本部

TODESTRIEB

影絵 企我

形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/12/07 21:24

掲示板

オープニング

●死の舞踏
 雑踏の中で、行き交う人々が一人また一人と倒れていく。異変に気付いた人々もまた倒れる。残ったのはただ一人。肩に朽ちた旗を担ぎ、首には角笛をぶら下げた女。その顔は人とも獣ともつかない頭骨に覆われ、蒼い光が眼窩の奥に光っている。
 それは交差点の真ん中に立つと、黙って天を仰いだ。その視線の先には――

●そのライヴスを追え
「予知中のプリセンサーがまた倒れたんだって」
「ふうん……ま、タナトスで間違いないんじゃない」
 澪河青藍はモニター越しに仁科恭佳と話していた。恭佳自身はギアナ支部であくせく働いているのだが、青藍が無理押ししたのだ。“天才の力を貸してくれ”と言って。
「PCがフリーズしたようなもんよ。ライヴスが急にゼロになるなんてイレギュラーを認識できるプリセンサーなんてそうそういないでしょ」
「でもタナトスがそこにいるのは間違いない」
 青藍は手元に置かれた銃を見つめて呟く。恭佳は溜め息をつき、呆れたように尋ねた。
「まーた怒られるかもよ?」
「……義を見て為さざるは勇無きなりだよ」
「それで死なれたら困るんだよね。お父さんやお母さんみたいにさ」
 恭佳の小言に、青藍は肩を竦めて小さく笑う。
「大丈夫。みんながいるから」
 姉の気取らない笑みに、恭佳はしかめっ面を返した。
「ちゃんと資料読んでね。それちょっと癖あるから」


「今回の任務は非常にシンプルです。任務の過程で消息を絶ったリンカーが、今日街中に邪英として現れる……それを救出するのが任務です。が、今回も予知に当たっていたプリセンサーが倒れました。前回の状況を踏まえると、タナトスが現れる可能性があります」
 オペレーターは傍に立っていた青藍の方をちらりと見る。青藍は頷くと、オペレーターに代わって君達の前に立った。いつになく真剣な顔をして、脇に抱えていた資料をテーブルに載せる。
「タナトスの能力について、研究員である仁科の手を借りながらいくつか仮説を立ててみました」
 青藍がモニターに手を翳すと、映像は現場の地図から複雑に波形を描いたグラフへと変わる。
「これはひと月前に樹海での事件に参加したメンバーの、能力者側のライヴス活性度をスキャンしたデータです。タナトスと接触していた時間によりさまざまですが、一様に活性度が本来の半分以下にまで落ち、その後数日を掛けて本来の数値へと回復しています。ですが、英雄側のライヴス活性度については……」
 青藍が言葉を切った瞬間、新たなグラフが浮かび上がる。多少の上下はあれど、どれもほぼ平行に伸びている。
「ほぼ変化がありませんでした。タナトスが関わったとされる一連の事件と合わせて考えられるのは、タナトスはこの世界の存在に対してのみその能力を発揮しているのではないか、という事です。そしてその結果生じた能力者と英雄の活性度の差異がリンクレートの悪化をもたらしたと言えます。共鳴の際には英雄のライヴスが能力者に供給されますが、個人としてのライヴスが弱った状態ではそれを受け容れきれず、結果としてリンクの状態が悪くなってしまうのでしょう」
 青藍は手元の資料を一枚一枚繰りながら、早口で説明を続ける。
「また、既に樹海の一件で明らかになっていますが、あの愚神がレーダーで捉えられないのは異様に低すぎるライヴス活性度が原因です。あの愚神の影響で今もライヴス活性度が低下し昏睡状態にある少年がいますが、仮にその活性度とタナトスの持つライヴスの活性度が同じであるとするならば、アレは一般人よりも低い活性度を有しているため、既存のレーダーではこれを捉えることが出来ません。私達が個人的に装備するレーダーユニットは基本的に低活性度のライヴスを探知出来るようには出来ていませんし、H.O.P.E.本部が用いるレーダーでも、一般人や木々が放つ反応に、結果的に紛れてしまうことになります。他の探知機能を用いても結果的には同じ事です。ただの人とアレを見分ける手段が現状存在していないのです」
 そこまで言うと、彼女はウォルターの方をちらりと見る。彼は肩に掛けていた鞄を置くと中から銀色の銃とバイザーを取り出した。
「なので今回の任務でタナトスが現れたとしたら、これを使うことになります」
 青藍はウォルターから銃を受け取ると、テーブルの上に差し出す。
「これは仁科が開発した対タナトス用のライヴス検出装置、”インクイジター”です。タナトスの持つライヴスの活性度、そして奴と対峙した時、どれほどの速度で私達のライヴス活性度が下がっていくのかを記録します。そして得られたデータを一台のレーダーに落とし込み、”タナトスのみを探知する”レーダーへ改造します。……全ての問題が解決されるわけではありませんが、少なくとも、奴の隠れ蓑は剥がす事が出来るはずです」
 ここまで言い切ると、彼女はもう一枚資料のページをめくった。
「数か月前にタナトスが関わったと思われる事件に参加して以降、私達は未解決のままに終了してしまった事件の資料を調べてきました。その中には、”従魔、愚神を探知できないまま迷宮入り”とされた事件が少なからずありました。……ただの愚神が逃げただけの事件もあるでしょうが、おそらくその中にタナトスは紛れていたのだと思います」
 彼女は資料を置くと、君達を決意に満ちた眼差しで見渡す。
「奴を倒すための糸口さえ見えていません。……ですが手をこまねいていては、奴はいよいよ攻勢を強めるはずです。……私はもう、奴に誰かが喰われる事などあってはならないと思っています」

