本部

紅葉見物&温泉へGO!

和倉眞吹

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2017/11/25 19:36

掲示板

オープニング

“紅葉鑑賞&温泉旅行、参加者募集します。詳しくは受付へ”

「――って貼り紙見て来たんですけど」
 パートナーの英雄を伴って、支部の受付へ来た能力者エージェントに、「少々お待ち下さい」と頭を下げた受付嬢は、程なくその貼り紙の貼り主を伴って戻って来た。
 受付嬢に伴われてやって来たのは、普段オペレーターとして支部で勤務している女性だった。
「お待たせしました。温泉旅行の件ですね」
「はい。詳しい内容を聞きたいんですけど」
「分かりました。丁度両方共季節だから、同時に行く企画にしようって、私が言い出したんですけどね」
 ふふっ、と思わずといった様子で微笑した彼女によると、まず紅葉鑑賞をして、その後近くにある温泉宿で一泊しようという企画らしい。
「参加希望でしたら、締切日までにお名前下さい。掲示板の方に名簿下がってますので」
 言われて、貼り紙のあった掲示板を振り返る。すると、確かに貼り紙を止めた画鋲が、名簿の挟まったボードを、布製の紐で重そうに支えていた。

解説

◆目的
紅葉鑑賞&温泉旅行を楽しむ。

◆タイムテーブル
一日目
午前9時 支部前から出るマイクロバスで出発
午前11時 紅葉鑑賞の山へ到着予定。ここから昼食時まで自由に紅葉の鑑賞。
午前12時 近辺の食事処で昼食
午後1時 温泉宿へ向けて出発
午後2時 宿に到着予定
夕食時まで自由行動。近隣は観光地なので、雑貨屋、お土産屋、カフェなどを回るもよし。一足先に一風呂浴びるもよし。
午後6時 夕食(バイキング)
特に就寝時間が決まっている訳ではないので、翌朝、起きられなくならない程度にこの後は自由行動。
宿の中にも色々お店はあります。例:お土産屋さん、カフェ、バーなど(※バーには未成年者は立入禁止)

二日目
午前7時 朝食バイキング。間に合うように起床の事。
朝食後、その後の行動確認して、解散。チェックアウトまで自由行動。
午前11時 チェックアウト。
帰りもマイクロバスで帰る人は直帰。寄り道して、公共の交通機関で帰るもよし。事実上、この時点で解散。

◆備考
・今回、特にこれといった事件は起きない想定です。なので、温泉旅行を思いっ切りお楽しみ下さい。
・温泉宿には、露天風呂(男女別)、各部屋に普通のバスルームがあります。
・お店(宿内含む)、食事の描写など、ご自由にプレイングにお書き下さい。余程何か違和感がある、などがなければ採用します。
部屋割り等もご希望があれば、自由にお書き下さい(相部屋がいい場合、お互いのプレイングを合わせるようにお願いします)。

