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おふとんからでたくないひ
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/12/24 21:23:54
オープニング
●ある寒い冬の朝
ユウ(az0044hero001)は一つ溜息を吐いた。
時刻は朝八時。
普段ならばとっくに起床して朝ごはんを口にし、任務だ訓練だ勉強だと話を聞かされている頃だ。
しかし当人――竜見玉兎(az0044)は朝ごはんの席につくどころか未だ起きてすらいない。
やれやれと思いながらもユウは玉兎の部屋の扉をノックする。
「おい、起きろ」
声を掛けて耳を澄ましてはみるが、反応無し。
再び溜息を吐いてから「入るぞ」と言って扉を開ける。
部屋の中は少女らしく柔らかい色合いで統一されており、こんもりと盛り上がった布団もクリーム色で温かみが……こんもり。
「こらねぼすけ、そろそろ起きろ」
彼女はどうやら布団の中で丸くなっているらしい。
無理矢理布団の端を引っ掴んで起こそうと試みるが、竜見玉兎、幼くともエージェントである。
剥げない。
引っ張ろうが上に持ち上げようと試みようが、布団は剥げない。
確実に起きているだろうに出てくる様子もない。
「……んのやろう」
ぴきっと、ユウの額に浮かぶ怒りマーク。
ここに能力者VS英雄、布団を賭けての攻防が始まった。
●また違うある寒い冬の朝
名執芙蓉(az0106)は目を覚ました。
枕元にある目覚まし時計を見上げれば、時刻はそろそろ八時を回る所。
今日は本部に行って調べ物をしなければいけないと思っていた、のだが……。
「……寒い」
起き上がろうとして再びベッドの中に沈み込む。
寒い。
冬に突入したからか、はたまた雪でも降ったのか冷え込みが尋常じゃない。
……もう少し暖かくなってからでもいいか。
ぼんやりそんな考えが浮かんで消えていく。
どこからか「マスター」と呼びかける声が聞こえたが聞こえない振りを決め込んで、芙蓉は再び眠りに落ちていった。
解説
●目的
布団から出る。
●状況
・とても寒い冬の朝
・尋常じゃない冷え込み
・暖房器具がなければぷるぷるしてしまいそうなほど気温の下がった室内
●登場
・布団
様々な形状を持ちながらも使用者を包み込み眠りの世界へと誘う物体
夏はないがしろにされがちだが冬は絶大な効果を発揮する
この物体に包み込まれたが最後、離れられなくなる人間多数
※従魔ではない。
※愚神でもない。
・冬の朝
清廉とした空気を持ちながらも起き上がってきた人間を再び布団へと帰らせる脅威
暖房器具がなければ立ち向かうこと困難
特に雪が降った日などに脅威を発揮する
※従魔ではない。
※愚神でもない。
リプレイ
●加賀美 春花とキョウカの場合
加賀美 春花(aa1449)は布団の中、すやすやと寝息を立てていた。
布団は自身の体温で温まり、さらに足元には湯たんぽという最強アイテムを装備している。完全防備、ここからは絶対に出たくないと言わんばかりのぬっくぬく加減である。
しかも今日は休日だ。高校生エージェントである春花は学業に仕事にと忙しくしているため、こうした休日は出来る限り眠っていたいのである。加えて外の寒さ。布団に引きこもってしまうのも致し方ないというもの。
