本部

やさしいルンペルシュテルツヒェン

ケーフェイ

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/11/25 20:08

掲示板

オープニング

●やさしいこびと

 ドイツ、ハルツの山地をうろつく。もう街には戻れない。借金取りに追われて登った山で迷い、どうにもならない。
 ともかく休む場所を探さねばならず、雨風を凌ぐために入った洞窟の入り口に座り込む。
 それから、どれだけ経っただろう。夕闇に星が浮かぶころ、そいつは現れた。
「こんばんわ。人間のかた」
 疲れ切った体が仰け反らせる。好々爺とした顔を乗せた小人に癒されるような心の余裕はない。
 俺が驚いていることなどお構いなしに、小人はにこにこと話しかけてくる。
「どうしてそんな恐ろしげな顔をなさる」
「……借金取りに追われてるんだ」
「借金? 金のことかい。それが欲しいのかい」
 すると小人はポケットからずんぐりとした拳を取り出し、ぱっと開いて見せた。
 そこには一握りほどの黄金の塊が転がっていた。
 ずぐんと心臓が跳ねる。小人に驚いていたことなどもう忘れて、その黄金を見入ってしまっていた。
「……くれるのか。それを、俺に?」
「ああ、いいとも。持っていくといい」
 ごろりとしたその塊を、小人は投げてよこした。ともかくそれを受け取る。
「これで俺に何をさせようってんだ」
「なんのことはない。名前を教えてくれんかね。人間のかた」
「俺の、か? それだけで、いいのか?」
「お前さんのも、お前さんの家族でも、知り合いでも、誰でも。そうしたらまた、黄金をやろう」
 それだけ? それだけでこんな黄金がもらえるのか。
 頭の奥では警鐘が鳴り響いている。絶対に良くない。罠か何かに決まっている。
 分かっているのに、黄金の魔力は抗い難かった。
 結局、自分の名前も、家族の名前も、知り合いどころか町の人間の名前全て、小人に伝えた。何度も何度も黄金を片っ端から金に換え、ギャンブルにつぎ込んだ。借金などどうでもいい。どうせ小人が幾らでも黄金をくれるのだから。
 粗方遊んでさあこれから一財為すかと思って小人に会いに行くと、奴はいつものように笑いながら言った。
「もう名前はいらぬ。黄金はやらぬ」
「頼む。最後に一つだけでいいんだ!」
 髭面をしかめた小人は、大仰に頷いた。
「ならば三日の後、我の名を言い当てたならば黄金をやろう。出来なければお前から教えてもらった名、全てわしのものにしてやる」
 それを聞いた俺は立ち上がり、小人を見下ろす。奴はひどく驚いた様子でいる。いい気味だ。慌てふためいて縋り付くとでも思っていたのか。
 こいつが何を言い出すか、大方の検討はついていた。
 おとぎ話にだって、無償で小人が助けてくれる話など少ない。殆どの場合は代償なり試練のようなものを要求するのだ。
 そして俺はもう、こいつの要求するものを知っていた。
「名前、名前か。お前の名前だろう」
 小人に向かって不敵に笑ってみせる。俺はこいつを知っている。昔々のお話そのままだ。
「知っているぞ。俺はお前の名前を知ってるんだよ、ガタゴト柱の小人。お前の名前はルンペ――」
「貴様アアアアアアッ!」
 名前を言おうとした瞬間、小人はそれを掻き消すような大声で叫び出した。それに合わせてか、他の小人がわらわらと現れて体に纏わりつき、俺はあっという間に組み敷かれてしまった。
「悪魔に聞いたのだ。お前は悪魔に聞いたのだ。そうだろう!」
「お、おま、お前の名前は――」
 喋ろうとした口に、小人のブーツがぶち当たる。砕けた歯が洞窟中に飛び散った。
「さあ、俺の名を言ってみろ。その砕けた口で語れるのならば。語れぬのならば仕方ない。お前の名前でお前を縛ってやろう」
 わっはっはと豪快に笑う小人。そうして奴は俺の名前を唱えると、勝手に右腕が千切れて落ちた。冗談のような仕儀でも、体は正直だった。
 あとは一も二もなく逃げ出した。群がる小人共を押しのけ、とにかく洞窟から出た。
 耳にはまだ、あいつの声が残っている。
「三日の間に俺の名前が分からなければ、町のもの全ての名前を奪ってやるぞ。皆、おれのしもべとなるのだ。煮るのも焼くのも、思いのままだぞ」
 あの小人は本当にやる。あれは異世界の怪物だ。最初から分かっていたが、小さくて危害を加えてこないから油断していた。こちらが利用している。化け物をいいように使ってやる――今その思い込みを、全身全霊で悔いている。 


