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おふとんせんそう
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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/12/01 23:36:49 -
起きろー!!!!!
最終発言2017/12/01 23:50:24
オープニング
●おふとん は きもちいい
「――ん」
目を覚ました先に見たのは、知らない天井だった。
「ここは……さむっ!?」
布団から起きてすぐ、身が引き締まるほどの寒気に佐藤 信一(az0082)は驚いて体をさする。ぼんやりした意識は一瞬で覚醒し、寝るまでの行動を思い出していた。
(昨日は確か、スキー場に出た従魔の討伐依頼があって、僕たちはサポートとして同行していた――)
依頼は北海道某所にあるスキー場の運営者で、コース近くの林に大量の従魔が発生したから討伐してくれ、というもの。
目撃証言から想定される数が数だったため、信一は普段よりやや多めの人数に声をかけ、昨日の昼頃エージェント達とともに現地入り。オペレーターとして仲間や敵の位置情報の伝達などサポートを行い、全滅と判断されたのは空が暗くなってからだった。
(でも、そこでいきなり天気が悪くなって、依頼主の好意でホテルに宿泊させてもらえることになった――)
さしずめ、ゲリラ豪雪とでも言おうか。
それほどの吹雪が突然スキー場周辺に発生し、帰れなくなってしまったのだ。
すると、依頼主から天気が回復するまで経営しているホテルを利用してくれて構わない、と申し出があった。
ホテルには施設管理のためにスタッフが常駐していたが、部屋は従魔出現の影響により全て空室。エージェント全員を受け入れられる状況も幸いし、信一達は依頼者の好意に甘えることになった。
(宿泊費はH.O.P.E.の経費に充てるとして、過剰な飲食代は個別で請求した方がいいかな?)
で、仕事終わりもあって一部は結構騒いでいたなと思考が飛んだところで、信一はもう一度寒さに身を震わせ、そこで気づく。
「あれ? 暖房……」
いくら北国の朝とはいえ、室内が寒すぎる。よくよく確認してみると、照明やテレビなどもつかなかった。カーテンを開けると、まだ外は薄暗く雪の勢いも強い。
どうやら、夜中の内に停電してしまったらしい。
「参ったな……」
すっかり目が醒めた信一は、今後の相談のため隣の部屋をノックした。
「……あれ、信一? どしたの?」
しばらくして出てきたのはレティ(az0081hero001)。目がとろんとしているところを見ると、信一のノックで起きたらしい。
「起こしちゃってごめん。実は――」
信一は簡潔に状況を説明し、レティの許可を得て部屋に入った。
「……まだ寝てたんだ」
「これだけ寒いのに、よく寝てられるなとは思うけどね」
室内にはベッドが2つあり、片方には信一の同僚であり恋人の碓氷 静香(az0081)が寝息をたてていた。寝顔もほぼ無表情なことに信一は微笑を浮かべ、レティはぐーすか寝ている妹分に呆れていた。
「碓氷さん、起きて――」
ただ、エージェントへの連絡やホテルスタッフへの対応もふまえ、早めに静香とも情報共有をしようと信一は起こそうと声をかけた。
「――っ! 信一っ!!」
瞬間。
レティが信一の服の襟を掴み、思いっきり後ろへ引き倒した。
「ぐえっ!?」
首がきつく絞まってつぶれた声が出た信一は、そのまま倒れ込む。
「……れ、れてぃ、ちゃん?」
「残念だけど信一、もっと状況は悪いかも」
のどの圧迫感に困惑しつつ信一がレティへ視線を向けると、固い声とともに静香のベッドが指さされた。
「アレに当たってたら、信一の首はたぶん折れてた」
レティが示したのは、布団から飛び出した静香の腕。
どうやら静香は信一が認識できない速度――『共鳴状態における本気の強さ』で、腕を振り回したらしい。
「――んぅ……、さとうさん……、そこはふくしゃきんにききます…………」
しかし、静香は信一が別の意味で青くなる寝言を口にし、布団に潜ってしまった。
