本部

中和剤は砂糖です。

落合 陽子

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/11/24 19:13

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掲示板

オープニング

●アズキ?
「思った以上の出来だったね。洗える着物」
 首都圏のオープンカフェ。中性的な容貌の袴姿の女性と青年がお茶を飲んでいた。吉徳呉服の社長の社長と専属デザイナーである。呉服商は機嫌がいい。視察した新作の洗える着物が思った以上に出来がよかったのだ。
「化繊とは思えないほど薄くて軽かったですね。なめらかだったし」
 専属デザイナーもうれしさを押さえきれずにいる。自分がデザインした着物の出来がいいのだから当然だ。
「後はモニター募集ですね」
「そうだね。どんなに見事でも着にくかったり、動きにくかったりしちゃ意味がない。私が着たときは特に問題ないと思ったけど、私みたいに着物慣れしてる人間じゃ意味がないからね」
「俺もある程度なれてるからモニターにならない……ん?」
 デザイナーは言葉を切って自分の足元を見た。
「どうしたの?」
「なにか転がってきた。小豆?」
 どこからともなく転がってきたつぶてに手を伸ばすデザイナー。
「にしてはちょっと大きくないか? さわらない方がいい。得体が知れないのは」
「でも、なんかあちこち転がってきましたよ。ほら、言ったそばから」
「本当だ。どこから」

 ざあっ。

●アズキラシキ?
 呉服商の言葉が終わる前に謎のつぶてが降ってきた。いや、横から吹き付けてきたのだ。
「痛っ」
 当たると地味に痛い。けがをするほどではないが、鬱陶しい痛さである。呉服商は無言でテーブルを倒して盾にした。デザイナーはテーブルの陰に隠れながらつぶてが飛んできた方を見る。巨大な枯れ木が生えていた。所々に開いた穴からつぶてが吹き出ている。
「従魔! 早く逃げ」
 呉服商の手を取って逃げようとしたが、呉服商は逆にデザイナーを止めた。
「この状況で走る方が危ないよ。それより通報だ」
 建物へと行こうとしたデザイナーを引き留めてスマートフォンを取り出す。
「HOPEですか? アズキラシキに襲われています。場所はーー」

●アズキラシキツブテ?
「知ってるんですか? あの従魔。アズキなに?」
 通報を終えた呉服商にデザイナーが言う。
「アズキラシキ。小豆みたいだろ。これ。だからアズキラシキ」
 呉服商はつぶてを拾い上げた。
「さわっても大丈夫なんですか」 
「さわっても平気だよ。従魔はアズキラシキって言うんだけど、このつぶて自体はアズキラシキツブテって言うんだよ」
「そのまんまですね」
「アズキラシキは2年ぐらい前に1度出現してる従魔だ。リンカー到着が遅れたからか、討伐される前に消えてしまったけど、このつぶて――アズキラシキツブテは消えなかった。それでこれにはに面白い特徴があることがわかったんだよ」
「面白い?」
「うん、それで考えたんだけど」
 呉服商はにこっと笑った。あ、商売のことだなとデザイナーは思った。
「あのね」

解説

●目的
・従魔の討伐
・従魔の放ったつぶての回収
・つぶてを使った餡作り(貸し出される着物を着用することが望ましい。着物については後述)

●敵情報
・アズキラシキ(従魔)
 外見は巨大な枯れ木。所々に穴があり、そこから大量のつぶてを放つ。殺傷能力はあまりなく、鬱陶しい痛さ。地面に転がるつぶてで転ぶ方が危ない。どうやってライヴスを接種しているかは不明。
 2年前に1度出現したがリンカーの到着が遅れ、消えてしまった。
 放たれたつぶて(アズキラシキツブテ)は小豆に似ており、同じ調理法で餡に似たものを作ることができるが、リンク中の能力者か英雄以外の者が煮汁にさわるとかぶれる。当然そのままでは食べられない。砂糖を入れると中和され、一般人も触れたり食べたりできる。
(以下PL情報)
 その場から動いたりしないので根気よく攻撃すれば初心者でも倒せるが時間がかかりすぎると消えてしまう。強度があるというよりは再生が速いといった方が正確。

