本部

雪に舞う白装束

三色 もちゃ

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/12/12 11:00

掲示板

オープニング

 ●救助隊の三人
 深い雪に足を取られながら三人のエージェントが山奥の集落に向かっていた。
 重そうに雪を乗せた木々が頭を垂れている。時折その雪が落ちる音とエージェント達の足音がなければ無音が良いアクセントになる雪景色が広がっていた。

「山奥の集落から出た救難信号に応じて向かうは三人の凄腕エージェント……。このエージェント達の前に立ち塞がった従魔は片っ端からバンッ! バンッ! となぎ倒されて他の従魔に危険を伝える道しるべとなるのみ……」
「おい、うるさいぞ。そろそろ集落が見える位置に入る。緊張感を持て」

 調子の良いことを一人で呟いていた短い赤毛の男にフードを被り双眸が鋭い男がたしなめる。それでも赤毛の男の軽口は止まらない。

「そんなこと言われましてもねえ。もうかれこれ二時間近く歩いていれば妄想も捗るってもんですよ。それも積もった雪がそのまんま残る山道をですよ。もう白色は見飽きました」
「集落の周囲を安全確保出来れば帰りはヘリだ。我慢しろ」
「行きもヘリが良かったですよ。せめて除雪車」
「今通ってきた道を考えれば両方却下だということがわかるだろ」
「むー……」
「見えました」

 不貞腐れる赤毛の男をまったく気にせずにサングラスの男が青く晴れた空の下で集落を発見する。
 今、三人が居るのは集落を一望できる高台の上である。フードの男が双眼鏡で、赤毛の男とサングラスの男は身を伏せて狙撃銃型のAGWを構えながら集落の様子を観察する。

「人っ子ひとりいないですね……。その前に家屋の玄関が雪に埋もれているからしばらく誰も外には出ていないみたいですよ」
「うむ、煙突からの煙も見えないことから人が生活している様子はなさそうだ」
「降りますか?」
「俺とお前が直接調べに降りよう。お前はここでサポートを頼む」

 サングラスの男は集落から目を離さず無言で頷いた。赤毛の男が立ち上がるとフードの男と一緒に集落の中へ向かう。
 集落の入口すぐの家屋の前に行き、人の背丈ほど積もっている雪をなんとか除けると入口の引き戸を開けて中の様子を確認する。窓も雪で埋もれているので家の中は薄暗く、そして人の気配はなかった。それを五軒ほど繰り返したがどこも結果は同じであった。
 集落に降りた二人は上から見ていた時から気になっていた広場に足を踏み入れた。そこには雪が不自然に盛り上がっている箇所が何十とあったのだ。

「あと怪しいのはこれですね。さて、掘りますか」
「おい、これは慎重に――」

 その時、ひときわ大きい盛り上がった雪が動いたかと思うと、雪を吹き飛ばして中から二メートル以上の背丈があり、横幅もそれなりにある白い長毛で全身を覆った何かが二人に襲いかかってきた。
 二人は慌ててAGWを構えたが大きな手が二人に届くのが先であった。
 しかし、二人に向かって来ていた大きな何かは二人に届く前に力なく倒れる。二人が様子を窺うとそれ以上動くことはなさそうであった。
 赤毛の男が高台に向かって親指を立てると、高台に居るサングラスの男も親指を立てた。

「……従魔、ですね。この雪の塊は全部こいつなんですかね?」
「その割には動かんな……。俺が試しに掘ってみるからお前はAGWを構えてろ」

 フードの男が人の背丈ほどの雪の盛り上がりを慎重に掘り始めると、赤毛の男は周りを警戒しつつそれを見守る。しかし、そう時間がかかることなくフードの男が何かに気づいた。

「中に氷の塊が入っている……、人間付きでな。おそらくここの住人だろう」

 雪を少し除けると氷の塊が姿を現し、その中には生きているのか死んでいるのかはわからないが目を瞑った女性の姿が見える。

「ここにあるほとんどがこんな状態の人なんですかね……?」
「わからん。とにかく早く応援を呼んだ方が良いだろう――」

 気づけば先ほどまで見えていた青空は白い厚い雲に覆われて、辺りに吹雪をもたらし始めた。それはすぐに数メートル先も見えないほどの吹雪となる。高台で待機させていたサングラスの男の姿はとても見えそうにない。