信一は夢の中でも、静香にしごかれているようだ。
●おふとん は きょうい
「現時点で、いくつか問題が発生しました」
それから数十分後。
信一はエージェント達をホテル1階のロビーに集めた。
「1つは、夜中の内にホテルが停電したらしいこと。そして、起床された皆さんは気づかれたでしょうが、もう1つが深刻です」
エージェント達の顔は暖房がない室内の寒さと、何故か従魔討伐メンバーの半数がこの場にいないことに、眉をひそめていた。
「ホテルの布団に憑依した従魔が確認されました」
その疑問は、信一の言葉によって氷解する。
「つい先ほど、僕は同僚の碓氷さんと帰還の相談をするため、同室だったレティちゃんの許可を得て部屋に入り、異変に気づきました。それから近くの部屋にいたエージェントの方に協力を得て、異変が従魔の仕業と特定できたのです」
判別にはライヴスゴーグルが用いられ、布団にばっちりライヴス反応が出たので間違いない。
「おそらくですが、昨日の討伐でしとめ損ねた従魔がいた、と考えるのが妥当でしょう。強さは推定ですがミーレス級で、皆さんであればさほど苦戦しないレベルです。……本来ならば」
雲行きの怪しい文言に疑問符を浮かべるエージェントに、信一はロビーのソファーを指さした。
そこには、妙な青あざを作った女性のエージェントと、ぐったりと疲弊しきった静香とレティの姿が。
「今回の従魔はかなり特殊な力を持つらしく、布団で寝ていた碓氷さんのライヴスを奪うと同時に、ライヴスを強化していたようです。エージェントの方に無理やり起こしてもらったところ、碓氷さんから反撃を受けあのような状態になりました」
その説明に、エージェント達はこの場にいない仲間について理解した。
「お察しの通り、残るエージェントの方々もおそらく、碓氷さんと同じ状況にあるのでしょう」
つまり、布団従魔を叩きつつ寝坊した奴らを起こせ、と?
「そうなります。碓氷さんに話を聞くと、従魔布団の中はとても気持ちよく、起こされそうになると無意識に反撃していたのだとか。おそらく従魔は、ある程度寝ている人の思考や行動を誘導していると思われます」
非共鳴の上に半覚醒状態では、抵抗もろくにできないのだろう。
地味に厄介な。
「これが、各部屋のマスターキーです。それと、備え付けのチェーンロックがかかっていた場合、壊すしかありません。修理代は、こちらで負担するつもりです」
え? それって……。
「残念ですが、依頼報酬から補填すべきでしょう。今回は我々に落ち度がありそうですし、僕たちも一緒に費用を負担しますから、ご理解ください」
そうして信一は苦笑しつつ、エージェント達に鍵を渡していった。
解説
●目標
従魔討伐
寝坊助の説得(物理)
●登場
おふとん…ミーレス級従魔。PCの宿泊先の寝具に憑依した、前日の討伐から逃れた従魔の残党。個体戦闘能力は低いが、ライヴス増幅能力という珍しい特性を持つ。対象のライヴスと一時的に深く結びつくことでライヴスの強化と同時に思考誘導を行い、寝具(自身)を守るよう行動させる。寝心地は最高。
能力…生命力↑↑↑、防御↑、他↓↓↓
スキル
・ぬくぬく…寝具使用者にとって睡眠に最適な温度と柔らかさを実現し、睡眠の覚醒を大きく阻害。同時に使用者のライヴスを強化し、疑似的な共鳴状態を実現させる(解除後、副作用あり)。寝具使用者の生命力を半減→解除。
●状況
場所は北海道の某スキー場近くにある5階建てホテル。従魔出現が発覚したのは早朝、予報では昼まで雪が降り最高気温は氷点下5℃。積雪の影響で夜中の内に停電があり、照明や暖房は全滅。室内でも気温は2~3℃程度しかなく、かなり寒い。
PC含むエージェント達は前日、スキー場近くに大量発生した従魔討伐依頼に参加。達成後、悪天候により現地のホテルに宿泊。翌朝、異変を察知した信一によって事件が発覚。エージェント達に連絡を取るも半数は応答なし。ホテルスタッフは全員の無事を確認済。
PC達は1階ロビーにて説明を受けた後、各階のマスターキーを配布。2階以上が客室で、宿泊客はエージェントのみ。おふとんに包まれたエージェントは起きるのを頑なに拒否し、さんざんぐずった挙げ句に手や足やスキルを出して反撃。従魔ごとある程度ボコれば大人しくなる(渋々起き出す)。
