本部

白亜の虚像~白いデキソコナイ~

睦月江介

形態
シリーズ(続編)
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2017/09/23 19:34

掲示板

オープニング

●想定しうる『最悪』
 HOPEのとある研究室……いつもの余裕が消えた表情で、ドクトル=フランケンシュタインは相方に尋ねる。
『で……どう見るね? 私としては『放っておいたら手に負えなくなる』と言うところだが』
「概ね、その通りだな……最悪を想定するなら『手に負えなくなる一歩手前』だ」
 元々ワーカーホリックと被害妄想が過ぎるためにあまり顔色が良くないアムリタだが、今回はそれを差し引いても蒼白だった。
『それは流石に悲観が過ぎると思うがね……とにかく、この状況については報告済みだ。あとは支部に任せよう』
「興味深いイマーゴ級、程度の話だったのがとんだ災難だ……とにかく『女王』を何とかしないととんでもないことになるぞ」

●真白き従者達
 会議室に集まったエージェント達に、HOPE職員はほんの少し前に行われた白いイマーゴ級従魔についてのレポートを配布する。
「先日捕獲された白いイマーゴ級従魔ですが……これについて非常に危険な存在である可能性が浮上しました」
 発端は、捕獲した従魔の調査……個体差が大きいためその差異を調べるために数体を同じ水槽に入れたところ何と共食いを始めたのだ。慌てて引き上げ、仲間を捕食していた大きめの従魔を倒すと、その死骸は消滅しなかった。消滅するものとしないものの差異は『仲間を食った個体かどうか』と判明し、更に仲間を捕食した個体を調べると食ったイマーゴ級が持っていた形状まで取り込み、より進化した形状になろうとする様子が見られた。
「このイマーゴ級は海洋生物のライヴスからその形状を取り込み、更にその情報を集約していくとわかったのですが、それだけではありませんでした」
 その性質上、同じの生物の情報を取り込んだイマーゴ級が複数生まれるのは自明だが、そうした『同一の情報を持つ個体』同士では共食いはせず、それどころかきちんと『仲間』と認識しているとしか思えない社会性動物のような動きを見せたというのだ。
「これらの行動を鑑みるに、上位個体から『情報収集』の命令を受けている可能性が高く更に上位個体にも似たような能力があると考えた場合……」
 最終的に誕生するのは多くの海洋生物や人間の能力をまとめ上げ作られる強力極まりない合成体である。完成しようものならシャレにならない化け物なのは想像に難くない。
「そして、プリセンサーが感知した情報がこの仮説を裏付けています。あの白いイマーゴ級が回収された海岸に、今度はミーレス級の従魔が現れます。全部で6体、同一個体が2体ずつ……いずれも中途半端に人間の形を取り込んでいます。特徴として全て体の一部が注射器のようになっていて『ホワイトインジェクス』と仮称することになりました。皆さんならば撃破は容易ですが……あえて全滅させないでいただきたいのです」
「……どういうことだ?」
 危険な存在には変わりないし、本来なら全滅が最善のように思える。だが、それではいけない理由があった。
「今回現れるミーレス級も目的はイマーゴ級です。あのイマーゴ級を注射器で刺し、ライヴスと生物の情報を抜き取り持ち帰ることを目的としているようです……なので全滅させてしまうと情報の持ち帰り先を探すのが困難になってしまいます。今回はあえて『ライヴス発信機を取り込ませたイマーゴ級』を回収させ、一部を撤退させることで情報の持ち帰り先を暴いてもらうのが任務になります」
 つまり、出てきた『回収役』ではなく『根本』を叩かねば意味はないという事だ。
「ホワイトインジェクスはその注射器による攻撃で突き刺した相手の体力を吸収するものです。あまり攻撃力は高くありません、情報収集のため生存を重視しているのか体力はあるようですがやりすぎないよう注意してください」

解説

 ライヴス発信機を仕込んだ敵を一部叩き、一部逃がすと言う内容になります。ある程度弱らせればホワイトインジェクス達は撤退を始めます。また、発信機仕込みのイマーゴ級はHOPEからサンプルの一部が供出されるので皆さんが発信機を持ち込む必要はありません。
 発信機を持ち帰らせる数によって情報の正確性が変わってきますので『イマーゴ級の情報を持ち帰らせる数』と『叩く数』は考えて決定してください。ホワイトインジェクスはA、B、Cの3タイプ2体ずつです。

