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【初夢】IFシナリオ

【初夢】H.O.P.E.学園へようこそ!

和倉眞吹

形態
ショートEX
難易度
易しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~10人
英雄
6人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2018/01/15 18:26

掲示板

オープニング

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 この【初夢】シナリオは「IFシナリオ」です。
 IF世界を舞台としており、リンクブレイブの世界観とは関係ありません。
 シナリオの内容は世界観に一切影響を与えませんのでご注意ください。
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 その日、その学生エージェントはいつも通りに登校した。
 冬休みがやや短かったような気がしたが、それは多分、冬休み中やクリスマス、年末年始などのTPOを考えずに出没してくれる従魔や愚神の所為だろう。
 そう思いながら、まだ重い気がする瞼を瞬かせて、教室の扉を開けた。
「こらー、遅いぞ」
 途端、前方から声が掛かる。
 ああ、遅刻しちゃったか、と思いつつ、顔を上げたエージェントは、「すいません」と言おうと口を開いた。しかし、開いた口は、『すいません』の『す』の形に固まった。
「何してるの。さっさと席に着いて」
「えっ……え?」
 教壇にいるのは、何とH.O.P.E.支部の女性オペレーターだ。
「あ、あのっ……何でここに??」
「何でここに、じゃないでしょう。授業始まるから、その調子で一限目の先生に迷惑掛けないでよ?」
「はいい???」
 疑問は氷解しないまま、エージェントはその場に取り残される。
「どうしたの。まだ正月ボケ?」
「ああ、いや……」
 ツンツンと後ろから上着を引かれて振り返ると、そこにはエージェント仲間がいる。
 学生のエージェントは自分だけでない事は知っているが、その仲間は、確か学校が違う筈だ。と、視線を上げると、教室内には何故かH.O.P.E.で見知った顔が多い。と言うより、全員がH.O.P.E.のエージェントだ。しかも、能力者も英雄も入り混じっている。
 一体、何がどうなってる。
 混乱する頭を抱えそうになった時、始業チャイムが鳴り、ドアを開ける音がした。席に着くように号令を掛けた教師の顔は、見知った英雄だった――

解説

▼目標
とにかく、学園生活を一日楽しむ。

▼留意点
・今回は、学園パラレルです。
年齢的に学生のPCは生徒(もしくは児童)、社会人に当たる歳のPCは先生でお願いします(大学生が教育実習に来ている、等も可)。

・教科や担当、どの場面(授業中、昼休み、部活中等)を想定するかはお任せで。
クラスや部活動について、同じクラス・部活がいい、などはプレイングを合わせて下さい。

・今回も、OPの能力者のように強制参加させられる側か、それとも夢の世界観に染まった側、どちらの立場でプレイングを書くかはお任せします。

リプレイ

 校内が夕闇に沈む頃、最終下校時刻を知らせる放送が流れる廊下を、リリア・クラウン(aa3674)と五十嵐 渚(aa3674hero002)は急ぎ足に歩いていた。
 二人は軽音部の練習を終えた所だった。リリアがギター、渚はドラムの担当である。余談ながら、軽音部の中では美人の部類に入る二人だが、本人達に自覚は全くない。
 大会を前に、部の練習にも自ずと熱が入っていた。その所為か、最近はいつも最終下校時刻ギリギリまで練習が続くことも珍しくない。
「つっかれたぁー。お腹空きましたね。美味しいもの食べたいなぁ~」
 リリアは言って、チラと渚に目を向ける。学年的に先輩の彼女は、頼れる姉貴肌で、おねだりすれば奢ってくれることもあった。対するリリアは、おっちょこちょいで天然、などと言われているボクっ娘だ。
「じゃあ、明日の昼ご飯で良ければ、蓮司先生の所に行かない?」
「蓮司先生?」
「そう。料理が得意な先生なんす。最近親しくなったんすよ。昼休み、一緒にいきましょ、紹介するっす」
 得意げに言う渚に、リリアも笑顔で頷いた。