「……ですから、ここで何としてでも奴の尻尾を掴みましょう」

●死神との対峙
「……君達はいかにも哀れだ。君達は死への恐れから、救いのある死を求めるのではなく、やがて死そのものを遠ざけようとし始めた。それは歪みというものだ。生があって死があるのと同じように、死があって生があるというのに」
 老人の姿を取るタナトスは人々の倒れた十字路の真ん中に立ち、白い息を吐く。
「確かにペストの恐怖は後背へと去った。世界が熱戦に包まれたのはもう二世代前か。暴君が討たれるようにもなったし、まがい物の飢饉しかもうこの世にはない」
 傍では蒼いローブに身を包んだ女が、喇叭を下げて倒れた者達を見渡している。頭骨の隙から、蒼い光がぎらぎらと覗いている。
「けれどそのせいで生がありふれ過ぎた。君達は当たり前のように生を享受するようになった。機械を用いて己の運命さえ捻じ曲げるようになった。そのせいで、この世は増えすぎた命を支えきれなくなっている。これを歪みでなくてなんとする」
 タナトスは屈み込むと、倒れた一人の青年の首へ手を掛ける。
「神の国は近い。全ての歪みはその国において正される。だからもう一度、最初からやり直そう」

「歪んでるのは、お前だ」
 
 物陰で青藍は呟く。同じく物陰に潜んでいる君達もまた、静かに動き始めた。

解説

メイン 邪英化リンカーを救出する
サブ タナトスのライヴスをスキャンする

トリブヌス級愚神タナトス
●ステータス
 測定不能(生命力高い?)
●スキル
・不可抗衝動
[タナトスと戦闘中のPCは、毎CPにリンクレートを1減少させるか、生命、移動以外の全能力を10%減少させなければならない]
・破壊的衝動
[タナトスに攻撃する場合、リンクレートを1減少させなければならない。範囲攻撃を行う場合、その範囲分減少させなければならない]
・蒼古的衝動
[タナトスにBSを与えた時、即座に戦闘中のPC全員に特殊抵抗判定を行う。失敗した場合、BSを失敗したPCにも付与する]
・超自我(PL情報)
[レート0のPCを邪英化]
●性向
 自己否定感の強いPCを哀れむ

邪英
●ステータス
 攻撃ソフィ(50/32)
●スキル(PL情報)
・ハードアタック、銀の魔弾×3、拒絶の風
・ブラッディフレア×3
 ブルームフレアの強化版。
・死の舞踏
[初めて攻撃がヒットした時、最大生命力をシナリオ終了まで20%削る]
●装備
・ネクロノミコン
●性向(PL情報)
 目の前の敵をとにかく狙う。

NPC
澪河青藍
●ステータス
 回避ブレ(62/36)
●スキル
・零距離回避、攻撃予測
・リンクコントロール、アタックブレイブ、リンクバリア
●装備
・インクイジター
[補正無し、射程1~20。メインフェイズにタナトスに攻撃する代わりに”計測”することが出来る。これを5回行う事で、以後のシナリオでタナトスをレーダーで探知できるようになる]

フィールド
・昼の十字路。幅は30sqほど。
・人が大勢倒れている。まだ生きている。範囲攻撃時は注意。

TIPS(PL情報)
・タナトスの能力で下がったリンクレートは、プレイングによってはシナリオ中に回復できる。
・青藍の装備はPCが使う事も可能。その場合青藍も攻撃に参加する。
・邪英撃破後はタナトスの能力が強化される(見た目も若くなる)。
・青藍は基本補助と盾役。

リプレイ

●生死相克
「いいか。必ず、絶対に無理はするなよ」
 サングラス型のバイザーを掛けた青藍に、一ノ瀬 春翔(aa3715)は改めて釘を刺した。
「お前がヘマをするとは思ってない。だが、どうにもいつもやり過ぎだ。焦って無駄な消耗はするなよ。また大変な事になる」
 盾を取り出し、春翔は不敵に笑って見せる。それは自らへの鼓舞でもあった。
「知ってるだろ? 俺の予感は当たるぜ」
「……外れるように努力しますよ」
 青藍は口端に悪戯っぽい笑みを浮かべた。生意気を気取っている。
『またそうやって強がるんだもの』
 アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)は溜め息を零す。氷鏡 六花(aa4969)は青藍と春翔を交互に見上げると、小さく微笑んだ。
「絶対、皆で無事に帰ろっ」
 六花の言葉を聞いた桜小路 國光(aa4046)は頷いた。腰に差した双剣の柄を撫で、メテオバイザー(aa4046hero001)と共に改めて己の誓いを唱える。
「(皆で一緒に帰れれば、それでいい)」
『(生還の誓約、違わずに)』
 四人は目配せすると、ビルの路地から一気に飛び出した。

