本部

にゃんにゃんパニック!?

一 一

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/07/11 21:26

掲示板

オープニング

●にゃ~ん(顔を洗う猫さん)
「そ、それにしても、今年も暑い日が続くね!」
「そうですね」
 早朝、H.O.P.E.東京海上支部へ続く道を、職員の制服を着た2人の男女が歩いている。取り繕った話題とともにハンカチで額の汗をふき取る佐藤 信一(az0082)と、涼しい顔で汗一つかかずに同意を返した碓氷 静香(az0081)だ。
『……信一、昨日も同じ全く同じセリフ言ってなかった? それに静香も、一言でいいから相づち以外の返事をしなさいって、昨日の同じタイミングで言ったよね? 何回同じやりとりすれば満足するのよ?』
「……ごめんなさい」
「……すみません」
 そしてすぐさま、静香の口を介して共鳴したレティ(az0081hero001)がうんざりした声音でダメ出しを入れた。少々強めの指摘に信一と静香はうなだれ、力なくレティへ謝罪をこぼす。
 ちなみに、ここまでのやりとりが1週間ずっと連続している。いくら静香に甘いレティといえど、非難めいた感情を向けるのも無理はない。
 付き合いだしておよそ半年になる信一と静香は、可能な限り一緒に行動する機会を増やしていた。きっかけは、交際期間が半年を過ぎても一向に進展しない関係を見かねたレティが、2人をせっついたからに他ならない。
 信一と静香の関係を応援するレティとしては、そろそろ年相応の恋愛をしろよと常々思っていた。しかし現実は、大人らしい交際はおろか、キスすら未経験のまま。中学生の思春期カップルでも、この2人よりはマシな仲へ発展していることだろう。
 まるで小学生同士の恋愛であり、ここまで何もないと関係が冷めてもおかしくない。が、当の本人たちは現状に満足しているらしく、距離感が広がるどころかむしろ縮まっている節があるのだから意味がわからない。
「え、っと、……今日も仕事、がんばろうね!」
「そうですね」
『……はぁ』
 奥手すぎるヘタレと根が深すぎるコミュ障による、初々しいままほとんど進まない関係に、レティは今日もどうしたものかと頭を抱えていた。

 ――にゃ~

 すると、ようやく昨日とは違う展開が訪れた。
「野良猫、かな?」
「そのようです」
 それは、1匹の猫。どこにでもいそうな茶色い毛並みの野良猫は、尻尾をフリフリ2人へ近づく。
「ずいぶん人懐っこいね」
「おそらく、人間に媚びを売ればエサがもらえると理解しているのでしょう。都会の猫はたくましいですね」
『静香はそこで、もうちょっとかわいらしいこと言えないかなぁ?』
 微笑ましそうに頬を緩める信一とは対照的に、淡々と身も蓋もないことを口にする静香には、レティも呆れを隠せない。
「あ、すり寄ってきたよ、碓氷さん」
「相当手慣れていますね。他の通行人にも同様の手口で懐に入り、日々の糧を得てきた、ということでしょうか」
 その間に喉を鳴らしながら静香の足下に座った猫を示した信一に、静香はしゃがんで背を撫でる。野良猫への評価は相変わらずだが、自らスキンシップをとったのはレティの『かわいくない』発言を気にしたせいだろう。
 それが、数分後の悲劇に繋がる。

●んにゃ! んにゃ!(猫じゃらしに猫パンチする猫さん)
『待ちやがれこのリア充がぁ!!』
「ひぃ~っ!?」
 行きずりの猫にほんわかしていた信一は、現在複数の同僚たちに追われていた。理由はわからない。突然背後から怒鳴り声を浴び、直感的に危険だと判断して逃げ出したのだ。
「あの人たち、佐藤さんに構ってもらえて、ずるいです……。私も、もっと、構ってください……」
「碓氷さんこの状況で何言ってるの!?」
 しかも、ただ逃げているだけではない。静香が同僚に見つかった直後に信一の腕にしがみつき、やむなくその状態で信一は逃亡劇を演じていた。
 暴徒に捕まると瞬時に判断した信一は、すぐさま静香を横抱き(いわゆるお姫様だっこ)にした。それからずっと、静香は全力疾走する信一の腕の中で場違いな台詞を漏らしながら、体をぎゅ~っと密着させて甘えている。
「レティちゃん! 碓氷さんはどうしちゃったの!?」
『信一に甘えてるだけでしょ? 役得だと思って楽しんだら?』
「そうじゃなくて!!」
 息が上がる中、信一はレティに助けを求めるがこちらも的外れかつ素っ気ない返答で思わず叫ぶ。
 静香の匂い、柔らかさ、体温を強く感じる状態は信一としてもまんざらでもないのだが、今はそんなことを言っている場合ではない。共鳴した静香が信一を運ぶならまだしも、一般人の信一が静香を運ぶ状態では、絶対に逃げきれないだろう。
 現在も殺気が混じる本気の追いかけっこは継続しているのだ。
 まるで状況が見えていない言動は、どう考えてもおかしい。
(でも、一体どうして……っ!)
 必死に思考を巡らしながら逃げる信一は、ふと視線を方々へ飛ばして気づく。
「――猫か!!」
 普段ではありえない数でこちらを観察する猫たちを見つけ、信一は一連の出来事を猫に憑依した従魔の仕業だと推定した。もしかしたら後ろの同僚たちも? と考えが及んだところで、信一の思考は強制的に中断させられる。
「佐藤さん。……私だけの、信一、さん」
『コロス!!』
「ちょ!? 碓氷さん火に油注がないでぇっ!!」
 静香が信一の胸に顔を埋め、より一層甘える仕草を見せたことで同僚の足がさらに加速。静香の追い打ちにより重心の安定と状況の悪化をはっきり感じ、信一は涙混じりの絶叫を上げて駆け抜ける。