「遅刻遅刻!」
 翌日。
 ハプニングで、実習初日に現地入りした藍那 明斗(aa4534)は、ドタバタと大慌てで走っていた。
 その出で立ちは、教育実習生に相応しいとは言い難い。
 羽織にジーンズ、下駄という普段着姿だ。もっとも、彼の携えている荷物にはきちんとスーツが入っている。どこかで着替えるつもりだ。
 だが、ふと目線を前方へ投げると、またもハプニング――もとい、不審者が目に入って、明斗は足を止めた。
 何しろ、校内の駐車場に、どう見てもパトカーとしか思えない車が停まっているのだ。更にその横には、黒いスーツに黒ソフト帽、サングラスという黒ずくめの男が立っているではないか。
 どこからどう見ても、立派に不審者だ。と認定するや、明斗は声を上げた。
「おい、お前!」
 すると、声を掛けられた男は、キョロキョロと辺りを見回した。自分に言われたと思っていないらしい。
「お前だよ、お前!」
 すると、やっと男――こと、飯野雄二(aa0477)は明斗と視線を合わせる。
「俺?」
「そうだ、お前だ! 警官に扮して学校に入るとは……」
「警官……俺? 俺なのか!?」
 やっとこさ、自分が何かしたように思われていることに気付いた雄二は、「違う! 俺はここの教師だ、こっち見んな不審者!」と慌てて言い返す。
「誰が不審者だ! そんなパトカー乗った教師がいるか、そっちこそ怪しすぎるわ!」
 互いに、相手を不審者だと主張し一歩も譲らない。そんな、ある種不毛な言い争いのループに終止符を打ったのは、学園の新入警備員だ。
 不審者が二人、仲間割れの果てに言い争いをしていると思ったらしいその警備員は、「俺はここの教師だっつってんだろ!」と叫ぶ雄二と、「俺だって今日からここで教育実習する大学生だ!」と叫ぶ明斗を、手にした刺又で黙らせ、事務室へ連行した。

「――という訳で、今日からこの学校で教育実習に来ることになった、藍那明斗先生だ」
 感情表現の動きに乏しい所為か、何かと誤解を与え易い淡々とした表情で、石動 鋼(aa4864)は、実習初日に早速騒ぎを起こした明斗を生徒達に紹介した。
「藍那先生、自己紹介を」
「あ、はいっ」
 明斗はピシリと背筋を伸ばして返事をすると、鋼が空けた場所――教壇に立った。
「今、石動先生にご紹介頂いた、藍那明斗だ。実習期間中は宜しくな。国語担当の石動先生に付いている所から分かると思うが、担当は国語、年は二十四歳だ……って」
 年齢を口にした途端、一斉に生徒達から疑わしげな顔が向けられる。
「何その顔!? 信じろよ!」
 半泣きで悲鳴を上げるも、この貫禄にこの態度、更には老け顔でフレッシュな実習生感がゼロ、と来れば、説得力もゼロである。
 ともあれ、朝の軽い騒動のお陰か、生徒の興味と言う名の掴みはオッケー、評判は悪くないようだ。
 鋼はそれで自己紹介は済んだものとし、「では授業を始めよう」とやはり淡々と声を掛ける。
「藍那先生は、今日は後ろで見学していて下さい」
「はい……」
 疑惑に満ちた生徒達の視線に肩を落としながら、明斗はトボトボと教室の後ろへ足を運んだ。

