本部

白亜の虚像~白い海~

睦月江介

形態
シリーズ(新規)
難易度
易しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2017/08/29 20:25

掲示板

オープニング

 アムリタは、少々げんなりとしていた。一方彼の英雄であるフランケンシュタインは実に楽しそうだったのだが。
『なかなか面白い現象じゃないか、それに現時点では害もない……素直に喜んだらどうだ?』
「もちろん、今回の事象、対象の従魔は研究価値が高いし条件付きで研究許可も貰った……だが私はこういう場所は苦手だ……大量のサンプルが欲しいとなると人手が必要だ、人を募ってみるか」
 彼らが欲しているのは、イマーゴ級の従魔のサンプルだ……フランスのとある海岸に突如出現し、ライヴスを奪った生物の形状をコピーするという性質を持っている。数もはそれなりにいるのだが、その性質のために普通の魚やクラゲと勘違いされていて増殖を許したらしい。アムリタはとある事情から『最も人に近い人形』を作り出そうとしている身なので、その形状をコピーする性質には大いに関心があった。そのため、HOPEに研究の許可を求めたところ、レポートの提出及び、ある程度の量のサンプルの提出を求められたのだ。
 対象の従魔は『大理石か、アルビノのように真っ白』なので注意して探せば発見は容易……なのだがその出現した海岸はと言うと観光シーズンでしかも従魔がその性質上危険と認識されていないために大勢の人がいた。アムリタはインドア派で根っから研究者なので、人込みも暑い日差しもはっきり言って苦手なのだ。
 フランスは裸体主義……ヌーディズムの先進国であり、公認のヌーディストエリアも多数存在する国である……いわゆる『ヌーディストビーチ』と言う場所もそれなりにあり、件の従魔の出現場所がそんな場所ではなかったのは不幸中の幸いだろうか。
『なあに、能力者にせよ英雄にせよ、物好きが多いからな……一応、多少の報酬はあるという形で人員の打診をしてみればいい』
「物好きが目の前にいると説得力が違うな……ダメ元で、やってみるか……」
 こうして、実に特殊な場所でのサンプル回収に向けて人員の打診がされたのであった……。

解説

 フランスの海岸に出現した真っ白なイマーゴ級従魔のサンプルを回収する任務です。イマーゴ級従魔はアルビノのような白い体をしているので注意深く海を探せば割と簡単に見つかります。基本的に白いだけで普通の海の生き物と変わりませんので戦闘面での危険はほぼありませんがクラゲに刺されたり、カニに挟まれたりするとちょっとだけ痛かったりします。性質上危険と認識されておらずせいぜい普通の毒があるクラゲがいるとかの感覚であり、海岸にはそれなりに人がいるのでその辺りに配慮してください。倒しても倒さなくても構いませんが、生け捕りのサンプルがある方が喜ばれるでしょう。