リプレイ

「紅葉キレイ~!」
 現地に着くと、御童 紗希(aa0339)はマイクロバスから降り立った。
「SNS映えって言葉好きじゃないけど……これは映えるなぁ~」
 紅葉の紅に見とれていると、カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)が声を掛ける。
『マリ。その辺の綺麗な紅葉拾って“#彼女と紅葉狩りデートなうに使っていいよ”的ポーズ取ってみろ。写真撮って俺のスマホの待ち受けにするから』
 言われて、紗希はむくれた。
「あたしが写真写りが悪いのは知ってる癖に」
『お前の思い込みだって言ってんだろ。それに最近の画像修正アプリは凄いぞ! お前をボインにする事も可能だ』
 普通に聞いたらセクハラ発言だが、元来、容姿にコンプレックスを持つ紗希の耳は、そうは取らなかった。
「……ボインに加工した画像あたしにもくれるなら」
 渋々答える紗希の気が変わらない内にと、カイは彼女にスマホを向ける。
 その後ろで、麻生 遊夜(aa0452)は、「あー……やっぱ駄目だな」と重度の乗り物酔いに蹲った。
『……ん、役に立たなかった、ね。酔い止め』
 ユフォアリーヤ(aa0452hero001)が、彼の背中を擦る。
「だが耐え切った! 次出発するまでは紅葉見て酔い醒まししよう、うん」
 自身に言い聞かせるように拳を握って立ち上がった遊夜は、自然上がった視線の先の紅葉に目を奪われる。
「しっかし、これはまた見事だな」
『……ん、良い企画』
 尻尾を振りながら、ユフォアリーヤも上へ視線を向けて遊夜に寄り添った。
「お酒もご飯も美味しいといいね~」
 木霊・C・リュカ(aa0068)が伸びをしつつのんびりと言うと、彼の手を引く紫 征四郎(aa0076)も「はい!」と可愛らしく相槌を打つ。その後に続いたオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は、紅葉に目を投げ、『燃えるみたいな色してる、な』と呟いた。
「アールグレイは、山とか森に住んでたの?」
 夢洲 蜜柑(aa0921)は、アールグレイ(aa0921hero002)に問うと、彼は『いえ、私は確か、都会生まれの都会育ちですね』と、エルフの癖にサラリと答える。
 生まれの話なのに、“確か”が付いてしまう辺りが、英雄の英雄たる所以だろうか。
「紅葉とか、一杯あったの?」
『あまり無かった気がします。そこは森や山次第ですから』
「ふーん。日本人はね、こういうの、好きなの」
『へえ。色の移り変わりとか、変化が好きなのですね』
 穏やかに笑い掛けられて、蜜柑は早くも卒倒しそうだ。
 東江 刀護(aa3503)も、ご多分に漏れず周囲を見回し、「紅葉狩りか。風情があって良い」と呟く。
 大和 那智(aa3503hero002)が最近、依頼で頑張っていたので、のんびりしようと参加した。昨夜興奮して眠れなかったようで、バスの中では爆睡していた那智は、『紅葉従魔を狩るんだな!』と張り切っている。狩りという単語から、従魔退治と勘違いしているらしい。
「狩りと言っても、紅葉した木の枝を手折り、掌に乗せたり、見るだけだ」
 説明してやると、『紛らわしー!』と大袈裟に叫ぶ。昨年、キノコ狩りに参加した時も同じ勘違いをしていたな、と刀護は呆れ顔だ。
 那智は刀護に向き直り、『紅葉って食える?』と真面目に訊く。
「……さあ?」
 知らないな、と刀護は肩を竦めた。

「リュカ、足元気をつけてくださいね」
 征四郎はリュカの手を引いて、紅葉並木を歩いた。そのエスコートに身を任せ、リュカは普段手に持っている白杖は腕に掛けて、人混みをスイスイと歩む。
 時折、比較的鮮明な風景を選んで、携帯の画面越しに楽しんでいると、「とってもきれい、です」と下から感に堪えぬと言った呟きが聞こえた。
 見上げた紅葉は、どこか花弁のようだ。
 手を握ったまま紅葉を拾っているのを見て、リュカは「おやお嬢さん、それもお土産?」とおどけた口調で声を掛ける。
「帰ってから押し花にするのです」
 紅葉なのに“花”と言うのもどうかとは思ったが、拾ったそれを顔の横に当てて愛らしく微笑する彼女に、口には出さずに置いた。
「椛の花言葉は何だっけかな、度忘れしちゃった」
 それにしても、と二人を眺めていたオリヴィエが口を開く。
『何で、狩りなんて物騒な名前なんだろうな』
 ボソリと言いながら、征四郎の椛集めを手伝う体で、足元のそれを拾った。
『こっちの葉の方がどう見たって綺麗だろ』
 珍しく鼻息荒く征四郎の前に葉を翳すと、彼女も「む」と唇をへの字に曲げた。
「征四郎だってそれより綺麗な紅葉を見つけるんですから!」
 だが、闘志を燃やしつつ、彼女も楽しんでいるようだ。
『征四郎、カメラ借りて良いか? ちゃんと撮るから』
 ガルー・A・A(aa0076hero001)が声を掛けると、あ、という顔をした彼女はカメラを手渡す。
「お願いします」
『おう』
 受け取ったガルーは、カメラ越しに頭上に広がる紅葉を見つめて、苦笑した。
(……カメラ越しなら何か変わるかと思ったが、そうでもないな)
 美味しいものも旅行も好きだが、紅葉などの“美しさ”は、未だによく解らない。
 それでも、後でリュカが振り返れるよう、征四郎の代わりに風景や皆の姿を写真に収めた。年相応の表情で遊ぶ、征四郎やオリヴィエの様子は見ていて何とも微笑ましい。
『少し、休憩してかないか。その後、土産も買ってこうぜ。奢るから』
 だが、透かさず「ヒューッ、ガルーちゃん太っ腹ァ!」という不穏な声が耳に入る。顔を上げると、リュカが地酒を手にレジに向かっていた。
『リュカちゃんのお酒まで奢るとは言ってないんですけどぉ!』
 青ざめたガルーは、慌ててそれを止めるべく、猛ダッシュした。