 ――くぁ~あ

 そんな彼らの追いかけっこを、建物や木の上から見下ろしていた猫たちが、のんきなあくびとともに送り出したのだった。

解説

●目標
 従魔の捜索・討伐

●登場(PL情報)
 猫従魔×30…イマーゴ級。通称はどら猫。猫種はアビシニアン。見た目もサイズも内面もほぼ普通の猫。性格は一様に人懐っこく、気に入った人間には愛情表現として甘える仕草を取ることが多い。また知能が高い上に好奇心が旺盛で、高所へ好んで移動するくらいには運動能力も高い。

 直接接触によりライヴスを奪い、人の嫉妬心を増大させ暴走を促す。暴走した人は気絶させる程度の衝撃を与えると正気に戻る。能力者・英雄へも多少影響あり。標的を定めると一般人や能力者問わず自ら近寄っていくが、AGWを強く警戒しすぐに逃走を図る。力は弱く、攻撃が当たれば簡単に倒せる。

●状況
 場所はH.O.P.E.東京海上支部周辺。商店が建ち並ぶ商業区の他、居住区や研究区の路上でも目撃情報が複数ある。時刻は午前7:30頃、会社や学校に出勤・通学する人々の姿が多く見られる。天気は晴れ。朝から自然と汗ばむくらい湿度も気温も高いため、絶好の運動日和(?)。

 現在進行形で『喧嘩をしている』という通報が多数あり、従魔もその現場付近にいる。暴走中は会話の成立も難しく、絡まれる理由は理不尽な言いがかりがほとんど。傾向として能力の優劣や所得格差、容姿の美醜、恋人の有無などが標的となり、親しい間柄ほどこじれやすい。

 PCたちは東京海上支部に寄せられた通報を元に現場へ向かう。開始時点で従魔の関与が疑われるものの、詳細情報は皆無のためPCも奇襲を受ける可能性がある。暴れているのはほぼ一般人であり、能力者や英雄は口論こそすれ暴力沙汰は起こしていない。

●備考(PL情報)
 通勤中だった信一(ヘタレリア充)と静香(無双モード)の姿を目撃し、嫉妬に狂った同僚(恋人募集中!)がトレイン中。信一の体力は限界が近い上、H.O.P.E.への連絡もできていないため位置不明。

リプレイ

●ふにゃ~!(逃げる猫じゃらしを追う猫さん)
「現時点で通報があったのはここだ」
 まず、語り屋(aa4173hero001)と共鳴した佐藤 鷹輔(aa4173)が、騒動が起きた場所を記入した地図のコピーを全員へ配布した。
「従魔って小動物とか無機物とか、何にでも憑いちゃうからなぁ」
「不意打ちもないとは言えません。周辺情報の調査も入念に行いましょう」
 被害の点在具合からウィリディス(aa0873hero002)は多数の従魔による仕業を疑い、月鏡 由利菜(aa0873)も同意して仲間へ呼びかけた。
「愚神はいないみたいだけど依頼は初めてだから、大丈夫かな?」
『ムツキ、事前情報、ない。油断、禁物だ』
 初依頼に不安を口にした睦月(aa5195)に、テク(aa5195hero001)も幻想蝶の中から注意を促す。戦闘では事前準備を万全に整え、後方支援に徹する『戦術家』を自称するテクにとって、敵の影しか見えない現状では慎重だった。
 そうしてエージェントたちは、ひとまず騒ぎを静めるため一度散開した。
「ふむ、随分と感情的になり揉めてる人が多数の様だね。何か精神的な操作でも受けているのか、はたまた何か乗り移っているのか。情報でも集めたい所ではあるのだけれど、さて会話が通じるのやら。ガラナ君、君はどう思――」
「ウルセェ長ぇよ。場当たりで対処するしかねぇだろうが」
「至極当然だね、ではその様にするとしよう、あぁ、そういえば話は変わるのだけれど――」
「長話は後にしろっつってんだよ!」
 並走するディア(aa3292hero002)の饒舌さでガラナ=スネイク(aa3292)が苛立ち、普段より2割り増しの強面が正気の一般人を自然と避けさせた。
『リア充がいたぞーっ!!』
「それにしても、おかしな感じだな」
「集団性のヒステリー騒ぎにしても、まだ要因が不明ですものね」
 手近な現場へいち早く到着した赤城 龍哉(aa0090)とヴァルトラウテ(aa0090hero001)は、男女ペアというだけでリア充扱いされた。最初は眼前の拍手による猫騙しで怯ませていた龍哉だが、正気には戻せず手段を変える。
「喝っ!」
 ヴァルトラウテと共鳴し、龍哉は滅多に使わない『臥謳』で周囲を威圧した。
「……あ~」
『力加減を間違えましたわね』
 が、普段使わない技のためか龍哉の恫喝は効き過ぎたようで、全員尻餅をついて怯えまくっている。一部の股間が湿っているのは、見なかったことにした。
「早急に事態を収める為にも、まずは原因究明に努めませんと……」
「どうせ狩るなら、熊か何かの従魔が良いわねえ」
 こちらはカリスト(aa0769)が町の方々を観察する中、アルテミス(aa0769hero001)は狩りたい獲物を指定する程度の余裕をこぼす。
「アルテミス様、遊びではありませんよ。戯れに追い掛け回したりしないでくださいませね」
「あら、神聖な狩りの場においてそんな無粋はしなくってよ」
 熊が嫌いなこともあってか、カリストが珍しくアルテミスを窘める言葉をかけるも、当の本人は飄々とした態度を崩さなかった。