「こっちよ!」
 ナイチンゲール(aa4840)は凛とした声色で叫びながら通りに躍り出る。わざと邪英に見つかるように駆け抜けた彼女は、無人の地点に立って高めたライヴスを周囲に解き放った。邪英は蒼い旗を振り回して振り返り、胸に提げた喇叭を口元に宛がう。
 重苦しい音色が響いたかと思うと、ナイチンゲールに向かって血の炎が降り注ぐ。彼女は両手を顔の前に翳し、降り注ぐ火を甘んじて受け入れる。
「この程度?」
 ナイチンゲールの背後から白い輝きが飛び、彼女の身に刻まれた火傷を癒す。杏子(aa4344)――カナメ(aa4344hero002)が飛び出し、邪英に向かって白黒の球を投げつける。邪英は旗を掲げ、その影から二体の幽霊を呼び出し、球を防ぐ盾とする。
『邪英に蒼騎士の力が付けられてるって話、どうやら本当らしいな』
 球を自らの手に呼び戻すと、杏子はナイチンゲールの方に振り返った。
「火傷は回復するけど、無理はダメだからね」
「うん。気を付ける」

『悠長に事を構えている余裕は無いわね。寝呆けずしっかりついてきなさい』
「(わかっている。任せてくれ……)」
 狒村 緋十郎(aa3678)に早速鞭打ちながら、レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)は血塗られた魔剣を脇に構えて邪英へ突っ込んでいく。その後に従い、カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)もまた人々の倒れる十字路へと足を踏み入れる。邪英の正面へ位置取ろうとするレミアに対して、カイは邪英の背後へと回り込むように駆ける。
『(ここへ来てからマリが何も喋ろうとしない。前回受けた攻撃が相当応えてるのか?)』
 カイは内側にいる御童 紗希(aa0339)の様子を窺う。しかし、彼女は戦場に着いてから、一向に口を開かない。カイはヘパイストスを設置しながら、タナトスを取り囲もうとする仲間達に眼を向け、しばし思いを巡らせる。
『(マリは何だかんだでネガティブな性格だ。マリだけが自失したのがそのせいなら……気を付けねえと。……あの時の二の舞は御免だ)』
 カイの目の前で、レミアは邪英へ肉薄した。彼女の持つ幻想蝶が、薄く光を放つ。
『戦いの中で培った絆のお陰で、わたし達はここにいる。……待っていなさい。その醜い鎧、必ずわたしが砕いてあげる』
 レミアは大剣の柄と己の手を茨で括り、荒々しく邪英へと斬りかかった。素早く幽霊が飛び出し、レミアの前に立ちはだかる。彼女は容赦なく二体の幽霊を両断し、さらに邪英へと踏み込んだ。邪英は旗を振るって受け流そうとするが、重い一撃は旗を握る籠手を砕いた。
 邪英は仰け反って距離を取ると、レミアに向かって再び血塗られた炎を降らす。しかしレミアは不敵な笑みを浮かべたまま、シャワーのように炎を浴びる。邪英は火を強めようとしたが、そんな邪英の脇から鋭い雹の弾丸が襲い掛かった。
「すぐに助けるからっ!」
 六花は叫ぶ。意識は邪英へと向けつつも、心の隅で、少女は数奇な繋がりを強く感じる。
 過去邪英化したレミアは、心ならずも六花達をその刃で傷つけた事がある。しかし今は、共に邪英化したエージェントを救うため戦っている。
「(きっと、仲間とか、絆って、こういうことなのかな)」
『(六花……)』
 六花の心の呟きに何かを感じたアルヴィナは、普段よりも六花に与える力を強めた。二人の幻想蝶が、輝きを増していく。
「(アルヴィナのライヴスがいつもより冷たい……でも、いつもより温かい……!)」
 恐れは無かった。六花とアルヴィナが放った会心の一撃は邪英の兜を叩き割る。露わになったのは、目を爛々と輝かせる、傷だらけの横顔。女は周囲を見渡して獣のように叫んだ。

『……蕾菜、少しの間身体を借ります』
「はい、力の手綱は任せてください」
 十三月 風架(aa0058hero001)の言葉に頷き、零月 蕾菜(aa0058)は風架にその身を明け渡す。瞬間、黒に緋に空色を帯びたライヴスがその全身を取り巻く。風架は杖を掲げると、物陰から叫ぶ邪英へ狙いを定めた。五色の結晶が周囲を舞い、散った光の欠片が無数の色を持つ蝶となって次々に羽ばたく。カイの放った銃弾に紛れ、蝶は邪英へ押し寄せる。邪英は幽霊を呼び出したが、蝶は幽霊を鮮やかにすり抜け邪英に纏わる。苛烈に邪英を侵食し、邪英は天を仰いで絹を裂くような悲鳴を上げる。
「後は、任せました」
 通信機に向かって蕾菜は囁くと、風架は駆け出す。終末を声高に叫ぶ悪魔を見据えて。

「存在すら許されぬ身で人様の生死に干渉するとは……悉く気に入らん奴だ」
 車道の上に倒れる少年少女二人を纏めて担ぎ、黛 香月(aa0790)は戦場を走る。かつて愚神によって己を兵器に改造され、自我すらも奪われかけた。タナトスも同じように生命を弄んでいる。彼女にとっては一切合切その存在を許しておけない。
『(しかし、その能力はトリブヌス級を冠するに足るものとは思われます)』
 しかし、アウグストゥス(aa0790hero001)は慎重に進言する。タナトスにその存在を気取られないように動いているとはいえ、僅かにライヴスの侵食が始まりつつあった。
「わかっている……リンクレートも高いわけではない。このまま攻撃を仕掛けるのは自殺行為に等しい。今は雌伏の時だ。……しかしいつかは奴の首を叩き落とす」
 二人をビルの傍に横たわらせ、香月は狙撃銃を取って踵を返した。

