本部

レッツ・鹿肉!

霜村 雪菜

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/11/14 20:38

掲示板

オープニング

 秋である。人里の畑でも野菜や穀物、果物の収穫が一斉に行われる。海の幸、山の幸もおいしくなり、まさに食欲のシーズン到来。各地で食をテーマにしたイベントや祭りが多く開かれる時期でもある。
 しかしそれは、野生動物たちにとっても恵みである。少し前までは自然界の恩恵と微笑ましく見守っていた営みは、今や人間の生きる領域を脅かしつつある。
 熊や鹿が、山に生える木の実や木の皮を過剰に食べてしまうこと、つまり食害が問題として取り上げられつつある。特に鹿は天敵がいないせいで増えすぎてしまい、彼らに皮を食べられた樹木が弱って枯れてしまうというのが山の管理を司る人々を悩ませている。さらに、食べ物がなくなって人里へ降りてきて、線路に侵入して列車の運行を遅らせたり、道路に飛び出してきて車と事故を起こしたり、問題や危険はたくさんあるのだ。
 それを解消するためにも、生態系を崩さないためにも、ある程度間引きをする必要がある。平たく言えば、狩るのだ。ハンターの皆さんは山へ入って鹿を取り、角や毛皮、肉を加工して利用する。
 だが、日本においていまいち鹿のジビエ料理は認知度が低い。スーパーなどで売りに出しても調理法がわからないという人が大半だ。鹿肉は野生のものなので臭みもあり、下処理の手間を考えて尻込みしてしまう人もいる。
 そこで、H.O.P.E.支部の付近の商店街では、鹿肉販売促進フェアとして「鹿まつり」を開催することにした。鹿肉料理の作成とレシピの公開、試食を目的とした催し物だ。支部からもせっかくだからと参加を表明した。地域住民との友好な関係を保つためというのはもちろんだが、他にも理由がある。
 なんと、つい最近エージェントたちが倒してきた従魔に巨大鹿がいたのである。倒した後、大半は戦闘に参加したエージェントとその友人知人でおいしくいただいたらしいのだが、まだ二十キロほど肉があるので、よかったらイベントで使ってほしいということだった。
 せっかくなので、是非有効においしく調理してみよう。調理法、レシピは自由。肉を使い切ればいいので品数も自由。ただし、お客さんに食べてもらうためのものだということも忘れずに。

解説

●目的
 鹿肉調理イベントに参加します。鹿肉二十キロほどを使います。

●料理について
 肉を使い切るのが第一なので、品数は自由。レシピや調理法も自由。ただし、お客さんに食べてもらうイベントであるため、同じ料理をたくさん作らなければなりません。二十キロの肉でどれだけうまく回せるかがポイントです。

