも奇襲を仕掛けるにはやや不利でしょうか。……皆さん、どう思います?」
魔女が問う。少し考え込むようにして、赤城 龍哉(aa0090)が答えた。
「そうだな。とりあえず……中心地のビルに立て籠もってる連中は無視でいいんじゃないか? ここで無理に仕掛ける必要もないと思うぜ」
『行動の迷いのなさを見るに、なかなか強者の匂いがしますわね』
ヴァルトラウテ(aa0090hero001)の言葉にエスティア ヘレスティス(aa0780hero001)も同意する。
『あれだけ目立つ場所に籠城している時点でこちらを誘っているようにも思えます』
「不用意に手を出すにはリスクが高すぎますし、この段階での消耗は出来るだけ避けるべきでしょうね……」
晴海 嘉久也(aa0780)が息を吐いた。
「となると。問題は……こちらの敵、ですね」
魔女が指し示した建物は、自分たちが今いる場所から500メートルほど離れた場所にあった。外観からすると五階建てのマンションらしい。
「ついさっきも別の奴らとやりあってたしな。かなり好戦的な連中と見た」
「彼らは陽動で本隊は別にいるのかもしれませんね。不意さえ突ければ一気に叩ける気もしますけれど……」
「さすがに難しいのでは? すでにこちらの位置もバレている可能性が……」
嘉久也がそう言い終わらない内に、外から銃声が響いた。
挑発するように乱射された銃弾が木の壁を削ったかと思えば、近くでロケット砲が着弾する爆発音も轟いた。
明らかにこちらを狙った攻撃だ。一同は咄嗟に戦闘態勢へ入った。
『言ってるそばから来ましたわね』
「誘ってやがるな。……乗るか?」
嘉久也がかぶりを振るう。
「退きながら敵の戦力を探りましょう」
「そうですね。包囲される前に動きましょうか」
「私が道を開きます」
「お願いしますね」
魔女は双銃を手にすると、窓の隙間から銃弾を連射する。
嘉久也が退路を確保してから、龍哉が勢い良く裏口の扉を蹴破った。
「任せるぜ、ヴァル」
『任されましたわ。参ります!』
転がるように飛び出した龍哉は『九陽神弓』を番えると、屋根の上を大きく越えるように何本も弓を放った。
その隙に嘉久也が前方へ飛び出し、遅れて魔女が続く。
敵も逃走の動きを悟ったのか。激しい攻撃で追撃の意思を見せる。
そのまま三人はしばらく全力で走り、適当に距離を空けたところで魔女と龍哉が立ち止まり、後方を振り返る。
「……はっ!」
魔女は民家の壁を駆け上がると、的を絞らせないよう軽やかに宙を舞いながら、敵勢力の動きを冷静に観察する。
「あちらの布陣は、と」
彼方に意識を集中する。
遮蔽物の陰を移動するリンカーが前方に二人。東の方角にも二人。そして、そのやや後方に位置する建物の屋上にライフルを構えた狙撃手らしき人物の姿が見えた。
それを確認すると、応戦していた龍哉の傍に素早く着地する。
「見えたか?」
「はい。追っては来てますけど……まだ距離もありますし、このまま逃げてしまいましょうか」
少し残念そうに龍哉が返す。
「個人的には強い奴とやり合う良い機会なんだが」
「ふふ……いくらでも機会はありますよ。まだまだ敵は多いですからね」
「ま、そうだな」
魔女の言葉に苦笑すると、龍哉はこの場での決着は諦めて、大人しく先行する嘉久也の後を追うことにしたのだった。
●危機と好機
――南東エリア北方。
静寂。漂う空気は冷たい。
遠くの空から届く激しい戦闘音が、辺り一帯の静けさをより際立たせている。
『動きは……ないですね』
風架が呟くと、由香里がわずかに眉を寄せた。
「仕掛けるべきかしら」
「やれないことはないと思いますが……」
あれからすぐに風架と合流した由利菜と由香里は、転移直後に見かけた敵リンカーたちの分隊と思わしき一団を追跡していた。
どうやら彼らは積極的に敵を探しているわけではないらしく、ここまで一度も他チームと交戦する素振りを見せていない。その様子から情報収集がメインの部隊なのではないかと由香里は推測していた。
そして、奇襲を仕掛ける隙を伺いながら追跡を続けていたところ、彼らは二階建ての小さな民家へと入っていった。
これは好機と。敵が無防備に出て来るタイミングを見計らっていた、のだが。
「まどろっこしいわね……」
『やむを得ません』
由香里と風架が戦闘態勢に入る。
それに続こうと由利菜が立ち上がった瞬間――ぞわり、と。本能が殺気を感知した。
「危ない!」
――キィンッ!
