本部

もう一度ウェディングドレスが着たい

睦月江介

形態
ショートEX
難易度
易しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
8人 / 0~10人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2017/06/23 20:07

掲示板

オープニング

 数人のエージェントが会議室に入ると、そこには頭を抱えたHOPE職員と見慣れない女性がいた。
「あら、今回も良い感じの人が揃ってるじゃない。これは期待できそうね!」
 どういうことか、まるで状況が呑み込めないところに職員の説明が始まった。
「あ~……彼女はある女性ファッション誌の編集長で俺の古い友人だ」
「去年まで編集長だった無能オヤジは引きずり降ろして地方支社に飛ばしてやったわ! これからは私の時代よ! ざまあ……ゲフンゲフン! それはどうでもいいわね。失礼しました、今回は皆さんに頼みがあってまいりました」
 ここで仕事をしているとスルースキルも身に着くんだろうか、とか思いながら先を促す。
「去年の同じくらいの時期に、ウェディングドレスのモデルをやってもらったのは覚えているか? 実はあの時は大反響だったんだ」
 確か、そんな話もあったような気がする。能力者が英雄と一緒にウェディングドレスというのはインパクトが強かっただろう。
「それで、皆さんがよろしければ今年もモデルをお願いしたいんです。その……お恥ずかしい話ですがこのところの不況でウチも業績不振が続いていまして……」
 ここでようやく話が呑み込めた。去年の大ヒットを見越して、今年も狙ってみたいという事なのだろう。今回も多くはないが報酬は出してもらえるとのことだ。
「軽い息抜きにでもなればと思って提案してみたが、別に嫌だったら断っても良いからな? やっぱり人によっては婚期とか気になるだろうし……」
「そんなジンクスは気の持ちようよ! できるだけ希望には沿えるよう努力するから、是非考えて頂戴!!」

解説

 雑誌モデルとして、ウエディングドレスを着て写真撮影を行いましょう。ドレスは『細身』『普通』『ゆったり』の3タイプからサイズを選べます。頑張って細身のドレスに挑戦するもよし、無理せず普通あるいはゆったりめのもので妥協するのもよし。体形によっては『入らない』という敗北を喫する可能性もありますがその場合は1つ大きいサイズをスタッフさんが用意してくれます。
 男性はスタッフの手伝い、タキシードを着用して一緒にモデルとして撮影を行う、自らカメラマンとなって撮影する、という3つの選択肢が取れます。3つ目に関して下心を出しても構いませんがその後については保証しかねますのでご注意ください(笑)
 女性ファッション誌の特集に載るため、宣伝効果がある程度期待できるのでそのあたりのアピールをしていただいても構いません。

リプレイ

●ウェディングドレス、再び
「なあに? またモデル不足なの? ま、いいけれど」
 去年も撮影に協力した橘 由香里(aa1855)はそんな文句を漏らすが、今回はそういうわけではない。昨年の雑誌が大成功だったため、今年もお願いできないか、という話だ。そのため職員が言っていた通り別に拒否しても何の問題もなかったのだが意外にも快く乗ってくれた、というのが本当のところである。
『うぇでぃんぐどれすを着まくると婚期が遠のくぞえ?』
「あら、私は大丈夫よ。頼りになる彼氏いるし」
(動じなくなってきおったな。つまらぬ、つまらぬぞ……)
 飯綱比売命(aa1855hero001)はいつものようにからかってやろうとしたが、存外余裕の立ち居振る舞いで返されたので内心面白くはなかった。
『しかし、よくよく見ると見た顔が揃っておるな』
 そう。去年、ヴィランが起こした事件によってモデルが怪我をしたため代打を頼んだメンバーが、それなりにいた。具体的には由香里と飯綱の他に月鏡 由利菜(aa0873)とリーヴスラシル(aa0873hero001)、黒金 蛍丸(aa2951)と詩乃(aa2951hero001)だ。エージェント達だけでなくカメラマンもなかなか個性的なメンバーが揃っていた去年の撮影が、相応に良い思い出になっているのかもしれない。
「前回のモデルからもう1年……月日が経つのは早いですね」
『クロガネ殿やユカリ殿、アルト殿やフィー殿のように恋人達も増えつつある。人々の関係も変わっていくものだな』
 たかが1年、されど1年。人々の関係が変わるには十分な時間だ。それが自分達にも当てはまる、という自覚はあるのだがそれに迷いもある由利菜はまずは目の前に集中しよう、と気持ちを切り替えてドレスを選び始める。サイズは由利菜、ラシルとも普通のものを選ぶが、そこで思わぬ問題に直面する。
「……こ、腰回りは問題ないのですが、以前より少し胸が窮屈になったような……」
『私も同じだ……何故胸ばかり育つのか、よく分からない』
 1年あれば、人々の関係だけでなく体型も変わるには十分な時間だ……想定外の状況に難儀しつつも、それでサイズをいじるのはやはりプライドの問題が付いて回る。1年を経てより強敵となった『ドレスのサイズ』を相手に、思わぬ苦戦を強いられながら奮闘する2人であった……。