「お休みの日だから……もうちょっと……すぅ……」
もうちょっと、もうちょっとだけと言いながら至福の二度寝タイムに入った少女を起こすのは容易では無さそうだ。
『はるお姉ちゃんを起こし隊、しゅつげきなのっ!』
二つ縛りの髪を揺らし、ふんすっ!と気合充分に宣言するのは春花の第二英雄であるキョウカ(aa1449hero002)だ。
春花の義姉である「ようお姉ちゃん」にそろそろ朝ご飯だからと頼まれて起こしにやってきたのである(ちなみにもう一人の英雄はストーブの誘惑の前に撃沈しているので今回は戦力外だ)。
『はるお姉ちゃん起きるのー!』
声と共に春花の部屋に突撃するキョウカ。もうちょっとだけと言う春花の声が聞こえた気もしなくもないが、華麗にスルー。
『朝ごはんって、ようお姉ちゃんがゆってたの! エルちゃんもまってるの! おーきーるーのー!』
言いながらゆさゆさと春花を揺らすが、その揺れすらも心地いいのか「もうちょっと~……」と言いながらも再びうとうとしている春花である。これではいけない。完全に眠らせてしまうのはいけない。
ならば次の手をとキョウカは布団を力いっぱい握り締め、ぐっと剥がしにかかる。
『うー、うー……おーきーてーっ』
「やーだー……」
どうにか意識を覚醒させるべく、より力を込めるべく、声を出しながらもぐいぐい布団を引っ張るがびくともしない。
体格の差もあるのだが、春花も春花でがっしり布団を捕まえている。その為、まだ小さなキョウカでは布団をちょっと動かすだけで精一杯だ。おふとんつよい。ふゆのあさもつよい。
むっとむくれつつもキョウカは一生懸命考える。何が何でも籠城を決め込む春花の執念に勝つためには――。
『(いいことを思いついたのっ)』
ぴこんっと脳裏に浮かぶ電球マーク。
外から崩せないのならば内側から。春花の足元から布団内に潜り込み、くすぐり攻撃を仕掛けようとするキョウカ……だったが。
1・春花を起こそうと奮闘していたキョウカがいたのは冷えた春花の部屋である。
2・当然ながらキョウカも寒かった。
3・今まさに潜り込んでしまったのは程よく温まった布団。
結果。
『あったかいの……くぅ……』
ミイラ取り、ミイラになる。
寒い室内から温かい布団内部に侵入したキョウカ、ぬくぬく布団に見事撃沈であった。英雄だって寒さには弱い。しかもここには湯たんぽがあって、休日なのだ。
朝ご飯、ようお姉ちゃん、起こさなきゃ。そんな言葉がキョウカの頭の中をぐるぐる回って、消えていく。
「キョウカちゃん冷たいよぉ……」
眠ってしまったキョウカを寝ぼけながら引き寄せ、冷えてしまった服ごと温めようと春花はぎゅっと抱きしめる。
次第に温まってきた英雄の体温は見かけ通り高めで、湯たんぽ代わりに最適だ。
ぬくぬくにさらにぬくぬくが加わり、二人仲良くお布団の魅力に負けて眠りにつくのだった。
なお、二度寝――否、三度寝の春花とキョウカが目覚めたるはこれから数十分後。
キョウカが戻ってこないことに痺れを切らした第一英雄がやってきて放った「ずるいのである!」の一言なのだが、夢の中の二人はまだ知る由もないのであった。
●マオ・キムリックとレイルースの場合
どこかで、目覚まし時計が鳴っている。
ぼんやりした意識を浮上させ、目を覚ましたマオ・キムリック(aa3951)はいつものように目覚ましを止めようと手を伸ばして――。
「……ひゃっ!?」
すぐにその手を引っ込めた。