「うぁ、問題多発中……」
「パッと見でトラブってそうな場所はないか?」
 一方、テジュ・シングレット(aa3681)と共鳴したルー・マクシー(aa3681hero001)は被害状況を『鷹の目』で調べていた。隣には鷹輔がルーの護衛兼連絡係として控える。
「あ! お姫様抱っこの人が暴徒に追われてる!?」
「んな馬鹿な、映画じゃあるまいし。……とはいえ、逃げてるって事は正気だろ。そこに合流するか。案内を頼むぜ」
「りょーかいだよっ! たいちょー!」
 すると、ルーが奇妙な一団を目撃して声を張り上げ、鷹輔は一瞬怪訝な表情を浮かべる。が、新情報が得られると考えルーの先導で移動を開始した。
「あれ? 猫が一杯!」
 道中、ルーは『鷹の目』の視界で妙に多い猫の姿に気づいた。
「でも僕犬だし、触らせて貰えないんだよね……」
『希なら触り放題か』
「でも、じゃーん愛カメラ【NoRuN】! 僕はこれで猫と戯れる希をGETしよっ♪」
『……仕事は?』
「大丈夫っ頑張る!」
 ウキウキなルーはテジュの声で冷や汗をかきつつ、腰に撮影モードの【NoRuN】をつけた。
 ――んにゃぁ!
「! 触れた~! 可愛い///」
 途中、ルーは情報収集を終えた鷹を帰還させると、突如飛び出した影――猫をとっさに捕まえる。珍しくルーに抱かれたまま大人しかったが――
(? ……もやもやす、るっ?!)
「待て待て、猫が可愛いのは分かったから今は急ぐぞ!」
 鷹輔に襟首を掴まれたことで猫はするりと逃げ出してしまった。一瞬、わずかな違和感を覚えたルーはしかし、気のせいと考え再び追跡へ戻った。

「助けてぇ~っ!!」
「あれ? 電車ごっこ? 面白そー!」
 話題に上った華留 希(aa3646hero001)はというと、偶然にもルーたちが発見した一団とすれ違った。
「アホ、明らかに違うだろ!」
 暢気な希の反応を麻端 和頼(aa3646)が叱咤し、希とともに追跡する。
「お姫様抱っこの人?」
 ほぼ同時、五十嵐 七海(aa3694)は鷹輔の連絡に疑問符が浮かぶ。
『現状を変える手がかり、か。鷹輔たちと落ち合うか?』
「うん!」
 共鳴状態のジェフ 立川(aa3694hero001)の声に頷き、七海も身を翻す。
「あれは喧嘩と言うより、誰かを追っている様に見える。ST-00342は至急保護対象を確定し――」
 また、和頼たちとは別で一団に目を留めたST-00342(aa1362hero001)は、一番動きの活発な場所へ向かう最中に遭遇した。
「およ? ……あ! あれは鋭い分析能力で上司の方々の評価も急上昇中の指令室期待の星、佐藤信一さん24歳! 御園ちょっと興味アリなんだよね? エスティ、早く行こ!」
 が、穂村 御園(aa1362)が信一を捕捉したことで続く言葉がぶった斬られる。他の職員や信一が抱える静香を丸ごと無視し、御園はSTー00342と共鳴して走り出した。