※プレ作成について
討伐側か寝坊側か要記載。
寝坊側の場合、能力者・英雄個別に寝坊宣言可能。
個別の場合、片方は相方を起こす過程で負傷が確定。
宿泊部屋について、能力者・英雄の同室or別室は任意。
寝坊側反撃時、武器使用は能力者、スキル使用は英雄が可能。
リプレイ
●ぜんじつ は へいわ
『――あ』
戦闘の疲れを癒す温泉を堪能して部屋へ戻ったオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)と紫 征四郎(aa0076)は、ガチャリ、と扉を開けたところで固まる。
そこには同室の白虎丸(aa0123hero001)がいたのだが、いつも目にする虎の被り物が外されていたのだ。
「みーたーなーぁーでござる?」
「……すまない、悪気はなかった」
気心の知れた仲もあり白虎丸の反応はどこか冗談めかしたものだったが、素顔を見るか否かで葛藤があったオリヴィエは気まずい様子で目をそらす。
「――俺の顔など見ても、面白くないでござろう?」
「いえ。脱いでも、とってもかっこいいと思うのですよ」
場を取りなそうと白虎丸が肩をすくめれば、ちょっとびっくりしていた征四郎が笑顔で緊張をほぐした。
それから雑談に興じるも疲労と眠気は強く、早めの就寝と相成った。
「かんぱーいっ!」
一方、成人男3人部屋ではガルー・A・A(aa0076hero001)の音頭で3つのグラスが頭上でカチン! とかち合う。
「やっぱり仕事の後のビールは最高なんだぜ!」
もう2杯目を注ぐ虎噛 千颯(aa0123)はすっかり上機嫌。先ほど家族との電話にて『雪で帰れない』と平謝りしていたのが嘘のようだ。
「たまには息抜きもいいよねっ!」
実に楽しそうにグラスを傾ける木霊・C・リュカ(aa0068)もペースが早い。従魔討伐の疲れも忘れ、気分はすっかり忘年会のそれ。
彼らの夜は、まだ始まったばかりだった。
●おこす vs ねる
翌朝。
「寝起きは良かったはずだったが、そういう理由だったか」
集合時に英雄の不在を知った御神 恭也(aa0127)は、理由の一端を知って頷く。
「声をかけても反応しなかったはずだ」
「従魔の力が厄介ね」
同室の2人を起こし損ねた荒木 拓海(aa1049)とメリッサ インガルズ(aa1049hero001)は、従魔の特性に懸念を覚える。
「共鳴状態における本気、って俺たちも本気じゃ槻右の腕が折れるだろ」
「千ちゃんの心配もしてね?」
拓海たちの共鳴後の腕力は相当で、されどできれば傷つけたくない相手。悩んだ末、拓海もメリッサも共鳴なしでの対処を前提に動くことを決意する。
「まさか、初めての依頼でこんな事になるなんて……」
前日も戦闘に悪戦苦闘した葵(aa0958hero002)は予想外の展開に肩を落とすも、この時点では従魔のせいだしなるべく手加減しようと頷いた。
「ああ、ここが私のアルカディアだったのですね……」
場所は移り、部屋で1人惰眠をむさぼる不破 雫(aa0127hero002)は寝ぼけ意識のまま従魔の補助で『潜伏』を発動。
「これで、誰も私を、起こしに、来な、ぃ……」
全力で気配を殺し、雫はまた夢の世界へ旅立った。
「ぐぅ……すやぁ……(不思議な感覚だ……布団の、極楽。これが、究極の睡眠?)」
「……すぅ……すぅ……(ふわふわ、気持ちいいです……)」
広めの和室では、拓海たちの決意も知らず三ッ也 槻右(aa1163)と隠鬼 千(aa1163hero002)が布団の中で寝息言語を発していた。
「すやぁ……すぅ……(抗いがたいです。これが、惰眠……)」
「……ぐぅ……(千、ようこそ惰眠の世界へ)」
「……くぅ……(主は起きてもいいですよ……。ねぇ、わいばーんさん)」
普段から寝汚い槻右はいつも通りなのだが、定時に起きる千は今回が初寝坊。
いつもは起こす側の千も、抱き枕代わりのぬいぐるみに頬ずりしつつ怠惰な温もりに身を任せた。
「あと5分……いや、1時間~……」
他方、こちらの部屋では大胆な猶予交渉を求めるハーメル(aa0958)。何故か帽子をしたままで、本人曰く「夢を壊す行為」だというこだわりは、寝ながらも発揮されていた。
