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【時計祭】真夏の仮装ライブ!

高庭ぺん銀

形態
イベントショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
5人 / 0~6人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2017/08/08 20:25

掲示板

オープニング

●ティックトック・フェスティバル
 ロンドン支部長キュリス・F・アルトリルゼイン(az0056)は頭を悩ませていた。
 世界蝕のもたらした技術革新によって通称『ビッグ・ベン』の改修工事はもうすぐ終わる。
 けれども、昨年末の愚神との戦いの直後に警戒態勢の上で改修工事に入った為、ビッグベンには陰気な噂が流れていた。
 いわく、ビッグベン周囲にはハロウィンの亡霊が彷徨う──といったような。
「これではいけませんね」
 七組のエージェントたちがロンドン支部に集められたのは数日後のことだった。


「あたしたちエージェントで作る、学校の文化祭のようなものだと思う」
 戸惑いながら、ミュシャ・ラインハルトは依頼内容を伝えた。
「文化祭、やる。やりたい」
「なかなか粋なことをするじゃないか」
「うんうん。スッゴク楽しそう!」
 弩 静華と布屋 秀仁、米屋 葵のポジティブな反応にエルナーが笑った。
「できそうかな?」
「勿論。文化祭だなんて何年振りかしら。今回くらいは童心に戻って楽しんでも悪くないわよねー」
「そうだね。だけど年相応って言葉もしっかり覚えておかないとね?」
 乗り気の坂山 純子だったが、ノボルの一言に言葉を詰まらせた。
「文化祭、ね。やっぱり、するなら喫茶店かな?」
「なら、和風にしようよ。徹底的にね」
 圓 冥人へ真神 壱夜が提案する。
「和服とか割烹着、素敵ですわね」
「母は、割烹着を着たいのよ」
 ティリア・マーティスとアラル・ファタ・モルガナのやり取りに、トリス・ファタ・モルガナが静かに首を横に振った。
「いいえ、ティリアには着物を着てもらいますよ」
 秀仁も同じく何か思いついたようだった。
「器具なんかは家のものを持ってきて、カップとかドリンクは自腹で買うか……」
 一方、ハロウィンから続いた事件を思い出した呉 亮次はしみじみと呟いた。
「あん時は新人中の新人で、しかも二回ほど死にかけたっけな」
「みんなが暗い気持ちになってるなら、また歌の力を借りるのはどうかな?」
 赤須 まことの期待に満ちた視線を受けて、椿康広とティアラ・プリンシパルが顔を見合わせた。
「季節外れの仮装ライブなんてどうっすか」
「ハロウィンの悪い思い出を、楽しい記憶に変えられればいいわね」
 ティアラの言葉にエルナーは軽く手を叩く。
「決行決定ってことかな。なら、僕たち以外にも参加してくれるエージェントを募らないとね」

●モンスター・ライブ
 午前11時。ステージ周辺には人だかりができていた。間もなくライブが始まるのだ。ステージの真横に置かれたテントでは、着替えを終えた出演者たちが待機している。
「音響、いつでもいけるよ! 亮次さん、客席はどう?」
 周りの雑音に負けないよう、通信機に向かってまことが吠える。音響といっても、彼女にできる仕事は音源の再生と停止くらいだ。それでもやはり責任重大には変わりない。
「客席も問題なしだ。人の熱気で暑ちーけどな」
 亮次が笑みを浮かべる。大好きな酒はないが、お祭り騒ぎなら彼も望むところなのだ。
「演者も準備万端! よろしく頼むぜ、リーダー!」
「任せなさーい!」
 康広の軽口に、まことが調子よく答えた。まさか音楽にさほど詳しくない自分が、ライブの企画を立てることになるなんて。事件の際に自分を救ってくれたエージェントたちの歌が、強く心に残っていたからこそだろう。
「行くよ」
 まことは緊張の面持ちでマイクのスイッチを入れる。司会者でもある康広たちがライブのトップバッターを務めるため、開始のナレーションはまことが担当するのだ。
「レディース アンド ジェントルメン! ようこそお集まりいただきました! これより始まるは楽しい、楽しい、音の宴。最初に登場するのは、ふたりのクールなモンスター。聴いていただきましょう、曲は『White Night principal』!」
 ピアノとサックスが印象的なイントロ。ロックナンバーに乗って現れたのは、めかし込んだ紳士と妖し気な美女だ。