(結局両親の所属するH.O.P.E.や、あの時山に現れたという英雄のことは分からずじまいだったわ……)
 篠宮クレアとして認知されている月鏡 由利菜(aa0873)は、一人ブツブツと脳裏で呟きながら、廊下を歩いていた。昼休みに入ったばかりで、校内の廊下には、あちこちに生徒がいる。
 普段女王様然としている所為か、近寄り難い印象を与えている彼女を、生徒達は遠巻きにしていた。しかし、それはクレアの目には入っていない。
(あのチャンスを逃したのは痛いけれど、次の機会は絶対に逃さないわよ……!)
 思索に没頭したまま、目標の扉を開く。
『どうした、ツキカガミ』
 別名の方で呼ばれて顔を上げると、ノルウェーから教育実習生として訪れているリーヴスラシル(aa0873hero001)が、室内で昼食を食べていた。
 彼女お手製の弁当は美味なので、彼女がこの学園へ来てからは、毎日お相伴に預かっている。ただ、今日はうっかりノックをし忘れたことに気付いて、クレアは顔を赤らめた。
『ツキカガミ?』
「あっ……いえ、何でも……それより、ラシル先生。実は相談があって……英雄に関する情報、知っていますか?」
『英雄か……? 今のところはないな』
 まあ掛けろ、と席を勧められ、クレアは「失礼します」と改めて言いながら入室し、扉を閉める。
『ところで、ツキカガミは何故、そんなに英雄と誓約を結びたいんだ?』
「何故って……」
 リーヴスラシルに貰った弁当を開けながら、「父と母の力になりたいからよ」と答える。
 すると『ご両親か』とリーヴスラシルは寂しげに微笑した。
『私は、両親とは訳あって離れて暮らすことになった。日本語はそれなりに学んでいたが……本来ならノルウェー国外で教師になる予定はなかったんだ』
「先生……」
 どう言葉を掛ければ良いか、クレアは分からなくなった。普段は女王様然として我が儘に振る舞うクレアだが、英雄との誓約の為、協力を求めているリーヴスラシルには多少の遠慮もある。
『どうかしたか?』
 言われて、慌てて首を振る。
『それで、今日訊きたいのはそれだけか?』
「そう言われては身も蓋もないですけど……あ、この出汁巻き卵、美味しいです」
『そうか? 先日、家庭科の片薙先生に教わって作ったんだ。口に合ったなら良かった』

 その頃、当の片薙 蓮司(aa0636hero002)とヘンリー・クラウン(aa0636)は、食堂にいた。
 彼らは先輩後輩の間柄で、一緒にいることが多かった。もっとも、ヘンリーは一日実習生として来ているので、学校の食堂で昼食を共にするのは初めてだが。
 つい先刻まで、このテーブル周りには生徒が群がっていた。
『やっぱり、飯の時が一番楽しみな時なんだよなー……』
 ようやく落ち着いて静かになったテーブルで、蓮司は食事を頬張った。自分が作って来た、得意の和食弁当だ。
 担当科目が家庭科の所為か、料理が得意なのは確かだ。しかし、昼食時、一口程度にと生徒達にあげていたら、あっという間に“片薙先生の弁当は絶品だ!”と噂が広まり、今や大量に作って振る舞わなければならなくなっているのは何故なんだろうと首を捻るところである。
 加えて、今日はヘンリーのスイーツにも、生徒が群がっていた。
「ん?」
 やっと一段落した時、ふと見ると、女子に劣らずスイーツ好きの蓮司が目を輝かせて見つめているのに気付く。
「蓮司、先生……そんなに食べたいなら食べますか……?」
 ぎこちない敬語で言いながらそっと差し出すと、蓮司が嬉しそうに『本気で!?』と全面に喜びを押し出す。
『やったー! ヘンリーのデザート最高なんだよなー』
 スイーツは特にヘンリーの得意分野だ。本日のラインナップは、チョコミルフィーユとガトーショコラだ。
 どっちにしよう、どちらもいい、迷う、寧ろ両方! と思ったところで、「蓮司せーんせ」と声が掛かった。
 反射で顔を上げると、女生徒が二人、こちらへ歩いて来るのが目に入る。一人は顔馴染みの渚だったが、もう一人は蓮司も初対面だ。
「ん? 一緒に食べるか……?」
『!』
 ヘンリーには二人共初対面の筈だが、ナチュラルに声を掛けている。
『あの二人呼ぶのかよ……』
 ボソリと零す間に、「ご飯、恵んで下さいっす!」と小走りに寄って来た渚は、当然のように蓮司の隣へ腰を下ろす。
「いつも美味しそうっすね!」
『! ……食べるか? 美味しいとは限らないけど……』
「またまた、謙遜しちゃってー」
 箸を渡すと、「頂きます!」と向けられた笑顔にドキドキする。そんな蓮司の内心の葛藤を知る由もない渚は、一緒に来た少女を示して、「あ、彼女、リリアって言うんす」と紹介した。
「同じ軽音部の友達で、美味しいモノが食べたいって言うから連れて来ちゃいました」
「リリア・クラウンです。宜しくお願いします」
 必然、空いたヘンリーの隣へリリアが腰を下ろしながらペコリと頭を下げると、「あれ、俺と同じ名字」とヘンリーが呟く。
「え、そうなんですか?」
『ああ……彼はヘンリー・クラウン。教育実習に来てるんだ。担当は家庭科で、得意はスイーツ』
「スイーツ!」
 甘党のリリアは、目をキラキラさせて、テーブルにまだ鎮座しているチョコミルフィーユとショコラを捕捉する。
「あっ、あのあの」
「どうぞ」
 ヘンリーが差し出すと、「有り難うございます! 頂きます!」と早速手を伸ばす。
「うわあ、美味しい!」
 ガトーショコラを一口食べて、リリアは思わず声を上げた。
「今まで食べたスイーツの中で一番美味しいです。ホントに先生が作ったんですか?」
「うん」
「うわー、すごーい」
 歓声を上げてガトーショコラを平らげたリリアは、チョコミルフィーユに取り掛かりながら隣に座ったヘンリーを見上げる。
「もし機会があったらまた食べたいです。是非」
「うん、それは光栄だけど……ほら」
「え?」
 ハンカチを取り出して、彼女の口元を拭う。
「口にこぼしてるぞ……」
「あ、やだ……すいません。有り難うございます」
 慌てて俯く彼女を見ていると、沸いてくる率直な感想は“可愛いな”だ。甘えたに見える彼女は、実際可愛い。だが、相手は生徒だ。いくら自分がまだ実習生でも、恋をしたらダメだと、その気持ちを仕舞い込む。
 一方、渚はいつも通り、蓮司の美味しい手料理に舌鼓を打っていた。
「今日、いつもと作り方違う?」
『分かる? 新しい料理本買ったんで、ちょっと試してみようかと思って』
「へえ。いいんじゃないっすか? いい意味で変わった味っすよ」
『そうかな。なら、良かった』
「あっ、今度は自分が頑張って料理作るっすよ!」
『ああ。期待しないで待ってる』
 ええっ、ひどいっす、と叫ぶ彼女の頭を思わず撫でそうになった蓮司は、慌ててそれを思い留まった。