寒い。寒すぎる。冬なのだから冷えるのは当然といえば当然だ。しかし今日は季節に輪をかけて寒い。尻尾の毛もぶわわっと逆立っているのが分かる。
……特に仕事に行く用事も無いわけだし、今日は一日寝ていよう。
「……」
再び布団の中で丸くなるマオだったが、健気に鳴り響く目覚ましの音がどうにも気になって寝るに寝られない。
布団から耳だけ出してどうしようかとぴくぴく。
じっとしていても寝られないし、もしかしたらあの目覚まししばらく鳴り続けるかもしれないし。
よし。
意を決し、一瞬の寒さ覚悟でマオは目覚ましに手を伸ばした。しゅぴっと回収した目覚ましを止めて、これで一安心。
布団の隙間から紛れ込んできた冷気も無くなったところで、うとうとと夢の世界に誘われていく。
一方、そんなマオを起こしに来たレイルース(aa3951hero001)である。
『マオ、そろそろ起きようよ』
一番好きな季節は冬。暑いよりも寒い方がいいと思っているレイルースにとっても少々寒い朝ではあるが、気温が低い分空気が澄んでいて気持ちよく感じられる。
と、色々と考えを巡らせているレイルースだが、その表情はやはりいつもと変わらない。青年の肩に乗るソラさんは呆れているように見えなくもない……が、どちらにしろ布団の中のマオには見えない外の話。
「……んー……あとちょっとだけ」
もぞもぞと膨らんだ布団が動く。しかし大体がそうであるように、布団に捕らわれた人の「あとちょっと」は信用ならないものであるので。
『(……こたつで丸まってる猫みたい)』
そんな感想を抱きつつ、今はダメそうだと切り替えたレイルースは朝食の準備をするべく台所へと向かった。
トントントンとリズミカルに刻まれていく野菜。
コトコトと鳴る鍋に、香ばしく焼かれていく魚。
レイルース手製の今日のごはんは、ほっかほかの白いご飯に野菜たっぷりお味噌汁とぽかぽか温まりそうなメニューに加え、今が旬の鯖の塩焼きとマオの好物も忘れていない。
『ソラさん、マオいつ起きてくるかな?』
青年の言葉に、さぁ?と言いたげに首を傾げるソラさんである。人語を解する青い鳥でも、布団の魅力に捕まってしまった能力者の起床時間までは予測出来ない様子。
夢の世界にまで届き始めた包丁の音といい匂いに、マオはゆっくりと目を開く。
「……んー……おさかな?」
ぴこぴこと耳が動き、魚の正体に思い当たってぴんと伸びた。
「(……これは、わたしの大好きな鯖さんだっ!)」
猫のワイルドブラッドであるマオは魚が好きであるし、中でも鯖は大好物だ。
お腹も空いてきたし、でも寝ていたいし、けどお魚も食べたいし、でもでも寒いし。うーんうーん。
温かいお布団の中でもぞもぞ葛藤するマオ。
『マオ、ご飯』
「……」
『……』
一瞬の沈黙。
そして。
『マオの分……食べちゃうよ』
「やだっ、わたしも食べる!」
ぼそっと告げられた言葉に、ついにマオは布団から起き上がる。寒さに思わず耳も尻尾も震えるがお魚の前にはなんのその。
『着替えたらすぐに来てね』
くすくす笑って台所に戻っていくレイルースに「はーい」と返して、てきぱき着替えを済ませてしまう。やっぱりまだ寒いけど、服を替えてしまえばもうすっかりお布団の誘惑は無くなっていた。
暖められた部屋に、温かい食事。
一緒に食べる朝ごはん。
『「いただきます」』
声と両手を合わせて、一日が始まる。
さぁ、今日は何をしようか?
