本部

【時計祭】占い屋

玲瓏

形態
イベントショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2017/08/08 21:24

掲示板

オープニング

●ティックトック・フェスティバル
 ロンドン支部長キュリス・F・アルトリルゼイン(az0056)は頭を悩ませていた。
 世界蝕のもたらした技術革新によって通称『ビッグ・ベン』の改修工事はもうすぐ終わる。
 けれども、昨年末の愚神との戦いの直後に警戒態勢の上で改修工事に入った為、ビックベンには陰気な噂が流れていた。
 いわく、ビックベン周囲にはハロウィンの亡霊が彷徨う──といったような。
「これではいけませんね」
 七組のエージェントたちがロンドン支部に集められたのは数日後のことだった。


「あたしたちエージェントで作る、学校の文化祭のようなものだと思う」
 戸惑いながら、ミュシャ・ラインハルトは依頼内容を伝えた。
「文化祭、やる。やりたい」
「なかなか粋なことをするじゃないか」
「うんうん。スッゴク楽しそう!」
 弩 静華と布屋 秀仁、米屋 葵のポジティブな反応にエルナーが笑った。
「できそうかな?」
「勿論。文化祭だなんて何年振りかしら。今回くらいは童心に戻って楽しんでも悪くないわよねー」
「そうだね。だけど年相応って言葉もしっかり覚えておかないとね?」
 乗り気の坂山 純子だったが、ノボルの一言に言葉を詰まらせた。
「文化祭、ね。やっぱり、するなら喫茶店かな?」
「なら、和風にしようよ。徹底的にね」
 圓 冥人へ真神 壱夜が提案する。
「和服とか割烹着、素敵ですわね」
「母は、割烹着を着たいのよ」
 ティリア・マーティスとアラル・ファタ・モルガナのやり取りに、トリス・ファタ・モルガナが静かに首を横に振った。
「いいえ、ティリアには着物を着てもらいますよ」
 秀仁も同じく何か思いついたようだった。
「器具なんかは家のものを持ってきて、カップとかドリンクは自腹で買うか……」
 一方、ハロウィンから続いた事件を思い出した呉 亮次はしみじみと呟いた。
「あん時は新人中の新人で、しかも二回ほど死にかけたっけな」
「みんなが暗い気持ちになってるなら、また歌の力を借りるのはどうかな?」
 赤須 まことの期待に満ちた視線を受けて、椿康広とティアラ・プリンシパルが顔を見合わせた。
「季節外れの仮装ライブなんてどうっすか」
「ハロウィンの悪い思い出を、楽しい記憶に変えられればいいわね」
 ティアラの言葉にエルナーは軽く手を叩く。
「決行決定ってことかな。なら、僕たち以外にも参加してくれるエージェントを募らないとね」