 今朝の“不審者勘違い騒動”で、図らずも顔見知りになった雄二と明斗は、どちらからともなく“昼飯、一緒するか”ということになった。
 それぞれに、知り合いである生徒を連れている。
「もー、参ったぜ……誰も信用してくれねーの」
 実習初日、行く教室行く教室で自己紹介をしたものの、誰も年齢を信じてくれず落ち込みまくる明斗に、クロセル(aa4534hero001)はクスクスと小さく笑った。
『それはともかく、今朝みたいな騒動は親戚の僕の評判にも関わるから、気を付けて下さいよ、ミントせんせ?』
「うるせえよ。悩みなんか何もない顔しやがって」
『心外だなあ、僕にだって悩みくらいありますよ』
「どんな悩みだよ」
『いや、実はね。今日呼び出されて告白されちゃったんだけど……』
「どこが悩みだよ、それ自慢だろ?」
 胡乱な目で見る明斗に、『じゃなくて』と挟んで続いたクロセルの言葉は、
『相手、男だったんですよね』
 だった。
『……僕も男なんだけど……』
『もう何度目かね?』
 言ったのは、雄二の連れである、淡島時雨(aa0477hero001)だ。『他校に彼女だっているのに』と相談を受けたことがある。
 直後、明斗は盛大に吹き出した。
『もーミントせんせー……僕割と真剣に悩んでんですけど?』
「はっ、はははっ、いや、悪い……ッ」
 彼の女顔ではある程度仕方ない、とは流石に口に出さずに、明斗は雄二に話を振った。
「雄二は女っ気なさそうだよなァ」
 その失礼な仲間意識を、雄二は即座に否定する。
「失礼な、俺には可愛い許嫁がいるんだぜ」
「うっそだあ、どこにそんな」
『ゆーじ、はいお弁当』
 透かさず時雨が弁当箱を差し出す。
『今日忘れてったよね。昨日あれだけ“明日は朝から職員会議があるから早めに行く”って言ってたのに寝坊するんだから』
「……って許嫁ってまさか」
「そ、コイツ。あんまり学校内でバレるのもうまくないから、先生って呼べって言ってるのに……」
「……くそー、いいなあ、愛妻弁当……」
「じゃねぇっつの」
「似たよーなもんじゃん。てゆーか、作ってくれる女の子がいるってだけで羨ましいぜ」
「……というか、お前、これ見てもそれ言えるか?」
 示された弁当箱の中身は、見事に空っぽだ。
「何で?」
『お弁当忘れるだけじゃなくて、おかず詰めるのも忘れるなんて、ゆーじダメだなぁ』
「お前が言うな。お前、今日の俺の授業中、結構堂々ともぐもぐしてたよな」
 ちなみに、雄二の担当科目は社会科の公民だ。
 彼女は穏やかな僕っ娘な反面、かなりの大食らいだ(その上隠れ巨乳だ、なんてことは勿論口には出せないし関係ない)ものだから、二時限目の時点でもうお腹が空く、なんて、運動部の男子のようなことを言う。
 その時点で、大体のことは察したので、授業が終わるや、雄二は学食に行き、調理パンをいくつか購入しておいた。
 それを広げてかぶりつく。
 じゃあ俺も、と弁当を広げようと鞄を漁って、「しまった」と呟く。
「弁当忘れたわ……」
 何しろ、実習初日に遅刻するかしないかということだけで精一杯だったので、昼食のことまで頭が回らなかったのだ。
『仕方ないなぁ、ミントせんせ。僕の分けてあげるからションボリしないのー』
 はいっ、とクロセルの差し出した弁当箱を、明斗は「別にションボリなんかしてねえけど!」と見栄を張りつつ反射で受け取る。
「本当にいいのか?」
『こんなこともあろうかと、多めに作っときました』
 僕のはこっち、とクロセルはもう一つ弁当箱を取り出す。
 子供のような明斗に対し、クロセルは生徒なのに母親のようだ――なんてことは、勿論口に出さなかった雄二であった。

