本部

サマーフェスティバル~参加編~

鳴海

形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
25人 / 0~25人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2017/08/24 11:44

掲示板

オープニング

●夏の恒例行事、サマーライブ。
 サマーフェスとは夏の代名詞。
 屋外に解き放たれたアーティストたちの情熱を、太陽で熱された観客たちが受け止める。
 会場は広々90000平方メートル、東京ドーム二個分の敷地に用意されたステージは五つ。
 そのステージの間と間に用意された出店には定番の焼きそばやお好み焼きからB級グルメまで並び。
 この空間では人間の欲望をすべて満たすことができる。
 夜には星を見あげながら、遠くに音楽を聴きつつ眠りましょう。
 テントもお勧めですが。虫を恐れないのであれば芝生の上にマットを敷いて眠るのも言いでしょう。
 昼間の熱が冷めやらん、観客たちが今度はパフォーマーとなってギターをかき鳴らす。そんな灯りと音を背景に眠るのは最高の贅沢。
 そして体力が回復したならまた音楽に身をゆだねましょう。
 心配ありません。音楽フェスは二日構成なのです。
 こうして二日いっぱい体に音楽を通して、また日常に戻っていく。
 今日、この日を楽しかった。来年もまたこよう。そんな思いを胸にひびを頑張っていただく。
 そんな企画がこのサマーフェス。
 ちなみに、企画名は『オレンジサマーレイ』
 このイベントのチケットを君たちは運よく獲得できた。一泊二日の屋外イベント。配布数には限りある激レアチケットである。
 このイベントの主催は『赤原光夜』日本アニメソング会をけん引する若き星。
 それに加えて『ECCO』や『幻想歌劇団ディスペア』も参加しているが。
 やはり今回、目玉となるのはリンカーアーティスト。
 十人を超えるリンカーアイドルたちがこの日のために練習を重ねてきたのだ。
 今大舞台に立つとき、君たちにもぜひその晴れ姿を見ていただきたい。

● 夜のお楽しみ
 せっかく大きな施設を貸し切って、夜もお泊りするのですから騒がないと損です。
 夜には大きなお店や、ステージは整備のためにしまってしまいますが。
 皆さんが出店を開くのは自由ですし、広場や川辺、そこらへんで、楽器をかき鳴らす分には自由です。
 普通のレジャー施設でもあるこの施設では、焼肉セットやテントの貸し出しも行ってますし。 
 花火など楽しんでみるのもいいと思います。
 ひと夏の思い出、夜空を見上げながらしっとりお話などもいかがですか?

● 演目について。
 アイドルリンカーたちのライブに関しては
『広告塔の少女~サマーフェス準備編~』や『サマーフェスティバル~LIVE編~』を参考にしてください。
 タオルやサイリウムがもらえるようですよ。
 


 

解説


目標 夏の思い出を作る。

 このサマーイベントは約48時間ほとんど音楽まみれです。五つのステージにはびっしりアーティストが謳ってます。 
 知ってるアーティストも知らないアーティストもいるでしょう。 
 ステージを渡り歩きながら、骨身にも音楽をしみこませ、立ち並ぶ屋台で小腹を満たすのもいいでしょう。
 ちなみに皆さんもご自慢のグルメを引っ提げて屋台出しても大丈夫ですよ。
 アイドルリンカーたちも、アイスやら饅頭やら出すみたいですよ? もしかしたら店番してる彼女たちに会えるかも?
 というのも、サマーフェスのライブ編と時系列的には一緒、同じ場所でのお話だからです。
 見比べてみると楽しい発見があるかも?
 アイドルたちの宣伝活動には積極的に反応してあげてください。きっと彼女たちも喜ぶことでしょう。

リプレイ

●プロローグ
「思った以上の規模の会場ですね……さて、迷わないように注意しましょうか」
 そうふちのついた優美な帽子を傾けて『構築の魔女(aa0281hero001 )』はつぶやいた。
「ふむ、澄香ちゃんの出番を楽しみにいたしましょう」
 そう列に並ぼうと坂を見あげると、数キロにわたって人が並んでいる。
 このイベントがどんなものなのか、この時構築の魔女は察したという。
「……こいつぁまた、思った以上だな」
 サマーフェスティバル、人でごった返してはいたがその人波には流れがある。吸い込まれるようにアーチ形の目印の下をくぐり、それぞれが受付でラバーバンドを受け取っている。
 その列に『麻生 遊夜( aa0452 )』と『ユフォアリーヤ(aa0452hero001 )』が並んでいた。
「……ん、暑い……熱い?」
 汗を流しながら小首をかしげるユフォアリーヤの顔を、冒涜的なマスコットが描かれたタオルで拭った。
 ちなみにこのタオルは入り口で配られていた物だ。
「しかし良くチケットが手に入ったもんだよな」
「……ん、日頃の行い」
 そう胸を張るユフォアリーヤ。
「……そうか、そうだな」
 そう頭をワシャワシャと撫でると、楽しそうな悲鳴を上げるユフォアリーヤ。
「……やーん」
「せっかくだ、存分に楽しませてもらうとしよう!」
 そうマップを片手にお目当てのステージの時間を見て遊夜はユフォアリーヤの手を引いた。
 太陽よりアツアツの二人だが、まけじ劣らずのカップルが後ろから続く。
『古賀 佐助( aa2087 ) 』そして『古賀 菖蒲(旧姓:サキモリ(aa2336hero001 )』である。
「こうしてデートするのは久しぶりだな。今日は楽しもうぜ、アイリスちゃん!」
 そうアイリスの手を引く佐助。その腕にバンドを取り付け、アイリスに微笑みかけた。
「無理言っちゃって誘ってごめんね佐助……」
 アイリスはそうお腹に手を当てる。現在妊娠8か月目、お腹が大きくなって歩くのが大変になってきたアイリスの手を佐助がゆっくりと引く。
「でも、もうしばらくデートに行けないかもしれないし……そう思ったらどうしても行きたかったんだ」
 そんな二人だけの世界に臆することなく割り込んでいく小さな影があった。ツインテールの少女は口やかましく、アイリスに体を大事にするように、と言った旨を伝えると、余分にペットボトルとタオル。そして車いすを用意する。
 楽しんでもらうために万全のサポートを。それがこのフェスの合言葉でもあった。
 ただ、まぁ。車いすを貸す代わりに『防人 正護( aa2336 )』が借りられて行ってしまったが。
 等価交換である。正護の将来が心配である。