「んー、後1日~」
「はははそうかそうか。――焼くぞ?」
最後に、本日最大の譲歩を要求した逢見仙也(aa4472)を前にして、説明を聞きすぐに戻ったディオハルク(aa4472hero001)は作り笑顔から一瞬で真顔に。
こうして、相容れない両者が対峙した。
●あさ は たたかい
「さて。敵の本体が布団となると、それなりに工夫が必要か」
チェーンロックを破壊し、部屋へ押し入った恭也。能力者相手だと雫の『潜伏』は効果が薄く、膨らむ布団へ無手で近づく。
「雫、――っ!」
注意深く布団へ手を伸ばした恭也は、眼前へ迫った足を両腕で防ぐ。
「が、っ!?」
衝撃で壁まで飛んだ恭也は、さらに『縫止』の針で腕に痺れが走る。
雫は片足で迎撃した直後、もう片方の足の指に挟んでいた針を投擲していたのだ。
「大、丈夫、起きてます、よ……。着替えるので、外に、出て下さい……」
「器用な真似を……と言うか、はしたない真似をするんじゃない」
雫の言い訳を聞いた恭也は針を抜き、憮然とした表情に。そして戦意と目つきをより研ぎ澄ませ、再度布団へ突撃した。
「ボクは優しいからね! 出来るだけ優しく起こしてあげるよ!」
さて、1度自室に置いていたスペシャルズ・ペンギンドライヴを着込んだ葵は、ハーメルの部屋へ突撃。ハーメルは布団にくるまり、帽子だけが見えている状態だった。
「起きて~朝だよ~」
のそのそと部屋を移動し、帽子布団を揺するペンギン。
早くもシュールな絵面だが、今ここにツッコミ要員はいない。
「あと、2時間、待って……」
ペンギンの声に反応した帽子は、先ほどより要求を上乗せしてハングドマンで迎撃した。
「わっ!? やったなぁ!?」
ライヴスが込められた攻撃は鋭く、傷ついた葵は両手を振り上げ怒る。
この時点で、ハーメルへの優しさは消えた。
「起きろ、何時だと思っている?」
別の部屋では表情筋が死んだディオハルクが、容赦なく布団へ蹴りを入れていた。
「うるせー、寝かせろー!」
「っ!」
すると仙也は、寝ながらディフェンダーを抜きディオハルクへ斬りかかった。とっさに回避したものの、勢い余った大剣は近くの壁へめり込む。
「あれ? これ何もなけりゃ寝て、来たら戦えるから楽な上に愉しくね?」
「……寝言が過ぎると、優しくはなれんぞ?」
そこで仙也がとてつもない発見をしたような声を上げ、ディオハルクの声はさらに低くなる。
「寝る子は育つんだよ、イヤッハー!」
「はあ……」
再び戦闘になった2人だが、従魔の補助で疑似共鳴状態の仙也相手にディオハルクは苦戦し、だんだんイラつき始めた。仙也相手では戦闘狂よりも世話焼きの血が騒ぐようで、煩わしさだけが募っていく。
「オレが槻右、リサが千ちゃんだ」
「ええ」
和室へ戻った拓海とメリッサは2人へ近づき、ほぼ同時に掛け布団を剥ぎ取った。
「っ!? 居ない!?」
約1年の同居生活で何度も行った行動だが、中身が消え去るという初めてのパターンを前に拓海は動揺する。
「いっ、つ!?」
「きゃ、っ!?」
直後、手首に強い痛みを覚えた拓海とメリッサは布団を手放した。視線で追うと、奇襲を察知し布団へしがみついていた槻右と千の姿が。
「すやぁ……(千、やばい。拓海が起こしに来た)」
「……ふにゃ……すぅ……(まだ寝てたいです……仕方ない共闘ですね)」
布団もろとも落下し、畳を転がった槻右と千の布団巻きは1度合流。短く寝息で意志疎通を図ると、すぐさま別々の軌道で部屋中を逃げ回る。
ちなみに、拓海とメリッサの手を弾いたのは槻右の操る陰陽玉だった。
「待て、槻右!」
「逃がさないわ!」
拓海とメリッサはそれぞれ追跡し、室内をドタバタと暴れ回った。
「オリヴィエ殿、紫殿、これは子供が見ては駄目な惨状でござる」
「……こんな大人にはなりたくない見本の様な光景だな。征四郎、目瞑ってても良いんだぞ」
「……いえ。不本意ですが、家で見慣れている状況ではあるのです」
さて、白虎丸・オリヴィエ・征四郎がダメ大人3人の部屋に入ると、そこには目も当てられない光景が広がっていた。
「後、6時間……」
「んん……」
「すぴー……」
