本部

【幻灯】あの日、あのとき

電気石八生

形態
シリーズEX(新規)
難易度
普通
オプション
参加費
1,800
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
7日
完成日
2017/06/28 14:37

掲示板

オープニング

●地球の裏側より
『ブランコ岬で怪現象が確認されたことはご存じですか?』
 受話器から流れ出るいかにも誠実そうな男の声に、礼元堂深澪(az0016)は恐縮しつつ「はい」と返事をした。
 電話の主はブラジルの東端部にある都市、ジョアンペソアに置かれたHOPEジョアンペソア支部の支部長だ。
 ジョアンペソア支部は規模こそ小さいが、火種の尽きないブラジル東部とその近海をカバーする戦士集団である。そしてその長たる彼は、“天鎚”の異名を持つ強力なソフィスビショップなのだ。
 ちょ~怖い人、なんだよねぇ。
 深澪は本音をしまい込み、代わりにもっともな疑問を口にする。
「報告は受けてますけど、その、どうして東京海上支部にお電話を?」
『怪現象の調査を依頼したく思いまして』
「え――」
 ブランコ岬はジョアンペソア最東端にある岬だ。支部の猛者たちを差し置いて、地球の裏側へ仕事を押しつけなければならない理由などないだろうに。
 と。深澪の疑問が伝わったか、支部長は少しばかりの間を置き、静かに口を開いた。
『――3年前の『ブランコ岬防衛戦』はご存じですか?』
 ブランコ岬防衛戦。大西洋より押し寄せた1000匹の魚人型従魔から岬とその先にある都市を守るため、100人のエージェントが死力を尽くした戦いだ。
「知ってはいます。でも、支部長のお電話の理由は、やっぱりわからない、です」
 深澪の素直な言葉に支部長は低い苦笑を漏らし。
『今はまだ、わかっていただかずともいいのです。いや。わかっていただかないほうがいいのかもしれません』
「それは」
 どういうことですか? 深澪の言葉を遮るように、支部長が唐突な問いを投げてきた。
『あなたには、忘れてしまいたい過去がありますか? 乗り越えたくともすでに過ぎ去り、触れるどころか顧みることすらできず、ただ心の底を焼き苛み続ける。そんな記憶が』
「は、あ、その――」
 どのような返答を求められているのかがわからず、深澪はとまどう。
『……申し訳ありません。今の発言は忘れていただけますか』
 支部長は深く息を吐き出し、声音の乱れを整えた。
『面倒事を押しつけたいのではないということだけは、どうかご理解ください』
 一介の職員に過ぎるほどの礼を尽くす彼を、深澪はこれ以上追求できなかった。だから。
「わかりました。ウチで調査人員の募集、かけさせていただきます」
 そのとき。
 コツリ。彼女の事務机の端に置かれたドール用のクッション、そこに置かれたペンダントトップ――アクアマリンから小さく固い音がしたのだが……受話器で耳を塞いでいた深澪は、ついに気づかなかった。

●怪現象の地へ
「みんなにお願いしたいのは、ブラジルのブランコ岬で起きてる怪現象の調査だよ」
 いきなりのブラジル行きを提示されたエージェントたちが顔を見合わせた。
「まぁまぁ、ウチもいろいろあるんだよぉ~。ってことで! 怪現象の内容なんだけど」
 ブリーフィングルームのプロジェクターにブランコ岬の地図が映し出された。砂浜と高台で形成された地形だが、深澪はこの高台をクローズアップして。
「問題は高台の端っこにある灯台。毎週日曜日の22時、灯台のライトのところに鏡状の次元の歪みが出現するんだ」
 画面が黒一色の鏡面体に切り替わった。
「これが次元の歪みだよ。直径約30センチの綺麗な円形で、厚みはなし。微量だけどライヴスが検出されてて、ジョアンペソア支部の先行調査班は一種のドロップポイントじゃないかって推論を立ててる」
 深澪がエージェントたちに依頼書を手渡した。
「次元の歪みにできるだけ近づいて調査して。でも、やばそうだったらすぐジョアンペソア支部に連絡だよ。3分以内に駆けつけてくれるって」
 ……そこまでのバックアップ体制をとるくらいなら、ジョアンペソア支部が直接調査したほうが早いだろうに。時間的にも手間的にも。
「そのへんもまぁまぁ、いろいろあるんだって! とにかくよろしくぅ~」

解説

●依頼
ブランコ岬に出現する謎の鏡面体を調査してください。

●ブランコ岬
・南アメリカ大陸最東端の岬で、東には大西洋。
・デザイン性の高い灯台あり。
・高台の下に砂浜が広がっています。
・HOPEジョアンペソア支部によって封鎖中。

●次元の歪み
・黒い鏡面体。
・日曜日の22時、灯台のライトの表面が次元の歪みと化します。
・見た者の過去が映し出されます。

●歪みに映る情景
・歪みに映るものは「能力者が生命的もしくは心情的な、命の危機に陥った過去の情景」です。どんな過去が見えるか指定してください。
・能力者はあなたが指定した「過去の情景」へ引き込まれます。その危機的状況を、能力者は当時の姿で乗り切らなければなりません。
・共鳴はできません。よってAGWやスキルは使用不能。
・英雄は能力者と共に行動し、アドバイスすることができます(幽霊的な存在となります)。姿形は基本的に元の世界の姿となります。
・状況をクリアすると現実世界へ戻ります。
・情景内ではすべての通信手段が使用不能。

●女
・どのような情景を指定しても、かならずその中にひとりの「女」が登場します。
・女はあなたの情景に登場する人物に成り代わることもありますし、そのままの姿で唐突に割り込んでくることもあります。
・女はあなたを追い詰め、殺そうとします。
・武器は持っていませんが、おそろしく力が強く、感知能力も高いです。
・会話は一応可能です。
・無手攻撃のほか、過去の情景の中にある物品での攻撃およびトラップ等での足止めが可能です。個性と工夫を駆使してください。

●備考
・過去の情景で他の能力者とからむことは不可能。
・心情メインでのプレイングをいただけましたら倖いです。
・情景内で受けたダメージは現実世界に戻れば全回復します。