「――おばけのパーティいらっしゃいませ
右も左も、ボクも怪力乱神(かいりょくらんしん)」

 紳士――青白くメイクした顔を赤い血のりで彩った康広が歌い出す。

『――暗闇の世界、飽きちゃったのよ
スポットライト浴びて踊ってみたいわ』

 続いて、黒のミニドレスを着たティアラのパート。背中には小さな黒い羽、頭には赤いツノが生えている。

「――宴の主役は、孤高の舞姫
七色ドレス、ひらり、誘いを交わす」

『――数多の視線は痛いくらいね
羨望? 欲望? 私は興味ないけど』

 Bメロ。康広が客席に向かって、にやりと笑う。

「――強気な瞳が 揺れ落ちる瞬間が見たい
痺れる口付け贈ろう、可愛い牙で抵抗しなよ」

『――私を誘うなら それなりの覚悟で来てよ
唇に触れたらさいご、魂ごと食べてあげる』

 爪を立てるようなポーズで、客たちを挑発するティアラ。
 続いてサビ。ティアラは、康広の歌う主旋律をコーラスで支える。

「『――鍔迫り合いみたいな恋の舞踏
先に見惚れた方が負けでしょう?(peek a boo!)
剣の舞 触れたら破滅なのに
踏み出してしまうんだ、暗転」』

 間奏。ふたりは手を取り合い、ダンスパーティーのようにくるくる回る。そして大サビだ。

「『――命さえ投げ捨てて恋の舞踏
深く溺れた方こそ勝ちでしょう?(Get stupid!)
剣の舞ほんとは隙を作ってる
踏み出して抱きしめて、darling」』

 唐突に曲のテンポが落ちる。

「『――君と出会った白い夢の時間(とき)に、カンパイ」』

 歌声とともに演奏が終わり、拍手が広がった。



 芝生をカラーコーンで区切っただけの簡易なステージ。その真ん中に康広とティアラが移動する。
「今日は来てくれてありがとな! 司会の椿康広と」
「ティアラ・プリンシパルよ。どうぞよろしく!」
 休日だけあって、会場には幅広い年代の客がいるようだ。康広は楽しい雰囲気に染まり始めた子供たちを怖がらせないよう、陽気に言う。
「さ、今日は皆をおばけのパーティに招待するぜ。つっても、ステージに上がるのは気のいいモンスターばかりだから安心してくれよな!」
「少し前までは怖いうわさも広まってみたいだけど、ここは心配ないみたいね」
 客席から景気の良い返事が返る。
「まだまだ話したいところだけれど、せっかくのライブだもの。おしゃべりばかりじゃ勿体ないわね」
「だな。そろそろ準備ができた頃か?」
 テントからまことが顔を出し、手で丸を作る。
「――OK! 次の曲、行ってみようぜ!」
 拍手の中ふたりは一礼し、小走りでテントへと引っ込んだ。

解説

【ルール】
・出演者は仮装をすること。
・誘導係など外に出るスタッフは、仮装を推奨。
 ※現代のイギリス人にとって珍しい衣装なら、普段着でも可(ドレス、着物など)。
・過度なホラーはNG!楽しい雰囲気を優先。
・歌詞については、希望があればMSが書き下ろします。テーマや入れて欲しい単語などを書いていただけると助かります。
・ライブ後に他の出し物を回ってもOK。ただしリプレイ内での描写はごくわずかとなります。