『ごきげんよう』
「直接お会いできて、光栄です……!」
 國光はタナトスに向かって双剣を振るう。一瞬老人の姿に己の姿がだぶついたが、國光は己を殺して鋭く斬りかかった。ローブがすっぱりと切り裂かれ、老人はよろめく。
「(……確かに、トリブヌス級とは思えないくらい、手応えが無い……)」
 双剣を構え直すと、國光は素早く目配せを送った。その間にタナトスはむくりと姿勢を起こし、口元に笑みを浮かべる。
「やれやれ。老体にいきなり斬りかかる事は無いじゃないか」

――ライヴス活性度、測定開始します。標的に照準を合わせ、トリガーを引いて下さい

 タナトスは背後を振り返る。白い銃を構え、サングラスを掛けた青藍が真っ直ぐにタナトスを見据えていた。
「嫌なら帰れよ」
「そんなわけにはいかない。私は君達と、話がしたいと思っていたところなんだからね」
 青藍はタナトスの側面へと回り込むように駆け出す。タナトスも彼女を追って振り向こうとするが、その目の前に國光が立ちはだかる。
「それならよかった。オレも話をしたいと思っていたところです」
「話か。どんな話かな。悲しい思いをするような話でない事を祈るよ」
 タナトスは好々爺じみた笑みを浮かべてこっくり頷く。
「その話、俺も混ぜろよ」
 薔薇の盾を構えた春翔もタナトスの囲いに加わる。ふてぶてしく笑い、國光のすぐそばで腕を組む。タナトスもまたからからと声を上げ、二人をじっと見渡した。
「ああ。いいとも。さあ話をしよう。全てを混沌へ返し新たにやり直すための話だ」

――測定しています。引き続き、照準を合わせ、トリガーを引いてください

「蒼はこの前倒したよなー?」
『知らん。替えがいたんだろ』
 逢見仙也(aa4472)は邪英とタナトスを交互に観察しながら呟く。邪英は影から次々にゴーストを溢れさせ、盾代わりにして戦い続けている。ディオハルク(aa4472hero001)はただの邪英には興味が無い様子だ。仙也は肩を竦めると、対物ライフルのように改造されたメルカバを取り出し、その周囲にも分身させる。
「爺ちゃんとは相性悪いし、とっとと全力出しときますか。って事で気を付けてー」
 スコープを覗くと、仙也は引き金を引く。次々に大口径の銃弾が放たれた。幽霊が壁になろうとしたが、飽和攻撃を前にして一瞬で霧散し、爆発が二つ邪英に突き刺さる。爆風の中で、さらに悲鳴が聞こえた。
 仙也は自らの中に澱みが無いか確かめてみる。しかし、ディオハルクの戦意は相変わらずで、自分がそれに押し潰されそうな感覚も無い。
「(ふーん。割と肉薄してもばれてなきゃ問題無いってわけだ。あいつに気付かれてるって事が何か作用させてんのかねー?)」

 しかし、その一発は仙也の存在をタナトスに伝えるには十分だった。タナトスはにやりと笑うと、ぐるりと周囲を見渡す。
「これで役者は出揃ったかね」

●死神の宣告
『ええ。振らせなさい。わたし達にいくら降らせようと、何者かを殺める事は無いわ』
 邪英の降らす火の雨を浴び、レミアは外套を僅かに焦がされながらも堂々と立つ。杏子はそんなレミアにもすかさず癒しの光を放った。
「気張るのは良いが、完全に無効化できているわけじゃないんだ、気を付けてくれよ?」
『任せなさい。心配されるまでも無いわ』
 レミアは邪英に向かって大剣を構える。その間にも仙也は第二射の準備を整えていた。
「もう一発行くぞー」
 三つに分身したライフルが次々に火を噴く。邪英は全身に穢れた風を纏って爆風を躱しながら、黒い魔導書を開いて周囲に触手を生み出す。その先端はナイチンゲールを狙っていた。
「させないっ」
 すかさず六花も白い魔導書を開いた。霧氷を象るライヴスで、次々に現れる触手を凍りつかせていく。その威力は普段以上に高まっている。邪英は更に触手を生み出し、六花の方へと振り返る。すると、今度はナイチンゲールが動く番だった。
「余所見なんかしないで」
 鞘の鎖を切ると、レーヴァテインを抜き放って光と炎の一閃を邪英へと見舞う。腕と頬を焦がされた邪英は、歯を剥き出しにして唸り、触手を今度こそナイチンゲールへと向かって飛ばした。しかし、カナメの擲つ球体がそれを悠々と受け止める。カナメはナイチンゲールの傍に駆け寄ると、腕を鋭く振るう。球は激しく回転し、触手を一瞬にして払い除けた。
『理性無き獣にされたか。御しやすいが……邪英の容体は心配になるな』
『なら、とっとと仕舞いにしてやるだけだっ!』
 カイはヘパイストスを離れて飛び出す。水縹を幻想蝶から取り出すと、脇に構えて一足飛びに間合いを詰める。邪英は旗付き槍を振るって迎え撃つが、度重なるダメージの蓄積でその身体がふらつく。カイはその瞬間を見逃さず、一気に足元を払った。
 青い斬撃は邪英の脚絆を打ち砕き、そのまま彼女を横ざまに倒す。カイは素早く刃を返し、起き上がろうとした邪英を袈裟懸けに斬りつけた。
『――!』
 声にもならない悲鳴を上げ、邪英は仰向けに倒れる。共鳴が徐々に剥がれ、中から自失した英雄が弾き出される。レミアは駆け出すと、英雄に向かって幻想蝶を掲げ、その身体を中へと取り込んだ。それを見届けた杏子はほっと溜息をつく。
「とりあえず、こっちは一段落になるか……」
『一旦こいつを医療班に引き渡してくる。その間にやられたりすんなよ』
 カイは意識のない女を担ぐと、仲間達を一瞥してから駆け出す。六花は頷くと、ナイチンゲールやレミアと共にタナトスへと走った。