 その少年には好きな女の子がいた。同じ学校でクラスは違うが、目を合わせるといつも手を振って挨拶をしてくれた。少年も小振りに挨拶を返すが、いつもそれだけで終わっていた。
 最初はほんのりとした淡い恋心だった。実るはずもないただの片思いで終わるのだと諦観していたが少年には好機が生まれた。その日はバレンタインで、チョコレートを想い人から貰ったのだ。自作の小さなブロック型のショコラで、赤い包み紙に入って。淡い口溶けは、女の子は何を表したかったのだろう?
「でも、もしただの義理だったらって思うと……」
 今日はただ友達と文化祭を楽しみにきただけなのに偶然にも「占い屋」という看板を見つけてしまってから、足が自然と方向を変えた。
「その子の事を思うとなんか、いつもと違うんです」
「なら立派な恋の病よ」
 坂山は言い切った。
「最初に言っておくけれど、占いっていうのはあくまでも勇気付けに過ぎないの。どんな結果が出ても自分の解釈で、都合良く理解してくれればそれでいいわ。あなたはその女の子と結ばれるかどうかを知りたいのね」
「はい」
 占い屋のベースはプライバシーに考慮してカーテンで包まれている。少年は他の目を気にせず首を縦に振ることができた。こんな相談、恥ずかしくて友達にも親にもできない。
 大きめな鞄の中から坂山は本を取り出した。本と一緒に月の形をしたエメラルド色の石を取り出した。
「この石はね、私のお婆ちゃんから貰った石なの。よく私もお婆ちゃんに悩み事とか言って、そうするといつもこの石を私の手に握らせて、占いじみた事をしてくれたわ。するとね、大体良い方向に向かっていったの。毎日、大切に持ち歩いているのよ」
「へえ……。すごい石なんですね」
「胡散臭いものじゃないって、それだけは確かよ」
 坂山は少年の手を握って、石を一緒に握り締めながら本を開いた。
「他にもクラスの中に女の子とかいると思うけれど、その子以外には何とも思わない?」
「可愛いな、とは思う人達は何人もいるのですけど……僕が思う人は違う感情なんです。恋心なのかどうかも、言われるまで分かりませんでした」
「オーケイ。告白は急がないで。少なくとも夏の間は告白しないで、今まで通りの関係を保ちながら少しずつ距離を近づけていって。例えば、夏休みの宿題を教えてもらうとか」
 真面目な表情で少年は占い結果を聞いていた。
「秋になったら思い切ってみるの」
「こ、断られちゃったら」
「断られたら一週間はヘコんでいいわ。長引くなら二週間、一ヶ月でも。ちょっと回復したなと思ったらもう一度周りの女の子を見て、告白したいなという子を探す。でも見つからないならもう一度同じ女の子に告白してみて。二回目はちょっと違ったやり方でさ。二回目がだめなら三回目を試してもいいわ」
「ウザく、ないんですか?」
「好きでもない男に告白されるのは確かに、そう思われるかもしれないわね。でも諦めたくないんでしょ」
「……はい」
「君はとりあえず、当って砕けなさい。頑張って、大丈夫。この石、本当にすごい効き目なんだから」
 悩める少年を、その後は何度も励ましながら見送った。彼に良い青春が訪れるようにとただ願うばかりだ。
 恋の悩みは一日二日で解決できるような問題ではない。坂山はただ、天国にいる祖母に向けて両手を合わせた。神様はちょっと残酷だから、祖母に合わせるのが良いのだ。

解説

●目的
 人生相談。

●占い方法
 生年月日や星座等から占う占星術と、坂山独自の占い法。悩み事を言って、占ってもらってその占い結果から導き出される答えを元に今後どうしていくかを一緒に考えよう。
 恋の悩み、仕事の悩み、夢の悩み。色んな問題を色んなエージェントが抱えているはず。必ずしも良い方向に人生が向かっていくとは限らないが、この機会を使って自分の本音を全て吐き出してしまったらどうだろう。
 プライバシーは完備されているから問題はない。

●その他
 お好みなら、占い方法をリクエストしてくれれば適宜応じる。

リプレイ


 次の占い相手は内気な女の子だ。御童 紗希(aa0339)は「あの……すみません」を小声で口にして占い屋に訪れた。
「は……はじめまして御童紗希と言います、宜しくお願いします」
「宜しくね、紗季ちゃん。椅子に座って」
 御童は椅子に浅く座った。背もたれがあったが、律儀にも背筋を伸ばして視線は真っ直ぐを向いていた。
「あの……えと、相談したいのは……あの、私の英雄の事……なんですけど」
 占い師の坂山と眼を合わせるのに緊張して少しだけ顔を俯かせる。
「ガサツで喧嘩っ早くて……私の家に転がり込んできて住み着いちゃうし、私の父の書斎を勝手に自分の部屋にしてプラモデルだらけにしちゃうし、最初はすぐに契約解消してやろうって思ってたんですけど……」
 思春期の可愛らしい感情を前に、思わず微笑みを浮かべた。坂山は相槌を打って彼女の言葉を遮らなかった。
「一緒に行動してるうちに、なんて言うか……その、カイが傍にいることが当たり前みたいに思えてきて……居ないと不安になるっていうか……」
「不安、か」
「他の女の人とカイが楽しそうに話してたりするとちょっとムカッとくるし……私の英雄なんだから私だけ見てて欲しいっていうか……」
 御童は顔を上げて、心配そうに坂山を見つめた。
「これって私の我侭でしょうか?」
 見つめられた坂山は、御童の純粋な心を撫でるように優しげな笑みを見せた。安心させるのだ。
「それは我侭なんかじゃないわ。人間なら誰しも一度は持つ感情よ。だって私も、紗季ちゃんの気持ち分かるもの」
「……そうなんですか? 我侭ではないんでしょうか。それなら……」
「恋心よ」
「コ、コイ?!」
 理解が頭まで及ぶのに数秒かけて、数秒後御童の頬はリンゴ色に染まった。
 御童は机に両肘を乗せて、坂山に乞うべく視線を逸らさなかった。
「わ……私本当にどうしたらいいかわからないんです! 今まで他人と関わり合うことを極力避けてきたんでカイとどう接していいのかわからないんです! 能力者になった時は漠然と何か自分にもできることがあるかも……って思ってエージェントになりました。カイは……至らないそんな私をいつも励まして支えてくれてました」
 坂山は御童の手を握った。エメラルドの石も、しっかりと彼女の言葉を聞いていた。
「カイが私を大事にしてくれてることはわかってるんです!」
 でも……。
 御童の頬を、大粒の涙が伝った。
「それにどう答えていいか私本当にわからないんです!」
 坂山は御童に静かな深呼吸を促した。三回それを繰り返した後、坂山は口を開いた。
「どう? 少しは心が温まるでしょ。深呼吸すると」
「……はい。ほわって、します」
「人を避けてきたのは、自分に自信がないからよね。悪い事じゃないの、人の生き方なんて千差万別よ。それで、カイ君は自信のない紗季ちゃんの事をよく理解してくれてるはず。どうすればいいか、それは紗季ちゃんは変わらずに、その恋心をカイ君に伝えていけばいいの。不器用でも、失敗しても」
 責めている訳じゃない。坂山の声音はそれを伝えていた。
「今すぐじゃなくても、これから紗季ちゃんは必ず思いを伝えられるようになるわ。少しずつでいい。少しずつ、恋心に慣れていきましょうよ」
 勇気を出して、一歩踏み出そう。その一歩がなければ二歩目はないのだから。