リプレイ

●平和な準備
「フランスは歴史的に、母の故郷イギリスとも関わりが深い国です」
『あたし達の通うテール・プロミーズ学園もフランス語で『約束の地』だしね~』
 月鏡 由利菜(aa0873)とウィリディス(aa0873hero002)が言うように、ここは照り付ける日差しが眩しい、フランスの海……今回この地に集まったエージェント達の任務に臨む様子はと言えば……実に平和であった。
『とりあえずアムリタに挨拶はしておくとして……この人だらけの中どうやって探すつもり?』
 目的の砂浜……大勢の観光客がいるその光景を見てスネグラチカ(aa5177hero001)は雪室 チルル(aa5177)に尋ねる。
「下手に大声で注意喚起とかしたら大混乱は間違いないわね。だから人数ごとにある程度エリア分けをして、
全員で分担して探す感じが良いと思うわ」
「そういった配置を考えるのは小官の得意分野である、任せてもらおう」
 ソーニャ・デグチャレフ(aa4829)はチルルの案に同意し、早速ビーチの全体図を共有して、対応範囲を割り振る作業に当たる。
 あまり長い間放置してしまえばその限りではないが、基本的には脅威度はほぼ0のイマーゴ級がターゲットであり、目的は討伐ではなく捕獲……従魔だからこそHOPEエージェントの出番ではあるが、どちらかといえば学術調査の手伝いである。
「……従魔の輸送はHopeに任せていいのでしょうか?」
 辺是 落児(aa0281)の質問に、今回依頼を出したいかにも学者然とした、やせ気味の男……アムリタははっきりと頷く。
「それは任せても構わない。君達に任せたいのは捕獲までだ、それと幸い、現時点で人間の姿をコピーしたものは確認されていない。大きなものでも数十センチの魚くらい、最大サイズは足を含めた全長で1m程度のタコ型が見つかっている」
『現時点で確認されておらず単体の脅威度は低いと言えど万が一、一般客に接触して人型になる個体が出現したらパニックになる可能性があるな。そちらの対策も必要か』
「そうね……むしろ好奇心から接触したがる人達も現れるでしょうね。ま、そこらへんに注意して掃除が済むまで海岸に退避してもらうようにアナウンスをお願いした方が良いかも?」
 人型の危険性を否定されてアイザック メイフィールド(aa1384hero001)と蝶埜 月世(aa1384)はとりあえず安心するが、それでも油断はしていない。この切り替えの早さは実に優秀だ……実は到着時点で一番はしゃいでいたのも月世である。
「さて宿も取ったし先ずはシャンパーニュね!」
『月世、仕事前にアルコールを取るのは推奨できないな。イマーゴ級と言えど……』
「じょ、冗談よ! アイザック……いやー、青い空に白い壁、お洒落なカフェにビーチパラソルと来ればちょっと一杯って気持ちにもなるって……」
 その言葉に対して向けられるアイザックの鋭い視線。
「うわ! 目が怖い……さ、仕事仕事!」
 と、こんなやり取りがあったくらいなのだ。同じようにはしゃいでいたのはチルルそんな彼女をフォローするのはスネグラチカの役目だ。
『従魔回収だってさ。この人だらけの中見つかるのかな?』
「海だー! 早く終わらせて泳ぎに行くぞー!」
『あ、うん。チルルはそういうキャラだったよね』
「要は白っぽいやつを見つければいいだけじゃん! 楽勝よ! ほら、あんたも水着になって泳ぐ準備は忘れないようにね!」
『本当に大丈夫かなあ? あ、チルルはいつもながら胸が小さいよね。』
「あ、あんただって似たようなもんじゃん!」
 と、どこか微笑ましい会話が繰り広げられる一方で、砂浜で明らかに意気消沈している者もいる。エステル バルヴィノヴァ(aa1165)だ。
「……し……私……最低……」
『……エステル、やっぱりこの依頼やめたら?』
 パートナーである泥眼(aa1165hero001)は強い日の光の下だとホルモンバランスが崩れて鬱状態に突入してしまうエステルを気遣うが、彼女は首を横に振る。
「……た、確かにフランスの日射がこれほどとは……でも、大丈夫です。個人的事情で仕事を中断する事など許されません」
『でも顔色が……』
 そんな泥眼の声すら、既に聞こえておらず何かをぶつぶつを呟くエステル。
『……ともかく早く終わらせて日陰に退散するしかないわね』
 そんな彼女達と同様、さっさと退散を決め込むことにしたのはソーニャとラストシルバーバタリオン(aa4829hero002)。浜辺の暑さにさっさと白旗を上げたソーニャは空調の効いているラストに共鳴する事で早々に表舞台から退散していたを決め込んでいたのだった。理由は2つ、まず1つは単純に暑いのが苦手。2つ目に、ソーニャが歩いていると一般人が群がってきて任務にならないからだ。周囲の一般人はソーニャの事を幼女のコスプレか何かと勘違いしている節があり、本人からすれば正直ドン引き以外の何物でもない。唯でさえ祖国からは外貨獲得のためにアイドル化されそうになっているし最近の世の中は変すぎると愚痴をこぼす始末であった。ソーニャにとっては周囲の観光客がことごとく巨人の様に見える……何せ彼女は0.6メートルしかないんだから。HOPEの大抵の同僚達も彼女にしてみれば巨人だ。共鳴していればそこまで気にはならないのだが、ラストに載っている時点でどうしても器用度が、という致命的な問題もある……先のチルルの提案に同意したのは、そんな事情もあったのだった……。