リプレイ

●鹿肉Day~準備編~
 木霊・C・リュカ(aa0068)とオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は、鹿肉を調理場に並べている。今日はイベントの四日前だが、事前にベーコンに加工するのである。ピザの材料として使うのだが、お土産用にも少し分けておこうと考えている。
「うんうん、凄くお腹の空く香りがしてきたよ!」
「どうせ酒が飲みたいとか、考えてるんだ、ろ」
 リュカは調理はあまり得意ではないので、調理器具・燻製用器具・移動可能なの小さなピザ用釜を幾つかと、肉以外の材料の確保、および試食配布時に使用する紙皿やお手ふき等の手配を担当することにした。極力材料の余剰が出ないよう、しっかり計算している。
「せーちゃん達は調理に集中してていいよ。お兄さん食べるの楽しみにしてるからさ~」
 と、にこやかに話しかけた相手は、紫 征四郎(aa0076)とガルー・A・A(aa0076hero001)だ。
 ベーコン作りは、ガルーの担当である。
「ベーコンなら桜のチップが基本だ。塩抜きはしっかりな」
 鹿肉は臭いがあるので、しっかりと下処理をしなければならない。ガルーは実は料理は得意だが、神経質で調味料を逐次計らないと進めなかったりするので時間がかかる。今回は、力仕事になる吊るしや、火を使う燻製の作業をメインに行うことになっていた。
「ベーコンにすれば、生より保存も効きやすい。個包装すれば持ち帰りとしても出せる」
 オリヴィエも調理を手伝う。肉の捌き、下ごしらえ、塩抜きなど担当だ。味付けは塩胡椒を少し強めにきかせた物と、スパイスとハーブを強めに効かせた物と味を分ける。燻製の手順等はガルーと共同して行っていたのだが……。
「……手慣れてる、な?」
「一応ざっと作り方は調べたが、前にもやったことがある気がするな。前いた世界のことかもしれん」
 鹿肉や兎肉は何故だか少し懐かしい味がするような気がするガルーである。感慨深げに作業を進めるガルーだが、その手さばきは実に鮮やかだ。オリヴィエが、思わず見とれてしまうほどに。
「鹿さん、可愛くかけました!」
 征四郎は、お土産ベーコン用に小分け袋を用意するのと、鹿肉ベーコンラベル作成担当だ。クレヨンでカラフルに描いてコピーする。それと一緒に、簡単な食べ方諸注意の紙を一緒に入れる予定だ。温かいうちに食べるのがオススメ、など、細やかな事柄が書かれている。
 鹿肉はそれほど市場に出回るような食材ではないため、食べ方がわからずに手を出すのをためらってしまう人も多い。昨今鹿による食害が深刻になっているので、食べて消費するというのは一石二鳥の策なのだが、まずは一定の購買層を獲得しなければならない。そのためには、供給する側からの気配りも欠かせないのだ。
 征四郎が得意げにラベルを掲げてくるのを、リュカはにこにこと見守った。こんなかわいらしい工夫がされているのだから、当日は大成功間違いなしだ。
 鹿肉は、二十キロほど。今回のイベントで調理側として参加するエージェント達で必要なだけ分け合って、当日までにおのおのの料理のために準備を行うことになっている。まず血抜きなどで臭みを消すのが基本だが、ここに一組、ちょっと珍しい準備をしている者達がいた。
 染井 桜花(aa0386)とファルファース(aa0386hero001)。作っているのはなんと、鹿の削り節である。
 鰹節の鹿版であるが、開発したのは西洋のシェフであるという。鹿肉の栄養素やうまみ成分を凝縮し、味わいを増加させた超食材だ。この鹿節で出汁を取り、おでんを作るのである。
 鹿節は、鰹節と同じで燻すことで作成する。燻す時間は二時間ほど。あとは冷蔵庫で二日間熟成させる。手間暇と時間を惜しまないことが、おいしい鹿節を作る秘訣だ。魚の削り節よりも味が強く、うまみが他の食材でかき消されないので、西洋料理の出汁として最適なのだそうだ。
 鹿肉と燻す環境さえあれば一般のご家庭でも十分作れるので、鹿節の作り方も料理のレシピと一緒に添えることにする。初心者でも安心のわかりやすさとコツなどを、イラストも交えて記載する。見た目にも楽しい。
 麻端 和頼(aa3646)と華留 希(aa3646hero001)は、シチュー用の肉は臭みの多い内蔵傍を避け牛乳に付け柔らかくするような下処理を施し、ステーキ用は多少の歯ごたえを楽しむ為ヨーグルトに漬け臭み抜きをした。衣装も、和頼は執事服、希は見えそうで見えない超ミニ改造メイド服着用予定という気合いの入りっぷりだ。
「鹿肉祭り……か」
「鹿まつり、だヨ! それにお客さんに出すんだカラネ! 食べちゃダメだヨ」
「わ、わあってる!」
 鹿肉食べ放題と勘違いして参加した和頼は少々不満げだが、ジビエ料理は得意なので大人しく振る舞うことに専念しようと思っている。素早く大量に捌けるよう応用が効く料理を数品提供することにして、相談の結果ステーキとシチュー、余ったらそれでパスタソースにアレンジという臨機応変のメニューに決めた。
「山の幸パーティ!」
「うむ、いつも頭がお祭りなのはちょっと尊敬に値すると思えてきたよ」
 餅 望月(aa0843)、百薬(aa0843hero001)は、数々の従魔料理を作ってきたエキスパート(?)。今回も当然普通に調理するのである。
「なんとエージェントが倒してきた従魔の鹿肉だよ」
「なんと、って言うほどの驚きがもはや感じられないのが、ともかくありがたく頂こうか」
 従魔は倒すべき敵ではあるが、従魔になってしまった動物には罪はない。その肉を無駄にせず明日の養分としておいしくいただくのも供養。
「ここは、ハンバーグだね」
「みんな大好きハンバーグ!」
「うん、みんなのアイデアも参考にして、ひき肉担当仲間であらびきにしようか」
「ばらばらのミンチにしてやるよ」
「そのまんまだよ」
 鹿肉と他の肉を合わせることで、味わいが変わる。子供も食べやすいし、調理もそれほど大変ではない。
「お肉は合挽きがいいかな、味を整えやすいし」
「前にも巨大なお肉やっつけたしね」
「あれはさすがにもう残ってないでしょ」
 着々と準備は進んでいる。当日が楽しみな鹿まつりであった。