●ニノマエとミツルギ サヤの場合
ニノマエ(aa4381)は目を覚ました。
確か目覚ましは5時にセットしたはずだが、どうやらそれよりも早く起床してしまったようだ。
時計を確認すべく動いただけで分かる。
空気が冷たい。
寒い。
「……」
この寒い中起きるのは、とニノマエが逡巡していると、布団の中を覗き込んでくる影がある。
『珍しいな、ニノマエがまだ寝ているとは』
言わずもがな、英雄のミツルギ サヤ(aa4381hero001)である。
普段のニノマエならば、ミツルギが幻想蝶の中から出てくる前に身支度を整えているはず。
しかし今日は何故かまだ布団の中。もしやまだ寝ぼけているのかと見てみれば、返ってくるのは「うっとうしい」と言わんげな三白眼だ。眉間にシワが寄り、寝起きのせいか普段よりも目つきが鋭く見えるような見えないような。気のせいかもしれない。
だがどちらにしろ、腹立たしい。
ミツルギは、むっとしたまま布団の上からべしんべしんとニノマエを叩き始める。頭の辺りから足先まで、移動しながらもまんべんなく。
『はははッ、にのまえサンドだな!』
やめろよという声が聞こえた気もするので手を止めて。
すぐ目の前に転がる、純然たる事実を突きつける。
『今日は依頼の相談に顔を出さねばならんのだろ』
明日とか明後日などではない。今日。本日。行かなければいけない理由がそこに転がっているのだ。
行かねば。
胸に突き刺さったミツルギの言葉を受け止め、少しだけ持ち上がった掛け布団。
それだけでふわりと柔らかなお香がニノマエの鼻をくすぐる。
元々ワンルームの一人暮らしだった彼の部屋は、英雄である彼女の好みに染まりつつあった。
エスニック調に整えられかけている部屋もお香も、ミツルギの仕業である。
『剥いてやろうか? というか、剥く!』
そうこうしているうちに痺れを切らし、ニノマエの布団を引っぺがそうとするミツルギだが。
「やめて、えっちー」
『気持ち悪い声音を使うな! 阿呆!』
裏声だろうか、聞き慣れない声に思わず布団から手を離してしまう。
予定があると事前に聞いていたからこそこうして様子を見に来たというのに、この仕打ちである。
憤慨しながらロフトから降りたミツルギはふと時計を見て――ぽん、と脳内で手を打った。
そう。
時間が、時間だ。
それならば。
『ならば、私がおまえのために朝食を作ってやろう』
ニノマエには見えないであろう得意げな笑みを浮かべ、颯爽と台所へと向かうミツルギ。
「……」
一方布団の中のニノマエに緊張走る。
朝食。
ご飯。
料理。
ワードが浮かんでは消えていく。
そして――台所から聞こえてくるはずのない轟音。なんとも摩訶不思議なスパイスの香りと共に布団の中へと届いた、食材の焼け……焦げる匂い。
これはまずい。
色んな意味でまずい。
まずいというよりやばいかもしれない。
「待て! 待てミツルギ! 朝食は俺が作るー!」
布団にくるまっていたいという誘惑は齎された危機感によって見事に消え、掛け布団を跳ね除けて。 声を上げながらも起き上がって見た惨状に、ニノマエはそっと目を逸らした。
総評。
「俺が作るか、一緒に作らないとだな。食材の刻みは上手いと思う。味と火の加減は要修行ってところか」
『……』
焦げた料理の内食べられそうな物はニノマエの料理スキルでどうにかし、無事に残されていた食材でもって作られた朝食がちゃぶ台に並ぶ。
そっぽを向きつつもご飯を口に運ぶミツルギに、ほんの少しだけ笑みが浮かぶ。
結果がどうであれ、過程は好意によるもの……なのだろう。きっと。朝ご飯があれば起きると思ったのかもしれない。
それは、その行動は、嬉しいものだ。
が、ニノマエの笑みがミツルギには別変換されて伝わってしまったようで。
『馬鹿にしたなー!』
「してねえし!」
『布団から出ないニノマエが悪い!』
言い合いながら、仲間であり友でもある英雄と共に冬の朝を迎えたニノマエであった。
●ミュート ステイランとランページ クラッチマンの場合