 昼食を終えたヘンリー、蓮司、リリア、渚は、食後の校内散歩に繰り出していた。
「きゃっ……!」
「おっと」
 段差で足を引っ掛けたリリアを、ヘンリーが支える。
「ほら、こけたら危ないだろう?」
「あっ、有り難うございます……」
 先刻から、何となく意識していた彼に助けられ、リリアは益々ドキドキした。一方のヘンリーも、顔を赤らめて礼を言った彼女に、完全に心を持って行かれてしまう。
 互いを意識しすぎて慌てて離れたりする彼らを、「あーもー見てらんないっす」と脳裏で呟いた渚は、わざと彼らとは違う道へ足を踏み出した。
『ちょっ、こっちだろ?』
 しかし、それを見咎めたらしい蓮司に、襟首を掴まれる。
 方向を修正し、リリア達について歩く彼女の後ろ姿に、蓮司は微笑した。
『本当に見てて飽きねえな……』
 ボソッと零したその言葉は、渚の耳には届かなかった。

(何だか分からんが、青春だな……)
 それを科目準備室の窓から見ながら、最後の一口を口に運んだリーヴスラシルは、「ラシル先生、聞いてますっ?」という若干怒ったような声音に我に返った。
『ああ、済まない。何の話だったかな』
「もうっ……まあいいですよ、ふふ。英雄と私は、私の考えた誓約で結ばれるの……素敵でしょう? って話です!」
『そうだったな……だが、ツキカガミ。お前が英雄と望む内容の誓約を結べるとは限らないぞ』
 英雄との誓約への執着心が強いクレアが、リーヴスラシルは見ていて心配だった。
『もし相手が誓約のことを知っていて、不利な内容の誓約を結ばされるかも知れない』
「何ですか、それ」
 窘めるようなリーヴスラシルの言葉に、クレアはむっと唇を尖らせた。
「私はそんなヘマは絶対にしません」
『どうだかな……まあ、どの道、肝心の英雄が来なければどうにもなるまい』
 リーヴスラシルは、食べ終わった弁当箱の蓋をしながら、続ける。
『ここで皆と学園生活を過ごす、今ある“普通”の時が、いずれ幸せな時代なのだと感じられる時が来る』
「そうでしょうか……?」
『きっとな。さて、もう予鈴も鳴る頃だろう。お前も教室に戻れ』
 はぁい、とクレアが返事をすると同時に、午後の授業の開始五分前を報せるチャイムが、校内に響いた。