リプレイ

●Filme(フィウミ)
 ブラジル東端の都市ジョアンペソア。さらにその東端――南アメリカ大陸の最東端に一するブランコ岬に、夜の大西洋へ一点の光を示す灯台がある。
「行くか」
【戦狼】小隊の前衛を務める加賀谷 亮馬(aa0026)が先頭に立った。
『鬼が出るか蛇が出るか……』
 内のEbony Knightaa(0026hero001)の言葉を、加賀谷 ゆら(aa0651)の内にあるシド(aa0651hero001)が継いだ。
『行ってみるまでわからんか。厄介な話だ』
「……」
 亮馬の妻であり、同僚でもあるゆらは口を閉ざし、夫のとなりを行くばかり。
「ゆらさんどうかしたー? 暗いよ?」
 夫妻の同僚、志賀谷 京子(aa0150)がゆらの背をかるく叩く。
「ん、なぜだろうな、少しばかり気が重い」
『なにかありましたらなんでも言ってくださいね』
 京子の内からアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)が気遣わしげな声をかけた。
「俺たちもここに控えてますからね」
 亮馬の影から顔を出したハーメル(aa0958)が言い。
『……』
 内の墓守(aa0958hero001)はいつもどおり、無言。
「気が重い――には同感ね。なんだかいい予感がしないのよ」
 苦いため息をつく橘 由香里(aa1855)に、内の飯綱比売命(aa1855hero001)が。
『託宣か?』
「それ、下すあなたが訊くわけ?」
 彼らから少し遅れて歩を進めていた日暮仙寿(aa4519)が、いぶかしげに目線を落とした。
「鍔鳴り?」
 チチ、チ、チチ……左に佩いた守護刀「小烏丸」の唾が鞘の鯉口と打ち合う音。
『鍔はゆるんでないはずだけど……』
 内の不知火あけび(aa4519hero001)も小首を傾げて疑問符を飛ばす。
「武者震いであろう。気にすることはないのである」
 ラストシルバーバタリオン(aa4829hero002)と共鳴し、人型戦車と化したソーニャ・デグチャレフ(aa4829)が友たる仙寿へうなずきかけた。
 それらの“音”を車椅子の上から聞いていたレイラ クロスロード(aa4236)は、包帯で覆い隠した義眼を内のN.N.(aa4236hero002)へ向けた。
「悪い予感、当たっちゃう?」
『予感に価値なんてないわ。眼前に現われたものを見ればいい』
 最後尾についたシェオル・アディシェス(aa4057)は星空を仰ぐ。
「主よ。迷える子羊に救いの御手を」
『汝の神に伸べる手はなかろう。たとえ汝が伸べたところで、掴むは空にすら届かぬ夜気の裾よ』
 頭に据えられた山羊の骸骨の内、カラカラと乾いた音を鳴らすゲヘナ(aa4057hero001)。おそらくは笑っているのであろう。
 シェオルは嘲われながら、それでもなお祈り続けた。

 一同は灯台の光源を目ざして高台を登り、灯台の内の螺旋階段を上がっていく。
 21時55分。灯台の上部に据え付けられた大型のライトはほの白い光を湛えるばかり。
 道中、怪現象の予兆や波動を確かめながら来ていたGーYA(aa2289)が進み出る。
『こんなところに誰がなに隠してるのかしらぁ?』
 まほらま(aa2289hero001)がおっとりと疑問の声を投げた。
「それを調べるのが任務だよ」
 GーYAはライトの直前で立ち止まり、ジョアンペソア支部並びに東京海上支部への通信が繋がっていることを確かめた。
「次元の歪みなら、“門”に入ったことのある俺がいちばんくわしいですから。今夜は前衛張らせてもらいます……無茶はしませんけど」
 そしてエージェントたちは待つ。21時59分55秒、56秒、57秒、58秒、59秒――22時。
 唐突に光が失せた。いや、喰われたのだ。ライトのガラス面に沸き出した“黒”に。
 なにかが這い出してくることはなく、なにを引き起こすこともない、ただただ澄み渡った黒。それはまるで、
『Filmeを見せて』
 デジタルが台頭する以前、映像を焼きつけていたフィルムの――

●加賀谷 亮馬
 沈黙に押し包まれた街のただ中、亮馬は傷ついた両腕で自らの肩を抱きしめ、立ち尽くしていた。
 斬り裂かれた誰かの体が切り崩されたビルの端に引っかかり、揺れている。視線の届く限り続く、死、破壊、死、破壊……
「あのとき、なのか」
 声音は唇から放たれた途端、闇にかき消されて失せる。
 ただ1体の愚神により、街が、人が――家族が死に絶えたあの日あのとき。亮馬は今、そこにいる。
「みんなを死んだ」
 先ほど見た骸が、顔をあげて言った。
「私たちに死んだのに」
 倒れ伏した骸が続いた。
「あなたで生きない」
「みんなに見捨てて」
 同じ顔をした骸が同じ声で同じ狂った言の葉を吐き出し、亮馬を押し包む。
「お、れは」
 機械ではない、生身の腕で弱々しく声音を振り払い、亮馬は逃げ出した。しかし。死せる声は執拗に追ってくる。
「俺だけが、取り残された。いっしょに逝けなかった。俺は――」
 骸たちが嘲う。亮馬の無様を。亮馬の孤独を。亮馬の生を。
 膝をつく亮馬の前方で、闇が形を成していく。長身の、靄めいた人型へ。
 果たして大剣を携えた騎士のような姿となったそれは、骸と同じ声で。
「これがあなたのFilme」

 その人型こそが、亮馬からすべてを奪った愚神。なにもできなかった亮馬の両腕を奪い、絶望だけを残して去った“あのとき”の主。
 俺はまた奪われるんだ。腕も心も、全部塗り潰されて……
『貴殿の手は下につくためにあるのか? ならば剣を握る力を持つだけ義腕のほうがマシだな』
 うつむいた彼の顔の前に在ったもの、それは輪郭のぼやけたEbonyの顔。
「エ、ボニー」
『ここが貴殿の過去であることは知れた。その眼と腕とを失ったあのときであると』
「そうだ。俺は、全部失くしたんだ。あいつに、奪われて」
 愚神が迫る。
 亮馬はびくりと身をすくめ、愚神から遠ざかろうともがく。その大剣が恐ろしくてたまらなかった。二度も奪われることに耐えられなかった。しかし。
『貴殿はあのときのままか!?』
 亮馬の足が止まった。
 あのときの俺はなにもできなくて。でも、エボニーと出逢って、その力と心を重ね合わせたとき、誓った。
「――何者にも屈しない、俺を貫く」
 その両眼に灯る決意。
 Ebonyは亮馬の傍らに並び、強くうなずいた。
「貫いて、突き抜けて、家族がいて仲間がいる今へ帰る。俺はもう、あのときの俺じゃない」
 愚神との距離は20歩。手に大剣はなく、青き甲冑の護りなき傷ついた体があるのみ。
『横は瓦礫と骸で塞がれている。幸いは行くべき先を照らす炎があることくらいか』
「悪いが俺の眼の代わりを頼む」
 Ebonyが問う間もなく、亮馬が駆け出した。
 まっすぐ掴みかかった彼の眼前で閃く大剣。ここは確かにあのときだけどな、本当のあのときじゃない。あのときは逃げることもできずに両眼を潰された。でも。
「持って行けよ、あのときの俺を全部!」
 自らの両眼へ食い込み、引き裂いた刃の灼熱が、亮馬の脳を恐怖で塗り潰す。いや、それはただの記憶。亮馬は視界を塞ぐ赤黒い闇の内で不敵に笑み、自らへ押し込まれようとする刃を左手で掴んだ。
 ずるり。指が落ち、次いで左腕を斬り飛ばされて、亮馬は吹き飛ばされた。さすがに大剣は奪えないか……!
 地に落ちる瞬間、Ebonyが叫ぶ。
『掴め!』
 残された右手が掴んだものはなにか? いや、考える必要はない。魂の片割れの導きのまま、俺は行くだけだ。
『我に向けて走れ!』
 激痛を押して立ち上がり、Ebonyの声へと駆ける。俺はもう折れない。俺が折れることを、俺は二度とゆるさない!
 右腕を冷えた“ぞぶり”が横切っていった。斬られた――そう思った瞬間、亮馬は右腕があった場所に顔を突っ込み、くわえた。
『貫けぇ!!』
 鋼が鋼と激突する甲高い音が響き。くわえていた右腕が口元から引き離されていった。
 愚神を貫けるはずはなかったが、今の自分があのとき貫けなかった自分を貫いた。その確信を共連れて。