布団にくるまったリュカ・ガルー・千颯の寝言やら寝息やらが響く中、室内は大量の酒瓶やおつまみの残骸が放置され、非常に汚い。朝方まで飲み明かしていたようで、強い酒気で自然と顔がしかめられる。
「リュカ殿、起きるでござるよ」
「ガルー、起きろ」
「もー! はやくおきなさーい!!」
ひとまず3人はそれぞれ声をかけた。白虎丸は酒瓶を抱えて布団の簀巻きになったリュカの体を揺すり、オリヴィエは拾った酒瓶の底をガルーの頭にゴリゴリ押しつけ、征四郎は千颯の布団をばふばふ叩く。
「やだぁ、寒い、でたくない……」
「良いじゃねぇか別に、旅行の時くらいゆっくり寝かせて……」
「まだ寝たばかりなんだぜ……」
が、3人はまるでびくともしない。リュカは甘えるように首をいやいやと振り、ガルーは完全に旅行気分で酒瓶を手で払いのけ、千颯は眠気を優先して拒否した。
直後、従魔の誘惑に全力で乗っかったダメ大人の反撃が始まる。
「おねがい……」
「リュカ殿!?」
リュカは布団の上にオヴィンニクを召喚。驚く白虎丸ではなく黒猫に声をかけると、『仕方ねぇな』感全開の炎が無秩序に放たれた。
「お前さんももう少し寝ておけ、ほーらぬくいぞー」
「な、っ!?」
ガルーは征四郎と勘違いしたのか、オリヴィエの腕を掴むと布団の中へ引きずり込んだ。
「あっ、こらー! オリヴィエを人質にするんじゃありません!」
「俺ちゃんの睡眠を妨げる事は、許されないんだぜ……」
「わっ!?」
ガルーの行動で一瞬目を離した征四郎は、これまた布団から飛んできた千颯の陰陽玉に突き飛ばされた。
「千颯! この馬鹿者が! その性根叩き直してやるでござる!」
すると、リュカへの対応に迷っていた白虎丸が千颯の行動に激昂し、標的を切り替えた。
「白ちゃん、お母さんみた……(すやぁ)」
「うう、ぐす……もうお酒は永久に禁止にします……」
こうしてフリーになったリュカは寝言を残して浅い眠りにつき、意外にダメージがあった征四郎は少し涙ぐみつつ禁酒を本気で誓っていた。
●おふとん は ちる
「あ~、もうっ! そっちがその気なら、こっちだって考えがあるよ!!」
あれから何度も起床を訴えた葵だが、幻想蝶にあった投擲武器によるハーメルの抵抗が続き、我慢の限界に。髪先よりも激しい炎を瞳に燃やした葵は1度部屋を出ると、討伐隊の1人と遭遇した。
「あのっ! ちょっとお願いしてもいいですか?」
葵は色んなAGWを掲げ、そう言った。
「っ、捕まえたぞ!」
雫と格闘していた恭也は、『猫騙』のフェイントや蹴りの壁を突破し、ついに布団から生えた足を捕獲。ジャイアントスイングで布団から引き剥がそうとする。
「……しぶといな」
遠心力を味方につけた恭也だったが、雫も布団も互いを離す気配はない。やむなく足付き布団を壁へ放り、幻想蝶から天叢雲剣を取り出した。
「いい加減、起きろ!」
素早く布団を組み敷いた恭也は、加減しつつ切っ先を雫へ振り下ろすも非共鳴ではダメージが通らない。
「くぅ……」
「……一人では手に負えないか」
足を布団へしまう雫を見て、恭也は大きく嘆息。協力者を探そうと退室した。
十数分後。
「目が覚めたか?」
別のエージェントの手を借りて布団従魔を撃退し、恭也は布団から引っ張り出した雫と視線を合わせる。
「……え? ――っ!?!!」
しばらく放心していた雫は、頭が働き始めると視線を下へ。
そこには、さんざん暴れて着衣が乱れた、あられもない自身の姿が。
瞬間、一気に覚醒した雫は同時に紅潮。
声にならない悲鳴を上げて恭也たちを部屋から追い出すと、急いで着替えを探した。
「本くらいは寄越せ。しょうもない徒手空拳とより愉しかろ?」
部屋中に斬撃が刻まれた後、ディオハルクは仙也へ武器を要求した。
「大剣相手に飛び道具で? しかも寝てる奴に? ハンデじゃねーか」
「安心しろ。近接戦しかしない」
少々不審がった仙也だが、結局ディオハルクへアルスマギカを渡す。
「出なくて良いから、布団に捕まってろ」
「良いけど寒いじゃん? 何? 殺す気?」
次に、ディオハルクは布団ごと仙也を移送。しばらく剣を振り回していた仙也は、されど大人しく運ばれていく。
「ここだ」
そして、ディオハルクが放り出したのは――豪雪吹きすさぶホテルの外。