 まず、最初に一団の先頭にいた信一へ接近できたのは、御園だった。
「あ! 信一センパーイ、こんなところで会うなんて奇遇ですね。なんかうれしいな……。ところでなんか色々と纏わり付かれてますけど、ストーカーですか?」
「え!? ほ、穂村、さん!?」
「…………」
 今まで接点がほぼなかった御園の登場に驚いた信一は、息切れしつつも振り返る。腕の中にいる静香が、絶対零度の視線を御園へ向けているのは気づかない。
「えー、有名ですよ~。ほらー、いつか通報聞いて5秒で従魔の居場所割り出しちゃったとかあったでしょ? うちの部でも女の子大騒ぎで、狙ってる子もいっぱい居るんですよ~」
『んだとぉ!?』
「ちょっ!? 穂村さん、挑発しないで!!」
 さらに、御園が信一を『隠れモテ男』と持ち上げたせいで『怒るモブ男』たちのギアが2段階上がった。信一は焦って止めるも、御園のターンは終わらない。
「うるさいな、えい!」
『ぎゃああ!?』
 逆上した(させた?)モブ男を邪魔に思ったのか、御園は一瞬振り返った『フラッシュバン』で彼らの目を焼いた上、ライヴスガンセイバーで『トリオ』をぶっぱした。出力は極力絞ったので、多分セーフ。
「ところでお休みとかどちらに行かれるんですか? みんな知りたがってるんですよー、信一さん人気あるから。ん? この荷物――じゃなくてこの子どなた?」
 その上でケロッと雑談に持ち込むあたり、御園は随分いい性格をしているらしい。
「…………」
「わ!? う、うすいさん……っ!?」
 で、荷物扱いされた静香は無言で御園を睨みつけ、本日最大の密着度で信一に体を寄せた。まるで所有権を主張する様子は幼い子どものようだが、信一は近すぎる距離に顔が紅潮し足も止まる。
「ってお前らかよ!」
「わぁ、ラブラブ/// 静香さん、ちょー可愛い!」
 そこで、目を丸くする鷹輔と笑顔でサムズアップするルーが信一たちと合流した。
「あれ? もにゃもにゃが――」
 すると、上機嫌だったルーが急に表情を変えて信一に掴みかかる。
「ちょっと信一さんっ! オペレーターでしょ?! こんな美味しい場面に遭遇するなら、先に声かけてよっ! 最初から渦中だなんて、羨まし過ぎるっ! やり直してよ~どうしてそうなったの?! ねぇねぇ、ねぇってば!」
「む、無茶を、言わないで、ください!?」
 面白い事を独占するなんてずるい! という理不尽な『嫉妬』に捕らわれたルーは半泣きで信一に文句をぶつけた。
「おいルー、カメラを回せ! あれがリア充を妬む亡者の群れだ!」
「えっ! 亡者?!」
 鷹輔は急に暴走したルーに疑問を覚えたが、話を聞くのが先とルーの意識を信一から非リア充へそらした。瞬時にルーがカメラを向けた瞬間、彼女に天啓がビビッと降りてくる。
「そっか、全部もう一回やって貰えばいいんだ!」
 もはや発想が斜め上にぶっ飛んだルーは、手刀を作って暴徒へ襲いかかった。
「信一さん幸せそうだし、静香さんはそのままで良いね!」
「いいのか!?」
 次に追いついたのは、途中で一緒になった七海と和頼。信一たちの様子を見て放置を即決した七海に驚く和頼だが、信一たちとの交流が多い七海を信じて最終的に集団の対処を優先した。
「また難儀な……いや、あれはあれで」
『幸せの重みを感じている、で良い気がしますわ』
 ほぼ同時に合流した龍哉も、信一 with 静香を見て呆れ顔。ヴァルトラウテの合いの手で龍哉は一つ頷き、信一から暴徒へ視線を流す。
「人様に迷惑かけてんじゃねぇぞ、オラぁ!」
 そこへ連絡を受けたガラナも乱入。現状最大規模の暴徒鎮圧に向け、図らずもルーたちと挟撃する形で殴り込みを開始した。
「わ! なんかすごいことになってる!?」
『ほほう? 随分と、デレデレ。お熱いねえ』
 さらに別方向から睦月が合流し、H.O.P.E.職員が織りなすドロドロの三角関係(?)と抗争じみた殴り合いという、2つの修羅場に目を丸くした。幻想蝶にいるテクは終息が近い殴り合いより信一たちに注目し、異なる緊張感に笑みを深める。
「子羊達よ、一時の夢に身を委ねよ」
『ソムニウム!』
 最後にウィリディスと共鳴した由利菜も参戦。残り全員を『セーフティガス』で一気に眠らせることで、ようやく場が落ち着きを取り戻した。

●にゃあぁ!(友達とじゃれる猫さん)
「二重の意味で目が覚めてくれたかな? 早速で悪いのだけれど、お話を聞かせてくれないかな? あぁ、安心して欲しい。これ以上は君達に危害を加える事はないと誓うよ。何なら誓約書でも――」
「どうでもいいが早くしろ!」
 その後、意識を取り戻した元暴徒たちにはディアとガラナが事情を聞く。はた目には飴と鞭を役割分担する取り立て屋に見えなくもない。
「ネコ……ですか?」
『ネコ、触る、暴走する、だと? これは、ククク、楽しく、なりそうだ』
 一方、信一から推測ながら従魔の正体を聞いたエージェントたち。コテン、と首を傾げた睦月は純粋な疑問符を、テクは何故か笑みを浮かべている。
「……プリセンサーからの追加情報はなしだ。どうする?」
 話の間に支部へ現状の報告と確認を行った龍哉は全員へ振り返り、今後の方針について水を向けた。
「被害規模からして、従魔は相当数いるんだと思います」
「バラケた敵を追うより、罠でも仕掛けた方がよくねえか?」
 地図に視線を落とした七海は表情を険しくし、和頼は敵の探索ではなく誘い出しを提案する。
「なら、コイツを使うか?」
 すると、脅迫――もとい事情聴取を終えたガラナが、幻想蝶から『サンタ捕縛用ネット』を取り出した。
「お、いいモン持ってんな。後は捕獲器を近くのペットショップや猫カフェとかで借りりゃいいだろ」
 和頼がガラナからそれを受け取り、ついでに個別の罠にも言及する。
「華留さんはリディスと同じメディックです。救助の面では、別区画での行動が効率は良くなるでしょう」
 加えて、由利菜が従魔被害者の対応について触れた。地図のコピーにマップラインプロジェクターを使用し、おおまかな担当地区を素早く決めていく。
「情報助かったぜ。ありがとな。んじゃ、また」
「え゛っ!?」
 あらかた方針が決まり、鷹輔は爽やかな笑みで信一の肩を叩く。静香と御園との板挟み状態が続く彼にとって、それは『死んでこい』の合図でしかない。
「……そっかぁ、猫が原因かぁ」
「あ」
 と。目が据わったルーが沈黙を破ったことで、鷹輔はようやくルーが猫に触っていた事実を思い出す。
「皆、僕に撮られろー!」
 すると絶賛血迷い中のルーは、作戦も制止も無視して猛然と走り出した。
「あー、じゃあ俺たちが捕獲器集めのついでに探してくるぜ」
「俺はそれっぽい猫の駆除に走るから、新しく作戦とかあれば連絡してくれ」
「私は人々の救助を優先しますね。情報交換はなるべく密に行いましょう。それでは皆さん、ご武運を」
 すぐに鷹輔からルーの暴走も従魔が原因と伝えられると、龍哉は罠集めとルー捜索に動く旨を伝える。次いで共鳴したガラナがSMGリアールを取り出し討伐の意欲を見せ、最後に由利菜が一般人への対応を重視すると表明して散っていった。