●鹿まつり開始
「わ! オイシソーだネ! 一口チョーダイ♪」
 イベント開始の少し前から、調理と仕込みは始まっている。希はメイド服で他のメンバーの手元をのぞき込み、いろいろ話しかけている。手際よく調理する和頼の側で手持ち無沙汰なのだ。
「ほわ~! スゴいアイディア! よく思い付いたネ!」
 事前に相談もしておいたので、メニューはなるべくかぶらないようになっている。おかげでバリエーション豊富になった。鹿肉でこれほどの料理が出来るのかと彼らも驚いたくらいだから、お客さんはもっとびっくりだろう。それを考えると楽しみだ。
 やがて開始時間となり、お客さんがぞろぞろと会場へ入ってくる。いい匂いがあちこちから立ちこめて、作る側もお腹がぐうと鳴る。
「……お肉二十キロ? この人数で足りるのかしら……?」
 お客さんの入りを見て、シャルボヌー・クルール(aa3601hero001)が心配そうに呟く。
「ママ! 人間は食い溜めしないで毎日三回ごはんを食べるんだって!」
 突っ込みを入れたのは真白・クルール(aa3601)。
「あ、そうだったわね!」
 うふ、とほおを染めるシャルボヌー。山育ちであまり人間の生活に精通していないが、最近多少は覚えた。今日のイベントも、人間の暮らしに慣れていくための大切な修練の一環である。
 作る物は、鹿肉のそぼろ煮の三色丼。ついでに豚汁ならぬ鹿肉汁を用意する。料理に備えて料理本を準備し、料理前にご飯を炊いておいた。ご飯と汁物。基本中の基本にして定番である。
「え、とね、まずお肉をミンチに……みんち? ひき肉、だったかな?」
「それなら、ママに任せて!」
 シャルボヌーは両手に包丁を持ち、肉の塊をあっという間にひき肉ほどに細かく切り刻んでいく。
「さすが、ママ! すっごーい!」
 何かがちょっと違う気がするけれど、ミンチになったので二人にはいいらしい。豪快な調理法に、通りがかってその様子を目撃したお客さんも目を丸くしている。
 その肉に火を通し、砂糖、醤油、味醂を入れて煮詰める。水分が飛んだら砂糖、塩で味を整えて、そぼろ煮の出来上がり。
 その間に真白も卵を溶き解し、砂糖と塩で味付け炒り卵を作り、さやえんどうの筋を取り茹でて細切りにしておく。
「……んーと、これでいいのかな?」
「そうねえ……後はご飯に乗せれば完成ね」
 微笑ましい母子の料理風景と、おいしそうな匂い。どんどん見物が集まってくる。
 鹿汁は、肉を一口大にスライスし沸騰したお湯に酒を入れ肉を入れ、火が通ったら取り出しざっと流して灰汁を取る。鍋に味噌と出汁汁と生姜、大根と人参を入れて火に掛け、沸騰したら玉ねぎと肉を入れて一煮立ちさせる。シンプルだが栄養満点、身体も温まる。
「うん! どっちもとっても美味しい! やっぱりママは料理上手だね!」
「まあ、真白ったら……」
 味見役の真白はご満悦だ。そして、真白が食べているのを見て空腹を押さえられなくなったお客さんから、次々とそぼろ丼と鹿汁を求める声が上がり始める。
 たちまちてんやわんやになり、母子は料理を振る舞う方で大忙し。他のメンバーも似たような状況のようだ。