「さむっ!? おい、どういうつもり――」
布団が温かいとはいえ、首を出すとさすがに抗議する仙也だが、それ以上言葉が続かず顔から血の気が引く。
視線の先で、いつの間にか従えていたエージェントに展開させた『ストームエッジ』の刃を背負うディオハルクと、目が合ったのだ。
「あのすいませんちょっと!? 近接戦しかしねえんだろ?! それに今防具ねえんだけど?!」
「『俺は』近接戦しかしない。それに、御守りがあっただろ?」
「貴重品だろ! ちょい、死ぬって!!」
「やれ」
仙也の必死な抗議も空しく、ディオハルクの号令が下り数多の刀剣は解き放たれた。
「普段から遊び倒しているお前には、ちょうど良い機会だからなあ? 寝たいならベッドの中でいい、目一杯反省しろ!」
「ぎゃあああっ!?!?」
ディオハルクの怒声と仙也の絶叫が重なる中、さらにディオハルクは『エクストラバラージ』込みでアルスマギカの衝撃波を何度も撃たせる。
雪と布団と仙也が何度もぶっ飛び、やがて吹雪の中で見えなくなった。
「う~……さむっ!?」
ハーメルもまた、目覚めるとホテルの入り口にいた。状況が掴めず辺りを見回すと、ハングドマンで布団の簀巻きにされて雪の上に放置されている。
「それじゃあ、お願いしま~す」
「葵っ!? え、どゆこと!?」
混乱の極致にいた中、葵の明るい声が聞こえハーメルはそちらへ首を回す。
そこで一瞬、玄関で手を振る葵と目が合い――
「ぶっほ!?」
――もの凄いスピードで足下が引っ張られた。
「ぐぁっ! ……槻右を、取り返すっ!」
「ぐぅ……(ふぃ、惰眠も楽じゃない)」
和室の方では、槻右への気遣いで攻勢に出ない拓海はかなり苦戦していた。今もすれ違いざま『惰眠』という煩悩で強化された卒塔婆にて、すねを打ち抜かれ悶絶。すでに満身創痍の状態だが、拓海は諦めずに手を伸ばした。
「こら、待ちなさい!」
「すやぁ……(リサ姉、強い……)」
一方、メリッサは拓海ほど遠慮がない。千は槻右から受け取った陰陽玉による『インタラプトシールド』で妨害するが、次々と躱されてしまう。
「拓海!」
「おう!」
さらに短く連携を示唆したメリッサに、拓海が追従。挟み込むようにして布団組を壁際まで追い込んだ。
「すぅ……(千)」
「くぅ……(はい)」
しかし、布団組も往生際が悪い。一瞬の交差で槻右が卒塔婆を手渡すと、千が『ロストモーメント』を発動。周囲にいくつもの卒塔婆を展開し、拓海とメリッサへ転がって突撃。
「ぐっ!?」
「っ、何してるのよ!」
足払いで拓海とメリッサは転倒し、回転の勢いが乗った卒塔婆にも被弾。
そこでメリッサは拓海に見切りをつけ、卓袱台を拾って飛び上がった。
「千ちゃんっ! これ以上手間取らせると、もう買い物一緒にしてあげないからっ!」
そのまま千の布団を上から押さえ込み、メリッサは殺し文句を突き刺した。
「っ!? ……リサ姉、一緒に買い物……したい、です」
瞬間、千の体がびくっ! と跳ねて動きが停止。
その隙にメリッサは千を引っ張り出し、気付けに軽めに頬を打つ。
「――起きた?」
「ぁ、リサ姉……?! あれ? 私なんで寝てたんでしたっけ?」
気づけばメリッサに抱きしめられていた千は、ようやく意識を覚醒させた。
「ひゃわ?!」
「っと。これで許してあげる」
そのまま立たされた千は、お仕置きとしてメリッサから膝カックンされる。初めて受けた不意打ちに酷く慌てた千の背中を、メリッサが転ぶ前に受け止め笑った。
「ぐぅ……(千が、陥落した……)」
残された槻右は、手早く共鳴したメリッサにより千の布団が葬られる様子を確認する。
「槻右。今度、危険な任務に行く。帰って、来れないかも……」
すると、今度は共鳴を解除した拓海が、槻右へ深刻な声音で語りかけた。
メリッサの作戦をパクったのである。
「ぐ……ぅ(え?! 危険な任務? あったけ? ……あれ?)」
効果はあったが混乱と動揺が勝ったようで、槻右の起床には至らない。
「まさか、槻右に嫌われて……? オレより、布団の方が好きなのか!?」
一方の拓海も、動きが止まった槻右に無視されたと勘違い。
このままでは、文字通り槻右を布団に寝取られてしまう!