●志賀谷 京子
 初夏のハンバーガーショップ。
「半溶けのアイスがこんなおいしいとか……解せぬ」
 京子はシェイクを吸い上げる。「家庭の事情」との戦いにお疲れだったからか、甘みがやけに染みた。
 よし、もう1杯。と、カウンターへ向かった彼女の前に割り込んでくる、汗ばんだ背中。
「ころるれまえらぁ!!」
 声の主は拳銃を手にした男。京子の前にいた女子学生を抱え込み、さらになにかを叫んでいる。
「お、暴漢」
 つぶやいたときにはもう、体が勝手に動いていた。泣いている女の子を助けたかったし、不測の事態ってやつにワクワクしてもいたし。
 だから考えつかなかったのだ。
 ドラッグかドリンクかでぶっ壊れた男の震える銃口が自分に向けられるなんて。
 横へ転がされた女子学生が、自分を救った京子を見上げ。
「これがあなたのFilme」

 1発めは京子の顔の横を過ぎていった。
 って、意外に正確ですね!
『しゃがみなさい!』
「え? あ、うん!」
 しゃがんだ京子の頭上をかすめていく弾。
「ハゲちゃったら困るでしょ! アリッサも言ってやって!」
『アリッサのことはわかるんですね』
 わかるもなにも、アリッサはわたしの――あれ?
「若返ってるね、わたし」
『それほどでもありませんけど。ここはアリッサたちが出逢った場所ですね』
「じゃあ共鳴して」
『できないんです。アリッサはなにも――』
 と、顔をしかめる。そういえば全体的にぼんやりとして、幽霊みたいだ。
「だったらやることはひとつ!」
 銃口から体をずらし、3発めを避けた京子が立ち上がる。
『京子! あのときみたいに無茶をしたらぶっ飛ばしますから!』
 あのときの京子は男を殴りに行って、胸を撃ち抜かれそうになった。そんな京子をアリッッサどうしても放っておけなくて、気がついたときには共鳴していた。
 しかし今、アリッサは京子を守れない。だからお願い、無茶だけはしないで。
「ふふ、アリッサにしては乱暴だなあ」
 4発めをサイドステップでやり過ごし、京子は口の端を吊り上げた。
「大丈夫だよ。わたしはあのときのわたしじゃない」
 京子は椅子を踏んで外へ跳び出す――と見せかけて、椅子の上で反転。跳び降りざまに別の椅子を手に取り、男が息を吸って動きを止めた瞬間、銃を持つ肘へ叩きつける。
「置き土産どうぞ?」
 そして今度こそ店から駆け出した。

 男は追ってこなかった。
 代わり、街の人々が男と同じ銃を構え、京子を撃つ。全員が同じ、褐色の肌をした女にすり替わっていた。
「従魔? 愚神? 恨み買うような覚えないんだけどなあ。初対面だし」
 緊張感の薄い京子の背を、アリッサが透けた手で押した。
『いいから逃げなさい! ここがドロップゾーンかそれに準じた空間なら、ひとりで相手にするのは危険です!』
 京子は店へ跳び込んで店員の女を棚ごと蹴り倒し、停車中の車のボンネットをすべり越えて道路を横切り、ジグザグに駆け、跳び、転がり、追ってくる無数の銃口を避ける。
「……おもしろくないなあ」
 京子が唐突にタクシーの後部座席へ乗り込み、シートに背を預けた。
『京子――』
 アリッサを止め、京子は運転手へ声をかける。
「まわり中から興味津々で見られてるの、落ち着かなくない? ジャックポット的にそういうの気になるんだけど」
 車を発進させた褐色の女が、バックミラー越しに京子を見やる。
「Filme」
「よくわかんないんだけど……ここでどうにかできなかったら後が怖いよ? なにされたって絶対生き延びてみせるけど」
 タクシーのドアが開く。まるで降りろというように。
「次はわたしにも銃もらえる? 一方的に命賭けさせるのフェアじゃないし、つまらないでしょ?」
 京子はアリッサを促し、走る車の内から跳んだ。
『京子! どうしてこんなことを!?』
「逃げるあてもなかったし、死中に活かなって」
 黒に飲まれていく風景の中へ落ちていく京子が、アリッサの手を掴んだ。
 うん、アリッサはちゃんといる。ふたりならどこに落とされたって大丈夫。

●ソーニャ・デグチャレフ
 年に一度の首都祭は、ソーニャにとってなによりの楽しみ。
 首都は彼女が住む田舎町とは比べものにならないくらい賑やかで、鮮やかだ。
 両親に手を引かれ、ソーニャはとりどりの出店に鼻先を向けてひくつかせた。
「おっと! あれは子どもが食べると死ぬから!」
 両親は体を張り、カラフルな代わりに体へは悪め、お値段お高めの食べ物をソーニャの目から隠した。
 ぬー。ソーニャちゃいろいものばっかりたべてるから、あかとかあおとかむらさきとかがきになるの。なんでわかんないかなぁ。
 ソーニャはやれやれとため息をついた。まあ、ここはお互いに妥協して、オレンジ色のお菓子で手打ち――
 ゴッ! 街が呻き。
 全部落ちていく。下へ。下へ。下へ。
 その縁にしがみついた父母がソーニャを引き上げた。
 なんとか縁の向こうへたどりついたソーニャは、全力で父母を引っぱった。よくわかんないけどちょうやばい!
 這い上ってきた両親がソーニャの手を引き、駆け出した。
「おうちにかえろ!」
 ああ。振り向いた父母の顔が唐突に消え失せた。街の中心部から伸びてきた細長い口に喰らわれて。
「え?」
 ソーニャは両手に残された父母の右手と左手を見下ろし、小首を傾げた。
 その間にも、穴はじわりと拡がり、縁にあったものを落とす。
 逃げ惑う人々の脚の隙間をくぐり、ソーニャは走る。幾度となく押されて転び、蹴られてすりむき、それでも彼女は走った。
 と。その姿を見ていないはずの人々が、一斉に口をそろえて。
「これがあなたのFilme」

 幼いソーニャの横に浮かぶ今のソーニャがラストシルバーバタリオンを振り返る。
『これはソーニャ・デグチャレフの過去である』
 どうやらここで実体を得られるのは当人のみ。ソーニャであるはずの上官が自分と同じく非実体だということは……
『どこにあろうと我々は少佐殿に従うのみであります』
 ラストシルバーバタリオンに返礼し、今のソーニャはあのときのソーニャに隻眼を向けた。
『ソーニャ聞こえるか? 小官は、あー、妖精さんだ』
「ようせいさん?」
 レスポンスがあった。今のソーニャはやさしげな声を作り。
『いかにも。そして穴を開けたのはレガトゥスいや、悪い怪獣だ。我が声を聞き、撤退せよ!』