 恋人の黒金 蛍丸(aa2951)に誘われて紅葉狩りに来た橘 由香里(aa1855)は、そっと息を吐いた。
 故郷は長野の山奥で、こうした景色は珍しくはない。それに付随して、紆余曲折の末に断交状態となっている両親がふと頭を過ぎるが、考えても詮無い事だ。
「由香里さん? 疲れた?」
 そう蛍丸から声を掛けられて、我に返った由香里は首を振る。
「ううんっ、大丈夫」
 彼とは付き合ってそろそろ一年になろうとしている。当初は緊張したが、今は大分落ち着いて話ができるようになった。
 良かった、と蛍丸は微笑する。
 最近忙しくてデートする暇もなかった。丁度、支部で募集の掛かっていたツアーに、デートに託けて彼女を誘ったので、思い切り楽しみたい。
 由香里の方も、本音を言えば嬉しかった。が、二人きりというのも少し緊張する。ただ、今日は二人きりではないし、詩乃(aa2951hero001)や飯綱比売命(aa1855hero001)と家族のように楽しめれば、などとグルグル考えていた。
 それに頓着なく、蛍丸は由香里の手を取る。
「折角の紅葉狩りですので、記念写真でも撮りましょう。飯綱さんと詩乃も一緒に」
 言うや、彼は紅葉の見事な木の下へ三人を誘い、通行人にシャッターを押して貰えるよう頼んだ。
 カメラを返して貰い、礼を述べると、蛍丸は「そろそろお昼ですね」と言いつつ三人の元へ戻る。
「今時分ですと、キノコや栗、柿なんかも実っているでしょうし」
 キノコご飯なんか美味しそうですね、と続ける彼に、由香里も釣られて微笑した。

 昼食時、遊夜はユフォアリーヤと食事処に入り、川に面した席に陣取った。
「赤一色も良いが、黄や橙が入り交じった景色も壮観だな」
 食事しつつ見るのも乙な物だ、と思いながら、遊夜は注文した料理を口に運ぶ。視線の先で、一枚紅葉が舞い、川面へ着水した。
「散った紅葉も風情だなー」
『……ん、紅葉絨毯』
 ユフォアリーヤも、盛られた柿を口に運びつつ、耳を嬉しげに動かす。
 その傍で、刀護と共に同じ食事処に入っていた那智は、「紅葉料理はないのかっ!?」と不満げに唸りながらも、出された料理は「うめーっ!」と歓声を上げて食べていた。

 紅葉並木を歩き始めてから程なく、蜜柑は一人悶々としていた。
 丁度季節とあって、どこを見ても紅葉の木とカップルか夫婦がセットになっている。どうしよう、とオロオロしていると、隣を歩くアールグレイに『どうしましたか?』と声を掛けられる。
「ううん、何でもっ! 紅葉、綺麗だなって!」
『そうですか。うん、確かに。綺麗ですね、蜜柑』
 紅葉が、と付けなかった所為で、蜜柑は自分が綺麗だと言われたような錯覚に陥り、珍妙な悲鳴を上げて真っ赤になった。
 その理由が解らず、アールグレイは首を傾げる。
『大丈夫ですか?』
「う、うん、平気! それより、アールグレイ凄いね」
 深くツッコまれまいと、蜜柑は慌てて話題を転じた。
『何がでしょう』
「デコボコ道でも普通に歩けてるんだなって」
『ああ、山や森の道なら慣れたものですから』
 答えた彼は、蜜柑の話題の転換を、違う意味に捉えたらしい。
『もしかして、足に来ましたか?』
「だ、大丈夫だもん!!」
 大慌てで首を振った蜜柑は、『そうですか?』と言う彼の声を背に、先へ進んだ。

「紅葉は何度見てもいいにゃー♪」
 猫柳 千佳(aa3177hero001)は、ご満悦で紅葉並木の下を歩いていた。
「紅葉の下で宴会とかしたらお酒、美味しそうにゃ♪」
 一方、温泉とバイキングに釣られて参加した音無 桜狐(aa3177)は、どこか浮かぬ顔だ。
 最初は普通に歩いていたものの、疲れて来たので、行動を共にしているセレン・シュナイド(aa1012)をチラチラと見る。
 何度目かで投げた視線は、彼のそれとがっちり絡むが、彼は慌てて口を開いた。
「あ、ダメだからね、桜狐さん。今回は背負わないから自分の足で歩いてね」
 冷や汗混じりの彼が、言うだけ言って視線を逸らすと、桜狐は完全にいじけてしまった。
「ぬぅ、セレンが意地悪なのじゃ」
 彼女の不機嫌をどうにか意識の外へ追いやりながら、セレンは、隣を歩くAT(aa1012hero001)と紅葉を見上げる。
「この後は温泉か……うん、良いなあ。僕、あまり入った事ないんだよね」
「私もあまり経験はないけど……広々とした空間で身体を流せるだけで幸せを感じるものだよ」
「そっか。秋になってすっかり冷えるようになったし、温まりたい」
 紅葉を鑑賞して、良い感じに体が冷えれば温泉が恋しくなるかなぁ? とセレンが呟くのを耳にしながら、ATも前に視線を戻す。
 色鮮やかな景色に透き通るような風が、すっかり深まった秋を感じさせた。
「千佳ちゃんは寒くないかい?」
「大丈夫にゃ!」
「ふふ、では美味しいものを期待しつつ、宿へ向かうとしようか」