●咲いて彩れ恋の花
 ウェディングドレスとは女性の夢であり、同時に結婚式の華である。そして、結婚の前には多かれ少なかれ恋の話があるわけで。今回集まったエージェント達もそれは同じことであった。
「う、ウェディングドレス!? そ、それ着て写真撮るのかよ……ま、まぁ……仕事だから、仕方なく着てやるだけだし!!」
 楪 アルト(aa4349)が自分が着るドレスを見てそんな反応をしているところに、フィリア(aa4205hero002)は相棒と写真を撮るのだし、緊張をほぐしてやろうかと話しかける。
『その割には嬉しそうですね』
「べ、別に嬉しくなんかこれっぽっちも思ってないわよ!!」
 フィー(aa4205)はそんなあるとも微笑ましいと思いながら、自分はタキシードに袖を通す。自分は撮影に回るというフィリアのドレスというのも少しばかり気になるので一応、聞いてみたのだが……。
「ったく、せっかくの機会なんですしあんたも着りゃよかったでしょーに」
『貴女本気で言っているんですか? 私が着ても体格的に似合わないでしょう』
「まぁそうですなぁ」
 とこんな調子である。いつも通りといえばいつも通りだが、ちょっと残念な気もするのだった。
『ふんふ~ん♪ どれにしようかな~♪』
「おまえ、本当こういうの好きだよな」
 キラキラと目を輝かせてドレスを選ぶアウローラ(aa1770hero001)を保護者の気分で眺める冬月 晶(aa1770)。
 以前、別の依頼で二人でタキシードとウェディングドレスを着たことがあるのだが、アウローラは元々財宝を貯め込む習性があるドラゴンなので綺麗な宝石や布でできているドレスは好きらしい。さらに、最近はお洒落に目覚め始めているのでなおさらである。
『前はこんな感じの着たから、今回はこっちみたいなのかな?』
 プリンセスラインのドレスと、Aラインのドレスを見て悩み始める。
「んー? まあ、好きなの選べばいいんじゃないか?」
『レースもいっぱいで、背中のおっきなリボンも可愛いなぁ♪ ねー、アキラさん、どう思いますかー?』
「うーん、俺に聞かれてもなぁ。こういうのは嫁とその母親で選んだりすることが多いんじゃないか?」
 実際問題、ファッションセンスという点では晶よりもアウローラの方が良いのだから聞かれても困る。しかし、アウローラはアウローラで晶に選んでもらう理由があった。
『あ。アキラさんもタキシード着るんですからね』
「……え? 俺も着るのか? ……てことは、俺も写るのか」
 それは想定していなかったのだが、一緒に写真を撮るのであれば一緒に選ばないわけにもいかない。自分のあてにならないセンスで良いんだろうか、とも思いながらアウローラと一緒に試着するドレスを何点か見繕う晶だった……。
「ウェディングドレスかぁ……にゃ、にゃあ……。どうしよ、まさかアールグレイと撮影なんて」
 真っ赤になりながらその横でドレスを選んでいるのは夢洲 蜜柑(aa0921)。本当はもう1人の英雄が来るはずだったのだが来られなくなってしまい、代わりにアールグレイ(aa0921hero002)が来たのだが彼はいちいち天然で蜜柑のハートをブチ抜きにかかるのである意味困ってしまう。なお、蜜柑には彼を裏方に回すという発想は無かった。
『蜜柑の花嫁衣裳ですか? 蜜柑が花嫁衣裳? 私と映る? ……私とでいいのですか?』
「い、いい!! 超いい!! アールグレイとじゃなきゃヤだ!!」
 真っ赤になって超早口で返す蜜柑。うん、実に可愛い。そして、そんなやり取りのあとドレスを見ていく。サイズは体躯の都合上気持ち小さめだが細身というわけでもない、普通のものだ。
「ドレスかぁ……コレとか可愛いなぁ」
 プリンセスラインのドレスに憧れにも似た視線を向ける蜜柑に、アールグレイは優しく語り掛ける。
『うん。可愛らしくてよく似合っていると思いますよ』
 その言葉にはやはりどきりとしてしまうが、慌てて他のドレスを見て誤魔化す。
「じ、純白以外もあるんだー。おー、大人っぽいかも。うーん……でもやっぱ白が一番可愛いかも。アールグレイも、その、タキシード、どれにしよっか?」
『そうですね……やはり一緒に並んで映えるものを探してみましょう』
「そっ、そうね! じゃあこれとか試してみましょう!!」
 そんな微笑ましいやり取りが、今回はあちらこちらで起きていた。天野 一羽(aa3515)とルナ(aa3515hero001)もまた、それは同様で。
 ルナは細めのドレスを楽しげに選ぶ。念のため言っておくと、ちゃんと入るので問題はない。
『プリンセスラインのドレス、可愛いなー♪ これにしよ♪』
「ルナ、ずいぶんノリノリだなぁ」
『ねー、一羽ちゃん。ドレスが可愛いから、ヴェールは大人しめがいいかなー? このショートヴェールとか』
「え、ボク!?」
『カップルでドレス選ぶこととか、意外とあるらしいわよー?』
「カ、カップル!?」
 流石にそんな言葉が飛び出してくるとは思わず、真っ赤になる一羽。だが、これも依頼、と深呼吸して気持ちを落ち着けたうえで一緒にヴェールを選ぶ。
「そういえば、試着はしないの?」
『するわよー♪ でも、一羽ちゃんには本番までのお楽しみー♪』
 そんなわけで実際に撮影する際のドレスはさっさとスタッフに渡してしまうルナ。そして一羽に更にビーンボールを投げる。
『じゃ、一羽ちゃんの衣装はどうしよっか?』
「えっ、ボク、裏方とかじゃないの!?」
『そんなわけないでしょー』
 ぷくー、と頬を膨らませて抗議するルナ。
「まさか、まさか……」
 そのまさかである。タキシードを着ろと言っているのだ。
『なーに? 一羽ちゃん、ドレスのほうがいいの? すっごい似合うと思うわよ?』
「……!!」
 実際着たら超絶美少女に化けるのだが、それはまた別の話。凄い勢いで首を横に振る一羽。
『じゃ、タキシード選ぼっか♪』
 こうなると彼女の方が一枚上手である。一羽もそれがわかってしまったので素直に諦めて、今度はタキシードを選び始める二人だった……。