甲高い金属音が鳴り響き、由利菜の盾が虚空から出現した弾丸を弾き返した。
「敵襲!?」
『後ろです!』
風架が叫ぶと同時、二人の背後で気配を殺していたリンカーが剣を振るう。
「くっ!」
咄嗟に払った『冬姫』で攻撃を受けると、由香里はなんとか相手を弾き飛ばし、思い切り後方に飛んだ。
しかし、奇襲を仕掛けてきたのは当然一人ではなかった。連携するように飛び出してきたもう一人のリンカーが狙いを定めようと――
「させません」
それは絶対の防壁。守るべき、誓い。
輝かしいライヴスの光が放たれる。
「戦友達に我が誓いを捧ぐ。我は防人なり」
ガキィンッ!
風架を守るように身体を滑り込ませた由利菜が、再び襲撃者の攻撃を見事に防いだ。
すかさずそこへ繰り出される『魔術型パイルバンカー』の拳撃。
ライヴスを纏った叩きつけるような風架の一撃が、敵リンカーの上腕を確実に捉える。
『ふっ!』
そのまま相手を地面へ押し倒すと同時に、体重を乗せた打撃を打ち下ろす。
部位破壊を狙った風架の容赦ない攻撃に、リンカーが苦悶の声をあげて『脱落』する。
「ぐ……ァッ!」
それを見て、由香里を襲撃したもう一人のリンカーが姿勢を落とし――『疾風怒濤』の連撃を繰り出した。
「はあああああっ!」
それはまさに必死の一撃。
目にも留まらぬ速さで振るわれる刃の奔流に、由利菜の表情が歪む。
「……く、ぅ、う……!」
激しく火花が散り、視界が揺れる。
「由利菜!」
最後に放たれた鋭い剣筋。
それを受け止めきれずに由利菜の態勢が崩れる。
彼方から飛来した弾丸は――その身体を無慈悲にも貫いた。
――その頃。いまだ激しい戦闘の続く北西エリア。
丘陵地帯の頂上に布陣することに成功した東京海上支部代表チームの四人は、早くも数人の脱落者を出したヨハネスブルグ支部のリンカーたちを徹底的に追い詰めていた。
「ちくしょう……あいつら強えぞ……」
「このままだと全滅する! しゃあねえ、退くぞ!」
嘆きの声をあげながら、撤退を始めるリンカーたち。
六花はそんな敵の動きを確認すると、周囲にいた仲間たちに声をかけた。
「逃げる敵は、無防備……ちょうどよく、まとまってる」
『範囲ぶっぱしつつ、倒せるヤツは確実に倒ーす!』
「戦争は、数が、モノを言う。なら……減らせばいい、よね?」
六花と共にニウェウスが駆ける。
これ以上の損害は出させまいと敵リンカーたちも応戦の構えを見せるが、二人の動きを支援するようにチルルが果敢に前方へ飛び出して敵の注意を引きつける。
「はいはーい! あたいにちゅうもーく!」
チルルの全身から放出されるライヴスの輝きが、戦場に突風を呼び込む。
その勢いに乗じて、ニウェウスが敵を翻弄するように飛び上がったかと思えば、その背後から現れたレミアが敵の盾役をまとめて薙ぎ払う。
「うおおおおっ!」
「……ここで、やられるわけには……!」
レミアの側面へ飛んだニウェウスは、直線に並んだ敵リンカーめがけて容赦ない雷の槍を炸裂させた。
『まとめて巻き込んでぇ』
「一気に、片付ける」
敵を串刺しにする豪雷。そこへ天から降り注ぐような冷気が舞い上がる。
「絶好の好機。逃しは……しない!」
澄んだ輝きを放つ血色の氷華。
六花の血液から精錬された『魔血晶』が砕け散り、すべてを凍てつかせる絶対零度の風が吹き荒れた。
「――雪風!」
宙空を舞う神秘的なダイヤモンドダスト。絶対零度の氷雪華。
まるで氷鏡六花という存在そのものを象徴するような。
それは、まさに――圧倒的な『魔法』だった。
遥か上空から、風に乗って小さな氷の結晶が舞い落ちる。
時間が凍りついたような静寂の中――崩れ落ちかけた由利菜の身体を支えるように、活性化されたライヴスの奔流が湧き上がる。
「最後まで生き残れ、ですか……」
「……な、ん」
虚空から生み出された白銀の刀身が、一瞬にして目前のリンカーを切り捨てた。
「――私の性に合う勝利条件ですね」
戦闘不能と見なされたリンカーの身体が消失する。
ぐらり、と。再び崩れかけた由利菜の身体を急いで駆け寄ってきた由香里が支え、清らかな光で包み込む。
「大丈夫? もう……無茶するわね」