 真白はだんだんお腹がすいてきたが、食べてしまうと振る舞えないので必死で我慢。そんな真白を不憫に思う母は、作業の合間を縫ってこっそり囁いた。
「……真白、ここはママがやっておくから、真白はお客さんのフリをして食べてらっしゃい」
「え? で、でも……」
「後で、ママと交代ね」
 にっこり笑いかけると、真白も満面の笑みで頷く。
「うん! ママありがとー!」
 真白は嬉しそうに調理スペースから飛び出し、みんなの料理を感激しながら頂くのであった。
 リュカは、一所に座って注文、ピザの引き渡し等の事務仕事系を担当している。注文数とピザ・ベーコンの在庫の数は細かく管理し、無くなったらすぐ受付を終了できるようにしておくのだ。結構これは大変である。
 時間の経過とともに忙しくなってきたが、途中他の人の作成した料理をもらいに行き、働いている三人の分ももらってとっておくのも忘れない。
「ふふーふ、ビール欲しいなービール」
 そして自分もしっかり食べるのを忘れない。だっておいしいから。
 オリヴィエは、調理担当。注文を受ける度ひたすら征四郎が作ったピザを焼いていく。基本的に火の様子や焼き加減に気をかけるが、手があけば調理の方も手伝うという気配り上手。
 手が空いたら、ガルーの作成したパイや、希作成のステーキなどをつまみ食いさせてもらう。
「……ん、おいしい、な。あっさりしてて、食べやすい……」
 鹿肉は下処理が大変だが、味自体はそれほど濃くない。豚肉よりもこくがあるが、牛肉ほどくどさはない。強いのは、旨み。そして牛肉よりもヘルシーなのに鉄分が豊富。特に女性にはありがたい肉なのである。
 ガルーは、ミートパイを主に担当している。何層も重ねて練ったパイ生地で中身を包み焼いたもので、歩きながら食べやすいサイズだ。
「H.O.P.E.パイと名付けましょう!」
「それは許可取らなくて大丈夫かね」
 H.O.P.E.パイは、二種類用意した。白いのはベーコンの味を楽しむあっさりポテトフィリング、赤いH.O.P.E.パイは、子供も食べ易いチーズとピザソース。白にはスパイスハーブ、赤は塩胡椒のベーコンをどちらも厚めに切ってごろごろ入れる。おいしく出来た鹿肉ベーコンが、どちらでも違う風情で楽しめるようになっている。
 征四郎は、ピザを作る。
 トマトベースのピザソースとホワイトソースを準備。具はたっぷりの厚切り鹿肉ベーコンに、チーズ、ポテト、トマト、キノコなどだ。ソースのハーフ&ハーフや具の増量などの注文も聞いて、一つ一つ窯で焼いて貰う。
「オリヴィエ、追加です! これも焼いてください!」
 注文はどちらの種類にもひっきりなしにやってきて、窯はフル稼働だ。オリヴィエも料理を食べつつ額に汗して大忙しである。
 そんな中でもガルーは、客が途切れたらオリヴィエにちょっかい出しに行ったり、炙ったベーコンを味見させたりしている。
「お前さん、ちゃんと食べれてるか? ほら、あーん」
 かりっとしたおいしいベーコンをもぐもぐするオリヴィエ。おいしいことは幸せだ。