 外へ出ると、カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)が彼女を待っていた。
「遅かったなマリ! 知り合いのエージェントがあちこちの出しもんに出てるから一通り見て回って来たよ」
 すると御童はカイの隣に立って、一度深呼吸を交えて、こう言った。
「……ねぇカイ……手……つないでいい?」
 人々の声に掻き消されないように言ってみせた。まだ眼を合わせられないが。
「なんだよ、らしくない事言うな。まあ、いいけど……?」


 昼に回って、少し熱くなってきた頃だろうか。英雄のノボルがお散歩から帰ってきて助手席に着いた。
「どう? 他の所も賑わってるかしら」
「うん、大賑わい。むしろ占いはちょっと地味かも?」
「だ、だめかしら」
「ううん。こういうのがいいっていう人もいると思うから大丈夫」
 他愛もない話をしていると、次のお客さんが見えた。
「あら」
 見知った顔だ。赤城 龍哉(aa0090)が見えて、少し驚いてしまった。
「坂山さんがやってるって聞いてな。ちょっくら顔出しに。結構人ってくんのか?」
「ええ。現代人の老若男女、皆何かしら悩みを抱えて生きているわ。大変そう」
 ヴァルトラウテ(aa0090hero001)は幾つもの種類が入っているアイスボックスを坂山に手渡した。
「差し入れですわ。お疲れ様です」
「わあ、ありがとう。中身が楽しみね、ノボルっ。私アイス大好きなのよ」
「やったあー。バニラだといいな。ストロベリーもいいよねー。あ、最近はやっぱりチョコもハマってるかなぁ……」
 赤城達も折角だからと椅子に座ってもらった。
「それで龍哉は何を占って貰うんですの?」
「ヴァルが占って貰うんじゃねぇのか?」
 どうやら二人ともノープラン。坂山はくすりと笑った。
「占いじゃなくても人生相談でもいいわよ。なんなら雑談でもいいし」
「人生相談か。改まって何か、となると案外出てこねぇもんだな」
 うーんと考え込んでしまった赤城に、ヴァルトラウテが助け舟を寄越した。
「もっと身近な所で何かないのですか?」
「強くなるって事なら、自分でやれる事をやる。今は届かなくてもいずれ届かせる」
 なんだか、赤城に悩みっていう言葉は無縁に思えてきた。彼ならどんな悩み事も全て、両手の拳で解決しそうだからだ。
「装備は……これは運と巡り合わせだな」
 しかし運が絡まってくると拳じゃ何ともならない。ヴァルトラウテも神妙な顔を憚らなかった。
 埒が明かないため、ヴァルトラウテが四つの札を用意した。恋愛や、仕事と書かれた中から一つを坂山に占ってもらうのだ。
「それじゃあサイコロに決めてもらいましょうか。赤城君の何を占ってもらうのか。行くわよ」
 ノボルが六面のサイコロを転がした。一度目は五が出て、札は四つしかないから振り直し。二回目は六で、三回目は漸く二が出た。
 二は恋愛運だ。
「恋愛か……。あんまし意識したことねえな」
「赤城君は……、そうね。あんまり恋に関して意識はないみたい。恋よりも、自分の精神を高める事に今は集中しているのね。ただ、その姿勢に熱烈な好意を寄せる女性がいるわ。それが誰かまでは分からないけどね。ただ、ほとんどの場合、相手からの一方的な好意が多いみたい」
「何となく想像がつきますわ」
「私もよ。赤城君は、お互いに尊重し合って高みを目指せる女性との恋愛を望んでいるわね」
 赤城は少し考えてから、「まあそうだな」と頷いた。
「案外、ヴァルちゃんが赤城君のパートナーにピッタリなのかもね」
「私が……。しかし、恋仲という意識は全くありません」
「私もわかってるわ。ただパートナーになるならヴァルちゃんみたいな人がいいのかなって」
 赤城の占いが終わると、次のお客さんの姿が見えた。
「おっと、そんじゃ俺らはこの辺で。頑張ってな! 占いってのも、たまには悪くねえかも。参考程度にしとくぜ」
「それがいいわ。楽しんでね、時計祭」
 占いとはそれを信用しきるのではなく、それに沿って生きるのでもない。結果を自分の物にして、頭に閉まっておいて、その内取り出すくらいが丁度良いのだ。