「きゅ、急に……! どうしましょう!」
「これではどうにもならんな……。そこの家に入るぞ!」
「わかりました! 何だってこんな――」

 赤毛の男の言葉が途中で途切れる。フードの男が不思議に思い振り返ったがその姿はなかった。

「おい! どこへ――」
「なんや、三人だけか……。もっと餌を集めるための撒き餌になってもらおか」

 か細い女の声が聞こえたかと思うと、氷のような冷たい手が両頬に添えられる。フードの男が飛び退こうと思った時には全身を氷で覆われていた。

 ●救助の救助

「とまあ、大変な状態なのさ」

 髪がボザボサの男性職員はそう言って適当にまとめた。

「通信が途切れる前に従魔が現れた報告は入っていた。そいつは倒したらしいが別の何かにやられたんだろう。そこでお前達には救助に向かった三人のエージェントを含めた雪山の奥にある集落の救助を頼む。わかっていることは少ないが、従魔は雪の中から急に襲ってきたという報告もある。その辺りも十分に気をつけてくれ、以上。……えっ、情報が少ない? ばかやろう、こういう時こそ現場の判断が物を言うんだ。任せたぞ!」

解説

 ●目的
 通信が途絶えたエージェントと集落の救出及び原因となった従魔の討伐

 ●登場
 ・デクリオ級愚神。
 雪女のような容姿で空中を浮遊している。辺りに吹雪を呼び寄せることが出来、生物を一瞬で氷漬けに出来る息を吐く。吹雪を起こされると周囲四メートル先の視界が見えなくなる。
 ・ミーレス級従魔×五体
 雪男のような容姿で力が強く、生物を愚神に捧げるために動いている。戦闘では単体で攻撃をしてくることもあるが、主に愚神の周りを囲んで盾の役目を果たす。遠距離の場合は、雪を力強く固めて投げつけてきたりする。

 ●地形
 小さな集落で家屋が何軒か建っている他は畑などが主な広い場所である。町が見下ろせる高台があり、そこからスタートする。集落の奥にある広場には犠牲となった人々が氷漬けにされて立っているので破壊しないように。

リプレイ

 ●現地到着

 冬の薄い青空の下、雪深い山道を通り抜けてエージェント達は報告があった集落を見下ろせる高台に到着する。アリス(aa4688)と葵(aa4688hero001)は事情があってここに来れなかったが、七人のエージェントとそれぞれのパートナーが任務を遂行するために人が生活している様子が見られない集落の様子を窺い慎重になってるかと思いきや、

「嗚呼、寒い、寒い! こんな寒い中暴れるなんて正気の沙汰じゃないね!」
「わかっている。リュカは寒がりすぎる」

 木霊・C・リュカ(aa0068)が騒ぎたて、リュカをここまで導いて来たオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)が彼の背中に手を添えながら静かに答える。
 それを聞いた茨稀(aa4720)が隣で悠然としているファルク(aa4720hero001)に目をやった。

「……ファルクは見ている方も寒くなりますね」

 茨稀が少々呆れ気味に口にしたが、ファルクは堂々と胸を張る。

「確かに寒い。しかし! これが俺のポリシーだ!」

 到底、現在の環境下にふさわしくない服装だが、貫き通そうとするファルクに茨稀は目線を集落に戻してそれ以上何も言わなかった。
 他のエージェント達は実際の現場の様子を目にし、分析を行ったり今からの行動について話し合う。

「……ん。この集落の、どこかに……、敵が、潜んでいる……」
「ええ……、私達には快適な環境だけれど、油断は禁物よ」

 互いに最適な環境下であるが、氷鏡 六花(aa4969)とアルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)は気を引き締めて任務遂行に集中する。

「雪中を縄張りとするのであれば、雪中戦に長けた敵であるとの予想は容易い。即ち雪に隠れる、体温低下を狙う、視覚を制限するなどである」
「さらに気配を消せる類の相手だと厄介ですわね」

 ユエリャン・李(aa0076hero002)がこれから戦うであろう敵の姿の推論を述べるとヴァルトラウテ(aa0090hero001)が肯定しながら付け加えた。

「この集落、何人おったんどすやろ? どっちゃにしても、結構な力がありそうどすな……」
「フミ、先行したエージェントが三人やられている。奇襲にも注意しろ」

 弥刀 一二三(aa1048)が集落を観察しながら敵の力を計っているとキリル ブラックモア(aa1048hero001)が焼菓子セットを頬張りながら助言をする。――一見緊張感に欠けているようであるが、キリルにとって大事な儀式なようなものであり、これからの戦いに備えているのだ。