「――はい。わかりました」
 その少し前、信一たちがいる商業区からやや離れた研究区にいたカリストは、仲間の連絡で情報共有していた。
 ――にゃお
「まあカリスト、ごらんなさいな。ウフフ、可愛い猫だこと」
「! 連絡にあった従魔の可能性がありますね」
 その直後、1匹の猫(♀)がアルテミスに近づいてきた。
「速やかに討伐を……って、アルテミス様?! あまり近づくと危険です!」
「少しくらい平気よ。ねえ? 子猫ちゃん」
 警戒するカリストはすぐ共鳴しようとしたが、アルテミスは猫(♀)の受け入れ態勢を整えてしまう。
 ――にゃ~
「あっ、アルテミス様! 危ないッッ!!」
 そしてアルテミスの懐へダイブしようとした猫(♀)を阻むため、カリストが滑り込む!
「待て待てぇ~!」
 ――にゃにゃ!?
 と同時、数匹の猫を追い回すルーが猫(♀)の背後を急襲。驚いた猫(♀)はとっさにカリストを踏み台にした。さらに猫とルーの足場にもされ、カリストはそのまま倒れてしまう。
「アルテミス様――貴女という方はッ、いつもいつもいつもいつも知らない女性にばかり手を出して!! カリストが一番可愛いだとか、愛してるだとか、きっとみんなに同じ言葉を掛けていらっしゃるんだわ! この間だって、エージェントの女性と貴女が仲睦まじく話をしていたの、私ッ、知ってるんですからね!!」
 すると、次に起きたカリストは途端に『嫉妬』を爆発させ、アルテミスに詰め寄った。
「ウフフ、怖い怖い。さあはやく、捕まえてごらんあそばせ」
「お待ちくださいませ、アルテミス様ッ!」
 要するに『私だけを見て!』という激昂に、アルテミスはどこか満足そうに微笑みカリストをさらりと回避。そのまま狂乱の街を舞台に、めくるめく愛の逃走劇を開始した。
 はい、もう周り見えてません。