●場所
 昼下がりの首都圏の小さくてのどかな商店街。個人店が多い。近くに公民館がある。その場にいたひとは建物へと避難している最中だが、混乱している。

●従魔討伐後
 近くの公民館にて回収したアズキラシキツブテを使った餡づくりを依頼される。その際、依頼人から新作の洗える着物をモニターとして着て作ってほしいと頼まれる(任意)
 餡を作った後は地元の人々と餡で何か作ったり何か作ってもらったりして試食会。

●登場人物
・呉服商
 アズキラシキの事件に巻き込まれた吉徳呉服の社長。中性的な姿と話し方が特徴的な女性。今回の事件を逆手にとって新作の洗える着物のモニター企画を思いついた。女性の着付け要因。

・デザイナー
 同じく今回の事件に巻き込まれた吉徳呉服の専属デザイナー。十代後半の青年。男性の着付け要因。

リプレイ

●まずは役割分担
「あれがアズキラシキ」
 ミュート ステイラン(aa5374)の視線の先にはツブテを撒き散らす巨大な枯れ木。
「おいしそうな名前の妖怪が出てきたよ」
 百薬(aa0843hero001)の言葉に餅 望月(aa0843)はやや呆れ気味。
「妖怪って、危ない従魔じゃないの。でも砂糖たっぷりで美味しくなるなんていい従魔も居たもんだね。この原理を解釈して百薬もどうにかできない?」
「ワタシは愛と癒しを振りまくだけの天使だよ、そしておやつをいただくのよ」
「さすがぶれないね、いずれにしろ元は誰かのライヴスかも知れないしね、ここで一気に倒すしかないね」
「食材を落とすとは殊勝な従魔もいたもんじゃのお!」
 カカカと豪快に笑うランページ クラッチマン(aa5374hero001)。
「正確にはちょっと違うみたいだけど……」
 ミュートが言う。
「毎年あんこが食べほーだい」
 ピピ・ストレッロ(aa0778hero002)は目をきらきらさせるも「いや、いつ凶暴化するか分からないしきっちり倒すよ?」皆月 若葉(aa0778)に言われて「はーい」とがっかり。
「討伐と回収、動かない敵相手に両方やるのはそう難しい事じゃあねぇな」
 麻生 遊夜(aa0452)が落ち着いた声で言うとユフォアリーヤ(aa0452hero001)もくすくす笑いながら肯く。
「……ん、あとは……時間との、勝負」
「まぁ、出来るところからやってくか」
 砌 宵理(aa5518)はぴしぴしとつぶてを喰らい、鬱陶しそうに首に手を回す。
「承りました」
 センノサンオウ(aa5518hero001)が幻想蝶の中でくすくす笑いながら答えた。
「一般人の避難も完了していませんし、この小豆をまずはどうにかしないとでしょうか」
 若葉が言うと遊夜が肯く。
「ブルーシートを借りてきた。これで周囲を囲んで遮断する」
「俺たちも手伝います」
 若葉が言う。
「私たちは一般人の避難に回るよ」
 望月が言うと宵理も避難誘導に名乗りを上げる。
「うん……このメンツなら俺ちゃん遊んでても良くない?」
 リンカーたちの話を聞きながら言う虎噛 千颯(aa0123)に白虎丸(aa0123hero001)が低音で一言。
「ほぅ?」
「ウソデスヨ……ヤダナァーアハハ」
 冗談なのか本気なのか当人しかわからない。
「わ、わわ私は」
 ミュートは共鳴してガーディアン・エンジェルを構える。
「ぜぜぜ、前っ衛を! ははは初めてですっけど」
 そう、ミュートは戦闘行為自体無縁。もちろん、共鳴戦闘はこれが初である。せっかくのデビュー戦。何かを掴んでおきたい。
「ミューチャンたち戦うのはじめて? 皆いるからだいじょーぶ! がんばろうね!」
 ピピが元気よく言う。
「俺ちゃんたちはミューちゃんのカバーに入るぜ!」
 千颯はにかっと笑う。
「はははい! がががんばりましゅ」
「大丈夫かな?」
 リーヤが首を傾げた。
「英雄も虎噛さんたちもついてる。俺らもいつでもフォローを入れられるようにしておくさ……ま、俺らの出番はないかもしれんが」
「……ん、皆頼もしいから……ね」
 エージェントたちは各の役割を果たすべく動き出した。