● トワイライトツヴァイ。
 会場はうんざりするほどこんでいる。人でごった返しているというのはまさにこのことだ。だから体を滑り込ませる隙間もない、全員が一定のペースで移動するしかない人波に、響き渡るのは少女たちの話し声。
 ラジオの公開収録である。品目は知る人ぞ知る人気ラジオ。
 リンブレイディオ。
 それも佳境のようで、バックミュージックが流れている。
 お別れの時間のようだ。だがその曲はサマーフェス会場の一部と連動している。
「最後にホットな情報をお届け! 私たちの友達が歌って踊るよ。場所は屋外会場で、トワイライトツヴァイ」
「みんないそげ~」
 はじけるサウンド。その人ごみのただなかに『逢見仙也( aa4472 )』はいた。
「あまり無駄遣いはするなよ?」
「へえへえ分かってるって」
 そう『ディオハルク(aa4472hero001 )』のお小言を流して、仙也は壇上に視線を戻す。トワイライトツヴァイ双子のリンカーアイドルらしい。
 仙也はロックを中心にふらふら歩き回っていたのだが、人の流れに巻き込まれここまで来た。
 片手のチキンレックを食べつくし。壇上に視線を移す。
 煌くライトエフェクト。その演出に感動したように目を輝かせていたのは『氷鏡 六花( aa4969 ) 』その隣には『アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001 )』二人はアイスを片手に、あいたては曲調に合わせて振っていた。
 会場の熱気や人の多さに圧倒されつつ。壇上のアイドル達を見上げその輝きに見蕩れる。
 思わずため息が出た。可愛いし、パワフルで、二人の息の合ったうごきに努力と研鑽を見た。
 実をいうと六花はアルヴィナに勧められて一度はアイドルを目指したこともあったのだが。
 だが六花はそれをふさわしくないと蹴ったのだった。
 父と母を殺した愚神を見つけて仇討ちを果たすという第一目標。それは血塗られた道である。自分でもどれだけほの暗い願いなのか分かっている。
 だからそんな想いを抱いている自分にはきっと。壇上に立つあの子たちのように笑えない。
 人々に夢を与えるアイドル業は務まらないだろう……と断念した。
 六花は眉をひそめる、それを見ていたのかアルヴィナが六花の手を取った。驚きで顔を上げる六花。そんな六花にアルヴィナは屈託のない笑みを向ける。
「おー、いつもと違う雰囲気のお祭りだね」
 そんな六花たちの隣を、持ちまえの小さな体を滑り込ませ、前に前にと進む少女がいた『餅 望月( aa0843 )』と『百薬(aa0843hero001 )』である。
「出店のいい匂いもするね」
 この会場は出店エリアに近いため買い食いしながら見ている人間も多いのだ。
「知らない人だよ?」
 そうステージの最前列まで来ると百薬が告げた。
「そうだね、でも楽しそうだし、オールスターで他球団の選手の応援することを思えば、だいたい合わせられるよ」
 そう受け取ったサイリウムを力いっぱい振る望月。
「いえーい」
「ノリが一番だね、ここで覚えて帰ろうね」
 リンカーたちも多数紛れ込んでいる会場。だが、そんな会場の外から壇上を見守るというちょっと変わった楽しみ方をしている者がいる。
『フィー( aa4205 )』と『フィリア(aa4205hero002 )』である
「さてさて、本来ならこんなもん見には来ねーんですが」
「貴女本当にこういうにのに興味ないですからね」
「まぁ音楽関係に限らずですがなー」
 戦うこと以外に興味を示さない、と言っても過言ではないフィー。その唯一の例外があるとするならそれは、恋人。
「行ってしまえばここには音楽を聴きに来たわけではなく、恋人の晴れ舞台を見に来たわけですね」
「別にそこまではっきり区切るつもりはねーですがね。実際二人の歌はいい」
 トワイライトツヴァイ、恋人とその義妹のユニット。
 壇上にいる彼女たちは普段フィーが接する少女たちとは別人に見えた。
 フィーは手を振る。一瞬恋人の顔に戻った彼女。
「あ~みつかりましたか。しゃーねーですな。場所を代えましょう」
「まるでスナイパーみたいなものいいですね」
 二人は歩き出す。
「しっかし、奴もこういう舞台に立つようになったんですなぁ」
「感慨深いですか?」
「それよりもアレですよなぁ……」
 戦場に立つのは自分の役目なのだからアルトは明るい舞台にだけ居てくれればいいと、声にこそ出さないものの無言の中にそう言う意味を含ませる。
「そう言ってもあの人は納得しないでしょう」
「まぁ……そうですよなぁ、私だって同じ事言われたら納得しねえですし」
 そうフィーは佳境に入ったステージの盛り上がりに合わせて拳を突き上げて見せた。拍手に包まれる壇上彼女たちが挨拶する声が聞えた。
 その声を背景に、フィーは屋台村の方に姿を消す。
「屋台とかしねーのー?」
 フィーの背後についた仙也が告げた。
「原料や商品決定が面倒だろうに」
「楽しそ『売れなかったら暫く残りもので生活、生の物ならねじ込んででも一気に消費』見てる方が楽しいからやらなくて良いな。」
 対して望月はステージ前の柵から身を乗り出して二人に手を振っていた。
「楽しかったよ、これからも応援するね」
 こんなステージが今日いくつもあるのかと思うと、ワクワクが止まらない望月である。

● きぼうさバーガー

「ふー、早速準備始めるか」
「売り子は任せて、つーちゃんと全て捌くよー!」
 仕込みは朝早くまでさかのぼる『ヘンリー・クラウン( aa0636 )』は『伊集院 コトノハ(aa0636hero001 )』と共に朝の空気の美味しさを感じつつ、テントを立ち上げるところから始めた。
『葉月 桜( aa3674 )』や『御剣 正宗( aa5043 )』その英雄『CODENAME-S(aa5043hero001 )』『伊集院 翼(aa3674hero001 )』と共にサマーフェスを裏方で楽しむ、そんな目的のために下準備はばっちりである。
「客引きとコスプレは十八番だ、任せたまえ」
そう正宗が更衣場の向こうから告げると、その意気込みを代弁するかのようにCODENAME-Sが告げた。
「頑張って精一杯作りますよ」
「こっちも準備万端だよ」
 そう桜が頷くと、きぼうさバーガーの暖簾が上がる。
 
   *   *

 ヘンリーが出店で希望したのは、兎のお肉を使ったバーガー。
 きぼうさバーガーである。
 それをメインに据えて
 タピオカ、果肉ハチミツ漬けを敷き詰め。ジェラート、はちみつクリーム&マカロンを乗せたパフェや
 桜の用意するドリンクメニューも用意してある。
 ジェラート単品で頼まれた場合はパイ生地のコーンにジェラート&果肉乗せるという豪華ラインナップ。
 もちろんパフェや装飾で使うちょっとしたお菓子もきぼうさ型をかたどってある。
 それはバンズなども同じで、全ての型はCODENAME-Sが用意した。CODENAME-Sは裕福なのである。
 そんな見た目可愛らしいきぼうさセットはオープンから売れ行き上々で桜は慌ただしく手を動かしていた。
「セット二つできたよ! 翼よろしく」
 会計は全て翼が担当。
 可愛らしいきぼうさ型の容器をお客さんの首にひもでかけてあげる。
「きぼうさセット、追加で四だ!」
 そう翼が料金を受け取りながら声を張り上げると、バックヤードでCODENAME-Sは不敵に笑う。
 ポテトが上がった。素早く塩を振りかけて全てを包んで桜にパスし。それを桜が袋に詰める。
 手渡せる段階になったところで翼がそれを運ぶという流れ。素晴らしい段取りだった。
 ヘンリーはそれを見て笑う。
 彼は先ほどかれジェラートやパフェにかかりきりだ。
 当然だろう、この熱さである。飛ぶようにアイスは売れる。
「ヘンリー、もう少しスピード上げれる?!」
 コトノハが作業の手を止めずにそう叫んだ。するとヘンリーは揚々と言葉を返す。
「もちろんだ、任せろ!」
 そうシャツで汗を拭いて、作業のペースを上げた。
 胸に独特のロゴマークが入ったTシャツである。
 そう、五人は同じR☆HOPEとロゴが入ったTシャツを着て一致団結している。
 ただ五人。もう一人はどうしたのだろう。そんな残された正宗はというと。
「きぼうさバーガー……。こちら……」
 正宗は女性と間違われるくらいのかわいい魔女っ子風に衣装をきて客引きをしていた。
 夏の日差しの下に輝く魔性の煌き。女子力をこれでもかと周囲に振りまいた。
 これから太陽がてっぺんに上る時間帯。より気合を入れて六人は商戦に臨む。