●洞窟へ進め

「それにしても今回はまたややこしいな。時間もないのですぐ頭に叩き込んでくれ」
 てきぱきとホログラムを動かしながら、オペレーターが説明を始める。
「今回の相手は小人の姿をしている。そしてまた小人の従魔をひきつれて洞窟にこもっているそうだ」
 ホログラムに洞窟の大まかな3Dモデルが現れる。緩やかに下る一本道が長く続いている。
「主要ターゲットは愚神、つまり最低でもデクリオ級と思われるが、人一人殺せないところをみると実際の力はそれほどではないだろう。しかし真名を奪うことで文字通り相手を思い通りにしてしまう。それが奴の能力だな」
 ここでH.O.P.E.が保護した被害者の顔写真が現れる。彼が金に困り、愚神と契約をして町の者たちの名前を教えてしまったことを伝えた。
「被害者によれば愚神の真名はルンペルシュテルツヒェン。彼との契約で、名前を当てれば真名で縛っている町の住民を開放するらしい。恐らく奴自身もその能力で縛られているのだろう。契約を結ぶことで強制力を強めるのは君たちと似てるかもな。そのため奴の名前を聞かせて、能力を解除する必要がある。くれぐれも先走ってくれるなよ」
 今回の愚神討伐、その困難は恐らくそこにある。ただ切り刻んで焼き払えば済む話ではない。愚神の力が死後に発動しないと言い切れないためだ。
「昔話の通りなら名前を伝えて終わりだが、契約した相手を殺そうとした奴だ。いざとなれば何をするか分からん。最後は力づくになるだろうことも想定しておいてくれ。とはいえ道中で配下の小人に襲われるだろうから、その備えは元から必要だな」
 被害者の話から似たような小人の従魔を連れていることが判明した。姿かたちも似ているらしく、それに紛れて逃げるなどの策略も考えられる。
「自分や英雄の名前を知られれば隷属させられる。くれぐれも口にしないよう気を付けてくれ」
 愚神に操られる英雄など想像したくもない脅威だ。真名を知ることで相手を支配するまじないは西洋の古い民間伝承などに見られるものだが、それを地で行く愚神が現れて人を害するなど気に利いた皮肉でしかない。
 このまま街の近くを根城にされてドロップゾーンを形成されるわけにはいかない。現場に到着したリンカーたちの前には裂け目のような洞窟の入り口が待ち構えている。
 誰一人臆することなく、彼らは悠然とその洞口へと歩み入った。

解説

・目的
 洞窟の奥へ行って小人『ルンペルシュテルツヒェン』を見つけ、本名を教える。

・敵
 ルンペルシュテルツヒェン
 小人型の愚神。力はそれほど強くないようだが、名前を奪われると彼の思うがままに操られてしまう。配下の小人を従えて洞窟の奥にこもっている。