「っし。できた」
「おー!」
 ――にゃぁ
 さて、商業区ではサンタ捕縛網を補強した和頼は、希と猫の前足拍手で労われた。
 ……ん?
「は?! おま、それ従魔だろ!?」
「1匹くらいイイよね! 躾けて使い魔にするー!」
「使い魔?! アホか!!」
 いつの間にか希が捕獲していた猫従魔に一同が唖然とする中、和頼と希の飼う・飼わない論争は激化する。
「ヤダー! 飼いたい飼うのー!」
 ピトッ!
「バッ! 何やって――」
 が、希が猫従魔を和頼に押しつけた瞬間、
「――恥凌いで告って両思いかと思いきや、あれじゃフラレたのと変わんねえじゃねえかッ!!」
 怒りが『嫉妬』に塗り変わった和頼は急に暴れ出した。
 実は1週間前に和頼が思いの丈を七海にぶつけていた。だが、2人と共通の友人の前だと七海は『変わらないから!』と頬を染めて反論したのだ。それをフラレたと思いこんだ和頼はずっと心中にモヤモヤを抱えていて、今回見事に爆発したのである。
「面白~い♪ ……他の皆はどうなるのカナ~♪」
 その様子に希はご満悦で、悪い笑みが一層深まる。
「和頼!? だいじょう――」
 ピトッ。
「おい、希!? 馬鹿やめ――」
 ピトッ。
「わあっ!? は、華留さん、ストップ!」
 ヒラッ。
 和頼を案じて駆け寄った七海、犯行の瞬間を目撃した鷹輔、突然の展開におろおろしていた睦月の順で、希は次々と猫をけしかけた。睦月には避けられたが、そのまま希はイタズラっぽい笑みのまま、爆心地から離脱していく。
「ど、どうしよう!?」
『ムツキ、落ち着け。猫、捕まえる』
「わ、わかった!」
 暴れる和頼におののく睦月は、テクの言葉に促され再起動。幻想蝶の中に浮かぶ悪い笑みその2に気づかず、睦月は希が手放した猫を追った。
「睦月さん! 猫を追っちゃ――」
「信一さんにもどーん!」
 ベタッ!
 混迷する状況に焦る信一が睦月へ振り返ると、いつの間にかいたルーが背後から信一の頭に猫を乗せた。
 信一、血の気が引く。
「結局お前の本命は誰だ?! 鷹輔か?! ジェフか?! それともテジュか?!」
 その間に感情がピークに達した和頼は、うつむく七海の肩を掴んで揺さぶる。
「何、それ……?」
 が、七海は『嫉妬』の前に怒りで火がついた。
「急な告白に気持ちを答えるだけで、凄く恥ずかしかったのに……」
 あの日、照れ隠しが見え見えな態度だった和頼とのやりとりを、涙目の七海は思い出す。
 和頼と両思いだと知れた嬉しさは、羞恥以上に強かった。
 でも、すぐには素直になれなくて、つい口にしたのが『あの言葉』。
「結局は現状維持なんだろうが?!」
「表立っての行動は『変わらないから』恥かしがる事は無いよって意味で、私たちは恋人だよ! 1人で自己完結しないで、気になったら聞いて欲しいよ! バカー!」
 バッチーン!!
「ぶっ!?」
『嫉妬』に我を忘れた和頼は、七海の強烈な平手打ちで顎を揺らされ意識を手放した。
「でも、和頼は凄いよ。アイデア出して即行動で、何時も抜けてる私は遅れないようするのが精一杯……うぅ、私も一人前に成りたいー!」
『七海? 何を急に……ぁ』
 それでも和頼に追い打ちをかける七海に疑問覚えたジェフは、猫との接触を遅れて思いだす。七海の『嫉妬』は己の未熟さが由来のため、他者の有能さへの羨望が爆発していた。
「……成る程、これが暴走の原因、か」
 和頼の首がガックンガックン上下する中、鷹輔もまた『嫉妬』に蝕まれる。
 根底にあるのは、忌避し続ける『過去の自分』。弱く、臆病で、惨めな引きこもり。ネットの匿名性が作る『仮面』なしには我を出せず、『仮面』越しに見る光景の自己投影で得る優越感と、空しさ。それらを秘めた語り屋の願望からくる鬱屈だと、鷹輔は解釈した。
「鷹輔さん!? 大丈夫ですか!?」
「何でもねえよ……はぁ」
 結果、素直に自己表現できる友人たちに『嫉妬』した鷹輔は、信一の心配も露骨な溜息と意味深な笑みで拒絶した。
「うわ、暗い上に面倒くさ」
「穂村さん!」
 御園が放った端的な言葉が、鷹輔を深くえぐったのは言うまでもない。
「このネコにだって、友達がいるんだろうね。それに引き換え僕は、うぅ……」
 そんなやりとりを、睦月は猫を抱いたまま眺めていた。能力者になる前の記憶がなく、『友達がいない』ことがコンプレックスな睦月には、少々過激とはいえ仲睦まじい様子に『嫉妬』せずにはいられない。
『ほほう。こんな、ネガティブムツキ、初めて見た。面白いな』
 で、さりげなく睦月をドツボにはめたテクは、幻想蝶から楽しそうに観察していた。
「ぁ、っ……」
 そして信一にも変化が訪れる。
「(じー)……っ?」
 御園への牽制が信一に抱きつき睨む以外できなかったコミュ障の静香は、逆に静香の視線を独占する御園に『嫉妬』した信一からの力強い抱擁を受け、硬直。
「……静香さん。僕だけを、見てよ」
 次いで鼓膜を通る切なげな信一の声は、恋愛どころか対人スキルもない静香には刺激が強すぎた。
「っ!!? ……(がくっ)」
『静香ーっ!?』
 感情が飽和した静香は一度大きく痙攣し、レティの声も空しく意識をブッツリ落としていった。
「これは、精神誘導の他に記憶操作もあるよエスティー。どう見てもあの2人が恋人とか釣り合わないし」
『御園、その情報は本当だとST-00342は判断する』
 そんな即席三角関係の一翼は、人の地雷を踏むのが実に上手かった。
「こちらでしてよ、カリスト~」
「アルテミス様、っ!?」
 ドンッ!
 するとここで、アルテミスとの追いかけっこに夢中だったカリストが合流し、信一と思いっきり衝突。倒れた衝撃で2人とも昏倒し、気絶者が3人に増えた。
「アハハハハハ!!」
「希っグッジョブ! いい画がどんどん撮れてるよ!」
「……何がどうしてこうなった?」
 色々極まった頃に、猫従魔の捕獲器を調達した龍哉が戻ってきた。が、和頼の醜態を指さし大笑する希や仕事を忘れてカメラ片手に興奮するルーなど、全員が好き勝手振る舞うカオスに龍哉はため息とともに頭を抱えた。