(今日は何を分解しようかな……昨日は自転車だったから、そろそろバイクに行きたいな)
 後少しで六時限目が終わるという頃、コランダム(aa4864hero001)は授業そっちのけで、窓の外をボーッと見ていた。
 窓際の、しかも最後列というのは、授業中の居眠りか内職か、こうしてぼんやりするのに最適である。
「――では、今日の授業は此処まで。何か分からないことがあれば、質問を受け付ける」
 終業のチャイムと共に、鋼が例の淡々とした口調で生徒達に言う。今日は、教育実習生だという藍那明斗も一緒だった。
(あの先生、絶対年齢詐称だよなぁ……)
 明斗が今日、高等部からコランダムのいる中等部まで満遍なく年齢詐称疑惑の視線を浴びてきたことなど、コランダムは知る由もない。
 そんなことを考える間に、何人かの生徒が鋼の元へ相談に駆け寄っていた。しかし、鋼は無表情でじっと考え込んでいる。
 彼は元々口数が少なく、授業も淡々と行う。表情に乏しい所為か、誤解され易いのだが、子供は嫌いではない。というか、寧ろ好きな方だと思う。
 だが、今も無表情に黙り込んでいる為、質問に行った生徒が戸惑っているのが分かる。もっとも、それはコランダムから見れば、問われたことに対して考え込んでいるだけだと分かる。怒っている訳ではない。しかし、言葉足らずの所為で、相手を不安にさせることも多いのも事実だった。
 暫くして、ようやっと口を開いた鋼の説明に、戸惑いつつも生徒は相槌を打つ。やがて疑問が解消されたのか、ペコリと頭を下げて教壇を離れて行った。
 それを、どこか鋼は浮かない表情で見送っているように感じ、コランダムはパッと立ち上がった。
『鋼ー。また眉間に皺寄ってる……何を悩んでるの?』
 すると、鋼はコランダムに視線を向けた。“君こそが悩みの種だ”と言いそうな表情で、益々眉根の皺を深くする。
「コランダム。何度も言うようだが、学校では先生と呼ぶように」
 鋼とは遠い親戚の為、ついつい慣れた呼び名で呼んでしまう。コランダムは、肩を竦めた。
『はいはい、石動先生。そんなことばっか気にしてるとハゲるよ?』
 その忠告を真に受けてしまったのか、鋼は「む」とまた少し眉間の皺を深くする。
 しかし、「いや、大事なことだぞ」と思い直したように首を振った。
「コランダム。やはり、剣道部に入ったらどうだ。剣道は、礼に始まり礼に終わる。強くなりたいなら礼節を忘れてはいけない」
『いや、礼節とかは別に……てゆーか、強くなりたい訳じゃないし、部活とか悪いけどパス。僕はそれよりも大事なことがあるからね』
 この学園の中等部へ上がった時から、コランダムは所謂帰宅部所属だった。部活に入ると、機械いじりの時間が減る。機械オタクで、暇さえあれば機械いじりをしているコランダムにとって、それは何より痛いことだった。
「では、夢などはないのか?」
『夢?』
「そうだ。私もまだ未熟な身ではあるが、出来る限り君の……いや、君達の力になろう」
 武道に精通しており、剣道部の顧問として生徒を一生懸命指導するその姿勢は、部活動時のみならず、時に普通の生徒指導の時にまで顔を出す。
 それが悪いとは思わないが、親戚として付き合いもあるコランダムには、少々鬱陶しく感じられる時もあった。
『そういうの、考えたこともなかったな……でも、なるなら発明家とか楽しそうだな』
 ニコリと満面の笑みが浮かぶと、社交的なその性格が垣間見える。機械いじりが好きな所から誤解する者もいるが、決して根暗ではないのだ。
 ただ、趣味に没頭すると周りが見えなくなるその性分を、鋼は少し心配している。
 学力は平均以上なので、普段はあまりうるさく言わないが――
『そっ……それは!』
 こちらの沈黙が続く間に、コランダムの視線はクラスメイトの手元に釘付けになっている。
『今日発売の新型カメラ! 分解させて!』
 そのクラスメイトが、青くなって自身のカメラを抱き寄せるのと、鋼がコランダムの襟首を掴むのとはほぼ同時だった。
「コランダム……学校では機械いじりをしてはいけないと言っているだろう。君は少し抑えることを覚えなさい」
『えー……』
 コランダムが後ろを斜めに見上げる間に、カメラを分解され掛かったクラスメイトは、助かったとばかりに退散していく。
『あっ、ちょっとー、話は済んでないよー』
「済んでいないのはこちらだ。君は今日は部活に参加して行きなさい。一日体験という扱いにしておく。帰りは送るから」
『だから、勘弁してよ! 機械いじりの時間が減っちゃうってば!』
「君の趣味を否定はしないが、見境がないのは良くない。それに、他人の持ち物を分解するのは感心しない。……ああ、藍那先生。今日はこれでもう上がっていいですよ」
「はい。有り難うございました」
 明斗がペコリとお辞儀をするのへ、鋼も「お疲れ様」と返す。
 しかし、涙目になったコランダムには、それらは既に意識の外であった。