 街に降りしきる、褐色の肌をした女。女は人々を喰らい、時に人々を女に変え、ソーニャを追い詰めていく。
『ソーニャ、右だ!』
 今のソーニャが唯一の逃げ道を示し、あのときのソーニャは崩れかけた家へ駆け込んだ。
『息を整えよ』
 と。そこに女が踏み入ってきた。今のソーニャとラストシルバーバタリオンですら太刀打ちできるか知れぬ、女の形をした化け物。
「うあああああ」
 絶望に泣き叫ぶあのときのソーニャ。その傍らへ今のソーニャが並び、隻眼を巡らせて。
『ソーニャ・デグチャレフ!』
 びくり。ソーニャが見えるはずのないソーニャを見た。
『貴殿には、いずれ討つべき敵がある!』
「ようせい、さん?」
 今のソーニャは口の端を吊り上げ、敬礼。
『後事は小官が引き受ける。そして――かならず、すべてを貴殿に返す。まだ知らずともよい。今はただ“あのとき”を越えて行け』
『こちらへ!』
 ラストシルバーバタリオンが女の前に立ちはだかり、あのときのソーニャを促した。
『転がって抜けろ!』
 今のソーニャが突撃。もし一瞬でも垣間見えてくれるなら、手本を。
 が。あのときのソーニャは今のソーニャの半歩前に飛びだしていた。女の手をフェイントですり抜け、両脚の間を転がって向こうへ。それは今のソーニャが見せようとしていた手本どおりの軌跡だった。
 今のソーニャと共にあのときのソーニャを追いながら、ラストシルバーバタリオンはかすかに嘆息を漏らす。
 いつにあろうと、たとえ存在を別にしてすら――少佐殿は等しくソーニャ・デグチャレフであるのだ。しかし、いずれ少佐殿がすべてを過去の少佐殿へ返すというなら、そのとき我々は――

●ハーメル
 従魔討伐。今のハーメルにとってはどうということのない依頼だったが、あのときはそうじゃなかった。
 技は未熟だったし、なにより覚悟が足りなかった。瀕死の重傷を負ったのは当然だろう。
 でも。その「当然」をもう一度味わうことになろうとは……。
「うわーうわーうわー」
 ハーメルは従魔を跳び越え、着地した瞬間、地を蹴って土埃の煙幕を張った。が、これまで積んできた経験を活用しているはずなのに、従魔はそれをやすやすと越え、彼に肉迫するのだ。
『ヘマをしたら後で反省会な。いや、今ここで反省会をしようか。幸い鞭はそこにある』
 淡々と語る内の墓守。
「冗談っ!」
 大きく従魔から距離をとって物陰に潜み、息をつく。先の攻防の間にデスマークを撃ち込んでおいたから、従魔の接近はすぐわかる。
「どうして僕、過去にいるんだろ……? だっておかしいよ。ブラジルにいたはずなのに」
『さあな。わかるのは従魔がきみを殺そうとしていて、きみは従魔に殺されるだろうことだけだ』
「だから冗談やめてってば」
 隠れたはずのハーメルが見えているかのように迫る従魔へ、彼は跳ぶ。両手に携えたハングドマンをヌンチャクのように振り込んで従魔の脚に引っかけ、スライディングの勢いで一気に引き倒す――
「あれ?」
 絡めたはずの鋼糸が解けていて、彼の無防備な頭部へ従魔の爪が突き立てられた。
「危ないって!」
 背で地を打って跳ね、爪をかわすハーメル。
 なんだろう、この違和感。僕は僕なのに、いつもの僕じゃない。
『あの従魔はきみの天敵だ。きみは狩られ、ここで終わる』
 ああ、そうか。そういうことか。
「今日はおしゃべりなんだね。墓守じゃないみたいだ。そうだよね、だって墓守じゃないんだから」
 ハーメルはハングドマンの切っ先を自らの右胸へ突き立てた。
「――出てきてくれる? 知らない誰かが中にいるの、落ち着かないから」
 傷口から這い出してきた墓守だったはずのものが、褐色の肌をした女となってハーメルへ笑みかけた。
「これがあなたのFilme」

『独り運動会は終わったか?』
 ハーメルの横に立つ墓守が彼を見下ろし、言った。
 従魔の姿はどこにもなく……彼が戦っていたのが幻だったと知れた。
「自力で気づいたんだから、ほめてくれてもいいでしょ」
『余計な傷を負ったのにか?』
「うう」
『今、わたしたちは共鳴できないらしい。どうする?』
 従魔に代わり、女がハーメルへ迫る。傷は痛いし、共鳴できないなら多分倒せないだろうし……それでも。
 あのときよりはずっといい。
 あのときにはなかった技が、覚悟が、今はあるから。
 ハーメルは女へ駆けた。激突する瞬間、膝に蹴りを打ち込んで反転。
 が、彼の背に女の爪先が食い込み、引き裂いた。あのとき、従魔にそうされたように。
 あのときは逃げようとして斬られたんだ。でも今は!
 後ろ手に放ったノーブルレイが女の左脚に絡みついた。
 ハーメルは倒れ込む加速を利して地へ転がり、張り詰めさせたワイヤーを手がかりにまた女へ跳ぶ。
 すれちがいざまにその脚へワイヤーを絡め、駆け抜けてまた女へ跳ぶ。もちろん、その間に幾度となく斬られた。あのときと同じように、より深く。
「僕の思い出をなぞってるんだ。じゃあ」
 血にまみれた笑顔を女に突きつけたハーメルが、その口に含んでいた血を噴きかけた。
 他愛のない目くらましだったが、女は顔を逸らすこともせず、ハーメルを抱きすくめようと両手を拡げる。あのとき従魔が彼を捕らえたように。
「記憶ちがいには対応できないよね?」
 ハーメルの手が、これまで女の脚に絡め続け、引き絞り続けてきたワイヤーを一気に解放し――女の歩を1ミリずらした。
 ハーメルはその1ミリにすべり込み、すり抜けた。
「あのときからの成長、ちょっとは見せられたかな?」
 脚を止めた女をワイヤーごと置き去り、ハーメルは駆ける。
 となりを行く墓守は仮面の下の目をすがめ。
『……反省会は短めで切り上げてやる』

●レイラ クロスロード
『この屋敷は――?』
 N.N.の疑問の続きを聞く必要はなかった。
 においが、音が、頬をなでていく風の感触が、レイラにすべてを教えてくれた。
「なんで……ここに」
 レイラの前に建つ屋敷は、両親に追いやられた彼女が暮らしていた別荘であり、この目を失ったあのときの舞台だった。