●頑張れ期待の新人さん
「刈り取るよ」
 ガーディアン・エンジェルを構えミュートはじとっと敵をにらむ。
(ほう…思ったより落ち着いとるのお)
「ほいほーい。俺ちゃんがガッチリカバーするから好きな様に動いてくれていいんだぜー!」
 飛盾「陰陽玉」を構えて千颯が手を振る。
「危なくなったらこの馬鹿を盾にするといいでござるよ」
 触手を犬のしっぽのようにぱったぱったと振って挨拶(?)すると地を蹴った。
「……流れて」
 ガーディアン・エンジェルで裁きつつ返す刀を叩き込む
「いいぞ、そのまま攻めい!」 乾いた音とともに幹の半ばまで刃が通った。
 だが。
「!」
 斬った先から再生していく。
(刃が幹に押し負けてる)
 幹近くの穴から大量のつぶてが吹き出す。このままではミュートに当たるが、千颯の飛盾「陰陽玉」がカバー。ミュートは触手を振って合図すると後ろにジャンプ。無数にあるつぶてに足を取られ体勢が崩れても千颯たちがカバーしてくれるはずだ。
「これで足元は安心かな?」
 体勢は崩れない。千颯がフットガードを発動させたのだ。振り返って千颯をじっと見つめ触手を揺らすとディスティニーシザースに持ち替え邪魔な枝葉を斬り落としていく。再生すものの斬られるスピードには追いついていない。
(攻撃を受けるとアズキの排出量が増えるな)
 千颯は飛盾でカバーリングしつつ従魔観察する。
(あの再生力は厄介だな。だが、少しアズキも欲しいし、ミューちゃんの経験のこともある。手を出すのはまだ早いな)

●後衛を急げ
「アズキモドキだかアズキラシキだか知らねぇが、寧ろ問題は混乱してる一般人がスッ転ぶ事だな」
 宵理は共鳴せず状況確認。
「落ち着かせましょうか? 私の笛で」
 センが幻想蝶の中から提案する。
「出来るか?」
「さぁ、/やってみなくては分かり兼ねますが」
「分かった、頼むセン」
 効果の程はやってみなければわからないが、多少なり笛の音に耳を傾けられるのならこちらの声もあるいは。
「承りました」
 センが笛を吹く。
「綺麗な音色」
 思わずつぶやいたのは誰なのか。街の熱気が静まった。闇雲に走っていた人々が止まる。
「大丈夫っすから落ち着いて移動して下さい。あーあと足元は気ぃつけて、多分転ぶ方が痛ぇんで!」
 それに乗じて共鳴した宵理が声を上げる。言っているそばから転びそうなお婆ちゃんを支え、転んでいる子供を抱え上げる。
「掴まてろよ。ふたりともシートの外まで送るんで」
(俺が転ぶと洒落になんねぇし俺も俺で足元気ぃつけねぇと)と思っていたが。
「足場は気にしなくていいからね!」
 望月がフットガードを発動。望月に片手を上げて合図すると望月も手を振って合図。頼もしい限りだ。飛盾でカバーしながら歩き出した。

「これで避難誘導しやすくなった」
 望月はタワーシールドに持ち替え、避難民をかばいつつ避難誘導を開始。
「慌てないで。ワタシの後ろから移動してください、必ず守ります」
 豆を潰さないように防御する余裕はない。

「消えられちゃ本末転倒だ、手早く行こう」
「ん、攻撃した方が……早かったは、切ない」
 夜遊はスカーレットレインでつぶてを防ぎつつ、店と店の屋根や軒をザイルで繋ぎシートを結んで垂らしたり、プレハブサウナの一辺の壁を仮設して通路を塞いでいく。何も考えずやっているわけではない。モスケールを装着し、ライヴスの出所を探りながら倒す方向や距離も考慮する。前回は討伐される前に消えてしまったらしいが、そうはさせない。

「これで小豆が一般の人の被害は減らせるかな?」
 若葉とピピも共鳴すると目を守るためにゴーグルをつけ、業中。店舗並びの所からブルーシートをフックで街灯や店の軒先など複数個所に引っ掛けて小豆が遠くに飛ぶのを防いでいく。自分に飛んでくるつぶてはアガトラムで魔方陣展開。
「手を使わず済むから作業中も展開できて助かるよ」
 