「――リリアさんのこと……好きになった。だから……付き合って貰えないかな」
「へ?」
 放課後、校舎裏に呼び出されたリリアは、ヘンリーからそう言われて、目を丸くした。
 何この、恋愛少女マンガの定番みたいなシチュエーション。
「えっ、ええー、ちょっと……待って下さいよ、だって」
「実習生って言っても、一日実習だったから」
 つまり、ヘンリーにとっては、今日を逃すとリリアに告白する機会はそうそうなくなる。
「ダメ……かな」
「いいえっ!」
 リリアはブンブンと大慌てで首を振った。
「あの……あのあの、ボクも……今日会った時から気になってました、だから……」
 何この、恋愛少女マンガのヒロインの定番みたいな台詞。と、頭のどこかで冷静なツッコミが入るが、もうどうだっていい。
「嬉しいです」
 だらしなく笑み崩れているという自覚はある。けれど、嬉しい時に笑み崩れて何が悪い、とリリアは開き直っていた。

 同じ頃、体育館倉庫に呼び出された渚も蓮司に告白されていた。
『……いいんすか? 自分生徒で、先生教師なんすけど』
 するとそれを、遠回しの拒絶と取ったのか、蓮司はばつが悪そうに目を伏せる。
『いや……さ。前から気になってて……でも、可愛いって評判あるし、いつ他の男に取られるかと思うと気が気じゃないっていうか……』
『それは自分の質問の答えじゃないっす』
『や、だから……バレたら辞職するくらいの覚悟はあったけど……』
 考えたら、それは彼女の未来をも潰すことになるかも知れない。
『……ごめん。忘れて』
 じゃあ、と踵を返した蓮司の上着の裾を、渚は素早く捕まえていた。
『ばっ、バレた時に責任取って結婚してくれたら、考えなくもないっすよ!』
 蓮司は目を丸くする。
『……それはOKってコト?』
『おっ、OKじゃなかったら、こんなコト言わないで放っておくと思わないっすか!?』
 これがツンデレって奴か。何だか面倒臭い。でも、そんな彼女に惚れた自分も、大概面倒臭い男かも知れない。
 蓮司の微苦笑の意味に、幸か不幸か渚は気付かなかった。