●面白いというのは大事な事だ
 恋のムードが漂う中、それとはまた違った雰囲気を纏う者達もいる。由香里と飯綱、蛍丸と詩乃はどちらかと言えば家族のような、日常の延長とも思えるような雰囲気を漂わせる和やかなムードでドレスを選んでいた。詩乃と由香里はお互いのドレスのコーディネートをしながら蛍丸の日常とかを話題に楽しく過ごせるほどの余裕すらあったほどだ。
「ところで、蛍丸って家だとどんな感じなの? やっぱりお兄さんって感じなのかしら?」
『ちなみに、由香里は家じゃとやたら小言が多いぞ。ちょっと部屋片付けをサボったり、食事の準備をサボったりした程度じゃというのにのう』
「小言の原因は100%、飯綱の自業自得でしょう!?」
 とまあ、こんな会話が繰り広げられて笑いが漏れる程度には、和やかな時間が過ぎていった。そして、そんな合間にもドレスの準備が進められていく……。詩乃は外見の年齢が13歳程度という事もあり、あまり子供過ぎないよう、でも子供らしくリボンやフラワー多目のスタンダートタイプでまとめる……もちろん、ティアラは欠かせない。白かピンクは4人を悩ませるところだったが、白のドレスを選ぶことにした。
 一方由香里はクール系の美少女だが心に深い愛情を持っている女の子だから、という蛍丸の意見も取り入れてあえて淡い桃色のドレスで可愛い印象に。サイズについてはゆとりのあるサイズであれば長く一緒にいてもドレスのせいで疲れてしまうこともないと考え、細身でも大丈夫だとは思うが無理をせず普通のサイズを選ぶことにした。手に持つブーケはウェディングドレスによく映える白色の花束をチョイス。由香里も詩乃も、じっくり吟味しただけあって素晴らしい姿になった……今回は蛍丸がタキシード姿で由香里、詩乃の三人で撮影に参加できないかを交渉し、何とか両手に華の状況の許可が下りたのだがこれは嫉妬の視線を集めても仕方がないと思える仕上がりだった。
 時折、蛍丸が由香里のウェディングドレスばかりに見とれていると詩乃とほっぺたをぷくーとしていたのは、まあご愛嬌だろう。
 そして、それとはまた違った意味で独自の空気を漂わせていたのはソーニャ・デグチャレフ(aa4829)。悲しいかな、身長60センチなソーニャに着れるウェディングドレスはなかった。南無。細身は別に何も問題ないのだが、圧倒的にタッパが足りない。袖の長さなども当然不自由なので、スーパー上げ底な竹馬を佩いてみたり、うまい事ドレスのスカート部分に隠せないかと細い箱に乗ってみたりと色々試してみたが、どうにもバランスが悪い……そこで思い切って写真を合成……要するにコラ画像作戦を敢行してみた。
「いやー、これだと候補がいないようなエンパイアラインなんかも撮影できるっすね」
「カメラマン的には面白くない話なんだけれど、現実の問題である以上仕方がないわよねぇ?」
「少し明るさなどの調整も必要になりますが、むしろ色々なドレスを紹介するチャンスとも、取れますからね。スマイル、お願いしますよ」
「ええと……ドレスはこの色なんか、彼女の髪色に合うんじゃありませんか?」
 素材が良いのは間違いないので色々試そうとノリ始めるカメラマン達。しかも彼らがどういうふうにしようかと悩んでいるところに本人は悪気はない、というより100%善意なのだが花邑 咲(aa2346)がアドバイスをしてその案が採用されたりしたため実のところ少々、どころではないレベルでソーニャのプライドは傷つくのだがこれも任務、と言われてしまえば首を縦に振るしかない。
「く、こんな、こんな……なんで小官がこのような目に逢わなければならんのであるか―」
 写真撮影の機会と聞いて飛びついてしまい、ウェディングドレスという部分を聞き流したからです。話は聞こう、これ大事。そんなわけで、哀れニャーたん……もといソーニャは着せ替え人形となるのであった。
「こんなことしている場合じゃないのに、命令には逆らえんのである……」
 そんな怨嗟の声が聞こえた気がしたが聞こえない。聞こえないったら聞こえないのである。