 取り巻きの小人
 ルンペルシュテルツヒェンの取り巻き。力は強くないが数が多い。姿はルンペルシュテルツヒェンに酷似している。


・場所
 ドイツ、ハルツ山地にある洞窟。狭く明かりも乏しいため戦闘や探索に注意が必要。

・状況
 期限は一日以内。

リプレイ

●いざ洞窟へ

 山風の荒ぶ洞窟の入り口、八朔 カゲリ(aa0098)は黒のトレンチコートがたなびくに任せている。今回、彼はあまり前に出るつもりがなかった。真名で相手を縛る相手にまさか真名を名乗るわけにはいかないのは分かるのだが、かといって偽名を騙る必要性も彼には理解し難かった。結局のところ、何も浮かばなかったのである。
 同じくらい表情を失くしたナラカ(aa0098hero001)が透徹した瞳で洞窟を覗き込んでいる。そこに興味の光は無い。彼女にとって今回の敵は特段気になるような存在ではない。むしろこれを仲間たちがどう打破してくれるのか、それこそが彼女の関心事である。
「まあ、欲望で相手を操るのは愚神も人も同じですか……」
 構築の魔女(aa0281hero001)が偽名を思案している間に、辺是 落児(aa0281)はオペレーターから自分のスマホへ洞窟内のマッピングデータを貰い、それを頭に叩き込んでいた。
「では、落児は……ファニーで、私は分解の魔女とでもしておきましょうか」
 魔女の提案に辺是はこくりと頷く。気恥ずかしそうなコードネームだが、彼は特に反論することなく受け入れた。
「ふんふん、やっぱりオレたちも偽名を決めておいた方がいいな」
 シュエン(aa5415)は早速ライブスで鷹を召喚し、腕に侍らせておく。これで洞窟の中を探らせ、敵を見つけ次第飛びかかる所存だ。
『じゃあシュエンはヴォルフで、私は零とでも名乗っておきましょうか』
 リシア(aa5415hero001)はてきぱきと決めてしまうと、他のリンカーたちにも偽名を伝えていった。
 車から降りた白月 アリア(aa5419)は落ち着かない様子で辺りを見回した。リンカーとして初めての作戦ということで期待と不安が相半ばしている。
「あはは、私の初めての依頼が戦闘系だなんてまるで私の事を殺してやるって意味だよね。きっとそうに違いない。私の様なごみ溜めの中の腐った生ごみの様な人間がみんなと一緒に戦うなんておこがましいにも程があるよね。使い捨てのぼろ雑巾の様に捨て駒にするのがお似合いに決まってるさ」
 自分のパートナーとはいえ、まくし立てるような白月の台詞にロク(aa5419hero002)は少々辟易する。
『考え過ぎだ……いや、お前の事だ。どうせ何も考えてないのだろう……」
「あはは、どうだろうねー。とりあえずお知り合いには挨拶しとこうっと」
 そういうと白月は一人のリンカーへ静々と近づいていく。
「あら、あなたは楪さんのメイドさんね」
 白月に気づいた月鏡 由利菜(aa0873)はゆったりとした所作で会釈した。
「御付のメイドをさせていただいている白月です。よければご一緒させてください。何なら盾というか囮というかもうどうにでもしていただいて構いませんので」
「えええ!? いえ、それではあなたの御主人に申し訳が……」