● 握手会

「腹ごしらえは屋台でいいでしょう。食べ歩いても問題ないくらいは余裕あるし」
 そう『アムブロシア(aa0801hero001 )』に語るのは『水瀬 雨月( aa0801 )』である。彼女は紫色のバンドを揺らしながらストローに口をつけた。トワイライトツヴァイのステージが終わったので、次のステージまでに胃袋に物を詰めておきたかった。
「何か美味しそうなものでもあればいいのだけど。色々な物を食べてみようかしらね」
 そう会場に視線を巡らせた時である。
 木陰に何か見えた。夏にも関わらずロングスカート。隠し切れてないボリューミーな髪の毛。
「遙華?」
 そう、遙華である。
 遙華は名前を呼ばれるとおずおずと姿を見せる。
「驚かそうと思ったのだけどね」
「それは残念ね」
 二人は並んで歩く。どうやら遙華が会場を案内してくれるらしい。
「一人できたの?」
「アムブロシアをカウントしていいなら二人だけど」
 それはカウントしてもいいと思う。そう遙華は首を振る。
「それより、あなたはぬけてきてよかったの?」
「今日私が関わってるステージは内の。むしろ出店エリアにいるアイドルの方が多いから、そのトラブルシューティング役ね」
「今、ここでこうしていたら、職務放棄なんじゃないの?」
「休憩時間、ということにしておくわ」
 そんな仲睦まじい二人の様子を見送ってアムブロシアはカレー屋の屋台に消える。
 一人増えて一人減ったチーム雨月。
 そんな雨月の前から、見覚えのある少女が歩いてきた。『彩咲 姫乃( aa0941 )』そして紐で繋がれた『メルト(aa0941hero001 )』である。
「オナカスイター」
「ああ! わかったつの!」
 そうパンフレットに目を落しながらどこをどう回ってやろうか考えている姫乃。姫乃は姫乃でぶつぶつ言っている。
「この日のためにちまちまと貯金してきたからな。ついでに水着という恥を晒してまでバイトもしたしな
軍資金はバッチリだぞ」
 財布の中を見た。こんなにお金を入れて歩いたことがないので、幻ではないかと再確認した。
「それとビデオカメラも実家から借りてきた。ひかりにアイドルの景色を届けるぞ……あとでDVD&BDで売るから撮影駄目って言われそうだな」
「あら、入り口で没収されなかった?」
「げ! 西大寺!」
「なんで、げ、なの?」
 苦笑いを姫乃に返す遙華である。そんな遙華はポシェットから腕章を取り出すと姫乃の肩布あたりにピンでとめる。そこにはスタッフと書かれていた。
「あ、ありがとう」
「条件はとった映像の全提出、あとは商売目的じゃないなら誰に見せようとかまわないわ。ネットには流さないでね」
 そんな感じで三人になった少女食べ歩きたい。
 遙華の示す場所を目指しながらおしゃべりに興じる。
「んじゃ、とりあえずグッズとやらをあさるか」
「そうね、今からそれができるところに向かうわ」
「たすかったよ、正直初めてだからよくわからん、ひかりとナイアへのプレゼントなんだ」
 だから二人が喜びそうなものをかって行ってやりたかった。
 そこでついたのが、サイン会&握手会会場。
「ここには、ファン全員の声を真摯に受け止め、ファンレターには一通一通目を通し、直筆の返事まで書くと謳われた、和風アイドルを筆頭にディスペアや、トワイライトツヴァイ、様々なアイドルが収容されているわ」
「収容って……」
 雨月が苦笑いをうかべる、だがあながち間違いではないくらいに人でごった返しており、異様な熱気がこもっている。とりあえず今はグッズをと、グッズ売り場に並んだ三人。
「お、ここだここだ」
「……ん、すごい熱気」
そんな三人に声をかけてくる男性がいた。
「流石の人気だよなー……って、西大寺さんじゃないか」
 遊夜そしてお肉を口に両手に装備したユフォアリーヤが尻尾をぶんぶんしながら遙華を向いた。
「あら、遊夜あなたが並んでるなんて意外ね」
「ああ、ちょっとな」
 言葉には出さないが、以前世話をしたことがあるアイドルがいて、彼女に声をかけに来たのだが。
「姿が見えないんだ、おかしいな、こっちで参加してる筈だが……」
「……むー」
 ユフォアリーヤが人垣を押し分けようとするがそれも無意味、跳ね返されてしまう。
「あー、もしかしてそれって梓だったりする?」
「いや、泉さんの様子も見たくて並んだんだが。止処さんもだな」
「あの子、今活動休止中なのよね」
「な…………」
 チキンレッグを取り落す遊夜。衝撃の事実に戸惑いを隠せない。
「あっちでアイス売ってたぞ、行こうぜ」
 そんな空気を救済するように姫乃が告げた。お目当てのものは変えたらしい。雨月と遙華の手を引っ張って扇動する。
「ついに本陣突撃だな、旅館の飲み物と同じ感覚のアイス売るんだったか、つか海の家でも売ってたような?」
 

●夏にはアイスだよねっ

「んじゃ、どっから巡りましょっか」
「まずは…………焼きそば」
「いきなり?」
「お祭の、屋台は…………焼きそばに始まり、焼きそばに終わる、のです」
「そういうもんだっけ。まぁ、いっか!」
 祭りの喧騒とは心地よいものだ、叫ぶ売り子、子供たちのはしゃぎ声、大人たちの雑談と、何より場を満たす音楽。
 陽気な雰囲気がとてもうれしい。
「いいねぇ、こういうお祭り騒ぎな雰囲気。大好きだわ」
『ストゥルトゥス(aa1428hero001 )』はスピーカーから流れてくる別会場のライブ音声を聞きながら出店の列に並んでいた。右手にイカ。左手ににくでご飯を巻いた棒を携えて。
「ん…………屋台がいっぱい、出ていて…………すごく、いい」
『ニウェウス・アーラ( aa1428 )』はストゥルトゥスの言葉に頷いた。今ならんでいるのはニウェウスの要望できぼうさばーがーである。
「おぅやぁ、いきなり食べ物をロックオンですかぁ~?」
「こ、こういう時くらい…………いいじゃない」
 二つセットを受け取ると二人は揚々と人ごみの中へ戻っていく。
 そんな二人が次に目指すのは、アイドルリンカーたちが出店を開くアイス屋さんである。
 そしてそれを目指すリンカーがもう一組
「ラシル、私、プリンセスドレス姿では目立ってしまわないでしょうか……?」
『月鏡 由利菜( aa0873 )』がそう不安げにあたりを見渡すと、ばっちり着こなした『リーヴスラシル(aa0873hero001 )』は堂々と告げた。
「今回は私もイブニングドレスを着ている。心配ない」
「い、いえ、そう言うことではなく……」
「ベルカナから屋台運営や宣伝は頼まれていないのか?」
「今回は断ってきました。毎回作る側だと、客として楽しむ機会がなくて……」
「確かにな。見知った顔にも屋台を営業している者が見られるし、彼らと話しながら食べ歩きするのも悪くない」
 そんな、せっかく作った休日、であればリーヴスラシルと楽しみたい、そう由利菜はリーヴスラシルの手を取って、まず並んだのがこの、アイドルたちのアイス屋さん。
 並んでいるお客さんに男性スタッフがメニュー表を配ってくれる。
 バニラやチョコレートのマーブル『モノクロ』
 栄養ドリンク味の『グロリア』
 ソーダ味に弾けるキャンディ入りの『ルネ』
 蜂蜜レモンに味の『フェアリー』
 ホワイトサワー味の『プレア』
 バニラ&クランベリーの『ウィッチ』
 マンゴーの『サンシャイン』
「ん? ウィッチ?」
 そのフレーバーが気になって顔をあげると、まさにそのフレーバーのモデルとなった人物がそこにいた。
 構築の魔女そして『辺是 落児( aa0281 )』である。
「皆さんお疲れ様です、澄香ちゃんもお疲れ様ね」
 がーでぃあんずは第一回講演を終えたところらしく、その影響もあってアイス屋は長蛇の列だったが、早い時間から並んでいたのだろ。構築の魔女はすでに到達していた。
「えぇ、とても楽しく見せていただきました。本当に素敵でしたよ」
 全てのフレーバーを買いこみ落児に持たせると構築の魔女は一つ頭を下げてわらう。
「ありがとう。それじゃ、私はここで失礼します。残りも頑張ってくださいね」
 あまり長居しても他のお客に迷惑だろう。そうすぐに踵を返す構築の魔女。
 戦利品を眺めて小さく微笑んだ。
「--ロロ」
「まぁ、たまにはこういうものもいいでしょう」
「ロー…………」
「えぇ、こういう形で人を楽しませるのはすごいと思うわね」
 次いで別の列からも声が聞えるニウェウスとストゥルトゥスが到達したのだ。二人も握手したり、応援の言葉をかけたりしている。
「ん…………頑張って下さい、ね」
「兼業とか大変だろうからねぇ、うん。この位しか出来ないけど、応援させて貰うよ」
 そうストゥルトゥスは財布を取り出しアイスを眺める。
「じゃぁ…………あれと、それと、これ…………下さい」
「って3つもかーい」
「デザートは…………別腹」
 お腹痛くならないだろうか、けどそこは気遣って胃薬まで一緒にくれたので大丈夫だ。きっと。
「そういやさ」
 やっと売り場に到達した姫乃が売り子のアイドルに言葉をかけた。
「……こういうとこって宅配頼めんのか?」
 それは要相談だと言われていた。