●いざ撮影
「わたし達でお役にたてるのなら、喜んで」
『うむ、わしも異論はないぞ?』
 最初に撮影に臨んだのは咲とサルヴァドール・ルナフィリア(aa2346hero002)。咲のドレスはレース素材を使ったトレーンの長い細身のマーメイドライン。髪はアンダーでまとめて小花で飾り、マリアベールで覆い、装飾品はホワイトパール等の真珠素材でまとめてある。ブーケは白花のキャスケードブーケだ。
 一方一緒に撮影するドール……サルヴァドールは咲のドレスと揃いになるように白を基調としているのだが、スタイリストの遊び心か、なんなのか新郎と言うよりは、伯爵と言う方がしっくりと来てしまう。そのためファッション誌のブライダル関連記事に載せるには違和感がありそうなのだが『問題ありません』とスタッフが言うのだから問題ないのだろう、多分。
「良い雑誌が作れるように、モデルのお仕事、頑張りましょうね。ドール」
『うむ、頑張らねばの……じゃが、まあ、あまり気負うもなかろうて』
「ふふっ。えぇ、そうですね』
 ドールの言葉通り、自然体で気負うことなく臨んだことでスムーズに撮影は進んだ。一番滞りなく進んだと言っても過言ではないだろう……他のメンバーは、やはりそれなりに緊張してしまっていたのだから。
「ほら、写真撮るんだろ。俺たちの番だってよ」
「……」
 自分達の番だと晶に呼ばれてこくこくと頷くアウローラだが、実際にウェディングドレスを着てご対面すると何やら照れてもじもじしはじめる。そういえば、前もこんな感じだった。
「……どうした?」
『むー、どうしてでしょう。ウェディングドレスって、着るとなんというか、その……』
 うまく言葉にできないが、何か高鳴るものがある、ということだろう。
「あー、なんでだ。何か俺も変な感じになってくる。」
 それは晶も同様だった。いつものアウローラは花より団子な感じだが、いつの間にか初々しい可愛らしい女の子になっているのだから、言葉に詰まってしまう。しかし、時間は待ってくれないのでぎこちないながらも撮影を進めていく。
『ど、どうでしょう、ちゃんと写れてますか?』
「何も心配いらないわよぉン。うちのスタッフだってベテラン揃いなんだから、そこは信用してねぇん」
 昨年も撮影に参加していた漢女(おとめ)なカメラマンがバッチリだとウインクしてみせる。正直その時は気が気ではなかったのだが実際に写真を見せてもらうと、その出来に2人でほっとした笑みを浮かべるのだった。
『……』
「……」
 撮影のタイミングでは同じようにもじもじしていたのが一羽とルナ。かたや好きな子にウェディングドレス姿を見せるので、かたやキレイな女性、しかも自分のパートナーのドレス姿の美しさに、緊張していたのだ。ルナは見た目の割に初々しい姿を見せていた……実は彼女、えっちい経験は超人的でも、真っ当な恋愛経験はゼロだったのだ。
『……ね、どっかな?』
「う、うん……その、とっても、キレイ……かな」
 ルナを直視できないうえ、どんどん声がちっさくなっていく一羽。
『ほらほら、一羽ちゃん。そんなに離れたらカメラに入らないわよー?』
「う、うん……」
『ほら、ぎゅーっと♪』
「うわっ!?」
 ただでさえ緊張しているのに抱き着かれて、ついどこか間の抜けた声が漏れてしまう。しかし、これが逆に功を奏したようでいつもの調子を取り戻したルナは一羽の緊張を後押しするような提案をする。
『ちゅーとかする?』
「いやいやいやいや!?」
「別にしても構いませんよ? 私の事は気にしなくて結構ですから」
 解説者風のカメラマンにそんな事を言われたが、本人が大いに構うのである。結局、残念ながら(?)撮影は特に凝ったポーズなどもなく進められていった。
「うーん、最初はどうかとも思ったけどこういうのもなかなか新鮮っすねぇ」
 昨年もお世話になった蓮っ葉な話し方の女性カメラマンは、ご機嫌な様子だった。彼女が撮影を担当したのは蛍丸と詩乃、由香里の3ショット。家族っぽい印象の写真は、今回の撮影の中でも一際目立つ……言い換えれば、構図や工夫次第では雑誌の目玉になり得るという事で熱が入っていたのだ。
「じゃあ、お願いします。できるだけ希望に沿えるようにしますから遠慮なく言ってください」
「そうっすか? それはありがたいっすね」
「私は、この辺でいいかしら?」
「ちょっと遠いっすね、もう半歩寄ってもらえるっすか?」
「このくらい?」
「ええ、そんな感じで。3ショットが終わったら、次は詩乃さんと由香里さん、それぞれ2ショットお願いするっす」
 由香里は前回参加した時はまだ蛍丸と恋人関係ではなかったこともあり結構緊張していたが、今回はかなり絆が深まっていた……そのため、人前で恥ずかしがらないくらいの余裕を見せる。蛍丸も去年は緊張で由香里に気を遣ってもらっていたのだが、今年は逆に由香里を赤面させる勢いで積極的にエスコートし、男らしい頑張りを見せていた。ポーズを取る際も由香里と詩乃、どちらにも良い思い出となるようにと気合を入れて臨み、先に撮影を行った一羽とルナの撮影への対抗心むき出しのカメラマンの無茶ぶりにまで応えて詩乃はお姫様抱っこ、由香里さんはキスまでGOサインが出たので実行するというある意味今回一番の頑張りだった。
 その頑張りの横では飯綱が背中がガバっと開いたセクシーなドレスで色気を振りまき、悪戯心のままに蛍丸を胸に埋めてたりしていた。由香里のこめかみに青筋が立とうと気にしない図太さは、相変わらずと言えば相変わらずだがそんな一幕もかえって緊張がほぐれてよかったのかもしれない。
 続いては蜜柑とアールグレイ。
「さぁ、撮影よ!!」
 と意気込んでいたのは開始わずか3分程度で、蜜柑はすぐにまともにしゃべることもできないほど緊張してしまっていたのだった。
(や、やばい、緊張する……!! どうしよ、どんな顔すればいいんだろ……? て、手とかつないだり向かい合ったりするのかしら……? まさか、まさか、まさかキスとかはしないわよね……!!)
「………………!!」
 どうもウェディングドレスを着てのキスシーンを想像しちゃったらしく、真っ赤になる蜜柑。その染まった頬は蜜柑というより林檎や苺のようである。
(むー、アールグレイ、超イケメンだから、こういう写真映えとかするのかしら……?)
『蜜柑、どうしました? 顔が真っ赤ですよ? 動きもぎこちないですし……いや、花嫁ならそれはそれでいいのでしょうか?』
 良くはないのだが、恋に恋する乙女ゆえ、仕方ないと言えば仕方ない。それにしても、と撮影を担当したカメラマンは思った。
 14歳の花嫁と一緒でも、なぜか犯罪的な雰囲気が一切しないうえ、下心も無い人……しかもイケメンとか反則じゃなかろうかと。おまけに蜜柑と一緒に撮影しても花嫁が霞むことなく、むしろいい具合に引き立つというのだから世の中凄いイケメンもいたものだと嫉妬を通り越して感心してしまう。
「世界は広いノーネ……こんなすごい人物がいるとは想像もしなかったーノ」
 今回、編集長となった女性の代わりに新たに配属された独特な言葉遣いのカメラマンは、そんな事を呟いたのだった……。