【時刻】
 11時開演。終演は12時前後を予定。

【舞台】
 10m×5mほど。足元は芝生。客席との間はカラーコーンで区切ってあり、段差はない。
 ステージのすぐそばに待機用のテント(運動会などで使うようなもの)があり、ステージまで3mほどの細い道ができている。出演者はそこから登場する。

【設備】
・スピーカー×2
・ピンマイク
・ワイヤー付きマイク
・マイクスタンド
※その他、各自で持ち込みOK。演奏中にするべき操作などあれば、まことおよびH.O.P.E.のスタッフが手伝えます。

【NPC】
まこと:ライブの発起人。本番では裏方担当。仮装は赤ずきん。
亮次:誘導係。客席の後方に待機している。仮装は猟師。
康広&ティアラ:ライブの出演者&司会者。仮装は亡霊と悪魔。

リプレイ

●希望を届けるために
 文化祭の数日前。打ち合わせの席。
 日暮仙寿(aa4519)と不知火あけび(aa4519hero001)は、まことと共にハロウィンの事件を解決したメンバーだった。
「あの時の子供達も見てるかもしれないし! 仙寿様はイケメンだし声も良いんだし、自信持って!」
「CMソングで実績のあるお前だけで良いだろ。俺は誘導係に……」
「お願い! 歌ってくれたら何でもするから!」
 手を合わせて頼むあけび。仙寿の反撃が止む。
「……侍に二言は無いな?」
 あけびは首を傾げたが、仙寿が協力してくれるのならと頷きを返した。
「って訳なんだけどどうしようまこと! 亮次さんー!」
「ま、落ち着け。曲作りのことなら康広とティアラに相談だな」
 亮次が2組のエージェントを引き合わせる。
「手伝って貰って悪いな」
「本当に助かるよー!」
 ティアラは珍しく幻想蝶から出て、積極的に準備に関わっていた。
「いいのよ。こちらにとっても良い刺激になるもの。曲のテーマは決まってるの?」
「前向きな歌詞の応援ソングにしたいんです」
 作詞担当のあけびは康広とティアラと共に作曲を、仙寿はまことと共に演出面を話し合う。
「仮装するなら朝焼けの騎士だろうな。あの時の天使も出して……」
 呟きながら、メモを書きつけていく仙寿。
「おー! 頼りになる!」
「仙寿さまが乗り気だ……」
 まこととあけびは少し遠い位置から顔を見合わせた。
 メリッサ インガルズ(aa1049hero001)も、まことと亮次に挨拶をする。
「初めましてお世話に成ります」
 荒木 拓海(aa1049)ははにかみながら言う。
「裏方の手伝いがあれば……その方が性に合ってるので」
「なーに言ってんすか」
 後ろから誰かが現れ、拓海と肩を組む。
「椿!」
「俺は荒木サンとリサさんと共演できる機会、逃したくないです」
「わたしもよ。拓海、覚悟を決めたら?」
 リサは可愛らしく微笑みながら、言葉で相棒の背を押した。
 雅・マルシア・丹菊(aa1730hero001)が提案したのは、撮影コーナーの設置だった。
「出番が終わった出演者と記念撮影をするの。集客効果はあると思うし、足を運んでくださったお客様の満足度も上げたいじゃない?」
 雅自身はスタッフとして、撮影の補助に回ることになった。頼りなかったまことの企画書が、充実したものに変わっていく。
「えーと、あとは……」
「アリスは演出とかの裏方希望。他のメンバーは全員出演者みたいね」
 言ったのはアリス・レッドクイーン(aa3715hero001)。彼女の相棒は事情があってこの場にはいない。
「せっかくだし、皆でもう一曲歌えないかな?」
 アル(aa1730)の提案に全員が賛成する。「ひまわり」「青空」「ロンドンの街」――イメージやフレーズを出し合って、合作を作ることにした。