A 下半身が魚になっている、人魚型。右腕が注射器になっています。攻撃力は3タイプで一番低く、比較的魔法防御が高めなようです。
B 下半身がイカになっている、イカ男型。10本の触腕の内特に長いもの2本が注射器になっています。バランスの取れた能力を持っています。
C 下半身は人ですが、ウロコに覆われた半魚人型。左腕が注射器になっていて、3タイプで最も攻撃力が高くなっています。物理防御が比較的高め。

リプレイ

●思わぬもの
 実のところ、当初イマーゴ級の採集を手伝ってもらう程度の意図で依頼したアムリタをはじめ、今回の依頼は思わぬもの、思わぬ事態となっていた。最初はただ特殊な性質のイマーゴ級が見つかったので、研究に応用できないかと考えた程度だったのだが蓋を開けてみれば厄介な性質を持っているより上位の個体が存在する可能性が高いという事実に衝突した。更に間の悪いことに、月鏡 由利菜(aa0873)は別の依頼で受けたダメージが癒えていない状態で参加することになってしまった。
「第一英雄と向かった先の依頼での負傷が残っていまして……すみません、今回は後方支援に徹させて頂きます」
『まさかこんなことになっちゃうなんてなぁ……ユリナの完治まではまだ時間かかるよ』
 ウィリディス(aa0873hero002)ともども、申し訳ないと頭を下げる由利菜……だが、こればかりは仕方だがない。
「大丈夫です、由利菜の分は、征四郎達みんなで補えばいいのです」
 紫 征四郎(aa0076)の頼もしい言葉に、ユエリャン・李(aa0076hero002)が同意する。
『そうだな。然し、全てを統括した敵個体。それがどのような兵器になるのか興味はある』
「もう! ちゃんとお仕事してくださいね!」
『それほど大っぴらに動いていないのは、そうして完成してから動くつもりなのかもしれないと考えると完成体にはよほど自信があるのだろうね』
 フランケンシュタインがユエリャンの言葉に頷くが、その脇腹をアムリタが小突く。
「不安を煽ろうとするなバカ者が! しかし、今回現れるタイプが不完全ながら人の形を持っていることを考えると水死体か、はたまた行方不明者か……何らかの経緯で人間を取り込んだ可能性は高い。形だけなら、上位の個体はより人間に近い形になるのかもしれないな」
「ロー……」
『そうね……なんともまぁ……思わぬものを引いてしまったものですね』
 辺是 落児(aa0281)の心情を察して、その言葉をつなぐように構築の魔女(aa0281hero001)が呟く。
「生き物のキメラを作る為の仕組みに従魔を利用してるって事ね」
『その仕組みの先に居るのが誰なのか分からないが何か知性を感じるな……だとしたらキメラそのものが目的とは思えない。厄介な事に成りそうだ』
 蝶埜 月世(aa1384)は納得したようにうんうんと頷き、アイザック メイフィールド(aa1384hero001)が『その先』に不安を覚えるが見えない相手に対して思考の海に沈みそうになる彼の意識は月世の言葉に現実へと引き戻された。
「じゃあ、厄介ごとに備えて終わったら英気を養わなくちゃね! 前のビストロ、ワインも安くて美味しかったし楽しみだったのよね」
 確かに、目先の事を考えても仕方がない。今重要なのは、目の前の問題だ。今回現れる6体のミーレス級、それを全滅させることなく返し、先にいる相手の拠点を割り出すのが、今回の任務である。アムリタはあくまで第一発見者兼依頼主兼研究者の立場で来ているため、任務に直接参加する事は無いのだがそれでも余裕のなさが見て取れた……それを見かねてユエリャンは余裕のある今のうちにと、ロイヤルレッドを淹れてやる事にした。
『茶くらいは淹れてやろう。ゲルトルートは少し気を抜いた方が良いと考える。人間万事塞翁が馬。なに、きっと上手くいく』
「……いただこう。うまくいけば、良いのだがな」
「ええ、ええ。大きなことになる前に、きっちり解決いたしましょう!」
 アムリタの言葉に、征四郎が力強い頷きを返したところで、遠くに見える白い影を凛道が見つけた。
『あれですね……では、参りましょうか』