『……ユーヤ、宿着いたよ』
「ん」
 昼食後、宿に着くまでのバス中で、膝枕で仮眠していた遊夜を起こし、ユフォアリーヤも降りていく面々に続いて、彼と共にバスを降りた。
 エントランスでは、H.O.P.E.の一行が、部屋割りを話し合っている。
「僕達四人部屋で問題ないよね」
「うん♪」
「私も異論はないよ」
 周囲を見回したATは「何と、バーまであるのか」と目を見開く。
「く、是非行きたいが……」
「流石にバーには入れて貰えなさそにゃね」
 同じくバーを見つけたらしい千佳も、悔しげに呻いた。AT共々、外見はどう頑張っても十代の少女にしか見えないのだ。
「仕方ない、カフェで我慢しよう」
「うん、珈琲でも飲んでまったりするにゃ♪」
「良さげな所だよね……僕は夕食前に露天風呂を体験しちゃおうかな」
 ドキドキしながら言うセレンに、桜狐が「わしも行くのじゃ!」と挙手で同行を告げている。
『俺様達も四人部屋希望で』
 ガルーは、代表で部屋の鍵を受け取って、連れの三人を先導した。
「僕らは特に考えてなかったけど、女の子の英雄と同じ部屋という訳にもいきませんし……」
 次いで呟く蛍丸に、飯綱が「ほほう? 中々大胆になって来たのう」等と面白そうに絡む。自分が言われた訳でもないのに、由香里が過剰に反応して真っ赤になった。
「え、ええ!? 詩乃ちゃんや飯綱がいるし、そういうのは……って、違う! そう、そうよね! だ、大丈夫なんじゃないかしら!」
「え、そうですか? 由香里さん達に預けようかと思ってたんですが、それだとやっぱり狭くなりますかね」
 思索に耽っていたのか、飯綱と由香里のやり取りには気付いていなかったらしい蛍丸が顔を上げた。
「襖でキチンと仕切れる大部屋があったらそうしましょうか」

 刀護と那智は、宿へ荷を置いた後、土産屋巡りをしていた。
 留守番をしている相棒に買ってやろうと物色していると、『これにしようぜー!』と那智が駆け寄って来る。彼の手にしている物を見て、刀護は目を剥いた。
「なぜ木刀!?」
『え、だって嬢ちゃんにあげるんだろ?』
 ならこれじゃん、と自信満々に言う那智に、刀護はいやいや、と首を振った。
「これの方がいいだろう」
 一応相手は歴とした女性だし、と手に取ったのは、白地に紅葉柄の巾着袋だ。
 しかし、レジで支払いを頼むと、店員に「彼女へのお土産ですか?」等とからかわれて、「ま、まあ……そんなものだ」と言葉を濁す羽目になった。

「さぁ、茹だるまで入るぞ」
『おー』
 子供のようにはしゃぐ遊夜に、ユフォアリーヤは小さく笑う。
「あれ、麻生さんもお風呂ですか?」
 すると、露天風呂の出入り口付近で、蛍丸が声を掛けて来た。彼の英雄と恋人とその相棒も一緒だ。
「おう。風呂は癒し、命の洗濯だからな!」
「じゃあ、一緒しましょうか」
「だな。リーヤも女性陣と一緒させて貰いな」
『……ん。宜しく』
 ユフォアリーヤが尻尾を振る頃、合流した桜狐を加えた女性陣が女湯の中へ消える。遊夜達が男湯の方へ入ろうとした所で、男性陣も桜狐と一緒に来たセレンと、買い物を終えた刀護と那智が合流し、やはりゾロゾロと男湯の暖簾を潜った。

「ふむふむ。由香里は去年と比べると結構艶やかな雰囲気が出たのではないのかえ? ちょっと前まではもっと硬そうじゃったがのー。胸とか」
「硬い胸ってどんなのよ……小学生じゃあるまいし……って、詩乃ちゃん達の教育に悪い話しないの!」
 “達”の括りに入れられた桜狐は、頓着する事なく、さっさと身体を流して湯に飛び込んだ。
「はふ、気持ちよくて天国なのじゃ」
 うっとりと桜狐が呟いた頃、壁越しにある男湯でちょっとした騒ぎが起きた。