 居残って曲作りを終わらせたあけびたちは、楽譜と演出プランを交換しチェックする。
(こいつは元の世界でも戦ってたんだ)
 仙寿は歌詞を読み進めるうち、不思議な気分になっていた。
(頼み事は……まぁ終わったら考えれば良いか)
 実をいえば頼み事のために承諾したというより、引き受けたら思わぬギフトがついてきたという方が正しいのだ。
「わ、私が姫?! そっか、天使からお化けが出てくるのは流石に不味いよね」
 あけびの衣装は朝焼けのような薄赤色のプリンセスラインのドレス。騎士を演じる仙寿は肩・腕・胸・ブーツにセパレートされた板金鎧を見つけてきた。選んだマントは夜明けのような青色をしていた。

●1『White Night principal』
「何か……真面目な依頼って聞いてきたんだけどさ……マジ?」
「真面目ですよ。皆さんに元気になってもらうための仮装ライブです!」
「いやいやいや、ムリムリムリ」
 一ノ瀬 春翔(aa3715)は語彙力を失くしていた。彼はこのテントに連れてこられるまで、事件後の復興活動としか聞かされていなかったのだ。アリスはやれやれと息を吐く。
「とは言ってもねぇ……もうあらゆる準備はバッチリな訳よ。おわかり?」
 小悪魔をイメージした真っ赤な衣装が、皮肉なくらいによく似合っていた。目の前にいる犬顔の赤ずきんは、むぅと口をとがらせている。目がチカチカする危険信号の包囲網。赤は自分のアンラッキーカラーなのかもしれない。
「……マジっすか……」
「だから真面目ですって!」
「まさかコイツを自分から持つ時が来るとは……」
 精神高揚機能――むしろ副作用――をもつ魔本『アルスマギカ』。春翔は普通の男の子から王子様系アイドルHALTO★へと華麗な変身を遂げた。
「いえ~い! バリバリモリモリ盛り上がろうぜぇ~!!」
 アリスは客席に先行しサイリウムを配る。スクリーンにはQRコードが映し出され、観客たちはとある曲のPVを楽しんでいるらしい。彼らが持つ端末の中ではアルと稜、そしてH.O.P.E.の仲間たちが熱演している。
 そして――まことがナレーションする中、トップバッターの二人が白昼のハロウィンナイトを始めるため駆けだした。



 戻って来た康広たちにリサが声をかける。彼女は和服の生地を使用したベルラインのミニスカートに帯風のベルトを合わせ、金魚を模した髪飾をつけている。
「今日はお仲間ね。二人の歌、ステキだったわ」
 一方、拓海は黒いハイネックの上に片肌を脱いで着流しを羽織り、帯で留めている。ふたり揃って歌舞伎風のメイクをばっちり決めていた。
「先輩だな! ご指導下さい」
 いつも頼りにしている相手からの言葉に内心照れる康広だが、血のように赤い唇を三日月型にしてこう答えた。
「遠慮も気後れも禁止! 『俺らを見ろ!』という気持ちで頼みます」
 舞台上では、2曲目が始まろうとしていた。

●2『Only your detective!』
「さぁ、楽しいライブの始まりなんだよ! 来てくれた人みんなに、楽しんで帰って欲しいんだよー!」
 明るい声を響き渡らせて登場したのは、探偵少女のクロエ コード(aa5187)。そして相棒のラウラ メーベルト(aa5187hero001)だ。
「私がこんな事をする羽目になるなんて……クロエ、後で覚えて起きなさいよ……」
 ラウラはマイクも拾わないほどの小さな声で呟くと、しとやかな笑みを形作る。
「皆様、本日は御来場誠にありがとうございます。皆様には楽しんで頂けるよう努力いたしますので、宜しくお願い致します」
 お揃いの衣装は、かの名探偵シャーロック・ホームズをイメージしたものだ。頭にはおなじみの鹿撃ち帽。モノクルが知的な印象を与えている。歌うのは探偵をモチーフにしたアイドル風のラブソング。