『馬鹿もん。初っ端から仲間を困らせてどうする』
 ロクに諌められてさらに低姿勢で謝ろうとする白月を何とか宥め、月鏡も洞窟へ入る準備を始める。
「グリム童話の小人の名を冠した愚神……。何が目的なのでしょう」
『…本当は怖い、なんて頭に付いたりするタイプは子供の夢が壊れるからやだなぁ』
 ウィリディス(aa0873hero002)は暢気にそんなことを言いながら、皆と話し合い、偽名を共有することにした。
『ねえ、あんたはロードナイトってコードネームあるんだよね? あたしもこの機会にそういうの欲しい!』
「そう言えばまだなかったわね……。あなたを象徴する宝石から取って、エメラルドなんてどうかしら?」
『いいよ! そういうの好き!』
 他のメンバーの話を聞きながら、ベルフ(aa0919hero001)は煙草の煙をくゆらせて洞窟の岩場に寄り掛かる。
『名で縛るなんてのは、それこそ昔からあるやり方だが』
「単純な分、対処方法もわかりやすいけどね」
 九字原 昂(aa0919)は漫ろに返事しながら、暗視鏡『梟』で洞窟の中を覗いて視界が十分に確保されることを確認していた。
『わかりやすいのと、対処できるかってのはまた別問題だがな』
 高級煙草を根元まで吸い切ると、ベルフはもう一本に火をつけた。洞窟の中に入ったらそこはもう敵陣だ。煙草を吸う暇すら惜しい展開になることは想像に難くない。今の内に吸い溜めておかねばいざというとき鈍ってしまう。
 その隣で智貞 乾二(aa4696)も煙草に火をつける。
「お、あんたも煙草吸うのかい」
「え、ええ。月一箱くらい、です」
「よかったらこれもやってみてくれよ」
 ベルフは自分の煙草を薦めると、智貞は頻りに礼を述べてそれを咥えた。
「あ、い、い、いい煙草ですね。紙巻なんて珍しい」
「麒麟て銘柄なんだよ。これが好きでさ」
「ああ、確か中国の高級煙草だ。へえ、こんな味なんだ」
 その様子を見ていたアクレヴィア(aa4696hero001)は注意したいのをぐっとこらえて装備を確かめていた。彼女のパートナーは臆病で口下手なところがある。こうして他人と話してくれているとそれが多少なりとも解消されていくので喜ばしいのだ。
「囮役は私たちとアクレヴィアさんたちとで行くことになりそうですね。よろしくお願いします」
『はい。こちらこそよろしくです』
 大河千乃(aa5467)はアクレヴィアとしっかり握手を交わした。
「私のことはちーちゃんで呼んでくださいね」
『それじゃあ私はレヴィアで。彼はシルバと呼んでください』
 お互い偽名で呼び合うと、千乃とアクレヴィアはニコニコ笑い合った。悪いことをしているわけではないのに、自分が偽の名前を名乗っていると思うとどこかこそばゆい思いがあった。
『ちーちゃん。囮役なら装いもそれらしくしておこう』
「そうですね。せっかくですから」
 大河右京(aa5467hero001)がそう薦めるとは、二人は泥や砂地で何回かごろごろと転がり出した。奇妙な光景ではあったが、立ち上がってみるといい感じに汚れ、なるほど浮浪者か遭難者と言われても納得する姿となっていた。