同じベッドで眠るミュート ステイラン(aa5374)とランページ クラッチマン(aa5374hero001)はランページの方が先に目を覚ましていた。
【……んお、朝か、おはようミューちゃ……】
普段通り声を掛けて起き上がろうとする、が。
「……」
無言でぷるぷると震えるミュートが目に入り、起き上がるのを一時中断する。
ミュートは背面に生えた触手の関係でうつ伏せで寝ることが多い。さらにランページと誓約を交わしてからというもの、ミュートの寝場所はベッドの上というよりランページの上なのだ。人肌暖房万歳ではあるが、都合上ランページがそのまま起き上がればミュートも自然と起きざるを得ない。
未だに震え続けるミュートを慎重にベッドの上に下ろし(というよりミュートとベッドの間から抜け出るようにして)、ランページは起き上がる。
今朝はかなり寒い。いつもならば起床から朝食まで行動を共にするミュートとランページだが、この寒さの中にミュートを連れ出すのは忍びない。
ひとまずランページは寝室を出て身支度を整え、キッチン&ダイニングへ。暖房をつけてから食材を確認し思考する。
寒さに震える少女の為に、温かい物の準備を。
食事のメニューは体が温まるもので、少しでもカロリーがあるものが良いだろう。だが重すぎてもいけない。
となると。
【フレンチトーストって所かの】
食事好きな能力者のため、美味しい料理を。
見た目の豪快さとは裏腹に、ランページは手早くフレンチトーストを作っていく。
卵と牛乳、砂糖を混ぜた液に小さめに切った食パンを浸して、染み込む間にフライパンを熱して温めておく。
小さめの食パンは液が早く染み込むようにという合理的な面と、一口大の方が朝は良いだろうという優しさ故だ。
フライパンが温まったらバターを溶かし、ミルクをたっぷり含んだパンを焼いていく。
食材を確認していた際に見つけたマフィンも温めて、用意した飲み物はちょっとオシャレにロイヤルミルクティー。もちろんおかわりもすぐ作れるよう準備済み。
朝食だけでなく、他にも色々と用意をして。
これで寒さもなんとかなるだろうか。
震えていた少女の様子を思い出しながら、出来上がった料理をテーブルに並べていく。
なんだか、いいにおいがする。
布団にくるまったままのミュートだったが、目を開けてそっと布団から顔を上げてみる。
そこにあったのは、ガウンともこもこのスリッパ。
「……ランページ?」
どうやらいい匂いは扉の向こうからしてくるようだ。
用意されていたガウンを着てもこもこのスリッパで足元も温めて、とてとてとキッチンへ向かったミュートが見たのは美味しそうで魅力的な朝食。
「……わあ」
しかもちょっとオシャレだ。思わずといった感じで声を上げたミュートに気付き、ランページは振り返る。
【おおミューちゃん、今起こそうと思っとったんじゃ】
全てランページが用意してくれたのだろう。それだけで心がぽかぽかしてしまう。
いつもの椅子に腰かけ、一緒にいただきますをしてまずはトーストを一口。
ミルクがたっぷりで、甘くて美味しい。小さめだからすぐに食べられてまた一つ、もう一つとミュートが食べていくのをランページは嬉しそうに見守っている。
次に口にしたのはしっとりふわふわのマフィン。それからロイヤルミルクティーを飲んで、ほっと一息。
「……温かい」
【んむ、我ながら良い選択じゃった】
満足げに頷くランページの前にもミュートと同じ朝食があって、それが嬉しくて温かい。
昔では、あの時では考えられなかった。誰かが一緒にいるなんて。こんなに素敵な朝食を作ってくれるなんて。
「……ランページは凄いなあ」
【何じゃあいきなり】
零れ落ちたミュートの呟きを掬い上げて、ランページはカカカ!と豪快に笑う。
体も心も温かくて、幸せはきっとこんな感じなのだろう。
ミュートの寒い寒い冬の朝はいつの間にか穏やかな朝へと変わっていたのだった。
●ニウェウス・アーラとストゥルトゥスの場合
「ストゥルー……。今日、買い出しの日、だよ?」
ストゥルトゥス(aa1428hero001)の頭上から振り注ぐ、声。