『誰もが本当の心隠して 歩く霧の街
心に誰を住まわせてる? まるで隠し部屋』

 最初はラウラのパート。ミステリアスな笑みを浮かべて、半回転のターン。振り返って流し目を送る。クロエは後ろで手を組み、「怪しいぞ」と言わんばかりの表情でラウラの様子を窺っている。

「コートひるがえし現れるのは 名探偵!
暗号(コード)読み解き見つけるの 貴方との恋」

 腕を解いたクロエは観客席を見回しながら舞台を横切っていく。「名探偵!」の歌詞に合わせて腰に手を当て、ポーズをとるのも忘れない。

「『いきなり抱き締めるなんて反則 Trick or Truth?
ふたりきりクローズドサークル このままじゃ迷宮入り』」

 続いてBメロは二人のパートだ。クロエは手を振りながら舞台上を動き回り、ラウラは衣装を美しく翻して踊る。

「『とびきり甘く罪深い不意打ち Sweet or Treat?
私だけときめかせるのずるいよ 貴方も心みせて』」

 そしてサビへ。最初のパートはクロエ。

「虫眼鏡で探そう、恋心の証拠を」

 クロエは右目のモノクルに指をかけながら左目を閉じる。

『ラストシーンにきっと 「降参」って言わせて見せる』

 ちょうどシンメトリーになるよう、ラウラは左目のモノクルに指をかける。そして右目でウインクする。

「『まだ誰も知らないミッシングリンクで
惹かれ合ってるはず 貴方と私のハート』」

 ぴったりの動きでサイドステップをしながら、客席へとアピール。

「『さぁ、覚悟してて 絶対に逃がさない!』」

 背中合わせになると、客席に向けて2人で人差し指を突き出す。「犯人は貴方だ」のポーズだ。
「うぉーー!!サイコーーー!!」
 アリス、そして客たちが叫ぶ。愛らしい名探偵たちは、まるで怪盗のように客席の心を奪って言ったのだった。

●3『STAR DROP』
「皆を楽しませようねっ、稜君!」
「はい! 行きましょう、アルさん!」
 イメージプロジェクターのスイッチを入れる。アルの体にはセーラー服が、共鳴状態の天城 稜(aa0314)には非共鳴状態の稜が学ランを着た姿が映し出される。
「皆、PVはチェックしてくれたか? ――これから語られるのは、その後の「僕」の物語だ」
 イントロは疾走感あるギターサウンドが印象的だ。例の曲と同じバンド編成で既視感を残しつつも、違うメロディを奏でている。
 背中合わせに立ち、稜は歌いだす。その瞬間、アルの姿は繊細な鎧に身を包む戦乙女に、稜はロングコートを着た美しい男性となる。

「もう一度、あの混濁に繋がろう 枯らした涙を取り戻す為に
「僕」は“正しさ”を無くしても ひたすら此処まで生き抜いて来たんだ」

 魔王との戦いで親友だった「私」を亡くした「僕」。

「進もう、終わらせる為に 「僕」自身を取り戻す為に
悲しみで「君」の言葉から目を背けて 此処までやって来た
痛みを踏み台にして 今まで戦って来たのだから」

 彼女は世界を守るため、その命を散らした。『僕』は決意する。

『Praying for stardust.(「君」の命の輝きに祈りを)』「今は、ただ力を揮おう!」
『Praying for stardust.(輝く“星”達に祈りを)』「今は、ただ力を信じて!」

 寄り添うようにアルが歌う。追いかけるのは覚悟を決めた者の強さを持つ稜の歌声。

『Praying for stardust.(果て無き星空に祈りを)』「“過ち”を繰り返さない様に!」
『Praying for stardust.(ただ只管に願うんだ)』「どうか、あの時へと戻らせて……」