「慌てないでゆっくり。ワタシの後ろを通るんですよ。大丈夫ですから」
「危ないんで、送りますよ。おじーちゃん。杖こっち」
 望月や宵理が丁寧に避難誘導する中、ビニールシートが張られていく。
「これで完了だな」
「はい」
 若葉たちが張っていたブルーシートの端と遊夜たちのそれが重なる。2人は従魔の元へ。千颯は再びフットガードを発動。
「お疲れさん。シート張り終わったみてえだな」
「枝葉がなくなって攻撃しやすくなりましたね」
 若葉が言う。
「すげえ再生力にもめげずにミューちゃんが頑張ってくれたんだぜ」
「つぶての数、増えてるな」
 遊夜が言う。
「攻撃されればされるほど吐き出されるみたいだ」
「ミュートさん、大丈夫?」
 若葉に話しかけられたが、触手を振るので精一杯なミュート。それでも若葉には伝わった。
「がんばりしましょう」

 放送を知らせるチャイムが鳴る。
「こちら望月! 取り敢えず避難完了。今、逃げ遅れてるひとがいないか砌宵理くんが逃げ遅れてるひとがいないか確認してる。この放送が終わったらこっちも確認に回るよ」
「そういや」
 つぶて喰らいながら宵理が言う。
「あれって穴ん中で爆発とか起こしたらどうなるんだろうなぁ」
「弾け飛ぶんじゃありませんか?/中身も」
「後始末めんどくさそうだな」

●決着
「アズキも十分回収出来たみたいだし、んじゃ、ボチボチやりますか!」
 千颯が地を蹴ってアズキラシキへ。アズキラシキツブテを排出する所にブレイジングランスを突っ込んだ。ミュートの攻撃でだいぶ弱っているはずだが、再生能力は健在だ。低い気合を発して手に力を込める。ミュートもエンジェル・ガーディアンで斬りつけるがまだ再生能力に押し負ける。銃声と共にアズキラシキが大きく傾いた。根の一部が露出する。弾丸が根元に最も近い穴に撃ち込まれたのだ。遊夜の弱点看破を帯びた44マグナム。
「ふむ、このじゃじゃ馬にも慣れてきたな」
「……ん、良い威力……でも、再生が早いみたい」
 露出した根が伸びて地面に戻ろうとしたが、千颯の力技が妨げる。弾丸を撃ち込まれた箇所は若葉のブラッドオペレートでさらにダメージを与えられる。さらにミュートの攻撃が幹に食い込むが、まだ再生力に押し負ける。再生した枝がゆっくりとミュートへ伸びた。ミュートも千颯も動けない。若葉がクリムゾンローズでミュートの反対側から豪快に斬りつけた。エンジェル・ガーディアンに力を込め上がら若葉をじっと見てこっくり肯き触手を振る。若葉もにっこり笑って目配せすると真剣な顔になってクリムゾンローズに力を込めた。

 バキャッ

 アズキラシキの上半分が宙に舞った。重い音と共に地面に叩きつけられ、粉々に砕け散った。アズキラシキがツブテをまき散らしながら淡い光に包まれた。アズキラシキの姿が徐々に薄くなっていく。
「時間切れは御免被る、切り札を切るか」
 遊夜は再び44マグナムを構えた。
「皆、退ってくれ!」
 穴を起点に内部に押し込みアハトアハトをブチかましてへし折る!
「全力、全開!」
 引き金を引いて叫ぶ。
「派手に吹っ飛べや!」
 派手な破壊音と共に根を全て露出させ、従魔は活動を停止した。
「お疲れ様!」
 箒やちりとりを持ち上げで望月が言う。
「次は回収!」

●新作着物はいかが?
「ふむ、本当に小豆みたいだな」
「……ん、良い品質」
 シャベルやお掃除セットの箒と塵取りを使ってせっせとつぶてを集めお菓子籠「グリード」に入れる遊夜とリーヤ。他のリンカーたちもつぶてを回収しては籠や袋に入れている。
「お疲れ様です」
 通報者の呉服商がリンカーたちに声をかける。
「餡子の依頼をしたものです。吉徳呉服の責任者です」
 リンカーたちは手を止めて口々に挨拶を返す。
「餡を作るに当たってもうひとつお願いがあります」