――測定しています。引き続き、照準を合わせ、トリガーを引いてください

「なるほど。彼女はまた歪んだ生へと引き戻されてしまったか。残念な事だ」
 遠くでその光景を眺めていたタナトスはぽつりと呟く。ローブの袖や裾から、インクを吸い上げるように蒼が広がっていく。背丈も僅かに伸び、その姿を皺だらけの黒ずんだ顔に血色が蘇った。ローブの裾からすとんと蒼い槍が落ち、タナトスはそれを拾い上げる。
「仕方ない。それなら君達を神の国へ招待するとしよう」
 タナトスは槍の穂先に結ばれた、朽ちた旗を振り回す。蒼い光が鱗粉のように舞い、タナトスを取り囲むエージェント達に降りかかる。その瞬間、心臓を手で掴まれたような違和感が全員を襲った。春翔は胸を押さえてふらつき、タナトスをじっと睨む。
「クソがッ……何だってんだよ、テメェのソレは……!」
「三文芝居はやめにしよう。私は私の目の前で人間が倒れる様を数えきれないくらい見てきた。それらに比べれば、まだまだ君は“元気”じゃないか」
「……ああ、そうかい。じゃあ繕う事もねえな」
 春翔は強気な笑みを浮かべると、改めて盾を構え直す。その姿を頭のてっぺんから爪先まで見つめ、タナトスはじっくりを首を傾げる。
「ふむ。己の命を削るとわかっていながら、君は随分と強気で居られるのだね。何故かな」
「……テメェには教えてやんねぇ」

――測定がもうすぐ完了します。引き続き照準を合わせ、トリガーを引いてください

 白い銃を下ろすと、青藍は再び囲いの中を紛れるように駆け出す。タナトスは肩を竦めると、槍を担いで振り向こうとした。
「先程から、君は何のつもりかね」
「さあ、何のつもりでしょうか」
 しかし、その目の前には國光が立っている。タナトスは肩を竦めると、素早く槍を持ち替え、國光に向かって鋭く突き出した。國光は双剣を振るい、穂先を外へと逸らした。

「この世に害を成す者に容赦はしない!」
『喩え殺されようとも死ぬ気はない!』
 杏子とカナメは次々叫び、タナトスの囲いへと乗り込んでいく。
「(奴は……どういう仕組みかは知らないけれど、きっともう死んでいる。愚神がライヴスを取り込むように、死を取り込んで存在している……のか?)」
 ライヴスの活性度が低すぎる、異様な愚神。杏子はその存在に思いを巡らせながら、右手をタナトスへと向ける。
「こいつを喰らったら、お前は一体どうなるんだろうな!」
 気合の声と共に放たれる癒しの光。死で成り立っている存在ならば、生命力を直にぶつければきっと何かが起きるはず。そう杏子は読んでいた。
 光が炸裂した瞬間、タナトスの姿が一瞬歪む。夜闇よりも暗いローブを纏った異形の姿が一瞬エージェント達の前に晒される。しかし、その姿はすぐさま蒼いローブを纏う壮年の男へと戻り、タナトスは杏子へ向かって柔和に微笑む。
「私を“蘇らせよう”というのなら、その試みは無駄というものだ。私の身は既に私にさえ与り知らぬ有様になっているのだから」
 一方、仙也は囲いの中には加わらず、交差点に倒れる人々を担いで道脇へと運んでいた。しかしその間にも、タナトスへの視線は外さない。
「爺ちゃん若くなってない? アレ何? 愚神のアンチエイジング?」
『どこかにあった力が戻ってきたとか、脅威に反応したとか何かあるだろ? 丁度今、蒼いのが居なくなってるんだしな』
 俄かに動きがのびやかとなったタナトスは、槍を振り回して春翔へ斬りかかろうとする。仙也は春翔の周りに盾を展開し、その一撃を防ぎとめる。普段なら刃も飛ばして面攻撃、というところだが、今回の敵に限ってはそんなわけにいかなかった。
『正直戦えたもんじゃないな。面攻撃も無理、連撃も無理とは相性が悪い』
「今は下準備って割り切っとくか。お仕事優先ってな」
『それにしても……いるだけで影響を及ぼせるってのは、どういうことだ? 戦ってる奴があれと共鳴でもしているのか?』