●人間に興味はありません
「今の状態で前線に出ても、皆様の足を引っ張るだけですから……」
『でも、ずっと待ってるだけってのも退屈だよ。何かあたし達にできることないかな?』
 そう話す由利菜、ウィリディスとアムリタ、フランケンシュタインを中心に避難誘導をしたものの姿を現したミーレス級達は、遠くにいる人間には全く興味を示さず、水中をゆっくりと泳いだり歩き回ったりしている海洋生物型の白いイマーゴ級のみに狙いを定める。大野がその体に備えた注射器型の器官で小型のものはそのまま吸い込み、多少大型のものは突き刺した針からそのイマーゴ級が持つ情報と、ライヴスをまとめて吸い取っているのだろう……ミイラのように干からびていき、干物になった白い個体はもう用はないと言わんばかりに投げ捨てる。
「成程成程……いや、しかし面白い体型の従魔達だねぇ……」
 それぞれに、人魚型、イカ男型、半魚人型で注射器型のパーツがあるその姿を発見した木霊・C・リュカ(aa0068)がそんな感想を述べる横で、凛道は自分を納得させるようにぶつぶつと呟いていた。
『逃がす、逃がす、いえ、あまり良い言葉ではないですが……次の機会に全員処刑する為と思えば』
 そう、逃がしたくない心情は理解できるがこれはあくまで次への布石である。その事を踏まえ、事前にエージェント達も討伐にあたってどういった形で撃破するか、と言う相談は大まかなところでは終えていた。その方針に従い、まずは上半身が人間の男、下半身がイカになっているイカ男型の白いミーレス級に狙いを定める。この個体だけは3体のうちで唯一、注射器状のパーツが2つあるため持ち帰る情報が多い可能性がありそれを危惧しての事だった。
『なんとも言えぬが、種族毎に違う情報を集めているならば持ち帰り情報の内容を減らせるかもしれんな』
「わからないことだらけですから、考えうる限りは手を打っておきましょう」
 ユエリャンの言葉に同意し、共鳴したうえで改めて武器を構える征四郎。その様子を見ても全く動じないどころか無視してイマーゴ級に注射器を向ける辺り、相手はやはり人間には興味が無いようであったが流石に攻撃を加えれば反撃はしてくるだろう……ミーレス級と言えど油断は大敵、と気を引き締めるがその気合は実際に戦闘に入ると空回りすることになるのだった。

●余裕です
 率直なところ、今回のミーレス級程度であればエージェント達の敵ではない。所詮ミーレス級であるし、個体差こそあれ基本的にはデータ収集を目的としているので戦闘力はお世辞にも高いとは言えないタイプなのだから当然と言えば当然であった。その差は歴然であり、撃破予定の個体の出現経路から退路を予測し逃走に備える位は普通にできてしまう。
『潜られる前に動きを止められるように準備しましょうか。撤退できる程度に負傷させないといけないことにも注意ですね……』
 イカ男型2体と半魚人型1体に対しトリオによる攻撃を浴びせながら、落児と共鳴した構築の魔女は目を細める。
『概算になるでしょうけどどれくらいで撤退を始めるかも見ておきましょう。必要以上に情報を持ち帰らせないように機能不全にしたいものですが……』
 どちらかと言えば、うっかりやりすぎて倒しまわないようにする方が難しいくらいである……そのため、ミーレス級の体力や強度の情報収集もかねて慎重に攻撃していく。
「ロー……」
『ええ、そうね。注射器部分が割れるなどしたら問題ですから欲張りすぎないようにしないと』
『ア……ア……!!』
 上半身の姿こそ人型だが、それは形だけで発声器官は未発達なのか声にならない声を上げて触腕を振り回すミーレス級の攻撃を泥眼(aa1165hero001)と共鳴したエステル バルヴィノヴァ(aa1165)は危なげなく受け止める。
「……軽いですね」
 その予想外に軽い衝撃にかえって戸惑ってしまうエステル。だが、流石にその隙を放置するほど彼らもバカではない。すかさず半魚人型がその腕の注射器を突き刺してくる。
「っ……!」
「おっと、そこまでだよ」
 ヒュッ、と空気を裂く音がして半魚人型に巻き付いた糸……リュカの釣り竿だ。そのまま引き寄せられ、エステルから強引に引き離された先にいたのは征四郎。待ってましたと言わんばかりに刀を振り下ろすが、あえて入り方が浅くなるよう加減し、カラースプレーを吹きかけ色をつける。この個体には帰還してもらうため、その区別の意味だ。
「ま、まどろっこしいのです……!」
『研究も発明も、大凡はまどろっこしいものであるよ』
 不満を述べる征四郎をユエリャンが諭す。この状態であれば問題はないだろうと、リュカは月世のフォローに入ることにしたのだった。