●観光ですか? いいえ、捕獲作戦です
 構築の魔女(aa0281hero001)はタンキニにパーカーとシュノーケル、落児は釣りのしやすいラフな格好で、月世はダークパープルのセクシーな水着姿。月鏡 由利菜(aa0873)、ウィリディス(aa0873hero002)もそれにならい海水浴と釣りをしに来た旅行者を装う。アイザックがソーニャ、アムリタと共にビーチの管理者に封鎖線を張る交渉をしているが、その間も時間を無駄にする必要はない。スネグラチカはチルルにどうするか相談することにする。
『で、あたし達はどうするの?』
「海岸といえば海の家よね。まずは海の家に行って調子が悪くなった人とか、クラゲに刺された人が集中しているエリアを聞いてみるわ。
ほとんど危険性はないとはいえ、従魔がクラゲやカニに化けている可能性もあるだろうしね」
『上手く聞けたらそのエリアを中心に探す感じかな?』
「そうなるわね。まずは海岸を歩きながら白っぽい生き物を片っ端から拾っていくよ。ある程度歩き終わったら海の方に捜索範囲を拡大して、海の中にいる生き物も拾っていくよ」
 意外と考えられていることに、素直に感心するスネグラチカ。だが、それで大丈夫と安心するほど短い付き合いでもないのでちょっとした提案をしてみる。
『あ、そうだ。せっかく探すのならついでに海岸の掃除もしたら? さいきょーな能力者はこういう細かいこともできるはずだよね?』
「と、当然じゃん!ゴミ掃除しておけばきっとみんな喜んであたいをさいきょーだと思うに違いないわ!」
『(ちょろい……)』
 あまりのちょろさに感心した自分は何だったのか、と思ってしまうが口に出さないのが優しさであった。
『カリメラ! あたしはウィリディス、リディスって呼んでね! フラン君もあたしと同じメディックなんだ。仲間だね♪』
『よろしく、リディス。確かに同じメディックではあるが、私は君達と違ってあまり前に出る事は無いだろうがね……何せアムリタが依頼でもない限り引きこもっている出不精だからな。研究熱心と言えば聞こえはいいが、ただのワーカーホリックだ……私は常々人生を楽しむ意味でも外に出るべきだと言っているのだがまるで聞く耳を持たないのだから困ったものだよ』
 嬉々として釣りの準備を楽しんでいるフランケンシュタインを見ていると単に本人が楽しみたいだけじゃないのかとも思えるが、そのどこかミステリアスな雰囲気もあって本当のところはわからない。その横で、由利菜は赤くなって言葉に詰まっていた。
「わ、私には裸で散歩なんて無理です!」
 ここではないが、そう遠くない場所がヌーディストビーチであったり、そういう可能性がある地域の1つであったことを聞かされて、完全に動揺していた。一方でリディスはそんな話を聞いても平然としている。
『……でもさ、昔のギリシャやローマも、裸で過ごす機会は割と多かったんだよ。時代が変わっても、うちの支部にもパージの機会を虎視眈々と狙ってるお父さんもいたりするね』
「そ、それは関係ないと思いますが……」
 知人の顔が連想されたが、今は任務中である。どこからどう見ても釣りの準備をしているので観光に見えるが、従魔捕獲作戦の準備中である。大事な事なので2回言いました。

●釣り(捕獲作戦)、開始
 程なくして、漁場はライヴスゴーグルで確認しライブスの濃度が高い場所を選んで、釣りが始まる。チルルの情報収集の折に補足して珍しい魚が釣れたことがないか? 等従魔であることをぼかしつつ聞いた辺りで、更に海水をサンプルとして新型MM水筒に確保。準備は万端であった。
 釣りは辺是落児が担当し、AGルアーを釣り竿として使用。ヒールアンプル水を撒く……とどめに賢者の石入りの練り餌まで用意して、最早一分の隙も無い構えだ。とはいえ、釣りは相手がかかるまで我慢の作業である……落児の横で同じように糸を垂らし始めたフランケンは癖なのか体の一部なのか、顔の左半分を覆う仮面こそ付けたままだが普段の魔術師然とした格好ではなくこの夏の陽気に合わせたようなアロハシャツに半ズボン、おまけに麦わら帽子とフランスよりも日本の海が似合いそうな格好でさわやかな笑顔を浮かべてリラックスした様子で落児に声をかける。
『どうせ知能も低いイマーゴ級だ、程なく釣れるだろうからのんびり待とうじゃないか』
 そうは言われたものの、落児は今一つそんな気分にはなれず待っている間に構築の魔女に声をかける。
「ローー……」
『私はフィールドワークも好きですよ?』
 構築の魔女は潜水を担当し、落児の邪魔にならない近場にて素潜りでの採取を実施する。由利菜、リディスを伴って貝類・海藻類等比較的動きの遅いものを主軸に狙っていき、それらしい白っぽい海藻……植物性の従魔を発見すると優先して採取していく。
『長時間の潜水で海難事故と思われないようにしないとですね』
『あ、そっか。そういえば私達普通の人よりも長く潜れるもんね』
「私も配慮については失念していましたけど、リディスも潜れるってことぐらいは気付いて欲しかったですね……」
 釣り上げた生きた従魔は水槽で保管し、死んだ従魔はお菓子籠グリードへ保管していくが一体目の死んだ従魔で死体が消失しないか確認を取ったところ、どうやら消失するものとしないものがいるらしいことが判明した。
 念のため従魔の捜索中、カメラで画像記録を残しておいた……これもどこまでヒントになるかははっきり言って分からないが、出来るだけの事はしておいた方が良いという判断の元での行動だった。従魔を採取した場所を随時地図に書き込み、許可が下りる範囲で環境サンプルを取得する。
「どこでいつ、あと周囲におかしなライヴスを含んだものがないかですね」
「ロー……」
「まぁ、あれば役に立つかもしれない程度に。記念品にもなるかもしれませんし」
 これらの情報収集の結果と、死体が残るものと残らないものの違いは後にアムリタによって判明するのだが、この時点でできる事はそれ以上は無かったため、彼らはとにかく捕獲に専念する事にしたのだった。