 疾走する間奏。アルは一歩踏み出ると、稜の背へと向き直る。戦装束を風になびかせてアルはソロパートを歌う。

『「私」は“自分”さえ捨てて戻れない所へ来たから
進もう、終わらせる為に 「君」自身を取り戻す為に
終わったら、ゆっくり休んで 「君」が涙を流せるように
「私」は“自分”さえなくして生きてしまったから
疲れたなら眠って 「君」が「君」でいられるように「私」はずっと傍にいるから』

 その横顔は優しい。戦の使命から解き放たれ、静かに眠るものの瞳。大好きな世界と別れるのは寂しいけれど、後悔はない。

『Shine it all around.(夜明けはやってくるから)』「そうしたら未来へ進もう」
『Shine it all around.(世界はいつだって綺麗なのだから)』「「君」が「君」である為に」

 稜を追いかけるようにアルの歌声が重なる。

『Shine it all around.(世界を輝かせて)』「「君」は弱さ認められる強い人だから」
『Shine it all around.(世界は輝き始めるから) ホラ笑って?「君」なら出来るよ」

 演奏が終わった瞬間、会場は水を打ったように静まり返る。一瞬ののち、受け止めきれないほどの拍手が流星群のようにふたりへと降り注いだ。

●4『交わり彩る物語』
 リサは強気な笑みを浮かべ拓海へと手を伸ばす。彼女を姫抱きにしたまま、ジェットブーツで軽く跳びステージへ。リサが客席へと投げキッスを贈る。
「皆さんに会いに来ました」
「少しだけお相手を」
 CDからは和楽器の音を含んだイントロが流れる。拓海は提げたギターでコード演奏をしながら歌いだす。

「出合った時は異国人 君の言葉を覚えると 僕の言葉を口ずさむ」
『出合った時は赤の他人 何故だか笑顔を見てたくて 気付くと話し掛けてたの』

 拓海のアイコンタクトを受け、リサが続きを歌う。隣に立つ相棒の向こう側に、小さな少年の面影が見える。

「互い知るほど違い増え 深くなる程泣かせてた」

 俺は、君を守りたかった。小さな手が、背丈が、もどかしかった。

「それでも君を知りたくて 謝りたくて声を掛け 気持ち届かずまた泣かせ」
『それでも貴方知りたくて 隣り居たくて近付いて 気持ち届かず閉じる口』

 わたしがあなたを守ること、当たり前だと思ってた。

『でも違ってても構わない 判った数だけ嬉しいの』

 寄添い、見詰め合って、歌声を重ねる。その姿は不思議と姉弟のように見えた。

「『知る程心安らいで 微笑む時間増えて行く
1秒毎に揃い出し 新たな音色響き出す』」

 あんなに緊張していたのに今は心が穏やかだ。

「君の言葉 僕が彩り」
『貴方の言葉 私が生かし』

 リサはスカートを翻して、拓海から離れる。そして両手を広げる。

「『聞かせて(聞いて)舞ってよ(舞わせて)
広がれ(飛んで)伝われ(飛ばせて)』」

 その旋律は、まるで無邪気な追いかけっこ。

「『手を添え次の世界へと
君が(貴方が)導く世界へと
交わり彩る物語』」


 康広たちが次の出演者の紹介をする中、テントでは囁き声の会話が繰り広げられていた。
「使って良かったの? プロポーズ用に考えてた言葉も入ってたでしょ?」
「何で知っ……」
 拓海は顔を赤くする。
「画面、開いたまま寝てちゃ……」
「あ……。いや、良いんだ。一緒に居ると言葉も気持ちも新たに湧くから」
「幸せなのね」
 照れ笑いして答える拓海の姿が嬉しくて、リサは優しく微笑んだ。

●5『SUMMER TIME PLEASURE!』
「というわけで、次に登場するのはジャパニーズ・アイドルボーイ! たっぷり萌え萌えしていってよね!」
 ティアラのナレーションに呼ばれたのは、真っ白な王子の衣装に猫耳を装着した春翔。いや、HALTO★。
「みんなー!! 元気かーい!?」
 返事とも悲鳴ともつかない声が客席から返って来た。前列の端で「かっちょいー!」と黄色い声を上げるのはアルだ。
「うんうん、いいね、アツいね! やっぱり夏はこうでなくっちゃ!」
 アップテンポなポップソングが流れだす。季節にぴったりな弾けるようなサウンドだ。
「じゃあ早速いくよ! SUMMER TIME PLEASURE!」