●並び立つ花の想い
 着替えに一番時間をかけていたアルトは試着室のカーテンに隠れたまま出てこようとせず、何か言っていた。
「似合ってない! こんなのあたしにぜってー似合ってないから!!」
「……ん、十分に似合ってますな、綺麗ですぜ?」
 と、フィーがアルトの頭を撫でながら口説くとそれに折れたように試着室から出てくるがその顔は心なしか赤い。
「っじ、じろじろ見んじゃねーっての! や、やっぱりこんなの……似合ってないんだろ……」
 当のアルトはそう言うが、模様の少なく、シンプルで少し薄緑掛かった軽めのドレスは文句のつけようがないほど似合っている。
「ってか、ほ、ホントにこれサイズ合ってんのか? なんつーかその……む、胸がさ……」
 サイズとしては普通で背丈にあったものを選んでいるのだが、むしろそのために胸が強調される状態になっているのが気になるようだった。しかし、ここまで来て引き返す、という選択はない。
「私も協力できればと。カメラの扱いはそこそこ以上に手慣れている、その他撮影機材も人並み程度には扱える」
 と、協力を申し出たフィリアに2人の撮影は任されることになった。
『はい、撮影しますよー』
 そうして撮影が始まったが、アルトの表情は終始顔真っ赤にして固い顔のままだ。
『うーん、もう少し表情柔らかく、笑顔でお願いできないでしょうか?』
「え、え、笑顔……やや、やってるじゃねーか!! あ、アイドル活動とは全然違うから……こ、こういうのはどうやんのか分かんねーんだよ!!」
 しかし、これではらちが明かない。さてどうしたものかというところでフィーが優しくアルトの左手を取り跪いた。
「それでは我が姫、お手を拝借」
「なっ……えっ……フィー!?」
「不変の愛をここに」
 と手の甲にキスをするフィー。それに思わず表情が綻んだ、その瞬間を撮影することで何とか自然体の1枚を取ることに成功する。以降はアルトの表情も終始惚けた笑顔となり、最初の様子が嘘のようにスムーズに撮影が進んでいく。その様子を見て、逆に表情が曇ってしまったのは由利菜。別に、フィー達の様子が不快なわけではない……あくまでも由利菜自身の問題だ。ただ、彼女達を見ていると、自分のラシルへの思いの強さを自覚してしまい、それが正しいのかと悩んでしまう。そして、それを助長するのがラシルの姿だ。
「去年より、もっと綺麗になってる……」
 その凛とした美しさに、自分が持っている恋愛感情をはっきりと自覚させられてしまう。
(……私の両親はラシルと契約した事情は理解してくれています。でも……ただでさえそれで両親に負担をかけているのに……私とラシルが結ばれたら、更に両親へ迷惑をかけてしまうのでは……?)
 由利菜はリンカーの両親を尊敬しているが故に、両親に負担をかけたくはないと思う。だが、だからこそ今の自分が持っている想いは正しい恋愛の形だと思えず、どうすれば良いかという答えに詰まってしまう。そんな由利菜を見て、ラシルもまた考え込んでしまう……自分へ向けられた主の想いに気付かないほど、彼女も鈍感ではない。故にそれをどう導くか、という事を考えて悩む。
(今の私は学園の教師。生徒である主の恋の悩みも、正しく導くことが求められる。だが、主の想いを完全に否定することが私にできるか……? いかんな……私も迷っているではないか)
「すみません、良かったら今回の衣装のポイントを教えていただけますか?」
 カメラマンに声をかけられ、ハッとする。そうだ、今は撮影中……自分も、主である由利菜も花嫁衣裳の撮影で表情を曇らせているわけにはいかない。カメラマンの質問に、由利菜が答える。
「……今年はヴェールに拘ってみようかと思いまして。ラシルにレースのデザインのお手伝いをして貰いました」
『今回は私が百合、ユリナは薔薇の花をあしらっている』
「なるほど……ではヴェールの違いを強調して、対比になるように背中合わせで。笑顔、お願いします」
『あ、ああ……』
「こ、こんな感じで良いでしょうか?」
「ええ、そんな感じで。もう少し構図も他のカメラマンと相談してみますから、何枚か撮ったら少し休憩どうぞ」
「はい、ありがとうございます……」
 期せずして与えられた時間は、よりはっきりと目の前の問題を突きつけてくるが依頼は依頼……深呼吸をして自分に言い聞かせ、次の撮影に向けて気分を落ち着けるために由利菜は静かにお茶を口にするのだった……。