●Zzz(お疲れおねむな猫さん)
「真面目にやれ!」
「痛ぁ!?」
「ぼ、暴力ハンターイ~」
 その後目覚めた和頼による、ルーと希への鉄拳制裁は必然だった。
「ええと、……これから挽回しましょう?」
 一般人を正気にし終えた時に龍哉から連絡を受けて戻った由利菜は、『クリアレイ』や平手打ちで仲間の暴走も収めてからルーと希へフォローを入れる。この時点でビンタの手加減は誰よりも上手い。
「助かったぜ、月鏡。あの猫、すばしっこくてなかなか倒せなくてな」
 一方の龍哉は、仲間の介抱を由利菜へ任せる間、ルーと希がつれてきた猫従魔を追い回していた。が、AGWを起動するとすぐ逃げ出すため、数体の討伐でも思った以上の時間がかかった。
『俺も同意見だ。微量のライヴスでも敏感に察知しやがるから、面攻撃でも取りこぼしちまう』
 また、猫従魔の索敵と撃破で単独行動するガラナとの通信では、龍哉に同意するやりにくさが伝えられた。ガラナも『エクストラバラージ』後の『ウェポンズレイン』や『ストームエッジ』を放ち数体は倒したようだが、多くは逃げられてしまったらしい。
 そうして集まった情報から新たに猫捕獲作戦が組まれ、それぞれ共鳴したエージェントたちは今度こそ猫従魔の駆除に本腰を入れる。ただし、御園だけは気絶したままの信一と静香の護衛としてその場に残った。
「大罠は被害範囲のほぼ中心だ。場所は――」
 まず、和頼が捕縛用ネットの設置を全員に通知し、偽装用に七海から借りたタオルケットを被せた後、捕獲器の設置にも走る。
『小さな“ささくれ”を増幅されたんだ。今は聞かなかった事にしておこう』
「うん。でも、大切な事と心に止めるよ」
 また、ジェフの言葉で気持ちを切り替えた七海は周辺店舗から段ボールを譲り受け、捕獲器の補助として設置していく。
「こ、古典的な方法ですが……」
『猫ちゃ~ん、美味しいお魚ですよ~』
 主に猫従魔の誘導役をした由利菜とウィリディスは、『マグロ』をエサに猫を釣っていた。
 ――にゃあっ!!
 効果は抜群だが、従魔以外の猫も多数呼び寄せていたのはご愛敬だ。

 ――にゃ~ぁ!!
「……油断し過ぎだろこいつ等、アホなのか?」
 1時間後。ガラナたちの眼前には、罠に捕まった猫祭りが開催されている。すぐ逃げる猫従魔だったが、攻撃の気配で誘導してやれば面白いくらいに引っかかったのだ。
 他にも、和頼の『花火セット』が猫たちの追い込みに活躍したり、七海の用意した段ボールやルーの設置した土鍋が満員になっていたり、鷹輔が『マナチェイサー』で従魔を追跡したら意外と複数行動していたりと、今までのドタバタ劇が嘘のようにスムーズに事が運んだ。
 次に、ライヴスゴーグルを所持していたエージェントたちは猫の選別を行った。微妙に異なるライヴス量に注視し普通の猫を逃がした後、残った従魔の数は二十数体。
「……非情になりきれなくなる事態を想定して持ってきた」
『わわっ、『プリエール』ですか!? これ制御するの大変なんですよ!?』
 後は倒すだけという段階で、由利菜は性格改変上等の魔法書を取り出した。ウィリディスが扱いにくさに定評のあるAGWに悲鳴を上げるが、今の由利菜は容赦がない。
「私とて、これ以上人々や街に被害をもたらしたくはない。つべこべ言わず制御しろ、リディス!」
『無茶振りを……やるしかありませんのねぇ』
 他にも、借り物の捕獲器を壊さないよう一部の猫従魔にマグロをかじらせ囮にし、遠距離からの包囲攻撃で討伐する際、魔法書の方がベターだったという背景もある。
「じゃあ、行きます!」
 配置と準備が整った瞬間、七海が『フラッシュバン』を猫従魔の中心で弾けさせ、それを合図に一斉に攻撃を開始した。
「偽りのモフモフか……後で空しくならなきゃいいが」
 そして、討ち漏らしに注意していた龍哉の呟きを残し、従魔はエージェントたちの飽和攻撃により捕縛用ネットやマグロごと一気に消滅した。