「……薄くて、軽い……ん、動きやすい」
 満足げにくるりとまわるリーヤ。着ているのは黒地に赤い彼岸花模様の着物。
「これで洗えるのか、技術の進歩はすごいな……」
 呉服商の”お願い”は新作洗える着物のモニター。要するに着物を着ての餡子作りだ。宵理の「あーいいっすよ」の言葉に異を唱える者はおらず、あっさり了承。ピピに至っては「ほさぬの浴衣が綺麗だったからボクも着たかったの!」と上機嫌で肯いてくれた。ちなみにほさぬ、というのはとある事件で知り合った呉服商の友だちで人狼の女の子である。ピピと若葉は呉服商に頼まれて彼女に浴衣を届けたことがある。
「制作先に伝えておくよ」
 呉服商は嬉しそうだ。
「君たちは?」
 着付けの終わったミュートと宵理に言う。
「動きにくいとかはないっすね」
 宵理はあれこれ動いて答える。彼の着物は紺地に白の矢鱈縞。裾と袖の端に紅葉模様。ミュートは若葉色に銀杏や小鳥が描かれたの着物を着て慌てまくる。
「ええええ、ああのその。だだだいじょぶです」

「丈、ギリだな。よかったー。大き目のいくつかあって」
 白虎丸にかすれ十字の着物を着付けながらデザイナーが言う。
「できた。いい体格ですね。羨ましい」
 まだ少年の体つきのデザイナーは羨まし気だ。
「トレーニングが大事でござるよ」
「トレーニングかあ」
「白虎ちゃん似合うじゃん」
 鮫小紋を粋に着付けた千颯が言う。
「虎噛さんも似合いますよ」
 若葉が言う。
「あんがと。若葉ちゃんも似合うぜ。それ猫?」
「はい。こんな柄もあるんですね」
 若葉のそれは白地に小さな黒猫が一面に描かれた小紋柄だ。
「ワカバ!」
 着付け終わったピピが走ってくる。
「えへへー……どう?」
 くるっと回るピピ。白地に寒椿へ前足を伸ばすデフォルメされた黒猫が不規則に散っている。帯は赤地に白抜きの猫の足跡柄。
「うん、似合ってる」
 女の子用なのだが、似合えばなんでもいいだろう。
「呉服屋の着物だね」
 桃色地に白い羽と花が散った着物を着て百薬が言う。
「それでも羽根は生えてるのね」
 不思議そうに言う望月。
「さて、そろそろ餡子作りに取り掛かりますか!」
 全員着付けたところで餡子とお菓子作りだ。

●餡子お菓子とゆるキャラ白虎ちゃん
 くつくつことことくつくつことこと
 大鍋にアズキラシキツブテが煮られている。
「推しはあんころ餅とぜんざいだな」
「……ん、時期的に……暖かいのが、いい」
 お餅をこねこねする遊夜とリーヤ。このお餅は千颯が交渉して地元の商店街から分けてもらったものである。
「確かに最近寒ぃしあったけぇのも欲しいよな。汁粉とか」
 宵理も言う。
「大福たべたい! たい焼きも!」
 ピピが手を挙げる。
「大福はお汁粉の餅を分けてもらおっか」
 若葉が言うと遊夜たちがこね終わったお餅を御裾分け。
「ありがとうございます」
「やったー」

 その頃。
(戦闘中……めっちゃ無愛想だった気がする!!)
 ミュートは一人反省会。実はミュート主体共鳴自体初めてだったのだ。
「何じゃ、集中しとるからじゃと思っとったが。ミューちゃん。生地と餡子はわしが作るからの、ミューちゃんはそれを詰めて蒸し器にかけとくれ」
 ランページは生地に黒糖を混ぜる。作っているのは温泉饅頭。軽くて食べやすいし、お土産にも使われるのでお持ち帰りも容易だ。
「う、うん……!」
 頑張って皆に渡すんだ! と決意する。

「美味しいおやつのためならがんばるよ」
 百薬はたすき掛けでせっせと力仕事。おはぎのためにもち米を洗って蒸す。餡子の量が量だからもち米も大量だ。
「力仕事だから、百薬の見せ場だよ。しっかりお手伝いしようね」
「煮立ってきたな」
 宵理が言う。餡子のレシピは地元の和菓子屋さんから入手済みだ。
「ゆで汁こぼすから共鳴するか」
 遊夜が言う。砂糖の入っていないアズキラシキツブテのゆで汁は普通の人間が触るとかぶれる。他のリンカーたちも共鳴してゆで汁をゆっくりこぼす。ゆであずきのいい香りが室内に広がった。後は鍋に戻し、捨てた量だけ水を入れ、ふたをして強火。煮立ったら弱火。もう少しで完成だ。