 湯に浸かった刀護は、湯船の外に視線を移した。景色を見ながらの湯はまた格別である。
 山肌を埋める紅葉、遠くに見える山々、壁の向こうへ必死に首を伸ばす那智――
「って、何をしている!」
 反射で上げた大声に反応したのは、遊夜と蛍丸とセレンだ。しかし、怒鳴られた当の那智は平然としている。
『何って、女風呂覗き』
 その上あっさりと己の犯行を自供し、『覗きは男の浪漫だぜ』と親指を立てて見せる始末だ。
「犯罪だっっ!!」
 遊夜達も総掛かりで那智を壁から引きずり下ろすも、彼も懲りずに隙を見ては壁に張り付く。
 一般客もチラホラいるこの状況では明らかに迷惑を掛けているので、刀護は仕方なく相棒を連行して、早々に湯から上がる羽目になった。
 それを見送った遊夜は、「俺も一旦上がるかな」と呟いて、壁越しにユフォアリーヤに声を掛ける。
「わーっ、黒金さんっ!?」
 直後、背後から上がったセレンの悲鳴に振り返ると、どうやら湯当たりしたらしい蛍丸が引っ繰り返っていた。

「……男湯、静かになったわね」
「何があったのかのぅ」
 由香里と飯綱が湯に浸かっていると、少し遅れて千佳とATが入って来た。
「おお、遅かったの」
「私は夕食後でも良いかと思ったんだけど、千佳ちゃんが入りたいみたいだったから」
「さっき迄カフェでまったりしてたにゃ♪」
 カフェから見える景色も良かったにゃよー、と言った千佳は、肩まで浸かっている桜狐に気付く。
「上せないように気を付けるにゃよ」
「平気じゃ。ずっと入っていたいのぉ……」
「あ、上せたと言えば、黒金君がロビーで伸びてたけど」
「ええっ!?」
 叫んだ由香里は慌てて立ち上がる。
「あ、飯綱はまだいいから! 私、蛍丸くんの様子見に行く!」
 口早に言うと、出入り口へ向かった。続いて、『……ユーヤがもう上がるって言うから』とユフォアリーヤもその場を後にする。
 彼女らの背を横目に、ATは千佳と桜狐に向かって「背中流してあげようか?」と声を掛けた。

「……そう言えば、前回もこうして膝枕してあげなかったけ? もう、進歩ないんだから」
 蛍丸の頭を膝に乗せた由香里が、彼を団扇で扇ぐ横で、遊夜はユフォアリーヤの髪を拭って梳きつつ、土産の相談をしていた。
「やっぱり、食いもんの方が良いよな?」
『……ん、ご当地商品が狙い目』
 子供が28人もいるので、物だと嵩張る。
 郵送を済ませたらまた温泉に入りに来る事にして、遊夜とユフォアリーヤは宿内の土産屋に足を運んだ。

 夕飯迄温泉に入っている気満々だった桜狐は、千佳に無理矢理引っ張り出されて若干むくれていたが、食堂へ入ると忽ち目を輝かせた。
「これが全部食べ放題とは、天国のようじゃ……セレン、あちらに美味しそうなものがあるのじゃ!」
 油揚げ系を多めに確保した桜狐は、幸せそうにそれらを頬張った。彼女と、セレンの負けない食べっぷりに圧倒された千佳は、「何度見てもあの体の何処にあの食事が入っていくのか謎だにゃ」と汗を掻いている。
 二人に負けず劣らずの勢いで、主に肉料理を取り、尻尾を振っているのはユフォアリーヤだ。
『……ん、美味しい。これも、美味しい……幸せ』
 他方、遊夜・ユフォアリーヤと共に食堂を訪れた紗希も、食欲の秋故か暴食JKと化し、ギラついた目で料理を物色していた。
『あんま食い過ぎると又体重計の上で絶叫するぞ』
 呆れて諭すカイに、「いいの! 明日からちゃんとすれば!」と言いつつ、端から料理を皿に装う。
 ローストビーフやステーキ、焼き肉にハンバーグ、照り焼きに生姜焼きに手羽先――もう堪らん!
 あれも、と目に付いた唐揚げに伸ばした手が、ユフォアリーヤのそれと触れ合う。自然目も合った瞬間、乙女達のフードバトルのゴングが何故か響き渡った。
 無言で料理を食べ狂う二人に、「やれやれ」と遊夜は肩を竦める。
「若いって良いな」
 溜息と共に、カイの前に腰を下ろすと、彼も嘆息した。
『二人共、花も恥じらう乙女なのに、こんな事で張り合うとは』
「さて、どっちが勝つのやら」
 と零し、遊夜はバランスよく盛った料理を摘む。カイも熱燗にツマミ的な物を口に運びながら、遊夜と談笑した。
 暴食女子達に触発されたのか、那智まで皿に料理を載せまくって来たので、刀護は今日何度目かで目を剥く。
「色々食べられるのが良いが……そんなに食えるのか?」
 無言で親指を立てた那智が、刀護の予想通り胃凭れでダウンし、宿の人に胃薬を頼む羽目になるのは、程なくの事だった。