「……ええ。ありがとうございます」
その暖かな感覚に身を委ね、由利菜は静かに息を吐いた。
そんな二人の様子を確認して、声をあげたのは風架だ。
『そちらの仲間は倒れました。貴方も出てきてはどうですか?』
そう。風架たちを襲撃してきた敵は二人だけではない。
あと一人。後方からこちらを銃撃してきたリンカーがまだ潜んでいる。
『……まぁ、どちらでも構いません。いずれにせよ、ここで脱落してもらいますので』
その言葉はブラフではなかった。
風架は一連の戦闘の中で、冷静に敵の狙撃手が潜伏している位置を探り続けていたのだ。
『……』
「ッ!」
真っ直ぐに放たれる殺気。
それにおもわず反応してしまったことで動揺したのか、物陰に身を隠していたリンカーが建物の陰から無骨な銃身を覗かせる。
――そこからは一瞬だった。
風架は物陰に身を隠していたリンカーへ飛ぶように接近すると――声にライヴスを乗せ、相手の耳元で静かに囁いた。
『支配者の言葉を以て命ずる。共鳴を、解除しなさい』
刹那。リンカーの目が見開かれる。
言葉によって脳をゆさぶられる奇妙な感覚が彼を襲っていた。
そして、幾許かの静寂の後――リンカーは風架の言葉通り、共鳴を解除した。
「あ、あれ……俺、なんで……」
『すみません』
「え?」
ガクン。
風架の一撃でリンカーの意識はあっさりと飛んだ。
『これも、戦いですから』
戦闘不能と見なされ『脱落』していったリンカーの姿を見て、ようやく風架が肩の力を抜いて息を吐くと、空の上から大きなサイレンの音と無機質なアナウンスの声が降り注いだ。
『――崩壊が始まります。崩壊が始まります。崩壊が始まります』
奇妙な揺れ。世界が揺れている。
「これって……」
由香里が顔を上げると、遥か彼方の空に亀裂が走っているのが見えた。
まるでガラスが砕け散るように、仮想空間の外周部が崩壊していく。
「……なんだか、本当に世界が終わってしまうよう、ですね」
おもわず由利菜がそう呟くと、由香里がため息混じりに返した。
「その前に、この戦いを終わらせないとね」
●異変
それから、戦場は暫しの膠着状態を迎えた。
崩壊を繰り返すこと五度。脱落するリンカーの数は着実に増え、現時点で生き残った者は参加者数の半数以下となり、各エリアの勝者はもはや明確となっていた。
そんな中、唯一いまだ趨勢が決することもなく小競り合いを続けていた『中央エリア』にある異変が起きようとしていた。
――中央エリア。中心地付近。
敵勢力と牽制合戦を繰り返しながら、中央エリア内を移動していた三人。
「……龍哉さん、嘉久也さん。空を見てください」
ふと魔女が発した言葉に足を止め、三人は揃って頭上を見上げた。
「ん? 空?」
「あれ、は……」
さっきまでどんよりとした重い雲が浮かんでいた灰色の空。
その雲が今では竜巻のように渦を巻き、じわじわと巨大な円のように広がっていっている。
「なんだありゃ」
「……竜巻、ですか」
「何か嫌な予感がするのは私だけでしょうか」
魔女がそう言うと、龍哉が苦笑する。
「そういうのフラグって言うんじゃなかったか?」
――直後。大音量で響き渡る雷鳴。
崩壊のときに流れる無機質なサイレンと共に、ゆっくりと空が割れていく。
「不測の事態……」
「なるほど。こっちでしたか」
「まぁ、予想通りってとこだな」
冷静に状況を見守る三人の頭上には――龍のような姿をした愚神が出現していた。
轟々と嵐を呼び起こしながら、巨体をうねらせて地上へと近づいてくる。
「あのサイズだと、迎撃は難しそうですね……」
「ふむ。どうしましょう?」
愚神がくわっと口を開く。
「とりあえず……逃げるぞ!」
『グガアアアアアアッ!!』
耳をつんざくような咆哮と共に――中央エリアへ容赦ない雷光の爆撃が始まった。
――北西エリア。
周囲の残存勢力を片付け、丘陵地帯を制圧し終えた四人もまた、その愚神の姿を遠くから捉えていた。
「うわーーー! でかっ! なんかでかいのきた! あたいよりでかい!」
「……ん。あれを撃ち落とすのは、大変……」
「別に……倒さなくてもいいんじゃない……?」