● ALA
 チケットをもらった時『マオ・キムリック( aa3951 )』は途方に暮れていた。サマーフェスのライブチケット、きっと楽しい二日間、だけど。
「貰ったけど……どうする?」
 『レイルース(aa3951hero001 )』が不安げに告げる。
「私達だけだと不安かも」
 うむむと考え込むマオ。そんなマオの携帯電が震えた。そして当日。
「アンジュも歌うんだって! ボク行きたーい!!」
「うん、折角だし応援しに行こっか」
『若葉( aa0778 )』と『ピピ・ストレッロ(aa0778hero002 )』はパンフレットを眺めながら騒いでいた。
 そんな若葉はすぐにマオ達を会場で発見する。
「マオ達みぃーつけた!」
「あ! ピピちゃんだ。えと……その…………」
 駆け寄るマオとレイルース。
「今日はよろしくね」
 もじもじしてうまく話せないマオに代わってレイルースがそう告げた。
「あ、そう、よろしく、だよ!」 
 なんだかおかしくなって笑いあう。
「今日は俺達、よくわからないできちゃったんだ。皆月さんたちはどう回るつもりなの?」
 そう問いかけられれば答えないわけにいくまい、都会になれない友人マオの手を引きながら、若葉は告げる。
「まずはみんなの妹、あんじゅ~の応援だよ。その後にコンサートホールに演奏を聴きに行くよ。そして森林ステージの激レア抽選に勝ったから電子の歌声を聞きに行くよ!」
 ハイテンション若葉である。
 そんな四人だったが、ステージに向かっている最中にお目当てのアイドルと出くわしてしまった。偶々人通りの少ないところで休んでいると通りがかったのだ。
「アンジュ! 観に来たよ!! 出番たのしみにしてるね♪」
 そう手を取って勢いよく振るピピ。
 その背後にはALAのメンバーが控えている。
「アルも同じグループなんだね。ピピと観に行くよ」
 そんな皆の交流を見ていてマオは思った、これがアイドルなんだと。
 ぼうっとALAを見つめるマオ。そんな彼女にあんじゅ~が手を差し伸べてくれた。
「えと、その……頑張ってください、です」
 その手をぬぐって、柔らかな手を取る。
 激励を受け取ったALAのメンバーはステージ裏に消えて行った。
 そんなマオ達が会場に入ると前列から異様な熱気を感じる。
 その男は鉢巻きに羽織り。うちわやサイリウム、応援グッズで身を固め最前列に居座っていた。
 あれは、何だろう、そうマオは目を凝らす。
「あれは荒木さんだね」
 それは開場時間までさかのぼる。
 いい場所を取るすなわちそれは最高の音楽ライフを約束する絶対条件。
『荒木 拓海( aa1049 ) 』は燃えていた。俗にいう徹夜組。前日から会場にやってきたのにもかかわらず長蛇の列だったことには驚いたが、眠って目覚めてみると自分たちの後ろに、ずららっと大量の人が並んでいるのを見てぞっとした、並んでいてよかったと思った。
「あん! 今行くぞ、まってろよ!」
 そんな妹バカっぷりに『メリッサ インガルズ(aa1049hero001 )』は額を抑えた。
 そして拓海は受付を潜るや否や共鳴、猛ダッシュ。一直線にステージに向かう。
「こう言う時、共鳴してると有利だな!」
「気持ちは判るわ……けど! 夜まで解除しないわよ」
 彼女のスケジュールは頭に叩き込んである。ため息を漏らすメリッサを無視してステージ最前列に居座って。
 今である。
 次いでライブが始まった。アップテンポな曲調と共に舞い踊るアイドルたち。
 それに合わせて拓海は最初からトップギアである。
 サイリウム両手に曲に合せオタ芸ダンスと掛け声。
 あんじゅ~に恥かかせぬよう回りの状況見るが応援第一。
 普通にしていれば爽やかイケメンの彼が鬼気迫る表情で、踊りの神でも降りたのかと思われるほどキレッキレの動きを見せる。
 だがそれは全て、妹への愛ゆえに。
「あのグループの右(?)の子がオレの妹なんですよ♪可愛いでしょ」
 そして同じようなオーラを感じる、『凛道(aa0068hero002 )』をファンに仕立てるために声をかける。凛道のメガネが光った。『紫 征四郎( aa0076 )』は面白がって拓海の真似をしている。
 そんなガチアイドルファンたちを遠目に見ながら若葉とマオは普通に手を振る楽しみ方をしている。
「賑やかで驚いた?」
 若葉がマオに問いかけると、マオは大きな声で告げる。
「こんな人が集まるなんて、すごいよね」
 その隣でピピがくるくると踊り始めた。ピピに手を取られマオも体を揺らす。
「桜クラクラ~♪」
「ふふ、桜クラクラ~♪」
 特徴的なフレーズのその曲を、ピピとマオは口ずさむ。
 そして夕陽を背後にALA最後のあいさつ。大熱狂のうちに一日目が幕を下ろした。
 時期に寄るが来るだろう。
 となれば、必要なのは明日に向けての休息だ。
 マオ組はテントをはり、若葉組が食料を調達しに行く。
「ふふ、テントなんて久しぶりだね」
「こっち来てから色々忙しかったよね、のんびりできるのは……いい」
 そうレイルースは一番星を見つけて佇んだ。
 夜は遠くに曲や歌声を聴きながら星空の下、出店の食べ物を皆で食べつつのんびりと過ごす予定、そんな光景を思い描いているとさっそく若葉が戻ってきたようだ。マオは走って迎えに行く。
「色々あるから好きなのどうぞ」
「ボクこれー!」
 ピピはお腹がすいていたらしく猛烈な速度できぼうさバーガーを飲み込んでいく。
「うわ、ほんとに沢山!」
「……どれも美味しそう」
 そんなマオに一足先に食べ終えたピピが問いかける。
「マオ達たのしかった?」
「とっても! 充実した1日間だったよ」
「俺達だけなら多分困ってた……ありがとう」
「うん、なら良かった。また今度、皆で遊ぼう」
 あと一日、まだまだ騒ぐつもりである四人はそのあとすぐに横になった。