 夕食後、部屋風呂でフードバトルの勝敗と愚痴、紗希の食べっぷりを楽しそうに話すユフォアリーヤの髪を洗いながら遊夜はのんびり湯に浸かっていた。
「随分と仲良くなったもんだなー」
『……ん、ライバル……明日は負けない』
 鼻息を荒くする彼女の、この細い体の何処にあれだけの量が入るのかは、永遠の謎になりそうだ。
 彼女の髪に付いた泡を洗い流すと、遅くならない内に出ようと促した。

「かんぱーい!」
 温泉から上がったリュカとガルーは、酒の入ったコップを、ぶつけ合った。
 パジャマならぬ、浴衣パーティーの始まりだ。
『って、今開けた地酒とお菓子、土産に買ったんじゃないの』
「明日もう一度買えばいいよ!」
 金払ったの俺様だよな? とガルーは肩を落とす。
 その横で、今日はもう少し起きていたいとパーティーに加わり、オレンジジュースを口に含んだ征四郎は、広げられた菓子を一つ摘んだ。
「あ、リュカ、このお菓子美味しいですよ!」
「本当だ。結構お酒に合うねぇ」
「これと、これは第2英雄達にお土産なのですよ」
『こういう旅行も良いもんだな。最近家で集まる時は六人だし、このメンバーで連むのも久し振りか』
『まぁ、結構頻回にこういう依頼も行ってるが、な』
 ボソボソと言うオリヴィエに、ガルーは目を細めた。
 当初に比べたら、征四郎は明るく、オリヴィエも穏やかになり、変わった部分も大きい。が、喜ばしい変化だと思う。
「ここの温泉も良かったよねぇ。椛が綺麗に見えたし」
「また皆で来たいです」
『まあ、悪くは、なかった。それより、リュカもガルーも飲み過ぎるなよ』
『そう言うリーヴィは食が進んでないみたいだが』
「元々少食なんだよ。バイキングでは頑張ってたみたいだけどね」
 夕食も美味しかったよねぇ、と続けたリュカに、皆が相槌を打つ。
 そうして夜も更ける頃、征四郎がウトウトと船を漕ぎ始め、菓子も減っていた。
『じゃ、食料の買い足しに行ってくるわ』
『……まだ足りないのか』
 呆れ顔のオリヴィエを引っ張って、ガルーが立ち上がる。
『夜風にでも当たってこうぜ。月が見えるかも知れない』
「気を付けて」
 半ば強引に引きずられる相棒とガルーを見送って、リュカは溜息を吐きつつ「……色々と」と意味ありげに付け加えた。
 扉が閉まると同時に、肩先に重みを感じる。普段が早寝早起きの現役小学生は、半ば寝掛けていた。
「せーちゃん。寝るならお布団行かないと風邪引くよ? 歯磨きもしないと」
「ん……きょう、は、とっても、楽しかった、のです……」
 寄り掛かるリュカの温かさに幸せを感じつつ、見当違いな返事をし、征四郎は夢の中へ転げ落ちた。
 この日々が、ずっと続くように願いながら――
 仕方ないなと呟いて、リュカは手近にあった掛け布団を引き寄せる。彼女の使う分は、男性陣のものと、衝立を隔てた更に向こう側にあるが、未使用だから構わないだろう。
 彼女を布団で包み、体ごと膝に乗せようとして、それは少々無理がある事に気付く。
「……早いなぁ」
 いつの間に、こんなに大きくなっていたのだろう。嬉しいような少し寂しいような、複雑な気分を覚えながら、リュカは彼女の頭だけ膝に乗せ、そっと撫でた。