 ひんやりした空気が流れ込んできたが、冷房の風じゃない。冷房ほど刺々しい冷気ではない。
「という事であたい達も占いしてもらうことにするよ!」
 冷気の正体は雪室 チルル(aa5177)と、占い屋をキョロキョロ見渡すスネグラチカ(aa5177hero001)の二人が根本であった。
 二人は誰に催促された訳でもなく、ちょこんと椅子に腰を下ろした。
「来てくれてありがとう、二人とも。エージェントよね」
「うん! そうだよー。ここって占い屋さんだよね、スネグラチカは何を占ってもらうの?」
 そう訊かれた彼女は最初から決まっていたみたいで、すぐに答えた。
「それはもちろん今年の冬はどんな感じになるかってことかな」
「なんか天気予測みたいな感じね。具体的にはどんな?」
「あたし達は冬しかない世界の生まれだし、冬の様子は結構重要なんだよ。例えば暖冬で雪が全く降らないなんて言われても見てよ。そうなったらはぐれた仲間達があたしがここにいる事がわからないでしょ?」
 確かに。
 坂山はスネグラチカの話がよく掴めていなかったが、とにかく今年の冬について調べればいいのだろう。
「今年の冬がどうなるか分からないけれど、とりあえずスネグラチカちゃんの運勢を観てみるわね。そしたら、冬の事も何となく分かって来ると思うのよ」
「へえ、便利なのね。お願いするわ」
 占いの結果が導き出されるまでには今までよりも時間がかかったみたいで、坂山は本やスマートフォンを行き来していた。
「ど、どうなの?」
 スネグラチカは鼓動の早まりを感じている。
「この調子なら……、来年は雪が降るかもしれないわ」
「ホント? じゃあ結構涼しいの?」
「ええ。占いの結果は悪い判定じゃなかったの。御神籤に例えると吉ね。それと、占いとは関係ないんだけれど気象庁が出した年の平均気温、最高気温、降雪の深さを比較してみたんだけれど……これを見て」
 坂山は手元の端末を机の上に置いた。
「一応、東京基準にしてるわ。まず降雪の深さから――二千年以降、雪が降らなかった年は二○○九年だけで、ほとんどが一月か二月のどちらかに降っているわ。少なくとも、これから冬が訪れて雪が降る事はないわね」
「一月からは確かに大体降ってるみたい……けど、来年の一月とか二月が雪が降らない年になっちゃう事もあり得るんじゃない? 今年一回も雪降ってないし」
「最高気温が上がっているのよね。緩やかに上昇してるのよ、表を見てみると。大体雪が降らない年の次は降ってるんだけれど……最高気温がこのまま上昇し続ければまた雪が降らない年もあると思う。でもスネグラチカちゃんの占いでは吉って結果が出たから、降るわよきっと」
 雪室は全く話についていけず、表を見てもぽかーんとした顔を浮かべながら受け流していた。
「なんとかなる、ということね。ならいっその事、私が雪を降らしてみせるわ! ……で、ここまであたしの事を言ったんだから、チルルも占ってもらうんだよね?」
 浮ついた感じの雪室は自分の名前が呼ばれて意識を取り戻した。
「もちろんよ! 占うことはあたいがいつさいきょーになれるか!」
 彼女は自分が最強ではないと自覚していて、それで坂山に訊ねたのだ。自分がいつ最強になれるのか。
「チルルちゃんは、近い間は達成を阻まれることが多いみたい。最強になりたくとも、大体何かに邪魔される。ただ、それはチルルちゃんの大きな自信から繋がってるみたいでね、要するに、今の自分に見合った事を重ねていけば最強になれるの。例えば、たまには仲間の後ろを守ってみたり」
「すごーい! 結構本格的な占いなんだね!」
「縁の下の力持ちに徹する事で運気が上昇って書いてあるわ。だけど、そこまで気にしなくていいわよ。成長の仕方なんて自分で知る物だし、参考にしてくれれば」
「縁の下の力持ち?」
 坂山はスネグラチカにアイコンタクトを送った。雪室専属の翻訳者に解説を任せたのだ。
 雪室がどこまで強くなれるのか、ちょっとした楽しみが出来た。次に会う時はどうなっているだろう。立派な最強ガールに進化していれば、それは嬉しい話だ。