『……あなたは死人を喰らうそうね』
 レミアはタナトスに正面切って対峙する。刃を己の前に突き立て、しかしその柄はしっかりと握りしめたままで彼女はタナトスに語り掛ける。
『此処にはあなたの餌になる死人は居ないわ。そして、わたし達がいる限り、ここで誰一人殺すことは出来ない』
 タナトスは槍を構え、周囲を見渡す。人々は寒空の下で虚ろな目のまま倒れていた。
『老人化してまで自分の力を分け与える……面倒なやり口だと思うけど、それがあなたのやり方なのでしょう? 此処にはもう力を分け与える相手も居ない』
 タナトスは右手を見つめる。多少若くはなったが、まだまだ皺だらけだ。
『餌も手に入らなければ、自分のやり方も貫けない。もうあなたにここにいる意味はないのではなくて?』
 夜の女王は死の君主に対峙する。タナトスはしばしレミアの眼をじっと見つめていたが、やがて相好を崩した。
「私は私の為し得る事を為すだけだとも。生と死の正しき連環が失われ、生に倦み死を恐れる者で溢れたこの世界を破壊し、神の国で新たに連環を打ち立てるために。それが主の意志であるが故にな」

『……貴公に問う。その言葉、其処許の紛うことなき本心か』
 墓場鳥(aa4840hero001)は表に出てタナトスに尋ねる。彼は変わらぬ笑みで応えた。
『ならば言おう。我が宿主たるこの者は世を儚むを軸として当に貴公と表裏。人を憂いて生を謳う、しかし自愛を忘れた哀れな小娘だ。これを歪みと断ずるならば……はて、其処許もまた酷く歪な様だが、如何か?』
「好き放題言ってくれちゃって」
 ナイチンゲールが再び表に立ちながら、小さく口を尖らせた。
『(事実を述べたまでだ)』
 タナトスは変わらず微笑んでいる。槍に括られた旗が揺らめいた。
「その通り。歪みから生まれ落ちた私が何故歪みでないというのか。……君や、君には理解出来るだろう?」
その眼は、ナイチンゲールから、たった今やってきた紗希の方へと向けられる。
「この世界の歪みがもたらす軋轢に苦しむ君達になら、私がここに存在している理由が!」
 この世の悪意を凝縮したかのような視線。カイは咄嗟に彼女を守るべく口を開きかけた。しかし、紗希はその口を黙らせ、自ら表へと出た。大剣の柄を握りしめ、背筋を伸ばして彼女はタナトスと対峙する。
「確かに、生き物は産まれた時から既に死に向かって歩いてる。あたしも皆も……ここに居る人達全員いつかは死ぬ――」

――測定が完了しました。取得データを本部へと転送いたします

「お前の正体、掴ませてもらったからな」
 冷汗を一筋垂らしながらも、青藍は得意げな顔でバイザーを上げる。紗希は強引に大剣を担ぐと、その左目を輝かせて叫んだ。
「……でも、今がその時じゃない!」

●生者の意地
「正体を掴む……さて、私の正体とは一体何なのだろうね?」
 銃をホルスターに納めた青藍に向かって、タナトスは槍を振るおうとする。しかし、その穂先を放たれた一発の弾丸が弾いた。狙撃銃の銃口から硝煙を燻らせて、香月はタナトスにふてぶてしい笑みを浮かべる。
「この程度で一方的な生殺与奪の権を握ったつもりか。……甘いな」
 タナトスへ銃を向けた瞬間、香月へ襲い掛かった幻影。全てを奪いつくされ、傀儡と化した己に刺し貫かれるという夢幻。孤高の戦士のハードボイルドがその程度で揺らぐはずもない。
「退がるぞ、澪河」
「はい」
 銃を刀に持ち替え、青藍は香月と共に走り出す。影から死霊が現れ、二人へと迫る。青藍は刀を諸手に握ると、素早く袈裟懸けに斬りつけた。不浄なライヴスが溢れ、死霊は仰け反る。香月はすかさず引き金を引いて死霊の頭を撃ち抜いた。
「束の間の優勢に酔っていろ、死神。いつかその首落ちると知れ」

『そもそも、お前が言う人の死ぬ世は命を支えられているのか?』
 青藍と香月の背後を守るように立った風架は、錫杖を地面に突き立て五色の水晶でタナトスの振るう槍を受け止める。
『この世が命を支えられるようになった。だから生が溢れるようになった。言っていることが逆だ』
 風架はタナトスを睨み、見据える。笑みを浮かべ続けていたタナトスは、不意に表情を引き締め、神妙な面持ちで風架と向かい合う。
「……違う。世界の器は残酷なまでに不変だ。死に抗う事を赦せば畢竟、器の中で人は犇めき、皆が苦しむ。……だから死に抗う事は赦されない。皆の幸いある生のために――」