「連絡の途切れ方から見て大規模な襲撃を受けた訳じゃなさそうだな」
「報告に寄ると先行したエージェント達は真っ向から勝負を仕掛けた訳ではなさそうです。気をつけて参りましょう」

 キリルの言葉に赤城 龍哉(aa0090)と紫 征四郎(aa0076)が補足するように皆に注意を促す。

「持ち得る情報が些か心許ないですね……。状況的に仕方ないとはいえ……、トモサダ、落ち着いて行動するのですよ。私がフォローしますから」
「う、うん……、わかったよレヴィア……。め、迷惑かけたらご、ごめんね……」

 アクレヴィア(aa4696hero001)が智貞 乾二(aa4696)を安心させるように声をかけ、智貞が自信無さげに応えた。

 ●極寒の戦い

 その後、皆で話し合った結果、この高台に一人監視を置いてそれ以外の六人が集落に下りて調査探索を行うことで話がまとまる。
 そして、一同がそれぞれ共鳴し、任務を開始した。
 監視役となった共鳴し主格となっているアクレヴィアは早速、鷹の目を使用して集落の細部を偵察した。それをライヴス通信機で探索組に情報を送る。

「家屋の裏などにも人や従魔の影はありません。……やはり怪しいのは奥にある広場ですね。不自然な雪の盛り上がりで埋め尽くされています」
『了解。念のため家屋内も調べる。引き続き監視を頼む』

 通信を終えると、双眼鏡を手に取る。集落に下りた仲間達を捉えながらその周囲に危険が迫っていないか、集落全体に動きがないか丹念に監視を続けた。
 集落に下りた六人はさらに組みを分け、リュカと共鳴し主格となっているオリヴィエとユエリャンと共鳴し主格となっている征四郎が他の四人の少し後方に位置して物陰に隠れつつ、イメージプロジェクターを使って雪と同化しながら、急な従魔の襲撃に備える陣形をとっていた。
 高台の近くにあった家屋から探索組の四人は玄関口に積もった雪を除けて中の様子を探る。それを何回か繰り返したが、どの家屋にも人影がないという異常以外は発見できなかった。
 探索組は監視役のアクレヴィアから報告があった集落奥の広場に足を踏み入れようとする。
 その時、先ほどまで見えていた青空に暗く厚い雲が覆い尽くし、雪が舞い始める。そして、数秒も待たずに風が吹き荒れ始めて辺りは猛烈な吹雪となり、視界が極端に狭められる。
 探索組の四人とその後方に居た二人、監視役のアクレヴィアの姿をそれぞれが確認できなくなってしまう。ライヴス通信機で誰からともなくすぐに安否を確認すると、全員の無事が確認された。

『こう視界を制限されるならば、一度皆と合流した方が良いだろう』
「そうですね……。どうしますかオリヴィエ……? 一度合流しに行きますか?」

 ライヴス内でユエリャンの助言を聞いた征四郎がそう提案する。

「それが良さそうだ。通信機で呼びかけ――、いや、待て。何か居る」

 オリヴィエがゆっくりと指を指す。その方向には黒い大きな影が動いており、広場の方に向かっているようであった。
 征四郎がその影を見つけると、

「敵影です!」『従魔や!』『従魔が現れました!』

 同時に通信機から一二三とアクレヴィアの声が上がった。
 それを聞いた全員が吃驚し、焦りの色を浮かべたがそれぞれは目の前の危機に対応する。

「あいつ以外にも従魔が現れたようだ。征四郎、援護を頼む。あいつが広場の方に行くのを止める」

 そう言うとオリヴィエは、征四郎が吹雪の中でも判別しやすいようにイメージプロジェクターで服装を極彩色に変更して黒い大きな影に向かって駆け出した。
 それを受け征四郎はスカーレットレインから銃弾を放って従魔を牽制する。当たりこそしなかったがその銃撃を受けた従魔は向かってくるオリヴィエに気づいたようだ。
 白い長毛で覆われた従魔はオリヴィエに右腕を振り下ろす。オリヴィエはそれを回避すると外骨格式パワードユニット「阿修羅」に内臓されている銃器で反撃しながら従魔の動きを観察する。

『おかしいな……。これぐらいの従魔なら数が多くても三人のエージェントがやられるとは思えない』
「他に強力な従魔か愚神が居る可能性があるな」

 ライヴス内のリュカの言葉にオリヴィエは肯定するように口にした。
 オリヴィエは征四郎が居る方向に大きく飛び退く。それに合わせるように征四郎が飛び出してオリヴィエの横に並ぶ。