●リリースしましょ
 月世はイマーゴ級の群れに潜んで、不意打ちを狙っていた……浅瀬のイマーゴ級を狩りに来た従魔を攻撃しようというわけである。
「うわー、発案したのあたしだけど、まさかクラゲと一緒に泳ぐ事になるとは……ちょっとかなり痺れないコレ!」
『……初志貫徹としか言いようが無いな』
 クラゲの毒は、種類によっては命に関わることもあるので一般人はマネをしてはいけない。ゆらり、と白い影が接近してきたためすかさず電光石火の一撃を叩き込み、更に疾風怒濤で畳みかけようとして……やめた。近づいてきていたのは人魚型、帰還させる予定の個体だ。勢い余って倒してしまってはいけない。その一瞬の迷いを突いて、注射器が突き刺される。
 受けたダメージがわずかに回復したものの、そこで人魚型はうめく。
『ア……アア……!?』
 実力差がありすぎて、さしたるダメージになっていないのだ。それを察知するとすかさず注射器を引き、撤退に転ずる人魚型。倒してしまうわけにもいかないが、ほぼ無傷で帰すというのもよろしくない、と判断し一撃だけ、ブーメランによる攻撃を加える。すると大きくよろめきながらも、脇目も降らず逃げていく……たった一撃でこの様子なので、体力を吸収・回復させていなければ、倒していたかもしれない。その様子から、リュカの『1人で戦闘して大丈夫だろうか?』という心配は『やりすぎて倒してしまわなくてよかった』という全く逆の安堵へと変わる。だが、安堵してばかりもいられないのでもう1体の人魚型に対して黒猫『オヴィンニク』を使用する。
 黒猫は人魚型のミーレス級を視界に捕らえ『美味しそう』と言わんばかりに嬉々として飛び掛かっていく。
『あれは食べ物じゃないです、お腹壊しますよ』
 という、凛道の言葉が届いたかどうかはともかく、オヴィンニクは鱗の表面に適度にダメージを与えて人魚型に過度の深手を負わせることもなく撤退に追い込んでいく。
 これで一段落かな、と視線を戻すと征四郎とエステルは危なげなくイカ男型2体を撃破したようであり、カラースプレーで色が付いた半魚人型も撤退を始めていた。同時に、もう1体の半魚人型も逃走を図っていたがそこは落児と構築の魔女がテレポートショットで足止めしてくれたため、月世とアイザックが結果的に温存することになった疾風怒濤で叩き潰した。
 予定通り、人魚型2体と半魚人型1体を撤退させ、イカ男型は2体とも撃破。海辺からそれを眺めていたウィリディスが呟く。
『これも、キャッチ&リリースっていうのかな?』
 釣りではないし、リリースでもないような気もするがどうなのだろうか? 由利菜も、アムリタ達も、波の音もその答えは教えてはくれなかった。それに、それどころではないと戻ってきた仲間にピキュールダーツ込みのケアレイで治療を施していく。
『イジェクション・ガンが持てれば、射程が伸びて支援もしやすいのに~』
「……無理です。今の状況で装備したら、ライヴス負荷が許容限界を突破してしまいます」
 できる事はやっているが、やはり無理は禁物である。