「あら」
 今日は二度目のビックリだ。次のお客さんとして登場したのはカグヤ・アトラクア(aa0535)とクー・ナンナ(aa0535hero001)であった。
「意外ね。カグヤちゃんが時計祭に来ていたなんて」
「意外?」
「あんまりこういう催しには興味ないかなーって勝手に思ってたの。何ていうか、あまり大衆的な場所には来ないってイメージがあって」
「半分間違いで半分正解じゃ。わらわは興味があれば往くぞ。とりわけ、占術は前々から気になっていたのじゃ。いい機会だから、占う方をやらせるのじゃ」
 無論、坂山はキョトンとしてカグヤを見返した。
「私が占ってもらうの?」
「まずは占術を得る為、純子で試すので付き合うがよい」
 困惑してノボルと眼を見合わせる坂山を、カグヤはそこまで気にせずこう切り出した。
「人間関係と仕事じゃろ。ドミネーターで色々あったしの。恋愛は……ないな、うん」
「な、ない訳じゃないわよ。いや、その……。な、ないって言うこともできるかもしれないけれど」
 ペースを掴んだカグヤは続いてこう口を開いた。
「いないから悩みなんてできないじゃろうて」
 クーは少しだけ同情するような眼で坂山にアイコンタクトを送った。
「いないっていうのも立派な悩みでね、私だって何もしてない訳じゃないのよ」
「今一番解決しないといけない悩みは恋じゃないじゃろ。そなたは仕事の事を一番悩んでおるのじゃろ。心落ち着けて語るがよい」
 机の上に乗っていた坂山の手をカグヤは握って、手の平に洗心の指輪を置いて一緒に握った。指輪の効果で、坂山の高揚した気持ちが一時的に収まった。
 日頃から誰かに相談する機会なんて一度もなかった。自分が信頼しているカグヤに色々話せば、少しは。
「決して軽い気持ちで、リベレーターを開いたつもりじゃないの。ドミネーターが許せなくて、ただ倒したかった。でも今はとても怖いわ……なんて、誰にも言えないけど」
「言ったらリーダーとして、皆に合わせる顔がない?」
「そう。でも、前に比べたらマシになったわ。皆が私を励ましてくれたおかげよ。お見舞いにまで来てくれて」
「あの日は結構楽しかったのう」
「貰った時計、身につけてるのよ。ちゃんとね」
 カグヤから贈られた腕時計を、坂山はシャツを捲ってカグヤに見せた。
「やはり似合っておる。わらわのセンスはカンペキじゃな!」
「……それで、自分も情けなく思うの。こんな事でクヨクヨしてたらずっと前に進めないって分かってながらね。……私は隊員の皆が大好きよ、いつか誰かを失う日が来るんじゃないかって思うと、とても怖い」
「わらわの事はどれくらいスキじゃ?」
 悪戯っぽい眼差しでカグヤは訊いた。
「も、もうからかわないの」
「純子はからかい甲斐があるからの~。まあ、話を戻すのじゃ。隊員を失うのが怖いんじゃな、それが今一番の悩みじゃな?」
「ええ、そうね」
 無条件で仲間を信頼する強さが、今の坂山には無かった。精神的な薄弱が原因だろう。この数ヶ月で、様々な絶望が押し寄せてきたのだから。
「わらわに任せるのじゃ。純子の大事な仲間は誰一人として、ドミネーターの餌食にならんと、わらわが約束する」
 坂山の、握る手に込められた力が僅かに高まった。
「これから、カグヤちゃんをお悩み相談相手にしちゃおうかしら。心が軽くなった気分になったわ、本当に」
「お? なんじゃ、ようやくわらわに心を開いたんじゃな。わらわはいつでもオープンじゃから遠慮をすることはないぞ」
 坂山には足りなかった人がいる。それは相談相手だった。勿論、ちょっとした悩みはリベレーターの隊員全員に相談すればいいのだが、賽を賭けた相談の時はどうしても独りを選んでしまう。
 カグヤがその第一人者となった。坂山は嬉しそうな顔で「ありがとう」と言った。