●洞窟を塞ぐもの

 囮組として智貞とアクレヴィア、大河千乃と右京は先行して洞窟へ入っていた。
 智貞はオペレーターから借りた懐中電灯をつけ、おっかなびっくり洞窟の中を進んでいく。
「く、暗い……こわ、こわ……」
 しっかり照らされているのに、それでも億劫そうで歩みはいかにも遅い。そんな彼をアクレヴィアが後ろから押す。
『トモサダ、前見て歩いてください』
「あっ、ご、ごめ。ごめん…」
 アクレヴィアに注意されても歩みはあまり変わらない。だが却って本当の遭難者らしさが出ているので愚神の目を欺くにはいいかもしれないと、後ろで見ていた大河たちは思っていた。
「迫真の演技ですね。さすがだわ。見習わなくちゃ」
『あれは演技ではないと思うよ、ちーちゃん』
 千乃は喋りながら耳に入れたイヤホンをさりげなく触って確かめる。そこからは後ろからついてきているであろうメンバーの声が聞こえていた。
『そちらはどうですか。ちーちゃんさん』
 魔女の声が千乃の耳を擽る。
「愚神も従魔もまだ見えません。えっと……分解の魔女さん」
『ふふ、心配しないでね。私たちはすぐ後ろからついて行ってるので』
「はい。よろしくお願いします」
 洞窟の岩に隠れながら魔女はスマホで通話する。他のメンバーも脇道などに身を隠している。
 囮組の四人から少し遅れて、残りのメンバーが洞窟を進む。スマホやライヴス通信機を全員で共有し、シュエンは鷹を囮組の頭上に飛ばし、様子を確認している。
 遭難者を装った囮組に愚神が食いつけば、引き付けてもらっている間に合流して一気に叩く。真名を知られれば操られ、真名を伝えなければ力は解除されない。障害や手続きが多い分、作戦は困難となる。慎重に事を運ばなければならなかった。
 洞窟の隅で息を潜めながら、皆は神経を集中させていた。そのため、スマホや通信機に走った雑音に素早く反応した。
「皆さん、愚……が、多分、ルンペ……」
 智貞からと思われる通信に大きな雑音が混ざる。千乃からの声も届かず掻き乱されている。だが内容から、彼らの前に愚神ルンペルシュテルツヒェンが現れたことは容易に想像された。
「通信が!? 早く合流しないと!」
「いや、分解の魔女さん。それはちょっと難しそうだよ」
 九字原が腰から刀を引き抜いて構える。彼の視線の先を見て魔女は息を呑んだ。
 洞窟の脇道や岩陰から、夥しい数の小人が現れてくる。一体どこから湧いて出るのか、見る間に洞内を埋め尽くしてしまう。
 小人の大きさは腰の高さ程度。事前の情報では大した力もないようだが、数えるのも嫌になるほどの群れで来られると胸が悪くなる思いだった。
 先行している四人に追いつくにはそれらを掻き分けねばならないが、難儀することは目に見えている。
 先頭のほうにいた月鏡に小人達が殺到する。背から引き抜いた聖槍『デストロイヤー』を振りかぶるが、途中で洞窟の壁に穂先がぶち当たる。
「あっ!」
 挙動が一拍遅れる。敵はもう眼前である。
 ダガーを引き抜くのも間に合わない。しまったと顔をしかめた彼女の前に、小人とは違う影が立ちはだかった。
「お嬢様ッ!」
 ごおんと洞内に響く音。白月の掲げた『オハンの盾』が小人たちの突進を堰き止めた。それだけに留まらず、彼女は洞窟の地面を踏み割らんばかりに強く踏み込んだ。
「どっせえい!」
 気合いの声を張り上げ、白月は盾に張り付いた小人どもを薙ぎ払うように押し返した。彼女が作った隙を利用して皆が小人の群れとの戦闘態勢に移行しようとする中、後ろにいたナラカは叫んだ。
「ロードナイト、ヴォルフ! お前たちは先に行け!」
 偽名で呼ばれた呼ばれた二人とそれぞれのパートナーはすぐに得心して従った。即座に傍らの英雄と手を取り、走りながらリンクを完了する。
 シュエンは壁を蹴って飛び上がり、天井に張り付きながら素早く奥へ進んでいく。スマホによる通信が届かない以上、彼の放った鷹からの情報だけが頼りだ。
 まずは目の前の小人たちを排除しなければならない。ベルフとリンクを完了した九字原は腰に佩いた鞘に刀を納めると、僅かな溜めを利して一気に振り抜いた。
 刃の跡さえ霞む一刀が、間合いにいた小人も岩もまとめて撫で斬りにする。
 使用者のライヴスによって鞘内に電界を形成し、その反発力によって抜刀を行なう『EMスカバード』ならではの力技だ。
 魔女は辺是とリンクし、赤髪を振り乱して二挺拳銃『Pride of fools』で弾丸をばら撒いた。九字原や白月を上手く避けて小人を撃ち抜いていく。
 小人は一発二発食らえば動かなくなり、元の素材であろう土塊に戻っていく。だが小人はどんどん援軍が来るのか、数が減っている気がしない。
 白月もロクとリンクし、対物ライフル『ヴュールトレーンTR』を棍棒のように振り回してまとわりつく小人を払いのける。そうして僅かに間合いが開いた隙に、小人たちの群れ目がけて至近距離で対物ライフルをぶちかました。
 反動で白月が後ろに下がるが、それ以上に小人達がばらばらに飛び散りながら吹き飛んでいった。
 小人が少なくなった分だけ洞窟を進んでいく。もはや真っ向から押しのけていくしかない。無論急ぎはしているが、こうなっては囮組は助けに行ったシュエンと月鏡に託すほかない。