『気持ちよかったですね、蜜柑』
 温泉の感想を天然な口調で漏らすアールグレイの横で、蜜柑は湯冷ましからは程遠い妄想をしていた。
 壁一枚隔てていたとは言え、その向こうに彼がいた――と思うと、顔から火でも出そうだ。
『……蜜柑? もしかして、長湯し過ぎましたか? 泊まる部屋で休みますか?』
「お泊まり……アールグレイと……」
 更にブツブツと独り言を繰り返した挙げ句に、蜜柑は鼻血を吹いて引っ繰り返る。
『蜜柑!?』
 咄嗟に抱き留めた彼女は、そのまま夢の中へ入ってしまったらしい。
『やれやれ。完全に上せてしまいましたか』
 上せたのは自身の妄想にだが、そんな事は知る由もないアールグレイは、軽々と彼女をお姫様抱っこして部屋まで運んだ。
 それを見ていたATに、翌日朝食の席で散々からかわれ、悶える羽目になるのを、爆睡済みの蜜柑は知る由もない。

 その頃、セレンは部屋で風呂に入り直していた。ATは、温泉にもう一度行くと言っていたが、そろそろ戻る頃合いだろう。
 と考えていると、不意に風呂の扉が開いた。
「え、桜狐さんも一緒に入るの?」
「うむ。就寝まではまだ時間があるようだからの」
 タオルを巻き付けた格好で、桜狐は躊躇いなく湯を浴びる。
「そう……って、ええええ、何で!?」
「何を赤くなっておる?」
「いや、ちょ、きゃあ! 問題あるよ!」
 僕上がるからっ! と碌々体も拭かずに飛び出すと、丁度部屋へ戻ったATと鉢合わせた。
「どうした」
「え、あの、桜狐さんがお風呂に」
「ああ、入り直すのか。で、セレン何でずぶ濡れ?」
「今僕入ってたの!」
「ありゃ、ご愁傷様」
「よくよく考えたらこの部屋で男の子、僕一人だけなんだよね……」
「何だ、今頃気付いたのか」
 ふふっ、と笑うATを横目に、セレンは気恥ずかしさで頭を抱えた。

 店仕舞いが始まっている土産屋の通りや、ライトアップされた紅葉並木に、オリヴィエが履いた下駄の音が、からころと響く。
 肌寒い空気に、うなじを気にしつつ頭を上げると、ガルーの言った通り月が浮かんでいた。
『ああ、ほら、月、見えたぞ』
 言うと、ガルーも『そうだな』と相槌を打つ。
『よかったな、満月だ。椛と被さって綺麗だな』
 珍しく口数の多いオリヴィエに、ガルーは微笑した。依然、ものの“綺麗さ”は理解できないけれど、月を眺めて思う。
『確かに、あれは綺麗だな』
 お前のその目と、同じ色だ。
 そう付け加えて、見下ろした視線が、オリヴィエのそれと絡む。すると、彼は慌てて目を伏せるようにして逸らした。
 まあな、と、言葉を重ねてぼやかす。別に、昔の文豪の英訳に頼った訳ではないし、その言葉以上の意味など無い。必死に自分に言い訳しながら、オリヴィエは暫し無言になった。

『おい! 何だよこの仕打ち! 旅行に来てこんなんアリか!?』
 割り当てられた部屋の中で、簀巻き状態で転がされたカイは、ジタバタと暴れながら同室の少女に噛み付く。しかし、紗希は悪びれずに、パンパンと手を叩いた。
「未婚の男女が同じ部屋なのに、お布団並べて寝るなんて有り得ないでしょ?」
『勿体無いから同室にしようっつったのはマリじゃねーか!』
「誰も一緒に寝ようとは言ってません。明日は六時半には起きてね、お休みー」
 一方的に告げると、理不尽だ! と尚も言い募るカイを無視して、布団へ潜り込む。
『だったらせめて幻想蝶に入れろ!』
 並べて寝なきゃいいんだろ、と続いた言葉を、紗希は既に聞いていなかった。

 皆が寝静まった後、浴衣に丹前を羽織った格好で、由香里は縁側で月を見ていた。
「隣、いいですか」
 眠る相棒達に配慮した、低く押さえた声に振り向くと、蛍丸が微笑してそこに立っている。小さく頷くと、彼は向かいの椅子に座った。
「お月見をしたり紅葉を愛でたり、誰かと親しくなれたりって……昔はこういう日常が自分にあるなんて、想像できなかったな」
 由香里は、月に視線を戻して、「私、最初に会った時と比べて変わったでしょう?」と続ける。
「自分でも“普通”になったと思うし……昔より利己的にもなったと思う。でも、それでもいいの。昔程強くないし、大切なものを喪うのは怖いから……」
 無茶しないでね、と向けられた切なげな瞳に、蛍丸は胸を突かれた。彼女には心配を掛けてばかりで、申し訳ないと思う。けれど、敢えて笑顔を向けた。
「大丈夫ですよ、これからも頑張っていきますから!」
 彼の手の温もりが触れて、由香里は泣き笑いのような微笑を浮かべる。
「さ、もうお布団に入って下さい。夜風が冷たいから風を引きます。襖越しに眠るまでなら、お話聞きますから」
 ね、と優しく促され、由香里はまた一つ頷いた。