● 出店いろいろ

「……で? 菓子は有るのだろうな?」
 でたよ、いつもの。
 そんな風に思いながら『弥刀 一二三( aa1048 )』は隣を歩く『キリル ブラックモア(aa1048hero001 )』に重たく視線を向けた。
「出店仰山あるし、あるんちゃいます? せやけどその前に稼がんと、でっせ?
 そう指でわっかを作って見せる一二三。その言葉の真意を理解できず、キリルは首をひねった。
 そんなわけでいつの間にか設営されていた一二三ブースへキリルを案内する。一二三。
「なんだこれは……」
「今、流行のVRや!」
 そう、そのブースには管理するためのPCやモニター。それ以外は四人分のVRマスクが並べられていた。
 後は座席が四つ。
「これはいったい……」
 状況が飲み込めないキリル、そんなキリルに説明書片手にこのゲームの説明をしていく。
 なんでも、カーレースらしい。そんなときだ。
「あれ、一二三さん?」
 そうキリルに、一通りの説明を施していると店先に現れたのは。若葉、ピピ、マオ、レイルースである。
「おお、来てくれたんか。おおきに」
 しかもおあつらえ向きにちょうど四人である。
「座席に座ってな、シートベルト装着したら、うちらでマスクつけてくからな」 
「コントローラーは?」
 マオが尋ねるが一二三は首を振った。
「頭の中で考えるだけで己の車を操作出来るようになっててな」
 一通りの説明を押すと、キリルがゲームスタートのボタンを押す。
 すると四人の視界が切り替わり、見渡す限りの荒野が映し出される。
 四人の視界は、集客用に借り受けた大型モニターに映し出される。会場から流れる音に合わせ変化する道を上手く走り抜けタイム競うという内容だ。
 12時間毎にタイム1位のレーサーは数種のゲームがインストールされたVRマスク贈呈。らしい。
「すごく面白かった!」
 そうゴーグルを外して汗をぬぐう若葉。
 見れば、モニターの前には何人も人が集まっている。
「これが1回たった500G! しかも! 12時間毎の集計でトップスコアやとこのマスク進呈や!」
「わ、私でも運転が出来たぞ!」
 人に囲まれてたじたじのキリルがそう告げる。
「誰でもできる体験ゲーム! 音楽聴きながら遊んでやー!」
 そう声を張り上げる一二三だったが、人ごみの向こうから聞き覚えのある声を聴いて視線を持ち上げた。
「1日……肉体は疲れないけど精神的にやられた感じよ」
「え? 一緒に歌ってただろう?」
「えーえーー」
「拓海やないか! キレッキレやったな」
 そう友人に対して手を振る一二三。視線の向こうから歩いてきたのは拓海とメリッサであった。
「ああ、見てたのか」
 そう照れ笑いを浮かべる拓海の隣で。メリッサは顔を抑えて赤くなっていた。
 途中から明らかにノリノリだったので、それを一二三にまで見られていたと思うと恥ずかしいのだ。
「……そうよ……楽しんでたわよっ」
 しかしそこでちゃんと認めていくメリッサである。
「あれ? みんなおそろいで何してるの?」
 賑わってきた店先に現れたのは望月と百薬。両手には周囲の美味しいものをこれでもかと抱えている。
「一通り盛り上がった後のドリンクとじゃがバターが最高だね」
「お! きてたんか望月はん、よってきなはれ」
「これ食べたらね。あ、そうだ、みんなおすすめのアイドルとかいるの?」
 その望月の問いかけに不敵な笑いをうかべる拓海。
「一押しの子がいる、あんじゅ~って言ってね」
 その後拓海による、妹自慢が始まったのは言うまでもなかった。

● 光のステージ
「わぁ……蛍の光が綺麗」
「森に蛍、素敵な歌声……幻想的な雰囲気だね
 マオと若葉が足を踏み入れたのは夜の森林ステージ。
 その魔法の空間はとある少女の作り出した秘密基地。
 安らぎもたらす、夜のステージ。
 光が揺れるように音を放ち、彼女の得意とする電子音の重ね技で。
 見てほしい。まるで森全体が謳っているかのように。木の葉から光が舞い散った。
 彼女が木陰から姿を見せる。アコースティックギターを幹に置いて。ありがとうと告げて、演目を始めた。
 『光の音』彼女が弾き語ってくれた『higher!』
 参加者僅か50名の激レアステージだが、だからこそできることがある。
 弾き語りを終えた少女は森の中央に座って話を始めた。
 今回の企画について、思いを代弁するという事。歌を作るという事。
 そんな彼女に強い視線を向けているのが二人『柳生 楓(aa3403)』『氷室 詩乃(aa3403hero001 )』そんな二人を見て、彼女は少しだけ笑った。
 実は二人して匿名で彼女に依頼を出していたのだった。
 楓は。
――題名:大好きなキミへ
歌詞:幸せなキミを横で見てる、ただそれだけで良かったのに
キミを思うだけで 心が締め付けられる
愛って感情を 消せれたらいいのにな
 詩乃は。
――題名:ありがとう
歌詞:いつも支えてくれて 助けてくれて、ありがとう
貴方のおかげで 私はここにいる
これからもどうか よろしくお願いします

 それを順番にこの森の番人である少女が謳いだす。
 詩乃の想いを、楓の想いを。言葉という形ではなく音という形で伝えていく。
 詩乃から楓への歌を聞いた時、楓は少し悲しい曲と思った。そして何か胸に引っかかるような、そんな印象を受ける。
 次いで歌うのは楓から詩乃への想い。
 その歌に聞き入る詩乃は穏やかな表情をしていた。
 だからだろうか。今なら真っ直ぐに言える。
「詩乃」
 楓は詩乃の手を取った。
「いつも私の事、護ってくれて、支えてくれてありがとう。あなたがいなければ私ダメでした」
 瞬きすると涙がこぼれる。
 そんな楓を詩乃は抱き留めた。
 会場が拍手に包まれる。
 だが企画はまだ終わらない、続いては『アリュー(aa0783hero001 )』の番。ふと傍らの『斉加 理夢琉( aa0783 )』をアリューは見た。
 少女は一瞬アリューを見て。そして喉に手を当てる。すると息を吸い込む音すら、変わった。
 それを聴いて理夢琉は目を見開く。
 あの声だ。いつか聞いた透き通る声。目の前でひび割れ砕けてしまった声。
 ルネの声。
「この歌を、傷ついたあなたに捧げます」
 少女は告げると、ギターをかき鳴らし始める。
――壊してしまった後悔のリフレイン
 ため息の音色じゃ進めない もう気づいているのでしょ
 希望の音色吸いこんでその先の未来へ歌を紡いでみて

 その声を聴いている間、ずっと理夢琉は微動だにしなかった。
 アリューはそんな理夢琉を見つめている。
 それは本当のルネの言葉じゃないけれど、凛と澄んだ声を自分からくすませてしまっている相棒へのエール。
「英雄ルネ 君も同じ思いだろう?」
 そう天を仰ぎながらアリューは告げた。
 最後に少女は好きな単語やテーマを募集すると言った、それを元に年内に曲を作ると。
 それに立候補したのは由利菜。
「新曲のテーマ、ですか……【気高き心】【永遠の親友】はいかかでしょうか」
 その言葉に頷いて少女は由利菜の言葉の先を促した。
「どちらも、私の英雄達から抜き出したものです」