「撃ち抜きます」

 巨体を揺らして向かってくる従魔に銃口を向ける。それに合わせるようにオリヴィエも照準を定め、二人一斉に射撃した。
 従魔の上体に命中すると滑るように仰向けに倒れ、従魔はそれっきり動かなくなってしまった。
 二人がそれを確認し、武器を下ろす。すると、

「次はあんたらが氷漬けになる番や」

 か細い女の声が降ってくる。
 二人が声がした方を見上げると、白装束を纏った長い黒髪で雪のように白い肌を持った女が浮いていた。
 女が片手を口の前に移動させた時、咄嗟にオリヴィエが叫ぶ。

「征四郎、顔を伏せろ!」

 オリヴィエがフラッシュバンを女に向けて使用し、空中で閃光が炸裂する。

「ぐっ……!」

 不意を突かれた宙に浮かぶ女は短く呻き声を上げた。
 光が収まり二人がもう一度女の方に顔を向けた時にはその姿はなくなっていた。

「あれが元凶みたいだな。愚神か……」

 オリヴィエが呟き、征四郎が愚神が現れたことを通信機に伝える。広場に向かっていた四人は通信機から了解を示し、巨体の従魔が二体現れたのでそれを一二三が守るべき誓いを使用して高台下の広場に誘い込む手筈となった。
 二人も合流するためにそこに向かおうとした時、ライヴス内のユエリャンはある事に気づく。

『先ほどの愚神……、“次は”と言っておったな。征四郎、鷹の目を使って高台の方の様子を探るのだ』
「わかりました」

 征四郎が鷹の目を使用し、高台に向かって尾羽の白い鷹を飛ばした。吹雪で視界が悪いがなんとか高台に辿り着く。そこで征四郎はあるものを目にし、声を漏らすのであった。

 ※ ※ ※

 急な吹雪に遭い、高台の上に居た人物は役目を果たすことが難しくなっていた。

『き、急に吹雪いて、きたね……。ど、どうしよう……』
「一先ず私達も集落に下りて、皆さんと合流した方が良さそうですね」

 ライヴス内で困っている声を上げる智貞にアクレヴィアは答える。そして下り道に足を向けようとしたその時、巨体の白い従魔が雪の下から飛び出るように現れる。
 通信機に向かってアクレヴィアが叫ぶのと同時に二つの声が重なるように聞こえた。
 アクレヴィアは一瞬呆気にとられるが、すぐに目の前の従魔からの攻撃が飛んできたことによって我に返る。

『し、下、で、でも従魔が現れたみたい……!』
「ええ、皆さんが挟み撃ちに遭わないようにこの従魔はここで倒します!」

 従魔の攻撃を後ろに飛び退いて回避しながらアクレヴィアは決意を口にした。
 イリヤ・メックを手に取り、吹雪の向こうに居る従魔に向かって駆け出す。
 従魔を間合いに捉えると力強くイリヤ・メックを振り下ろす。それを従魔は太い腕で受け止めようとしたが、アクレヴィアは遠慮容赦なくその上から攻撃を叩き込み従魔を仰け反らせる。そして隙が出来た胴体目掛けてイリヤ・メックを突き刺した。
 従魔は苦しそうな断末魔を上げると後ろに倒れて雪を舞い上げる。
 倒した、そう確信したその一瞬の油断を突いて、従魔の影に隠れていた白装束を着た愚神がアクレヴィアに向かって息を吹きかけた。

 ※ ※ ※

「この上でトモサダ達が氷によって拘束されています」

 そう言ったのは高台の下まで戻ってきた征四郎であった。征四郎は鷹の目でアクレヴィアの姿をもう一度オリヴィエに伝える。

「あの愚神の仕業だろう。助けに行きたいが、その時間はないようだ」

 オリヴィエは自分達が来た道を見ながらそう口にした。
 吹雪の中から茨稀が持つサバイバルランタンの灯りが近づいてくる。探索組の四人は征四郎が装着していた緑色の電灯の灯りを頼りに高台の下まで戻ってきた。