●小人の包囲

「人間の方々、ようこそお越しくださった」
 四人の前に現れた小人は、そんな風に挨拶した。警戒心は高ぶっている。目の前の小人が例の愚神かもしれないこともそうだが、他のメンバーとの通信が途絶えているのが気がかりだった。
『どうする、ちーちゃん』
 返事はしないものの、千乃は静かに相手を観察していた。
 取り巻きはいないのでチャンスと言える。しかし愚神であるという確証はない。
「ぼ、僕が伝えてみます。あいつの真名」
 近くにいた智貞が耳打ちしてくる。
「でもまだ愚神かは分かりません。もし本物に私たちが名前を知ってることがばれたら……」
『恐らくもうばれています』
 アクレヴィアが冷静に言った。
『通信の遮断、後方との分断。相手は明らかに意図を以てこちらに対峙している』
『だとすれば、ぶつけてみるほかないか』
 右京が神妙に頷く。敵であることは相手にばれている。ならば早々に愚神かどうかを確かめて他のメンバーと合流するべきだ。
 四人は意を決して叫んだ。
「お前の名前は、ルンペルシュテルツヒェン!」
 声が洞内に響き渡る。声が岩壁に吸い込まれて、それだけだった。
「あ、あれ? 何にもないよ、どうしよう……」
 智貞が心配そうにつぶやく。小人は何ら反応を示してこない。どこか虚ろな様子でとことこ歩いているだけだったが、たっぷり間を取ってから口を開いた。
「ほうほう。名前をお知りか。そうかそうか」
 小人は意味ありげに頷いている。四人とも確信していた。こいつはルンペルシュテルツヒェンではない。囮の自分たちを誘い込んだ、囮の従魔だ。
「名前を寄越さぬ奴に用はない。お帰り願おうか」
 地面と言わず壁と言わず、小人が鬱蒼と生えてくる。それを待つまでもなく四人はそれぞれリンクを行なった。
「せやっ!」
 リンクした大河が突進からの振り降ろしを囮の小人にかました。大剣『アントリューズ』は敵を脳天から両断するに留まらず地面を大きく切り穿つ。
 囮の小人は間を置かずに土塊へ変わっていった。無機物を媒介としている従魔の特徴だ。
 アクレヴィアはこちらを取り囲もうとする小人の群に対し、取り出したワイヤーを振り回した。
『爆導索ッ!』
 小人たちにまとわりつかせたワイヤーが圧縮されたライヴスを放出しながら連鎖して爆発し、一帯の小人たちと跡形もなく吹き飛ばした。
 それでも倒せたのは一部に過ぎない。決して強くはないが、如何せん数が多すぎる。
 徐々に追いつめられる智貞たち。だが彼らには、自分の来た道のほうから響く靴音に気が付いていた。
「シルバ、ちーちゃん! 大丈夫か!?」
「こっちです! ヴォルフさん!」
 千乃の叫びに呼応し、シュエンと月鏡が洞窟の道から飛び出した。
「シィッ!」
 鋭い呼気を一度吐くと、シュエンは突如分身して素早く踏み込む。ライヴスによって作り出した分身との波状攻撃『ジェミニストライク』で敵勢に紛れながら刀で滅多斬りにする。走り抜け様に振るわれる暗殺刀『暗夜黒刀』が、暗がりのなかで音も姿もなく小人達を切り刻んでいく。
「皆さま、助けに来ましたわ!」
 ライトアイを発動していた月鏡は素早く状況を把握すると、特に小人が群がっている場所の上へ飛び上がった。
 そこから放たれた聖槍の一撃は洞窟を揺すり、嵐のような衝撃波を巻き起こして小人たちを巻き上げ、次々と壁に叩きつけた。
 均衡が崩れてからは早く、二人の加勢によって程なく小人は全滅した。
「間に合ったみたいでよかったよかった」
 放っていた鷹を回収し、分身を解いたシュエンが周囲を見渡す。リンカー四人以外には土塊となった従魔ばかりである。
 やがて後発のメンバーも合流してきた。
『そうですか。愚神ではなかったと』
 話を聞いた魔女が不可思議そうに言う。同様の疑問は誰もが感じていた。
「でもそれなら、本物はどこに?」
 ライトでぐるりと辺りを見回した九字原は気が付いた。てっきり全員そろっていると思ったのに、どうやら二人足りない。
「あれ? ナラカさんたちは?」