●もっと捕獲作戦
 程なくして許可が得られたため、学術資料用のサンプル捕獲の為という名目でビーチの一部に封鎖線を張ることに成功し交渉に当たっていたメンバーが戻って来る。エステルと泥眼は早速捕獲作業に移るが、突如封鎖線が張られたとなれば一般人からすれば気にしないわけもなく、その対処には月世とソーニャ、バタリオンが当たった。
 見回るうちにいかにも”仕出かしそう”なグループに目を付け、不審な動きをしたら対応する月世。
「あら、海岸はあちらよ……そうね、アクアビットの飲み比べで勝てたら付き合っても良いわよ。じゃあ先にあそこの……」
『……気の毒な若者達だ』
 連れていかれた若者達を気遣うアイザックの声は波間に飲まれて消えた。一方、捕獲作業に入ったエステル達は方法は浜辺に砂を掘って応急の生け簀を作って追い込むという方法をとっていた。海に入り、それらしいアルビノを発見したら水面を槍のリーチを生かして逃がさないよう、かつ近寄られない様にして打って誘導する。生け簀の形状を漏斗状に構成されており、最奥にはアムリタから受け取った捕獲用のケースを配置してあり、追い込みを続ければ自然にケースに入るようになっていた。一杯になったら取り替えて行く、を繰り返しあるていどまとまった種類のものが揃ったらケースの従魔をアムリタに渡したのだが、その時エステルはまるで幽鬼の様な姿で、何があったのかと本気で心配されるほどの有様だった。
「流石に手づかみで従魔に触るのは危ないだろうし、上手く触れる用に火ばさみとカゴ位は用意した方がいいわね」
『何だか能力者の仕事というよりは、ゴミ拾いの仕事の様子を呈している気がする』
 スネグラチカの口からそんな愚痴のような言葉が出るが、愚痴と言えばソーニャからは考えさせられるような愚痴が漏れていた。
「しかし、イマーゴ級なんているのは知ってたが実際に見るのは結構レアかも。問題になってくるのはもっとクラスの上の連中だから、そいつらもこれくらい無害だと小官の祖国も苦労せずに済むのに……」
 現時点ではイマーゴ級であり、しかも形状はライヴスを奪った生物をコピーしているためただの白い魚介類であるが、最初に心配されていたように成長して人型になったりすれば決して安全とは言えない。おまけに、そんな益体もない考えが次から次へと沸いてくるのは不毛で無駄な時間である……思考を切り替えてサンプルの収集にあたる。かくして、これだけの人手が集まったこともあり十分な量の白いイマーゴ級従魔をサンプルとして捕獲できたのであった。