――休日の君はいつもと違う雰囲気 手を振って走ってくる
初めて見るボーダーのワンピース 可愛すぎてどうしよう

 客席に手を振るHALTO★。動くたび、衣装にちりばめられたラメがきらきら輝く。

――ソフトクリーム? フレッシュジュース? それとも海辺のドライブ?
なんだって叶えてあげたいんだ 控えめなプリンセス

 アルの掲げたうちわの文字に応え、ウインクする。女子たちからひときわ大きな歓声が上がる。

――君と手を繋ぐだけで とろけそうなくらい上がってく体温
ときめき体駆け巡る どう転んだって幸せの予感

「さぁ、行くよ!」
 サイリウムの波が前後に揺れる。

――飛び込んで行こうよ 僕たちだけのSUMMER TIME
君の笑顔キラめく 永遠に僕が守るから

 客席の頭上に薄く広く氷属性の魔法を放てば、冷たい水しぶきが肌を冷やす。プリンセスたちはHALTO★と共に波しぶきをあげ、海に飛び込む光景を幻視する。

――誰も邪魔できない 僕らふたりのSUMMER LOVE
まぶしすぎるヒトトキ 集めてSUMMER TIME PLEASURE!

「まだまだ! 全然足りないよ! みんな、もっともっと! 暑さなんて吹き飛ばすくらい! アツくなろう!」

――この瞬間忘れない
――(SUMMER TIME PLEASURE!)
――まぶしすぎる君との
――(SUMMER TIME PLEASURE!)

 最後は客席との掛け合い。だんだんとリフレインし、夢のひとときが終わりに近づく。
「みんな、ありがとう! また会おうね!」
 王子は大きく投げキッスをしながら舞台を後にした。



「お疲れHALTO★!! 最高だったわぁ~」
「……そりゃあどうも」
「なんだよ~テンション低いなぁ……実は結構楽しんでるクセに」
 言い捨ててテントの外を見やるアリス。その背中に春翔のツッコミが飛ぶ、が。
「……ンなわけ! ……無いとは言い切れねぇのが嫌だ……」
「と、言うわけでもう一仕事お願いね! 雅さ~ん、HALTO★、いつでも行けまっす!」
 雅の提案で、ライブ出演者との撮影ブースが作られていることを、春翔は知る由もなかった。

●6『風と幸福』
 ステージへと続く小路を男が進んでいく。白いローブに赤い上着、背中には大きな白い羽。
「闇夜はいつか明けるもの
魔物は退治されるもの
朝焼けよぶ騎士、希望の戦士
ビッグ・ベンのお化けも退治した」
 客席の子供たちが瞳を輝かせる。伝わるまっすぐな憧憬。胸の中に明日への希望があるのなら、彼らも朝焼け騎士団の一員になれるだろう。
「ここにあるのは神の祝福
月明りの下歌えや踊れ
今夜は楽しいお祭りだ」
 天使はゆっくりとした歩みでステージ中央へとたどり着く。正面を向き、大きな翼を羽ばたかせたかと思うと、光の粒子となってその姿が掻き消えた。
 現れたのは朝焼けの騎士。そして夜明け色の髪を持つ姫君。騎士は胸に手を当て、姫は軽く膝を曲げて挨拶する。