「なかなか歯ごたえのあるテーマだね。ありがとう、この思い大切に歌にさせてもらうね」
 そう告げると、闇を退けていた森に、夜がまた訪れる。
 気が付いたら少女はそこにいなかった。まるで狐につままれたような感覚が全員を襲う。
 その心地よさに全員がしばしその場で放心したという。
 

●夜も熱く 

「やぁ、これは確かに贅沢な一時って奴だね」
『木霊・C・リュカ( aa0068 )』はため息交じりに告げると安っぽいワインに口をつけた。夜風が涼しく胸元を乾かす。
 そんな彼の目の前で今朝の戦利品を広げて喜んでいる征四郎と凛道である
 そんな二人の声を近くに効きながら、たき火周りの音楽を遠くに効く。
 つまみが切れてしまったようだ。立ち上がるとどうしたものか眺めていたら。『ユエリャン・李(aa0076hero002 )』がその肩を叩いてくれた。
「美しい我輩の横を歩けることを感謝するのだな!」
「じゃあ、エスコートお願いしようかな」
 よるこそ書き入れとばかりに開いている屋台も多い。昼間よりは人通りが減った屋台村を二人で並んで歩く。
「にしても、もう少し日差しが弱ければなぁ」
「弱ければなんだ?」
 ため息をつくリュカにユエリャンが反応する。
「一緒に回れたんだけどな」
 肌が弱い者の辛いところである。
「いやぁ、熱気も凄いしさ~」
 共鳴していなければリュカは体の弱さがそこかしこに出てしまう、二人の迷惑になりたくなかった。
「ふむ、まぁ懸命なはんだんであるな」
 そうユエリャンもグラスを飲みほしてつまみを買い込む、酒は持ち込んだ物があった。ウイスキー、ワイン、ビール、何でもありである。
 そんなアルコールのちゃんぽんをしても酔わないユエリャン。二人は少し離れたところから二人のはしゃいでいる様子を眺めた。
「案外こういうお祭り雰囲気も似合うんだねぇ」
 そうにやりと笑ってリュカはユエリャンに問いかけた。
「音楽は好きだし、ライブも嫌いでは無いがな。あいつらと行くのはな…………」
「音楽だったらクラシック! みたいなイメージあったから、本当にイメージだけど」
「まぁ、好きなものがあるのは何より良いことか」
 そんな二人の間に沈黙が流れる。重たくはない。酒飲みは沈黙してしまうことがまぁまぁあるからだ。
 酒の味わいとは半分が思い出の味わいである。グラスを傾けながら思案することは何より楽しいことなのだ。
 だが自分の中で完結できないこともある。
「ねぇ、お留守番組の事なんだけど」
 少年と青年の背中がユエリャンの脳裏をよぎる。
「あの二人ってさ、きっと」
 からりとグラスの中の氷が揺れた。それを皮切りに口を開くユエリャン。
「そうさな。不安もあろうが、我輩が介入すべきではなかろう」
 気付いている、そう暗に語るユエリャン。
「未来を自身が選択できる兵器。それがあの子であるからな」
 だから同時にまかせて見ようそう思った。結末がどうなるか、それは予想がつかない。だが痛むから苦しいからと言ってやめさせることはしたくないし。何より本人が望まない助力はしたくない。
「もう少し見守るしかないか、もどかしいなぁ」
 そうグラスを煽るリュカ。
「そう言う君は……」
 そう口を開きかけてユエリャンはやめた。野暮な話はもういいだろう。そう赤々と燃えるキャンプファイアーに視線をずらす。
 夜は基本的に近隣の町に配慮して歌ったり踊ったり、ステージイベントは存在しない。だけどスピーカーと言った音響をつかわなければ騒いでもいいようで、来客だけでの夜のお祭りが開かれていた。
 キャンプファイヤーを囲って、ギターやアコーディオン等。楽器を持ち寄った演奏会、その中心に突撃していったのはストゥルトゥスである。
「ウヒョウ、楽しそうな事やってるじゃねーのっ」
「え、ちょ、ストゥル…………乗り込む気?」
「当たり前デスヨ? これはお祭、騒がにゃ損! あ、マスターも拉致で」
「ひゃい!?」
 そうストゥルトゥスはニウェウスの手を取って引いた。
 そのキャンプファイアーの輪には由利菜も見える。Moonlight Locus』の演奏練習だそうだ。
「アイドル活動は難しくても……音楽を学ぶことはできますよね」
 そう昼間のライブを思い出して夢見心地でつぶやく由利菜。
「ユリナはピアノをやってみたいのか」
 リーヴスラシルが尋ねた。
「ええ。……あいにくピアノは大きすぎて持っては来られないので、シンセサイザーですけれど。ラシルは何か得意な楽器はありますか?」
「そうだな……あえて言うなら、ヴァイオリンだろうか」
 そうリーヴスラシルは昼間に聞いた音色を思いだし目を瞑る。
 同じく音楽の余韻に浸る少女が二人、六花とアルヴィナである。
「楽しかったよ、これからも応援するね」
 そうアイドルたちと握手して、写真も撮らせてもらって、一生の思い出とそれを抱きしめる。
 やがて空に花火が咲き始めるころ、二人は眠気を我慢しながら芝生に寝転がっていた。
 二人の口から湧き上がってくるのは思い出話、気付けば二人で誓約を交してから半年が過ぎた。
 アルヴィナと出会ったおかげで六花は独りじゃなくなった
 六花と出会えたおかげでアルヴィナも初めて誰かから必要とされた
 ペンギンの獣人たる娘と冬を司る氷雪の女神。世界を越えて二人が出会えたのはきっと運命。
「これからも、ずっと…………一緒に、いてね」
「ええ、勿論よ」
 そう言葉を交わし合い。並んで座って寄り添いながら夏の空の華やかな花火を見上げる