●面白いというのは大事な事だ(2回目)
 撮影も終盤に差し掛かり、戦場さながらの喧騒も落ち着きを見せ始めたころ飯綱が蛍丸の肩に手を置く。
『落ち着いてきたようじゃし、そろそろ変わった事をさせてもらっても大丈夫じゃろ』
「…………………………えっ!?」
 猛烈に嫌な予感がして退散しようとするが、思いの外飯綱が肩を掴む力が強い。おまけに今回は詩乃が由香里を誘って撮影の感想や蛍丸のことなどを話し込んでいるため由香里の助けはない。それどころか一緒にノリノリで女装用のコルセットなんかを準備し始めていて、完全に逃げ道を塞がれていた。あれよあれよという間に蛍丸は綺麗にメイクを施され、ウェディングドレスを着させられる事になった。しかも女性スタッフも女装した蛍丸を気に入ってロングヘアーウィッグなどを持ってきたりしたりするものだから、その最終的な仕上がりはと言えば……。
「「『『こんな可愛い子が女の子のはずがない!!』』」」
 と女性スタッフ、飯綱、由香里、詩乃が口を揃える程であった。そんな様子を見たソーニャはこれまでの腹いせと言わんばかりにカメラ片手に面白い写真を撮ろうと走り出すが、そうはさせないと冷たい反応を返したのはフィー。
「あんたらの撮影は必要ねーんで、プロが撮るんで十分ですわ」
 それで引き下がれるか、となおも食い下がろうとしたが、次の瞬間銃口が光ったのでやめた。
「わぴぃ!」
「あぁ、お姉様の事は許してあげてください。あぁいう性分なので」
 一応、フィリアがフォローをするが平和な依頼で銃口向けられる時点でトラウマものである。結局、それ以上は(フィーのリアクションが極端すぎたというのもあるが)特段面白い写真の撮影といった流れにはならず静かに撮影が終了したのだった。