その声――ニウェウス・アーラ(aa1428)に応じるべく、ストゥルトゥスは布団から顔だけ出した。何しろ寒いのである。今年の冬は冷えると毎年テレビでも言っているではないか。
『我、寒し。オフトゥンから出たくないでござる、布団つむりになるでござる』
ぎゅっと布団の端を押さえて断固として出ようとしない英雄の姿にニウェウスは無情にも首を横に振った。
「だめ。意地でも、引きずり出す……よ」
『あーっ! 引っぺがさないでさぶいぼ立っちゃうぅぅぅ!!』
布団がめくれる。隙間から入り込む冷気。起き上がって動き出してしまえばなんてことない寒さかもしれないが、布団というぬくぬく装置に取り込まれたストゥルトゥスは全力で抵抗を試みる。
結果、ニウェウスが無理やり引っぺがそうとしたが失敗。こう見えてストゥルトゥスは力があるのだ。
『ふぇっへっへっへ。こう見えても生体兵器だよぉ? ちっこいマスターのパウワァでは無駄無駄無駄ぁ!』
「むぐぐ……」
勝ち誇る英雄は満足げな声を上げ、更に掛け布団を巻き込んでぐるぐると転がる。
ストゥルトゥス曰く、ミノムシ状態である。ぬくぬくここに極まれり。
「……意地でも、出ないと」
ジト目になるニウェウスだが、対してストゥルトゥスは当然だ!と猛抗議の姿勢。
『全ては壊れたエアコンのせい。ノーエアコン、ノーライフ。エアコンでぬくぬく出来ない冬なんて、人間が生きていける環境じゃ無ぇーっ!』
そう、壊れているのである。夏はクーラー冬は暖房機器に早変わりするエアコン、現在絶賛沈黙中。
しかしそれで寒いのはストゥルトゥスだけではない。当然ながらニウェウスだって寒い。能力者であろうと、かの雪の地で死闘を繰り広げたことがあろうと、寒いものは寒い。
「私だって、頑張って、起きたんだから……」
だがミノムシ状態でごろごろ転がるストゥルトゥス、ごろごろを止めるには止めたが、今度はじぃっとニウェウスの眼を見つめる。さながら、チワワの如く。
『マスターも、布団つむりになって、いいんだよ?』
「小動物みたいな目を、しないの」
ニウェウスのデコピン、クリーンヒット。
アベシッと身をのけぞらせるストゥルトゥス。なお、両手はミノムシ状態のため布団の中である。
『ってかさー、思うんですよ。なんで石油ストーブが無いわけ?』
きょとんと首を傾げるストゥルトゥス。確かに、エアコンが壊れているのなら次点のストーブを使えばいいのでは?
ちょっと灯油入れるのが手間だけど。消えている間は寒いけど。難点はあるけど無いよりは。
「エアコンがあるから、いらない……そう言ったのは、ストゥル」
『オウフ、そうであった』
「とにかく……起きる」
ニウェウスの フライングボディアタック!
『ぶべらばっ。しかし、体重が軽いマスターでは威力がなぁ!』
驚きかボケ的な咄嗟にか、ストゥルトゥスは痛そうな声を出したものの平然と笑ってみせる。そんな彼女の正面に座ったニウェウスは、すぅっと両手を構える。
そして。
『あびらばばばばばばばばばば!?』
ニウェウスの ほっぺを めっちゃくちゃつつくこうげき!
効果は抜群だ!
「お前は、もう、起きている……」
とどめとばかりにストゥルトゥスの右頬に人差し指を、ぐぬーっと。
『あべっし!?』
これにはさすがの英雄も撃沈。
いい具合に体もあったまったであろうことと、最後の一押しに。
「起きたら、今夜のエビフライ、山盛りでいい『あ、起きます』
食い気味の白旗宣言である。
「……ほんと、エビフライ、好きだよね?」
『いやー、ソウルフードっすから。割りとガチめにマジで』
真剣な顔できりっと言って、着替えを取るべく箪笥へと向かうストゥルトゥス。
ようやく買い物に行けるとほっとしたニウェウスだったが、目の前の英雄、器用にも布団にくるまったままミノムシ這い。
「布団から、出る」
『アーッ!!』
今度こそストゥルトゥスから布団を取り上げることに成功した、ニウェウスであった。
結果
シナリオ成功度 | 普通 |
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