●語られることのない想い
「今回は手を貸してもらって助かった、調査結果は追って連絡する……日も傾いてきたし、この海岸にはもう用はない。さっさと行くぞ、フランケン」
『全く、せわしないうえに不愛想だな……すまんね、エージェント諸君。また機会があればじっくり話そうじゃないか』
 対照的に気さくにエージェントに語り掛けるフランケンシュタインをアムリタが引きずっていく……。
「本当、せわしないおじさまね……ワーカーホリックっていうのも考えものね」
『仕事に真摯な姿勢は、評価できると思うぞ。少々神経質なきらいがあるように見えるのはもったいないと思うがな』
 口には出さないがまるで自分達と逆の関係だな、とアイザックは二人を見送りながら思う。そんな事を知ってか知らずか、月世はビストロに直行。それに同行する形でカフェに向かうエステル、泥眼、由利菜、リディスの4人。カフェで紅茶を楽しむうちに、真っ青だったエステルはすっかり調子を取り戻したように見えた。
『良かったわ。大分調子が戻ったわね』
「ここからなら美しい景色なんですけど。そう言えば……この街は中世の十字軍の時にはほとんどの住民が殺されて残ったのは異端の教えを知らぬ少年少女だけだったとか? 平穏に見える街も一つ皮を捲れば何が潜んでいるか……」
『えーと……』
 泥眼は急に飛び出したブラックな話に言葉に詰まってしまう。どうやら顔色こそ戻ったが精神は完全に復帰していなかったようだ。
(十字軍……キリスト教では、死後永遠の命を得ると教えられています。ですが、私は死を今も酷く恐れる……自分のことも、親しい人のことも……)
 エステルの言葉に、キリスト教を、そして今回の捕獲任務の合間にフランケンシュタインから聞いた言葉を思い出した。アムリタは、かつて病で亡くなった自らの婚約者の魂を人形に『呼び戻す』研究をしていると。それを聞いた時は言葉に詰まってしまった。
 由利菜は、死に別れた親友の面影と記憶の一部を持つリディスと契約しているため、言葉に詰まる。リディスは詞音とは別人のはずだが、全く無関係とも言えない
「人形に従魔や愚神ではなく、英雄としての魂が宿るか……ですか?」
『益体もない話だが、もし聞けるならアムリタが喜びそうなのでな、少し聞かせてもらえないだろうか?』
 飄々としていて、ただアムリタを引きずり回しているように見えて意外と気の回る人物らしい……ミステリアスかつダンディな雰囲気と違ってドジな面が散見されるので余計にそんな印象が感じられないのが実に惜しい三枚目だったが。
『私の場合、シオンと言う少女の他にも色々混じっているようでして……そのせいで、多重人格のように見えてしまいますねぇ』
「い、今のはパラスケヴィと言う異世界の衛生兵の記憶再現らしいです……」
『ふぅむ、面白いね。研究に一段落したらやはりじっくり話してみてもいいかもしれない』
(私がアムリタさんの立場だったら……彼の婚約者を蘇らせたいと願うでしょうか? ……分からない……)
 もはや狂気にも似た情熱をもって禁忌に挑むアムリタと、それを支えつつも楽しむ方向に持って行こうとするドクトル・フランケンシュタイン……フランケンはともかくアムリタはとにかく研究を話したがらない。
「自覚はあるらしいですが、彼の研究はそれ自体が禁忌ですからね……許可を得ているとはいえ、世間的には正真正銘マッドサイエンティストです。そのために欧州各地を逃げ回ったあげくセラエノにまで目を付けられた、と聞いていますから素直に応援していいものかどうか、と聞かれると疑問が残ってしまいますね」
『エステル……あなたやっぱり早めに休んだ方が良いんじゃない?』
 どうも回復したのは表情だけで、内面的には鬱状態の部分が継続していたようだ……泥眼も本人の前でないとはいえそこまでズバズバ言ってしまっていいものかと思うのだが、適当なフォローが浮かばなかった……何せエステルの言葉は事実なのだから、感情論でなく正論である。正論を否定するというのはなかなかに難しい。
 マッドサイエンティスト……確かに、その研究内容とあくなき執念は、もはや狂気の域にあるのかもしれないが根底にあるのはただ純粋な愛であり、願いである。
『フラン君は素直なのに、アムリタさんはどこか不器用な感じするよね……素直じゃないっていうか』
「そういう人って、挫折して崩れると脆いんですよね……擦り切れたりしなきゃいいですけど」
「言われたい放題ですね、アムリタさん……でも、そうならないようにいつか話してくれると良いんですけど……」
 アムリタ自身の口からは、ほぼ間違いなく語られることのないその想いは、いつか語られるのだろうか? ひとまず和やかな空気が漂う中で、由利菜はそんな事を思いながら紅茶を口にするのだった……。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 花の守護者
    ウィリディスaa0873hero002
    英雄|18才|女性|バト
  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165
    機械|17才|女性|防御
  • 鉄壁のブロッカー
    泥眼aa1165hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 正体不明の仮面ダンサー
    蝶埜 月世aa1384
    人間|28才|女性|攻撃
  • 王の導を追いし者
    アイザック メイフィールドaa1384hero001
    英雄|34才|男性|ドレ
  • 我らが守るべき誓い
    ソーニャ・デグチャレフaa4829
    獣人|13才|女性|攻撃
  • 我らが守るべき誓い
    ラストシルバーバタリオンaa4829hero002
    英雄|27才|?|ブレ
  • さいきょーガール
    雪室 チルルaa5177
    人間|12才|女性|攻撃
  • 冬になれ!
    スネグラチカaa5177hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
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