●おいシカった。シカだけに。
 桜花は、ぐつぐつとおいしそうに煮えている鍋の中から出汁を小皿にすくって一口。
「……良い出汁が出てる」
「……先日作っていた物は……この為ですか?」
「……うん。……鹿節と言って……乾物の一つ」
「……なるほど」
「……具……食べてみて」
「……はい」
 桜花が小皿に取り分けてくれたおでんの具を、恭しく受け取り食べるファルファース。無事に完成した鹿節の出汁は、魚介の削り節より旨みと存在感が強い。それでいて臭みなどがなく、とても食べやすいのにこくがある。
 薄口醤油などの調味料で、そんな鹿節の風味を殺さない様に調味した。具材は、ハンペンなどの一般的なおでんの食材からじゃがいも、巾着煮(餅、うどん、自然薯のすりおろし等)、その他様々なものを具にする。鹿肉も同様に具にしているが、角煮、スペアリブ、筋肉の串差し煮込みなどなど、単調にならないように工夫している。
 寒い日は煮込みが恋しくなるし、見たことのない鹿節のおでんとあって、会場からの反応は良好だ。食べた人からの感想も好評のようだ。
 もう一品、鹿肉シチューも作っている。煮込み料理だがこちらは洋風。テイストの違いで両方食べても飽きさせないのだ。
「……シチューも出来た……ファル……味見して」
 味見してから、ファルに小皿を渡す桜花。やっぱりありがたく受け取るファル。
「……頂きます……ご飯が欲しくなりますね……後……付け合わせにパスタとかも……よさそうです」
「……オーブンが使えれば……ドリアも良いかもしれない」
「……それも良いですね」
 人参、玉ねぎ、じゃがいもなどの食材を一口大にカットし、鹿肉は、調味料で下拵えをしておく。用意した大型圧力鍋を使用し、肉をまず投入、次に玉ねぎを入れて飴色になるまで火を通す。最後に残りの野菜の順で鍋に入れて炒めた後、圧力をかけて煮込む。ルーはデミグラスベースの、ブラウンルーで仕上げる。メインが肉なので、ホワイトシチューよりこちらの方が旨さが引き立つ。
 おでんにシチュー。寒い季節の温かい料理は人々の胃の腑をほかほかに満たした。肉の下処理さえクリアすれば家庭でも作れるものなので、レシピに興味を持つ人も多かった。そういう人達のためには、料理と一緒にレシピも配る。配布時に調理時のコツや、鹿節を作る際の注意点なども伝える。
「……こんな感じに……すると良い」
「……お待たせしました……どうぞ」
 幸いオーブンも無事使わせてもらえることになったので、ドリアにもアレンジしてみる。これもまた大好評を博したのであった。
 さて、和頼と希も、今回はメニューでシチューを取り入れている。
「お帰りなさいマセ、ご主人サマ♪」
 猫耳と尻尾を動かし笑顔で接客対応する希。
「……まともに接客出来るんだな……」
「失礼ナ! やってみたかったんだヨネ、メイド風接客♪」
 調理が終わった和頼も、無理やり執事服を着せられ執事風接客をさせられる。出来ればうまいこと回避したかったのだが。
「……客はオレが執事やっても嬉しくねえだろ」
「和頼にはとっておきの恋人がいるくらい魅力があるみたいダシ?」
 うっと言葉に詰まる和頼。彼女にはこんな格好を見せられないと赤面しながら、渋々接客するのであった。しかし本人の思惑とは別に、執事接客は特に女性陣に大人気だったりする。
 メニューは二品、ステーキとシチュー。ステーキは、鹿肉に岩塩と黒胡椒、ローズマリーをかけオリーブオイルで焼くシンプルなものだ。肉が焼き上がったら先にフライパンから取り出し、そこに酒、砂糖少々、鶏ガラのだし汁と玉葱と大蒜の磨り下ろしを加え少し煮込みステーキソースとして掛ける。
 ローズマリーは臭みをとる効果があるので、西洋では昔から肉・魚料理に使用されるハーブだ。香り付けにもなって食欲をそそる。素材のおいしさを生かす味付けで、とてもおいしいステーキに仕上がった。
 シチューの方は、まず肉と人参、玉葱、大蒜、セロリ、長葱の葉を同じ大きさに切った物に塩胡椒しオーブンで焼く。それを鍋に入れ、トマトと赤ワインと水を入れ煮込む。しばらくしたら野菜屑を取り出して、切った人参、馬鈴薯、ケチャップを入れまた少し煮込み、醤油、塩胡椒で味を整え、器に入れたら生クリームを垂らし細かく刻んだパセリを少量乗せ完成だ。持ち歩きできるように、生クリームはコーヒー用のポーションも用意している。さらに、余ったらパスタソースにし提供できるよう、乾燥パスタも持ってきている。