 別荘の中では何人もの使用人が動いていたが、誰ひとりレイラへ目を向けなかった。
「……N.N.が押してくれたらいいのに」
 車椅子のハンドリムを漕いで器用に人々を避けながら、レイラが唇を尖らせる。
『押そうにも触れないのよ。共鳴も解除されて、どうにもできない』
 かぶりを振ったN.N.はレイラを二度見。そして。
『もしかして見えてる?』
「あ」
 目を覆う包帯がない。そうか。ここにいた最後の時まで、自分の目は見えていたのだ。
 久々に感じる生きた彩。痛いほどの鮮やかさにレイラは思わず息をついて――思いだした。
 エマが階段を降りてくる。
 ジョンが駆け過ぎて。
 スミスが顔を上げた。
「――逃げて!」
 レイラの高い声が場を貫くが、誰も聞かず。凶弾に薙がれた。
 あのとき、どこからか侵入してきた男は使用人を皆殺し、レイラが愛用していた銀食器のナイフで彼女の目を抉った。それが再現されようとしている。
 見も知らぬ褐色の肌をした女によって。
「これがあなたのFilme」

『逃げて!』
 女を押しとどめようとしたN.N.の手があっさりと突き抜ける。こんなときになにもできないなんて!
 この別荘には至る場所にスロープが据えられている。レイラは車椅子を駆り、螺旋を駆け上った。
 と、打ち込まれる銃弾。頭を低くしてやりすごし、両手へさらなる力を込めた。
「上がっちゃえば少しだけ時間稼げるよね!?」
『その後どうするかよ。まさか2階から跳び出すわけにはいかないでしょう』
 女をにらみつけ、N.N.が舌を打った。
 あの女、殺意だけは過剰なほど見せつけてくるくせに殺気がない。まるで殺人者を演じてでもいるように。そのちぐはぐさがN.N.の勘を狂わせるのだ。
『せめて武器があれば……』
「武器! あるよ!」

 ふたりが飛び込んだのは、レイラの第一英雄たるブラッドの部屋だ。
 彼の姿はなかった。さらに武器はほとんどが施錠された棚にしまわれていて。唯一、彼の机の上に解体されたマガジン式のショットガンが置かれているばかり。
『掃除の途中だったのね。指示するわ。組み立てて』
 大急ぎでショットガンを組み立てるレイラ。
 その背にN.N.は、ためらいがちに声をかけた。
『それを撃つのはレイラよ。……命を奪う覚悟はあるの?』
「撃つよ」
 弾を込め終えたレイラが顔を上げた。
「私、N.N.たちと生きることだけは失くさないから。もう奪わせない。逆に奪ってやる! でしょ?」
 N.N.は薄笑みを返した。そうだ。私たちはもう二度と、大事なものを奪わせない。
 ここで女が部屋に押し入ってきた。出番を待ち受けていたように。
「死のう時間が」
 ナイフを振り上げる女をレイラが撃った。
 パグン! 反動で、ブレーキをかけておいたはずの車輪が後退する。
『効かない!』
 女は何事もなかったかのように歩きだす。
「だったら!」
 レイラはブレーキ外し、さらに一発女へ撃ち込んだ。
「っ!」
 車椅子が大窓にぶつかり、レイラの体が跳ねた。
 N.N.は息を飲んだ。レイラが覚悟を決めて狙いを定めるなら、それを見届ける。
「綺麗で目なら」
 女のナイフが後退を封じられたレイラにたどり着き……両の目を抉りだした。
 神経がちぎれ、視界がブラックアウトする。目なんて何回だって持って行けばいい。でも!
「私は絶対、殺させてあげないから!」
 レイラは女の腹に突きつけたショットガンを連射し、残りの弾を全部打ちつけた。
 強い反動に押しつけられたガラスが砕け、レイラを車椅子ごと宙へ放り出す。
『レイラ、絶対に死なせない』
 N.N.の手が落ちていくレイラに重なった。
 うん、いっしょに生きよう――

●橘 由香里
 限界などとうに越えた山中の集落。
 崩れかけた家々を見下ろす山の高み、土地の寂れとは不釣り合いに荘厳な社がある。
「巫女様は無垢でなければ。そうあってこそ、御祭神は巫女様に降りるのです」
「今日は降りますか? 明日にはきっと降りますね? ――いつ神は降りたまうのですか、巫女様!?」
 社の裏、山の高みより降り落ちる雪解け水に打たれる由香里へ、ひっきりなしに両親の声が投げつけられる。
 すでに体は凍えきり、意識も半ば失せていたが……それでも由香里は水の内に立ち、青い唇で神言を紡ぎ続けた。
 私はここから逃げ出せない。これは贖いだから。神様を降ろせなかった母様と、神様を迎えられなかった父様への。
 ……かつて「御祭神が降りる場」としてあがめられたこの社だが、いつのころか、その神が消えた。
 氏子が徐々にその数を減らしていく中、それでも数十年、社も体裁を保っていた。しかし、その中で“英雄”が到来し――狂った。
 英雄は神ならぬもの。いや、神であった者もいるとのことだが、彼らは無垢なる依り代へ降りるわけではない。
 それでも父母とわずかに残った氏子は、英雄という存在にすがった。
 神が消えたは英雄となったがゆえ。
 ならば英雄たる御祭神と由香里が契約すれば。
「巫女様! 御祭神を降ろしませい!」
「巫女様! 御祭神と契約を!」
 父母が叫ぶ。神を降ろせぬその身を嘆き、娘を「巫女様」としてすべてを押し被せた妄執の形代が。
 すでにあのふたりが「両親」ではありえないのだとわかっている。しかし。
 ――わかっていてなおあなたたちにすがってしまう私は、本当に無垢なの?
 胸中の問いに応えたのは、両親が合わせたひと言。
「これがあなたのFilme」

 え? 由香里の形ばかりの集中が途切れた。
 刹那、彼女はがくりと崩れ落ちる。
 昨日の大雨のせいか、今日は滝の水量が多かった。その冷たさに芯まで侵されていた由香里に踏みとどまる力はなく、彼女の腰を浸すほどの滝壺へ崩れ落ちる。
「あ」
 立ち上がろうとあがく由香里――しかしその脚は震えるばかりで――向かってくる父母に手を伸べて――父様、母様、私のこと――
 由香里の腕を掴んだふたつの手は、彼女を引き上げはしなかった。
「穢れはある」
 由香里を滝壺へ押し込む父だった褐色の女。
「契約にいつですか」
 由香里を滝壺へ引き込む母だった褐色の女。
 滝壺はいつしか深淵と化し、由香里を飲み込んでいく。でも、父様と母様がいっしょなら、それでも……
『あのときに由香里が見た闇、これほどに深いか。しかし、静殿と主計殿の手ならぬものに連れていかれるはおぬしとて不本意であろう』
 深淵の口に浮かび、由香里へ語りかけるのは。
「――飯綱」
『此度は呼ばれる前からおったよ。ま、おぬしのふた親が望んだ神ではなきゆえ、推参といったところじゃが。しかして』
 飯綱比売命の白い手が沈みゆく由香里の背を押し、あっさりと突き抜けた。
『わらわにはなにをしてやることもできぬようじゃ。……神とは存外にままならぬものであるのやもしれぬな』
 飯綱のもどかしさが、焦りが、優しさが、体を貫く腕から由香里へ染み入ってくる。由香里があのとき欲しくてたまらなかったものが――ぬくもりが、彼女の凍えた心に火を灯した。
 自分を沈めようとする父母の手ならぬ手の先を見据え。
「あなたは父様でも母様でもない。でも、この手はきっと父様と母様の手。私を歪んだ幻想の底に沈める鬼の手」
 女の顔に映る父母へ、由香里は不敵に笑いかけた。
「でも。今の私には私を底から押し上げてくれる手がある。だからあなたたちの手を二度と追わない。二度と、負わない」
 実体なき飯綱が由香里に重なった。たとえ共鳴できずとも、そこに在るだけで寒くない。私は行ける。
 由香里は女の手を掴み、一気に跳んだ。
「私はもう、道具じゃないから」
 由香里は歩き出す。
 振り返ることなかった。飯綱の存在を感じながら、ただ先へ。