「ねー、まだあ」
「飽きちゃった」
「鬼ごっこー」
「走らないの!」
「だって暇なんだもん」
 早めにやってきた近所の子たちは早々に飽きだした。
「ゆるキャラの白虎ちゃん登場だぜー!」
 千颯が白虎丸の背を押す。
「おっきな虎!」
「白虎ちゃーん!」
 子供たちが一斉に集まる。
「千颯! 俺はゆるキャラでは無いでござる」
 小声で抗議するが千颯はにこっと笑って言う。
「じゃあ料理する? 小豆使った料理作れるの?」
「そ……それは……」
「はい、じゃあ白虎ちゃんはゆるキャラ活動してきてなー」
「……が……がおーでござる……」
 スマートフォンを持ってやってくる呉服商。
「白虎ちゃん写真撮っていい?」
 ちゃっかり白虎ちゃん呼び。何かの資料にする気なのだろう。
「俺も撮っていいですか。あ、武器構えて欲しいんですけど!」
 デザイナーまでカメラを構える。願望丸出しだ。
「俺も撮りたい!」
「私も!」
 子供たちも言う。こちらの動機は純粋だ。

「煮えてきましたね。粒あんとこしあんどうします?」
 若葉が言う。
「半々がいいんじゃないすか」
 宵理案が通る。
「こしあんはこさないとな」
 遊夜が言う。
「この量だと大仕事だね。でもお菓子のためなら頑張りますよ」
 やる気十分の百薬。
「力仕事なら俺もやるっすよ」
 宵理が名乗りを上げる。
「俺ちゃんも手伝うぜ。白虎ちゃーん。餡子絞るから共鳴するよー」
「わかったでござる」
 ゆるキャラ白虎ちゃんから逃げるべく、飛んでくる白虎丸。だが、搾り終わると早々に追い出され再びゆるキャラ白虎ちゃんに戻されることをまだ、白虎丸は知らない。

 そして――
「「「完成!」」」
 アズキラシキツブテはめでたく一般人にも食べられる餡子に進化(?)したのだった。後は――
「あちち」
「共鳴する? 望月」
「ううん。手は多いほうがいいから」
 蒸したもち米を丸くして餡子で包んでおはぎにしたり。
「けっこう難しいね。餡子包むの」
「こうやって優しく包むのよ」
「わー、上手」
「ピピ君もやってご覧」
 教えてもらいながらお餅に餡をくるんで大福にしたり。
「こう多いとかき混ぜんのもひと仕事だな」
「宵理。こぼさないように気をつけて」
 大鍋に大量の餡子を入れてお汁粉を作ったり。
「上手ね。いいお嫁さんになれるわ」
「……ん」
「どうした? リーヤ。顔真っ赤だぞ」
 地元のひとに褒められながらあんころ餅やぜんざいを作ったり。
「がおー」
「白虎ちゃんカッコイイー」
「……」
「やだー白虎ちゃん。ゆるキャラがお客さんに睨んだりしちゃダメよー」
「千颯は客じゃないでござる」
 子供が飽きないように盛り上げたり。
「よし。生地も完成じゃ。ミューちゃん生地に餡をくるんで蒸し器に並べてくれ」
「わかった!」
「形が崩れたら台無しじゃぞぉー?」
「お、脅かさないでよう!」
「そうそう。上手い上手い」
 ニヨニヨと笑われながらも慎重に蒸し饅頭を作ったり。