「おまえら無事か!」

 ヴァルトラウテと共鳴した龍哉が声を上げる。先に戻ってきていた二人は自分達の無事を伝えると白装束を着た女型の愚神に智貞達が氷で拘束されていることを伝えた。
 事態を把握した四人に動揺が広がったが、突然飛んできた雪の塊に全員身を屈めて回避する。素早く態勢を立て直して雪の塊が飛んできた方に構えた。

「追いついてきたようやな。今度は二体まとめて突進してきとる」

 キリルと共鳴した一二三が呟く。その言葉通り二つの影がどんどんと大きくなりながら向かって来ている。

「一体は任せろ! もう一体は任せた!」
「ああ、任せろ」

 龍哉に呼応してファルクと共鳴した茨稀が向かってくる従魔に向かって妖刀「華樂紅」を手に取って駆け出す。龍哉は片方の従魔の上体にヴァリアブル・ブーメランをぶつけて転倒させた。続けて茨稀が従魔の白い身体を視認すると、ジェミニストライクを発動させて攻撃し、従魔を怯ませる。すかさず後ろに飛び退いて元居た位置に戻ると、

「よっしゃ、トドメや!」

 一二三が叫び、ライヴスショットを怯んだ従魔に直撃させた。それにより従魔は後ろに倒れて動かなくなる。
 もう一体転倒している従魔にトドメを、と思ったその時、アルヴィナと共鳴した六花が上空に居る愚神の姿を捉える。愚神はその場に居るエージェント全員に凍りつく息を吹きかけたところであった。

「危ない!」

 六花が叫ぶと高速詠唱を使用し、【SW本】リフレクトミラーを展開して終焉之書絶零断章の絶対零度のライヴスを広範囲に及ぶ愚神の息にぶつけた。すると、二つの冷気はぶつかったその場で大きな氷塊となって地面に落ちた。

「なんや邪魔しおってからに……。どうせみんな凍るんや、おとなしくしとき」

 愚神が不機嫌そうにエージェント達の前に姿を現す。
 龍哉がすかさずヴァリアブル・ブーメランを投げつけたが、新たに雪の下から従魔が飛び出してその攻撃から身を呈して愚神を守った。
 転倒していた従魔も起き上がり、二体の巨体の後ろに愚神は身を隠す。
 すかさず二体の従魔は地面の雪を掴みあげると力強く固めて塊となったそれを投げつけてくる。それは六花と茨稀に向かって吹雪を貫き直線で飛んできた。

「――!」
「氷鏡はんのやつはオレが防いだる!」

 一二三が飛盾「陰陽玉」を飛ばして六花に当たる直前の雪の塊を防ぐ。
 茨稀は難なく飛んできた雪の塊を横に飛び退き回避したが、すぐさま地を這うように襲い掛かってきた冷気に足を凍らされ拘束状態となってしまう。

「くっ――!」

 虚を衝かれる形になった茨稀に向かって再び雪の塊が向かってくる。茨稀は腕をクロスさせてそれを受け止めたが、衝撃で地面の雪に長い引き摺った跡を残した。

「ふふふっ、どうや、うちの息は? はよ堪忍して全身凍ってしまいや……」

 従魔の攻撃で気を逸らした隙に愚神が茨稀に向かって凍りつく息を吹きかけたのだ。
 激しい吹雪の中、従魔と愚神の攻撃を同時に注意を払うことは難しい。

「なんやせこい愚神やな! あんな奴に関西弁使われたら腹立つな!」
『お前のは大阪と京都の混合弁だろう。お前とは別の方言だ、気にするな』
「それ、余計に腹立つわ! こういう時は一気に決めるのが正解や、行くで!」

 ライヴス内でキリルと掛け合いをした一二三が従魔を回り込むように駆け出した。それに合わせて龍哉も駆け出す。
 そんな二人を阻むように従魔は立ち塞がった。

「氷雪を操る身として、本物の凍気を見せてあげる!」

 六花は息巻くように叫ぶと霊力浸透を使用してをゴーストウィンドを発動させ、従魔達を冷気の渦に飲み込む。すると、従魔達はたちまちに凍りついた。

「――! うちの従魔を凍らせるやなんて……」

 愚神が狼狽えると同時に銃声が響き渡る。
 オリヴィエと征四郎の銃撃で凍りついた二体の従魔が破壊された。それにより道が開かれる。

「これでも、喰らっとけや――!」
「従魔がおらんでもうちだけであんたら全員凍らせたる……!」

 ザミェルザーチダガーを手にした一二三がライヴスブローを発動して強烈な一撃を愚神に与えようとした時、愚神は一二三に向かって息を吹きかけようとした。しかし、不意に苦無「狐火」が飛んでくると愚神に刺さりその攻撃は阻害された。