●GーYA
 痩せこけた少年が握りしめたプラスチックのナイフ。
 食事の際についてくるそれを、GーYAは看護師の隙をついてはトイレの便器の縁にこすりつけ、研ぎ上げていた。
 ――病室はどこもやわらかくて、硬いところが便器だけだったんだ。
 彼が病院とは名ばかりの研究施設へ閉じ込められた理由は、ライヴスの不適合に起因する心臓疾患のため。と、されていたが。
「あなたの症例は不適合の原理を解き明かす」
 看護師が彼にささやいた。
 だから俺はここに――父さんと母さんは行方不明になってたから、誰も守ってくれなくて――
「死なせてあげない。早く死ななきゃ」
 医師が彼の背を押さえつけた。
「標本にするの。世界初を綺麗に」
 研究員が彼の黒髪を掴んだ。
 ――俺はあんたらのおもちゃになんかならない!
 少年は自分を押さえつける手をくぐり、ナイフを手首に突き立てた。
 助けないと! そう思った瞬間。
「これがあなたのFilme」
 女たちが振り返る。その顔はすべて同じものだったが、それよりも。
 ――どうして俺は、俺を見てる?
 少年を見ていた“俺”の視点が途切れ……少年のそれと重なった。
「っ!」
 左手首から噴き出す血と痛みが彼を駆り立てる。
 GーYAはわけがわからぬまま病室を飛びだした。
「俺……無理矢理生かされて……」
 混乱する彼に、おっとりした声音が追いついた。
『ジーヤちゃん起きたぁ?』
 それはどこか“形”の頼りない、しかしいつもどおりのまほらま。
 GーYAは彼女にかぶりを振って見せ。
「寝てないよ、多分。でも俺、あのときの俺を見てて、今、あのときの俺になってて」
 意識は確かに今現在の自分。が、その体は今の彼ではなく、あのときの彼にすり替わっていた。
『んー、なんなのかはあたしにもわかんない。ジーヤちゃんがあれこれしてるとき、いろいろ試したんだけど。……とにかく逃げましょ?』
 手首もヤバいけど、心臓もヤバい。でも、捕まったら最後だ。

 GーYAは走る途中で壁の傷や床の材質を確かめる。誰もいない以外、細かな点まで憶えているとおりだ。
『手、痛くない?』
 無茶苦茶に痛かったが、それどころではない。どこへ逃げても女たちはかならず彼を見つけ出し、追いついてくるのだ。
 どうする? どうすればいい?
 と。
『あたしがいるからね』
 まほらまの透けた手がGーYAの骨張った手に重ねられて、すり抜けた。
『って、なんにもできないんだけどねぇ』
 GーYAはまほらまの実体なき手を握りしめる。無力だったあのときにはなかった、強い力を込めて。

 GーYAは慎重に廊下を渡る。
 追ってくる女たちへは、使用済みシーツを放り込む籠の影から寝間着の上着を投げて視界を塞いでおいて、逆方向へと駆けた。
 小細工は得意なほうじゃないが、戦場での経験が彼の体を最適解へと導いた。
 しかし。その間にも心臓は不規則に跳ね、彼の体から血と力とを流出させていった。
 あと少しで施設の出入口に着く。この廊下を左に曲がれば――
「GーYAが見つけた」
 出入口の前に女たちが待ち受けていた。小さなGーYAからすれば、それはまさに越えられるはずのない鉄壁だった。
 後じさりかけた彼の足。それを止めたのは、まほらまの声音だった。
『越えられるよ。ジーヤちゃんは行ける。あたしがあげた世界に』
 ただそれだけの言葉が彼の魂に染み入って、
 そうだ。俺は行く。まほらまに手渡されたあの世界へ。――楽園じゃないけど、今の俺が生きてく今日と明日がある場所へ。
 いつしか彼の右手に握られていたプラスチックのナイフがGーYAを促す。切り開け!
 GーYAの心臓が、ひときわ高く跳ねた。痙攣などではない。跳ぶための力を体に注ぎ込むための、強い鼓動。
 死ぬために握ったあのときのナイフが女たちを薙ぐ。もちろんその体を両断できるはずはなかったが、GーYAはその体の、心のすべてを打ちつけ、女たちの隙間をこじ開けた。
 そして。自動ドアの向こうに広がる青い空へ彼は踏み出す。傷ついた左手で、まほらまの手を引いて。

●シェオル・アディシェス
 1945年2月13日、ドイツ国東端に位置する古都ドレスデン。
 この「数多の魅力と美の故郷」は、その名に恥じぬ美観を保っている――が、それは表面だけのこと。
 都市の裏に広がる貧民窟をシェオルは行く。
「今日もみなさんが健やかでありますよう」
 ぼろぼろのフードマントをまとった彼女は、胸元の十字架を手の内に握り、細くうそぶいた。
 この国は戦争に負けるのだろう。しかし、その後も都市は佇み続け、人は生き続ける。
 思いを馳せるシェオルに、誰かがささやきかけた。
『終焉の焔、降り来たれり。心せよ』
 顔を上げた彼女は見た。
 空に穿たれた数百の黒点からさらに小さな黒点が降り、やがてドレスデンを打ち据える焔と化す様を。

 連合軍の爆撃機は次々と腹に飲んだ爆弾を吐き出していく。
 シェオルは駆けた。焔と礫を避け、血肉の焦げるにおいと怨嗟の声音を振り切って、姉様たち――打ち捨てられていた彼女を拾い、育ててくれた娼婦たちの元へ。
 娼婦たちは大通りのどこかに立っているはずだ。
『今日はセラの誕生日だ。ふわっふわのパンと肉入りスープでお祝いしなくちゃ!』
 主よ、私はもうなにも願いません! ですから姉様たちを――
 そして彼女は“姉様”たちと再会する。
「なんだいセラ。あわてちゃって」
 焼けぼっくいがガサガサ笑い。
「お祝いしないとねぇ。新しい今日に」
 引きちぎれた欠片の中で唯一形を保つ生首がうなずき。
「踊ろうよ、セラ」
 その体を薪とし、焔をあげる人型が手を伸べた。
 シェオルは激しくかぶりを振る。主よ! これはいかなる罰なのですか!?