 こんにちは、と愛らしい声が響いた。暖簾を潜ってきたのは餅 望月(aa0843)と百薬(aa0843hero001)のペアだ。
「望月が将来石油王と結婚できるかジャスティンさんちの子になれるか占える?」
 突拍子もなく言ってくれるものだから、坂山は苦笑顔で出迎えることになった。
「なんでそうありえない路線から攻めるのよ」
「ワタシが美味しい物とダメになるソファで幸せな余生を送るためだよ」
 根本的に百薬は人任せなのだろうか。
「とりあえず二人ともこんにちは。まず席に座って、そうね。現実的な事を占わせてもらいましょうか」
 時計祭も午後を越して、日中気温が最高潮に達していた。望月はオレンジジュースを飲んで喉を潤してからこう訊ねた。
「百薬が自分でご飯作れるようになるにはどうしたらいいですか?」
 対して百薬。
「望月のご飯が美味しいからいらないもーん」
 坂山は今度は笑いながら二人のやり取りを眺めていた。本当に仲良しなことが伝わってきて、いつまでも見てられるくらい。
「冗談は置いといて……これからもエージェントとして楽しい、いやもといやりがいと報酬の良い依頼に出会えるでしょうか?」
「ワタシが天使で武侠として活躍できるヤツでお願いします」
「だからまた百薬はそんなことを」
 報酬の良い依頼か……坂山は望月の言葉を復唱して、本を捲った。仕事運の話になるだろうか。
 今回は生年月日の結果を参考に望月の運勢を占うことにした。
「人生全体を見て、悪い運気じゃないわね。ただ何かしらの邪魔が入りやすいって」
 望月は百薬をちらりと見た。
「うん?」
「邪魔が入りやすいって、なんか当たってるなーって思って」
「なぬ~ワタシは邪魔じゃないもんー」
「どうだろうなあ。それで、占い結果の続きはー?」
「えっとね、地道にコツコツとを胸に日々歩いていくと運気は上がりやすいみたい。ある意味心がけね。それで、やり甲斐とは自分で作るものって書いてあるわ。これは……うーん、何とも言えないけど……要するにもっと積極的になれってことかしら」
「なるほどー。やりがいを感じなかったら、自分で作り出す! かー。うん、分かった。ありがとー先生」
 占いというより、人生の教訓を伝授する話になってしまっただろうか。
「やっぱり楽しいのがいいよ」
 百薬がいった。それに越したことは、確かにないかもしれない。退屈とは毒、とは言ったものだ。毒に何日も侵されていれば望月はとっくのとうにH.O.P.Eを辞めていたかもしれない。占いの結果で「望月は退屈を嫌いとし、それを敏感に感じ取りすぐに見切りをつける」とも書かれているのだ。
 エージェントである事自体、毎日が変化の連続であるから退屈を感じることはないのだろうか。
「先生、これからもよろしくね。あたし達、仲良く楽しく頑張るよ」
「こちらこそよろしくね。私オペレーターだから、何度か顔を合わせると思うけれど、次あったら二人の仲良しな姿を見させてね」
 二人は揃って「ありがとうございました」と丁寧に言って外へ出た。
「ねえ、あんなのでいいの?全然占いになってなかったよ」
「うん、ただの人生相談しちゃったね。だって、占いでなにか上手く行くなら坂山先生だって幸せな結婚くらいしてると思うよ」
「それ言っちゃおしまいなヤツじゃない?」
「いいの、本人に聞こえなかったら。でも坂山先生はいい人だから大丈夫だよ」
 外に出ると蒸し暑さが二人を襲って、すぐにオレンジジュースの中身を消耗させた。ペットボトルが空になったからと、近くのゴミ箱に捨てた。
 次は何を買おうかな。