●愚神滅却

 洞窟の中、もこもこと盛り上がった土の中から小人が飛び出した。そして出口の光を求めて一目散に駆け出す。それは従魔の土塊に紛れていた愚神ルンペルシュテルツヒェンであった。
 今頃リンカーたちは従魔の群れと戦っている。真名掌握による呪いの発動までの期限は一日を切っている。その間に逃げて他の山に入ってしまえばこちらのものだ。
 小さな足で賢明に走り、やがて洞窟の外に出る。あとはせいぜい逃げ回るだけだ。
 そうして歩き出したルンペルシュテルツヒェンの後ろから近づく影があった。
「奥に誘って入れ違いに逃げる。案外定石通りなのだな」
 腰まで伸びた銀髪と、相手を射竦めるような鋭い紅の眼。既にリンクを完了しているナラカは、洞窟の入口まで戻って愚神を待ち伏せていた。
「どうした小人? 何故そんな顔をする。名前の代わりに金をくれるのではないのか」
「……金が欲しいのか? 人間の方」
 小人の物言いにナラカはくすりと笑う。
『人間か。まあいいだろう。我が名はナラカ。ナラカ・アヴァターラ。さあ、小人の愚神よ。名の代わりに金を出してもらおうか』
 小人の顔が綻んでいく。好々爺というには、それは邪気に満ち過ぎていた。
「……貴様の真名、貰い受けたぞ。跪け、ナラカ・アヴァターラ!」
 名前を呼ばれた瞬間、ナラカの体がびたりと止まった。リンクしている体の自由が奪われる。まるで巨人に握られているような感覚。
『……腐っても、愚、神か……』
 跪きそうになるのを何とか耐える。なるほど仮初の名でも使われていれば関係ないのか。そしてリンクによって強化された体をも押さえつける強制力。それはナラカを感心させるに十分なものだった。
 腰に佩いた双炎剣『アンドレイアー』までの距離が途方もなく感じる。完全に掌握されるか、一撃を入れるか。どちらが早いかの勝負。
 体の自由が奪われていく。このままでは――ナラカの危惧を吹き飛ばしたのは、他のリンカーたちの叫び声だった。
「「「「お前の名前は、ルンペルシュテルツヒェン!」」」」
 洞窟から届いた真名に、ルンペルシュテルツヒェンが仰け反るようにして動きを止めた。拘束を解かれたのだろう。ナラカは即座に双炎剣を引き抜いた。
「悪魔め。悪魔どもめ……」
「悪魔はお前だ。小人風情」
 十字の斬撃が火炎の軌跡の残してルンペルシュテルツヒェンを切り裂き、四つの肉片を瞬時に消し炭へと変えてしまった。
 そのまま頽れるナラカに、すかさず月鏡は駆け寄って『アクア・ヴィテ』による回復を行なう。
「無茶をなさって。じっとしていてください」
『すまん。どうも試してみたくてな……』
 回復してもらってもまだ頭痛が残る。だがこれでルンペルシュテルツヒェンの力は解除された。取り巻きの小人も全滅させ、愚神もまた灰も残らず滅却された。
「……縛られた人々や従魔の小人達のいずれかに、愚神の能力が引き継がれたりはしませんよね?」
『まさか。私がこれほど体を張ったのだ。愚神の力の一欠片さえ残っているものか』
 そう満足そうに言い切るナラカを見ていると、なるほどそうかもしれないと月鏡は不思議に得心してしまった。
 実際、愚神の力も子供たちの活躍も、ナラカの心を満足させるに足るものだった。
「おーい、リンカーたち。大丈夫かー?」
 作戦中は離れていたオペレーターが、頃合いを見計らってジープで近づいてくる。
「無事終わったよ。オペレーターさん」
 九字原が片手を上げて軽く答えると、ジープはその手前で止まった。
「そうか、ありがとう。みんな大きな怪我もなくてよかった」
『さて、それでは街の人々を開放されているか。きちんと確かめに行きましょう』
 魔女が促すと、皆は次々とジープへ乗り込む。街の様子を見に行くのは口実とまではいかないまでも、目的は麓の街であるブラウンラーゲのレストランで出されるドイツ料理だった。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
  • Cyclamen
    智貞 乾二aa4696

重体一覧

参加者

  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 花の守護者
    ウィリディスaa0873hero002
    英雄|18才|女性|バト

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • Cyclamen
    智貞 乾二aa4696
    人間|29才|男性|回避
  • Enkianthus
    アクレヴィアaa4696hero001
    英雄|12才|女性|シャド
  • 仲間想う狂犬
    シュエンaa5415
    獣人|18才|男性|攻撃
  • 刀と笑う戦闘狂
    リシアaa5415hero001
    英雄|18才|女性|シャド
  • エージェント
    白月 アリアaa5419
    人間|18才|女性|攻撃
  • エージェント
    ロクaa5419hero002
    英雄|18才|女性|カオ
  • 希望の守り人
    大河千乃aa5467
    機械|16才|女性|攻撃
  • 絶望を越えた絆
    大河右京aa5467hero001
    英雄|20才|男性|ブレ
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