 トマトの酸味が野菜の出汁と調和し、鹿肉の味わいを引き立てる。赤ワインでちょっと大人の味付けになっているのもよかったのか、「酒と一緒に食べたい」などの声がちらほら聞こえていた。確かに合いそうである。
 こちらは、無事に合挽肉が出来てハンバーグの種を作っていく望月と百薬の二人。混ぜるという作業が実は結構力がいる。
「シェフの腕前でぱしぱしやって空気抜く?」
「いや、そんながんばらなくて、百薬も言ってたように山の幸勝負だよ。たまねぎ以外に秋の山菜やきのこも細かく切って混ぜ込むよ。二口くらいで食べられるお弁当箱に入りそうなサイズでたくさん作るから百薬も手伝いなさい」
 小さめにハンバーグの種を丸めていくと、かなりの量ができた。
「ソースは濃い目に、市販のウスターソースとケチャップを混ぜたらいいかな」
 味にパンチの効いた鹿肉が入っているので、濃いソースでも引き立つ。味付けがしっかりした西洋料理で高級食材として使われるほどの肉だから、むしろ濃い目のほうが合うかもしれない。
「さて、作れるだけ作って配膳したら、みんなの料理も楽しむよ」
 小さなハンバーグは、焼いて盛りつけてしまえばむしろ会場を自分たちで回って配って歩く方が効率がいい。二人は大きなお盆にいくつもハンバーグの小皿を載せ、希望するお客さんに配る。その途中で他の料理のコーナーへ行き、料理を楽しんだ。
「素材の味を生かしたジビエも絶品だよ」
「米との相性もいいね。家でのごはんにも活かせるかな」
 鹿肉というまだポピュラーではない食材の、予想外のレシピレパートリーの豊富さに舌鼓を打つ望月と百薬。それはお客さんも同様だったようで、教えてもらった鹿肉活用法を熱心にメモしたり、配られていたレシピを集めて回る人も多い。
 イベントは大盛況。鹿肉消費および販売促進という目的は、成功したようだ。
「人がいっぱいで凄かったね!」
 ぼちぼち終了時間が近づいて、だんだん人が少なくなる会場で真白はしみじみと言った。お腹はいっぱいである。どの料理もとてもおいしかった。
「お料理も皆上手だったし、ママも見習わないと」
「え? ママが一番上手だよ!」
「まあ! 真白ったら……」
 どこまでも甘々親子だった。二人でたくさんおいしいものを食べられたし、今日は楽しかった。また一つ、いい経験が増えたと思う。
「今度は、熊だね」
「とりあえず従魔ではない事を祈ってるよ」
 実は、熊の従魔もおいしくいただいた経験がある望月と百薬。次は普通のジビエ料理での熊をいただきたいところだ。
 日が暮れる。鹿肉はすべておいしい料理へと変わり、たくさんの人を幸せにした。
 鹿肉よ、さらば。そして、ありがとう。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • ー桜乃戦姫ー
    染井 桜花aa0386
  • お母さんと一緒
    真白・クルールaa3601

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • ー桜乃戦姫ー
    染井 桜花aa0386
    人間|15才|女性|攻撃
  • エージェント
    ファルファースaa0386hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • お母さんと一緒
    真白・クルールaa3601
    獣人|17才|女性|防御
  • 娘と一緒
    シャルボヌー・クルールaa3601hero001
    英雄|28才|女性|ドレ
  • 絆を胸に
    麻端 和頼aa3646
    獣人|25才|男性|攻撃
  • 絆を胸に
    華留 希aa3646hero001
    英雄|18才|女性|バト
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