 同じ頃、時雨とクロセルは、スーパーで買い物をしていた。
 お目当ては、夕食時の材料だ。
 食材売場をウロウロしている男子高校生は珍しいが、滲む女子力の所為かその見た目の所為か、クロセルは見事に違和感なくその場に溶け込んでいる。
『今日はご馳走だね♪』
 時雨、雄二と一緒にシェアハウスに住んでいるクロセルは、時雨と共に料理も担当している。今日は、そこへ新しい住人が来る予定なのだ。
 と言っても、誰が来るか、クロセルは知っている。
『そうだね、沢山作ろうか』
 そう応じた時雨は、新入居者が誰か知らないらしい。多分、彼女の許嫁の雄二も知らないだろう。彼らが顔を合わせる時が、少し楽しみだ。
 必要な材料を買い込んで家へ戻り、早速調理に取り掛かった。
 クロセルも時雨も、慣れた手つきで包丁を使い、鍋を振るう。
 特に、時雨の方は、昼間のお詫びのつもりか、雄二の好物をメインに調理していた。何だかんだ、悪いことをしたとは思っているらしい。
 やがて、学校での業務を終えた雄二が戻り、三人で時雨とクロセルの料理に舌鼓を打っていると、家のチャイムが鳴った。
 どうやら、新しい同居人のご到着だ。
「失礼しまーす」
 誰も迎えには出なかったが、新入居者の為、当然鍵は持っていたのだろう。通路を歩く足音の後に、件のニューフェイスがダイニングルームへ顔を覗かせた。
「挨拶が遅れました。今日からここにお世話になる藍那と……」
 挨拶を始めたのは、何と藍那明斗だ。
 明斗の方も、ポカンと口を開けた雄二達に気付いたらしい。口上を途中で途切れさせ、唖然としている。が、次の瞬間には、
「……またお前(ら)かー!?」
 と盛大に雄二達を指さし、仁王立ちだ。
「選りに選って不審者と同じ屋根の下かよ!」
 頭を抱えると、雄二も負けずに「お前が言うな!」と怒鳴り返す。対照的に、時雨の方は『ああ、新しい人って藍那先生だったんだ』とのほほんと言った。
『うん、こんな人だけど、今日から宜しくしてあげてね』
 何故か保護者のような顔で言うクロセルに、『こちらこそ宜しくね?』と時雨が頭を下げる。
「お前らが生徒のお母さんかよ!?」
 透かさず明斗がツッコミを入れると、「うるせー不審者!」と言いつつ雄二は時雨を抱き抱えた。
「可愛いからって、俺の時雨に手出すんじゃないぞ!?」
「人の女に手を出す程外道じゃない! ってゆーか、ノロケか!? 俺に女がいないことを知っての狼藉か! 教育委員会にチクるぞ、こらぁ!!」
「ひっ、卑怯だぞ! 人の恋路を邪魔する奴は、馬にでも蹴られとけー!!」
『ちょっと、ゆーじ離してくれない? 夕飯食べられないんだけど』
「ダメだ時雨、ここは危険過ぎる! 余所で食いなさい余所でっ!」
 彼女に適当な皿を持たせて別室へ追いやろうとする雄二に、明斗の「俺を何だと思ってる訳!?」という半泣きの抗議が飛ぶ。
『もー、大人げない言い争いはその辺にしてよ。ミントせんせも、手洗いうがいしたの?』
「してない! つーか、やっぱりおかあさんか!」
『そんなつもりはないんだけど、折角ご馳走作ったんだから……お食事時、しーんと静かに食べろとは言わないけど、お喋りは節度を持ってして欲しいよね』
『ホントだよねー。どっちが先生だか』
「「不審者はこっちだ!!」」
 互いを指さした雄二と明斗の絶叫が、仲良くハモる。
 このシェアハウス、これから騒がしくなりそうだ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • エージェント
    飯野雄二aa0477
    人間|22才|男性|生命
  • エージェント
    淡島時雨aa0477hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 戦うパティシエ
    ヘンリー・クラウンaa0636
    機械|22才|男性|攻撃
  • ベストキッチンスタッフ
    片薙 蓮司aa0636hero002
    英雄|25才|男性|カオ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 家族とのひと時
    リリア・クラウンaa3674
    人間|18才|女性|攻撃
  • 歪んだ狂気を砕きし刃
    伊集院 翼aa3674hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 飛込みイベントプランナー
    藍那 明斗aa4534
    人間|26才|男性|命中
  • アホ毛も武器
    クロセルaa4534hero001
    英雄|16才|?|カオ
  • 揺るがぬ誓いの剣
    石動 鋼aa4864
    機械|27才|男性|防御
  • 君が無事である為に
    コランダムaa4864hero001
    英雄|14才|男性|ブレ
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