「もう聞き飽きた! 御託はここまでにしようぜ!」

 不意に春翔は叫ぶと、盾を斧に持ち替え一気に懐へと潜り込む。振り上げられた深紅の刃が歪に光る。目を開くと、タナトスは素早く身構える。
 しかし、春翔はその場に踏み止まり、斧を振り上げたままの姿勢で脚を止める。タナトスは勢い余って僅かによろめいた。
「……引っ掛かるモンだなァ? 死神さんよ」
 刹那、風架は再び動いた。杖を振り上げた瞬間、蕾菜の身体に聖獣を象る気が神々しく重なる。蔑み交えた目で睨み、風架は言い放つ。
『死に抗う。それの何がいけない事か。どの世界どの生物も今を、最期まで死に抗い生きている。死の先に救いを求める、そもそもそれが間違いだ。己の運命捻じ曲げてでも生きようとする……それこそ、よほど生き物らしい生き方だ』
 一つ絆が断たれても、新たな絆に継ぎ留められてきた獣が叫ぶ。五色の水晶が折り重なり、麒麟の金色を帯びた一発の魔弾がタナトスの胸を捉えた。
『ライヴスを侵食される、その気分はどうだ?』
「……最早、何も」
 タナトスは首を振る。巻物から取り出した墨の刀を取ると、杏子は素早く彼へと迫った。
「『神の国とやらに行きたいのなら、勝手に独りで行け! こちらを巻き込むな!』」
 杏子達は鋭く叫び、刀を振り抜く。刃はその瞬間切れ味を持つ無数の達筆へと変わり、タナトスへと襲い掛かった。蒼いローブ、旗を次々に切り裂きタナトスをよろめかせる。ナイチンゲールはレーヴァテインを構え、一気に翔ける。
『(お前は自らを信じるか)』
「(あなたが傍にいる限り。あの子が信じてくれる限り……こんな私の生を願う人達が、いる限り)」
『(ならば死神如きに遅れは取るまい)』
 ナイチンゲールの幻想蝶が一際強い輝きを放つ。彼女はタナトスの腹に向かって、燃える刃を突き立てた。
「そう、信じてる」
 刃を返すと、ナイチンゲールはタナトスを蹴りつけながら腹を切り裂く。
「確かに人は、この世は歪んでる。でも、それが当たり前なんだ。何度やり直したって同じ。……だから、私達は今を守る」
 勢いに負けてタナトスは膝をついた。しかし、槍を取り直してすぐさま立ち上がる。
「それが、君の選択なのか」
 タナトスは哀しげに呟くと、ナイチンゲールへ槍を向けた。しかし、脇から不意に襲い掛かった國光が、ライヴス纏わせた一閃でタナトスの利き手を打ち据える。國光は綺羅星纏う双剣を振り回して構え直し、死神擬きをじっと睨む。
「ペストの恐怖は去りました。が、治療法も見つからない新しい病は常に現れてます」
『人間同士の戦火は未だあります。それに、貴方がたの脅威も』
「一人の暴君を討っても新たな暴君が次々に生まれて」
『紛い物でも、飢饉が無くなる気配はありません』
 國光とメテオは口々に唱え、剣を握りしめる。互いの手を握りしめるように、強く。剣と盾のように、欠かせぬ繋がりである事を確かめるために。
「死にたくない訳じゃない……ただ天寿を全うしたいだけだ」
「ああ。……その思いは全く正しい。その天寿が歪められていなければ、だが」
「……死すべき定めを捻じ曲げようと足掻くのは愚かだけれど、それは命ある者の務め」
 レミアは大剣を低く構え、大きなステップで一気に間合いへ踏み込む。刃が細かく震えるほどのライヴスを刃へ込めて、タナトスの肩口へ向けて振り下ろす。槍を合わせるでもなく、タナトスはその一撃を受け入れる。
「わたしは遥か昔に吸血姫として蘇った。父がわたしの死を受け入れなかったから。けれどその御蔭で緋十郎に、皆に出会えた」
 タナトスのもう一方の肩を踵で踏みつけ、レミアは愚神の顔をじっと覗き込む。
「自分では気づいていないのかもしれないけれど、結局あなたは餌が欲しいだけよ」
「確かに私はそんなものかもしれない。……だが突き動かすのだ。“そんなもの”を、この骨肉が。この世界を壊せと叫ぶのだ。私はその声を受け入れ、こうしてここに居るだけだ」
 タナトスは石突を衝き、レミアと大剣を突き放して立ち上がる。全身から陽炎を溢れさせながら、彼は再び笑みを浮かべた。その目の前に、今度は紗希が立ちはだかる。
「あたしは御童・カイエ・マリエル・紗希! 日本人と仏国人の血が混じった半端者だ! あたしは半端なあたしが赦せない! ……弱い、狐だ。けど、半端者が足掻いて何が悪い!」
 紗希は大剣を振り回す。その手捌きはカイに比べれば拙い。しかし、その刃はいつにもまして強く輝きを放っている。
「お前が歪んだ生を否定するなら、あたしは歪んだ死を否定する!」
『(……マリ)』
 カイはもう自分が刃を振るう事さえ忘れていた。無我夢中で声を張り上げ、紗希はタナトスに向かって大剣を薙ぎ払った。殴りつけるような一撃を喰らい、タナトスはもんどりうって地面に転がる。
「あたしは生きる! 皆生きる! ここに居る人全部生きて帰る! 狐だって獅子になる。お前の喉に喰らい付いて、その首引きちぎる!」
 大剣を担ぎ、肩で息をしながら紗希は鋭く叫んだ。春翔はその言葉に深く頷くと、さらに追撃を仕掛けに行く。
『(……生きろ)』
 ひたすら、アリス・レッドクイーン(aa3715hero001)は祈り続けていた。何が歪みか。何が必然か。最初に出会った時も、そして今この時も、ただ想い続けるこの願いが何もかも、それ以上に重要であった。アリスも春翔も、もう気が付いていた。
「俺が俺を殺す? ……そんな事有り得ねぇな。生きろと言われてんなら俺は生きる」
 今度こそ、一直線に斧が振り下ろされる。タナトスは槍を振るうと、その一撃を受け止めた。しかし、聖銀のように磨き上げられた雹の一発が、そんなタナトスの右頬を抉った。タナトスは呻いて後へ退き、崩れた横顔を押さえる。
『冬を司る私も、どちらかと言えば死神みたいなものだったから、貴方の言い分も分からないでもないわ。死を遠ざける事は、生の素晴らしさを忘れるのと同義。……その通りね』
 六花の口を借り、アルヴィナがタナトスへ滔々と語り掛けた。
『でも、創造主が私達に、人々に死を齎すよう定められたのは、死があるからこそ、命が益々に光り輝くから……と思うわ。ほら、御覧なさい。貴方という死を前にして、私達の命が、絆が、強く輝いている』
 彼女が言う間にも、六花とナイチンゲール、レミアの幻想蝶の光が共鳴する。その光は紗希や春翔、國光や杏子の幻想蝶にもうっすらと伝わっていた。