「無粋な愚物ね。余興としては楽しめるかもしれないけれど」
――北東エリア。
南東エリアから北東エリアへ移動した三人は道中で交戦した敵リンカーを何人か倒し、ちょうど中央エリアへと移動する途中だった。
「……あちらにいる仲間が心配です。急ぎましょう」
荒れ狂う空を見上げながら、由利菜が口を開く。
その言葉にうなずくと、由香里と風架も足取りを早めた。
「敵も同じ考えかもしれないし、できるだけ進路を塞いでいきたいわね」
『そうですね。こちらが合流する前に戦力を集中されるのも厄介ですし』
――中央エリア。中心地。
愚神の爆撃が始まってから、三十分ほどが経過しただろうか。
暴れまわった愚神は再び異空間へと去り、辺りには無残な光景だけが残された。
密集した建物は粉々に崩れ、雷光が直撃した地面は大きくえぐれてクレーターのようになっている。
その光景を見ただけでも、一箇所に布陣して敵を待ち構えていた者たちにとっては、この爆撃がかなりの痛手となっただろうことは容易に想像がついた。
「……正面に二人。東の方角にも三人。まだ意外と残っていましたね……」
愚神に荒らされた世界を眺めながら、嘉久也が淡々と戦場の情報を報告する。
爆撃を受けて拠点を失ったリンカーは予想以上に多かった。
つまり、彼らはその場から動くことを余儀なくされたというわけだ。当然、三人がその好機を見過ごすわけがなかった。
「戦場での動揺は禁物。……良い的ですよ」
身を伏せた状態のまま、魔女は静かに呟くと、逃げ惑う敵に照準を合わせ引金を絞る。
タァンッ! タァンッ!
乾いた発砲音が響くたびに、リンカーが一人、また一人と。戦場の露と消えていく。
「――そろそろ、か」
周囲を警戒していた龍哉が空を見上げる。
遠くの空からサイレンが鳴り響き、無機質なアナウンスが流れた。
『――崩壊が始まります。崩壊が始まります。崩壊崩壊崩壊崩壊崩壊崩壊――」
「あ? なんだ?」
連呼される崩壊の二文字。
おもわず魔女と嘉久也も顔を上げて、辺りを見渡した。
「……バグりましたかね」
「何か嫌な予感が」
「またかよ」
いささか不気味なアナウンスはそれから三十秒ほど続き、唐突にぷつりと途切れた。
――と、戦場を大きな揺れが襲う。
「逃げとくか?」
「……待って。これ、さっきとは違う気がするわ」
魔女がそう言った直後。空に亀裂が走った。
続いて西の空。北の空。南の空。すべての外周部が――同時に崩壊していく。
「ただの崩壊……いや、違う。様子がおかしいな」
轟音。轟音。轟音。
ばらばら、と。崩れ落ちた世界の破片が散らばっていく。
五秒。十秒。三十秒。一分。
今度の崩壊は――止まらなかった。
●崩壊
終わらない崩壊は、世界を強引に終着へと向かわせる。
この結末が事前に予期されていたものなのか。それとも、ただの偶然の産物だったのか。
それは誰にもわからなかった。否、もはや知る必要もなかったのかもしれない。
戦場にいるリンカーたちにとって。ただ一つだけ、確かだったのは。
――もはやこの世界に逃げ場所などない、ということだけだったのだから。
迫りくる崩壊に追われ、各エリアからリンカーが中央エリアに集結していた。
生き残った者は、三十二名。
いわずもがな、みな何度も修羅場を潜り抜けてきた、腕に自信のある一流のエージェントたちである。
しかし、この場において必要だったのは、ただ己のすべてをぶつけ合う覚悟だけ。
生き残ったすべての者が、強者。生き残るすべての者が、覇者。
そこにはもはや策もなく、意味もなく。ただ――力持つ者としての意地だけがあった。
「ひれ伏しなさい! 私こそが最強のリンカーよ!」
ワイルドブラッドの女が吠える。それを一笑に付したのはレミアとチルルだ。
「大言壮語も甚だしいわね……。最強の意味を教えてあげるわ」
「さいきょーとはあたいのこと! あたいとはさいきょーのこと!」
荒れ狂う暴風の如く。
加減を知らない連撃の応酬が、息もつかせぬ速度で繰り返される。
「赤城さん……!」
「支援するわよ!」
嘉久也が『16式』で敵後衛の動きを阻害しながら、由香里の支援を受けた龍哉が今までの鬱憤を晴らすかのように突撃する。