「ぐっ……二人の関係が試されてるんだ、気合入れろ!」
顔を苦悶に染める拓海だが、槻右と揃いで持つ『結びのお守り』を握りしめ、槻右へと駆け寄――
「……ふがっ!?」
――る寸前、不意の衝撃を受けた槻右は目を開けた。
「――リサ姉に怒られたのは、主のせいです」
見ると、羞恥か怒りか顔を赤らめ震える卒塔婆を握った千が。
そこから槻右へ、問答無用の卒塔婆連打!!
「い、痛い痛い!?」
布団からはみ出た頭をガンガン殴られ、槻右は慌てて這いだしてきた。
「……目覚めて、くれた」
怒濤の八つ当たりを食らう槻右を見て、拓海は深いダメージを一時忘れ、安堵を隠さず笑った。
「ぐ、くそっ……」
場が混乱しきったダメ大人部屋では、ガルーに捕まったオリヴィエがもがいていた。
「ガルー殿、女性がはしたないでござるよ!」
「だから俺様は女じゃないんだってば。ちーちゃんなんか言ったげてよぉ」
「白虎ちゃん、声が大きくて眠れな――」
「千颯は黙るでござる!!」
盾を殴りつつ千颯へ近づく白虎丸の指摘に対し、女性だと思われているガルーは『パワードーピング』とともに千颯へパス。それに見事応えた千颯は、白虎丸の怒りへドーピングした。
「――っ!」
「ぐほっ!?」
その間オリヴィエは布団の温かさと邪な心にやられ、一瞬抜け出すか迷う。しかし、ガルーが全裸だとわかると迷いが吹っ切れ、腹パンを食らわせ脱出した。
「……」
「ちょ、何!?」
うるさい心臓を抑えつつ、オリヴィエは神妙な顔でガルーへ踵落としを決め、おまけに部屋の机を持ち上げ布団の膨らみへ投げつけた。
「逃がしませんよ! いい加減に起きるのです!」
たまらず布団で転がりスキルを適当にばらまくガルーを、征四郎が大剣を掲げて追走。完全に刃を下にして布団へ斬りつけた。
「ん~、もうちょっと――」
「いつまで寝こけるつもりだ、リュカ?」
ドタバタが加速する中、寝返りを打ったリュカの言葉にオリヴィエが冷たく答える。比較的周囲の対応が甘かったリュカだが、相棒が相手だと話は変わる。
「……超寒い」
「じゃあなぜ裸で寝るのですか! ばか!!」
しばらくして、他の部屋を片づけた味方の援護により、まずガルーが起こされた。その際、全裸が白日の下にさらされ、征四郎は顔を真っ赤にして何度も彼をしばき、ようやく共鳴。
「恐ろしい敵、討ち漏らすわけには参りません!!」
そして、征四郎はガルー布団へ全力の一撃を叩き込み、従魔を滅した。
「言い訳は後で聞く」
『オリヴィエこわ~い』
次に同じくZENRAなリュカが布団から剥かれる。有無をいわさずオリヴィエと共鳴し、黒猫の炎でリュカ布団を焼いた。
残るは千颯だが、なかなかしぶとい。下手に防御と生命力があるため、布団へ攻撃が通らないのだ。
「千颯、実は――」
らちが明かないと判断したオリヴィエは作戦を変更。小声で千颯に何事かを呟く。
「っ!? なにぃ!?」
内容は、千颯のもう1人の英雄に男の影が――という作り話。効果は覿面で千颯は飛び起き、露出した胸板にライヴスの針が刺さった。
「……え?」
そこで千颯は共鳴した恭也が『縫止』を放った姿と、自身を共鳴状態で囲む従魔討伐隊の面々と相対。すでに千颯布団以外の従魔はほぼ、駆逐されていた。
「……俺ちゃんの寝顔が見たいなんて、恭也ちゃんたちのむっつりー」
それが、千颯の遺言だった。
「そんなに布団で寝ていたいのならぁっ!」
ブチギレ白虎丸が布団ごと千颯を担ぐと、窓から外へ放り出した。
ちなみに、ここは3階である。
「皆! 今朝の鬱憤を千颯に全力でぶつけて晴らすでござる!」
そして、白虎丸から私刑許可が下された後、
――ズドオォンッ!!