● 夜と喧騒
 嵐の御童家……それは音楽フェスチケットを巡って第一英雄と第二英雄が骨肉貪るガチバトルを繰り広げることをさす。
 それはそれはすさまじい攻防戦だったが、全ての決着は『スワロウ・テイル(aa0339hero002 )』が関節技を決めてチケットをもぎ取ったところで収束した。
 そして現在サマーフェスインターバル、夜の部。昼間の熱が冷めていく午後十時。まだまだ眠らないつもりのフェス参加者を見ながら。『御童 紗希( aa0339 )』はスワロウと会場を眺めていた。
 テント横でB級グルメを楽しみながら、花火が上がれば歓声を上げる女子二人。
 目の前のキャンプファイアー前では理夢琉がアカペラで歌を歌っていた。今日聞いた曲らしい。
 彼女もまた歌で何かを伝えられれば、そう願う少女の一人。 
 だが、そんな風に昼間の夢を忘れれない少女は理夢琉だけではない。紗希もスワロウもである。
「はー。楽しかったー。あんなに声出したの初めてかも」
 若干ガラガラ声の紗希
「ね? 言ったっしょ? こーゆーのは騒がないと損なんス」
 そうスワロウが一口に串を飲み下しそう告げた。
「あたし歌はメディアで静かに聴くのが好きだったけど生は迫力が全然違うね!」
「そーれがフェスの醍醐味と言うヤツっス!」
 紗希の言葉に気を良くしたのかスワロウは立ち上りよろめきながらも紗希の前に立つ。そしてテイルが振り付けまでまねて歌い出す。
「あ! それ。がーでぃあんずの曲! 新しい曲でしょ? 振り付けもう覚えちゃったの?」
「自分一発完コピ得意なんス!」
 意外な特技を見せたスワロウ、彼女に教わりながらも紗希もちょっと真似をする。
「テイルちゃんてさ歌上手いよね。イギリスでお化け退治した時に歌った即興の歌聴いてビックリしちゃった」
「あー……自分以前さる事情で一時声楽を学んでいた事がありまして。声の出し方は知ってるんス」
 そう頬をかくスワロウ。気まずそうにそっぽを向く。
「アイドル目指したりしないの? HOPEは芸能の方もやってるよ?」
「にゃはー! 自分はシュミで歌ってる方が楽しいんで。芸能界には興味無いっス」
 仕事にしてしまうとダメになるものもある、それをスワロウは知っている。
「それよか姐さん! 明日も騒がなければならない故もう寝ましょうよ」
「そうだね 明日も楽しまないと! 」
 そんな二人の背後でがさりと木々が揺れる。びくりと体を跳ねさせて二人はおそるおそる。振り返った。
 するとその木陰の向こうに誰かいる。
「麻生さん!」
 驚きの声を上げる先の口をスワロウは素早く抑える、幸い遊夜には声が届いていないみたいだった。
 遊夜は少女と一緒にいた。
 ディスペアの構成メンバー止処梓。彼女と人目につかないところで逢瀬を繰り広げている。
 ちなみに、今日ステージに散開していない梓がなぜここにいるのかと言えば、気になるから、任務から戻ってきただけの事だが到着したときには夜が遅かったので楽屋から締め出されてしまったのだ。そこを遊夜に保護されたという次第である。
 口説き文句は『夜のデートは如何かな?』
 もはやこのシチュエーションをユフォアリーヤにばらされただけで殺されそうな気はするが、良い雰囲気なので出るに出られない、紗希とスワロウは二人を見守ることにした。
「暗いな、どうしたんだ?」
 遊夜が問いかける、すると梓は告げた。
「アネットが見つからなくて」
 そんな彼女に骨についた肉を差し出す。
「なにも食べてないんだろ?」
「これ、どうしたんですか?」
「狩りが趣味でね」
 そう悪戯っぽく笑って見せる遊夜。
「にしても止処さんの歌を聞けなくて残念だったよ」
 そうギターを取り出して見せる遊夜。
「そんなのいつでも歌ってあげるのに」
「じゃあ、お願いしたいね」
「引けるんですか?」
「教えてもらえれば…………ご教授いただけますか?」
 星明りを頼りに音楽教室である。今日は空が明るい。楽器を弾くには十分だ。
「報酬は子供らと作ったお菓子でどうだろう?」
 そうバスケットを差し出すと、梓は遊夜の手を取って泣き始めた。
「どうした?」
 そう子供たちにそうしてやるように頭を撫でる遊夜。
「怖いの、全てを思い出したから、戦う理由がなくなった気がして怖い。怖いの」
 その声が夜の闇に響く。


● がーでぃあんず

 翌朝の征四郎、リュカ組のお昼は遅めだった。
 まぁ、目当てのステージがあと一つしかないのだからのんびりしていても平気なんだろう。
「2人で行ってこい。我輩はピンヒールで来てしまったし」
 そう告げたのはユエリャン。寝起きにコーヒーなんて嗜んでいる。
 リュカはリュカで今日の日差しだとまたお留守番なので、凛道と征四郎は向き直ってお互いの意気込みを確かめた。
「行きましょう征四郎さん、僕達の戦場へ―……!」
「リンドウ! いっぱい応援しに行きましょう!」
はい、武器(軍資金)の貯蔵は充分です」
 目指すは水辺エリア、がーでぃあんずの舞台。
 がーでぃあんずには友達が何人も参加している。一緒に依頼で肩を並べたことも少なくない。
 そんな彼女たちのまた別の姿見られる晴れ舞台。
「凛道! 人が多すぎるのです! 肩、肩!」
 特等席でみたいではないか。そう最前列なおかつ。凛道の肩の上に席を取る征四郎。
 水辺ステージは涼しげだった。湖となっておりその中央にステージが浮かぶ。
 そのステージでどんな演目を彼女たちが見せてくれるか、それが楽しみで仕方ない。
「マスターもユエさんも来てくれたら、もっと楽しかったかもですね」
 そう少し残念そうな顔を見せる凛道。
「…………! そうですね、次はみんなで、来れるといいですね」
 そう征四郎が拳を突きだすと凛道も気を引き締め直す。
 本日保護者の任を任されているのは自分だ楽しむのは当然だが征四郎のケアも忘れてはいけない。
 そう持参したバックの中には十分な水分とタオル等々。
 準備はばっちりなのである。その時だった。
 会場に高らかに響く開幕の音。撃ちあがる花火と、駆けあがる翼。
 天空から全員に明るい声を響かせるリンカーアイドル。
 彼女の登場を持って、夢のようだ舞台が始まる。
 トップバッターは森林ステージより、シンデレラのようなドレスでお送りする用だ。
「これ、あの子からもらったのだけど、なにこれ」
 そう『レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001 )』は手元の歌詞カードを眺める。
 その歌詞カードにはらぶずっきゅんの絵と共に謎の言語が書き連ねてあった。
「全く読めないな」
「アルスマギカ語……て書いてるけど?」
『狒村 緋十郎( aa3678 ) 』がさかさまにしたり、空にすかしたりしている。
 そんな緋十郎は愛用の鉢巻に桜色の法被、それを真似してレミアも鉢巻に茶色と緑色の法被。
 桜色は彼女のシンボルカラー、旅館の女将を務めつつ、学業にも身をいれつつアイドルまでする。
 パワーに満ち溢れたその人を一番に、応援するためにここに来た、凛道と同じく最前列で彼女たちを見守る。
 