●撮影を終えて……
 終わってみればあっという間の撮影だった。その長いようで短い時間をルナは率直に惜しむ。
『終わっちゃったねー。なんか、夢の中にいたみたい』
「まぁ、何度も着るようなものじゃないしね」
『ね、一羽ちゃん。本番はいつ着せてくれるの?』
「ええっ!? ほ、本番!?」
『ねーねー、早くケッコンしようよー♪』
「け、結婚って……!!」
 ついその時を考えてしまい、真っ赤になる一羽。そんな様子を見ると、どうにも横のアウローラが気になってしまう晶。彼も三十代に突入、流石に色々気になってくる年頃だ。学生時代恋人はいたがそれも昔の話。今は色々と振り回されつつもアウローラの世話を焼いてしまう。そのアウローラはといえば晶と恋人同士だと超でかい声で公言したりしているが実際のところは以前、恋人を「とても仲のいい人」と勘違いして、それが延々頭の中に残っているだけだったりするので晶は気が気ではない……知らぬは本人ばかりなり、とはよく言ったものだ。いつか、本当に恋人同士、と言える関係になればそれはとても素晴らしい事だろう。ただ、それで何か関係が変化するのかと考えるとあまり変わらない気もする。
「結局、気の持ちようなのかもしれないな」
 そんな呟きは、アウローラには聞こえていなかった……だが、ラシルと由利菜にはしっかりと聞こえていた。由利菜にはその言葉が背中を押してくれたように感じられた。
「結局は、気の持ちよう……」
(私も……いずれ、自分の恋に答えを出さなければ……)
(……一つだけ、分かったことがあります。私がどんな恋路を歩んでも、ラシルへの胸のときめきはずっと消えることはないんだって……だって、ラシルは……私が契約を望んだ英雄なのだから)
 一方、撮影が終わったらすぐさま着替えてしまっていたアルトは、撮影が終わってから急に態度が軟化していた。なんだかんだ言って、パートナーからの評価は気になっていたのだろう。
「……な、なぁ……ドレス、どうだった?」
「撮影中も言ったけど、文句のつけようなく綺麗でしたぜ? もう一度見たいかも」
「ま、また見たいってんなら……今度は! ふ、二人だけの時な!!」
 フィリアの『えー』という抗議の声が聞こえた気がしたが、そこはスルーしてフィーはアルトの頭を撫でる。
「二人の時に……わかりましたよ。じゃあその時を楽しみにしてましょう」
 アルトとフィーのやり取りを見て、漠然と去年の自分はあんな感じだったのだろうか、という感想を抱いていた由香里に飯綱がつまらない、と言いたげに話しかけてくる。
『今年の撮影は余裕だったではないか……あまりにも動じなさ過ぎて逆にこちらが驚いてしまう程じゃったぞ』
「ま、まあ……前回は、ね。まだ付き合ってなかったし、自分が人に好かれる価値があるのかって疑問だったし」
 由香里の口から出たその言葉に、自分を卑下してほしくない、という心配から蛍丸は今はどうなのか、と聞いてみた。
「今は……これでも少し自惚れられる様になったのよ。誰かさんのお陰でね? でも、次があったら……本番がい……な、なんでもないわ。さ、帰りましょうか」
 誤魔化すようにして踵を返す由香里がどこか愛らしくて、飯綱は更に言葉を続ける。
『なんじゃつまらん、そこまで出かかっているなら言ってしまえば良いものを』
「何の事よ!? いや、その……わかるけど、今言う事じゃないわ」
『素直じゃないのう……』
 もっとも、飯綱からすればその方がからかいがいがあるのでそれを悪いとは思わない。真っ赤になっている由香里は可愛らしいと思えるし、むしろいつかその想いを押し込める事なく口にできるようになる日まで待つというのも悪くない楽しみだ。
 しかし、あまりつつきすぎて小言を言われるのは面倒だ……そう考えた飯綱はそれ以上言葉を続ける事はせず、いつもの笑みを浮かべるにとどめるのだった……。