●餡子いっぱいお腹いっぱい
「お汁粉できましたよ。そこ置いていいっすか」
 宵理のお汁粉。
「あんころ餅できた。こっちぜんざい」
 リーヤと遊夜のあんころ餅とぜんざい。
「こっちも完成」
 望月と百薬のおはぎ。出来上がった餡子菓子を宵理や若葉が次々と運ぶ。完成したら試食会だ。
「うわぁ……」
 ピピは完成品見てにこにこぴょんぴょん♪
「冷める前に食べるでござるよ」
 ”ゆるキャラ白虎ちゃん”から解放されるため積極的に汁粉を配る白虎丸。
「つぶあんとこしあんどっち好き? ボクはねぇ……どっちも!」
 ピピは隣の百薬に話しかける。
「うんうん。どっちも美味しいよね! みんなも着物でお正月の先取りだね」
 百薬はおはぎを食べながら肯く。
「もう少しで新年だな」
「ん、お正月もいっぱい食べる」
 遊夜の言葉にリーヤが湯気の立つぜんざいを食べながら言うと、遊夜が「ああ」と微笑んだ。
「餡子にはやっぱお茶かな? はいどうぞ」
 若葉がお茶を配る。
「悪い。餡子にお茶って最高だな」
 ずっと力仕事をしていた宵理がほっと一息。
「お疲れ様でした」
 センが労う。千颯もリーヤと遊夜が作った出来立てあんころ餅を頬張った。
「これぞ金沢銘菓! あんころ餅なんだぜ!」
「おもちもっちもち」
 望月も頬張る。
「? 千颯の故郷は金沢だったでござるか?」
 首を傾げる白虎丸。
「? 違うんだぜ?」
 同じく首を傾げる千颯。
「これは従魔を倒してくれたお礼だよ。リンカーさんたち」
 地元のひとたちがリンカーたちにくれたそれは厚切りトーストにたっぷりの餡子とバターを塗った――
「愛知の心……小倉トーストなんだぜ!」
「バターと餡子って合うよね」
 百薬が小倉トーストをほおばる。
「パンふかふか……ぱりぱり。あれもこれもぜんぶ美味しいんだよ」
 幸せそうにピピが言う。
「千颯は愛知出身だったでござるか?」
 首を傾げる白虎丸。
「いや、違うんだぜ?」
「??」
「??」
「坊ちゃん。たい焼きだよ」
 たい焼き屋のおじさんがピピにたい焼きを渡す。呉服商がピピのリクエストを聞いてたい焼き屋さんに頼んだのである。
「ありがとー。ワカバー。あつあつのぱりぱりだよ。あんこたっぷり」
「こんな薄いのになんでこんな餡子入れて破けないのかな」
 若葉が目を丸くする。

 わいわいと食べたり飲んだりしている中、緊張MAXがひとり。
「くく配りに行ってくる!」
 蒸し時間が長かったため、少し出遅れてしまったけれど。
「頑張るんじゃぞ。ミューちゃん」
 挨拶と戦闘のお礼と、あわよくばお友達がほしいという気持ちを込めて。
「えっと、あの!」
 リンカーたちがお茶を飲みながらお喋りしている所へ勇気を振り絞って声をかける。
「ミューちゃんお疲れ様。お汁粉食べた? 美味しいよ」
 ピピが言う。
「お茶飲む?」
「淹れたの若葉くんだよ。百薬」
 望月が言うと若葉が笑って「まあまあ」
「座りますか?」
 宵理が体をずらす。あわあわしていると「どうした?」遊夜が助け舟を出たした。
「さ、先程はありがとうごじゃいまひた! これ、お饅頭です!」
 温泉饅頭を差し出した。ばっちり噛んでしまったが……。
「こちらこそありがとう。それからお疲れ様」
「お疲れ様っした」
「ミューチャンが作ったの? すごいねえ」
「ありがとー」
 口々に優しい言葉を返すエージェントたち。
「どれどれ」
 ひょいと手を伸ばし饅頭を口に放り込む千颯。
「行儀が悪いでござる」
「うまいぜ。白虎ちゃん」
 白虎丸の口に饅頭を突っ込む。
「むぐ。確かにうまいでござるな」
「美味しい」
「お茶に合う」
「黒糖が効いてる」
「美味しいですよ。ありがとう」 
 口々に褒められほっと胸をなでおろすミュート。
「お、美味しいですか……?よかったぁ!」
「また機会があったら一緒に戦おうぜ。ミューちゃん」
 千颯が言う。ミュートは赤くなりながら嬉しそうに触手を揺らしたのだった。
「よかったのう。ミューちゃん」
 いつの間にかそばにいたランページが言う。心配でこっそりついてきたのだ。
「次はミューちゃんの番だよ。沢山食べてね」
 餡子料理の数々がミュートの前に置かれる。
「では改めまして」
「「「いただきます!」」」

 まだまだ試食会は終わらない。 

 因みに貸し出された着物の汚れは何の問題もなく落ち、来年の春過ぎには本格的に商品化が決まった。

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結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 暗夜退ける退魔師
    ミュート ステイランaa5374
  • 発意の人
    砌 宵理aa5518

重体一覧

参加者

  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 大切がいっぱい
    ピピ・ストレッロaa0778hero002
    英雄|10才|?|バト
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
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