『神は応えぬ。ゆえに下さぬ。さて、あれはかつておまえが見たものか?』
 シェオルの傍らに、襤褸をまとう骸骨が立っていた。その頭は山羊の頭蓋骨。どう見ても悪魔なのに、その眼孔の奥に在る意志の光はあたたかい。
「姉様たちは欠片も残っていなかった。あなたも見たとおりに……ゲヘナ」
 すべてを思い出したシェオルにゲヘナが告げた。
『疾く駆けよ。あのときがごとく』

 聖母教会はあのときと同じく無人だった。
 シェオルは一室に駆け込み、鍵をかけた。そして扉に背を預け、膝の上に顔をふせてうずくまる。
「セラ、開けてよ」
 爆撃の振動の合間、姉様の焼けた拳が扉を叩く。
「いっしょに灰になろうよ」
 姉様ががさがさと笑う。
「家族はいつでもいっしょにいるもんだろう」
 姉様がたしなめる。
 私はあのとき、姉様たちから逃げた。私はここで罪を裁かれて、罰を……
『咎あればこそ汝は救うのか?』
 ちがう! でも――私は姉様たちの代わりに誰かを救おうと?
 シェオルの懊悩を『ふん』、ゲヘナは一蹴し。
『救いが贖いなのであれば救うがいい。人を、姉の幻影を、そして汝を』
 骨の指で扉を指した。
『対せよ。置き去った汝の傷と』
 それはあまりに厳しい導きで、あまりにやさしい促しだったが。
 シェオルは立ち上がり、扉の鍵を開ける。
「私はあのとき、ただ膝を抱えて待つだけでした。だから今――私の心の底に置いてきた姉様たちを送ります」
 扉を取り巻いていた姉様たちがシェオルへ跳びかかった。
 焔に、煤に、肉に焼かれ、穢されながら、シェオルはそれらを強く抱きしめた。
「人の騙る神罰の焔が、姉様たちを天へ導く灯火になりますよう」
 教会の屋根に打ちつけられた爆弾が天井を崩し、焔の礫となって降り注いだ。
 あのとき部屋の内で聞いた破滅の轟音が今、シェオルを包み込み――

『果たして戦禍は街を喰らい尽くす』
 熱を帯びた瓦礫を押し退け、這い出したシェオルにゲヘナが言った。
 街には今も爆炎が上がっていた。この空襲は次の日までも続き、今はまだ形を保っているこの教会も形を失うこととなる。
「私は生きます。贖うためにだけではなく、願い続けるために」
 街を透かし見るシェオルの視界を、避難民たちが横切っていった。彼らを救うことはできない。そのことが、辛い。
 ふと、褐色の肌をした避難民がシェオルを見て。
「これがあなたのFilme」

●日暮仙寿
 表に掲げた剣術道場の看板のみならず、裏に潜めた暗殺商売の刃を継いだ仙寿は思った。
 竹刀じゃ人は殺せない。命のやりとりに二本めとか三本先取なんてないんだよ。
 独り型をなぞるばかりとなった仙寿だったが……いつしか彼のとなり、ひとりの少年が並んでいた。
 必死の形相で仙寿の型を真似、竹刀を振る同い年の少年。
 仙寿は疎ましさから彼を稽古と称して打ちのめした。しかし幾度打たれてもなお、少年は仙寿に打ちかかってきた。
 以来、稽古とも言えぬような稽古を、仙寿と少年は繰り返した。いつもふたりで。あの夜が来るまでは。

 仙寿は夜闇に紛れてひとりの政治家を斬った。
 いつもどおりに仕事を終えた仙寿は踵を返し。
 木刀を上段に構えた少年と相対した。
「パパを――殺したっ!?」
 なんでこんなとこにいんだよ? 正体、ばれてねーよな? このまま……逃げらんねーよな。見られたら殺す。
「ゆる、ゆるさない」
 殺そうって奴がびくついてんじゃねーよ。胴ががら空きだぜ。
 仙寿の剣が少年の腹に飛ぶ。
 致命傷になるはずの剣だったのに。少年は体をずらしてやり過ごし、無言で仙寿へ斬りかかってきた。
 なんでだよ!?
 木刀が仙寿を打ち据えた。とっさに額で受けたが、体が痺れ、目がくらむ。稽古の成果、出てんじゃねーか。でも今やってんのは稽古じゃねーんだよ!
 仙寿は腰の後ろに差し込んでいた小太刀を抜き打ち、少年の延髄を一閃。神経を断たれれば生物の運動は止まる。今度こそ終わりだ。
 が。
 危ういところで少年は体を返し、冴えたまなざしを仙寿に据えた。その手の木刀が縦に割れ、ぞろりと光る刃が現われた。
 なんだよ、それ!? おまえ、下手くそ坊主じゃねーのかよ!?
 わけもわからず剣を捨てて逃げ出した仙寿の背に、血だまりに伏せた政治家がささやく。
「これがあなたのFilme」

『仙寿様、ここ!?』
 闇を祓う鈴がごとき声音。
 あけび――閃いた刹那、仙寿はすべてを思い出した。これはあのとき――忘れられないあの夜だ。
『共鳴できない!? なんでっ!?』
「ここが俺のあのときだから、なんだろうな」
 あけびは頼りない自分の体を見下ろし、さらに仙寿を見下ろして。
『ちび仙寿様、この後の展開は?』
「あいつに追いつかれて、何度も斬られて……俺はあいつを斬った。何度も何度も」
 そして無様に生き延びた。そんな俺にあいつは言ったんだ。
「――」
 言えるわけ、ないだろ。知られたくない。あけびだけは。
『いいよ』
 あけびが仙寿に向けたの、それは揺るぎない笑顔。
『今は言わなくていい。でも憶えておいて。私はもう覚悟してるんだから。昔のちび仙寿様も今の仙寿様も全部抱えていっしょに行くんだって』
 あのときの俺を共に……今の俺と共に……あけびは。
「ああ」
 ならばせめて、今の俺を尽くしてあのときを越えよう。あけびとふたり、ここから進むために。

 俺はここだ。あのときと同じテラスにいる。もう逃げたりしない。
 残る得物は短刀が2本。その1本を手に、仙寿は待った。
 果たして少年が来たる。
 仙寿は待たず、右足をすべらせてまっすぐ踏み込んだ。
 少年の剣が仙寿の喉元へ突き込まれた。手首をやわらかく保った突きは、切っ先を弾いても蛇がごとくに噛みついてくる。
 仙寿は下から鍔元で少年の切っ先を受け、その刀身をなぞってさらに前へ。その間に抜き放った2本めの短刀を少年の首へ巻きつけて、斬り裂いた。
「見届けたか?」
 少年は血のあふれる喉をごぼりと鳴らし、笑む。
「お見事です、若」
 少年は仙寿の師にして裏家業の“頭領”が差し向けた試験官だった。情を通わせた者を斬れるや否やを図るための。
 あのときおまえが言ったのは「合格です、若」だったな。
「俺はおまえに応えられたか、今度こそ――」
『仙寿様、行こう!』
 あけびが仙寿に手を伸べる。
 仙寿はその手を取り、テラスから跳び降りた。
 背に強い視線を感じながら、あのときを置き去りにして今へ。