「おおっ! 行くぜ――凱謳!」
鍔元のディスクユニットが高速で回転を始めると『ブレイブザンバー』の刃が黄金の輝きを放った。
「おおおおおおおっ!」
咆哮は戦場を切り開き、ザンバーの直撃を食らったリンカーが宙を舞う。
「いい加減、うっとうしいんだよ!」
「それは、こっちの台詞……」
機動力で敵を翻弄しながらニウェウスが弾幕を張る。
雨のように降り注ぐ光線が地面を穿ち、辺りに土煙を巻き上げる。
「っ!?」
横っ飛びで転がったリンカーを更に追い詰めるように、六花が高らかに断章を掲げた。
氷鏡が中空に煌めき――二人の詠唱が重なった。
「――氷炎!」
「――ブルームフレア!」
炸裂したのは赤と青の豪炎と氷雪。
凄まじい勢いで吹き荒れた範囲魔法が、周囲にいたリンカーたちを一斉に薙ぎ払う。
「……ちぃ、ッ……!」
「くそっ! これでも喰らいやがれっ!」
――閃光。
フラッシュバンの白い輝きが、瞬く間に戦場の色を塗り替える。
動きの止まったリンカーたち。その隙を突き、距離を取ろうと――
「その隙、逃しません」
一瞬の静寂を切り裂くように、魔女が粉塵の隙間を縫うように躍動。双銃による正確な射撃で複数の敵を無力化したかと思えば、レミアの傍へと駆け寄る。
「そろそろフィナーレですね。もう一暴れ……したくありませんか?」
「ふふっ……そうね。せっかくの舞台だし、派手にやらせてもらおうかしら」
レミアは『ライヴスソウル』に力を込めると、その白魚のような指にはめられた指輪が青白い光を放ち始める。
漆黒のライヴスは真の解放に打ち震え、力の奔流は異形の翼を開かせる。
――リンクバースト。
これこそが、能力者と英雄たる者にのみ開くことを許された、深淵の扉。
「熾天の羽に切り裂かれよ! セラフィック・ディバイダー!」
由利菜の一閃によってこじ開けられた道を龍哉が駆ける。
『決着をつけましょう……』
突撃してきた敵を風架が薙ぎ払うと、黄金の刃が再び己の存在を誇示するかのように強く輝いた。
仲間たちの力――クロスリンクを受けて、黄金の輝きは龍哉の全身を包み込む。
「おっしゃあッ!」
「散りなさいッ!」
リンクバーストを発動したレミアと龍哉が息を合わせ――全力の一撃を放つ。
「うおおおおおおおっ!」
「ハアアアアアアアッ!」
強烈な衝撃波が、すべてを吹き飛ばした。そして――
ピシッ。
世界の何処かで、空間に亀裂の走る音だけが、ほんの一瞬だけ響き――
――仮想戦場は崩壊した。
●エピローグ
H.O.P.E.東京海上支部は『優勝』の一報に湧いていた。
不安定なシステムに極端な負荷をかけすぎたせいで、最終的には戦場ごと崩壊してしまうという結末を迎えた今回の演習だが、結果は審議の末に満場一致で東京海上支部代表の優勝となった。
やはり最後まで一人の脱落者も出さなかった唯一のチームであることが評価された結果だが、最後の一撃で他支部のリンカーたちだけでなく、システムそのものまで崩壊させた豪快さが一部のお偉方の心をくすぐったとかなんとか……。
とにもかくにも。
活躍してくれたリンカーたちのおかげで、自分たちが大規模合同演習の主役となれたことを、東京海上支部に所属するすべての人々は大いに喜んでいた。
ある、ただ一人の職員を除いて。
「……あーあ。なんで落ちちゃったんだろ……あれくらいなら耐えられると思ったのになぁ」
渋い顔でモニタを眺めながら、若い職員が不満気に呟いた。
「自爆スイッチはロマンだし……マップを崩壊させていくのは面白かったと思うんだけど……うーん、愚神でエリア破壊しまくったのは、ちょっとやりすぎたかなぁ……でもなぁ……そもそも人数が多すぎたんだよなぁ……そうだ、今度はもっと……」
ぶつぶつ。ぶつぶつ。
今回の演習システムを設計した男の一人反省会は、延々と夜通し続くのであった……。
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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