 そんなリンカー御一行を見つけて姫乃、雨月、遙華も体を滑り込ませて前まで来た。
「と言っても、こう言うのぜんぜんわからないんだけどな」
 姫乃が音楽に負けない声で二人に言う。
「……ステージに立ったことならあるってよく考えると相当変だな。とりあえずサイリウムを全色振ればいいんだろ」
「それは、穿った見方だと言わざるをえないわね」
 雨月が苦笑いを返した。
「俺の反射神経なら周りが上げた色を見てから同じ色を選ぶなど造作もないことよ!」
「旗揚げゲームになってる!」
 遙華が絶句した。
「みんな、すごい頑張ってるわね」 
 姫乃や緋十郎や凛道が拳を突き上げたり。声高に叫んだりしているのを尻目に雨月は告げた。
「それは前から知ってたけど、表から見てみるとよりそれが感じられるわ。普段は裏方が多かったから、普通に聴衆として参加するのも不思議な感覚だわ」
 だがその雨月の言葉に遙華の返事は返ってこない。
「遙華?」
 いなかった。
 いつの間にか、遙華がいたスペースだけぽっかり空いてそこにいなかった。
 ぱちくりと目を瞬かせる雨月。とりあえず上空の彼女を見あげると、こちらに気付いたのか手を振ってくれた。緋十郎も力いっぱい手を振りかえしていた。
 そんな水辺ステージに理夢琉が戻ってきた、森林エリアから走ってきたらしい、上がった息を整えながら前に行けないか隙間を探す。
「今回は店をやるって言わなかったな」
 そんな理夢琉にアリューが言葉をかけた。
「うん、思い切り音楽を感じたいからね」
 そう言って理夢琉は微笑んだ。
「こういうものもいいものですよね」
 そんなステージを小高い木の上で眺めているのは構築の魔女。だれも上ってこられない彼女の特等席はステージを見下ろす角度になっていて眺めがいい。
「在るための理由が一つじゃないといけない訳ではないですし」
 そう柔らかく微笑んで構築の魔女は彼女たちの戦闘風景を見守る。
 そんな構築の魔女の体も自然と動く、軽い手拍子、そして足がリズムを刻んでいる。ライブ中の演出と演技には思わず目を見張った
「…………観客として見るのものやはりいいものですね」
 そして歌が終わると一際強い歓声と共に少女が一人迎えられる。彼女は森林ステージで走ってきたらしくぼろぼろだった。
 そんな少女を抱き寄せる桜色の髪のあの子。
 その光景を目にするだけで、緋十郎は涙腺が緩む思いだった。
「なんていうか疲れるな……見てるだけですごいエネルギーだ」
 姫乃が誰にでもなくぽつりとつぶやく。
「でも心地いい疲労感だ。36時間TVの時はラストだけあったからな」
 これは魅了される奴がこんなに多くても納得だ。姫乃は胸の前で拳を握り、そう呟いた。
 同じ思いを胸に抱く少女がいた。
 理夢琉も言葉にならない感動を抱いていた。
 これからの音楽活動でどうしたいのか何ができるのか。今日出会った人達……感じた歌で再確認する場にしたい。
「こちら側でなくあの光の下で」
 そう本気で願う。
 これがたぶん、彼女たち、アイドルたちが与えた光というやつなのだろう。
 それは芽吹き様々な花を咲かせつつある。
「アイドルはすごいのです!!」
 感極まって征四郎は両手をぶんぶん振るった。
「ステージの上から。みんなに元気を分けてくれる」
 それはきっと、剣では出来ないことだから
 そんなつぶやきを聞いて、緋十郎は泣いていた。
「ええええ! ちょっと!」
 レミアが背中をさする。
 だが涙は止まらない。
 嬉しかったのだ。
 この二日、ずっと一番大好きなあの子だけではない。
 アイドルリンカー全員を見てきた。
 握手会やサイン会、全員コンプリートを目指して何度も並んだし、ラジオの公開収録もチケットをとって参加した。
 そんな彼女たちの努力が実を結んだかと思うと嬉しかったのだ。
「緋十郎……」
 何より、一番応援しているあの子。あの子の姿が目に焼きついた。
 今この瞬間を目に耳に心に魂に焼き付ける。
 あの日、自分の命を救ってくれたあの日。
 まだ彼女は駆けだしで、自分と同じ熱狂してくれる人なんてほとんどいなかった。
 だが今はどうだろうか。感動を強い希望を周囲に与えてくれている。
「ちょっと緋十郎、泣かないでよ。私も泣けてくるでしょ」
 レミアは最初は歌だとかアイドルだとかまったく興味がなかった。
 だが緋十郎がしつこく進めてくるし、隙あらば曲を聞いてるしで一緒になって曲を覚えていた。
 それに応援したい人もできた。
 サインをくれたあの子が、泥だらけになっても走って走って。諦めないでステージにたどり着いたとき感動を覚えたものだ。
 彼女がアイドル活動を続けていることが嬉しかった。
 夫婦はお互いに肩を叩きながら泣き始める。
 最後に緋十郎は叫んだ。声の調整を忘れたかのような叫び声。それが彼女に届いたのか。
 今日一番いい笑顔を浮かべて、ありがとうございましたと頭を下げた。
 幕が下りていく。
 だがこれはあくまで一幕。これで終りではない。彼女たちの戦いはむしろこれから、なのだから。

●エピローグ
 撤収の際にアイドルリンカーで挨拶を、そうもうけられた特別ステージへとアイリスは手を振っていた。
「おねーちゃーん、みんなー」 
 そうはしゃぐアイリスを気遣うようにそばに立ち、体を支える佐助。
 もう何度も、君だけの体ではないと言ってみたのだが、最後にと聞きはしない。
「はいはい、無理はしない……代わりに買ってきてくれてありがと佐助」
 そんな彼女のわがままも全てかなえてやりたいと思うのは悪いことだろうか。
 この二日間二人は、手を繋ぎながらゆっくりと会場全てを見回った。食べたいものをかい、お互いに食べさせあったりして。
 夜には花火を見あげて二人で寄り添って眠った。
 二日目も、全ての友人のステージを回り応援を欠かさない。そんな彼女の愛情が見て取れる。
「佐助くんも楽しんでるようだし、僕も折角だから色々と見て回ってみようかな?」
 そんな二人の空気を読んで『柴左衛門五郎兵衛(aa2087hero002 )』は気ままに会場を練りあるいた者だった。
 揺れるシャツにプリントされているのは『英雄道中・旅情編』の文字。
 そんな英雄や正護と合流しての帰宅道。アイリスがぽつりとつぶやいた。
「……ふふっ、この子もあーやって舞台に立って歌ったり踊ったりすることに憧れたりしてくれるかな~?」
「そうだね。そうなるといいね」
 最愛の人とこうして笑いあえる幸せをこれからずっと噛みしめていきたい、そんな思いが繋いだ手から伝わったのか、誰が言い出すでもなく強く手を握り直す。
「……こうしているのももうあと少しなんだって思うと何だか……ちょっぴり悲しいかもしれないね」
 そんな言葉に驚いて佐助はアイリスの顔を覗き込む、だがその表情は決して悲観してなかった。
 アイリスは悪戯っぽく微笑んで佐助に顔を向けると言葉を続ける。
「私だけの佐助だったのに、これからは私達の佐助〈パパ〉になるんだもん。でもなぁーんにも怖いことなんてないよ。……これからも、ずーっと。よろしくね佐助」
 夕暮れに染まる帰り道で佐助は感極まってその体を抱きしめる。
 これからもよろしく。そんな思いを全身で少女にぶつけたのだった。
 夏が終わる。そんな気配を風から感じて、二人は帰りの車に乗り込んだ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • 赤い日の中で
    スワロウ・テイルaa0339hero002
    英雄|16才|女性|シャド
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 戦うパティシエ
    ヘンリー・クラウンaa0636
    機械|22才|男性|攻撃
  • エージェント
    伊集院 コトノハaa0636hero001
    英雄|17才|?|バト
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 大切がいっぱい
    ピピ・ストレッロaa0778hero002
    英雄|10才|?|バト
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命
  • 難局を覆す者
    アムブロシアaa0801hero001
    英雄|34才|?|ソフィ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
    人間|12才|女性|回避
  • 胃袋は宇宙
    メルトaa0941hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • ストゥえもん
    ストゥルトゥスaa1428hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • 厄払いヒーロー!
    古賀 佐助aa2087
    人間|17才|男性|回避
  • エージェント
    柴左衛門五郎兵衛aa2087hero002
    英雄|6才|男性|バト
  • グロリア社名誉社員
    防人 正護aa2336
    人間|20才|男性|回避
  • 家を護る狐
    古賀 菖蒲(旧姓:サキモリaa2336hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • これからも、ずっと
    柳生 楓aa3403
    機械|20才|女性|生命
  • これからも、ずっと
    氷室 詩乃aa3403hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 家族とのひと時
    リリア・クラウンaa3674
    人間|18才|女性|攻撃
  • 歪んだ狂気を砕きし刃
    伊集院 翼aa3674hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • 希望の守り人
    マオ・キムリックaa3951
    獣人|17才|女性|回避
  • 絶望を越えた絆
    レイルースaa3951hero001
    英雄|21才|男性|シャド
  • Dirty
    フィーaa4205
    人間|20才|女性|攻撃
  • ステイシス
    フィリアaa4205hero002
    英雄|10才|女性|シャド
  • 悪食?
    逢見仙也aa4472
    人間|18才|男性|攻撃
  • 死の意味を問う者
    ディオハルクaa4472hero001
    英雄|18才|男性|カオ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 愛するべき人の為の灯火
    御剣 正宗aa5043
    人間|22才|?|攻撃
  • 共に進む永久の契り
    CODENAME-Saa5043hero001
    英雄|15才|女性|バト
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