 各々がそんな風に、思い思いの夜を過ごす中、刀護もご多分に漏れず、一人バーにいた。
 誰かがいたら、一緒に飲もうと思っていたが、皆それぞれに過ごし方があるのか、誰も来る気配はない。
 閉店を告げるバーテンダーに一つ頷いて、刀護は席を立った。

 翌日、朝一番に起きたのは、ATだった。セレンと千佳は、相前後して六時半頃起床したが、朝食十分前になっても桜狐が起きる気配がない。
 千佳とATにじっと視線を注がれたセレンは、「え、何……僕が起こすの?」と眉根を寄せた。が、放って行く訳にもいかず、仕方ないなぁと揺り起こす。
「桜狐さん、朝だよ」
「ん、分かっとる……眠いのじゃ……ぐぅ」
「朝食、食べたくないの?」
「食べたい……けど、眠い……」
 梃子でも動きそうにない桜狐を、結局セレンが背負う羽目になった。

 一方、那智も時間ギリギリまで眠っていた。
「遅れたらメシ抜きだぞ!」
 という恐ろしい宣告に、『マジ勘弁!』と半泣きになりながら飛び起きる。滑り込みで食堂に駆け込んだ時には、夕食時の決着を付けるべく、乙女達のフードバトル二回戦が始まっていた。
 朝から有り得ないハイスピードの食欲を見せる紗希とユフォアリーヤは、朝食時間が終わる頃には互いの胃袋を認め合い、奇妙な友情が芽生えていた。
「ま、似た者同士だしな……友人ができるのは良い事か」
『……ん、親友』
 グッと親指を立てるユフォアリーヤに、紗希も同じ仕草をして見せる。その傍で、昨日の胃凭れの学習からか、取る量は控えめながら、全種類制覇を成し遂げた那智が、満足げに「御馳走様」と手を合わせた。

 朝食後、刀護と那智は、宿の土産屋で時間を潰す事にした。温泉饅頭でも買うか、と手に取って見ていると、「クラスの友達にお土産買ってく!!」とはしゃいだ声の主が店に入って来る。
『ああ、それはいい事です』
 蜜柑と、彼女に忠実な執事のように付き従う、アールグレイだ。
「むー、何かどこでも売ってそうなお菓子が一杯あるわねー」
『まあ、結局同じようなものになってしまうのかも知れませんね』
「んー、どうしようかなー」
 端から見ると、まるきり買い物に興じる恋人同士だ。
『……あの二人、デートしてるみたいだな』
 ボソッと言う那智に、「本人に余計な事を言うなよ」と釘を刺したが、それを全く無視した彼が蜜柑を真っ赤にさせたのは、帰りのバスでの話だった。
 そして今、悶える彼女を放置し、那智と刀護は二人揃って爆睡している。
 紗希やカイを含む、殆どの者が、来た時同様バスに乗って直帰コースを選んだ。
「疲れてるなら寝てていいですよ」
 着いたら起こしますから、という蛍丸に甘え、由香里も彼の肩を枕に微睡む。
 静かなバスの車内に暫し、詩乃と飯綱が写真を前に、ヒソヒソと旅の思い出を話す声が、密やかに響いていた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • きゃわいい系花嫁
    夢洲 蜜柑aa0921
    人間|14才|女性|回避
  • 天然騎士様
    アールグレイaa0921hero002
    英雄|22才|男性|シャド
  • マグロうまうま
    セレン・シュナイドaa1012
    人間|14才|男性|回避
  • エージェント
    ATaa1012hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃
  • 狐は見守る、その行く先を
    飯綱比売命aa1855hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • 愛しながら
    宮ヶ匁 蛍丸aa2951
    人間|17才|男性|命中
  • 愛されながら
    詩乃aa2951hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • アステレオンレスキュー
    音無 桜狐aa3177
    獣人|14才|女性|回避
  • むしろ世界が私の服
    猫柳 千佳aa3177hero001
    英雄|16才|女性|シャド
  • その背に【暁】を刻みて
    東江 刀護aa3503
    機械|29才|男性|攻撃
  • 最強新成人・特攻服仕様
    大和 那智aa3503hero002
    英雄|21才|男性|カオ
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