吹雪を貫く勢いで攻撃が殺到し、雪と布団と全裸の千颯が天へと昇った。
「お疲れさまで~す」
玄関で待っていた葵は、戻ってきたペンギンへ笑いかけた。
ハーメルに葵が仕掛けたのは、雪中引き回しの刑。簀巻き布団に繋げたノーブルレイを牽引用に持たせ、共鳴したエージェントに貸したペンギン装備の滑走機能でホテルを1周させたのだ。
「う、うぅ……」
見るとハーメルは、布団から顔を出して帽子を手で押さえている。
「――うん! もう1周行ってみよう!」
「へぁ!? ちょ、ま――」
直後、葵の台詞に耳を疑ったハーメルの声は、一瞬で遠ざかっていった……。
●めでたし めでたし?
「ごめんなさい! 起きました! 許して下さい!」
2周目を完走し、雪と泥と涙でぐちゃぐちゃでも帽子を死守したハーメルは、葵に必死で許しを請う。何度も固い雪に体をぶつけ、もはや心身ともにボロボロだった。
「仕方ないなぁ――」
「あ、葵ぉ……」
「ラスト1周で許してあげる!」
「葵さぁ~~……!?!?」
ハーメルの懇願は太陽のような葵の笑みにより、本日3度目のボブスレー体験という形で叶う。
その後、ボロ雑巾となったハーメルを回収して、従魔は倒されたという。
「殺す気、か……」
「死んでないなら問題ない」
ハーメルと同じくボロボロになった仙也を引きずり、ディオハルクも朝食を求めてホテルへと戻る。
「白虎ちゃん、俺ちゃんを殺す気か!」
「あのような生き恥を晒す位なら潔く散れ! でござる!」
その後ろからブランケット1枚で帰還した千颯は吹雪に凍えつつ、玄関で仁王立ちする白虎丸と本気の口論を展開した。
「相手が女性なら、千颯のようにはできなかっただろうな」
「私に対しては随分な扱いだった気がしますが?」
「雫ならあれ位は平気だろ」
「キョウは一度殴られるべきですね。まずは私に」
「結構だ。一度と言わず、何度も蹴られた後だからな」
千颯をボコった後、口論の横を通り過ぎた恭也と雫。
とはいえ恭也は雫にボコボコにされ、雫は恭也に恥ずかしい姿を見られて、流れる空気はとても悪い。
「まったく、いつまでむくれているつもりだ?」
「……何か言いましたか?」
「いや、何でもない……」
一足早く恭也は心の整理をつけるも、雫の態度は険悪なまま。
気まずい思いは消えなかった。
「拓海、ごめんっ!」
ロビーでも気まずさで謝る槻右が、霊符で拓海を治療する姿が。槻右布団は『レプリケイショット』の卒塔婆を何本もぶっ刺して処理済みである。
「大丈夫、オレが槻右を助けたかったんだ」
手当を受けて幸せそうな拓海だが体の傷は酷く、槻右の顔は泣きそうにゆがむ。
「……そんな顔するな、今ここに居る槻右が大好きだよ」
「――っ!」
それでも、拓海は笑顔を崩さず槻右の肩を優しく抱いた。
実は彼ら、少し前に結婚を決めて友人にも報告し、式も近い内に行う予定だった。
だが槻右は今回、危うく布団の甘美な誘惑に負け、大切なものを失いかけた。
深い反省と愛情を抱き、槻右は『結びのお守り』をぎゅっと握ると赤面した顔で小さく頷く。
こうして、男2人に布団従魔が絡んだ三角関係(?)は見事、元の鞘に収まった。
「暫くそこで反省を」
「はい……」
一方で、征四郎は驚くほど冷たくガルーを睥睨し、股に枕をぶつけて廊下へ放り出していた。後にガルーは『あんな怖い征四郎はじめて見た』と語る。
「いやぁ……若気の至り?」
「なるほど、よくわかった」
そして、何故全裸になったかは己でも謎だと、舌をぺろっと出して誤魔化そうとしたリュカもまた、白虎丸・征四郎を見習ったオリヴィエによりほぼ真っ裸で廊下へ閉め出された。なお、リュカへの慈悲は売り切れだが、征四郎への配慮で下着だけは許されている。
「――っ、きゃー!」
案の定、ガルー以外の裸に耐性がない征四郎は、顔を手で覆いどこかへと逃げていった。
「皆さん、お疲れさまでした」
と、ここで信一がロビーへ戻り、エージェントたちへ頭を下げた。
「一通り確認した結果、一部の部屋で激しい損傷と著しい飲酒の痕跡が見られましたので、該当する方々の報酬はさらに天引きさせていただきますね」
そして告げられた事務連絡に、一瞬空気が固まる。
――討伐側と寝坊側の2回戦が始まったのは、言うまでもない。