●果報は寝て待て
 前回のビストロにアムリタ、フランケンシュタインを連れて直行し、酒を飲む月世。
「はあああ……良いわね。このブイヤベースにバンドールのロゼがぴったり!」
『時に、アムリタ。この流れは知性ある存在の計画の一部なのか? そう言う愚神や従魔が居ると言う事なのか、予想を聞きたいのだが』
 ふむ、と顎に手を当てて考えるアムリタよりも先にフランケンが口を開く。
『そうだな……これは計画と言っていいのかと言う部分では、アムリタの反応ももっともだ。ある程度知性がある、と言う点は間違いなさそうだがね』
『どういうことだ?』
「計画、というよりも生態、と言う方が正しいような気もするのだ。今回の従魔……背後は愚神だろうが見た目に反して、性質は海洋生物と言うよりも社会性の昆虫に近い』
「社会性昆虫って言うと、アリとかハチとかよね?」
「そうだ。愚神を女王として、ライヴスや生物情報を今回のミーレス級のような『働き蜂』が集める、と言うところだな。イマーゴ級まで含めれば数百匹単位と考えれば、これがもっとも予想出来る性質だ」
『なるほど、それが正しければ女王さえ叩けば巣は崩壊する、と言うわけか』
「だからこそ、巣を割り出すために発信機を持ち帰らせるという作戦をとることになったのだ」
 ハチの巣の場所を知るために綿を付けた餌を持ち帰らせる方法が実際に存在するため、作戦としては理にかなっているといえよう。
『従魔の個体や情報を統括する女王、ねえ……なんかSFアニメみたいな展開だなぁ』
「その手の話では、彼らとの『対話』が事態解決の大きな鍵となることが多いようです。しかし……現状ではそう言う話は出てきていませんね」
 ここまでの話を聞いて、首をひねるウィリディスと『対話』と言う道が無いかを一瞬考えてしまう由利菜。前者の『計画』であれば目的次第かもしれないが、後者……『生態』ならばその道は絶望的だ。あくまで、それが本能に基づいた在り方、という事になるのだから。
 しかし、考えていても仕方が無いと食事を味わい、率直に感想を述べたのはアイザック。
『確かにここの食事は素晴らしい……しかし、気になる話だな』
「まあ、明日は明日の風が吹くってね……こっちの世界の頭のいい人が長期的には我々はみな死んでいるって言ったけど、その通りよ! 飲め!」
『非常に興味深い言い方だな。ただ、何となくそういう意味では無い気もするが……頂こう』
 若干の疑問を抱きつつも、全ては巣の場所がわかってからと割り切り今この場では食事を楽しむことにした一同だが、すぐ近くの席でエステルは大きなため息をついていた。
「前の任務の時につい口が滑って先生に失礼なことを公言してしまいました……どうして私ってこんなに傲慢なんでしょうか?」
『……急にどうしたの? エステル』
「え? ……あ! 今記憶がフラッシュバックして」
『でも、本人の目の前で言った訳じゃないし……』
「それが駄目なんです! まるで陰口を言ったみたい……いえ、無意識の内に私の卑劣な自我が”本当に”陰口を言わせたんだ。優秀な先生を妬んで!」
『……やっぱり日の光はエステルには厳しいわね』
 確かにエステルは前回の事件が終わって程なく、アムリタを否定した事があったが陰口と言うよりも端的な事実だ。増して、泥眼の言う通り目の前で批判したわけでもなく、気にするようなことではない……だがエステルはアムリタに謝罪しようとして言い出せず、せっかく近くにいるにもかかわらず本人付近では行動が多少奇矯な感じになってしまう。
 その内、謝罪は保身の為とか良心がある振りをしたがってるだけだとか、言っても気味悪がられるだけとか自問自答をし始め泥沼化がひどくなっていくのを見かねて泥眼はアムリタに事前に驚かない様に頼んだうえで、エステルに謝罪させる。だが本人はまるで気にも留めていなかった。それどころか、彼の傍らにいるフランケンは肩をすくめて笑顔さえ見せた。
『君の言った事など、とっくに慣れっこだ。そもそも、私はアムリタの何もかもかなぐり捨てて禁忌に手を出そうという熱意を認めて、契約したのだからね』
「こう言っては何だが、全て事実だからな。研究はそれ自体が禁忌、奇人、変人、マッドサイエンティスト……そんな呼び方をされてもしかるべきだ。だがそんな事がどうだというんだ? 重要なのは誰もが否定してなお、求めるものがあるから研究をするという事だけだ」
『私としては、余裕までかなぐり捨てているのはいかがなものかと思うがね?』
「やかましいわっ! お前は私を肯定したいのか否定したいのかどっちなんだ!?」
『無論肯定しているとも。だが、世の中肩の力を抜いた方が良いこともあるぞ?』
「お前は力を抜きすぎだろうが……」
 案外、フランケンがいるおかげでバランスが取れているのかもしれない……そういう意味では、フランケンがいる限りはアムリタを心配する必要はないのかもしれないし、本人達が気にも留めないことを悩んでも仕方がない、と泥眼はエステルを諭すのだった……。

●虚像の囁き
 一方その頃、とある孤島にてエージェント達から逃げ延びたミーレス級達に、優しく語り掛ける白い影があった。
『よくやったね……これで、人間……能力者の力も手に入った。キミ達の仕事はここまでだよ』
 そう告げられた直後、彼らは一瞬にしてその身を貫かれた。
『私は、十分力を付けたけど困ったね……兵隊(コマンド)を作るにはライヴスが足りない……労働者(ワーカー)達で数だけ、揃えようか……もうすぐ来ちゃうだろうからね。来た連中からライヴスを奪えば、もっと増強できるからそれで我慢しよう」
 そう呟いたそれを、月明かりが照らす。その姿は人に近いものの人ではなく、鮮血のような瞳と、息をのむほどの真っ白な体躯の美しい少女であった。
『私はここだよ……早く来てね……全部、取り込んであげるから……』

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 花の守護者
    ウィリディスaa0873hero002
    英雄|18才|女性|バト
  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165
    機械|17才|女性|防御
  • 鉄壁のブロッカー
    泥眼aa1165hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 正体不明の仮面ダンサー
    蝶埜 月世aa1384
    人間|28才|女性|攻撃
  • 王の導を追いし者
    アイザック メイフィールドaa1384hero001
    英雄|34才|男性|ドレ
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