 その後、由利菜の要請で負傷者の治療と町の被害把握や修復が、和頼の要請で愚神の関与や従魔出現経緯の調査が、それぞれ行われた。
「僕の初の依頼の成果としては上々の結果かな? まぁ相手が猫というのは少々不足と思えなくも――」
「猫よりお前の方がメンドクセェわ」
 調査により愚神の影はない偶発的な事件と判明し、ディアは結果に満足しつつも今回の依頼では役不足と感じたらしい。一向に止まらないディアの饒舌に、ガラナはうんざりしつつ聞き流した。
「私、アルテミス様にあんな……も、申し訳ございませんでした!!」
「私はとっても楽しかったわ。フフ、やっぱり貴女が一番かわいくってよ、カリスト」
 こちらはアルテミスが、暴走以降恐縮しきりなカリストのほっぺにチューして許していた。仲良いですね。
「なんか、すごく大変だったね……」
『誰でも、最初は、未熟。少しずつ、強くなれば、いい』
「そうだね!」
 思い返せばずっと振り回されていた睦月がため息をこぼすと、何かいい感じ風の台詞をテクが口走った。睦月が感じた『大変』の内、少なくとも2割程度はテクの差し金だったと思うのだが、睦月は気づかず頷いた。
「H.O.P.E.職員がこのザマとは情けねえが、悪いのは従魔だよな?」
 また、職員とオハナシしていた鷹輔。ルーが収めた数々の失態動画を見せた上で、被害者たちに遺恨を残さぬ為に今回の騒動が従魔の仕業だと公式見解を出すよう迫った。
「同僚の弱みは握っとけって、ばっちゃが言ってた」
『おばあちゃん、そんな事言わないよ!?』
 もっとも、笑顔で親指を突き立てるばっちゃを幻視した鷹輔は、動画データを再利用する気満々だったが。語り屋の突っ込み? スルーですが何か?
「反省は?」
『……やりすぎました、ごめんなさい』
 一方、ネタ動画で連携したルーと希は、テジュから揃って正座を言い渡されていた。
「……すまねえ、今度から気になったらちゃんと言う」
「私も、言葉を端折らないで伝える。不安にさせて、ごめんね」
 テジュの後ろでは、和頼の小さな謝罪に七海が微笑み謝罪を返した。言葉足らずの似たもの同士だが、年齢も交際期間もまだまだ若い。2人はこれから少しずつ、恋人として成長いくことだろう。
『正座、も、無理ぃ……』
「テジュ、貴重なレポーターとアタッカーだ。そろそろ許してやってくれ」
『ジェ、ジェフ……っ』
「……わかった。後、10分だ」
『鬼~!?』
 が、ジェフからのフォローを受けてなお、いらぬ騒ぎを起こしたルーと希に対するテジュの判断は厳しかった。公私混同、ダメ、絶対。
『お騒がせしました……』
 さて、もう1組の信一・静香カップルはというと、すっかり正気に戻ってエージェントたちへ深く頭を下げていた。
「えー、そうだったんですか? うちの部の子達落ち込むだろうなー。……はい、お幸せにー」
 まず御園の反応は当初の食いつきが嘘のように淡泊だった。
「御園、随分あっさりとして居るな」
「んー、よく見たら地味だし、無駄に手が掛かりそうだしねー」
 さっさと距離をとった後、ST-00342の疑問に御園は肩を竦める。信一を観察し見極めた結論は、まあほぼ正解だった。
「ま、上手く行ってるようで何よりだな」
「まだあの段階なのが上手く行っていると言うなら、そうかもしれませんわね」
 次に龍哉は信一と静香の変わらない距離感に笑みをこぼす一方、ヴァルトラウテは変わらなさすぎる距離感に多少呆れているようだった。
「信一さんと静香さんの交際は、順調、なのでしょうか?」
「……二人とも年上のはずなんだけどなぁ。2人のお付き合いの反応を見てると、何かあたしが親になったみたいな気持ちになっちゃうんだよ。レティちゃん、分かる?」
『ウィリディスの言う通り! この2人、私が言わなきゃ手も繋げないとか意味わかんないのよ!!』
 最後に、ヴァルトラウテと似た懸念があった由利菜とウィリディスの言葉で火がつき、レティは保護者目線のダメ出し連発でようやくガス抜きできたようだった。

「え、と……」
「…………」
 後日、信一と静香はこの日も一緒に通勤していたが、以前よりも口数が激減。テジュからもらった暴走状態の動画を見て、気恥ずかしさでもっと奥手になったようだ。交際1週間の和頼・七海カップルより酷いとはこれ如何に。
『もっと大人の恋愛しろ~!』
 沈黙が続く信一と静香の板挟みを受けるレティの歯がゆさは、まだまだついて回りそうだ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 慈しみ深き奉職者
    カリストaa0769
    人間|16才|女性|命中
  • エージェント
    アルテミスaa0769hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 花の守護者
    ウィリディスaa0873hero002
    英雄|18才|女性|バト
  • 真実を見抜く者
    穂村 御園aa1362
    機械|23才|女性|命中
  • スナイパー
    ST-00342aa1362hero001
    英雄|18才|?|ジャ
  • 海上戦士
    ガラナ=スネイクaa3292
    機械|25才|男性|攻撃
  • エージェント
    ディアaa3292hero002
    英雄|9才|女性|カオ
  • 絆を胸に
    麻端 和頼aa3646
    獣人|25才|男性|攻撃
  • 絆を胸に
    華留 希aa3646hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 絆を胸に
    テジュ・シングレットaa3681
    獣人|27才|男性|回避
  • 絆を胸に
    ルー・マクシーaa3681hero001
    英雄|17才|女性|シャド
  • 絆を胸に
    五十嵐 七海aa3694
    獣人|18才|女性|命中
  • 絆を胸に
    ジェフ 立川aa3694hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 葛藤をほぐし欠落を埋めて
    佐藤 鷹輔aa4173
    人間|20才|男性|防御
  • 秘めたる思いを映す影
    語り屋aa4173hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 掃除屋
    睦月aa5195
    獣人|13才|男性|命中
  • 閉じたゆりかごの破壊者
    テクaa5195hero001
    英雄|25才|男性|ジャ
前に戻る
ページトップへ戻る