●加賀谷 ゆら
 幸せは怖い。
 失くしてしまえば、持っていなかったときよりも深く傷つけられるから。
 ゆらは幸せで、だからこそ思いだしてしまう。家族を奪い、自らを襲った愚神に植え付けられた恐怖を。かき立てられた憎悪を。恐怖と憎悪の底で死にゆく絶望を。
「無理せず休みなさい。学校へは連絡しておくから」
 すべてを失くしたゆらがたどりついた楽園――その主である“おじさん”が、心配そうに言う。
 父の知り合いだというだけの縁で彼はゆらの身柄を受け入れ、果樹園の外れに建つ一軒家の離れを提供してくれた。いつか恩を返そう。なにをどれだけ返せば贖えるのか、17歳の彼女には想像もつかないけれど。
「……大丈夫です。すみません」
 青ざめた笑顔を返すゆら。今と変わらぬツインテールが揺れる。
 ――今? 今が、今なのに?
 おじさんは気遣わしげにうなづき。
「お父さんは立派な死んだ。お母さんの無残でね。愚神を喰われたかな」
 おじさんの顔が、笑んだまま狂っていく。いや、狂っていくのはゆらだ。
 いやだ。やめて。私は。耐える。忘れられないから。生きなくちゃ。死にたい。死にたい死にたい死にたい。
 おじさんは頭を激しく振り乱すゆらの肩に手を置いて。
「これがあなたのFilme」

『ふむ、ここはゆらの過去の情景というわけか』
 必死に振り返るゆら。
 定位置である揺り椅子に座したシドが、いつもどおりに無愛想な顔で待ち受ける。
 騎士のようで兄のようなシド。彼との出逢いはゆらに一条の救済をもたらして――
『俺に実体はない。彼の顔をしたなにかにも見えてはいない。存在しないのと同じだ。だから』
 シドの目が細くすがめられ、ゆらの見開いた鳶色の瞳を刺した。
『俺はゆらを救えない。救うつもりもない。ここから見届けるだけだ』
 いない人は私を助けない。そうだよね。
 その落胆へすべり込むように、おじさんが言葉を投げた。
「悲しい辛く絶望」
 おじさんの姿がいつしか褐色の肌をした女のそれに変わり、甘やかな声音でゆらを促した。
「死にたい死ぬ死のうあたたかく死」
 この世界で私が救われることなんかない。どこまで行ったって恐怖は、憎悪は、絶望は私の後ろについてきて、振り返るたびにあのときのことを思い出させるんだ。でも。
 幸せでいられるうちに死ねば、逆に幸せだけ連れていけるんじゃないかな?
 ゆらは通学鞄の中から小さなカッターナイフを取り出した。あとはそう、首筋に突き立てるだけ。
 と。シドがその口を開く。
『裏切るのか? 幸せを恐れる心を分かち合い、その幸せを信じぬくと決めた自分を』
 ああ。ゆらの手が止まる。
 私はあのときを越えて生きて、出逢うんだ。仲間たちと、なにより大切な人と。
「シドはさ、結局私に甘いよね」
 ゆらは薄笑みを返し、カッターの切っ先で引っかけた蜜柑を女の口にねじ込んだ。
 シドはゆらを救わない。ゆらには自身を救う力があると信じていればこそ。
 わかりにくい優しさだよね。でも、ありがとう。
「今の私はあのときの私を裏切ったりしない!」
 ゆらは外へ向かう。過去の自分が越えたあのときを、今また越えるために。

 見慣れた風景を全速力で駆け抜ける。
 女は影のように追いすがり、「黒い手」、「お父さん裂けた」、「死お母さん」、狂った言葉でゆらの恐怖を、憎悪を、絶望をひとつひとつ掘り起こしていく。
 この傷はずっと消えない。どこまでもついてきて、私の幸せを脅かす。
 なら。
 もう目を逸らさない。この傷のおかげで、今の幸せがなによりも大事だってことを知れたから。
 ゆらは通学路の途中にある大きな橋の欄干に手をついた。
「跳ぶ死のうため」
 迫る女へ、ゆらはゆっくりかぶりを振って。
「生きるために跳ぶんだよ――!」
 その身を河へと躍らせた。
『泳げるのか?』
 落ちていくゆらのとなり、同じように落ちながらシドが問う。
「制服だから溺れるかも。いざってときはよろしく」
『さて、どうかな』
 着水。そして――

●雑感
 10のFilme――映画を渡った褐色の女は、なにも焼きつけられていない“黒”の内で思う。
 あのときの「スリル」は乗り越えられた。どうやら自分は、演者のポテンシャルを見誤っていたようだ。
 これを「己」に宿願で果たすなきできぬ。
 ちょっと黙ってて。あんたが混ざると頭が濁る。考えるのは「わたし」だけにしておいて。
 先ほど焼きつけたFilmeをリプレイして小首を傾げ、「わたし」はしばし考えた。
 今日の演者は「わたし」と相性がよくなかったかもしれない。そういえば「わたし」、大芝居は苦手だったのよね。「己」のせいでセリフもうまく言えなかったし。
「わたし」のであやつらにやれるのだ思うにか。
 わかってるわよ。「わたし」だけじゃ無理。でも、「己」だけでも無理。わかってることじゃない。なかよくしましょ。
「わたし」は最高の笑みを作って「己」をなだめ。
 Filmeの最後で相性がよさそうな……「わたし」に近い誰かが見えた。今度はあの人たちに演じてもらいましょうか。危機一髪が売りのアメリカンムービーじゃない、観客の胸を打つ心情劇。
 ああ、セリフ回しが大事になるから、「己」は我慢して、黙ってなきゃだめよ? せっかくのFilme、名作にしたいじゃない?

 かくて、暗転。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • きみのとなり
    加賀谷 亮馬aa0026
    機械|24才|男性|命中
  • 守護の決意
    Ebony Knightaa0026hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 乱狼
    加賀谷 ゆらaa0651
    人間|24才|女性|命中
  • 切れ者
    シド aa0651hero001
    英雄|25才|男性|ソフィ
  • 神月の智将
    ハーメルaa0958
    人間|16才|男性|防御
  • 一人の為の英雄
    墓守aa0958hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃
  • 狐は見守る、その行く先を
    飯綱比売命aa1855hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 救いの光
    シェオル・アディシェスaa4057
    獣人|14才|女性|生命
  • 救いの闇
    ゲヘナaa4057hero001
    英雄|25才|?|バト
  • 今から先へ
    レイラ クロスロードaa4236
    人間|14才|女性|攻撃
  • 先から今へ
    N.N.aa4236hero002
    英雄|15才|女性|カオ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • 我らが守るべき誓い
    ソーニャ・デグチャレフaa4829
    獣人|13才|女性|攻撃
  • 我らが守るべき誓い
    ラストシルバーバタリオンaa4829hero002
    英雄|27才|?|ブレ
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