 それを遠くで密かに眺めていた仙也は、どこだかで聞いた話を微かに思い起こす。
「(……何て言ったっけ、この現象……?)」

『貴方も嘗ては全き死神だったのかもしれないけれど。今の貴方は只の愚神よ。死を冒涜しているのは、貴方自身だわ』
 アルヴィナは断罪するように冷然と言い放つ。タナトスはのっそりと立ち上がった。気付けば頬を穿つ傷も、肩口を割いた傷も胸を抉った傷も消え去っている。悪意の詰まった眼でエージェント達を見渡し、彼はただ哀しげに微笑む。
「……私は君達を見くびっていたようだ。君達は強い。この世の生が歪み、君達を苛もうと、それに耐え抜くだけの強さを持っている。この世の皆がそれだけ強ければ、私が生まれる事は無かった。だが今、この世に私が私として存在している。それがアルファでありオメガだ」
 彼の姿は歪み、影の中へと紛れていく。
「足掻けばいい。私は私の骨肉となった者達の想いに従い、この世を終わらせ神の国を齎す」

 あらん限りの憎悪を込め、彼は消えた。

 一陣の風がビル街を吹き抜ける。気付けば空は薄曇り、うっすら雪がちらついていた。

●光明
「うう、何で……」
『マリ?』
 カイは路地裏に潜むマリを覗き込む。彼女は体育座りし、顔を真っ赤にしていた。
「何であんな事言っちゃったんだろ……」

『奴の尻尾は掴めそうか』
「ええ。何だかんだで恭佳はすごい奴なんで。このデータさえあればばっちり仕事してくれると思います」
 アウグストゥスの尋ねに青藍は頷き、ホルスターから銃を抜いてひらひらとさせる。それを聞いた香月は獲物を見つけた獣のような、渋い笑みを浮かべる。
「……レーダーで奴を捉える事があったら私にすぐに知らせろ。奴はいずれ私のアイデンティティの生贄となるのだ。この手で奴を打ち砕く事によってな」
「ええ。しっかりお伝えしますよ」
「頼んだぞ」
 頷くと、香月は煙草に火を点け深く煙を吸い込んだ。

「うーん……」
『馬鹿の考え休むに似たりだな』
 ディオハルクが仙也を笑う。しかし、仙也は首を傾げるばかりだ。
「だってさ、何か引っかかるじゃん? 生に縋って死を否定するなっていうけど、あっちは生を疎んでるような? まあ死の無い生はよろしくないのは否定しないけど――」
 その時、ビルの屋上でいきなりクラッカーのような音が響く。エージェント達がはっと見上げると、一人の少女がメガホンを口に宛がい叫んだ。
「さあさ、問題! タナトスの力をぶち破る可能性を持つのはどれでしょーか?」

「一つ、誓約復唱。二つ、リンクバースト。三つ――」

 そこで言葉を切ると、少女――仁科恭佳はにっと歯を見せる。

「クロスリンクシステム」

To be Continued……

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
  • 悪食?
    逢見仙也aa4472
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969

重体一覧

参加者

  • ひとひらの想い
    零月 蕾菜aa0058
    人間|18才|女性|防御
  • 堕落せし者
    十三月 風架aa0058hero001
    英雄|19才|?|ソフィ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 絶望へ運ぶ一撃
    黛 香月aa0790
    機械|25才|女性|攻撃
  • 偽りの救済を阻む者
    アウグストゥスaa0790hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • 生命の意味を知る者
    一ノ瀬 春翔aa3715
    人間|25才|男性|攻撃
  • 生の形を守る者
    アリス・レッドクイーンaa3715hero001
    英雄|15才|女性|シャド
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • Be the Hope
    杏子aa4344
    人間|64才|女性|生命
  • Be the Hope
    カナメaa4344hero002
    英雄|15才|女性|バト
  • 悪食?
    逢見仙也aa4472
    人間|18才|男性|攻撃
  • 死の意味を問う者
    ディオハルクaa4472hero001
    英雄|18才|男性|カオ
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 【能】となる者
    墓場鳥aa4840hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
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