●雑誌ができたよ! やったね!
 撮影からしばし……依頼主の女性編集者から完成した雑誌が届いた。エージェント達はその出来栄えに満足しつつ、今回の撮影の先にあるであろうもの……結婚式へ思いを馳せたり、この写真は苦労した、あの写真は載っていない、と談笑したりしていたのだが、完成した記事を見てソーニャは頭を抱えて悶える事になった。
「これが……これが小官の写真とか屈辱である……」
 何も写真の出来が悪いわけではない……むしろ、どんな技術だというくらい違和感がないコラージュ写真である。しかし、それ故に完璧な『恋する乙女』を思わせる仕上がりとなっており、幼女とは言っても軍人である彼女には強烈な屈辱であった。撮影中はこれでもかという程にかわゆいコーディネートを施され、合間には銃を向けられ腹いせも叶わず、できた写真は想像をはるかに超えた『乙女』な自分。幼女軍人アイドル候補生の心に壮大なるトラウマが植え付けられた瞬間であった……。
 そして、雑誌の完成が思わぬ精神的ダメージになったのがもう1人……蜜柑だ。
「これどういうこと!? 何でこんなイケメンと写ってるのよ!?」
「さあ、キリキリ吐きなさい! 絶対に逃がさないからね!」
 うすうすは覚悟していたが、ファッション誌を見たおませな同級生にアールグレイのことが知れ渡ってしまったのだ。蜜柑としてはアールグレイの存在は何とかして隠し通したかったのだが現に雑誌が存在する以上言い逃れもできず事情を説明するほかは無かった……。
 今回の撮影は、総じてウェディングドレスという華やかな姿の内側にある『想い』に触れた者が多かった……それは悩ましいものであったり、今まであまり意識されていなかったものであったり、言葉にするには照れくさいものであったりしたが、いずれもとても甘くて、まっすぐな想い。
 そんな自分達の想いに触れたエージェント達の写真は、上辺だけではない本物の表情、本物の笑顔で写っており、だからこそそれを感じ取った読者からの評価も高かった。意識というのは、知らず知らずのうちに顔に出るもの……きっと、読者もモデルとなったエージェント達の想いがはっきりとわかったわけではなくとも、それを漠然とは感じ取ったのだろう。
 自分達の恋に、想いに触れる事が本人達にとって良かったのかはわからない……だが、今回撮影に臨んだエージェント達もいずれ雑誌の撮影ではなく本物の結婚式でドレスを着る機会が来るかもしれない。きっと、その時になって答えは出るのだろう。
 今はただ悲喜こもごも、夏を前にした思い出の1つになれば十分だ……いずれ彼ら、彼女らにこの日以上の幸せな結婚式を迎える日が来ることを祈ろう。きっとその時は今回よりも素敵なドレスを披露するはずだから……。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • きゃわいい系花嫁
    夢洲 蜜柑aa0921
    人間|14才|女性|回避
  • 天然騎士様
    アールグレイaa0921hero002
    英雄|22才|男性|シャド
  • YOU+ME=?
    冬月 晶aa1770
    人間|30才|男性|攻撃
  • Ms.Swallow
    アウローラaa1770hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃
  • 狐は見守る、その行く先を
    飯綱比売命aa1855hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • 幽霊花の想いを託され
    花邑 咲aa2346
    人間|20才|女性|命中
  • 想いは世界を超えても
    サルヴァドール・ルナフィリアaa2346hero002
    英雄|13才|?|ソフィ
  • 愛しながら
    宮ヶ匁 蛍丸aa2951
    人間|17才|男性|命中
  • 愛されながら
    詩乃aa2951hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • 夢魔の花婿
    天野 一羽aa3515
    人間|16才|男性|防御
  • 夢魔の花嫁
    ルナaa3515hero001
    英雄|26才|女性|バト
  • Dirty
    フィーaa4205
    人間|20才|女性|攻撃
  • ステイシス
    フィリアaa4205hero002
    英雄|10才|女性|シャド
  • 残照と安らぎの鎮魂歌
    楪 アルトaa4349
    機械|18才|女性|命中



  • 我らが守るべき誓い
    ソーニャ・デグチャレフaa4829
    獣人|13才|女性|攻撃



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