 目の前の席には氷鏡 六花(aa4969)が座っていた。アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)は席に座らず、氷鏡の座席の後ろに立っていた。
「あ、あの」
 彼女は照れ隠しをするように足をモジモジさせていた。
「六花の、そのう……運命の人……とか、占ってみて……欲しい、です」
「恋愛占いね。六花ちゃん、やっぱりお年頃なのね。気になっちゃう?」
「は、はい」
 坂山は例によって氷鏡の手を両手で包み込んで、占いの姿勢を構えた。
「六花ちゃんのお相手はね、笑顔が素敵な人」
「笑顔……」
「そう。六花ちゃんは、ただでさえ苦境の中を生き抜いていて、それは今も尚続いているわ。今後、どれくらい続くか分からない。そんな六花ちゃんを支えてくれる人が、今のあなたにピッタリの相方なの」
「優しい……人、なのですね……。六花の、運命の人……は」
「心の底はとても明るい人なのね。太陽のように。でも、そんな人でも気分が沈んで笑顔を作れない時もあるわ。そんな時、その運命の人も六花ちゃんを頼るの。六花ちゃんしかいないのよ、笑顔を取り戻させるのは」
 坂山はそう言って、氷鏡に笑みを向けた。
 アルヴィナは珍しく恋の話をしている氷鏡を後ろから見守っている。楽しそうにしてくれていて、思わず彼女にも笑みが浮かんだ。
「六花、頑張り……ます」
「その意気よ。ちなみに、気になる人とかいるの?」
「ま、まだ……いない……です――あ、あの、坂山さんの……好みの人も、聞いてみたい……です」
「わたし?」
 ノボルはクスクス笑って坂山を見た。自分の恋の話となると、やっぱり動揺するのだ。
「好みか……。私、正直だから言っちゃうけど、甘えさせてくれる人が好きね。後、一緒にいて安心する人。それで、一緒に肩を並べて歩いてくれる……人情溢れる人がタイプ」
「人情溢れる……。気になる人、います……か?」
「ひ、秘密っ」
 坂山の焦る姿を見て、氷鏡もまた微笑んだ。
 次の占いだ。氷鏡はこう質問した。
「六花の……探している、愚神の……今を……知りたい、です」
「六花ちゃん、愚神を探しているのね」
 ふと、アルヴィナの表情を窺ってみた。彼女はさっきの微笑みを浮かべていなかった。
 それだけで、理解したとは言えないが、氷鏡の抱えている荷物の断片が見れたような気がした。
「探し出さないと、だめなんです。私が」
 少女がすべき瞳ではない。その冷淡な光は……。
 坂山は再び氷鏡の手を握った。そして、眼を瞑ってただこう言った。
「愚神がどうなっているのかまでは、私は分からないわ。けれど、占いによると――」
 占いによると、その言葉は真っ赤な嘘だ。
「六花ちゃんは、愚神を探すよりも大事な事があるって」
「大事な事って……、なんでしょうか。六花にとっては、仇討ちこそ、大事な事なの……です」
「大事な事は、生きていれば分かると思うの」
 幼い子に、復讐なんて言葉を口にさせたくない。坂山は祈るように、彼女の手を握った。アルヴィナは、六花の背中を優しく撫でていた。
「絶対に生きることよ。それだけが、占いの結果」
 夏の猛暑。特に今年は暑い。坂山の握る手から汗が落ちた。お守りの石が、氷鏡に加護を与えるように祈り続けた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • さいきょーガール
    雪室 チルルaa5177
    人間|12才|女性|攻撃
  • 冬になれ!
    スネグラチカaa5177hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
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