「ハッピーエンド見届け ページを閉じた
お姫様も救ったけど それは僕じゃないだろう?」

 騎士の歌に合わせ、姫が優雅にターンする。

『この足で会いに行くよ あのお菓子持って
君がいる昼下がりには 不思議な魔法が満ちてる』

 姫が凛と歌声を響かせれば、騎士は聞き入るように遠くを見つめる。

『こんな清々しい気持ち 生まれて初めてかもしれない』
「少し小さな手に触れて 心に優しい風が吹く」

 ふたりは舞台の中央に並ぶと、歌声を寄り添わせる。

「『昔の話をしよう 明日笑うために
泣きべそかいた夏の日も 身さえ焦がした冬の日も
朝は必ず来たし 春には花が咲いた
幸せは僕達と出会うのを待ってる』」

「『胸に抱いた剣の意味 きっと君を守るため』」

 騎士は決意を込めて愛剣の切っ先を見つめ、姫は慈愛に満ちた表情で客席を見渡す。彼らの剣と祈りはきっと、悪しきモノからこの街を守護し続けるだろう。

●7『TiK ToK Festival』
 最後は全員がステージに上がって合唱だ。
「今日のために全員で作った曲だ! 客席の皆も参加してくれよな!」
 康広が言い、拓海と共にギターで伴奏を始める。観客たちは手拍子で答えてくれた。

――tik tok おはよう その声が聞きたかった
今日はフェスティバル とびきりの衣装で出かけよう

 左右に体を揺らしてゆったりと歌い始めたかと思うと、衣装に合わせた思い思いのポーズ。客席からわっと声が上がった。雅はストップモーションの瞬間を逃さずパシャリと一枚撮影する。

―――tik tok 朝日が 祝福のキスをくれる
道端にサンフラワー 君と顔見合わせ笑ってるね

 曲に合わせて何度かばらばらの方向に投げキッス。元気いっぱいなクロエやアルやあけび、クールな表情のラウラとティアラ、控えめなモーションの稜と仙寿、余裕たっぷりなリサとHALTO★。それぞれに個性が出ていて面白い。

――時計の音が優しく リズム刻むのがきこえるかい
メロディを乗せよう 高い青空よ、そこで聞いていて

 ぴんと右手の人差し指を伸ばし、ビッグベンを指さす。そのまま空を仰ぎ、背伸びをするように両手を伸ばす。

――焦ることはない けれど無駄にはしないで
難しくなんてない ただ真摯に『今』を積み重ねて

 今度はぎゅっとステージ中央に集まり、半円になって円陣を組む。顔を見やすくする意図もあるが、観客たちも円陣の一員――このライブを共に作ってくれたメンバーという気持ちの表れだ。

――どんなに怖い夢だって 朝になれば終わるんだ
僕らは夏の陽(ひ)を仰ぐ 伸びてくひまわりの様に

 雅やまことや亮次、散らばったスタッフたちも声を合わせる。客席の最前列では、アリスがサイリウムを左右に振り始める。出演者たちも両手を上げ、同じように動かす。

――弱くてもろい願いでも 重なり合えば強くなる
僕らは歌うよ 友つどう庭で、明日に向かう希望を

「時計祭、まだまだ楽しんでね!」
 アウトロの合間にアルが叫ぶ。拓海と康広がアイコンタクトし、ついに最後の一音が奏でられる。皆は一列に並びなおすと、一斉にお辞儀する。気づけば太陽は、空の一番高い位置から彼らを照らしてした。熱演をたたえる拍手が惜しみなく注がれる。こうして、大盛況のうちに真夏の仮装ライブが終了したのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 惑いの蒼
    天城 稜aa0314
    人間|20才|男性|防御



  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 銀光水晶の歌姫
    アルaa1730
    機械|13才|女性|命中
  • プロカメラマン
    雅・マルシア・丹菊aa1730hero001
    英雄|28才|?|シャド
  • 生命の意味を知る者
    一ノ瀬 春翔aa3715
    人間|25才|男性|攻撃
  • 生の形を守る者
    アリス・レッドクイーンaa3715hero001
    英雄|15才|女性|シャド
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • 迷子保護隊
    クロエ コードaa5187
    人間|16才|女性|回避
  • 迷子保護隊
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