「遅れてしまい申し訳ありません!」

 拘束を解いて駆けつけたアクレヴィアが一二三の窮地を救う。

「ナイスや! このおおおおお!」

 一二三の攻撃は愚神に叩き込まれた。そして休むことなく龍哉が疾風怒濤を発動させてブレイブザンバーを叩き込んだ。

「ぐあっ……! この――!」
「これが絶対零度の凍気の威力だよ!」

 六花が強力な冷気のライヴスを放って愚神に直撃させる。瀕死に陥っていた愚神はたちまち凍りつく。それが決め手となり愚神はバラバラに砕け散ると雲散霧消した。

 ●茜色の雪景色

 愚神を倒したことにより、吹雪が収まった。
 エージェント達は急いで広場奥の盛り上がった雪を除けると、生身の住人の姿を発見する。雪の中から救出した住人を順次家屋の中に運び込んで、暖房器具を使用したりお湯を温めたりと慌しい応急活動が行われた。
 短時間で解放された智貞達の健康に影響はなかったが、集落の人々は長時間仮死状態であったのでエージェント達の応急処置の後すぐに病院へと搬送される。その中には連絡が途絶えていた三人のエージェントの姿もあった。
 今回の任務を遂行した七人のエージェント達も全員が共鳴を解除し、次々とヘリに運び込まれる救助者達を見守っていた。

「これで任務完了だな!」
「そうですね。危険な状態ではありましたが、皆さん命に別状はないようで良かったですわ」

 龍哉とヴァルトラウテはヘリに運ばれていく住人を見ながらそう口にした。

「こ、今回は、み、皆さんに、ご迷惑を……、お、おかけしました」
「重ねて私からも大事な一戦に遅れてしまい謝罪を申し上げます」

 智貞とアクレヴィアが皆の前で頭を下げる。

「気にせんでええどす! 智貞はん達が来てくれんかったら、うちが氷漬けになっとったとこどすえ。こっちが頭下げないかんぐらいどす!」

 智貞達の謝罪に一二三がフォローするように明るい口調で声をかけると、二人は申し訳なさそうな表情をしながらも少し胸が晴れた様子だ。

「フミ、もう菓子がない。買いに行くぞ」
「へっ? あんな仰山……、いつの間に食うたんどす? ――って!」

 キリルが一二三の襟元を掴むと最後に残ったヘリに引き摺って行った。

「嗚呼、寒い! 俺達も早く帰ろう!」
「リュカはそればかりだな」
「あっ、リュカ待って! ユエリャンも早く行きましょう」
「そうだな、長居は無用だ。凱旋するとしよう」

 リュカの言葉にオリヴィエが口数少なく応えると一緒にヘリの方へ向かう。その後を追って征四郎とユエリャンが続いた。


「…………」

 茨稀が何やら思いつめた表情で、無人となった集落を見ていると、

「また難しい顔して、阿呆なコト考えてるんじゃねーだろうな?」

 ファルクが茨稀の頭に手を乗せてぐりぐりと押した。

「……痛い、ですけど?」

 茨稀がジト目でファルクを睨んだが、ファルクは気にすることなく快活に笑いながら茨稀をヘリに押し込んだ。

「……ん。もう、安心……」
「そうね。よく頑張ったわね六花」

 静かに呟いた六花にアルヴィナが優しく声をかけるとその長い黒髪を優しく撫でた。
 そして、全員がヘリに乗り込み飛び立つと集落にまた静けさが戻る。
 夕暮れの空に白い雪はその色を写しだして鮮やかな風景であった。
 上空から眺めていた長い銀髪の女性もまたその白いドレスが茜色に染め上げられている。凍えつくような風が一瞬吹き抜けると、その女性の姿は消えて集落は無人となった。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • クールビューティ
    アリスaa4688
    人間|18才|女性|攻撃
  • 運命の輪が重なって
    aa4688hero001
    英雄|19才|男性|ドレ
  • Cyclamen
    智貞 乾二aa4696
    人間|29才|男性|回避
  • Enkianthus
    アクレヴィアaa4696hero001
    英雄|12才|女性|シャド
  • ひとひらの想い
    茨稀aa4720
    機械|17才|男性|回避
  • 一つの漂着点を見た者
    ファルクaa4720hero001
    英雄|27才|男性|シャド
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
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